以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
なお、本明細書で説明する各図において、正極、負極、活物質層、セパレータ、外装体などの各構成要素の大きさや厚さ等は、個々に説明の明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしも各構成要素はその大きさに限定されず、また各構成要素間での相対的な大きさに限定されない。
また、本明細書等で説明する本発明の構成において、同一部分又は同様の機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を有する部分を指す場合には、ハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体において、ある元素(たとえばB)が不均一に分布する現象をいう。
(実施の形態1)
[正極活物質の作製方法]
まず図1乃至図5を用いて、本発明の一態様である正極活物質の作製方法について説明する。
<ステップS11:出発原料の準備>
はじめに、出発原料を用意する。出発原料としては、リチウム、遷移金属および酸素を有する第1の複合酸化物111を用いる。遷移金属としては、コバルト、ニッケル、マンガンのうちの少なくとも一を用いることができる。
さらに、第1の複合酸化物111は、上記に加えてマグネシウムおよびフッ素を有していることが好ましい。
マグネシウムは、正極活物質の表面に存在すると、二次電池の充放電における安定性を向上させることができる。ここで二次電池の安定性が高いとは、例えば複合酸化物の結晶構造がより安定であることをいう。あるいは、充放電を繰り返しても二次電池の容量の変化が小さいことをいう。あるいは、複合酸化物が有する金属の価数変化が抑制されることをいう。
フッ素は、後の工程でマグネシウムが複合酸化物の表面に偏析することを助長する効果があると考えられる。
第1の複合酸化物111を合成する場合は、リチウム源、遷移金属源、好ましくはこれらに加えてマグネシウム源およびフッ素源を混合し、焼成する。
このときフッ素源に含まれるフッ素は、マグネシウム源に含まれるマグネシウムの、1.0倍以上4倍以下(原子数比)であることが好ましく、1.5倍以上3倍以下(原子数比)であることがさらに好ましい。
また焼成は800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましい。加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。その後加熱した材料を室温まで冷却し、第1の複合酸化物を得ることができる。
本実施の形態では、あらかじめ合成された第1の複合酸化物として、日本化学工業株式会社製の、コバルト酸リチウム(商品名:C−20F)を用いることとする。これは粒径が約20μmであり、フッ素、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、シリコン、硫黄、リンを含むコバルト酸リチウム粒子である。
<ステップS12:金属アルコキシドのアルコール溶液と混合>
次に、金属Mのアルコキシドをアルコール溶液に溶解させる。
金属Mのアルコキシドが有する金属Mとしては、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、バナジウム、マグネシウム、カルシウム等を適用することができる。中でも、II価またはIV価をとりうる金属である、マグネシウムおよびチタンが好ましい。さらに、金属アルコキシドが有する金属としてアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素以外の典型金属元素、遷移金属元素等、様々な元素を用いてもよい。
アルカリ金属元素としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられ、アルカリ土類金属元素としては、Be、Mg、Ca、Sr,Ba、Raが挙げられ、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素伊以外の典型金属元素としては、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co,Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta,W,Re、Os、Ir、Pt,Auが挙げられ、遷移金属元素としては、Al、Zn、Ga、Ge,Cd,In、Sn,Sb,Hg,TI、Pb,Bi、Poが挙げられる。
また、複数の金属アルコキシドを混合して用いてもよい。たとえば、チタンアルコキシドと、マグネシウムアルコキシドを混合して用いてもよい。
図2(A−1)に、金属Mのアルコキシドの一般式を示す。図2(A−1)の式中、Mは金属元素を表し、Rは同じでもよく、異なっていてもよい。Rはそれぞれ独立に、炭素数が1乃至18のアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数が6乃至13のアリール基を示す。該炭素数が1乃至18のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の直鎖アルキル基やイソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等の分岐鎖アルキル基が挙げられ、該炭素数が6乃至13のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フルオレニル基などを具体例として挙げることができる。なお、Rは上記に限定されない。
図2(A−2)に、図2(A−1)中、Mにチタンを用いたチタンアルコキシドの一般式を示す。チタンアルコキシドの具体例としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン(図2中(A−3))(オルトチタン酸テトライソプロピル、チタンイソプロポキシド、Titanium tetraisopropoxide、TTIP等と表記することもある)、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−i−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン、テトラ−t−ブトキシチタン等を挙げることができる。
