本発明に至った経緯について説明する。襲雷により雷が配電線に落雷した場合、配電線の3相各相に雷電流が流入し異相間による地絡が短絡へ移行し短絡リレーが動作する。短絡リレーは地絡リレーより先に動作するので、地絡が短絡へ移行した場合には、地絡リレーは微地絡を検出するだけであって動作に至らない。短絡事故時の相電流及び相電圧を示す三相短絡波形からは、値の変動を捉えことができる程度であり事故様相毎の特徴を捉える事は困難である。三相の不平衡で発生した微地絡波形(零相電流)は三相の合成であり、短絡相に左右されず、短絡発生後の変動が顕著に表れる。よって、事故設備毎の特徴が顕著に表れるため零相電流の採用に至った。すなわち、襲雷により雷が配電線に落雷した場合の短絡事故は、3相各相に雷電流が流入し異相間による地絡が短絡へ移行することに着目し、配電線の相電流に代えて零相電流I0の挙動に注目することにした。
また、短絡リレーが動作した後に、再閉路により再送電して故障区間を特定するが、放電クランプが設けられた配電線においては、雷の閃絡による放電クランプ動作が大半であり放電クランプ動作の場合は脅威的なリスク無しの事故状況である。そこで、放電クランプが設けられた配電線に襲雷による短絡事故が発生したとき、放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況か配電線設備の損壊である脅威的なリスク有りの事故状況かを、零相電流の標準偏差及び零相電流に含まれる高調波の振幅に基づいて判断するようにした。これにより複雑な演算を行うことなく脅威的なリスク有りの事故状況か否かの判断を容易に行えるようにした。
図1は、放電クランプが設けられた配電線の引留装柱に落雷したときに発生する事故状況の説明図である。三相の配電線11a、11b、11cは引留装柱の腕金12に耐張碍子13a、13b、13cで固定され、放電クランプ14a、14b、14cに接続される。放電クランプ14は襲雷による雷撃電流を腕金12に放電するものであり、頂部で配電線を保持し、その保持部分の配電線の被覆は剥がされている。従って、襲雷があったときは放電クランプ14の頂部の配電線に落雷し、点線矢印A、B、Cのように放電クランプ14の側面を通って腕金12に放電し腕金12から大地に流れ地絡となる。そして、この地絡は大地を介して異相間の短絡へと移行する。このような放電クランプ14の動作だけの場合は脅威的なリスク無しの事故状況である。
また、放電クランプ14からのアーク電流は、風により流され点線矢印Dのように配電線11の弱点部15に移行し、弱点部15にアーク電流が集中すると弱点部15において配電線11の断線となる。また、耐張碍子13にアーク電流が集中すると耐張碍子13が破損する。配電線11の断線や耐張碍子13の破損は、地上落下することがあるので、脅威的なリスク有りの事故状況である。
以下、本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の第1実施形態に係る事故対応判断装置の構成図である。事故対応判断装置の入力部16は、短絡リレーの動作信号x及び配電線の三相電流Ia、Ib、Icを入力し、短絡リレーの動作信号x及び配電線の三相電流Ia、Ib、Icを零相電流演算部17及び出力部18に出力する。出力部18は短絡リレーの動作信号x及び配電線の三相電流Ia、Ib、Icを出力装置19に出力する。出力装置19は、例えば表示装置や印刷装置あるいは記憶装置などである。
零相電流演算部17は、短絡リレーの動作信号xを入力すると、配電線の三相電流Ia、Ib、Icの零相電流I0を演算し、演算した零相電流I0を出力部18を介して出力装置19に出力するとともに、標準偏差演算部20及びフーリエ解析演算部21に出力する。標準偏差演算部20は零相電流I0の標準偏差σを演算し、演算した零相電流I0の標準偏差σを出力部18を介して出力装置19に出力するとともに、事故状況判断部22に出力する。フーリエ解析演算部21は零相電流I0をフーリエ解析して零相電流I0に含まれる高調波の振幅Mを演算し、演算した零相電流I0の高調波振幅Mを出力部18を介して出力装置19に出力するとともに、事故状況判断部22に出力する。
事故状況判断部22は、零相電流I0の標準偏差σ及び零相電流I0の高調波振幅Mを入力すると、零相電流I0の標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ零相電流I0の高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下のときは放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況と判断し、それ以外のときは脅威的なリスク有りの事故状況と判断する。その判断結果は出力部18を介して出力装置19に出力される。
図3は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例1を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。図3では三相電圧Va、Vb、Vcのうち相電圧Vb、Vcが短絡した場合を示している。
短絡事故が発生したとき事故対応判断装置の零相電流演算部17は入力部16を介して電流検出器で検出された配電線の各相電流Ia、Ib、Icを入力し零相電流I0{=1/3(Ia+Ib+Ic)}を演算する。標準偏差演算部20は零相電流演算部17で得られた零相電流I0の標準偏差σを演算する。零相電流I0の標準偏差σは零相電流I0のばらつきを示す指標である。零相電流I0の特徴として、配電線の設備被害が軽傷の場合は正弦波を維持するが、高圧本線の断線や耐張碍子の損傷などの場合は値が大きく乱れる特徴がある。その乱れを、零相電流I0の波形から視覚のみで判断するのは困難であるため、標準偏差σにて定量化することが有効であることに着目し、零相電流I0の標準偏差σ(母集団)を演算し、零相電流I0の値のばらつきを定量化した。
