特許文献1のように、導電ペーストを塗布して下地電極を形成する場合、外部電極の形状が制約されるという問題がある。例えば直方体形状の鍔部の側面に導電ペーストをディップ法により形成する場合、導電ペーストは鍔部の側面だけでなく、側面に隣接する4つの面にも回り込んで塗布される。そのため、最終的に形成される外部電極は、これらの5つの面にまで広がった形状となる。特に、下地電極はいわゆる厚膜であり、めっきやスパッタリング、蒸着などで形成された金属薄膜よりも膜厚が大きいため、部品の外形サイズに与える影響が大きい。
そこで、特許文献2のように、鍔部のうち、実装基板と対向する底面側にのみ下地電極を含む外部電極を形成すれば、鍔部の側面を含む底面と隣接する4つの面側に突出する外部電極の厚みが小さくなり、巻線型コイル部品が実装基板の主面を占める面積(実装面積)を低減できる。しかし、巻線型コイル部品の小型化や車載などの厳しい使用環境への展開など、使用態様の変化により、底面側におけるはんだ接合だけでは巻線型コイル部品と実装基板との固着力を十分に確保できなくなる可能性がある。
なお、特許文献3に記載の外部電極形成方法によると、めっき処理により形成した金属薄膜で構成される外部電極を形成できるが、この技術はアンカータブを含め、素体(コア)内に電極を形成することが前提とされている。したがって、コア内に電極を形成するのではなく、コアの周囲にワイヤを巻回する構成の巻線型コイル部品に適用することは困難である。
そこで、本発明の目的は、実装面積低減と固着力向上とを両立させた巻線型コイル部品及び当該巻線型コイル部品の製造方法を提案するものである。
本発明の一態様に係る巻線型コイル部品は、巻芯部と、前記巻芯部の端部に接続された鍔部と、を有するコアと、前記巻芯部に巻回されたワイヤと、前記ワイヤの端部が電気的に接続された外部電極と、を備え、前記鍔部の表面は、側面及び底面を有し、前記外部電極は、前記側面に接し、かつ前記側面に沿って伸びる金属薄膜部と、前記底面に接し、メタルコンポジット膜からなる厚膜電極部と、を有する。
金属薄膜部とは、例えばめっきやスパッタリング、蒸着などで形成された電極部のことである。一方、メタルコンポジット膜とは、導電ペーストを塗布し、焼付け、熱硬化、乾燥などによって固化させた膜のことである。導電ペーストには、金属粒子とガラスとを含むタイプ、金属粒子と熱硬化性樹脂とを含むタイプなどがある。したがって、金属薄膜部は、金属や合金、金属間化合物などの導電体の膜で構成され、厚膜電極部は、金属などの導電体とガラス、樹脂などの接合材との混合物の膜で構成され、製法上だけでなく、構成的に区別可能である。
上記構成により、鍔部の側面側においては厚膜電極部を不要にできるので、巻線型コイル部品の実装基板における実装面積を低減できる。また、外部電極が鍔部の底面側だけでなく、側面側にも形成されるので、実装基板とのはんだ接合時に鍔部の側面側に沿ってはんだフィレットが形成され、巻線型コイル部品と実装基板との固着力を向上できる。すなわち、上記巻線型コイル部品では、実装面積低減と固着力向上とを両立できる。
また、上記構成において、前記金属薄膜部と接する前記側面には、低抵抗部が形成されていてもよい。これにより、低抵抗部を金属薄膜の析出起点として、金属薄膜を効率良く形成できる。なお、本願において、低抵抗部とは、鍔部又は巻芯部などの他のコアの部分よりも低い電気抵抗値を示す部分を指す。
また、上記構成において、前記鍔部は、金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、前記低抵抗部は、前記金属酸化物の一部が還元された金属元素を含んでいてもよい。この場合、鍔部の材料の変質により低抵抗部が形成されており、複雑な工程・工法を不要とできる。なお、還元された金属元素は単体の金属や合金、金属間化合物を構成していてもよいし、元の金属酸化物よりも金属元素の価数が小さい金属酸化物を構成していてもよい。
また、上記構成において、前記低抵抗部の表層側は、前記金属元素が再酸化された金属酸化物を含む再酸化層で覆われていてもよい。これにより、低抵抗部中の還元された金属元素の再酸化の進行が抑制され、鍔部の必要以上の変質を抑制できる。
また、上記構成において、前記鍔部は、金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、前記金属薄膜部と接する前記側面には、前記金属酸化物が還元された金属元素を含む還元層が形成されていてもよい。この場合、鍔部の材料の変質による還元層を利用して金属薄膜部を選択的にかつ効率良く形成できる。
