以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し本発明は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
図1は、本実施形態の排気浄化装置が適用された内燃機関を示す。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒エンジンである。本実施形態において、車両はトラック等の大型車両であり、これに搭載される車両動力源としてのエンジン1は直列4気筒ディーゼルエンジンである。しかしながら、車両および内燃機関の種類、形式、用途等に特に限定はなく、例えば車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、エンジン1はガソリンエンジンであってもよい。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた燃料噴射弁すなわちインジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、シリンダ9内すなわち燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内インジェクタである。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒(SCR)24およびアンモニア酸化触媒26が設けられる。これらは排気後処理を実行する後処理部材をなす。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を排気通路4内に噴射する還元剤噴射弁としての尿素インジェクタ25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温する。フィルタ23は、所謂連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタであり、排気中に含まれる粒子状物質(PMとも称す)を捕集すると共に、その捕集したPMを貴金属と反応させて連続的に燃焼除去する。フィルタ23には、ハニカム構造の基材の両端開口を互い違いに市松状に閉塞した所謂ウォールフロータイプのものが用いられる。
NOx触媒24は、尿素インジェクタ25から噴射された尿素水を加水分解して得られるアンモニアを、排気中のNOxと反応させて、NOxを還元浄化する。NOx触媒24は、ゼオライト又はアルミナなどの基材表面にPtなどの貴金属を担持したものや、その基材表面にCu等の遷移金属をイオン交換して担持させたもの、その基材表面にチタニヤ/バナジウム触媒(V2O5/WO3/TiO2)を担持させたもの等が例示できる。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。
エンジン1はEGR装置30をも備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。EGR装置30は外部EGRを実行するためのものである。
また、本実施形態は、それぞれ排気通路4に設けられた電子制御式の排気スロットルバルブ37と、排気インジェクタ38とを備える。本実施形態において、これらはタービン14Tと酸化触媒22の間の排気通路4に設けられ、排気スロットルバルブ37より下流側に排気インジェクタ38が配置される。但しこれらの設置位置は変更可能である。排気スロットルバルブ37は排気流量を調節するためのバルブである。排気インジェクタ38は、主にフィルタ23の再生時に排気通路4内に燃料を噴射するためのインジェクタである。
このエンジン1を制御するための制御装置が車両に搭載されている。制御装置は、制御ユニットもしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECUと称す)100を有する。ECU100はCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、尿素インジェクタ25、EGR弁33、排気スロットルバルブ37および排気インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。なお特に断らない限り、吸気スロットルバルブ16および排気スロットルバルブ37は全開に制御されているものとする。
制御装置は、以下のセンサ類も有する。このセンサ類に関して、上述のエアフローメータ13の他、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23およびNOx触媒24の上流側入口部には排気温度を検出するための排気温センサ42,43,44が設けられている。また、NOx触媒24の下流側出口部には排気温度を検出するための排気温センサ46が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部の排気圧の差圧を検出するための差圧センサ45が設けられている。
また、NOx触媒24の上流側入口部と下流側出口部には、それぞれ、排気中のNOxを検出するための上流側NOxセンサ47および下流側NOxセンサ48が設けられている。これらNOxセンサ47,48は、排気ガスのNOx濃度に相関した出力を発する。但しNOxセンサ47,48はアンモニアも検出可能である。上流側NOxセンサ47は尿素インジェクタ25よりも上流側に設けられている。以上のセンサ類の出力信号はECU100に送られる。
