太陽電池素子については、パッシベーション層の品質を向上させる点で改善の余地がある。例えば、パッシベーション層の上に該パッシベーション層を保護する層(保護層ともいう)を設けた太陽電池素子が知られている。保護層は、プラズマCVD(plasma-enhanced chemical vapor deposition: PECVD)法を用いて、パッシベーション層の上に形成することができる。
ところが、パッシベーション層の上にPECVD法を用いて保護層を形成する際に、例えば、プラズマ化された原料ガスなどによって、パッシベーション層の品質が低下するおそれがある。また、保護層の経時劣化に伴って、保護層によるパッシベーション層の保護性能が低下し、パッシベーション層の品質が経時劣化するおそれがある。
そこで、本願発明者は、太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質を向上させる技術を創出した。
これについて、以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。図面においては同様な構成および機能を有する部分に同じ符号が付されており、下記説明では重複説明が省略される。また、図面は模式的に示されたものである。図6から図15には、右手系のXYZ座標系が付されている。このXYZ座標系では、後述する太陽電池素子10の受光面としての第1面10aにおける出力取出電極6aの長手方向が+Y方向とされ、この出力取出電極6aにおける短手方向が+X方向とされ、後述する太陽電池素子10の第1面10aの法線方向が+Z方向とされている。また、図8および図14では電極の一部を省略している。
<1.絶縁性ペースト>
絶縁性ペーストは、例えば、太陽電池素子においてパッシベーション層を保護する保護層を形成するための原料として使用することができるものである。一実施形態の絶縁性ペーストは、例えば、シロキサン樹脂と、有機溶剤と、を含む。ここで、このシロキサン樹脂は、フェニル基と、一般式CnH2n+1(ただし、nは自然数)で表されるアルキル基と、を有する。また、絶縁性ペーストは、例えば、複数のフィラー、を含む。そして、一実施形態の絶縁性ペーストでは、シロキサン樹脂において、アルキル基の数がフェニル基の数よりも多い。絶縁性ペースト中に複数のフィラーが含まれることによって、絶縁性ペーストの粘度の調整が容易となる。
シロキサン樹脂は、Si−O−Si結合(シロキサン結合ともいう)を有するシロキサン化合物である。シロキサン樹脂は、例えば、アルコキシシランまたはシラザンなどを加水分解させて縮合重合させることで得られる低分子量(分子量が1万以下)の樹脂である。また、シロキサン樹脂は、シロキサン結合に加えて、例えば、Si−R結合、Si−OR結合およびSi−OH結合のうちの少なくとも1つの結合を有していてもよい。上記結合における「R」には、メチル基(−CH3)またはエチル基(−C2H5)などのアルキル基、およびフェニル基(−C6H5)が含まれる。また、例えば、シロキサン樹脂は分子量が1万以下であるので、分子量が5万以上のシリコーンオイルとは明確に区別できる。また、例えば、シロキサン樹脂は、酸素とアルキル基との結合および酸素とフェニル基との結合などを有する点でもシリコーンオイルとは異なる。
ここで、シロキサン樹脂がSi−OR結合およびSi−OH結合の少なくとも一方の結合を有していれば、シロキサン樹脂の反応性が高くなる。この場合、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、太陽電池素子において保護層に接している他の部分と、の間で強い結合力が期待できる。例えば、シロキサン樹脂がSi−OH結合を有する場合には、OH基から水素原子が外れて、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウムなどと結合しやすくなる。または、シリコンおよびアルミニウムなどの表面のOH基とシロキサン樹脂のSi−OH結合とが反応して、水分子を放出し、シロキサン樹脂がシリコンおよびアルミニウムなどと結合しやすくなる。また、例えば、シロキサン樹脂がSi−OR結合を有する場合には、後述する絶縁性ペーストの製造工程で使用あるいは発生する水および触媒などが保護層中に残留していれば、これらの水および触媒などによってSi−OR結合が加水分解を生じてOH基が生じやすい。このため、シロキサン樹脂が、上述したSi−OH結合を有する場合と同様に、シリコンおよびアルミニウムなどと結合しやすくなる。このように、シロキサン樹脂の結合力が高まれば、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、この保護層と隣接する他の部分(隣接部分ともいう)との間で密着性が向上する。保護層と隣接する他の部分としては、例えば、この保護層が形成される下地の基板(例えば、シリコン基板)、他の異なる絶縁層などの下地、および保護層上に形成される金属層などが考えられる。
例えば、シロキサン樹脂を構成する1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−O結合が存在していれば、保護層と隣接部分との密着性が向上する。このため、絶縁性ペーストを製造する際には、例えば、シロキサン樹脂の前駆体として、1つのSi原子に対して3つまたは4つのSi−OR結合が存在している材料が用いられる。これにより、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解させて縮合重合させることで得られるシロキサン樹脂において、Si−OR結合およびSi−OH結合の少なくとも一方の結合の数が増加し、保護層と隣接部分との間における強い結合力が実現される。すなわち、保護層と隣接部分との間における高い密着性が実現される。また、シロキサン樹脂は、加水分解するSi−H結合およびSi−N結合を有する官能性化合物を縮合重合することで得られる樹脂である場合には、加水分解されていないSi−H結合およびSi−N結合などを有していてもよい。
また、ここで、例えば、シロキサン樹脂が、アルキル基に加えて、フェニル基も含んでいれば、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層と、後述する焼成工程で保護層上に形成される電極と、の間において、密着性が向上し得る。これにより、電極の剥離が生じにくくなる。その結果、太陽電池素子の長期の信頼性が向上し得る。
また、ここで、例えば、シロキサン樹脂において、アルキル基の数がフェニル基の数よりも多ければ、後述する太陽電池素子の製造方法における焼成工程において保護層上に形成される電極において、突起が発生しにくくなる。この突起は、例えば、焼成工程において電極を構成するアルミニウムの融点近傍において、フェニル基が熱分解などを生じることで発生し得る。ここで、例えば、電極に突起が存在していなければ、複数の太陽電池素子を重ねて運搬しても、第1の太陽電池素子の受光面と第2の太陽電池素子の裏面側の電極の突起とが接触する不具合が発生しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子の受光面側において集電用の電極(集電電極ともいう)の削れによる断線が生じにくく、太陽電池素子におけるマイクロクラックの発生および割れが発生しにくくなる。したがって、例えば、太陽電池素子の受光面側における集電効率が低下しにくく、太陽電池素子の出力特性が低下しにくい。
また、ここで、例えば、シロキサン樹脂が、アルキル基に加えて、フェニル基も含んでいれば、後述する焼成工程において、保護層は、炭素と酸素との二重結合(C=O)および炭素と炭素(C=C)との二重結合などの元素の二重結合を含むものとなり得る。例えば、保護層は、常温で黄色い固体のp−ベンゾキノンを含むものとなり得る。ここでは、例えば、シロキサン樹脂のシリコン(Si)がフェニル基によって終端化されている部分(Si−C6H5)と、水(H2O)および酸素(O2)と、が後述する太陽電池素子の製造方法における焼成工程において高温で反応すれば、ベンゾキノンが生成し得る。このとき、例えば、フェニル基から、図1または図2で示されるような分子構造を有する中間体を経て、図3で示されるようなベンゾキノンが生成し得る。図1および図2の二点鎖線で囲まれた部分において、Cおよびその上に付した黒丸は炭素ラジカルを示す。ここで、保護層は、ベンゾキノンの存在により、フェニル基に含まれていた炭素の二重結合(C=C)に加えて、炭素と酸素との二重結合(C=O)も含む。このため、保護層は、絶縁性ペーストの状態よりも多くの二重結合を含む。その結果、保護層における二重結合の存在によって得られる次のような効果がより顕著となり得る。
上記の二重結合には、例えば、σ結合およびπ結合の双方が含まれる。π結合は、紫外光から青色光の波長域の光を吸収することができる。σ結合は、π結合よりも結合力が高く、π結合よりも短い波長域(約200nm以下の波長域)の紫外光を吸収することができる。このため、上記の二重結合を含む保護層は、σ結合のみを有する単結合を含む保護層よりも、太陽光に含まれる約250nmから400nmの波長域における紫外光を吸収することができる。よって、例えば、上記の二重結合を含む保護層の存在によって、パッシベーション層に対する紫外光の照射が低減される。その結果、例えば、パッシベーション層の紫外光の照射による劣化が低減され得る。
また、上記の二重結合に含まれるπ結合は、σ結合と比較して反応を生じやすい傾向を有する。このため、上記の二重結合を含む保護層は、酸、水分および酸素と反応しやすい。ここでは、例えば、保護層に炭素の二重結合(C=C)が含まれていれば、π結合が反応することで、X−C−C−Y結合を生成する反応を生じ得る。X,Yは、水素(H)、塩素(Cl)または酸素(O)などを示す。具体的には、例えば、保護層に炭素の二重結合(C=C)が含まれていれば、炭素の二重結合(C=C)は、π結合と塩酸(HCl)との反応によって、H−C−C−Clの結合に変化し得る。また、例えば、保護層に炭素の二重結合(C=C)が含まれていれば、炭素の二重結合(C=C)は、π結合と水(H2O)との反応によって、H−C−C−OHの結合に変化し得る。また、例えば、保護層に炭素の二重結合(C=C)が含まれていれば、炭素の二重結合(C=C)は、π結合と酸素(O2)との反応によって、図4で示されるような2(−COC−)の結合に変化し得る。ここで、例えば、保護層に炭素と酸素との二重結合(C=O)が含まれている場合も、保護層に炭素と窒素との二重結合(C=N)が含まれている場合も、保護層に炭素の二重結合(C=C)が含まれている場合と同様な反応を生じ得る。したがって、例えば、上記の二重結合を含む保護層の存在によって、太陽電池素子において侵入あるいは封止材などで発生する酸、水分および酸素がパッシベーション層まで到達しにくい。その結果、例えば、パッシベーション層の劣化が低減され得る。
また、例えば、シロキサン樹脂が置換基としてフェニル基を含んでいれば、シロキサン樹脂が置換基としてフェニル基を含まずにアルキル基を含む場合と比較して絶縁性ペーストの塗布によって形成される保護層が乾燥されやすい。このため、保護層を形成する際に、絶縁性ペーストをより短時間またはより低温で乾燥することができる。
また、例えば、アルキル基がメチル基を含む場合には、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解によって生成された副生成物に含まれるメタノールは揮発しやすい。このため、副生成物が絶縁性ペースト中に残存しにくい。これにより、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストを印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤が副生成物によって溶解する不具合が生じにくく、スクリーン製版のパターンの寸法が変動しにくい。その結果、保護層の寸法精度が高まり得る。
