<第1実施形態>
(センサの利用例およびその原理)
図1(a)は、実施形態に係るセンサ内蔵ボール1(以下、単に「ボール1」)の利用例を説明するための図である。
本開示に係るセンサ内蔵ボールは、種々のボールに適用されてよいが、実施形態の説明では、野球用のボール(厳密に言えば野球用のボールを模したもの)を例に取る。ボール1は、後述するように、加速度センサ3(図3(a))および角速度センサ5(図3(a))を内蔵しており、ボール1の加速度および角速度を検出可能となっている。
図1(a)は、ボール1が投げられる様子を示している。通常、ボール1が投げられる場合、矢印y1で示すように、ボール1は、指によりつかまれた状態で、腰、肩、肘および/または手首の回りに概ね回転運動するように運ばれる。そして、ボール1は、リリースポイントにおいて離されると、それまでの円軌道上における速度と、遠心力に基づく速度とが合成された速度で飛び始め、概ね直線的に進行する(矢印y2)。
図1(b)は、上記のようなボール1の運動に係る諸量の記号を示す図である。
円軌道上のボール1に加えられる遠心力をF、ボール1の質量をm、ボール1の、円軌道の半径方向における加速度をa、円軌道の半径(回転半径)をr、円軌道上のボール1の角速度をω、ボール1の、円軌道の接線方向における速度をvとする。このとき、公知のように、F=maである。また、a=rω2=vω=v2/rおよびv=rω等が成り立つ。
従って、例えば、ボール1の加速度aを角速度の自乗ω2で割ることによって、ボール1の円軌道の半径r(=a/ω2)を求めることができる。また、例えば、ボール1の加速度aを角速度ωで割ることによって、円軌道上(接線方向)の速度v(=a/ω)を求めることができる。
そして、例えば、このような半径rおよび/または速度vの瞬時値または時系列データに基づいて投球動作の解析を行うことができる。この際、半径rの大きさは、例えば、腰、肩、肘および手首がボール1の回転に及ぼす影響の解析に役立つ。また、例えば、加速度aおよび速度v(=a/ω)は、リリースポイントにおいて最大値となると考えられるから、これらの値からリリースされたボール1の速度(矢印y2で示す直線軌道上の速度)を予測することも可能である。
以下、このような利用例を実現するための構成例について説明する。
(ボールの外観)
図2(a)および図2(b)は、ボール1の外観を示す正面図および上面図である。
これらの図では、直交座標系xyzを付している。直交座標系xyzは、ボール1に固定されている座標系である。すなわち、ボール1の平行移動および/または回転移動に伴って、直交座標系xyzも平行移動および/または回転移動する。
ボール1は、例えば、投球等の所定の動作に関して、本物の野球用のボールと同様に扱うことができるように本物の野球用のボールに模して構成されている。例えば、図1(a)の例のように投球を対象としている場合、ボール1は、少なくとも概略球形とされるとともに、大きさ、質量および弾力(ゴムボールのように球形の歪みを容易に許容するような柔らかさを有するか否か)が本物の野球用のボールと概ね同等になるように設定されている。さらに、ボール1は、必要に応じて、表面の形状、表面の材質(別の観点では摩擦係数および表面の弾力)および/または質量分布等も本物の野球用のボールと概ね同等となるように設定されてよい。
図示の例では、ボール1は、表面の形状についても、本物の野球用のボールを模して構成されており、縫い目または縫い目状の形状からなる境界線7を有している。境界線7は、ボール1の表面を2つの領域9Aおよび9B(以下、AおよびBを省略することがある。)に分けている。
各領域9は、1対のドーム状部分9aと、1対のドーム状部分を接続する1対のドーム状部分9aよりも幅が狭い接続部9bとを有している。各領域9における1対のドーム状部分9aの対向方向は、2つの領域9間で互いに直交している。なお、各領域9において、1対のドーム状部分9aの対向方向は、領域9の幅方向中央かつ領域9の長手方向の両端からの距離が等しい2点と、ボール1の中心との3点を通る直線が延びる方向である。図示の例では、領域9Aにおいては、1対のドーム状部分9aは、z軸方向において対向しており、領域9Bにおいては、1対のドーム状部分9aは、y軸方向において対向している。