次に、ECU100により実行される制御の内容について説明する。
まず、尿素インジェクタ25から噴射される尿素水噴射量の制御の概要を説明する。尿素水噴射量Mは、概して後述する第1噴射量MAと第2噴射量MBと第3噴射量MCの和として表され、式:M=MA+MB+MCで表される。そしてECU100は、尿素水噴射量Mを算出すると共に、算出された尿素水噴射量Mに等しい量の尿素水を尿素インジェクタ25から噴射させる。
第一に、NOx触媒24に流入するNOx量(流入NOx量)に見合った第1噴射量MAが算出される。流入NOx量は、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積で表される。排気ガス流量は、エアフローメータ13により検出された吸入空気量の値に基づいて算出される。例えば排気ガス流量は吸入空気量の値に等しい値として算出される。流入NOx量と第1噴射量MAとの間の予め定められた関係、具体的にはマップ(関数でもよい。以下同様)が、ECU100に記憶され、ECU100はこのマップを参照して流入NOx量に対応した第1噴射量MAを算出する。ここでは、流入NOxを還元浄化するのに必要な最小限の噴射量、言い換えれば流入NOx量に対し当量比が1となるような噴射量が第1噴射量MAとして算出される。
なお、上流側NOxセンサ47は排気通路4のより上流側の位置に設けられてもよい。また流入NOx量は、エンジン運転状態(例えばエンジン回転数と筒内インジェクタ7の燃料噴射量)に基づいてECU100により推定してもよい。また排気ガス流量は、排気通路4に設けられた流量センサにより直接検出してもよい。
第二に、NOx触媒24のアンモニア吸着量を目標吸着量に近づけるための第2噴射量MBが算出される。すなわち、NOx触媒24はアンモニア吸着能を有し、多くのアンモニアを吸着する程、高いNOx浄化性能を発揮する。このため、NOx触媒24のアンモニア吸着量が推定されると共に、この推定吸着量と目標吸着量の差分に基づき、還元剤噴射量が制御される。アンモニア吸着量を推定する理由は、それを実測するのが困難だからである。
図2には、NOx触媒24のアンモニア吸着特性を示す。線aは、実験等を通じて把握されるアンモニア吸着量の上限値もしくは吸着限界を示し、この上限値は、NOx触媒24の触媒温度が高くなる程、低くなる傾向がある。なお、実際のアンモニア吸着量が上限値のときにアンモニアが供給されると、そのアンモニアはNOx触媒24に吸着できないので、NOx触媒24の下流側に流出し、アンモニアスリップを生じさせる。
線aより所定のマージンだけ低吸着量側の目標値が線bの如く定められ、この線bがマップの形でECU100に記憶されている。
ECU100は、排気温センサ44,46の少なくとも一方の検出値に基づきNOx触媒24の触媒温度を推定する。例えば、いずれか一方の検出値を触媒温度とみなしてもよいし、両方の検出値の平均値を触媒温度とみなしてもよい。そして推定した触媒温度(図2のTc1)に対応したアンモニア吸着量の目標値Wt(図2のc点の値)をマップから算出する。なお触媒温度は直接検出してもよい。推定および検出を総称して取得という。
この目標吸着量Wtと推定吸着量Weの差分ΔWが式:ΔW=Wt−Weにより求められ、この差分ΔWに応じた第2噴射量MBが算出される。差分ΔWが大きい程、大きな第2噴射量MBが算出される。
例えば図2のd点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも少ない場合、差分ΔWが正であるため、噴射量増大側の正の第2噴射量MBが算出され、この第2噴射量MBが噴射されることにより、推定吸着量Weが増大し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。他方、例えば図2のe点のように、推定吸着量Weが目標吸着量Wtよりも多い場合、差分ΔWが負であるため、ゼロまたは負の第2噴射量MBが算出される。これにより、NOx触媒24に吸着したアンモニアがNOxの還元に消費され、推定吸着量Weが減少し、目標吸着量Wtに徐々に近づいていく。
アンモニア吸着量の推定方法について、本実施形態では、NOx触媒24におけるアンモニアとNOxの反応を表す化学反応式に基づいて数学モデルを構築し、当該モデルに基づいてアンモニア吸着量をECU100により精度良く推定するようになっている。この際、ECU100は、尿素水噴射量M、NOx触媒24の触媒温度、排気ガス流量、上下流側NOxセンサ47,48の検出値、エンジン運転状態を表すエンジンパラメータ(エンジン回転数、燃料噴射量等)等のパラメータに基づいて、アンモニア吸着量を推定する。
第三に、NOx触媒24から流出したNOx量(流出NOx量)に見合った第3噴射量MCが算出される。具体的には、下流側NOxセンサ48の出力(センサ出力)Vが所定の上限値Vup以下のときには、流出NOx量が許容範囲内であるとして、ゼロの第3噴射量MCが算出される。他方、センサ出力Vが上限値Vupを超えたときには、流出NOx量が許容範囲外であるため、尿素水噴射量を増やして流出NOx量を抑制すべく、正の第3噴射量MCが算出される。
このとき、センサ出力Vと上限値Vupの差分ΔV(=V−Vup)が算出され、この差分ΔVに応じた第3噴射量MCが算出される。こうして尿素水噴射量Mは、センサ出力Vに基づきフィードバック制御あるいはフィードバック補正されることとなる。
