以下、図面を参照して、実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では、ファスナを使用して作業材を締結可能な締結工具1を例示する。
まず、図1および図2を参照して、締結工具1で使用可能なファスナの例としてのファスナ8、9について説明する。図1に示すファスナ8は、ブラインドリベットやリベットと称されるタイプの公知のファスナである。一方、図2に示すファスナ9は、複数部材加締め式ファスナ(multi-piece swage type fastener)とも称される公知のファスナのである。なお、ファスナ9は、複数部材加締め式ファスナのうち、いわゆる軸維持式のファスナと称されるものである。以下、ファスナ8、9の構成について説明する。
図1に示すように、ファスナ8は、一体的に形成されたピン81と本体部85とで構成されている。
本体部85は、円筒状のスリーブ851と、スリーブ851の一端部から径方向外側に突出するフランジ853とを含む筒状体である。ピン81は、本体部85を貫通し、本体部85の両端から突出する棒状体である。ピン81は、軸部811と、軸部の一端部に形成されたヘッド815とを含む。ヘッド815は、スリーブ851の内径よりも大径に形成され、フランジ853とは反対側のスリーブ851の端部から突出するように配置されている。軸部811は、本体部85を貫通して、フランジ853側の端部から軸方向に突出している。軸部811のうち、スリーブ851内に配置された部分には、破断用の小径部812が形成されている。小径部812は、他の部分よりも比較的強度の弱い部分であり、締結工程において、ピン81が軸方向に引っ張られると、最初に破断するように構成されている。軸部811のうち、小径部812に対してヘッド815とは反対側の部分を、ピンテール813という。ピンテール813は、軸部811が破断した場合に、ピン81(ファスナ8)から分離される部分である。
図2に示すように、ファスナ9は、互いに別体として形成されたピン91と、カラー95とで構成されている。
ピン91は、棒状の軸部911と、軸部911の一端部に形成されたヘッド915とを含む。ヘッド915は、軸部911よりも大径の扁平円形状に形成されている。なお、ファスナ8とは異なり、軸部911には、破断用の小径部は形成されていない。カラー95は、円筒状に形成されている。カラー95の外周部における一端部には、径方向外側に突出するフランジ951が形成されている。フランジ951以外の外周部は、締結作業において後述するアンビル61Bのテーパ部617(図7参照)に係合する係合部953を構成する。係合部953は、カラー95のうち、アンビル61に負荷される加締め力によって変形する加締め領域である。カラー95の内径は、ピン91の軸部911の径よりも僅かに大きく設定されている。カラー95は、ピン91の軸部911が挿通されることで、ピン91と係合する。カラー95に係合された状態で、ピン91のヘッド915と反対側の端部領域はカラー95から突出する。
なお、締結工具1では、図1で例示されたファスナ8のほか、ピン81および本体部85の軸方向の長さや径、小径部812の位置等が異なるブラインドリベットタイプのファスナが使用可能である。また、図2で例示されたファスナ9のほか、ピン91およびカラー95の軸方向の長さや径等が異なる複数種類の軸維持式の複数部材加締め式ファスナが使用可能である。更に、図示および説明は省略するが、締結工具1では、他に、引きちぎり式の複数部材加締め式ファスナも使用可能である。引きちぎり式の複数部材加締め式ファスナは、ファスナ9と同様、互いに別体として形成されたピンとカラーとで構成されているが、そのピンはファスナ9のピン91よりも長く、ファスナ8と同様に破断用の小径部を有する。そして、締結工程において、ピンテールが引きちぎられる。このことから、ファスナ8のようなブラインドリベットと、引きちぎり式の複数部材加締め式ファスナとを、引きちぎり式のファスナと総称することができる。
以下、締結工具1について説明する。まず、図3を参照して、締結工具1の概略構成について簡単に説明する。
図3に示すように、締結工具1の外郭は、主に、アウタハウジング11と、ハンドル15と、ノーズ保持部材14を介して保持されたノーズ部6によって形成されている。
本実施形態では、アウタハウジング11は概ね矩形箱状に形成され、所定の駆動軸A1に沿って延在している。ノーズ部6は、駆動軸A1に沿って延在するように、アウタハウジング11の長軸方向における一端部に、ノーズ保持部材14を介して保持されている。なお、アウタハウジング11の他端部には、締結工程において分離されたピンテール813を収容可能な回収容器7が取り外し可能に装着されている。ハンドル15は、アウタハウジング11の長軸方向における中央部から、駆動軸A1に交差する方向(本実施形態では、概ね直交する方向)に突出している。
以下では、締結工具1の方向に関して、説明の便宜上、駆動軸A1の延在方向(アウタハウジング11の長軸方向とも言い換えられる)を締結工具1の前後方向、ノーズ部6が配置されている側を前側、回収容器7が着脱される側を後側と定義する。また、駆動軸A1に直交し、ハンドル15の延在方向に対応する方向を上下方向、アウタハウジング11が配置されている側を上側、ハンドル15の突出端(自由端)側を下側と定義する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と定義する。
図3に示すように、アウタハウジング11には、主に、モータ2と、モータ2の動力によって駆動される駆動機構4と、モータ2の動力を駆動機構4に伝達する伝達機構3とが収容されている。なお、本実施形態では、駆動機構4の一部(詳細には、ボールネジ機構40のナット41)は、インナハウジング13に収容されている。インナハウジング13は、アウタハウジング11に固定状に保持されている。この観点から、アウタハウジング11とインナハウジング13とをハウジング10として一体的にとらえることもできる。
ハンドル15は、使用者によって把持可能に構成されている。ハンドル15の上端部(アウタハウジング11に接続する基端部)には、使用者による押圧操作(引き操作)が可能に構成されたトリガ151が設けられている。ハンドル15の下端部には、バッテリ159を着脱可能に構成されたバッテリ装着部158が設けられている。バッテリ159は、締結工具1の各部およびモータ2へ電力を供給するための、繰り返し充電が可能な電源である。なお、バッテリ装着部158およびバッテリ159の構成は周知であるため、これらの説明は省略する。
本実施形態の締結工具1は、ファスナ8(図1参照)のような引きちぎり式のファスナと、ファスナ9(図2参照)のような軸維持式のファスナを締結可能ないわゆる兼用機として構成されている。そこで、ノーズ部6は、ハウジング10に対して着脱可能に構成されており、ファスナ8、9に夫々に対応するノーズ部6A(図6参照)、6B(図7参照)を含む複数種類が用意されている。使用者は、実際に使用するファスナに対応するノーズ部6を締結工具1に装着して使用する。なお、以下では、ノーズ部6A、6Bを例示するが、これらを総称する場合および何れかの区別なく指す場合には、単にノーズ部6というものとする。
また、兼用機として構成された締結工具1は、実際に使用されるファスナの種類に応じて適切に動作するように構成されている。詳細は後述するが、ここでファスナ8、9に対応する締結工具1の動作について簡単に言及する。
ファスナ8が使用される場合には、ファスナ8は、ピンテール813の一部が締結工具1のノーズ部6の先端部に挿入され、本体部85とヘッド815がノーズ部6の先端部から突出した状態で、後述のピン把持部63Aによって把持される(図6参照)。そして、締結される作業材Wの一面にフランジ853が当接する位置まで、作業材Wに形成された取付け孔にスリーブ851が挿入される。トリガ151の押圧操作に応じてモータ2を介して駆動機構4が駆動される。これにより、ピン把持部63に把持されたピンテール813が後方へ強く引っ張られると、ヘッド815側のスリーブ851の端部が拡径し、この端部とフランジ853の間に作業材Wが挟持される。また、軸部811が小径部812で破断して、ピンテール813が分離される。その後、駆動機構4によってピン把持部63が前方の初期位置に戻されて、締結工程が終了する。
