本発明は、多数の方法で実装可能であり、多数の方法は、プロセス、装置、システム、組成物、コンピュータ可読記憶媒体上で具現化されるコンピュータプログラム製品、および/または、プロセッサ、例えばプロセッサに連結されたメモリに記憶されるおよび/またはメモリによって提供される命令を実行するように構成されたプロセッサを含む。この明細書では、これらの実施態様または本発明がとり得る他の任意の形は、技術と称されることがある。一般に、開示されたプロセスのステップの順序は、本発明の範囲内で変更されてもよい。別途記載されていない限り、タスクを実行するように構成されたものとして記載されるプロセッサまたはメモリのような構成要素は、そのタスクを所定の時間に実行するように一時的に構成される一般的な構成要素またはそのタスクを実行するために製造された特定の構成要素として実施されてもよい。本明細書において、「プロセッサ」という用語は、データ、例えばコンピュータプログラム命令を処理するように構成された1つまたは複数の装置、回路および/または処理コアを意味する。
以下、本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細な説明が、本発明の原理を示す添付の図面と共に提供される。本発明は、この種の実施形態に関連して記載されているが、本発明は、任意の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ限定され、本発明は、多数の代替物、変更物および均等物を包含する。多数の具体的な詳細は、以下の説明に記載され、本発明の完全な理解を提供する。これらの詳細は、例のために提供され、本発明は、これらの具体的な詳細の一部または全部を用いずに特許請求の範囲に従って実施され得る。明確性のために、本発明に関連する技術分野において公知である技術的な材料は、本発明が不必要に不明瞭にならないように詳述されていない。
内径が1ナノメートル程度のポアサイズを有するナノポア膜装置は、迅速なヌクレオチド配列決定において見込みを示してきた。電位が導電性流体に浸漬されたナノポア全体に印加されたとき、ナノポア全体のイオンの伝導に起因するわずかなイオン電流が観察可能である。電流の量は、ポアサイズに影響される。
ナノポアベースの配列決定チップは、DNA配列決定のために用いられてもよい。ナノポアベースの配列決定チップは、アレイとして構成される多数のセンサセルを組み込む。例えば、100万個のセルのアレイは、1000行×1000列のセルを含み得る。
図1は、ナノポアベースの配列決定チップ内のセル100の一実施形態を示す。膜102は、セルの表面にわたって形成される。いくつかの実施形態では、膜102は、脂質二重層である。可溶性タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)および対象の分析物を含むバルク電解質114は、セルの表面上に直接配置される。単一のPNTMC104は、電気穿孔法によって膜102内に挿入される。アレイ内の個々の膜は、化学的にも電気的にも互いに接続されていない。それゆえ、アレイ内の各セルは、独立した配列決定機械であり、PNTMCと連結した単一のポリマー分子に固有のデータを生成する。PNTMC104は、分析物に対して作用し、そうでなければ不透過性の二重層を介してイオン電流を調節する。
図1を続けて参照すると、アナログ測定回路112は、電解質の薄膜108によって覆われた金属電極110に接続されている。電解質の薄膜108は、イオン不浸透性膜102によって、バルク電解質114から分離される。PNTMC104は、膜102を横切り、イオン電流がバルク液体から作用電極110へと流れるための唯一の経路を提供する。セルは、電気化学的電位センサである対電極(CE)116も含む。セルは、参照電極117も含む。
いくつかの実施形態では、ナノポアアレイは、合成による単分子ナノポアベースの配列決定(ナノ−SBS)技術を用いる並行配列決定を可能にする。図2は、ナノ−SBS技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するセル200の一実施形態を示す。ナノ−SBS技術では、配列決定されるべき鋳型202およびプライマーは、セル200に導入される。この鋳型−プライマー複合体に対して、異なってタグ付けされた4つのヌクレオチド208は、バルク水相に添加される。正しくタグ付けされたヌクレオチドがポリメラーゼ204と複合体を形成すると、タグの尾部は、ナノポア206の筒内に位置決めされる。ナノポア206の筒内に保たれるタグは、固有のイオン遮断信号210を生成し、それにより、付加された塩基を、タグの異なる化学構造により電子的に同定する。
図3は、予め装填されたタグを用いたヌクレオチド配列決定を実行しようとしているセルの一実施形態を示す。ナノポア301は、膜302内に形成される。酵素303(例えば、DNAポリメラーゼのようなポリメラーゼ)は、ナノポアと結合している。いくつかの場合では、ポリメラーゼ303は、ナノポア301に共有結合している。ポリメラーゼ303は、配列決定されるべき核酸分子304と結合している。いくつかの実施形態では、核酸分子304は環状である。いくつかの場合では、核酸分子304は線状である。いくつかの実施形態では、核酸プライマー305は、核酸分子304の一部にハイブリダイズしている。ポリメラーゼ303は、ヌクレオチド306のプライマー305上への、一本鎖核酸分子304を鋳型として用いる取り込みを触媒する。ヌクレオチド306は、タグ種(「タグ」)307を備える。
図4は、予め装填されたタグを用いた核酸配列決定のためのプロセス400の一実施形態を示す。段階Aは、図3において説明したような構成要素を示す。段階Cは、ナノポア内に装填されるタグを示す。「装填された」タグは、認識可能な長さの時間、例えば、0.1ミリ秒(ms)から10000msの間、ナノポア内に位置決めされる、および/または、ナノポア内または近くに留まるタグでもよい。いくつかの場合では、予め装填されるタグは、ヌクレオチドから放出される前に、ナノポア内に装填される。いくつかの例では、タグが、ヌクレオチド組み込み事象の際に放出されたあとにナノポアを通過する(および/またはナノポアにより検出される)確率が適度に高い、例えば90%から99%である場合、タグは予め装填される。
段階Aにおいて、タグ付けされたヌクレオチド(4つの異なるタイプ:A、T、GまたはCのうちの1つ)は、ポリメラーゼと結合していない。段階Bにおいて、タグ付けされたヌクレオチドは、ポリメラーゼと結合している。段階Cにおいて、ポリメラーゼは、ナノポアにドッキングする。タグは、ドッキングの間、電気的な力、例えば、膜および/またはナノポア全体に印加される電圧により生成される電界の存在下で生成される力によってナノポア内に引き込まれる。
結合したタグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子と塩基対合しない。これらの塩基対合しなかったヌクレオチドは、典型的には、正しく対合したヌクレオチドがポリメラーゼと結合したままである時間スケールより短い時間スケール内で、ポリメラーゼによって拒絶される。対合しなかったヌクレオチドは、一時的にのみポリメラーゼと結合するので、図4に示すプロセス400は、典型的には、段階Dを越えて進行しない。例えば、対合しなかったヌクレオチドは、段階Bにおいて、または、プロセスが段階Cに入った少しあとに、ポリメラーゼによって拒絶される。
ポリメラーゼがナノポアにドッキングする前、ナノポアのコンダクタンスは、約300ピコジーメンス(300pS)である。段階Cにおいて、ナノポアのコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pSまたは120pSであり、それぞれは、タグ付けされたヌクレオチドの4つのタイプのうちの1つに対応する。ポリメラーゼは、異性化およびリン酸基転移反応を経て、ヌクレオチドを成長している核酸分子内に組み込み、タグ分子を放出する。特に、タグがナノポア内に保たれるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、図2の信号210を参照)は、タグの異なる化学構造により生成され、それにより、付加された塩基を電子的に同定する。サイクル(すなわち、段階AからEまたは段階AからF)を繰り返すことにより、核酸分子の配列決定が可能になる。段階Dにおいて、放出されたタグは、ナノポアを通過する。
いくつかの場合では、図4の段階Fに見られるように、成長している核酸分子内に組み込まれていないタグ付けされたヌクレオチドも、ナノポアを通過することになる。組み込まれていないヌクレオチドは、いくつかの例では、ナノポアによって検出され得るが、その方法は、組み込まれたヌクレオチドと組み込まれなかったヌクレオチドとを、ヌクレオチドがナノポア内で検出される時間に少なくとも部分的に基づいて区別するための手段を提供する。組み込まれなかったヌクレオチドに結合したタグは、ナノポアを迅速に通過し、短期間(例えば、10ms未満)の間検出され、一方、組み込まれたヌクレオチドに結合したタグは、ナノポア内に装填され、長期間(例えば、少なくとも10ms)の間検出される。
