以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
なお、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化される場合がある。
また、以下の実施の形態において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を表している。X軸及びY軸は、互いに直交し、且つ、いずれもZ軸に直交する軸である。Y軸方向を人の歩行方向(前後方向)とし、Y軸正方向に被測定者が歩くものとして定義する。また、Z軸方向は鉛直方向(上下方向)とし、Z軸正方向を被測定者の鉛直上方として定義する。また、X軸方向は、被測定者の歩行方向と直交する水平方向(左右方向)とし、X軸正方向を被測定者から見て左方向として定義する。
また、以下の実施の形態において、動画像データ上の座標をUV座標として定義する。U軸及びV軸は、互いに直交する軸である。
(実施の形態1)
[認知機能評価支援装置の構成]
実施の形態1に係る認知機能評価支援装置の構成に関して説明する。図1は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置を含むシステムの構成を示す図である。
認知機能評価支援装置100は、被測定者500の歩行時(歩行中)の体動を測定することにより、被測定者500の認知機能の程度を評価するための装置である。認知機能とは、認識したり、記憶したり、判断したりする能力を示す。一具体例として、認知機能評価支援装置100は、認知症である人(認知症患者)かどうかを評価する。
認知症とは、上述した認知機能の低下が見られる症状を示す。認知症の一具体例としては、アルツハイマー型認知症(AD:Alzheimer’s disease)が挙げられる。認知症は自覚症状がないため、認知症患者の家族又は第三者等が認知症患者に病院での診察を促すことで、認知症患者は医師からの診察を受けることとなる。また、MoCA(Montreal Cognitive Assessment)テスト等の認知症の診断のためのバッチテストを被測定者500が受けることにより、被測定者500が認知症であるかどうかを確認することができる。
しかしながら、MoCAテストは、15分程度の時間を要する。また、MoCAテストは、被測定者500の経時的な変化を診断するために、日をおいて複数回実行することで、被測定者500が認知症であるかどうかの判定を行う必要がある。つまり、MoCAテストは、被測定者500が認知症であるかどうかを診断するために、長い期間を要する。
ところで、認知症患者は、歩行時の体動が認知症ではない人(健常者)と異なることが知られている。
認知機能評価支援装置100は、被測定者500の歩行時の体動を評価することで、当該被測定者500の認知機能の程度を迅速に評価する装置である。
図1に示されるように、認知機能評価支援装置100は、カメラ300と、表示装置400とに接続されている。
認知機能評価支援装置100は、カメラ300によって、被測定者500が、マーカMが付された歩行面Wを歩行時の動画像データを生成する。なお、フレームレート(動画像データに含まれる1秒当たりの画像データ数)は、特に限定されるものではなく、例えば、40fps(frames per second)でもよいし、60fpsでもよい。本実施の形態において、フレームレートは、40fpsである。
カメラ300は、被測定者500の歩行時の動画像データを撮影するための撮影装置である。つまり、カメラ300は、被測定者500の歩行時の体動を示す動画像データを生成する。カメラ300は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサを用いたカメラでもよいし、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサを用いたカメラでもよい。カメラ300は、例えば、老人ホーム又は介護施設の天井又は壁等に設置され、室内を常時撮影する。認知機能評価支援装置100は、カメラ300によって撮影(生成)された動画像データに基づいて被測定者500の歩行態様を分析し、被測定者500の認知機能の程度を評価する。評価結果は、表示装置400に表示される。
なお、カメラ300が被測定者500を撮影する方向は、特に限定されないが、本実施の形態において、カメラ300は、歩行時の被測定者500の体前面側と、被測定者500が歩行する歩行面とが撮影されるように設置されている。
表示装置400は、認知機能評価支援装置100から出力される画像データ(評価結果)に基づいた画像を表示する。表示装置400は、具体的には、液晶パネル、又は、有機ELパネル等によって構成されるモニタ装置である。表示装置400として、テレビ、スマートフォン、又は、タブレット端末等の情報端末が用いられてもよい。認知機能評価支援装置100と表示装置400との間の通信は、例えば、有線通信であるが、表示装置400がスマートフォン又はタブレット端末である場合には、無線通信であってもよい。