図2(a)に示すように、ボール1は、例えば、表示部11を有している。表示部11は、例えば、セグメント表示によって数字を表示するだけのものであってもよいし、画像(数字のみの画像も含む)を表示可能なものであってもよい。前者としては、例えば、LED(light emitting diode)を配列したもの、および液晶表示装置(セグメント表示用)を挙げることができる。後者としては、例えば、液晶表示装置および有機EL(Electroluminescence)表示装置を挙げることができる。表示部11の位置および大きさは適宜に設定されてよい。表示部11は、ボール1の外部へ露出した状態が維持されるものであってもよいし、投球等の際には適宜なカバーによって覆われた状態とされるものであってもよい。
特に図示しないが、ボール1の外表面には、表示部11の他、例えば、ボール1に対する操作を受け付けるための操作部、またはボール1の電池13(図3(a))を充電するための端子(または電池13を交換するための蓋)が設けられていてもよい。これらは、表示部11と同様に、露出した状態が維持されるものであってもよいし、投球等の際に適宜なカバーによって覆われた状態とされるものであってもよい。
(ボールの構成)
図3(a)は、ボール1の構成を模式的に示すブロック図である。
ボール1は、例えば、加速度aを検出する加速度センサ3と、角速度ωを検出する角速度センサ5と、検出された加速度aおよび角速度ωに基づいて速度vおよび半径rを算出する演算部15と、算出結果を示す既述の表示部11と、これらに電力を供給する電源部17とを有している。
なお、センサの語は、所定の物理量を電気信号に変換する部分(トランスデューサー)を指す語と捉えられてもよいし、トランスデューサーだけでなく、トランスデューサーへの電力を供給する部分、および/またはトランスデューサーからの電気信号を検出する部分を含む装置を指す語と捉えられてもよい。ただし、実施形態の説明では、角速度センサ5の語は、後者であるものとする。
加速度センサ3は、公知の種々の形式のものとされてよい。例えば、加速度センサ3は、加速度に応じた大きさで歪みを生じる圧電体に生じる電荷または電圧によって信号レベルが規定されるものであってもよいし、加速度に応じた大きさで歪みを生じる圧電体の抵抗値の変化によって信号レベルが規定されるものであってもよいし、加速度に応じた大きさで電極間距離が変化するキャパシタの容量の変化によって信号レベルが規定されるものであってもよい。また、加速度センサ3は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術によって実現されるものであってよい。
加速度センサ3は、例えば、互いに直交する3軸それぞれの方向における加速度を検出可能である。そのような加速度センサ3は、1軸または2軸の加速度を検出可能な、1つまたは2つの加速度センサが組み合わされて構成されていてもよいし、1つの加速度センサ(例えば加速度によって変位する錘が3軸で共通化されているもの)によって実現されていてもよい。各軸について、加速度センサ3の検出範囲(下限値および上限値)ならびに精度はボール1の使用目的等に応じて適宜に設定されてよい。
加速度センサ3は、例えば、検出対象の軸(本実施形態では上記のように3軸)がボール1の境界線7に対して特定の関係になるようにボール1の内部に実装されている。例えば、検出対象である3軸は、図2(a)および図2(b)において示した直交座標系xyzの3軸である。具体的には、例えば、この3軸のうち1つ(z軸)は、2つの領域9のうち一方(9A)における1対のドーム状部分9aの対向方向に延びる軸であり、3軸のうち他の1つ(y軸)は、2つの領域9のうち他方(9B)における1対のドーム状部分9aの対向方向に延びる軸であり、3軸のうち残りの1つ(x軸)は、前記の2方向に直交する軸である。
加速度センサ3は、ボール1の重心に位置していてもよいし、重心から離れて位置していてもよい。換言すれば、加速度センサ3は、ボール1の重心回りの回転(以下、「スピン」ということがある。)による遠心力に係る加速度を基本的に含まない加速度を検出してもよいし、スピンによる遠心力に係る加速度を検出可能であってもよい。