金属Mのアルコキシドを溶解させる溶媒のアルコールとしては、1級アルコールまたは2級アルコール類が上記金属アルコキシドの溶解性が高いため好ましい。例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール等を用いることができる。なおアルコール以外の溶媒で金属Mのアルコキシドを溶解させてもよい。
本実施の形態では、金属Mのアルコキシドとして、チタンアルコキシドを用いることとする。
そして金属Mのアルコキシドのアルコール溶液に、ステップS11で準備した第1の複合酸化物を混合する。
<ステップS13:撹拌>
第1の複合酸化物と、金属アルコキシドのアルコール溶液とを撹拌する。ここに水(H2O)を加えることで、図2(B)のように水と金属Mのアルコキシドの加水分解反応が生じる。同時に触媒として、酸または塩基を加えても良い。また、金属Mのアルコキシドのアルコール溶液を、水を含む雰囲気中に置き、攪拌することでも同様の加水分解反応が生じる。
また図2(B)の加水分解反応に続いて、図2(C)の脱水縮合反応が生じる。図2(B)に示す加水分解と図2(C)に示す縮合反応が繰り返し生じることで、金属Mの酸化物のゾルが生じ、さらに反応を進行させることによって、金属Mの酸化物のゲルを生じる。
ここで、第1の複合酸化物の粒子表面には、水酸基(OH基)が存在することが知られている。図2(D−1)及び図2(D−2)に示すように第1の複合酸化物の粒子表面の水酸基が、図2(B)で示した金属アルコキシドから加水分解により生じた金属Mが有する水酸基と、図2(C)に示す脱水縮合反応を起こす。そして、第1の複合酸化物上に、金属Mの酸化物を含むゾルまたはゲルを形成する。
本明細書等では、ステップS12とステップS13を併せて、ゾルゲル処理ということとする。
<ステップS14:回収>
次に、金属Mの酸化物を含むゾルまたはゲルが形成された第1の複合酸化物を回収する。たとえばろ過、遠心分離等により、溶媒を除去し回収することができる。
その後、回収した第1の複合酸化物を乾燥することが好ましい。乾燥は、溶媒の沸点以下で行うことが、第1の複合酸化物の結晶構造を保つために好ましい。たとえば70℃で1時間、真空乾燥することができる。
<ステップS15:加熱>
次に、金属Mの酸化物を含むゾルまたはゲルが形成された第1の複合酸化物を加熱する。加熱時間は、規定温度での保持時間を50時間以下で行うことが好ましく、2時間以上10時間以下で行うことがより好ましい。該規定温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、800℃以上1000℃以下がより好ましい。昇温は、たとえば200℃/時間とすることができる。また、酸素を含む雰囲気で加熱することが好ましい。
この加熱によって、第1の複合酸化物がマグネシウムを有していた場合、第1の複合酸化物内部に固溶していたマグネシウムが表面に偏在して固溶、つまり偏析し、酸化マグネシウムとなる。このとき、酸素を含む雰囲気で加熱することで、酸化マグネシウムの偏析が促進される。また、第1の複合酸化物がフッ素を有していると、マグネシウムの偏析が促進される。
マグネシウムは、通常第1の複合酸化物中のリチウムのサイトに置換されるのが最も安定である。しかし、第1の複合酸化物がフッ素を有する場合、マグネシウムが遷移金属のサイトに置換されうる。その後、当該ステップS15の加熱によって、比較的不安定な遷移金属のサイト中のマグネシウムが、雰囲気中の酸素に引き寄せられ、結果的に酸化マグネシウムとして偏析すると考えられる。
次に、ステップS15で加熱した第1の複合酸化物111を、室温まで冷却する。冷却は、徐冷または急冷で行うことができる。徐冷の場合は、昇温と同じまたはそれ以上の時間をかけて冷却することが好ましい。たとえば、800℃から600℃までは200℃/時間で冷却し、その後は200℃/時間よりも緩やかに冷却することができる。急冷の場合は、たとえば規定時間加熱した後、すぐに加熱炉から取り出せばよい。
ここで、金属アルコキシドとしてTTIPを用いた場合のステップS12乃至ステップS15、すなわちゾルゲル処理及び加熱処理について、図3を用いてより具体的に説明する。
まず、イソプロパノール170にTTIP171を溶解させ、そこに第1の複合酸化物111を混合する(図3(A)参照)。
図3(A)で示した溶液を25℃、相対湿度90%の条件下で、4時間マグネチックスターラーで攪拌する。この処理により、雰囲気中の水とTTIP、及び第1の複合酸化物111表面上で生じる、加水分解および脱水重縮合反応を利用し、TiOxゾル172で第1の複合酸化物111を被覆する(図3(B)参照)。さらに反応を進行させ、第1の複合酸化物表面にTiOxゲルを生成させる。
処理を終えた混合液をろ過し、残渣を回収し、乾燥する。ここで、第1の複合酸化物111上はチタン酸化物を含む乾燥ゲル173で被覆されている(図3(C)参照)。
処理で得た粉末を、800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間、酸素を含む雰囲気の流量を10L/minの条件で加熱し、チタンを含む材料で被覆された複合酸化物111を得る(図3(D)参照)。
<ステップS12〜15を繰り返す>
そして、ステップS15の加熱の終わった複合酸化物について、再びステップS12乃至ステップS15までの処理を行う。繰り返し回数は、1回でもよく、2回以上でもよい。繰り返しゾルゲル処理と加熱処理を行うことで、第1の複合酸化物に生じていたクラックを減少させ、より表面のなめらかな複合酸化物を作製することができる。
このようにして複数回ゾルゲル処理および加熱処理を行って作製された複合酸化物を、第2の複合酸化物100ということとする。第2の複合酸化物100は、本発明の一態様の正極活物質である。
ステップS12乃至ステップS15の繰り返し回数が1回、つまり合計のゾルゲル処理と加熱処理が2回ずつの場合の作製方法のフローは、図4のようになる。
ステップS12−1で用いる第1の金属アルコキシドと、ステップS12−2で用いる第2の金属アルコキシドは、同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。異なるものを用いる場合、たとえば第1の金属アルコキシドとしてチタンアルコキシド、第2の金属アルコキシドとしてマグネシウムアルコキシドを用いることができる。
また、複数のアルコキシドを混合して用いてもよい。たとえば第1のアルコキシドとしてチタンアルコキシドを用い、第2のアルコキシドとしてチタンアルコキシドとマグネシウムアルコキシドの混合物を用いてもよい。
