以下、本発明の実施の形態の無線通信システムおよび無線通信装置の構成を説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
なお、以下では、本発明の無線通信装置を説明する一例として、上述したような互いに大きく分離した複数の既存の免許不要帯域(たとえば、IoTなどに使用される920MHz帯、無線LANに使用される2.4GHz帯と5GHz帯)において、既存システムと周波数を共用して、コグニティブな無線通信を行うことが可能な無線通信システムにおける送信装置を例とする実施の形態を説明する。
ただし、本発明の無線通信装置については、必ずしも、このような場合に限定されず、より一般的に、互いに分離した複数の周波数帯域を用いて、同一の無線方式で同期したタイミングで同時並行的に通信を行う送信装置に適用することが可能である。また、本発明の無線通信装置においては、後に説明するように、互いに分離した複数の周波数帯域を用いて、異なる無線方式で同期したタイミングで同時並行的に通信を行う送信装置に適用することも可能である。なお、本発明の無線通信装置は、互いに分離した複数の周波数帯域を用いて、同一の無線方式または異なる無線方式で同期したタイミングで同時並行的に送信された信号を受信する構成を有していてもよい。
図1は、本実施の形態の無線通信システムの構成を説明するための概念図である。
図1を参照して、送信側では、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯の3つの周波数帯を使用することを前提に、各帯域で無線チャネルを1つずつ使用するものとして、送信フレームを構成する。
なお、各周波数帯で、複数チャネルを使用することとしてもよいが、以下では、周波数帯ごとに1チャネルを使用するものとして説明する。
本実施の形態では以下の特徴を有する無線アクセス制御を行う。
すなわち、まず、送信側では、後述するような方法で複数周波数帯の利用状況(各無線チャネルの空き状況など)を観測する。
続いて、送信側では、あるタイミングで、1つ以上の未使用な周波数帯・無線チャネルで同時に無線パケット(フレーム)を送信する。このとき、送信データを複数帯域にマッピングして送信する。
一方で、受信側では複数帯域を一括受信してデータを統合する。
送受信において、このような構成にすると、帯域間で混雑状況に偏りがあっても送信機会を確保できるため周波数利用効率の向上と伝送遅延の低減が期待でき、またデータの到着順番が入れ替わるような問題も発生しない。
図2は、送信データを複数帯域にマッピングして送信し、受信側で一括受信して統合するための具体例を説明するための図である。
図2に示すように、送信データを送信系列を使用する各帯域の伝送レートRiに比例するシンボル数ずつ区切って各帯域に、シリアル/パラレル変換により割り当てる。
例えば、(5GHz帯伝送レート:2.4GHz帯伝送レート:920MHz帯伝送レート)=(R1:R2:R3)=(3:2:1)ならば、送信データの系列を6シンボル毎に区切り、5GHz帯(ch1)、2.4GHz帯(ch2)、920MHz帯(ch3)にはその中の3シンボル、2シンボル、1シンボルを割り当てる。なお、送信系列を分割して割り当てる際には、このような場合に限定されず、より一般には、m個の周波数帯を使用する場合は、周波数帯の伝送レートの比を、(R1:R2:…:Rm)(比率は、既約に表現されるとする)とするとき、送信系列を(R1+R2+…+Rm)×n(m,n:自然数)シンボル毎に区切り、各チャネルには、(R1×n)シンボル、(R2×n)シンボル、…、(Rm×n)シンボルを割り当てるものとしてもよい。
そのような割り当ての後に、各帯域ごとに、送信シンボルに対して物理ヘッダをつけて、パケットとし、これらのパケットを同一タイミングで同時並列的に送信する。
送信側で各帯域に割り当てられたシンボル数については、この物理ヘッダ内に情報として格納される。
受信側では、各帯域上の物理ヘッダを利用して同期と復調処理を行う。復調された各系列を送信側と逆の処理で、パラレル/シリアル変換により結合し、フレームの復号を行う。
[送信装置の構成]
図3は、本実施の形態の送信装置1000の構成を説明するための機能ブロック図である。
図3を参照して、送信装置1000は、送信系列を図1で説明したように各周波数帯域に割り当てる処理をするためのシリアル/パラレル変換(以下、S/P変換)部1010と、S/P変換後のデータに対して、周波数帯域ごとに、物理ヘッダの付加や、たとえば、誤り訂正符号の付加、インターリーブ処理など、所定の無線通信方式で通信するための無線フレーム(パケット)を形成するデジタル処理を実行するための無線フレーム生成部1020.1〜1020.3と、無線フレーム生成部1020.1〜1020.3からのデジタル信号に対して、それぞれ、デジタルアナログ変換処理、所定の変調方式への変調処理(たとえば、所定の多値変調方式のための直交変調処理)、アップコンバート処理、電力増幅処理などを実行する高周波処理部(RF部)1040.1〜1040.3と、RF部1040.1〜1040.3の高周波信号をそれぞれ送出するためのアンテナ1050.1〜1050.3とを含む。RF部1040.1〜1040.3の動作は、これらに共通に設けられた局部発振器1030からのクロックに基づいて制御される。
さらに、送信装置1000は、各周波数帯(各周波数帯の中では1つ以上の無線チャネル)の利用状況(各無線チャネルの空き状況など)を観測するチャネル利用状況観測部1060と、チャネル利用状況観測部1060の観測に基づいて、所定のタイミングでのチャネル利用状況を予測するチャネル利用状況予測部1070と、無線フレーム生成部1020.1〜1020.3の処理タイミングおよびRF部1040.1〜1040.3での送信タイミングを制御して、制御された同一の送信タイミングにおいて所定の期間につき未使用な周波数帯・無線チャネルで同時に無線パケットを送信するように制御するアクセス制御部1080とを含む。
このような構成の送信装置1000により、図1で説明したように、データを複数帯域にマッピングして送信し、受信側では複数帯域を一括受信してデータを統合する。
図4は、送信装置1000のより詳細な構成の例を説明するための機能ブロック図である。
図4に示した機能ブロック図は、一例として、無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式に従う送信装置の構成を示す。
すなわち、無線通信規格802.11aは、5GHz帯の無線LAN通信方式であるものの、図4では、2.4GHz、920MHz帯でも、周波数帯が異なるだけで、それ以外は同様の構成の無線通信方式に従う受信部を使用するものとする。
したがって、各周波数帯域において、パケットのプリアンブル部分の構成などは、複数の周波数帯について共通であるものとする。
ただし、必ずしも、各周波数帯の無線通信方式が同様の構成を有していることは必須ではなく、周波数帯ごとに無線通信方式(信号形式、シンボル長やサブキャリア間隔など)が異なっていてもよい。この場合は、少なくとも単一の送信系列を各帯域に分割して同時に送信し、また、周波数帯が異なる以外は、RF部の構成が基本的に同一であればよく、パケットのプリアンブル部分の構成(プリアンブルの長さなど)が、複数の周波数帯ごとに異なっていてもよい。
図4では、5GHz帯の送信に係る構成を代表して例示的に示す。無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式を想定しているので、伝送する信号は、OFDM(直交周波数分割多重)変調するものとする。