角速度センサ5は、公知の種々の形式のものとされてよい。例えば、角速度センサ5は、回転体に働く慣性力によって信号レベルが規定されるものであってもよいし、振動体に働くコリオリの力によって信号レベルが規定されるものであってもよいし、流体に働くコリオリの力によって信号レベルが規定されるものであってもよい。ただし、実施形態の説明では、振動体に働くコリオリの力によって信号レベルが規定されるものを例に取る。
角速度センサ5は、例えば、互いに直交する3軸それぞれの回りにおける角速度を検出して出力可能である。なお、そのような角速度センサ5は、1軸または2軸の角速度を検出可能な、1つまたは2つの角速度センサが組み合わされて構成されていてもよいし、1つの角速度センサ(例えば振動体を構成する圧電体が3軸で一体的に形成されているもの)によって実現されていてもよい。
各軸について、角速度センサ5の検出範囲(下限値および上限値)ならびに精度はボール1の使用目的等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、角速度センサ5は、14400deg/s(=360deg×40rps(rotations per second))以上の角速度を検出可能である。このような大きさまで検出可能であると、例えば、野球用のボール1のスピンを十分に計測可能である。
角速度センサ5は、例えば、検出対象の軸(本実施形態では上記のように3軸)がボール1の境界線7に対して特定の関係になるようにボール1の内部に実装されている。例えば、角速度センサ5の検出対象である3軸は、x軸、y軸およびz軸である。これらの軸については、加速度センサ3の説明で述べたとおりである。
角速度センサ5は、加速度センサ3の検出対象の軸に対して直交する軸の回りの角速度を検出可能である。例えば、加速度センサ3がx軸方向の加速度を検出可能であるのに対して、角速度センサ5は、y軸回りおよび/またはz軸回り(本実施形態では双方)の角速度を検出可能である。同様に、y軸方向の加速度に対してx軸および/またはz軸回り(本実施形態では双方)の角速度が検出され、z軸方向の加速度に対してx軸および/またはy軸回り(本実施形態では双方)の角速度が検出される。
従って、遠心力F(合力または各軸における分力。以下同様。)に係る加速度aと、遠心力Fに係る角速度ωとが検出可能となる。ひいては、図1(b)を参照して説明したように、速度vおよび/または半径rを算出可能となる。
なお、別の観点では、角速度センサ5の検出対象の3軸は、加速度センサ3の検出対象の3軸と同一である。角速度センサ5は、ボール1の重心に位置していてもよいし、重心から離れて位置していてもよい。
演算部15は、例えば、IC(Integrated Circuit)によって構成されており、特に図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read only memory)、RAM(Random access memory)および補助記憶装置(省略可)を含んでいる。そして、CPUが、ROMおよび/または補助記憶装置に記録されているプログラムを実行することによって、種々の演算(制御含む)を行う複数の機能部(後述)が構成される。なお、演算部15の一部または全部は、電子回路によって構成されていてもよい。
電源部17は、例えば、電池13を含んでおり、電池13からの直流電力を、適宜な電圧の直流電力、または適宜な電圧および周波数の交流電力に変換して、加速度センサ3、角速度センサ5、演算部15および表示部11に供給する。ボール1内において必要とされる電圧(必要電圧)は適宜に設定されてよい。必要電圧は、ボール1が正常に動作するために必要な、電源部17に供給される電力の電圧である。正常に動作しているか否かは、例えば、仕様書またはパンフレットによって特定されてよい。必要電圧は、例えば、4.2V以下である。
