以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.第1の実施形態>
(1−1.鋳造ストリップ製造工程)
まず、図1〜図3を参照して、本発明の第1の実施形態に係る鋳造ストリップを製造する製造工程の概要を説明する。図1は、本実施形態に係る鋳造ストリップ(薄肉鋳片)の製造工程の概略構成を示す説明図である。図2は、圧延開始時における鋳造ストリップSの先端とダミーシート11との接続部を示す説明図である。図3は、本実施形態に係る矯正装置80の構成を示す説明図である。
本実施形態に係る鋳造ストリップ製造工程1は、図1に示すように、例えば、タンディッシュ(貯蔵装置)Tと、双ドラム式連続鋳造設備10と、酸化防止装置20と、冷却装置30と、第1のピンチロール装置40と、インラインミル50と、第2のピンチロール装置60と、巻取装置70、矯正装置80とを備えている。
(双ドラム式連続鋳造装置)
双ドラム式連続鋳造装置10は、図1に示すように、例えば、一対の冷却ドラム10a、10bと、一対の冷却ドラム10a、10bの軸方向両側に配置されたサイド堰(図示せず。)とを備える。一対の冷却ドラム10a、10bとサイド堰とは、タンディッシュTから供給される溶融金属を貯留する金属溶湯貯留部15を構成している。
一対の冷却ドラム10a、10bは、第1冷却ドラム10aと第2冷却ドラム10bとを備えている。第1冷却ドラム10a及び第2冷却ドラム10bは、軸方向中央が僅かに窪んだ凹形状のプロフィルを有している。また、第1冷却ドラム10aと第2冷却ドラム10bとは、製造する鋳造ストリップSの板厚(内部品質)に対応して、冷却ドラム10a、10bの間隔を調整可能に構成されている。第1冷却ドラム10a、第2冷却ドラム10bは、内部に冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却ドラム10a、10bの内部に冷却媒体を流通させることによって、冷却ドラム10a、10bを冷却することができる。
本施形態では、第1冷却ドラム10a、第2冷却ドラム10bは、例えば、外径800mm、ドラム胴長(幅)1500mm、定常時における鋳造ストリップSの板クラウンが30μmになるように設定(初期加工)されている。なお、一対の冷却ドラム10a、10bの外径、ドラム胴長(幅)は、これに限定されないことはいうまでもない。
双ドラム式連続鋳造装置10では、図2に示すように、鋳造ストリップSの先端にダミーシート11を接続して、鋳造を開始する。ダミーシート11の先端には、鋳造ストリップSよりも厚みを有するダミーバー13が設けられており、ダミーバー13によってダミーシート11が誘導される。また、鋳造ストリップSの先端とダミーシート11との接続部には、鋳造ストリップSの板厚よりも厚い突起部12が形成される。インラインミル50における圧延(フライングタッチ)は、突起部12がインラインミル50を通過した後に開始される。
(酸化防止装置)
酸化防止装置20は、鋳造直後の鋳造ストリップSの表面が酸化してスケールが発生するのを防止するための処理を行うための装置である。酸化防止装置20内では、例えば、窒素ガスによって酸素量を調整することが可能である。酸化防止装置20は、鋳造する鋳造ストリップSの鋼種等を考慮し、必要に応じて適用することが好ましい。
(冷却装置)
冷却装置30は、酸化防止装置20により酸化防止処理が表面に施された鋳造ストリップSを冷却する装置である。冷却装置30は、例えば、複数のスプレーノズル(図示せず。)を備え、鋼種に応じてスプレーノズルから鋳造ストリップSの表面(上面及び下面)に対して冷却水を噴出し、鋳造ストリップSを冷却する。冷却装置30での鋳造ストリップの温度制御は、一例として、鋳造前に冷却条件を設定するプリセット制御を用いてもよい。その場合、板幅方向及び圧延方向に複数配備されたノズルの位置とノズルから供給される冷却水の冷却水量との少なくともいずれか一方を調整し、板幅方向の温度分布が一定となるように制御してもよい。また、冷却装置30での鋳造ストリップの温度制御の他の例として、鋳造中に冷却条件を調整するダイナミック制御を用いてもよい。その場合、例えば、鋳造中に温度分布測定装置(例えば図7の温度分布測定装置95、97の少なくともいずれか一方)により板幅方向の温度分布が一定となるように、ノズルの位置と冷却水量との少なくともいずれか一方を制御してもよい。
なお、酸化防止装置20と冷却装置30との間に、一対の送りロール87を配置してもよい。一対の送りロール87は、圧下装置(図示せず。)によって鋳造ストリップSを挟むとともに、一対の冷却ドラム10a、10bと送りロール87との間における鋳造ストリップSのループ長を計測しながら、当該ループ長が一定となるように鋳造ストリップSに水平方向の搬送力を付与する。送りロール87は、例えば、ロール径200mm、ロール胴長(幅)2000mmの一対のロールにより構成されている。
(第1のピンチロール装置)
第1のピンチロール装置40は、インラインミル50の入側に配置されるピンチロール装置である。なお、第1のピンチロール装置40とインラインミル50との間には、後述する矯正装置80が配置されている。第1のピンチロール装置40は、上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bと、ハウジングと、ロールチョックと、圧延荷重検出装置と、圧下装置(図示せず。)とを備えている。上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、それぞれ内部に中空流路が形成されており、冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却媒体を流通させることにより、ピンチロールを冷却することができる。
上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、例えば、ロール径400mm、ロール胴長(幅)2000mmとしてもよい。上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bは、ハウジング内のロールチョックを介して配置されており、モータ(図示せず。)によって回転駆動される。また、上ピンチロール40aは、上圧延荷重検出装置(図示せず。)を介してパスライン調整装置(図示せず。)と連結されており、下ピンチロール40bは、圧下装置(図示せず。)と接続されている。
かかる構成の第1のピンチロール装置40では、下ピンチロール40bが圧下装置により上ピンチロール40a側へ押し上げられると、上ピンチロール40a及び下ピンチロール40bに負荷された圧下荷重が検出されるとともに、第1のピンチロール装置40と矯正装置80との間の鋳造ストリップSに張力が発生する。また、第1のピンチロール装置40とインラインミル50との間の鋳造ストリップSに生じる張力が予め設定された張力になるように、一対のピンチロール40a、40bとインラインミル50とにおける鋳造ストリップSの移動速度は制御されている。また、第1のピンチロールの上流側及び下流側には、鋳造ストリップの位置を検出する位置検出装置41、43が設けられてもよい。
(矯正装置)