図4を参照して、無線フレーム生成部1020.3は、S/P変換部1010から分配された送信データを受けて、誤り訂正符号化するための誤り訂正符号化部1110と、誤り訂正符号化部1110の出力に対してインターリーブ処理およびマッピング処理を実行するためのインターリーブ/マッピング部1120と、逆フーリエ変換処理を実行するためのIFFT部1130と、ガードインターバル部分を付加するためのGI付加部1140と、デジタル信号をI成分およびQ成分のアナログ信号に変換するためのデジタルアナログコンバータ(DAC)1150とを含む。図4に示すように、無線フレーム生成部1020.3は、ベースバンド処理部ということもできる。また、S/P変換部1010および無線フレーム生成部1020.1〜1020.3ではデジタル信号処理が行われるため、それらを総称してデジタル信号処理部と呼ぶ。
高周波処理部1040.3は、DAC1150からの信号を所定の多値変調信号に変調するための直交変調器1210と、直交変調器1210の出力をアップコンバートするアップコンバータ1220と、アップコンバータ1220の出力を電力増幅しアンテナ1050.3から送出するための電力増幅器1230とを含む。
その結果、RF部1040.3により、基底帯域OFDM信号は搬送帯域OFDM信号に変換される。
さらに、高周波処理部1040.3は、局部発振器1030からの参照周波数信号を対応する周波数帯域の基準クロック信号に変換するためのクロック周波数変換部1310と、クロック周波数変換部1310からの基準クロックに基づいて、直交復調器1210での変調処理に使用するクロックを生成するクロック生成部1320と、クロック周波数変換部1310からの基準クロックに基づいて、アップコンバータ1220でのアップコンバート処理に使用するクロックを生成するクロック生成部1340とを含む。
すなわち、局部発振器1030からの参照周波数信号は、このような基底帯域OFDM信号から搬送帯域OFDM信号への変換におけるクロック信号として使用される。なお、より一般に、無線通信方式が異なる場合でも、基本的に、局部発振器1030からの参照周波数信号は、基底帯域信号から搬送帯域信号への変換におけるクロック信号として使用される。
[送信装置の他の構成]
図3および図4では、送信装置1000の構成の一例について説明した。
図3および図4の構成では、送信データをS/P変換部1010により各周波数帯に分配した後に、誤り訂正符号化処理とインターリーブ処理を実施する構成であった。
ただし、送信装置1000の構成は、このような場合に限定されない。
図5は、このような他の構成である送信装置1000´の構成を説明するための機能ブロック図である。
図5の送信装置1000´では、送信データについて、誤り訂正符号化処理とインターリーブ処理をした後に、S/P変換部1010により各周波数帯に分配する構成となっている。無線フレーム生成部1020.1〜1020.3において、マッピング処理およびIFFT処理、ガードインターバルの付加、デジタルアナログ変換処理を実施する。
図6は、このような送信装置1000´のより詳細な構成の例を説明するための機能ブロック図である。図6の構成は、図4の構成に対応するものである。
図6に示した機能ブロック図も、一例として、無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式に従う送信装置の構成を示す。
図6に示すように、誤り訂正符号化処理部1110による誤り訂正符号化処理およびインターリーブ部1112によるインターリーブ処理をした後に、S/P変換部1010により各周波数帯に分配する構成とすることで、周波数ダイバーシチ効果をより強力に得ることができる。
図7は、チャネル利用状況観測部1060、チャネル利用状況予測部1070およびアクセス制御部1080の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図7を参照して、チャネル利用状況観測部1060は、各周波数帯の利用状況(例えば各無線チャネルの空き状況やビジー確率等)を観測し、チャネル利用状況予測部1070は、各周波数帯の直近の利用状況を予測し、その結果からアクセス制御部1080は、良好な通信が行えるよう伝送タイミングや使用周波数帯・無線チャネル等の伝送パラメータを決定する。
すなわち、後に詳しく説明するように、チャネル利用状況予測部1070は、たとえば、3つの周波数帯域を使用して通信を行う場合、現時点を基準として、たとえば、時刻t2であれば、2帯域を利用して送信できると予測し、時刻t3であれば、3帯域を利用できると予測する。アクセス制御部1080は、効率的な伝送を行うため、利用状況の予測結果に基づき、送信開始タイミングと使用周波数帯を判断する。
たとえば、従来の無線LANなどでのランダムアクセス制御では、後述するCSMA/CAとランダムバックオフにより送信機会が得られたら即座に送信を行う。
これに対して、本実施の形態のアクセス制御部1080は、必要に応じて、一部の無線チャネルで送信機会を得ても、複数の周波数帯・無線チャネルが同時利用できるまで送信を待機する、という制御を行う。
[受信装置の構成]
以下では、図1で説明したような無線通信システムで使用される受信装置の構成について説明する。
図8は、実施の形態の受信装置2000の構成を説明するための機能ブロック図である。
図8を参照して、受信装置2000は、複数の周波数帯域(920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯)の信号をそれぞれ受信するためのアンテナ2010.1〜2010.3と、アンテナ2010.1〜2010.3の信号のダウンコンバート処理、復調・復号処理などの受信処理を実行するための受信部2100.1〜2100.3と、受信部2100.1〜2100.3に対して共通に設けられ、受信部2100.1〜2100.3の動作の基準となるクロックである参照周波数信号を生成する局部発振器2020と、受信部2100.1〜2100.3からの信号の各系列を送信側と逆の処理で、パラレル/シリアル変換により結合するためのパラレル/シリアル変換部2700とを含む。パラレル/シリアル(P/S)変換部2700からの統合されたフレームの出力は、上位レイヤーに受け渡される。
受信装置2000は、受信した信号のプリアンブル信号から局部発振器2020の周波数オフセットの検出を行って、局部発振器2020の発振周波数を制御するための信号(発振周波数制御信号)を生成し、搬送波周波数同期処理を行い、また、受信した信号からデジタル信号処理におけるタイミング同期をとるための信号(同期タイミング信号)を生成する同期処理部2600を含む。
受信部2100.1は、アンテナ2010.1からの信号を受けて、低雑音増幅処理、ダウンコンバート処理、所定の変調方式に対する復調処理(たとえば、所定の多値変調方式に対する直交復調処理)、アナログデジタル変換処理等を実行するための高周波処理部(RF部)2400.1と、RF部2400.1からのデジタル信号に対して、復調・復号処理等のベースバンド処理を実行するためのベースバンド処理部2500.1を含む。
受信部2100.2も、対応する周波数帯域についての同様の処理を行うための高周波処理部(RF部)2400.2ならびにベースバンド処理部2500.2を含む。また、受信部2100.3も、対応する周波数帯域についての同様の処理を行うための高周波処理部(RF部)2400.3ならびにベースバンド処理部2500.3を含む。