電池13は、使い捨ての電池(一次電池)であってもよいし、充電して繰り返し使用される電池(二次電池)であってもよい。二次電池は、例えば、リチウムイオン電池である。充電は、ボール1に設けられた不図示の端子を介してなされてもよいし、電池13がボール1から取り外されて外部の充電器に装着されることによってなされてもよいし、電磁誘導などを利用した無線給電によってなされてもよい。電池13の数および1つの電池13が供給する電力の電圧は適宜に設定されてよい。例えば、電池13の数は1つであり、かつその電圧は4.2V以下である。
(演算部の構成)
図3(b)は、主として角速度センサ5および演算部15の構成を示すブロック図である。
上述のように、演算部15においては、各種の機能部(19、21、23、25および27)が構築される。これらの動作は、例えば、以下のとおりである。
速度算出部19は、図1(b)を参照して説明したように、加速度センサ3の検出した加速度aと、角速度センサ5の検出した角速度ωとに基づいて、速度v(=a/ω)を算出する。この算出は、例えば、所定の算出開始条件が満たされてから所定の算出終了条件が満たされるまで、比較的短い所定の周期で繰り返し行われる。
算出開始条件は、不図示の操作部に対して所定の操作がなされたことであってもよいし、不図示の外部機器から所定の情報を含む無線信号が入力されたことであってもよいし、加速度センサ3および/または角速度センサ5の検出値が所定の条件を満たしたことであってもよい。所定の条件は、例えば、検出値または検出値に所定の演算を施した値が所定の閾値を超えたこととされてよい。算出終了条件も、同様に、不図示の操作部に対して所定の操作がなされたことであってもよいし、不図示の外部機器から所定の情報を含む無線信号が入力されたことであってもよいし、加速度センサ3および/または角速度センサ5の検出値が所定の条件を満たしたことであってもよい。
速度vの具体的な算出方法は種々可能である。例えば、まず、3軸それぞれの加速度(ベクトル)を合成して全体の加速度を求める。また、3軸それぞれの角速度(回転軸の延びる方向を向きとするベクトル)を合成して全体の角速度を求める。そして、全体の加速度の大きさを全体の角速度の大きさで割ってもよい。また、例えば、上記のように合成した全体の角速度(ベクトル)を、全体の加速度(ベクトル)の方向の成分(全体の加速度の方向に平行な軸の回りの角速度)と、残りの成分とに分解する。そして、全体の加速度の大きさを前記残りの成分の大きさで割ってもよい。なお、上記のような演算においては、加速度センサ3の検出対象の3軸と、角速度センサ5の検出対象の3軸との相対関係が特定できれば、必ずしも両者の3軸が同一である必要はない。
速度vの算出において、加速度aは、重力加速度が除去されたものとされてよい。例えば、演算部15は、検出された加速度からローパスフィルタによって重力加速度を抽出し、この抽出した重力加速度を、検出された加速度から差し引いて、速度vの演算に用いる加速度を算出する。半径rの演算等の他の演算についても同様である。
半径算出部21は、図1(b)を参照して説明したように、加速度センサ3の検出した加速度aと、角速度センサ5の検出した角速度ωとに基づいて、回転半径r(=a/ω2)を算出する。この算出は、例えば、上記の速度vの算出と同様に、所定の算出開始条件が満たされてから所定の算出終了条件が満たされるまで、比較的短い所定の周期で繰り返し行われる。算出開始条件および算出終了条件は、速度vのものと同様とされてよい。
半径rの具体的な算出方法も、速度vの算出方法と同様に、種々可能である。例えば、速度vの算出と同様に、全体の加速度(ベクトル)の大きさを全体の角速度(ベクトル)の大きさの自乗で割ってもよいし、全体の加速度の大きさを、全体の角速度のうちの上記の残りの成分の大きさの自乗で割ってもよい。なお、加速度および/または角速度の合成および/または分解等、速度vの算出と半径rの算出とで共通する演算は、1回行われればよい(速度算出部19と半径算出部21とは一部が共用されていてよい。)。
タイマー23は、所定の計時開始条件が満たされてから所定の計時終了条件が満たされるまでの間の時間を計測する。例えば、タイマー23は、ボール1が投げられたとみなすことができる条件が満たされたときに計時を開始し、ボール1が捕球されたとみなすことができる条件が満たされたときに計時を終了する。これにより、予め定められた距離dで投球及び捕球がなされることを前提として、計時された時間Tで距離dを割ることにより、投球から捕球までの平均速度vm(=d/T)を求めることができる。