認知機能評価支援装置100は、カメラ300によって撮影された動画像データに基づいて被測定者500の歩行態様を分析し、被測定者500の認知機能の程度を評価し、表示装置400へ出力する。こうすることで、認知機能評価支援装置100は、自覚症状がない認知症患者へ認知機能の程度を通知できるため、例えば、認知症患者に医師に診察を受けるように促すことができる。言い換えると、認知機能評価支援装置100は、自覚症状がない認知症患者へ認知機能の程度を通知することで、認知症患者が医師に診察を受ける支援をすることができる。
なお、認知機能評価支援装置100は、例えば、パーソナルコンピュータであるが、サーバ装置であってもよい。また、認知機能評価支援装置100は、カメラ300が設置された建物内に設置されてもよいし、当該建物の外に設置されてもよい。
図2は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100の特徴的な機能構成を示すブロック図である。認知機能評価支援装置100は、運動機能測定装置200と、記憶部140とを備える。
運動機能測定装置200は、被測定者500の歩行時の体動を示す歩行パラメータを測定する装置である。運動機能測定装置200は、取得部110と、算出部120と、出力部130とを備える。
取得部110は、カメラ300によって撮影された動画像データを、被測定者500の歩行時の体動を示す体動データとして取得する。取得部110は、具体的には、有線通信又は無線通信を行う通信モジュール(通信回路)である。取得部110は、カメラ300と通信可能であればよく、取得部110の通信方式(通信規格、通信プロトコル)は、特に限定されない。なお、取得部110は、記憶部140から動画像データを取得してもよい。つまり、認知機能評価支援装置100の外部ではなく内部から動画像データを取得してもよい。
算出部120は、被測定者500の認知機能の程度を評価するための情報処理、及び、記憶部140へ動画像データを記憶させる制御等を行う制御装置である。算出部120は、具体的には、プロセッサ、マイクロコンピュータ、又は、専用回路によって実現される。
算出部120は、取得部110によって取得された動画像データから、被測定者500が歩行する歩行面W上の位置を示す歩行点の移動軌跡を算出し、当該移動軌跡から被測定者500の1以上の歩行パラメータを算出する。
また、算出部120は、動画像データに含まれる複数の画像データのそれぞれから、被測定者500に基づく特徴点を抽出し、歩行面W上の座標に対応する画像データ上の座標を生成し、画像データ上の座標の特徴点の位置から歩行点を算出する。
また、算出部120は、歩行面W上の座標に対応する動画像データ上の座標を生成し、動画像データに含まれる複数の画像データのそれぞれから、被測定者500に基づく特徴点を抽出し、動画像データ上の特徴点の座標から、歩行点の座標を算出する。
図3は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出する画像データ上の座標を説明するための図である。
取得部110は、カメラ300からマーカMが付された歩行面Wを含む画像データA1を取得する。
算出部120は、画像データA1に含まれるマーカMの位置から、被測定者500が歩行する歩行面Wの座標に対応する画像データ上の座標(つまり、動画像データ上の座標)を算出する。
算出部120は、画像データから被測定者500のUV座標の座標点の値を算出し、XY座標の座標点の値に変換する。具体的には、算出部120は、画像データ上の特徴点の座標から、歩行面W上の歩行点の座標点を算出する。特徴点とは、画像データ上における被測定者500に応じた点である。歩行点とは、被測定者500が歩行する歩行面W上の、画像データの特徴点に応じた点である。
算出部120は、例えば、画像データ上の座標の特徴点の位置を、歩行点として算出する。特徴点の一例としては、被測定者500のつま先である。つまり、算出部120は、画像データから被測定者500のつま先を特徴点として、当該特徴点のUV座標を算出し、算出したUV座標をXY座標に変換した点を歩行点として算出する。
なお、算出部120は、例えば、画像データにおける被測定者500の頭頂部を特徴点としてもよい。この場合には、当該頭頂部が歩行面Wから離れていることが想定されるために、算出部120が歩行点を算出するためには、当該頭頂部と歩行面Wとの距離に応じた補正計算が必要となる。
また、特徴点は、例えば、画像データに含まれる被測定者500における、コーナー検出法によって抽出される複数の抽出点の内の、最も下方に位置する抽出点でもよい。コーナーとは、画像データにおける被測定者500の角ばった点、曲率が極大である曲線上の点である。抽出点とは、画像データにおける被測定者500のコーナーを示す。つまり、コーナー検出法とは、画像データに含まれる被測定者500における当該コーナーを検出する方法である。複数の抽出点のうちの最下方の抽出点を特徴点とした場合においても、被測定者500のつま先を特徴点とした場合と同様に、特徴点が歩行時に歩行面Wの近傍に位置するために、算出部120は、歩行点の算出が容易となる。
また、算出部120は、移動軌跡から算出される被測定者500の歩行に関する複数の歩行パラメータを多変量解析してもよい。
