JP6873483B2 - 融合タンパク質及びそれを用いた抗原の検出方法 - Google Patents

融合タンパク質及びそれを用いた抗原の検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、酵素変異体と抗体の可変領域とを含む融合タンパク質、並びにそれを用いた抗原の検出方法及び抗原検出キットに関する。
現在、臨床診断において免疫測定法はますます重要な測定技術となってきている。個々の免疫測定法を採択するにあたっては、感度・特異性の向上のみならず、測定の迅速・簡便化も大きな要素となってきている。現在主流の免疫測定法においては、タンパク質バイオマーカーの検出にあたってはサンドイッチ法、低分子検出においては競合法が測定原理として用いられる。しかしそのどちらも、数回の反応と洗浄の後に主にラベルに用いた酵素活性を測定する酵素免疫測定法であることが多く、測定には手間と数時間の時間がかかる問題がある。これに比べ、サンプルと測定試薬を混ぜて反応させ、検出するホモジニアス免疫測定法は、簡便かつ迅速な測定が可能である。ホモジニアス免疫測定法としては、蛍光偏光法、EMIT法、CEDIA法、OS-FIA法、Quenchbody法などが知られており、低分子検出においては従来の競合法と同程度の実用的な感度が得られているものも多い。しかし、蛍光を利用する方法においては蛍光ラベルの検出感度に感度が制限されてしまい感度向上のための信号増幅が難しい問題がある一方、信号増幅による感度向上が可能な酵素を用いる方法においては酵素の安定性が問題となる場合が多かった。例えば、βガラクトシダーゼの欠損変異体同士の活性相補を用いるCEDIA法、OS-ECIA法(非特許文献1、2)においては、基質が使いやすい利点はある反面酵素の安定性、比活性、さらに活性変化量の少なさが実用化にあたって大きな問題であった。
T. Yokozeki, H. Ueda, R. Arai, W. Mahoney and T. Nagamune. Anal. Chem. 74, 2500-2504 (2002). H. Ueda et al., J. Immunol. Methods 279, 209-218 (2003)
以上のようにホモジニアス免疫測定法は、簡便かつ迅速に抗原を検出できるというメリットがあるものの、試薬の安定性や活性などについての問題もある。本発明は、このような従来のホモジニアス免疫測定法の問題を解決することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、OS-ECIA法において使用されるβガラクトシダーゼの欠損変異体の代わりに4量体形成能を低下させたβグルクロニダーゼ(GUS)の変異体を用いることにより、OS-ECIA法の欠点であった試薬の不安定性と低活性を顕著に改善できることを見出し(実施例13)、本発明を完成するに至った。
本発明は、4量体を形成することによって初めて酵素活性を示すというβグルクロニダーゼの性質を利用するものである。一方、βガラクトシダーゼも4量体を形成することによって活性を示す酵素であるが、OS-ECIA法においてはそのような性質は全く利用されていない。従って、本発明とOS-ECIA法は、全く異なる発想に基づくものである。
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものである。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供するものである。
(1)多量体の形成により活性化する酵素の変異体、この酵素の変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含む融合タンパク質であって、前記酵素の変異体が、単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であることを特徴とする融合タンパク質。
(2)多量体の形成により活性化する酵素の変異体が、βグルクロニダーゼの変異体であることを特徴とする(1)に記載の融合タンパク質。
(3)βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニン及び517番目のチロシンが他のアミノ酸に置換された変異体であることを特徴とする(2)に記載の融合タンパク質。
(4)βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンがグルタミン酸に置換された変異体であることを特徴とする(2)に記載の融合タンパク質。
(5)融合タンパク質中に、1又は2個のβグルクロニダーゼの変異体が含まれることを特徴とする(2)乃至(4)のいずれかに記載の融合タンパク質。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
(7)試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む(1)乃至(5)のいずれかに記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む(1)乃至(5)のいずれかに記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びに多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
