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本発明は、配光を最適化することによって効率を改善し、集魚能力を損なうことなく消費エネルギーを削減することができる集魚灯装置、特にイカ釣り用に有用な集魚灯装置に関する。
イカ釣り漁業は、漁船の甲板上に集魚灯を複数吊り下げて点灯し、船下に集まったイカを自動イカ釣り機ないし手釣りによって釣り上げる漁法である。
従来、イカ釣り用集魚灯の光源として主にメタルハライドランプが使用されてきた。メタルハライドランプは、高輝度で、漁獲を促進させる作用がある半面、消費電力が大きく、これを点灯するためには大容量の発電設備が要求される。
また、集魚灯の点灯時には、発電用の機関によって膨大な量の燃料油が消費され、コスト増大の要因になっていた。
メタルハライドランプは、光源中心から立体角約4πのほぼ全方向に光束が放射される。これらの光束のうち、集魚に有効に作用するものは海面に到達した光束のみであるが、多くの光束は、天空や甲板に向かって放射され、集魚に全く関与せず、無駄になっている。
このようなことから、集魚灯の配光を制御し、無駄に放射される光束を海面に振り向けて集魚に有効な光束を増やす方法が、集魚灯の効率向上の手段として考えられてきた。
しかしながら、集魚灯用メタルハライドランプは陸上の光源と比較して大型であるがゆえに、文献1に示すような反射板を備えた配光制御機構は大型かつ複雑になりがちである。漁船では、設置スペースが限られるため、このような装置は実用化が困難である。
また、文献2に示すように、反射板等により配光制御機能を付加した集魚灯装置は、海面に光束が到達する効率が高い半面、指向性が強くなることから、照射範囲が狭くなり、広い範囲からイカを集める機能が失われる欠点を持っている。
省電力効果が期待される光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)があり、特許文献3及び特許文献4に示す通り、これを集魚灯に適用することが提案されている。
しかし、発光ダイオードを光源として用いた集魚灯は、重量や投影面積が大きく、十分な漁獲能力を得るべく大量の集魚灯を甲板上に搭載した場合、重心の上昇や風圧抵抗の増加など、漁船の安全性に与える負の影響が大きかった。
特開2003−158958号公報 特開2006−034108号公報 特許第4105745号公報 特許第4064423号公報
本発明は、上記諸問題を解決するものであって、照射範囲の最適化によって、広い範囲からイカを集める機能を損なうことなく効率を向上させ、エネルギー消費量を低減するイカ釣り用集魚灯を提供することを課題とする。
本発明の第1の課題解決手段は、発光部分が小さく、高輝度で点光源に近い無電極プラズマランプないしレーザー照明装置を光源として用いることである。これによって、装置全体の小型化が可能になるとともに、実質的な点光源であることによって、配光制御機構の構造を単純化することができる。
本発明の第2の課題解決手段は、前項の光源を下向きに点灯し、1つ以上の反射鏡またはレンズ、およびこれらの組み合わせによって、光軸を水平方向に向けることである。ただし、配光のピークは仰俯角方向では水平方向とするが、方位角方向では特定の方向に光束を絞り込まず、拡散するよう照射方向を制御する。
光源を下向きに点灯することによって、天空方向への照射が抑制され、配光制御機構によって、甲板方向へ向かう光束が偏向し、海面へ向かう配光が強化される。また、上記のような配光とすることによって、広い範囲からイカを集める機能を確保する。
本発明の第3の課題解決手段は、上記を実現し、集魚灯として必須の要件である防水性能および耐久性能を満たすため、集魚灯本体を、光源と、光源を点灯するための駆動装置と、配光を制御するための機構と、光束を透過させるための透明ガラスを備えた筐体と、前記光源を冷却するためのヒートシンクを一体化させた構造とすることである。
具体的には、次の発明を提供するものである。
1)漁船の船上に設置する集魚灯装置であって、無電極プラズマランプまたはレーザー照明装置による光源と光源を点灯するための駆動装置と反射鏡または/およびレンズからなる配光制御機構と前記駆動装置が内蔵された筐体とを備え前記光源は前記筐体の上部に発光部を下向きにして設置され前記光源から放射された光束は、光源の下方に位置する前記配光制御機構によって、仰俯角方向には水平向きに偏向し、方位角方向には特定の方向に配光を絞り込まずに拡散させることで、空および甲板方向の配光を抑制し、海面方向の配光を強化することを特徴とする集魚灯装置。
2)前記光源から放射された光束は仰俯角方向には水平方向に最大の配光ピークをもつことを特徴とする上記1)に記載の集魚灯装置。
3)前記筐体の一部が、光束を透過させるための透明ガラスから構成されていることを特徴とする上記1)又は2)に記載の集魚灯装置。
4)前記筐体は光源および駆動装置を冷却するためのヒートシンクを備えることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載の集魚灯装置。