矯正装置80は、通過する鋳造ストリップSの形状を矯正する装置である。本実施形態において、鋳造ストリップSの形状とは、鋳造ストリップの断面形状、すなわち板クラウン形状をいう。矯正装置80は、鋳造ストリップSの搬送方向に沿って配置された3つのロール81A、81B、81Cを有する。図3に示すように、各ロール81A、81B、81Cは、それぞれロールチョック83A、83B、83Cに支持され、各ロールチョック83A、83B、83Cはハウジング85A、85B、85Cにそれぞれ設置されている。各ロール81A、81B、81Cは、同一サイズのロールを用いてもよい。例えばロール径150mm、胴長2000mmのロール81A、81B、81Cを用いてもよい。各ロール81A、81B、81Cは、無駆動ロールであり、鋳造ストリップSの移動に追従して回転する。また、矯正装置80には、ロール81A、81B、81Cを冷却する冷却設備(図示せず。)が設置されている。
本実施形態に係る矯正装置80は、図3に示すように、ロール81A、81Cはロール軸の高さ位置が同一となるように設置されている。一方、ロール81Aとロール81Cとの間に配置されるロール81Bは、ライン上を移動する鋳造ストリップSを押し込む押込みロールとして機能し、昇降機構86によって上下に移動可能に設置されている。なお、ロール81Bは、落下しないように、ロールチョック83Bに設けられたバランサー(図示せず。)により引き上げられている。また、図示していないが、昇降機構86の両側(すなわち、ロール81Bの軸方向両端側)には、昇降機構86を独立して上下に移動する上下移動装置が設けられていてもよい。これにより、ロール81Bの軸方向両端における昇降機構86の位置をそれぞれ独立して制御することができる。
また、本実施形態に係るロール81Bは複数の油圧チャンバー(図示せず。)を備えており、油圧チャンバー内の油圧力を変化させることにより、ロールプロフィルをフラットな状態から中央の径が大きい凸型の状態へ変化させることが可能である。また、複数の油圧チャンバーの油圧を非対称に調整することによりロールプロフィルを非対称に変化させることが可能となる。一方、ロール81A及びロール81Cには、ロールの回転速度を検出する速度検出器(PLG)が設置されている。速度検出器により検出された回転速度に基づき各ロール位置での鋳造ストリップSの通板速度が演算され、矯正装置80による鋳造ストリップSの伸び率を計測することができる。
矯正装置80に付与される張力は、第1のピンチロール装置40とインラインミル50とのロールに速度差を与えることにより発生させることができる。この発生させた張力が大きいほど、少ない押込量や大きなロール径でもロール81A、81B、81Cによって規定される曲げ部での鋳造ストリップSの塑性変形が容易となる。なお、矯正装置80に付与される張力は図示していないが、第1のピンチロール装置40とインラインミル50との間に設けたテンションロール(図示せず。)で測定され、予め設定された所定の値になるようにインラインミル50の速度が制御される。
また、矯正装置80の入側及び出側には、図1及び図3に示すように、鋳造ストリップSの板厚を測定する板プロフィル計91、93が設けられている。これらの板プロフィル計91、93によって鋳造ストリップSの板幅方向の板厚を測定することで、その結果に基づき、鋳造ストリップSの板クラウンを算出することが可能となる。鋳造ストリップSの板クラウン量は、板幅方向において、鋳造ストリップSの板厚分布を2次式近似し、板中央の板厚とクラウン定義点である板端から所定の距離だけ内側の板厚との差を演算することで算出される。鋳造ストリップSの板クラウンの算出は、例えば矯正装置80を制御する制御装置(図示せず。)により行ってもよい。制御装置は、算出した板クラウン量に基づき、ロール81Bのロール位置またはロールプロフィルのうち少なくともいずれか一方を制御する。本実施形態に係る矯正装置80による作用及びその制御についての詳細な説明は後述する。
(インラインミル)
インラインミル50は、鋳造ストリップSを圧延して、鋳造ストリップSを所望の板厚にする圧延装置である。本実施形態では、インラインミル50は6段圧延機として構成されている。すなわち、インラインミル50は、一対のワークロール51a、51bと、ワークロール51a、51bの上下に配置された中間ロール52a、52bと、中間ロール52a、52bの上下に配置されたバックアップロール53a、53bとを備える。本実施形態では、例えば、ロール径400mmのワークロール51a、51b、ロール径450mmの中間ロール52a、52b、ロール径1200mmのバックアップロール53a、53bを用いてもよい。各ロールの胴長は同一であってもよく、例えば2000mmとしてもよい。
また、インラインミル50は、インラインミルを制御するインラインミル制御装置や板厚計(いずれも図示せず。)等を備えている。ワークロール51a、51bは、モータ(図示せず。)により回転駆動されるとともに、入側及び出側から冷却水により冷却されている。また、バックアップロール53aの上方には、バックアップロール53aを下方へ圧下する油圧シリンダ(図示せず。)が設けられている。
インラインミル50は、定常鋳造時に鋳造された鋳造ストリップSの先端が、インラインミル50を通過した後に、インラインミル50のワークロール51a、51bを回転させながらロールギャップを締め込んで圧延を開始するようになっている。このような圧延方法は、フライングタッチと呼ばれている。
また、インラインミル50は、インラインミル制御装置(図示せず。)により制御されている。インラインミル制御装置は、例えば、インラインミル50を統括して制御するミル制御部、油圧シリンダを制御する油圧シリンダ制御部、中間ロールシフト制御部、ロール回転制御部、ロールベンディング力設定部等を含む。
油圧シリンダ制御部は、バックアップロール53aに連結された油圧シリンダを圧下制御する。油圧シリンダ制御部は、インラインミル50を統括して制御するミル制御部からの指示に基づき、油圧シリンダを制御して、ワークロール51a、51b間のロールギャップを調整する。この際、ミル制御部は、インラインミル50の出側に設置された板厚計(図示せず。)により測定された鋳造ストリップSの板厚に基づいて、鋳造ストリップSが予め設定された板厚に形成されるようにロールギャップを調整する。板厚計には、例えばX線板厚計等を用いてもよい。中間ロールシフト制御部は、ミル制御部からの指示に基づき、中間ロール52a、52bをそれぞれロール軸方向に移動させる。ロール回転制御部は、ミル制御部からの指示に基づき、ワークロール51a、51bの回転速度を制御する。ロールベンディング設定部は、ワークロール51a、51bに対するロールベンディング力を設定する。
(第2のピンチロール装置)
第2のピンチロール装置60は、インラインミル50の出側に配置されている。第2のピンチロール装置60は、第1のピンチロール装置40と同様、上ピンチロール及び下ピンチロールと、圧延荷重検出装置と、圧下装置とを備えている。上ピンチロール及び下ピンチロールは、それぞれ内部に中空流路が形成されており、冷却媒体(例えば、冷却水)が流通可能に構成されている。冷却媒体を流通させることにより、ピンチロールを冷却することができる。上ピンチロール及び下ピンチロールは、例えば、ロール径400mm、ロール胴長(幅)2000mmとしてもよい。また、上ピンチロール及び下ピンチロールは、ハウジング内のロールチョックを介して配置されており、モータ(図示せず。)によって回転駆動される。インラインミル50と第2のピンチロール装置60との間には、テンションロール88が配置されている。
(巻取装置)
巻取装置70は、第2のピンチロール装置60の出側に配置され、鋳造ストリップSをコイル状に巻き取る装置である。第2のピンチロール装置60と巻取装置70との間には、デフレクタロール89が配置されている。