ベースバンド処理部2500.1〜2500.3およびパラレル/シリアル(P/S)変換部2700を総称して、デジタル信号処理部2800と呼ぶ。
図9は、図8に示した受信装置2000のより詳細な構成の例を説明するための機能ブロック図である。
図9に示した機能ブロック図でも、一例として、無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式に従う受信装置の構成を示す。
したがって、受信装置の構成は、図4に示した送信装置の構成に対応するものである。
図9でも、5GHz帯の受信部2100.3の構成を代表して例示的に示す。
図9を参照して、受信部2100.3のRF部2400.3は、アンテナ2010.3からの受信信号を増幅するための低雑音増幅器3010と、低雑音増幅器3010の出力を周波数変換するためのダウンコンバータ3020と、ダウンコンバータ3020の出力を所定の振幅となるように制御するための自動利得制御器3030と、所定の多値変調信号を復調するための直交復調器3040と、直交復調器3040のI成分出力およびQ成分出力をそれぞれデジタル信号に変換するためのアナログデジタルコンバータ(ADC)3050とを含む。
RF部2400.3は、さらに、局部発振器2020からの参照周波数信号を対応する周波数帯域の基準クロック信号に変換するためのクロック周波数変換部3060と、クロック周波数変換部3060からの基準クロックに基づいて、ダウンコンバータ3020でのダウンコンバート処理に使用するクロックを生成するクロック生成部3070と、クロック周波数変換部3060からの基準クロックに基づいて、直交復調器3040での復調処理に使用するクロックを生成するクロック生成部3080とを含む。
無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式を想定しているので、伝送されてきた信号は、OFDM(直交周波数分割多重)変調されている。その結果、RF部2400.3により、搬送帯域OFDM信号は、基底帯域OFDM信号に変換される。
そして、局部発振器2020からの参照周波数信号は、このような搬送帯域OFDM信号から基底帯域OFDM信号への変換における搬送周波数同期に使用される。なお、より一般に、無線通信方式が異なる場合でも、基本的に、局部発振器2020からの参照周波数信号は、搬送帯域信号から基底帯域信号への変換における搬送周波数同期に使用される。
再び、図9に戻って、ベースバンド処理部2500.3は、ADC3050からの信号を受けて、ガードインターバル部分を除去するためのGI除去部4010と、ガードインターバルが除去された信号に対して、高速フーリエ変換を実行するためのFFT部4020と、FFT部4020の出力に対して、デマッピングおよびデインターリーブ処理を実行するためのデマッピング/デインターリーブ部4030と、誤り訂正部4040とを含む。
ここで、同期処理部2600から出力される同期タイミング信号は、OFDMシンボルの始まりを検出するためのシンボルタイミング同期などに使用される。
より一般に、無線通信方式が異なる場合でも、基本的に、同期処理部2600から出力される同期タイミング信号は、ベースバンド処理における同期信号として使用される。
[受信装置の他の構成]
図8および図9では、受信装置2000の構成の一例について説明した。
図8および図9の構成では、図3および図4の送信側の構成に対応して、受信データに対して、デマッピング/インターリーブ処理および誤り訂正処理を実施した後に、P/S変換部2700により各周波数帯からの信号を結合する構成であった。
ただし、受信装置2000の構成は、このような場合に限定されない。
図10は、このような他の構成である受信装置2000´の構成を説明するための機能ブロック図である。
図10の受信装置2000´では、受信データについて、P/S変換部2700により各周波数帯の信号を結合した後に、デインターリーブ処理および誤り訂正処理を実行する構成となっている。ベースバンド処理部2500.1〜2500.3において、ガードインターバルの除去、FFT処理およびデマッピング処理を実施する。
したがって、図10の受信装置2000´は、図5の送信装置1000´からの信号の受信に対応するものである。
図11は、このような受信装置2000´のより詳細な構成の例を説明するための機能ブロック図である。図11の構成は、図10の構成に対応するものである。
図11に示した機能ブロック図も、一例として、無線通信規格802.11aと同様の無線通信方式に従う送信装置の構成を示す。
図11に示すように、周波数帯域ごとに、ガードインターバル除去部4010によるガードインターバルの除去、FFT部4020によるFFT処理およびデマッピング部4032によるデマッピング処理の後に、P/S変換部2700により各周波数帯の信号を結合する。P/S変換部2700による結合の後に、デインターリーブ部4042によるデインターリーブ処理および誤り訂正部4040による誤り訂正処理を実行する。
図12は、図3で説明した送信装置1000または図5で説明した送信装置1000´のチャネル利用状況観測部1060、チャネル利用状況予測部1070およびアクセス制御部1080の動作を説明するためのフローチャートである。
図12を参照して、まず、チャネル利用状況観測部1060は、複数帯域でキャリアセンスを実施し、図示しない記憶装置に記憶している利用状況情報を更新する(S100)。
すなわち、チャネル利用状況観測部1060は、複数周波数帯域においてそれぞれ使用予定である各無線チャネルのビジー(busy)/アイドル(idle)状態判定と、これらの継続時間を計測する。
ここで、チャネル利用状況観測部1060が観測および計測する項目としては、以下のようなものがある。
i)各無線チャネルの状態(ビジー(busy)またはアイドル(idle)状態。これは物理キャリアセンス結果である)
ii)各無線チャネルのビジー(busy)継続時間
iii)受信中のフレームの物理ヘッダに記載されているフレーム長
iv)受信中のフレームのMACヘッダに記載されているNAVの値(仮想キャリアセンス結果)
ここで、NAVとは、Network Allocation Vector(送信禁止期間)のことである。
以下、用語の説明のために、無線LANにおいて、各端末からの送信の衝突を回避する一般的な方法について簡単に説明する。
無線LANのチャネルでは、お互いに送信を待ち合わせないとパケットが衝突して効率的な通信が成り立たないため、「CSMA(Carrier Sense Multiple Access)」と呼ばれる方式が採用される。
無線の場合、電波の強度を監視しただけでは、衝突が起こるかどうかはわからない。電波は距離によって大きく減衰するため、衝突を引き起こす相手が遠くにいるとその電波を検知できない可能性があるからである。
そこで送信前に必ず、「待ち時間(DIFS:Distributed access Inter Frame Space)」を設け、ほかに送信信号がないことを確認してから送信する。このような方式を「CA(Collision Avoidance、衝突回避)」と呼ぶ。
そして、送信後には、必ず「ACK(ACKnowledgement、到着確認応答)」を待ち、ACKが戻らない場合は衝突などが起きたと判断して再送信を行なう。
これ以外にも、無線LAN固有のアクセス制御の仕組みとして、たとえば、隠れ端末対策のために考案された「RTS/CTS(Request to Send/Clear to Send)」がある。ここで、隠れ端末とは、自分からは電波圏外だが、通信相手の電波圏内にいる端末のことである。その存在を直接知ることはできないが、干渉を引き起こす。