また、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)中に7質量%から92質量%のシロキサン樹脂が含まれる場合には、この絶縁性ペーストを下地に塗布して乾燥させることで形成される保護層は緻密なものとなる。これにより、保護層をバリア性の高い膜にすることができる。また、絶縁性ペースト(100質量%)中に7質量%から92質量%のシロキサン樹脂が含まれる場合には、絶縁性ペーストはゲル化しにくい。このため、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。ここで、例えば、絶縁性ペースト(100質量%)中に40質量%から90質量%のシロキサン樹脂が含まれていれば、保護層の緻密さ、および絶縁性ペーストのゲル化しにくさを容易に実現することができる。
また、例えば、アルキル基がさらにプロピル基を含む場合には、シロキサン樹脂が有機溶剤に溶けやすい。このため、シロキサン樹脂とフィラーとが層分離しにくい。これにより、絶縁性ペーストの粘度が安定しやすい。
シロキサン樹脂におけるアルキル基の数とフェニル基の数との関係は、例えば、アルキル基の数が100に対してフェニル基の数が5から40となる関係であればよい。これにより、後述する太陽電池素子の製造方法における焼成工程において、上述したフェニル基の熱分解などによって生じる電極の突起が発生しにくくなる。
また、絶縁性ペーストには、例えば、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤がさらに含まれてもよい。このような添加剤は、例えば、下記一般式1で表される。
(R1)4−a−bSi(OH)a(OR2)b ・・・ 一般式1。
一般式1中のR1およびR2は、例えば、メチル基(−CH3)またはエチル基(−CH2CH3)などのアルキル基あるいはフェニル基(−C6H5)などの置換基を表す。また、aおよびbは0から4のいずれかの整数で表され、a+bは、1から4のいずれかの整数で表される。a+bは、例えば、3または4であってもよい。R1およびR2は、同一の置換基であっても異なる置換基であってもよい。
ここで、例えば、絶縁性ペーストでは、Si−O結合またはSi−N結合を有する、縮合重合していない加水分解性の添加剤を含有している場合には、添加剤を含有していない場合と比較して、シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加する。これは、例えば、シロキサン樹脂において、Si−OR結合の加水分解、およびSi−OH結合がシロキサン結合と水とに変化する縮合重合が進行しにくいためである。シロキサン樹脂におけるSi−OR結合またはSi−OH結合の比率が増加すれば、保護層と該保護層の隣接部分との間における高い密着性が実現されやすい。また、絶縁性ペーストは保管中でも縮合重合が徐々に生じて増粘してゲル化する傾向を示す。しかし、一実施形態に係る絶縁性ペーストでは、上述した添加剤を含有することで、加水分解した添加剤と、縮合重合した分子量の大きなシロキサン樹脂と、の間における縮合重合反応を発現させることができる。このため、分子量の大きなシロキサン樹脂同士による縮合重合反応が阻害されて絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎない。
また、例えば、絶縁性ペーストに含まれる一部のシロキサン樹脂は、加水分解して縮合重合したシロキサン樹脂のみによって構成されてもよい。これにより、例えば、シロキサン樹脂の加水分解の反応による絶縁性ペーストの粘度の変動が低減される。このため、絶縁性ペーストの粘度が安定しやすい。また、例えば、絶縁性ペーストに含まれたシロキサン樹脂の加水分解の反応による副生成物の生成が低減される。これにより、例えば、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストを印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤が副生成物によって溶解する不具合が生じにくく、スクリーン製版のパターンの寸法が変動しにくい。その結果、保護層の寸法精度が高まり得る。
フィラーは、シロキサン樹脂とは異なる材料を含有する有機被膜で覆われている表面を有していてもよい。これにより、フィラーの表面の未結合手が減少し得る。このとき、例えば、フィラーの表面は帯電しにくいため、フィラー同士が反発しにくくなる。また、このとき、シロキサン樹脂とフィラーとが結合しにくくなる。これにより、フィラー同士がある程度の距離を保持している状態で適度に凝集することができる。その結果、フィラーが等分散しにくくなり、絶縁性ペーストを適度に増粘させることができる。また、フィラーの表面にOH基が形成されにくくなるため、フィラーの表面のOH基とシロキサン樹脂のOH基との反応が低減されて、フィラーとシロキサン樹脂成分とが結合しにくくなる。これにより、絶縁性ペーストがゲル化しにくくなり、絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにすることができる。よって、例えば、絶縁性ペーストの塗布性および粘度安定性が向上し得る。これにより、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。また、絶縁性ペーストを長時間保管あるいは使用し続けた場合でも、絶縁性ペーストを所望のパターンに安定して塗布することができる。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の品質の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。
ここで、フィラーの表面を覆っている有機被膜に含有されている材料が、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有していれば、有機被膜の成分によって保護層の疎水性が向上する。フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料としては、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるオクチルシランなどが挙げられる。主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基、およびオクチルシランなどでは、OH基と反応しても極性が発生しにくく、保護層における疎水性が保持されやすい。また、フィラーの表面を覆う有機被膜の具体的な材料として、主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上であるジメチルポリシロキサンが採用されてもよい。ジメチルポリシロキサンは、例えば、主鎖がらせん状の構造を有しており、表面にメチル基が位置するため、疎水性を有する。このように、保護層が疎水性を有していれば、水分などによって保護層の膜質が変化しにくく、保護層の絶縁性が維持される。このため、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。その結果、太陽電池素子におけるパッシベーション層の経時劣化が低減され、該パッシベーション層の品質を向上させることができる。また、ここで、フィラーの表面を覆う有機被膜における主鎖中の炭素原子およびシリコン原子の合計数が、例えば1万以下であれば、凝集するフィラーの粒径が大きくなり過ぎず、絶縁性ペーストを塗布する際に塗布膜の厚さにムラが生じにくい。つまり、絶縁性ペーストの塗布性が向上する。これによっても、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。
より具体的には、フィラーの表面を覆う有機被膜の材料として、例えば、下記化学式1で表されるオクチルシラン、下記化学式2で表されるドデシル基、および下記一般式2で表されるジメチルポリシロキサンの少なくとも1種類の材料が採用される。
C8H20Si ・・・(化学式1)
−C12H25 ・・・(化学式2)
−(O−Si(R3)2)c−Si(R3)3 ・・・(一般式2)。
一般式2中のR3は、例えば、メチル基(CH3)を示す。R3の一部は、例えば、フェニル基(−C6H5)または水素(H)などであってもよい。換言すれば、有機被膜の材料は、例えば、メチルフェニルポリシロキサンおよびメチルハイドロジェンポリシロキサンであってもよい。また、cは6以上の整数で表される。
ジメチルポリシロキサンはSi−O−Si結合(シロキサン結合)を有する高分子化合物である。一般式2で示されるジメチルポリシロキサンは、1つの終端部がメチル基で終端され、1つの終端部とは逆側の終端部がフィラーの表面で終端される。
また、フィラーは、例えば、互いに異なる種類の有機被膜で表面が覆われた複数のフィラーを含んでいてもよい。この場合、例えば、基板上に絶縁性ペーストを塗布する際に、表面張力の低下によって生じるものと思われる製版と基板との貼りつきを低減することができる。また、このとき、例えば、印刷時に任意のパターンで絶縁性ペーストを塗布しやすくなり、絶縁性ペーストの印刷性を向上させることができる。この場合には、例えば、上記一般式2で示されるジメチルポリシロキサンを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーと、上記化学式1で示されるオクチルシランを材料とする有機被膜で表面が覆われたフィラーとを用いることができる。
また、フィラーの総質量は、例えば、絶縁性ペースト中におけるフィラーの濃度が3質量%から30質量%の値となるように設定される。この場合には、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に調整することができる。このとき、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量をある程度少なくし、シロキサン樹脂の占める割合を高めることができる。これにより、緻密な保護層を形成することができ、保護層のバリア性を向上させることができる。ただし、フィラーの量が少な過ぎる場合には、後述する焼成の工程で、縮合重合反応の進行によってシロキサン樹脂同士が結合する際に、クラックが生じ易くなる。このため、フィラーの総質量が、例えば、絶縁性ペースト中におけるフィラーの濃度が5質量%から25質量%の値となるように設定されれば、保護層のバリア性を容易に向上させることができる。
また、絶縁性ペーストでは、フィラーの質量がシロキサン樹脂の質量よりも少なければ、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に調整することができる。この場合、絶縁性ペーストにおいて、フィラーの量がある程度少なく、シロキサン樹脂の占める割合が高くなる。これにより、保護層が緻密になるのでバリア性が向上し得る。例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、3質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、容易に緻密な保護層を形成することができる。また、例えば、シロキサン樹脂100質量部に対して、25質量部から60質量部のフィラーを含ませれば、さらに容易に緻密な保護層を形成することができる。
一実施形態に係る絶縁性ペーストに含まれるフィラーとしては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタンなどを含む無機フィラーが採用される。ここで、例えば、酸化シリコンのフィラーが採用される場合には、相溶性が向上するため、絶縁性ペーストがゲル化しにくい。また、フィラーの形状としては、粒子状、層形状、扁平状、中空状または繊維状などの形状が採用される。これらの形状のフィラーを用いることによって、フィラーが等分散することによる粘度の低下を低減できる。ここでは、例えば、真球に近い形状のフィラーよりも、扁平状などの真球状でないフィラーの方が、表面積が大きくなるので、フィラー同士が凝集しやすくなる。その結果、フィラーが等分散しにくくなる。
