JP6865457B2 - ブタ肝障害モデル - Google Patents
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一方、薬物や毒物などにより、重篤な障害や慢性的な障害をうけた場合には、正常な肝細胞には存在しない未分化性を持つ特殊な肝前駆細胞が出現し、肝臓の再生を行う。この肝前駆細胞は、障害を受けた時に門脈域において出現することが知られている。
現在モデル動物として広く使用されているマウスやラットの肝臓は、形態学的にヒトと大きく異なることが知られている。また、ヒトとマウスでは体重も大きく異なる。従って、形態や大きさがヒトと類似した肝臓を有する大動物の肝障害モデルのニーズが存在する。
これまで、大動物(ブタ)の肝障害モデルとして、肝虚血、肝切除、薬剤性など様々なモデルが提唱されてきたが、いずれも急性に重度の肝障害を呈するため、組織移植の効果を中・長期的に評価することは困難であった。また、これらのモデルでは急激な肝障害のため再生シグナルが亢進した肝臓の優位性により、移植された細胞の淘汰も危惧される。このため、肝再生技術の実現性・有用性を適切に評価することが可能な、肝障害モデルを作製する必要がある。従って、死亡には至らない程度に、安定的に重度な肝障害を生じ、かつ肝再生が抑制された大動物肝障害モデルを確立する必要がある。
この肝障害モデルの作製に広く使用される薬剤の1つがレトロルシンである。ピロリジジンアルカロイドであるレトロルシンは、肝細胞において代謝されて毒性を有するDNAアルキル化中間体となることが知られており、レトロルシンを投与すると肝細胞の細胞分裂が数か月にわたり阻害されることが知られている。
非特許文献1には、レトロルシンを用いてラットの肝障害モデルを作製し、障害した肝臓に、肝細胞を移植したことが記載されている。非特許文献1では、ラットに、30mg/kgのレトロルシンを腹腔内に注射し、その2週間後にさらに30mg/kgのレトロルシンを腹腔内に注射する。2回目のレトロルシン投与から4週間後に、三分の二の肝切除を行い、2×106個の肝細胞を門脈から注入して、一定期間経過後に、移植した細胞の貢献度を検討している。
(1)以下の工程を含む肝障害モデルブタの作製方法:
工程1)針の先端が肝臓表面に位置するように腹腔内に留置されたカテーテルを介して、ブタにレトロルシンを投与すること、及び
工程2)レトロルシンが投与されたブタの肝臓の一部を切除すること。
(2)針の先端が肝右葉と右横隔膜の間に位置するようにカテーテルが留置される、(1)に記載の方法。
(3)肝臓の約60〜約70重量%が切除される、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)左葉、中葉左区域、および尾状葉が切除される、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)レトロルシンの投与量が約50mg/kgである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ブタが、ミニブタ又は超小型ミニブタである、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)ブタが、メスである、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)ブタが、16週齢以上5齢以下である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)工程1)においてレトロルシンを2週間の投与間隔で2回投与し、工程2)をレトロルシンの最後の投与から4週間後に行うことを特徴とする、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載の方法により作製された肝障害モデルブタ。
工程1)針の先端が肝臓表面に位置するように腹腔内に留置されたカテーテルを介して、ブタにレトロルシンを投与すること、及び
工程2)レトロルシンが投与されたブタの肝臓の一部を切除すること。
本発明の作製方法において用いられるブタは、ミニブタが好ましく、ゲッチンゲンミニブタがより好ましい。