電波の到達距離をLmと仮定すると、無線端末Aの通信相手B(アクセスポイント)がLm先におり、さらにそのLm先に別の無線端末Cがいるという状況を考える。
このとき、端末Cの電波は端末Aまで届かないため、端末Aがほかの端末が信号を送出しているか調べても(キャリアセンスしても)端末Cの存在がわからないことから、端末Cは端末Aの隠れ端末になる。何も対策をとらないと、端末CがアクセスポイントBに送信中であっても、端末AもアクセスポイントBにデータを送信してしまうことが起きてしまうことになる。これは、アクセスポイントBで衝突を引き起こし、スループットを下げる要因になる。
RTS/CTSとは、すべての無線機器は送信前に「RTS(送信要求)」のパケットを出し、受信側も受信可能であれば「CTS(受信可能)」で応答する仕組みである。前述の例では、端末CはアクセスポイントBにまずRTSを送信する。ただし、このRTSは、端末Aには届かない。
アクセスポイントBは、端末Cに対してCTSを送信することで受信可能なことを通知する。このCTSは、端末Aにも届くため、端末Aは通信が行なわれることを察知し、送信を延期する。RTS/CTSのパケットには、チャネルの占有予定期間が書かれており、その間通信を保留する。この期間を「NAV(Network Allocation Vector、送信禁止期間)」と呼ぶ。
チャネル利用状況観測部1060による観測・計測の結果から、チャネル利用状況予測部1070が算出および予測する各無線チャネルの利用状況統計量としては、以下のようなものがある。
a)ビジー(busy)状態となる確率(時間的利用率)
b)ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態の継続時間の確率分布
c)直前のビジー(busy)/アイドル(idle)状態継続時間に対するアイドル(idle)/ビジー(busy)状態の継続時間の発生確率分布(たとえば、確率密度関数(PDF:probability density function)や累積確率(CDF:cumulative distribution function))
d)ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態の発生パターン(周期とduty比:背景トラフィックが周期的な場合)
以下では、上記のうち、チャネル利用状況予測部1070が算出する予測情報の具体例を説明する。
1)「アイドル(idle)状態の継続時間の発生確率分布」の算出方法
無線LANのフレーム到来間隔τの確率密度関数(PDF)p(τ)は、以下の式(1)で表されるパレート(Pareto)分布に概ね従うことが知られている(以下の文献1を参照)。
文献1:Dashdorj Yamkhin and Youjip Won, "Modeling and analysis of wireless LAN traffic," Journal of Information Science and Engineering, vol. 25, no. 6, pp. 1783-1801, Nov. 2009.
ここで、aは分布形状を決定する係数、τ
mは最小フレーム到来間隔である。
また、aとτmが与えられた場合、τの平均μと分散σ2は、以下の式(2)および(3)で与えられる。
例えばIEEE 802.11 DCF規格の場合、データフレームの最小到来間隔は、上述したDIFSであるため、τ
m=DIFSと設定する。アイドル(idle)状態の継続時間をフレーム到来間隔とし、キャリアセンス結果からμやσ
2を計測すれば、上の式を用いて、チャネル利用状況予測部1070は、aの値を推定できる。
そして、aの値が求まれば、アイドル(idle)状態が、τ時間以上継続する確率C(τ)として、チャネル利用状況予測部1070は、次式で表される発生確率分布を得る。
使用予定の無線チャネルがアイドル(idle)状態となった場合、その時点からt後までアイドル(idle)状態が継続する確率は、C(τ)から求めることができる。
2)キャリアセンスの結果、アイドル(idle)継続時間とビジー(busy)継続時間が、毎回ほぼ同じ時間であり、チャネル利用状況予測部1070がトラフィックが周期的であると判断した場合は、アイドル(idle)状態の継続時間の発生確率分布として、例えば、アイドル(idle)状態開始時時点からアイドル(idle)状態の継続時間の平均値(中央値や最小値でも良い)までの間のアイドル(idle)継続確率を100%、とし、それ以降は0%とするステップ関数としても良い。
3)一方、使用予定の無線チャネルがビジー(busy)状態の場合、飛来しているパケット(フレーム)の物理ヘッダに記載されているフレーム長や、MACフレームに記載されているNAVの値を復号することで、チャネル利用状況予測部1070は、ビジー(busy)状態の継続時間を取得しビジー状態の継続時間を予測することができる。
再び、図12に戻って、アクセス制御部1080は、送信すべきデータがあるかを判断し(S102)、送信したいデータがまだない場合(S102でN)は、処理をS100に戻す。
一方で、アクセス制御部1080は、送信したいデータがある場合(S102でY)、まず、送信機会を得た無線チャネルで、以下に説明するような「即時送信条件」を満たしているかを判断する。
すなわち、本来であれば、アクセス制御部1080は、チャネル利用状況予測部1070の予測結果に基づいて、送信タイミングが到来したかを判断するものの、実際にはビジー(busy)/アイドル(idle)状態の発生予測に誤差が生じて期待通りに送信機会が得られない恐れがあるため、送信機会が確保できた無線チャネルについて、例えば、以下の条件の組み合わせを満たしたと判断すると、当該無線チャネルを用いて即座に伝送を開始する制御を行う(S104)。すなわち、この場合は、アクセス制御部1080は、送信機会を得た無線チャネルで送信を行うことにより、所定の通信品質が達成できると判断した場合は、予測結果による送信タイミングを待つことなく、即時の無線送信を行う制御を行う。
a1)総伝送レートが所定値以上
a2)即座に伝送を開始すると、送信データの伝送遅延が所定値以下
a3)即座に伝送を開始すると、スループットが所定量以上増加
a4)送信機会が確保できた無線チャネルで送信を行うと、無線チャネル間の使用率の分散 and/or 平均が小さくなる
a5)送信機会が確保できた無線チャネルで伝送を行うと、伝送に要する消費エネルギーが所定量以下
a6)所定の無線チャネルで送信機会が得られている
a7)送信機会の喪失が許されない場合
以上のような条件a1)〜a7)のいずれか1つの条件が満たされるか、あるいは、条件a1)〜a7)の所定の組合せ(2つの条件以上の組合せ)が成り立つ場合は、アクセス制御部1080は、送信機会が確保できている無線チャネルを用いて即座に伝送を開始する。すなわち、アクセス制御部1080は、伝送パラメータの決定と送信データのマッピングを行い(S108)、S/P変換部1010と無線フレーム生成部1020.1〜1020.3とを制御して、選択した周波数帯および無線チャネルでフレームを送信し(S110)、処理をステップS100に復帰させる。
ここで、「伝送パラメータ」としては、「使用帯域と使用無線チャネル」、「各無線チャネルで使用する伝送レート」、「各無線チャネル(OFDMの場合は各サブキャリアでも可)の送信電力」などがある。
なお、所定の条件を満たすならば、使用可能性のある全ての周波数帯の無線チャネルではなく、一部の無線チャネルのみを用いて伝送することを可能としてもよい。