(8)抗体のVH領域を含む(1)乃至(5)のいずれかに記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む(1)乃至(5)のいずれかに記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2016‐011475の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
本発明の抗原の検出方法は、簡便かつ迅速に抗原を検出でき、また、検出感度などの面においても優れている。
GUS変異体の構築(A)及びそれに用いたプライマー(B)を示す図。 PCR産物及び増幅したGUS変異体遺伝子を示す電気泳動写真。lane M:100bp DNA ladder、lane 1:GUS遺伝子、lane 2:変異したGUS遺伝子断片(5'側)、lane 3:変異したGUS遺伝子断片(3'側)、lane 4:変異したGUS遺伝子。 制限酵素処理をしたベクター及びGUS変異体遺伝子を示す電気泳動写真。lane M:DNAマーカー、lane 1:GUS変異体遺伝子(制限酵素処理後)、lane 2:GUS変異体遺伝子(制限酵素処理前)、lane 3:VH(NP)ベクター(制限酵素処理後)、lane 4:VH(NP)ベクター(制限酵素処理前)、lane 5:VL(NP)ベクター(制限酵素処理後)、lane 6:VL(NP)ベクター(制限酵素処理前)。 GSリンカーを持ったGUS変異体発現ベクターの構築(A)、増幅した(G4S)3遺伝子を示す電気泳動写真(B)、及びGSリンカーを持ったGUS変異体発現ベクターを示す電気泳動写真(C)。(B)lane M:DNAマーカー、lane 1-4:増幅した(G4S)3遺伝子。(C)lane 1:制限酵素処理前のpET32-VH(NP)-GUSベクター、lane 2:NotIにより処理したpET32-VH(NP)-GUSベクター、lane 3:さらに、HindIIIにより処理したpET32-VH(NP)-GUSベクター。 VH(NP)-(G4S)3-GUS変異体(A)及びVL(NP)-(G4S)3-GUS変異体(B)を発現させた大腸菌の菌体ライセートの電気泳動写真。lane M:タンパク質分子量マーカー、lane 1:発現誘導する前の細胞全タンパク質、lane 2:発現誘導した後の細胞全タンパク質。矢印は目的タンパク質を示す。 VH(NP)-(G4S)3-GUS変異体及びVL(NP)-(G4S)3-GUS変異体の精製過程の電気泳動写真。(A)TALON固定化金属アフィニティクロマトグラフィーによる精製、lane M:タンパク質分子量マーカー、lane 1-5:VH(NP)-(G4S)3-GUS変異体、lane 6-10:VL(NP)-(G4S)3-GUS変異体、lane 1,6:不溶性画分、lane 2,7:可溶性画分、lane 3,8:フロースルー、lane 4,5,9,10:溶出画分。(B)VL(NP)-(G4S)3-GUS変異体の陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製、lane 11:TALON精製溶出画分、lane 12-15:溶出画分。 抗原有無でのGUS活性(吸光度)の経時変化を示す図。 抗原濃度とGUS活性(蛍光)応答を示す図。 pET32-VH(BGP)-(G4S)3-GUSm及びpET32-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmの構築(A)、増幅したVH(BGP)遺伝子及びVL(BGP)遺伝子を示す電気泳動写真(B)、及び制限酵素処理後のベクターの電気泳動写真(C)。(B)左図:VH(BGP)遺伝子のPCR産物、右図:VL(BGP)遺伝子のPCR産物。(C)lane 1:NcoI処理後のベクター、lane 2:HindIII及びNcoI処理後のベクター。 pRsetSA-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmの構築(A)、制限酵素処理したpRsetSAプラスミドの電気泳動写真(B)、及びPCR産物の電気泳動写真(C)。(B)lane 1:制限酵素処理前、lane 2:BamHIによる処理、lane 3:BamHI及びHindIIIによる処理。(C)lane 1:PCR産物、lane 2:制限酵素処理後のPCR産物。 VH(BGP)-(G4S)3-GUSm及びVL(BGP)-(G4S)3-GUSmの発現と精製。lane M:タンパク質分子量マーカー、lane 1:発現誘導する前の細胞内全タンパク質、lane 2: 発現誘導後の細胞内全タンパク質、lane 3:不溶性画分、lane 4:可溶性画分、lane 5:フロースルー、lane 6:溶出したタンパク質。 抗原有無でのGUS活性(吸光度)の経時変化を示す図。 抗原濃度とGUS活性応答を示す図。左図:蛍光強度、右図:吸光度。 GUS変異体を含む融合タンパク質のカイネティック曲線を示す図。 野生型GUSを含む融合タンパク質のカイネティック曲線を示す図。
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)融合タンパク質及び核酸
本発明の融合タンパク質は、多量体の形成により活性化する酵素の変異体、この酵素の変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含む融合タンパク質であって、前記酵素の変異体が、単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体であることを特徴とするものである。