同様に、ステップS15−1の加熱の条件と、ステップS15−2の加熱の条件は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
ステップS12乃至ステップS15の繰り返し回数が2回、つまり合計のゾルゲル処理と加熱処理が3回ずつの場合の作製方法のフローは、図5のようになる。
ステップS12−1で用いる第1の金属アルコキシドと、ステップS12−2で用いる第2の金属アルコキシドと、ステップS12−3で用いる第3の金属アルコキシドは、同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。異なるものを用いる場合、たとえば第1の金属アルコキシドおよび第2の金属アルコキシドとしてチタンアルコキシド、第3の金属アルコキシドとしてマグネシウムアルコキシドを用いることができる。
同様に、ステップS15−1の加熱の条件と、ステップS15−2の加熱の条件と、ステップS15−3の加熱条件は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
[正極活物質]
上記の作製方法によって作製された正極活物質について、図6を用いて説明する。
図6(A)に、出発材料として用いた第1の複合酸化物111の例を示す。図6(A)は、第1の複合酸化物111の表面の模式図である。第1の複合酸化物111は、表面にクラック105を有する場合がある。このまま正極活物質層に用いて二次電池を作製し、サイクル特性を測定すると、粒子が割れて劣化が進み、遷移金属が負極やセパレータ内に析出するおそれがある。
そこで、本発明の一態様の作製方法で説明したように、ゾルゲル処理および加熱処理を複数回行う。すると第1の複合酸化物111のクラック105に、金属Mのアルコキシドなどが侵入し、その後の加熱処理の際、クラック105を修復する。
ゾルゲル処理および加熱処理を複数回行った後の、第2の複合酸化物100の例を図6(B1)および図6(B2)に示す。図6(B1)は第2の複合酸化物100の表面の模式図、図6(B2)は第2の複合酸化物100の断面の模式図である。
図6(B1)に示すように、第2の複合酸化物100ではクラック105が修復され、第1の複合酸化物111よりもなめらかな表面となる。そのため、第2の複合酸化物100は、充放電を繰り返しても割れにくい。そのため、遷移金属および酸素が溶出しにくい構造となっている。そのため、二次電池に用いたときに、充放電サイクルを繰り返しても容量の低下が抑制される。
処理前の第1の複合酸化物111よりも、処理後の第2の複合酸化物100の表面がなめらかであることは、たとえば粒度分布および比表面積を測定することで判断できる。第1の複合酸化物111と第2の複合酸化物100で粒度分布に大きな変化がないにもかかわらず、第2の複合酸化物100の比表面積の方が小さければ、第2の複合酸化物100の方が、表面がなめらかであるということができる。
本明細書等において、複合酸化物111と第2の複合酸化物100で粒度分布に大きな変化がないとは、たとえば両者のモード径の差が10μm以内、より好ましくは6μm以内であることをいう。または、両者の平均粒子径の差が、10μm以内、より好ましくは4μm以内であり、両者の標準偏差の差が、0.05以内であることをいう。
粒度分布は、たとえばレーザ回折法で測定することができる。比表面積は、たとえば気体吸着法で測定することができる。
また図6(B2)に示すように、複合酸化物100は、第1の領域101と第2の領域102と、を有する。第1の領域101は複合酸化物100の内部に存在し、第2の領域102は複合酸化物100の表層部に存在する。
第2の領域102は、金属Mのアルコキシドに由来する金属Mを有する。金属Mは濃度勾配を有していてもよい。また、第2の領域は、マグネシウムと、フッ素と、を有することが好ましい。上述のゾルゲル処理および加熱処理によって、金属Mを有する第2の領域102が形成される。第2の領域102は、正極活物質の劣化を抑制する被覆層として機能する。第2の領域102の存在により、充放電を繰り返しても第2の複合酸化物100の結晶構造の安定性が向上するため、充放電サイクル特性がより向上する。
第2の複合酸化物100は新規な作製方法で作製された材料であり、新規な正極活物質とも呼べる。
第2の複合酸化物100を正極活物質として正極活物質層に用いることで、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を有する二次電池の形状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形態の記載を参酌することができる。
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。図7(A)はコイン型(単層偏平型)の二次電池の外観図であり、図7(B)は、その断面図である。
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、図7(B)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を用いることで、サイクル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
ここで図7(C)を用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用いた二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向きになる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極は「負極」または「−極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
図7(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。図7(F)では、二次電池300の外部の端子から、正極304の方へ流れ、二次電池300の中において、正極304から負極集電体308の方へ流れ、負極から二次電池300の外部の端子の方へ流れる電流の向きを正の向きとしている。つまり、充電電流の流れる向きを電流の向きとしている。
[充放電方法]
二次電池の充放電は、たとえば下記のように行うことができる。
≪CC充電≫
