以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
図1乃至図5に、本発明の地中探査方法,地中探査装置,及び地中探査プログラム、並びに、地中探査データの表示方法の実施形態の一例を示す。本実施形態では、本発明が、地中レーダによる計測によって取得されるデータに基づく、例えば水力発電所の水路トンネルのアーチ部における覆工コンクリートの背面の探査(具体的には例えば、地中の空洞の探査)に適用される場合を例に挙げて説明する。
本実施形態の地中探査方法は、探査対象範囲内の複数の計測点のそれぞれにおいて電磁波を地中へと送出すると共に電磁波の反射波を連続して受信することによって計測点別に往復走時別の反射波信号強度のデータを取得し(S1)、当該計測点別の往復走時毎の反射波信号強度のデータを用いて往復走時別に複数の計測点の反射波信号強度のデータの集合を生成し(S2−1)、当該往復走時別の反射波信号強度のデータの集合を用いて往復走時別に反射波信号強度値の出現度合いの評価に関して出現度合いが低い反射波信号強度値を抽出し(S2−4)、当該評価/抽出の結果に基づいて計測点のそれぞれにおける地中の状況を判定するようにしている(図1参照)。
また、本実施形態の地中探査方法は、反射波信号強度値の出現度合いの評価として、クラスター分析によって基調的な反射波信号強度値のグループとその他の反射波信号強度値のグループとに分割する(S2−4)ようにしており、さらに、クラスター分析の結果である往復走時別の反射波信号強度の値に対応するクラスター番号の集まりとして構成される計測点別のデータの集合に対してクラスター分析を行い(S4)、各クラスターに含まれる計測点の連なりとして、地中の状況が他と比べて異質である区域を抽出するようにしている(図1参照)。
本実施形態の地中探査装置は、探査対象範囲内の複数の計測点のそれぞれにおいて電磁波を地中へと送出すると共に電磁波の反射波を連続して受信することによって計測点別に取得された往復走時別の反射波信号強度のデータを用いて往復走時別に複数の計測点の反射波信号強度のデータの集合を生成する手段と、往復走時別の反射波信号強度のデータの集合を用いて往復走時別に反射波信号強度値の出現度合いを評価する手段と、当該評価の結果を表示する手段とを有するようにしている。
また、本実施形態の地中探査装置は、反射波信号強度値の出現度合いの評価として、クラスター分析によって基調的な反射波信号強度値のグループとその他の反射波信号強度値のグループとに分割するようにしており、さらに、クラスター分析の結果である往復走時別の反射波信号強度の値に対応するクラスター番号の集まりとして構成される計測点別のデータの集合に対してクラスター分析を行う手段を有するようにしている。
また、本実施形態の地中探査データの表示方法は、複数の計測点のそれぞれにおいて電磁波を地中へと送出すると共に電磁波の反射波を連続して受信することによって計測点別に取得された往復走時別の反射波信号強度のデータが用いられて生成された往復走時別の複数の計測点の反射波信号強度のデータの集合における反射波信号強度値の出現度合いを評価することによって得られる計測点,往復走時,及び前記評価の結果の組み合わせデータを、計測点を列ね並べて展開する第一の軸と往復走時を列ね並べて展開する第二の軸とで区画される表示領域内の、第一の軸によって規定される計測点と第二の軸によって規定される往復走時との組み合わせに対応する位置に、当該組み合わせについての前記評価の結果によって色が異なるドットで表示するようにしている。
上記地中探査方法及び地中探査装置並びに地中探査データの表示方法は、地中探査プログラムがコンピュータ上で実行されることによっても実施・実現され得る。ここでは、地中探査プログラムがコンピュータ上で実行されることによって地中探査方法及び地中探査データの表示方法が実施されると共に地中探査装置が実現される場合を説明する。
本実施形態の地中探査プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、地中探査装置10でもある)の全体構成を図2に示す。
このコンピュータ10(地中探査装置10)は制御部11,記憶部12,入力部13,表示部14,及びメモリ15を備え、これらが相互にバス等の信号回線によって接続されている。
制御部11は、記憶部12に記憶されている地中探査プログラム17に従ってコンピュータ10全体の制御並びに地中探査のデータ処理に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
入力部13は、少なくとも作業者の命令や種々の情報を制御部11に与えるためのインターフェイス(即ち、情報入力の仕組み)であり、例えばキーボードやマウスである。なお、例えばキーボードとマウスとの両方のように複数種類のインターフェイスを入力部13として有するようにしても良い。
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形或いは画像等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
そして、コンピュータ10(以下、「地中探査装置10」と呼ぶ)の制御部11には、地中探査プログラム17が実行されることにより、探査対象範囲内の複数の計測点のそれぞれにおいて電磁波を地中へと送出すると共に電磁波の反射波を連続して受信することによって計測点別に取得された往復走時別の反射波信号強度のデータを用いて往復走時別に複数の計測点の反射波信号強度のデータの集合を生成する処理を行う往復走時集合生成部11aと、往復走時別の反射波信号強度のデータの集合を用いて往復走時別に反射波信号強度値の出現度合いを評価する処理に関係する頻度分布作成部11b,確率密度計算部11c,及び往復走時分析部11dと、前記評価の結果を表示部14に表示する処理を行う分析結果表示部11eとが構成される。
また、本実施形態の地中探査装置10は、往復走時分析部11dが反射波信号強度値の出現度合いの評価としてクラスター分析によって基調的な反射波信号強度値のグループとその他の反射波信号強度値のグループとに分割するようにしており、さらに、制御部11に、クラスター分析の結果である往復走時別の反射波信号強度の値に対応するクラスター番号の集まりとして構成される計測点別のデータの集合に対してクラスター分析を行う計測点分析部11fが構成される。
ここで、本発明では、地中探査に係る計測を行う仕組みとして、地中レーダが用いられる。
地中レーダは、電磁波を地中へと送出する(言い換えると、照射する)と共に前記電磁波の反射波を受信して受信信号を出力するものである。なお、地中レーダ自体は周知の技術であるので(例えば、物理探査学会「物理探査ハンドブック」,1998年)、ここでは詳細については省略する。
本発明では、地中レーダの構成は、電磁波を送出すると共に受信までの経過時間別の反射波の振幅を観測することができるものであれば、特定のものには限定されない。したがって、以下に説明する地中レーダの構成は、本発明において用いられ得る地中レーダの構成のあくまでも一例である。
本実施形態の地中レーダは、地中に向けて電磁波を送出する電磁波送信部と送出された前記電磁波の反射波を受信する電磁波受信部とを有すると共に、信号処理部,記憶部,表示部,及び距離計を備える。
