JP6908226B2 - チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤 - Google Patents

チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤 Download PDF

Info

Publication number
JP6908226B2
JP6908226B2 JP2016238608A JP2016238608A JP6908226B2 JP 6908226 B2 JP6908226 B2 JP 6908226B2 JP 2016238608 A JP2016238608 A JP 2016238608A JP 2016238608 A JP2016238608 A JP 2016238608A JP 6908226 B2 JP6908226 B2 JP 6908226B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
plant
group
gene
expression
plants
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2016238608A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2018095564A (ja
Inventor
義弘 鳴坂
義弘 鳴坂
真理 鳴坂
真理 鳴坂
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Okayama Prefectural Government
Original Assignee
Okayama Prefectural Government
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Okayama Prefectural Government filed Critical Okayama Prefectural Government
Priority to JP2016238608A priority Critical patent/JP6908226B2/ja
Publication of JP2018095564A publication Critical patent/JP2018095564A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6908226B2 publication Critical patent/JP6908226B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Description

本発明は、チエノピリミジン誘導体を有効成分とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導するための薬剤および植物病害を防除するための薬剤に関する。
植物に対する微生物の感染による病害(生物ストレス)は、植物にとって致命的になりうる重大なストレスの一つである。植物は、動物における免疫系のような、感染防御のために特殊化した細胞・組織を有しない。しかしながら、植物は、病原体を非自己として認識して起こる過敏感反応に代表される誘導性の防御応答によって、感染部位の周辺に抗菌性の化学的環境と物理的障壁を形成して抵抗する植物特有の機構を有しており、これにより微生物などの病原体の侵入に際して感染の拡大を抑制して生体防御を行っている。
一方、病原体は、宿主である植物を認識して、胞子発芽、付着器および侵入菌糸の形成、宿主内への侵入、ならびに伸展を行う。例えば、アブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)は、アブラナ科植物を宿主とする糸状菌であり、感染した植物に灰褐色から白色の病斑を形成する。シロイヌナズナのエコタイプ(生態型)であるコロンビアや、ハクサイを代表とするアブラナ科植物の多くは、炭疽病菌に対して感受性である。炭疽病菌をこれら植物に接種すると、接種72時間から96時間後に水浸状の病斑を形成する。これに対して、炭疽病菌を、抵抗性のシロイヌナズナエコタイプWs-2に接種すると、接種48時間から72時間後に過敏感細胞死様の病斑を形成する。この現象は、植物特有の抵抗反応として知られており、病原菌の侵入に対し、植物が自ら積極的に細胞(組織)を殺すことで、病原菌の感染の拡大を阻止する“植物におけるアポトーシス”として注目されている。
病原体の感染から過敏感細胞死に至るまでの作用機序に関する防御シグナル伝達には、サリチル酸がシグナル物質として関与していることが知られている。病原体の攻撃に対して、植物はシグナル物質を介して感染緊急シグナルを全身的に発信し、感染部位のみならず未感染組織の防御態勢をも誘導する。植物の生物ストレスに対する防御反応の発現誘導には、サリチル酸以外に、ジャスモン酸、エチレン、および活性酸素がシグナル物質として同定されている(非特許文献1〜3)。
サリチル酸は、植物に病原菌が感染したときに植物体内で合成される病害防御応答のためのシグナル物質であり、抗菌性のタンパク質をコードしているPR-1遺伝子およびPR-2遺伝子は、サリチル酸のシグナルで発現が制御されている。また、ジャスモン酸は、植物に病原菌が感染したときに植物体内で合成される病害防御応答のためのシグナル物質であり、抗菌性のタンパク質をコードしているPDF1.2遺伝子は、ジャスモン酸のシグナルで発現が制御されている。その他の、植物病害に対する防御応答のための病害抵抗性遺伝子としては、キチナーゼ遺伝子、PR-3遺伝子、VSP2遺伝子などが知られている。
このように植物においては、病害抵抗性遺伝子が植物病害の防御に重要な役割を担っていることから、これら遺伝子の発現を誘導しうる薬剤は、植物病害の防除剤として有用であると考えられる。
一方、イネいもち病、イネ紋枯病、コムギ眼紋病、リンゴ黒星病、キュウリ炭疽病、キュウリ灰色かび病、ラッカセイ褐斑病、コムギ赤さび病、トマト疫病に対して防除効果がある薬剤として、特定のピリジルピリミジン誘導体が有効であることが報告されている(特許文献1)。
しかしながら、これまでに、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導する効果を有するチエノピリミジン誘導体については、何ら知られていない。
特許第2517251号公報
Narusaka M. et al. (2009) Plant J. 60, 218-226 Penninckx, I. A. et al. (1998) Plant Cell 10, 2103-2113 Thomma, B. P. H. J. et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 15107-15111
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導する効果を有するチエノピリミジン誘導体を見出し、当該チエノピリミジン誘導体を利用して、植物病害を防除しうる薬剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、いくつかのチエノピリミジン誘導体が、植物における病害抵抗性遺伝子であるPR-1遺伝子などの発現を誘導し、これによりアブラナ科野菜類炭疽病菌などによる植物病害に対して、優れた防除効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。
従って、本発明は、チエノピリミジン誘導体を有効成分とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現誘導剤および植物病害の防除剤に関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