また、伝送レートと送信電力の決定については、以下に示す文献2に記載されるような既存の手法が利用可能である。
文献2:吉識 知明,三瓶 政一,森永 規彦,"高速データ伝送のためのマルチレベル送信電力制御を用いたOFDM適応変調方式,"電子情報通信学会論文誌(B), J84-B, 7, pp. 1141-1150,2001年07月
また、伝送レートと送信電力の決定に必要な伝搬路情報は、例えば、以下のような方法で入手可能である。
・逆方向の通信で受信したフレームを受信する際に行った伝搬路推定結果を利用する。
・IEEE 802.11無線LANで規定されている伝搬路フィードバック手法を利用する。
続いて、アクセス制御部1080は、「即時送信条件」を満たさない場合(S104でN)、上述したようなチャネル利用状況予測部1070の予測結果に基づいて、送信タイミングが到来したか否かを判断する(S106)。
送信開始タイミングの決定については、以下のように利用状況情報による予測情報を利用する。
b1)ビジー(busy)状態にある無線チャネルがアイドル(idle)状態になるまでの所要時間の予測(「いつまで待てばよいか?」の予測)
これには、以下のような情報を用いることで、「いつまで待てばよいか?」を予測することができる。
b1−1)ビジー(busy)要因となっているフレームやNAVの長さ(既に分かっている場合)
b1−2)任意の時刻後における各無線チャネルのビジー(busy)状態発生の有無(周期的な背景トラフィックであれば、ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態の周期とデューティ(duty)から予測可能)
b1−3)これまでのビジー(busy)継続時間を踏まえた、今後の待ち時間に対するアイドル(idle)発生確率(ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態のCDFから算出可能)
b2)アイドル(idle)な無線チャネルがビジー(busy)になるまでの所要時間の予測(「いつまで待てるか?」の予測)
b2−1)任意の時刻後における各無線チャネルのビジー(busy)状態発生の有無(周期的な背景トラフィックであれば、ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態の周期とdutyから予測可能)
b2−2)これまでのアイドル(idle)継続時間を踏まえた、今後の待ち時間に対するビジー(busy)発生確率(ビジー(busy)状態とアイドル(idle)状態のCDFから算出可能)
また、チャネル利用状況予測部1070は、観測された利用状況に応じて予測した所定時間経過後のチャネル利用状況を用いて、無線チャネルがアイドル状態である確率を、現時点から所定時間範囲内における複数の所定経過時間ごとに、また複数の周波数帯域における複数の無線チャネルごとに示す予測アイドル確率を生成する。なお、予測アイドル確率は、結果として無線チャネルがアイドル状態である確率を知ることができる情報であればよいため、例えば、無線チャネルがビジー状態である確率を所定経過時間ごとに、また複数の無線チャネルごとに示すものでもよい。また、その所定経過時間には、「0」すなわち現時点が含まれてもよく、またはそうでなくてもよい。
現時点でビジー状態である無線チャネルについては、チャネル利用状況予測部1070は、例えば上記b1−1)、b1−2)のように、その無線チャネルがアイドル状態になるまでの時間を予測できる。その予測結果を用い、チャネル利用状況予測部1070は、予測アイドル確率において、例えば、予測した時間まではアイドル状態である確率を0%とし、予測した時間以降はアイドル状態である確率を100%としてもよい。なお、その予測した時間以降についても、チャネル利用状況予測部1070は、上記b2)のように、ビジー状態とアイドル状態との周期やビジー状態の発生確率に応じて、アイドル状態の確率を予測してもよい。また、チャネル利用状況予測部1070は、例えば上記b1−3)のように、ビジー継続時間に対するアイドル状態の発生確率を予測アイドル確率としてもよい。例えば、現時点までにビジー状態が時間τBだけ継続している場合には、現時点から時間τ後のアイドル確率を、ビジー継続時間τB+τに対するアイドル状態の発生確率としてもよい。
現時点でアイドル状態である無線チャネルについては、チャネル利用状況予測部1070は、例えば上記b2−1)のように、その無線チャネルがビジー状態になるまでの時間を予測できる。その予測結果を用い、チャネル利用状況予測部1070は、予測アイドル確率について、例えば、予測した時間まではアイドル状態である確率を100%とし、予測した時間以降はアイドル状態である確率を0%としてもよい。それ以降の時間についても、例えば、アイドル状態とビジー状態の周期に応じて、アイドル状態である確率を予測してもよい。また、チャネル利用状況予測部1070は、例えば上記b2−2)のように、アイドル継続時間に対するビジー状態の発生確率を用いて今後のアイドル状態の発生確率を算出し、そのアイドル状態の発生確率を予測アイドル確率としてもよい。例えば、現時点までにアイドル状態が時間τIだけ継続している場合には、現時点から時間τ後のアイドル確率を、アイドル継続時間τI+τに対するビジー状態の発生確率を用いて、1−(ビジー状態の発生確率)のように算出してもよい。ただし、確率は0から1までの実数であるとしている。
アクセス制御部1080は、上述した予測アイドル確率を用いて、複数の周波数帯における複数の無線チャネルに関するビジー状態、アイドル状態のパターンごとの生起確率を複数の所定経過時間ごとに算出する。例えば、3つの無線チャネルを用いて送信する場合には、各無線チャネルについて、ビジー状態、アイドル状態の2状態があるため、3つの無線チャネルに関するビジー状態、アイドル状態のパターンは、8個存在する。一般的にいえば、N個の無線チャネルを用いて送信する場合には、N個の無線チャネルに関するビジー状態、アイドル状態のパターンは、2N個存在する。また、各無線チャネルに関する所定経過時間ごとのアイドル確率は、上記予測アイドル確率に含まれているため、アクセス制御部1080は、パターンごとに生起確率を算出できる。具体的には、現時点から時間T1が経過した時点において、1〜3個目の無線チャネルがアイドル状態である確率がそれぞれP1,P2,P3である場合には、アクセス制御部1080は、1個目の無線チャネルがアイドル状態であり、2個目の無線チャネルがビジー状態であり、3個目の無線チャネルがビジー状態であるパターンの生起確率を、P1×(1−P2)×(1−P3)と算出する。なお、確率は0から1までの実数であるとしている。アクセス制御部1080は、そのようにして算出した、パターンごと、また所定経過時間ごとの生起確率に基づいて、送信タイミングを算出し、その送信タイミングでデータの伝送を行う。
すなわち、アクセス制御部1080は、このような送信タイミングが到来すると判断すれば(S106でY)、伝送パラメータの決定と送信データのマッピングを行い(S108)、S/P変換部1010と無線フレーム生成部1020.1〜1020.3とを制御して、選択した周波数帯および無線チャネルでフレームを送信し(S110)、処理をステップS100に復帰させる。
なお、アクセス制御部1080が、生起確率に基づいて送信タイミングを算出する基準として、以下のようなものを採用してもよい。なお、送信タイミングを算出する具体的な方法については後述する。
c1)伝送完了までの時間の期待値を最小化
