JP6899107B1 - 生態系誘導方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】バックキャスト思考で生態系を再定義し、再設計し、再構築する方法を提供する。また、バックキャスト思考で生態系を再構築して経済的価値が低い土地の経済的価値を向上させるための情報管理システムを提供する。【解決手段】生態系を再構築する前の状態及びバックキャスト思考で生態系を再設計して誘導目標とする生態系について、それぞれの状態及びその経済的価値に関する情報を、生態学情報DB2550と価値情報DB2530とにそれぞれ記憶させる。そして、再設計した生態系を誘導する過程の生態系の状態及びその経済的価値に関する情報を取得し、生態学情報DB2550と価値情報DB2530とにそれぞれ記憶させる。【選択図】図8

Description

本発明は、生態系誘導方法に関する。
近年、地球環境保全への関心が高まり、複数の生物を含んで構成される生態系は価値ある自然資本として評価されるようになっている。ただし、野外の生態系のあり方に影響する要因は多岐複雑であり、最新科学でも必ずしも把握しきれていない。このため従来、生態系の価値を評価する場合、「自然環境下でもともと構築されている状態」の生態系のあり方を求め、そのあり方に基づいて生態系の価値が評価されている。
しかし野外の生態系のあり方は様々であり、その経済的価値は一律に定量化しがたい。そこで、ある植生の状態を特徴として把握できる生態系の価値をデータベース化しておき、ある地域の植生の状態を入力値とし、入力された植生に似た特徴を持つ植生の生態系の価値を導き出すことから、その地域の生態系の価値を計算する方法が提案されている(特許文献1)
特許文献1には、生態系が将来、創出する価値を計算する方法も開示されている。また、特許文献2には、生態系の価値を向上させる取り組みに資する生態系の評価方法が提案されている。このように生態系が価値ある自然資本として評価されつつある中で、生態系の価値を定量化する方法や、生態系の価値を向上させる方法が提案されている。
特開2019−117613号 特許第6017318号
Toju, H. et al. Core microbiomes for sustainable agroecosystems. Nature Plants 4 247-257(2018)
しかし特許文献1に開示された生態系の価値評価方法は、「自然環境下でもともと構築されている状態」の生態系が提供する便益を経済的価値として評価するものである。また、その将来価値を求める方法は、「もともと構築されている状態」を未来に向かって経時変化させることにより将来価値を予測するものであり、生態系の構成を人為的に操作する発想は存在していない。
一方、特許文献2に開示された生態系の評価方法は、生態系の価値を高めるための人為的な働きかけの影響を評価する。特許文献2に開示されている評価方法は、評価時点において、評価対象となる地域に構築されうる生態系の潜在的及び顕在的価値を評価し、この評価値が一定以上である場合に、その地域の生態系に対する人為的な働きかけを行い、その活動を評価するものである。
ところで、野外における生態系の状態は複雑な内在的・外在的要因によって常に遷移し、そのプロセスの全容は未だ科学的に解明されていない。このため野外の生態系を人為的に設計し、その状態を科学的に制御することは最先端科学でも実現は難しいと考えられてきた。よって従来の生態系の価値向上方法は、特許文献2に開示された方法のように、評価時点で得られる生態系の状態やその評価をベースにして、「フォアキャスト」思考で、現在から予測した未来の価値向上策が設定される。
このような状況に対し、生態系を科学的に制御する端緒と評価される研究成果が公開されている(非特許文献1)。非特許文献1に開示された研究成果は、微生物叢全体の機能を左右する微生物(「コア共生微生物」と称する)を特定し、このコア共生微生物と植物との共生関係を強化し、所望の機能を奏する植物―微生物生態系を誘導するものである。
本発明者は、非特許文献1に開示された研究成果を用いることにより、誘導したい生態系を先に設定する「バックキャスト」思考で生態系の価値を向上させうることを見出した。本発明者はさらに、「バックキャスト」思考で、どのような外観構成で、どのような経済的価値を生む生態系とするかを設定し、設定した生態系を誘導することで、耕作放棄地や放置林のように利用価値が低い状態にある土地の経済的価値を向上させうることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、バックキャスト思考で野外の生態系を再定義し、再設計し、再構築することで、経済的価値が低い状態にある土地の経済的価値を向上させる方法を提供する。
なお、野外には、ある状態の生態系がもともと存在している。そこで本明細書においては、このようにもともと存在している生態系を、人為的な目的又は特定の価値観で評価することを「生態系を再定義する」と称する。そしてもともと存在している生態系に対し、バックキャスト思考で、人為的な目的又は特定の価値観に叶う生態系とする構成を検討し決定することを「再設計する」と表現する。さらに、もともと存在している生態系をバックキャスト思考で「再設計」された状態にすることを「再構築」する又は「誘導する」と表現する。
本発明は、バックキャスト思考で設定した生態系を誘導して土地の価値を向上させるために用いられる情報管理システム及び土地の経済的価値を向上させることができる生態系誘導方法を提供する。本発明は特に、再設計された生態系が誘導されることによる土地の経済的な価値情報を管理するシステムを提供する。本発明に係る情報管理システムは、何らかの経済活動に利用できる広さ(概ね50平方メートル以上、特に100平方メートル以上)を有し、独立して土地取引の対象となりうる土地について、所望の経済的価値を創出しうる生態系を再設計し、その再構築過程において生態系の状態を把握するための情報とその状態における経済的価値を記憶する。なお、生態系の状態を把握するための情報としては、生態系の物理化学的状況と生物的状況を示す情報が挙げられる。また「所望の経済的価値を創出しうる生態系」とは、例えば所望の金額で取引される農作物や花卉を生産する農地や林地生態系や、所望の経済的価値を有する公園や入会地などとして、一次産業のみならず、加工や観光などを含めた「六次産業」の舞台として利用できる生態系が例示できる。