[1] 下記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導するための薬剤。
Figure 0006908226
〔式中、R1は下記A群より選択される基を表わし、R2は、水素、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を表し、R3とR4は、独立して水素または炭素数1から4のアルキル基を表す。〕
Figure 0006908226
[2] 下記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現の誘導を介して植物病害を防除するための薬剤。
Figure 0006908226
〔式中、R1は下記A群より選択される基を表わし、R2は、水素、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を表し、R3とR4は、独立して水素または炭素数1から4のアルキル基を表す。〕
Figure 0006908226
[3] 植物病害が、アブラナ科野菜類炭疽病菌またはアブラナ科黒斑細菌病菌による病害である、[2]に記載の薬剤。
本発明のチエノピリミジン誘導体を利用することにより、植物の病害抵抗性遺伝子の発現を介して効果的に植物病害を防除することが可能となった。
20ppmの各種チエノピリミジン誘導体を噴霧処理したシロイヌナズナにおける、PR-1遺伝子およびPDF1.2遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。 20ppmの各種チエノピリミジン誘導体を噴霧処理したシロイヌナズナに、アブラナ科野菜類炭疽病菌を噴霧接種し、シロイヌナズナ葉に感染したアブラナ科野菜類炭疽病菌のCh-ACT遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。 20ppmのチエノピリミジン誘導体(N2914A1展開化合物)を噴霧処理したシロイヌナズナにおける、PR-1遺伝子およびPDF1.2遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。 20ppmのチエノピリミジン誘導体(N2914A1展開化合物)を噴霧処理したシロイヌナズナに、アブラナ科野菜類炭疽病菌を噴霧接種し、シロイヌナズナ葉に感染したアブラナ科野菜類炭疽病菌のCh-ACT遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。 20ppmの各種チエノピリミジン誘導体を噴霧処理したシロイヌナズナに、黒斑細菌病菌を噴霧接種し、シロイヌナズナ葉に感染した黒斑細菌病菌のrpoD遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。 20ppmのN2914C化合物を処理した各種シロイヌナズナ変異体における、PR-1遺伝子の発現を解析した結果を示すグラフである。
本発明は、下記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導するための薬剤を提供する。
Figure 0006908226
式中、R1は下記A群より選択される基を表わし、R2は、水素、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を表し、R3とR4は、独立して水素原子または炭素数1から4のアルキル基を表す。〕
Figure 0006908226
また、本発明は、上記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を介して植物病害を防除するための薬剤を提供する。
上記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体において、R3またはR4における「水素原子または炭素数1から4のアルキル基」としては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基などの鎖状または環状のアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子またはメチル基である。
具体的な、好ましい化合物としては、下記B群より選択される化合物、または下記B群の化合物におけるチエノピリミジン骨格の6位および7位(すなわち、一般式[I]におけるR3またはR4の結合位置)のいずれかまたは双方にメチル基が結合している化合物である。
Figure 0006908226
上記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体は、より好ましくは、下記化合物である。
「N2914A1」
Figure 0006908226
「N2914A1-1」
Figure 0006908226
「N2914A1-4」
Figure 0006908226
「N2914A1-5」
Figure 0006908226
「N2914A2」
Figure 0006908226
「N2914A3」
Figure 0006908226
「N2914A4」
Figure 0006908226
「N2914B1」
Figure 0006908226
「N2914C」
Figure 0006908226
「N2914X1」
Figure 0006908226
「N2914X4」
Figure 0006908226
「N2914X5」
Figure 0006908226
本発明のチエノピリミジン誘導体は、優れたPR-1遺伝子の発現誘導能を示した(図1左、図3左)。また、PR-1遺伝子と比較して弱いものの、PDF1.2遺伝子についても発現誘導能を示した(図1右、図3右)。本発明のピリミジン誘導体により発現が誘導される「病害抵抗性遺伝子」は、植物の病害に対して感染防御効果を示すタンパク質をコードする遺伝子であり、好ましくはPR遺伝子またはPDF遺伝子、より好ましくはPR-1遺伝子またはPDF1.2遺伝子、特に好ましくはPR-1遺伝子である。シロイヌナズナにおけるPR-1遺伝子は、AGIコード(At2g14610)として特定され、また、PDF1.2遺伝子は、AGIコード(At5g44420)として特定されるが、本発明のチエノピリミジン誘導体は、これらシロイヌナズナ由来の遺伝子以外に、他の植物のオーソログの発現を誘導することも可能である。PR遺伝子は植物に広く存在しており、例えば、イネにおけるPR遺伝子は、文献(Mitsuhara I, et al., Mol Genet Genomics (2008) 279:415-427)に、タバコにおけるPR遺伝子は、文献(Matsuoka M, et al., Plant Physiol. 1987 Dec;85(4):942-946)に開示されている。また、文献(Narusaka M, et al., PLoS One. 2013;8(2):e55954)においては、キュウリ、ベンサミアーナタバコ、トマト、コマツナ、ナタネにおけるPR遺伝子の発現量解析が行われている。
本発明において「遺伝子の発現」とは、遺伝子自身がもつ情報に基づき、RNAまたはタンパク質という機能を有する遺伝子産物を産生することである。従って、本発明における「遺伝子の発現」は、遺伝子からmRNAへの転写およびmRNAからタンパク質への翻訳の双方を含む意である
遺伝子の発現量は、当業者に公知の任意の方法・手段で測定することができる。例えば、発現されたmRNA量の測定としては、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、定量的転写ポリメラーゼ連鎖反応(QRT-PCR)、DNAマイクロアレイ、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ、ノーザンブロッティング(ノーザンハイブリダイゼーション)、インサイチューハイブリダイゼーション、RNA分解酵素プロテクションアッセイなどを用いることができる。一方、タンパク質量の測定としては、ウェスタンブロッティング、ELISAアッセイ、タンパク質アレイ(プロテインチップ)、免疫組織染色、二次元電気泳動などを挙げることができる。