ここで本実施形態では、第3噴射量MCは補正係数K(≧1)によって表される。つまり前式M=MA+MB+MCは本実施形態の場合、M=K×MA+MB(=MA+MB+(K−1)×MA)で表され、MC=(K−1)×MAとされる。図3に示すようなマップがECU100に記憶され、差分ΔVがゼロから大きくなる程、1より大きな補正係数Kが算出される。また差分ΔVがリミット値ΔV1(>0)以上になったとき、補正係数Kはその上昇が抑制されてリミット値K1(>1)に制限される。差分ΔVがゼロ以下のとき補正係数Kは1である。
センサ出力Vが上限値Vupを超えたとき、差分ΔVに応じた補正係数K(>1)が算出され、ベース噴射量である第1噴射量MAが補正係数Kによって増量補正され、その結果、尿素水噴射量Mが増量補正される。
なお、ここでは単純なフィードバック制御の例を示したが、フィードバック制御は周知のPID制御等の手法を用いたより複雑なものであってもよい。また差分ΔVに応じて第1噴射量MAと無関係な加算項である第3噴射量MCを算出し、式M=MA+MB+MCにより尿素水噴射量Mを算出してもよい。
また尿素水噴射量Mは、他の補正量(例えば尿素水温度補正量、尿素濃度補正量等)によって補正されるため、第1〜第3噴射量MA〜MCの和に近似するものの必ずしも一致しない。
ところで、下流側NOxセンサ48は、NOxだけでなく、アンモニアも検出可能であり、両者を区別して検出できない。このため、尿素水噴射量に対するNOx触媒下流側の流出NOx量と、下流側NOxセンサ48のセンサ出力と、NOx触媒下流側に流出したアンモニア量(流出アンモニア量)との関係は、図4に示すようになる。
図の左端付近のように、尿素水噴射量が比較的少なく流入NOx量に対して不足する場合、NOx触媒24が流入NOxを全て還元できないため、NOx触媒下流側にNOxが流出するNOxスリップが起こる。そして流出NOx量は多くなり、NOxセンサ出力も大きくなる。そして尿素水噴射量が増加するにつれ、尿素水噴射量が流入NOx量に対して徐々に見合うようになって行くため、流出NOx量が徐々に減少し、NOxセンサ出力も徐々に減少する。
しかし、更に尿素水噴射量を増加すると、尿素水噴射量が流入NOx量に対して過剰となり、NOx触媒24から余剰のアンモニアが流出するアンモニアスリップが起こる。尿素水噴射量を増加するにつれ、流出アンモニア量も増加する。NOxセンサ48はこのアンモニアを検出するため、尿素水噴射量を増加するにつれ、NOxセンサ出力は徐々に増加していくこととなる。
NOxスリップとアンモニアスリップがバランスするバランス点、すなわち、流出NOx量と流出アンモニア量の両者をできるだけ最小化できる尿素水噴射量の値を図中Mhで示す。Mhより小噴射量側をNOxスリップ領域、Mhより大噴射量側をアンモニアスリップ領域とする。
NOxセンサ出力は、バランス点で極小値となる曲線を描く。よって、NOxセンサ出力のみによっては、NOxセンサ出力がNOxスリップ領域にあるのか(NOxスリップが起こっているのか)、アンモニアスリップ領域にあるのか(アンモニアスリップが起こっているのか)を判別することができない。このため従来は、尿素水噴射量を強制的に増加または減少し、それに応じてNOxセンサ出力が大小どちら側に変化するかを検出し、その結果に基づいて、NOxセンサ出力がいずれの領域にあるかを判別している。
例えば、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が減少した場合はNOxスリップ領域にある(NOxスリップが起こっている)と判定し、尿素水噴射量を増量したときにNOxセンサ出力が増加した場合はアンモニアスリップ領域にある(アンモニアスリップが起こっている)と判定する。
さて、前述したように、ECU100により算出された推定吸着量Weの値が、様々な原因により、真値から比較的大きく乖離することがある。すなわちアンモニア吸着量推定誤差の拡大が生じることがある。その原因としては例えば、尿素インジェクタ25の一時的固着、NOx浄化率が不安定な低排気温域でのエンジンの長時間運転等がある。こうした推定誤差拡大をそのまま放置しておくと、好適な還元剤噴射量制御が実行されなくなり、NOxスリップが起こったり、アンモニアスリップが起こったりして、排ガス性能が悪化する。
そこで本実施形態では、アンモニア吸着量推定誤差の拡大を早期に検出するため、以下に述べるような自己診断(OBD:On-Board Diagnostics)をECU100により実施する。
[第1の判定方法]
本実施形態では、推定吸着量Weが正常か否かを判定するため、異なる二つの判定方法を並行して実施する。ここではまず、本発明とは直接関係がない第1の判定方法を説明し、その後、本発明の実施形態に係る第2の判定方法を説明する。
第1の判定方法に関し、ECU100は、推定吸着量Weと比較する判定閾値Thを以下の手順により算出する。そして推定吸着量Weを、算出した判定閾値Thと比較し、その比較結果に応じて推定吸着量Weが正常か異常かを判定する。
判定閾値Thの算出に際してはまず、尿素水噴射量Mに相当する第1アンモニア量Uが算出される。第1アンモニア量Uは、尿素水噴射量Mから得られるアンモニア量であり、両者の関係を予め記憶したマップから尿素水噴射量Mに基づいて算出される。