本発明によれば、ある土地を対象としてその土地に既にある生態系を再定義し、所望の経済的価値を奏するよう生態系を再設計し、再設計した生態系をその土地に誘導する途上の状態における経済的価値を情報管理システムに記録する。これにより、再設計された生態系が適切に再構築されているかの確認を容易化し、再設計された生態系が誘導されることで土地の経済的価値を上げるプロセスを効率化できる。
ここで、生態系設計を行う対象とする土地に生息しうる動植物に関するデータベースを参照すれば、より簡便に所望の生態系を再設計できる。また、複合的かつ俯瞰的な視点から最適な生態系を再設計できる。
特に、生態系の再設計に際し、対象の土地の土壌又はその土壌で生育している植物を分析すれば、その土地に生息する数千〜数万種の微生物(地下微生物叢及び植物共生微生物叢)の構成を把握できる。そして、非特許文献1に開示された技術によってそれらの微生物叢を活用した生態系再設計を行えば、生態系の再構築プロセスをより効率的に加速できる。
特に、生態系の再構築過程において定期的に地下微生物叢及び植物共生微生物叢を解析すれば、目標生態系への誘導状態を把握でき、目標生態系を再構築、維持するプロセスを効率的に管理できる。なお、目標生態系は再設計した後、必要に応じて修正してもよい。
また、権利者が異なる隣接地を対象として生態系再設計をする場合、生態系の再設計及び誘導管理は隣接地をまとめて対象土地としつつ、土地の権利に基づく権益の分配は権利者ごとに行えるようにするとよい。これにより、人為的に定められた土地の境界線と、生態学的観点から適切と考えられる再設計、再構築、維持管理の上での境界設定とのギャップを解消できる。
本発明によれば、生態系をバックキャストで再設計し、設計された生態系を再構築することで、経済的価値が低い土地の経済的価値を向上させることができる。
本発明の一実施形態に係る土地の価値情報管理システムの構成を示す概要図である。 本発明の一実施態様に係る土地の価値情報管理システムを用いた情報処理の流れを示す図である。 本発明の一実施態様に係る土地の価値情報管理システムを用いて情報入力を行うための入力画面及び記憶部に保持される情報の一例を示す図である。 本発明の一実施態様において、属性情報記憶部に保持される土地情報の一例を示す図である。 本発明の一実施態様に係る土地の価値情報管理システムを用いて生態系再設計を行う場合に表示させる画面の一例を示す図である。 本発明の一実施態様において、再設計情報記憶部に保持される情報の一例を示す図である。 本発明の一実施態様において、生態系情報記憶部に保持される情報の一例を示す図である。 本発明の一実施態様における生態系誘導方法の流れを示す図である。
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。同一部には同一符号を付し、説明を省略又は簡略化する。
<システム構成>
図1は、本発明の第1実施態様に係る土地の価値情報管理システム1の構成を示す概要図である。管理システム1は、業務サーバ群10と、複数のクライアントが使用する複数のデバイス20とを含んで構成されている。業務サーバ群10は、ウェブ(Web)サーバ1100、アプリケーション(AP)サーバ2100、及びデータベース(DB)サーバ2500を含む。各デバイス20は、図示しない操作部(キーボード、マウス、タッチパネルなど)及び表示部(各種ディスプレイ)を備え、LAN、WAN及びインターネットなどの通信回線で業務サーバ群10と接続されている。
業務サーバ群10は、クライアントからのデータ及び指示を受け取るためのフロントエンド100と、受け取ったデータと指示に基づき、データの計算や変換、保存や参照などの処理を行うためのバックエンド200とに分かれる。フロントエンド100にはクライアントとの情報のやり取りを行うためのユーザインターフェース(UI)を提供するWebサーバ1100が含まれる。バックエンド200には、データ処理を行うためのAPサーバ2100及びデータの処理及び参照を行うためのDBサーバ2500が含まれる。業務サーバ群10は操作部や表示部のない計算機(ノード)で構成してもよく、操作部や表示部を有する計算機(デスクトップPCやワークステーション)で構成し、デバイス20と接続することなく使用できるように構築しても良い。土地の価値情報管理システム1は、複数台の物理サーバ(クラスタ)として、あるいはクラウド環境における仮想サーバとして構築されても良い。
本実施態様の管理システム1では、各クライアントからのデータ及び指示が各デバイス20からUIを介しフロントエンド100に入力され、指示に基づき必要なデータの処理、保存、及び参照などがバックエンド200で実行される。バックエンド200から出力された情報は、フロントエンド100及びUIを介して各クライアントのデバイス20に送られ表示部に表示される場合があり、DBサーバ2500に保存される場合もある。なお、情報の入出力には、メモリカードやUSBのような、サーバに直接接続できる記憶媒体を用いてもよい。その場合、UIは必ずしもWebサーバに実装される必要は無く、クライアントがAPサーバおよびDBサーバと直接情報の入出力を行うような設計としても良い。
業務サーバ群10におけるDBサーバ2500は、概念上、属性情報記憶部としての土地情報DB2510、価値情報記憶部としての価値情報DB2530、生態系情報記憶部としての生態系情報DB2550、及び生態系の再設計情報記憶部としての設計用DB2570を有している。APサーバ2100は、微生物叢構成の解析と生態系の再設計とを行う設計部2110と、将来価値予測部としての機能を有する価値算出部2150と、権利者管理部2170と、を概念上、有している。なお、本実施態様に係る管理システム1の設計部2110は生態系再設計支援部と微生物設計部とを兼ねている。