発現量を測定するための遺伝子の取得源としては、植物体全体、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束など)、植物培養細胞などの植物体の任意の部分を使用することができる。
また、本発明のチエノピリミジン誘導体は、これらの遺伝子の発現を介して植物病害に対する優れた防除効果を示した(図2、4、5)。本発明のチエノピリミジン誘導体が適用される「植物病害」としては、病害抵抗性遺伝子(例えば、PR-1遺伝子やPDF1.2遺伝子)の発現誘導により抵抗性を付与することが可能な植物病害であれば特に制限はないが、好ましくは、アブラナ科野菜類炭疽病菌またはアブラナ科黒斑細菌病菌による植物病害である。
本発明のチエノピリミジン誘導体を適用する植物としては、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ハクサイ(Brassica rapa)などのアブラナ科植物、トウモロコシ(Zea mays)およびイネ(Oryza sativa)などのイネ科植物、タバコ(Nicotiana tabacum)およびトマト(Solanum lycopersicum)などのナス科植物、キュウリ(Cucumis sativus L.)などのウリ科植物、並びに、ダイズ(Glycine max)などのマメ科などに属する植物を挙げることができるが、本発明の目的を達成しうる限り、これらに制限されない。
本発明のチエノピリミジン誘導体は、植物病原菌からの感染を防御するために必要な濃度において、植物体に対し適用される。使用に際しては、植物体の地上部に対しての薬剤処理、台木および種子に対しての薬剤処理および土壌灌水処理が可能である。
また、本発明のチエノピリミジン誘導体は、農園芸用殺菌剤の有効成分として用いる場合は、他の何らの成分も加えずそのまま使用してもよいが、通常の製剤形態に製剤化することができる。通常は、固体担体、液体担体、界面活性剤その他の製剤用補助剤と混合して用いられる。例えば、液剤、水和剤、エマルジョン、懸濁剤、粉剤、泡沫剤、ペ−スト、錠剤(ジャンボ剤)、粒剤、エアゾ−ル、活性化合物浸潤−天然および合成物、マイクロカプセル、種子用被覆剤、燃焼装置を備えた製剤(燃焼装置としては、例えば、くん蒸および煙霧カ−トリッジ、かんおよびコイルを挙げることができる)、ULV(コ−ルドミスト、ウオ−ムミスト)などを挙げることができる。
これらの製剤は、それ自体既知の方法で製造することができる。例えば、本発明のチエノピリミジン誘導体を、展開剤(例えば、液体希釈剤、液化ガス希釈剤、固体希釈剤、担体など)、場合によっては界面活性剤(例えば、乳化剤、分散剤、泡沫形成剤など)と混合することによって製造することができる。
展開剤として水を用いる場合には、例えば、有機溶媒を補助溶媒として使用することもできる。
液体希釈剤または担体としては、一般に、芳香族炭化水素類(例えば、キシレン、トルエン、アルキルナフタレンなど)、クロル化芳香族またはクロル化脂肪族炭化水素類(例えば、クロロベンゼン類、塩化エチレン類、塩化メチレンなど)、脂肪族炭化水素類(例えば、シクロヘキサンなど、パラフィン類(例えば、鉱油留分など))、アルコ−ル類(例えば、イソプロパノール、ブタノ−ル、グリコ−ルおよびそれらのエ−テル、エステルなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、強極性溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)、植物油(大豆油、綿実油など)および水を挙げることができる。
液化ガス希釈剤または担体は、常温常圧でガス状の物質を液化したものであり、その例としては、例えば、ブタン、プロパン、窒素ガス、二酸化炭素、およびハロゲン化炭化水素類のようなエアゾ−ル噴射剤を挙げることができる。
固体希釈剤としては、例えば、土壌天然鉱物(例えば、カオリンクレ−、アッタパルジャイトクレー、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、チョ−ク、石英、アタパルガイド、モンモリロナイトまたは珪藻土など)、土壌合成鉱物(例えば、高分散ケイ酸、アルミナ、ケイ酸塩など)などを挙げることができる。
粒剤のための固体担体としては、例えば、粉砕かつ分別された岩石(例えば、方解石、大理石、軽石、海泡石、白雲石など)、有機物質(例えば、おがくず、ココヤシの実のから、トウモロコシの穂軸粉、クルミ殻粉そしてタバコの茎など)などの細粒体を挙げることができる。
乳化、分散、湿展、展着などのために用いられる界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、アルキル(アリール)スルホン酸塩、ジアルキルスルホこはく酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルりん酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物などの陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤などが挙げられる。製剤用補助剤としては、リグニンスルホン酸塩、アルギン酸塩、ポリビニルアルコール、アラビアガム、CMC(カルボキシメチルセルロース)、PAP(酸性りん酸イソプロピル)、ポリアルキレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヘキシタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
固着剤も製剤(粉剤、粒剤、乳剤)に使用することができ、その際に使用しうる固着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロ−ス、天然および合成ポリマ−(例えば、アラビアゴム、ポリビニルアルコ−ル、ポリビニルアセテ−トなど)などを挙げることができる。
上記製剤には、着色剤を配合することもでき、該着色剤としては、無機顔料(例えば、酸化鉄、酸化チタン、プルシアンブル−など)、アリザリン染料、アゾ染料または金属フタロシアニン染料のような有機染料、更に、鉄、マンガン、ボロン、銅、コバルト、モリブデン、亜鉛などの金属の塩のような微量要素を挙げることができる。
該製剤は、一般に、本発明のチエノピリミジン誘導体を0.1〜99重量%、好ましくは0.5〜90重量%の範囲内で含有することができる。
本発明のチエノピリミジン誘導体は、上記製剤またはさまざまな使用形態において、他の公知の活性化合物、例えば、殺菌剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺センチュウ剤、除草剤、鳥類忌避剤、生長調整剤、肥料および/または土壌改良剤を共存させて用いることにより、防除効果の増強が期待できる。
本発明のチエノピリミジン誘導体を使用する場合、そのまま直接使用するか、または散布用調製液、乳剤、懸濁剤、粉剤、錠剤、ペースト、マイクロカプセル、粒剤のような製剤形態で使用するか、または、さらに希釈して調製された使用形態で使用することができる。本発明のチエノピリミジン誘導体は、通常の方法、例えば、液剤散布、浸漬、噴霧、くん蒸、潅注、懸濁形成、塗布、散粉、散布、粉衣、湿衣、湿潤被覆、糊状被覆または羽衣被覆で使用することができる。
本発明のチエノピリミジン誘導体を農園芸用殺菌剤の有効成分として用いる場合、その処理量は、気象条件、製剤形態、処理時期、方法、場所、対象病害、対象作物などによっても異なるが、一般には0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.5重量%の範囲内とすることができる。
種子処理に際しては、本発明のチエノピリミジン誘導体を、種子1kg当り、一般に0.001〜50g、好ましくは0.01〜10gの範囲内で、使用することができる。