一方、ファスナ9が使用される場合には、ヘッド915が作業材Wの一面に当接した状態となるように、作業材Wに形成された取付け孔にピン91の軸部911が挿通される。その後、作業材Wの反対側の面から、カラー95が軸部911に遊嵌状に係合され、カラー95から突出した軸部911の端部領域が、後述のピン把持部63Bによって把持される(図7参照)。トリガ151の押圧操作に応じて駆動機構4が駆動されると、軸部911がピン把持部63に把持されて後方へ引っ張られることで、カラー95が軸部911に加締められる。カラー95に適切な加締め力が付与されると、ピン把持部63は、カラー95に加締められた軸部911を把持した状態で、前方の初期位置へ戻されて、締結工程が終了する。
このように、本実施形態では、締結工具1は、駆動機構4がピン把持部63を前方の初期位置から後方に移動させた後、初期位置まで戻す動作を1サイクルとして、ファスナ8、9で作業材Wを締結する締結工程を遂行するように構成されている。但し、ファスナ8が使用される場合と、ファスナ9が使用される場合とで、後方に移動されたピン把持部63の停止位置が異なっている。これは、引きちぎり式のファスナ8の場合、軸部811を小径部812で破断させるのに必要な引張り力よりも大きい引張り力を与えることが可能な後方の所定位置まで、ピン把持部63を移動させるのに対し、軸維持式のファスナ9の場合、軸部911にカラー95を確実に加締めることができるが、軸部911が破断しない程度の引張り力が与えられた時点でピン把持部63の移動を停止するためである。締結工程の詳細については後述する。
以下、締結工具1の物理的構成について詳細に説明する。
まず、モータ2について説明する。図4に示すように、モータ2は、アウタハウジング11の後端部の下部に収容されている。本実施形態では、モータ2として、小型で高出力なブラシレスDCモータが採用されている。モータ2は、ステータ21およびロータ23を含むモータ本体部20と、ロータ23から延出されてロータ23と一体的に回転するモータシャフト25とを含む。モータ2は、モータシャフト25の回転軸A2が駆動軸A1の下方で駆動軸A1と平行に(つまり、前後方向に)延在するように配置されている。モータシャフト25の前端部は、減速機ハウジング30内に突出している。モータシャフト25の後端部には、モータ2を冷却するためのファン27が固定されている。
次に、伝達機構3について説明する。図4に示すように、本実施形態では、伝達機構3は、遊星減速機31と、中間シャフト33と、ナット駆動ギア35とを主体として構成されている。以下、これらについて順に説明する。
遊星減速機31は、モータ2から駆動機構4(詳細には、ボールネジ機構40)に至る動力伝達経路において、モータ2の下流側に配置されて、モータ2のトルクを増大させて中間シャフト33に伝達するように構成されている。本実施形態では、遊星減速機31は、2組の遊星歯車機構と、これらを収容する減速機ハウジング30を主体として構成されている。なお、遊星歯車機構の構成自体は周知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。モータシャフト25は、遊星減速機31への回転動力の入力シャフトとされている。モータシャフト25の前端部(減速機ハウジング30内に突出している部分)には、遊星減速機31の第1の(上流側の)遊星歯車機構の太陽ギア311が固定されている。第2の(下流側の)遊星歯車機構のキャリア313は、遊星減速機31の最終出力シャフトとされている。
中間シャフト33は、キャリア313と一体的に回転するように構成されている。具体的には、中間シャフト33は、モータシャフト25と同軸状に回転可能に配置され、その後端部がキャリア313に連結されている。ナット駆動ギア35は、中間シャフト33の前端部の外周部に固定されている。ナット駆動ギア35は、後述するナット41の外周部に形成された被動ギア411に噛合し、中間シャフト33の回転動力をナット41に伝達する。ナット駆動ギア35と被動ギア411は、減速ギア機構として構成されている。
以下、駆動機構4について説明する。
図4に示すように、本実施形態では、駆動機構4は、アウタハウジング11の上部に収容されたボールネジ機構40を主体として構成されている。以下、ボールネジ機構40とその周辺の構成について、順に説明する。
図4および図5に示すように、ボールネジ機構40は、ナット41と、ネジシャフト46とを主体として構成されている。本実施形態では、ボールネジ機構40は、ナット41の回転運動をネジシャフト46の直線運動に変換して、後述のピン把持部63(図6および図7参照)を直線状に移動するように構成されている。
本実施形態では、ナット41は、前後方向の移動が規制され、且つ、駆動軸A1周りに回転可能な状態で、インナハウジング13に支持されている。ナット41は、円筒状に形成されており、外周部に一体に設けられた被動ギア411を有する。ナット41は、被動ギア411の前側および後側で、ナット41に外嵌された一対のラジアルベアリング412、413を介して、インナハウジング13に対して駆動軸A1周りに回転可能に支持されている。被動ギア411は、ナット駆動ギア35に噛合している。被動ギア411がナット駆動ギア35からモータ2の回転動力を受けることで、ナット41が駆動軸A1周りに回転される。
ネジシャフト46は、駆動軸A1周りの回転が規制され、且つ、駆動軸A1に沿って前後方向に移動可能な状態でナット41に係合している。詳細には、図4および図5に示すように、ネジシャフト46は、長尺体として構成され、駆動軸A1に沿って延在するように、ナット41に挿通されている。ナット41の内周面に形成された螺旋溝とネジシャフト46の外周面に形成された螺旋溝によって規定される螺旋状の軌道内には、多数のボール(図示略)が転動可能に配置されている。ネジシャフト46は、これらのボールを介してナット41に係合している。これにより、ネジシャフト46は、ナット41の回転駆動によって、駆動軸A1に沿って前後方向に直線状に移動する。
図5に示すように、ネジシャフト46の後端部には、ローラ保持部463の中央部が固定されている。ローラ保持部463は、ネジシャフト46に直交して中央部から左右方向に突出するアーム部を有する。ローラ保持部463のアーム部の左右端部には、夫々、ローラ464が回転可能に保持されている。一方、アウタハウジング11の左右の内壁部には、左右一対のローラ464に対応して、夫々、前後方向に延在するローラガイド111が固定されている。なお、詳細な図示は省略するが、ローラ464は、ローラガイド111によって上側と下側への移動が規制されている。これにより、ローラガイド111内に配置されたローラ464は、ローラガイド111に沿って前後方向に転動可能とされている。
以上のように構成されたボールネジ機構40において、ナット41が回転軸A1周りに回転されると、ボールを介してナット41に係合したネジシャフト46は、ナット41およびハウジング10に対して前後方向に直線状に移動する。なお、ナット41の回転に伴い、ネジシャフト46には駆動軸A1周りのトルクが作用する可能性もあるが、ローラ464がローラガイド111に当接することで、かかるトルクに起因するネジシャフト46の駆動軸A1周りの回転が規制されている。
以下、ネジシャフト46の後端部の周辺構成と、ネジシャフト46の後端部が配置されるアウタハウジング11の後端部内部の構成について説明する。
図4に示すように、ネジシャフト46の後端部に固定されたローラ保持部463には、磁石保持部485が固定されている。磁石保持部485は、ネジシャフト46の上側に配置され、磁石保持部485の上端には、磁石486が取り付けられている。磁石486はネジシャフト46と一体化されているため、ネジシャフト46の前後方向の移動に伴って前後方向に移動する。
一方、アウタハウジング11には、位置検出機構48が設けられている。本実施形態では、位置検出機構48は、第1センサ481と第2センサ482とを含む。第2センサ482は、第1センサ481よりも後方に配置されている。なお、本実施形態では、第1センサ481および第2センサ482は、何れも、ホール素子を備えたホールセンサとして構成されている。第1センサ481および第2センサ482は、何れも図示しない配線を介してコントローラ154(図9参照)に接続されており、磁石486が所定の検出範囲内に配置されている場合、所定の検出信号をコントローラ154へ出力するように構成されている。本実施形態では、第1センサ481および第2センサ482による検出結果は、コントローラ154によるモータ2の駆動制御に使用される。この点については後で詳述する。
