JP6836783B2 - 逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度の測定方法及び測定装置並びに逆浸透複合膜の製造方法 - Google Patents

逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度の測定方法及び測定装置並びに逆浸透複合膜の製造方法 Download PDF

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本発明は、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度の測定方法及び測定装置並びに逆浸透複合膜の製造方法に関するものである。
カーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜が提案されている(特許文献1)。逆浸透複合膜は、カーボンナノチューブが解繊されることで、耐塩素性に優れることができる。逆浸透複合膜の逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの含有量は、熱分析装置を用いて、ポリアミドとカーボンナノチューブの熱分解開始温度の違いを利用して測定している。
また、炭素煤煙の試料中の単層カーボンナノチューブ(SWNT)の濃度を調べる方法として、固体核磁気共鳴(NMR)を用いる方法が提案されている(特許文献2)。
国際公開第2016/158992号 特表2008−534984号公報
本発明の目的は、非破壊による簡易な方法で逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定する測定方法及びその測定のための測定装置並びにカーボンナノチューブの濃度が測定された逆浸透複合膜の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
[適用例1]
本適用例に係る測定方法は、
多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を測定する方法であって、
既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析し、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する分析工程と、
前記分析工程で得られた赤外吸収スペクトルから、前記検量線に基づき、前記分析対象の逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度を算出する算出工程と、
を含み、
前記多孔性支持体は、ポリスルホンであり、
前記検量線作成工程では、前記対応関係が、カーボンナノチューブの濃度と、1500cm −1 以上1510cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm −1 以上1
490cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比と、の関係であり、かつ、
前記算出工程では、前記分析工程によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm −1 以上1510cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm −1 以上1490cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比を求め、前記検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度の算出が行われることを特徴とする。
[適用例]
本適用例に係る測定方法において、
前記検量線作成工程及び前記分析工程では、全反射赤外分光装置を用いて赤外吸収スペクトルを分析することができる。
[適用例]
本適用例に係る測定方法において、
前記逆浸透膜が、架橋ポリアミド中に解繊されて前記逆浸透膜の全体に分散したカーボンナノチューブを含むことができる。
[適用例]
本適用例に係る測定方法において、
前記逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度が0質量%を超え30質量%以下であることができる。
[適用例5]
本適用例に係る測定装置は、
多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置であって、
既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析して得られた、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線が記憶されている記憶部と、
分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射し、多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する分析部と、
前記分析部で得られた赤外吸収スペクトルから、前記検量線に基づき、前記分析対象の逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を算出する算出部と、
を含み、
前記多孔性支持体は、ポリスルホンであり、
前記記憶部は、カーボンナノチューブの濃度と、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内
にある吸収ピークとの強度比と、の前記対応関係を示す前記検量線が記憶され、
前記算出部は、前記分析部によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比を求め、前記検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度を算出することを特徴とする。
[適用例]
本適用例に係る逆浸透複合膜の製造方法は、
多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を形成し、
前記多孔性支持体上に前記逆浸透膜が形成された逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を上記適用例に記載の測定方法により測定し、
所定のカーボンナノチューブの濃度の逆浸透膜を有する逆浸透複合膜を得ることを特徴とする。