図5は、ナノポアベースの配列決定チップ内のセル500の一実施形態を示す。セル500は、誘電体層501を含む。誘電体層501を形成するために使用される誘電体材料は、ガラス、酸化物、窒化物、その他を含む。セル500は、誘電体層501の上層の誘電体層504を含む。誘電体層504は、作用電極502が底部に配置されている、ウェル505を囲む側壁を形成する。誘電体層504を形成するために使用される誘電体材料は、ガラス、酸化物、シリコン一窒化物(SiN)、その他を含む。誘電体層504の上面は、シラン処理され得る。シラン処理は、誘電体層504の上面の上に疎水性層520を形成する。いくつかの実施形態では、疎水性層520は、約1.5ナノメートル(nm)の厚さを有する。
誘電体層壁504によって形成されるウェル505は、作用電極502の上層の塩類溶液506薄膜をさらに含む。塩類溶液506は、以下の、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)、のうちの1つを含み得る。いくつかの実施形態では、塩類溶液506の薄膜は、約3マイクロメートル(μm)の厚さを有する。
図5に示すように、膜は、誘電体層504の上面に形成され、ウェル505全体に及ぶ。例えば、膜は、疎水性層520の上面に形成された脂質単一層518を含む。膜がウェル505の開口に達したとき、脂質単一層は、ウェルの開口全体に及ぶ脂質二重層514に移行する。タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)および対象の分析物を含むバルク電解質508は、ウェルの上に直接配置される。単一のPNTMC/ナノポア516は、電気穿孔法によって、脂質二重層514内に挿入される。ナノポア516は、脂質二重層514を横切り、バルク電解質508から作用電極502へのイオン流のための唯一の経路を提供する。バルク電解質508は、以下の、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)、のうちの1つをさらに含み得る。
セル500は、電気化学的電位センサである対電極(CE)510を含む。セル500は、参照電極512も含む。いくつかの実施形態では、対電極510は、複数のセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称される。共通電極は、共通の電位を、測定セル内のナノポアと接触するバルク液体に印加するように構成可能である。共通の電位および共通電極は、測定セルの全てに共通である。
いくつかの実施形態では、作用電極502は、金属電極である。非ファラデー性伝導のために、作用電極502は、腐食および酸化に耐性を示す、例えば、白金、金などの金属、チタン窒化物、およびグラファイトで形成され得る。例えば、作用電極502は、電気めっきを用いた白金電極であってもよい。例えば、作用電極502は、チタン窒化物(TiN)作用電極であってもよい。
ナノポアを脂質二重層内に挿入するステップは、脂質二重層がナノポアベースの配列決定チップのセル内に適切に形成されたことが判定されたあとに、実行される。いくつかの技術では、脂質二重層がセル内で適切に形成されたか否かを判定するプロセスは、適切に形成済みの脂質二重層を破壊させ得る。例えば、刺激電圧が印加され、電流は電極を横断して流れることになり得る。測定される刺激電圧への応答が、適切に形成された脂質二重層を有する(すなわち、脂質分子厚の2層である脂質二重層)セルを、適切に形成された脂質二重層を有さないセル(例えば、セルのウェル全体に及ぶ、厚い脂質および溶媒の複合膜を有するセル)と区別するために使用され得るが、いくつかの例では、刺激電圧レベルは、十分に高く、適切に形成済みの脂質二重層を壊すことになる。すなわち、脂質二重層をテストする刺激電圧は、脂質二重層に対して破壊的であり得る。適切に形成済みの脂質二重層が刺激電圧によって破壊された場合では、非常に高い電流が、短絡状態の結果として、電極を横断して流れ始める。それに応じて、システムは、再び特定のセル内に新たな脂質二重層を再形成することを試行するが、このことは、時間を要し効率的でもない。加えて、脂質二重層は、連続する試行での特定のセル内で再形成しない可能性がある。結果として、適切に形成された脂質二重層およびナノポアを有するナノポアベースの配列決定チップ内のセル全体の割合(すなわち、ナノポアベースの配列決定チップの収量)は、低減される。
ナノポアベースの配列決定チップのセル内に形成される脂質二重層を検出する非破壊技術が、開示される。脂質二重層を検出する非破壊技術は、ナノポアベースの配列決定チップの効率および収量を増加させることを含む、多くの利点を有する。
図6Aは、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路600の一実施形態を示し、回路は、形成済みの脂質二重層が破壊しないように、脂質二重層がセル内に形成されるか否かを検出するように構成され得る。
図6Aは、セルの作用電極614と対電極616との間にあり、その結果、電圧が脂質膜/二重層612を横断して印加される脂質膜すなわち脂質二重層612を示す。脂質二重層は、脂質分子の2層からなる薄膜である。脂質膜は、脂質分子の(2より多い)数層からなる薄膜である。脂質膜/二重層612は、バルク液体/電解質618とも接触する。なお、作用電極614、脂質膜/二重層612、および対電極616が、図1の作用電極、脂質二重層、および対電極と比較して、上下反対に描かれていることに留意されたい。いくつかの実施形態では、対電極は、複数のセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称される。共通電極は、共通電極を電圧源Vliq620に接続することによって、共通の電位を、測定セル内の脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加するように構成可能である。共通の電位および共通電極は、測定セルの全てに共通である。共通電極とは対照的に、作用セル電極は、各測定セル内に存在し、作用セル電極614は、他の測定セル内の作用セル電極から独立して、異なる電位を印加するように構成可能である。
図6Bは、図6Aに示した図と同様の、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の回路600を示す。図6Aと比較して、作用電極と対電極との間に、脂質膜/二重層を示す代わりに、作用電極および脂質膜/二重層の電気特性を表す電気モデルを示す。
電気モデル622は、作用電極614の電気特性を表すコンデンサ624を含む。作用電極614に関連付けられたキャパシタンスは、2重層キャパシタンス(C2重層)とも称される。電気モデル622は、脂質膜/二重層に関連付けられたキャパシタンスをモデル化するコンデンサ626(C二重層)と、脂質膜/二重層に関連付けられた抵抗をモデル化する抵抗器628(R二重層)とをさらに含む。脂質膜/二重層に関連付けられた抵抗は、非常に高く、それゆえR二重層は、開回路によって置換され得て、電気モデル622をC2重層とC二重層の直列に簡略化できる。
電圧源Vliq620は、交流(AC)電圧源である。対電極616は、バルク液体618に浸漬され、AC非ファラデー性モードが利用され、方形波電圧Vliqを調節し、それを測定セル内の脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加する。いくつかの実施形態では、Vliqは、±200〜250mVの振幅および25〜100Hzの周波数を有する方形波である。
パスデバイス606は、脂質膜/二重層および電極を測定回路600と接続または切断するために使用され得るスイッチである。スイッチは、セル内の脂質膜/二重層を横断して印加され得る電圧刺激を有効化または無効化する。脂質が、脂質二重層を形成するためにセルに堆積される前では、2つの電極間のインピーダンスは、セルのウェルが封止されていないため、非常に低く、それゆえスイッチ606は、短絡状態を回避するために開路に維持される。スイッチ606は、脂質溶媒がセルに堆積されてセルのウェルを封止したあと、閉じられ得る。
回路600は、チップ上に作り込まれた積分コンデンサ608(ncap)をさらに含む。積分コンデンサ608は、リセット信号603を使用しスイッチ601を閉じ、その結果、積分コンデンサ608が電圧源Vpre605に接続されることによって、予備充電される。いくつかの実施形態では、電圧源Vpre605は、900mVの大きさの固定の正電圧を供給する。スイッチ601が閉じられているとき、積分コンデンサ608は、電圧源Vpre605の正電圧レベルまで予備充電される。
積分コンデンサ608が予備充電されたあと、リセット信号603が使用されスイッチ601が開路され、その結果、積分コンデンサ608は、電圧源Vpre605から切断される。この時点では、Vliqのレベルにより、対電極616の電位は、作用電極614の電位より高いレベルにあるか、その反対でもあり得る。例えば、方形波Vliqの正位相の間(すなわち、AC電圧源信号サイクルの暗期間)、対電極616の電位は、作用電極614の電位より高いレベルにある。同様に、方形波Vliqの負位相の間(すなわち、AC電圧源信号サイクルの明期間)、対電極616の電位は、作用電極614の電位より低いレベルにある。この電位差により、積分コンデンサ608は、AC電圧源信号サイクルの暗期間中に充電され、AC電圧源信号サイクルの明期間中に放電され得る。