「多量体の形成により活性化する酵素」とは、単量体が幾つか結合することによって初めて活性を示す、又は活性が向上する酵素を意味する。多量体を構成する単量体の数は特に限定されず、2量体、3量体、4量体、5量体、6量体などのいずれで活性化する酵素でもよい。多量体の形成により活性化する酵素は、活性を容易に検出又は測定できる酵素であることが好ましい。例えば、生成物又は基質を吸光度、蛍光強度、発光強度により検出又は測定できる酵素である。多量体の形成により活性化する酵素の具体例としては、レポーター酵素として一般的に使用されているもの、例えば、βグルクロニダーゼ(4量体で活性化)、βガラクトシダーゼ(4量体で活性化)、アルカリフォスファターゼ(2量体で活性化)、リンゴ酸脱水素酵素(2量体で活性化)などを挙げることができる。
単量体間の結合親和性を低下させる変異としては、単量体間の結合部位に導入されている変異を挙げることができる。多量体の形成により活性化する酵素の多くは、そのアミノ酸配列や単量体間の結合部位が明らかになっているので、当業者は、どのような変異を導入すれば単量体間の結合親和性を低下させることができるかを理解している。親和性の低下の程度は、単量体間の結合親和性の低下により、多量体が形成しにくくなり、それにより野生型酵素との活性の違いを認識できる程度であればよい。単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体には、単量体間のすべての結合の親和性が低下したもののほか、単量体間の一部の結合の親和性のみが低下したものも含まれる。従って、後述するβグルクロニダーゼの変異体のように、2量体を形成するが、4量体を形成しにくいような変異体も、この単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入された変異体に含まれる。
単量体間の結合親和性を低下させる変異の具体例としては、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニン及び517番目のチロシンが他のアミノ酸に置換された変異体を挙げることができる。516番目のメチオニンと置換される他のアミノ酸としては、リジンを挙げることができ、517番目のチロシンと置換される他のアミノ酸としては、グルタミン酸を挙げることができる。なお、516番目のメチオニン及び517番目のチロシンは、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列における位置を示すので、他の生物由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列では、前記した位置にメチオニン及びチロシンが存在しない場合もある。このような場合には、アミノ酸配列の同一性に基づいて、大腸菌由来のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列と整列させ、516番目のメチオニン及び517番目のチロシンに相当するメチオニン及びチロシンを他のアミノ酸に置換するようにする。大腸菌由来の野生型のβグルクロニダーゼのアミノ酸配列を配列番号1に、上記変異が導入されたβグルクロニダーゼのアミノ酸配列を配列番号2に示す。
リンカーは、前記酵素、VH領域、及びVL領域を正常に機能させることのできるものであればどのようなものでもよい。前記酵素とVH領域又はVL領域との距離が十分でない場合には、前記酵素が活性を示さなくなることがあるので、リンカーには一定の長さが必要である。リンカーの長さは、使用する酵素や抗体の種類により異なるが、通常は、10〜60Åであり、好ましくは、30〜40Åである。リンカーのアミノ酸の数は、前記した長さになるようなアミノ酸数であればよいが、通常は、5〜50であり、好ましくは、15〜20である。リンカーのアミノ酸配列は、融合タンパク質の作製の際に使用される一般的なリンカーのアミノ酸配列と同様のものでよい。具体的には、Gly-Gly-Gly-Gly-Ser(G4S)の繰り返し配列(繰り返し数は通常2〜5)、Glu-Ala-Ala-Ala-Lys (EAAAK)の繰り返し配列、Asp-Asp-Ala-Lys-Lys (DDAKK)の繰り返し配列などを挙げることができる。
抗体のVH領域又はVL領域は、検出対象とする抗原に応じて任意の抗体のVH領域又はVL領域を選択することができ、特定の抗体のVH領域又はVL領域に限定されない。具体的には、後述する検出対象とする抗原と特異的に結合する抗体のVH領域又はVL領域を使用することができる。
本発明の融合タンパク質は、上述した多量体の形成により活性化する酵素の変異体、リンカーペプチド、VH領域又はVL領域の三者のみからなっていてもよいが、他のペプチドやタンパク質などを含んでいてもよい。このようなペプチド等としては、His-Tagなどの精製用のタグ配列、チオレドキシンやアミロイド前駆体タンパク質由来可溶化タグ配列などの発現タンパク質を可溶化するタグ配列などを例示できる。
本発明の融合タンパク質では、多量体の形成により活性化する酵素の変異体、リンカーペプチド、VH領域又はVL領域の順に配置されるが、多量体の形成により活性化する酵素の変異体がN末端でVH領域又はVL領域がC末端でもよく、逆に、多量体の形成により活性化する酵素の変異体がC末端でVH領域又はVL領域がN末端でもよい。
多量体の形成により活性化する酵素の変異体は、融合タンパク質中に一つ含まれればよいが、二つ含まれていてもよく、またそれ以上含まれていてもよい。前記酵素の変異体が二つ含まれる場合、これらはリンカーを介して隣接するように配置される。このとき使用されるリンカーは、前記酵素の変異体とVH領域又はVL領域の間に配置されるリンカーと同様のものでよい。
本発明には、上述した融合タンパク質のほか、この融合タンパク質をコードする核酸も含まれる。ここで、「核酸」とは、主にデオキシリボ核酸をいうが、リボ核酸やこれらの核酸の修飾体をも含む。
