JP6823231B2 - 自己組織化ペプチドおよびそれから形成されるゲル - Google Patents

自己組織化ペプチドおよびそれから形成されるゲル Download PDF

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Description

本発明は、高強度なヒドロゲルを形成し得る自己組織化ペプチド、および該ペプチドから形成されるペプチドゲルに関する。
ヒドロゲルは、水を主成分として安全性が高く、生体適合性に優れており、また環境に対する負荷が低いため、いわゆるソフトマテリアルとして有用である。ソフトマテリアルとは、生体高分子、ゲル、コロイド、ミセルなどの総称で、金属、セラミックス、半導体などのハードマテリアルに対する概念であり、高機能性と環境適合性とを併せ持つ理想的な21世紀型材料のことをいう(「ソフトマテリアルの応用展開」西敏夫監修;シーエムシー出版)。
ヒドロゲル素材としてのペプチドは、アミノ酸配列を設計すれば自動合成機を利用することにより容易に合成可能であり、ペプチド自身は生分解可能で分解物が生体に悪影響を与えることがないため高い安全性を有している素材と言える。このアミノ酸配列を自由に種々デザインすることで、得られるペプチドに多様な立体構造を形成させることができるので、高機能材料としての応用(ソフトマテリアル)が期待されているのである。
ペプチドが形成する立体構造としては大別すると球状と繊維状の二つのタイプに分けられる。球状タイプは、αヘリックス(1本のペプチド主鎖が螺旋状に巻いた構造で、3.6個のアミノ酸残基を1ピッチとして、アミノ酸残基の側鎖を螺旋の外側に突き出した構造)やβシート(平行に配置された複数本のポリペプチド主鎖が水素結合によって固定され、全体としてひだのある平板状の構造)の二次構造が、ターンやループの二次構造と組み合わされて全体として球状の三次元構造となるものである。繊維状タイプは、αヘリックスやβシートの二次構造が連続的に繰り返し連結されて、繊維状の立体構造を形成するタイプである。そしてこれらの立体構造は、ペプチド分子間の相互作用によって、一次元から三次元へと「自己組織化して構造体を形成する」点に大きな特徴がある。
この特徴を生かして、交互に疎水性アミノ酸および親水性アミノ酸を16残基配列したペプチドを、組織修復または置換するための生体材料に利用する技術がある(特許文献1)。この技術によれば、前記ペプチドがβシート構造へと自己組織化し、生細胞をカプセル化するというものである。このカプセルは肉眼でみることができ、軟骨の欠損、神経組織の欠損、肝臓の欠損、糖尿病、関節炎を処置または予防するために使用できる。
また、アミノ酸の総数が8〜36残基で疎水性と親水性が交互に結合した自己組織化する第1のアミノ酸ドメインと、単離された形態で自己組織化しない第2のアミノ酸ドメインとが、ペプチド結合で連結し、全体としては自己組織化するペプチドに関する技術も提案されている(特許文献2)。第2のドメインを組み込むことで、第1のドメインを修飾しても自己組織化機能を損なうことがなく、特に細胞培養、組織工学の分野に広範な用途を有するというものである。さらに、アミノ酸残基8〜200の疎水性と親水性が交互に結合したペプチドで、生理的pHおよび/または陽イオンの存在下、βシート構造を示す自己組織化ペプチドを含有する組織損傷による血液漏出を防止する組織閉塞剤に関する技術(特許文献3)もある。
その他、基本的には疎水性と親水性とが交互に結合したアミノ酸配列であるが、式(I)〜(IV){式(I)は((非電荷−正電荷)(非電荷−負電荷)、式(II)は((非電荷−負電荷)(非電荷−正電荷)、式(III)は((正電荷−非電荷)(負電荷−非電荷)、式(IV)は((負電荷−非電荷)(正電荷−非電荷)であって、x、yは独立して1,2または4、nは1〜5の整数である}の1つ以上に従うアミノ酸残基の配列を含む自己組織化ペプチドであって、これを止血促進、皮膚または創傷の汚染防止、消毒などに利用するという技術(特許文献4)。