フーリエ解析演算部21は零相電流演算部17で得られた零相電流I0をフーリエ解析して零相電流I0に含まれる高調波の振幅Mを演算する。設備被害が軽度(放電クランプ動作)の場合は、零相電流I0の周波数含有量は商用周波数である50Hz帯に突出する。一方、設備に大きな被害(高圧本線の断線や耐張碍子の損傷など)がある場合は高周波が発生する特性がある。その高周波をフーリエ解析にて捉える。そこで、零相電流I0をフーリエ解析し、零相電流I0の周波数含有量で事故設備の事故状況を判断する。零相電流I0の周波数含有量のうち50Hz帯は商用周波数の帯域であるので、50Hz帯域における零相電流I0の高調波振幅Mは事故状況の判断からは除外する。
事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク無しの事故状況であるか、脅威的なリスク有りの事故状況であるかを判断するものであり、零相電流I0の標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ零相電流I0の高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下のときは放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況と判断し、それ以外のときは脅威的なリスク有りの事故状況と判断する。
標準偏差閾値σLは、予め脅威的なリスク無しの事故状況である場合の複数の零相電流I0の標準偏差σ、脅威的なリスク有りの事故状況である場合の複数の零相電流I0の標準偏差σを求めて、これらのデータに基づいて標準偏差閾値σLを定める。また、零相電流I0のばらつきが小さいときは脅威的なリスク無しの事故状況である場合が多く、零相電流I0のばらつきが大きいときは脅威的なリスク有りの事故状況である場合が多い。これは、放電クランプ動作のように脅威的なリスク無しの事故状況である場合は短絡事故後においてインピーダンス変動がなく、一方、断線や耐張碍子損傷のように脅威的なリスク有りの事故状況の場合は短絡事故後においてインピーダンス変動があるからである。以上のようなことを考慮に入れて、本発明の第1実施形態では標準偏差閾値σLは予め10に設定する。
零相電流I0の高調波振幅閾値MLについても標準偏差閾値σLの場合と同様に、予め脅威的なリスク無しの事故状況である場合の複数の高調波振幅M、脅威的なリスク有りの事故状況である場合の複数の高調波振幅Mを求めておき、これらのデータに基づいて高調波振幅閾値MLを定める。また、各周波数領域での高調波振幅Mが小さいときは脅威的なリスク無しの事故状況である場合が多く、各周波数領域での高調波振幅Mが大きいときは脅威的なリスク有りの事故状況である場合が多い。これは、放電クランプ動作のように脅威的なリスク無しの事故状況である場合は高調波成分が重畳することが少なく、一方、断線や耐張碍子損傷のように脅威的なリスク有りの事故状況の場合は高調波成分が重畳することが多いからである。さらに、2相短絡事故の場合と3相短絡事故の場合とでは3相短絡事故の場合が高調波成分が重畳することが多いが、判断基準として厳しい閾値とするために、2相短絡事故の場合に適用できる高調波振幅閾値MLを採用する。以上のようなことを考慮に入れて、本発明の第1実施形態では零相電流I0の高調波振幅閾値MLを予め1.5[A]に設定する。なお、前述したように、零相電流I0の周波数含有量のうち50Hz帯は商用周波数の帯域であるので、50Hz帯域における零相電流I0の高調波振幅Mは事故状況の判断からは除外する。
図3において、零相電流I0の標準偏差σは4.62であり標準偏差閾値σL(=10)より小さく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より小さい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下であるので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する。
図4は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例2を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。図4では三相電圧Va、Vb、Vcのうち相電圧Va、Vbが短絡した場合を示している。図4において、零相電流I0の標準偏差σは10.73であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下ではないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する。
図5は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例3を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。図5では三相電圧Va、Vb、Vcのうち相電圧Va、Vcが短絡した場合を示している。図5において、零相電流I0の標準偏差σは5.63であり標準偏差閾値σL(=10)より小さいが、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下ではないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する。
図6は本発明の第1実施形態に係る事故対応判断装置の動作を示すフローチャートである。まず、短絡事故が発生したか否かを判断する(S1)。短絡事故が発生したことは短絡リレーが動作したことで検出される。短絡事故が発生したときは零相電流を演算する(S2)。零相電流は零相電流演算部17で演算する。次に、標準偏差演算部20で零相電流の標準偏差を演算し(S3)、フーリエ解析演算部21で零相電流に含まれる高調波の振幅を演算する(S4)。そして、事故状況判断部22により標準偏差は閾値以下か否かが判定され(S5)、閾値以下であるときは、さらに高調波振幅偏差は閾値以下か否かが判定される(S6)。標準偏差及び高調波振幅偏差の双方がそれぞれの閾値以下であるときは、脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する(S7)。一方、ステップS5、S6の判定で、閾値以下でないときは脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する(S8)。