また、フィラーの平均粒径は、例えば1000nm以下に設定される。この平均粒径は、一次粒子の平均粒径でもよいし、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒径でもよい。この場合には、絶縁性ペーストを塗布する際に塗布膜の厚さにムラが生じにくい。つまり、絶縁性ペーストの塗布性が向上する。これによっても、絶縁性ペーストを用いて形成される保護層によるパッシベーション層を保護する機能が向上し得る。
有機溶剤は、シロキサン樹脂およびフィラーを分散させる溶剤である。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールおよび2−プロパノールのうちの1種類または複数種類のものを用いることができる。
また、有機溶剤は、絶縁性ペースト中に5質量%から90質量%の濃度で含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に調整することができる。そして、例えば、絶縁性ペースト中に5質量%から50質量%の濃度で有機溶剤が含まれていれば、絶縁性ペーストの粘度をスクリーン印刷法などに適した粘度に容易に調整することができる。
また、絶縁性ペーストが、有機バインダを実質的に含有していなければ、絶縁性ペーストを乾燥させる工程において、有機バインダなどの分解による空隙の発生が低減される。これにより、保護層が緻密になり、保護層のバリア性が向上し得る。ただし、100質量部の絶縁性ペーストに対して0.1質量部未満の有機バインダは含有されていてもよい。
また、絶縁性ペーストの粘度が、せん断速度1sec−1で5Pa・秒から400Pa・秒に設定されれば、スクリーン印刷法を用いて所望のパターンに絶縁性ペーストを塗布する際に、絶縁性ペーストの滲みを低減することができる。例えば、幅が数十μm程度の開口部を有する形状に絶縁性ペーストを容易に塗布することができる。絶縁性ペーストの粘度は、例えば、粘度・粘弾性測定装置(Viscosity-Viscoelasticity Measuring Instrument)などを用いて測定することができる。
シロキサン樹脂に含まれるアルキル基およびフェニル基は、例えば、赤外線分光(Infrared Spectroscopy:IR)法、ガスクロマトグラフ質量分析(Gas Chromatograph Mass Spectrometer:GC−MS)法または高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatography:HPLC)法を用いて同定され得る。また、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法または質量分析(Mass Spectrometry:MS)法などによって、シロキサン樹脂におけるアルキル基の含有量およびフェニル基の含有量を測定することができる。これにより、シロキサン樹脂に含まれるアルキル基の数およびフェニル基の数が測定され得る。
シロキサン樹脂および有機被膜の分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)法、静的光散乱(Static Light Scattering:SLS)法、固有粘度(Intrinsic Viscosity:IV)法または蒸気圧浸透圧(Vapor Pressure Osmometer:VPO)法などによって測定することができる。また、シロキサン樹脂および有機被膜の組成は、例えば、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法、赤外線分光(Infrared Spectroscopy:IR)法または熱分解ガスクロマトグラフィー(Pyrolysis Gas Chromatography:PGC)法などによって測定することができる。さらに、発生ガス分析(Evolved Gas Analysis Mass Spectrometry:EGA−MS)法によれば、シロキサン樹脂および有機被膜の分子量および組成の何れも測定することができる。これらの測定方法によって、有機被膜における主鎖中の炭素原子およびシリコン原子の数を測定することができる。また、上記の測定方法では、シロキサン樹脂と、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーとを分離して測定してもよい。例えば、有機溶剤で絶縁性ペーストを希釈した後に、遠心分離によってシロキサン樹脂と有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーとを分離することができる。
<2.絶縁性ペーストの製造方法>
一実施形態の絶縁性ペーストの製造方法について、図5を用いて以下説明する。
絶縁性ペーストは、シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させる水と、触媒と、有機溶剤と、多数のフィラーとを混合することで作製することができる。
まず、混合工程(ステップS1)をおこなう。シロキサン樹脂の前駆体と、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させる水と、触媒と、有機溶剤と、を容器内において混合して混合溶液を作製する。
シロキサン樹脂の前駆体としては、例えば、Si−O結合またはSi−N結合を有する加水分解性の化合物などが挙げられる。シロキサン樹脂の前駆体は、加水分解して縮合重合することによりシロキサン樹脂となる。
シロキサン樹脂の前駆体であるSi−O結合を有する加水分解性の化合物は、少なくとも1種のケイ素含有化合物を含む。ケイ素含有化合物は、例えば、下記一般式3で表される少なくとも一種のアルコキシシランを加水分解させて縮合重合させたシロキサン樹脂からなる群より選択される。
(R1)4−dSi(OR2)d ・・・ 一般式3。
一般式3中のdは、1から4のいずれかの整数で表される。
ここで、例えば、一部のシロキサン樹脂の前駆体は、加水分解して縮合重合した後に、フェニル基が加水分解して縮合重合する際に生成された副生成物が除去された、シロキサン樹脂の状態で混合されてもよい。これにより、例えば、シロキサン樹脂の加水分解の反応による絶縁性ペーストの粘度の変動が低減され、絶縁性ペーストの粘度が安定しやすくなる。また、例えば、副生成物が除去された状態のシロキサン樹脂と、有機溶剤と、フィラーと、の混合で生成された絶縁性ペーストを、スクリーン印刷法で印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤の副生成物による溶解が生じにくい。その結果、スクリーン製版のパターンの寸法が変動しにくい。
この混合工程では、例えば、アルキル基を有するシロキサン樹脂の前駆体と、フェニル基を有するシロキサン樹脂の前駆体と、を混合させてもよい。
例えば、シロキサン樹脂の前駆体であるSi−O結合を有する加水分解性の化合物として、例えば、フェニル基を有さずにメチル基を有するシラン化合物と、アルキル基を有さずにフェニル基を有するシラン化合物と、を採用することができる。フェニル基を有さずにメチル基を有するシラン化合物には、例えば、dが4であるテトラメトキシシラン(Si−(OCH3)4)、dが3であるメチルトリメトキシシラン(CH3−Si−(OCH3)3)およびdが2であるジメチルジメトキシシラン((CH3)2−Si−(OCH3)2)などが含まれる。アルキル基を有さずにフェニル基を有するシラン化合物には、例えば、dが4であるテトラフェノキシシラン(Si−(OC6H5)4)、dが3であるフェニルトリフェノキシシラン(C6H5−Si−(OC6H5)3)およびdが2であるジフェニルジフェノキシシラン((C6H5)2−Si−(OC6H5)2)などが含まれる。
また、例えば、シロキサン樹脂の前駆体であるSi−N結合を有する加水分解性の化合物として、下記化学式3で表されるポリシラザンなどの無機化合物、あるいは下記化学式4で表されるヘキサメチルジシラザンなどの有機化合物、を用いてもよい。
−(H2SiNH)y− ・・・(化学式3)
(CH3)3SiNHSi(CH3)3 ・・・(化学式4)。
化学式3中のyは、任意の自然数を示す。
水は、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解反応させるための液体である。例えば、純水を用いることができる。
有機溶剤は、シロキサン樹脂または後述するフィラーを分散させる溶剤である。有機溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチルアルコール、2−(4−メチルシクロヘキサ−3−エニル)プロパン−2−オールおよび2−プロパノールのうちの1種類または複数種類のものを用いることができる。
触媒としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、燐酸、フッ化水素酸、酢酸などの無機酸または有機酸を用いることができる。また、触媒としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ピリジンなどの無機塩基または有機塩基を用いることもできる。さらに触媒は、これらの無機酸もしくは有機酸、または、無機塩基もしくは有機塩基を、1種類または2種類以上組み合わせて用いることもできる。
また、混合工程で混合する材料の比率は、これらの材料の総質量に対してシロキサン樹脂の前駆体が10質量%から90質量%、水が5質量%から40質量%(10質量%から20質量%でもよい)、触媒が1ppmから1000ppm、有機溶剤が5質量%から50質量%とされる。これにより、シロキサン樹脂の前駆体を加水分解させて縮合重合させることで得られるシロキサン樹脂を、絶縁性ペースト中に適切な質量比で含有させることができる。さらに、絶縁性ペーストがゲル化して絶縁性ペーストの粘度が増加しすぎないようにすることができる。
また、混合工程において、シロキサン樹脂の前駆体と水とが反応し、シロキサン樹脂の前駆体の加水分解が始まる。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され始める。
次に、第1攪拌工程(ステップS2)をおこなう。混合工程で作製した混合溶液を、例えば、ミックスローターまたはスターラーなどを用いて攪拌する。混合溶液を攪拌することによって、さらにシロキサン樹脂の前駆体は加水分解される。また、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され続ける。ここでは、例えば、ミックスローターで攪拌をおこなう場合には、回転数が400rpmから600rpmで、攪拌時間が30分間から90分間である攪拌条件で攪拌をおこなう。上記攪拌条件で攪拌することで、シロキサン樹脂の前駆体、水、触媒および有機溶剤を均一に混合することができる。
また、第1攪拌工程において、例えば、混合溶液を加熱しながら攪拌することで、シロキサン樹脂の前駆体が加水分解して縮合重合されやすくなる。これにより、例えば、第1攪拌工程以降の工程において混合溶液の粘度が安定しやすくなる。また、例えば、シロキサン樹脂の前駆体が加水分解して縮合重合しやすくなるので、攪拌時間の短縮によって絶縁性ペーストの製造における生産性を向上させることができる。
次に、副生成物除去工程(ステップS3)をおこなう。この工程では、有機溶剤およびシロキサン樹脂の前駆体と水との反応によって発生したアルコールなどの有機成分の副生成物、水および触媒を揮発させる。この副生成物を除去することによって、絶縁性ペーストの保管時、または絶縁性ペーストを連続で塗布する際に、上記有機成分の揮発に起因した絶縁性ペーストの粘度の変動を低減することができる。また、スクリーン印刷法によって絶縁性ペーストを印刷する場合には、スクリーン製版の乳剤が有機成分によって溶解してスクリーン製版のパターンの寸法が変動する不具合の発生を低減することができる。また、副生成物除去工程においても、加水分解したシロキサン樹脂の前駆体が縮合重合し、シロキサン樹脂が生成され続ける。ただし、水および触媒を揮発させることで、シロキサン樹脂の前駆体の縮合重合の反応が低減され、混合溶液の粘度の変動を低減することができる。