上記のような条件判定は、例えば、加速度センサ3および/または角速度センサ5の検出値に基づいてなされてよい。例えば、投球がなされたと判定される条件は、角速度センサ5が検出した角速度(合成されたものまたは1軸のもの)の大きさが所定の閾値を超えたこと、合成された3軸全体の加速度の大きさが重力加速度よりも大きい所定の閾値を超えたこと、または速度算出部19が算出した速度vが所定の閾値を超えたこととされてよい。また、例えば、捕球がなされたと判定される条件は、投球がなされたと判定された後またはそれから所定の時間が経過した後、角速度センサ5が検出した角速度(合成されたものまたは1軸のもの)の大きさが所定の閾値を下回ったこと、または合成された3軸全体の加速度の大きさが重力加速度よりも大きい所定の閾値を下回ったこととされてよい。
平均速度算出部25は、タイマー23が計時した時間Tと、予め保持している距離dとに基づいて、上述の平均速度vm(=d/T)を算出する演算を行う。
表示制御部27は、算出された速度v、半径rおよび/または平均速度vmを表示するように表示部11に制御信号を出力する。例えば、表示制御部27は、繰り返し算出された速度vのうちの代表値、繰り返し算出された半径rの代表値、および/または平均速度vmを選択的にまたは同時に表示部11に表示させる。表示される内容は、不図示の操作部に対する操作、不図示の外部装置からの無線信号の入力、または加速度センサ3および/もしくは角速度センサ5を操作部代わりとした所定の操作によって切り換えられてもよい。速度vの代表値は、例えば、最大値または平均値である。半径rの代表値は、例えば、速度vの最大値が得られたときの半径r、または半径rの平均値である。
なお、繰り返し算出された速度vおよび半径rは、例えば、時系列データとして演算部15に保持されていてよい(例えばRAMまたは補助記憶装置に記憶されていてよい。)。そして、時系列データは、無線または有線で外部の機器(例えばパーソナルコンピュータ)に転送されてよい。外部の機器に着脱可能な記録媒体をボール1に着脱可能にボール1を構成し、記録媒体に時系列データを保持させてもよい。また、繰り返し算出された速度vおよび半径rは、例えば、各々の算出時点において、算出開始からの最大値が更新されるか否かの判定および更新されると判定されたときの更新に用いられ、直後に破棄されてもよい(時系列データとして保持されなくてもよい。)。
(角速度センサ)
角速度センサ5は、例えば、トランスデューサーとしての圧電素子33と、圧電素子33を励振させる励振部35と、圧電素子33に生じる電気信号を検出し、当該電気信号(所定の処理が施されてもよい)を演算部15に入力する検出部37とを有している。なお、図3(b)では、これらは、3軸のうち1軸に係るものが代表して示されている。ただし、3軸全体のものが示されていると捉えられても構わない。
図4(a)は、1軸の角速度を検出する角速度センサ31(図4(b))の圧電素子33の一例を示す斜視図である。3軸の角速度センサ5は、例えば、角速度センサ31またはこれに類する角速度センサが、検出対象の軸が互いに直交するように組み合わされることによって構成される。
図4(a)においては、圧電素子33に対して固定された直交座標系D1−D2−D3を付している。圧電素子33は、例えば、D2軸回りの角速度を検出するように構成されている。圧電素子33は、D1軸方向に励振され、D3軸方向にコリオリの力が生じるように構成されている。具体的には、以下のとおりである。
圧電素子33は、圧電体39と、圧電体39に電圧を印加するための励振電極41Aおよび41B(以下、AおよびBを省略することがある。)と、圧電体39に生じた電気信号を取り出すための検出電極43Aおよび43B(以下、AおよびBを省略することがある。)とを有している。
圧電体39は、その全体が一体的に形成されている。圧電体39は、単結晶であってもよし、多結晶であってもよい。また、圧電体39の材料は適宜に選択されてよく、例えば、水晶(SiO2)、LiTaO3、LiNbO3、PZTである。