本発明の第1実施形態によれば、放電クランプ14が設けられた配電線11に襲雷による短絡事故が発生したとき、配電線11の零相電流I0の標準偏差σを演算するとともに、零相電流I0に含まれる高調波の振幅Mを演算し、零相電流I0の標準偏差σが標準偏差σL以下かつ零相電流I0の高調波振幅Mが予め定めたそれぞれの高調波振幅閾値ML以下のときは、放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況と判断し、それ以外のときは脅威的なリスク有りの事故状況と判断するので、複雑な演算を行うことなく脅威的なリスク有りの事故状況か否かの判断を容易に行える。すなわち、短絡事故発生時の不平衡により発生した微地絡波形(零相電流I0)を活用し、脅威的なリスク有りの事故状況か否かの判定を行うので、保守員による早急な対処が必要なものとそうでないものの選別が行える。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図7は本発明の第2実施形態に係る事故対応判断装置の構成図である。この第2実施形態は、図2に示した第1実施形態に対し、短絡事故が発生したとき配電線11の各相電圧に基づいて2相短絡か3相短絡かを判断する2相短絡3相短絡判別部23を設け、2相短絡3相短絡判別部23が3相短絡であると判定したときは、事故状況判断部22は高調波振幅閾値を大きい値に変更するようにしたものである。図2と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
図7において、2相短絡3相短絡判定部23は入力部16から短絡リレーの動作信号xを入力すると配電線の三相電圧Va、Vb、Vcを入力し、三相電圧Va、Vb、Vcに基づいて2相短絡か3相短絡かを判断する。短絡リレーが動作して短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのうちいずれか2相の電圧が健全時電圧より小さい値である状態があるときは2相短絡であると判断する。例えば、図3乃至図5においては、地絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、短絡した2相の電圧が健全時電圧より小さい値となっている。一方、短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるときは3相短絡であると判断する。2相短絡であるか3相短絡であるかの判定結果は、事故状況判断部22に出力されるとともに出力部18を介して出力装置19に出力される。
事故状況判断部22は2相短絡3相短絡判別部23が3相短絡であると判定したときは、高調波振幅閾値MLを大きい値に変更する。すなわち、高調波振幅閾値MLを1.5[A]から2[A]に変更する。これは、前述したように、2相短絡事故の場合と3相短絡事故の場合とでは3相短絡事故の場合が高調波成分が重畳することが多いので、3相短絡事故時の高調波振幅の大きさが大きい場合であっても、放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況であることを識別できるようにするためである。これにより、3相短絡事故の場合であっても、放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況であることを識別できる。高調波振幅閾値MLを2[A]としたのは、予め3相短絡事故の場合の脅威的なリスク無しの事故状況である複数の高調波振幅M、及び3相短絡の場合の脅威的なリスク有りの事故状況である複数の高調波振幅Mを求めておき、これらのデータに基づいて定めたものである。
図8は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例4を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるので、2相短絡3相短絡判別部23は、この短絡事故は3相短絡事故であると判定する。そこで、事故状況判断部22は高調波振幅閾値MLを1.5[A]から2[A]に変更する。
図8において、零相電流I0の標準偏差σは7.59であり標準偏差閾値σL(=10)より小さく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より小さい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下であるので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する。
なお、高調波振幅閾値MLが1.5[A]であるとすると、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より大きいので、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下である条件を満たさないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断することになる。このように、3相短絡であるときは高調波振幅閾値を大きい値に変更するので、短絡事故時の高調波振幅の大きさが大きい3相短絡の場合であっても放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況であることを識別できる。
図9は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例5を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるので、2相短絡3相短絡判別部23は、この短絡事故は3相短絡事故であると判定する。そこで、事故状況判断部22は高調波振幅閾値MLを1.5[A]から2[A]に変更する。