副生成物除去工程は、例えば、ホットプレートまたは乾燥炉などを用いて、処理温度が室温から90℃(通常は50℃から90℃)であり、処理時間が10分間から600分間である条件で攪拌後の混合溶液を処理する。処理温度が上記温度範囲内であれば、副生成物を除去することができる。また、上記温度範囲内では、副生成物である有機成分がより揮発しやすい。このため、処理時間を短縮することができ、絶縁性ペーストの製造における生産性が向上し得る。
副生成物除去工程が、例えば、減圧下でおこなわれれば、副生成物である有機成分がより揮発しやすい。このため、処理時間を短縮することができ、絶縁性ペーストの製造における生産性が向上し得る。
副生成物除去工程において、第1攪拌工程で加水分解せずに残存したシロキサン樹脂の前駆体を加水分解させてもよい。
次に、フィラー添加工程(ステップS4)をおこなう。ここでは、上記副生成物除去工程(ステップS3)の処理が施された混合溶液に、多数のフィラーが添加される。ここで、多数のフィラーとして、例えば、有機被膜で覆われた表面を有する多数のフィラーを採用することができる。有機被膜の素材としては、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造、または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有する素材が採用される。多数のフィラーそのものには、例えば、酸化シリコンで構成される無機フィラーなどを用いることができる。ここで、第1攪拌工程(ステップS2)の後にフィラー添加工程(ステップS4)をおこなうため、混合溶液の粘度を容易に調整することができる。また、フィラーは、例えば、作製後の絶縁性ペースト中に3質量%から30質量%含まれるように添加される。ここでは、例えば、フィラーが、作製後の絶縁性ペースト中に5質量%から25質量%含まれるように添加されてもよい。
次に、第2攪拌工程(ステップS5)をおこなう。この攪拌は、フィラーが添加された混合溶液に対して、例えば、自転・公転ミキサーなどを用いておこなう。例えば、自転・公転ミキサーで攪拌をおこなう場合には、自転部と公転部の回転数が800rpmから1000rpmであり、攪拌時間が1分間から10分間である条件で攪拌をおこなう。上記条件で攪拌をおこなうことによって、混合溶液中にフィラーを均一に分散させることができる。
次に、粘度安定化工程(ステップS6)をおこなう。ここでは、攪拌後の混合溶液を、例えば、室温で2時間から24時間程度保管することで、混合溶液の粘度が安定する。第2攪拌工程において、混合溶液の粘度が安定する場合は、粘度安定化工程を省略することができる。
以上の工程によって、絶縁性ペーストを作製することができる。
また、第1攪拌工程(ステップS2)の後に、フィラー添加工程(ステップS4)をおこなうようにしているが、例えば、混合工程においてフィラーも同時に添加しても構わない。これにより、フィラー添加工程(ステップS4)および第2攪拌工程(ステップS5)が不要となるため、絶縁性ペーストの生産性が向上する。
また、副生成物除去工程はおこなわなくてもよい。副生成物除去工程をおこなうことなく作製した絶縁性ペーストは、スプレー法などで塗布することができる。
また、例えば、アルキル基を有するシロキサン樹脂を混合工程で生成し、フェニル基を有するシロキサン樹脂を、フィラー添加工程で添加してもよい。
また、アルキル基を有するシロキサン樹脂を含む絶縁性ペーストと、フェニル基を有するシロキサン樹脂を含む絶縁性ペーストとを作製し、これらの絶縁ペーストを混合し、アルキル基およびフェニル基を有するシロキサン樹脂を含む絶縁性ペーストを作製してもよい。
<3.太陽電池素子>
一実施形態に係る太陽電池素子10の一例を図6から図8に示す。以下では一実施形態の絶縁性ペーストをPERC(Passivated Emitter Rear Cell)型の太陽電池素子に適用した一例について説明する。
太陽電池素子10は、図6から図8に示すように、主に光が入射する受光面である第1面10aと、この第1面10aの反対側に位置する裏面である第2面10bと、側面10cと、を有する。また、太陽電池素子10は、半導体基板としてシリコン基板1を備えている。シリコン基板1は、第1面1aと、この第1面1aの反対側に位置する第2面1bと、側面1cと、を有する。シリコン基板1は、一導電型(例えばp型)半導体領域である第1半導体層2と、第1半導体層2における第1面1a側に位置している逆導電型(例えばn型)の半導体領域である第2半導体層3と、を有する。さらに、太陽電池素子10は、第3半導体層4、反射防止層5、第1電極6、第2電極7、第3電極8、第1パッシベーション層9および保護層11を備えている。
シリコン基板1は、例えば、単結晶シリコンまたは多結晶シリコンの基板である。半導体基板は、上述したような第1半導体層2および第2半導体層3を有する半導体基板であれば、シリコン以外の材料を用いて構成されてもよい。
以下、第1半導体層2としてp型半導体を用いる場合について説明する。この場合には、例えば、シリコン基板1としてp型シリコン基板を用いる。シリコン基板1としては、例えば、厚さが250μm以下の基板、さらには厚さが150μm以下の薄い基板を用いることができる。シリコン基板1の形状は、特に限定されないが、平面視で略四角形状であれば、太陽電池素子10を用いて太陽電池モジュールを製造する際に、素子間の隙間を小さくすることができる。多結晶のシリコン基板1で構成される第1半導体層2をp型にする場合には、例えば、シリコン基板1に、ドーパント元素として、ボロン、ガリウムなどの不純物を含有させる。
第2半導体層3は、第1半導体層2上に積層されている。第2半導体層3は、第1半導体層2に対して逆の導電型(一実施形態の場合はn型)を有し、シリコン基板1における第1面1a側に位置している。これにより、シリコン基板1は、第1半導体層2と第2半導体層3との界面にpn接合部を有している。第2半導体層3は、例えば、シリコン基板1の第1面1a側にドーパントとしてリンなどの不純物元素を拡散させることで形成することができる。
図8に示すように、シリコン基板1の第1面1a側に、照射された光の反射率を低減するための微細な凹凸構造(テクスチャ)を設けてもよい。テクスチャの凸部の高さは、例えば0.1μmから10μm程度とされ、隣り合う凸部の頂間の長さは、例えば0.1μmから20μm程度とされる。テクスチャは、例えば、凹部が略球面状であってもよいし、凸部がピラミッド形状であってもよい。上述した「凸部の高さ」とは、例えば、図8において、凹部の底面を通る仮想的な直線を基準線とし、この基準線に対して垂直な方向において、この基準線から上記凸部の頂までの距離のことである。
反射防止層5は、太陽電池素子10の第1面10aに照射された光の反射率を低減する機能を有する。反射防止層5は、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウムまたは窒化シリコン層などを用いて構成される。反射防止層5の屈折率および厚みについては、太陽光のうち、シリコン基板1に吸収されて発電に寄与し得る波長範囲の光に対して、低反射条件を実現することができる屈折率および厚みを適宜採用すればよい。反射防止層5として、例えば、1.8から2.5程度の屈折率と、20nmから120nm程度の厚みと、を有するものを採用することができる。
第3半導体層4は、シリコン基板1の第2面1b側に位置している。この第3半導体層4の導電型は、第1半導体層2と同一の導電型(一実施形態ではp型)であればよい。そして、第3半導体層4が含有するドーパントの濃度は、第1半導体層2が含有するドーパントの濃度よりも高い。すなわち、第3半導体層4中には、第1半導体層2において一導電型にするためにドープされたドーパント元素の濃度よりも高い濃度でドーパント元素が存在する。このため、シリコン基板1は、例えば、一方の表面としての第2面1bにp型の導電型を有する半導体の領域(p型半導体領域ともいう)を有している。第3半導体層4は、シリコン基板1の第2面1b側において内部電界を形成する。これにより、シリコン基板1の第2面1bの表面近傍では、少数キャリアの再結合による光電変換効率の低下が生じにくい。第3半導体層4は、例えば、シリコン基板1の第2面1b側の表層部に、ボロンまたはアルミニウムなどのドーパント元素を拡散させることで形成し得る。ここで、第1半導体層2が含有するドーパント元素の濃度を、5×1015stoms/cm3から1×1017atoms/cm3程度とし、第3半導体層4が含有するドーパント元素の濃度を、1×1018stoms/cm3から5×1021atoms/cm3程度とすることができる。第3半導体層4は、例えば、後述する第3電極8とシリコン基板1との接触部分に存在する。
第1電極6は、シリコン基板1の第1面1a側に位置している電極である。また、第1電極6は、図6に示すように、出力取出電極6aと、複数の線状の集電電極6bと、を有している。出力取出電極6aは、発電によって得られた電気を外部に取り出すための電極である。出力取出電極6aの短手方向の長さ(幅ともいう)は、例えば1.3mmから2.5mm程度とされる。出力取出電極6aの少なくとも一部は、集電電極6bと交差して電気的に接続されている。集電電極6bは、シリコン基板1による発電で得られた電気を集めるための電極である。各集電電極6bの幅は、例えば50μmから200μm程度とされる。このように、集電電極6bの幅は、出力取出電極6aの幅よりも小さい。また、複数の集電電極6bは、例えば、互いに1mmから3mm程度の間隔を有するようにならんでいる。第1電極6の厚みは、例えば10μmから40μm程度とされる。第1電極6は、例えば、銀を主成分とする金属ペーストを、スクリーン印刷などによって所望の形状に塗布した後に、この金属ペーストを焼成することで形成し得る。一実施形態において、主成分とは、全体の成分に対して含有される比率が50%以上であることを意味する。ここで、例えば、集電電極6bと同様な形状を有する補助電極6cが、シリコン基板1の周縁部の出力取出電極6aの長手方向に沿って位置し、集電電極6b同士を電気的に接続していてもよい。
第2電極7および第3電極8は、図7および図8に示すように、シリコン基板1の第2面1b側に位置している。第2電極7は太陽電池素子10における発電によって得られた電気を外部に取り出すための電極である。第2電極7の厚みは、例えば10μmから30μm程度とされる。この第2電極7の幅は、例えば1.3mmから7mm程度とされる。
また、第2電極7は主成分として銀を含んでいる。このような第2電極7は、例えば、銀を主成分とする金属ペーストをスクリーン印刷などによって所望の形状に塗布した後、この金属ペーストを焼成することで形成し得る。
第3電極8は、図7および図8に示すように、シリコン基板1の第2面1b側において、シリコン基板1で発電された電気を集めるための電極である。また、第3電極8は、第2電極7と電気的に接続している状態で位置している。第2電極7の少なくとも一部が第3電極8に接続していればよい。第3電極8の厚みは、例えば15μmから50μm程度とされる。
また、第3電極8は、主成分としてアルミニウムを含んでいる。第3電極8は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属ペーストを所望の形状に塗布した後、この金属ペーストを焼成することで形成し得る。
第1パッシベーション層9は、シリコン基板1の少なくとも第2面1b上に位置している。つまり、第1パッシベーション層9は、シリコン基板1のp型半導体領域の上に位置している。第1パッシベーション層9は、少数キャリアの再結合を低減する機能を有する。第1パッシベーション層9の素材としては、例えば、酸化アルミニウムが採用される。第1パッシベーション層を構成する酸化アルミニウムは、例えば、原子層堆積(Atomic Layer Deposition:ALD)法で形成される。ここで、酸化アルミニウムは、負の固定電荷を有することから、この電界効果によって、シリコン基板1の第2面1b側の少数キャリア(この場合は電子)が、p型の第1半導体層2と第1パッシベーション層9との界面(シリコン基板1の表面としての第2面1b)から遠ざけられる。これにより、シリコン基板1の第2面1b側において少数キャリアの再結合が低減される。このため、太陽電池素子10の光電変換効率の向上を図ることができる。第1パッシベーション層9の厚みは、例えば、10nmから200nm程度とされる。