土壌処理に際しては、作用点に対し、0.00001〜0.1重量%、特には0.0001〜0.02重量%の濃度の本発明のチエノピリミジン誘導体を一般に使用することができる。
以下、合成例および試験例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の試験例に限定されるものではない。
10,000種以上の化合物をplant activator候補剤のハイスループットスクリーニングシステム(Narusaka1 Y. et al. (2009) Plant Biotechnology 26, 345-349)により選抜した。取得した化合物および当該化合物から展開した化合物について、以下の実験を行った。
なお、本発明のチエノピリミジン誘導体の合成方法は特に限定されず、公知の原理に基づき合成することが可能である。合成に用いる原料化合物、溶媒、触媒、酸、塩基、脱保護剤等の種類や化学構造は目的に応じて公知物質から選択することができ、反応温度、液量、単離方法、精製方法、抽出方法、回収方法などは目的に応じて適宜選択するものとする。また、合成に用いる原料化合物は通常市販のものを用いることができるが、自ら合成した化合物を利用することも可能である。本発明のチエノピリミジン誘導体の代表的な合成例として、以下の手順を挙げることができるが、合成例に示されていない化合物も適宜公知の方法により合成することができる。
[合成例1]
Figure 0006908226
2,4-dichlorothieno[3,2-d]pyrimidine(400mg、2.0mmol)をイソプロパノール(10mL)に懸濁させ、4-aminomorpholine(0.41mL、4.3mmol)を加えて室温で7時間撹拌した。水(40mL)、酢酸エチル(30mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(40mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル30g、酢酸エチル/ヘキサン)にて精製し、101(200mg、0.739mmol、収率37%)を無色固体として得た。
上記のようにして得られた101(122mg、0.451mmol)、フェニルボロン酸(82mg、0.68mmol)をジメチルアセトアミド(3mL)、水(1mL)に溶解させ、炭酸ナトリウム(93mg、0.88mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(52mg、0.045mmol)を加えて80℃で17時間撹拌した。放冷後、水(30mL)、酢酸エチル(30mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル10g、酢酸エチル/ヘキサン)にて精製し、N2914A1-4(69.2mg、0.222mmol、収率49%)を固体として得た。
[合成例2]
Figure 0006908226
2,4-dichlorothieno[3,2-d]pyrimidine(200mg、1.0mmol)をイソプロパノール(5mL)に懸濁させ、1-aminopiperidine(0.23mL、2.1mmol)を加えて室温で4時間撹拌した。水(30mL)、ジエチルエーテル(30mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル10g、酢酸エチル/ヘキサン)にて精製し、102(85.5mg、0.318mmol、収率32%)を得た。
上記のようにして得られた102(39mg、0.15mmol)、フェニルボロン酸(27mg、0.22mmol)をジメチルアセトアミド(0.9mL)、水(0.3mL)に溶解させ、炭酸ナトリウム(23mg、0.22mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(17mg、0.015mmol)を加えて75℃で16時間撹拌した。放冷後、水(30mL)、酢酸エチル(30mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル10g、酢酸エチル/ヘキサン)にて精製し、N2914X4(9.7mg、0.031mmol、収率21%)を固体として得た。
[合成例3]
Figure 0006908226
4-chloro-7-methylthieno[3,2-d]pyrimidine(Maybridge社)(200mg、1.1mmol)をイソプロパノール(5mL)に溶解させ、1-aminopiperidine(0.50mL、4.6mmol)を加えて75℃で3時間加熱した。放冷後、水(30mL)を加えて析出した固体をろ取した。乾燥後、得られた固体をイソプロピルエーテルで懸濁洗浄しN2914X5(128mg、0.515mmol、収率47%)を無色固体として得た。
[合成例4]
Figure 0006908226
4-chloro-7-methylthieno[3,2-d]pyrimidine(Maybridge社)(200mg、1.1mmol)をイソプロパノール(5mL)に溶解させ、4-aminomorpholine(0.40mL、4.2mmol)を加えて75℃で3時間加熱した。放冷後、水(30mL)、塩化メチレン(20mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(30mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた固体をイソプロピルエーテルで懸濁洗浄しN2914A1-5(58.4mg、0.233mmol、収率21%)を無色固体として得た。
[合成例5]
Figure 0006908226
3-アミノ-2-チオフェンカルボン酸メチル(3.14g、20.0mmol)をピリジン(20mL)に溶解させ、氷冷下、塩化アセチル(1.5mL、21mmol)をゆっくり加えた。室温で3時間撹拌後、再度氷冷し塩化アセチル(0.3mL、4mmol)を追加した。室温で1.5時間撹拌し、減圧下濃縮して溶媒を除去した。得られた固体を水で懸濁洗浄し103(3.80g、19.1mmol、収率96%)を固体として得た。
上記のようにして得られた103(2.0g、10mmol)を28%アンモニア水(30mL)に懸濁させ、120℃で8時間撹拌した。放冷後、濃塩酸(1.7mL)を加えて中和し、析出した固体をろ取、水で洗浄して104(1.21g、7.28mmol、収率73%)を無色固体として得た。
上記のようにして得られた104(1.17g、7.04mmol)にオキシ塩化リン(12mL)を加えて130℃で3時間加熱還流した。減圧下オキシ塩化リンを除去し、氷冷下、水(20mL)をゆっくり加えた。析出した固体をろ取して105(0.63g、3.4mmol、収率48%)を薄黄色固体として得た。
上記のようにして得られた105(100mg、0.54mmol)をイソプロパノール(2mL)に溶解させ、1-aminopiperidine(0.232mL、2.16mmol)を加えて80℃で0.5時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)、塩化メチレン(20mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(10mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル30g、メタノール/塩化メチレン)にて精製しN2914X1(60.6mg、0.244mmol、収率45%)を無色固体として得た。
[合成例6]
Figure 0006908226