(2)抗原の検出方法
本発明の抗原の検出方法は、試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質と接触させる工程、並びに多量体の形成を検出する工程を有することを特徴とするものである。
この方法は、本発明者らによって開発されたオープンサンドイッチ法(H. Ueda et al., Nat. Biotechnol. 14(12), 1714-1718 (1996))の原理、即ち、VH領域とVL領域の相互作用が抗原の存在によって強化されるという原理を利用するものである。オープンサンドイッチ法を利用した従来の抗原検出方法(例えば、非特許文献1、2)では、N末端欠損変異体とC末端欠損変異体を使用していたが、本発明においては、多量体の形成により活性化する酵素の変異体を使用して抗原の検出を行う。多量体の形成により活性化する酵素の変異体として上述したβグルクロニダーゼの変異体を用いた場合の検出原理を以下に記載する。βグルクロニダーゼは4量体を形成することにより活性を示すようになる。上述したβグルクロニダーゼの変異体は、一部の単量体間の結合親和性を低下させる変異が導入されているので、2量体を形成するが、通常の状態では、4量体を形成しない。試料中に抗原が存在しない場合、VH領域とVL領域の相互作用は弱いままなので、VH領域及びVL領域と連結するβグルクロニダーゼの変異体の2量体もそのままでほとんど4量体にはならない。一方、試料中に抗原が存在する場合、VH領域とVL領域の相互作用が強化され、この相互作用により、VH領域及びVL領域と連結するβグルクロニダーゼの変異体の2量体も結合し、4量体を形成し、活性を示すようになる。従って、βグルクロニダーゼ活性を測定することにより、試料中に抗原が存在するかどうかを判定することができる。
検出対象とする抗原はどのようなものでもよいが、本発明の方法は、低分子化合物(例えば、分子量が1000以下の化合物)の検出に適しているので、低分子化合物を検出対象とすることが好ましい。また、本発明の方法は、疾患の診断、食品の毒性検査、環境分析などに利用できるので、これらに関連する物質を検出対象とすることが好ましい。具体的には、イミダクロプリドなどのネオニコチノイド系農薬、ポリ塩化ビフェニル、ビスフェノールAなどの環境汚染物質、マイコトキシンなどの毒性物質、オステオカルシン(骨粗鬆症の診断に有効)、コルチコイド、エストラジオール、アルドステロン、リゾチーム(ニワトリ卵白リゾチームなど)などの生体物質、ジゴキシンなどの薬剤となどを挙げることができる。
試料は、検出対象とする抗原が含まれる可能性があるものであればどのようなものでもよく、例えば、ヒトからの採取物(血液、唾液、尿など)、汚染の可能性のある水や土壌、食品や食品の原料などを挙げることができる。
試料と融合タンパク質の接触方法は特に限定されないが、通常は、溶液中に試料と融合タンパク質を共存させることにより行う。また、融合タンパク質そのものではなく、融合タンパク質を発現する細胞と共存させてもよい。この接触工程における温度、時間、溶液のpH、使用する融合タンパク質の量などの条件は、融合タンパク質中に含まれる酵素において一般的に使用されている条件でよい。例えば、融合タンパク質がβグルクロニダーゼの変異体を含む場合、この接触工程における温度は20〜37℃ぐらいが好ましく、接触させている時間は10〜60分ぐらいが好ましく、溶液のpHは6.8〜7.5ぐらいが好ましく、溶液中の融合タンパク質の濃度は10〜100 nMぐらいが好ましい。
多量体の形成は、融合タンパク質中に含まれる酵素変異体の活性の変化(上昇又は発現)により検出することができる。融合タンパク質中に含まれる酵素変異体の活性は、その酵素において一般的に使用される活性測定法によって測定できる。例えば、融合タンパク質に含まれる酵素変異体がβグルクロニダーゼの変異体である場合、発色基質又は蛍光基質を加え、その基質から生成する物質を定量することにより、活性を測定できる。βグルクロニダーゼの発色基質としてはX-Gluc、4-ニトロフェニルα-グルコピラノシド、4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドなどを挙げることができ、蛍光基質としては4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドなどを挙げることができる。これらの基質から生成する物質の定量は、特定の波長の吸光度、蛍光強度などを測定することにより行うことができる。例えば、基質が4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニドであれば405 nm付近の吸光度の測定により生成物を定量でき、また、基質が4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニドであれば340 nmの蛍光で励起し、480 nm付近の蛍光強度の測定により生成物を定量できる。
(3)抗原検出キット
本発明の抗原検出キットは、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質を含むことを特徴とするものである。このキットは、上述した抗原検出の原理により、試料中の抗原を検出することができる。