保護層11は、第1半導体層2の上に位置している、第1パッシベーション層9の上に所望のパターンを有するように位置している。ここで、保護層11を平面視した場合、保護層11は、複数の開口部を含むパターンを有している。開口部の形状は、例えば、ドット(点)状であってもよいし、帯(線)状であってもよい。この場合、例えば、開口部の直径または幅は、10μmから500μm程度であればよい。平面視した際の互いに隣り合う開口部の中心同士の距離(開口部のピッチともいう)は、例えば0.3mmから3mm程度とされる。保護層11の上にアルミニウムを主成分とする金属ペーストを所望の形状に塗布して焼成する際に、保護層11が形成されていない開口部に位置している第1パッシベーション層9上に塗布された金属ペーストは、焼成時に第1パッシベーション層9をファイヤースルーする。これにより、金属ペーストは、シリコン基板1と電気的に接続し、金属ペーストからシリコン基板1の第2面1bの表層部にアルミニウムが拡散することで、第3半導体層4が形成される。これに対して、第1パッシベーション層9のうちの保護層11で覆われている領域は、第1パッシベーション層9が金属ペーストによってファイヤースルーされない。このため、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低減されにくい。保護層11の厚みは、例えば0.5μmから10μm程度とされる。保護層11の厚みは、例えば、絶縁性ペーストに含まれる成分の種類またはその含有量、シリコン基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、金属ペーストに含まれるガラスフリットの種類またはその含有量、ならびに第3電極8形成時の焼成条件などによって適宜変更される。保護層11は、例えば、上述した絶縁性ペーストをスクリーン印刷法で塗布し、乾燥させることで形成される。
また、保護層11は、例えば、シリコン基板1の第2面1b側に形成されている第1パッシベーション層9上だけでなく、シリコン基板1の側面1c側および第1面1a側に位置している反射防止層5上に存在していてもよい。この場合には、保護層11の存在によって、太陽電池素子10におけるリーク電流の発生を低減することができる。
一実施形態では、保護層11は、主成分として酸化シリコンを含んでいる。具体的には、保護層11には、例えば、シロキサン樹脂と、炭素と酸素との二重結合、炭素と炭素との二重結合および炭素と窒素の二重結合から選択される1種以上の二重結合と、が含まれている。例えば、保護層11にベンゾキノンが含まれていれば、保護層11には、シロキサン樹脂と、炭素と酸素との二重結合および炭素と炭素との二重結合と、が存在している。
上記の二重結合の存在は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光分析)法による測定によって確認され得る。太陽電池素子10は、例えば、透明基板と、樹脂製のバックシートと、これらの間に充填されているエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などの封止材と、によって封止されている太陽電池モジュールの状態で使用される。この場合には、例えば、室温から100℃程度の温度域で樹脂製のバックシートを柔軟な状態とする。そして、バックシートおよび封止材に切れ目を入れて、太陽電池素子10の裏面上に位置しているバックシートと封止材を剥がすことができる。また、太陽電池素子10の受光面側と封止材との剥離は、例えば、太陽電池素子10の外周部からこの太陽電池素子10と封止材との間に細い金属製のワイヤーなどを挿入することで実施し得る。また、例えば、太陽電池素子10を割って破片状として、太陽電池素子10から封止材を剥離させてもよい。その後、例えば、封止材から分離された太陽電池素子10の第3電極8を研磨あるいは塩酸などを用いたエッチングによって除去することで保護層11を露出させ、FT−IR法による測定に供することができる。そして、例えば、FT−IR法の測定で得られる波数のスペクトルのうち、1630cm−1付近の波数のスペクトルを参照することで、上記の二重結合の存在を確認することができる。また、二重結合を構成する元素は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析(Gas Chromatography Mass spectrometry:GC−MS)法あるいは飛行時間型二次イオン質量分析(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:TOF−SIMS)法などによって確認され得る。また、例えば、保護層を溶解することができる場合には、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)法によって、二重結合を構成する元素を確認することができる。
ここで、保護層11に、炭素と酸素との二重結合、炭素と炭素との二重結合および炭素と窒素の二重結合から選択される1種以上の二重結合が含まれていれば、例えば、保護層11は、紫外光を吸収しやすくなる。これにより、例えば、第1パッシベーション層9に対する紫外光の照射が低減される。その結果、例えば、第1パッシベーション層9の紫外光の照射による劣化が低減され得る。また、保護層11では、例えば、炭素と酸素との二重結合、炭素と炭素との二重結合および炭素と窒素の二重結合から選択される1種以上の二重結合が、反応を生じやすいπ結合の存在によって、酸、水分および酸素などと反応しやすい。このため、上記二重結合を有する保護層11によって、太陽電池素子10において侵入あるいは発生する酸、水分および酸素などが捉えられ得る。これにより、例えば、上記の二重結合を含む保護層11の存在によって、太陽電池素子10において侵入あるいは発生する酸および水分などが第1パッシベーション層9まで到達しにくい。その結果、例えば、第1パッシベーション層9が劣化しにくくなる。
また、保護層11には、例えば、絶縁性ペーストに含まれていた多数のフィラーの有機被膜の成分に由来する成分が含まれていてもよい。例えば、保護層11に、シロキサン樹脂とは異なる、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上である構造または主鎖中における炭素原子の数とシリコン原子の数との合計数が6つ以上である構造を有している有機成分が含まれている場合が考えられる。この有機成分には、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基あるいはオクチルシランなどが含まれ得る。この場合、例えば、主鎖中における炭素原子の数が6つ以上であるアルキル基およびオクチルシランでは、OH基と反応しても極性が発生しにくく、保護層11における疎水性が保持され得る。これにより、例えば、保護層11の膜質が水分などによって変化しにくく、保護層11の耐久性が向上する。このため、保護層11による第1パッシベーション層9を保護する機能が向上し得る。その結果、太陽電池素子における第1パッシベーション層9の品質が維持され、この第1パッシベーション層9の品質を向上させることができる。
また、例えば、保護層11は、−(O−Si−(CH3)2)−結合および−(Si−(CH3)3)結合を含むジメチルポリシロキサンを含んでいてもよい。保護層11におけるジメチルポリシロキサンの存在は、例えば、FT−IR法、EGA−MS法あるいはTOF−SIMSなどの分析法によって確認され得る。例えば、絶縁性ペーストに含まれていた多数のフィラーの表面を覆っている有機被膜にジメチルポリシロキサンが含有されていれば、保護層11にジメチルポリシロキサンが含まれ得る。ジメチルポリシロキサンの存在は、例えば、FT−IR法の測定で得られる波数のスペクトルのうち、1250cm−1から1300cm−1付近の波数のスペクトルを参照することで、確認することができる。
さらに、例えば、保護層11内に、絶縁性ペーストに含まれていたSi−OH結合およびSi−OR結合の少なくとも一方が残存していれば、保護層11と、この保護層11と隣接する他の部分(隣接部分)と、の間で密着性が向上する。隣接部分には、例えば、第3電極8および第1パッシベーション層9が含まれる。例えば、アルミニウム(Al)およびシリコン(Si)の表面には、OHが存在する。このため、Si−OR結合が保護層11の表面に存在していれば、RとOHが反応し、アルコールを放出して、シロキサン結合(Si−O−Si結合)およびSi−O−Al結合などを形成する。また、Si−OH結合が保護層11の表面に存在していても、HとOHが反応し、水を放出して、シロキサン結合(Si−O−Si結合)およびSi−O−Al結合などを形成する。これにより、保護層11と、この保護層11と隣接する他の部分(隣接部分)と、の間で密着性が向上する。ところで、保護層11におけるSi−OH結合の存在は、例えば、FT−IR法による測定によって確認され得る。また、保護層11におけるSi−OR結合の存在は、例えば、NMR法などによる測定によって確認され得る。
また、例えば、保護層11は、シリコン基板1の第2面1b側に形成されている第1パッシベーション層9上だけでなく、シリコン基板1の側面1cおよび第1面1aの外周部の上に形成された反射防止層5の上に形成されていてもよい。この場合には、保護層11の存在によって、太陽電池素子10のリーク電流を低減することができる。
また、例えば、p型半導体領域(一実施形態では第1半導体層2)と、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9との間に、酸化シリコンを含む第2パッシベーション層が形成されてもよい。これにより、パッシベーション性能を向上させることができる。ここで、第2パッシベーション層の厚みが0.1nmから1nm程度であれば、酸化シリコンを用いて構成される第2パッシベーション層が正の固定電荷を有していても、第1パッシベーション層9による電界パッシベーション効果が低下しにくい。
さらに、例えば、第3電極8は、太陽電池素子10の第2面1b上に集電電極6bのような形状に形成されて第2電極7と接続されていてもよい。このような構造によって、例えば、太陽電池モジュールの裏面側へ入射した地面などからの反射光も発電に寄与させて太陽電池モジュールの出力を向上させることができる。
さらに、例えば、酸化アルミニウム層を含む第1パッシベーション層9と保護層11との間に、ALD法によって形成された酸化シリコン層を含んでもよい。この酸化シリコン層はALD法で形成されているので、保護層11よりも緻密である。保護層11よりも緻密な酸化シリコン層の様子については、TEM(Transmission Electron Microscope)で観察することができる。酸化シリコン層が第1パッシベーション層9と保護層11との間に形成されることによって、第1パッシベーション層9と保護層11とのバッファ層として機能する。このため、第1パッシベーション層9と保護層11との密着性がさらに向上する。酸化シリコン層の厚さは、例えば、5nmから15nm程度とされる。酸化シリコン層の膜厚が上記範囲内であれば、酸化シリコン層が正の固定電荷を有していても、第1パッシベーション層9の負の固定電荷による電界パッシベーション効果が低下しにくい。ただし、酸化シリコン層の膜厚は、第1パッシベーション層9の膜厚よりも小さい方がよい。
<4.太陽電池素子の製造方法>
次に、太陽電池素子10の製造方法の各工程について、図9から図14を用いて詳細に説明する。
まず、図9に示すようにシリコン基板1を用意する。シリコン基板1は、例えば、既存のチョクラルスキー(Czochralski:CZ)法または鋳造法などによって形成される。以下では、シリコン基板1として、p型多結晶シリコン基板を用いた例について説明する。