また、上記構成において、前記ワイヤの端部は、前記底面側で前記外部電極と接続されていてもよい。これにより、例えば熱圧着など、ワイヤの端部を外部電極と接続する際の熱や外力が厚膜電極部によって吸収され、鍔部へ伝わることを低減できる。
また、上記構成において、前記厚膜電極部が、前記金属薄膜部に覆われていてもよい。これにより、鍔部の側面から底面にかけて一体化した外部電極を容易に形成できる。
また、上記構成において、前記底面は実装基板と対向する面であり、前記側面は前記実装基板に対して垂直となる面であれば、実装基板における巻線型コイル部品の実装面積を低減することができる。なお、実装基板と対向、実装基板に対して垂直、とは、実装基板の主面に対する位置関係のことを指す。
また、上記構成において、前記側面は前記鍔部の前記巻芯部との接続面とは反対側に位置する面であり、前記底面は前記側面と前記接続面との間に位置する面であれば、横巻き型の巻線型コイル部品において、実装面積を低減することができる。
また、上記構成において、前記鍔部は、フェライト材料からなっていてもよい。これにより、コアを複雑な構造とすることなく、外部電極を薄くすることができる。
本発明の一態様に係る巻線型コイル部品の製造方法は、A:巻芯部と前記巻芯部の端部に接続された鍔部とを有するコアを準備する工程;B:前記鍔部の底面となる部分に、導電ペーストを塗布し、焼付け又は熱硬化させることにより、メタルコンポジット膜からなる厚膜電極部を形成する工程;C:前記鍔部の側面に接し、かつ前記側面に沿って伸びる金属薄膜部を形成する工程、を含む。
上記製造方法によれば、鍔部の側面側においては厚膜電極部を形成する必要が無いため、実装面積を低減した巻線型コイル部品を製造できる。また、外部電極を鍔部の底面側だけでなく、側面側にも形成するため、実装基板とのはんだ接合時に鍔部の側面側に沿ってはんだフィレットが形成され、巻線型コイル部品と実装基板との固着力を向上できる。すなわち、実装面積低減と固着力向上とを両立した巻線型コイル部品を製造することができる。
また、別の態様に係る巻線型コイル部品の製造方法は、A:金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、巻芯部と前記巻芯部の端部に接続された鍔部とを有するコアを準備する工程;B:前記鍔部の底面となる部分に、金属及びガラスを含む導電ペーストを塗布焼成することにより、厚膜電極部を形成する工程;C:前記鍔部の側面となる部分を局所的に加熱することにより、低抵抗部を形成する工程;D:前記厚膜電極部及び前記低抵抗部を覆う金属薄膜部をめっき処理により形成する工程、を含む。
この製造方法では、上述の製造方法の利点に加え、鍔部の底面側については、前処理を行わずに外部電極を形成することができ、鍔部の底面の強度、信頼性及び底面と外部電極との密着性を変化させることなく、外部電極を形成できる。さらに、低抵抗部を金属薄膜部の析出起点とすることができ、金属薄膜部を効率良く形成できる。そして、厚膜電極部を形成した後に低抵抗部を形成するため、厚膜電極形成時の焼成によって低抵抗部が再酸化して電気抵抗値が増加することを抑制でき、その後の金属薄膜部の形成を阻害しない。さらに、めっき電極からなる金属薄膜部を厚膜電極部と低抵抗部上とに同時に形成できるので、外部電極の形成工程が簡易化される。
一態様に係る巻線型コイル部品の製造方法の工程Cにおいて、前記金属薄膜部が前記厚膜電極部を覆うように形成される場合、D:前記巻芯部にワイヤを巻回する工程;E:前記ワイヤの端部を、前記鍔部の底面となる部分側で前記金属薄膜部に熱圧着する工程、をさらに備えていてもよい。これにより、ワイヤの端部を金属薄膜部に熱圧着する際の熱や外力が厚膜電極部によって吸収され、鍔部へ伝わることを低減でき、底面の強度、信頼性及び底面と外部電極との密着性への影響をさらに低減できる。
以上のように、本発明によれば、実装面積低減と固着力向上とを両立させた巻線型コイル部品及び巻線型コイル部品の製造方法を提供できる。
図1、図2は本発明の一態様に係る巻線型コイル部品の第1実施例である表面実装型のインダクタ1を示す正面図及び斜視図である。図2はインダクタ1を上下反転させた状態を示している。図1、図2に示すように、インダクタ1は、巻芯部53と、巻芯部53の両端部に接続された鍔部51,52を有するコア50と、巻芯部53に巻回されたワイヤ57と、ワイヤ57の端部が電気的に接続された外部電極54,55と、を備えている。なお、図1を含め図面はすべて模式的なものであり、その寸法や縦横比の縮尺などは実際の製品とは異なる場合がある。