<情報管理の概要>
この管理システム1を用いて土地の価値情報を管理する情報処理の方法について図2を参照して説明する。管理システム1のクライアントは、デバイス20を用いて生態系を再設計する対象とする土地に関する初期情報の入力を行う(S1)。初期情報としては少なくとも対象地の所在地と、その経済的価値(初期価値)とを入力する。対象地の面積、権利者等に関する情報と、対象地の現時点(再設計を行う時点)における生態系の状態に関する情報(生態系状態情報)も入力することが好ましい。入力された情報は、対象地に対するレコードとしてDBサーバ2500における土地情報DB2510、価値情報DB2530、及び生態系情報DB2550のいずれかに保持される。具体的には、土地の属性に関する情報(所在地、面積及び権利者など)は土地情報DB2510に保持し、土地の価値に関する情報は価値情報DB2530、生態系に関する情報は生態系情報DB2550に保持させるとよい。また、対象地ごとに対象地を一意に識別するための対象地IDが付与され(図3参照)、対象地を一意に識別するための主キーとして対象地IDが取り扱われる。
S1の初期情報入力が行われ、業務サーバ群10が対象地に再構築する生態系の再設計要求を受け付けると、設計部2110は設計用DB2570を参照して、当該対象地で生育可能な複数の生物を抽出する。本管理システム1は、任意の対象地に対する生態系再設計モデルの情報が保存された設計用DB2570を使用している。具体的には設計用DB2570には、気候タイプ、植生、地理的特性、土壌の化学的性質などに応じた好適生物の情報が保存されている。入力された初期情報より自動的に選択された好適生物の組み合わせ、あるいはクライアントにより予め指定された生物の組み合わせに対し、設計部2110はそれらの生物の経済的価値を合計することで、対象地に再構築されうる目標生態系が対象地に定着した場合に生ずる経済的価値を計算する。なお本明細書では、設計部2110を含むAPサーバ2100が行う「計算」あるいは「算出」とは、計算上の推定値、あるいは概算値を出力することを意味し、実態を記述する実測値を算定することではない。
このような生態系再設計処理S2を経て目標生態系が決定されると、設計部2110は、決定された目標生態系に関する情報を、対象地を特定する情報と紐付けて記憶部2500に保持させる(S3)。特に価値情報DB2530には、目標生態系を再構築することにより得られる将来の経済価値(目標価値)を少なくとも記憶させる。また、目標生態系の生態系状態情報も生態系情報DB2550に記憶させることが好ましい。目標生態系の生態系状態情報としては、目標とする生態系のタイプを一意に識別するための名称又はIDなどの記号や、目標生態系を構成するため選択された1種以上の生物について、生物学的特性・機能的特性や目標生態系における生物学的な役割が例示できる。生態系のタイプとしては「森林」「里地里山」「草原」「湿原」などがあるが、これらを植生タイプでより下位概念化して植生タイプの異なる生態系を一意に識別できる名称や記号を用いることが好ましい(図5参照)。森林生態系の生態系タイプを一意に識別する名称としては、例えば、優占樹種により森林生態系タイプを一意に特定する「二次ミズナラ林」「天然スギ林」「二次コナラ林」といった名称が挙げられる。
生態系再設計段階における情報処理は上述したS1〜S3の情報処理で構成される。生態系再設計の次段階は再設計した生態系を対象地に再構築する過程における情報処理(経過情報処理S4)である。
設計した生態系を再構築する過程は、目標生態系を構成する生物を対象地に定着させ、目標生態系を誘導していく過程である。この過程では、対象地の生態学的調査を行い、調査により得られた情報(生態系状態情報)に基づき経過情報処理S4を行う。
経過情報処理S4では、複数の生態学的調査の時点の各々において、現況生態系の生態系状態情報を取得し、取得した生態系状態情報に基づいて価値算出部2150が現況生態系の経済的価値(現在価値)を計算する。計算された現在価値は、価値情報DB2530に保持させる。
<初期情報入力処理>
以下、各ステップにおける情報処理について詳述する。初期情報入力処理S1では、生態系再設計の対象となる土地の属性情報と、生態系再設計を行う前の経済価値とを入力し、DBサーバ2500に記憶させる。また、生態系再設計を行う前の対象地の生態系状態情報も取得し、DBサーバ2500に記憶させることが好ましい。
図3に初期情報入力処理S1における情報入力を行う入力画面例を示す。クライアントは、例えばデバイス20を用いて図3に示す入力画面を表示部に表示させ、生態系再設計を行う対象地の属性情報を入力する。図3の実線で囲った部分(3−A)は土地情報DB2510が保持するレコード、破線で囲った3−B部分は生態系情報DB2550が保持するレコードとなる。
対象地の属性情報としては対象地について、対象地の気候を把握できる単位(概ね町レベル)の所在地情報を入力し、土地情報DB2510に記憶させることが好ましい。また、所在地以外の属性情報として、登記情報に従って、地番、地積(面積)、種類、権利者、権利内容を記憶させることが好ましい。
図4に土地情報DB2510が保持する土地情報テーブル例を示す。図4に示す例では、対象地を一意に識別する主キーとして、対象地の気候を把握できる単位(概ね町レベル)で土地IDを振り分けている。すなわち、左端列の土地IDのうち、OSKKA−Aが所在コードであり、先頭の2桁記号OSが都道府県を示し、次の2桁記号KAが市町村、ハイフンの後の1桁記号Aが町レベルの所在を示している。
初期情報入力ステップS1における必須入力情報は、対象地の所在地と生態系再設計をする前の初期状態における経済的価値(初期価値)である。初期価値は、対象地の登記上の価値としてもよく、対象地の実態に基づいた価値としてもよい。前者とする場合は、初期価値として固定資産計算の基礎とされている地価を入力すればよく、後者とする場合は対象地を売買する場合に算定される地価を入力すればよい。