図4および図5に示すように、ネジシャフト46の後端部には、延設シャフト47が同軸状に連結固定され、ネジシャフト46に一体化されている。以下、一体化されたネジシャフト46と延設シャフト47を総称して、駆動シャフト460ともいう。駆動シャフト460には、駆動軸A1に沿って駆動シャフト460を貫通する貫通孔461が設けられている。なお、貫通孔461の径は、締結工具1で使用可能なファスナのピンテールの最大径よりも僅かに大きい程度に設定されている。
アウタハウジング11の後端部における駆動軸A1上には、アウタハウジング11の内部と外部とを連通する開口部114が形成されている。開口部114の前側には、延設シャフト47の外径と概ね等しい内径を有する円筒状のガイドスリーブ117が固定されている。延設シャフト47(駆動シャフト460)の後端は、ネジシャフト46(駆動シャフト460)が初期位置(図4および図5に示す位置)に配置されたときには、ガイドスリーブ117内に配置される。ナット41の回転に伴ってネジシャフト46(駆動シャフト460)が初期位置から後方へ移動されると、延設シャフト47はガイドスリーブ117内を摺動しながら後方へ移動する。
また、図4および図5に示すように、アウタハウジング11の後端部には、円筒状に形成されて後方へ突出する容器連結部113が設けられている。容器連結部113は、ピンテール813の回収容器7を着脱可能に構成されている。回収容器7は、蓋付きの円筒部材として形成されている。使用者は、容器連結部113を介して、開口部114と回収容器7の内部空間が連通するように回収容器7をアウタハウジング11に取り付けることができる。
以下、ノーズ部6の構成について説明する。なお、ノーズ部6の方向に関しては、ノーズ部6がハウジング10に装着された状態を基準として説明する。
図3に示すように、ノーズ部6は、アンビル61と、ピン把持部63を主体として構成されている。但し、上述したように、本実施形態の締結工具1には、ファスナ8、9に夫々対応するノーズ部6A(図6参照)、6B(図7参照)が用意されている。アンビル61とピン把持部63の詳細な構成は、ノーズ部6A、6Bで異なっている。以下、ノーズ部6Aのアンビル61、ピン把持部63を、夫々アンビル61A、ピン把持部63Aといい、ノーズ部6Bのアンビル61、ピン把持部63を、夫々、アンビル61B、ピン把持部63Bというものとする。
なお、アンビル61A、61Bは、夫々、筒状の本体部85、カラー95に当接可能、且つ、ノーズ保持部材14等を介してハウジング10に着脱可能に構成されている。また、ピン把持部63A、63Bは、夫々、ピン81、91の軸部811、911を把持可能に構成されるとともに、駆動軸A1に沿ってアンビル61A、61Bに対して相対移動可能に配置されている。この意味で、ノーズ部6A、6Bは、基本的には同じ構成を有するということができる。
まず、図6を参照して、引きちぎり式のファスナ8に対応するノーズ部6Aについて説明する。
図6に示すように、本実施形態では、アンビル61Aは、長尺の円筒状のスリーブ611と、スリーブ611の前端部に固定されたノーズチップ614とを含む。スリーブ611の内径は、後述するピン把持部63Aのジョーケース64の外径と概ね等しく設定されている。スリーブ611の外周部の中央部よりもやや後端側には、径方向外側に突出する係止リブ612が設けられている。ノーズチップ614は、前端部がファスナ8のフランジ853に当接可能に構成されるとともに、後端部がスリーブ611内に突出するように配置されている。ノーズチップ614には、ピンテール813を挿入可能な挿入孔615が形成されている。
ピン把持部63Aについて説明する。図6に示すように、本実施形態では、ピン把持部63Aは、ジョーケース64と、連結部材641と、ジョー65と、付勢バネ66とを主体として構成されている。ピン把持部63Aは、ジョーアセンブリとも称される。以下、これらの部材について順に説明する。
ジョーケース64は、アンビル61Aのスリーブ611内を駆動軸A1に沿って摺動可能、且つ、内部にジョー65を保持可能な円筒状に形成されている。なお、ジョーケース64は、概ね均一の内径を有するが、前端部のみ、前方へ向けて内径が小さくなるテーパ部として構成されている。つまり、ジョーケース64の前端部の内周面は、前端に向けて縮径する円錐状のテーパ面として形成されている。また、ジョーケース64の後端部には、円筒状の連結部材641の前端部が螺合され、ジョーケース64に一体化されている。なお、連結部材641の後端部は、後述する連結部材49の前端部に螺合可能に構成されている。
ジョー65は、全体としては、ジョーケース64のテーパ面に対応する円錐状の筒状体として形成され、ジョーケース64の前端部内に、ジョーケース64と同軸状に配置されている。ジョー65は、ピンテール813の一部を把持可能に構成され、駆動軸A1周りに配置された複数の爪651(例えば、3つの爪)を有する。爪651の内周面には、ピンテール813の把持を容易とするための凹凸が形成されている。
付勢バネ66は、前後方向においてジョー65と連結部材641の間に介在配置されている。ジョー65は、付勢バネ66の付勢力によって前方へ付勢され、その外周面がジョーケース64のテーパ面に当接した状態で保持されている。なお、本実施形態では、付勢バネ66は、ジョー65と連結部材641の間に配置されたバネ保持部材67によって保持されている。
バネ保持部材67は、ジョーケース64内で駆動軸A1に沿って摺動可能に配置された円筒状の第1部材671および第2部材675を含む。第1部材671は、前側に配置されてジョー65に当接する一方、第2部材675は、後側に配置されて連結部材641に当接する。第1部材671および第2部材675は、ジョーケース64の内径よりも小さい外径を有し、夫々の前端部と後端部には、径方向外側に突出するフランジが設けられている。これらのフランジの外径は、ジョーケース64の内径(テーパ部以外の部分)と概ね等しい。付勢バネ66は、その前端部と後端部が夫々第1部材671および第2部材675のフランジに当接した状態で、第1部材671および第2部材675に外装されている。なお、第1部材671の内部には、後方に突出する円筒状の摺動部672が固定されている。摺動部672の後端部は第2部材675内に摺動可能に挿入されている。摺動部672の内径は、ネジシャフト46の貫通孔461に概ね等しい。
以上のような構成により、アンビル61Aに対し、ジョーケース64が駆動軸A1方向に移動すると、付勢バネ66の付勢力によって、駆動軸A1方向におけるジョーケース64とジョー65との配置関係が変化する。このとき、ジョー65の爪651は、夫々、その外周のテーパ面がジョーケース64のテーパ面に摺動しつつ、駆動軸A1方向および径方向に移動し、隣接する爪651同士が接近または離間する。これにより、ジョー65(爪651)によるピンテール813の把持力は変化する。
詳細には、ネジシャフト46が図6に示す初期位置に配置されている場合、ジョー65は、爪651の外周のテーパ面がジョーケース64のテーパ面に当接するとともに、ジョーケース64の前端部内に突出する上述のノーズチップ614の後端に当接した状態で保持される。なお、ネジシャフト46(駆動シャフト460)の初期位置(つまり、ピン把持部63Aの初期位置)は、ジョー65の爪651がピン81を適切に把持可能な位置に設定されている必要がある。詳細は後述するが、本実施形態では、ネジシャフト46およびピン把持部63の初期位置は、使用者によって操作部51を介して入力された設定情報に応じて調整可能とされている。
ピン把持部63Aが駆動軸A1に沿ってアンビル61Aに対して後方へ移動すると、付勢バネ66によって前方に付勢されたジョー65に対し、ジョーケース64は後方に移動する。爪651のテーパ面とジョーケース64のテーパ面との作用で、複数の爪651は、径方向に互いに近接するように移動する。これにより、ジョー65(爪651)によるピンテール813の把持力が増大し、ピンテール813は強固に把持される。反対に、ピン把持部63が駆動軸A1に沿って前方に戻されると、ジョー65がノーズチップ614の後端に当接し、ジョーケース64はジョー65に対して前方に移動する。複数の爪651は、径方向に互いに離間可能となる。これにより、ジョー65(爪651)によるピンテール813の把持力が低下し、ピンテール813は、外力が付与されるとジョー65から離脱可能となる。