コア50は、例えばNi−Zn系フェライト又はNi−Cu−Zn系フェライトなどの金属酸化物を含有するセラミック材料からなる。図3は、図1に示す巻線型コイル部品の一部拡大断面図であって、コア50の鍔部52付近を拡大した断面図である。なお、図示及び説明は省略するが、コア50の鍔部51付近についても図3と同様の構成となっている。図3に示すように、鍔部52の表面は、側面52a及び底面52bを有している。底面52bは実装基板(不図示)と対抗する面であり、側面52aは実装基板に対する垂直面である。また、側面52aは鍔部52の巻芯部53との接続面とは反対側に位置する面であり、底面52bは側面52aと当該接続面との間に位置する面である。すなわち、インダクタ1はいわゆる横巻き型となっており、巻芯部53は実装基板に平行に延伸する形状となっている。
ワイヤ57は、例えばポリウレタン、ポリエステルイミド、ポリアミドイミドのような樹脂によって絶縁被覆されたCu、Ag、Auなどの金属線である。ワイヤ57の巻回軸は実装基板に平行である。図3に示すように、ワイヤ57の一端部57aは、一方の鍔部52の底面52b側で熱圧着されることにより、外部電極55と電気的に接続されている。なお、ワイヤ57の他端部57bについても同様に、他方の鍔部51の底面51b側で外部電極54と電気的に接続されている(図2参照)。
外部電極54,55は、図1に示すように、鍔部51,52の側面側から底面側を覆う正面視L字状に形成されている。図3に示すように、外部電極55は、側面52aに接する金属薄膜部55aと、底面52bに接する下地電極部(厚膜電極部)55bと、金属薄膜部55a及び下地電極部55bを覆う第1被覆部55c及び第2被覆部55dと、を有する。金属薄膜部55aは、後述するように低抵抗部43を起点としためっき処理により形成された金属薄膜からなる部分であり、例えばCu,Au,Agなどの電気抵抗値の低い金属材料で構成される。下地電極部55bは、Ag,Cu,Auなどの電気抵抗値の低い金属及びシリカなどのガラスを含む厚膜からなる部分である。第1被覆部55c、第2被覆部55dは、例えばそれぞれめっき処理により形成されたNiの金属薄膜、Snの金属薄膜であり、外部電極55の耐食性や濡れ性を向上するものである。なお、第1被覆部55c、第2被覆部55dは、Ni,Snに限られず、これらとCu,Au,Ag,Ni,Snとを含む金属、合金、金属間化合物などであってもよい。
インダクタ1では、上記のように鍔部52の側面52aに厚膜よりも薄い金属薄膜部55aが直接接しており、下地電極部55bを不要とできるので、側面52a側においては、下地電極部55bを有する底面52b側に比べて外部電極55を薄くすることが可能となる。したがって、インダクタ1では、適切な向き、すなわち底面52bが実装基板と対向し、側面52aが実装基板に対して垂直となる向きで、実装基板に実装することにより実装面積を低減できる。
また、インダクタ1では、外部電極54、55が鍔部51、52の底面51b、52b側だけでなく、側面51a、52a側にも形成される。この場合、図4に示すように、インダクタ1を実装基板10に実装したとき、側面51a、52a側ではんだフィレット13、14が形成されるため、底面51b、52b側だけではんだ実装される場合よりも、実装基板10への固着力を向上できる。なお、11、12は実装基板10のランドである。
なお、インダクタ1では、金属薄膜部55aと接する側面52aには、還元層52cが形成されている。還元層52cは、具体的には、還元された金属酸化物を含む低抵抗部43(図3では不図示)を含んでいる。低抵抗部43は、自身以外の鍔部52や巻芯部53(コア50)の部分よりも低い電気抵抗値を示す部分である。インダクタ1では、低抵抗部43を利用して側面52aに接する金属薄膜部55aを形成している。以下にその形成方法を説明する。
