JP6878846B2 - エレクトレットフィルターの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は空気浄化用途のフィルターに関する。
従来、空気浄化用途のフィルターとしては各種繊維素材からなる繊維層が用いられている。繊維層フィルターは、メンブレンや粒子充填層を用いたものよりも通気抵抗が低く、かつ構成素材同士の空隙率が大きいためにフィルターとして長寿命であるとの利点を有している。また、繊維層フィルターは、形状の自由度が高く、防塵マスク、各種空調用エレメント、空気清浄機用フィルターなどに幅広く用いられている。
繊維層フィルターは、さえぎり、拡散、慣性衝突などの機械的捕集機構により構成繊維にて粒子を捕捉する。これらの機構は、繊維径や通過風速により変動するが、粒子径0.1〜0.3μm前後にフィルター捕集効率として極小値を有することが知られている。
上記の極小値における捕集効率を向上させるため、電気的な引力を併用する方法が知られている。たとえば、被捕集粒子に電荷を与える方法、電極間にフィルターを配置することによりフィルター使用時に誘電分極させる方法、絶縁性材料に電荷を保持させることにより静電引力を利用する方法などである。構成繊維に安定的な電荷を保持させたフィルターは、予め所定の帯電処理を行うのみで外部電源などのエネルギーを必要としないため、エレクトレットフィルター、静電フィルター等として幅広く用いられている。
しかしながら、エレクトレットフィルターは粒子の捕集に伴い静電引力が低下し、とりわけオイルミストが表面に付着した場合には液滴が表面を被覆すると同時に電荷そのものの漏洩、中和を招くため、急激に性能が低下する。そこで、通常のエレクトレットフィルターよりも撥油性を高めた(表面張力を低下させた)フィルターを用いることが知られている。
エレクトレットフィルターには、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート等の疎水性高分子が用いられるが、更に撥油性を高めるために、樹脂にパーフルオロ基を有した添加剤を混合する方法(たとえば特許文献1)、パーフルオロ基を有した加工剤で表面処理する方法(たとえば特許文献2)、あるいはフッ素ガスやフッ素プラズマなどを用いて繊維構成素材の水素をフッ素置換する方法(たとえば特許文献3)などが知られている。
特開2009−006313号公報 特開2015−85232号公報 特許4440470号公報
しかしながら、従来の撥油性を高めたエレクトレットフィルターでは次のような問題がある。樹脂にフッ素系材料を添加した場合には、溶融加工時の低分子フッ素化物(例えばHFなど)発生の問題がある。また、パーフルオロ基を有した加工剤で表面処理する方法は、長鎖フッ素化合物の生体内蓄積性が問題となる以前に提案されており、撥油性に効果的な組成として炭素数8フッ素数17(C8F17)以上のパーフルオロ構造(例えばPFOAおよびPFOSおよびその誘導体)が用いられ、結晶性を持たないC6F13以下のパーフルオロ基を用いた場合には著しく効果が現弱するという問題がある。また、フッ素ガスやフッ素プラズマなどを用いてフッ素原子を導入する手法は、反応系および反応装置のコストが非常に大きく、また反応性を有する低分子フッ素化物が有害であるという問題がある。さらに、目的とするフッ素化合物はフッ素系溶剤のみに可溶であるため、加工コストや環境面での問題を有している。
このように、従来の撥油性を高めたエレクトレットフィルターは、製造時のコストや環境問題による化学物質規制に対応できておらず、また環境規制に対応するために炭素数6(C6)以下の化合物を用いた場合には従来同等の性能を発現できないという問題がある。
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされ、その目的は、低コストかつ安全性に優れた簡便な手法にて製造が可能であり、かつ撥油性に優れたエレクトレットフィルターを得ようとするものである。
本発明のエレクトレットフィルターは上記問題を解決するために、下記の構成を有する。
すなわち、本発明は炭素数6以下のパーフルオロ化合物とパーフルオロ化合物と反応する化合物とから生成された水および有機溶剤に難溶な化合物を担持してなることを特徴とする。
また、本発明はパーフルオロ化合物としてカルボン酸化合物を用いてなることを特徴とする。
また、上記パーフルオロ化合物と反応する化合物は、金属であることを特徴とする。
また、上記金属は3価以上の遷移金属であることを特徴とする。
更には、上記カルボン酸において、カルボキシル基に隣接するα炭素は炭化水素であることを特徴とする。
本発明によると、C8系化合物を用いることなくかつ簡便な装置や工程にて、撥油性に優れたエレクトレットフィルターを得ることが可能となる。