まず、充電方法の1つとしてCC充電について説明する。CC充電は、充電期間のすべてで一定の電流を二次電池に流し、所定の電圧になったときに充電を停止する充電方法である。二次電池を、図8(A)に示すように内部抵抗Rと二次電池容量Cの等価回路と仮定する。この場合、二次電池電圧VBは、内部抵抗Rにかかる電圧VRと二次電池容量Cにかかる電圧VCの和である。
CC充電を行っている間は、図8(A)に示すように、スイッチがオンになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、VR=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧VRも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧VCは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧VBは、時間の経過とともに上昇する。
そして二次電池電圧VBが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、充電を停止する。CC充電を停止すると、図8(B)に示すように、スイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧VRが0Vとなる。そのため、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなった分、二次電池電圧VBが下降する。
CC充電を行っている間と、CC充電を停止してからの、二次電池電圧VBと充電電流の例を図8(C)に示す。CC充電を行っている間は上昇していた二次電池電圧VBが、CC充電を停止してから若干低下する様子が示されている。
≪CCCV充電≫
次に、上記と異なる充電方法であるCCCV充電について説明する。CCCV充電は、まずCC充電にて所定の電圧まで充電を行い、その後CV(定電圧)充電にて流れる電流が少なくなるまで、具体的には終止電流値になるまで充電を行う充電方法である。
CC充電を行っている間は、図9(A)に示すように、定電流電源のスイッチがオン、定電圧電源のスイッチがオフになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、VR=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧VRも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧VCは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧VBは、時間の経過とともに上昇する。
そして二次電池電圧VBが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、CC充電からCV充電に切り替える。CV充電を行っている間は、図9(B)に示すように、定電圧電源のスイッチがオン、定電流電源のスイッチがオフになり、二次電池電圧VBが一定となる。一方、二次電池容量Cにかかる電圧VCは、時間の経過とともに上昇する。VB=VR+VCであるため、内部抵抗Rにかかる電圧VRは、時間の経過とともに小さくなる。内部抵抗Rにかかる電圧VRが小さくなるに従い、VR=R×Iのオームの法則により、二次電池に流れる電流Iも小さくなる。
そして二次電池に流れる電流Iが所定の電流、例えば0.01C相当の電流となったとき、充電を停止する。CCCV充電を停止すると、図9(C)に示すように、全てのスイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧VRが0Vとなる。しかし、CV充電により内部抵抗Rにかかる電圧VRが十分に小さくなっているため、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなっても、二次電池電圧VBはほとんど降下しない。
CCCV充電を行っている間と、CCCV充電を停止してからの、二次電池電圧VBと充電電流の例を図9(D)に示す。CCCV充電を停止しても、二次電池電圧VBがほとんど降下しない様子が示されている。
≪CC放電≫
次に、放電方法の1つであるCC放電について説明する。CC放電は、放電期間のすべてで一定の電流を二次電池から流し、二次電池電圧VBが所定の電圧、例えば2.5Vになったときに放電を停止する放電方法である。
CC放電を行っている間の二次電池電圧VBと放電電流の例を図10に示す。放電が進むに従い、二次電池電圧VBが降下していく様子が示されている。
次に、放電レート及び充電レートについて説明する。放電レートとは、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池において、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2Cで放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたという。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという。
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を有する二次電池に用いることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
<正極活物質層>
正極活物質層は、正極活物質を有する。また、正極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を用いることができる。先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることができる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を用いることができる。
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いることにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェンまたはマルチグラフェンまたはreduced Graphene Oxide(以下、RGO)を用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多くなりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤としてグラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成することができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を説明する。