本発明の測定方法によれば、非破壊による簡易な方法で逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定することができる。また、本発明の測定装置によれば、非破壊による簡易な方法で逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定することができる。さらに、本発明の逆浸透複合膜の製造方法によれば、カーボンナノチューブの濃度が測定された逆浸透複合膜を製造することができる。
図1は、逆浸透複合膜を模式的に示す縦断面図である。 図2は、走査型電子顕微鏡で観察した逆浸透膜の平滑面を模式的に示す平面図である。 図3は、カーボンナノチューブの最近接距離の分布を示すグラフである。 図4は、一実施形態に係るカーボンナノチューブの濃度を測定する測定方法を説明するフローチャートである。 図5は、一実施形態に係るカーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置の全体構成を示すブロック図である。 図6は、減衰全反射フーリエ変換赤外分光測定(FTIR−ATR)の概略説明図である。 図7は、フーリエ変換赤外分光法で得られる吸収スペクトルのカーボンナノチューブの濃度依存を示す図である。 図8は、カーボンナノチューブの濃度と吸収ピークの強度比の関係を示す図である。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
本実施形態に係る測定方法は、多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を測定する方法であって、既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析し、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する分析工程と、前記分析工程で得られた赤外吸収スペクトルから、前記検量線に基づき、前記分析対象の逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度を算出する算出工程と、を含み、前記多孔性支持体は、ポリスルホンであり、前記検量線作成工程では、前記対応関係が、カーボンナノチューブの濃度と、1500cm −1 以上1510cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm −1 以上1490cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比と、の関係であり、かつ、前記算出工程では、前記分析工程によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm −1 以上1510cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm −1 以上1490cm −1 以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比を求め、前記検量線
に基づいて、カーボンナノチューブの濃度の算出が行われることを特徴とする。
A.逆浸透複合膜
図1〜図3を用いて逆浸透複合膜100について説明する。図1は逆浸透複合膜100を模式的に示す縦断面図であり、図2は走査型電子顕微鏡で観察した逆浸透膜104の平滑面を模式的に示す平面図であり、図3は、カーボンナノチューブの最近接距離の分布を示すグラフである。
逆浸透複合膜100は、多孔性支持体102上に逆浸透膜104が設けられる。多孔性支持体102は、少なくとも一方の面が逆浸透膜104によって覆われる。逆浸透膜104は、架橋ポリアミド(以下、架橋芳香族ポリアミド120の例について説明するが、これに限られるものではない)とカーボンナノチューブ110とを含む。逆浸透膜104の表面(顕微鏡観察)は、全体が架橋芳香族ポリアミド120によって覆われている。
逆浸透膜104が、架橋芳香族ポリアミド120中に解繊されて逆浸透膜104の全体に分散したカーボンナノチューブ110を含む。架橋芳香族ポリアミド120がマトリクスとなり、隣接する解繊されたカーボンナノチューブ110の間が架橋芳香族ポリアミド120で満たされている。通常、カーボンナノチューブの原料は、分子間力により互いに接触した集合体の状態にあり凝集塊を形成しているが、この凝集塊から後述する工程によ
りカーボンナノチューブを解きほぐし、カーボンナノチューブ110は架橋芳香族ポリアミド120内で分散した解繊された状態にされる。架橋芳香族ポリアミド120中でカーボンナノチューブ110が解繊されていることは、国際公開第2016/158992号に開示されているように、逆浸透膜104におけるカーボンナノチューブ110の最近接距離の分布によって確認することができる。
カーボンナノチューブの最近接距離は、走査型電子顕微鏡観察にて、測定することができる。具体的には、逆浸透複合膜100の表面に沿ってクライオミクロトーム法により切断(例えば図1の左側に示す矢印の位置で切断)して逆浸透膜104の表面を平滑面とした薄膜状の試験片を切り出し、この試験片の平滑面(逆浸透膜104)を走査型電子顕微鏡で観察する。
図2に示すように、逆浸透膜104の平滑面を走査型電子顕微鏡で観察すると、架橋芳香族ポリアミド120の中に点在するカーボンナノチューブ110の切断部が見える。図2では、カーボンナノチューブ110の切断部は、黒点で示した。逆浸透膜104においては、カーボンナノチューブの最近接距離は、カーボンナノチューブ表面の間隔ではなく、カーボンナノチューブの切断面の中心間の距離として測定する。
図2を用いて具体的に最近接距離の測定方法を説明する。
まず、図2のような走査型電子顕微鏡で撮影した逆浸透膜104の平滑面の画像をコンピュータに取り込む。
次に、測定者は、コンピュータの画面上にこの画像を表示し、所定面積(測定面積441平方マイクロメートル)にある図2において黒点で示される所定数(20,000)のカーボンナノチューブ110の切断部ごとに画像上の座標を取得する。
次に、近接する所定数の黒点の座標を取得したら、各黒点に最も近い距離にある他の黒点を見出し、その2点間の距離を黒点ごとに求める。例えば、図2におけるカーボンナノチューブ110aの周囲にある複数の黒点の内、カーボンナノチューブ110aの座標に最も近接する位置にある黒点はカーボンナノチューブ110bの座標となり、この2点間の距離がカーボンナノチューブ110aにおける最近接距離Lである。この2点間の距離から最近接距離Lを求める作業を黒点ごとに行う。なお、画像における黒点の座標から最も近い他の黒点の座標を見出す作業、2点間の距離を測定する作業、および最近接距離Lを求める作業は、コンピュータで自動的に解析・処理してもよい。