図5は鍔部52の側面52aにおける金属薄膜部55aの形成の前に、側面52aにレーザLを照射する様子を示す。図5の(a)は、レーザLを連続照射しながら紙面水平方向に沿って走査した例(又はコア50を紙面水平方向に移動させた例)を示している。なお、走査方向は任意であり、紙面垂直方向であってもよいし、ジグザグ状や周回状であってもよい。レーザLの照射によって、側面52aには多数の線状のレーザ照射痕40が形成される。なお、図5の(a)では、線状のレーザ照射痕40を紙面垂直方向に間隔を開けて形成した例を示したが、レーザ照射痕40同士が互いに重なるように密に形成してもよい。図5の(b)は、レーザLを点状に照射した例を示す。この場合には、側面52aに多数の点状のレーザ照射痕41が分散して形成される。図5の(c)は、レーザLを破線状に照射した例を示す。この場合には、側面52aに多数の破線状のレーザ照射痕42が分散して形成される。いずれの場合でも、側面52aのうち、金属薄膜部55aを形成する領域において、均等にレーザLを照射するのが望ましい。
図6は金属薄膜部55aの形成過程の一例の概略を示す。特に、レーザLを鍔部52の側面52aに所定の間隔をあけて線状に照射した場合を示す。
図6の(A)は、まず鍔部52の側面52aの外部電極形成領域にレーザを照射し、それにより鍔部52の側面52aに断面V字状又はU字状のレーザ照射痕40を形成した状態を示す。なお、図6の(A)ではレーザLが1点に集光した例を示したが、実際にはレーザLを照射するスポットがある程度の面積を持っていてもよい。このレーザ照射痕40は、レーザ照射によって鍔部52の表層部が溶融・凝固した痕である。スポットの中心部が最もエネルギーが高いので、その部分が変質しやすく、レーザ照射痕40の断面は略V字状又は略U字状となる。レーザ照射痕40の内壁面を含む周囲には、鍔部52を構成するセラミック材料(フェライト)が変質し、そのセラミック材料よりも電気抵抗値の低い低抵抗部43が形成される。具体的には、鍔部52(コア50)がFe,Ni,Znの酸化物を含有するNi−Zn系フェライト材料からなる場合には、低抵抗部43ではレーザ照射によりフェライトに含まれる金属酸化物、より具体的にはFeの一部が還元していると考えられ、さらにNi及び/又はZnも還元している可能性がある。鍔部52(コア50)がFe,Ni,Cu,Znの酸化物を含有するNi−Cu−Zn系フェライトの場合には、低抵抗部43ではレーザ照射によりフェライトに含まれる金属酸化物、より具体的にはFe及び/又はCuが還元していると考えられ、さらにNi及び/又はZnも還元している可能性がある。このような金属酸化物が還元された金属元素は低抵抗部43において、単体金属や合金、金属間化合物、元の金属酸化物よりも金属元素の価数が小さい金属酸化物などの状態で存在していると考えられ、低抵抗部43は、金属元素が基本的に酸化物として存在しているコア50の他の部分よりも低い電気抵抗値を示す。なお、低抵抗部43の深さや広さは、レーザの照射エネルギーや照射範囲などによって可変できる。
図6の(B)は、レーザ照射を繰り返すことで、鍔部52の側面52aに複数のレーザ照射痕40を間隔Dをあけて形成した状態を示す。この例ではレーザ照射のスポット中心の間隔Dが低抵抗部43の広がり幅(例えばレーザ照射痕40が並ぶ方向に沿ったレーザ照射痕40の直径の平均値)Wよりも広いため、各レーザ照射痕40の間には低抵抗部43以外の絶縁領域44が存在している。この絶縁領域44は、鍔部52を構成するセラミック材料が変質せずに露出している領域である。還元層52cは、このように複数の低抵抗部43が形成された領域であり、還元層52cには、低抵抗部43に隣接する絶縁領域44(すなわちコア50の他の部分よりも低い電気抵抗値を示さない領域)が含まれていてもよい。
図6の(C)は、上記のようにレーザ照射によって低抵抗部43を形成した鍔部52を含むコア50をめっき液に浸漬し、電解めっきを行った初期の状態を示す。低い電気抵抗値を有する低抵抗部43における電流密度は他の部分(絶縁領域44)より高くなるので、低抵抗部43の表面だけにめっき金属45aが析出しており、絶縁領域44の上には未だ析出していない。つまり、この段階では連続した金属薄膜部55aは形成されていない。
図6の(D)は、電解めっきを行った終期の状態を示す。めっき処理を継続することにより、低抵抗部43上に析出しためっき金属45aが核となって周囲へと成長し、低抵抗部43に隣接する絶縁領域44上まで広がる。隣接するめっき金属45a同士が接続するまでめっき処理を継続することにより、側面52aにおいて連続した金属薄膜部55aを形成できる。レーザを照射した還元層52cにおけるめっき金属の成長速度に比べて、還元層52c以外の領域のめっき金属の成長速度が遅いため、めっき処理時間を厳密にコントロールしなくても、還元層52cにめっき金属を選択的に成長させることができる。めっき処理時間、電圧または電流を制御することによって、金属薄膜部55aの形成時間や厚さをコントロールすることが可能である。