このキットは、抗体のVH領域を含む本発明の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む本発明の融合タンパク質以外のものを含んでいてもよい。例えば、酵素活性の測定には、基質が必要なので、これを含んでいてもよい。また、基質から生成する物質を定量するための試薬や器材、あるいは融合タンパク質や基質を安定化させるための物質などを含んでいてもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕 GUS変異体発現ベクターの構築
GUS遺伝子に、図1Aに示す方法で変異を導入した。用いたプライマーの配列(5’-3’)を図1Bに示す。具体的にまずプライマーa(配列番号3)及びプライマーd(配列番号6)を用いて、GUS遺伝子の5’側をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によって増幅した。また、プライマーc(配列番号5)とプライマーb(配列番号4)を用いて、GUS遺伝子の3’側をPCRで増幅した。プライマーcとdには、導入するアミノ酸変異のコドン配列が含まれる。その後、両PCR産物をテンプレートにしてプライマーaとbを用いてSplice Overlap Extension PCRを行い、GUS変異体(以下、このGUS変異体を「GUSm」と記載する場合がある。)の遺伝子を構築した。PCRはKOD-Plus-Neo ポリメラーゼを用いて、まず94℃で2分間インキュベートしてDNAを変性させ、その後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃1分間のサイクルを30回行い、アガロースゲル電気泳動を行い、増幅したDNAサンプルを確認した。その結果を図2に示す。レーン 1は変異導入前のGUS遺伝子をテンプレートにしてプライマーaとbを用いて増幅したものであり、レーン 2は変異導入GUS遺伝子5’断片、 レーン 3は変異導入GUS遺伝子3’断片、 また レーン 4は変異体GUS遺伝子増幅産物である。発現ベクターに入れるため、GUS遺伝子の5’と3’側には制限酵素NotIとXhoI切断部位を配置した。
〔実施例2〕 GUS変異体発現ベクターの構築
実施例1で作製したGUS遺伝子および変異体遺伝子を発現ベクターにクローニングした。まず増幅したGUS遺伝子DNAを制限酵素NotIおよびXhoIで消化した。一方、高親和性抗NP (4-hydroxy-3-nitrophenyl acetic acid:分子量198)抗体可変領域をコードする大腸菌発現ベクターpET-VH(NP)-Rluc及びpET-VL(NP)-(G3S)3-EYFP(非特許文献1)をそれぞれNotIとXhoIで処理し、アガロースゲル電気泳動で確認を行った。結果を図3に示す。レーン Mは分子量マーカーであり、 レーン 1と2は制限酵素処理後と前のGUS変異体遺伝子を示す。レーン 3と4は制限酵素処理後と前のpET-VH(NP)-Rlucベクター、レーン 5と6は制限酵素処理後と前のpET32-VL(NP)-(G4S)3-EYFPベクターである。アガロースゲル電気泳動の後、分離したDNA断片を切り出し、精製を行い、T4リガーゼを用いて、制限酵素処理した遺伝子とプラスミドを連結し、発現ベクターpET32-VH(NP)-GUSm 及び pET32-VL(NP)-(G4S)3-GUSmを作製した。
〔実施例3〕 VH(NP)遺伝子と変異体GUS遺伝子間への(G4S)3リンカーの挿入
実施例2で構築したpET32-VH(NP)-GUSmに(G4S)3リンカー配列を挿入するため(図4A)、以下の遺伝子操作を行った。具体的には、まずプライマーe (TCCAAGCTTGCGGCCGGTGGATCCGGT)(配列番号7)とプライマーf (CGTAACATAGCGGCCGCGCTACCGCCACCGCCGG) (配列番号8)を用いて、pET-VL(NP)-(G3S)3-EYFPをテンプレートにGSリンカー遺伝子を増幅した。PCRはKOD-Plus-Neo ポリメラーゼを用いて、まず94℃で2分間インキュベートしDNAを変性させた。その後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃1分の反応を30サイクル行い、アガロースゲル電気泳動を行い、増幅したDNAサンプルを確認した。その結果を図4Bに示す。増幅したGSリンカー遺伝子断片をHindIII/NotIで処理して、同じ酵素セットで処理したベクター(図4C)とT4リガーゼで連結して、pET32-VH(NP)-(G4S)3-GUSmを構築した。
〔実施例4〕 VH(NP)-(G4S)3-GUSm及びVL(NP)-(G4S)3-GUSmの発現
pET32-VH(NP)-(G4S)3-GUSm及びpET32-VL(NP)-(G4S)3-GUSmを用いて、大腸菌 SHuffle T7 lysYを形質転換した。その後、プラスミドを保持した大腸菌を500 mlのLBA培地(10 g/L トリプトン、5g/L 酵母、5g/L NaCl、100 μg/mLアンピシリン)で30℃でOD600が0.6となるまで培養した後、0.5 mM IPTGを添加し、16℃でさらに16時間培養した。遠心分離によって集菌した後、超音波破砕機により大腸菌を破砕し、菌体ライセートを調製した。発現誘導前後の大腸菌をサンプリングして、SDS-PAGEで分析した。結果を図5に示す。レーン Mはタンパク質分子量マーカーであり、レーン 1は発現誘導する前の細胞内全タンパク質、レーン 2は発現誘導後の細胞内全タンパク質である。矢印は目的タンパク質を示す。
〔実施例5〕 VH(NP)-(G4S)3-GUSm及びVL(NP)-(G4S)3-GUSmの精製