圧電体39において、電気軸乃至は分極軸(以下、両者を代表して分極軸のみに言及することがある。)は、D1軸に一致するように設定されている。なお、分極軸は、所定の範囲(例えば15°以内)でD1軸に対して傾斜していてもよい。また、圧電体39が単結晶である場合において、機械軸及び光軸は、適宜な方向とされてよいが、例えば、機械軸はD2軸方向、光軸はD3軸方向とされている。
圧電体39は、概略U字状に形成されている。すなわち、圧電体39は、基部45と、基部45からD2軸方向に互いに並列に延びる駆動腕47及び検出腕49とを有している。
図4(b)は、図4(a)のIVb−IVb線における断面図である。
図4(a)及び図4(b)に示すように、励振電極41は、駆動腕47のD1軸方向またはD3軸方向に面する4面に設けられている。D3軸方向において対向する励振電極41A同士は同電位とされる。D1軸方向において対向する励振電極41B同士は同電位とされる。励振部35は、励振電極41Aと41Bとの間に所定の周波数の交流電圧を印加する。
検出電極43は、検出腕49において、D1軸方向に面する2面において、D3軸方向に分割して設けられている。D2軸に直交する断面において互いに斜めの位置関係になる検出電極43A同士は同電位とされ、同様に、検出電極43B同士は同電位とされる。検出部37は、検出電極43Aと43Bとの間の電位差を検出する。なお、電荷または電流の検出等は電位差の検出と等価である。
励振電極41に交流電圧が印加されると、駆動腕47はD1軸方向に湾曲するように振動する。その振動は、基部45を介して検出腕49に伝達され、検出腕49もD1軸方向において振動する。具体的には、検出腕49は、駆動腕47の湾曲する側とは反対側に湾曲するように、駆動腕47とは逆の位相で振動する。
圧電素子33がD2軸回りに回転されると、D1軸方向において振動している検出腕49には、慣性力の一つである、その角速度に応じた大きさのコリオリの力が加わる。その結果、検出腕49はD3軸方向において振動する。なお、駆動腕47もD3軸方向において振動する。
その結果、検出電極43Aおよび43Bには交流電圧が生じ、検出部37は、この交流電圧を検出する。そして、電圧の振幅に基づいてD2軸回りの角速度が特定される。また、励振部35の印加電圧と検出した電気信号との位相差に基づいてD2軸回りの回転の向きが特定される。
(角速度センサの励振部)
図5は、主として励振部35の構成の一例を示す回路図である。
励振部35は、例えば、圧電素子33に並列に接続されているインバータ51および帰還抵抗53と、これらと圧電素子33との間に直列に接続されている制限抵抗55と、圧電素子33の前後と基準電位部との経路に介在しているキャパシタ57Aおよび57Bとを有している。
この回路図から理解されるように、圧電素子33および励振部35は、水晶発振器またはセラミック発振器と同様の構成とされてよい。従って、角速度センサ5は、圧電素子33の振動に基づく比較的精度が高い発振信号を出力可能である。確認的に記載すると、発振信号は、信号レベル(例えば電圧)が一定の周期で変化する信号である。発振信号の波形(1周期における信号レベルの変化態様)は、適宜なものであってよい。
図3(b)および図5に示すように、タイマー23は、この圧電素子33の振動に基づいて生成される発振信号を角速度センサ5から取得する。そして、タイマー23は、角速度センサ5からの発振信号の波の計数に基づいて計時を行う。なお、図5に示すように、励振部35とタイマー23との間には、バッファ59等が介在してもよい。また、タイマー23が計数する発振信号は、角速度センサ5からの発振信号そのままであってもよいし、分周器または逓倍器によって周波数が変えられたものであってもよい。
なお、角速度センサ5からのそのままの発振信号に基づいてタイマー23が計時を行っても、平均速度算出部25は、十分な精度で平均速度を算出することができる。例えば、角速度センサ5からの発振信号の周波数(角速度センサ5の駆動周波数)が50kHzであると仮定する。投手から捕手までの距離を18mと仮定する。球速100km/hと仮定する。そうすると、投手から投げられたボール1が捕手に到達するまでの時間は648ミリ秒(=18m/100km/h)である。50kHzの発振信号の1つの波の周期は0.02ミリ秒である。従って、1つの波の周期で誤差が生じたとしても、誤差は0.01%にも満たない。
