[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態に係る駆動力伝達装置の制御装置が搭載された四輪駆動車の概略の構成例を示す概略構成図である。
図1に示すように、四輪駆動車1は、アクセルペダル110の操作量(踏み込み量)に応じた走行用の駆動力(トルク)を発生する駆動源としてのエンジン11と、エンジン11の出力を変速するトランスミッション12と、トランスミッション12で変速されたエンジン11の駆動力が常に伝達される主駆動輪としての左右前輪181,182と、エンジン11の駆動力が四輪駆動車1の走行状態に応じて伝達される補助駆動輪としての左右後輪191,192とを備えている。左右前輪181,182は、運転者によるステアリングホイール111の操舵操作によって転舵される転舵輪である。左右前輪181,182及び左右後輪191,192には、車輪速センサ61〜64がそれぞれ対応して設けられている。
また、四輪駆動車1には、フロントディファレンシャル13と、プロペラシャフト14と、リヤディファレンシャル15と、左右の前輪側のドライブシャフト161,162と、左右の後輪側のドライブシャフト171,172と、プロペラシャフト14とリヤディファレンシャル15との間に配置された駆動力伝達装置2と、駆動力伝達装置2を制御する制御装置7とが搭載されている。制御装置7は、車輪速センサ61〜64によって検出される左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度の情報、アクセルペダルセンサ65によって検出されるアクセルペダル110の操作量の情報、及び操舵角センサ66によって検出されるステアリングホイール111の操舵角の情報を取得可能である。
駆動力伝達装置2は、制御装置7から供給される電流に応じた駆動力をプロペラシャフト14からリヤディファレンシャル15に伝達する。左右後輪191,192には、駆動力伝達装置2を介してエンジン11の駆動力が伝達される。制御装置7は、駆動力伝達装置2に電流を供給することで駆動力伝達装置2を制御する。以下、制御装置7が駆動力伝達装置2を制御するために出力する電流を制御電流という。
なお、四輪駆動車1の駆動源としては、内燃機関であるエンジンに限らず、例えばIPM(Interior Permanent Magnet)モータ等の高出力モータを用いてもよい。また、エンジンと高出力モータとの組み合わせにより四輪駆動車1の駆動源を構成してもよい。
左右前輪181,182には、エンジン11の駆動力が、トランスミッション12、フロントディファレンシャル13、及び左右の前輪側のドライブシャフト161,162を介して伝達される。フロントディファレンシャル13は、左右の前輪側のドライブシャフト161,162にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ131,131と、一対のサイドギヤ131,131にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ132,132と、一対のピニオンギヤ132,132を支持するピニオンギヤシャフト133と、これらを収容するフロントデフケース134とを有している。
フロントデフケース134には、リングギヤ135が固定され、このリングギヤ135がプロペラシャフト14の車両前方側の端部に設けられたピニオンギヤ141に噛み合っている。プロペラシャフト14の車両後方側の端部は、駆動力伝達装置2のハウジング20に連結されている。駆動力伝達装置2は、ハウジング20と相対回転可能に配置されたインナシャフト23を有しており、制御装置7から供給される制御電流に応じた駆動力を、インナシャフト23と相対回転不能に連結されたピニオンギヤシャフト150を介してリヤディファレンシャル15に伝達する。駆動力伝達装置2の詳細については後述する。
リヤディファレンシャル15は、左右の後輪側のドライブシャフト171,172にそれぞれ相対回転不能に連結された一対のサイドギヤ151,151と、一対のサイドギヤ151,151にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ152,152と、一対のピニオンギヤ152,152を支持するピニオンギヤシャフト153と、これらを収容するリヤデフケース154と、リヤデフケース154に固定されてピニオンギヤシャフト150と噛み合うリングギヤ155とを有している。
(駆動力伝達装置の構成)