図9において、零相電流I0の標準偏差σは12.74であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下である条件を満たさないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する。
図10は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例6を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるので、2相短絡3相短絡判別部23は、この短絡事故は3相短絡事故であると判定する。そこで、事故状況判断部22は高調波振幅閾値MLを1.5[A]から2[A]に変更する。
図10において、零相電流I0の標準偏差σは11.90であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より小さいが、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下である条件を満たさないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する。
図11は短絡事故が発生したときの配電線の三相電圧、零相電流、零相電流の高調波振幅の波形例7を示す波形図である。いま時点t0で短絡リレーが動作し短絡事故が発生したとする。短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるので、2相短絡3相短絡判別部23は、この短絡事故は3相短絡事故であると判定する。そこで、事故状況判断部22は高調波振幅閾値MLを1.5[A]から2[A]に変更する。
図11において、零相電流I0の標準偏差σは22.44であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σL以下かつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値ML以下である条件を満たさないので、事故状況判断部22は短絡事故が脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する。
図12は本発明の第2実施形態に係る事故対応判断装置の動作を示すフローチャートである。図6に示した第1実施形態の動作を示すフローチャートに対し、3相短絡事故か否かを判定するステップS9及び3相短絡事故であるときは高調波振幅値の閾値を大きい値とするステップS10を追加して設けたものである。図6と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
まず、短絡事故が発生したか否かを判断し(S1)、短絡事故が発生したときは零相電流を演算し(S2)、さらに、零相電流の標準偏差を演算し(S3)、零相電流に含まれる高調波の振幅を演算する(S4)。
そして、短絡事故は3相短絡事故であるか否かを判定する(S9)。これは、短絡事故が発生してから所定時間(例えば、5000[ms])内において、三相電圧Va、Vb、Vcのすべてがほぼ同じ値の電圧となった状態があるか否かで判定される。
ステップS9の判定で3相短絡事故でないと判定されたときは、標準偏差は閾値以下か否かが判定され(S5)、閾値以下であるときは、さらに高調波振幅偏差は閾値以下か否かが判定される(S6)。この場合の高調波振幅偏差の閾値は変更されない閾値である。標準偏差及び高調波振幅偏差の双方がそれぞれの閾値以下であるときは、脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する(S7)。一方、ステップS5、S6の判定で、閾値以下でないときは脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する(S8)。
ステップS9の判定で3相短絡事故であると判定されたときは、高調波振幅値の閾値を大きい値に変更する(S10)。そして、標準偏差は閾値以下か否かが判定され(S5)、閾値以下であるときは、さらに高調波振幅偏差は変更した閾値以下か否かが判定される(S6)。標準偏差及び高調波振幅偏差の双方がそれぞれの閾値以下であるときは、脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する(S7)。一方、ステップS5、S6の判定で、閾値以下でないときは脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する(S8)。
第2実施形態によれば、第1実施形態の発明の効果に加え、短絡事故は2相短絡か3相短絡かを判断し、3相短絡であるときは高調波振幅閾値を大きい値に変更するので、短絡事故時の高調波振幅の大きさが大きい3相短絡の場合であっても放電クランプ動作による脅威的なリスク無しの事故状況であることを識別できる。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。図13は本発明の第3実施形態に係る事故対応判断装置の構成図である。この第3実施形態は、図7に示した第2実施形態に対し、事故状況判断部22が脅威的なリスク有りの事故状況と判断したとき、脅威的なリスク有りの事故状況が配電線の断線か耐張碍子破損かを判断する設備損傷判断部24を設けたものである。図7と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