この測定結果からカーボンナノチューブ110の最近接距離の分布を、横軸を最近接距離(nm)、縦軸を測定点数(頻度)としてプロットしたグラフとして作成する。試験片における測定面積は441平方マイクロメートル、測定点数は20,000である。試験片における測定面積が200平方マイクロメートル以上、測定点数が10,000以上であって、近接するカーボンナノチューブ110を漏れなく測定すれば、カーボンナノチューブ110が解繊されているかを判断可能な分布を得ることができるが、測定面積が400平方マイクロメートル以上、測定点数が20,000以上あれば好適である。
本発明では、逆浸透膜104におけるカーボンナノチューブ110が解繊されているということは、逆浸透膜104におけるカーボンナノチューブ110の最近接距離の分布が逆浸透膜104の厚さの範囲内でピークを示し、そのピークの半値幅が逆浸透膜104の厚さ以下になるということである。
図3を用いてカーボンナノチューブの最近接距離の分布について説明する。図3は、カ
ーボンナノチューブの最近接距離の分布を示すグラフであり、解繊されたカーボンナノチューブを測定した一例である。測定に用いたカーボンナノチューブが解繊した試料(解繊試料)は、後述する製造方法により作製した逆浸透膜(架橋ポリアミド中のカーボンナノチューブの含有量が15.5質量%)から切り出した試験片である。図3に示すように、解繊しているカーボンナノチューブの最近接距離の分布は三角印で示すように逆浸透膜の厚さ(例えば100nm)の範囲内でピークを有する。そして、このピークの半値幅は逆浸透膜の厚さ以下になっている。また、解繊しているカーボンナノチューブの最近接距離の分布は、正規分布である。カーボンナノチューブが十分解繊されておらず、カーボンナノチューブの凝集塊を含む場合には図3に丸印で示すように逆浸透膜の厚さの範囲内で明確なピークを有しておらず、正規分布も示さない。図3に示す例では凝集塊を含みカーボンナノチューブが未解繊の試料(未解繊試料)は、後述する第2混合工程を経ずに単に超音波処理を行って得られた第2水溶液を用いて作製した試験片である。なお、凝集塊(本願明細書では凝集塊の最大径が50nm以上のものをいう)の内部におけるカーボンナノチューブの間隔は測定できない。クライオミクロトーム法により切断した場合に、凝集塊を避けて逆浸透膜104が切断されるため、平滑面上に凝集塊を確認できないからである。
図3の測定結果は、図1に示すように逆浸透膜104の表面を平滑面とした薄膜状の試験片を切り出して行ったものであるが、逆浸透膜104の膜厚方向で切断して断面を測定しても、基本的に同じような分布になる。カーボンナノチューブ110は3次元的にほぼ等方に分布しているからである。
解繊したカーボンナノチューブを含む逆浸透膜では、カーボンナノチューブが比較的高い濃度(高い配合割合)で分散しているので、カーボンナノチューブの最近接距離が逆浸透膜の厚さより大きくなることはほとんどない。カーボンナノチューブの最近接距離はほとんど逆浸透膜の膜厚以下となるため、最近接距離の分布におけるピークの半値幅は逆浸透膜の膜厚以下となり、ピークの位置も逆浸透膜の厚さの範囲内になる。
また、カーボンナノチューブが解繊していない場合は、凝集塊が生じているので、凝集塊がない箇所ではカーボンナノチューブの濃度は低くカーボンナノチューブは広く分散している。このため、最近接距離が逆浸透膜の膜厚以上のものもたくさん存在し、図3の未解繊試料のような広がった分布となり、最近接距離が逆浸透膜の膜厚以下になる測定点の数も少ない。
逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの最近接距離の分布は、図3のような正規分布であることができる。逆浸透膜におけるカーボンナノチューブが解繊されていると、最近接距離の分布のばらつきが小さくなり、カーボンナノチューブの最近接距離の分布が正規分布を示すからである。ここで正規分布とは、正規分布に近似した分布も含むものとする。また、逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの最近接距離の分布は、ポアソン分布またはローレンツ分布であってもよい。
実施例のサンプルを測定した経験から、カーボンナノチューブが解繊したサンプルは最近接距離が平均20nm以上80nm以下、標準偏差σが20nm以上75nm以下で正規分布を示すことがわかっている。
図3に示すようなカーボンナノチューブの最近接距離の分布を示すグラフは、逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの濃度が高いとピークがより左側に現れ、逆にカーボンナノチューブの濃度が低いとピークがより右側に現れる。
逆浸透膜104は、カーボンナノチューブ110の凝集塊をほとんど含まないことが望
ましい。逆浸透膜104中に凝集塊があると、凝集塊の部分が構造上の欠陥となって膜の強度を損なうことになる。また、多数の凝集塊を有する逆浸透膜104では、凝集塊と隣接する凝集塊との間にはカーボンナノチューブ110が存在しない架橋芳香族ポリアミドだけの領域、特に分子配向していない架橋芳香族ポリアミドの領域が広く存在するため、酸化性塩素による洗浄で劣化しやすい。さらに、多数の凝集塊を有する逆浸透膜104では、凝集塊の内部に架橋芳香族ポリアミドが入り込まないため、脱塩性能が損なわれる。
図1に示す逆浸透複合膜100は、逆浸透膜104に含まれるカーボンナノチューブ110の濃度が0質量%を超え30質量%以下であることができる。さらに、逆浸透複合膜100における逆浸透膜104中のカーボンナノチューブ110の濃度が5質量%〜25質量%であることができ、特に、5質量%〜20質量%であることができる。
逆浸透複合膜100によって分離する溶液の種類としては、例えば、高濃度かん水、海水、濃縮海水(淡水化)などがある。
逆浸透複合膜は、例えば、スパイラル、チューブラー、プレート・アンド・フレームのモジュールに組み込んで、また中空糸は束ねた上でモジュールに組み込んで使用することができる。
A−1.カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、平均直径(繊維径)が5nm以上30nm以下であることができる。市販されている逆浸透複合膜の厚さが100nm以上500nm以下であるため、カーボンナノチューブは30nm以下の細いものが好ましく、後述する解繊の工程における取り扱いやすさからカーボンナノチューブは5nm以上のものが好ましい。カーボンナノチューブは、平均長さが1μm以上10μm以下であることができる。カーボンナノチューブが短すぎると逆浸透膜の表面から突出する可能性があるからである。10μm以下の長さのカーボンナノチューブであれば、市販されているものを用いることができる。
なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノチューブのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
カーボンナノチューブは、その表面における液体との反応性を向上させるために、例えば酸化処理することもできる。
カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有するいわゆるカーボンナノチューブであることができ、多層カーボンナノチューブ(MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)であることができる。
平均直径が5nm以上30nm以下のカーボンナノチューブとしては、例えばナノシル(Nanocyl)社のNC−7000などを挙げることができる。
また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
カーボンナノチューブは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素
等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させてカーボンナノチューブを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃以上1000℃以下の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁にカーボンナノチューブを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノチューブを基板上に生成させる触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)等を用いることができる。
平均直径が5nm以上30nm以下のカーボンナノチューブは触媒担持反応法によって得ることができ、平均直径が30nmを超え110nm以下のカーボンナノチューブは浮遊流動反応法によって得ることができる。
カーボンナノチューブの直径は、例えば金属含有粒子の大きさや反応時間などで調節することができる。平均直径が5nm以上30nm以下のカーボンナノチューブは、窒素吸着比表面積が10m2/g以上500m2/g以下であることができ、さらに100m2/g以上350m2/g以下であることができ、特に、150m2/g以上300m2/g以下であることができる。
A−2.ポリアミド
ポリアミドは、芳香族系のポリアミドであることができる。逆浸透膜におけるポリアミドは、架橋体である。
芳香族系ポリアミドは、芳香族アミン成分を含む。芳香族系ポリアミドは、全芳香族系ポリアミドであることができる。芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン、N−メチル−m−フェニレンジアミンおよびN−メチル−p−フェニレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一つの芳香族多官能アミンが好ましく、これらは単独で用いてもよく若しくは2種類以上併用してもよい。
架橋芳香族ポリアミドは、COO、NH4 、及びCOOHからなる群から選択される官能基を有することができる。
A−3.多孔性支持体
図1に示す多孔性支持体102は、逆浸透膜104に力学的強度を与えるために設けられる。多孔性支持体102は、実質的には分離性能を有さなくてもよい。
多孔性支持体102は、表面から裏面にわたって微細な孔を有する。多孔性支持体102としては、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどを用いることができる。ポリスルホンは化学的、機械的、熱的に安定性の高いため、多孔性支持体102に好適である。
B.測定方法
図4を用いて測定方法について説明する。図4は、一実施形態に係るカーボンナノチューブの濃度を測定する測定方法を説明するためのフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態に係る測定方法は、多孔性支持体上に、カーボンナノチ
ューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定する方法であって、検量線作成工程S10と、分析工程S20と、算出工程S30と、を含む。測定方法は、さらに表示工程S40を含んでもよい。逆浸透複合膜は、逆浸透膜中のカーボンナノチューブが解繊した状態で逆浸透膜の全体に分散していることが望ましい。赤外分光法では、逆浸透膜を赤外光が透過するため、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの分布にムラがあると正確な測定ができないからである。
B−1.検量線作成工程
検量線作成工程(S10)は、既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析し、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線を作成する。
まず、逆浸透複合膜の試料における逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度は、特許文献1(国際公開第2016/158992号)に開示される方法で測定することができる。具体的には、熱分析装置を用いて、ポリアミドとカーボンナノチューブの熱分解開始温度の違いを利用して測定することができる。また、試料におけるカーボンナノチューブの濃度は、公知の他の方法を用いてもよい。
次に、熱分析装置によりカーボンナノチューブの濃度が判っている試料について、赤外吸収スペクトルを分析する。なお、赤外吸収スペクトルの分析には、熱分析に用いたものと同じ試料の他の部分を用いる。赤外吸収スペクトルの分析は、赤外分光光度計を用いることができ、特に、フーリエ変換赤外分光器(FT−IR)を用いる全反射赤外分光法(IR−ATR法)を用いることができる。
全反射赤外分光法は、高屈折率のプリズムに試料を密着させ、プリズムへ赤外光を入射させることで生じるエバネッセント波を利用して試料の吸収スペクトルを得るものである。全反射赤外分光法では、試料への光の到達深さ(光のもぐり込み深さ)が0.5μm〜2μm程度と考えられる。試料である逆浸透複合膜の逆浸透膜側をプリズムに密着させ、逆浸透膜側から赤外光を照射し、多孔性支持体内で赤外光を反射させる。したがって、全反射赤外分光法によって得られる試料の吸収スペクトルは、多孔性支持体に係る吸収スペクトルとなる。