(1−2.矯正装置による板クラウン制御)
(1)押込みロールの押込量調整による制御
従来、テンションレベラー等の矯正装置において知られているように、ストリップに張力を負荷して曲げによる塑性変形(伸び)を加える際、レベラーのロール部をクラウン形状とすると、径の大きな部分でのストリップの押込量が大きくなる。したがって、当該部分における引っ張り張力は他の部分よりも大きくなり、集中的に伸ばされるので、その部分の板厚は薄くなる。
ここで、定常状態で板クラウンの形状が所定の放物線パターンとなるように冷却ドラムの初期プロフィルを加工し、定常状態で矯正装置による押込みロールの押込量を変化させたときの、鋳造ストリップの板クラウン及びその伸び率を調べた。ここで、押込みロールの押込量とは、鋳造ストリップが通板方向に直線状に張られた状態で押込みロールが鋳造ストリップに接しているときの押込みロールのロール軸の高さ位置を基準として、当該基準に対する押込みロールのロール軸の高さ位置の変化量をいう。基準状態における押込みロールの押込量をゼロとする。押込量が大きくなるほど押込みロールが鋳造ストリップに押し込まれ、より多く塑性変形が進むため、矯正装置を通過する鋳造ストリップが大きく曲げられるようになる。ここでは、一例として、鋳造ストリップの板中央と板端から75mm内側位置での板厚(両端の平均値)との差が150μmの放物線パターンになるように冷却ドラムの初期プロフィルを加工した。このとき、押込みロールには800μm/半径のロールクラウンを付与し、矯正装置に作用する応力は約15MPaであった。結果を図4に示す。
図4に示すように、押込みロールの押込量を増大する(すなわち、鋳造ストリップを押し込む方向への移動量を大きくする)につれて、鋳造ストリップの板クラウンは減少し、鋳造ストリップの伸びは増大する。なお、このとき鋳造ストリップの幅は短くなる。このような相互作用により、板クラウン比率に変化が生じるように鋳造ストリップを塑性変形させても板形状(平坦度)は大きく乱れることはなかった。また、押込みロールの押込量と板クラウンとの関係は、図4に示すようにほぼ線形であることも分かった。なお、伸びが生じるため、鋳造ストリップの板厚は減少するが、最終的な板厚はインラインミルにて作り込まれるため、矯正装置における鋳造ストリップの板厚変化による影響は無視できる。したがって、本実施形態に係る矯正装置は、インラインミルに対して通板方向上流に設置されることが好ましい。
そこで、本願発明者は、押込みロールの押込量を変化させることで鋳造ストリップの板クラウンを減少させることができるとの知見より、双ドラム式連続鋳造装置を備える連続鋳造設備において、冷却ドラムの熱影響により生じる鋳造ストリップSの板クラウンを制御するため、矯正装置80を設け、鋳造ストリップSの板クラウン形状の時系変化に応じて押込みロールの押込量を制御することを想到した。これにより、矯正装置80を通過する際の鋳造ストリップSの板クラウンを適切に矯正することができ、インラインミル50で圧延された鋳造ストリップSの板クラウン変化を防止できる。
具体的には、矯正装置80は、まず、鋳造開始時には、押込みロールであるロール81Bのロール軸の位置を、予め実験等により算出された初期位置に設定する。ロール軸の初期位置は、例えば鋳造ストリップSの板クラウンの大きさが予め設定された目標値となるようにするための位置としてもよい。
その後、鋳造ストリップSの先端がインラインミル50を通過し始めると、板クラウンの時系変化に応じて、押込みロールの押込量と鋳造ストリップSの板クラウンの大きさとの関係に基づき、押込みロールであるロール81Bの押込量が制御される。押込みロールの押込量と鋳造ストリップSの板クラウンの大きさとの関係は、例えば図4に示したような、実験等により得られた関係を用いてもよい。制御装置は、例えば板プロフィル計91、93により測定された鋳造ストリップSの板厚に基づき、鋳造ストリップSの板クラウンを算出する。そして、インラインミル50を通過する鋳造ストリップの板クラウンの形状、すなわち、板クラウンの大きさに応じて押込みロールの押込量を調整することで、インラインミル50にて圧延される鋳造ストリップSの形状を均一にすることができる。これにより、その後の冷間圧延における板形状の乱れを防止することが可能となり、製品の板幅方向の板厚精度を向上させ、歩留まりを向上させることができる。
なお、定常状態では、押込みロールの押込量は、鋳造ストリップSに曲がりが生じない0mm未満としてもよい。あるいは、矯正装置80の各ロール81A、81B、81Cは無駆動であるが、スリップして鋳造ストリップSに疵が発生する場合もある。そこで、鋳造ストリップSに疵が発生するのを防止するため、ロール81A、81B、81Cを駆動ロールにしてもよい。また、押込みロールであるロール81Bの押込量を上記スリップが生じない量を限度とし、それによるクラウン変化を見込んで冷却ドラム10a、10bの初期プロフィルを修正してもよい。さらに、矯正装置80の入側にて鋳造ストリップSの板クラウンを測定し、測定結果に基づいて押込みロールの押込量を制御してもよく、矯正装置80の出側にて鋳造ストリップSの板クラウンを測定し、測定結果に基づいて押込みロールの押込量を制御してもよい。もちろん、矯正装置80の入側及び出側において測定された鋳造ストリップSの板クラウンに基づいて、押込みロールの押込量を制御してもよい。
(2)押込みロールのロールクラウン調整による制御
また、本実施形態に係る連続鋳造設備では、矯正装置80により鋳造ストリップの板クラウンを制御するにあたり、予め実験等により算出された押込みロールの押込量と板クラウン変化量との関係に基づき、押込みロールのロールクラウンの形状を変化させてもよい。押込みロールの押込量が同じであっても押込みロールのロールクラウンの大きさが異なると、それにより矯正される板クラウンの大きさも変化する。そこで、押込みロールのロールクラウンの大きさを変化させて、板クラウンが所望の大きさとなるように制御してもよい。押込みロールのロールクラウンの大きさは、例えば押込みロール内の油圧チャンバーの油圧を変化させたり、ロール内にロール材質よりも高熱膨張率であるブロック体が板幅方向に複数設け、当該ブロック体をそれぞれ個別に加熱したりしてもよい。さらには、ロール内に加圧装置を板幅方向に複数設け、当該加圧装置をそれぞれ個別に加圧することによってもロールプロフィルを変化させることができる。
押込みロールであるロール81Bの接触時ロールプロフィルの調整は、例えばロール81Bの内部に油圧チャンバーを設け、当該油圧チャンバーの油圧を変化させることによってロールプロフィルが板幅方向に非対称となるように変化させて行ってもよい。あるいは、ロール81Bの内部にロール材質よりも高熱膨張率であるブロック体を板幅方向に複数設け、当該ブロック体をそれぞれ個別に加熱することにより接触時ロールプロフィルを変化させてもよい。さらには、ロール81Bの内部に加圧装置を板幅方向に複数設け、当該加圧装置をそれぞれ個別に加圧することにより接触時ロールプロフィルを変化させてもよい。
押込みロールのロールクラウンを変化させたときの、押込みロールの押込量と板クラウン変化量との関係の一例を図5に示す。板クラウン変化量は、基準状態、すなわち押込量がゼロであるときの板クラウンからの変化量である。図5に示すように、押込みロールの押込量が同一であるときには、押込みロールのロールクラウンが大きくになるにつれて板クラウン変化量が大きくなる。すなわち、押込みロールのロールクラウンが大きくなるほど、板クラウンの制御能力は向上する。なお、押込量がゼロの場合には、ロールクラウンの大きさによらず、板クラウン変化量はゼロであり、板クラウンの制御能力はゼロである。また、押込みロールがロールクラウンのないフラットロールであるときには、押込量を大きくしても、板クラウン変化量はそれほど変化せず、板クラウン制御能力は小さい。