図13において、設備損傷判断部24は、事故状況判断部22による事故状況の判断結果を入力し、事故状況の判断結果が脅威的なリスク有りである場合には、標準偏差演算部20から零相電流I0の標準偏差σを入力するとともにフーリエ解析演算部21から零相電流I0の高調波振幅Mを入力する。なお、事故状況判断部22による事故状況の判断結果には、短絡事故が3相短絡であるか否かの情報も含まれている。そして、設備損傷判断部24は、零相電流I0の標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ零相電流I0の高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えているか否かを判断する。
設備損傷判断部24は、零相電流I0の標準偏差σが標準偏差閾値σLを超えかつ零相電流I0の高調波振幅Mが高調波振幅閾値MLを超えているときは配電線の断線と判断し、それ以外のときは耐張碍子破損と判断する。脅威的なリスク有りの事故状況のうち配電線の断線の場合は、零相電流I0のばらつきが大きく、かつ高調波振幅Mが大きいからである。
2相短絡で脅威的なリスク有りの事故状況であると判断された図4において、零相電流I0の標準偏差σは10.73であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えているので、設備損傷判断部24は脅威的なリスク有りの事故状況は電線の断線であると判断する。
2相短絡で脅威的なリスク有りの事故状況であると判断された図5において、零相電流I0の標準偏差σは5.63であり標準偏差閾値σL(=10)より小さく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(1.5[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えている条件を満たしていないので、設備損傷判断部24はこの場合の脅威的なリスク有りの事故状況は耐張碍子破損であると判断する。
3相短絡で脅威的なリスク有りの事故状況であると判断された図9において、零相電流I0の標準偏差σは12.74であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えているので、設備損傷判断部24は脅威的なリスク有りの事故状況は電線の断線であると判断する。
3相短絡で脅威的なリスク有りの事故状況であると判断された図10において、零相電流I0の標準偏差σは11.90であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より小さい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えている条件を満たしていないので、設備損傷判断部24はこの場合の脅威的なリスク有りの事故状況は耐張碍子破損であると判断する。
3相短絡で脅威的なリスク有りの事故状況であると判断された図11において、零相電流I0の標準偏差σは22.44であり標準偏差閾値σL(=10)より大きく、零相電流I0の高調波振幅Mは、商用周波数の帯域である50Hz帯域を除外した各周波数帯域において高調波振幅閾値ML(2[A])より大きい。従って、標準偏差σが予め定めた標準偏差閾値σLを超えかつ高調波振幅Mが予め定めた高調波振幅閾値MLを超えているので、設備損傷判断部24は脅威的なリスク有りの事故状況は電線の断線であると判断する。
図14は本発明の第3実施形態に係る事故対応判断装置の動作を示すフローチャートである。図12に示した第2実施形態の動作を示すフローチャートに対し、脅威的なリスク有りの事故状況と判断されたとき、さらに、配電線の断線か耐張碍子破損かの判断するステップS11〜ステップS13を追加して設けたものである。図12と同一要素には、同一符号を付し重複する説明は省略する。
まず、短絡事故が発生したか否かを判断し(S1)、短絡事故が発生したときは零相電流を演算し(S2)、さらに、零相電流の標準偏差を演算し(S3)、零相電流に含まれる高調波の振幅を演算する(S4)。そして、短絡事故は3相短絡事故であるか否かを判定する(S9)。ステップS9の判定で3相短絡事故でないと判定されたときは、標準偏差は閾値以下か否かが判定され(S5)、閾値以下であるときは、さらに高調波振幅偏差は閾値以下か否かが判定される(S6)。この場合の高調波振幅偏差の閾値は変更されない閾値である。標準偏差及び高調波振幅偏差の双方がそれぞれの閾値以下であるときは、脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する(S7)。一方、ステップS5、S6の判定で、閾値以下でないときは脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する(S8)。
ステップS9の判定で3相短絡事故であると判定されたときは、高調波振幅値の閾値を大きい値に変更する(S10)。そして、標準偏差は閾値以下か否かが判定され(S5)、閾値以下であるときは、さらに高調波振幅偏差は変更した閾値以下か否かが判定される(S6)。標準偏差及び高調波振幅偏差の双方がそれぞれの閾値以下であるときは、脅威的なリスク無しの事故状況であると判断する(S7)。一方、ステップS5、S6の判定で、閾値以下でないときは脅威的なリスク有りの事故状況であると判断する(S8)。
ステップS8にて、脅威的なリスク有りの事故状況であると判断されたときは、
零相電流の標準偏差が予め定めた標準偏差閾値を超えかつ零相電流の高調波振幅が予め定めた高調波振幅閾値を超えているか否かを判断する(S11)。そして、零相電流の標準偏差が閾値を超えかつ零相電流の高調波振幅が閾値を超えているときは配電線の断線と判断する(S12)。一方、ステップS11の判断で、零相電流の標準偏差が閾値を超えかつ零相電流の高調波振幅が閾値を超えている条件を満たしていないときは、耐張碍子破損と判断する(S13)。
第3実施形態によれば、第1実施形態または第2実施形態の効果に加え、事故状況判断部22が脅威的なリスク有りの事故状況と判断したとき、さらに、設備機器損傷判断部24は配電線の断線か耐張碍子破損かの判断をするので、脅威的なリスク有りの事故状況の事故の種別を識別できる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。