この多孔性支持体に係る吸収スペクトルは、分光法において赤外光が透過している逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの濃度と密接な関連があることが本発明者らの研究により判明した。多孔性支持体に係る吸収スペクトルから、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線を作成する。
例えば、多孔性支持体がポリスルホンであるとき、検量線における対応関係は、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度と、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピーク(I)と1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピーク(I)との強度比(Ia=I/I)と、の関係であることができる。
ポリスルホンの赤外吸収スペクトルは、1485cm−1付近のピークと1505cm−1付近のピークとの2つのピークが表れる。逆浸透複合膜の赤外吸収スペクトルがカーボンナノチューブの濃度によって変化するのは、ポリスルホンからの反射光に対して、カーボンナノチューブの赤外光の再吸収があり、しかも、その再吸収がポリスルホンにおける2つのピークの波数(cm−1)で吸収に差があるためと推測される。
検量線は、分光法により得られた吸収ピーク強度比(Ia=I/I)とカーボンナノチューブの濃度(熱分析装置により予め測定した濃度)との関係をグラフ化し、最小二乗法により求めることができる。
B−2.分析工程
分析工程(S20)は、分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する。
分析対象の逆浸透複合膜の試料について、検量線作成工程(S10)と同様の方法により、赤外吸収スペクトルを分析する。分析対象の逆浸透複合膜の試料は、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度が不明の試料である。
検量線作成工程(S10)及び分析工程(S20)では、全反射赤外分光装置を用いて赤外吸収スペクトルを分析することができる。全反射赤外分光装置としては、市販されている装置を採用することができ、例えば、Thermo Scientific社のNicolet 6700 FT−IR装置など挙げることができる。
B−3.算出工程
算出工程(S30)は、分析工程(S20)で得られた赤外吸収スペクトルから、検量線に基づき、分析対象の逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度を算出する。
例えば、多孔性支持体がポリスルホンであるとき、分析工程(S20)によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピーク(I)と1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピーク(I)との強度比(Ib=I/I)を求め、検量線作成工程(S10)で得られた検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度の算出が行われる。すなわち、分析対象の吸収ピーク強度比(Ib)が求められれば、検量線における吸収ピーク強度比(Ia)に対応するカーボンナノチューブの濃度が算出できる。
B−4.表示工程
表示工程(S40)は、算出工程(S30)で算出された逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度が例えばディスプレイに表示される。
C.測定装置
図5を用いて逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置について説明する。図5は、一実施形態に係るカーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置1の全体構成を示すブロック図である。
図5に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置1であって、分析部20と、算出部30と、記憶部40と、を含む。測定装置1としては、各部の処理を実行できるコンピュータを採用することができる。
測定装置1は、入力部10をさらに含んでいてもよい。入力部10は、キーボード等の公知の入力装置を含んでもよい。
測定装置1は、表示部50をさらに含んでいてもよい。表示部50は、例えば、分析部20による分析結果や算出部30による算出結果を表示することができる。表示部50は、ディスプレイ等の公知の表示装置を採用できる。
記憶部40は、既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析して得られた、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線が記憶されている。
分析部20は、分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射し、多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する。分析部20は、分光装置の一部であってもよいし、分光装置からの出力に基づいて分析するものであってもよい。分析部20は、例えばコンピュータ等である。
算出部30は、分析部20で得られた赤外吸収スペクトルから、検量線に基づき、分析対象の逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を算出する。算出部30は、分光装置に内蔵されたまたは接続されたコンピュータであってもよい。
D.逆浸透複合膜の製造方法
本実施形態に係る逆浸透複合膜の製造方法は、多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を形成し、前記多孔性支持体上に前記逆浸透膜が形成された逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を上記Bで説明した測定方法により測定し、所定のカーボンナノチューブの濃度の逆浸透膜を有する逆浸透複合膜を得ることを特徴とする。
逆浸透複合膜の製造工程は、混合液を多孔性支持体に接触させた後、多孔性支持体に付着した混合液中のアミン成分を架橋反応させることによって逆浸透複合膜を得る。