全身麻酔に用いる麻酔薬の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、塩酸メデトミジン、ベクロニウム臭化物、ハロセン、ケタミン、キシラジン、ペントバルビタール、チオペンタール、ウレタン、抱水クロラール、トリブロモエタノール、フェノチアジン類、クロールプロマジン、アセプロマジン、プロマジン、ベンゾジアゼピン類、ジアゼパム、ミダゾラム、α−2アドレナリン作動性トランキライザ類、メデトミジンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
全身麻酔は、自体公知の方法によって行うことができる。全身麻酔の方法としては、例えば、ケタミン及びキシラジンにより一次麻酔を行った後に、1.5%ハロセンにより麻酔を行う方法、並びに塩酸メデトミジン及びミダゾラムにより一次麻酔を行った後に、ミダゾラム、続いてベクロニウム臭化物を静注した後にキシロカインにより喉部に局所麻酔を行い、1.5%イソフルランにより麻酔を行う方法等が挙げられるが、これに限定されない。
全身麻酔時は、ラリンジアルマスク又は気管挿管によりブタの気道を確保して、酸素を供給することが好ましい。筋弛緩剤が不要であり自発呼吸を可能とするこという観点から、全身麻酔時にはラリンジアルマスクを用いてもよい。
カテーテルは、生体外からブタの腹腔内にレトロルシン溶液等の所望の溶液を送達するのに十分な長さであることが好ましい。具体的には、カテーテルの長さは、通常約20センチから約80センチであり、好ましくは、約60センチから約80センチである。
カテーテルの管の直径は、溶液の送達に支障がなく周辺組織を損傷しない限り特に制限されないが、直径16〜18ゲージのカテーテルを用いることが好ましい。
レトロルシンは市販のものを使用することができる。レトロルシンは、SIGMA(型番R0382)、Santa Cruz Biotechnology(sc−215805)等から購入することができる。
特定量の肝切除は、特定の区域を切除することにより、簡便に達成することができる。例えば、左葉、中葉左区域、および尾状葉を切除することにより、肝障害モデル作製に十分な量の肝臓を切除することができる。
(1)中心静脈域の肥大した肝細胞の出現と肝細胞の脱核。
(2)門脈域におけるCyclin D1発現の亢進した細胞の増加。
(3)形態学的に小型の肝細胞の増成。
(4)門脈域における炎症性細胞浸潤。
(5)門脈域におけるEpCAM陽性細胞の減少。
(6)門脈域におけるki67陽性細胞の減少。
これらの組織学的表現型のうち、(1)および(4)は、薬剤性肝障害に特徴的である。
一態様において、門脈域における炎症性細胞浸潤の程度は中程度である。中等度の炎症性細胞浸潤とは、炎症性細胞がほとんど(>50%)あるいは全ての門脈域に拡大する炎症細胞浸潤を指し、Hepatology.1997 Mar;25(3):658−63.Banff schema for grading liver allograft rejection:an international consensus document.に記載の評価方法に準ずる。
肝臓再生の抑制のため、本発明の作製方法により得られる肝障害モデルブタの肝臓重量は、肝切除後10日目の時点でモデル作製開始前の肝臓重量の約90%以下、好ましくは約80%以下(例えば、約60〜80%)に低減されている。また、一態様において、本発明の作製方法により得られる肝障害モデルブタの肝臓重量は、治療介入をしなければ飼育を継続することで14日〜30日でほぼ100%の重量に戻る。モデル作製開始前の肝臓重量は、例えば、左葉、中葉左区域および尾状葉の切除により2/3肝切除を行った後、切除肝重量を計測し、計測した切除肝の重量が肝臓重量の60%であるとして計算することができる。
ASTは、肝細胞、赤血球、心筋、骨格筋などに発現し、これらの細胞が破壊された場合には血液中に流出する。従って、肝障害に伴い、血清中のAST濃度は、健常ブタと比較して高くなる。
ビリルビンは、胆汁又は尿から排出される黄色のヘムの通常の分解代謝物である。肝障害に伴い、総ビリルビン量(直接ビリルビンと間接ビリルビンの合計)が、健常ブタと比較して高くなる。
