以下、実施形態に係るレーザー距離計測装置について図面を参照して説明する。なお、図面における各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、レーザー距離計測装置100は、光源110と、光源駆動回路120と、フォトディテクタ130と、アナログフロントエンド140と、AD(Analog-to-digital)コンバータ150と、制御回路160と、通信I/F170とを備える。ここで、レーザー距離計測装置100は、図示した構成のほかに、コリメートレンズや集光レンズなどの光学系や、モーターなどの回転機構などを適宜備えることができる。
例えば、レーザー距離計測装置100は、光源110によって発光された出力光(レーザー光)を平行なレーザー光にして出射するコリメートレンズを備えることができる。かかる場合には、コリメートレンズは、光の入射面が光源110の出射面と対向するように配置され、光源110から出力されたレーザー光を平行光にして外部に出射する。
また、例えば、レーザー距離計測装置100は、光源110から出力されたレーザー光(或いは、コリメートレンズから出射されたレーザー光)が物体によって反射された反射光をフォトディテクタ130に集光させる集光レンズを備えることができる。かかる場合には、集光レンズは、光の出射面がフォトディテクタ130の検出面と対向するように配置され、外部からの反射光をフォトディテクタ130に集光させる。例えば、集光レンズは、平凸レンズや、フレネルレンズなどである。
また、例えば、レーザー距離計測装置100は、レーザー光を1次元走査することで、2次元の距離計測を行う2次元LiDARや、レーザー光を2次元走査することで、3次元の距離計測を行う3次元LiDARを実現するために、レーザー光の出射方向を変化させるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーや、レーザー光を走査する構造を回転させるモーターなどを備えることができる。例えば、MEMSミラーは、上下方向に搖動され、光源から出射されたレーザー光を反射することにより、レーザー光を鉛直方向に走査する。また、モーターは、レーザー光を鉛直方向に走査する構造自体を、鉛直方向を軸に回転させることで、レーザー光をさらに水平方向に走査する。レーザー距離計測装置100は、これらの構成をさらに備えることで、2次元LiDARや、3次元LiDARを実現することができる。
光源110は、レーザーダイオード(Laser Diode:LD)などの発光素子であり、光源駆動回路120からの駆動信号に応じて、出力光(例えば、レーザー光)を出力する。ここで、光源110は、光源駆動回路120からの駆動信号に基づいて、所定のパルス幅でレーザー光を出力したパルス光を出力する。また、光源110は、複数のパルス光を所定の時間間隔で出力する。なお、これらの詳細については、後述する。また、レーザー距離計測装置100がコリメートレンズを備える場合には、光源110は、コリメートレンズに対してパルス光を出力する。
光源駆動回路120は、制御回路160からの制御信号に応じた駆動信号を光源110に出力することで、光源110からレーザー光(パルス光)を出力させる。
フォトディテクタ130は、外部からの反射光を検出する。具体的には、フォトディテクタ130は、光源110から出力され、物体によって反射されたパルス光を検出する。例えば、フォトディテクタ130は、光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)や光照射による電気抵抗変化を利用したCdS、PbSなどの光電導素子、半導体のpn接合を利用した光起電力型のフォトダイオード(Photo Diode:PD)などである。フォトダイオードとしては、例えば、PNフォトダイオード、PINフォトダイオード、アバランシェフォトダイオードなどである。なお、レーザー距離計測装置100が集光レンズを備える場合には、フォトディテクタ130は、集光レンズによって集光された反射光を検出する。
アナログフロントエンド140は、フォトディテクタ130によって検出された反射光を増幅する。例えば、アナログフロントエンド140は、トランスインピーダンスアンプと増幅回路を有する。トランスインピーダンスアンプは、フォトディテクタ130が反射光に基づいて発生させた電流を電圧(電気信号)に変換して、増幅回路に出力する。増幅回路は、トランスインピーダンスアンプから入力された電気信号を信号解析可能なレベルまで増幅して、ADコンバータ150に出力する。
ADコンバータ150は、アナログフロントエンド140から入力された電気信号をデジタル信号に変換する。具体的には、ADコンバータ150は、入力された電気信号に対して、所定のサンプリングレートでサンプリング処理を実行することで、電気信号を離散的な数値に変換したデジタル信号を生成する。そして、ADコンバータ150は、デジタル信号を制御回路160におけるデータバッファ163に格納する。
制御回路160は、図1に示すように、制御部161と、符号化発光タイミング生成部162と、データバッファ163と、加算処理部164と、距離計算部165と、混線診断・分離処理部166とを備え、レーザー距離計測装置100における各種制御を実行する。例えば、制御回路160は、光源110によるパルス光の出力を制御する。また、制御回路160は、受光した反射光に対する各種処理を実行することで、パルス光を反射した物体までの距離を計測する。ここで、制御回路160は、上述した各部の処理により、小型で、より長距離にある物体までの距離計測を実行することを可能とする。なお、各部の処理の詳細については、後述する。
通信I/F(インターフェース)170は、外部装置に対するデータ出力の通信を制御する。例えば、通信I/F170は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現され、外部装置に対して、距離計測の結果を出力する。
以上、レーザー距離計測装置100の概要について説明した。上述したように、レーザー距離計測装置100は、制御回路160による処理によって、小型で、より長距離にある物体までの距離計測を行うことを可能とする。具体的には、制御回路160は、所定の時間間隔で複数のパルス光を出力させ、所定の時間間隔に基づく信号を用いて、反射光の信号成分の強度を増大させて、反射光のS/N比を改善することで、回路規模を大きくすることなく、より長距離にある物体までの距離計測を行うことを可能にする。以下、制御回路160における処理の詳細について説明する。