次に、図7を参照して、軸維持式のファスナ9に対応するノーズ部6Bについて説明する。
図7に示すように、本実施形態では、アンビル61Bは、長尺の円筒状のスリーブとして構成されている。アンビル61Bの外周部の中央部よりもやや後端側には、アンビル61Aと同じく、径方向外側に突出する係止リブ612が設けられている。アンビル61Bの後側領域の内径は、後述のピン把持部63Bの基部632の外径と概ね同径に形成される一方、前側領域の内径は、後側領域よりも小径に形成されている。更に、前側領域の前端部領域は、開口端(前端)に向けて内径が緩やかに拡径するテーパ部617として形成されている。なお、テーパ部617は、前後方向に関して、カラー95の係合部953(図2参照)の高さよりも若干長く設定されている。テーパ部617の内径は、開口端では係合部953の外径よりも僅かに大きいが、開口端よりも後方では係合部953の外径よりも小さくなるように設定されている。これにより、係合部953の変形を促す強い軸方向の力が作用すると、係合部953は、開口端からテーパ部617へと変形を伴いながら入り込む。
ピン把持部63Bは、駆動軸A1に沿ってアンビル61B内を摺動可能に配置されている。本実施形態では、ピン把持部63Bは、ファスナ9の軸部911の端部領域を把持可能に構成されたジョー630と、ジョー630と一体形成された基部632とを含む。
ジョー630は、複数の爪(例えば、3つの爪)631を有する。爪631は、駆動軸A1を中心とする仮想円周状に等間隔で配置されている。また、ジョー630は、隣接する爪631同士の間隔が前端に向かって広がるように構成されている。ジョー630の前後方向の長さは、ピン把持部63Bが図7に示す初期位置に配置された場合、爪631の前端部がアンビル61Bのテーパ部617の前端から前方に突出するように設定されている。また、基部632は、前端が閉塞された有底円筒状に形成されており、後端部は、後述の連結部材49の前端部に螺合可能に構成されている。これにより、ピン把持部63Bは、連結部材49を介してネジシャフト46に対して着脱可能とされている。以上のような構成により、ジョー630(爪631)による把持力は、ジョー630がアンビル61B内に引き込まれ、後方へ移動するのに伴って増大する。
以下、ノーズ保持部材14について説明する。
図6に示すように、ノーズ保持部材14は、円筒状に形成され、駆動軸A1に沿って前方へ突出するようにハウジング10の前端部に固定されている。より詳細には、ノーズ保持部材14は、インナハウジング13の円筒状の前端部に螺合されることで、ハウジング10に一体的に連結されている。ノーズ保持部材14の後側部分の内径は、ネジシャフト46の外径よりも大きく設定されている。また、ノーズ保持部材14の前後方向における中央部には、径方向内側に突出する環状の係止部141が形成されている。係止部141が形成された部分の内径は、ピン把持部63の外径と概ね等しく、係止部141よりも前側部分の内径は、アンビル61の外径と概ね等しく設定されている。
ネジシャフト46の前端部には、連結部材49が連結されている。連結部材49は、ネジシャフト46とピン把持部63とを連結する部材である。連結部材49は、円筒状に形成されており、その後端部がネジシャフト46の前端部に螺合されることで、ネジシャフト46に一体的に連結されている。連結部材49は、ネジシャフト46の前後方向の移動に伴って、ノーズ保持部材14内を摺動する。連結部材49の前端部は、ピン把持部63(詳細には、ピン把持部63Aの連結部材641またはピン把持部63B)の後端部に螺合されている。つまり、ピン把持部63は、連結部材49を介してネジシャフト46に一体的に連結されている。なお、連結部材49がピン把持部63Aの連結部材641に連結されると、両者を駆動軸A1に沿って貫通する貫通孔495が形成される。この貫通孔495の径は、ネジシャフト46の貫通孔461に概ね等しい。
ノーズ部6のハウジング10に対する連結方法は次の通りである。上述のようにピン把持部63が連結部材49に連結された後、アンビル61の後端部がノーズ保持部材14内に挿入される。更に、ノーズ保持部材14の前端部の外周部に円筒状の固定リング145が螺合されることで、ノーズ部6がノーズ保持部材14を介してハウジング10に連結される。なお、アンビル61は、その後端がノーズ保持部材14の係止部141に当接し、係止リブ612が固定リング145の前端部とノーズ保持部材14の前端の間に配置されるように位置決めされている。
引きちぎり式のファスナ8に対応するノーズ部6Aがノーズ保持部材14を介してハウジング10に連結された場合には、図3に示すように、ノーズ部6Aの先端からアウタハウジング11の開口部114まで、駆動軸A1に沿って延在する通路70が形成される。より詳細には、通路70は、ノーズチップ614の挿入孔615、ジョー65の内部、バネ保持部材67の内部、連結部材641、49の貫通孔495(図5参照)、駆動シャフト460の貫通孔461、および開口部114によって形成される通路である。ファスナ8から分離されたピンテール813は、通路70を通過して回収容器7に収容される。
以下、ハンドル15について説明する。
図4に示すように、ハンドル15の上端部の前側には、トリガ151が設けられている。トリガ151の後側のハンドル15内部には、トリガ151の押圧操作に応じてオン状態とオフ状態の間で切り替えられるスイッチ152が収容されている。スイッチ152は、配線(図示せず)を介して後述のコントローラ154に接続されており、オン状態またはオフ状態に対応する信号をコントローラ154に出力する。
ハンドル15の下端部は、矩形箱状に形成され、コントローラ収容部153を構成している。コントローラ収容部153内部には、第1基板(メイン基板)155が収容されている。第1基板155には、締結工具1の動作を制御するコントローラ154、後述の入力受付部156、3相インバータ201、電流検出アンプ205等が搭載されている。なお、本実施形態では、コントローラ154は、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ(EEPROM)、タイマ等を含むマイクロコンピュータとして構成されている。
コントローラ収容部153の上部には、操作・表示部5が設けられている。図8に示すように、操作・表示部5は、使用者による外部操作に応じて各種設定情報を入力可能な操作部51と、各種情報を表示可能な表示部53とを含む。
本実施形態では、操作部51は、締結工具1の動作モードの切り替えおよびモータ2の制御条件の設定のための第1スイッチ511と、モータ2の制御条件の設定のための2つの第2スイッチ512を含む。なお、第1スイッチ511および第2スイッチ512は何れも、プッシュスイッチとして構成されている。より詳細には、第1スイッチ511および第2スイッチ512は、通常はオフ状態で維持され、押圧操作されている間のみオン状態とされる押しボタン式のモーメンタリスイッチ(いわゆるタクタイルスイッチ)として構成されている。第1スイッチ511および第2スイッチ512は、配線(図示せず)を介して後述の入力受付部156に接続されており、オン状態またはオフ状態に対応するデジタル信号を後述の入力受付部156に出力するように構成されている。
なお、本実施形態では、締結工具1は、モータ2の制御条件を設定可能な設定モードと、締結作業を実行する作業モードの2種類の動作モードを有する。使用者は、第1スイッチ511を長押し操作(所定期間の継続的な押圧操作)することで、締結工具1の動作モードを、設定モードと作業モードの間で切り替えることができる。また、兼用機として構成された締結工具1では、使用されるファスナの種類に応じてモータ2の駆動(つまり、駆動機構4の動作)を制御する必要がある。そこで、締結工具1は、引きちぎり式のファスナに対応する第1制御モードと、軸維持式のファスナに対応する第2制御モードの2種類の制御モードを有する。使用者は、締結工具1の動作モードとして設定モードが選択されている場合に、第1スイッチ511を通常の押圧操作(長押し操作よりも短い期間の押圧操作)することで、モータ2の制御モードを、第1制御モードと第2制御モードの間で切り替えることができる。なお、モータ2の制御モードは、モータ2の制御条件の一例である。