本発明の集魚灯によって、海面に到達する光束の割合が従来型漁灯よりも増加する。当該集魚灯の配光は、狭い範囲に絞り込まない設計であるため、照射範囲が従来型漁灯並みに確保される。以上のことから、従来型漁灯よりも少ないエネルギー消費で同等の効果をもたらすことができる。また、光源形状が点光源に近いことから、配光制御機構および本体をコンパクトに設計することが可能で、漁船に搭載した際の安全性も確保される。
本発明による集魚灯の全体図である。 図1の平面Aにおける断面図である。 図1の平面Aにおける配光の概念図である。 図1の平面Bにおける配光の概念図である。 無電極プラズマランプの分光分布を示す図である。 蛍光体変換方式のレーザー照明装置の分光分布を示す図である。 白色LEDの分光分布を示す図である。 メタルハライドランプの分光分布を示す図である。 光源を横向きに設置して照射した場合のスルメイカ群の滞留位置を示す図である。 光源を下向きに設置して照射した場合のスルメイカ群の滞留位置を示す図である。 集魚灯システム全体の放射束と、そのうち海面に到達する放射束の量を、メタルハライド集魚灯と本発明の集魚灯で比較した図である。
以下、本発明の実施するための形態を図面に基づき説明する。ただし、図面は、本発明の技術的思想を例示するもので、本発明を図面上の記載事項に限定するものではない。
本発明の集魚灯の全体図を図1に、図1の平面Aにおける断面図を図2に、また本発明による配光イメージを図3および図4にそれぞれ示す。無電極プラズマランプ又はレーザー照明装置による光源1は、筐体5の上部に発光部を下向きにして設置される。
光源から放射された光束は光源の下方に位置する配光制御機構2によって仰俯角方向には水平向きに偏向される。また、配光制御機構2は特定の方位角方向に光束を絞り込む形状とはしない。
この配光制御機構によって、図3に示す平面Aにおける配光曲線のように、甲板の照射を抑制しながら、仰俯角方向には水平方向に光度のピークを有し、図4に示す平面Bにおける配光曲線のように方位角方向には広い範囲に光を放射する配光を実現する。
上記配光制御機構として、反射鏡の他、レンズを用いることや、これら任意の組み合わせも可能である。
光源から放射された光束は、筐体5の一部を構成する透明ガラスケース4を透過して海面上に到達する。筐体には、光源の駆動装置3が内蔵され、筐体の外側には光源1および駆動装置3から発生する熱を逃がすため、ヒートシンク6が設置される。筐体は、雨や海水から光源および駆動装置を保護するため、防水構造とする。
本発明では光源として無電極プラズマランプまたはレーザー照明装置を使用する。これら光源は、発光部は小さいが高輝度であるという特徴を有し、これらを用いることによって配光制御機構の単純化や、装置全体の小型化が可能となる。他方、無電極プラズマランプとレーザー照明装置から放射される光の分光分布には相違があり、メタルハライド光源の分光分布とも異なっている。
具体的には、無電極プラズマランプは発光波長が広帯域にわたっているが(図5参照)、蛍光体変換方式のレーザー照明装置から放射された光の分光分布は(図6参照)、青色レーザー光で黄色の蛍光体を励起させて白色光を生成するため、白色LED光の分光分布(図7参照)に類似している。これらに対し、メタルハライド光源の分光分布は封入物に由来する複数のピークを有している(図8参照)。
異なる光源の光に対するイカの反応を検証するため、水槽に収容したスルメイカに対し、メタルハライドランプに類似した分光特性を持つバラストレス水銀灯と無電極プラズマランプの光を、両者の発光強度を等しく調節して照射し、行動を比較する実験が行われている。
実験の結果、光源を横向きに設置して照射した場合、スルメイカ群はいずれの光源の場合でも、光源を設置したプラットフォームが形成する陰影の内部に滞留する傾向を示した(図9参照)。他方、光源を下向きに設置して照射した場合、いずれの光源でもスルメイカ群は陰影域と照射域の間を出入りし、照射域にも滞留した(図10参照)。
以上に示すとおり、スルメイカの行動は光源の種類よりも光の向きに強く影響されることが知られている(松井萌ら(2015)プラズマ灯光に対するスルメイカの行動応答、スルメイカ資源評価協議会報告(平成26年度)、 P. 37-38)。
図9および図10は、これらの実験結果の模式図であるが、図9は光源を横向きに設置した場合のスルメイカ群の滞留位置を示し、図10は光源を下向き設置した場合のスルメイカ群の滞留位置を示すものである。
また、イカ釣り漁船の集魚灯として、発光ダイオードを光源としたものの使用が始まっているが、従来型のメタルハライド集魚灯と同様の海面照度分布を白色発光ダイオード集魚灯で再現してイカ釣り操業を行った場合、両者の漁獲能力はほぼ同等となることが知られている(国立研究開発法人水産総合研究センター開発調査センター(2015)、海洋水産資源開発ニュース No. 434)。
以上のことから、発光波長がある程度広帯域であれば、これら光源、すなわちメタルハライドランプ、無電極プラズマランプ、蛍光体変換方式のレーザー照明装置、白色発光ダイオードは、集魚灯装置の光源として、互に交換可能であると考えられ、高効率の光源を用いることによって、少ないエネルギー消費量で同等の漁獲能力を得ることが期待される。