以下に本発明のエレクトレットフィルターの実施の形態について説明する。なお、本発明のエレクトレットフィルターは、以下に限定されず、本発明の趣旨に則り用途毎に最適な構成を選択できるものである。
本発明のエレクトレットフィルターは、エレクトレット化された、撥油性を有する、フィルターである。
本発明のエレクトレットフィルターに用いられる材料としては、フィルター材料としての所望の特性を有するものであれば特に制限されないが、繊維形状などへの加工性を考慮し、電気抵抗の高い合成樹脂素材が好ましい。具体的には非フッ素系素材としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリオレフィン、環状オレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。より好ましくはポリエチレン、ポリブテン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、環状オレフィン等のポリオレフィン素材である。これらの素材を用いることで、疎水性、電気抵抗、成形性などのバランスが良好であるため実用特性に優れたエレクトレットフィルターが得られる。
上述の合成樹脂素材は実質的に撥油性を示さないため、より性能を高めるために予めフッ素原子を有した合成樹脂素材を用いることも好ましい。そのような素材として、例えばPTFE、FEP、PFA、ETFE、PCTFE、PVDF、THVなどが挙げられ、熱可塑性の観点からはFEP、PFA、ETFE、PCTFE、THVがより好ましい。
上記樹脂素材には樹脂自体の劣化を抑制し、更にはエレクトレットの電荷安定性を高めるために、従来公知の配合剤および配合組成を用いてもよい。例えば、配合剤としては、各種金属塩、酸化防止剤、光安定化剤などが挙げられ、配合組成としては、異なる樹脂成分を混合することにより得られるポリマーアロイなどが挙げられる。
本発明のエレクトレットフィルターは、繊維層がエレクトレット化されてなる。繊維層とは、織布、不織布、綿状などを用途に応じて適当な形状および厚みに成形したものである。繊維層は、フィルター用途としては不織布であるのが好ましい。
不織布を得る方法としては、単成分短繊維や分割繊維、芯鞘繊維をカーディング、エアレイド、湿式抄紙法などによりシート化する方法、スパンボンド法、メルトブローン法、エレクトロスピニング法などにより連続した繊維を得る方法など従来公知の方法を用いることができる。機械的捕集機構を効果的に利用する観点からと、緻密な細繊度のシートが容易に得られる観点から、メルトブローン法やエレクトロスピニング法が好ましく、残溶剤の処理を必要としない観点からメルトブローン法や溶融エレクトロスピニングが好ましい。
繊維層のエレクトレット化は、エレクトレットとしての所望の特性が得られれば特に制限されず、繊維層単体時、シート成形時、シート成型後のいずれで行っても構わない。エレクトレット化法は、高電圧による分極、荷電イオンの衝突、荷電粒子の注入、摩擦帯電、蒸気および凝縮、噴霧液体との接触および衝突帯電など従来公知の方法を用いることができる。
本発明のエレクトレットフィルターは、繊維層に後加工法により撥油性が付与されてなる。後加工法とは繊維形状を与えた後に、溶液の浸漬・塗布および蒸着、スパッタ、CVD、PVD、反応性ガス、超臨界流体との接触処理などの手法により基材となる繊維素材の表面とは異なる機能、物質を付与するものである。
後加工法は、樹脂素材全体を改質することで機能性を付与する方法に対して、省資源化できるというメリットがある。また、基材としての繊維層そのものは汎用樹脂のみからなる一般製品と同一の工程での製造が可能であるため、機能性添加剤を溶融樹脂に混合した場合に懸念される設備の汚染、腐食ならびに、有害な熱分解物の発生及び残留を防止することができる。
本発明において、繊維層への撥油性付与には、炭素数6以下のパーフルオロ化合物とパーフルオロ化合物と反応する化合物とから生成された水および有機溶剤に難溶な化合物を用いる。特に、炭素数6以下パーフルオロ鎖を有するカルボン酸と金属イオンとからなる化合物(金属塩または錯体)を用いる。
よって、本発明のエレクトレットフィルターは、炭素数6以下のパーフルオロ化合物とパーフルオロ化合物と反応する化合物とから生成された水および有機溶剤に難溶な化合物を担持する。特に、本発明のエレクトレットフィルターは炭素数6以下のパーフルオロ鎖を有するカルボン酸と金属イオンとからなる化合物を担持する。
カルボン酸と金属とが配位結合することにより、加工液としては有機溶媒もしくは水との親和性もしくは溶解性を持つとともに加工後には有機溶媒、水の両者に対して不溶性になる。