ここでは、例えば、鋳造法によって多結晶シリコンのインゴットを作製する。次いで、そのインゴットを、例えば250μm以下の厚みにスライスしてシリコン基板1を作製する。その後、シリコン基板1の切断面の機械的ダメージ層および汚染層を除去するために、シリコン基板1の表面をNaOH、KOH、フッ酸またはフッ硝酸などの水溶液でごく微量エッチングしてもよい。
次に、図10に示すように、シリコン基板1の第1面1aにテクスチャを形成する。テクスチャの形成方法としては、例えば、NaOHなどのアルカリ溶液もしくはフッ硝酸などの酸溶液を使用したウエットエッチング方法、または反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)法などを使用したドライエッチング方法を用いることができる。
次に、図11に示すように、上記工程によって形成されたテクスチャを有するシリコン基板1の第1面1aに対して、n型半導体領域である第2半導体層3を形成する工程をおこなう。具体的には、テクスチャを有するシリコン基板1における第1面1a側の表層部にn型の第2半導体層3を形成する。
第2半導体層3は、例えば、ペースト状にしたP2O5(五酸化二リン)をシリコン基板1の表面に塗布してリンを熱拡散させる塗布熱拡散法、あるいはガス状にしたPOCl3(オキシ塩化リン)を拡散源とした気相熱拡散法などを用いて形成することができる。第2半導体層3は、0.1μmから2μm程度の深さおよび40Ω/□から200Ω/□程度のシート抵抗値を有するように形成される。例えば、気相熱拡散法では、POCl3などを含む拡散ガスを有する雰囲気中で600℃から800℃程度の温度域において5分間から30分間程度の熱処理をシリコン基板1に施して、燐ガラスをシリコン基板1の表面に形成する。その後、アルゴンまたは窒素などの不活性ガスの雰囲気中で800℃から900℃程度の高い温度において、シリコン基板1に対して10分間から40分間程度の熱処理を施す。これにより、燐ガラスからシリコン基板1の表層中にリンが拡散して、シリコン基板1の第1面1a側に第2半導体層3が形成される。
次に、上記第2半導体層3の形成工程において、第2面1b側にも第2半導体層が形成された場合には、例えば、第2面1b側に形成された第2半導体層をエッチングで除去する。これにより、第2面1b側にp型の導電型領域を露出させる。例えば、フッ硝酸溶液にシリコン基板1の第2面1b側の部分を浸して第2面1b側に形成された第2半導体層を除去することができる。そして、その後、シリコン基板1の第1面1a側に付着した燐ガラスをエッチングで除去する。
このようにして、第1面1a側に燐ガラスを残存させて、第2面1b側に形成された第2半導体層をエッチングで除去することによって、第1面1a側の第2半導体層3が除去されたり、ダメージを受けたりすることを低減し得る。このとき、シリコン基板1の側面1cに形成された第2半導体層も併せて除去してもよい。
また、上記第2半導体層3の形成工程において、例えば、予め第2面1b側に拡散マスクを形成しておき、気相熱拡散法などによって第2半導体層3を形成し、続いて拡散マスクを除去してもよい。このようなプロセスによっても、上記と同様な構造を形成することが可能である。この場合には、第2面1b側に第2半導体層は形成されないため、第2面1b側の第2半導体層を除去する工程が不要となる。
以上により、第1面1a側にn型半導体層である第2半導体層3が存在しており、且つ、表面にテクスチャが形成された、第1半導体層2を含む多結晶のシリコン基板1を準備することができる。
次に、図12に示すように、第2半導体層3の第1面1a上、および第1半導体層2の第2面1b上に、第1パッシベーション層9を形成する。第1パッシベーション層9の大部分は、例えば、酸化アルミニウムによって構成される。また、第1パッシベーション層9の上に反射防止層5を形成する。反射防止層5の大部分は、例えば、窒化シリコン膜によって構成される。
第1パッシベーション層9の形成方法としては、例えば、ALD法を用いることができる。ALD法が用いられれば、シリコン基板1の側面1cを含むシリコン基板1の全周囲に第1パッシベーション層9が形成され得る。ALD法によって第1パッシベーション層9が形成される際には、例えば、まず、成膜装置のチャンバー内に、上記第2半導体層3が形成されたシリコン基板1を載置する。そして、シリコン基板1を100℃から250℃の温度域まで加熱した状態で、下記の工程Aから工程Dを複数回繰り返して酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9を形成する。これにより、所望の厚さを有する第1パッシベーション層9が形成される。
また、第1半導体層2と、酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9との間に、酸化シリコンを含む第2パッシベーション層を形成する場合においても、ALD法によって第2パッシベーション層を形成することができる。この場合には、上記と同様な温度域にシリコン基板1を加熱した状態で、下記の工程Aから工程Dを複数回繰り返して酸化シリコンを含む第2パッシベーション層を形成することができる。工程Aから工程Dの内容は次の通りである。
[工程A]酸化シリコン層を形成するためのビスジエチルアミノシラン(BDEAS)などのシリコン原料、または酸化アルミニウムを形成するためのトリメチルアルミニウム(TMA)などのアルミニウム原料が、Arガスまたは窒素ガスなどのキャリアガスとともに、シリコン基板1上に供給される。これにより、シリコン基板1の全周囲にシリコン原料またはアルミニウム原料が吸着される。BDEASまたはTMAが供給される時間は、例えば15ミリ秒間から3000ミリ秒間程度であればよい。ここで、工程Aの開始時には、シリコン基板1の表面はOH基で終端されていてもよい。すなわち、シリコン基板1の表面がSi−O−Hの構造であってもよい。この構造は、例えば、シリコン基板1を希フッ酸で処理した後に純水で洗浄することによって形成することができる。
[工程B]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。さらに、シリコン基板1に物理吸着および化学吸着したシリコン原料またはアルミニウム原料のうち、原子層レベルで化学吸着した成分以外のシリコン原料またはアルミニウム原料が除去される。窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば1秒間から数十秒間程度であればよい。
[工程C]水またはオゾンガスなどの酸化剤が、成膜装置のチャンバー内に供給されることで、BDEASまたはTMAに含まれるアルキル基が除去されてOH基で置換される。これにより、シリコン基板1の上に酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの原子層が形成される。ここで、酸化剤がチャンバー内に供給される時間は、例えば750ミリ秒間から1100ミリ秒間程度であればよい。また、例えば、チャンバー内に酸化剤ととともに水素(H)が供給されることで、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムに水素原子がより含有されやすくなる。
[工程D]窒素ガスによって成膜装置のチャンバー内の浄化がおこなわれることで、チャンバー内の酸化剤が除去される。このとき、例えば、シリコン基板1上における原子層レベルの酸化シリコンまたは酸化アルミニウムの形成時において反応に寄与しなかった酸化剤などが除去される。窒素ガスによってチャンバー内が浄化される時間は、例えば1秒間から数十秒間程度であればよい。
以後、工程Aから工程Dの一連の工程を複数回繰り返すことで、所望の膜厚の酸化シリコン層または酸化アルミニウム層が形成される。
また、反射防止層5は、例えば、PECVD法またはスパッタリング法を用いて形成することができる。例えば、PECVD法を用いる場合であれば、事前にシリコン基板1を反射防止層5の成膜中の温度よりも高い温度で加熱しておく。その後、シラン(SiH4)とアンモニア(NH3)との混合ガスを、窒素(N2)で希釈し、50Paから200Paの反応圧力において、グロー放電分解でプラズマ化させて、加熱したシリコン基板1上に堆積させることで反射防止層5を形成する。このとき、成膜温度を350℃から650℃程度とし、事前加熱する温度を成膜温度よりも50℃程度高くする。また、グロー放電に必要な高周波電源の周波数を、10kHzから500kHzとする。また、ガスの流量は反応室の大きさなどによって適宜決定される。例えば、ガスの流量を、150ml/分(sccm)から6000ml/分(sccm)の範囲とすればよく、シランの流量Aとアンモニアの流量Bとの流量比(B/A)は、0.5から15であればよい。
次に、図13に示すように、第1パッシベーション層9上の少なくとも一部に保護層11を形成する。ここでは、例えば、まず、第1パッシベーション層9の上に一実施形態の絶縁性ペーストを塗布する。そして、この絶縁性ペーストを焼成することで、第1パッシベーション層9の上に保護層11を形成する。
具体的には、例えば、スクリーン印刷法などを用いて第1パッシベーション層9上の少なくとも一部に、一実施形態の絶縁性ペーストを所望のパターンが形成されるように塗布する。その後、この絶縁性ペーストを、ホットプレートまたは乾燥炉などを用いて、最高温度が150℃から350℃であり、加熱時間が1分間から10分間である条件で乾燥させる。これにより、所望のパターンを有する保護層11を第1パッシベーション層9上に形成することができる。上記形成条件で保護層11が形成されれば、例えば、後述する第3電極8を形成する際に、第1パッシベーション層9のうちの保護層11で覆われた部分については金属ペーストによってファイヤースルーされない。このため、第1パッシベーション層9によるパッシベーション効果が低減されにくい。また、例えば、保護層11と第1パッシベーション層9および第3電極8との密着性が低減されにくい。また、上記形成条件で保護層11が形成されれば、PECVD法によって保護層11を形成する場合と比較して、第2面1b側の第1パッシベーション層9の品質に悪影響を及ぼしにくい。すなわち、第1パッシベーション層9の品質を向上させることができる。
ここで、例えば、保護層11を形成するための絶縁性ペーストでは、例えば、シロキサン樹脂において、アルキル基の数がフェニル基の数よりも多ければ、後述する焼成工程で保護層11上に形成される第3電極8において突起が発生しにくくなる。また、例えば、保護層11から第3電極8が剥離しにくくなる。ここでは、例えば、絶縁性ペーストにフェニル基が含有されれば、後述する焼成工程で絶縁性ペーストの縮合重合の反応が進みにくく、絶縁性ペーストの収縮が進みにくい。このため、保護層11と第3電極8との間に生じる応力が小さくなり、保護層11と第3電極8との密着性が向上し得る。ここで、絶縁性ペーストに含有されるシロキサン樹脂におけるアルキル基の数とフェニル基の数との関係としては、例えば、アルキル基の個数が100に対してフェニル基の個数が5から40である関係が採用され得る。
また、例えば、保護層11は、第3電極8がシリコン基板1の第2面1bに接触する位置以外に形成されればよい。ここでは、保護層11が第1パッシベーション層9上に複数の開口部を有する所望のパターンで形成されれば、保護層11をレーザービームの照射などで除去する工程が不要となる。これにより、太陽電池素子10の製造における生産性が向上し得る。
ここで、絶縁性ペーストの塗布量は、例えば、シリコン基板1の第2面1bの凹凸形状の大きさ、後述するアルミニウムを主成分とする金属ペーストに含まれるガラスフリットの種類または含有量、および第3電極8を形成する際の焼成条件などによって適宜変更される。
次に、図14に示すように、第1電極6、第2電極7および第3電極8を以下のようにして形成する。