制御回路160における制御部161は、レーザー距離計測装置100の全体を制御する。例えば、制御部161は、符号化発光タイミング生成部162による発光タイミングの生成を制御する。また、例えば、制御部161は、ADコンバータ150によるサンプリング処理を制御する。また、例えば、制御部161は、加算処理部164による加算処理を制御する。また、制御部161は、距離計算部165による距離計算を制御する。また、例えば、制御部161は、混線診断・分離処理部166による処理を制御する。
符号化発光タイミング生成部162は、制御部161による制御のもと、光源110がパルス光を発光する発光タイミングを生成し、生成した発光タイミングを光源駆動回路120に出力する。光源駆動回路120は、符号化発光タイミング生成部162から入力された発光タイミングで駆動信号を出力することで、光源110にパルス光を出力させる。すなわち、光源110は、符号化発光タイミング生成部162によって生成された発光タイミングでパルス光を発光することとなる。
ここで、符号化発光タイミング生成部162は、光源110が、所定の時間間隔で複数のパルス光を出力するように、発光タイミングを生成する。具体的には、符号化発光タイミング生成部162は、複数のパルス光に対して所定の時間間隔分ずらした複数のパルス光を重ねた場合に、同時に重複するパルス光の数がより少なくなる時間間隔で複数のパルス光が出力されるように、発光タイミングを生成する。
図2は、第1の実施形態に係る発光タイミングの一例を説明するための図である。ここで、図2においては、発光する場合を「1」、発光しない場合を「0」として発光タイミングを示す。例えば、符号化発光タイミング生成部162は、図2に示すように、所定の時間「τ」において、パルス幅「τP」のパルス光を4回出力させる発光タイミングを生成する。ここで、符号化発光タイミング生成部162は、各パルス光の間の時間を所定の時間間隔に設定する。例えば、符号化発光タイミング生成部162は、図2に示すように、第1のパルス光(図中、左端の「1」)の発光タイミングと、第2のパルス光(図中、左から2番目の「1」)の発光タイミングとの間の時間間隔として、「4τP」を設定する。すなわち、符号化発光タイミング生成部162は、第1のパルス光を発光してから、パルス幅「τP」の時間の4倍の時間をあけて、第2のパルス光を発光させる発光タイミングを生成する。
同様に、符号化発光タイミング生成部162は、第2のパルス光の発光タイミングと第3のパルス光(図中、左から3番目の「1」)の発光タイミングとの間の時間間隔、及び、第3のパルス光の発光タイミングと第4のパルス光(図中、右端の「1」)の発光タイミングとの間の時間間隔をそれぞれ設定する。ここで、符号化発光タイミング生成部162は、第1のパルス光と第2のパルス光との時間間隔、第2のパルス光と第3のパルス光との時間間隔、及び、第3のパルス光と第4のパルス光との時間間隔がそれぞれ異なる時間間隔となるように各時間間隔を設定する。
例えば、符号化発光タイミング生成部162は、第2のパルス光と第3のパルス光との時間間隔として、図2に示すように、「6τP」を設定する。また、符号化発光タイミング生成部162は、第3のパルス光と第4のパルス光との時間間隔として、図2に示すように、「8τP」を設定する。これは、各パルス光を時間軸上で、時間間隔分シフトした場合に、シフト前の各パルス光と重なるパルス光の数が1つとなるように設定するためである。例えば、図2に示す発光タイミングで発光された各パルス光を、「4τP」分の時間左側にシフトさせた場合、シフト前の第1のパルス光と、シフト後の第2のパルス光とが重なることとなる。さらに、「4τP」分の時間を左側にシフトさせた各パルス光を、「6τP」分の時間左側にシフトさせた場合、シフト後の各パルス光のうち、第3のパルス光のみがシフト前の第2のパルス光(及びシフトしていない第1のパルス光)と重なることとなる。
このように、符号化発光タイミング生成部162は、複数のパルス光に対して所定の時間間隔分ずらした複数のパルス光を重ねた場合に、同時に重複するパルス光の数がより少なくなる時間間隔で複数のパルス光が出力されるように、発光タイミングを生成する。ここで、符号化発光タイミング生成部162は、例えば、発光タイミングとして、図2に示す2進数の符号化信号「1000100000100000001」を生成して、光源駆動回路120に出力する。光源駆動回路120は、入力された符号化信号「1000100000100000001」の「1」のタイミングで駆動信号を出力することで光源110にパルス光を発光させる。なお、以下では、符号化発光タイミング生成部162によって生成された発光タイミングで生成された時間「τ」における複数のパルス光をパルス列と記載する。
なお、図2で示す発光タイミングはあくまでも一例であり、符号化発光タイミング生成部162によって生成される発光タイミングは、図2の例に限定されるものではない。例えば、時間「τ」の範囲内で出力するパルス光の数、時間「τ」に対するパルス幅「τP」の時間などは、任意に設定することができる。また、パルス列の時間「τ」は、1つの物体までの距離計測と、次の物体までの距離計測との間の時間の範囲であれば、任意に設定することができる。
また、図2で示す発光タイミングでは、各パルス光を時間軸上で、時間間隔分シフトした場合に、シフト前の各パルス光と重なるパルス光の数が1つとなる場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、パルス光の重なりが「10%」以下となるように設定する場合であってもよい。かかる設定では、パルス列に含まれる各パルス光が、時間間隔分ずつシフトした場合に、シフト前のパルス列とシフト後のパルス列との合計の数に対する他のパルス光と重なった回数の割合が設定される。例えば、パルス列に「100」個のパルス光が含まれる場合、シフトしていないパルス列と、各パルス間の時間間隔でそれぞれシフトした「99」個のパルス列の「100」個のパルス列が並ぶことなる。「100」個のパルス列において、各パルス光が他のパルス光と重なる回数が「10」回以下となるように設定される。なお、発光タイミングは、レーザー距離計測装置ごとに固有のものを割り当てる場合であってもよいが、計測処理ごとに乱数が割り当てられ、乱数に基づいて決定される場合であってもよい。
本願に係るレーザー距離計測装置100は、物体までの距離計測に上記したパルス列を用いることで、反射光における信号成分の強度を増大させ、S/N比を改善することができる。以下、反射光に対する処理の詳細について説明する。