上記のようにして得られた105(100mg、0.54mmol)をイソプロパノール(2mL)に溶解させ、4-アミノモルホリン(0.208mL、2.16mmol)を加えて80℃で0.5時間撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10mL)、塩化メチレン(30mL)を加えて分液し、有機層を飽和食塩水(10mL)で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧下濃縮して得られた残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル30g、メタノール/塩化メチレン)にて精製しN2914A1-1(41.0mg、0.164mmol、収率30%)を無色固体として得た。
[試験例1] 薬剤処理による病害抵抗性遺伝子(防御応答遺伝子)の発現誘導
化合物処理による植物の免疫の活性化は、防御応答の代表的なマーカー遺伝子であるPR-1遺伝子とPDF1.2遺伝子の発現をモニターすることにより行った。PR-1遺伝子は植物の主たる防御応答経路であるサリチル酸シグナル伝達経路のマーカー遺伝子である。PDF1.2遺伝子は植物の防御応答経路であるジャスモン酸およびエチレンシグナル伝達経路のマーカー遺伝子である。
植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。0.01%の展着剤マイリノーを添加した20ppmの各種薬剤を、上述の通り培養したシロイヌナズナに対し、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。
処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、2、5、10、24および48時間後にサンプリングした。サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、Trizol試薬とPureLink RNA Mini Kit(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて全RNAを抽出した。続いて、「PrimeScript RT reagent Kit」(タカラ社製)を用いて全RNAから一本鎖cDNAを合成した。さらに、「SYBR Green I PCR Master Mix」(タカラ社製)を用いて定量的RT-PCRを行った。また、定量的RT-PCRは、1×「SYBR Green I PCR Master Mix」、200nMのフォワードプライマーとリバースプライマーの反応液を、95℃10秒間の変性ステップの後、95℃5秒、65℃20秒のステップを1サイクルとし、40サイクル行った。
各サンプル間の標準化は、植物で恒常的に発現しているCBP20遺伝子を用い、各サンプルにおける目的遺伝子の発現量をCBP20遺伝子の発現量で除することにより行った。
シロイヌナズナにおける各遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は以下の通りである。
CBP20(At5g44200;フォワードプライマー5'-TGTTTCGTCCTGTTCTACTC-3'/配列番号:1、リバースプライマー5'-ACACGAATAGGCCGGTCATC-3'/配列番号:2)
PR-1(At2g14610;フォワードプライマー5'-CCCACAAGATTATCTAAGGGTTCAC-3'/配列番号:3、リバースプライマー5'-CCCTCTCGTCCCACTGCAT-3'/配列番号:4)(Jirage et al. (2001) Plant J 26: 395-407)
PDF1.2(At5g44420;フォワードプライマー5'-CCATCATCACCCTTATCTTCGC-3'/配列番号:5、リバースプライマー5'-TGTCCCACTTGGCTTCTCG-3'/配列番号:6)
また、用いた化合物の構造は、下記の通りである(「N2914A1」については、上記)。
「N2781」
Figure 0006908226
「N2835」
Figure 0006908226
「N2947」
Figure 0006908226
「N2969」
Figure 0006908226
「N2972」
Figure 0006908226
なお、上記化合物は、MAYBRIDGE社において、以下のプロダクトコードで開示されている。「N2781」:GK00378)、「N2835」:GK01644)、「N2947」:GK03616、「N2969」:GK03792)、「N2972」:GK03797)。
結果を図1に示す。これら化合物は防御応答遺伝子PR-1を強く発現誘導した。一方で、PDF1.2遺伝子の発現は化合物処理後に速やかに認められたが、いずれもPR-1に比して発現は弱かった。
[試験例2] アブラナ科野菜類炭疽病菌に対する防除効果(その1)
以下の方法で、アブラナ科野菜類炭疽病菌に対する感染抑制効果を評価した。植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。0.01%の展着剤マイリノーを添加した20ppmのN2914A1、N2781、N2835、N2947、N2969、N2972を、上述した通りに培養したシロイヌナズナに対し、1鉢当り3〜5mlの薬液を噴霧処理した。処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置した。散布2日後、人工培養したアブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)胞子の懸濁液(5×105胞子/ml)を噴霧接種し、22℃、相対湿度100%の湿度に保ち感染させた。接種から5日後、接種葉をサンプリングし、定量的RT-PCR法により、アブラナ科野菜類炭疽病菌のシロイヌナズナへの感染量を定量した。なお、コントロールとして、化合物を含まない展着剤のみを散布し、同様の定量を行った。
サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、Trizol試薬とPureLink RNA Mini Kit(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて全RNAを抽出した。続いて、「PrimeScript RT reagent Kit」(タカラ社製)を用いて全RNAから一本鎖cDNAを合成した。さらに、「SYBR Green I PCR Master Mix」(タカラ社製)を用いて定量的RT-PCRを行った。また、定量的RT-PCRは、1×「SYBR Green I PCR Master Mix」、200nMのフォワードプライマーとリバースプライマーの反応液を、95℃10秒間の変性ステップの後、95℃5秒、65℃20秒のステップを1サイクルとし、40サイクル行った。
炭疽病菌の感染量は炭疽病菌で恒常的に発現しているCh-ACT遺伝子(アクチン遺伝子)の発現を定量することにより見積もった(Narusaka M. et al. (2010) J Gen Plant Pathol 76, 1-6)。各サンプル間の標準化は、植物で恒常的に発現しているCBP20遺伝子を用い、Ch-ACT遺伝子の発現量をCBP20遺伝子の発現量で除することにより行った。
炭疽病菌のCh-ACT遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は以下の通りである。
Ch-ACT(フォワードプライマー5'-CTCGTTATCGACAATGGTTC-3'/配列番号:7、リバースプライマー5'-GAGTCCTTCTGGCCCATAC-3'/配列番号:8)
なお、シロイヌナズナにおけるCBP20遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は、試験例1の通りである。
結果を図2に示す。薬剤N2914A1について病徴の抑制が有意に認められ、防除効果を示した。一方で、その他の化合物は病徴の抑制がわずかに認められた。
[試験例3] N2914A1展開化合物処理によるアブラナ科野菜類炭疽病菌に対する防除効果(その2)