上述した情報は対象地の生態学的調査を行うことなく取得し、入力できる。初期情報入力ステップS1は、生態学的調査なしに入力できる情報を入力するステップ(属性情報入力ステップ)と、生態学的調査により得られた情報を入力するステップ(生態系状態情報入力ステップ)とを含むことが好ましい。
生態学的調査により得られる情報としては、対象地の物理化学的状況と生物的状況についての情報がある。物理化学的状況についての情報には、対象地の温度と水分条件に影響を及ぼす気象情報(気温、降水及び日照に関する情報)と、対象地土壌の物理化学的状態を示す情報(土壌物理化学的情報)とがある。気象情報は、公知の各種気象情報データベースから取得し入力できる。土壌物理化学的情報は公知の土壌診断により取得し入力できる。土壌物理化学的情報としては、pH、電気伝導度(EC)、アンモニア態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、有機態リン酸濃度、交換性カリウム濃度、リン酸吸収係数、交換性石灰濃度、交換性苦土濃度、交換性マンガン濃度、可給態鉄濃度、可給態銅濃度、可給態亜鉛濃度、ホウ素濃度、陽イオン交換容量(CEC)、腐植含有量、土性などがある。
生物的状況についての情報には、地上生物叢情報と地下生物叢情報とがある。地上生物叢情報としては、地上生態系を構成する主な植物、動物及びその他の生物の各々を一意に特定する識別情報(例えば名称)と各々の存在量とを取得して生態系情報DB2550に保持させておくことが好ましい。なお、存在量は調査に基づく推定値又は計算により得られた推定値でよい(以下同じ)。「地上生態系を構成する主な植物、動物」としては、生態系を特徴づける植物や動物、あるいは目標生態系を構成する生物として選択された植物や動物(選定生物)が挙げられる。生態系を特徴づける生物としては、ある生態系で優占する生物(優占生物)や存在量が一定以上の植物や動物(代表生物)が挙げられる。その他の生物としては、植物や動物等に共生(寄生、相利共生及び日和見感染を含む)する微生物類が挙げられる。初期情報入力ステップS1では、選定生物は決定されていないため、代表生物又は優占生物についての情報を取得する。生物を一意に識別する識別情報としては名称のほか記号などでもよく、その分類の階層は科、属、種、亜種、系統など必要に応じて選定される任意の階層で特定してよい。
管理システム1のAPサーバ2100には、価値算出部2150が設けられている。価値算出部2150は、生態系を構成する生物ごとにその経済価値が記録されたデータベース(本実施態様では設計用DB2570)を参照し、対象地の現在における生態系(初期生態系)の経済的価値を、入力された初期情報に基づき計算する。本実施形態においては、図6に示す設計用DB2570に生物ごとに、その経済価値と好適しうる気候と生態系タイプとが記録されている。価値算出部2150は、地上生物叢情報として入力された初期生態系を構成する複数の生物について、各々の名称に基づいて価値情報DB2530及び設計用DB2570を参照し、存在量と価値(単価)とを乗じて各生物の経済価値を計算する。価値算出部2150はまた、各生物について計算した経済価値を合算し、対象地における初期生態系の経済価値(初期生態系価値)を計算する。
地下生物叢は、トビムシやミミズのように肉眼で特定できる大きさの土壌動物と、菌類(本明細書においては糸状菌又は真菌と同義)、細菌類、放線菌類、及び藻類や線虫を含む原生生物のような地下微生物(土壌微生物叢及び植物地下部の共生微生物叢に含まれる微生物)と呼ばれる微小生物とを含む。地下生物叢情報としては、これら地下生物叢に含まれる生物のうち、特に地下微生物に関する情報を取得しDBサーバ2500(生態系情報DB2550)に保持させておくことが好ましい。地下微生物に関する情報としては、土壌や植物根の単位体積(もしくは重量)あたりにおける動物個体数や、菌類、細菌類及び放線菌類の細胞数(もしくは、colony-forming unitやDNA量での推定値)、また、こうした生物群の種やその他の分類階層(operational taxonomic unitやamplicon sequencing variantでの代用も可能)の多様性(α多様性、β多様性、γ多様性)が挙げられる。また、後述する微生物叢設計により特定された、目標生態系の構築に有益な微生物(コア微生物)について、その微生物を特定できる識別情報(名称など)と、特筆すべき機能的特徴(植物Aに対する成長促進、昆虫Bによる食害抑制など)とともにDBサーバ2500(生態系情報DB2550)に保持させておくことが好ましい。
<生態系再設計処理>
次に生態系再設計処理S2について説明する。図5にクライアントが生態系再設計を行う場合にデバイス20に表示される画面例を示す。クライアントは、デバイス20を用いて図5に示す設計用画面を表示部に表示させ、設計目標を入力する。設計目標としては、再設計したい生態系に関する情報(タイプ及び構成生物種の少なくとも一方)又は目標生態系を再構築することで得られる経済価値の少なくとも一方とする。本実施態様においては、目標生態系と経済価値の両方を設計目標として設定し、生態系については、用途、生態系のタイプ及び生態系を構成する生物種を指定できるようにしている。
デバイス20から生態系設計目標の入力を受け取ると、設計部2150は設計目標として入力された入力値の中から、生態系を再設計するための項目(設計用情報)をそれぞれ抽出し、設計用DB2570を参照し抽出された項目に条件合致する好適生物の組み合わせ(生態系再設計モデル)を選び出す。設計部2110が生態系再設計のために抽出する設計用情報としては、対象地の気候タイプ、生態系タイプ、生態系を構成する生物の機能的特徴を指定する情報とすることが好ましい。図5に示す例では、対象地の所在地情報に基づき、公知のデータベースを用いて対象地の気候タイプが特定されるよう、構成されている。設計部2110は、この気候タイプ情報と、クライアントが指定した生態系タイプ及び構成生物情報を条件とし、設計用DB2570から条件に合致する生物の組み合わせを作成する。そして、価値算出部2150が作成した生物の組み合わせの経済価値を計算し、クライアントが指定した目標経済価値条件をクリアする生物の組み合わせとそれらによる経済価値とを生態系再設計モデルの設計案として出力し、デバイス20に表示させる。