以上に説明した金属薄膜部55aの形成方法を含むインダクタ1の製造方法については、次のように行うことができる。
まず、金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、巻芯部53と巻芯部53の両端部に接続された鍔部51,52とを有するコア50を準備する。
次に、鍔部52の底面52bとなる部分に、金属及びガラスを含む導電ペーストを塗布焼成することにより下地電極部55bを形成する。導電ペーストの塗布焼成は公知の方法で行えばよく、例えばAg粉末とガラスフリットを含有する樹脂をスクリーン印刷法、ディップ法、インクジェット法などで鍔部52の底面52bに塗布した後、焼成すればよい。なお、導電ペーストが金属と熱硬化性樹脂とを含む場合には、この導電ペーストを塗布した後、熱硬化性樹脂が硬化する温度で熱処理することにより、下地電極部55bを形成できる。
次に、鍔部52の側面52aとなる部分を、例えば上記のレーザ照射などを用いて、局所的に加熱することにより、低抵抗部43を含む還元層52cを形成する。
次に、下地電極部55b及び低抵抗部43(還元層52c)を覆う金属薄膜部55aを、例えば上記のめっき処理により形成する。
以上により、コア50に外部電極55を形成することができる。上記製造方法によれば、鍔部52の側面52a側においては下地電極部55bを形成する必要が無いため、実装面積を低減したインダクタ1を製造できる。また、外部電極55を鍔部52の底面52b側だけでなく、側面52a側にも形成するため、実装基板とのはんだ接合時に側面52aに沿ってはんだフィレットが形成され、インダクタ1と実装基板との固着力を向上できる。なお、鍔部52の底面52b側については、前処理を行わずに外部電極55を形成することができ、底面52bの強度、信頼性及び底面52bと外部電極55との密着性を変化させることなく、外部電極55を形成できる。さらに、低抵抗部43を金属薄膜部55aの析出起点とすることができ、金属薄膜部55aを効率良く形成できる。そして、下地電極部55bを形成した後に低抵抗部43を形成するため、下地電極55b形成時の焼成によって低抵抗部43が再酸化して電気抵抗値が増加することを抑制でき、その後の金属薄膜部55aの形成を阻害しない。
また、上記製造方法によれば、下地電極部55bが、金属薄膜部55aに覆われ、鍔部52の側面52aから底面52bにかけて一体化した外部電極55を用意に形成できる。なお、外部電極55の耐食性や濡れ性を向上させるために、金属薄膜部55a上に、第1被覆部55c、第2被覆部55dが必要に応じて形成される。
さらに、巻芯部53にワイヤ57を巻回し、ワイヤ57の端部57aを、鍔部52の底面52bとなる部分側で第2被覆部55dに熱圧着すれば、インダクタ1を製造することができる。熱圧着されたワイヤ57の端部57aは、第2被覆部55d、第1被覆部55c、金属薄膜部55aを介して下地電極部55bにまで接触してもよい。この場合、ワイヤ57の端部57aが、下地電極部55bが位置する底面52b側で外部電極55と接続される。これにより、ワイヤ57の端部57aを金属薄膜部55aに熱圧着する際の熱や外力が下地電極部55bによって吸収され、鍔部52へ伝わることを低減でき、底面52bの強度、信頼性及び底面52bと外部電極55との密着性への影響をさらに低減できる。
−実験例−
以下に、実際にインダクタ1に外部電極54,55の形成を行った実験例について説明する。
(1)Ni−Cu−Zn系フェライトからなるコア50に、レーザを往復走査しながら照射し、低抵抗部43を含む還元層52cを形成した。加工条件は以下の通りである。ただし、照射したレーザの波長は例えば532nm〜10620nmのいずれの範囲でも問題ないことは確認できている。なお、加工条件の照射間隔とは、レーザを往復走査する場合の往路と復路のスポット中心の距離を意味する。
(2)レーザ照射後のコア50に対し、電解めっきを以下の条件で行った。具体的には、バレルめっきを使用した。
上記のような条件でめっき処理を行った結果、鍔部52の側面52aに平均厚さ約2μmの良好なCuの金属薄膜部55aを形成することができた。なお、同様の結果は、コア50の材料にNi−Zn系フェライトを用いた場合でも得られた。また、めっき液としては、ピロリン酸銅めっき液以外に、硫酸銅めっき液、シアン化銅めっき液なども使用可能である。
−評価−