なお、ここでは1段構成の押込みロールを有する矯正装置について説明したが、基本的に鋳造ストリップと接触するロールのロールプロフィルが凸型であれば同一の効果が得られることは言うまでもない。したがって、矯正装置の押込みロールの構成は多段であってもよい。また、押込みロールのロールプロフィルを疑似的に変化させても同一の効果を得ることができる。例えば、当該矯正装置の押込みロールを2段構造とし、鋳造ストリップと接触する押込みロールのロールプロフィルをフラットとし、押込みロールの上部(すなわち、鋳造ストリップと反対側)に設けられ、押込みロールに接触し支持する補助ロールのロールプロフィルを凸型プロフィルにする。そうすると、凸型プロフィルを有する補助ロールに接触し支持されている押込みロールのロールプロフィルは、補助ロールの凸型プロフィルに対応して擬似的に凸型となる。このように、押込みロールのロールプロフィルを疑似的に凸型とすることで、押込みロールのロールクラウンを変化させてもよい。
このような押込みロールのロールクラウンと板クラウン変化量との関係に基づき、鋳造ストリップSの板クラウン形状の時系変化に応じて押込みロールのロールクラウンを変化させることで、押込みロールの押込量を変化させることができる。例えば、2段構造の鋳造ストリップと接触する側のロールを小径として撓みやすくするとともに、該小径ロールを支持するロールを小径ロールよりも大径とする。そして、大径のロールを幅方向に分割して該分割ロールの押込量の分布を変化させる(すなわち、板幅中央の押込量を端部よりも大きくしる)、または、該小径ロールを支持する大径ロールに油圧チャンバーを設け油圧を高め、板幅中央部を膨張させて凸クラウンにする。こうしてロールプロフィルが変化した大径ロールに小径ロールを沿わせることで、鋳造ストリップSと接触する側の小径ロールプロフィルを変化させてもよい。
これより、押込みロールのロールクラウンを制御することで矯正装置80を通過する際の鋳造ストリップSの板クラウンを適切に矯正することが可能となり、インラインミル50で圧延された鋳造ストリップSの板クラウン変化を防止することができる。なお、上述の押込みロールの押込量の調整とロールクラウンの調整との両方により、鋳造ストリップSの板クラウン制御を行ってもよい。
(1−3.鋳造ストリップの製造)
以下、図1に示した鋳造ストリップ製造工程1における鋳造ストリップSの製造について説明する。
まず、タンディッシュTに金属溶湯が一時的に貯蔵される。タンディッシュTに貯蔵された金属溶湯は、タンディッシュ下部に形成されたノズルを介して、双ドラム式連続鋳造装置10の金属溶湯貯留部15に注入される。このとき、ノズルを制御して、金属溶湯貯留部15に貯留される金属溶湯の量は一定に制御される。
次いで、一対の冷却ドラム10a、10bを回転させながら、金属溶湯貯留部15に貯留された金属溶湯を一対の冷却ドラム10a、10bの周面で凝固、成長させて、鋳造ストリップSを鋳造する。双ドラム式連続鋳造装置10において鋳造を開始する際は、例えば、図2に示したように、鋳造ストリップSの先端となる部分にダミーシート11を接続する。このとき、ダミーシート11の進行方向先端側には鋳造ストリップSに比べてはるかに厚いダミーバー13が設けられ、鋳造ストリップSとダミーシート11との接続部には、鋳造ストリップSの板厚よりも厚い突起部12が形成される。例えば、鋳造ストリップSの寸法を板厚2mm、板幅1260mmとし、一対の冷却ドラム10a、10bの周速(鋳造速度)を150m/minとしてもよい。ただし、鋳造ストリップSの寸法及び鋳造速度はかかる例に限定されない。
一対の冷却ドラム10a、10bで形成された鋳造ストリップSは、必要に応じて、酸化防止装置20において、酸化防止処理がされる。そして、送りロール87によって、冷却ドラム10a、10bと送りロール81との間における鋳造ストリップSのループ長を一定に保ちながら、鋳造ストリップSが下流側に搬送される。また、必要に応じて、冷却装置30によって鋳造ストリップSを冷却する。その後、第1のピンチロール装置40によって、鋳造ストリップSに第1のピンチロール装置40とインラインミル50との間に張力を発生させながら、矯正装置80を介して、鋳造ストリップSを下流側のインラインミル50へ送る。このとき、矯正装置80のロール81Bの押込量は、インラインミル50によるフライングタッチが開始されるまで(すなわち、鋳造開始時)は、予め実験等により算出された鋳造ストリップの板クラウンの大きさが目標値となるように設定されている。
インラインミル50は、突起部12がインラインミル50を通過した後、フライングタッチを開始する。すわなち、鋳造ストリップSの板速度にインラインミル50のロール速度を同期させながら圧下力をかけていき、鋳造ストリップSを圧延して、所望の板厚に調整する。ここで、鋳造ストリップSの先端がインラインミル50を通過し始めると、矯正装置80により、板クラウンの時系変化に応じて、押込みロールの押込量と鋳造ストリップの板クラウンとの関係に基づき、ロール81Bの押込量が制御される。例えば、インラインミル50の圧下力が所定の圧下力以上になったとき、第1のピンチロール装置40とインラインミル50との間の張力を所定の張力に制御するとともに、矯正装置80のロール81Bの押込量が制御され、板クラウンが所望の値に調整される。なお、ロール81Bの押込量の代わりにロール81Bのロールプロフィルを調整して板クラウンを制御してもよく、ロール81Bの押込量及びそのロールプロフィルを調整して板クラウンを制御してもよい。
インラインミル50により圧延された鋳造ストリップSは、第2のピンチロール装置60によって、鋳造ストリップSにインラインミル50と第2のピンチロール装置60との間に張力を発生させながら、巻取装置70へ搬送される。巻取装置70は、搬送されてきた鋳造ストリップSを巻き取る。
以上、本発明の第1の実施形態に係る双ドラム式連続鋳造装置を有する連続鋳造設備と、鋳造ストリップSの板クラウンの制御方法とについて説明した。
<2.第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係る鋳造ストリップの板クラウン制御方法について説明する。本実施形態に係る鋳造ストリップの板クラウン制御は、鋳造ストリップの板幅方向に温度分布がある場合に効果的であり、鋳造ストリップに板幅方向の非対称な温度分布があっても対称な板クラウンを確保することを可能とする。このため、本実施形態では、第1の実施形態にて説明した鋳造ストリップ製造工程の矯正装置の上流側または下流側に鋳造ストリップの板幅方向の温度分布を測定する温度分布測定装置を備え、測定された鋳造ストリップの板幅方向の温度分布に基づき、押込みロールによる鋳造ストリップの押込量が非対称となるように制御する。