植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。上述したように培養したシロイヌナズナに、予め調製した0.01%の展着剤マイリノーを添加した20ppmの各種薬剤の溶液を、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置した。散布2日後、人工培養したアブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum)胞子の懸濁液(5×105胞子/ml)を噴霧接種し、22℃、相対湿度100%の湿度に保ち感染させた。接種6日後、鉢当りの罹病度を下記基準により類別評価した。
罹病度
0:病斑を認めない.1:病斑がわずかに認められる.2:病斑が葉面積の1/4未満を占める.3:病斑が葉面積の1/4〜1/2未満を占める.4:病斑が葉面積の1/2以上を占める.5:枯死.
防除価(%)=(1-(処理区の罹病度÷無処理区の罹病度))×100
なお、「N2914C」は、MAYBRIDGE社において、以下のプロダクトコードで開示されている。「N2914C」:GK03292。
結果を表1に示す(結果は1区5-10試料の平均である)。
Figure 0006908226
[試験例4] N2914A1展開化合物処理による病害抵抗性遺伝子(防御応答遺伝子)の発現誘導
植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。0.01%の展着剤マイリノーを添加した20ppmの各種薬剤を、上述したように培養したシロイヌナズナに対し、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。
処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、2、5、10、24および48時間後にサンプリングした。試料は実施例1と同様に定量的RT-PCR法により、PR-1遺伝子とPDF1.2遺伝子の発現をモニターした。結果を図3に示す。
[試験例5] N2914A1展開化合物処理によるアブラナ科野菜類炭疽病菌に対する防除効果
以下の方法で、アブラナ科野菜類炭そ病菌に対する感染抑制効果を評価した。実施例2で記述した方法と同条件で育成したシロイヌナズナに、化合物溶液を茎葉散布した。溶液の散布から2日後、シロイヌナズナにアブラナ科野菜類炭そ病菌(5×105胞子/ml)を噴霧接種した。接種から5日後、接種葉をサンプリングし、試験例2と同様に、定量的RT-PCR法により、アブラナ科野菜類炭疽病菌のシロイヌナズナへの感染量を定量した。なお、コントロールとして、化合物溶液を含まない展着剤のみを散布し、同様の定量を行った。
結果を図4に示す。無処理に対して、N2914A1、N2914A1-5、N2914C、N2914A4、N2914X5は、20ppmで有意に感染を抑制した。
[試験例6] アブラナ科黒斑細菌病菌に対する防除効果
植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。上述の通りに培養したシロイヌナズナに、予め調製した0.1%の展着剤アプローチBIを添加した20ppmの各種薬剤の溶液を、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置した。
処理2日後に黒斑細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. maculicola)を用いて防除効果を調べた。黒斑細菌病菌をKing's B液体培地中で一晩振とう培養した。菌を10mM MgSO4液に懸濁して1×108(cfu)/mlに調製し、この菌液を植物全体に噴霧することで病原菌を接種した。接種後3日目に接種葉をサンプリングし、黒斑細菌病菌の感染量を定量した。黒斑細菌病菌の植物への感染量の定量は、黒斑細菌病菌において恒常的に発現しているrpoD遺伝子の発現量を指標に行った(Narusaka M. et al. (2011) J Gen Plant Pathol 77, 75-80)。
サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、Trizol試薬とPureLink RNA Mini Kit(Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて全RNAを抽出した。続いて、「PrimeScript RT reagent Kit」(タカラ社製)を用いて全RNAから一本鎖cDNAを合成した。さらに、「SYBR Green I PCR Master Mix」(タカラ社製)を用いて定量的RT-PCRを行った。また、定量的RT-PCRは、1×「SYBR Green I PCR Master Mix」、200nMのフォワードプライマーとリバースプライマーの反応液を、95℃10秒間の変性ステップの後、95℃5秒、60℃(rpoD)または65℃(CBP20)20秒のステップを1サイクルとし、40サイクル行った。
各サンプル間の標準化は、植物で恒常的に発現しているCBP20を用い、各サンプルにおける黒斑細菌病菌のrpoD遺伝子の発現量をCBP20遺伝子の発現量で除することにより行った。
各遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は以下の通りである。
rpoDフォワードプライマー5'-CCGAGATCAAGGACATCAAC-3'/配列番号:9
rpoDリバースプライマー5'-GAGATCACCAGACGCAAGTT-3'/配列番号:10
なお、シロイヌナズナにおけるCBP20遺伝子の定量的RT-PCRに用いたプライマーの配列は、試験例1の通りである。
結果を図5に示す。無処理に対して、N2914A1、N2914A1-5、N2914C、N2914X5、N2781、N2835、N2947は、20ppmで有意に感染を抑制した。N2914A2、N2914A3、N2914A4はわずかに抑制した。
[試験例7] N2914C化合物を処理した変異体における病害抵抗性遺伝子(防御応答遺伝子)の発現誘導
植物材料として、シロイヌナズナ(生態型:コロンビア)およびその変異体を土(ダイオ化成社製)に播種し、22℃で24時間の明暗サイクルを明時間12時間および暗時間12時間として栽培した。播種して1週間後に1鉢当たり5個体になるように植え替えを行い、同条件下でさらに3週間栽培した植物体を用いた。0.01%の展着剤マイリノーを添加した20ppmのN2914Cを、上述したように培養したシロイヌナズナに対し、1鉢当り3〜5mlの噴霧で処理した。
処理後、22℃で明時間12時間および暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、24時間後にサンプリングした。試料は試験例1と同様に、定量的RT-PCR法により、サリチル酸シグナル伝達系路のマーカーであるPR-1遺伝子の発現をモニターした。
結果を図6に示す。サリチル酸経路上の変異体nahG、eds16-1、npr1-1、pad4-1ではPR1遺伝子の発現が抑制されることから、N2914Cがサリチル酸経路の上流で機能し、サリチル酸経路を活性化することが示唆された。
なお、用いた変異体は、次の通りである。
NahG:サリチル酸ヒドロキシラーゼ(NahG)により生産したサリチル酸をカテコールに変換する形質転換体、eds16-1:サリチル酸合成系が欠損した変異体、npr1-1:病害応答のマーカーであるPR1が発現しない変異体(nonexpressor of PR genes 1)、pad4-1:サリチル酸シグナル伝達系路が欠損した変異体、ein2-12:エチレンシグナル伝達系路が欠損した変異体、jar1-1:ジャスモン酸シグナル伝達系路が欠損した変異体。
以上説明したように、本発明のチエノピリミジン誘導体を利用することにより、植物の病原抵抗性遺伝子の発現を通じて、効果的に植物病害を防除することが可能となった。本発明は、農作物をはじめとする植物の生産性の向上などに大きく貢献しうるものである。
配列番号:1〜10
<223> 人工的に合成されたプライマー配列