アミノ酸配列が、adb(該アミノ酸配列中、a〜aは、塩基性アミノ酸残基であり;b〜bは、非電荷極性アミノ酸残基および/または疎水性アミノ酸残基であり、ただし、そのうちの少なくとも5個は、疎水性アミノ酸残基であり;cおよびcは、酸性アミノ酸残基であり;dは、疎水性アミノ酸残基である。)からなるアミノ酸残基13の自己組織化ペプチドを、細胞培養基材やコーティング剤として利用する技術(特許文献5)等が提案され、前記各技術に基づく製品が市販されている。これらのペプチドは人工的に合成されており、動物由来物質や感染性物質を含まない、生分解性、生体適合性に優れた製品として高い評価を受けている。
特表2005−515796号公報 特表2007−526232号公報 再表WO2010/041636号公報 特表2008−539257号公報 再表WO2010/103887号公報
ところで、前記各技術により実用化されているペプチドは13個以上のアミノ酸残基を有しており、力学的強度・光学的性質・生体適合性などの諸物性において目的とするヒドロゲルが得られるならば、アミノ酸の数はできるだけ少ない方が、製造工程、コスト、品質管理等の点で好ましい。加えて、より短いペプチド鎖のほうが分解されやすいのは自明であり、これは助剤として使用後にその除去において有利である。
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、アミノ酸残基が従来提供されているペプチドよりも少なく、力学的強度や光学的性質が同等以上のヒドロゲルを形成しうる自己組織化ペプチド及びそれから形成されるゲルを提供することにある。
前記目的を達成するために、本発明の自己組織化ペプチドは、下記構造式(1)
−X−X−X−X−X−X−X ・・・(1)〔構造式(1)中、X,Xはそれぞれ塩基性アミノ酸であり、X,X,X,Xはそれぞれ疎水性アミノ酸であり、Xは酸性アミノ酸であり、Xは中性アミノ酸を示す。〕で表される連続する8個のアミノ酸配列からなる。
アミノ酸は側鎖の化学的性質によって、親水性(極性)と疎水性(非極性)に、さらに親水性アミノ酸は荷電状態によって、酸性、中性、塩基性に分類することができる。本発明のペプチドは、基本的には親水性と疎水性とが交互に結合したもので前記先行文献に開示された配列と近似している。しかし、いずれの文献にも本発明に規定されるのと同じ8個の前記アミノ酸配列を示したものは無く、現実に商品化されているペプチドのアミノ酸残基の数は13個あるいは16個のものである点からも、本発明とは相違する。
ちなみに、特許文献2の明細書には8個のアミノ酸配列の例がいくつか記載されており、下記の表1に、極性・荷電状態でアミノ酸配列を表示した。
表1より明らかなように特許文献2に開示された8個のアミノ酸配列よりなるペプチドには、中性アミノ酸残基を有するものはなく、従来技術に開示されたいずれのアミノ酸配列とも異なることが分かる。
なお、具体的に商品化された一例としてPuraMatrix(登録商標)は、RADA16−1(特許文献2の記載のペプチドで16アミノ酸残基)よりなるもので、このペプチドのナノファイバーから形成されたスキャフォールドが、脳の修復や軸索再生に係わり、PC12細胞(この細胞は、ラットの副腎髄質由来の褐色細胞腫で、神経細胞分化のモデルとして使われている)の成長だけでなく、ラットの海馬ニューロンを用いた機能的シナプスの形成にも有効であることが示されている(R.G. Ellis-Behnke et. al., Nano neuro knitting:Peptide nanofiber scaffold for brain repair and axon regeneration with functional return of vision. PNAS March28,2006;vol.103;5054 ? 5059.)。また、Panacea(登録商標)Gelは、RLDLRLALRLDLRの13アミノ酸残基よりなり、マウス筋芽細胞、ヒト軟骨肉腫細胞などを用いた細胞3次元培養の実績を有している。このような背景を基にすれば、本発明のペプチドから形成されるヒドロゲルも同様の利用可能性が充分に示唆される。
本発明のペプチドは、pH6.5〜7.5の中性水溶液中においてβシート構造を形成することを特徴としている。ペプチドをヒドロゲルとして利用する際に、細胞への影響を最小にとどめ、生体適合性や安全性を考慮すると、中性付近において自己組織化できることが好ましいからである。さらにそれ以外の領域では、粘性液体に変化することで、細胞の導入および細胞との分離を容易にする。