c2)伝送完了までのスループットの期待値を最大化
c3)伝送完了までの未使用の無線リソース量の期待値を最小化
c4)自身による特定の無線チャネルの使用率の期待値を最小化(920MHz帯のように送信時間制限がある周波数帯において、当該周波数帯の時間利用率を制限内に収めるため。)
なお、アクセス制御部1080は、ステップS106において、予測された期待値の最小値が所定の値より小さくならないと判断する場合や、予測された期待値の最大値が所定の値を超えないと判断する場合は、送信を待機することによって現在以上の数の無線チャネルで送信機会が得られる可能性があるとして、送信を待機し(ステップS106でN)、処理をステップS100に復帰する。このような待機動作を行うことで、周波数利用効率の向上や伝送遅延の低減等が達成可能であると考えられるからである。
ここでは、予測アイドル確率の具体例と、上記c1)〜c3)の具体例について説明する。この具体例では、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯の各無線チャネルについて、現時点を0とした時間の経過に応じたチャネル利用状況が、図13で示されるように予測されたとする。図13は、無線チャネルがビジー状態である確率を示すものである。つまり、920MHz帯は、現時点でアイドル状態であり、ビジー状態である確率が10μsごとに10%ずつ上昇することになる。また、2.4GHz帯および5GHz帯は、現時点でビジー状態であり、ビジー状態である確率が10μsごとに10%ずつ減少することになる。この場合には、現時点を0とした10μsごとの経過時間に対応する各帯域のアイドル確率は、図14で示されるようになる。したがって、チャネル利用状況予測部1070は、図13の予測結果に基づいて、図14で示される予測アイドル確率のテーブルを作成する。
図15は、各帯域のビジー状態、アイドル状態のパターンを示すテーブルである。図15では、例えば、パターン番号0は、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯のすべてがアイドル状態であるパターンに対応している。3つの無線チャネルを用いる場合には、図15で示されるように、パターン番号が0から7までの8個のパターンが存在する。
図16は、予測アイドル確率が図14で示される場合における、時間が30μsにおける各パターンの生起確率の算出について説明するためのテーブルである。図16では、パターンごと、帯域ごとに、図14の30μs時点の予測アイドル確率に応じたビジー確率またはアイドル確率が記載されている。生起確率pは、パターンごとに、各帯域のビジー確率またはアイドル確率を乗算することによって算出できる。具体的には、パターン番号1に対応する生起確率「0.147」は、各帯域のアイドル確率「0.7」、アイドル確率「0.3」、ビジー確率「0.7」を乗算することによって算出される。アクセス制御部1080は、予測アイドル確率に含まれる時間0,10,20,…,90μsのそれぞれについて、パターン番号0〜7に対応する生起確率pを算出する。ここで、ある時間τのパターン番号iに対応する生起確率をp(τ,i)とする。例えば、p(30μs,0)=0.063である。なお、τ=0が現時点である。アクセス制御部1080は、その生起確率を用いて、以下のようにして、期待値を最大または最小にする送信タイミングを決定する。
c1)による送信タイミングの算出
この場合には、アクセス制御部1080は、ビジー状態、アイドル状態のパターンの生起確率に基づいて、送信データに関する伝送完了までの時間の期待値を最小化する送信タイミングで、送信データの送信を行う。なお、その最小化は、厳密な意味での最小化でなくてもよい。つまり、10μsごとなどのように、離散的な経過時間ごとの生起確率を用いて期待値を算出した場合には、その複数の経過時間に、厳密な意味での最小値に対応する経過時間が含まれていないことも考えられる。例えば、10μsごとの経過時間を用いた場合に、期待値を最小化する送信タイミングが50μsとなったとしても、厳密には、期待値を最小化する送信タイミングは、53μsであることもある。そのため、その最小化は、離散的な経過時間に対応する複数の期待値に関する最小化であってもよい。c1)以外において期待値を最小化したり、最大化したりする場合にも同様であるとする。
より具体的には、アクセス制御部1080は、次式のように、所定経過時間τ後を送信タイミングとした場合における送信データの伝送完了までの時間の期待値T(τ)を、所定経過時間τと、送信時間の期待値とを加算することによって算出する。なお、所定経過時間τは、現時点から送信タイミングまでの待ち時間である。また、送信時間は、送信を開始してから送信が終了するまでの時間、すなわち実質的に送信に用いる時間である。送信時間の期待値は、所定経過時間τ後におけるi番目のパターンの生起確率p(τ,i)と、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の送信時間Tfrm(τ,i)との積のパターンごとの総和によって算出する。なお、次式において、Nptrnは、パターンの総数である。例えば、3つの無線チャネルを用いる場合には、Nptrn=8(=23)である。
ここで、送信時間T
frm(τ,i)の算出方法について説明する。例えば、使用予定の無線チャネルとして無線チャネルch1、ch2およびch3を想定し、そこでの使用可能伝送レートをR
1,R
2およびR
3[b/s]とする。なお、伝送レートR
1、R
2、R
3は、待ち時間τに応じて変わることもあり得る。また、これから伝送したいデータ量を、I[bit]とする。
チャネルch1のみを使用してデータを伝送するのに必要な送信時間T(1)は、以下のようになる。なお、ここでの送信時間は、上記のように、実質的な送信の開始から終了までの時間(すなわち、待ち時間を含まない時間)である。
T(1)=I/R1
チャネルch1、ch2を使用してデータを伝送するのに必要な送信時間T(2)は、以下のようになる。
T(2)=I/(R1+R2)
チャネルch1、ch2、ch3を使用してデータを伝送するのに必要な送信時間T(3)は、以下のようになる。
T(3)=I/(R1+R2+R3)
このように、アクセス制御部1080は、所定経過時間τの後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルの個数、またその無線チャネルの伝送レートに応じて、送信時間Tfrm(τ,i)を算出することができる。
アクセス制御部1080は、上記のようにして、複数の離散的な経過時間τのそれぞれ(0,10,20,…,90μs)について、伝送完了までの時間の期待値T(τ)を算出する。そして、その算出した期待値のうち、最も小さい期待値に対応する経過時間を送信タイミングとする。
なお、図15の各パターンにおけるパターン番号i=7では、全帯域はビジー状態であるため送信を開始できず、伝送レートR1,R2およびR3はそれぞれ0になり、Tfrm(τ,7)を算出できない。その場合には、例えば、アクセス制御部1080は、全帯域がビジー状態である項p(τ,7)・Tfrm(τ,7)を期待値の計算に含めなくてもよく、または、全帯域がビジー状態であるときの各帯域の伝送レートがあらかじめ決められた所定の値であると仮定して、Tfrm(τ,7)を計算してもよい。その伝送レートは、例えば、他のパターンにおける伝送レートよりも小さくなるように設定されてもよい。このことは、以下のc2)、c3)についても同様であるとする。
c2)による送信タイミングの算出