Claims (3)

  1. 下記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現を誘導するための薬剤であって、植物が、アブラナ科植物、イネ科植物、ナス科植物、またはウリ科植物である薬剤
    Figure 0006908226
    〔式中、R1は下記A群より選択される基を表わし、R2は、水素、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を表し、R3とR4は、独立して水素原子または炭素数1から4のアルキル基を表す。〕
    Figure 0006908226
  2. 下記一般式[I]で示されるチエノピリミジン誘導体またはその塩を有効成分として含有することを特徴とする、植物における病害抵抗性遺伝子の発現の誘導を介して植物病害を防除するための薬剤であって、植物が、アブラナ科植物、イネ科植物、ナス科植物、またはウリ科植物である薬剤
    Figure 0006908226
    〔式中、R1は下記A群より選択される基を表わし、R2は、水素、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を表し、R3とR4は、独立して水素原子または炭素数1から4のアルキル基を表す。〕
    Figure 0006908226
  3. 植物病害が、アブラナ科野菜類炭疽病菌またはアブラナ科黒斑細菌病菌による病害である、請求項2に記載の薬剤。
JP2016238608A 2016-12-08 2016-12-08 チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤 Active JP6908226B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016238608A JP6908226B2 (ja) 2016-12-08 2016-12-08 チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2016238608A JP6908226B2 (ja) 2016-12-08 2016-12-08 チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2018095564A JP2018095564A (ja) 2018-06-21
JP6908226B2 true JP6908226B2 (ja) 2021-07-21