第1電極6は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する金属ペースト(第1金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第1金属ペーストを、シリコン基板1の第1面1a側の部分にスクリーン印刷法などによって塗布する。第1金属ペーストは、第1面1a側の部分に塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥されてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第1金属ペーストを焼成することで第1電極6を形成する。ここでは、スクリーン印刷法を用いることで、出力取出電極6aおよび集電電極6bを1つの工程で形成することができる。
第2電極7は、例えば、主成分として銀を含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットなどを含有する金属ペースト(第2金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第2金属ペーストを、スクリーン印刷法などによってシリコン基板1の第2面1b側の部分に塗布する。このとき、第2金属ペーストは、塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥されてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第2金属ペーストを焼成することで、第2電極7がシリコン基板1の第2面1b側に形成される。
第3電極8は、主成分としてアルミニウムを含む金属粉末、有機ビヒクルおよびガラスフリットを含有する金属ペースト(第3金属ペーストともいう)を用いて作製することができる。ここでは、まず、第3金属ペーストを、予め塗布された第2金属ペーストの一部に接触するように、シリコン基板1の第2面1b側の部分に塗布する。このとき、第2電極7が形成される部位の一部を除いて、シリコン基板1の第2面1b側の部分のほぼ全面に、第3金属ペーストを塗布してもよい。第3金属ペーストの塗布法としては、スクリーン印刷法などを用いることができる。第3金属ペーストは、塗布された後に、所定の温度で溶剤を蒸散させることで乾燥されてもよい。その後、焼成炉内において、最高温度が600℃から850℃であり、加熱時間が数十秒間から数十分間程度である条件で、第3金属ペーストを焼成することで、第3電極8がシリコン基板1の第2面1b側に形成される。この焼成によって、第3金属ペーストは、第1パッシベーション層9をファイヤースルーして、第1半導体層2と接続され、第3電極8が形成される。また、第3電極8の形成にともない、第3半導体層4も形成される。これに対して、保護層11上にある第3金属ペーストは、保護層11によってブロックされる。このため、第3金属ペーストの焼成の際には、第1パッシベーション層9に及ぼされる悪影響はほとんど生じない。
以上の工程によって、太陽電池素子10を作製することができる。ところで、例えば、第2電極7は、第3電極8を形成した後に形成してもよい。また、例えば、第2電極7は、シリコン基板1と直接接触する必要はない。例えば、第2電極7は保護層11の上に位置していてもよい。
また、第1電極6、第2電極7および第3電極8は、各々の金属ペーストを塗布した後に、これらの金属ペーストを同時に焼成することで形成してもよい。これにより、太陽電池素子10の生産性が向上するとともに、シリコン基板1に対する熱履歴が低減され、太陽電池素子10の出力特性を向上させることができる。
ところで、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成する際における焼成工程では、最高温度が600℃から850℃である条件で熱処理が行われる。ここで、例えば、第3金属ペーストに主成分として含有されているアルミニウムの融点は約660℃である。シリコンとメチル基との結合が熱分解する温度域は約400℃以上である。シリコンとプロピル基との結合が熱分解する温度域は約500℃以上である。そして、シリコンとフェニル基との結合が熱分解する温度域は約600℃以上である。このため、第3金属ペーストを焼成する際には、例えば、400℃から500℃程度の温度域において、シリコンとメチル基との結合の熱分解などで生じるメタンあるいはメタノールが、気体の状態で溶融していないアルミニウムの粉末の隙間を介して第3金属ペーストを通過し、外部に出て行く。このとき、シロキサン樹脂のうちのシリコンがメチル基で終端されている部分(Si−CH3)が、例えば、水(H2O)と反応すれば、シリコンが水酸基(OH)で終端されている部分(Si−OH)とメタン(CH4)とを生じ得る。シロキサン樹脂のうちのシリコンがメチル基で終端されている部分(Si−CH3)が、例えば、水(H2O)と酸素(O2)と反応すれば、シリコンが水酸基(OH)で終端されている部分(Si−OH)とメタノール(CH3OH)とを生じ得る。メタンおよびメタノールの発生は、室温から800℃まで加熱を行った際の脱ガス分析によって検出され得る。また、例えば、500℃から600℃程度の温度域において、シリコンとプロピル基との結合の熱分解などで生じるプロパンが、気体の状態で溶融していないアルミニウムの粉末の隙間を介して第3金属ペーストを通過し、外部に出て行く。このとき、シロキサン樹脂のうちのシリコンがプロピル基で終端されている部分(Si−C3H7)が、例えば、水(H2O)と反応すれば、シリコンが水酸基(OH)で終端されている部分(Si−OH)とプロパン(C3H8)とを生じ得る。プロパンの発生は、室温から800℃まで加熱を行った際の脱ガス分析によって検出され得る。
これに対し、600℃から850℃の温度域において、アルミニウムが溶融または半溶融している状態で、シリコンとフェニル基との結合の熱分解などで生じる物質が、気体の状態で溶融または半溶融しているアルミニウムを押し上げながら、第3金属ペーストを通過して外部に出ていく。上記熱分解などで生じる物質としては、例えば、p−ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン、テトラメチル−p−ベンゾキノン、テトラクロロ−p−ベンゾキノン、ベンゼン等が挙げられる。このため、第3金属ペーストのうち、押し上げられたアルミニウムの部分は、焼成工程の冷却時に固化する際に突起状の部分(突起)として残留し得る。このとき生じる突起の高さは、例えば10μmから50μm程度となる。この突起のサイズは、例えば、第3電極8の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)あるいは光学顕微鏡で観察することで確認され得る。
ここで、例えば、保護層11を形成するための絶縁性ペーストのシロキサン樹脂において、アルキル基の数がフェニル基の数よりも多ければ、焼成工程で保護層11上に形成される第3電極8において、突起が発生しにくくなる。第3電極8に突起が生じにくくなれば、例えば、複数枚の太陽電池素子10を重ねて運搬しても、第1の太陽電池素子10の受光面としての第1面10aと第2の太陽電池素子10の第3電極8の突起とが接触しにくい。その結果、例えば、太陽電池素子10の第1面10a側において集電電極6bの削れによる断線が生じにくく、太陽電池素子10におけるマイクロクラックの発生および割れが発生しにくくなる。したがって、例えば、太陽電池素子10の第1面10a側における集電効率が低下しにくく、太陽電池素子10の出力特性が低下しにくい。
また、例えば、保護層11中にフェニル基が残存していてもよい。このフェニル基の残存は、IR法によって確認され得る。ここで、保護層11中にフェニル基が残存していれば、保護層11における透湿性が低下し得る。その結果、水分が第1パッシベーション層9まで到達しにくく、第1パッシベーション層9の劣化が低減され得る。
<5.実施例>
次に、一実施形態の実施例について説明する。
<5−1.第1実施例および第1から第3参考例の絶縁性ペーストの作製>
ここで、絶縁性ペーストの第1実施例について説明する。
第1実施例に係る絶縁性ペーストを次のようにして製造した。
まず、混合工程において、シロキサン樹脂の前駆体であるメチルトリメトキシシランと、水と、有機溶剤であるジエチレングリコールモノブチルエーテルと、触媒である塩酸と、を容器内において混合して混合溶液を作製した。このとき、メチルトリメトキシシランが45質量%、水が25質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが30質量%および塩酸が50ppmの比率となるように混合溶液を作製した。
次に、第1攪拌工程において、混合溶液を、ミックスローターを用いて、回転数が550rpmであり、攪拌時間が45分である条件で攪拌した。
次に、副生成物除去工程において、乾燥炉を用いて、処理温度が85℃であり、処理時間が180分間である条件で、メチルトリメトキシシランの加水分解で生成された副生成物である有機成分のメチルアルコール、水および触媒を揮発させた。
次に、フィラー添加工程において、表面がジメチルポリシロキサンの被膜で覆われた酸化シリコンのフィラーを混合溶液に添加した。このとき、混合溶液におけるフィラーの総質量が15質量%とされた。ここでは、ジメチルポリシロキサンの主鎖中におけるシリコン原子の数は約1500であった。シリコン原子の数はNMR法およびIV法によって測定した。
また、フィラー添加工程において、フェニルトリフェノキシシランを、加水分解させて縮合重合させ、副生成物を除去した後の状態で、混合溶液に添加した。このとき、絶縁性ペースト中のフェニル基を含むシロキサン樹脂の総質量が10質量%とされた。
次に、第2攪拌工程において、混合溶液を、自転・公転ミキサーを用いて回転数が850rpmであり、攪拌時間が8分間である条件で攪拌した。
次に、粘度安定化工程において、混合溶液を室温で一定時間保管した。第1実施例の絶縁性ペーストについては、室温で1時間保管した。
以上の工程によって、シロキサン樹脂の含有率が55質量%であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率が30質量%であり、フィラーの含有率が15質量%である、第1実施例の絶縁性ペーストを作製した。上記のように、メチル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体の含有率が45質量%になり、フェニル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体の含有率が10質量%になるように、メチル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体と、フェニル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体と、が混合された。これにより、シロキサン樹脂における、アルキル基(ここではメチル基)の数がフェニル基の数よりも多い、第1実施例の絶縁性ペーストを作製した。
次に、第1参考例から第3参考例の絶縁性ペーストを、以下のようにして作製した。
第1実施例の絶縁性ペーストと同様の作製工程を基礎として、シロキサン樹脂中に含まれている置換基としてアルキル基を有さずにフェニル基を有する第1参考例の絶縁性ペーストを作製した。混合工程において、シロキサン樹脂の前駆体として、フェニルトリフェノキシシランを加水分解して縮合重合させ、副生成物を除去した後の状態のものを用いた。このとき、シロキサン樹脂の含有率が55質量%であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率が30質量%であり、フィラーの含有率が15質量%である、第1参考例の絶縁性ペーストを作製した。
また、第1実施例の絶縁性ペーストと同様の作製工程を基礎として、シロキサン樹脂中に含まれている置換基がメチル基およびフェニル基であり、フェニル基の数がメチル基の数よりも多い、第2参考例の絶縁性ペーストを作製した。ここでは、シロキサン樹脂の前駆体として、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリフェノキシシランを用いた。フィラー添加工程において、フェニルトリフェノキシシランを加水分解して縮合重合させ、副生成物を除去させた状態のものを混合溶液に添加した。このとき、メチル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体の含有率が5質量%であり、フェニル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体の含有率が50質量%であり、フェニル基の数がメチル基の数よりも多い、第2参考例の絶縁性ペーストを作製した。