なお、地中レーダは、適宜、上記の各部を一纏めに寄せ集めて括るためのフレームを有するように構成されるようにしても良い。地中レーダは、また、適宜、各部を纏める前記フレーム全体の移動操作を可能にするための車輪が取り付けられると共に、ハンドルが備えられて人手によって移動させられるようにしても良く、若しくは、駆動装置によって牽引されて移動させられるようにしても良い。
電磁波送信部は、送信波としての電磁波を送出するものである。電磁波送信部は、電磁波を発生させる電磁波発生手段と、当該電磁波発生手段によって発生させられた電磁波の出力を増幅させる送信波アンプと、当該送信波アンプによって増幅された電磁波を地中に向けて送出する(言い換えると、照射する)送信アンテナとを備える。
電磁波受信部は、電磁波送信部によって送出された送信波としての電磁波(の一部)が地中で反射した受信波としての電磁波を受信するものである。電磁波受信部は、地中からの反射波である受信波としての電磁波を受信する受信アンテナと、当該受信アンテナによって受信した電磁波の出力を増幅させる受信波アンプとを備える。
距離計は、地中レーダ(特に、送信アンテナ及び受信アンテナ)の移動距離を計測するものである。距離計によって計測される距離に基づいて、計測点の水路トンネルにおける位置が特定され、延いては各計測データが取得された実際の位置、即ち計測点の実際の位置が特定される。
距離計の具体的な構成は、特定の構成に限定されるものではなく、あくまで一例として挙げると、地中レーダに取り付けられた車輪の回転数を読み取って移動距離を計算する機序が用いられ得る。距離計は、また、計算した移動距離のデータを記憶部に対して出力する。
信号処理部は、受信波アンプから出力される信号を処理し、反射波である受信波の振幅(「反射波信号強度」と呼ぶ)を記憶部に対して出力する。
記憶部は、反射波信号強度を記録するものである。記憶部は、特定の態様に限定されるものではなく、例えば、内蔵型の記憶領域(具体的には例えば、RAM(Random Access Memory の略))を有すると共に外部出力用のポートを備えるものとして構成されるようにしても良く、或いは、着脱自在の記憶媒体によって構成されるようにしても良い。
そして、信号処理部から順次出力される反射波信号強度は、反射波である受信波が受信された際に距離計から出力された地中レーダの移動距離のデータと関連づけられて、言い換えると移動距離の値と反射波信号強度の値との組み合わせデータとして記憶部に順次記録される。
表示部は、地中レーダによる計測が順調に行われているか否かを作業者が確認できるように、電磁波受信部によって受信された反射波である受信波としての電磁波の状況として反射波信号強度を表示する。なお、本発明において、地中レーダに備えられる表示部に表示される内容は特定の項目・情報に限定されるものではなく、さらに言えば、表示部が地中レーダに備えられることは必須の構成ではない。
以下に、地中レーダを用いた地中探査に関係する地中レーダの原理の概要を説明する(図3参照)。ここで、本発明が前提とする、言い換えると、本発明が利用する地中レーダ探査は、電磁波を地中へと照射して得られた地中からの反射波のパターンに基づいて地中の状況の探査を行う物理探査法の一種である(例えば、物理探査学会「物理探査ハンドブック」,1998年)。
比誘電率(即ち、媒質の誘電率と真空の誘電率との比)などの電気的定数が異なる媒質の境界面では、電磁波は反射を受ける。電磁波が誘電率ε1の媒質(媒体1)から誘電率ε2の媒質(媒体2)へと垂直に入射した場合、境界面における反射係数k(即ち、入射波振幅に対する反射波振幅の比)は数式1で表される。
数式1に示されるように、反射波の振幅の大きさは媒質間の誘電率の違いによって決定づけられる。ただし、数式1は、媒質は誘電性であるとして導電率σを無視し(即ち、σ=0)、また、透磁率μは真空の透磁率μ0に等しい(即ち、μ=μ0)とした場合のものである。
また、数式1から明らかなように、誘電率が大きな物質と小さな物質と(具体的には、ε1>ε2)の境界面では、反射係数kは正の値になり、反射波は正極性となる。逆の場合(具体的には、ε1<ε2)は、反射波は負極性となる。
そして、理論的には、反射波の極性,振幅の大きさ,及び一方の物質(媒体)の誘電率から、他方の物質(媒体)の誘電率を推定することが可能である。
地中レーダは、本実施形態では水路トンネルのアーチ部における覆工コンクリートの背面の探査を行うため、覆工表面に送信アンテナ及び受信アンテナを接触させた状態で電磁波送信部によって送信アンテナを介して地中に向けて電磁波パルスを送出する(言い換えると、照射する)と共に当該送信アンテナから送出された電磁波パルスの反射波を受信アンテナを介して電磁波受信部によって受信し、反射波信号強度(即ち、反射波の振幅)を記憶部に記録する。このとき、当該の反射波信号強度が取得された計測点に係る移動距離のデータが当該の反射波信号強度と関連づけられて記憶部に記録される。
なお、計測された反射波のうち、負極性(即ち、上述の数式1で、反射係数kが負の値である場合)の反射波信号強度は、計測された振幅に−1を乗じて負の値として記録される。
送信アンテナから照射された電磁波(即ち、送信波としての電磁波であり、図3では「入射波」)は、地中を伝搬し、電気的定数が異なる媒質の境界面で反射を受ける。境界面で反射した電磁波(図3では「反射波」)は受信波として受信アンテナによって受信される。また、境界面を通過した電磁波(図3では「透過波」)は地中を更に伝搬し、他の境界面が存在する場合に境界面毎に反射及び通過を繰り返す。
そして、送信アンテナ及び受信アンテナが移動しながら計測が行われることにより、探査対象範囲内の複数の計測点におけるデータが取得される。このとき、探査対象範囲内において、直線上の所定間隔の各点を計測点としてこれら計測点毎のデータが取得されるようにしても良く、或いは、格子の各交点を計測点としてこれら計測点毎のデータが取得されるようにしても良い。
本実施形態では、送信アンテナ及び受信アンテナが水路トンネルの縦断方向に移動しながら計測が行われることにより、水路トンネルの縦断方向に連なる複数の計測点におけるデータが取得される。
ここで、地中レーダは、各計測点において送信波としての電磁波を送出し、各計測点のそれぞれにおいて所定の時間に亙って所定の間隔で反射波(電磁波)を受信し、反射波信号強度(即ち、反射波の振幅)の値を記録する。
反射波は、当該反射波としての電磁波が反射した境界面の、送信アンテナ及び受信アンテナからの距離(図3では、送信アンテナ及び受信アンテナと境界面との間の層の厚さD)により、受信アンテナによって受信されるまでの経過時間が異なる。
また、地中深さ方向に複数の境界面が存在している場合には、複数の反射波受信時間のそれぞれでの反射波信号強度が変動することになる。
なお、電磁波が送信アンテナから地中へと照射されてから地中の境界面で反射した電磁波の反射波が受信アンテナで受信されるまでの経過時間のことを「往復走時」と呼ぶ。
したがって、地中レーダが用いられて計測が行われることにより、探査対象範囲の計測点毎に、往復走時別(即ち、反射波受信時間別)の反射波信号強度のデータが取得される。取得されたデータは、記憶部に記録される。