また、前記構造式のアミノ酸配列中、塩基性アミノ酸がリシンまたはアルギニンであり、疎水性アミノ酸がバリン、ロイシンまたはイソロイシンであり、酸性アミノ酸がグルタミン酸、中性アミノ酸がセリンであることが好ましい。ペプチドが自己組織化して形成するヒドロゲルの強度、透明性が優れているからである。特に前記アミノ酸配列が、KVELKLSV(配列番号1)、KVELKVSI(配列番号2)、またはKVELRLSV(配列番号3)である場合、高温で処理・保存等を行っても構成アミノ酸に分解することなく、安定に存在するペプチドが得られる。
そしてこれらのペプチドを適当な濃度範囲において水溶液として調整することで、液性が中性付近において自己組織化し、ヒドロゲルを形成させることができる。
本発明の自己組織化ペプチドは、新規なアミノ酸配列で、従来商品化されている同種のペプチドの中でも特に「短鎖」であることが特徴である。ペプチド合成の際に、短鎖であれば、使用するアミノ酸の種類・量を少なくすることができ、一つずつアミノ酸鎖を伸長していく一般的な方法にあって、工程数の短縮と不純物等の生成を抑制することができる。また、目的とするペプチドが純度良く得易いので、品質が一定の製品をより安価に提供することができるのである。
前記のように本発明のペプチドは短鎖であるが故に、生分解されやすいという特徴を有している。ヒドロゲルその他の用途で使用した後は、構成アミノ酸に分解されて自然界に還元されることが好ましく、従来公知のペプチドよりも生分解されやすいので、自然に優しい化合物を提供することができる。
さらに、本発明のペプチドは合成材料として、動物原料から得られるペプチドよりも安全性が確保されている。動物原料のペプチドは、疾患の伝染性を確実に排除することは困難であり、滅菌後であっても免疫原性の問題が生じ得るからである。
そして、本発明のペプチドは中性付近でヒドロゲルを形成するので、生物学的に適用しやすく、細胞の接着・増殖・分化を制御するための細胞培養基材やドラッグデリバリーシステム用担体などの生医学材料への応用に適している。
図1は、ペプチドがβシート構造の形成し自己組織化によって繊維状になる様子を示す図である(Rein V. Ulijn et al., Designing peptide based nanomaterials. Chem. Soc. Rev., 2008,37, 664-675)。 図2は、配列番号1のペプチド水溶液をオートクレーブ処理した後のHPLCのクロマトグラムである。 図3は、配列番号2のペプチド水溶液をオートクレーブ処理した後のHPLCのクロマトグラムである。 図4は、配列番号3のペプチド水溶液をオートクレーブ処理した後のHPLCのクロマトグラムである。 図5は、配列番号1のペプチドを濃度0.8%の水溶液とし、pH=7.1に調整して、室温にて15分程度静置したのちのゲル化を示す図である。 図6は、図5に示す保存容器を振とうして、内容物が液状化した状態を示す図である。
本発明に係わる自己組織化ペプチドは、8個のアミノ酸配列を有する。構造式:X−X−X−X−X−X−X−X(式中、X,Xはそれぞれ塩基性アミノ酸であり、X,X,X,Xはそれぞれ疎水性アミノ酸であり、Xは酸性アミノ酸であり、Xは中性アミノ酸を示す。)で表され、基本的には従来公知の親水性と疎水性アミノ酸を交互に結合したペプチドであるが、親水性アミノ酸として中性アミノ酸がC末端から2個目に配置されていることが特徴である。
前記アミノ酸は、カルボキシル基が結合している炭素にアミノ基も結合した20種のαアミノ酸であり、基本的には光学異性体(D型、L型)はどちらであっても良いが、生化学分野では天然型であるL型を用いることが多い。疎水性(非極性)アミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、アラニン、フェニルアラニン、グリシン、トリプトファンおよびメチオニンから選択される。また親水性(極性)アミノ酸のうち、塩基性(正に荷電)アミノ酸は、アルギニン、リジンおよびヒスチジンから、酸性(負に荷電)アミノ酸は、アスパラギン酸とグルタミン酸から、中性(非荷電)アミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンから、それぞれ選択される。