混合液を得る工程は、例えば、アミン成分を含む第1水溶液と解繊されたカーボンナノチューブを含む第2水溶液とを混合して、アミン成分とカーボンナノチューブとを含む第3水溶液を得る工程を含むことができる。以下、各工程について説明する。
D−1.第3水溶液を得る工程
第1水溶液は、水とアミン成分を含む。アミン成分としては、上記A−2で説明した芳香族アミンから少なくとも1種を選択できる。
第2水溶液は、水とカーボンナノチューブを含む。第2水溶液は、カーボンナノチューブが解繊された状態で水溶液の全体に均一に分散して存在することができる。第2水溶液は、第1混合工程と第2混合工程とから得られる。
第1混合工程は、容器内に入れた所定量の水とカーボンナノチューブとを手作業で撹拌し、あるいは公知の攪拌機で撹拌することができる。第1混合工程で得られた水溶液は、水中にカーボンナノチューブが粒子状に単独で分布した状態である。従来の逆浸透膜に用いているカーボンナノチューブは、超音波攪拌機などで撹拌されてものであるため、水溶液中に凝集塊が細分化された凝集塊として存在しており、解繊されていない。第1混合工程後、水溶液に対して次の第2混合工程を実施する。
第2混合工程は、第1混合工程で得られたカーボンナノチューブを含む水溶液を流動しながら加圧して水溶液を圧縮した後、水溶液の圧力を解放または減圧して水溶液を元の体積に復元させる工程を含む。第2混合工程は、複数回繰り返し行われる。第2混合工程は、例えば3本ロールを用いることができる。各ロールのロール間隔(ニップ)は0.001mm以上0.01mm以下とすることができる。ここでは3本ロールを用いているが、ロールの数は特に限定されるものでは無く、複数本のロール、例えば、2本ロールを用い
てもよく、その場合には、同様のロール間隔で混練することができる。
第2混合工程は、ロールの回転比が1.2以上9.0以下であることができ、さらに3.0以上9.0未満であることができる。ロールの回転比が大きければ、水溶液に剪断力が大きくなり、カーボンナノチューブ同士を引き離す力として作用するからである。ここでいうロールの回転比は、隣り合うロールの回転比である。
第2混合工程は、ロールの周速が0.1m/s以上2.0m/s以下であることができ、さらに0.1m/s以上1.5m/s以下であることができる。ロールの周速が大きければ水溶液であっても弾性を利用した混練が可能となるからである。ここでいうロールの周速は、ロールの表面の速度である。
ロールに供給された水溶液は、ロール間の非常に狭いニップに入り込み、ロールの回転比によって流動しながら加圧され、所定体積が順次ニップに供給され、ニップで圧縮されて体積が減少する。その後、水溶液は、ニップを抜けると、圧力が解放または減圧されて元の体積に復元される。そして、この体積の復元に伴って、カーボンナノチューブは大きく流動し、凝集したカーボンナノチューブがほぐれる。この一連の工程を複数回繰り返し行うことにより、水溶液中のカーボンナノチューブの解繊は進み、第2水溶液を得ることができる。第2混合工程は、例えば、3分間以上10分間以下行うことができる。第2混合工程は、例えば、一連の工程を1回としたとき、10回以上30回以下行うことができる。
また、第2混合工程は、第1混合工程で得られた水溶液の温度を0℃以上60℃以下の範囲で行うことができ、さらに、第2混合工程は、第1混合工程で得られた水溶液の温度を15℃以上50℃以下の範囲で行うことができる。第2混合工程は、水の有する体積弾性率を利用して行うものであるため、なるべく低温で行う方が好ましい。体積弾性率は、ヤング率と比例関係にあり、圧縮率の逆数である。ヤング率は温度の上昇とともに減少し、圧縮率は温度上昇に伴い増加する為、体積弾性率も温度の上昇に伴い減少するからである。したがって、水溶液の温度は、60℃以下とすることができ、さらに50℃以下とすることができる。水溶液の温度は、生産性の観点から、0℃以上とすることができ、さらに15℃以上であることができる。ロールの温度が低いと、例えば、ロールにおける結露の問題が発生するからである。
第2混合工程は、3本ロールなどのロールによる混練に限らず、水溶液の体積を圧縮させた後に復元させることができる混練方法であれば、他の方法を採用することができる。例えば、水溶液を加圧して流動させながら圧縮し、キャビテーションや乱流を発生させた後、急激に減圧する分散装置を用いることが出来る。
第2混合工程において得られた剪断力により、水に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノチューブがロールに繰り返し通されることによって徐々に相互に分離し、解繊され、水溶液中に分散され、カーボンナノチューブの分散性および分散安定性(カーボンナノチューブが再凝集しにくいこと)に優れる。
また、第2水溶液は、カーボンナノチューブの解繊した状態を維持するために、さらに界面活性剤を含むことができる。界面活性剤としては、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤が挙げられる。例えば、イオン性のアニオン界面活性剤としては、硫酸エステル型、リン酸エステル型、スルホン酸型等が挙げられ、カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型等が挙げられる。また、両性界面活性剤として、アルキルベタイン型、アミドベタイン型、アミンオキサイド型等が挙げられる。さらに、非イオン性界面活性剤として、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
第3水溶液は、第1水溶液と解繊されたカーボンナノチューブを含む第2水溶液とを混合して得ることができる。第3水溶液は、芳香族アミンが1.0質量%以上3.0質量%以下でカーボンナノチューブが0.11質量%以上1.3質量%以下に調整される。第3水溶液における芳香族アミンが1.0質量%未満であると架橋密度が十分でなく脱塩率が得られにくくなり、3.0質量%を超えると未反応の残留アミンが増え膜から溶出の懸念が高まるため、この範囲にすることが好ましい。また、第3水溶液におけるカーボンナノチューブが0.11質量%未満であるとポリアミド全体に三次元構造が形成されないため耐塩素性が得られにくくなり、1.3質量%を超えると支持膜から架橋芳香族ポリアミド膜の剥離を生じやすくなるため、この範囲にすることが好ましい。
D−2.逆浸透複合膜を得る工程
逆浸透複合膜を得る工程は、上記のようにして得られた第3水溶液を多孔性支持体に接触させた後、多孔性支持体に付着した第3水溶液中の芳香族アミンを架橋反応させる。
第3水溶液は、多孔性支持体に塗布し、含浸させることで接触させる。そののち架橋剤を含む溶液を第3水溶液の上にさらに塗布し、加熱処理して両者の界面で重縮合反応を起こさせて架橋して逆浸透膜を形成する。こうして、上記「A.逆浸透複合膜」で説明した多孔性支持体上にカーボンナノチューブを含む逆浸透膜が形成された逆浸透複合膜を作製できる。