双ドラム式連続鋳造設備により鋳造された鋳造ストリップの板幅方向に温度分布がある場合、矯正装置による矯正時に、板幅方向の高温側の箇所での塑性変形がより進み、多く延ばされる。板幅方向の一側(図6では左側)が高温であり他側(図6では右側)が低温である場合に、板幅方向に同一の押込量で鋳造ストリップSを押し込んだとする。この場合、図6上側に示すように、矯正装置による矯正後の鋳造ストリップSの断面形状は、低温側に比べて高温側が多く延ばされる。延ばされた分の材料は板幅方向にも移動するが、板形状としてはやや耳延び(板の中央部の延びの長さに対して、端部の延びの長さが大きい状態)となり、鋳造ストリップSは板幅方向に非対象な断面形状となる。その結果、高温側が波状となり、矯正装置による矯正後に片側伸びや蛇行を誘発してしまうこともあり、後続のインラインミルにおける圧延時の形状不良や更なる蛇行を誘発してしまい、鋳造ストリップSがさらに破断し易くなる。
なお、第1の実施形態にて説明したように、矯正装置の上流側には冷却装置が設けられている。かかる冷却装置により鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を解消するように制御するのは当然ではあるが、以下の理由により既に板幅方向の温度分布が発生している箇所に対しては制御するのが難しく、板幅方向の温度分布を解消するのは難しい場合もある。
冷却装置での鋳造ストリップの温度制御は、通常、板幅方向及び圧延方向に複数配備されたノズルから供給される冷却水の冷却水量を制御することにより行われる。そして、鋳造ストリップの板幅方向の温度分布は上記ノズルの配置によってプリセット制御され、板幅方向においては供給される冷却水量は一定とされている場合が多い。その場合、鋳造ストリップの長手方向の温度分布は、例えば、板幅中央部の温度を検出し、当該温度が目標値になるように、ノズル全体から供給される冷却水量が制御される。したがって、加減速等による鋳造ストリップの温度変化があっても、板幅中央部の温度は目標値になるように温度制御されるものの、外乱(例えば、冷却ドラムの板幅方向の冷却ムラ、冷却ドラムの圧下不均一に起因する鋳造ストリップの捻れや、片波などの非対称な形状外乱、上記ノズルの一部の目詰まりなどの不具合等に起因する板幅方向の温度分布不良)に対応するための板幅方向端部の温度制御は行われていないので、板幅方向の温度分布の解消が困難な状況にある。
また、例えば特許文献4には、熱間圧延機においてレベラーにより鋼板の板プロフィルを制御する方法が開示されている。しかし、かかる技術では板幅方向の温度分布を考慮していないため、単に双ドラム式連続鋳造設備とインラインミルとの間の矯正装置に適用しても、矯正後の鋳造ストリップの断面形状は非対称な板クラウンとなり、矯正装置による矯正後に片側伸びや蛇行を誘発してしまうと考えられる。
そこで、本実施形態では、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布に応じて、鋳造ストリップSの板幅方向の複数位置での押込みロールによる押込量を変化させる。これにより、図6下側に示すように、鋳造ストリップSの板幅方向に温度分布がある場合にも、板幅方向中央に対して左右対称の形状となるように鋳造ストリップSを矯正することができる。その結果、鋳造ストリップSの平坦度を維持することができ、後続のインラインミルによる圧延時に蛇行したり板破断したりするのを回避できる。以下、本実施形態に係る鋳造ストリップの板クラウン制御方法について詳細に説明する。なお、本実施形態に係る鋳造ストリップ製造工程は、図1に示した第1の実施形態に係る鋳造ストリップ製造工程1と略同一であり、矯正装置80の上流側または下流側のうち少なくともいずれか一方に温度分布測定装置を備える点のみ相違する。このため、本実施形態では、鋳造ストリップ製造工程の全体構成の説明を省略する。
(2−1.温度分布測定装置の設置)
まず、図7及び図8を参照して、本発明の第2の実施形態に係る鋳造ストリップ製造工程の、矯正装置80及び温度分布測定装置95、97について説明する。図7は、本実施形態に係る矯正装置に対する温度分布測定装置の設置位置を示す説明図である。図8は、温度分布測定装置による板幅方向の温度分布測定方法を説明する説明図である。
本実施形態に係る鋳造ストリップ製造工程は、図1に示した第1の実施形態と同様、タンディッシュ(貯蔵装置)Tと、双ドラム式連続鋳造設備10と、酸化防止装置20と、冷却装置30と、第1のピンチロール装置40と、インラインミル50と、第2のピンチロール装置60と、巻取装置70、矯正装置80とを備える。さらに本実施形態では、図7に示すように、矯正装置80に対して鋳造方向上流側と下流側とに、鋳造ストリップSの板幅方向の板温度分布を測定する温度分布測定装置95、97が設けられている。図7では、矯正装置80の鋳造方向上流側及び下流側に温度分布測定装置95、97が設けられているが、本発明はかかる例に限定されない。温度分布測定装置は、矯正装置80の鋳造方向上流側または下流側のうち少なくともいずれか一方に設けられていればよい。
温度分布測定装置95、97は、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を測定するため、板幅方向において少なくとも3つの測定位置での温度を測定可能に構成される。具体的には、図8に示すように、例えば鋳造ストリップSの板幅方向に固定して配置された少なくとも3つの板温度計95a、95b、95cから温度分布測定装置95を構成してもよい。この場合、板温度計95a、95b、95cは、鋳造ストリップSの板幅中央と板幅両端近傍とに配置されるのが望ましい。あるいは、温度分布測定装置は、鋳造ストリップSの板幅方向に移動可能な1つの板温度計95dから構成してもよい。移動式の板温度計95dを板幅方向に往復移動させることで、鋳造ストリップSの温度分布を測定することができる。なお、鋳造ストリップSは、板温度計95dによる測温中にも鋳造方向に移動するため、板温度計95dによる測定位置は斜行する。したがって厳密な板幅方向の温度分布ではないが、本実施形態に係る板クラウン制御への影響は無視できる程度のずれである。
なお、板温度計の代わりに、例えばサーモビュアーのような平面での温度分布を測定する温度分布測定器を温度分布測定装置として用いてもよい。この場合にも、鋳造ストリップSの表面の温度を2次元温度分布として測定することができる。ただし、かかる方法は、板温度計を用いる場合と比較して、測定時間及び演算時間が若干長くなる。
(2−2.板幅方向温度分布を考慮した板クラウン制御)
本実施形態に係る板クラウン制御では、温度分布測定装置95、97により鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を測定し、測定された温度分布に基づいて、矯正装置80の押込みロールであるロール81Bの板幅方向における各押込量を制御する。ここで、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布と、矯正装置80による矯正後の鋳造ストリップSの断面形状との関係より、ストリップSの板幅方向の温度分布が当該鋳造ストリップSの矯正に与える影響を考えた。まず、鋳造ストリップSの矯正に対する温度分布の影響を調べるため、冷却装置のスプレーからの板幅方向の流量分布を調整し、鋳造ストリップSに板幅方向の温度分布を設けた。そして、鋳造ストリップSの板幅方向の5つの位置(具体的には板幅方向中心を0として、−1.0〜1.0で規格化した場合に、±0.9、±0.5、0の位置)に固定式の板温度計を設置し、その箇所の温度を測定した。