また、第1実施例の絶縁性ペーストと同様の作製工程を基礎として、シロキサン樹脂中に含まれる置換基としてフェニル基を有さずにメチル基を有する第3参考例の絶縁性ペーストを作製した。混合工程では、シロキサン樹脂の前駆体として、メチルトリメトキシシランを用いた。このとき、シロキサン樹脂の含有率が55質量%であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの含有率が30質量%であり、フィラーの含有率が15質量%である、第3参考例の絶縁性ペーストを作製した。
<5−2.第1実施例および第1から第3参考例の太陽電池素子の作製>
次に、第1実施例および第1参考例から第3参考例の絶縁性ペーストを用いて太陽電池素子を作製した。
まず、p型の第1半導体層2を有するシリコン基板1として、平面視して正方形の一辺の長さが約156mmであり、厚さが約200μmである多結晶のシリコン基板を用意した。このシリコン基板1をNaOH水溶液でエッチングして表面のダメージ層を除去した。その後、シリコン基板1の洗浄をおこなった。そして、シリコン基板1の第1面1a側にRIE法を用いてテクスチャを形成した。
次に、シリコン基板1の第1面1a側の表層部に、オキシ塩化リン(POCl3)を拡散源とした気相熱拡散法によって、リンを拡散させた。これにより、シート抵抗が90Ω/□程度となるn型の第2半導体層3を形成した。このとき、シリコン基板1の側面1c側および第2面1b側に形成された第2半導体層3を、フッ硝酸溶液で除去した。その後、シリコン基板1の第1面1a側に残留した燐ガラスをフッ酸溶液で除去した。
次に、シリコン基板1の全面にALD法を用いて第1パッシベーション層9として酸化アルミニウム層を形成した。このとき、ALD法を用いた酸化アルミニウム層の形成は次の条件でおこなった。成膜装置のチャンバー内にシリコン基板1を載置して、シリコン基板1の表面温度が200℃程度になるように維持した。そして、アルミニウム原料としてTMAを使用し、酸化剤としてオゾンガスを使用し、約30nmの厚みの酸化アルミニウムを含む第1パッシベーション層9を形成した。
その後、第1面1a側の第1パッシベーション層9の上に、PECVD法によって窒化シリコン膜を含む反射防止層5を形成した。
次に、第2面1b上に形成された第1パッシベーション層9上にスクリーン印刷法で第1実施例および第1参考例から第3参考例の絶縁性ペーストのそれぞれを、複数の開口部を有するパターンで塗布して、膜厚が10μmである第1実施例および第1参考例から第3参考例の保護層11を形成した。ここでは、各開口部の幅(開口幅ともいう)を80μmとし、各開口部の長さ(開口長さともいう)を1mmとした。また、塗布後の絶縁性ペーストの乾燥は、乾燥炉で乾燥温度が220℃であり、乾燥時間が10分間である条件でおこなった。
そして、第1面1a側には第1金属ペーストを第1電極6のパターンとなるように塗布し、第2面1b側には第2金属ペーストを第2電極7のパターンとなるように塗布した。また、第2面1b側に、第3金属ペーストを第3電極8のパターンとなるように塗布した。そして、これらの金属ペーストを、最高温度が710℃であり、焼成時間が10分間である条件で焼成することで、第3半導体層4、第1電極6、第2電極7および第3電極8を形成し、第1実施例の太陽電池素子10と、第1参考例から第3参考例の太陽電池素子と、を作製した。
<5−3.保護層の乾燥性および第3電極の突起の発生状態>
第1実施例の太陽電池素子10および第1参考例から第3参考例の太陽電池素子のそれぞれを5枚ずつ作製し、保護層11の乾燥性および第3電極8の突起の発生状態について、次のようにして評価した。
保護層11の乾燥性については、シリコン基板1の第2面1b側に保護層11を形成するための絶縁性ペーストを塗布して乾燥させた後に、指触点検で、保護層11の成分が指に付着しなければ“GOOD”と判定し、保護層11の成分が指に付着すれば“BAD”と判定した。
第3電極8の突起の発生状態については、第1電極6、第2電極7および第3電極8を焼成で形成して、第3電極8の表面を光学顕微鏡で観察し、第2電極7と第3電極8の重なり部よりも第3電極8の厚みが厚くなっている箇所を突起が有るものと判定した。ここでは、第3電極8の突起の発生が確認されなければ“GOOD”と判定し、第3電極8の突起の発生が確認されれば“BAD”と判定した。
ここで、第1実施例の太陽電池素子10については、5枚の太陽電池素子10のうちのいずれの太陽電池素子10においても突起の発生が確認されず、“GOOD”と判定された。また、第1実施例の太陽電池素子10については、第3参考例の絶縁性ペーストを用いて保護層11を形成して乾燥させた場合と比較して、保護層11がより乾燥されやすくなり、乾燥性も“GOOD”の判定となった。また、第1実施例の絶縁性ペーストの粘度は、200Pa・秒となり、スクリーン印刷法を用いて保護層11を形成する際に適した粘度に調整することができた。
一方、第1参考例および参考例2の太陽電池素子のそれぞれについて、5枚すべての太陽電池素子において突起の発生が確認され、“BAD”と判定した。つまり、製造工程などにおいて外観不良および特性不良が生じた。特に、第2参考例の太陽電池素子よりも第1参考例の太陽電池素子において、第3電極8におけるより多くの突起の発生が確認された。また、絶縁性ペーストがゲル化して、第1参考例の絶縁性ペーストの粘度が700Pa・秒と高くなりすぎ、第2参考例の絶縁性ペーストの粘度も600Pa・秒と高くなりすぎた。このため、第1参考例および第2参考例における保護層11の開口幅は、所望の開口幅(80μm)よりも50μm以上大きくなった。また、理由は定かではないが、第1参考例の太陽電池素子の最大出力Pm(W)は、第1実施例の太陽電池素子10の最大出力Pm(W)よりも平均で5%低下した。
第3参考例の太陽電池については、5つすべての太陽電池素子で第3電極8の突起は確認されず、“GOOD”の判定であったが、絶縁性ペーストの乾燥工程後の指触検査では保護層11の成分が指に付着して“BAD”の判定となり、保護層11の乾燥性の低下が認められた。第3参考例の絶縁性ペーストの粘度は、220Pa・秒に調整することができた。
以上により、第1実施例の絶縁性ペーストについては、粘度を適度に調整することができ、塗布および乾燥がしやすい絶縁性ペーストであることを確認することができた。
<5−4.保護層における含有物の分析>
第1実施例の太陽電池素子10および第3参考例の太陽電池素子のそれぞれについて、第3電極8を塩酸によるエッチングで除去した後に、保護層11の含有物をFT−IR法によって分析した。ただし、ここでは、塗布後の絶縁性ペーストの乾燥温度が220℃とされた。また、第1実施例の絶縁性ペーストの含有物についても、FT−IR法によって分析した。
FT−IR法による分析において、第1実施例の保護層11については、焼成工程の前の絶縁性ペーストの状態および第3参考例の保護層11では認められなかった、1630cm−1付近の波数域にピークが認められた。この波数域のピークは、炭素と酸素との二重結合、炭素と炭素との二重結合および炭素と窒素の二重結合に対応するものであった。また、第1実施例の保護層11の色は、目視で淡い黄色であることが認められた。このため、第1実施例の保護層11には、炭素と酸素との二重結合および炭素と炭素との二重結合が含まれ、常温で黄色がかっている、ベンゾキノンが含まれているものと推察された。ベンゾキノンは、フェニル基のキノン化によって生成されたものと推察された。
<5−5.第2実施例および第4参考例の絶縁性ペーストの作製>
第2実施例および第4参考例の絶縁性ペーストを、以下のようにして作製した。
上記の第1実施例の絶縁性ペーストの作製工程を基礎として、フィラー添加工程で、表面がジメチルポリシロキサンで覆われていない酸化シリコンのフィラーを混合溶液に添加することで、第2実施例の絶縁性ペーストを作製した。第2実施例の絶縁性ペーストは、第1実施例の絶縁性ペーストと同様に、シロキサン樹脂においてメチル基の数がフェニル基の数よりも多いものとされた。
また、第2実施例の絶縁性ペーストと同様の作製工程を基礎として、シロキサン樹脂中に含まれている置換基がメチル基およびフェニル基であり、フェニル基の数がメチル基の数よりも多い、第4参考例の絶縁性ペーストを作製した。ここでは、シロキサン樹脂の前駆体として、メチルトリメトキシシランおよびフェニルトリフェノキシシランを用いた。具体的には、混合工程において、メチル基を含有するシロキサン樹脂の前駆体としてのメチルトリメトキシシランが25質量%、水が35質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが40質量%および塩酸が50ppmの比率となるように混合溶液を作製した。そして、フィラー添加工程において、フェニルトリフェノキシシランを、加水分解させて縮合重合させて副生成物を除去した後の状態で、混合溶液に添加した。このとき、絶縁性ペースト中のフェニル基を含むシロキサン樹脂の総質量が35質量%とされた。
<5−6.第2実施例および第4参考例の太陽電池素子の作製>
上記第1実施例の太陽電池素子10の作製工程を基礎として、塗布後の絶縁性ペーストの乾燥時の乾燥温度を、220℃、230℃、240℃、250℃および260℃の5水準とし、焼成工程の最高温度を、680℃、700℃、720℃および740℃の4水準とした。すなわち、第2実施例および第4参考例のそれぞれについて、5水準の乾燥温度と、4水準の焼成工程の最高温度と、を組合せた、20個の条件の熱処理を施した。
<5−7.第3電極の密着性>
第2実施例について、20個の条件における各条件の熱処理を施した太陽電池素子10を100枚ずつ作製し、第4参考例について、20個の条件における各条件の熱処理を施した太陽電池素子を100枚ずつ作製して、第3電極8の密着性を次のようにして評価した。
第3電極8の密着性については、第2実施例の太陽電池素子10および第4参考例の太陽電池素子について、図15で示されるように第2面10bの2点鎖線で囲まれた領域Ar1にテープを貼付し、このテープを剥がすことで、第3電極8の剥離の有無を確認した。このとき、テープによる接着力を、3.27N/cm2とし、テープの幅を20mmとし、テープの長さを第2面10bの一辺の長さ(約156mm)以上とした。そして、1つの条件の熱処理で作製した100枚の太陽電池素子において第3電極8の剥離が全く認められなければ、“EXCELLENT(◎)”と判定した。1つの条件の熱処理で作製した100枚の太陽電池素子において第3電極8の剥離が1枚または2枚の太陽電池素子で認められれば、“VERY GOOD(○)”と判定した。1つの条件の熱処理で作製した100枚の太陽電池素子において第3電極8の剥離が3枚から10枚の太陽電池素子で認められれば、“GOOD(△)”と判定した。1つの条件の熱処理で作製した100枚の太陽電池素子において第3電極8の剥離が11枚以上の太陽電池素子で認められれば、“BAD(×)”と判定した。その結果を次の表1に示している。
表1で示されるように、第2実施例の絶縁性ペーストを用いた場合に、第4参考例の絶縁性ペーストを用いた場合よりも、第3電極8の密着性が高い傾向が認められた。そして、乾燥温度が240℃以上である場合には、表1で示されるように、第2実施例の太陽電池素子10において、第4参考例の太陽電池素子においてよりも、第3電極8の密着性が高くなることが認められた。
<6.その他>
上記一実施形態において、例えば、絶縁性ペーストは、複数のフィラーを含んでいなくてもよい。このような絶縁性ペーストは、例えば、保護層11の開口部のサイズが比較的大きな場合など、保護層11の開口部のサイズに厳密な精度が求められないような場合において採用され得る。