図2は、駆動力伝達装置2の構成例を示す断面図である。図2において、回転軸線Oよりも上側は駆動力伝達装置2の作動状態(トルク伝達状態)を、下側は駆動力伝達装置2の非作動状態(トルク非伝達状態)を、それぞれ示す。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
駆動力伝達装置2は、フロントハウジング21及びリヤハウジング22からなるハウジング20と、ハウジング20と同軸上で相対回転可能に支持された筒状のインナシャフト23と、ハウジング20とインナシャフト23との間に配置されたメインクラッチ3と、メインクラッチ3を押圧する押圧力を発生させるカム機構4と、フロントハウジング21の回転力を受けてカム機構4を作動させる電磁クラッチ機構5とを有して構成されている。ハウジング20の内部には、図略の潤滑油が封入されている。
フロントハウジング21は、円筒状の筒部21aと底部21bとを一体に有する有底円筒状である。筒部21aの開口端部における内面には、雌ねじ部21cが形成されている。フロントハウジング21の底部21bには、プロペラシャフト14(図1参照)が例えば十字継手を介して連結される。また、フロントハウジング21は、軸方向に延びる複数の外側スプライン突起211を筒部21aの内周面に有している。
リヤハウジング22は、鉄等の磁性材料からなる第1環状部材221、第1環状部材221の内周側に溶接等により一体に結合されたオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなる第2環状部材222、及び第2環状部材222の内周側に溶接等により一体に結合された鉄等の磁性材料からなる第3環状部材223からなる。第1環状部材221と第3環状部材223との間には、電磁コイル53を収容する環状の収容空間22aが形成されている。また、第1環状部材221の外周面には、フロントハウジング21の雌ねじ部21cに螺合する雄ねじ部221aが形成されている。
インナシャフト23は、玉軸受24及び針状ころ軸受25によってハウジング20の内周側に支持されている。インナシャフト23は、軸方向に延びる複数の内側スプライン突起231を外周面に有している。また、インナシャフト23の一端部における内面には、ピニオンギヤシャフト150(図1参照)の一端部が相対回転不能に嵌合されるスプライン嵌合部232が形成されている。
メインクラッチ3は、軸方向に沿って交互に配置された複数のメインアウタクラッチプレート31及び複数のメインインナクラッチプレート32を有する摩擦クラッチである。メインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32との摩擦摺動は、ハウジング20とインナシャフト23との間に封入された図略の潤滑油によって潤滑され、摩耗や焼き付きが抑制されている。
メインアウタクラッチプレート31は、フロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起311を外周端部に有している。メインアウタクラッチプレート31は、係合突起311が外側スプライン突起211に係合することにより、フロントハウジング21との相対回転が規制され、かつフロントハウジング21に対して軸方向に移動可能である。
メインインナクラッチプレート32は、インナシャフト23の内側スプライン突起231に係合する複数の係合突起321を内周端部に有している。メインインナクラッチプレート32は、係合突起321が内側スプライン突起231に係合することにより、インナシャフト23との相対回転が規制され、かつインナシャフト23に対して軸方向に移動可能である。また、メインインナクラッチプレート32には、潤滑油を流通させる複数の油孔322がメインアウタクラッチプレート31よりも内側に形成されている。
カム機構4は、電磁クラッチ機構5を介してハウジング20の回転力を受けるパイロットカム41と、メインクラッチ3を軸方向に押圧する押圧部材としてのメインカム42と、パイロットカム41とメインカム42との間に配置された複数の球状のカムボール43とを有して構成されている。
メインカム42は、メインクラッチ3の一端におけるメインインナクラッチプレート32に接触してメインクラッチ3を押圧する環板状の押圧部421と、押圧部421よりもメインカム42の内周側に設けられたカム部422とを一体に有している。メインカム42は、押圧部421の内周端部に形成されたスプライン係合部421aがインナシャフト23の内側スプライン突起231に係合し、インナシャフト23との相対回転が規制されている。また、メインカム42は、インナシャフト23に形成された段差面23aとの間に配置された皿バネ44により、メインクラッチ3から軸方向に離間するように付勢されている。