本発明によって実現される配光は、天空および甲板方向の照射を抑制すること、仰俯角方向には水平方向にピークを持つこと、方位角方向には特定の方向に配光を絞り込まず、光源から放射された光束を拡散させることを特徴とする。これら特徴は、無駄に照射されて集魚に寄与しない光束を偏向し、海面方向へ振り向けることで照射効率を向上させることをねらいとしている。
しかし、配光制御によって光束を絞り込み、光軸を海面に向けることによって、さらに照射効率を向上することができる半面、照射範囲が狭くなり、広い範囲からイカを集める機能を失うことになる。既往の知見では、スルメイカは2海里程度の距離からも集魚灯の光に誘引されることが知られており(高尾芳三 (2013)「漁灯は広範囲からイカを集めている」水産工学研究所ほか編、イカ釣りLED漁灯活用ガイド P. 14-15)、広い範囲からの集魚を可能とするため、方位角方向には、可能な限り配光を絞り込まないことが望ましい。
また、遠方のイカに対する集魚効果を期するため、仰俯角方向の配光のピークは水平方向とすべきである。既存の技術であるメタルハライド集魚灯および発光ダイオード集魚灯においても、漁船に艤装する際には配光のピークが水平方向を向くよう設置されるのが一般的である。
以下に、上記形態によって実現する集魚灯装置を用いた場合の実施例として、19トン型の小型イカ釣り漁船の集魚灯をメタルハライドランプから本発明に置き換えた場合の効果について、光学シミュレーションの結果に基づいて記述する。
典型的な19トン型の小型イカ釣り漁船は、消費電力3kWのメタルハライド集魚灯を53本装備し、前灯を点灯した場合の消費電力は159kWとなる。メタルハライド集魚灯1本から放射される光エネルギーの総和である全放射束を1,080Wとすると、システム全体では放射束は57,240Wとなる(図11A)。
この放射束のうち、船体を中心とした200m四方の海面に到達する放射束の量をモンテカルロ法によりシミュレーションしたところ、システム全体の放射束の約16%に相当する9,026Wであると試算された(図11B)。
本発明による集魚灯の実施例として、無電極プラズマランプを光源とした、消費電力約0.5kW、全放射束約128Wの集魚灯を用いた際の効果を前述の方法と同様にシミュレーションした。当該集魚灯は、海面へ到達する放射束の割合が高く、約76%の放射束が海面に到達すると試算された。前述のメタルハライド集魚灯と同量の放射束を海面に到達させるには、95台の本発明による集魚灯が必要で、システム全体の放射束は12,119W(図11C)、うち海面に到達する放射束は9,190Wとなる(図11D)。
上記事例の無電極プラズマランプ集魚灯を全て点灯した場合の消費電力は47.5kWとなる。以上のことから、上記のメタルハライド集魚灯と比較して約1/3の電力で、同等の漁獲能力を実現することが期待される。シミュレーションによる試算では、パネル状の発光ダイオード集魚灯では、放射束の海面到達率は30%程度と試算されており、これと比較しても本発明による集魚灯は高効率であるといえる。
本発明は少ない消費電力で従来型集魚灯と同様の効果をもたらすものであり、イカ釣り漁業の支出において大きな割合を占める燃料費を削減し、経営改善に資する効果がある。また、機器を比較的コンパクトに設計できることから、甲板上への艤装が容易であり、重心の低下や風圧抵抗の減少など、漁船の安全性の向上にも寄与する。
1 光源
2 配光制御機構
3 光源駆動装置
4 透明ガラスケース
5 筐体
6 ヒートシンク
7 本発明の集魚灯装置
8 図1の平面Aにおける配光曲線
9 図1の平面Bにおける配光曲線
10 行動実験用光源(バラストレス水銀灯または無電極プラズマランプ)
11 プラットフォーム
12 海水
13 スルメイカ群

Claims (4)

  1. 漁船の船上に設置する集魚灯装置であって、無電極プラズマランプまたはレーザー照明装置による光源と光源を点灯するための駆動装置と反射鏡または/およびレンズからなる配光制御機構と前記駆動装置が内蔵された筐体とを備え前記光源は前記筐体の上部に発光部を下向きにして設置され前記光源から放射された光束は、光源の下方に位置する前記配光制御機構によって、仰俯角方向には水平向きに偏向し、方位角方向には特定の方向に配光を絞り込まずに拡散させることで、空および甲板方向の配光を抑制し、海面方向の配光を強化することを特徴とする集魚灯装置。
  2. 前記光源から放射された光束は仰俯角方向には水平方向に最大の配光ピークをもつことを特徴とする請求項1に記載の集魚灯装置。
  3. 前記筐体の一部が、光束を透過させるための透明ガラスから構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の集魚灯装置。
  4. 前記筐体は光源および駆動装置を冷却するためのヒートシンクを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の集魚灯装置。
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