40 mlのExtraction buffer(50 mM リン酸ナトリウム, 300 mM 塩化ナトリウム, pH 7.0)に懸濁した大腸菌をソニケーターによって破砕した後、1000 g、20分遠心を行い、上清を集め、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーにより精製を行った。具体的には適量のTALON (宝バイオ,Clontech社)アガロースゲルを上清に加えて、2時間撹拌した。その後カラムに移して10 mlのExtraction bufferで3回洗浄を行い、2.5 mlの150 mMのイミダゾールを含むExtraction bufferを用いてゲルに結合したタンパク質を溶出した。精製過程の各段階でサンプリングして、SDS-PAGEによって分析を行った。その結果を図6Aに示す。レーン Mは分子量マーカー、レーン 1-5はVH(NP)-(G4S)3-GUS変異体を示す。レーン 1は不溶性画分、レーン 2は可溶性画分、レーン 3はフロースルー、レーン 4, 5は溶出したタンパク質である。またレーン 6-10はVL(NP)-(G4S)3-GUS変異体を示す。レーン 6は不溶性画分を示し、レーン 7は可溶性画分、レーン 8はフロースルー、レーン 9, 10は溶出したタンパク質である。このように、VH(NP)-(G4S)3-GUSmではほぼ単一分子量(〜100 kd)のバンドが得られたが、VL(NP)-(G4S)3-GUSmでは35 kd付近にN末のチオレドキシンタグ(14 kd),VL(12 kd)とGUS分解産物を含むと思われる夾雑物のバンドがかなり見られた。このため,VL(NP)-(G4S)3-GUSmについてはこのあと陰イオン交換樹脂を用いた精製を行い、最終的に単一バンドからなるタンパク質を得た。その結果は図6Bに示す。レーン11は濃縮したTALON精製溶出画分であり、レーン12-15はNaClによる溶出した画分を示す。
〔実施例6〕 抗原有無でのGUS活性(吸光度)の経時変化
VH(NP)-(G4S)3-GUSm及びVL(NP)-(G4S)3-GUSmを137 mM NaCl, 2.7 mM KClを含む10 mMリン酸緩衝液(pH 7.4)にバッファーを交換し、終濃度100 nMとなるよう調製した。ここに終濃度5 μMとなるよう抗原NPを加え、25℃で10分間インキュベートした後、基質4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド(4-NPG,東京化成工業株式会社)を添加して、2分間隔で405 nmでの吸光度を測定した(n = 3)。なおこの際、それぞれのウェルでの655 nmでの吸光度をバックグラウンドとして減じた。その結果を図7に示す。VH(NP)-(G4S)3-GUSm、あるいはVL(NP)-(G4S)3-GUSmのみを含んだサンプルにNPを加えた場合、及び各50 nMのVH(NP)-(G4S)3-GUSmとVL(NP)-(G4S)3-GUSmを含むがNPを加えない場合、28分後の吸光度は僅かしか増加しなかったのに対し、各50 nMのVH(NP)-(G4S)3-GUSmとVL(NP)-(G4S)3-GUSmにNPを添加した場合に、吸光度すなわちGUS活性は大幅に増加した。
〔実施例7〕 抗原濃度とGUS活性(蛍光)応答
各50 nMのVH(NP)-(G4S)3-GUSmとVL(NP)-(G4S)3-GUSmを含む溶液に、終濃度が5, 10, 50, 100, 500, 1000, 5000, 10000 nMになるようNPあるいはNIP (5-iodo-NP, NPより約10倍強く抗体に結合する)を添加し、25℃で10分間インキュベートした。その後、蛍光基質4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニド(MUG,和光純薬)を加えて、黒色ハーフウェルマイクロプレート中、25℃15分間インキュベートした後、340 nmで励起し480 nmでの蛍光強度を測定した。そして各濃度での蛍光強度に基づくNPおよびNIPの検量線を作成した。図8に示すように、NPおよびNIP濃度の増加に従い、蛍光強度は徐々に増加し、10μM NIPを添加した場合に、抗原なしの時に比べて蛍光強度が5倍以上に増加した。これに対しNPに対する応答性は低く、10μM NPで2.5倍の蛍光増加に留まった。これは両抗原の本抗体に対する親和性の違い(NP〜5x105/M, NIP〜5x106/M)を反映していると思われる。
〔実施例8〕 GUS変異体発現ベクターの構築
実施例2及び3で構築したpET32-VH(NP)-(G4S)3-GUSm及びpET32-VL(NP)-(G4S)3-GUSm (図9A)にVH(BGP)及びVL(BGP)遺伝子を挿入するため、以下の操作を行った。まずプライマー a,b (VH(KTM)NcoBack: 5’-ATATGCCATGGATCAAGTAAAGCTGCAGCAGTC-3’ (配列番号9), VH_HindFor: 5’-CCCAAGCTTGCTCGAGAGACGGTGACCGT-3’ (配列番号10)) とプライマー c, d (Vk(KTM)NcoSalBack: 5’-CATGCCATGGGGTCGACGGACATTGAGCTCACCCAG-3’ (配列番号11), Vk_HindFor: 5’-CCCAAGCTTCCGTTTTATTTCCAGCTT-3’ (配列番号12))を用いて、pUQ1H(KTM219) と pMAL-VL(BGP)ΔT をテンプレートにVH(BGP)及びVL(BGP)遺伝子を増幅した。PCRはKOD-Plus-Neo ポリメラーゼを用いて、まず94℃で2分間インキュベートし、DNAを変性させた。その後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃1分の反応を30サイクル行い、アガロースゲル電気泳動を行い、増幅したDNAサンプルを確認した。その結果を図9Bに示す。増幅したVH(BGP)及びVL(BGP)遺伝子断片をNcoI/HindIIIで処理して、同じ酵素セットで処理したベクター(図9C)とT4リガーゼで連結し、pET32-VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとpET32-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmを構築した。