そして、温度分布測定装置の各板温度計の測定結果に基づき、鋳造ストリップSの温度分布T(x)を2次式近似した。具体的には、鋳造ストリップSの温度分布T(x)を、2次式T(x)=ax2+bx+cで表した。ここで、xは板幅方向の位置を表す。xは規格化した値(半板幅で除した値)を用いてもよい。規格化した場合、上述のように、板幅中央を0とし、一側の板端を−1、他側の板端を+1で表す。上記2次式の係数a、b、cは回帰近似により求まる定数である。定数bは、鋳造ストリップSの温度分布の非対称成分を示し、以下では「温度非対称パラメータb」ともいう。また、定数cは、鋳造ストリップSの板幅中央の温度を示す。
一例として、第1の実施形態にて示した図5のロールクラウン500μm、押込量6mmの場合について、演算器(図示せず。)により上記2次式の定数b、cを求め、板幅方向の板クラウン差(一側の板クラウンと他側の板クラウンとの差。板クラウン差が0のとき、板クラウンが左右対称であることを表す。)について調べた。図9に、かかる場合の温度非対称パラメータbと板クラウン差との関係を示す。
図9より、温度非対称パラメータbが大きいほど、同一押込量でも板クラウン差が大きくなることが判明した。また、温度非対称パラメータbの値が同一であっても、板温度(c)が大きいほど板クラウン差が大きいことも判明した。したがって、温度非対称パラメータの値b及び板温度cに基づき、押込みロールの板幅方向(例えば板幅方向両端部)の各押込量を調整することで、矯正装置80による矯正後の鋳造ストリップSの断面形状(言い換えると、板クラウン、板プロフィル)を対称にすることができる。操業上は、鋳造ストリップの板中央温度のバラツキは小さく無視できるため、実質的には温度非対称パラメータbに基づき、板幅方向に温度分布がある場合には高温側の押込量を低温側に比べて小さくするように、板幅方向の各押込量を調整すればよい。なお、板温度cが目標値よりも大きく外れる等、板温度cが許容範囲外の場合には、板温度cも考慮して押込みロールの板幅方向の各押込量を調整することで、より適切に精度よく板クラウンを制御することが可能となる。
かかる知見より、本実施形態では、双ドラム式連続鋳造装置を備える連続鋳造設備において、冷却ドラムの熱影響により生じる鋳造ストリップSの板クラウンを制御するため、矯正装置80を設け、鋳造ストリップSの板幅方向の温度非対称性(温度非対称パラメータb)に応じて押込みロールの押込量を制御する。これにより、矯正装置80を通過する際の鋳造ストリップSの板クラウンを、断面形状が対称性を有するように適切に矯正することができ、インラインミル50で圧延された鋳造ストリップSの板クラウン変化を防止できる。なお、冷却ドラム10a、10bの熱膨張に伴う板クラウン自体は、第1の実施形態にて説明した方法に基づき押込量が決定され、当該押込量により制御されることは言うまでもない。
具体的には、まず、矯正装置80は、初期設定として温度非対称パラメータbが0の場合を想定して目標の板幅方向に対称な板クラウンが得られるように、鋳造開始時に、押込みロールであるロール81Bのロール軸の位置を、予め実験等により算出された初期位置に設定してもよい。このとき、板幅方向両端部における押込みロールの押込量は同一であってもよい。
次いで、鋳造ストリップSの先端がインラインミル50を通過し始めると、板クラウンの時系変化に応じて、押込みロールの押込量と鋳造ストリップSの板クラウンの大きさとの関係に基づき、押込みロールであるロール81Bの押込量が制御される。押込みロールの押込量と鋳造ストリップSの板クラウンの大きさとの関係は、第1の実施形態にて説明したように、例えば図4に示したような、実験等により得られた関係を用いてもよい。制御装置は、例えば板プロフィル計91、93により測定された鋳造ストリップSの板厚に基づき、鋳造ストリップSの板クラウンを算出する。そして、インラインミル50を通過する鋳造ストリップSの板クラウンの形状、すなわち、板クラウンの大きさに応じて押込みロールの押込量を調整することで、インラインミル50にて圧延される鋳造ストリップSの形状を均一にすることができる。
このとき、本実施形態では、さらに、鋳造ストリップSの温度分布を温度分布測定装置により測定し、その結果から得られた温度非対称パラメータbに基づいて板幅方向両端部における押込みロールの押込量が修正される。修正量は、例えば図9に示したような実験等により得られた関係を用いてもよい。非対称な制御について、鋳造ストリップSを矩形とし、押込みロールによる押込みによる鋳造ストリップSのクラウン変化(対称なクラウン変化)は省略して以降簡単に説明する。
例えば図10に示すように、矯正装置80のロール81Bにより矯正される鋳造ストリップSの板幅方向において一側が高温、他側が低温という温度分布がある場合に、図10上側のように鋳造ストリップSを板幅方向に均一に押圧したとする。ロール81Bのロール軸の両端はそれぞれ押込量δ1とする。このように板幅方向に温度分布を有する鋳造ストリップSを板幅方向に均一に押圧すると、高温側に延びが生じる。その結果、ロール81Bによる矯正後の鋳造ストリップSの断面形状は、高温側の板厚が低温側の板厚よりも減少した非対称な断面形状となる。
そこで、図10下側に示すように、鋳造ストリップSがロール81Bに接触しているときのロールプロフィル(接触時ロールプロフィル)を、低温側の押込量δ2と比較して高温側のロール81Bの押込量δ3が小さくなるように調整する。これにより、ロール81Bによる矯正後の鋳造ストリップSの断面形状を板幅方向に対称となるように矯正することができる。その結果、インラインミルでの冷間圧延における板形状の乱れを防止することが可能となり、製品の板幅方向の板厚精度(板クラウンおよび板クラウンの対称性)を向上させ、歩留まりを向上させることができ、またインラインミルでの形状不良や蛇行や板破断も防止できる。
押込みロールであるロール81Bの接触時ロールプロフィルの調整は、例えばロール81Bの内部に油圧チャンバーを設け、当該油圧チャンバーの油圧を変化させることによってロールプロフィルが板幅方向に非対称となるように変化させて行ってもよい。あるいは、ロール81Bの内部にロール材質よりも高熱膨張率であるブロック体を板幅方向に複数設け、当該ブロック体をそれぞれ個別に加熱することにより接触時ロールプロフィルを変化させてもよい。さらには、ロール81Bの内部に加圧装置を板幅方向に複数設け、当該加圧装置をそれぞれ個別に加圧することにより接触時ロールプロフィルを変化させてもよい。
あるいは、押込みロールを図7のロール81Bのように1段で構成する代わりに、押込みロールであるロール81Bをフラットロールとし、ロール81Bの上方(鋳造ストリップSと反対側)にロール81Bに接触して支持する補助ロールを設ける2段構成としてもよい。具体的には、例えば図11に示すように、ロール81Bの上方に、板幅方向に複数の分割ロール111〜115からなる補助ロール110を設ける。補助ロール110は、圧下装置120によってロール81B側へ押圧可能に構成されている。圧下装置120は、例えば分割ロール111〜115をそれぞれ独立してロール81Bに対して押圧するために、油圧シリンダ121〜125がそれぞれ設けられている。かかる構成により、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布に応じて、油圧シリンダ121〜125により分割ロール111〜115を圧下して、ロール81Bの鋳造時ロールプロフィルを疑似的に変化させることができる。
このように、押込みロールの鋳造ストリップSと接触するときの接触時ロールプロフィルを変化可能にすることで、鋳造ストリップSの板幅方向に温度分布がある場合に、押込みロールの押込量を変化させることができる。これより、押込みロールのロールクラウンを制御することで矯正装置80を通過する際の鋳造ストリップSの板クラウンを適切に矯正することが可能となり、インラインミル50で圧延された鋳造ストリップSの板クラウン変化を防止することができる。なお、上述の押込みロールの押込量の調整とロールクラウンの調整との両方により、鋳造ストリップSの板クラウン制御を行ってもよい。