光源110が、上述した符号化発光タイミング生成部162によって生成された発光タイミングで複数のパルス光を出力すると、外部の物体によって複数のパルス光が反射されてフォトディテクタ130によって検出される。例えば、フォトディテクタ130は、図2に示す発光タイミングで出力された複数のパルス光が物体によって反射された複数のパルス光を検出する。なお、以下では、複数のパルス光が物体によって反射された複数のパルス光を反射パルス列と記載する。
フォトディテクタ130によって検出された反射パルス列は、アナログフロントエンド140で増幅され、ADコンバータ150でデジタル信号に変換され、データバッファ163に格納される。データバッファ163は、ADコンバータ150から入力されたデジタル信号を記憶する。
加算処理部164は、反射パルス列におけるパルス光の時間を所定の時間間隔分ずらしたパルス列信号を生成し、生成したパルス列信号を反射パルス列に加算することで、当該反射パルス列における信号成分の強度を増加させる。具体的には、加算処理部164は、反射パルス列を各パルス間の時間間隔分シフトさせたパルス列信号をそれぞれ生成する。そして、加算処理部164は、反射パルス列に対して、生成したパルス列信号を加算することで、反射パルス列における信号成分の強度を増大させる。なお、加算処理部164は、処理部とも記載される。
図3は、第1の実施形態に係る加算処理部164による加算処理の一例を説明するための図である。ここで、図3においては、(1)に反射パルス列を示し、(2)〜(4)に反射パルス列から生成したパルス列信号を示す。また、図3においては、パルス光の波形を直線の三角波で示した反射パルス列及びパルス列信号をそれぞれ示しているが、実際には、加算処理部164によって処理される反射パルス列及びパルス列信号は、ADコンバータ150によって変換されたデジタル信号である。すなわち、加算処理部164によって処理される反射パルス列及びパルス列信号は、ADコンバータ150によって反射パルス列からサンプリングされた離散的な数値である。
例えば、加算処理部164は、データバッファ163によって記憶された図3に示す反射パルス列(1)を読み出し、読み出した反射パルス列(1)を、第1のパルス光と第2のパルス光との間の時間間隔分だけシフトしたパルス列信号(2)を生成する。また、加算処理部164は、パルス列信号(2)を、第2のパルス光と第3のパルス光との間の時間間隔分だけシフトしたパルス列信号(3)を生成する。また、加算処理部164は、パルス列信号(3)を、第3のパルス光と第4のパルス光との間の時間間隔分だけシフトしたパルス列信号(4)を生成する。
そして、加算処理部164は、反射パルス列(1)に対して、生成したパルス列信号(2)〜(4)を加算することで、図3の下段「(1)+(2)+(3)+(4)」に示す加算信号を生成する。すなわち、加算処理部164は、反射パルス列の信号成分の強度が増大された加算信号を生成する。そして、加算処理部164は、加算信号を距離計算部165に出力する。
このように、加算処理部164は、上記した加算処理によって、反射パルス列のS/N比を向上させることができる。以下、加算処理によるS/N比の改善について説明する。例えば、図3に示すように、反射パルス列に含まれるパルス光の波形(電圧波形)を「f(t)」とする。そして、f(t)を各パルス光間の時間間隔分シフトして加算した場合の最大値は、「パルス数N=4」とすると、以下の式(1)によって示される。
ここで、図3に示すように、反射パルス列と各パルス列信号との間で、2個以上のパルス光が重ならないように発光タイミングが設定することで、f(t)に白色雑音電圧「n(V/√Hz)」が加算しているとすると、S/N比(SNR)は、以下の式(2)によって示される。なお、式(2)における「B」は、受光回路(フォトディテクタ130)の帯域幅を示す。
式(2)に示すように、単一のパルス光の場合と比較して、4つのパルス光のパルス列を用いることで、SN比が2倍になる。なお、一般的には、S/N比は、N個のパルス光で「√N」倍改善される。
このように、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100では、所定の時間間隔で出力された複数のパルス光であるパルス列を用いることで、物体によって反射された反射光のS/N比を改善することができ、回路規模を大きくすることなく、より長距離にある物体までの距離を精度よく計測することができる。
ここで、上述した実施形態では、ADコンバータ150によって変換されたデジタル信号を用いて加算処理を行う場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、離散的なデジタル信号のサンプル点間の値を補間処理によって補間した補間信号を用いる場合であってもよい。図4は、第1の実施形態に係る補間信号の一例を示す図である。例えば、加算処理部164は、図4の上段に示すデジタル信号をデータバッファ163から読み出し、読み出したデジタル信号に対して、スプライン補間や、ラグランジェ補間を実行する。これにより、加算処理部164は、図4の下段に示すように、デジタル信号のサンプル点間の値を補間した補間信号を生成する。そして、加算処理部164は、生成した補間信号を用いて上述した加算処理を実行する。
図1に戻って、距離計算部165は、加算処理部164によって加算処理が実行された加算信号に基づいて、複数のパルス光を反射した物体までの距離を計測する。例えば、距離計算部165は、TOF(Time of Flight)方式の距離測定を行うことで、複数のパルス光を反射した物体までの距離を計測する。かかる場合、距離計算部165は、複数のパルス光に基づく信号と、加算信号との遅延時間から距離を演算する。例えば、距離計算部165は、複数のパルス信号の出力開始の時間と、加算信号においてピークが最大となる時間(図3における最大ピークの出現タイミング)との時間差、及び、光速に基づいて、物体までの距離を計測する。なお、距離計算部165は、計測部とも記載される。
なお、2次元LiDAR、或いは、3次元LiDARを実現する場合には、レーザー距離計測装置100は、複数のパルス光(パルス列)を走査する各方向へそれぞれ出力し、各方向からの反射光(反射パルス列)をそれぞれ検出する。
上述したように、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、所定の時間間隔で出力されたパルス光であるパルス列を用いて、反射光のS/N比を改善するが、レーザー距離計測装置100は、上述したS/N比の改善だけではなく、フォトディテクタ130によって検出した光が、反射光であるか否かを判定することができる。具体的には、混線診断・分離処理部166は、所定の時間間隔に基づく信号を用いて、外部から受光した光が反射パルス列であるか否かを判定する。なお、混線診断・分離処理部166は、判定処理部とも記載される。