本発明に用いられるパーフルオロカルボン酸は、上記の特性が得られるものであれば特に制限されず好ましく用いられる。パーフルオロカルボン酸はモノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸もしくはそれ以上いずれであっても好ましい。たとえば、パーフルオロカルボン酸成分は、PFOAおよびPFOS規制の観点からモノカルボン酸の場合はパーフルオロオクタン酸(いわゆるC8系)以下の鎖長を持つ化合物が用いられる。
更に、金属との結合安定性を向上させる為にカルボキシル基の隣にあるα炭素、もしくは更に隣接する1個以上の炭素原子が1個以上の水素原子を有することも好ましい。すなわち、カルボキシル基に隣接する炭素鎖においてパーフルオロよりもフッ素原子を減少させることで、pKaを塩基側にシフトさせ結合安定性を高めることができる。
本発明に用いられる金属としては、上記の特性が得られるものであれば特に制限されないが、具体的にはアルカリ金属以外を用いるのが好ましい。より好ましい金属としては遷移金属である。遷移金属を用いることで、水もしくはそれ以外の有機溶媒と接触した場合に解離が生じにくく、より安定した性能を発現、維持することができる。
上記の金属としては、1価以上の価数を持つものであれば用いることができるが、分子の極性を低減することで界面活性作用を抑制し、かつ加水分解や溶媒和に対する耐性を向上させるため2価以上の金属が好ましく、更に対称性が高く立体障害の大きな3価以上の金属を用いることが好ましい。具体的には3価アルミニウムや4価ジルコニウムを用いることで、カルボキシル基との結合安定性が高くかつ対称性や立体障害の観点から耐久性に優れ、かつ分子極性が打ち消される為に撥油性や電荷安定性の観点から好ましい特性を得ることができる。
また、金属およびカルボン酸の両者において2以上の配位数を与える場合には、二次元直線状、網目状、凹凸などの広がりもしくは立体構造を与えることが可能であり、より耐久性や撥油性に優れた特性が得られる。また、電荷安定性や撥油特性の安定性から生成物の融点としては常温以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは80℃以上、もっとも好ましくは120℃以上を持つ事が好ましい。
本発明における後加工法としては、所望の特性が得られるものであれば特に制限されないが、溶液混合により生成された粒子や重合物を繊維層に付着させる方法、蒸散や揮発により気相で生成された粒子や重合物を繊維層に付着させる方法、予め金属もしくはカルボン酸の一方を繊維層に付着させておき、他方を気相もしくは溶液にて塗布、噴霧することで反応させる方法などが好ましく用いられる。
溶液状態で反応させる場合には、用いる金属とカルボン酸との溶解度に差異があるものを溶媒として用いるのが好ましい。すなわち、予め一方の成分を付着させておき、続く二段階目の加工において前段階の成分における溶解性が小なる溶液を塗布することで表面に凝集塊を生じることなく、繊維表面に薄く分散性に優れた皮膜を得ることができる。薄く均一な皮膜を得ることで、通気抵抗の上昇や撥油性のムラを抑制し、かつ薬剤使用量を低減することができる。たとえば、メタノールや水に溶解性を持つパーフルオロヘキサン酸と有機溶媒に可溶な塩化アルミニウムの組み合わせなどにおいて、パーフルオロヘキサン酸の界面活性作用を生かして均一に付着させたのち、塩化アルミニウムを金属源として反応させることで均質性に優れた皮膜を得ることができる。なお、これは単なる例示であり、例えば、パーフルオロヘキサン酸と水に可溶な硝酸ジルコニウムとの組み合わせ、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン酸水溶液と塩化アルミニウムの組み合わせなどであってもよい。
また、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩など水溶性かつ解離性の塩を金属源として用いることができる。
上記により得られた撥油性が付与された繊維層(撥油層)の撥油度は、所望の特性に応じて付着量や組成を調整され特に制限されない。JIS K6768およびAATCC118法により用いられる表面張力試験液において、1分以内の浸透性を与える表面張力として40mN/m以下が好ましく、より好ましくは35mN/m以下、更に好ましくは30mN/m以下、最も好ましくは25mN/m、以下である。これらは防じんマスクの国家検定オイルミストの試験液体であるDOPが31mN/m、PAO(たとえばEmery3004)が29mN/mであり、また実使用における鉱物および植物性オイルミストへの対応を考慮したものである。