自己組織化とは、二次構造から三次構造に自発的に集合・配列して立体構造を形成することをいい、ペプチドが自己組織化するためには、ペプチド分子間の水素結合、疎水性相互作用、イオン間相互作用などが不可欠である。これまでの自己組織化ペプチドはβシート構造を形成させるために、アミノ酸を親水性と疎水性に分けて交互に組み合わせるように分子設計されていた。本発明では、親水性アミノ酸を三つに分類して考察し、特に荷電を有さない中性アミノ酸を積極的に配列に組み込むことにした。
中性アミノ酸は、ペプチド結合に関与するカルボキシル基およびアミノ基以外の官能基として、ヒドロキシ基、アミド基、硫黄などを含み、これらは周囲の環境によって正にも負にも荷電し得る。化合物分子間の相互作用は、特にイオン間相互作用が最も強いとされており、正・負は相互に引き合い、同じ極性同士であれば反発し合うことは周知の通りである。本発明では、ペプチド鎖中に中性アミノ酸を導入することにより、自己組織化する際に当該アミノ酸残基に隣接する他のペプチド鎖のアミノ酸残基の極性に合わせられるようにすることでβシート構造を形成し易く、それ故に従来よりも短鎖であってもゲルが形成できるのではないかと考えている。
さて、ペプチドの形成する立体構造は、アミノ酸配列の1次構造で決定される。例えば、グルタミン酸、アラニン、ロイシンが連続するとαヘリックス構造を、イソロイシン、バリン、メチオニンはβシート構造を取りやすいと言われている。また、各構造の継ぎ目のターン部分には、グリシン、プロリン、アスパラギンが配置されることが一般的である。βシート構造は、隣り合うペプチド鎖の間で、一方の主鎖のN−Hの部分が隣接する主鎖のC=Oの部分と水素結合を形成し、全体として平面構造を形成する。こうして形成される多くの水素結合により、安定で丈夫な構造となる。そしてβシート構造を形成するペプチドのアミノ酸残基側鎖と、他のペプチドのアミノ酸残基側鎖の電荷をうまく立体構造上で中和するような相補的イオンペアとして作成すると、このβシート構造を繊維状に組織化させることができる。
βシート構造はペプチド鎖が略直線上に伸びて、複数本のペプチドが並行または逆並行に並べられ水素結合で結ばれた筏のような構造をしている。螺旋状のテープのように組織化したβシートの両面にさらにペプチドが重なることで繊維状となり、該繊維が絡み合ってペプチド水溶液の粘度が上がり、ついには全体がゲル化することとなる。この様子を模式的に説明したものが図1であり、Rein V. Ulijnらによって報告されている。
本発明のペプチドについて確認してはいないが、おそらく図1のようにして自己組織化すると推測している。
前記アミノ酸配列におけるX,Xはそれぞれ塩基性アミノ酸である。塩基性アミノ酸として好ましくは、リシンまたはアルギニンである。これらは等電点が高いので中性付近での荷電状態が強く、酸性アミノ酸残基の側鎖とのイオン的結合がより強固になるからである。またX,Xは、それぞれ同一であっても異なっても良いが、同一の場合には共にリシンであることが好ましい。
前記アミノ酸配列において、X,X,X,Xはそれぞれ疎水性アミノ酸である。疎水性アミノ酸として好ましくはバリン、ロイシンまたはイソロイシンである。前記の通りβシート構造を形成しやすいアミノ酸残基だからである。X,X,X,Xは、それぞれ同一であっても異なっていても良い。
の酸性アミノ酸はグルタミン酸が好ましく、Xの中性アミノ酸はセリンが好ましい。グルタミン酸はアスパラギン酸よりも、α炭素から官能基(カルボキシル基)までの炭素数が多く、それ故に側鎖長が長くなり、自己組織化に際してフレキシブルなイオン結合の形成が可能と考えるからである。またセリンは、側鎖の官能基に水酸基を有するアミノ酸で、負(O)に荷電しやすく、塩基性アミノ酸残基側鎖とのイオンペアを形成しやすいからである。
本発明のペプチドに含まれるアミノ酸残基側鎖の中性付近(pH6.5〜7.5)における総合的な電荷は、等電点を考慮すると簡易的に+1と言える。特許文献5に記載されているように、ペプチド間の静電的引力とその反発力とが微妙なバランスに保たれることで、過度の会合が生じず、不溶化して沈殿することなく安定なゲルを形成し得ると推察される。