パイロットカム41は、メインカム42に対して相対回転する回転力を電磁クラッチ機構5から受けるスプライン係合部411を外周端部に有している。パイロットカム41とリヤハウジング22の第3環状部材223との間には、スラスト針状ころ軸受45が配置されている。
パイロットカム41とメインカム42のカム部422との対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化する複数のカム溝41a,422aが形成されている。カムボール43は、パイロットカム41のカム溝41aとメインカム42のカム溝422aとの間に配置されている。そして、カム機構4は、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転することにより、メインクラッチ3を押し付ける軸方向の押圧力を発生させる。メインクラッチ3は、カム機構4から押圧力を受けてメインアウタクラッチプレート31とメインインナクラッチプレート32とが摩擦接触し、この摩擦力によって駆動力を伝達する。
電磁クラッチ機構5は、アーマチャ50と、複数のパイロットアウタクラッチプレート51と、複数のパイロットインナクラッチプレート52と、電磁コイル53とを有して構成されている。
電磁コイル53は、磁性材料からなる環状のヨーク530に保持され、リヤハウジング22の収容空間22aに収容されている。ヨーク530は、玉軸受26によってリヤハウジング22の第3環状部材223に支持され、その外周面が第1環状部材221の内周面に対向している。また、ヨーク530の内周面は、第3環状部材223の外周面に対向している。電磁コイル53には、電線531を介して制御装置7からの制御電流が励磁電流として供給される。
複数のパイロットアウタクラッチプレート51及び複数のパイロットインナクラッチプレート52は、アーマチャ50とリヤハウジング22との間に、軸方向に沿って交互に配置されている。パイロットアウタクラッチプレート51及びパイロットインナクラッチプレート52には、電磁コイル53の通電により発生する磁束の短絡を防ぐための複数の円弧状のスリットが形成されている。
パイロットアウタクラッチプレート51は、フロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起511を外周端部に有している。パイロットインナクラッチプレート52は、パイロットカム41のスプライン係合部411に係合する複数の係合突起521を内周端部に有している。
アーマチャ50は、鉄等の磁性材料からなる環状の部材であり、外周部にはフロントハウジング21の外側スプライン突起211に係合する複数の係合突起501が形成されている。これにより、アーマチャ50は、フロントハウジング21に対して軸方向に移動可能、かつフロントハウジング21に対する相対回転が規制されている。
上記のように構成された駆動力伝達装置2は、電磁コイル53に制御電流が供給されることにより発生する磁力によってアーマチャ50がリヤハウジング22側に引き寄せられ、パイロットアウタクラッチプレート51とパイロットインナクラッチプレート52とが摩擦接触する。これにより、ハウジング20の回転力がパイロットカム41に伝達され、パイロットカム41がメインカム42に対して相対回転し、カムボール43がカム溝41a,422aを転動する。このカムボール43の転動により、メインカム42にメインクラッチ3を押圧するスラスト力が発生し、複数のメインアウタクラッチプレート31と複数のメインインナクラッチプレート32との間に摩擦力が発生する。そして、この摩擦力によってハウジング20とインナシャフト23との間でトルクが伝達される。メインクラッチ3によって伝達されるトルクは、電磁コイル53に供給される制御電流に応じて増減する。すなわち、駆動力伝達装置2は、供給される電流に応じて左右後輪191,192に伝達される駆動力を調節可能である。
(制御装置7の構成)
制御装置7は、演算処理装置であるCPU71と、ROMやRAM等の半導体記憶素子からなる記憶部72と、駆動力伝達装置2に制御電流としての電流を出力する電流出力部としてのスイッチング電源部73と、スイッチング電源部73から出力される電流を検出してその検出結果を示す信号を出力する電流検出回路74とを有している。記憶部72には、CPU71が実行すべき演算処理の手順を示すプログラムが記憶されている。