本発明の撥油層として用いられる繊維層の繊維径(直径)は、0.001〜100μmであることが好ましく、より好ましくは0.005〜20μmであり、更に好ましくは0.01〜10μmであり、更に好ましくは0.02〜5μm、最も好ましくは0.03〜3μmである。かかる目的は機械的捕集効率をたかめる一方で、通気抵抗を低減させることが可能である。100μmよりも太い場合には実用的な捕集効率を与える事が困難であり、0.001μmよりも細い場合には電荷を付与する事が困難である。
機械的捕集効率を高めることを意図としているため、本発明においては上記繊維層が単独の製法、素材からなる均一素材であってもよく、製法、素材ならびに繊維径の異なる2種以上の素材を用いてなるシート材料でも好ましく用いられる。
本発明のエレクトレットフィルターは、上記撥油層に吸油(親油)層や吸水(親水)層を積層して用いてもよい。ここで、フィルター分野において一般的に付加されるオイルミストとしては、試験粒子としてDOP、PAO、DEHS、使用環境で負荷される成分としてタバコ煙、調理油、潤滑油、農薬等である。そのため、非フッ素系素材を繊維層にして用いた場合には、ポリエチレン、ポリプロピレン等の低エネルギー材料であっても吸油層としての機能を備える。かかる吸油層や吸水層を用いることで、液滴の滴りや、通気抵抗の上昇を抑制することができる。
吸油層の素材としては、撥油層に補足された液滴を吸収移行できるものであれば特に制限されないが、活性炭、ゼオライト、パルプなど多孔質材料を含有もしくは表面に加工したシート素材、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース、レーヨンなどからなる繊維シート素材を用いることが好ましい。より好ましくはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどのオレフィン系素材もしくはポリエステルであり、好ましくはポリプロピレンである。
吸油層を繊維層として構成する場合、吸用いられる繊維は1種類もしくは2種類を組み合わせて用いることも好ましく、通風抵抗や粗大粒子の捕集などの観点で適当な素材を選択することができる。
吸油層は、非エレクトレットおよびエレクトレットいずれでも好ましく用いることが可能であり、エレクトレット化されてなることがより好ましい。
吸油層を繊維層として構成する場合、繊維層の種類は所望の構成が得られるものであれば特に制限されないが、サーマルボンド、スパンボンド、スパンレース、溶融および溶液法によるエレクトロスピニングなど、好ましい方法によりシート化した素材を用いることができる。
吸油層を繊維層として構成する場合、繊維としては、繊維径(直径)が0.005〜100μmであるものが好ましく、より好ましくは0.01〜20μm、更に好ましくは0.5〜5μm、もっとも好ましくは1〜10μmのものである。
撥油層の繊維径と吸油層の繊維直径とは、捕集対象とする粒子や使用環境により適宜選択することができる。ただし、撥油層として用いる繊維層の繊維はより細繊度であることが好ましい。より好ましくは撥油層が繊維径1μm以下のナノファイバーであり、吸油層が繊維径1μm〜10μm程度のマイクロファイバーであることが好ましい。本組み合わせの意図は下記(1)〜(3)の効果を念頭においたものである。
(1)繊維径の小さいナノファイバーを用いることで、同一通気抵抗における機械的捕集効率を高めることが可能であり、電荷が消失した場合の最低捕集効率を向上することができる。
(2)ナノファイバーを単一層として用いた場合には、繊維間距離および濾材体積が小さいことからオイルミストの保持容量を確保することが困難であるが、吸油層に移行させることで通気抵抗の上昇が抑制される。
(3)ナノファイバーとマイクロファイバーは同一風速における最低捕集粒子径が異なり、マイクロファイバーが0.3μm程度に最大透過率を持つのに対し、ナノファイバーの最低捕集効率は0.1μm程度に最大透過率を有するため、捕集性能が相補的となる。したがって、試験用ミストやタバコ煙、環境中のオイルミストなど特定範囲に個数最頻径を持つ対象に対して電荷消失時の最低捕集性能を向上し、フィルター性能を高めることができる。
本発明のエレクトレットフィルターは、撥油層と吸油層とを組み合わせてオイルミストに対する効率向上および長寿命化を達成することも可能である。更に必要に応じて他の構成部材と併用することも可能である。すなわち、例えば、プレフィルター層、繊維保護層、補強部材ならびに機能性繊維層などと組み合わせて用いることも可能である。これら組み合わせた構成も本発明の範疇である。
上記プレフィルター層または繊維保護層としては、例えば、スパンボンド、サーマルボンド、発泡ウレタンなどが挙げられる。また、上記補強部材としては、例えば、サーマルボンド、各種ネットなどを、機能性繊維層としては、例えば、抗菌、抗ウイルスならびに識別や意匠を目的とした着色繊維層などを、例示することができる。例えば、親油層にこれらの機能を持たせてもよく、その場合、厚みや通気抵抗を低減することができる。