次に、第1噴射量MAに相当する第2アンモニア量UAが算出される。第2アンモニア量UAも、第1噴射量MAから得られるアンモニア量であり、両者の関係を予め記憶したマップから第1噴射量MAに基づいて算出される。
第1アンモニア量Uと第2アンモニア量UAの差ΔU(=U−UA)が算出され、この差ΔUが積算されて、積算値S=ΣΔUが算出される。この積算値Sに基づいて判定閾値Thが算出される。
図5に示すように、判定閾値Thには、尿素水噴射実行時の判定閾値ThHと、尿素水噴射非実行時(停止時)の判定閾値ThLとの二種類がある。ECU100は、尿素水噴射の実行時と非実行時とで判定閾値Thを変更し、尿素水噴射実行時には判定閾値ThHを、尿素水噴射非実行時には判定閾値ThLを用いる。
特にECU100は、尿素水噴射実行時には、判定閾値ThHを推定吸着量の上限値として用い、尿素水噴射非実行時には判定閾値ThLを推定吸着量の下限値として用いる。以下、判定閾値ThHを上限判定閾値ともいい、判定閾値ThLを下限判定閾値ともいう。
ECU100は、尿素水噴射実行時には、積算値Sより所定の第1余裕値だけ大きい値を上限判定閾値ThHとし、還元剤噴射の非実行時には、積算値Sより所定の第2余裕値だけ小さい値を下限判定閾値ThLとする。第1余裕値は、ゼロ以上のα1で表され、上限判定閾値ThHは式:ThH=S+α1から算出される。第2余裕値は、ゼロ以下のα2の絶対値で表され、下限判定閾値ThLは式:ThL=S+α2から算出される。
尿素水噴射実行時には、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHと比較される。推定吸着量Weが上限判定閾値ThH以下のときには推定吸着量Weが正常と判定され、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHより大きいときには推定吸着量Weが異常と判定される。
他方、尿素水噴射非実行時には、推定吸着量Weが下限判定閾値ThLと比較される。推定吸着量Weが下限判定閾値ThL以上のときには推定吸着量Weが正常と判定され、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHより小さいときには推定吸着量Weが異常と判定される。
上述の差ΔUは、NOx触媒24に供給された全アンモニア量から、流入NOxの還元に使用されたアンモニア量を差し引いた値である。これは、尿素水噴射実行時には、NOx触媒24に吸着可能な単位時間当たりのアンモニア量の最大値を意味すると考えられる。一方、尿素水噴射実行時には、推定吸着量Weおよび積算値Sが上昇傾向にある。よって積算値Sに基づいて算出された上限判定閾値ThHは、概ね、推定吸着量の上限値を定める値として好適と考えられる。そこで本実施形態では、積算値Sに基づいて上限判定閾値ThHを算出すると共に、推定吸着量Weを上限判定閾値ThHと比較し、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHより大きいときには推定吸着量Weを異常と判定する。これにより、アンモニア吸着量推定誤差の拡大を早期に検出することができる。
他方、尿素水噴射非実行時には、NOx触媒24に供給される全アンモニア量がゼロであることから、差ΔUは、NOx触媒24から脱離可能な単位時間当たりのアンモニア量の最大値を意味すると考えられる。尿素水噴射非実行時には、推定吸着量Weおよび積算値Sが低下傾向にある。よって積算値Sに基づいて算出された下限判定閾値ThLは、概ね、推定吸着量の下限値を定める値として好適と考えられる。そこで本実施形態では、積算値Sに基づいて下限判定閾値ThLを算出すると共に、推定吸着量Weを下限判定閾値ThLと比較し、推定吸着量Weが下限判定閾値ThLより小さいときには推定吸着量Weを異常と判定する。これによっても、アンモニア吸着量推定誤差の拡大を早期に検出することができる。
第1余裕値α1および第2余裕値α2は、診断の安定性を高めるため、絶対的な基準である積算値Sに対し若干異常側に判定閾値Thをずらすために定められた値である。第1余裕値α1および第2余裕値α2は、それぞれ一定値であってもよいが、ここでは診断精度を高めるため、各状態量に応じて可変設定される。
図6において、実線は尿素水噴射実行時の積算値Sの変化を示し、破線は尿素水噴射非実行時の積算値Sの変化を示す。横軸は時間tであり、t=nは今回(現在)の演算時期、t=n−1は前回(所定時間前)の演算時期を示す。τは演算時期の間隔すなわち演算周期(例えば10msec)を示す。例えば尿素水噴射実行時、ECU100は次のように第1余裕値α1を設定する。
図6に実線で示すように、まず、今回の積算値Snと前回の積算値Sn-1の差である積算値差分ΔSn=Sn−Sn-1が算出される。積算値差分ΔSnは、現在の積算値Sの単位時間当たりの上昇率または上昇速度と言い換えることもできる。次に、積算値差分ΔSnを補正するための補正係数F1が、排気温度、排気ガス流量等のパラメータに基づいて算出される。排気温度には排気温センサ44の検出値が用いられ、排気ガス流量には吸入空気量の値に基づいて算出された値が用いられる。この補正係数F1の算出にはECU100に記憶されたマップが用いられる。最後に、積算値差分ΔSnに補正係数F1を乗じて第1余裕値α1が算出される。第1余裕値α1は、積算値Sが上昇している場合は正の値とされ、それ以外の場合は0以上の値とされる。