近年、レーザー距離計測装置が様々な分野で活用され、身近なものとなりつつある。従って、周囲で自装置とは異なる他のLiDARが用いられている場合もある。そのような場合、他のLiDARによって出力されたパルス光を自装置が検出すると、誤った計測結果を提示することとなる。そこで、レーザー距離計測装置100は、パルス列を用いることで、他のLiDARからの光を分離することを可能にする。
例えば、自装置の近くに他のLiDARがあり、個々のLiDARは異なるタイミングで符号化されたパルス列で発光しているとする。この場合、自装置に入射される他のLiDARが発した光の反射光、又は直接光は、以下の3つパターンが考えられる。例えば、3つのパターンとして、(1)信号が大きく、パルス列の識別が十分にできる場合、(2)信号は小さいが、パルス列が自装置のパルス列と相関が無い場合、(3)信号が小さく、パルス列が自装置のパルス列と一部相関がある場合が挙げられる。
例えば、(1)の場合には、混線診断・分離処理部166は、パルス列を識別することで、フォトディテクタ130によって検出された光が、反射パルス列であるか否かを判定する。すなわち、混線診断・分離処理部166は、検出されたパルス列におけるパルス光間の時間間隔が、符号化発光タイミング生成部162によって生成された時間間隔であるか否かに基づいて、反射パルス列であるか否かを判定する。
また、例えば、(2)の場合には、パルス列が自装置と相関がないため、上述した加算処理を実行したとしても、他のLiDARのパルス列における信号成分の強度は増大されず、特別な処理を実行することなく、他のLiDARのパルス列を分離(除外)することができる。
次に、(3)の場合、パルス列が自装置のパルス列と一部相関を持っているため、上述した加算処理を実行すると、他のLiDARのパルス列における信号成分の強度が増大されることとなる。そこで、(3)の場合には、第1の実施形態に係る混線診断・分離処理部166は、経時的に受光された複数の光の時間を所定の時間間隔分ずらした受光信号を生成し、生成した受光信号を複数の光の信号に加算した場合の信号値が、加算に応じた値となっているか否かに基づいて、複数の光が反射パルス列であるか否かを判定する。すなわち、混線診断・分離処理部166は、上述した加算処理と同様の処理を実行することで、加算信号を生成し、生成した加算信号に基づいて、反射パルス列を判別する。
図5A〜図5Cは、第1の実施形態に係る混線診断・分離処理部166による処理の一例を説明するための図である。ここで、図5A〜図5Cにおいては、図2で示す発光タイミングでパルス光を発光したパルス列が物体によって反射された反射パルス列に、他装置から出力されたパルス(図中、他機パルス)が含まれる場合の処理の一例について示す。また、図5A〜図5Cにおいては、(1)にフォトディテクタ130によって検出された複数のパルス光(他機パルスが含まれる反射パルス列)を示し、(2)〜(4)に反射パルス列から生成したパルス列信号を示す。また、図5A〜図5Cにおいては、下段に、反射パルス列に対してパルス列信号を加算した加算信号を示す。なお、以下では、自装置から出力されたパルスを自機パルスとも記載する。
例えば、図5Aに示すように、反射パルス列における第3の自機パルスと第4の自機パルスとの間に他機パルスが含まれる反射光に対して上記した加算処理を実施した場合、(1)〜(4)を加算した加算信号「(1)+(2)+(3)+(4)」には、図5Aに示すように、自機パルス以外にも他機パルスに基づく信号が含まれることとなる。例えば、図5Aに示すように、加算信号は、他機パルスのみによるピークや、シフト後に他機パルスと自機パルスのタイミングが重なることで加算されたピークを含む。混線診断・分離処理部166は、このようなピークが検出可能な強度の際に誤って自機の信号として処理されることを抑止するため、以下の処理によって反射パルス列を判別する。
具体的には、混線診断・分離処理部166は、上述した加算処理を実行する際にパルス列信号を間引いた処理を実施し、この処理による加算信号の変化に基づいて反射パルス列を判別する。例えば、混線診断・分離処理部166は、図5Bに示すように、他機パルスが含まれる反射パルス列(1)からパルス列信号を生成する際に、図5Aにおける(3)のパルス列信号を生成せずに、(2)及び(4)のパルス列信号のみを生成して、加算処理を実行する。すなわち、混線診断・分離処理部166は、パルス間の時間分シフトさせることで生成する複数のパルス列信号において、いずれかのパルス列信号を除いた複数のパルス列信号を生成して加算処理を実行する。
このような間引きを伴う加算処理を実行すると、加算処理後、他機パルスのみの信号は、間引きを行わない場合(図5Aの場合)と変わらないピーク強度をもつか、或いは、信号自体が消失することとなる。また、他機パルスに自機パルスが加算された信号は、重なり数や重なり位置に応じたピークをもつこととなる。これに対して、自機パルスのみが加算された信号は、いずれのパルス列信号を間引いた場合であっても、毎回近似したピーク強度をもつこととなる。すなわち、自機パルスのみが加算された信号は、間引きを行わない場合(図5Aの場合)のピーク強度から間引き分のピーク強度(例えば、1パルス分に相当するピーク強度)が低下したピーク強度となる。したがって、自機パルスの数が十分に多く、自機パルスと他機パルスとの重なり数が十分に少ないと仮定すると、混線診断・分離処理部166は、間引き後に加算処理を行った回数(間引くパルス列信号を変えて行った加算処理の回数)に対して一定の回数以上の試行において、同程度のピーク強度をもち、かつ、その強度が間引きを行わない場合(全加算時)のピーク強度よりも低くなるピークを自機パルスのみが加算されたピークとして判定することができる。
例えば、(3)を除いて、(2)及び(4)のパルス列信号を生成した加算処理では、図5Bに示すように、自機パルスのみが加算された信号の強度が3/4に減少する。ここで、他機パルスのみのピークの強度は変わらず、他機パルスと自機パルスが加算された信号のピーク強度は、間引きによって、自機パルスのみのピーク強度となる。また、例えば、(2)を除いて、(3)及び(4)のパルス列信号を生成した加算処理では、図5Cに示すように、自機パルスのみが加算された信号の強度が3/4に減少する。ここで、他機パルスのみのピークの強度は変わらず、他機パルスと自機パルスが加算された信号のピーク強度は、間引きによって、他機パルスのみのピーク強度となる。また、(2)を除いて、(3)及び(4)のパルス列信号を生成した加算処理では、他機パルスのピークにおいて消失するものがある。