本発明のエレクトレットフィルターは、オイルミストを除去するためのフィルター用途に幅広く用いることができる。一例としては、防塵および防毒マスク、家庭用空気清浄機、建物ならびに乗物の換気システム、各種装置の保護など幅広く用いることができる。
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されることはない。
初めに、後段で説明する実施例および比較例で作製したフィルターについての評価方法について説明する。
(圧力損失)
フィルターの任意の部分から直径72mmの円形に打ち抜いたサンプルを3個採取し、それぞれのサンプルについて、有効通風直径50mmの円筒ホルダーにセットし、風速10cm/secで大気を流し、微差圧計を用いてサンプル上下の圧力差(mmAq)を求めた。
(捕集効率)
フィルターの捕集効率は以下の方法にて算出した。
評価粒子:大気塵(粒径0.3〜0.5μm間の粒子を含む)
風速:10cm/s
捕集効率:フィルターの通過前後(上流側および下流側)における粒径0.3〜0.5μm間の粒子個数を光散乱計数法により計測し、以下の式から求めた。
捕集効率(%)=(1−(下流側個数÷上流側個数))×100
(撥油性試験)
撥油試試験は以下の試験にて実施した。
JIS K6768に定められた配合にて30、35、40、45、50mN/mの試験液を調整した。また、PAO(ポリ−α−オレフィン)を試験液として準備した。各々の試験液を、微生物試験用マイクロピペッターを用いて100μmサンプル上に静置し浸透度合いを観察した。浸透/非浸透の境界値を確認し、非浸透側の数字を対象試料の撥油性として用いた。なお、表裏に差異がある場合には、より浸透度の低い方を数値として用いた。
(実施例1)
メルトブローン法により得られた目付30g/m、平均繊維直径3μm、厚み0.25mmのポリプロピレンシートに対し、パーフルオロヘキサン酸水溶液を浸透させ80℃で乾燥させることにより、固形分として0.25g/m担持させる処理を行った。当該シートに、更に、塩化アルミニウムの20%エタノール溶液を噴霧し、吸引乾燥することで加工シートを得た。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、30mN/m以下およびPAOに対する撥油性を有していた。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、実施例1のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が5.5mmAqであり、捕集効率が97.3%であった。
実施例1のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、30mN/m液は非浸透であり、PAOは浸透した。
(実施例2)
メルトブローン法により得られた目付30g/m、平均繊維直径3μm、厚み0.25mmのポリプロピレンシートに対し、パーフルオロヘキサン酸水溶液を浸透させ80℃で乾燥させることにより、固形分として0.32g/m担持させる処理を行った。当該シートに、更に、硝酸ジルコニウムの10%水溶液を噴霧し、吸引乾燥することで加工シートを得た。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、30mN/m以下およびPAOに対する撥油性を有していた。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、実施例2のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が5.8mmAqであり、捕集効率が98.5%であった。
実施例2のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、エレクトレット化前と同等の撥油性を維持していた。
(実施例3)
メルトブローン法により得られた目付30g/m、平均繊維直径3μm、厚み0.25mmのポリプロピレンシートに対し、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクタン酸水溶液を浸透させ80℃で乾燥させることにより、固形分として0.28g/m担持させる処理を行った。当該シートに、更に、塩化アルミニウムの20%エタノール溶液を噴霧し、吸引乾燥することで加工シートを得た。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、30mN/m以下およびPAOに対する撥油性を有していた。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、実施例3のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が5.6mmAqであり、捕集効率が98.3%であった。