なお、第2の実施形態では、鋳造ストリップSの温度分布T(x)を2次式近似し、そのうちの温度非対称パラメータbに基づき、押込みロールの接触時ロールプロフィルを決定したが、本発明はかかる例に限定されず、温度分布測定装置により測定された鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布に基づいて、鋳造ストリップSの板幅方向の温度非対称性を表す他のパラメータに基づいて押込みロールの接触時ロールプロフィルを決定してもよい。
例えば図12に示すように、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を面積で表し、板幅中心で二分割した2つの面積の面積比に基づき、押込みロールの板幅方向における押込量を決定してもよい。すなわち、板幅方向の温度非対称を表すパラメータとして、温度分布の面積比を用いてもよい。この温度分布の面積比を積分温度非対称パラメータαと定義する。板幅中心で二分割した2つの面積をS1、S2とすると、積分温度非対称パラメータαは、S1/S2で表される。積分温度非対称パラメータαは、2つの面積が同一の場合(すなわち板幅方向の温度分布が対称の場合)は1となる。
図12は、板幅方向に一側(図12の左側)が低温であり、他側(図12の右側)が高温となっている鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を面積で表した一例である。このような鋳造ストリップSを板幅中心で二分割すると、図12に示すように、低温(左側)の面積S1が高温(右側)の面積S2よりも小さくなる。これらの面積比に応じて、高温側が低温側よりも押込量が小さくなるように押込みロールの接触時ロールプロフィルをすることで、上述と同様に、矯正装置80による矯正後の鋳造ストリップSの板幅方向の断面形状を対称とすることができる。なお、各面積S1、S2の算出方法の具体例としては、例えば図12に示した3点(P1、P2、P3)の場合、3点を放物線近似しその結果を用いて積分して求めてもよく、台形近似して求めてもよい。
さらに、板幅方向の温度非対称を表すパラメータとして温度モーメントβを用いてもよい。温度モーメントβは、板幅中央に対して対称に配置された板温度計の位置での鋳造ストリップSの温度Tiと板温度計の配置された位置xiとを用いて、下記式(1)で表される。ただし、板幅中央位置を基準(ゼロ)とし、一方の端部側(例えばワークサイド側)を正の値、他方の端部側(例えばドライブサイド側)を負の値とする。iは各板温度計の示す正の整数である。なお、位置xiは絶対値でもよく、規格化された位置でもよい。
β=ΣTi・xi ・・・(1)
板幅方向の温度分布が対称の場合、温度モーメントβはゼロとなる。例えば図12に示す例では、冷温側の位置x1の板温度計により測定される鋳造ストリップの温度T1と、高温側の位置x3の板温度計により測定される鋳造ストリップの温度T3とに基づき、温度モーメントβが算出される。このとき位置x1、x3は、規格化された位置(−1、+1)で表されている。上記式(1)に基づき温度モーメントβを算出すると、+1の位置での温度T3が−1の位置での温度よりも大きいので、温度モーメントβは正の値となる。この温度モーメントβに基づき、押込みロールの板幅方向における押込量を決定し、押込みロールの接触時ロールプロフィルを決定することで、上述と同様に、矯正装置80による矯正後の鋳造ストリップSの板幅方向の断面形状を対称とすることができる。
このように、板幅方向の温度非対称を表すパラメータとしては、上記実施形態にて説明した鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を表す2次式において温度分布の非対称成分を表す係数bである温度非対称パラメータ、鋳造ストリップSの板幅方向の温度分布を表した面積を板幅中心で二分割した2つの面積の面積比である積分温度非対称パラメータα、または、鋳造ストリップSの板幅中心に対して対称な2つの位置及び当該位置における鋳造ストリップSの温度に基づき表される温度モーメントβ等を用いることができる。
以下、本発明の第1の実施形態に関する実施例について説明する。本実施例は、図1と同様の構成を備えた鋳造ストリップの製造工程において実施した。また、実施例で使用した鋳造ストリップは、板厚2mm、板幅1260mmである。鋳造開始からの冷却ドラムの加速レートは150m/min/30秒であり、定常状態の冷却ドラムの回転速度は150m/minである。なお、冷却ドラムの初期プロフィルは定常状態で鋳造ストリップの板クラウンが43μmになるように初期プロフィルを加工した。また、インラインミルでは圧下率30%の圧延が行われ、インラインミル出側の鋳造ストリップの板厚は1.4mmとした。インラインミルでの圧延は、鋳造開始から15秒後(ダミーシートが通過し、鋳造ストリップの板クラウン150μm以下になった後)開始した。
本発明例1は、予め実験を行い、鋳造開始時間と鋳造ストリップの板クラウン変化との関係を調査した。当該調査結果に基づき、矯正装置による矯正後の鋳造ストリップの目標値である43μm(インラインミル圧延後は30μm)になるように、鋳造開始時間からの各時間における矯正装置の押込みロールの押込量を予め設定して制御した。なお、かかる制御は鋳造開始から15秒後から行い、それ以前は鋳造開始から15秒後の押込みロールの押込量に設定した。鋳造開始から35秒以降は矯正装置を開放した。
本発明例2は、矯正装置による矯正前にて鋳造ストリップの板クラウンを測定し、矯正後の鋳造ストリップの目標値である43μm(インラインミル圧延後は30μm)になるように、矯正装置の押込みロールの押込量を制御した。なお、かかる制御は鋳造開始から15秒後から行い、それ以前は鋳造開始から予め実験によって求めた15秒後の鋳造ストリップの板クラウンを目標値である43μmになるように、押込みロールの押込量を設定した。また、鋳造開始から35秒以降は矯正装置を開放した。
本発明例3は、矯正装置による矯正後にて鋳造ストリップの板クラウンを測定し、矯正後の鋳造ストリップの目標値である43μm(インラインミル圧延後は30μm)になるように、矯正装置の押込みロールの押込量を制御した。なお、かかる制御は鋳造開始から15秒後から行い、それ以前は鋳造開始から予め実験によって求めた15秒後の鋳造ストリップの板クラウンを目標値である43μmになるように押込みロールの押込量を設定した。また、鋳造開始から35秒以降は矯正装置を開放した。
一方、従来例として、矯正装置を開放して当該矯正装置では鋳造ストリップに伸びが生じないようにした状態にし、インラインミルにて板厚が1.4mmになるように圧延した。
(本発明例1:レベラーのプリセット制御)
本発明例1では、圧延開始時に僅かな中伸びが生じたものの板破断は発生しなかった。また、板クラウンは、圧延開始時(鋳造開始から15秒後)は圧延機出側で約29〜33μm程度、鋳造開始から30秒後の定常状態では30μm程度であり、時間の影響はほとんど無かった。したがって、鋳造ストリップの製品歩留まり落ちはなかった。