<目標設定処理>
クライアントは、生態系再設計処理により出力された設計案を参考にして、目標とする生態系を構成する生物を指定し、目標生態系の構成を決定する。このステップ(目標設定処理S3)では、管理システム1は、以下の流れで、目標生態系に関する情報を作成し、記憶部2500に情報を記憶させる。
業務サーバ10がクライアントから目標生態系の決定を受け付けると、価値算出部2150は、決定された目標生態系を構成する生物の経済価値を合算し、目標生態系が対象地に再構築されることにより得られる経済的価値(目標価値)を計算する。目標価値は、目標生態系を構成する各々の生物について、目標生態系における目標存在量とその単位価値とを乗じ、それらを合算することで計算できる。
本実施態様に関わる管理システム1の設計部2110は、初期微生物叢情報に基づいて、目標生態系の誘導に有益な微生物を特定する機能を有する。具体的には、初期情報入力処理S1で対象地の土壌又は対象地に生育している植物の一方、好ましくは両方を分析試料とし、試料中に含まれる微生物叢の生物学的情報を取得し、生態系情報DB2550に保持させておく。そして目標生態系を構成する生物の候補が決定されれば、生態系情報DB2550に保持した微生物叢の生物学的情報と、各々の微生物由来遺伝子配列情報からその微生物が有する潜在的機能を推定する公知のアノテーションツールを用いて、目標生態系を構成する生物の定着及び/又は生育に寄与する微生物(コア微生物)を特定する。
本実施態様では、クライアントは設計部2110により特定された選定生物の候補について、地下生物叢情報を参照して選定生物を決定する。例えば、複数の選定生物の候補がある場合、地下生物叢情報から対象地に定着しやすいと推定される生物を選定生物とする、各選定生物候補について設計部2110が特定したコア微生物の操作性や機能を考慮して選定生物を決定する、などである。
コア微生物の特定方法としては、特願2020−039972号に記載された方法がある。設計部2110は、特願2020−039972号に記載された方法に従い、種々の微生物の遺伝子配列情報やそれら遺伝子配列情報からその微生物が有する潜在的機能が記録された公知の微生物データベースなどを使用して、コア微生物を特定する。なおここでいう「特定」とは、微生物の遺伝子配列情報に基づいてコア微生物としての機能を奏しうる微生物を推定する演算処理により、コア微生物と推定される微生物を見出すことを意味する。特定されたコア微生物は、目標生態系を構築する生物(選定生物)に接種するなどにより選定植物とコア微生物とが先住効果を奏するような共生関係を構築するように対象地に導入することで、選定生物の生存率や生育を向上させ、目標生態系の誘導を容易化する。
価値算出部2150により算出された目標価値は価値情報DB2150に保持させる。また、目標生態系に関するその他の情報であって目標生態系の価値計算に用いる情報、具体的には目標生態系を構成する生物の情報も価値情報DB2150に保持させるか、生態系情報DB2550に保持された情報に紐づけることが好ましい。目標生態系を構成する生物の情報は、それらを特定する生物を一意に識別する名称などの識別符号とそれら各々の目標現存量とを含むことが好ましい。さらにコア微生物についての情報(例えば機能的特徴)もDBサーバ2500に保存させるとよい。生態系の価値に関する情報以外の生態系に関する情報を保存する記憶媒体は特に限定されない。
図7に価値情報DB2150が保持する情報の一例を示す。実線7−Aで示した部分は目標生態系の構築を開始する以前に(初期情報入力処理S1及び目標設定処理S3で)入力され保持される情報である。破線7−Bで示した部分は目標生態系の構築を開始した後に(経過情報処理S4で)入力され保持される情報である。
<経過情報処理>
経過情報処理S4は、目標生態系の再構築過程における複数の時点で行われる。経過情報処理S4では、対象地に再設計され再構築過程にある生態系(現況生態系)の状態を示す情報の処理を行う。従って、経過情報処理S4では情報処理に先立ち、対象地における生態学的調査を行い、調査に基づき取得された現況生態系の情報を入力値とする。対象地における生態学的調査は、目標生態系の誘導状態を把握するのに適した期間として設定された間隔(例えば林であれば数か月ごと、畑であれば数週間間隔など)で行う。
複数時点における生態学的調査では、土壌物理化学的情報と、生物的状況についての情報(特に地上生物叢と地下微生物叢それぞれの調査時点における生物的状況に関する情報)とを取得することが好ましい。気象情報は各種センサーなどを用いて随時、取得するか、公知の気象情報サービスより得た情報を経過情報処理S4に伴い生態系情報DB2550に保持させてもよい。
地下微生物叢情報は、目標生態系を誘導するのに好適な土壌微生物叢が構成されているかを確認したり、選定生物の生育促進などを助け、病害生物の影響から保護するための微生物を追加接種したりするために用いることができる。
地上生物叢情報としては、1種以上の選定生物について、現況生態系におけるその存在量を経過情報処理S4における入力値とする。価値算出部2150は、価値情報DB2530、生態系情報DB2550、及び設計用DB2570のいずれか1以上を必要に応じて参照し、現況生態系における選定生物の現存量とその経済的価値とから現況生態系の現在価値を計算する。なお、現存量も計算又は調査に基づく推定値でよい(以下同じ)。本実施形態においては、生態系再設計に際し選定された生物について、収益化までに複数回の生態学調査を行い、目標生態系にて想定される選定生物の役割について、その選定生物の現況生態系における現存量などの情報からどれだけその役割を達成しているか(選定生物の完成度)を評価する。そして、価値算出部2150が選定生物の現況生態系における完成度を考慮してその経済価値を計算する構成としている。図7の例では、収益化までに毎年3回の生態学調査を30年に渡って実施する必要がある選定生物(スギ)について、その現存量を、各調査回での選定生物の成長量(1/3回×30年)で修正し、経済価値を計算している。