本発明のペプチドを含む水溶液は、中性付近で自己組織化してヒドロゲルを形成する。これは中性付近だけでゲルを形成するという意味ではなく、酸性側あるいはアルカリ性側でゲルを形成し、その状態が中性付近でも維持されることを含む。生医学的材料として利用される場合に、中性付近で使用することが一般的と思われるので、少なくともこのpH範囲(6.5〜7.5)では、ゲルが形成されることが好ましい。また、ゲル化する要因はpHのみに限定されることなく、ペプチドの濃度、2種以上のペプチドの組み合わせ、ペプチド水溶液中への任意の添加物や、水溶液の温度、保管方法(たとえば静置・撹拌)など種々の化学的・物理的要因を併用することができる。
水溶液中における本発明のペプチドの濃度は、使用するペプチドにより一概に決められないが、おおよそ0.1〜5w/v%、好ましくは0.4〜3w/v%、特に好ましくは0.8〜2w/v%である。前記濃度範囲内において、透明性、力学的な強度に優れたヒドロゲルが得られうる。
またペプチド水溶液への任意添加物は、ヒドロゲルの用途、含まれるペプチドの種類等に応じて適宜選択される。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、リン酸、炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤;塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の等張化剤;アミノ酸類;ビタミンA、ビタミンC等のビタミン類;単糖、二糖、オリゴ糖等の糖類;ヒアルロン酸、キトサン、親水化セルロース等の多糖類;エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール類;着色剤;ホルモン、サイトカイン(造血因子、増殖因子等)等の生理活性物質;酵素;抗体;DNA;RNA;その他一般的な低分子化合物が挙げられる。添加物は、1種類のみ添加されてもよく、2種類以上組み合わせて添加されてもよい。水溶液中における添加物の濃度は、添加の目的、ゲルの用途等に応じて適宜設定すれば良く、添加するタイミングも、ペプチド水溶液調整時、ゲル化中、ゲル化後に別途水溶液等として浸透させることもできる。
水溶液の好ましい例としては、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどでpHを調整した水溶液などが挙げられる。本発明のペプチドは顧客の要望に合わせて、ペプチド単体として提供するか、前記水溶液に溶解して提供するか、ペプチドのみを含む水溶液として提供し、使用時に必要な(他社の市販ペプチドと混合して使用する場合も含む)添加物を追加して利用するなど、様々な提供方法がある。
本発明のペプチドを含む水溶液から形成されるヒドロゲルは、前記の通り細胞培養基材として利用することができる。殆どの動物細胞は何かに接着しないと増殖することができないので、細胞培養時の培養基材の役割は非常に重要であり、動物実験の代替法としての細胞培養は、医学・生物学の基礎研究や、医薬品開発などの実用化研究において汎用されている技術である。本発明のペプチドは後述する化学合成によって得られうるので、コラーゲンスポンジなどとして市販されている公知の細胞培養基材と比較して、病原性物質の混入を確実に排除することができ、安全性の高い素材である。また、培養基材としての役目を果たしたのちには、短鎖ペプチドであるので生分解されて吸収等されやすいため、理想的な基材ということができる。本発明のゲルは、そのまま単独で細胞培養基材として用いてもよいし、従来公知の他の細胞培養基材と併用してもよい。
培養される細胞の種類としては、生体に存在するあらゆる組織とそれに由来する細胞を用いることができ、具体的には、生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン、グリア細胞、繊維芽細胞、分化能を有する幹細胞、骨髄細胞、ES細胞等を用いることができる。細胞は、一種類のみであってもよく、二種類以上用いるものであってもよい。