アナログデジタル変換器(ADC)610のサンプリング速度により、積分コンデンサ608は、一定の期間中、充電または放電し、次に、積分コンデンサ608内に蓄えられる電圧は、ADC610によって読み出され得る。ADC610によるサンプリングのあと、積分コンデンサ608は、リセット信号603を使用しスイッチ601を閉じ、その結果、積分コンデンサ608が電圧源Vpre605に再接続されることによって、再び予備充電される。いくつかの実施形態では、ADC610のサンプリング速度は、1500〜2000Hzである。いくつかの実施形態では、ADC610のサンプリング速度は、最高で5kHzである。例えば、1kHzのサンプリング速度で、積分コンデンサ608は、約1msの期間中、充電または放電し、次に、積分コンデンサ608内に蓄えられる電圧は、ADC610によって読み出される。ADC610によるサンプリングのあと、積分コンデンサ608は、リセット信号603を使用しスイッチ601を閉じ、その結果、積分コンデンサ608が電圧源Vpre605に再接続されることによって、再び予備充電される。積分コンデンサ608を予備充電するステップと、積分コンデンサ608が充電または放電する一定の期間を待機するステップと、積分コンデンサ内に蓄えられた電圧をADC610によってサンプリングするステップとが、次に、システムの脂質二重層測定段階の間中サイクルで繰り返される。
回路600は、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加されるデルタ電圧変化(ΔVliq)に応答した積分コンデンサ608(ncap)におけるデルタ電圧変化ΔVADCを監視することによって、脂質二重層がセル内に形成されるか否かを検出するために、使用され得る。以下で詳述するように、脂質二重層測定段階中、回路600は、直列に接続されたC二重層626、C2重層624、およびncap608を有する電圧分割器としてモデル化され得て、電圧分割器の中間点で取り出される電圧変化は、脂質二重層が形成されたか否かを判定するADC610によって、読み出され得る。
図7は、システムの脂質二重層測定段階中の回路600の一部分の電気特性を表す電気モデル700を示す。図7に示すように、C2重層624は、C二重層626と直列に接続されているが、R二重層628(図6B参照のこと)は、電気モデル700から除去されている。R二重層628は、脂質膜/二重層に関連付けられた抵抗が、非常に高く、それゆえR二重層が、開回路として近似され得るので、電気モデル700から除去することができる。図7に示すように、C2重層624およびC二重層626は、ncap608と直列にさらに接続される。
ACモードで動作するとき、ADCによって読み出される電圧(V
ADC)は、以下の式で決定される。
ここで、Z=1/(jωC)であり、
Z(ncap)は、n
capに関連付けられた交流インピーダンスであり、
Z(2重層)は、作用電極に関連付けられた交流インピーダンスであり、
Z(二重層)は、脂質膜/二重層に関連付けられた交流インピーダンスである。
2重層の交流インピーダンスであるZ(2重層)は、C
2重層がC
二重層すなわちn
capのキャパシタンスよりもかなり大きいので、Z(二重層)およびZ(ncap)と比べて非常に低い値を有する。したがって、Z(ncap)=1/(jωCn
cap)、Z(二重層)=1/jωC
二重層、およびZ(2重層)=0を代入すると、式(1)は、以下のように簡易化される。
ここで、C(ncap)は、n
capに関連付けられたキャパシタンスであり、
C(二重層)は、脂質膜/二重層に関連付けられたキャパシタンスである。
脂質がまず脂質二重層を形成するためにセル内に堆積されるとき、セルのいくつかは、自然に形成される脂質二重層を有するが、そのセルのいくつかは単に、セルのウェルの各々の全体に広がる厚い脂質膜(脂質分子の複数の層および共に組み合わされた溶媒を伴う)を有するにすぎない。脂質二重層に関連付けられたキャパシタンスは、脂質膜/二重層のキャパシタンスがその厚さに反比例するので、厚さが脂質分子の2層より多い、脂質膜に関連付けられたキャパシタンスよりも大きい。脂質膜が薄膜化され、脂質二重層になるように移行するにつれて、厚さは減少し、その付随するキャパシタンスは増加する。上記の式(2)では、脂質二重層がセル内で形成し始めるにつれて、C(二重層)は増加し、一方、C(ncap)は一定で、その結果、VADC全体では増加する。VADCの増加は、それゆえ脂質二重層がセル内で形成されたことの指標として使用され得る。
いくつかの実施形態では、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加されるデルタ電圧変化(ΔV
liq)に応答する積分コンデンサ608(n
cap)でのデルタ電圧変化ΔV
ADCは、脂質二重層がセル内で形成されたか否かを検出するために、監視される。例えば、式(2)は、以下のように書き直され得る。
ここで、ΔV
ADCは、ADCによって読み出される積分コンデンサ608(n
cap)での電圧変化である。
ΔV
liqは、バルク液体に印加される電圧変化であり、
C(ncap)は、n
capに関連付けられたキャパシタンスであり、
C(二重層)は、脂質膜/二重層に関連付けられたキャパシタンスである。
上記の式(3)では、C(ncap)が一定に留まり、一方、C(二重層)は、脂質二重層がセル内で形成し始めるにつれて増加するので、ΔVADCも同様に増加する。ΔVADCは、脂質膜/二重層に関連付けられたキャパシタンスであるC(二重層)におおよそ比例する。ΔVADCの増加は、それゆえ脂質二重層がセル内で形成されたことの指標として使用され得る。
いくつかの実施形態では、より確かに脂質二重層を検出する観測可能なΔVADCを最大化するために、脂質膜/二重層(最大ΔVliq)と接触するバルク液体に印加される最大電圧変化に応答するΔVADCは、脂質二重層がセル内で形成されたか否かを検出するために、監視される。
図8Aは、正/負の電圧変化±ΔVliqに応答した小さな観測された正/負の電圧変化±ΔVADCによって、脂質二重層のセル内での形成が検出されないことを示す。図8Bは、正/負の電圧変化±ΔVliqに応答した大きな観測された正/負の電圧変化±ΔVADCによって、脂質二重層のセル内での形成が検出されることを示す。
図8Aでは、方形波Vliqが負位相から正位相に変化するとき、正の最大電圧変化+ΔVliqが発生し、一方、方形波Vliqが正位相から負位相に変化するとき、負の最大電圧変化−ΔVliqが発生する。図8Aでは、ΔVliqが正の最大値にある段階において、脂質二重層がセル内で形成されていない場合、小さな+ΔVADCのみが観測され得て、ΔVliqが負の最大値にある段階において、脂質二重層がセル内で形成されていない場合、小さな−ΔVADCのみが観測され得る。
図8Bでは、ΔVliqが正の最大値にある段階において、脂質二重層が既にセル内で形成されている場合、大きな正の電圧変化+ΔVADCが観測され得る。そして、ΔVliqが負の最大値にある段階において、脂質二重層が既にセル内で形成されている場合、大きな負の電圧変化−ΔVADCが観測され得る。
いくつかの実施形態では、ΔVliqの絶対値(|ΔVliq|)が最大であるとき観測されるΔVADCの絶対値(|ΔVADC|)は、所定の閾値と比較される。|ΔVADC|>所定の閾値の場合、そのとき脂質二重層が検出されたと判定される。逆に、|ΔVADC|<所定の閾値の場合、そのとき脂質二重層が検出されないと判定される。
図9Aは、脂質二重層がセル内部で形成される前後の、時間に対するVADCの例示的なプロットを示す。図9Aのプロットは、実際の試験データに基づく。図9Aに示すように、Y軸のVADCの単位は、ADCのカウントである。しかしながら、他の単位が同様に用いられてもよい。図9Aに示すように、脂質二重層が形成されていない期間t1の間に記録される|ΔVADC|の値は、脂質二重層がセル内で形成された期間t2の間に記録される値よりも小さい。
図9Bは、脂質二重層が形成されなかったときの期間t1の間の、時間に対するVADCの例示的なプロット(図9A参照のこと)の拡大図を示す。図9Bで示した結果は、図8Aと一致する。図9Bでは、方形波Vliqが負位相から正位相に変化するとき、最大+ΔVliqが発生し、一方、方形波Vliqが正位相から負位相に変化するとき、最大−ΔVliqが発生する。図9Bでは、ΔVliqが正の最大値にある段階において、脂質二重層がセル内で形成されていないので、小さな+ΔVADCのみが観測され得て、ΔVliqが負の最大値にある段階において、脂質二重層がセル内で形成されていないので、小さな−ΔVADCのみが観測され得る。