〔実施例9〕 VL(BGP)-(G4S)3-GUSm遺伝子のpRsetSAプラスミドへの挿入
VL(BGP)-(G4S)3-GUSmのN-terminalにアミロイド前駆体タンパク質由来可溶化タグ配列APP hyper acidic regionを付加するため、以下の操作を行った(図10A)。プライマーe (VLBGPback_to_pRSETSA(Bam): 5’- GGAGGAGGTGGGATCCATGGGGTCGACGGACATTG -3’ (配列番号13))とプライマーf (GUSmutXhoFor_to_pRSETSA(Hd): 5’- CAGCCGGATCAAGCTCTCGAGTAGTCATTGTTTGC-3’ (配列番号14))を用いて、実施例8で構築したpET32-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmをテンプレートにVL(BGP)-(G4S)3-GUSmを増幅した。PCRはKOD-Plus-Neo ポリメラーゼを用いて、まず94℃で2分間インキュベートし、DNAを変性させた。その後、94℃ 30秒、55℃30秒、68℃2分の反応を30サイクル行い、アガロースゲル電気泳動を行い、増幅したDNAサンプルを確認した。その結果を図10Cに示す。増幅したVL(BGP)-(G4S)3-GUSmをBamHI及び HindIIIで処理して、同じ酵素セットで処理したpRsetSAプラスミド(図10B、早稲田大学北口哲也博士より)とT4リガーゼで連結して、pRsetSA-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmを構築した。
〔実施例10〕 VH(BGP)-(G4S)3-GUSm及びVL(BGP)-(G4S)3-GUSmの発現と精製
pET32-VH(BGP)-(G4S)3-GUSm及びpRsetSA-VL(BGP)-(G4S)3-GUSmを用いて、大腸菌 SHuffle T7 lysYを形質転換した。その後、プラスミドを保持した大腸菌を500 mlのLBA培地(10 g/L トリプトン、5g/L 酵母、5g/L NaCl、100 μg/mLアンピシリン)で30℃でOD600が0.6となるまで培養した後、0.5 mM IPTGを添加し、16℃でさらに16時間培養した。遠心分離によって集菌した後、超音波破砕機により大腸菌を破砕し、菌体ライセートを調製した。発現誘導前後の大腸菌をサンプリングして、SDS-PAGEで分析した。結果を図11に示す。レーン Mはタンパク質分子量マーカーであり、レーン 1は発現誘導する前の細胞内全タンパク質、レーン 2は発現誘導後の細胞内全タンパク質である。40 mlのExtraction buffer(50 mM リン酸ナトリウム, 300 mM 塩化ナトリウム, pH 7.0)に懸濁した大腸菌をソニケーターによって破砕した後、1000 g、20分遠心を行い、上清を集め、固定化金属アフィニティクロマトグラフィーにより精製を行った。具体的には適量のTALON (宝バイオ,Clontech社)アガロースゲルを上清に加えて、2時間撹拌した。その後カラムに移して10 mlのExtraction bufferで3回洗浄を行い、2.5 mlの150 mMのイミダゾールを含むExtraction bufferを用いてゲルに結合したタンパク質を溶出した。精製過程の各段階でサンプリングして、SDS-PAGEによって分析を行った。その結果を図11に示す。レーン 3は不溶性画分、レーン 4は可溶性画分、 レーン 5はフロースルー、レーン 6は溶出したタンパク質である。このように、VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとVL(BGP)-(G4S)3-GUSmではほぼ単一分子量(〜100 kd)のバンドが得られた。矢印は目的タンパク質を示す。
〔実施例11〕 抗原有無でのGUS活性(吸光度)の経時変化
VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとVL(BGP)-(G4S)3-GUSmを25 mMリン酸緩衝液(pH 7.4)にバッファーを交換し、終濃度0.1 μMとなるよう調製した。ここに終濃度10μMとなるよう抗原BGP-C7(オステオカルシンのC末端の7残基ペプチド)を加え、25℃で10分間インキュベートした後、基質4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド (4-NPG,東京化成工業株式会社)を添加して、2分間隔で405 nmでの吸光度を測定した(n = 3)。なおこの際、それぞれのウェルでの655 nmでの吸光度をバックグラウンドとして減じた。その結果を図12に示す。 VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとVL(BGP)-(G4S)3-GUSmを含むがBGP-C7を加えない場合、28分後の吸光度は僅かしか増加しなかったのに対し、VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとVL(BGP)-(G4S)3-GUSmにBGP-C7を添加した場合に、吸光度すなわちGUS活性は大幅に増加した。