細胞培養基材に播種する細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。また、細胞を通常の方法で予備的に培養して増殖させ、酵素処理等により剥離および回収した上で播種することもできる。
前記細胞培養基材としての用途の他、ドラッグデリバリーシステム用担体、化粧品などの保湿剤、コンタクトレンズなどの医療機器へのコーティング剤として利用することができる。例えば、コーティング剤として使用する場合、ペプチド水溶液に被コーティング対象物を浸漬して該溶液のpHを中性付近に調整するなどしてゲル化させる、或いはpH調整後の溶液に対象物を浸漬するだけでも良い。コーティング用として短期間表面の親水性を保持できればよい場合や、保存液にペプチドを含有させ使用後のコンタクトレンズ等を繰り返し浸漬して表面被覆に使用する場合に特に好ましい。
また例えば、化粧品の保湿剤としては、ヒアルロン酸が最も広く使用されているが、ヒアルロン酸が高価であるためにあまり多くを添加することができない。そこで、本発明のペプチドをヒアルロン酸の代替品あるいはこれと併用することにより、化粧品を肌に使用したときの潤いを保つようにして、使用感をより向上させることもできると思われる。
本発明のペプチドを含む水溶液は、ペプチドを溶解した直後は液体状であるが、静置すると(特にpHを中性付近にして流通させる場合には)流通容器内でゲル化している。そのような場合には、容器を振とうするなどして物理的刺激を与えると、再度液状化させることが可能であり、自己組織化するまで1〜数分静置すればゲルを再形成させられる。この性質を利用し、効率よく細胞と混合することが可能であるばかりでなく、培養後に細胞との分離も容易に実施可能である。
本発明のペプチドは、公知の固相法、液相法などの化学合成法で合成してもよいし、大腸菌等を用いた遺伝子工学的な方法で合成しても良い。また、強制薄膜式マイクロリアクターを使用しても良い。短鎖であるため、化学的合成法が適当であり、Fmoc合成法と呼ばれる固相合成法が好適である。C末端アミノ酸をポリスチレンビーズなどの担体に固定し、アミノ基をFmoc(フルオレニルメチルオキシカルボニル基)で保護したアミノ酸を反応させ、脱保護して、使用するアミノ酸を順次変更しながら繰り返すことで、一つずつアミノ酸鎖を伸長していくというもので、自動合成機も市販されている。
ここで、例えばFmoc合成法によりペプチドを合成する場合において、アミノ酸残基が8個(本発明)とその倍の16個の場合を収率の面で比較してみる。各段階において結合と脱保護反応の2段階の反応を行っており、アミノ酸8個の場合は16回、アミノ酸16個の場合は32回の反応を行っている。仮に各反応に際して99%の反応率とすると、本発明では計算上85.1%の収率となるが、16個の場合には72.5%となり、「短鎖」ペプチドの合成の方が、いかに効率的になるのかが分かる。
本発明のペプチドは、自己組織化能を阻害しない範囲において修飾されていても良い。修飾部位としては、N末端のアミノ基をアセチル化し、C末端のカルボキシル基をアミド化するなどが一般的であるが、糖化合物、脂質化合物、アミノ酸、タンパク質、その他生理活性を有する化合物等を結合させても良い。ただし、他の化合物は結合させなくても、これらを独立してペプチド水溶液中に添加すれば導入する目的が果たせる場合には、あえて本発明のペプチドに化学的に結合させる工程を入れることでコストを上げる必要はない。また、アセチル化やアミド化はペプチド分子の電荷のバランス上、両末端共に行うか、共に行わないことが適切であり、加熱により加水分解して安定性を損なうことを考えると、両末端をフリーの状態にしておく方が好ましい。フリーの状態であれば、利用者の意志によって種々の修飾が可能にもなる。
本発明の自己組織化ペプチドのうち、特に好ましい例は以下の配列を有するものである。KVELKLSV(配列番号1)、KVELKVSI(配列番号2)、またはKVELRLSV(配列番号3)である。これらは、後述する実施例で示すように、適度な強度を有するヒドロゲルを形成し、高温で処理・保存等を行っても構成アミノ酸に分解することなく、透明で安定に存在するペプチドが得られる。