図11(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、複合酸化物100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ましい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェンまたは複数のグラフェンが部分的に重なりシート状になっていてもよい。またグラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェンおよび複数のグラフェンの両方が部分的に重なりシート状になっていてもよい。
活物質層200の縦断面においては、図11(A)に示すように、活物質層200の内部において概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。図11(A)においてはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の複合酸化物100を包むように、覆うように、あるいは複数の複合酸化物100の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行ってもよい。
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よりも少量で複合酸化物100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させることができる。よって、複合酸化物100の活物質層200における比率を増加させることができる。これにより、蓄電装置の放電容量を増加させることができる。
バインダとしては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン−スチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉を用いることができる。
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとして組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電子の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム−黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム−黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、蓄電装置の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電装置の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
また、上記の溶媒に溶解させる電解質として、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
蓄電装置に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert−ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、LiBOB、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などを添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF−HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
セパレータは多層構造であってもよい。たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、たとえば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、たとえばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、たとえばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
たとえばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
(実施の形態4)
[円筒型二次電池]
本実施の形態では、円筒型の二次電池の例について図12を参照して説明する。円筒型の二次電池600は、図12(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
図12(B)は、円筒型の二次電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
また、図12(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
図12(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点線で示した。図12(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、図13乃至図16を用いて説明する。
図13(A)及び図13(B)は、電池パックの外観図を示す図である。電池パックは、回路基板900と、二次電池913と、を有する。二次電池913は、端子951と、端子952とを有し、ラベル910で覆われている。また電池パックはアンテナ914を有してもよい。
回路基板900はシール915で固定されている。回路基板900は、回路912を有する。端子911は、回路基板900を介して、二次電池913が有する端子951および端子952と電気的に接続される。また端子911は、回路基板900を介して、アンテナ914、及び回路912と電気的に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