混線診断・分離処理部166は、上述したように、間引き対象のパルス列信号を変えながら、複数回の加算処理を実行し、加算処理後のピークの変化を参照することで、他機パルスを含む反射パルス列の中から自機パルスを判別する。すなわち、混線診断・分離処理部166は、複数回の加算処理において(図5B及び図5C)、加算処理後のピーク強度が同程度であり、かつ、そのピーク強度が、全加算時のピーク強度の3/4となっているピークを自機パルスのみが加算されたピークと判定する。そして、混線診断・分離処理部166は、判定したピークに対応する全加算時のピークに含まれる複数のパルス光を、自機の反射パルス列であると判定する。
上述したように、混線診断・分離処理部166は、フォトディテクタ130によって検出された複数のパルス光から反射パルス列を判定する。加算処理部164は、混線診断・分離処理部166によって反射パルス列と判定された複数のパルス光を用いて上述した加算処理を実行する。
上述した実施形態では、(2)のパルス列信号と(3)のパルス列信号を間引いた結果に基づいて判定する場合の処理を一例に挙げて説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、さらに、(4)のパルス列信号を間引いて行った加算処理の結果を加味して判定する場合であってもよい。すなわち、間引き加算の試行回数は、任意に設定することができる。例えば、自機から出力されるパルス列に含まれるパルス光の数に応じて、間引き加算の試行回数が設定される場合であってもよい。
次に、上述した混線診断・分離処理の手順について説明する。図6は、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100による処理の手順を示すフローチャートである。図6に示すように、混線診断・分離処理部166は、フォトディテクタ130によって検出された複数のパルス光について、加算処理なしで検出可能な信号であるか否かを判定する(ステップS101)。ここで、検出可能な信号であると判定すると(ステップS101肯定)、混線診断・分離処理部166は、検出した信号(複数のパルス光)が自機のパルス列と同じタイミングであるか否かを判定する(ステップS102)。
ここで、検出した信号が自機のパルス列と同じタイミングである場合には(ステップS102肯定)、混線診断・分離処理部166は、検出した信号を自機のパルス列と決定する(ステップS103)。一方、検出した信号が自機のパルス列と同じタイミングではない場合には(ステップS102否定)、混線診断・分離処理部166は、検出した信号を他機のパルス列と決定する(ステップS104)。
一方、ステップS101の判定において、検出可能な信号ではないと判定すると(ステップS101否定)、混線診断・分離処理部166は、加算処理を実行して(ステップS105)、検出可能な信号か否かを判定する(ステップS106)。ここで、検出可能な信号ではない場合(ステップS106否定)、混線診断・分離処理部166は、反射光無しと判定する(ステップS113)。
一方、ステップS106の判定において、検出可能な信号である場合(ステップS106肯定)、混線診断・分離処理部166は、間引く信号を決定し(ステップS107)、間引いた後の加算処理を実行する(ステップS108)。そして、混線診断・分離処理部166は、間引き後の加算処理を指定の回数繰り返すと(ステップS109肯定)、一定の回数以上、間引き前の加算処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の加算処理の値間で近似する値が出力されたか否かを判定する(ステップS110)。
ここで、一定の回数以上、間引き前の加算処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の加算処理の値間で近似する値が出力された場合(ステップS110肯定)、混線診断・分離処理部166は、該当する信号を自機のパルス列と決定する(ステップS111)。一方、一定の回数以上、間引き前の加算処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の加算処理の値間で近似する値が出力されなかった場合(ステップS110否定)、混線診断・分離処理部166は、他機のパルス列と決定する(ステップS112)。なお、混線診断・分離処理部166は、上述した処理において、間引き後の加算処理を指定された回数繰り返すまで、ステップS107〜S109の処理を繰り返し実行する。
上述したように、第1の実施形態によれば、光源110が、所定の時間間隔で複数のパルス光を出力する。加算処理部164が、所定の時間間隔に基づく信号を用いて、所定の時間間隔で出力された複数のパルス光であるパルス列が物体に反射された反射パルス列における信号成分の強度を増加させる。距離計算部165は、信号成分の強度が増加された反射パルス列に基づいて、パルス列を反射した物体までの距離を計測する。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、回路規模を大きくすることなく、S/N比を改善することができ、小型で、より長距離の物体を計測することを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、加算処理部164は、反射パルス列におけるパルス光の時間を所定の時間間隔分ずらしたパルス列信号を生成し、生成したパルス列信号を反射パルス列に加算することで、当該反射パルス列における信号成分の強度を増加させる。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、反射パルス列におけるS/N比を容易に改善することを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、光源110は、複数のパルス光に対して所定の時間間隔分ずらした複数のパルス光を重ねた場合に、同時に重複するパルス光の数がより少なくなる時間間隔で複数のパルス光を出力する。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、より高いS/N比に改善することを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、混線診断・分離処理部166は、所定の時間間隔に基づく信号を用いて、外部から受光した光が反射パルス列であるか否かを判定する。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、周囲に他のLiDARが存在していたとしても、正確な距離計測を行うことを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、混線診断・分離処理部166は、経時的に受光された複数の光の時間を所定の時間間隔分ずらした受光信号を生成し、生成した受光信号を複数の光の信号に加算した場合の信号値が、加算に応じた値となっているか否かに基づいて、複数の光が反射パルス列であるか否かを判定する。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、他のLiDARのパルス光を容易に分離することを可能にする。