出力部130は、被測定者500の歩行パラメータと記憶部140に記憶されている参照データ141とを照合し、被測定者500の歩行パラメータに対応する認知機能の程度を出力する。出力部130は、具体的には、プロセッサ、マイクロコンピュータ、又は、専用回路によって実現される。なお、算出部120及び出力部130は、それぞれの機能を併せ持つ1つのプロセッサ、マイクロコンピュータ、又は、専用回路で実現されてもよいし、プロセッサ、マイクロコンピュータ、又は、専用回路のうちの2つ以上の組み合わせによって実現されてもよい。
なお、評価結果は、例えば、表示装置400に評価結果を画像として表示するための画像データであるが、評価結果の具体的態様は、特に限定されない。認知機能の程度の評価方法の詳細については後述する。
また、出力部130は、算出部120が複数の歩行パラメータを多変量解析した場合、多変量解析した結果と記憶部140に記憶されている参照データ141とを照合し、被測定者500の歩行パラメータに対応する認知機能の程度を出力する。
記憶部140は、人の歩行時における体動を示す歩行パラメータと、人の認知機能の程度との関係を示す参照データ141が記憶されている記憶装置である。参照データ141は、被測定者500の認知機能の程度の評価が行われるときに出力部130によって参照される。記憶部140は、具体的には、半導体メモリ又はHDD(Hard Disk Drive)等によって実現される。
また、記憶部140には、算出部120が実施の形態に係る認知機能評価支援方法を実行するためのプログラム、及び、認知機能の程度の評価結果を出力する際に用いられる当該評価結果を示す画像データも記憶されている。
なお、記憶部140には、取得部110によって取得された動画像データが記憶されてもよい。例えば、被測定者500の歩行時の体動の例えばひと月ごとの長期的な経時変化を評価したい場合、算出部120は、被測定者500の動画像データを記憶部140に記憶させてもよい。こうすることにより、運動機能測定装置200は、被測定者500の過去の歩行時の体動を参照データとして、現在の歩行時の体動を評価することができる。
[歩行パラメータの算出方法]
続いて、認知機能評価支援装置100が実行する認知機能評価支援方法における歩行パラメータの算出方法について説明する。
図4は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出する画像データ上のUV座標と歩行面W上のXY座標との関係式を算出する処理手順を示すフローチャートである。
取得部110は、カメラ300からマーカMが付された歩行面Wを含む画像データA1を取得する(ステップS101)。
次に、算出部120は、画像データA1に含まれるマーカMの位置から、被測定者500が歩行する歩行面W上の座標点と画像データ上の座標点との関係式を生成する(ステップS102)。具体的には、画像データA1から、動画像データ上のUV座標と歩行面W上のXY座標との対応関係をしめす関係式を生成する。例えば、各マーカMの間の座標は、線形補完することにより生成される。例えば、算出部120は、当該関係式を記憶部140に記憶させる。こうすることで、算出部120は、記憶部140に記憶された関係式を参照できる。算出部120は、取得部110がカメラ300から取得した画像データから、関係式を参照して、被測定者500の特徴点のUV座標の座標点の値を歩行面W上の座標であるXY座標の座標点の値に変換して歩行点を算出することができる。
続いて、取得部110がカメラ300から取得した動画像データを用いて、被測定者500の歩行パラメータを算出する方法について説明する。
図5は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が被測定者500の歩行パラメータを算出する処理手順を示すフローチャートである。
取得部110は、カメラ300から動画像データを取得する(ステップS201)。
次に、算出部120は、取得部110が取得した動画像データに含まれる各画像データから、背景差分法によって各画像データの被測定者500を抽出する(ステップS202)。背景差分法とは、画像データと事前に取得しておいた背景画像データとを比較することで、事前に取得しておいた背景画像データには存在しない物体を抽出する処理方法である。つまり、算出部120は、ステップS102において、動画像データに含まれる各画像データと、予め取得しておいた被測定者500が含まれていない画像データ(例えば、図3に示す画像データA1)との差分を算出することにより、被測定者500を抽出する。
次に、算出部120は、コーナー検出法によって被測定者500の抽出点を抽出する(ステップS203)。
次に、算出部120は、画像データにおける抽出点の最下方を特徴点として抽出する(ステップS204)。具体的には、ステップS204において、算出部120は、画像データの情報をV軸正方向側とした場合に、V座標の最も小さい値の抽出点を特徴点として算出する。
図6は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出する特徴点を説明するための図である。