血清アルブミンは肝臓で生合成されるため、肝障害に伴い、肝臓の機能に異常が起きると血中のアルブミン量が、健常ブタと比較して低下する。
工程1)針の先端が肝右葉と右横隔膜の間に位置するように腹腔内に留置されたカテーテルを介して、ブタにレトロルシン約50mg/kgを、約2週間の投与間隔で、2回投与すること、及び
工程2)レトロルシンの最後の投与から約4週間後に、レトロルシンが投与されたブタの肝臓の約60〜約70重量%を切除すること。
1)本発明の作製方法により作製した肝障害モデルブタに、被検物質を投与すること、
2)一定期間飼育後に、肝重量を測定すること、及び
3)工程2)で測定した肝重量を、被検物質を投与しないこと以外は工程1)及び2)と同様に処理した肝障害モデルブタの肝重量と比較すること。
1)本発明の作製方法により作製した肝障害モデルブタに、被検物質を投与すること、
2)一定期間飼育後に、肝重量を測定すること、及び
3)工程2)で測定した肝重量を、被検物質を投与しないこと以外は工程1)及び2)と同様に処理した肝障害モデルブタの肝重量と比較すること。
本発明のスクリーニング方法1及び2において、被検物質の投与は、本発明の肝障害モデルブタの作製方法の工程2)の肝切除と同時に行っても良く、切除後に行ってもよい。
ゲッチンゲンミニブタを用い、レトロルシンを異なる用量で投与した後に肝切除を加えることで肝障害モデルを作成した。図1に実験のスケジュールを示す。
カテーテルの留置に先立ち、採血を行った。各ブタの血液サンプルを用いて、血清中のALT値、TB値、ALB値を測定した。
ゲッチンミニブタは、(オリエンタル酵母工業)から7〜8ヶ月齢の雌を入手した。
ブタを鎮静化させるため、塩酸メデトミジン(ドミトール)(0.02mg/kg)及びミダゾラム(ドルミカム)(0.5mg/kg)の傍脊柱筋群への筋肉内注射を行った後、ルートを確保し、ミダゾラム(ドルミカム)(0.5mg/kg)を静注した。ブタを手術台に移動させた後、キシロカインスプレーを気管内に投与して気管挿管を行い、ベクロニウム臭化物(マスキュラックス)(4mg)を静注した。手術中、酸素飽和度及び心拍数をモニターした。1.5%イソフルランを用いて、麻酔の深さに応じて酸素で用量を調節しながら、全身麻酔を維持させた。手術中、全てのブタは人工呼吸管理を行っていた。
麻酔を十分に効かせた後、カテーテル(ニプロ株式会社 抗血栓性CVカテーテルキット 16G 70cm シングルルーメン)を留置した。カテーテルは、腸間癒着を避けるため肝右葉と右横隔膜との間で、かつ針の先端が横隔膜に当たらない位置になるように留置した。
レトロルシン(Santa Cruz Biotechnology inc)を、HCIによりpH2にした超純水に溶解させ、NaOHによりpHを7.4にし、0.5mg/mlレトロルシン溶液を作製した。(1)で全身麻酔をかけカテーテルを留置したブタを、3群に分け、各群にそれぞれ0mg/kg(コントロール群)、30mg/kg、50mg/kgのレトロルシンをカテーテルを介して腹腔内投与した。コントロール群には、レトロルシンではなく生理食塩水を投与した。
レトロルシン投与1日後に採血を行い、(1)と同様に、各ブタの血液サンプルを用いて、血清中ALT値、TB値、ALB値を測定した。
レトロルシン投与2週間後に同様の方法で、該ブタにレトロルシンを再度投与した。
最初のレトロルシン投与から7日後、14日後、21日後、28日後に、採血を行い、(1)と同様に、各ブタの血液サンプルを用いて、ALT値、TB値、ALB値を測定した。
最初のレトロルシン投与から6週間後に、該ブタの2/3肝切除を行った。
実施例1(1)と同様にブタに全身麻酔をかけた。
Court FG et al., J Surg Res. 2004 Jan;116(1):181-6. Subtotal hepatectomy: a porcine model for the study of liver regeneration.に記載の術式に従い、図2に記載のとおり、肝臓の、左葉、中葉左区域および尾状葉を切除することにより約2/3重量の肝臓を切除した。肝切除量を60重量%とし予測肝重量を計算した。