以下の説明では、探査対象範囲における各計測点を個別に識別するために符号Pm(但し、添字mは計測点番号であり、m=1,2,3,…)を用いると共に各往復走時を個別に識別するために符号Tn(但し、添字nは受信順序であり、n=1,2,3,…)を用い、計測点Pmでの往復走時Tnにおける反射波信号強度の値をSm,nと表す。
そして、地中探査方法の実施の手順として、本実施形態では、大まかに、地中レーダによる計測を行う処理(S1)と、往復走時毎の反射波信号強度値の出現度合いの評価に関連する処理(S2及びS3)と、計測点毎の計測データのクラスター分析を行う処理(S4)とを有するようにしている。
具体的には、まず、地中レーダによる計測を行う(S1)。
本実施形態では水路トンネルの覆工コンクリートの背面探査を対象としており、S1の処理としては、地中レーダが用いられて、水路トンネルの探査対象範囲において縦断方向に連なる複数の計測点で計測が行われる。
本発明における、電磁波の送受信を行う計測点の間隔、つまり、相互に隣り合う計測点Pmと計測点Pm+1との間の距離(「計測点間隔」と呼ぶ)は、特定の距離に限定されるものではなく、例えば探査対象(具体的には例えば、地中の空洞)として想定する寸法や必要とされる探査精度(言い換えると、検出の解像度)などが考慮された上で適当な値に適宜設定される。計測点間隔は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、1〜10 cm 程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
また、本発明における、反射波の受信の間隔、つまり、相互に前後する往復走時Tnと往復走時Tn+1との時間差(「受信時間間隔」と呼ぶ;往復走時のピッチになる)は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば探査対象(具体的には例えば、地中の空洞)として想定する寸法や必要とされる探査精度(言い換えると、検出の解像度)や計測に用いられる地中レーダの性能などが考慮された上で適当な値に適宜設定される。受信時間間隔は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、0.1〜0.3 ns 程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
ここで、S1以降の処理の説明での「往復走時別」や「往復走時毎」における「往復走時」は、地中レーダから出力される生データにおける往復走時がそのまま用いられて規定される往復走時でも良く、或いは、地中レーダから出力される生データにおける往復走時が複数括られて規定される往復走時でも良い。この点において、S1以降の処理の説明での「往復走時別」や「往復走時毎」における「往復走時」は、地中レーダから出力される生データにおける往復走時が使用されて定められる時間単位という意味合いである。
なお、アンテナのあたり方などに起因する計測誤差や、或る往復走時までの電磁波が通る経路の差に起因する異なる物質の存在やコンクリートの比誘電率の差により、同じ往復走時のデータが同じ深さからの反射波に厳密には対応していないことも考えられる。そこで、隣り合う複数の往復走時が括られて一つのデータとして用いられることにより、同じ深さからの反射波が隣り合う往復走時のデータとして記録されるような状況に対処することができる。ただし、隣り合う複数の往復走時を括る幅を広く取り過ぎると、そもそも全然違う性質の反射波を同じ集合として扱うことになるので、注意が必要である。なお、浅めの位置に対応する往復走時の範囲では括りの幅を小さくする一方で深い位置に対応する往復走時の範囲では括りの幅を大きくするなどのように、往復走時の範囲によって幅を変えてもいい。また、或る深さで覆工が終了するなどの外部知識を利用して所定の往復走時を括ることが妥当な場合も考えられる。
また、往復走時の最大値によって規定される計測点毎の総計測時間も、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば必要とされる探査深度や計測に用いられる地中レーダの性能などが考慮された上で適当な値に適宜設定される。計測点毎の総計測時間は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、20〜60 ns 程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
また、本発明における、地中レーダの使用周波数帯(即ち、アンテナ周波数)は、特定の周波数に限定されるものではなく、例えば探査深度や必要とされる探査精度(言い換えると、検出の解像度)などが考慮された上で適当な値に適宜設定される。地中レーダの使用周波数は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、500〜800 MHz 程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
本実施形態では、計測が行われた後に、地中レーダの記憶部に記録された移動距離の値,往復走時Tn,及び反射波信号強度の値Sm,nの組み合わせデータが記憶媒体を介して地中探査装置10へと入力され、メモリ15に記憶される。
なお、各組み合わせデータの移動距離の値の大小と異同とにより、各組み合わせデータに対し、当該の組み合わせデータが計測された計測点を個別に識別するための計測点番号m(但し、m=1,2,3,…)が付与される。各組み合わせデータに対して付与された計測点番号mもメモリ15に記憶される。
次に、往復走時別の反射波信号強度値の出現度合いの評価を行う(S2)。
S2の処理では、データの集合における各データの値の出現度合い(言い換えると、出現のし易さ)が評価される。出現度合い(出現のし易さ)の評価の仕方は、特定の手法や指標に限定されるものではなく、データの集合に含まれる各データの値の相対的な出現度合い(出現のし易さ)を評価し得るものが適宜選択されて用いられる。
本実施形態では、反射波信号強度値それぞれの出現度合い(出現のし易さ)を評価するために反射波信号強度値毎の出現確率密度が計算されてその出現確率密度の値が用いられる。
なお、反射波信号強度値それぞれの出現度合い(出現のし易さ)を評価する他の方法としては、例えば、反射波信号強度値毎の出現頻度が整理されてその出現頻度が用いられることが考えられる。
従来は、地中レーダによる計測によって取得される反射波信号強度のデータについて、通常発生する反射波信号を除去することでそれらの信号に埋もれた変化(言い換えると、特異な反射波信号)を強調する目的で、各計測点の計測値から他の計測点の計測値を減ずる分析が行われている。具体的には、空洞や鉄筋が存在しない通常と見做せる計測点の計測信号を全ての計測点の計測データから除去する処理(例えば、平均値処理,減算処理など)が行われている。
一方、本発明者は、或る水路トンネルの多数の地点において電磁波の送出及び反射波の受信を行うことによって取得された地点毎の往復走時別(即ち、反射波受信時間別)の反射波信号強度のデータを分析し、往復走時によって反射波信号強度値の確率密度分布が大きく異なること、及び、往復走時毎の反射波信号強度値の確率密度分布の態様について大半が含まれる基調的な分布の他に特異な分布が見られる場合があることを見出した。