図6に示されるように、算出部120は、背景差分法によって被測定者500のみが抽出されている画像データA2から、コーナー検出法によって被測定者500の抽出点Iを算出する。なお、図6において、抽出点Iは、丸で囲まれている部分である。説明のために、抽出点を丸で図示しているが、抽出点Iは、画像データA2上の点である。具体的には、抽出点Iは、画像データA2上の1ピクセルに相当する。このように、抽出点Iは、画像データA2から複数算出される。算出部120は、算出した複数の抽出点Iの中から、V座標の最も小さい値の抽出点を特徴点Iaとして算出する。
V座標の最も小さい値の抽出点を特徴点Iaとすることで、被測定者500における歩行面Wと最も近い部位を抽出することができる。例えば、カメラ300によって、被測定者500の正面側から被測定者500を撮像することで、算出部120は、V座標の最も小さい値の抽出点である特徴点Iaを、被測定者500におけるつま先として算出する。例えば、被測定者500のつま先にマーカを付し、算出部120が当該マーカを抽出することで、被測定者500のつま先のUV座標を算出してもよいが、このような方法を用いれば、簡便に被測定者500のつま先を算出できる。
なお、算出部120は、コーナー検出法による抽出点Iの抽出を精度よく行うために、背景差分法によって抽出した被測定者500の画像データを、色調を広げる処理であるいわゆる標準化処理、及び/又は、抽出した被測定者500と背景との色調のコントラストを大きくするいわゆるシャープネス処理をしてもよい。
再び図5を参照して、ステップS204の次に、算出部120は、特徴点IaのUV座標の座標点の値を算出する(ステップS205)。
次に、算出部120は、ステップS206で算出した特徴点IaのUV座標の座標点の値を、記憶部140に記憶させた関係式を用いてXY座標の座標点の値に変換することで、歩行点を算出する(ステップS206)。
次に、算出部120は、動画像データに含まれる複数の画像データごとに算出された歩行点Tから、被測定者500の移動軌跡を算出する(ステップS207)。具体的には、算出部120は、動画像データに含まれる複数の画像データごとに算出された複数の歩行点Tを被測定者500の移動軌跡として算出する。
図7Aは、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出する被測定者500の特徴点Iaを説明するための図である。図7Bは、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出する被測定者500の歩行点Tを説明するための図である。
図7Aに示されるように、算出部120は、取得部110がカメラ300から取得した動画像データに含まれる特徴点Iaを複数算出する。また、算出部120は、図7Bに示されるように、複数の特徴点Iaを、UV座標からXY座標へ変換するための関係式を用いて、歩行点Tを複数算出する。こうすることで、算出部120は、被測定者500の移動軌跡を算出する。
再び図5を参照して、ステップS207の次に、算出部120は、被測定者500の移動軌跡から、被測定者500の歩行パラメータを算出する(ステップS208)。
図8は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出した歩行面Wにおける被測定者500の移動軌跡のデータの一例を示す図である。具体的には、図8の(a)は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出した歩行点TのXY座標の座標点のデータを示す図である。図8の(b)は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出した歩行点Tの観測時間に対するY座標の座標点の変化を示す図である。図8の(c)は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出した歩行点Tの観測時間に対するX座標の座標点の変化を示す図である。
図8の(a)〜(c)に示されるように、算出部120は、上述した認知機能評価支援方法によって算出される移動軌跡から、歩行パラメータとして、例えば、一歩の時間P1、歩隔P2、歩幅P3を算出する。また、算出部120は、一歩の時間P1から被測定者500の歩行速度を算出する。なお、一歩の時間P1とは、被測定者500の一歩あたりにかかる時間を示す。一歩の時間P1とは、例えば、被測定者500の左足のつま先が歩行面Wから離れてから、右足が歩行の軸足として動き、さらに被測定者500の左足の踵が歩行面Wに接触し、さらに被測定者500の左足のつま先が歩行面Wから離れるまでの時間を示す。つまり、一歩の時間とは、左右両足を含めた歩行の1周期分である。歩隔P2とは、被測定者500の左右方向(X軸方向)における、被測定者500の右足と左足との幅を示す。歩幅P3とは、被測定者500の前後方向(Y軸方向)における、被測定者500の一歩あたりの幅を示す。
ところで、認知症の診断は、認知症の診断のためのバッチテストであるMoCAテストを被測定者500が受けることにより、被測定者500が認知症であるかどうかを評価することができる。図9は、被測定者500がMoCAテストを受けた際に獲得したスコアを示す図である。