〔実施例12〕 抗原濃度とGUS活性応答
VH(BGP)-(G4S)3-GUSmとVL(BGP)-(G4S)3-GUSmを含む溶液に、終濃度が0, 1, 10, 102, 103, 104, 105, 106 nMになるようBGP-C7を添加し、25℃で10分間インキュベートした。その後、蛍光基質4-メチルウンベリフェニル-β-D-グルクロニド(MUG,和光純薬)を加えて、黒色ハーフウェルマイクロプレート中、25℃15分間インキュベートした後、340 nmで励起し、480 nmでの蛍光強度を測定した。そして各濃度での蛍光強度に基づくBGP-C7の検量線を作成した。また、基質4-NPGを加えて、405 nmでの吸光度を測定した(n = 3)。この際、それぞれのウェルでの655 nmでの吸光度をバックグラウンドとして減じ、そして各濃度での吸光度に基づくBGP-C7の検量線を作成した。図13に示すように、BGP-C7濃度の増加に従い、蛍光強度及び吸光度は、徐々に増加した。
〔実施例13〕 GUS変異体と野生型GUSの活性の比較
実施例5で作製したGUS変異体を含む融合タンパク質(VH(NP)-(G4S)3-GUSmとVL(NP)-(G4S)3-GUSm)及び野生型GUSを含む融合タンパク質(実施例5で作製したGUS変異体を含む融合タンパク質におけるGUS変異体を野生型GUSに置き換えた融合タンパク質)の酵素活性を以下の方法で測定した。
両融合タンパク質をPBST buffer中でそれぞれ1μMのNPと混合し、これに1mg/mLの酵素基質(4-ニトロフェニルβ-D-グルクロニド)を加えた。反応速度が安定するまで10分間インキュベートした後、分光光度計(Beckmann DU530)を用いて、405nmの吸光度を15秒ごとに、15分間測定した。GUS変異体を含む融合タンパク質を使用した場合の吸光度の経時変化を図14に、野生型GUSを含む融合タンパク質を使用した場合の吸光度の経時変化を図15に示す。図に示すように、GUS変異体を含む融合タンパク質を使用した場合の吸光度変化量は0.0096 (min-1)、野生型GUSを含む融合タンパク質を使用した場合の吸光度変化量は0.0188 (min-1)であった。これらの値、反応生成物であるp-ニトロフェノールのモル吸光係数(18.3 mM-1cm-1)、及びタンパク質重量などから、ランベルト・ベール法に従って、両融合タンパク質の比活性を算出した。野生型GUSを含む融合タンパク質の比活性は0.55 μmolmin-1mg-1であったのに対し、GUS変異体を含む融合タンパク質の比活性は0.043 μmolmin-1mg-1であり、野生型GUSを含む融合タンパク質の1/13程度の活性を維持していた。
前述したOS-ECIA法などの欠損変異体を用いる方法では、変異体の酵素活性が野生型に比べて著しく低下してしまう問題が指摘されていた。例えば、非特許文献1(T. Yokozeki, H. Ueda, R. Arai, W. Mahoney and T. Nagamune. Anal. Chem. 74, 2500-2504 (2002))には、変異体の活性が野生型の活性の最大でも6.0×10-3倍(0.6%)に低下してしまうことが記載されており、また、Mohler WA, Blau HM (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 12423-12427には、細胞内での活性を比較して、変異体は野生型に比べ25-200倍弱いと記載されている。
このような従来法における変異体の活性の低さを考慮すれば、GUS変異体を含む融合タンパク質が示した上述の活性は非常に高いものである。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明は、疾患の診断、食品検査、環境分析などに有用なので、これらに関する産業分野において利用可能である。

Claims (5)

  1. βグルクロニダーゼの変異体、この酵素の変異体と結合するリンカーペプチド、及びこのリンカーペプチドと結合する抗体のVH領域又はVL領域を含む融合タンパク質であって、前記βグルクロニダーゼの変異体が、大腸菌βグルクロニダーゼのアミノ酸配列における516番目のメチオニンがリジンに置換され、517番目のチロシンがグルタミン酸に置換された変異体であることを特徴とする融合タンパク質。
  2. 融合タンパク質中に、1又は2個のβグルクロニダーゼの変異体が含まれることを特徴とする請求項1に記載の融合タンパク質。
  3. 請求項1又は2に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする核酸。
  4. 試料中の抗原を検出する方法であって、試料を、抗体のVH領域を含む請求項1又は2に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む請求項1又は2に記載の融合タンパク質と接触させる工程、並びに多量体の形成を酵素活性の変化により検出する工程を有することを特徴とする抗原の検出方法。
  5. 抗体のVH領域を含む請求項1又は2に記載の融合タンパク質及び抗体のVL領域を含む請求項1又は2に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする抗原検出キット。
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