図9Cは、脂質二重層が形成されたときの期間t2の間の、時間に対するVADCの例示的なプロット(図9A参照のこと)の拡大図を示す。図9Cで示した結果は、図8Bと一致する。図9Cでは、ΔVliqが正の最大値にある段階において、脂質二重層が既にセル内で形成されているので、2つの連続したサンプル点の間に、大きな+ΔVADCが観測され得る。ΔVliqが負の最大値にある段階において、脂質二重層が既にセル内で形成されているので、大きな−ΔVADCが観測され得る。なお、方形波Vliqがある位相から別の位相に変化した少しあと、ΔVliqは、ゼロに留まり、それに応じてVADCは、ゼロに低下することに留意されたい。図9Cに示すように、脂質二重層がセル内で既に形成されているとき、VADCの正または負のスパイクが観測され得る。正または負のスパイクのあとには、より小さいVADCの値が続く。
脂質二重層が、上述の技術を用いて、ナノポアベースの配列決定チップのセル内に適切に形成されたと判定されたあと、ナノポアは、脂質二重層内に挿入され得て、挿入されたナノポアを有するセルは、核酸配列決定のために使用され得る。配列決定段階の間、ナノポアベースの配列決定チップ内のいくつかのセル内の脂質二重層は、浸透性の不均衡または他の理由により破裂し得る。セル内の破裂させられた脂質二重層は、それが非常に大きい電流が電極を横切って流れ、結果として短絡に似た状態となる原因となり、大電流はさらに、近隣のセルでのデータ収集に影響を及ぼし得るので、望ましくない。したがって、配列決定段階の間に、破裂させられた脂質二重層による短絡状態にあるセルを検出するための技術が、所望される。技術は、ナノポアベースの配列決定チップが検出されたセルを無力化し、それによりチップの全体的な性能を改善することを、可能にする。
短絡状態にあるセルを無力化することは、図6Aまたは図6Bに示すようにパスデバイス606を制御することによって、達成され得る。パスデバイス606は、電圧刺激がもはやセル内の破裂させられた脂質二重層/膜を横断して印加されないように、電極を測定回路600から切断することによって、セルを無力化するスイッチとして使用され得る。
配列決定段階の間に短絡状態にあるセルを検出することは、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加されるデルタ電圧変化(ΔVliq)に応答した積分コンデンサ608(ncap)におけるデルタ電圧変化ΔVADCを監視するために、回路600を使用することによって、達成され得て、これは、セル内の脂質二重層の形成を検出するための上述した技術と同様である。以下で詳述するように、配列決定段階の間、回路600は、作用電極および脂質二重層/膜に関連付けられるインピーダンスZ1002と直列に接続されたncapを有する、電圧分割器としてモデル化され得て、これは、脂質二重層測定段階中のモデル化回路600のために上で説明したモデル7000と同様である。電圧分割器の中間点で取り出される電圧変化は、セル内に破裂させられた脂質二重層により短絡状態が存在するか否かを判定するADC610によって、読み出され得る。
図10は、システムの配列決定段階中の回路600の一部の電気特性を表す電気モデル1000を示す。図10に示すように、インピーダンスZ1002は、作用電極および脂質二重層/膜をモデル化するために使用され、Z1002は、ncap608と直列に接続される。
ACモードで動作するとき、ADCによって読み出される電圧(V
ADC)は、以下の式で決定される。
ここで、Z=1/(jωC)であり、
Z(ncap)はn
capに関連付けられた交流インピーダンスであり、
Z1002は、作用電極および脂質二重層/膜に関連付けられる交流インピーダンスである。
上の式(4)において、脂質二重層が破裂するとき、Z1002は、短絡状態により著しく減少し、その結果、VADCはVliqに近い値を有する。VADCのさらなる増加は、それゆえ脂質二重層がセル内で破裂させられたことの指標として使用され得る。
いくつかの実施形態では、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加されるデルタ電圧変化(ΔV
liq)に応答する積分コンデンサ608(n
cap)でのデルタ電圧変化ΔV
ADCは、脂質二重層がセル内で破裂させられたか否かを検出するために、監視される。例えば、式(4)は、以下のように書き直され得る。
ここで、ΔV
ADCは、ADCによって読み出される積分コンデンサ608(n
cap)での電圧変化であり、
ΔV
liqは、バルク液体に印加される電圧変化であり、
Z(ncap)はn
capに関連付けられる交流インピーダンスであり、
Z1002は、作用電極および脂質二重層/膜に関連付けられる交流インピーダンスである。
上の式(5)において、セル内の脂質二重層が破裂するとき、Z1002は、減少するので、ΔVADCはΔVliqに近い値まで増大する。ΔVADCのさらなる増加は、それゆえ脂質二重層がセル内でまさに破裂させられたことの指標として使用され得る。
いくつかの実施形態では、より確かに破裂させられた脂質二重層を検出する観測可能なΔVADCを最大化するために、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加される最大電圧変化(最大ΔVliq)に応答するΔVADCは、脂質二重層がセル内でまさに破裂させられたか否かを検出するために、監視される。
図11Aは、正/負の電圧変化±ΔVliqに応答した大きな観測された正/負の電圧変化±ΔVADCが、脂質二重層がセル内でまだ損なわれていないことを示すことを示す。図11Aは、図8Bと同一である。図11Bは、正/負の電圧変化±ΔVliqに応答した観測された正/負の電圧変化±ΔVADCのさらなる増大が、脂質二重層がセル内でまさに破裂させられたことを示すことを示す。
図11Bでは、ΔVliqが正の最大値にある事例において、脂質二重層がまさにセル内で破裂させられた場合、正の電圧変化+ΔVADCの振幅のさらなる増大が観測され得る。そして、ΔVliqが負の最大値にある事例において、脂質二重層がまさにセル内で破裂させられた場合、負の電圧変化−ΔVADCの振幅のさらなる増大が観測され得る。
図8A、8B、11A、および11Bを考慮すると、ΔVliqの絶対値(|ΔVliq|)が最大であるときに観測されるΔVADCの絶対値(|ΔVADC|)は、脂質膜の状態を判定するために、1つまたは複数の所定の閾値と比較され得る。例えば、2つの閾値レベルは、脂質膜の状態を判定するために使用され得て、ここで閾値1<閾値2である。(|ΔVADC|<閾値1)である場合、脂質膜は、脂質分子の複数の層および共に組み合わされた溶媒を有し、まだ脂質二重層ではないと、判定される。(閾値1<=|ΔVADC|<閾値2)である場合、脂質二重層が形成されたと判定される。(|ΔVADC|>=閾値2)の場合、脂質二重層が破裂させられたと判定される。
しかしながら、上述の診断技術を、システムの配列決定段階の間に、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の、破裂させられた脂質二重層を検出するために、適用することは、多くの課題を有する。課題のうちの1つは、核酸配列決定(主要な試験)および診断試験の両方に良好に機能する、好適なADC参照ウィンドウおよび好適なVliqの振幅を選択することである。ADC参照ウィンドウは、ADCが変換可能である、最小から最大までのアナログ値の範囲である。ADC参照ウィンドウは、+Vrefから−Vrefミリボルト/ボルトなどの、全体の測定範囲を指定し、ADCチップでプログラム可能である。ナノポアベースの配列決定チップの配列決定段階の間、核酸配列決定に有用な信号は、非常に小さく、それゆえADC参照ウィンドウは、小信号が別のはっきり区別されるレベルへと分解され得るように、小さな電圧ウィンドウにプログラムされる。しかしながら、破裂させられた脂質二重層を有するセルの方形波Vliqの段階変化に応答する|ΔVADC|は、核酸配列決定に有用な信号よりもかなり大きい。結果的に、核酸配列決定に好適な小さなADC参照ウィンドウはおそらく、ADCによって読み出されるΔVADC信号が飽和することの原因となり得る。Vliqの振幅をΔVADC信号の飽和を防止するために低くすることは、Vliqの振幅が、核酸配列決定の生化学によって制約されるので、実行可能な解決策ではない。結果として、上述の診断技術は、特にVliqの変調周波数が、閾値レベル、例えば80Hzまたは100Hzを超える場合、セル内の損なわれていない脂質二重層と、破裂させられたものとを、もはや確実には区別し得ない。したがって、システムの異なる段階中に、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の脂質膜の状態を検出する改善された技術が、所望されるであろう。