選定生物が複数ある場合、価値算出部2150は、各選定生物の現況生態系における現存量を入力値とし、各選定生物の経済価値を設計用DB2570から参照し、必要に応じて上述の修正を行い、各々の選定生物の経済価値を計算する。次に、価値算出部2150は、各選定生物の経済価値を合算して、現況生態系の価値(現在価値)を計算する。現況生態系に選定生物以外の経済的価値を有する生物(選定外生物)が存在する場合、選定外生物を構成生物に追加し、価値算出部2150は選定外生物の存在量に基づく経済価値も合算して現在価値を計算するよう構成してもよい。価値算出部2150が計算した現在価値は価値情報DB2530に保持させる。
価値算出部2530はさらに、生態系の完成度に関する情報を出力するよう設計されることが好ましい。具体的には、目標生態系におけるそれぞれの選定生物の種数や現存量と、現況生態系におけるそれぞれの選定生物の種数や現存量との差分を計算し現況生態系の目標生態系に対する完成度を計算する。現況生態系の完成度の情報は、生態系情報DB2550に保持してもよいが、本実施態様では価値情報DB2530に保持させている。
本実施態様の価値算出部2150は、価値情報DB2530に複数の現在価値が時系列情報と共に保持されている場合、これら複数の現在価値と時系列情報から、将来のある指定された時点において再構築されている(あるいは再構築の過程が進んでいる)生態系の価値を将来価値としての予測する機能を持ち得る。価値算出部2150では、例えば複数の現在価値とそれらの時系列情報(測定日や測定間隔)とから将来価値を推測するために任意の統計モデリングが適用される。現況生態系の将来価値予測を行う統計モデリングでは、ある時点の現況生態系の目標生態系に対する完成度情報も参照し、予測精度の向上を計る。
<隣接対象地の情報管理>
図4の土地情報DB2510には、権利者が異なる複数の対象地であって、互いに隣接する対象地(土地IDがOIUS−N−5678とOIUS−N−5679)をまとめて、生態系再設計を行うひとつの対象(隣接対象地)としている。隣接対象地については、初期情報入力処理S1において、隣接対象地を構成する複数の対象地について、属性情報(同一の隣接対象地として識別するID、隣接対象地としての面積、すべての権利者)を土地情報DB2510に保持させる。そして生態系の再設計においては、同一IDをもつ隣接対象地を最小単位として目標生態系を再設計する。そして、初期価値、現在価値、将来価値、目標価値を隣接対象地単位で計算し、価値情報DB2530に記憶させる。
権利者管理部2170は、隣接対象地を構成するそれぞれ対象地のうち、クライアントより指定された対象地について、隣接対象地に再構築されている生態系の指定対象地における現在価値の計算要求を受け付ける。その場合、権利者管理部2170は土地情報DB2510を参照し、隣接対象地の現在価値を指定された対象地が占める面積割合で除して、指定対象地における現況生態系の現在価値を計算する。このように、互いに隣接し権利者が異なる複数の対象地を隣接対象地として管理することで、人為的に設定された登記上の境界を越えて生態系の再設計、再構築を行うことができるとともに、再設計、再構築された生態系により得られる経済的価値を、隣接対象地を構成する対象地の権利者に分配できる。
本管理システム1では、DBサーバ2500に各種情報ごとのデータベース(土地情報DB、価値情報DB、生態系情報DB、設計用DB)を設けている。しかしデータベースは業務サーバ群10単体に限らず、他の外部サーバに設けてもよく、各データベースの構成は本実施態様で例示したものに限定されない。
<生態系誘導方法>
本発明の別の態様は、バックキャスト思考で再設計された生態系を誘導する方法に係る。本発明に係る生態系誘導方法の一実施態様としては、例えば耕作放棄地のように経済価値が低い状態にある土地を対象とし、その時点での経済価値を把握するとともに生態学的調査を行う。そして得られた生態学的調査結果に基づき、好ましくは調査対象の土地に生息する現存微生物叢情報を取得する。
また、その土地の物理化学的条件(気候、土壌の状態、及び地形など)からその土地で育成しやすく、市場での取引に適した農林産物を特定し、維持管理コストを抑えた育成がしやすく農林産物の収穫が容易な生物を含む生態系を再設計する。そして、再設計した生態系を誘導するために有益なコア微生物を特定し、再設計した生態系を誘導するキーとなる植物(選定植物)とコア微生物とが先住効果を奏する共生関係を構築する手当(以下、「共生系誘導処理」)を行い、再設計した生態系の誘導を開始するとよい。
共生系誘導処理としては、選定植物の種子にコア微生物を接種して発芽させて育苗する、コア微生物を接種した培土で選定植物の種子や苗を育成するなどして得られた苗を対象地に植栽する、コア微生物を接種した養液中で発芽させる、発根させた選定植物を対象地に植栽する、コア微生物を優占させた資材で選定植物の幼根の周囲を覆う、選定植物が生育している土壌にコア微生物を含む培土などの資材を混合する、といった方法が挙げられる。非特許文献1にはコア微生物を特定し、共生系誘導処理を行うことで、選定植物とコア微生物との共生関係を人為的に誘導しうることが記載されている。
コア微生物としては、対象地に存在する微生物を用いることが好ましい。対象地に存在する微生物をコア微生物として利用することで、対象地での生態系再誘導の確実性を高めることが期待できるためである。ただしコア微生物として、対象地以外にも生息する微生物で対象地の生態系誘導に有用と推定される微生物を用いてもよい。
例えば、対象地が裸地化している場合、対象地の近隣に構築されている、植物を含む生態系(森林生態系や農地生態系)に生息している微生物をコア微生物として用いてもよい。具体的には、土砂災害で裸地化した土地を対象地とする場合、その土地から半径5〜10km程度の範囲にある生態系に生息している微生物をコア微生物としてもよい。