架橋剤としては、例えば、トリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライドなどの酸クロライド成分を含む有機溶媒溶液を用いることができる。
次に、多孔性支持体上に逆浸透膜が形成された逆浸透複合膜について、上記Bの測定方法に従って逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を測定し、所定のカーボンナノチューブの濃度の逆浸透膜を有する逆浸透複合膜を得る。例えば、当該測定結果を用いて、予め規定した品質管理基準に基づき、品質管理基準を満たしていない逆浸透複合膜を排除し、品質管理基準を満たしている逆浸透複合膜を合格(良品と判断)としてもよい。品質管理基準は、例えば、所定のカーボンナノチューブの濃度に対し許容できる幅を設定する。
このようにして得られた逆浸透複合膜は、所定の品質管理基準(所定のカーボンナノチューブの濃度)を備えることができる。特に、逆浸透複合膜におけるカーボンナノチューブの濃度は、耐圧性、耐塩素性、ファウリング特性などにも影響を与えるため、品質管理基準を満たすことが望ましい。例えば、逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの濃度が5質量%以上であれば、逆浸透膜の全体が三次元構造により補強されて耐圧性に優れるため、操作圧力を高くでき、さらには透過流束を高くすることに貢献する。また、カーボンナノチューブと共に分子配向した架橋芳香族ポリアミドが逆浸透膜のほぼ全体に存在するため、架橋芳香族ポリアミドによる脱塩性能を有したまま、耐塩素性(耐酸化性)が増強される。したがって、所定のカーボンナノチューブの濃度として例えば5質量%以上であることが設定されていれば、耐圧性・耐塩素性に優れた逆浸透膜を有する逆浸透複合膜を得ることができる。
逆浸透複合膜の用途は、例えば、海水、灌水脱塩の前処理、食品洗浄水滅菌処理工程、工業用水、家庭用水の前処理滅菌工程などがある。また、逆浸透複合膜の用途は、例えば、食品工業排水処理、産業プロセス排水処理、活性汚泥処理水のRO前処理などがある。
本発明は、本願に記載の特徴や効果を有する範囲で一部の構成を省略したり、各実施形態や変形例を組み合わせたりしてもよい。
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)検量線作成用サンプルの作製
(1−1)第3水溶液の作製
m−フェニレンジアミンに蒸留水を加え、マグネティックスターラーを用いて撹拌混合して得た第1水溶液と、解繊されたカーボンナノチューブを含む第2水溶液とを、マグネティックスターラーを用いて撹拌して混合し、m−フェニレンジアミンとカーボンナノチューブとを含む第3水溶液を得た。
ここで、第2水溶液は、カーボンナノチューブを含む水溶液を流動しながら加圧し減圧することによってカーボンナノチューブを均一に混合する工程を経て作製した。具体的には、第2水溶液は、蒸留水に、所定量の多層カーボンナノチューブ(ナノシル社製Nanocyl−7000、平均直径10nm(平均直径は、走査型電子顕微鏡の撮像を用いて200か所以上の測定値を算術平均した値))を手作業で撹拌(第1混合工程)した後、ロール直径が50mmの3本ロール(株式会社長瀬スクリーン印刷研究所製EXAKT M−50 I)(ロール温度25以上40℃以下)に投入して、3分間以上10分間以下混練(第2混合工程)して得た。ロール間隔は0.001mm以上0.01mm未満、ロール速度比はV1=1、V2=1.8、V3=3.3、ロール速度V3は周速1.2m/sであった。
(1−2)逆浸透複合膜の作製
多孔性支持体(Alfa−Laval社のDSS GR40PPのポリスルホン。膜厚は150μm)を、第3水溶液中に2分間〜3時間浸漬した後、株式会社アイデン社製ディップコーターDC4300を用いて引上げ速度0.1mm/min〜10mm/minで膜面が鉛直になるようにゆっくりと引き上げた。多孔性支持体の第3水溶液中への浸漬時間が2分間未満であるとカーボンナノチューブが多孔性支持体に十分に取込まれず耐ファウリング特性が得られにくくなり、3時間を超えるとアミンの酸化劣化の懸念が高まる傾向がある。ディップコーターの引上げ速度が0.1mm/min未満であると多孔性支持体の第3溶液からの引上げに時間がかかり、アミンが酸化劣化する傾向がある。引上げ速度が10mm/minを超えると多孔性支持体から架橋芳香族ポリアミド膜の剥離を生じやすくなる傾向がある。多孔性支持体表面から余分な水溶液がなくなるまで大気中で乾燥した後、トリメシン酸クロリド0.1質量%を含む25℃のn−ヘキサン溶液5mlを膜表面が完全に濡れるように塗布した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りした。その後、45℃の水で2分間洗浄することで、実施例1〜実施例6の逆浸透膜複合膜を得た。また、上記第3水溶液と同じポリアミド濃度(カーボンナノチューブを含まない)で製作したポリアミド単体のサンプルも得た。
(1−3)カーボンナノチューブの濃度の測定
逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度の測定には、SII EXSTAR 6000熱分析装置TG/DTA6200を用いた。アルミナパンに逆浸透複合膜をサンプリン
グし、昇温速度10℃/min、空気雰囲気下でポリアミドとカーボンナノチューブの熱分解開始温度の違いを利用し、カーボンナノチューブの濃度を評価した。サンプル1〜7の逆浸透膜におけるカーボンナノチューブの濃度は、表1に示す通りであった。サンプル1は、カーボンナノチューブを含まないポリアミド単体のサンプルであった。
Figure 0006836783
(2)赤外分光
Thermo Scientific社のNicolet 6700 FT−IR装置22を用いて、赤外分光を行った。図6は、このFT−IR装置22における、減衰全反射フーリエ変換赤外分光測定(FTIR−ATR)の概略説明図である。図6に示すように、FT−IR装置22は、反射プリズム23と、赤外線レーザ光源24と、赤外線検出器25とを備える。サンプル1〜7の逆浸透複合膜100のサンプルを、FT−IR装置22のダイアモンドプリズム(反射プリズム23)に密着させ、赤外線レーザ光源24からの赤外線ビーム26を逆浸透膜104側から照射して多孔性支持体102で減衰全反射させた。多孔性支持体102からの反射光を赤外線検出器25が受光した。赤外線ビーム26の直径は約2mmで、入射角度は45度であった。測定波長は650〜4500cm−1であり、分解能2cm−1であった。逆浸透複合膜100のサンプルサイズは1cm角程度であった。