この結果から、従来のような単なる平均値処理などでは、計測によって取得された反射波信号強度のデータを往復走時別に分解するという見地がなく、往復走時によって異なる分布(言い換えると、傾向)を有する集合における珍しい値(即ち、集合全体の基調的な傾向から外れる値であり、地中の状況として出現度数が相対的に低く他の場所と比べて異質であることを表す特異な値)を的確に捉えることはできないと考えられる。
そこで、本発明では、往復走時によって多様に変化する反射波信号強度値の分布を柔軟に扱い、往復走時別の反射波信号強度値の分布における珍しい値(言い換えると、集合全体の基調的な分布に対して特異な値であり、集合全体における出現度合いが相対的に低い値)を抽出することにより、例えば空洞,滞水,鉄筋などが存在するなどの理由によって地中の状況が他の場所と比べて異質であって、通常と異なる(言い換えると、出現度数が相対的に低い)状況である計測点を探り当てるようにしている。加えて、そのような珍しい値(特異な値,出現度合いが相対的に低い値)が出現する往復走時に対応する深さに、その珍しい値が出現する原因が、すなわち、他の場所と比べて異質な部分が存在していることが分かる。
上述のことも踏まえ、本発明では、探査対象範囲内の複数の計測点の計測データ(即ち、反射波信号強度のデータ)を対象とし、往復走時毎に、当該の往復走時に関する反射波信号強度のデータの集合において珍しい値(言い換えると、集合全体の基調的な傾向から外れる特異な値であり、集合全体における出現度合いが相対的に低い値)が抽出される。
本実施形態では具体的には、反射波信号強度に関するデータの集合における、集合全体の基調的な傾向から外れている特異な値が以下の手順で抽出される。
まず、制御部11の往復走時集合生成部11aにより、S1の処理においてメモリ15に記憶された、移動距離の値,往復走時Tn,及び反射波信号強度の値Sm,nの組み合わせデータ、並びに、各組み合わせデータに対して付与された計測点番号mが読み込まれる。
そして、往復走時集合生成部11aにより、探査対象範囲内の全ての計測点Pmの計測データの集合から同一の往復走時Tnの反射波信号強度の値Sm,nが選び出されて集められ、往復走時Tn別に、反射波信号強度の値Sm,nの集合が生成される(S2−1)。
なお、S1の処理において計測されて取得された計測点別の反射波信号強度のデータのうちの一部のみがS2以降の処理で用いられるようにしても良い。例えば、地中の状況や探査の必要性などに関する外部知識(関連情報)に基づいて、S2以降の処理の対象から一定の領域に関する反射波信号強度のデータが除外されるようにしても良い。
続いて、制御部11の頻度分布作成部11bにより、S2−1の処理で生成された往復走時Tn別の反射波信号強度の値Sm,nの集合のそれぞれについて、つまり往復走時Tn別に、反射波信号強度値の頻度分布のデータが作成される(S2−2)。
さらに、制御部11の確率密度計算部11cにより、S2−2の処理で作成された往復走時Tn別の反射波信号強度値の頻度分布のデータが用いられ、往復走時Tn別に、反射波信号強度値の出現確率密度が計算される(S2−3)。すなわち、反射波信号強度値の出現確率密度は、往復走時Tn毎の集合のそれぞれにおける、当該の反射波信号強度値が観測される度合いとして算定される。
そして、確率密度計算部11cにより、往復走時Tn,反射波信号強度値,及び出現確率密度の値の組み合わせデータがメモリ15に記憶させられる。
続いて、往復走時別の計測データにおける出現度合いが低い反射波信号強度値の抽出が行われる(S2−4)。
本発明では、上述の通り、往復走時別の反射波信号強度のデータの集合における珍しい値(言い換えると、集合全体の基調的な傾向に対して特異な値であり、集合全体における出現度合いが相対的に低い値)を抽出することにより、通常と異なる(言い換えると、出現度数が相対的に低い)状況である計測点を探り当てるようにしている。
データの集合における珍しい値(特異な値,出現度合いが相対的に低い値)を取り出す手法としてクラスター分析が挙げられる。クラスター分析は、統計的データ解析手法の一つであり、与えられたデータ集合を似た性質の集まり(「クラスター」と呼ばれる)に分割する手法である。
そこで、本実施形態では、S2の処理において往復走時Tn別に作成された反射波信号強度値と出現確率密度の値との組み合わせデータを用いてクラスター分析を行い、往復走時Tn別の反射波信号強度のデータの集合それぞれをいくつかの纏まりに分割する。
なお、往復走時Tn別の反射波信号強度のデータの集合それぞれにおける出現度合いが相対的に低い値を抽出する他の方法としては、例えば、反射波信号強度値毎の出現頻度の値や出現確率密度の値がそのまま用いられてこれら出現頻度若しくは出現確率密度の値が所定の境界値(言い換えると、閾値)を下回る場合にはその出現頻度若しくは出現確率密度の値に対応する反射波信号強度値は出現度合いが低いとして抽出されることが考えられる。
反射波信号強度値の出現度合いの評価に係る出現度合いが低い反射波信号強度値の抽出において適用されるクラスター分析は、特段の制限はないものの、具体的には例えば、分析対象が一次元の連続値データである場合の方法として例えばカラー画像のモノクロ化の際に利用される閾値によるクラスター分析が適用され得る。
閾値によるクラスター分析は多数提案されており(例えば、Mehmet Sezinほか「Survey over image thresholding techniques and quantitative performance evaluation」,Journal of Electronic Imaging,Vol.13,Issue 1,pp.146−168,2004年)、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、モード法の応用が考えられる。
モード法では、具体的には、以下の手順で分割点を探す(図4参照)。
<ステップ1(Step1)>
反射波信号強度値の確率密度分布の最大密度Ymaxを求め、当該最大密度Ymaxに対応する反射波信号強度の値をXmaxとする。
<ステップ2(Step2)>
Xmaxの右側(即ち、強度が大きい側)にある点を最大密度の降順に並べ、順番に以下のア乃至ウの手順を実施して条件を満たす分割点を探す。
ア)i番目の点の反射波信号強度の値をX(i)とすると共に、その点の確率密度の値をY(i)とする。
イ)XmaxとX(i)との間にある最小密度の点の反射波信号強度の値をXmin(i)とすると共に、その点の確率密度の値をYmin(i)とする。
ウ)Ymax,Y(i),Ymin(i)が、分割したい珍しい値(特異な値)の纏まりを見出す条件としての以下の分割点の条件を満たすか否か判定する。
《分割点の条件》
〔条件1〕Y(i)がYmaxのα倍よりも小さいこと。すなわち、αYmax>Y(i)であること。ただし、1>α>0である。
〔条件2〕Ymin(i)がY(i)のβ倍よりも小さいこと。すなわち、βY(i)>Ymin(i)であること。ただし、1>β>0である。