以下では、実施例を示しつつ本発明の自己組織化ペプチドをより詳細に説明する。
(実施例1)
Fmoc合成法を使用して、表2に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを合成した。また、各ペプチドを濃度0.8%の水溶液として炭酸ナトリウムの添加によりpHを調整し、5分程度静置して溶液が均一にゲル化するか否かを表2に合わせて示す。
表2に示すように、本発明の自己組織化ペプチドは、中性付近のpH6.5〜7.5においてゲル化することが分かる。なお、各配列番号のペプチドが形成したゲルは無色透明で均一な弾性力を有するヒドロゲルであった。
(実施例2)
配列番号1〜3の各ペプチドを濃度0.8%の水溶液とし、pH=3に調整した後、121℃で20分のオートクレーブ処理を行った。処理前後のHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により図2〜図4に示すクロマトグラムを得た。測定はグラジエント溶出法を使用し、移動相の溶媒をアセトニトリル/HO=20/80から30分後に40/60になるように濃度を変化させた。
図に示す通り、各ペプチドに関するHPLCにピーク位置および強度に変化は認められず、また新たなピークも認められなかったことから、加水分解などの化学変化は生じていないことが示された。
(実施例3)
配列番号1のペプチドを濃度0.8%の水溶液とし、pH=7.1に調整して、室温にて15分程度静置した。その時の溶液の状態を示したのが図5である。図5に示すように、保存容器(2)を横にしても内容物の流動がなく、ゲル化(1)していることが分かる。
前記保存容器を1分程度振とうして、保存容器を横にした状態を図6に示している。図6より、振とうによって内容物が液状化(3)して流動性になっていることが分かる。
(比較例1)
表3に示すアミノ酸配列のペプチドを合成し、実施例1と同様にしてpHを調整し、中性(pH6.5〜7.5)領域でゲル化するか否かを観察した。その結果を合わせて表3に示す。
表3に示す通り、中性アミノ酸の導入される位置等が本発明と相違するペプチドは中性付近におけるゲル化が進行しないことが分かる。
以上説明したように、本発明の自己組織化ペプチドは、中性付近でヒドロゲルを形成するので、生物学的に適用しやすく、細胞の接着・増殖・分化を制御するための細胞培養基材やドラッグデリバリーシステム用担体などの生医学材料、組織損傷部位の修復・復元・再生用組成物、点眼液、化粧品、乳液、洗顔料などの保湿剤、コンタクトレンズなどの医療機器へのコーティング剤として利用することができる。
1 自己組織化ペプチドのヒドロゲル
2 保存容器
3 液状化したペプチド水溶液

Claims (2)

  1. アミノ酸配列が、KVELKLSV(配列番号1)、KVELKVSI(配列番号2)、KVELRLSV(配列番号3)、RVDVRVSV(配列番号4)、RVDLRLSV(配列番号5)、KFDLKLSF(配列番号6)、KFDLRLSF(配列番号7)、KVDVRVSV(配列番号8)、KVDFRFSV(配列番号9)、KVEFRFSV(配列番号10)、RVEFKFSV(配列番号11)、KLDFKFSL(配列番号12)、KLDLKLSL(配列番号13)、KLELKLSL(配列番号14)、KFEVKVSF(配列番号15)、KVEVKVSV(配列番号16)、KLEIKISL(配列番号17)、KIEIKLSL(配列番号18)、KVELKVSL(配列番号19)、KVEIKVSI(配列番号20)、KLEVKISV(配列番号21)、KVEIKVSL(配列番号22)、KVELKLSI(配列番号23)、KVELRVSI(配列番号24)、KVELRLSV(配列番号25)、KVEIRISV(配列番号26)、KIEVRISV(配列番号27)、またはRVELRLSV(配列番号28)で表される連続する8個のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド。
  2. 請求項1に記載の自己組織化ペプチドを含む水溶液から形成される、ヒドロゲル。
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