あるいは、対象地と同様と考えられる環境に構築されている生態系に生息している微生物をコア微生物として用いてもよい。対象地と同様と考えられる環境とは、気候帯や地形といった物理的環境が同等とみなしうる環境であり、例えば北海道の原野と、気候条件が似ている北米の原野であれば物理的環境が同等とみなしうる。
対象地以外に生息するコア微生物としては、対象地の近隣、または物理的に同様と考えられる環境であって、目標生態系を構成する選定植物を優占生物や代表生物として含む地上生態系が構築されている環境中の微生物を用いることが好ましい。
本発明に係る生態系誘導方法は、非特許文献1に開示された、コア微生物の特定とコア微生物を用いた共生系誘導処理とを用いることで、バックキャスト思考で再設計した生態系を誘導する。本発明では、再設計した生態系の誘導を開始した後も、適宜、対象地の生態学的調査を行い、必要に応じて共生系誘導処理を行う。
以下、本発明に係る別の生態系誘導方法について、図8を参照して説明する。本実施態様に係る生態系誘導方法では、第1ステップ(調査ステップSR1)として、生態系調査を行い、生態系を再設計する対象地から試料を採取する。試料の採取範囲、採取箇所は対象地に応じて適宜、決定する。試料は、少なくとも対象地土壌の堆積有機物層(A0層)を含み、鉱質土層のA層以下M層までを含むことが好ましい。また、土壌以外に土壌中の植物根も試料として採取することが好ましい。調査ステップSR1では、対象地の植生や生息する動物種などの地上生態系調査を行い、優占生物や代表生物を特定し、対象地に生態系を再設計する前の初期状態の地上生態系を特定するとよい。
調査ステップSR1で得られた試料は、一部をDNA分析に供し(分析ステップSR2)、一部から微生物の資源化(単体把握ステップSR3)を行う。DNA分析としては、一般的なサービスを利用すればよい。単体把握ステップSR3では、試料の他の一部を用い、一般的な微生物単離法により試料に含まれる微生物を単離する(単離ステップ)。単離された各微生物は、DNA分析や形態観察その他の方法により分類、同定し、生理生態的な機能などを明らかにすることで、機能などが把握された微生物資源コレクションとする。
分析ステップSR2により得られた分析データは、非特許文献1に開示された解析方法などを用いて解析ステップSR4で解析し、対象地の地下微生物叢の構造や機能を解析する。解析ステップSR4で得られた、対象地の地下微生物叢についての知見は、再設計ステップSR6における生態系再設計に用いることができる。すなわち、解析ステップSR4により得られた対象地の地下微生物叢に関する情報を基に、当該対象地の地下微生物叢と相性の良い植物を推定できる。具体的には、上述した方法で選定植物候補に対するコア微生物を特定する、地下微生物叢情報に基づき公開されている生物遺伝情報データベースや各種文献情報などを参照して、選定植物候補と対象地の地下微生物叢と相性を検討する。
このように再設計ステップSR6では、対象地で育てたい植物(選定植物候補)の中から解析ステップSR4の解析により得られた微生物叢と相性の良い植物を選定し、対象地に誘導する生態系を構成する植物(選定植物)やその誘導順序などを決定する。あるいは、対象地で育てたい植物(選定植物)を先に決定し、その植物にとって有益な微生物(コア微生物)を特定し、特定されたコア微生物と対象植物とが共生関係を構築するように誘導するようにしてもよい。
再設計ステップSR6では、選定植物の決定と、その選定植物を対象地に導入する時期を設定する。複数の植物を導入する場合、その時期は対象地で生じうる植生の遷移を考慮し、数週間から月、年の単位の間隔をあけてもよい。具体的には、災害で崩壊するなどした裸地状態の対象地であれば、草本植物を導入するために播種する第1段階、草本植物が繁茂した数か月〜数年後に中低木樹木を植栽して導入する第2段階とするといった設計が挙げられる。
再設計ステップSR6の次は、再設計ステップSR6で決定された選定植物を対象地に定着させ生態系を構築する(生態系再構築ステップSR8)。生態系再構築ステップSR8では、選定植物と、その選定植物を対象地に定着させるのに有益な微生物との間に、「先住効果」を奏する共生関係を人為的に構築する共生系誘導処理を行って、先住効果を利用して再設計した生態系を誘導することが好ましい。植物と微生物との間に構築される「先住効果」とは、先に構築された共生関係が後から構築されようとする微生物―植物の関係構築に阻害的に働く効果を指す。
共生系誘導処理は前述した方法により行えばよい。本実施態様では、単体把握ステップSR3で対象地の微生物を資源化しており、資源化された微生物をコア微生物として用いることが好ましい。対象地に存在する微生物をコア微生物として利用することで、対象地での生態系再誘導の確実性を高めることが期待できるためである。ただしコア微生物としては、前述した通り、対象地以外にも生息する微生物であって対象地の生態系再誘導に有用と推定される微生物を用いてもよい。
本発明では、本実施態様のように、対象地の調査(試料採取)とDNA分析をベースに得られた対象地の微生物叢情報に基づき、数か月〜数年、さらには数10年単位で得られる収益(経済的)目標を設定した生態系の設計(生態系再設計)を行う。そして生態系再構築ステップSR8で、対象地の微生物叢と相性の良い植物として決定された選定植物を再設計されたプランに従って定着させることで再設計された目標生態系を人為的に誘導する。生態系再構築ステップSR8では、コア微生物との先住効果を奏するよう共生関係を人為的に誘導した選定植物を対象地に導入することが好ましく、例えば、コア微生物を優占させた培土で発芽させ育苗することで先住効果を持たせた苗を対象地に植栽する。
この生態系再構築ステップSR8で誘導される生態系は、再設計ステップSR6において、対象地を所望の経済的価値とする生態系として設定された目標生態系である。例えば対象地が農地である場合、目標価値としては、対象地で栽培される農作物の単位面積当たりの年間粗収益を用いることができる。そして、対象地に誘導する生態系(農業生態系)を構成する植物(農作物)として、地下生物叢情報を参照して設定した年間粗収益を上げうる農作物を作付する植物(選定植物)とする。