図12は、システムの(配列決定段階を含む)異なる段階中のナノポアベースの配列決定チップのセル内の脂質膜の状態を検出するための改善されたVliqの波形1200の例示的なプロットを示す。状態は、脂質分子の複数の層および共に組み合わされた溶媒を伴う脂質膜と、脂質二重層と、破裂させられた脂質二重層とを含む。改善されたVliqの波形1200は、図6Aの回路600に適用され得る。波形が正の段階から負の段階へ変化するときまたはその逆のとき、2つの振幅間を切り替わる方形波である、最初のVliqの波形(例えば、図11Bを参照のこと)と異なり、改善されたVliqの波形1200は、追加の監視信号1202を含む。図12では、x軸は、フレームをプロットし、y軸は、Vliqの波形をmV単位でプロットしている。この特定の実施形態では、追加の監視信号1202は、Vliqの波形1200が明期間から暗期間に切り替わるとき、挿入される。具体的には、Vliqは、それが暗振幅(フレーム6番または17番での10mV)に切り替わる前に、明振幅(フレーム4番または15番での80mV)から中間の監視信号振幅(フレーム5番または16番での60mV)に切り替わる。VliqのAC電圧の中間変化は、AC電圧の2つの振幅、明振幅と暗振幅との間に挿入される。いくつかの他の実施形態では、追加の監視信号は、波形が、暗期間から明期間に切り替わるとき、挿入される。これらの実施形態では、Vliqは、それが明振幅レベルに切り替わる前に、暗振幅レベルから中間の監視信号振幅に切り替わる。中間の監視信号振幅は、監視信号以前の電圧レベルからの小さな電圧のデルタ(例えば、図12に示すような−20mV)であり得る。VliqのAC電圧の中間変化は、AC電圧の2つの振幅、暗振幅と明振幅との間に挿入される。いくつかの実施形態では、電圧のデルタ変化は、波形が段階間で切り替わるとき、Vliqの振幅の全体変化の一部分(例えば、図12に示すような2/7)であり得る。図12では、Vliqの波形1200の明期間から暗期間への振幅変化は、70mVである。他の実施形態では、振幅範囲は、核酸配列決定のための生化学により、より小さくまたはより大きく、例えば、50mVから500mVに、なり得る。サンプリングレートまたはフレームレートは、1から10kHzの範囲であり得る。
図13は、配列決定段階の間に短絡状態にあるセルを検出するために、回路600は、Vliqが明の振幅から監視信号の振幅に切り替わるときの、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加されるデルタ電圧変化(ΔVliq)に応答した積分コンデンサ608(ncap)におけるデルタ電圧変化ΔVADCを監視し得ることを示す。図13の上のグラフでは、x軸は、フレームをプロットし、y軸は、Vliqの波形1300をmV単位でプロットしている。図13の下のグラフでは、x軸は、ADCのサンプルをプロットし、y軸は、積分コンデンサ608でADCによって読み出されたADCのカウントをプロットしている。上のグラフで示すように、狭いADC参照ウィンドウ1310(−25mVから+25mV)は、核酸配列決定用に使用される比較的小さな信号用の改善された分解能のためのADCにプログラムされる。狭いADC参照ウィンドウ1310は、ADC値1306およびADC値1308を、0および255カウントで、それぞれ飽和させる。しかしながら、波形が段階間で切り替わるとき、監視信号1302が、Vliqの振幅の全体変化のほんの一部分である電圧変化をもたらすので、監視信号への応答1304は飽和せず、対応するデルタ電圧変化は、脂質二重層が損なわれていないかまたは破裂させられたかを、より確実に検出するために用いられ得る。例えば、2つの閾値レベルは、脂質膜の状態を判定するために使用され得て、ここで閾値1<閾値2である。(|ΔVADC|<閾値1)である場合、脂質膜は、脂質分子の複数の層および共に組み合わされた溶媒を有し、まだ脂質二重層ではないと、判定される。(閾値1<=|ΔVADC|<閾値2)である場合、脂質二重層が損なわれていないと判定される。(|ΔVADC|>=閾値2)の場合、脂質二重層が破裂させられたと判定される。
図13に示すように、監視信号1302によってもたらされる電圧のデルタ変化は、波形が段階間で切り替わるとき、Vliqの振幅の全体変化の約1/5である。しかしながら、選択されたADC参照ウィンドウにより、監視信号の振幅は、Vliqの波形が段階間を切り替わるとき、監視信号への応答が飽和せずに留まるという条件のもと、Vliqの振幅の全体変化の任意の適切な一部分へと増減され得る。
ナノポアベースの配列決定チップのいくつかの実施形態では、ナノポアアレイは、セルバンクに分割される。例えば、各セルバンクは、セルのM行×N列を含み得る。行列選択ラインは、個々のセルの状態を制御するために使用される。MおよびNは、任意の整数であり得る。例えば、サイズが8kのセルバンク(バンク8kと呼ばれる)は、64行と128列の積として構成され得て、全部で64×128のセルを有する。各セルバンクは、独立しているので、ナノポアアレイは、追加のバンクを付加することによって、増減され得る。例えば、128kのアレイは、16のバンク8k成分として、実装され得る。512kのアレイは、バンク8k成分の8×8アレイとして、実装され得る。いくつかの実施形態では、ナノポアアレイは、数百万のセルを含むために拡大され得る。
いくつかの実施形態では、セルバンクの任意の所定の行のセルも同一の積分時間間隔を共有し、すなわち、同一の行内のセルの各々は、その積分を同時に開始、終了し、隣接する行の積分時間間隔は、互いに時間差を設けられる。隣接する行の積分時間間隔は、互いに時間的にずれており、上述した監視信号を用いた検出技術は、行依存効果を有し、検出技術の全体的な性能は、結果的に劣化する。以下で詳述するように、行依存効果は、Vliqが監視信号に切り替わろうとしているときに、セルバンクの異なる行内のセルの積分を同期するための包括的予備充電信号を導入することによって、軽減され得て、それにより検出技術の全体的な性能を改善する。
図14は、セルバンクの任意の所定の行内のセルも同一の積分時間間隔を共有するが、隣接する行の積分時間間隔が、互いに時間差を設けられ、脂質膜の状態の検出の全体的な性能を劣化させる行依存効果をもたらすことを示す。図14の上の部分は、Vliqの波形1300の拡大版を示す(図13参照のこと)。Vliq1300は、明振幅1422から開始し、中間監視信号振幅1424に切り替わり、その後暗振幅1426に切り替わる。
図14の下の部分は、フレームと、セルバンクの異なる行(例えば、行0、行1、および行63)の積分時間間隔と、ADCの読出しタイミングとを示す、タイミング図を示す。
垂直の矢印1401〜1405は、Vliqの波形1300のフレームの先頭を定めており、それらは、システムがVliqの振幅をその電流値に維持するか、異なる値に切り替えるかを判定し得る、時間の事例である。フレーム1401および1402で、Vliq1300は、明振幅1422に維持される。フレーム1403で、Vliq1300は、中間監視信号振幅1424に切り替わる。フレーム1404で、Vliq1300は、暗振幅1426に切り替わる。フレーム1405で、Vliq1300は、暗振幅1426で維持される。
水平の矢印の各々は、セルバンクの個々の行内のセルの積分時間間隔を示す。例えば、水平の矢印の一番上の組は、行0内のセルの積分時間間隔を示し、水平の矢印の2番目の組は、行1内のセルの積分時間間隔を示し、水平の矢印の一番下の組は、行63内のセルの積分時間間隔を示す。図に示すように、隣接する行の積分時間間隔は、互いに時間的にずれている。例えば、行0の積分時間間隔の開始および行1の積分時間間隔の開始は、わずかなデルタ時間差によってずらされ、行1の積分時間間隔の開始および行2の積分時間間隔の開始は、わずかなデルタ時間差によってずらされる、など以下同様である。
セルバンクの任意の所定の行内のセルも同一の積分時間間隔を共有するが、隣接する行の積分時間間隔は、1つの行内のセルの積分コンデンサ608(図6A参照のこと)の予備充電をトリガするために使用されるリセット信号603のタイミングが他の行のそれらと異なるので、互いに時間差を設けられる。
例えば、時間1417では、行0内のセルの各々はその、セルのスイッチ601を閉路する、リセット信号603を有し、その結果、その積分コンデンサ608は、電源Vpre605に接続される。積分コンデンサ608が予備充電されたあと、リセット信号603が使用されスイッチ601が開路され、その結果、積分コンデンサ608は、電源Vpre605から切断される。この時点で、積分コンデンサ608は、放電を開始し、行0の積分時間間隔1411が始まる。行0の積分時間間隔1411が経過したあと、行0内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1414でADC610によって読み出され得る。ADC610によるサンプリングのあと、積分コンデンサ608は、リセット信号603を使用しスイッチ601を閉路し、その結果、積分コンデンサ608が電源Vpre605に再接続されることによって、再び予備充電される。積分コンデンサ608を予備充電するステップと、積分コンデンサ608が積分する一定の期間を待機するステップと、積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧をADC610によってサンプリングするステップとが、次に、サイクルで繰り返される。
行1内のセルの予備充電および積分をトリガするために使用されるリセット信号603は、時間1418で、行0のそれにわずかなデルタ時間差だけ遅れる。行1の積分時間間隔1412が経過したあと、行1内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1415でADC610によって読み出され得る。同様に、行2内のセルの予備充電および積分をトリガするために使用されるリセット信号603は、行1のそれに、わずかなデルタ時間差だけ遅れ、行3内のセルのリセット信号603は、行2のそれに、わずかなデルタ時間差だけ遅れる、など以下同様である。このパターンが、行63まで繰り返される。具体的には、時間1419で、行63内のセルの各々はその、セルの予備充電および積分をトリガするリセット信号603を有する。行63の積分時間間隔1413が経過したあと、行63内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1416でADC610によって読み出される。