更に、使用者は、2つの第2スイッチ512を操作することで、モータ2の制御モード以外のモータ2の制御条件の設定情報を入力することができる。なお、本実施形態は、第2スイッチ512で入力可能な値は3桁の数値とされており、2つの第2スイッチ512のうち1つがゼロから9までの数値の変更用であり、もう1つが桁の変更用とされている。
本実施形態では、第1制御モードにおけるモータ2の制御条件として、前後方向におけるピン把持部63Aの初期位置、つまり、ピン把持部63Aの初期位置が採用されている。また、第2制御モードにおけるモータ2の制御条件として、ピン把持部63Bによる軸部811の引張り力の閾値が採用されている。
より詳細には、締結工具1の動作モードとして設定モードが選択され、且つ、モータ2の制御モードとして第1制御モードが選択されている場合には、第2スイッチ512を操作することで、ピン把持部63Aの初期位置の設定情報として、初期位置を、現時点で設定されている位置から前後方向に調整するための値を入力することができる。
初期位置の調整は、初期位置におけるジョー65の把持力を適正な大きさにするために行われるものである。上述のように、本実施形態では、ネジシャフト46(駆動シャフト460)の初期位置(つまり、ピン把持部63Aの初期位置)は、ジョー65の爪651がピン81を適切に把持可能な位置に設定される必要がある。具体的には、初期位置は、ジョー65の内部にピンテール813を挿入可能、且つ、ピンテール813がジョー65の内部に挿入された場合、爪651が、ファスナ8が自重でノーズ部6から脱落しない程度の把持力でピンテール813を緩く把持できる位置に設定されることが好ましい。工場出荷時には、初期位置は適切な位置に設定されている。しかしながら、アンビル61やピン把持部63A(ジョーケース64またはジョー65)の摩耗や位置ズレ等に起因して、工場出荷時の初期位置におけるジョー65の把持力が、当初とは変わってしまい、ピン81を適切に把持できなくなる場合がある。また、使用者によって、適切と感じる把持力には若干の差が生じうる。そこで、本実施形態では、締結工具1は、ピン把持部63Aの初期位置を調整可能に構成されている。
本実施形態では、初期位置の調整は、上述の第1センサ481によって磁石486が検出された時点から、モータ2の制動を開始する時点までの時間(以下、制動待機時間という)の調整を通じて行われる。そこで、初期位置の設定情報として、第2スイッチ512を介して、制動待機時間の調整値(現時点で設定されている制動待機時間に対して加算または減算される値)が入力される。制動待機時間を調整することで、第1センサ481によって磁石486が検出されてからネジシャフト46およびピン把持部63Aが前方への移動を停止するまでの移動距離を調整することができる。つまり、初期位置を調整することができる。
また、締結工具1の動作モードとして設定モードが選択され、且つ、モータ2の制御モードとして第2制御モードが選択されている場合には、第2スイッチ512を操作することで、引張り力の閾値を、現時点で設定されている値から調整するための値を入力することができる。
引張り力の閾値の調整は、ファスナ9に対する加締めの完了、つまり、ピン把持部63Bの後方への移動停止の適切なタイミングを設定するために行われるものである。上述のように、ファスナ9による作業材Wの締結では、ピン91の軸部911にカラー95が加締められた後、軸部911は引きちぎられることなく、ピン把持部63Bに把持されたまま、前方へ戻される必要がある。このため、ピン把持部63Bによる軸部911の引張り力が、軸部911にカラー95を確実に加締めることができ、且つ、軸部911が破断したり、カラー95や締結工具1が損傷したりしない程度の適正な引張り力の閾値を超えた場合、ピン把持部63Bの後方への移動が停止される必要がある。同じファスナ9が使用される場合であっても、例えば、作業材Wの材質や仕様によって、適正な引張り力は異なる。そこで、本実施形態では、締結工具1は、引張り力の閾値を調整可能に構成されている。
なお、加締めの進行に伴ってピン91とカラー95に作用する相対的な軸方向の力、つまり引張り力が増大すると、モータ2の負荷が増加する。本実施形態では、この相関関係に基づき、引張り力の閾値の調整は、モータ2の負荷を表す物理量の一例である駆動電流の閾値の調整を通じて行われる。そこで、引張り力の閾値の設定情報として、第2スイッチ512を介して、モータ2の駆動電流の閾値の調整値(現時点で設定されている駆動電流の閾値に対して加算または減算される値)が入力される。駆動電流の閾値を調整することで、引張り力の閾値(上限値)を調整することができる。
表示部53は、操作部51を介して入力されたモータ2の制御条件の設定情報およびその他の情報を表示するように構成されている。本実施形態では、表示部53は、LEDランプ531と、3つの7セグメントLED533を含む。LEDランプ531は、使用者に動作モードを報知するために設けられ、締結工具1の動作モードが設定モードの場合に点灯されるように構成されている。7セグメントLED533は、モータ2の制御モードと、使用者に操作部51から入力された制御条件の設定情報(または制御条件)とを報知するために設けられ、各々が、数値および所定の文字を表示可能に構成されている。
なお、本実施形態では、操作部51(第1スイッチ511および第2スイッチ512)と表示部53(LEDランプ531および7セグメントLED533)は、第1基板155とは異なる第2基板50に搭載され、コントローラ収容部153内において、コントローラ154の上方に配置されている。このように、操作部51および表示部53を、コントローラ154等が搭載された第1基板155とは別の第2基板50に搭載することで、操作部51および表示部53の配置の自由度を高めることができる。
以下、締結工具1の電気的な構成について説明する。
図9に示すように、コントローラ154には、三相インバータ201と、ホールセンサ203が電気的に接続されている。本実施形態では、三相インバータ201は、6つの半導体スイッチング素子を用いた三相ブリッジ回路を備えており、コントローラ154からの制御信号が示すデューティ比に従って三相ブリッジ回路の各スイッチング素子をスイッチング動作させることで、そのデューティ比に応じたパルス状の電流(駆動パルス)をモータ2に供給する。ホールセンサ203は、モータ2の各相に対応して配置される3つのホール素子を備えており、ロータ23の回転角度を示す信号を出力するように構成されている。コントローラ154は、ホールセンサ203から入力された信号に基づいて、三相インバータ201を介してモータ2への通電を制御することで、モータ2の回転速度を制御する。なお、モータ2の回転速度制御には、PWM制御が用いられる。
また、コントローラ154には、電流検出アンプ205が電気的に接続されている。電流検出アンプ205は、モータ2の駆動電流をシャント抵抗によって電圧に変換し、更にアンプによって増幅した信号をコントローラ154に出力する。詳細は後述するが、コントローラ154は、モータ2の制御モードとして第2制御モードが選択されている場合に、操作部51を介して入力された設定情報に基づいて設定された閾値と、検出された駆動電流とに基づいて、モータ2の駆動を制御する。
更に、コントローラ154には、トリガ151のスイッチ152、入力受付部156、表示部53(LEDランプ531および7セグメントLED533)、第1センサ481、および第2センサ482が電気的に接続されている。また、入力受付部156には、操作部51(第1スイッチ511および第2スイッチ512)が電気的に接続されている。入力受付部156は、操作部51を介して入力された締結工具1の動作モードおよびモータ2の制御条件(モータ2の制御モード、制動待機時間、および駆動電流の閾値)に関する設定情報を受け付け、対応する信号をコントローラ154に出力するように構成されている。但し、動作モードが作業モードである場合には、入力受付部156は、設定情報が入力されても、コントローラ154への出力は行わない。つまり、入力受付部156は、作業モードが選択されている間は設定情報を受け付けず、第1スイッチ511の通常の押圧操作(制御モードの切り替え)および第2スイッチ512の押圧操作(制動待機時間および閾値の調整)は無効化される。
コントローラ154(詳細には、CPU)は、スイッチ152、入力受付部156、第1センサ481、および第2センサ482から出力された信号を受け付け、これらの信号に基づいて、適宜、モータ2の駆動(駆動機構4の動作)を制御する。