図3は、制御装置7の構成例を示す概略構成図である。CPU71は、記憶部72に記憶されたプログラムを実行することにより、指令値演算部81、制御信号生成部82、安定走行判定部83、及びオフセット値記憶部84として機能する。なお、本実施の形態では、これら各部の機能をソフトウェアによって実現する場合について説明するが、これに限らず、各部の機能を特定用途向け集積回路であるASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアによって実現してもよい。
CPU71は、左右前輪181,182及び左右後輪191,192の回転速度の回転速センサ61〜64、アクセルペダルセンサ65、及び操舵角センサ66の検出結果を取得可能であり、これらの検出結果に基づいて駆動力伝達装置2を制御する。より具体的には、アクセルペダル110の踏み込み量が大きいほど、また左右前輪181,182の平均回転速度と左右後輪191,192の平均回転速度との差である前後輪回転速差が大きいほど、大きな駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように、駆動力伝達装置2を制御する。また、CPU71は、四輪駆動車1が旋回状態でなくかつ車速が一定の定常走行状態であるときには、定常走行状態でない場合よりも小さくかつ一定の駆動力が左右後輪191,192に伝達されるように駆動力伝達装置2を制御する。
スイッチング電源部73は、スイッチング素子であるFET731と、還流ダイオード732とを有しており、FET731のドレイン電流を制御電流として駆動力伝達装置2に出力する。FET731は、具体的にはMOSFETであり、そのオン状態又はオフ状態がゲートに入力されるPWM信号によって変化する。PWM信号によってゲート・ソース間電圧が発生したとき、FET731がオン状態となり、ドレインからソースにドレイン電流が流れる。FET731のドレインには、電源コネクタ7aを介して、四輪駆動車1に搭載されたバッテリーBから例えば12Vの直流電圧が供給される。スイッチング電源部73は、FET731がオン状態となる時間の割合(デューティー比)が高いほど、大きな電流を出力する。
スイッチング電源部73は、一対の端子7b,7cから駆動力伝達装置2の電磁コイル53に制御電流を出力する。FET731のオフ状態では、電磁コイル53のインダクタンスにより、還流ダイオード732に電流が流れる。還流ダイオード732は、アノードがFET731のドレイン及び端子7cに接続され、カソードが電流検出回路74のシャント抵抗741の一端に接続されている。シャント抵抗741の他端は、端子7bに接続されている。
電流検出回路74は、制御電流が流れるシャント抵抗741と、シャント抵抗741の両端の電位差を増幅する増幅器としてのオペアンプ742と、オペアンプ742が出力するアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するADコンバータ743と、第1及び第2の入力抵抗744,745と、帰還抵抗746と、接地抵抗747とを有している。第1の入力抵抗744は、オペアンプ742の非反転入力端子とシャント抵抗741の一端との間に接続されている。第2の入力抵抗745は、オペアンプ742の反転入力端子とシャント抵抗741の他端との間に接続されている。帰還抵抗746は、オペアンプ742の出力端子と反転入力端子との間に接続されている。接地抵抗747は、オペアンプ742の非反転入力端子と接地電位との間に接続されている。
指令値演算部81は、トルク指令値演算部811及び電流指令値演算部812からなる。トルク指令値演算部811は、アクセルペダルセンサ65によって得られるアクセルペダル110の操作量や、回転速センサ61〜64によって得られる前後輪回転速差及び車速、ならびに操舵角センサ66によって得られるステアリングホイール111の操舵角によって検出される走行状態に基づいて、左右後輪191,192に伝達すべき駆動力の大きさを示すトルク指令値を演算する。トルク指令値演算部811は、例えば記憶部72に記憶されたマップを参照することにより、アクセルペダル110の操作量、前後輪回転速差、及び操舵角が大きいほど、トルク指令値を大きく設定する。