セルの異なる行の積分時間間隔が時間的にずれているので、Vliq1300が明振幅1422から中間監視信号振幅1424に切り替わるとき、2つの異なる行内のセルは、それらのそれぞれの積分時間間隔内で、異なる回数だけ監視電圧の変化をもたらされ、それにより2つの異なる行のADC出力は、異なることになる。例えば、行0内のセルは、積分時間間隔1411の後の方の部分で、監視電圧の変化をもたらされ、一方、行63内のセルは、積分時間間隔1413のより早い部分で、監視電圧の変化をもたらされる。それゆえ、行63内のADC出力に対する行0内のそれらは、同一の行内のADC出力より大きな変化量を有し、それにより行依存効果がもたらされる。
図15は、Vliqが中間監視信号に切り替わろうとしているとき、包括的予備充電信号1502が、セルバンクの異なる行内のセルの積分を同期させるために使用されることを示す。図14および図15は、少数の差異を除いては、同等である。1つの差異は、以下により詳細に説明するように、包括的予備充電信号1502の導入である。別の差異は、図15ではVliq1300が中間監視信号振幅1424に切り替わるとき、隣接する行の積分時間間隔がもはや、それらが図14であったように(積分時間間隔1511、1512、および1513を参照のこと)、互いに時間差を設けられない。例えば、行0の積分時間間隔1511の開始、行1の積分時間間隔1512の開始、および行63の積分時間間隔1513の開始がここで、同時に発生する。
包括的予備充電信号1502は、スイッチ601を、セルバンク内のセルの全てに渡って、制御するために使用される予備充電信号である。対照的に、リセット信号603は、単一のセル、またはセルバンクの単一の列内の唯一のセル内の、スイッチ601を制御するために使用される予備充電信号である。図15に示すように、包括的予備充電信号1502は、フレーム1402(Vliq1300が中間監視振幅1424に切り替えられる前のフレーム)で高に設定され、セルバンクのセル内の全てのスイッチ601を閉路し、その結果、全ての積分コンデンサ608が電源Vpre605に接続され、Vpre電圧レベルに予備充電される。包括的予備充電信号1502は次に、フレーム1403(Vliq1300が中間監視振幅1424に切り替えられるフレーム)で低に設定され、セルバンクのセル内の全てのスイッチ601を開路し、その結果、全ての積分コンデンサ608が電源Vpre605から切断され、放電が開始され、同時に積分が開始される(積分時間間隔1511、1512、および1513を参照のこと)。
行0の積分時間間隔1511が経過したあと、行0内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1514でADC610によって読み出され得る。行0が読み出されたあと、行1の積分時間間隔1512が経過し、行1内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1515でADC610によって読み出され得る。同様に、後続の行は、行63が時間1516で読み出されるまで、順次読み出される。
異なる行の積分時間間隔の長さは、Vliq1300が中間監視信号振幅1424にあるとき、同一でない(例えば、1511、1512、および1513の長さが異なる)が、全てのセルは、それらがどの行に属しているかに関わらず、Vliqの振幅が中間監視信号振幅1424に維持される間、積分する。結果的に、異なる行でのADC出力は、分散がより低くなり、それにより行依存効果を低減する。
しかしながら、包括的予備充電信号1502を用いる1つの欠点は、包括的予備充電信号1502が1402と1403との間で高に設定されるとき、配列決定データの1組が失われることである。データ点1507は、セルバンク内の全てのセルの積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧がVpre電圧レベルに予備充電されるので、無効である。
図16は、Vliqが中間監視信号に切り替わろうとしているとき、修正された包括的予備充電信号1602が、セルバンクの異なる行内のセルの積分を同期させるために使用されることを示す図である。図15および図16は、少数の差異を除いては、同等である。1つの差異は、以下により詳細に説明するように、包括的予備充電信号1602の修正である。別の差異は、図16では配列決定目的に有用であるデータ点1607が包括的予備充電信号1602によってもはや破損されないことである。
包括的予備充電信号1602は、スイッチ601を、セルバンク内のセルの全てに渡って、制御するために使用される予備充電信号である。対照的に、リセット信号603は、単一のセル、またはセルバンクの単一の列内の唯一のセル内の、スイッチ601を制御するために使用される予備充電信号である。図16に示すように、包括的予備充電信号1602は、時間1621で高に設定され、セルバンクのセル内の全てのスイッチ601を閉路し、その結果、全ての積分コンデンサ608が電源Vpre605に接続され、Vpre電圧レベルに予備充電される。包括的予備充電信号1602は次に、時間1620で低に設定され、セルバンクのセル内の全てのスイッチ601を開路し、その結果、全ての積分コンデンサ608が電源Vpre605から切断され、放電が開始され、同時に積分が開始される(積分時間間隔1611、1612、および1613を参照のこと)。
行0の積分時間間隔1611が経過したあと、行0内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1614でADC610によって読み出され得る。行0が読み出されたあと、行1の積分時間間隔1612が経過し、行1内のセルの各々の積分コンデンサ608内に蓄えられた電圧が、時間1615でADC610によって読み出され得る。同様に、後続の行は、行63が時間1616で読み出されるまで、順次読み出される。
異なる行の積分時間間隔の長さは、Vliq1300が中間監視信号振幅1424にあるとき、同一でない(例えば、1611、1612、および1613の長さは異なる)が、全てのセルは、それらがどの行に属しているかに関わらず、Vliqの振幅が中間監視信号振幅1424に維持される間、積分する。結果的に、異なる行でのADC出力は、分散がより低くなり、それにより行依存効果を低減する。
加えて、配列決定目的に有用であるデータ点1607は、包括的予備充電信号1602によってもはや破損されない。包括的予備充電信号1602は、フレーム1402(電圧を監視するステップに先行するフレーム)中の読出しが完了する時間1622のあとに起きる時間1621で高に設定され、それにより配列決定目的に有用であるデータ点1607を保存する。包括的予備充電信号1602は次に、時間1620で低に設定される。いくつかの実施形態では、時間1620は、Vliq1300が中間監視振幅1424に切り替えられるフレームである、フレーム1403と同じ時間である。いくつかの実施形態では、時間1620は、フレーム1403と実質的に同じ時間であり、フレーム1403の直前またはフレーム1403の直後の何れかである。
図17Aは、脂質膜状態の検出技術の行依存効果を示す図である。図17Aでは、下部は、破裂させられた脂質二重層が検出されたときの、セルバンクの異なる行に属するセル内の監視信号に応答する、観察された電圧変化ΔVADCのプロットである。x軸上で、行番号0〜63は、セルバンク1内の行番号0〜63に対応し、行番号64〜127は、セルバンク2内の行番号0〜63に対応し、行番号128〜191は、セルバンク3内の行番号0〜63に対応し、行番号192〜255は、セルバンク4内の行番号0〜63に対応する。y軸上で、監視信号への応答が、ADCカウントでプロットされている。図17Aの下部に示すように、応答信号は、行番号の増大と共に、徐々に増大する。応答信号の大部分は、15から40のADCカウントの辺りに分布する。図17Aの上部は、応答信号の分布を示すヒストグラムである。応答信号は、0から約40のADCカウントに分布する。
図17Bは、図16で包括的予備充電信号を使用することによって、行依存効果が、著しく低減されることを示す。図17Bでは、下部は、破裂させられた脂質二重層が検出されたときの、セルバンクの異なる行に属するセル内の監視信号に応答する、観察された電圧変化ΔVADCのプロットである。x軸上で、行番号0〜63は、セルバンク1内の行番号0〜63に対応し、行番号64〜127は、セルバンク2内の行番号0〜63に対応し、行番号128〜191は、セルバンク3内の行番号0〜63に対応し、行番号192〜255は、セルバンク4内の行番号0〜63に対応する。y軸上で、監視信号への応答が、ADCカウントでプロットされている。図17Bの下部に示すように、応答信号は、行番号の増大と共に、わずかだけ増大する。応答信号の大部分は、40から60のADCカウントの辺りに分布する。図17Bの上部は、応答信号の分布を示すヒストグラムである。応答信号は、40から約60のADCカウントに分布し、約50のADCカウントが、最も確からしいADC値である。