なお、補正係数F1を乗じる代わりに、補正量を加算して積算値差分ΔSnを補正してもよい。また積算値差分ΔSnは、演算周期τより長い時間間隔での積算値Sの差であってもよい。
次に、尿素水噴射非実行時における第2余裕値α2の設定方法を説明する。この設定方法は、第1余裕値α1の設定方法と大略同様である。
図6に破線で示すように、まず、今回の積算値Snと前回の積算値Sn-1の差である積算値差分ΔSn=Sn−Sn-1が算出される。積算値Sが下降している場合には負の積算値差分ΔSnが算出される。次に、積算値差分ΔSnを補正するための補正係数F2が前記同様に算出される。積算値差分ΔSnに補正係数F2を乗じて第2余裕値α2が算出される。第2余裕値α2は、積算値Sが下降している場合は負の値とされ、それ以外の場合は0以下の値とされる。
なお、補正係数F2を乗じる代わりに、補正量を加算して積算値差分ΔSnを補正してもよい。
次に、図7を参照して、第1の判定方法の判定ルーチンを説明する。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。
ステップS101では、尿素水噴射量Mに基づき、これに相当する第1アンモニア量Uが算出される。ステップS102では、第1噴射量MAに基づき、これに相当する第2アンモニア量UAが算出される。
ステップS103では、1アンモニア量Uと第2アンモニア量UAの差ΔU(=U−UA)が算出され、ステップS104では、この差ΔUが積算されて、積算値S=ΣΔUが算出される。
ステップS105では、尿素水噴射実行時であるか否かが判断される。実行時である場合はステップS106に進み、実行時でない場合すなわち非実行時である場合はステップS110に進む。
実行時である場合、ステップS106において、尿素水噴射実行時の判定閾値である上限判定閾値ThHが式:ThH=S+α1から算出される。
そしてステップS107において、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHより大きいか否かが判断される。
推定吸着量Weが上限判定閾値ThH以下の場合(We≦ThH)、ステップS108に進んで、推定吸着量Weは正常と判定され、ルーチンが終了される。
他方、推定吸着量Weが上限判定閾値ThHより大きい場合(We>ThH)、ステップS109に進んで、推定吸着量Weは異常と判定され、ルーチンが終了される。なお異常と判定した場合、例えば、推定吸着量Weを正常値に戻すのに必要な措置を施したり、あるいは、図示しない警告装置(チェックランプ等)を起動させ、ユーザーに点検整備を促したりするのが好ましい。これにより、排ガス性能の悪化を抑制することができる。
他方、尿素水噴射非実行時である場合、ステップS110において、尿素水噴射非実行時の判定閾値である下限判定閾値ThLが式:ThL=S+α2から算出される。
そしてステップS111において、推定吸着量Weが下限判定閾値ThLより小さいか否かが判断される。
推定吸着量Weが下限判定閾値ThL以上の場合(We≧ThL)、ステップS112に進んで、推定吸着量Weは正常と判定され、ルーチンが終了される。
他方、推定吸着量Weが下限判定閾値ThLより小さい場合(We<ThL)、ステップS113に進んで、推定吸着量Weは異常と判定され、ルーチンが終了される。
以上述べたように、第1の判定方法では、尿素水噴射量Mに相当する第1アンモニア量Uと、NOx触媒24に流入するNOxの還元に必要な第1噴射量MAに相当する第2アンモニア量UAとの差ΔUの積算値Sに基づいて判定閾値ThH,ThLを算出し、推定吸着量Weを判定閾値ThH,ThLと比較して推定吸着量Weが正常か否かを判定する。このため、アンモニア吸着量推定誤差の拡大を早期に検出することができる。
また第1の判定方法では、尿素水噴射の実行時と非実行時とで判定閾値を変更するので、判定閾値を適切に設定でき、診断精度を高めることができる。
また第1の判定方法では、尿素水噴射の実行時には算出した上限判定閾値ThHを推定吸着量の上限値として用い、尿素水噴射の非実行時には算出した下限判定閾値ThLを推定吸着量の下限値として用いる。このため、推定吸着量の上昇傾向および下降傾向に合わせて適切に上限値および下限値を定めることができ、これによっても判定閾値を適切に設定し、診断精度を高められる。
また第1の判定方法では、尿素水噴射の実行時には積算値Sより所定の第1余裕値α1だけ大きい値を上限判定閾値ThHとし、尿素水噴射の非実行時には積算値Sより所定の第2余裕値|α2|だけ小さい値を下限判定閾値ThLとする。このため、診断の安定性を高めることができ、誤診断を抑制することができる。
なお、従来方法に倣い、NOxセンサ出力が増大したとき尿素水噴射量を強制的に増加または減少し、それに応じたNOxセンサ出力の変化の仕方に応じてNOxスリップおよびアンモニアスリップのいずれが起こっているのかを判定することが可能である。そして、起こっている一方のスリップがアンモニア吸着量推定誤差の拡大に起因するものとして、推定吸着量の異常を判定することが考えられる。しかし、この方法だと、NOxスリップおよびアンモニアスリップのいずれが起こっているのかを判定するまでに比較的長時間を要するため、推定吸着量の異常を早期に検出することができない。これに対し、第1の判定方法の場合だと、判定閾値Thの算出と、推定吸着量Weおよび判定閾値Thの比較とを常時行っているため、推定吸着量の異常を早期に検出することが可能である。