回路912はたとえば、過充電、過放電および過電流から二次電池913を保護する、保護回路としての機能を有する。回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。アンテナ914は、たとえば外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ914を介した電池パックと他の機器との通信方式としては、NFCなど、電池パックと他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
電池パックは、アンテナ914と、二次電池913との間に層916を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界への影響を防止することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
なお、電池パックの構造は、図13に限定されない。
例えば、図14(A−1)及び図14(A−2)に示すように、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池913のうち、対向するもう一対の面にアンテナ918を設けてもよい。図14(A−1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図14(A−2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図13(A)及び図13(B)に示す電池パックと同じ部分については、図13(A)及び図13(B)に示す電池パックの説明を適宜援用できる。
図14(A−1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、図14(A−2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913による電磁界への影響を防止することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
上記構造にすることにより、電池パックにアンテナを二つ設け、かつアンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きくすることができる。
アンテナ918は、アンテナ914に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。さらにアンテナ918は平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ914を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
又は、図14(B−1)に示すように、図13(A)及び図13(B)に示す電池パックに表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続される。なお、図13(A)及び図13(B)に示す電池パックと同じ部分については、図13(A)及び図13(B)に示す電池パックの説明を適宜援用できる。
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
又は、図14(B−2)に示すように、図13(A)及び図13(B)に示す二次電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922および回路基板900を介して端子911に電気的に接続される。なお、図13(A)及び図13(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図13(A)及び図13(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
さらに、二次電池913の構造例について図15及び図16を用いて説明する。
図15(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、図15(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
なお、図15(B)に示すように、図15(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、図15(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
さらに、捲回体950の構造について図16に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図13に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図13に示す端子911に接続される。
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質として機能する複合酸化物100を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池913とすることができる。
(実施の形態5)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。
まず、二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
次に、図17(A)および図17(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示す。図17(A)および図17(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示部9631、表示モード切り替えスイッチ9626、電源スイッチ9627、省電力モード切り替えスイッチ9625、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。図17(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、図17(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体9630bに渡って設けられている。
表示部9631は、一部をタッチパネルの領域とすることができ、表示された操作キーにふれることでデータ入力をすることができる。また、タッチパネルのキーボード表示切り替えボタンが表示されている位置に指やスタイラスなどでふれることで表示部9631にキーボードボタン表示することができる。