また、第1の実施形態によれば、光源110は、異なる時間間隔で複数のパルス光を出力する。従って、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100は、自装置に特異的なパルス列を生成することを可能にする。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。以下、第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。上述した第1の実施形態では、S/N比を改善する処理に加算処理を実施する場合について説明した。第2の実施形態では、S/N比を改善する処理に整合フィルタ処理を実施する場合について説明する。
図7は、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aの構成の一例を示すブロック図である。第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aは、第1の実施形態に係るレーザー距離計測装置100と比較して、制御回路160aが加算処理部164の代わりに整合フィルタ処理部168を有する点、参照波形データ167を有する点、および、制御部161a及び混線診断・分離処理部166aによる処理内容において異なる。以下、この点を中心に説明する。
参照波形データ167は、符号化発光タイミング生成部162によって生成される発光タイミングに基づく参照波形である。例えば、参照波形データ167は、図2に示す発光タイミングの時間間隔でピークが出現する波形である。なお、参照波形データ167は、予め生成されて記憶される場合であってもよく、或いは、符号化発光タイミング生成部162によって発光タイミングが生成されるごとに記憶される場合であってもよい。
第2の実施形態に係る制御部161aは、整合フィルタ処理部168による処理を制御する。また、制御部161aは、混線診断・分離処理部166aによる処理を制御する。
整合フィルタ処理部168は、反射パルス列に対して所定の時間間隔でピークが出現する参照波形を用いた整合フィルタ処理を実行することで、当該反射パルス列における信号成分の強度を増加させる。具体的には、整合フィルタ処理部168は、参照波形データ167を用いて、反射パルス列に対して整合フィルタ処理を実行する。すなわち、整合フィルタ処理部168は、反射パルス列に含まれるパルス光の波形(電圧波形)「f(t)」に対して、パルス列と同じ波形の関数を畳込積分することで、最大のS/N比を得る整合フィルタ処理を実行する。なお整合フィルタ処理部168は、処理部とも記載される。
ここで、「f(t)」のS/N比を最大にする整合フィルタのインパルス応答「h(t)」は、「h(t)=kf(τ―t)」で与えられる。従って、このフィルタによって処理した場合の出力は、以下の式(3)で示される。
すなわち、整合フィルタ処理部168は、式(3)に示すように、入力されたパルス光の波形に対して、参照波形を時間的にシフトさせながら積分することで、最大のS/N比を得る。従って、整合フィルタ処理部168は、図8に示す処理を実行する。図8は、第2の実施形態に係る整合フィルタ処理部168の入出力を示す図である。例えば、整合フィルタ処理部168は、参照波形として「h(t)=kf(τ―t)」を用いて、入力「f(t)」に対して整合フィルタ処理を実行することで、出力「g(t)」を得る。
以下、図9を用いて、整合フィルタ処理部168の処理の一例を説明する。図9は、第2の実施形態に係る整合フィルタ処理部168による整合フィルタ処理の一例を説明するための図である。ここで、図9においては、反射パルス列に含まれるパルス光の波形(電圧波形)「f(λ)」に対して、参照波形「kf(τ―t+λ)」を時間的にシフトさせながら、積分を行った場合の出力「g(t)」を示す。また、図9では、パルス列が、図2に示す「1000100000100000001」で符号化され、波形を三角波で示した場合の例を示す。また、図9においては、「k=3.33」の場合を示す。
例えば、整合フィルタ処理部168は、図9の(1)〜(4)に示すように、参照波形「kf(τ―t+λ)」を時間的にシフトさせ、時間的な各位置で積分することで、出力「g(t)」において(1)〜(4)で示す各ピークを取得する。「f(λ)」と「kf(τ―t+λ)」のパルスが重なり合わない時間「t」の場合、図9の(1)に示すように、出力は「g(t)=0」となる。また、1パルス分の信号が畳込積分された場合には、図9の(2)、(4)に示すように、出力「g(t)」は小さいピークとなる。そして、「f(λ)」と「kf(τ―t+λ)」のすべてのパルスが重なる「t=τ」の場合、図9の(3)に示すように、出力「g(t)」は最大値を示す。なお、(2)、(4)の小さなピークは、すべて最大値の1/4の値をとる。これは、4回のパルス光の出力に対して、「t=τ」以外のときに2つ以上のパルスが重ならないように符号化されているためである。
以下、整合フィルタ処理によるS/N比の改善について説明する。図9に示すように、出力が最大となる時間「t」は、「t=τ」のときであり、出力は以下の式(4)で示される。
ここで、整合フィルタへの入力に白色雑音電圧「n(V/√Hz)」が加算しているとすると、S/N比(SNR)は、以下の式(5)によって示される。
また、1つのパルス幅を「τP」、パルス列に含まれるパルス数を「N」とすると、S/N比(SNR)は、以下の式(6)によって示される。