[第2の判定方法]
次に、本発明の実施形態に係る第2の判定方法を説明する。
この第2の判定方法では、前述の推定吸着量Weが第1推定吸着量として使用され、前述の積算値Sが第2推定吸着量として使用される。積算値Sは、簡易的に計算されたNOx触媒24のアンモニア吸着量とみなせるため、第2推定吸着量として使用することが可能である。推定吸着量Weおよび積算値Sは、互いに異なる(別種の)アンモニア吸着量の推定値である。
推定吸着量Weに基づき、NOx触媒24の第1のNOx浄化率である第1浄化率R1が算出される。第1浄化率R1は、推定吸着量We、排気温センサ44により検出された排気温度、および排気ガス流量に基づき、所定のマップから算出される。
また積算値Sに基づき、NOx触媒24の第2のNOx浄化率である第2浄化率R2が算出される。第2浄化率R2は、積算値S、排気温センサ44により検出された排気温度、および排気ガス流量に基づき、所定のマップから算出される。
他方、これらとは別に、NOx触媒24の実際のNOx浄化率である実浄化率Rtが検出される。この際、NOx触媒24に流入するNOx量(流入NOx量Nin)が、上流側NOxセンサ47により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積として計算される。また、NOx触媒24から流出するNOx量(流出NOx量Nout)が、下流側NOxセンサ48により検出されたNOx濃度と排気ガス流量の積として計算される。そして式:Rt=1−Nout/Ninにより実浄化率Rtが計算される。
次に、図8に示すように、実浄化率Rtに基づいて浄化率Rの正常範囲が算出される。正常範囲は、Rt−β2≦R≦Rt+β1を満たすような浄化率Rの範囲である(但しβ1,β2>0)。β1は正常範囲の上限を規定する上限規定値、β2は正常範囲の下限を規定する下限規定値である。β1,β2は、所定の一定値であってもよいし、前述の余裕値α1,α2と同様に可変設定されてもよい。
第1浄化率R1および第2浄化率R2と正常範囲とを比較して、推定吸着量Weおよび積算値Sが正常か否かが判定される。
例えば、第1浄化率R1および第2浄化率R2の両方が正常範囲内にあれば、推定吸着量Weおよび積算値Sの両方が正常と判定される。また第1浄化率R1が正常範囲外にあり、第2浄化率R2のみが正常範囲内のときは、推定吸着量Weが異常、積算値Sが正常と判定される。逆に、第1浄化率R1のみが正常範囲内にあり、第2浄化率R2が正常範囲外のときは、推定吸着量Weが正常、積算値Sが異常と判定される。
第1浄化率R1または第2浄化率R2が正常範囲より大きい値であるとき、第1浄化率R1または第2浄化率R2は過大異常範囲内にあるとされる。また第1浄化率R1または第2浄化率R2が正常範囲より小さい値であるとき、第1浄化率R1または第2浄化率R2は過小異常範囲内にあるとされる。
ところで本実施形態では、第1浄化率R1および第2浄化率R2の一方が正常範囲外のとき、直ちに異常と判定するのではなく、その判定前に、その一方の浄化率に対応する一方の推定吸着量(推定吸着量Weおよび積算値Sの一方)の値を、他方の推定吸着量(推定吸着量Weおよび積算値Sの他方)の値を利用して修復するための修復操作を行う。そしてこの修復操作を行ってもなお一方の浄化率が正常範囲内に入らないときに、一方の推定吸着量を異常と判定する。
判定前に修復操作を行うので、この修復操作により一方の推定吸着量を正常値に復帰できる可能性がある。正常値に復帰できれば、異常判定を行って点検整備等を行う手間を省けるので、こうした修復操作は非常に有益である。
修復操作は、基本的に、正常範囲外の一方の浄化率に対応した、異常の可能性が高い一方の推定吸着量(推定吸着量Weおよび積算値Sの一方)を、正常範囲内の他方の浄化率に対応した、正常と思われる他方の推定吸着量(推定吸着量Weおよび積算値Sの他方)で置換することにより行う。そして置換後、一方の推定吸着量の計算を実行ないし続行する。なお正常と思われる他方の推定吸着量の方については何等の変更無く計算が続行される。
この修復操作が上手くいけば、一方の推定吸着量の値がやがて正常値に復帰し、これに対応する一方の浄化率の値も正常範囲内に入る。こうして正常な状態に復帰でき、異常判定を行うことなく、異常状態を脱することができる。
図9を参照して、第2の判定方法の判定ルーチンを説明する。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。
ステップS201では、推定吸着量Weに基づき、第1浄化率R1が算出される。
ステップS202では、前述のステップS101〜S104の方法に従って積算値Sが算出される。なおステップS104で算出された積算値SをステップS202で流用してもよい。そしてステップS203で、積算値Sに基づき、第2浄化率R2が算出される。
ステップS204では、NOxセンサ47,48の検出値等に基づき、実浄化率Rtが算出される。
ステップS205では、実浄化率Rtに基づき、浄化率Rの正常範囲が算出される。すなわちRt−β2≦R≦Rt+β1を満たすような浄化率Rの正常範囲が算出される。
ステップS206では、第1浄化率R1および第2浄化率R2の両方が正常範囲内にあるか否かが判断される。両方が正常範囲内にあると判断された場合、ステップS207に進んで、推定吸着量Weおよび積算値Sの両方が正常と判定され、ルーチンが終了される。