本実施態様においては、再設計ステップSR6において、設定された年間粗利益(経済的価値)を上げうる農作物(選定植物候補)について、解析ステップSR4で得られた解析結果を用いて対象地の微生物叢との相性をチェックし、実際に作付する農作物(選定植物)とするか否かを決定する。例えば、同等の年間粗利益を上げうる複数の選定植物候補の中から、解析ステップSR4において、対象地の微生物叢との相性が良い農作物が選定植物として選択される。
そして、再設計ステップSR6において、対象地の目標価値と微生物叢との相性を考慮し、設計された目標生態系(農地生態系)を構成する選定植物として決定された農作物を対象地に導入(作付)する際には、上述したとおり、コア微生物との共生関係が人為的に誘導された農作物(例えばコア微生物を培養した培土で栽培した苗など)を導入することが好ましい。作付する農作物にコア微生物との共生関係が人為的に構築されていることにより奏される先住効果により、作付された農作物が対象地においてストレス耐性や養分要求性が優れた植物―微生物共生ネットワークを構築しやすくするためである。
次に、本発明に係る生態系誘導方法のさらに別の実施態様として、混合農林業(アグロフォレストリー)を行う複合農林地生態系を人為的に構築する方法について説明する。本明細書において、複合農林地とは、樹木下で農作物を栽培する農林業混合経営を行う農林地を意味するものとする。本実施態様に係る生態系誘導方法においては、地上の植物生態系の遷移を人為的に設計し、設計された生態系を人為的に誘導する。本実施態様の生態系の設計においては、設計された遷移の段階ごとに対象地について所望の経済的価値を有する目標生態系を設定する。
具体的には、例えば、第1段階として飼料、肥料、食料、または蜜源となるような草本植物を主体とする生態系(ここでは「草本生態系」と称する)を誘導、第2段階として食用、観賞用といった用途のある低木植物を主体とする生態系(ここでは「低木生態系」)を誘導、最終的に木材となる高木植物が林立する生態系(ここでは「高木生態系」)を人為的に誘導するものとする。
本実施態様に係る生態系誘導方法においては、生態系誘導前の対象地について上述した調査、分析、解析、再設計を行い、第1段階から最終段階までに誘導する複数の異なるタイプの生態系として、所望の経済的価値を有する生態系を設計する。各タイプの生態系を再設計する方法は本発明の他の実施態様に係る生態系誘導方法と同じであり、誘導する生態系の目標価値と対象地の地下生物叢との相性を考慮し、目標生態系を構成する選定植物を決定する。
各タイプの生態系を再設計した後、順次、目標生態系を誘導する。各タイプの目標生態系の誘導方法も、本発明の他の実施態様に係る生態系誘導方法と同じである。すなわち、目標生態系を構築する選定植物を対象地に導入する際には、その選定植物がコア微生物との先住効果を奏するよう、コア微生物との共生関係を人為的に誘導することが好ましい。
このように生態系の遷移を人為的に設計し誘導する際、コア微生物との共生関係を人為的に誘導された植物を対象地に導入する方法としては、人為的に誘導される遷移の段階に応じて播種、植栽といった方法を採用する。また、再設計された生態系を誘導に有益な微生物を、適宜、対象地に導入して、再設計された生態系の誘導を強化することも好ましい。具体的には、再設計された生態系の誘導に有益な微生物の培養液やそれらを培養した培土を対象地に投入するという方法が挙げられる。
このようにして生態系の再設計から再設計された生態系を誘導している過程にある生態系の生態学的状態に関する情報を取得するとともに、その時々に構築されている生態系の経済的価値を計算することで、対象地の土地の経済的価値を向上させる。
本発明に係る土地の価値情報管理システムは、自然環境下で構築される生態系に対し、所望の経済的価値を持つ生態系としてバックキャスト思考で設計した生態系を誘導して、土地の経済的価値を向上させるために用いることができる。本発明によれば、放置林や荒廃農地のように、経済活動に利用されておらず実質的な経済的価値が低い状態にある土地を対象とし、農作物市場などで取引される農作物や果実、木材や山野草など収穫するのに適した生態系を再設計し、設計された里山や複合農業林を誘導しうる。
1 土地の価値情報管理システム
10 業務サーバ群
100 フロントエンド
200 バックエンド
2110 設計部(生態系再設計支援部及び微生物設計部)
2150 価値算出部(将来価値予測部)
2170 権利者管理部
2510 土地情報DB(属性情報記憶部)
2530 価値情報DB(価値情報記憶部)
2550 生態系情報DB(生態系情報記憶部)
2570 設計用DB(再設計情報記憶部)

Claims (7)

  1. 植物の育成を行う対象地から試料を採取する調査ステップと、
    当該試料のDNA分析を行い、前記植物の育成開始前の前記対象地の微生物叢を解析する微生物叢解析ステップと、
    前記微生物叢解析ステップの解析結果を参照して前記対象地で育成する育成植物を決定する生態系再設計ステップと、
    前記育成植物を前記対象地で育成することに寄与する微生物との間に先住効果を奏する共生関係を人為的に構築された当該育成植物を前記対象地に導入する生態系再構築ステップと、を含む生態系誘導方法。
  2. 前記試料は土壌であり、前記微生物は土壌微生物である請求項1に記載の生態系誘導方法。
  3. 前記微生物は、菌類である請求項2に記載の生態系誘導方法。
  4. 前記試料は植物根を含み、前記微生物は土壌中で前記育成植物の根と共生ネットワークを構築する菌類である請求項3に記載の生態系誘導方法。
  5. 前記生態系は、植物を栽培する農地生態系である請求項1から4のいずれかに記載の生態系誘導方法。
  6. 前記生態系は、森林生態系である請求項1から4のいずれかに記載の生態系誘導方法。
  7. 前記生態系は、樹木の存在下で農作物が育成される里山生態系である請求項1から4のいずれかに記載の生態系誘導方法。

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