次に、レーザ照射により形成した還元層52c(低抵抗部43)の状態の評価として、Ni−Cu−Zn系フェライトにレーザを照射した試料と、レーザ未照射の試料とに対して、XPS(X線光電子分光法)および転換電子収量法を用いたFe,Cu,Znの、K端XAFS(X線吸収微細構造)により、試料表面におけるFe,Cu,Znの価数を評価した。XPSの結果、レーザを照射した試料の表層部分では金属成分が検出できず、下層になると金属成分が検出できた。また、XAFSの結果、レーザを照射した試料の表層部分について、Cuの金属成分を検出できた。一方、XAFSの結果、レーザを照射した試料の表層部分について、Feの金属成分を検出することはできなかったが、Feの半導体の成分及び絶縁体の成分を検出することができた。下層は、Fe3+に対するFe2+の割合が試料全体での割合に対して大きいこともわかった。以上より、レーザ照射による熱でフェライトに含まれる金属酸化物が分解され、照射部の金属元素は還元されるが、照射部の下層では金属元素が還元したまま残り、照射部の表層では金属元素の一部が残熱により(焼結に至らない程度の)再酸化に至ったと推測される。
図7は、このように形成される低抵抗部43の断面構造の一例を示し、低抵抗部43の下層にはフェライトが含有する金属酸化物由来の金属元素が還元したまま残る還元部43aが形成され、低抵抗部43の表層側は、前記金属元素が再酸化された金属酸化物である半導体及び/又は絶縁体の成分を含む再酸化層43bで覆われている。これら還元部43aと再酸化層43bとによって低抵抗部43が構成されている。なお、低抵抗部43において、再酸化層43bは必須構成ではなく、例えば、レーザ照射を大気雰囲気ではなく、真空中やN2雰囲気で行うことにより、再酸化層43bの形成を抑制できる。
上述の再酸化層43bが形成された場合には、以下のような効果が考えられる。すなわち、再酸化層43bが含むFe3O4は常温でのそれ以上の再酸化が進みにくい性質があり、下層にある還元部43aの再酸化の進行を抑制し、必要以上の変質を抑制すると共に、再酸化層43b自体の経時変化を抑制できる効果もある。なお、再酸化層43bは一種の半導体であり、絶縁体であるフェライトよりも抵抗値は低い。そのため、再酸化層43bを電解めっき処理によるめっき金属の析出起点とすることは可能である。ただし、低抵抗部43が再酸化層43bの下層に還元部43aを有することにより、電解めっき時の低抵抗部43における電流密度を向上させることができ、金属薄膜部55aの形成効率を向上できる。
図8は、外部電極55の形成過程の他の例を示し、特にレーザLを鍔部52の側面52aに密に照射した場合を示す。「密に照射する」とは、レーザ照射のスポット中心の間隔Dが前述の低抵抗部43の広がり幅Wと同等またはそれより狭いことを指し、隣接するレーザ照射痕40の下側に形成される低抵抗部43同士が相互につながっている状態を指す(図8の(B)参照)。ただし、全ての低抵抗部43がつながっている必要はない。そのため、鍔部52の側面52aにおける還元層52cのほぼ全域が低抵抗部43となっている。
この場合には、図8の(C)に示すように、めっき処理の開始から短時間で低抵抗部43の表面にめっき金属45aが析出するが、それらめっき金属45aがほぼ近接しているため、隣り合うめっき金属45a同士が速やかに接続される。そのため、連続した金属薄膜部55aを図6の場合よりも短時間で形成できる。
図8のようにレーザLを側面52aに密に照射した場合には、レーザ照射痕40も密に形成されるため、還元層52cが形成された側面52a部分は削られた状態となる。その削られた側面52a部分に金属薄膜部55aが形成されるため、金属薄膜部55aの表面の還元層52cが形成されていない側面52a部分とほぼ同一高さ又はそれより低くすることが可能である。そのため、金属薄膜部55a自体の厚みが薄いことと相俟って、外部電極55の突出量を抑制でき、より実装面積を低減できる。
なお、インダクタ1では、外部電極55が鍔部52の側面52a、底面52b側にのみ形成される構成であったが、外部電極55は鍔部52の他の面(例えば図1の紙面手前・奥側の面)に形成されていてもよい。この際、当該他の面上に、側面52aと同様に、金属薄膜部55aが形成された場合は、当該他の面側においても、下地電極部を不要とでき、実装面積の増加を抑制することができる。
また、インダクタ1では、鍔部51,52のそれぞれに、1つの外部電極54,55を備える構成であったが、鍔部51,52に形成する外部電極の数に制限はなく、例えば2個ずつ外部電極を備える構成であってもよい。すなわち本発明の一態様に係る巻線型コイル部品は、ワイヤ57を複数備えるコモンモードチョークコイルやトランスなどであってもよい。