以上のとおり、本実施形態では、センサ内蔵ボール1は、加速度センサ3と、角速度センサ5と、半径算出部21および/または速度算出部19とを有している。半径算出部21は、加速度センサ3の検出値に基づく加速度aを、角速度センサ5の検出値に基づく、加速度aの方向に交差(基本的には直交)する軸回りの角速度の自乗ω2で、割る演算によって回転半径rを算出する。速度算出部19は、加速度センサ3の検出値に基づく加速度aを、角速度センサ5の検出値に基づく、加速度aの方向に交差(基本的には直交)する軸回りの角速度ωで、割る演算によって速度vを算出する。
従って、例えば、図1(a)および図1(b)を参照して説明したように、投球中のボール1の半径rおよび/または速度vを特定することができる。これにより、例えば、投球動作の解析を行うことができる。また、例えば、リリース直前の速度vに基づいて、投球されたボール1の速度予測を行うことができる。
ボール1は、外表面が、縫い目または縫い目状の形状からなる境界線7によって2つの領域9Aおよび9Bに分けられている。角速度センサ5は、2つの領域9それぞれの1対のドーム状部分9aの対向方向に直交している軸(x軸)、および前記2つの領域9の一方の1対のドーム状部分9aの対向方向に平行な軸(y軸またはz軸)の少なくとも一方の軸回りの角速度を検出可能である。
従って、例えば、境界線7と、角速度センサ5の検出対象の軸との関係が明確である。ここで、例えば、投手は、通常、境界線7を基準にしてボール1に対する指の位置を決定する。従って、境界線7と角速度センサ5の検出対象の軸との関係が明確であることによって、投手がボール1を投げるときのボール1の運動の解析が容易化される。
本実施形態では、角速度センサ5は、互いに直交する3軸それぞれの回りの角速度を検出可能である。
従って、例えば、3軸の角速度(ベクトル)の合成によって、ボール1の円軌道について、回転軸の向きを特定することができる。これにより、例えば、腕を振るときの向きを特定するなど、投球フォームの解析を行うことができる。また、加速度センサ3も3軸の加速度を検出可能であれば、遠心力Fに係る加速度aを正確に求め、ひいては、速度vおよび/または半径rを正確に求めることができる。
本実施形態では、ボール1は、計時を行うタイマー23をさらに有している。角速度センサ5は、圧電体39と、圧電体39に電圧を印加して圧電体39を振動させる励振部35と、圧電体39に加えられるコリオリの力に応じて生じる電気信号を検出する検出部37と、を有している。タイマー23は、圧電体39の振動に基づいて生成される発振信号の波を計数することにより計時を行う。
従って、例えば、タイマー23は、圧電体39の振動に基づく比較的正確な発振信号によって計時を行うことができる。また、そのような正確な計時のために角速度センサ5とは別個に発振回路を設ける必要はなく、小型化および/またはコスト削減が図られる。
本実施形態では、ボール1は、所定の距離をタイマー23の計時した時間で割る演算またはこれに相当する演算によって平均速度vmを算出する平均速度算出部25をさらに有している。
従って、例えば、上記のように小型化かつ正確に計時を行うタイマー23の有効利用が図られる。また、例えば、投球中のボール1の半径rおよび/または速度vの算出と組み合わされることによって、投球動作と球速との関係を解析することができる。
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る計測システム201の構成を示すブロック図である。
なお、第2実施形態の説明では、基本的に、第1実施形態との相違部分について述べる。特に言及がない点は、第1実施形態と同様でよい。また、第1実施形態の構成と同様または類似の構成については、第1実施形態の構成に付した符号を付すことがある。
第2実施形態に係る計測システム201は、端的に言えば、第1実施形態における計測システム(ボール1)において、ボール1に内蔵された構成の一部をボール1の外部へ移設した構成である。具体的には、以下のとおりである。
計測システム201は、ボール203と、ボール203と通信可能な外部装置205とを有している。