赤外分光の結果を図7に示した。図7は、フーリエ変換赤外分光法で得られる吸収スペクトルのカーボンナノチューブの濃度依存を示す図である。図7において、縦軸は吸光度(任意単位)であり、横軸は波数(cm−1)である。サンプル1〜7は、1485−1cm付近と1505cm−1付近に、いずれもポリスルホンの吸収による吸収ピークを示した。
(3)検量線の作成
赤外分光の結果から、各サンプルにおける1485−1cm付近のピーク強度(最大値)Iと1505cm−1付近のピーク強度(最大値)Iの比(Ia=I/I)を求めた。吸収ピーク強度比(Ia)を求める際に、ベースラインの減算は行っていない。
そして、各サンプルのカーボンナノチューブの濃度は熱分析により判明しているため、ピーク強度比(Ia)に基づいて、図8に示す関係を求めた。図8は、カーボンナノチューブの濃度と吸収ピークの強度比(Ia)の関係を示す図である。図8において、縦軸はピーク強度比(Ia)であり、横軸は逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度である。図8のグラフから最小二乗法により検量線(実線で示した)を求めた。
(4)カーボンナノチューブの濃度の測定
カーボンナノチューブの濃度が不明な逆浸透複合膜のサンプルを、サンプル1〜7と同様にポリスルホン多孔性支持体の赤外分光分析することにより得られたピーク強度比(Ib)から、この検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度を算出し、分析対象の逆浸透膜のサンプルに含まれるカーボンナノチューブの濃度を測定することができる。
1…測定装置、10…入力部、20…分析部、22…FT−IR装置、23…反射プリズム、24…赤外線レーザ光源、25…赤外線検出器、26…赤外線ビーム、30…算出部、40…記憶部、50…表示部、100…逆浸透複合膜、102…多孔性支持体、104…逆浸透膜、110…カーボンナノチューブ、120…架橋芳香族ポリアミド

Claims (6)

  1. 多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を測定する方法であって、
    既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析し、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線を作成する検量線作成工程と、
    分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する分析工程と、
    前記分析工程で得られた赤外吸収スペクトルから、前記検量線に基づき、前記分析対象の逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度を算出する算出工程と、
    を含み、
    前記多孔性支持体は、ポリスルホンであり、
    前記検量線作成工程では、前記対応関係が、カーボンナノチューブの濃度と、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比と、の関係であり、かつ、
    前記算出工程では、前記分析工程によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比を求め、前記検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度の算出が行われることを特徴とする、測定方法。
  2. 前記検量線作成工程及び前記分析工程では、全反射赤外分光装置を用いて赤外吸収スペクトルを分析することを特徴とする、請求項1記載の測定方法。
  3. 前記逆浸透膜が、架橋ポリアミド中に解繊されて前記逆浸透膜の全体に分散したカーボンナノチューブを含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載の測定方法。
  4. 前記逆浸透膜に含まれるカーボンナノチューブの濃度が0質量%を超え30質量%以下
    であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の測定方法。
  5. 多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を設けた逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を測定する測定装置であって、
    既知濃度のカーボンナノチューブを含む逆浸透複合膜の試料について、逆浸透膜側から赤外線を照射して多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを予め分析して得られた、カーボンナノチューブの濃度と赤外吸収スペクトルとの対応関係を示す検量線が記憶されている記憶部と、
    分析対象の逆浸透複合膜について、逆浸透膜側から赤外線を照射し、多孔性支持体に係る赤外吸収スペクトルを分析する分析部と、
    前記分析部で得られた赤外吸収スペクトルから、前記検量線に基づき、前記分析対象の逆浸透膜中のカーボンナノチューブの濃度を算出する算出部と、
    を含み、
    前記多孔性支持体は、ポリスルホンであり、
    前記記憶部は、カーボンナノチューブの濃度と、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比と、の前記対応関係を示す前記検量線が記憶され、
    前記算出部は、前記分析部によって得られた赤外吸収スペクトルから、1500cm−1以上1510cm−1以下の範囲内にある吸収ピークと1480cm−1以上1490cm−1以下の範囲内にある吸収ピークとの強度比を求め、前記検量線に基づいて、カーボンナノチューブの濃度を算出することを特徴とする、測定装置。
  6. 多孔性支持体上に、カーボンナノチューブを含む逆浸透膜を形成し、
    前記多孔性支持体上に前記逆浸透膜が形成された逆浸透複合膜について、前記逆浸透膜中の前記カーボンナノチューブの濃度を請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の測定方法により測定し、
    所定のカーボンナノチューブの濃度の逆浸透膜を有する逆浸透複合膜を得ることを特徴とする、逆浸透複合膜の製造方法。
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