上記の分割点の条件におけるパラメータであるα,βは、特定の値に限定されるものではなく、例えばクラスター分析において一般的に採用されている値や事前の分析の結果などが考慮された上で適当な値に適宜設定される。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、αの値は0.05〜0.3程度の範囲のうちのいずれかの値に設定され、βの値は0.7〜0.95程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
ステップ3)上記の分割点の条件を満たしたXmin(i)を分割点とする。
ステップ4)上記の<ステップ2>及び<ステップ3>をXmaxの左側(即ち、強度が小さい側)の点に関して実行する。
なお、分割数(つまり、クラスター数)は、特定の数に限定されるものではなく、例えば分布の態様(具体的には、反射波信号強度の値と確率密度の値との組み合わせデータの集合を、横軸が反射波信号強度であると共に縦軸が確率密度である二次元平面に表示したときの分布の形状)などが考慮された上で適当な任意の数に適宜設定される。分割数(クラスター数)は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、中央の大きな山の左側(即ち、強度が小さい側)の纏まりと右側(即ち、強度が大きい側)の纏まりとをそれぞれクラスターとして分割することとし、最大で3に設定されることが考えられる。
また、往復走時別のデータの集合には、地中の状況として例えば空洞及び滞水などのように複数の要因のそれぞれに対応する信号が混在している場合も有り得る。そのような場合も想定すると、分割数(クラスター数)は4以上に設定されることが妥当であるという考え方もある。
なお、条件に該当する分割点が存在しない場合には分割は行われない。したがって、分割が全く行われない場合もある。
本実施形態では、制御部11の往復走時分析部11dにより、S2の処理においてメモリ15に記憶された往復走時Tn,反射波信号強度値,及び出現確率密度の値の組み合わせデータが読み込まれ、モード法により、往復走時Tn別に、反射波信号強度のデータの集合に対してクラスター分析が行われる。
そして、往復走時分析部11dにより、往復走時Tn,反射波信号強度値,及びクラスター番号の組み合わせデータがメモリ15に記憶させられる。
分割数(クラスター数)が最大で3に設定された場合のクラスター分析の結果の一例を図5に示す。図5に示す例は、地中レーダによる計測によって取得された反射波信号強度のデータのうちの特定の往復走時Tnにおける反射波信号強度のデータの集合に対するクラスター分析の結果である。
図5に示す例では、含まれるデータ数が最も多い山(即ち、クラスター)に含まれるデータにクラスター番号として0(ゼロ)が与えられ、その右側(即ち、強度が大きい側)の山に含まれるデータにクラスター番号として1が与えられ、さらに、左側(即ち、強度が小さい側)の山に含まれるデータにクラスター番号として−1が与えられる。そして、クラスター番号が0のデータが白色で表示され、クラスター番号が1のデータが灰色で表示され、さらに、クラスター番号が−1のデータが黒色で表示されている。なお、図5では、確率密度が0.00015以下の部分のみを表示している。
そして、クラスター番号として0が与えられた反射波信号強度は探査対象範囲における基調的な傾向に当てはまる値であるので、地中の状況として出現度数が相対的に高く探査対象範囲における通常の状態に対応していると考えられる。
他方、クラスター番号として−1若しくは1が与えられた反射波信号強度は探査対象範囲における基調的な傾向から外れる値であるので、地中の状況として出現度数が相対的に低く探査対象範囲における通常とは異なる状態(言い換えると、異質な部分)に対応していると考えられる。
なお、クラスター分析の結果分割された各グループが基調的な反射波信号強度値のグループとその他の反射波信号強度値のグループ(言い換えると、特異的な反射波信号強度値のグループ)とのうちのどちらであるのかは、含まれるデータ数が最も多いクラスターが基調的なグループとされると共にその他のクラスターが特異的なグループとされる。
次に、往復走時別の反射波信号強度値の出現度合いの評価の結果の表示を行う(S3)。
本実施形態では、S2の処理において往復走時別の反射波信号強度値の出現度合いの評価として往復走時別の計測データのクラスター分析が行われるようにしているので、S3の処理として前記クラスター分析の結果の表示が行われる。
具体的には、制御部11の分析結果表示部11eにより、S1の処理においてメモリ15に記憶された移動距離の値,往復走時Tn,及び反射波信号強度の値Sm,n、並びに計測点番号mの組み合わせデータが読み込まれると共に、S2−4の処理においてメモリ15に記憶された往復走時Tn,反射波信号強度値,及びクラスター番号の組み合わせデータが読み込まれる。
そして、分析結果表示部11eにより、上記二つの組み合わせデータが突き合わせられ、各計測点Pmについて、往復走時Tnにおける反射波信号強度の値Sm,nがクラスター番号に変換される。これにより、計測点番号m,往復走時Tn,及びクラスター番号の組み合わせデータが作成される。
ここで、計測点Pmでの往復走時Tnにおける反射波信号強度の値Sm,nに対応するクラスター番号をCm,nと表す。
さらに、分析結果表示部11eにより、上記によって作成された計測点Pm別の往復走時Tn毎のクラスター番号Cm,nが表示部14に表示される。
ここで、本実施形態では、表示部14が、本発明に係る地中探査データの表示方法を実現する機器として機能する。ただし、本発明に係る地中探査データの表示方法を実現する機器の態様は、本実施形態のように地中探査のデータ処理に係る演算全般を行う地中探査装置10(言い換えると、コンピュータ10)の一部として構成されるようにしても良く、または、地中探査のデータ処理に係る演算を行う機能のうちの少なくとも一部を含むものとして構成されるようにしても良く、或いは、地中探査のデータ処理に係る演算を行う構成とは別体の装置(言い換えると、クラスター分析の結果の表示専用の装置)として構成されるようにしても良い。
本実施形態において地中探査データの表示方法を実現する機器としての表示部14には、計測点Pmがm=1から順に列ね並べられる横軸と往復走時Tnがn=1から順に列ね並べられる縦軸とによって区画される領域が表示区域として設けられる。なお、計測点Pmが縦軸に順に列ね並べられると共に往復走時Tnが横軸に順に列ね並べられるようにしても良い。
なお、横軸の目盛のラベルとして、計測点Pmの計測点番号mがそのまま表示されるようにしても良く、或いは、計測点Pmの実際の位置が分かり易いように、地中レーダに備えられた距離計によって計測された移動距離が表示されたり、計測点間隔に基づいて計算された計測点P1からの実距離が表示されたりするようにしても良い。
また、縦軸の目盛のラベルとして、往復走時Tnの受信順序nがそのまま表示されるようにしても良く、或いは、受信時間間隔に基づいて計算された実時間(即ち、往復走時)が表示されるようにしても良い。
そして、上記横軸と縦軸とによって区画される表示区域内の、横軸に割り当てられた計測点番号mと縦軸に割り当てられた受信順序nとが交差する位置に、当該の計測点番号mと受信順序nとの組み合わせに対応するクラスター番号Cm,nに割り当てられた色のドットが配置される(言い換えると、表示される)。