例えば、コントローラ154は、スイッチ152がオンとされたことを認識した場合、三相インバータ201を介して通電を開始することで、モータ2の正転駆動を開始する。なお、正転駆動とは、モータシャフト25が、ネジシャフト46を後方へ移動させる方向に回転する駆動態様である。また、コントローラ154は、スイッチ152がオフとされたことを認識した場合、モータ2の逆転駆動を開始する。なお、逆転駆動とは、モータシャフト25が、ネジシャフト46を前方へ移動させる方向に回転する駆動態様である。
本実施形態では、コントローラ154は、締結工具1への電源投入後の初期設定処理において、不揮発性メモリに記憶されていた動作モードおよびモータ2の制御条件の設定情報(制御モード、制動待機時間および閾値の調整値)をRAMに読み出してその後の処理に使用する。コントローラ154は、その後の処理で動作モードまたは制御条件の設定情報を受け付ける度に、新たな設定情報でRAMの情報を上書きして処理を実行するとともに、不揮発性メモリに最新の設定情報を記憶する。これにより、不揮発性メモリには、操作部51を介して入力された最新の設定情報が記憶されることになる。
コントローラ154は、入力受付部156から出力される信号に基づいて、締結工具1の動作モードおよびモータ2の制御条件(モータ2の制御モード、制動待機時間、および駆動電流の閾値)の設定を行う。
具体的には、第1スイッチ511の長押しにより入力された動作モードの設定情報を入力受付部156が受け付けた場合、コントローラ154は、動作モード(設定モードまたは作業モード)を変更する。第1スイッチ511の通常の押圧操作により入力されたモータ2の制御モードの設定情報を入力受付部156が受け付けた場合、コントローラ154は、制御モード(第1制御モードまたは第2制御モード)を変更する。第2スイッチ512の押圧により入力された制御条件の設定情報を入力受付部156が受け付けた場合、コントローラ154は、次の処理を行う。現時点の制御モード(RAMに記憶されている制御モード)が第1制御モードである場合には、コントローラ154は、入力受付部156が受け付けた制動待機時間の調整値に基づいて、制動待機時間を変更する。現時点の制御モードが第2制御モードである場合、コントローラ154は、入力受付部156が受け付けた閾値の調整値に基づいて、駆動電流の閾値を変更する。
また、コントローラ154は、入力受付部156から出力される信号に基づいて、表示部53の表示(詳細には、LEDランプ531および7セグメントLED533の点灯および消灯)を制御する。
具体的には、動作モードとして作業モードが設定されている場合、コントローラ154は、LEDランプ531を消灯状態とし、現時点の制御モードが第1制御モードであれば、現時点の制動待機時間の調整値(または、制動待機時間)を7セグメントLED533に表示させる。一方、現時点の制御モードが第2制御モードであれば、コントローラ154は、現時点の駆動電流の閾値の調整値(または、駆動電流の閾値)を7セグメントLED533に表示させる。なお、上述の通り、作業モード中は、制御モードおよび制御条件の変更は行われないため、7セグメントLED533の表示の変更も行われない。また、作業モード中に締結工具1に生じた何らかのエラー(例えば、第1センサ481または第2センサ482の動作不良)を認識した場合には、コントローラ154は、7セグメントLED533にエラーを示す特定の文字(エラーコード)を表示させる。
動作モードとして設定モードが設定されている場合、コントローラ154は、LEDランプ531を点灯状態とする。また、現時点の制御モードが第1制御モードであれば、制動待機時間の調整値が入力されると、この調整値(または、調整値に基づいて変更された制動待機時間)を7セグメントLED533に表示させる。一方、現時点の制御モードが第2制御モードであれば、コントローラ154は、駆動電流の閾値の調整値が入力されると、この調整値(または、調整値に基づいて変更された駆動電流の閾値)を7セグメントLED533に表示させる。なお、本実施形態では、第1制御モードと第2制御モードとで、7セグメントLED533に表示される数値の桁数を異ならせることで、使用者に、現時点で第1制御モードおよび第2制御モードのうちどちらが選択されているかを報知している。
以下、締結工具1によるファスナ8、9を介した作業材Wの締結工程について、引きちぎり式のファスナ8を用いて作業材Wを締結する場合、軸維持式のファスナ9を用いて作業材Wを締結する場合の順に説明する。
まず、ファスナ8の締結工程について説明する。使用者は、ファスナ8に対応するノーズ部6A(図6参照)をハウジング10に装着する。また、使用者は、7セグメントLED533の表示を確認し、必要に応じて、操作部51を操作して設定情報の入力を行う。コントローラ154は上述のように動作する。なお、トリガ151が押圧操作されない初期状態では、ネジシャフト46は、前回の締結工程で初期位置に戻された状態にある。
トリガ151が押圧操作され、スイッチ152がオンとされると、コントローラ154はモータ2の正転駆動を開始する。なお、コントローラ154は、動作モードとして作業モードが選択されている場合のみならず、設定モードが選択されている場合でも、トリガ151の操作を無効化せず、モータ2を駆動する。
モータ2の正転駆動により、ネジシャフト46およびピン把持部63Aが初期位置から後方へ移動されることで、ジョー65によってピン81が強固に把持され、後方へ引っ張られる。締結工具1は、磁石486が第2センサ482の検出範囲に進入する位置までネジシャフト46が移動される前に、ファスナ8によって作業材Wを締結するとともに、ピン81を破断させ、ジョー65に把持されたピンテール813を分離する。その後、分離されたピンテール813がジョー65に把持された状態で、ネジシャフト46とピン把持部63Aは更に後方へ移動される。第2センサ482からの検出信号を認識した場合、コントローラ154は、モータ2を制動する。なお、本実施形態では、モータ2の制動は、モータ2の駆動停止によって行われるが、モータ2に一定期間逆方向のトルクを与える、モータ2からナット41に至る動力伝達を遮断する、等の方法で行われてもよい。これにより、ネジシャフト46およびピン把持部63Aは減速し、停止する。
コントローラ154は、使用者によるトリガ151の押圧操作が解除され、スイッチ152がオフとされると、モータ2の逆転駆動を開始する。分離されたピンテール813がジョー65に把持された状態で、ネジシャフト46とピン把持部63Aが前方へ移動される。磁石486が第1センサ481の検出範囲に進入する位置までネジシャフト46が移動されると、コントローラ154は、第1センサ481からの検出信号を認識し、タイマによる計時を開始する。コントローラ154は、RAMに記憶されている制動待機時間が経過するまで、モータ2の逆転駆動を継続する。つまり、制動待機時間に対応する移動距離だけ、ネジシャフト46が更に前方へ移動される。
コントローラ154は、制動待機時間が経過すると、モータ2を制動する。これにより、ネジシャフト46およびピン把持部63Aが減速し、初期位置で停止すると、締結工程の1サイクルが終了する。ピンテール813はジョー65から離脱可能となり、その後の締結工程で別のファスナ8のピンテール813によって後方へ押し込まれて通路70を通過し、回収容器7に収容される。
次に、ファスナ9の締結工程について説明する。使用者は、ファスナ9に対応するノーズ部6B(図7参照)をハウジング10に装着する。また、使用者は、7セグメントLED533の表示を確認し、必要に応じて、操作部51を操作して設定情報の入力を行う。コントローラ154は上述のように動作する。
トリガ151が押圧操作され、スイッチ152がオンとされると、コントローラ154はモータ2の正転駆動を開始する。ネジシャフト46およびピン把持部63Bが初期位置から後方へ移動されることで、ジョー630によってピン91が強固に把持され、後方へ引っ張られる。コントローラ154は、電流検出アンプ205からの信号とRAMに記憶された閾値に基づいて、モータ2の駆動電流が閾値を超えたと判断した場合、モータ2を制動する。これにより、ネジシャフト46およびピン把持部63Aは減速し、停止する。