すなわち、S/N比は、式(6)に示すように、パルス数を増やすことにより改善することができる。以下、図10を用いて、整合フィルタ処理によるS/N比の改善の一例を説明する。図10は、第2の実施形態に係る整合フィルタ処理部168による整合フィルタの実施例を示す図である。ここで、図10では、図9に示す「f(λ)」に対してノイズを加算した例を示す。また、図10では、振幅を「1」の「f(λ)」に対して、RMS「0.28」、最大振幅「2」の白色ノイズを加算したものを示す。図10の上段に示すように、整合フィルタ処理前の信号では、「f(λ)」の信号がノイズに埋もれている。これに対して、整合フィルタ処理の出力「g(t)」では、「t=τ」で大きなピークが出現し(図中の(3))、S/N比が改善されていることがわかる。
図7に戻って、混線診断・分離処理部166aは、経時的に受光された複数の光に対して、所定の時間間隔でピークが出現する参照波形と当該参照波形を変形した波形とを用いた整合フィルタ処理をそれぞれ実行し、参照波形の変形前後で整合フィルタ処理の結果が変化するか否かに基づいて、複数の光が反射パルス列であるか否かを判定する。なお、混線診断・分離処理部166aは、判定処理部とも記載される。
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aにおいても、パルス列を用いることで、他のLiDARからの光を分離することを可能にする。ここで、第1の実施形態において説明した3つのパターンのうち、(1)、(2)については、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aにおいても、第1の実施形態と同様に他のLiDARからの光を分離することができる。
すなわち、上述した(1)の場合(信号が大きく、パルス列の識別が十分にできる場合)、混線診断・分離処理部166aは、パルス列を識別することで、フォトディテクタ130によって検出された光が、反射パルス列であるか否かを判定する。また、上述した(2)の場合(信号は小さいが、パルス列が自装置のパルス列と相関が無い場合)、パルス列が自装置と相関がないため、上述した整合フィルタ処理を実行したとしても、他のLiDARのパルス列における信号成分の強度は増大されず、特別な処理を実行することなく、他のLiDARのパルス列を分離(除外)することができる。
また、上述した(3)の場合、パルス列が自装置のパルス列と一部相関を持っているため、上述した整合処理を実行すると、他のLiDARのパルス列における信号成分の強度が増大されることとなる。そこで、混線診断・分離処理部166aは、上述した加算処理の場合と同様に、間引きを伴う整合フィルタ処理によって他のLiDARからの光を分離する。
ここで、例えば、非常に強い光が入射された場合、整合フィルタ処理の出力が大きくなり、自装置の反射パルス列として判定されてしまうおそれがある。すなわち、整合フィルタ処理の場合、大きな信号が入力されると、単一のパルスのみが重なっていたとしても、出力が大きくなってしまう。そこで、第2の実施形態に係る混線診断・分離処理部166aは、参照波形におけるパルスを間引く(参照波形を変形する)ことで、入射したパルス光が反射パルス列であるか否かを判定する。
図11A〜図11Cは、第2の実施形態に係る混線診断・分離処理部166aによる処理の一例を説明するための図である。ここで、図11A〜図11Cにおいては、図2で示す発光タイミングでパルス光を発光したパルス列が物体によって反射された反射パルス列における第3の自機パルスと第4の自機パルスとの間に他機パルスが含まれる場合の処理の一例について示す。また、図11A〜図11Cにおいては、(1)〜(4)に整合フィルタ処理の模式図を示し、下段に、整合フィルタ処理の出力「g(t)」を示す。
例えば、図11Aに示すように、反射パルス列における第3の自機パルスと第4の自機パルスとの間に他機パルスが含まれる反射光に対して上記した整合フィルタ処理を実施した場合、出力「g(t)」には、図11Aに示すように、自機パルス以外にも他機パルスに基づく信号が含まれることとなる。例えば、図11Aに示すように、出力「g(t)」は、他機パルスのみによるピークや、他機パルスと自機パルスが重なることで出力されたピークを含む。混線診断・分離処理部166aは、このようなピークが検出可能な強度の際に誤って自機の信号として処理されることを抑止するため、以下の処理によって反射パルス列を判別する。
具体的には、混線診断・分離処理部166aは、上述した整合フィルタ処理を実行する際に参照波形におけるパルスを間引いた整合フィルタ処理を実施し、この処理による出力「g(t)」の変化に基づいて反射パルス列を判別する。例えば、混線診断・分離処理部166aは、図11Bに示すように、参照波形から3番目のパルスを間引いて整合フィルタ処理を実行する。すなわち、混線診断・分離処理部166aは、整合フィルタ処理における参照波形を変形し、変形後の参照波形を用いて整合フィルタ処理を実行する。
このような間引きを伴う整合フィルタ処理を実行すると、整合フィルタ処理における出力「g(t)」における他機パルスのみが参照波形のパルスと重なる際の信号は、間引きを行わない場合(図11Aの場合)と変わらないピーク強度をもつか、或いは、信号自体が消失することとなる。また、他機パルスと自機パルスが同時に参照波形のパルスと重なる際の信号は、重なり数や重なり位置に応じたピークをもつこととなる。これに対して、自機パルスのみが参照波形のパルスと重なる際の信号は、いずれのパルスを間引いた場合であっても、毎回近似したピーク強度をもつこととなる。すなわち、自機パルスのみが参照波形のパルスと重なる信号は、間引きを行わない場合(図11Aの場合)のピーク強度から間引き分のピーク強度(例えば、1パルス分に相当するピーク強度)が低下したピーク強度となる。したがって、自機パルスの数が十分に多く、自機パルスと他機パルスが同時に参照波形のパルスと重なる数が十分に少ないと仮定すると、混線診断・分離処理部166は、間引き後に整合フィルタ処理を行った回数(参照波形において間引くパルスの位置を変えて行った整合フィルタ処理の回数)に対して一定の回数以上の試行において、同程度のピーク強度をもち、かつ、その強度が間引きを行わない場合のピーク強度よりも低くなるピークを自機パルスのみのピークとして判定することができる。