これにより、計測点Pm,往復走時Tn,及びクラスター番号Cm,nの組み合わせデータが、計測点番号(計測点Pm)を規定する横軸と受信順序(往復走時Tn)を規定する縦軸とによって区画される表示区域内にプロット表示される。
なお、本実施形態では、S2−4の処理におけるクラスター分析での分割数(クラスター数)が最大で3に設定されているのでクラスター番号は三種類(具体的には、0,1,−1)であるところ、これら三種類のクラスター番号が全て異なる色(つまり三色)で表示されるようにしても良く、或いは、クラスター番号0とクラスター番号1及び−1とが異なる色(つまり二色)で表示されるようにしても良い。すなわち、探査対象範囲における基調的な傾向に当てはまる反射波信号強度と基調的な傾向よりも強度が小さい側において特異な反射波信号強度と基調的な傾向よりも強度が大きい側において特異な反射波信号強度とが全て異なる色で表示されて区別されるようにしても良く、或いは、探査対象範囲における基調的な傾向に当てはまる反射波信号強度と基調的な傾向よりも強度が小さい側において特異な反射波信号強度及び基調的な傾向よりも強度が大きい側において特異な反射波信号強度とが異なる色で表示されて区別されるようにしても良い。
ここで、本実施形態では、クラスター分析の結果としてのグループへの分割結果が色が異なるドットで表示されるようにしているが、グループへの分割結果が形状が異なる印(しかも、無印を含む)で表示されるようにしても良い。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、○,無印,及び●の三種類の印(無印を含む)で表示されるようにしたり、×,−,及び●の三種類の印で表示されるようにしたりしても良い。
上述のように計測点番号(計測点Pm)を規定する横軸と受信順序(往復走時Tn)を規定する縦軸とによって区画される表示区域内にクラスター番号Cm,nに対応させて色分けされたドットが表示されることにより、地中の状況を、即ち探査対象範囲における地中の異質部分を、地中レーダの送受信波の方向における実際の断面のイメージとして確認することができる。そして、クラスター番号Cm,nのドットが表示されている横軸を確認することによって探査対象範囲における位置が特定され、また、縦軸を確認することによって地中の深度が特定される(尚、地中を伝搬する電磁波の速度を用いて往復走時Tnを距離(深度)に換算するため、深度を精確に特定するためには比誘電率の値が必要とされるものの、例えば事例などに基づく想定値を用いるなどによって深度の目安は特定され得る)。
また、本実施形態では、分析結果表示部11eにより、計測点番号m,往復走時Tn,及びクラスター番号Cm,nの組み合わせデータがメモリ15に記憶させられる。
次に、計測点毎のデータのクラスター分析を行う(S4)。
S2−4の処理において往復走時別の計測データのクラスター分析が行われることにより、各計測点の計測値(即ち、反射波信号強度)は、当該計測点において計測が行われた往復走時数分の分析結果の値(具体的には、クラスター番号)のベクトルに変換される。この計測点別の往復走時毎のベクトルデータ(言い換えると、クラスター表現されたデータ)が用いられてクラスター分析が行われる。
具体的には、制御部11の計測点分析部11fにより、S3の処理においてメモリ15に記憶された計測点番号m,往復走時Tn,及びクラスター番号Cm,nの組み合わせデータが読み込まれる。
そして、往復走時Tn毎のクラスター番号Cm,nを計測点Pmの属性として、これら計測点Pmの集合に対してクラスター分析が行われる。
計測点Pmの集合に対してクラスター分析が行われることにより、各計測点Pmが当該計測点に纏わる特質(言い換えると、異質さを特徴づける要因)に基づいてグループに分割され、結果として、探査対象範囲が例えば鉄筋区間,崩積土区間,空洞区間など同じような特徴を持つ纏まり(言い換えると、領域)に分割される。
計測点毎のデータのクラスター分析の結果は、表示部14に表示されているS3の処理の結果に重ねて表示されるようにしても良い。具体的には、表示領域を区画する横軸によって表されている計測点番号m(又は、距離)に対応して、クラスター分析によって分割された領域の範囲を表す矢印や楕円などが表示されるようにしても良い。
さらに、例えば鉄筋構造や崩積土などの構造毎の異質区間の表示パターン(言い換えると、クラスター分析の結果としてのベクトルデータの出現パターン)に関するデータを蓄積することにより、異質区間の表示パターンから地中の具体的な状況の推定を行うことも可能である。この場合、S4の処理として行われる計測点毎のデータのクラスター分析によって分割された領域毎に地中の具体的な状況が推定されるようにすることが可能である。
そして、制御部11は、S1の処理においてメモリ15に記憶された計測データに関する処理を終了する。
以上のように構成された地中探査方法,地中探査装置,及び地中探査プログラムによれば、専門技術者の経験やノウハウに依存することなく、また、使用される地中レーダや探査・探知対象物(上述の実施形態では具体的には、覆工を含む水路トンネル)に関する専門的な知識が必要とされることなく、計測データの処理を行うことができる。このため、経験やノウハウに影響されずに均質化された結果を出力することが可能であり、延いては、地中探査手法としての信頼性の向上が可能になる。
以上のように構成された地中探査方法,地中探査装置,及び地中探査プログラムによれば、また、往復走時別の計測データの集合を生成した上で、当該往復走時別の集合において基調的な傾向から外れる特異な計測データを抽出するようにしているので、探査・探知対象物がどのような構造(上述の実施形態における水路トンネルの覆工については具体的には例えば、鉄筋構造や鋼鈑内巻構造など)であったとしても、また、複数の構造が混在していても、探査対象範囲に関して取得された全てのデータを一括で処理・分析して異質地点(言い換えると、地中の異質部分)を抽出することができる。このため、地中探査の計測データの処理にかかる手間を低減させると共に時間を短縮することが可能であり、また、計測データの処理を自動化することも可能であり、延いては、地中探査手法としての汎用性の向上が可能になる。
また、以上のように構成された地中探査データの表示方法によれば、地中の異質部分を実際的な断面として表示することができる。このため、注意が必要な箇所を容易に識別することが可能であり、延いては、地中探査手法としての有用性の向上が可能になる。
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
例えば、上述の実施形態では本発明が水路トンネルの覆工コンクリートの背面の探査に適用される場合を例に挙げて説明したが、本発明が適用され得る探査対象は水路トンネルに限定されるものではなく、本発明は多様な状況における地中の探査に広く適用され得る。