切除した肝組織についてヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、Cyclin D1(LS Bio)、EpCAM(ベクトン・ディッキンソン)、ki67(abcam)による免疫染色を行い、薬剤による影響を評価した。肝切除1日後、4日後、7日後、10日後、13日後に採血を行い、(1)と同様に、各ブタの血液サンプルを用いて、ALT値、TB値、ALB値を測定した。
肝切除から10日後にブタを屠殺し、肝臓を摘出した。残肝重量の計測及び、採取した肝組織についてHE染色、免疫染色による評価を行った。
各群における、肝切除後の残肝重量を図3に示す。50mg/kgレトロルシン投与後に肝切除を行った群ではコントロール群に比べ、肝再生が抑制される傾向が示された。一方、30mg/kgのレトロルシンを投与した群では、コントロール群と比較して、残肝重量に差が見出せなかった。
採取した肝組織のHE染色の結果の一部を図4に、Cyclin D1に対する免疫染色の結果を図5に示す。図4に示すように、肝障害が誘導され、これらを組織学的に評価した結果、特にレトロルシン投与群において、代償性再生を示す中心静脈域の肝細胞の肥大が認められた(J Hepatol.2005 Sep;43(3):485−90)。レトロルシンは細胞増殖を阻害する効果を有することが知られており、ラットではレトロルシンにより細胞増殖が阻害されるとCyclin D1陽性細胞の占める割合が上昇することが報告されている。門脈域にはCell Cycleの亢進を示すCyclin D1が高発現した細胞を多く認め、形態学的に小型の肝細胞の著明な増生が示された。一般に、門脈域に現れる小型肝細胞は、肝前駆細胞として機能すると考えられている。さらに図7に示すように、レトロルシン投与群では、門脈域においてEpCAM陽性細胞及びki67陽性細胞が減少しているのが観察された。
以上の結果から、レトロルシンの投与により細胞周期が停止しCyclin D1発現細胞が増加していること、EpCAM陽性細胞及びki67陽性細胞が減少していること、肝細胞の代償性肥大が観察されること、並びに肝前駆細胞と形態上似た細胞が出現することが明らかとなった。これらは、肝障害モデルとして、本発明の作製方法が機能することを意味する。
ALT、TBの上昇及びALBの低下がみられるなど採血検査上は肝機能障害が持続した(図6)が、全経過中に致死的な肝障害には至る個体はなかった。
また、55%肝切除以下では、肝臓再生が進んでおり、レトロルシン投与群とコントロール群とで残肝重量に差が見出せなかった。
Claims (9)
- 以下の工程を含む肝障害モデルブタの作製方法:
工程1)針の先端が肝臓表面に位置するように腹腔内に留置されたカテーテルを介して、ブタに約10mg/kg〜約100mg/kgのレトロルシンを投与すること、及び
工程2)レトロルシンが投与されたブタの肝臓の約60〜約70重量%を切除すること。 - 針の先端が肝右葉と右横隔膜の間に位置するようにカテーテルが留置される、請求項1に記載の方法。
- 左葉、中葉左区域および尾状葉が切除される、請求項1又は2に記載の方法。
- ブタが、ミニブタ又は超小型ミニブタである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
- ブタがゲッチンゲンミニブタのとき、レトロルシンの投与量は約50mg/kgである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- ブタが、メスである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
- ブタが、16週齢以上5齢以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
- 工程1)においてレトロルシンを2週間の投与間隔で2回投与し、工程2)をレトロルシンの最後の投与から4週間後に行うことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により作製された、レトロルシンにより抑制された肝再生を伴う肝障害が持続する期間内の肝障害モデルブタ。
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