本発明者らは、健常者(NC:Normal Control)、軽度の認知症患者(MCI:Mild Cognitive Inpairment)及び認知症患者(AD)を含む複数の被測定者を集めて、MoCAテストを実施した。NCの被測定者数(Number of subjects)は90人とし、MCIの被測定者数は94人とし、ADの被測定者数は93人とした。
図9から、NC、MCI及びADとでMoCAのスコアの平均値(MoCA average score)及びスコアの範囲(MoCA score range)が異なることが確認できる。具体的には、NCのMoCAのスコアの平均値は27.4であり、MCIのMoCAのスコアの平均値は22.1であり、ADのMoCAのスコアの平均値は16.2であった。
図10は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が算出した被測定者500の歩行パラメータに対するMoCAテストで被測定者500が獲得したスコアの一例を示す図である。
本発明者らは、MoCAテストを実施した被測定者の中から、NCを4名、MCIを7名、ADを4名抽出した。また、本発明者らは、抽出した被測定者らから認知機能評価支援装置100を用いて移動軌跡を算出し、当該移動軌跡から歩行パラメータを算出した。図10の(a)は、歩幅P3に対するMoCAテストのスコアである。図10の(b)は、歩行速度に対するMoCAテストのスコアである。図10の(c)は、歩行速度及び歩幅に対するMoCAテストのスコアである。
図10の(a)に示されるように、歩幅P3とMoCAテストのスコアとには、NCとMCIとADとで相関が異なることがわかる。具体的には、ADは歩幅が小さく、NCは歩幅が大きい傾向が見てとれる。つまり、本実施の形態に係る認知機能評価支援方法によって算出された歩幅P3から、NCかMCIかADかを評価することができる。
認知機能評価支援装置100が備える記憶部140には、上述した歩行パラメータと、ND、MCI及びADとの対応関係である参照データ141が予め記憶されている。算出部120は、取得部110で取得された動画像データから被測定者500の移動軌跡を算出し、移動軌跡から歩行パラメータを算出する。出力部130は、算出部120が算出した歩行パラメータと参照データ141とを照合することで、被測定者500の認知機能の程度を評価し、評価結果を出力する。
また、図10の(b)に示されるように、歩行速度とMoCAテストのスコアとには、NCとMCIとADとで相関が異なることがわかる。具体的には、ADは歩行速度が小さく、NCは歩行速度が大きい傾向が見てとれる。つまり、本実施の形態に係る認知機能評価支援方法によって算出された歩行速度から、NCかMCIかADかを評価することができる。
また、図10の(c)に示されるように、歩行速度及び歩幅P3と、MoCAテストのスコアとを照合することで、NCかMCIかADかを評価してもよい。つまり、算出部120は、移動軌跡から算出される被測定者500の歩行に関する複数の歩行パラメータを多変量解析してもよい。例えば、記憶部140には、歩行速度及び歩幅に対するMoCAテストのスコアが多変量解析された結果が参照データ141として予め記憶されている。例えば、図10の(c)に示されるように、参照データ141には、横軸を歩行速度、縦軸を歩幅P3とした場合に、NCが位置するNC領域R1、MCIが位置するMCI領域R2、及びADが位置するAD領域R3のような相関データが含まれる。出力部130は、算出部120が算出した歩行速度及び歩幅P3と参照データ141とを照合することで、被測定者500の認知機能の程度を評価し、評価結果を出力する。
なお、多変量解析される歩行パラメータは、歩行速度及び歩幅P3に限定されない。例えば、多変量解析される歩行パラメータは、一歩の時間P1及び歩隔P2でもよいし、一歩の時間P1、歩隔P2、歩幅P3でもよい。このように、多変量解析される歩行パラメータの数及び種類は、任意に選択されてもよい。
図11は、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100が被測定者500の歩行パラメータと参照データ141とを照合して出力する処理手順を示すフローチャートである。
取得部110は、カメラ300から動画像データを取得する(ステップS201)。
次に、算出部120は、図5に示されるステップS202〜ステップS207の処理手順を実行した後、移動軌跡から歩行パラメータを算出する(ステップS208)。
次に、出力部130は、ステップS208で算出された歩行パラメータと、記憶部140に記憶されている参照データ141とを照合する(ステップS301)。
次に、出力部130は、ステップS302で照合した結果である被測定者500の認知機能の程度を出力する(ステップS302)。例えば、出力部130は、被測定者500の歩行パラメータと参照データ141とを照合した結果、被測定者500は認知機能が正常であると判断した場合、認知機能が正常であることを表示するための画像データを表示装置400に出力する。この結果、表示装置400には、出力部130が照合した結果を示す画像が表示される。
[効果等]