また、上述の実施形態では往復走時別の反射波信号強度のデータの集合における珍しい値(特異な値)を取り出す手法としてクラスター分析が用いられる(S2−4の処理を参照)ようにしているが、計測データの集合における珍しい値(特異な値)を取り出す手法、言い換えると、計測データの集合を当該集合全体の基調的な値のグループと当該集合全体の基調的な傾向から外れる値のグループ(特異的な値のグループ)とに分割する手法はクラスター分析に限定されるものではなく、他の手法が用いられるようにしても良い。さらに言えば、上述の実施形態におけるS2の処理としては、往復走時Tn別に反射波信号強度値の出現度合い(特に、出現度合いが相対的に低いこと)が評価できれば良い。したがって、例えば、S2−2の処理の結果として作成される反射波信号強度値の頻度分布が用いられて、閾値が設定されるなどして、出現度合いが低い反射波信号強度値が特定される、言い換えると、出現度合いが高いグループ(基調的な値のグループ)と出現度合いが低いグループ(特異的な値のグループ)とに分割されるようにしても良い。あるいは、S2−3の処理の結果として計算される反射波信号強度値の出現確率密度が用いられて、閾値が設定されるなどして、出現度合いが低い反射波信号強度値が特定される、言い換えると、出現度合いが高いグループ(基調的な値のグループ)と出現度合いが低いグループ(特異的な値のグループ)とに分割されるようにしても良い。この場合には、上述の実施形態におけるS3の処理としては、計測点Pmでの往復走時Tnにおける反射波信号強度の値Sm,nに対応する出現頻度の値が特定された上で計測点Pm別の往復走時Tn毎の出現頻度の値が表示部14に表示されたり、計測点Pmでの往復走時Tnにおける反射波信号強度の値Sm,nに対応する出現確率密度の値が特定された上で計測点Pm別の往復走時Tn毎の出現確率密度の値が表示部14に表示されたりする。
また、上述の実施形態では往復走時別の反射波信号強度値の出現度合いの評価の結果の表示として往復走時別の計測データのクラスター分析の結果の表示が行われる(S3)ようにしているが、反射波信号強度値の出現度合いの評価の結果/クラスター分析の結果が表示されることは本発明において必須の処理ではない。すなわち、上述の実施形態におけるS3の処理は往復走時別の計測データ(即ち、反射波信号強度のデータ)のクラスター分析の結果の利用の仕方の一例であり、往復走時別の計測データのクラスター分析の結果としての計測点番号m,往復走時Tn,及びクラスター番号Cm,nの組み合わせデータは他の態様で利用されるようにしても良い。
また、上述の実施形態では計測点毎のデータのクラスター分析が行われる(S4)ようにしているが、計測点毎のデータのクラスター分析(具体的には、往復走時Tn毎のクラスター番号Cm,nを計測点Pmの属性とした、これら計測点Pmの集合に対するクラスター分析)が行われることは本発明において必須の処理ではなく、計測点毎のデータのクラスター分析が行われないようにしても良い。
上述の実施形態におけるS3及びS4の処理は本発明において必須の処理ではないことに関連して付け加えると、本発明は、S2−4の処理の後に計測点番号m,往復走時Tn,及び反射波信号強度の値Sm,nの組み合わせデータと往復走時Tn,反射波信号強度値,及びクラスター番号(若しくは、出現頻度の値,出現確率密度の値)の組み合わせデータとが突き合わせられて計測点番号m,往復走時Tn,及びクラスター番号(若しくは、出現頻度の値,出現確率密度の値)の組み合わせデータが作成された上で当該組み合わせデータに基づいて異質な地点が抽出されるようにしても良い。この場合には、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、計測点番号m毎に、即ち計測点Pm毎に集合全体の基調的な傾向から外れていることに対応するクラスター番号(即ち、上述の実施形態では「1」及び「−1」)の個数が所定の個数よりも多い計測点Pmが異質な地点として抽出される(或いは、計測点Pm毎に所定の閾値よりも小さい出現頻度の値若しくは出現確率密度の値の個数が所定の個数より多い計測点Pmが異質な地点として抽出される)ようにすることが考えられる。また、この場合には、地中探査装置10は、分析結果表示部11eや計測点分析部11fの代わりに、集合全体の基調的な反射波信号強度値のグループとその他の反射波信号強度値のグループとへの分割の結果に基づいて計測点Pmのそれぞれにおける地中の状況を判定する手段(或いは、反射波信号強度値の出現度合いの評価の結果に基づいて計測点Pmのそれぞれにおける地中の状況を判定する手段)を有するものとして構成される。
上記も踏まえ、本発明の要点は、以下のように整理される。
i)探査対象の範囲における複数の計測点のそれぞれにおいて、電磁波の地中への送出を行うと共に当該電磁波の地中からの反射波を所定時間に亙って連続して受信する。
ii)各計測点別の往復走時毎の反射波信号強度のデータから往復走時別の反射波信号強度のデータの集合を生成する。
iii)往復走時別に、反射波信号強度のデータの集合について、当該集合全体における出現度合いが低い値、言い換えると、当該集合全体の基調的な傾向から外れる珍しい値(特異な値)を抽出する。
そして、上記要点に対応して本発明によれば以下の利点が発揮される。
まず、往復走時別に珍しい値(特異な値)を分析することにより、電磁波の減衰を考慮する必要がない。すなわち、受信される信号強度が減衰によって小さくなったとしても、全体的に小さくなった趨勢を包含する基調的な傾向から外れる珍しい値であると判定されれば、その反射波信号強度は特異な値として抽出される。一方、全体的に小さくなった趨勢を包含する基調的な傾向に対して珍しい値でないと判定されれば、その反射波信号強度は特異な値として抽出されない。同様に、従来手法では考慮する必要があった、電磁波の周波数による影響も、本発明では考慮する必要がない。
また、使用機器に依存することなく、言い換えると使用機器の種類に影響を受けることなく、分析を行うことができる。したがって、使用機器が変更されたり、異なる機器が使用されたりしても、そのような事情に影響を受けることなく分析を行うことができる。
また、計測場所の違いに影響を受けることなく分析を行うことができる。したがって、測定場所の状況に応じて適切な分析方法を選択したり試行錯誤によって適切なパラメータを決定したりするための経験やノウハウが必要とされることがなく、つまり専門技術者の経験やノウハウに依存することなく、客観的な分析を行うことができる。
さらに、計測状況の違いに影響を受けることなく適用することができる。すなわち、計測状況の知識が分析に必要とされる場合は分析が可能であるのは探査に直接参加した人か計測状況の情報を入手できる人に限られてしまい、また、例えば水路トンネル等の探査対象の状況は多様であるために計測状況を自動的に記録することも難しいところ、計測状況の違いに影響を受けることなく、統一された手順で分析を行うことができる。
本発明の考え方による地中探査の妥当性や有用性の検証を目的とした実施例を図6乃至図12を用いて説明する。
本実施例では、実際の水力発電所の水路トンネルにおいて地中レーダによる計測が行われて取得されたデータが用いられた。
地中レーダとして、株式会社ウォールナットの地中レーダWAVE水路トンネルレーダが用いられた。アンテナ周波数は650 MHz であり、仕様上の測定深度は0.8 m である。
計測全長は970 m であり、3.95 cm 毎に水路トンネル上面の覆工にアンテナが当てられて電磁波が照射されると共に反射波の信号強度が計測され、トンネルの縦断方向に24658箇所の計測点での計測データが収集された。
各計測点での反射波の計測間隔(即ち、受信時間間隔)が0.105ナノ秒に設定され、380回連続の計測(即ち、受信)が計測点毎の観測として行われた。すなわち、24658箇所の計測点のそれぞれについて380個の反射波信号強度のデータが取得された。