図18Aは、破裂させられた脂質二重層が検出されたときの、セルバンクの異なる行に属するセル内の監視信号に応答する、観察された電圧変化ΔVADCのプロットである。図18Bは、破裂させられた脂質二重層が検出されたときの、応答信号の分布を示すヒストグラムである。図18Cは、破裂させられた脂質二重層が検出されなかったときの、セルバンクの異なる行に属するセル内の監視信号に応答する、観察された電圧変化ΔVADCのプロットである。図18Dは、破裂させられた脂質二重層が検出されなかったときの、応答信号の分布を示すヒストグラムである。
図18Dに示すように、応答信号は、破裂させられた脂質二重層が検出されないとき、0からおよそ45のADCカウントに分布し、図18Bに示すように、応答信号は、破裂させられた脂質二重層が検出されるとき、およそ55から120のADCカウントに分布する。2つの脂質二重層の状態の応答信号の分布は、互いに重ならないので、検出技術は、脂質二重層が損なわれていないか破裂させられたかを確実に判定するために、使用され得る。
上に開示された検出技術は、多くの利点を有する。監視信号振幅の選択は、Vliqの明/暗振幅の選択から切り離される。ADC参照ウィンドウは、核酸配列決定のために用いられる信号の分解能を、監視信号への応答信号を飽和させることなく、増大させるように選択され得る。当技術は、配列決定段階の間であっても、二重層の状態を検出するために、使用され得る。加えて、当技術は、Vliqの変調周波数が100Hzを超えるとき、二重層の状態を、確実に検出し得る。
上述のように、脂質および溶媒の混合物がまず脂質二重層を形成するためにセル内に堆積されるとき、セルのいくつかは、自然に形成される脂質二重層を有するが、そのセルのいくつかは単に、セルのウェルの各々の全体に広がる、溶媒と組み合わされた脂質分子の複数の層を伴う厚い脂質膜を有するにすぎない。ナノポアベースの配列決定チップの収量(すなわち、適切に形成された脂質二重層およびナノポアを有するナノポアベースの配列決定チップ内のセルの割合)を増加させるために、ナノポアベースの配列決定チップは、追加のセル内の脂質二重層の形成を支援するためにさらなるステップを実行し得る。例えば、その内部にまだ脂質二重層を形成させていないセルへ、電気的な脂質薄膜化刺激を印加するステップは、厚い脂質膜上を液体が流れる効率を向上させ得て、それにより任意の過剰な脂質溶媒の除去を支援し、その結果、厚い脂質膜は、薄膜化され、より効果的に脂質二重層へと移行され得る。その内部にまだ脂質二重層を形成させていないセルへ、電気的な脂質薄膜化刺激を印加するステップはまた、過剰な脂質溶媒を絞り出し、厚い脂質膜を脂質二重層へと薄膜化する結果につながる静電力を発生させ得る。一方、電気的刺激により薄い脂質二重層のいくらかは破壊することになり得るので、その内部に既に脂質二重層を適切に形成させたセルは、同一の電気的な脂質薄膜化刺激にさらに露出させるべきではない。したがって、その内部に脂質二重層を形成させたナノポアベースの配列決定チップ内のセルの部分を、その内部にまだ脂質二重層を適切に形成させていないセルの部分から検出し、分離するために、本出願で説明した非破壊技術を使用することは、有益である。セルを異なるグループに分割することによって、異なるグループのセルは、別々に処理され得て、それにより、より大きな効率を実現し、ナノポアベースの配列決定チップの全体の収量を増大させる。
図19は、ナノポアベースの配列決定チップのセル内の脂質層を形成する改善された技術のプロセス1900の一実施形態を示す。いくつかの実施形態では、図19のナノポアベースの配列決定チップは、複数の図1のセル100を含む。いくつかの実施形態では、図19のナノポアベースの配列決定チップは、複数の図5のセル500を含む。いくつかの実施形態では、図19のナノポアベースの配列決定チップは、複数の図6Aおよび6Bの回路600を含む。
プロセス1900は、ステップを含み、その中では異なるタイプの流体が流動室を介してナノポアベースの配列決定チップのセルを通り流される。著しく異なる特性(例えば、圧縮性、疎水性、および粘性)を有する複数の流体が、ナノポアベースの配列決定チップ表面上のセンサアレイの上を流される。改善された効率のために、アレイ内のセンサの各々は、流体へ安定した方法で露出させられなければならない。例えば、異なるタイプの流体の各々は、流体が、セルの各々の表面を均一に覆い接触するようにチップへ送達され、次に、チップ外に送達され得るように、ナノポアベースの配列決定チップ上を流されなければならない。上述のように、ナノポアベースの配列決定チップは、アレイとして構成される多数のセンサセルを組み込む。ナノポアベースの配列決定チップは、ますます多くのセルを含むために拡大されるので、チップのセル全体を異なるタイプの流体の均一な流れを達成することは、さらに難しくなる。
いくつかの実施形態では、図19のプロセス1900を実行するナノポアベースの配列決定システムは、流体をチャネルの長さ方向に沿ったチップの異なるセンサ上を横切るように誘導するヘビ状流体流路を有する改善された流動室を含む。図20は、液体およびガスが、チップ表面上のセンサの上を通過し接触することを可能にする、シリコンチップを取り囲む改善された流動室を有する、ナノポアベースの配列決定システム2000の上面図を示す。流動室は、ヘビ状または曲がりくねった流路2008を備え、それにより、流体をセンサバンク2006(各バンクが数千のセンサセルを含む)の1つの列(または1つの行)の直上をチップの一方の端部から反対の端部まで流れるように誘導し、次に、流体を繰り返し折り返して、全てのセンサバンクが、少なくとも1回横切られるまで、センサバンクの他の隣接した列の直上を流れるように誘導する。図20に示すように、システム2000は、入口2002および出口2004を含む。
図20を参照すると、流体は、入口2002を通りシステム2000内へと誘導される。入口2002は、管または針であってもよい。例えば、管または針は、1ミリメートルの直径を有し得る。液体またはガスを直接、単一の連続した空間を有する広い流動室内へ給送する代わりに、入口2002は、液体またはガスをヘビ状流路2008内へと給送し、それにより、液体またはガスをセンサバンク2006の単一の列の直上を流れるように誘導する。ヘビ状流路2008は、上板と、流動室をヘビ状流路になるように仕切る仕切り2010とを互いに積層してフローセルを形成し、次に、フローセルをチップの上に取付けることによって、形成され得る。液体またはガス流れは、ヘビ状流路2008を通過し流れたあとに、液体またはガスは、出口2004に至るまで導かれ、システム2000の外に導かれる。
システム2000によって、流体が、チップ表面上の全てのセンサの上を、より均一に流れることが可能になる。流路幅は、十分狭く、毛細管現象が効果をもつように構成される。より詳細には、流体と取り囲む表面との間の表面張力(これは流体内の凝集によって生じる)および粘着力が、流体をまとめて保持する役割を果たし、それにより流体または気泡が崩壊しデッド領域が形成されることを防止する。例えば、流路は、1ミリメートルまたはそれより短い幅を有し得る。狭小な流路は、流体の制御された流動を可能にし、先行する流体またはガスの流動からの残余を最小化する。
図19を参照すると、1902では、塩類/電解質緩衝溶液が、セル内のウェルを塩類緩衝溶液で実質的に充填するために、流動室を介してナノポアベースの配列決定チップのセルを通し流される。塩類緩衝溶液は、以下の、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)、塩化マンガン(MnCl2)、および塩化マグネシウム(MgCl2)、のうちの1つを含み得る。いくつかの実施形態では、塩類緩衝溶液の濃度は、300mM(ミリモル)である。
1904では、脂質および溶媒の混合物が、流動室を介してナノポアベースの配列決定チップのセルを通し流される。いくつかの実施形態では、脂質および溶媒の混合物は、ジフィタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)などの脂質分子を含む。いくつかの実施形態では、脂質および溶媒の混合物は、デカンまたはトリデカンを含む。脂質および溶媒の混合物がまず脂質二重層を形成するためにセル内に堆積されるとき、セルのいくつかは、自然に形成される脂質二重層を有するが、そのセルのいくつかは単に、セルのウェルの各々の全体に広がる厚い脂質膜(脂質分子の複数の層および共に組み合わされた溶媒を伴う)を有するにすぎない。ナノポアベースの配列決定チップの収量(すなわち、適切に形成された脂質二重層およびナノポアを有するナノポアベースの配列決定チップ内のセルの割合)を増加させるために、ナノポアベースの配列決定チップは、追加のセル内の脂質二重層の形成を支援するために、2つの段階すなわち電気的な脂質薄膜化刺激段階および緩衝液流動段階を繰り返し通過することになる。