電流指令値演算部812は、トルク指令値演算部811によって演算されたトルク指令値を、駆動力伝達装置2の電磁コイル53に供給すべき制御電流の電流値である電流指令値に変換する。この電流指令値は、左右後輪191,192に伝達すべき駆動力に応じた制御電流の指令値である。
制御信号生成部82は、電流検出回路74の検出結果であるADコンバータ743の出力値に基づいて、指令値演算部81で演算された電流指令値に応じた電流が電磁コイル53の励磁電流として駆動力伝達装置2に出力されるように、スイッチング電源部73に送る制御信号を生成する。本実施の形態では、この制御信号がFET731のゲートに入力されるPWM信号である。
より詳細には、制御信号生成部82は、第1の加算部821、第2の加算部822、フィードバック制御部823、及びPWM信号出力部824からなる。第1の加算部821は、後述するオフセット値記憶部84によって記憶されたオフセット値を電流検出回路74の出力値から差し引いた補正電流値を演算する。第2の加算部822は、指令値演算部81で演算された電流指令値と第1の加算部821で求められた補正電流値とを差分演算する。フィードバック制御部823は、第2の加算部822で求められた偏差を基にフィードバック制御を行うことにより、スイッチング電源部73に送るPWM信号のデューティー比を演算する。PWM信号出力部824は、フィードバック制御部823で演算されたデューティー比に基づいて、パルス状のPWM信号を生成する。
また、制御信号生成部82は、安定走行判定部83にて四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であると判定されたとき、PWM信号の出力を停止してデューティー比をゼロとすることにより、スイッチング電源部73から駆動力伝達装置2への制御電流の出力を停止させる。本実施の形態では、安定走行判定部83にて四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であると判定されたとき、指令値演算部81が、各センサ61〜66の検出値等にかかわらず電流指令値をゼロとし、これにより制御信号生成部82がPWM信号の出力を停止する。
一方、安定走行判定部83にて四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であると判定されなかったとき、制御信号生成部82は、第2の加算部822、フィードバック制御部823、及びPWM信号出力部824の処理により、第1の加算部821で求められた補正電流値が指令値演算部81で演算された電流指令値と一致するようにPWM信号を生成し、スイッチング電源部73に出力する。
安定走行判定部83は、四輪駆動車1の走行状態が、回転速センサ61〜64によって求められる前後輪回転速差が小さい所定の安定走行状態であるか否かを判定する。本実施の形態では、前後輪回転速差が所定値よりも小さい状態が所定時間以上継続したとき、四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であると判定する。この所定値は、車輪のスリップが発生しない乾燥路を一定の速度で直進走行する場合に発生し得る前後輪回転側差に相当するものである。また、所定時間は例えば0.1〜1.0秒である。また、安定走行状態であると判定するための条件として、車速が所定値(例えば10km/h)以上であることや、操舵角が所定値未満で実質的に直進走行状態であること等を条件として加えてもよい。
オフセット値記憶部84は、駆動力伝達装置2への制御電流の出力が停止しているときの電流検出回路74の検出結果をオフセット値として記憶する。駆動力伝達装置2への制御電流の出力が停止しているときには、シャント抵抗741に電流が流れず、シャント抵抗741における電圧降下が発生しないので、理論的にはオペアンプ742の出力電圧がゼロとなる。しかし、例えば制御装置7の内部温度が高い場合には、シャント抵抗741電流が流れなくても、オペアンプ742の温度ドリフトによりオペアンプ742の出力電圧がゼロとならず、ある程度の電流値を示す信号がADコンバータ743から出力される。オフセット値記憶部84は、この電流値をオフセット値として記憶する。
このオフセット値は、前述のように、制御信号生成部82の第1の加算部821において、電流検出回路74の出力値から差し引かれる。すなわち、第1の加算部821で求められる補正電流値は、電流検出回路74の出力値を、オペアンプ742の温度ドリフトの影響を排除するように補正した電流値である。そして、制御信号生成部82は、補正電流値に基づいて制御信号(PWM信号)を生成することで、四輪駆動車1が走行中であっても、駆動力伝達装置2に供給される電流のオフセット調整を行うことが可能となる。