図9は、本発明の一態様である巻線型コイル部品の第2実施例である縦巻き型かつ表面実装型のインダクタ2を示す図である。インダクタ2は、巻芯部63と、巻芯部63の両端部に接続された鍔部61、62とを有するコア60と、外部電極64,65とを備える。外部電極64,65は、インダクタ1の外部電極54,55と同様の構成を有するが、いずれもコア60の一方の鍔部61の上面から側面にかけて形成されている。また、巻芯部63の周面にはワイヤ(図示せず)が巻回され、その両端部がそれぞれ外部電極64、65に接続される。したがって、インダクタ2では、鍔部61の上面が実装基板と対向する底面となり、鍔部61の側面が実装基板に対して垂直となる面となる。すなわち、インダクタ2では、インダクタ1とは異なり、底面が鍔部61の巻芯部63との接続面とは反対側に位置する面であり、側面が底面と接続面との間に位置する面である。上記のインダクタ2であっても、インダクタ1と同様に、実装面積向上と固着力向上とを両立させることができる。
なお、図9では2個の外部電極64、65を形成した例を示したが、2本以上のワイヤを用いた場合には、鍔部61上に4個以上の外部電極を形成してもよい。
図10は、本発明にかかるコイル部品を2ラインのコモンモードチョークコイルに適用した一例を示す。図10はコイル部品3を上下反転させて示してある。このコイル部品3では、コア70の中央部に巻芯部71を有し、軸方向両端部に一対の鍔部72,73を有している。巻芯部71には2本のワイヤ(図示せず)が並列に巻回されている。鍔部72、73の底面側にはそれぞれ2つの凸部が設けられ、その上に2個(合計4個)の外部電極74〜77が形成されている。2本のワイヤの一端部は一端側鍔部72の外部電極74、75上に接続固定され、ワイヤの他端部は他端側鍔部73の外部電極76、77上に接続固定されている。
このコイル部品3では、鍔部72、73の凸部の頂面が底面(実装面)72a、73aであり、鍔部72、73の外側面が実装面に対して垂直な側面72b、73bである。外部電極74〜77において、その実装面側の部分74a〜77aが厚膜電極部と金属薄膜部との積層構造であり、側面側の部分74b〜77bが金属薄膜部で構成されている。そのため、ワイヤの端部を外部電極74〜77の実装面側の部分74a〜77aに接続する際の接続信頼性が高く、実装基板へ実装する際の固着強度も高くなる。一方、鍔部72、73の側面側の部分74b〜77bの厚みを、実装面側の部分74a〜77aに比べて薄くできるので、実装面積を縮小できる。この場合も、ワイヤの端部が外部電極74〜77の実装面側の部分74a〜77aに接続されるので、例えば熱圧着など、ワイヤの端部を外部電極と接続する際の熱や外力が下地電極部によって吸収され、鍔部へ伝わることを低減できる。
なお、前記実施例では、コアに用いるセラミック材料としてフェライトを例示したが、セラミック材料はフェライトに限定されず、例えばアルミナなどであってもよい。また、少なくとも金属薄膜部を形成する鍔部の側面側が金属酸化物を含有するセラミック材料からなればよく、巻芯部や鍔部の他の面側などは鍔部の側面側とは材料が異なっていてもよい。
また、前記実施例では、めっき処理方法として、電解めっきを用いた例を示したが、無電解めっきを用いてもよく、この場合も、セラミック材料が含む金属酸化物が還元された金属元素とめっき液中の金属元素が置換反応を起こすことにより、還元層に選択的に金属薄膜部を形成することができる。なお、無電解めっきを行う場合には、置換反応を促進するため、還元層の表面に触媒を付与してもよい。
また、前記実施例では、局所的な加熱方法としてレーザ照射を使用したが、電子ビームの照射、イメージ炉を使用した加熱なども適用可能である。いずれの場合も、熱源のエネルギーを集光して、鍔部の側面を局所加熱することができるため、他の領域の特性を損なうことがない。
また、前記実施例とは異なり、1本のレーザを分光して、複数箇所に同時にレーザを照射してもよい。
さらに、レーザの焦点をずらして、レーザの焦点が合っている場合に比べて、レーザの照射範囲を広げてもよい。