この場合には、アクセス制御部1080は、ビジー状態、アイドル状態のパターンの生起確率に基づいて、送信データに関する伝送完了までのスループットの期待値を最大化する送信タイミングで、送信データの送信を行う。このスループットは、現時点から伝送完了までの値であるため、実際に送信を行っている時間だけでなく、待ち時間も考慮した値となる。
より具体的には、アクセス制御部1080は、次式のように、所定経過時間τ後を送信タイミングとした場合における送信データの伝送完了までのスループットの期待値η(τ)を、所定経過時間τ後におけるi番目のパターンの生起確率p(τ,i)と、i番目のパターンに対応する伝送完了までの単位時間あたりの伝送データ量との積のパターンごとの総和によって算出する。なお、i番目のパターンに対応する伝送完了までの単位時間あたりの伝送データ量は、送信データ量N
dataを、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の伝送完了までの時間で除算したものである。伝送完了までの時間は、待ち時間τと、送信時間T
frm(τ,i)とを加算することによって算出できる。送信データ量N
dataは、変調前の送信対象のデータ量であってもよい。
アクセス制御部1080は、上記のようにして、複数の離散的な経過時間τのそれぞれについて、伝送完了までのスループットの期待値η(τ)を算出する。そして、その算出した期待値のうち、最も大きい期待値に対応する経過時間を送信タイミングとする。
c3)による送信タイミングの算出
この場合には、アクセス制御部1080は、ビジー状態、アイドル状態のパターンの生起確率に基づいて、送信データに関する伝送完了までの未使用の無線リソース量の期待値を最小化する送信タイミングで、送信データの送信を行う。なお、未使用の無線リソース量とは、自装置が使用しない無線リソース量のことである。したがって、その未使用の無線リソースを他装置が利用している可能性はあり得る。
より具体的には、アクセス制御部1080は、所定経過時間τ後を送信タイミングとした場合における送信データの伝送完了までの未使用の無線リソース量の期待値R(τ)を、所定経過時間τ後におけるi番目のパターンの生起確率p(τ,i)と、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の伝送完了までの時間において自装置が使用しない無線リソース量との積のパターンごとの総和によって算出する。なお、自装置が使用しない無線リソース量は、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の伝送完了までの時間(τ+T
frm(τ,i))における全無線リソース量から、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の送信時間(T
frm(τ,i))に使用する無線リソース量(すなわち、i番目のパターンでアイドル状態である無線チャネルの無線リソース量の合計)を減算したものである。経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の伝送完了までの時間における全無線リソース量は、現時点から伝送完了までの時間(τ+T
frm(τ,i))に、伝送で用いる可能性のあるすべての無線チャネルに関する伝送レートの合計B
availableを掛けたものである。なお、伝送で用いる可能性のあるすべての無線チャネルとは、アイドル状態であるとすれば、送信に用いる無線チャネルのことである。また、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルを用いた伝送の送信時間に使用する無線リソース量は、送信タイミングから伝送完了までの送信時間(T
frm(τ,i))に、その伝送で用いる無線チャネルに関する伝送レートの合計B
use(τ,i)を掛けたものである。B
use(τ,i)は、経過時間τ後にi番目のパターンにおいてアイドル状態である無線チャネルに関する伝送レートの合計である。したがって、アクセス制御部1080は、次式のように、所定経過時間τ後を送信タイミングとした場合における送信データの伝送完了までの未使用の無線リソース量の期待値R(τ)を算出する。
アクセス制御部1080は、上記のようにして、複数の離散的な経過時間τのそれぞれについて、伝送完了までの未使用の無線リソース量の期待値R(τ)を算出する。そして、その算出した期待値のうち、最も小さい期待値に対応する経過時間を送信タイミングとする。
図17は、未使用の無線リソースの例を示す図である。1個の無線チャネル(ここでは、920MHz帯とする)のみで送信を行う場合には、例えば、図17の一番上の例で示されるように、全帯域の伝送レートの合計に伝送完了までの時間を掛けたものから、自装置が920MHz帯において使用する無線リソース量を減算した結果が、未使用の無線リソース量となる。また、2個の無線チャネル(ここでは、920MHz帯と2.4GHz帯とする)で送信を行う場合には、例えば、図17の真ん中の例で示されるように、全帯域の伝送レートに伝送完了までの時間を掛けたものから、自装置が920MHz帯と2.4GHz帯において送信の開始から終了までに使用する無線リソース量を減算した結果が、未使用の無線リソース量となる。また、3個の無線チャネルで送信を行う場合には、例えば、図17の一番下の例で示されるように、全帯域の伝送レートに伝送完了までの時間を掛けたものから、自装置が920MHz帯と2.4GHz帯と5GHz帯において送信の開始から終了までに使用する無線リソース量を減算した結果、すなわち全帯域の伝送レートの合計に送信タイミングまでの時間(すなわち、待ち時間)を掛けた結果が、未使用の無線リソース量となる。
なお、上記説明では、3つの無線チャネルについて各期待値を求める場合について説明したが、無線チャネルの個数は、3つ以外であってもよい。また、上記説明では、各期待値を10μsごとに求める場合について説明したが、各期待値を求める時間間隔も、それに限定されるものではない。
上記c1)〜c3)についてシミュレーションによる評価を行った。そのシミュレーションでは、3帯域(各20MHz幅)を利用可能であり、各帯域・時刻におけるビジー状態の確率は図13で示され、その予測は完全であるとした。また、フレーム構成は、IEEE802.11nに基づいたものとして、単一の符号語を複数帯域に分配する構成とした。また、使用各帯域の平均受信電力が等しくなるように電力制御されているとし、全帯域で同一のMCSを使用した。また、各MCSにおいてフレーム誤りが10%以下となるSNR(signal to noise power ratio)にて評価した。また、帯域間のSNR差はないものとした。伝搬路はフレーム内で静的な20波指数減衰モデル(50ns間隔、2.17dB減衰)とし、伝搬路値は既知とした。また、ペイロードサイズは、1500バイトとした。また、このシミュレーションでは、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンにおける伝送レートを65Mbpsに設定した。
図18は、そのシミュレーション結果を示す図である。図18には、MCSごとのスループット特性(Throughput)と、MCSごとの無線リソース使用率(Occupation rate)と、MCSごとの送信待機時間(待ち時間、Wait time)とを示している。なお、MCSptrnj(j=1〜8)は、jの値が大きくなるほど、データレートが大きくなる変調方式、符号化率となる。