以上、実施の形態1に係る認知機能評価支援装置100は、人の歩行時における体動を示す歩行パラメータと、当該人の認知機能の程度との関係を示す参照データ141を記憶している記憶部140を備える。また、認知機能評価支援装置100は、さらに、被測定者500の歩行時における動画像データを取得する取得部110を備える。また、認知機能評価支援装置100は、さらに、当該動画像データから、被測定者500が歩行する歩行面W上の位置を示す歩行点Tの移動軌跡を算出し、当該移動軌跡から被測定者500の1以上の歩行パラメータを算出する算出部120を備える。また、認知機能評価支援装置100は、さらに、被測定者500の歩行パラメータと記憶部140に記憶されている参照データ141とを照合し、被測定者500の歩行パラメータに対応する認知機能の程度を出力する出力部130と、を備える。
これにより、認知機能評価支援装置100は、MoCAテストのような時間を要さずに被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。つまり、認知機能評価支援装置100は、迅速に被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。さらには、認知機能評価支援装置100によれば、簡便に被測定者500の認知機能の程度を評価できるので、高い頻度で認知機能の程度を評価することができる。そのため、認知機能評価支援装置100によれば、被測定者500は、被測定者500の認知機能の経時変化を確認しやすい。
例えば、算出部120は、動画像データから、被測定者500に基づく特徴点Iaを抽出し、動画像データ上の特徴点Iaの座標から、歩行点Tの座標を算出することで、移動軌跡を算出してもよい。
このようにすることで、算出部120は、被測定者500の歩行点Tを算出できる。そのため、算出部120は、動画像データに含まれる各画像データの歩行点Tを算出することで、被測定者500の移動軌跡を簡便に算出することができる。
例えば、特徴点Iaは、動画像データに含まれる被測定者500におけるつま先でもよい。
これにより、被測定者500において、歩行点Tの位置は、歩行面Wと近い位置が選択される。そのため、算出部120は、XY座標の移動軌跡を精度よく算出することができる。
また、例えば、特徴点Iaは、動画像データに含まれる被測定者500における、コーナー検出法によって抽出される複数の抽出点Iの内の、最も下方に位置する抽出点でもよい。
これにより、算出部120は、被測定者500にマーカ等が付されていなくても、簡便に被測定者500における歩行面Wに近い位置を抽出することができる。
また、歩行パラメータは、移動軌跡から算出される被測定者500の歩行速度を含んでもよい。また、歩行パラメータは、移動軌跡から算出される被測定者500の歩幅を含んでもよい。
これらのパラメータが歩行パラメータとして選択されることで、認知機能評価支援装置100は、精度よく被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。
また、算出部120は、移動軌跡から算出される被測定者500の歩行に関する複数の歩行パラメータを多変量解析してもよい。この場合、出力部130は、複数の歩行パラメータを多変量解析した結果と記憶部140に記憶されている参照データ141とを照合し、被測定者500の歩行パラメータに対応する認知機能の程度を出力してもよい。
こうすることで、認知機能評価支援装置100は、複数の歩行パラメータから、被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。そのため、認知機能評価支援装置100によれば、被測定者500の認知機能の程度を精度よく評価することができる。
また、実施の形態1に係る認知機能評価支援方法は、被測定者500の歩行時における動画像データを取得する取得ステップと、動画像データから、被測定者500が歩行する歩行面W上の位置を示す歩行点Tの移動軌跡を算出し、移動軌跡から被測定者500の歩行パラメータとして算出する算出ステップを含む。また、実施の形態1に係る認知機能評価支援方法は、さらに、被測定者500の歩行パラメータと、人の歩行時における体動を示す歩行パラメータ及び当該人の認知機能の程度の関係を示す参照データ141とを照合し、被測定者500の歩行パラメータに対応する認知機能の程度を出力する出力ステップを含む。
実施の形態1に係る認知機能評価支援方法によれば、MoCAテストのような時間を要さずに被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。つまり、認知機能評価支援方法によれば、迅速に被測定者500の認知機能の程度を評価することができる。さらには、認知機能評価支援方法よれば、簡便に被測定者500の認知機能の程度を特定できるので、頻度高く認知機能の程度を評価することができる。そのため、認知機能評価支援方法によれば、被測定者500は、被測定者500の認知機能の経時変化を確認しやすい。
また、本発明は、実施の形態1に係る認知機能評価支援方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現されてもよい。
これにより、実施の形態1に係る認知機能評価支援方法は、簡便に被測定者500の認知機能を評価できるプログラムとしてコンピュータが実行できる。