また、表示モード切り替えスイッチ9626は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替え、白黒表示やカラー表示の切り替えなどを選択できる。省電力モード切り替えスイッチ9625は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて表示の輝度を最適なものとすることができる。タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
図17(B)は、閉じた状態であり、タブレット型端末は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係る二次電池を用いる。
なお、タブレット型端末9600は2つ折り可能なため、未使用時に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末9600を提供できる。
また、この他にも図17(A)および図17(B)に示したタブレット型端末は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
タブレット型端末の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。
また、図17(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について図17(C)にブロック図を示し説明する。図17(C)には、太陽電池9633、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、図17(B)に示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充電を行う構成とすればよい。
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
図18に、他の電子機器の例を示す。図18において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
図18において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。図18では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
なお、図18では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
図18において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。図18では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
なお、図18では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
図18において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。図18では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
上述の電子機器の他、本発明の一態様の二次電池はあらゆる電子機器に搭載することができる。本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
(実施の形態6)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
図19において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図19(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は、車内の床部分に対して、図12に示した小型の円筒型の二次電池を多く並べて使用すればよい。また、図12に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
図19(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。図19(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、充電装置8021が有するACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。また充電用ACDCコンバータ8025が搭載された自動車8500の場合は、交流電源を接続しても充電を行うことができる。
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
また、図19(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図19(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
また、図19(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源としても用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
本実施例では、第1の複合酸化物の粒子に、ゾルゲル工程と加熱工程を2回行って第2の複合酸化物の粒子を作製し、粒度分布、比表面積およびクラック発生率について分析した結果について説明する。
[正極活物質の作製]
本実施例では、サンプル1〜サンプル8の正極活物質を作製した。本実施例では、出発材料である第1の複合酸化物として、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム(商品名:C−20F)を用いた。また、2回のゾルゲル工程で用いる金属Mのアルコキシドとしては、2回ともチタンアルコキシドであるTTIPを用いた。
サンプル1(比較例)は、ゾルゲル処理および加熱処理を行わないコバルト酸リチウムとした。つまり日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム(商品名:C−20F)をそのまま用いた。上述したようにこれはマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウムである。
サンプル2(比較例)は、ゾルゲル処理を行わず、加熱処理のみを1回行ったコバルト酸リチウムとした。具体的には、コバルト酸リチウムを、800℃(昇温200℃/時間)、保持時間2時間、酸素流量10L/minの条件で加熱した。