図18では、MCSが低く、フレームが長い場合には、上記c1)〜c3)の方法によって送信タイミングまでの最適な待ち時間を算出し、その待ち時間に応じて送信した方が高いスループットとなっているため、効率的に送信できることが分かる。すなわち、待機時間によるスループットの低下の程度を、送信により多くの無線チャネルを使用できることによるフレーム長の短縮の程度が上回っていることが分かる。また、MCSが高い場合には、伝送完了までのスループットの期待値を最大化する手法では、待ち時間のない送信手法と同じであるが、それ以外の手法では、待ち時間のない送信手法よりもスループットが高い。なお、MCSptrn8の場合において、スループットの期待値を最大化する手法では、待ち時間0が最適な待ち時間として選択されているため、結果として、待ち時間なしの場合と同じスループットになっていることが分かる。したがって、上記c1)〜c3)の方法によって送信タイミングまでの最適な待ち時間を算出し、その待ち時間に応じて送信することによって、最も効率よく送信できること、すなわち待ち時間のない送信手法よりも効率が低下しないことが分かる。
また、MCSが高いほど、フレームが短くなるため、無線リソース使用率がより低くなることになる。また、そのようにフレームが短くなると、より短い待ち時間(より早い送信タイミング)が選択されることになる。したがって、フレームアグリゲーションの適用によってフレームがより長くなる状況においては、上記c1)〜c3)の方法によって算出した送信タイミングまで待ってから送信した方が、より効率的な送信になることが期待できる。
なお、上記したように、図15の各パターンにおけるパターン番号i=7では、全帯域はビジー状態であるため送信を開始できず、送信時間や、未使用の無線リソース量を求めることができない。そのような場合には、上記のように、あらかじめ決められた伝送レートを用いることが考えられる。その場合に、例えば、全帯域がビジー状態である状況における伝送レートとして小さな値(すなわち、より長いフレーム送信時間)を用いると、全無線チャネルがビジー状態の確率が高いと、フレーム送信時間の期待値が大きな値になるため、そのような時間を避けるように送信タイミングが決定されることになる。一方、例えば、全帯域がビジー状態である状況における伝送レートとして大きな値(すなわち、より短いフレーム送信時間)を用いると、全無線チャネルがビジー状態の確率が高くても、フレーム送信時間の期待値が小さな値になるため、そのような時間を選択するように送信タイミングが決定されることになる。このように、全帯域がビジー状態である場合に代用される伝送レートとして、大きな値を設定するのか、小さな値を設定するのかに応じて、全無線チャネルがビジー状態で送信できない場合を避ける(すなわち、より確実に送信できるようにする)のか、送信できない状況があってもよいので、チャレンジングに無線チャネルを取りに行くのか、というコントロールを行うことができるようになる。したがって、アクセス制御部1080は、複数の周波数帯における複数の無線チャネルのすべてがビジー状態であるパターンについて、送信データの要求品質に応じた伝送レートを用いて、送信タイミングを決定してもよい。送信データの要求品質に応じた伝送レートは、例えば、送信データを送信するアプリケーションの要求品質に応じた伝送レートであってもよく、ユーザからの要求品質に応じた伝送レートであってもよい。その要求品質は、例えば、後に説明するデータ優先度であってもよい。送信データに高い送信確実性が要求される場合、すなわち送信権の維持を優先する場合や、より確実に送信データを送信することが要求されるアプリケーションに対しては、複数の無線チャネルのすべてがビジー状態であるパターンの伝送レートとして、より小さな値の伝送レートを用いるようにしてもよい。そのようなアプリケーションとしては、例えば、リアルタイムで映像や音声のストリーミングを行うアプリケーションを挙げることができる。一方、送信データの容量が大きい場合、すなわち大容量伝送を優先する場合や、より大きい容量の送信データを送信することが要求されるアプリケーションに対しては、複数の無線チャネルのすべてがビジー状態であるパターンの伝送レートとして、より大きな値の伝送レートを用いるようにしてもよい。そのようなアプリケーションとしては、例えば、バックグラウンドでファイルをアップロードしたりダウンロードしたりするアプリケーション、より具体的にはオンラインストレージとローカルの装置との間でデータを同期させるアプリケーションなどを挙げることができる。
具体的には、図19で示されるように、データ優先度(priority)が高い場合、すなわち全無線チャネルがビジー状態である状況を避けたい場合には、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンに対応する伝送レートとして、より小さい伝送レート(すなわち、より長いフレーム長)を用い、データ優先度が低い場合、すなわち全無線チャネルがビジー状態である状況があってもよい場合には、よりチャレンジングに無線チャネルを確保するようにする(大容量重視)ために、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンに対応する伝送レートとして、より大きい伝送レート(すなわち、より短いフレーム長)を用いるようにしてもよい。図19において、Iは、これから伝送したいデータ量である。アクセス制御部1080は、例えば、送信を行うアプリケーションやユーザからデータ優先度を受け取ってもよく、または、送信を行うアプリケーションに対応するデータ優先度を、アプリケーションの識別子やアプリケーションの種類とデータ優先度とを対応付ける情報を用いて特定してもよく、ユーザの要求に応じたデータ優先度を、ユーザの要求とデータ優先度とを対応付ける情報を用いて特定してもよい。そして、アクセス制御部1080は、そのデータ優先度に応じた伝送レートを、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンに対応する伝送レートとして用いてもよい。
図20、図21は、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンの伝送レートとして、図19の4つのデータ優先度に応じた伝送レートを用いた場合におけるシミュレーション結果を示す図である。そのシミュレーションでは、伝送完了までの時間の期待値を最小化するように送信タイミングを算出した。図20では、各データ優先度に関するSNRに応じたスループットを示している。図20で示されるように、SNRの高い範囲においては、データ優先度の低いPriority0のスループットが高くなっており、データ優先度の低い方が、より大容量の送信に適していることが分かる。一方、図21で示されるように、SNRの高い範囲においては、データ優先度の低いPriority0の送信機会喪失率が高くなっているのに対して、データ優先度の高いPriority3の送信機会喪失率が低くなっており、データ優先度の高い方が、より確実な送信に適していることが分かる。このようにして、すべての無線チャネルがビジー状態であるパターンについて、要求品質に応じた伝送レートを用いて送信タイミングを決定することにより、例えば、ユーザの満足度を向上させることができるようになる。
以上のような構成により、各送信データを複数周波数帯域にマッピングし、送信タイミングを調整してデータ伝送を行うことが可能である。
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。