また、ステップS206で両方が正常範囲内にあると判断されない場合、便宜上、第1浄化率R1および第2浄化率R2の一方が正常範囲内にあり、他方が正常範囲外にあると判断されるものとする。この場合、ステップS208に進み、第1浄化率R1が正常範囲外にあるか否か、すなわち、第2浄化率R2が正常範囲内にあり、第1浄化率R1が正常範囲外にあるか否かが判断される。イエスの場合、ステップS209に進み、ノーの場合、ステップS212に進む。ここでの正常範囲外とは、過大異常範囲内にある場合と過小異常範囲内にある場合との両方を含む。
なお、ステップS208での判断は、第2浄化率R2が正常範囲内かつ第1浄化率R1が正常範囲外にある状態が所定時間継続したときにイエス、それ以外のときにノーとするのが好ましい。こうすることにより、当該状態がある程度継続した場合のみイエスとすることができ、判定の信頼性を高められる。
ステップS209では、推定吸着量Weの値を積算値Sの値に置換し、その後通常通り、推定吸着量Weの計算を進める。
次にステップS210において、第1浄化率R1が正常範囲外にあるか否か、すなわち、第2浄化率R2が正常範囲内にあり、第1浄化率R1が正常範囲外にあるか否かが判断される。
ここでの判断は、値の置換後に所定時間が経過してもなお第2浄化率R2が正常範囲内にあり、かつ第1浄化率R1が正常範囲外にあるとき(つまり状態が変わらないとき)にイエス、それ以外のときにノーとするのが好ましい。値を置換して修復操作が上手くいったとしても、推定吸着量Weの値が正常値に復帰し、その結果が反映されて第1浄化率R1が正常範囲内に復帰するまでには一定時間を要する。こうした時間を待つために、所定時間経過後に判断を行うのが好ましく、こうすることにより判定の信頼性を高められる。
ステップS210の判断がイエスの場合、ステップS211に進んで、推定吸着量Weが異常と判定される。なお異常と判定した場合、第1の判定方法のときと同様、図示しない警告装置(チェックランプ等)を起動させ、ユーザーに点検整備を促すのが好ましい。これにより排ガス性能の悪化を抑制することができる。
他方、ステップS210の判断がノーの場合には、ステップS211に進まずそのままルーチンが終了される。すなわちこの場合は、修復操作が上手くいって第1浄化率R1が正常範囲内に復帰したことを意味するので、今回のルーチンは判定を保留し終了する。次回以降のルーチンでステップS206がイエスになり、正常判定されるであろう。
一方、ステップS212に進んだ場合は、実質的に、第1浄化率R1が正常範囲内にあり、第2浄化率R2が正常範囲外にあると判断されたことになる。この場合、ステップS212において、第2浄化率R2が過大異常範囲内にあるか否かが判断される。
イエスの場合、ステップS213において、積算値Sの値を、推定吸着量Weの値を補正した値We+γ1に置換し、その後通常通り、積算値Sの計算を進める。
ここで、推定吸着量Weの値に置換せず、これを補正した値We+γ1に置換する理由は、第1の判定方法において、積算値Sの値が、推定吸着量Weの上限値または下限値を規定する値だからである。推定吸着量Weの値に置換してしまうと、置換後、積算値Sの値が推定吸着量Weの値に一致もしくは非常に接近し、置換直後に推定吸着量Weを異常と判定する事態が生じ得る。よってこうした事態を回避し、置換後の積算値Sの値を推定吸着量Weの値からある程度離す(オフセットする)ため、推定吸着量Weの値を補正した値We+γ1に置換している。γ1は第1オフセット量と称し、正の値を有する。第1オフセット量γ1は、尿素水噴射量M、実浄化率Rtおよび排気温度(排気温センサ44の検出値)等に基づいて、例えば所定のマップから算出される。なお、上記の問題がない場合は推定吸着量Weの値に置換してもよい。
次にステップS214において、第2浄化率R2が過大異常範囲内にあるか否か、すなわち、第1浄化率R1が正常範囲内にあり、第2浄化率R2が過大異常範囲内にあるか否かが判断される。
ここでの判断も、ステップS210と同様、値の置換後に所定時間が経過してもなお第1浄化率R1が正常範囲内にあり、かつ第2浄化率R2が過大異常範囲内にあるとき(つまり状態が変わらないとき)にイエス、それ以外のときにノーとするのが好ましい。
ステップS214の判断がイエスの場合、ステップS215に進んで、積算値Sが異常と判定される。なおこの場合、ステップS211と同様、警告装置を起動させるのが好ましい。
他方、ステップS214の判断がノーの場合には、ステップS215に進まずそのままルーチンが終了される。すなわちこの場合は、修復操作が上手くいって第2浄化率R2が正常範囲内に復帰したことを意味するので、今回のルーチンは判定を保留し終了する。次回以降のルーチンでステップS206がイエスになり、正常判定されるであろう。
一方、ステップS212の判断がノーの場合、これは、第2浄化率R2が過小異常範囲内にあること、すなわち、第1浄化率R1が正常範囲内にあり、第2浄化率R2が過小異常範囲内にあることを意味する。
この場合には、ステップS216において、積算値Sの値を、推定吸着量Weの値を補正した値We+γ2に置換し、その後通常通り、積算値Sの計算を進める。
推定吸着量Weの値を補正した値We+γ2に置換する理由はステップS213のときと同様である。γ2は第2オフセット量と称し、負の値を有する。第2オフセット量γ2も、尿素水噴射量M、実浄化率Rtおよび排気温度(排気温センサ44の検出値)等に基づいて、例えば所定のマップから算出される。なお、上述の問題がない場合は推定吸着量Weの値に置換してもよい。