ボール203は、例えば、ボール1に設けられていた演算部15および表示部11を有しておらず、代わりに、無線信号(例えば電波)を出力する送信部207を有している。なお、電源部17は不図示であるがボール1と同様にボール203にも設けられている。
送信部207は、例えば、所定の送信開始条件が満たされてから所定の送信終了条件が満たされるまでの間、所定の時間刻みで継続的に、加速度センサ3および角速度センサ5の検出値を送信している。なお、送信開始条件および送信終了条件は、不図示の操作部に対して所定の操作がなされたことであってもよいし、外部装置205から所定の情報を含む無線信号が入力されたことであってもよいし、加速度センサ3および/または角速度センサ5の検出値が所定の条件を満たしたことであってもよい。
外部装置205は、例えば、パーソナルコンピュータと、無線通信を行う機器とを組わせて構成されており、受信部209、演算部211および表示部213を有している。
受信部209は、送信部207からの無線信号を受信する。これにより、外部装置205には、加速度センサ3および角速度センサ5の検出値が所定の時間刻みで継続的に入力される。
演算部211においては、CPUがROMおよび/または補助記憶装置に記憶されているプログラムを実行することによって、第1実施形態の演算部15と同様の機能部(19、21、23、25および27)が構築される。ただし、速度算出部19および半径算出部21等は、加速度センサ3および角速度センサ5の検出値を受信部209から受信する。また、タイマー23は、角速度センサ5からの発振信号ではなく、例えば、演算部211自身の発振回路が生じる発振信号に基づいて計時を行う。
表示部213は、例えば、パーソナルコンピュータのディスプレイであり、表示制御部27からの信号に基づいて画像を表示する。なお、画面の大きさがボール1の大きさに制限される第1実施形態の表示部11に比較して、表示部213は、時系列データの表示等が容易である。
以上のような構成においても、第1実施形態と同様の効果が奏される。例えば、投球中の速度vおよび/または半径rの算出によって投球動作の解析を行うことができる。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
例えば、ボールは、野球用のもの(厳密に言えば野球用のボールを模したもの)に限定されない。例えば、ソフトボール、ハンドボール、水球、バスケットボール、バレーボール、サッカー、テニス、ゴルフ、砲丸投げ、ボーリング、ラグビー、アメリカンフットボール用のボールであってもよい。
上記の例示から理解されるように、ボールは、投球されることが前提とされていなくてもよい。この場合においても、例えば、速度vおよび/または半径rの特定によってボールの軌道上の運動の解析を行うことができる。また、上記の例示から理解されるように、ボールは、球形のものに限定されない。
また、ボールは、所定の動きが制限された状態のものであってもよい。例えば、スポーツ用のボールを模した模擬球と、当該模擬球の一定の挙動のみを許容可能に模擬球を支持しているアームとを有するアーケードゲーム機において、模擬球に対して本開示の技術が適用されてもよい。
加速度センサは、3軸の加速度を検出可能でなくてもよく、1軸または2軸の加速度のみを検出可能であってよい。同様に、角速度センサは、3軸の加速度を検出可能でなくてもよく、1軸または2軸の加速度のみ検出可能であってもよい。例えば、ボールは、1つの所定軸の加速度のみを検出可能な加速度センサと、前記所定軸に直交する1つまたは2つの軸の回りの角速度のみを検出可能な角速度センサとを有していてもよい。このような態様であっても、運用次第で十分に有用なデータを得ることができる。
速度vを算出する具体的な算出方法は、加速度aを角速度ωで割る演算だけでなく、これに相当する演算を含む。同様に、半径rを算出する具体的な算出方法は、加速度aを角速度の自乗ω2で割る演算だけでなく、これに相当する演算を含む。平均速度についても同様である。例えば、速度vは、半径rを算出した後、半径rに角速度ωを乗じて算出されてもよいし、逆に、半径rは、速度vを算出した後、速度vを角速度ωで割って算出されてもよい。