Family

ID=62632223

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016238608A Active JP6908226B2 (ja) 2016-12-08 2016-12-08 チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6908226B2 (ja)

Also Published As

Publication number Publication date
JP2018095564A (ja) 2018-06-21

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Abdelkhalek et al. Antiviral, antifungal, and insecticidal activities of Eucalyptus bark extract: HPLC analysis of polyphenolic compounds
Morkunas et al. The role of sugar signaling in plant defense responses against fungal pathogens
EP3307071B1 (en) Methods of use of antifungal methylobacterium compositions
CN108271339A (zh) 栽培品种和物种间的种子内生菌、相关组合物及其使用方法
CN104797564B (zh) 除草的和杀真菌的5-氧基-取代的3-苯基异噁唑啉-5-甲酰胺和5-氧基-取代的3-苯基异噁唑啉-5-硫代酰胺
CN107848959A (zh) 卤素‑取代的苯氧基苯基脒及其作为杀真菌剂的用途
EP4169364A1 (en) Methylobacterium compositions for fungal disease control
Beatrice et al. Enhancement of PR1 and PR5 gene expressions by chitosan treatment in kiwifruit plants inoculated with Pseudomonas syringae pv. actinidiae
CN108137538A (zh) 三唑衍生物、其中间体及其作为杀真菌剂的用途
CN104797577B (zh) 除草和杀真菌活性的3‑杂芳基‑异噁唑啉‑5‑甲酰胺和3‑杂芳基‑异噁唑啉‑5‑硫代酰胺
CN105308032B (zh) 新的三唑衍生物
Farrakh et al. Pathogenesis-related protein genes involved in race-specific all-stage resistance and non-race specific high-temperature adult-plant resistance to Puccinia striiformis f. sp. tritici in wheat
Malo et al. Natural extracts from pepper, wild rue and clove can activate defenses against pathogens in tomato plants
CN105283450B (zh) 三唑衍生物
JP5618235B2 (ja) ピリジルピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤
Elkobrosy et al. Quantitative detection of induced systemic resistance genes of potato roots upon ethylene treatment and cyst nematode, Globodera rostochiensis, infection during plant–nematode interactions
Belakhov Ecological aspects of application of tetraene macrolide antibiotic tetramycin in agriculture and food industry (a review)
Aboulila Efficiency of plant growth regulators as inducers for improve systemic acquired resistance against stripe rust disease caused by Puccinia striiformis f. sp. tritici in wheat through up-regulation of PR-1 and PR-4 genes expression
JP6908226B2 (ja) チエノピリミジン誘導体を有効成分とする植物病害防除剤
JP5885268B2 (ja) 植物防御活性化物質のための方法、植物防御活性化物質及び免疫応答亢進方法
McGrann et al. Control of light leaf spot and clubroot in brassica crops using defence elicitors
EA037143B1 (ru) Композиция, содержащая нуклеиновые кислоты паразитических, патогенных или инвазивных биологических систем для ингибирования и/или контроля роста указанных систем, и способ ее получения
Benouaret et al. Grape marc extract-induced defense reactions and protection against phytophthora parasitica are impaired in NahG tobacco plants
Nash Activation of disease resistance and defense gene expression in Agrostis stolonifera and Nicotiana benthamiana by a copper-containing pigment and a benzothiadiazole derivative
CN106458977A (zh) 取代的吡唑基‑烟碱(硫代)酰胺衍生物及其作为杀真菌剂的用途

Legal Events

Date Code Title Description
A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20161214

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20191004

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20200917

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20201009

A601 Written request for extension of time

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A601

Effective date: 20201116

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20210125

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821

Effective date: 20210125

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20210616

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20210621

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6908226

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250