コントローラ154は、使用者によるトリガ151の押圧操作が解除され、スイッチ152がオフとされると、モータ2の逆転駆動を開始する。カラー95に加締められた状態のピン91がジョー630に把持された状態で、ネジシャフト46とピン把持部63Bが前方へ移動される。磁石486が第1センサ481の検出範囲に進入する位置までネジシャフト46が移動されると、コントローラ154は、第1センサ481からの検出信号を認識し、モータ2を制動する。これにより、ネジシャフト46およびピン把持部63Bが減速し、初期位置で停止すると、締結工程の1サイクルが終了する。
以上に説明したように、本実施形態では、入力受付部156は、使用者の外部操作によって操作部51を介して入力されたモータ2の制御条件(制御モード、引張り力の閾値、ピン把持部63Aの初期位置)の設定情報を受け付けるように構成されている。コントローラ154は、入力受付部156によって受け付けられた設定情報に基づいて制御条件を設定し、モータ2の駆動を制御することで、駆動機構4の動作を制御するように構成されている。つまり、コントローラ154は、モータ2の駆動、ひいては駆動機構4の動作を、一律の制御条件に従って制御するのではなく、入力受付部156によって受け付けられた設定情報に応じて変更された制御条件に従って制御することができる。また、使用者は、操作部51を介して、締結工具1の使用状況に応じた適切な設定情報を入力することができる。よって、締結工具1の使用状況に応じた適切な制御を実現することが可能となる。
特に、本実施形態では、操作部51は、締結工具1に設けられており、使用者は、モータ2の制御条件の設定と締結作業の両方を、締結工具1という1つの装置で行うことができる。つまり、使用者は、設定情報の入力のために締結工具1とは異なる外部装置を操作する必要がないため、利便性および操作性が向上する。また、操作部51は、設定情報をデジタル信号として出力するプッシュスイッチとして構成されている。よって、アナログ信号を出力するダイアル式の操作部が採用される場合に比べ、細かな操作が容易となる。また、意図しないときに操作がなされ、制御条件が変更されてしまう可能性を低減することができる。
また、本実施形態の締結工具1は、引きちぎり式のファスナ8および軸維持式の複数部材加締め式ファスナ9を使用可能に構成されている。ファスナ8の使用時には、コントローラ154は、操作部51を介して入力されたピン把持部63Aの初期位置の設定情報に基づいて、ピン把持部63Aの初期位置を変更することができる。これにより、例えば、アンビル61Aまたはピン把持部63Aが摩耗した場合でも、ピン把持部63Aを、適正な把持力でピン91を把持可能な初期位置に配置することができる。また、ファスナ9の使用時には、コントローラ154は、操作部51を介して入力された引張り力の閾値の設定情報に基づいて、ピン把持部63Bの引張り力の閾値を変更することができる。これにより、例えば、作業材Wの材質や仕様に応じて、軸部911にカラー95を確実に加締めることができ、且つ、軸部911が破断したり、カラー95や締結工具1が損傷したりしない程度の適正な引張り力が与えられた時点でピン把持部63Bの後方への移動を終了させることができる。
本実施形態では、締結工具1には、設定情報(または設定情報に基づく制御条件)を表示可能に構成された表示部53が設けられている。よって、使用者は、表示された設定情報(または設定情報に基づく制御条件)によって、適切な制御条件が設定されているか否かを確認することができる。そして、必要に応じて操作部51を操作することで、制御条件の設定を変更することができる。また、表示部53に、設定情報以外に、使用者にとって有用なエラーに関する情報(エラーコード)を表示することで、利便性を高めている。
本実施形態では、締結工具1は、入力受付部156が設定情報の入力を受け付け可能な設定モードと、設定情報の入力を受け付けない作業モードで動作可能に構成されている。そして、作業モードから設定モードへの切り替えは、操作部51に対する設定情報の入力操作(具体的には、第1スイッチ511の通常の押圧操作および第2スイッチ512の押圧操作)とは異なる特定の操作(具体的には、第1スイッチ511の長押し操作)によって可能とされている。よって、締結工具1の動作モードが作業モードに設定されているときに、使用者が意図せず操作部51を誤操作し、設定情報が入力されてしまうのを防止することができる。
本実施形態では、操作部51を介して入力され、入力受付部156によって受け付けられた設定情報は、コントローラ154の不揮発性メモリに記憶される。そして、コントローラ154(CPU)は、不揮発性メモリに記憶された設定情報に基づく制御条件に従ってモータ2の駆動を制御する。よって、使用者が操作部51で過去に設定した設定情報を、締結作業において有効利用することができる。なお、不揮発性メモリには、設定情報に代えて、設定情報に基づいて変更された制御条件が記憶されてもよい。
上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係る締結工具は、例示された締結工具1の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、独立して、または実施形態に示す締結工具1、あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
例えば、上記実施形態では、締結工具1は、ノーズ部6を交換することで、引きちぎり式のファスナおよび軸維持式のファスナの何れにも対応可能とされている。しかしながら、締結工具1は、引きちぎり式のファスナのみに対応した専用機として構成されていてもよいし、軸維持式のファスナのみに対応した専用機として構成されてもよい。
モータ2、伝達機構3、および駆動機構4の構成は、適宜、変更されてよい。例えば、モータ2としてブラシ付のモータが採用されてもよいし、交流モータが採用されてもよい。例えば、遊星減速機31の遊星歯車機構の数や中間シャフト33の配置等が変更されてもよい。また、駆動機構4は、例えば、ナット41と、ボールを介してナットに係合するネジシャフト46とを備えたボールネジ機構40に代えて、内周部に雌ネジが形成されたナットと、外周部に雄ネジが形成され、ナットに直接螺合されたネジシャフトとを備えた送りネジ機構が採用されてもよい。また、ボールネジ機構40は、ネジシャフト46が、前後方向の移動が規制され、且つ、回転可能に支持される一方、ナット41が、ネジシャフト46の回転に伴って前後方向に移動するように構成されていてもよい。この場合、ピン把持部63は、直接的または間接的にナット41に連結されればよい。
ノーズ部6のアンビル61A、61Bおよびピン把持部63A、63Bの構成は、適宜、変更されてよい。例えば、アンビル61A、61Bの形状やハウジング10への連結態様は変更されてもよい。ピン把持部63Aは、アンビル61Aに対する前後方向の相対移動に連動して、ジョー65(爪651)が径方向に移動することで、ピン81に対する把持力が変化するように構成されていればよく、例えば、ジョーケース64や爪651の形状、バネ保持部材67の構成、ネジシャフト46との連結態様等は、適宜、変更されてよい。ピン把持部63Bについても、ジョー630(爪631)や基部の形状、構成、ネジシャフト46との連結態様等は、適宜、変更されてよい。
上記実施形態では、第1センサ481と第2センサ482には、磁界検出式のセンサが採用されているが、他の方式のセンサ(例えば、フォトインタラプタ等の光学式のセンサ)や機械式のスイッチが採用されてもよい。また、第1センサ481と第2センサ482に代えて、1つのセンサまたはスイッチが採用されてもよい。例えば、ネジシャフト46(駆動シャフト460)およびピン把持部63が、前後方向において、初期位置または後方の停止位置とは異なる所定の原点位置に配置されていることを検出可能なセンサまたはスイッチが採用されてもよい。この場合、コントローラ154は、ネジシャフト46が原点位置に配置されたことが検出されてからカウントされたモータ2の回転数や、駆動パルスの数に基づいてモータ2の駆動を停止することで、ネジシャフト46(駆動シャフト460)およびピン把持部63を所定の初期位置または停止位置に配置させることができる。なお、モータ2の回転数は、例えば、ホールセンサによって検出されればよい。