以上より、本実施例では、計測における受信時間間隔を往復走時とする、計測点Pm別の往復走時Tnにおける反射波信号強度の値Sm,nのデータが用いられた(ただし、計測点番号m=1〜24658,受信順序n=1〜380 であり、また、0≦Tn≦39.9〔ナノ秒〕である)。
得られた計測データに対して本発明が適用され、探査対象範囲内の全ての計測点Pmの計測データの集合から同一の往復走時Tnの反射波信号強度の値Sm,nが選び出され集められて往復走時Tn別の反射波信号強度の値Sm,nの集合が生成され、これら集合のそれぞれについて、つまり往復走時Tn別に、反射波信号強度値の頻度分布のデータが作成された。
さらに、上記で生成されたデータが用いられて、往復走時Tn別の、反射波信号強度値の出現確率密度が算出された。
往復走時Tn別の反射波信号強度値の出現確率密度を算出し、一例として図6乃至図8に示す結果が得られた。図6は往復走時2.1ナノ秒における確率密度分布であり、図7は往復走時3.2ナノ秒における確率密度分布であり、さらに、図8は往復走時10.5ナノ秒における確率密度分布である。なお、図6乃至図8では、確率密度が0.00015以下の部分のみが表示されている。
図6乃至図8に示す結果から、確率密度分布は往復走時Tnによって大きく異なることが確認された。したがって、各計測点Pmの反射波信号強度のデータを往復走時Tn別に分解することなく単に平均値を減算するような従来の処理では、計測データに潜在的に内包されている、集合全体の基調的な傾向から外れる特異な傾向を的確に検出することができないと考えられた。これに対して本発明によれば、各計測点Pmの反射波信号強度のデータを往復走時Tn別に分解するようにしているので、集合全体の基調的な傾向から外れる特異な傾向を的確に検出することができ、本発明の手法は地中探査に係るデータの分析の仕方として妥当であることが確認された。
続いて、往復走時Tn別に作成された反射波信号強度のデータの集合のそれぞれに対してクラスター分析が行われ、反射波信号強度の値Sm,nとしての相似の程度によって複数のクラスターに分割された。
本実施例では、クラスター分析の手法としてモード法が用いられ、クラスターとしての最大の分割数は3に設定された。また、分割点の条件におけるパラメータであるα,βについては、α=0.1,β=0.9に設定された。
反射波信号強度のデータの集合に対してクラスター分析を行い、一例として図9乃至図11に示す結果が得られた。図9は上記図6に示す往復走時2.1ナノ秒における反射波信号強度値のデータの集合に対してクラスター分析を適用した結果であり、図10は上記図7に示す往復走時3.2ナノ秒における反射波信号強度値のデータの集合に対してクラスター分析を適用した結果であり、さらに、図11は図8に示す往復走時10.5ナノ秒における反射波信号強度値のデータの集合に対してクラスター分析を適用した結果である。なお、図9乃至図11では、確率密度が0.00015以下の部分のみが表示されている。
図9乃至図11では、含まれるデータ数が最も多いクラスター(「基調クラスター」と呼ぶ)に含まれるデータが白色で表示され、基調クラスターよりも強度が大きい範囲のクラスターに含まれるデータが灰色で表示され、さらに、基調クラスターよりも強度が小さい範囲のクラスターに含まれるデータが黒色で表示されている。
図9乃至図11に示す結果から、探査対象範囲内の全ての計測点Pmの計測データの集合から往復走時Tnが同じものが集められたデータ集合において当該集合全体の基調として存在する反射波信号強度値のグループが基調クラスターとして分割されると共に当該基調クラスターに含まれる反射波信号強度値に対して特異な値のグループが分割されることが確認され、本発明の手法は地中探査に係るデータの分析の仕方として妥当であることが確認された。
そして、基調クラスターに含まれる反射波信号強度値は探査対象範囲における通常の覆工の状態に対応する値であると考えられ、したがって、基調クラスターに含まれる反射波信号強度の値Sm,nが観測された計測点Pmの位置の往復走時Tnに対応する深度(言い換えると、部分)では、覆工背面の地中の状況として異常が無く、且つ、覆工背面の地中に埋設物が無く、つまり覆工の状態として通常である(言い換えると、健全である)と判定し得ると考えられた。
一方で、基調クラスターに含まれない反射波信号強度値は探査対象範囲における通常の覆工の状態と比べて異質であると考えられ、したがって、基調クラスターに含まれない反射波信号強度の値Sm,nが観測された計測点Pmの位置の往復走時Tnに対応する深度(部分)では、覆工背面の地中の状況として異質であり、又は、覆工背面の地中に埋設物が存在し、つまり覆工の状態として異常である(言い換えると、健全とは言えない)と判定し得ると考えられた。
そして、上述の処理によって得られた、往復走時Tn別の反射波信号強度のデータの集合毎のクラスター分析結果を、各データが観測された計測点Pmを横方向に展開する(具体的には、計測点Pmを計測点番号mが1から順に横軸に左から右へと列ね並べる)と共に往復走時Tnを縦方向に展開し(具体的には、往復走時Tnを受信順序nが1から順に縦軸に上から下へと列ね並べる)、横軸の計測点番号mと縦軸の受信順序nとが交差する位置にクラスター番号Cm,nに割り当てられた色のドットが配置されて表示することにより、図12に示す結果が得られた。
図12の横軸には、各計測点Pmを計測点番号m=1から順に並べ、その上で、計測点P1の位置即ち計測開始点からのトンネル縦断方向の距離(具体的には、計測点番号mを、計測点間隔に基づいて実距離に換算した値(単位:メートル))が表示されている。
そして、図12では、基調クラスターに含まれる反射波信号強度値が観測された計測点Pmと往復走時Tnとの組み合わせに対応する点が無色のドットとして表示されると共に基調クラスターに含まれない反射波信号強度値が観測された計測点Pmと往復走時Tnとの組み合わせに対応する点が有色のドットとして表示されるようにしている。
本発明による処理の結果を図12のように表示することにより、覆工背面の地中の状況を視覚的情報として容易に確認することができ、尚且つ、異常が発生している位置を容易に特定することができることが確認された。なお、図12の横軸の計測点(距離:メートル)によって水路トンネルの縦断方向における位置が特定され、縦軸の往復走時(ナノ秒)に対応する深度として水路トンネルの横断方向における位置(具体的には、覆工からの距離)が特定される。
以上の結果から、全ての計測点Pmの計測データから往復走時Tn別の反射波信号強度のデータの集合を生成した上で当該往復走時Tn別の反射波信号強度のデータの集合について当該集合全体の基調的な傾向から外れる珍しい値(特異な値)を抽出することによって地中探査を行うという本発明の考え方は妥当であること、及び、的確な分析が統一された手順に従って可能であって客観性・信頼性の高い結果を出力することが可能であるので本発明の手法は有用であることが確認された。さらに、計測データを往復走時Tn別に分解して分析を行うことにより、横方向の位置(距離)と深度との二次元で地中の状況を把握することが可能であることからも本発明の手法は有用であることが確認された。