実施例3のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、エレクトレット化前と同等の撥油性を維持していた。
(比較例1)
実施例1の加工シートの構成において塩化アルミニウム処理を実施しなかった以外は同一とした。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、30mN/m以下およびPAOに対する撥油性を有していた。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、比較例1のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が5.6mmAqであり、捕集効率が28.5%であった。
比較例1のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、撥油性は、40mN/mまで低下し、PAOをはじくことはできなかった。
(比較例2)
メルトブローン法により得られた目付30g/m、平均繊維直径3μm、厚み0.25mmのポリプロピレンシートに対し、C6系撥水撥油剤であるユニダインTG−5502(ダイキン工業株式会社製)を1.02g/m担持させた。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、30mN/m以下およびPAOに対する撥油性を有していた。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、比較例2のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が7.1mmAqであり、捕集効率が32.6%であった。
比較例2のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、エレクトレット化前と同等の撥油性を維持していた。
(比較例3)
メルトブローン法により得られた目付30g/m、平均繊維直径3μm、厚み0.25mmのポリプロピレンシートに対し、C6系撥水撥油剤ユニダインTG−5502(ダイキン工業株式会社)を0.27g/m担持させた。この加工シートについての撥油性試験を行ったところ、35mN/m以下の撥油性は有していたが、PAOは浸透した。
上記加工シートをコロナ放電法によりエレクトレット化処理し、比較例3のエレクトレットフィルターを得た。このフィルターの性能は、圧力損失が5.9mmAqであり、捕集効率が62.1%であった。
比較例3のエレクトレットフィルターに対して、体積比が50/50のイソプロピルアルコール/水へ浸漬し乾燥した後に撥油性試験を行ったところ、エレクトレット化前と同等の撥油性を維持していた。
以上の結果から、実施例3のフィルターは実施例1のフィルターに対して耐溶出性に優れることがわかる。また、比較例1および2のフィルターは、実施例1〜3のフィルターに対して効率の低下が大きいことがわかる。また、実施例1〜3のフィルターに対して、比較例1のフィルターは耐久性に乏しく、比較例2のフィルターは通気抵抗の上昇が大きいことがわかる。また、比較例3のフィルターは効率の低下があり、かつ撥油性が低いことがわかる。
以上で説明した実施の形態および各実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。また、実施の形態および各実施例の開示内容を適宜組み合わせたものも本発明に含まれる。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
本発明のエレクトレットフィルターは、オイルミストの除去可能なフィルターとして幅広い用途展開が可能である。一例としては、防塵および防毒マスク、空気清浄機、建物ならびに乗物の換気システム、各種装置の保護などに用いることができる。

Claims (3)

  1. 繊維シートに炭素数6以下のパーフルオロ鎖を有するカルボン酸を付着させた後、金属を反応させることで、炭素数6以下のパーフルオロ鎖を有するカルボン酸と金属イオンとからなる化合物を担持したエレクトレットフィルターを製造するエレクトレットフィルターの製造方法。
  2. 前記金属イオンは、3価以上の遷移金属からなることを特徴とする請求項1に記載のエ
    レクトレットフィルターの製造方法
  3. 前記カルボン酸において、カルボキシル基に隣接するα炭素は炭化水素であることを特
    徴とする請求項1または2に記載のエレクトレットフィルターの製造方法
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