操作・表示部5は、第1スイッチ511と第2スイッチ512を有する操作部51と、LEDランプ531と7セグメントLED533を有する表示部53とで構成された例であるが、操作部51と表示部53の構成は、適宜、変更されてよい。例えば、操作・表示部5は、タッチパネルとして構成されていてもよい。また、操作部51と表示部53とは、必ずしも一体化される必要はなく、締結工具1の別個の位置に互いに独立して設けられてもよい。この場合、操作部51および表示部53のうち少なくとも一方は、上記実施形態のように、第1基板(メイン基板)155とは別の基板に搭載されていることが好ましい。
また、操作部51は、必ずしも締結工具1に設けられる必要はない。例えば、図10に示す変形例の締結工具100では、入力受付部157は、使用者による外部操作が可能な外部装置(例えば、携帯端末)200との有線または無線による通信が可能な通信インターフェースを備えた構成とされる。この場合、入力受付部157は、使用者の操作によって外部装置55に入力された設定情報を外部装置55から受信することで、設定情報を受け付けることができる。
操作部51や外部装置55を介して入力されるモータ2の制御条件の設定情報は、上記実施形態の例(モータ2の制御モード、初期位置の設定情報、引張り力の閾値)に限られない。使用されるファスナの種類に応じて調整が必要なその他の制御条件の設定情報が入力されてもよい。また、初期位置の設定情報は、制動待機時間の調整値ではなく、制動待機時間自体であってもよい。また、初期位置の設定情報として、例えば、磁石486の検出からモータ2の制動開始までにモータ2に供給される駆動パルスの数、または、磁石486の検出からモータ2の制動開始までのモータ2の回転角度(回転数)等が採用されてもよい。引張り力の閾値の設定情報についても、駆動電流の閾値の調整値ではなく、駆動電流の閾値自体であってもよい。また、引張り力の閾値の設定情報として、例えば、バッテリ159の内部抵抗値の閾値や電圧降下値の閾値が採用されてもよい。
表示部53に表示される情報は、上記実施形態の例に限られるものではない。例えば、作業モード中に表示される設定情報以外の情報として、エラー以外の情報が採用されてもよい。例えば、締結工具1に温度センサを設け、表示部53に外気温を表示してもよい。使用者は、外気温によって特性が変動しやすい材料(例えば、アルミニウム)の作業材を締結する場合、外気温を確認し、操作部51を介して引張り力の閾値を適切に調整することが可能となる。また、締結工具1の使用履歴が表示されてもよい。例えば、第1センサ481によって磁石486が検出された回数が、締結工具1によって締結されたファスナの数として表示されてもよい。
上記実施形態では、入力受付部156は、コントローラ154とは別の制御回路として構成されているが、操作部51(第1スイッチ511および第2スイッチ512)からの信号がコントローラ154へ直接入力されてもよい。つまり、コントローラ154が操作部51からの設定情報の入力を受け付ける入力受付部として機能してもよい。
上記実施形態では、入力受付部156によって設定情報が受け付けられる度に、最新の設定情報が不揮発性メモリに記憶され、その後の処理で記憶されているが、設定情報は必ずしも不揮発性メモリに記憶される必要はない。また、操作部51を介して設定情報の記憶の指示が入力された場合にのみ、コントローラ154が設定情報を不揮発性メモリに記憶してもよい。複数種類の設定情報が記憶されてもよい。この場合、コントローラ154は、不揮発性メモリに記憶された設定情報のうち、操作部51の特定のスイッチの押圧操作を介して指定された設定情報を読み出して、その後の処理に使用してもよい。この場合、使用者は、所望の制御条件の設定情報を記憶させておき、必要に応じて特定のスイッチを押圧するだけでよく、設定作業の手間を省くことができる。
上記実施形態では、第1スイッチ511の長押し操作に応じて、締結工具1の動作モードが作業モードから設定モードへ切り替えられる。設定モードへの切り替えをより困難とするために、作業モードから設定モードへの切り替えは、他の特殊な操作によってのみ可能とされてもよい。例えば、第1スイッチ511およびトリガ151を同時に押圧する操作や、機械的なロックを解除しなければ操作不能なスイッチの切り替え操作等が採用されてもよい。このような場合、使用者が意図しないときに設定モードに切り替わってしまうことを確実に防止できると共に、特殊な操作を知る者(例えば、作業管理者)のみに設定情報の入力を許容することができる。なお、締結工具1の動作モードは、設定モードのみであってもよい。複数の動作モードが用意される場合、設定モードおよび作業モードに限られず、他の動作モードが採用されてもよい。
上記実施形態および変形例では、コントローラ154は、CPU、ROM、RAM等を含むマイクロコンピュータによって構成される例が挙げられているが、コントローラ(制御回路)は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブル・ロジック・デバイスで構成されていてもよい。
上記実施形態およびその変形例の各構成要素と本発明の各構成要素との対応関係を以下に示す。ファスナ8、9の各々は、本発明の「ファスナ」に対応する構成例である。ピン81、91の各々は、本発明の「ピン」に対応する構成例である。本体部85、カラー95の各々は、本発明の「筒状部」に対応する構成例である。ファスナ9は、本発明の「軸維持式の複数部材加締め式ファスナ」に対応する構成例である。軸部911、ヘッド915は、夫々、本発明の「破断用の小径部を有しない軸部」、「ヘッド」に対応する構成例である。ファスナ8は、本発明の「引きちぎり式のファスナ」に対応する構成例である。軸部811、小径部812は、夫々、本発明の「軸部」、「破断用の小径部」に対応する構成例である。作業材Wは、本発明の「作業材」に対応する構成例である。
締結工具1は、本発明の「締結工具」に対応する構成例である。駆動軸A1は、本発明の「駆動軸」に対応する例である。アンビル61A、61Bの各々は、本発明の「ファスナ当接部」に対応する構成例である。ピン把持部63A、63Bの各々は、本発明の「ピン把持部」に対応する構成例である。モータ2は、本発明の「モータ」に対応する構成例である。駆動機構4は、本発明の「駆動機構」に対応する構成例である。操作部51および外部装置55の各々は、本発明の「操作部」に対応する構成例である。入力受付部156および変形例のコントローラ154(CPU)の各々は、本発明の「入力受付部」に対応する構成例である。コントローラ154(CPU)は、本発明の「モータ制御部」に対応する構成例である。表示部53は、本発明の「表示部」に対応する構成例である。コントローラ154の不揮発性メモリは、本発明の「記憶装置」に対応する構成例である。
モータ2の制御モード、引張り力の閾値、およびピン把持部63の初期位置の各々は、本発明の「モータの制御条件」に対応する例である。エラーコードは、本発明の「設定情報以外の情報」に対応する例である。設定モードは、本発明の「入力受付モード」に対応する例である。作業モードは、本発明の「入力受付モードとは異なるモード」に対応する例である。
更に、本発明および上記実施形態とその変形例の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様は、実施形態に示す締結工具1、上記変形例、または各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記締結工具は、
ピン把持部と一体的に前記前後方向に移動するように設けられた被検出部と、
前記前後方向において前記ピン把持部が所定の検出位置に配置された場合に、前記被検出部を検出するように構成された検出装置とを更に備え、
前記初期位置の設定情報は、前記被検出部が前記検出装置によって検出された時点から、前記モータ制御部が前記モータを制動するまでの時間である制動待機時間の設定情報であってもよい。
[態様2]
前記引張り力の閾値の設定情報は、前記モータの駆動電流の閾値の設定情報であってもよい。
[態様3]
態様2において、
前記締結工具は、
前記モータの駆動電流を検出する電流検出部を更に備え、
前記モータ制御部は、前記電流検出部によって検出された前記モータ駆動電流が前記駆動電流の閾値を超えた場合に、前記ピン把持部の後方への相対移動を終了し、前記筒状部に加締められた前記軸部を把持した状態のまま、前記ピン把持部を前記ファスナ当接部に対して前方へ相対移動させるように前記駆動機構を動作させるように構成されていてもよい。