次にステップS217において、第2浄化率R2が過小異常範囲内にあるか否か、すなわち、第1浄化率R1が正常範囲内にあり、第2浄化率R2が過小異常範囲内にあるか否かが判断される。
ここでの判断も、ステップS216での値の置換後に所定時間が経過してもなお第1浄化率R1が正常範囲内にあり、かつ第2浄化率R2が過小異常範囲内にあるとき(つまり状態が変わらないとき)にイエス、それ以外のときにノーとするのが好ましい。
ステップS217の判断がイエスの場合、ステップS215に進んで、積算値Sが異常と判定される。
他方、ステップS217の判断がノーの場合には、ステップS215に進まずそのままルーチンが終了される。すなわちこの場合は、修復操作が上手くいって第2浄化率R2が正常範囲内に復帰したことを意味するので、今回のルーチンは判定を保留し終了する。次回以降のルーチンでステップS206がイエスになり、正常判定されるであろう。
ここで、積算値Sは、尿素水噴射量制御に直接用いられる値ではなく、あくまで推定吸着量Weの値が概ね正しいか否かを判断するための指標値である。それ故、第2推定吸着量たる積算値Sの値が真値から大きく乖離しても、排気エミッションへの直接的な影響は特段生じない。
しかしながら、積算値Sの値が大きく乖離すると、推定吸着量Weの正異常判定を正確に行えなくなり、誤判定もしくは誤診断を招く虞がある。例えば、本来正常な推定吸着量Weを異常と誤判定してしまうと、無駄な点検整備等を行わなければならず、ユーザーの負担が増加する。また本来異常な推定吸着量Weを正常と誤判定してしまうと、推定吸着量Weの誤差拡大に起因したNOxスリップやアンモニアスリップが起こり、排ガス性能が悪化する。
本実施形態では、第2浄化率R2が正常範囲外のときに積算値Sに異常の可能性があるとして積算値Sの修復操作を行い、修復できない場合には異常判定を行う。修復操作により積算値Sの値を正常値に復帰させることができ、上記誤判定とこれに起因する諸問題を解決可能である。また異常判定により積算値Sの異常を正確に検出でき、上記誤判定とこれに起因する諸問題を解決可能である。
以上述べたように本実施形態では、第1浄化率R1および第2浄化率R2と正常範囲とを比較して、推定吸着量Weおよび積算値Sが正常か否かを判定する。よって、尿素水噴射量の制御に使用されるメインの第1推定吸着量である推定吸着量Weが正常か否かを好適に判定することができ、推定吸着量Weの推定誤差の拡大を早期に検出することができる。また、補助的な第2推定吸着量である積算値Sが正常か否かも判定することができ、積算値Sの推定誤差の拡大も早期に検出することができる。また、積算値Sを用いた推定吸着量Weの正異常判定に関する誤判定を未然に防止できる。
また本実施形態では、第1浄化率R1および第2浄化率R2の一方が正常範囲外のとき、判定前に、その一方の浄化率に対応する推定吸着量Weおよび積算値Sの一方の値を修復するための修復操作を行う。このため、修復操作により推定吸着量Weおよび積算値Sの一方の値を正常値に復帰させることができ、無駄な異常判定を未然に防止し、異常判定を行うことを最小限に止めることができる。
また本実施形態では、修復操作の際、一方の浄化率に対応する一方の推定吸着量の値を、他方の浄化率に対応する他方の推定吸着量の値またはこれを補正した値に置換する。すなわち、異常の可能性がある一方の推定吸着量の値を、正常と思われる他方の推定吸着量の値に置換し、一方の推定吸着量の計算を実行する。これにより、一方の推定吸着量の値を修復できる可能性が高くなり、円滑に修復操作を行うことができる。
また本実施形態では、修復操作を行った後に一方の浄化率が正常範囲外にあるとき、一方の推定吸着量を異常と判定する。すなわち、修復操作を行ってもなお一方の浄化率が正常範囲内に入らないときに限って一方の推定吸着量を異常と判定するので、判定の信頼性を高められる。
なお、本実施形態(第2の判定方法)のうち、修復操作の部分のみを抽出し、正異常判定の部分を省略した実施形態が可能であり、これに対応した発明が把握可能である。この場合、図9のルーチンから、ステップS207,S210,S211,S214,S215,S217を省略することが可能である。
上記の説明で理解されるように、本実施形態のECU100は特許請求の範囲にいう推定部、制御部、判定部、算出部および修復部に相当する。また本実施形態のECU100、上流側NOxセンサ47および下流側NOxセンサ48は、特許請求の範囲にいう検出部を構成する。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明は他にも様々な実施形態が可能である。
(1)例えば、前述の修復操作の部分を省略し、正異常判定の部分のみを残した実施形態が可能である。この場合、図9のルーチンから、ステップS209,S210,S213,S214,S216を省略することが可能である。
(2)仮に推定吸着量Weが、下流側NOxセンサ48のセンサ出力に基づくフィードバック制御の結果に基づいて算出されるのであれば、推定吸着量Weの異常と判定することに代えてまたはこれに加えて、フィードバック制御の異常と判定してもよい。
(3)還元剤は、同等の機能を有するのであれば、尿素水以外のものであってもよい。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。