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置及び認知機能評価支援方法について説明する。
実施の形態1においては、算出部120は、コーナー検出法によって被測定者500の複数の抽出点Iを抽出し、画像データにおける複数の抽出点Iの最下方を特徴点Iaとして抽出した。実施の形態2においては、特徴点は、画像データに含まれる被測定者500における、被測定者500の外接矩形の下辺中央の点である。
以下に、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置及び認知機能評価支援方法について説明する。なお、実施の形態1と同一の構成又は同一の動作に関しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する場合がある。
[認知機能評価支援装置の構成]
実施の形態2に係る認知機能評価支援装置の構成に関して説明する。
図12は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置の特徴的な機能構成を示すブロック図である。図12に示されるように、認知機能評価支援装置100aは、運動機能測定装置200aと、記憶部140とを備える。運動機能測定装置200aは、取得部110と、算出部120aと、出力部130と、記憶部140とを備える。
算出部120aは、被測定者500の認知機能の程度を評価するための情報処理、及び、記憶部140へ動画像データを記憶させる制御等を行う制御装置である。算出部120aは、具体的には、プロセッサ、マイクロコンピュータ、又は、専用回路によって実現される。
算出部120aは、取得部110によって取得された動画像データから、被測定者500が歩行する歩行面W上の位置を示す歩行点Tの移動軌跡を算出し、当該移動軌跡から被測定者500の歩行パラメータを算出する。
また、算出部120は、動画像データに含まれる複数の画像データのそれぞれから、被測定者500に基づく特徴点を抽出し、歩行面W上の座標に対応する画像データの座標を生成し、画像データの座標上の特徴点の位置から歩行点を算出する。
ここで、算出部120aは、画像データに含まれる被測定者500における、被測定者500の外接矩形の下辺中央の点を特徴点として抽出する。
[歩行パラメータの算出方法]
図13は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが被測定者500の歩行パラメータを算出する処理手順を示すフローチャートである。
取得部110は、カメラ300から動画像データを取得する(ステップS201)。
次に、算出部120aは、取得部110が取得した動画像データに含まれる各画像データから、背景差分法によって各画像データの被測定者500を抽出する(ステップS202)。
次に、算出部120は、実施の形態1とは異なり、被測定者500の外接矩形を算出する(ステップS203a)。
次に、算出部120は、外接矩形の下辺中央を特徴点として抽出する(ステップS204a)。
図14は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出する特徴点を説明するための図である。
図14に示されるように、算出部120aは、背景差分法によって被測定者500のみが抽出されている画像データA3から、被測定者500の外接矩形Jを算出する。また、算出部120aは、算出した外接矩形Jの下辺Jaの中央(具体的には、図14に示すU軸方向の中央)の点を特徴点Ibとして抽出する。
外接矩形Jの中で、V座標が最も小さい値の下辺Jaから特徴点Ibを抽出することで、外接矩形Jにおける歩行面Wと最も近い部位を抽出することができる。例えば、カメラ300によって、被測定者500の正面側から被測定者500を撮像することで、算出部120aは、外接矩形Jの下辺Jaの中央の点を特徴点Ibとして抽出する。こうすることで、特徴点Ibは、被測定者500の体前面中央の移動が反映されやすい。つまり、特徴点Ibを上述の点とすることで、歩行点Tの移動経路には、被測定者500の重心の移動が反映されやすくなる。
再び図14を参照して、ステップS204以降、実施の形態1と同様に、ステップS205〜ステップS208の手順によって、算出部120aは、被測定者500の歩行パラメータを算出する。
図15は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出した被測定者500の移動軌跡のデータの一例を示す図である。具体的には、図15の(a)は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出した歩行点TのXY座標の座標点のデータを示す図である。図15の(b)は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出した歩行点Tの時間に対するY座標の座標点の変化を示す図である。図15の(c)は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出した歩行点Tの時間に対するX座標の座標点の変化を示す図である。