プロセス1900の電気的な脂質薄膜化刺激段階は、ステップ1906、1908、および1910を含む。いくつかの実施形態では、この段階中、ステップ1906、1908、および1910は、図19に示すような順序で実行され得る。いくつかの実施形態では、ステップ1906、1908、および1910は、別の順序で実行されてもよい。いくつかの実施形態では、ステップは、同時に実行されてもよい。
1906では、本出願で説明した非破壊技術が使用され、脂質二重層が図6Aおよび図6Bの回路600を使用してセル内に形成されたか否かを検出する。検出は、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加される電圧変化(ΔVliq)に応答した積分コンデンサ608(ncap)における電圧変化ΔVADCを監視することを含む。検出された脂質二重層を有するセルは、検出された脂質二重層を有さないセルと別のグループに分離される。検出された脂質二重層を有するセルの各々の内部で、パスデバイス606が、脂質二重層および電極を測定回路600から切断するために開路され、その結果、電気的な脂質薄膜化刺激のセルへの印加は、無力化される。
1908では、電気的な脂質薄膜化刺激は、ナノポアベースの配列決定チップのセルに印加される。その内部にまだ脂質二重層を形成させていないセルへ、電気的な脂質薄膜化刺激を印加するステップは、厚い脂質膜上を液体が流れる効率を向上させ得て、それにより任意の過剰な脂質溶媒の除去を支援し、その結果、厚い脂質膜は、薄膜化され、より効果的に脂質二重層へと移行され得る。その内部にまだ脂質二重層を形成させていないセルへ、電気的な脂質薄膜化刺激を印加するステップはまた、過剰な脂質溶媒を絞り出し、厚い脂質膜を脂質二重層へと薄膜化する結果につながる静電力を発生させ得る。いくつかの実施形態では、図6Aおよび図6Bの同一の回路600が、電気的な脂質薄膜化刺激を印加するために使用され得る。脂質二重層検出と脂質薄膜化との間の、回路600の設定での唯一の違いは、脂質二重層を検出するVliqの絶対振幅がより低いことである。例えば、脂質二重層を検出する絶対振幅Vliqは、100mV〜250mVであり得て、一方、脂質を薄膜化する絶対振幅Vliqは、250mV〜500mVであり得る。
ステップ1910では、電気的な脂質薄膜化刺激段階が終了したか否かが判定される。いくつかの実施形態では、電気的な脂質薄膜化刺激は、2秒間でその内部に脂質二重層を有するとして検出されなかった任意のセルに印加される。しかしながら、他の所定の期間が同様に用いられてもよい。段階がまだ終了しない場合、プロセス1900は、時限が終了するまでステップ1906および1908に再び戻り、そうでない場合、プロセス1900は、次に塩類緩衝溶液流動段階に進む。
プロセス1900の塩類緩衝溶液流動段階は、ステップ1912、1914、および1916を含む。いくつかの実施形態では、この段階中、ステップ1912、1914、および1916は、図19に示すような順序で実行され得る。いくつかの実施形態では、ステップ1912、1914、および1916は、別の順序で実行されてもよい。いくつかの実施形態では、ステップは、同時に実行されてもよい。
1912では、ステップ1906で使用された同様の非破壊技術が使用され、脂質二重層が図6Aおよび図6Bの回路600を使用してセル内に形成されたか否かを検出する。検出された脂質二重層を有するセルは、検出された脂質二重層を有さないセルと別のグループに分離される。検出された脂質二重層を有するセルの各々の内部で、パスデバイス606が、脂質二重層および電極を測定回路600から切断するために開路される。
1914では、塩類/電解質緩衝溶液が、流動室を介してナノポアベースの配列決定チップのセルを通し流される。塩類緩衝溶液をセル上に流動させる目的は、各セル上の脂質二重層の形成を支援するためである。塩類緩衝溶液がセル上を流動するとき、セル上に堆積される脂質および溶媒の混合物の厚さは、減少し、脂質二重層の形成を支援する。
1916では、塩類緩衝溶液流動段階が終了したか否かが判定される。いくつかの実施形態では、塩類緩衝溶液は、2秒間流動される。しかしながら、他の所定の期間が同様に用いられてもよい。段階がまだ終了しない場合、プロセス1900は、時限が終了するまでステップ1912および1914に再び戻り、そうでない場合、プロセス1900は、ステップ1918に進む。
1918では、プロセス1900の電気的な脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階が繰り返されるべきか否かが判定される。別の基準が、このステップで用いられてもよい。いくつかの実施形態では、電気的な脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階は、所定の回数だけ実行される。いくつかの実施形態では、2つの段階は、ナノポアベースの配列決定チップの目標収量に到達するまで繰り返される。いくつかの実施形態では、刺激および緩衝溶液流動による薄膜化の最終回中に形成された脂質二重層を有するとしてまさに検出されたばかりのセルの増加数または割合が、所定の閾値よりも低い場合、プロセス1000は、終了する。いくつかの実施形態では、2つの段階は、最近印加された電気的な脂質薄膜化刺激レベルが、例えば500mVの所定の最大閾値に到達するまで繰り返される。
プロセス1900は、プロセス1900の電気的な脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階が次に繰り返されることになる場合、ステップ1920へ進む。ステップ1920では、印加されることになる次の電気的な脂質薄膜化刺激が決定される。いくつかの実施形態では、電気的な脂質薄膜化刺激レベルは、例えば100mV増加の一定の所定の量だけ増大される。いくつかの実施形態では、最終の繰り返し中に形成された脂質二重層を有するとしてまさに検出されたばかりのセルの増加数または割合が、所定の閾値よりも低い場合、電気的な脂質薄膜化刺激レベルは、一定の所定の量だけ増大され、そうでない場合は、先行の電気的な脂質薄膜化刺激は、有効であると見なされ、したがって、同一の電気的な脂質薄膜化刺激レベルが再び使用される。
図21A、21B、および21Cは、プロセス1900の電気的な脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階が、何回か繰り返されるにつれて、適切に形成された脂質二重層を有するナノポアベースの配列決定チップ内のセル全体の割合(すなわち、ナノポアベースの配列決定チップの収量)が、増大されることを示すヒストグラムである。
各々の図で、x軸は、脂質膜/二重層と接触するバルク液体に印加される電圧変化(ΔVliq)に応答した積分コンデンサ608(ncap)における電圧変化ΔVADCであり、一方、y軸は、あるΔVADCの値域内にそのΔVADC値を有するセル数である。図21Aは、異なるΔVADC値を有するセルの初期分布を示す。図21Bは、プロセス1000の脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階が何回か繰り返されたあとの、異なるΔVADC値を有するセルの初期分布を示す。図21Cは、プロセス1000の脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階がさらに何回か繰り返されたあとの、異なるΔVADC値を有するセルの初期分布を示す。この例では、50以上のΔVADC値を有するセルは、その内部に形成された脂質二重層を有するとして決定される。図21Aに示すように、初期において、少数のセルのみが検出される脂質二重層を有する。図21Bに示すように、プロセス1900の脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階が何回か繰り返されたあと、検出される脂質二重層を有するセルの数は、増大する。最終的に、図21Cに示すように、プロセス1900の脂質薄膜化刺激段階および塩類緩衝溶液流動段階がさらに何回か繰り返されたあと、ナノポアベースの配列決定チップ内のセルの大部分は、検出される脂質二重層を有する。
図22は、二重層測定段階、電気的な脂質薄膜化刺激段階、および塩類緩衝溶液流動段階のタイミング図の一実施形態を示す。この例では、脂質がセル内に堆積されたあと、二重層測定段階が開始される。二重層測定段階は、約2秒間継続する。この段階中、セルの全てが有効化される。Vliqの絶対値は、250mVである。
二重層測定段階は、約2秒間継続する電気的な脂質薄膜化刺激段階へと続く。この段階中、ΔVADCの絶対値(|ΔVADC|)がセル内で閾値1を超えるとき、次に、脂質二重層は、セル内で検出され、セルは、電圧源から切断される。Vliqの絶対値は、250〜500mVである。
電気的な脂質薄膜化刺激段階は、塩類緩衝溶液流動段階へと続き、後者は、約2〜10秒間継続する。この段階中、ΔVADCの絶対値(|ΔVADC|)がセル内で閾値2を超えるとき、次に、脂質二重層は、セル内で検出され、セルは、電圧源から切断される。Vliqの絶対値は、250mVである。
上述した実施形態は、理解の明確性のために多少詳細に記載されてきたが、本発明は、提供された詳細に限定されるものではない。本発明を実施する多くの代替の方法が存在する。開示された実施形態は、例示的であり限定的ではない。