例えば、参照波形における3番目のパルスを除いた場合、図11Bに示すように、自機パルスのみが参照波形と重なった際の信号の強度が3/4に減少する。ここで、他機パルスのみが参照波形と重なった際の信号のピークの強度は変わらず、他機パルスと自機パルスが同時に参照波形と重なった信号のピーク強度は、間引きによって、自機パルスのみが参照波形と重なった際と同じピーク強度となる。また、例えば、参照波形における2番目のパルスを除いた場合、図11Cに示すように、自機パルスのみ参照波形と重なった際の信号の強度が3/4に減少する。ここで、他機パルスのみが参照波形と重なった際の信号のピークの強度は変わらず、他機パルスと自機パルスが同時に参照波形のピークと重なった際の信号のピーク強度は、間引きによって、他機パルスのみが参照波形のパルスと重なった際と同じピーク強度となる。また、参照波形における2番目のパルスを除いた場合、他機パルスのみが参照波形と重なった際のピークにおいて消失するものがある。
混線診断・分離処理部166aは、上述したように、参照波形において間引き対象となるパルスを変えながら、複数回の整合フィルタ処理を実行し、処理後のピークの変化を参照することで、他機パルスを含む反射パルス列の中から自機パルスを判別する。すなわち混線診断・分離処理部166aは、複数回の整合フィルタ処理において(図11B及び図11C)、処理後のピーク強度が同程度であり、かつ、そのピーク強度が、間引きなしの場合のピーク強度の3/4となっているピークを自機パルスのみのピークと判定する。そして、混線診断・分離処理部166aは、判定したピークの出力元となる複数のパルス光を、自機の反射パルス列であると判定する。
上述した実施形態では、参照波形における第3と第2のパルスを間引いた場合の整合フィルタ処理の結果に基づいて判定する場合の処理を一例に挙げて説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、さらに、第4のパルスを間引いて行った整合フィルタ処理の結果を加味して判定する場合であってもよい。すなわち、間引くパルスの位置と、整合フィルタ処理の試行回数は、任意に設定することができる。例えば、自機から出力されるパルス列に含まれるパルス光の数に応じて、間引きパルスの位置や、試行回数が設定される場合であってもよい。
次に、上述した混線診断・分離処理の手順について説明する。図12は、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aによる処理の手順を示すフローチャートである。図12に示すように、混線診断・分離処理部166aは、フォトディテクタ130によって検出された複数のパルス光について、整合フィルタ処理なしで検出可能な信号であるか否かを判定する(ステップS201)。ここで、検出可能な信号であると判定すると(ステップS201肯定)、混線診断・分離処理部166aは、検出した信号(複数のパルス光)が自機のパルス列と同じタイミングであるか否かを判定する(ステップS202)。
ここで、検出した信号が自機のパルス列と同じタイミングである場合には(ステップS202肯定)、混線診断・分離処理部166aは、検出した信号を自機のパルス列と決定する(ステップS203)。一方、検出した信号が自機のパルス列と同じタイミングではない場合には(ステップS202否定)、混線診断・分離処理部166aは、検出した信号を他機のパルス列と決定する(ステップS104)。
一方、ステップS201の判定において、検出可能な信号ではないと判定すると(ステップS201否定)、混線診断・分離処理部166aは、整合フィルタ処理を実行して(ステップS205)、検出可能な信号か否かを判定する(ステップS206)。ここで、検出可能な信号ではない場合(ステップS206否定)、混線診断・分離処理部166aは、反射光無しと判定する(ステップS213)。
一方、ステップS206の判定において、検出可能な信号である場合(ステップS206肯定)、混線診断・分離処理部166aは、パルスを間引いた間引き整合フィルタを作成して(ステップS207)、間引いた後の整合フィルタ処理を実行する(ステップS208)。そして、混線診断・分離処理部166aは、間引き後の整合フィルタ処理を指定の回数繰り返すと(ステップS209肯定)、一定の回数以上、間引き前の整合フィルタ処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の整合フィルタ処理の値間で近似する値が出力されたか否かを判定する(ステップS210)。
ここで、一定の回数以上、間引き前の整合フィルタ処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の整合フィルタ処理の値間で近似する値が出力された場合(ステップS210肯定)、混線診断・分離処理部166aは、該当する信号を自機のパルス列と決定する(ステップS211)。一方、一定の回数以上、間引き前の整合フィルタ処理の値よりも小さく、かつ、間引き後の整合フィルタ処理の値間で近似する値が出力されなかった場合(ステップS210否定)、混線診断・分離処理部166aは、他機のパルス列と決定する(ステップS212)。なお、混線診断・分離処理部166aは、上述した処理において、間引き後の整合フィルタ処理を指定された回数繰り返すまで、ステップS207〜S209の処理を繰り返し実行する。
上述したように、第2の実施形態によれば、整合フィルタ処理部168は、反射パルス列に対して所定の時間間隔でピークが出現する参照波形を用いた整合フィルタ処理を実行することで、当該反射パルス列における信号成分の強度を増加させる。従って、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aは、反射パルス列におけるS/N比を容易に改善することを可能にする。
また、第2の実施形態によれば、混線診断・分離処理部166aは、経時的に受光された複数の光に対して、所定の時間間隔でピークが出現する参照波形と当該参照波形を変形した波形とを用いた整合フィルタ処理をそれぞれ実行し、参照波形の変形前後の整合フィルタ処理の結果の変化に基づいて、複数の光が反射パルス列であるか否かを判定する。従って、第2の実施形態に係るレーザー距離計測装置100aは、周囲に他のLiDARが存在していたとしても、正確な距離計測を行うことを可能にする。
上述した実施形態では、加算処理部164と整合フィルタ処理部168をそれぞれ備えるレーザー距離計測装置について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、レーザー距離計測装置が、加算処理部164及び整合フィルタ処理部168を両方備える場合であってもよい。かかる場合には、例えば、受光の関連する回路の周波数帯域や、1パルスの長さに応じて、用いられる処理部が切り替えられる場合であってもよい。
また、上記実施の形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。