図4は、CPU71がオフセット値記憶部84として実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。CPU71は、このフローチャートに示す処理を所定の制御周期(例えば5ms)ごとに実行する。なお、CPU71は、図4に示すフローチャートとは別に、四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であるか否かを判定し、所定時間以上継続して安定走行状態である場合、走行状態にかかわらず電流指令値をゼロとする処理を行う。
図4に示すフローチャートの処理において、CPU71はまず、所定の時間間隔で後述するステップS3〜S8の処理を実行するためのカウンタである検出時間カウンタをインクリメントする(ステップS1)。次にCPU71は、検出時間カウンタのカウンタ値が所定値以上であるか否かを判定する(ステップS2)。この所定値は、検出時間カウンタのカウントアップ開始から例えば5分後にステップS2の判定結果が是(Yes)となる値である。
ステップS2の判定で、検出時間カウンタの値が所定値以上である場合(S2:Yes)、CPU71は、電流指令値がゼロであるか否かを判定する(ステップS3)。この判定で電流指令値がゼロである場合(S3:Yes)、CPU71は、電磁コイル53に供給される制御電流が安定するのを所定時間待つための電流安定待ち時間カウンタをインクリメントし(ステップS4)、電流安定待ち時間カウンタのカウンタ値が所定値であるか否かを判定する(ステップS5)。この処理は、電流指令値がゼロとなった直後には、例えば電磁コイル53のインダクタンスにより、電流検出回路74の検出結果が安定しない場合があることを考慮したものである。このステップS5における判定処理の所定値は、例えば電流指令値がゼロとなってから400ms程度経過した後にステップS5の判定結果が是(Yes)となる値である。
ステップS5の判定結果が是(Yes)である場合、CPU71は、電流検出回路74の検出結果であるADコンバータ743の出力値をオフセット値として記憶し(ステップS6)、検出時間カウンタ及び電流安定待ち時間カウンタをゼロにクリアして(ステップS7,S8)、1回の制御周期における処理を終了する。また、CPU71は、ステップS5の判定結果が否(No)である場合、ステップS6〜S8の処理を実行することなく図4に示すフローチャートの処理を終了する。
また、CPU71は、ステップS2の判定で検出時間カウンタの値が所定値以上でない場合(S2:No)又はステップS3の判定で電流指令値がゼロでない場合(S3:No)、電流安定待ち時間カウンタをゼロにクリアし(ステップS9)、図4に示すフローチャートの処理を終了する。
以上の処理により、検出時間カウンタが所定値以上でかつ電流指令値がゼロである場合に電流安定待ち時間カウンタがカウントアップされ始め、電流安定待ち時間カウンタが所定値となると、その時の電流検出回路74の検出結果がオフセット値として記憶される。記憶されたオフセット値は、その後の制御信号生成部82におけるオフセット調整に用いられる。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本実施の形態によれば、四輪駆動車1が走行中であっても駆動力伝達装置に供給される電流のオフセット調整を行うことが可能となる。これにより、例えば高速道路を長距離にわたって走行するような場合に、制御装置7の内部の温度が上昇して電流検出回路74で温度ドリフトが発生しても、電流検出回路74のオフセット調整が適切に行われ、左右後輪191,192に伝達される駆動力を高精度に調節することができる。
また、安定走行判定部83は、前後輪回転速差が所定値よりも小さい状態が所定時間以上継続したとき、四輪駆動車1の走行状態が安定走行状態であると判定するので、安定走行状態の判定を確実に行うことができ、電流検出回路74のオフセット調整をより適切に行うことができる。
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、四輪駆動車1の構成は、図1に例示したものに限らず、駆動力伝達装置2が例えばリヤディファレンシャル15のサイドギヤ151と後輪側のドライブシャフト171,172の何れかとの間に配置されていてもよい。