また、前記実施例では、下地電極部が金属薄膜部に覆われている構成であったが、金属薄膜部は少なくとも還元層上の一部に形成されていればよい。なお、この場合であっても、第1被覆部、第2被覆部などが金属薄膜部と下地電極部とを覆う形状に形成すれば、金属薄膜部と下地電極部とが一体化した外部電極を形成することは可能である。一方で、金属薄膜部と下地電極部とが一体化せず、独立して電極を形成していてもよく、この場合は、金属薄膜部ははんだフィレット形成を形成することで固着力を向上させるためのダミー電極として働く。
また、前記実施例では、金属薄膜部をめっき処理により形成したが、金属薄膜部はスパッタリングや蒸着などその他の薄膜形成法で形成してもよく、この場合、鍔部の側面に低抵抗部、還元層を形成する必要はない。ただし、前記実施例のように低抵抗部を含む還元層を形成した上で、めっき処理により金属薄膜部を形成する方が、製造設備や工程などの実現性の観点から好ましい。
また、前記実施例では、鍔部の底面側には低抵抗部、還元層を形成しなかったが、底面側に低抵抗部、還元層を形成した上で、下地電極部を形成してもよい。
[備考]
[請求項1]
巻芯部と、前記巻芯部の端部に接続された鍔部と、を有するコアと、
前記巻芯部に巻回されたワイヤと、
前記ワイヤの端部が電気的に接続された外部電極と、
を備え、
前記鍔部の表面は、側面及び底面を有し、
前記外部電極は、前記側面に接する金属薄膜部と、前記底面に接し、メタルコンポジット膜からなる厚膜電極部と、を有する巻線型コイル部品。
[請求項2]
前記金属薄膜部と接する前記側面には、低抵抗部が形成されている、請求項1に記載の巻線型コイル部品。
[請求項3]
前記鍔部は、金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、
前記低抵抗部は、前記金属酸化物の一部が還元された金属元素を含む、請求項2に記載の巻線型コイル部品。
[請求項4]
前記低抵抗部の表層側は、前記金属元素が再酸化された金属酸化物を含む再酸化層で覆われている、請求項3に記載の巻線型コイル部品。
[請求項5]
前記鍔部は、金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、
前記金属薄膜部と接する前記側面には、前記金属酸化物の一部が還元された金属元素を含む還元層が形成されている、請求項1に記載の巻線型コイル部品。
[請求項6]
前記ワイヤの端部は、前記底面側で前記外部電極と接続されている、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
[請求項7]
前記厚膜電極部が、前記金属薄膜部に覆われている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
[請求項8]
前記底面は実装基板と対向する面であり、前記側面は前記実装基板に対して垂直となる面である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
[請求項9]
前記側面は前記鍔部の前記巻芯部との接続面とは反対側に位置する面であり、前記底面は前記側面と前記接続面との間に位置する面である請求項1乃至8のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
[請求項10]
前記鍔部は、フェライト材料からなる、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
[請求項11]
以下の工程を備える巻線型コイル部品の製造方法;
A:巻芯部と前記巻芯部の端部に接続された鍔部とを有するコアを準備する工程;
B:前記鍔部の底面となる部分に、導電ペーストを塗布し、焼付け又は熱硬化させることにより、メタルコンポジット膜からなる厚膜電極部を形成する工程;
C:前記鍔部の側面となる部分に金属薄膜部を形成する工程。
[請求項12]
以下の工程を備える巻線型コイル部品の製造方法;
A:金属酸化物を含有するセラミック材料からなり、巻芯部と前記巻芯部の端部に接続された鍔部とを有するコアを準備する工程;
B:前記鍔部の底面となる部分に、導電ペーストを塗布し、焼付け又は熱硬化させることにより、メタルコンポジット膜からなる厚膜電極部を形成する工程;
C:前記鍔部の側面となる部分を局所的に加熱することにより、低抵抗部を形成する工程;
D:前記厚膜電極部及び前記低抵抗部を覆う金属薄膜部をめっき処理により形成する工程。
[請求項13]
さらに以下の工程を備える請求項12に記載の巻線型コイル部品の製造方法;
E:前記巻芯部にワイヤを巻回する工程;
F:前記ワイヤの端部を、前記鍔部の底面となる部分側で前記金属薄膜部に熱圧着する工程。