さらに、本発明例1において、外乱変化として冷却ドラムの冷却水の流量を30%絞って同様の圧延を行った。この場合、流量を絞らない場合に比べて冷却ドラムの熱膨張がより早く、より大きくなり、その結果、板プロフィルは、予測していた板プロフィル変化と異なるものとなった。このため矯正装置の押込量制御による板プロフィルの制御精度は、若干低下したが、問題ない程度であった。なお、上記以外の外乱変化としては、例えば、冷却水の温度変化による冷却ドラムの冷却変化、温度目標値の変更による溶融金属の温度変化、鋳造速度パターンの変化等が考えられる。これらの外乱変化が生じた場合にも、同様の結果となると推定される。
(本発明例2:レベラーのFF制御)
本発明例2では、圧延開始時に僅かな中伸びが生じたものの板破断は発生しなかった。また、板クラウンは、圧延開始時(鋳造開始から15秒後)は圧延機出側で約29〜33μm程度、鋳造開始から30秒後の定常状態では30μm程度であり、時間の影響はほとんど無かった。したがって、鋳造ストリップの製品歩留まり落ちはなかった。
さらに、本発明例2において、外乱変化として冷却ドラムの冷却水の流量を30%絞って同様の圧延を行った。この場合、流量を絞らない場合に比べて冷却ドラムの熱膨張がより早く、より大きくなる。本発明例2では、矯正装置による矯正前に板プロフィルが測定され、その結果に基づいて押込みロールの押込量の調整による板プロフィルの制御が実施される。これにより、冷却ドラムの冷却が十分されている場合(すなわち、冷却ドラムの冷却水の流量を絞らない場合)と同程度の高い精度で鋳造ストリップを製造することができた。
また、本発明例2にて、矯正装置自身の外乱としてロールクラウンの設定誤りを想定し、矯正装置の押込みロールのロールクラウンを変更した。このとき、矯正装置の制御量は、ロールクラウンを変更する前の値を用いて算出した。この場合、板プロフィルを制御するための押込みロールの押込量がロールクラウン変更前とずれが生じたため、板プロフィルの制御精度は、若干低下したが、問題ない程度であった。
(本発明例3:レベラーのFB制御)
本発明例3では、圧延開始時に僅かな中伸びが生じたものの板破断は発生しなかった。また、板クラウンは、圧延開始時(鋳造開始から15秒後)は圧延機出側で約29〜33μm程度、鋳造開始から30秒後の定常状態では30μm程度であり、時間の影響はほとんど無かった。したがって、鋳造ストリップの製品歩留まり落ちはなかった。
さらに、本発明例3において、外乱変化として冷却ドラムの冷却水の流量を30%絞って同様の圧延を行った。この場合、流量を絞らない場合に比べて冷却ドラムの熱膨張がより早く、より大きくなる。本発明例3では、矯正後に板プロフィルを測定し、その結果に基づいて押込みロールの押込量の調整による板プロフィルの制御が実施される。これにより、冷却ドラムの冷却が十分されている場合(すなわち、冷却ドラムの冷却水の流量を絞らない場合)と同程度の高い精度で鋳造ストリップを製造することができた。
また、本発明例3にて、矯正装置自身の外乱としてロールクラウンの設定誤りを想定し、矯正装置の押込みロールのロールクラウンを変更した。このとき、矯正装置の制御量は、ロールクラウンを変更する前の値を用いて算出した。本発明例3では、圧延後の板クラウン測定結果に基づいて押込みロールの押込量の制御をしているので、板プロフィル制御の精度は、本発明例1及び本発明例2よりも高くなった
なお、本発明例2、3では、矯正装置自身の外乱としてロールクラウンの設定誤りを例にして、本願発明の有効性を示したが、かかる結果より、押込み装置のロールクラウンの設定誤りの場合以外にも、例えば押込みロールの摩耗や熱膨張等によるロールクラウン変化(ロールプロフィル変化)の場合も同様に対応可能である。
(従来例)
従来例では、圧延開始時に大きな中伸びが生じ板破断が多発した。また、板クラウンは、圧延開始時(鋳造開始から15秒後)は圧延機出側で約105μm程度であったが、鋳造開始から30秒後の定常状態では30μm程度になった。本製品の板クラウンは目標30μm(上限40μm)であったため、製品として使用できるのは鋳造開始から25秒以降の鋳造ストリップであった。また、板破断した際の残りの溶湯は廃棄になったため歩留まりは大きく低下した。
以上のことから、本発明により、双ドラム式連続鋳造装置による鋳造時に、矯正装置を用いて鋳造ストリップの板クラウンを制御することにより、板破断のない安定した圧延、および、板幅方向の板厚精度の高い製品を製造することが可能であることが確認された。
以下、本発明の第2の実施形態に関する実施例について説明する。本実施例は、第2の実施形態にて説明した構成を備えた鋳造ストリップの製造工程において実施した。また、実施例で使用した鋳造ストリップは、板厚2mm、板幅1260mmである。鋳造開始からの冷却ドラムの加速レートは150m/min/30秒であり、定常状態の冷却ドラムの回転速度は150m/minである。なお、冷却ドラムの初期プロフィルは定常状態で鋳造ストリップの板クラウンが43μmになるように初期プロフィルを加工した。また、インラインミルでは圧下率30%の圧延が行われ、インラインミル出側の鋳造ストリップの板厚は1.4mmとした。インラインミルでの圧延は、鋳造開始から15秒後(ダミーシートが通過し、鋳造ストリップの板クラウン150μm以下になった後)開始した。
本発明例は、予め実験を行い、鋳造開始時間と鋳造ストリップの板クラウン変化との関係を調査した。当該調査結果に基づき、矯正装置による矯正後の鋳造ストリップの目標値である43μm(インラインミル圧延後は30μm)になるように、鋳造開始時間からの各時間における矯正装置の押込みロールの押込量(対称成分)を予め設定して制御した。さらに矯正装置の上流に配備された温度分布測定装置により測定された鋳造ストリップの板幅方向の温度分布を2次式近似し、温度非対称パラメータbを求め、矯正装置後の鋳造ストリップの板クラウンが対称になるように矯正装置の両サイドの押込量を制御した。なお、かかる制御は鋳造開始から15秒後から行い、それ以前は鋳造開始から15秒後の押込みロールの押込量に設定した。
一方、従来例として、予め実験を行い、鋳造開始時間と鋳造ストリップの板クラウン変化との関係を調査した。当該調査結果に基づき、矯正装置による矯正後の鋳造ストリップの目標値である43μm(インラインミル圧延後は30μm)になるように、鋳造開始時間からの各時間における矯正装置の押込みロールの押込量(対称成分)を予め設定して制御した。矯正装置の上流に配備した板温度分布測定装器の情報は何も使用しなかった。かかる制御は鋳造開始から15秒後から行い、それ以前は鋳造開始から15秒後の押込みロールの押込量に設定した。
本発明と従来例とについて、それぞれ500回(合計1000回)の鋳造操業を行い、インラインミルでの圧延後の板クラウン差の分布、及び、インラインミルでの蛇行による破断回数を調べた。本発明では、板クラウン差は30μm±5μm内に90%以上収まったのに対し、従来例では板クラウン差は30μm±15μm内に90%以上であった。なお、従来例において30μm±5μm内に納まったのは28%程度であった。また、インラインミルでの蛇行・形状不良による板破断は、本発明では1回、従来例では18回であった。
以上のことから、本発明により、双ドラム式連続鋳造装置による鋳造時に、矯正装置を用いて鋳造ストリップの板クラウンを制御することにより、板破断のない安定した圧延、および、板幅方向の板厚精度の高い製品、すなわち、板クラウン差がなく板幅方向に対称な形状の製品を製造することが可能であることが確認された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。