サンプル3(比較例)は、ゾルゲル処理を1回行うが、加熱処理を行わないコバルト酸リチウムとした。具体的には、400μlのTTIPを400mlの2−プロパノールに溶解させた溶液に、コバルト酸リチウムを100g混合した。つまり、コバルト酸リチウム1gあたりのTTIPが0.004mlとなるように調製した。そして該混合液を25℃、相対湿度90%の条件で72時間撹拌した。そして遠心分離によりチタン酸化物が被覆されたコバルト酸リチウムを回収し、乾燥させた。
サンプル4(比較例)は、ゾルゲル処理および加熱処理を1回ずつ行ったコバルト酸リチウムとした。ゾルゲル処理はサンプル3と同様に行い、加熱処理はサンプル2と同様に行った。
サンプル5(比較例)は、ゾルゲル処理および加熱処理を1回ずつ行った後、さらにゾルゲル処理のみを1回行ったサンプルとした。ゾルゲル処理はサンプル3と同様に行い、加熱処理はサンプル2と同様に行った。
サンプル6は、ゾルゲル処理および加熱処理を2回ずつ行ったサンプルとした。ゾルゲル処理はサンプル3と同様に行い、加熱処理はサンプル2と同様に行った。
サンプル7は、ゾルゲル処理および加熱処理を2回ずつ行ったサンプルとした。2回目の加熱処理の温度を825℃とした他は、サンプル6と同様に作製した。
サンプル8は、ゾルゲル処理および加熱処理を2回ずつ行ったサンプルとした。2回目の加熱処理の温度を850℃とした他は、サンプル6と同様に作製した。
サンプル1〜サンプル8の作製条件を表1に示す。
[粒度分布]
上記のようにして作製したサンプル1〜サンプル8について、レーザ回折式の粒度分布計にて粒度分布を測定した。また、モード径(最頻粒子径ともいう)、平均粒子径および標準偏差(SD)を求めた。
サンプル1〜サンプル8の粒度分布を図20(A)に示す。またサンプル1〜サンプル8のモード径、平均粒子径および標準偏差を表2に示す。
図20(A)および表2に示すように、何の処理も行わなかったサンプル1と、何らかの処理を行ったその他のサンプルの間で、粒度分布、モード径、平均粒子径および標準偏差に大きな違いはみられなかった。たとえばサンプル1と他のサンプルとのモード径の差はいずれも10μm以内であった。またサンプル1と他のサンプルとの平均粒子径の差10μm以内であった。またサンプル1と他のサンプルとの標準偏差の差は0.05以内であった。
ただし、サンプル1よりも、何らかの処理を行った他のサンプルの方が、若干モード径が小さくなり、図20(A)においても大きな粒子が減少している傾向が見られた。これは、サンプル1で生じていたコバルト酸リチウムの粒子の凝集が、何らかの処理を行うことで解消されたためであると考えられた。
図20(B)に、サンプル6〜サンプル8の粒度分布を抜粋して示した。ゾルゲル処理および加熱処理を2回ずつ行い、2回目の加熱温度のみを変えたこれら3つのサンプルは、粒度分布がほぼ重なった。そのため、2回目の加熱温度は、粒度分布に影響を与えないことが明らかとなった。
[比表面積]
次に、サンプル1〜サンプル8について、気体吸着法で比表面積を測定した。測定装置としては、自動比表面積細孔分布測定装置トライスターII3020(株式会社島津製作所製)を用いた。当該装置は、試料に窒素を一定期間吸着させた後、吸着した窒素量で当該試料の表面積を測定する装置である。
サンプル1〜サンプル8の比表面積を図21に示す。ゾルゲル処理の後、加熱処理を行っていないサンプル3およびサンプル5を三角のマーカで示し、他のサンプルはXまたは十字のマーカで示した。なお、十字で示したサンプル6の一部、サンプル7およびサンプル8の比表面積は、装置の測定下限以下であったため、参考値である。
図21から明らかなように、ゾルゲル処理の後、加熱処理を行っていないサンプル3およびサンプル5は、サンプル1よりも比表面積が増加していた。しかし加熱処理を行ったサンプル2、サンプル4、サンプル6〜サンプル8は、出発材料であるサンプル1よりも比表面積が減少していた。特に、2回ずつゾルゲル処理および加熱処理を行ったサンプル6〜サンプル8において、比表面積が減少する傾向が強かった。特にサンプル6の一部と、サンプル7およびサンプル8の比表面積は、測定機器の検出下限以下という非常に低い値であった。
粒度分布の測定結果で述べたように、各サンプルの粒度分布はほとんど変化していない。ゾルゲル処理および加熱処理を複数回行うことで、正極活物質の表面が滑らかになり、凹凸やクラック等が減少したため、比表面積が減少したと考えられる。
[クラック発生率]
次に、何の処理も行っていないサンプル1、ゾルゲル処理および加熱処理を1回ずつ行ったサンプル4、ゾルゲル処理および加熱処理を2回ずつ行ったサンプル6について、SEM観察を行い、クラックが発生している粒子の割合を計測した。具体的には、各サンプルについて同じ倍率で複数の視野のSEM像を取得し、視野内でクラックが発生している粒子の個数をカウントした。本実施例では、2000倍で9視野のSEM像を取得した。1視野あたり約20〜30個の粒子が観察できたため、各サンプルについて約180〜270個の粒子のうち、観察可能なクラックが発生した粒子の割合を計測したこととなる。
図22(A)にサンプル1のSEM像、図22(B)にサンプル4のSEM像、図22(C)にサンプル6のSEM像をそれぞれ1視野ずつ示す。また図23に、サンプル1、サンプル4およびサンプル6のクラック発生率を示す。
サンプル1のSEM像である図22(A)では、一部の粒子にクラックが発生している様子が観察された。一つの粒子に複数のクラックが発生する場合もあり、筋状の凹凸が観察できる場合もあった。また粒子の表面にさらに細かい粒子が付着している様子も観察された。
それに対して、サンプル4およびサンプル6のSEM像である図22(B)および図22(C)に示した視野では、クラックのある粒子は観察されなかった。またサンプル1よりも粒子の表面がなめらかである様子が観察された。粒子の表面にさらに細かい粒子が付着している場合もあったが、その数はサンプル1よりも減少しているように見えた。
図23に示すクラック発生率も、サンプル1よりもサンプル4およびサンプル6が少なく、サンプル6が最も少なかった。サンプル6におけるクラック発生率は、サンプル1の半分であった。これらの結果は、粒度分布および比表面積から考えられる考察を裏付けるものである。
以上のように、本発明の一態様である作製方法によって正極活物質を作製することで、クラックが少なく、充放電を繰り返しても割れにくい正極活物質を得られることが明らかとなった。