算出部120aは、上述した認知機能評価支援方法によって算出される移動軌跡から、歩行パラメータとして、例えば、被測定者500の歩行速度を算出する。具体的には、算出部120aは、図15の(b)に示されるY座標値に対する被測定者500の歩行の観測時間から、各歩行点Tを線形近似し、線形近似した直線の傾きから歩行速度を算出する。このような構成によれば、実施の形態1と異なり、被測定者500の右足と左足との歩行点の動きが排除されることから、右足と左足との前後関係が入れ替わる前のY座標値が変化しない観測時間がないために、歩行速度を算出しやすい。
図16は、実施の形態2に係る認知機能評価支援装置100aが算出した歩行パラメータに対するMoCAテストで被測定者が獲得したスコアの一例を示す図である。
本発明者らは、MoCAテストを実施した被測定者の中から、NCを4名、MCIを7名、ADを4名抽出した。また、本発明者らは、抽出した被測定者らから認知機能評価支援装置100を用いて移動軌跡を算出し、当該移動軌跡から歩行パラメータを算出した。
図16に示されるように、歩行速度とMoCAテストのスコアとには、NCとMCIとADとで相関が異なることがわかる。具体的には、ADは歩行速度が小さく、NCは歩行速度が大きい傾向が見てとれる。つまり、本実施の形態に係る認知機能評価支援方法によって算出された歩行速度から、NCかMCIかADかを評価することができる。
[効果等]
以上、実施の形態2において、特徴点Ibは、動画像データに含まれる被測定者500における外接矩形Jの下辺Ja中央の点である。言い換えると、算出部120は、画像データに含まれる被測定者500の外接矩形Jの下辺Ja中央の点を特徴点Ibとして抽出する。
これにより、被測定者500の右足と左足との歩行点の動きが排除される。そのため、算出部120は、被測定者500の右足と左足との前後関係が入れ替わる前のY座標値が変化しない観測時間がないために、歩行速度を算出しやすい。
なお、本発明は、実施の形態2に係る認知機能評価支援方法に含まれるステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現されてもよい。これにより、実施の形態2に係る認知機能評価支援方法は、簡便に被測定者500の認知機能を評価できるプログラムとしてコンピュータが実行できる。
(その他の実施の形態)
以上、実施の形態1及び実施の形態2に係る認知機能評価支援装置及び認知機能評価支援方法について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。
上記実施の形態では、認知機能評価支援装置100、100aは、認知機能の程度の評価の一具体例として、NDかMCIかADかの評価をした。しかしながら、認知機能評価支援装置100、100aは、NDかMCIかADかの評価に限定されない。例えば、被測定者500の酩酊の度合いが評価されてもよい。
また、上記実施の形態では、認知機能の低下の症状の一具体例として、アルツハイマー型認知症が挙げられた。しかしながら、認知機能とは、認識したり、記憶したり、判断したりする能力を示し、認知症とは、上述した認知機能の低下が見られる症状を示す。つまり、認知機能評価支援装置100、100aが評価する認知機能の程度は、アルツハイマー型認知症に限定されず、例えば、血管性認知症等でもよい。
また、上記実施の形態では、被測定者500の認知機能の程度を評価するために、MoCAテストのスコアと歩行時の体動が示す歩行パラメータとの関係性を示すデータを参照データ141として予め記憶部140が記憶している。しかしながら、参照データは、歩行パラメータと照合することで認知機能の程度の評価をすることができるデータであればよく、MoCAテストと歩行パラメータとの関係性を示すデータに限定されない。例えば、参照データは、MMSE(Mini−Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)のスコアと歩行パラメータとの関係を示すデータでもよい。
また、上記実施の形態では、歩行パラメータとして、一歩の時間P1、歩隔P2、歩幅P3、歩行速度、及びこれらの組み合わせを多変量解析した結果を例示したが、歩行パラメータはこれに限定されない。例えば、歩隔P2、歩幅P3等の変化量を歩行パラメータとしてもよい。また、例えば図8の(c)に示される、時間に対する被測定者500の左右方向(X軸方向)の移動軌跡のX座標値の変化量、歩行速度の変化量、被測定者500の体前面の中心位置の揺らぎを歩行パラメータとしてもよい。
また、本発明は、認知機能評価支援装置が実行するステップをコンピュータに実行させるプログラムとして実現されてもよい。また、本発明は、そのプログラムを記録したコンピュータによって読み取り可能なCD−ROM等の記録媒体として実現されてもよい。また、本発明は、そのプログラムを示す情報、データ又は信号として実現されてもよい。そして、それらプログラム、情報、データ及び信号は、インターネット等の通信ネットワークを介して配信されてもよい。
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態、又は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。