JP6818579B2 - 土壌放射能汚染検査装置 - Google Patents

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Description

本発明は、放射能汚染検査装置に関わり、特に、大気中の放射線を検出することで、土壌に含まれている放射性物質の種類の判定と、その放射能濃度の推定を行う土壌放射能汚染検査装置に関する。
原子力発電所や核燃料工場等の原子力関連施設において、事故が発生すると、放射性物質が環境中に放出される。この場合、放出された放射性物質の種類とその放射能濃度を調査する必要が生じる。大気中に放出された放射性物質は、土壌に沈着する。このため、土壌に関しては、広い範囲にわたり、放射能汚染が、生じる可能性がある。したがって、特に原子力事故のような緊急時には、土壌の放射能汚染の分布状況を、事故後速やかに把握することが要求される(例えば、特許文献1〜7を参照)。
土壌サンプルを採取して、実験室に持ち帰り、その後、この土壌サンプルの分析を行う方法では、試料の前処理も含めると、測定に長時間を要する。このため、現場にて短時間で土壌の放射能濃度を測定する方法が求められている。この点に関して、すでに、幾つかの方法が、提案されてきている。例えば、特許文献1に関する測定方法は、持ち運び可能なサーベイメータと、持ち運び可能な鉛遮蔽体とを用いている。定形の試料に含まれる放射性セシウム濃度とサーベイメータで測定される線量率の相関関係を用意しておき、試料中の放射性セシウムの濃度を測定している。
特許文献2に関する測定方法は、ガンマ線の透過率が大きい薄型のシンチレータを用いている。放射性セシウムが放出する特性X線を測定することで、土壌中の放射性セシウム濃度を測定している。これらの提案は、携帯可能な測定器により、現場で土壌中の放射性セシウム濃度を測定しており、測定対象は放射性セシウムに限られている。土壌に含まれる放射性物質の種類を判別することまではできない。
一方、非特許文献1には、in-situ法と呼ばれる方法が開示されている。ゲルマニウム
半導体検出器を用いて、土壌に沈着した放射性物質の放射能濃度と、それらに起因する空間線量率を求めている。この方法によれば、放射性物質が放出するガンマ線のエネルギーを測定し、放射性物質毎の放射能濃度を測定することが出来る。また、非特許文献2には、逐次近似法を用いる、逆問題演算の計算方法に関して記載がある。
特開2014-20995号公報 特開2015-180872号公報 特開2016-176855号公報 特開2014-106060号公報 特開2013-231611号公報 特開2014-106189号公報 特開2014-145700号公報
文部科学省、放射能測定法シリーズ33、「ゲルマニウム半導体検出器を用いたin-situ測定法」、平成20年3月 林 真照, 東 哲史, 西沢 博志, 他, "アンフォールディング手法を用いたNaI(Tl)シンチレーション式食品放射能分析装置の開発", KEK Proceedings 2014-7, p.352-360, (2014)
ここで、in-situ法は、土壌に含まれる放射性物質の種類とその濃度を、現場で、短時
間で測定するのに適している。放射性物質の種類を判別するためには、ガンマ線に対するエネルギー分解能に優れたゲルマニウム半導体検出器が有効である。ところが、ゲルマニウム半導体検出器は、出力されるパルスの幅が大きい。検出器に入射するガンマ線の頻度が大きい場合には、それぞれのガンマ線を検出した際の出力パルスが重なり、1つのパルスとして出力される。入射したガンマ線に対して、計測されるガンマ線の数が少なくなるため、ガンマ線を数え落とす現象が発生する。
数え落とす割合は、検出器のパルス幅と、入射ガンマ線の頻度によって決まる。一般的なゲルマニウム半導体検出器の場合、およそ10 μSv/h(マイクロシーベルト毎時)以下
のガンマ線量率までしか測定することができない。また、ゲルマニウム半導体検出器は、液体窒素や電気冷凍機による冷却が必要である。付属品も含めた装置全体が大きくなり、かつ重量も大きくなるため、屋外での測定を行う用途には、携帯性が低いなどの課題が指摘されている。
本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置は、以上のような課題を解決することを目的にしている。すなわち、放射線検出器として一般的な、ゲルマニウム半導体検出器では測定が困難な、高線量環境下においても、土壌に沈着した放射性物質の核種と放射能濃度を測定するのに適している、土壌放射能汚染検査装置を提供することを目的にしている。
本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置は、シンチレータを有し、放射線が入射すると電気パルス信号を出力する放射線検出器と、放射線検出器の応答関数を格納している応答関数メモリと、緩衝深度に対応した放射線源深度分布を格納している緩衝深度分布メモリと、放射線検出器から出力される電気パルス信号を増幅する増幅回路と、増幅回路が出力した電気パルス信号から測定パルス波高分布を抽出するマルチチャンネルアナライザと、マルチチャンネルアナライザで抽出された測定波高分布に対して、応答関数メモリに格納されている応答関数を用いて、逆問題演算を実施し、放射線検出器に入射した放射線のエネルギースペクトルを抽出する逆問題演算部と、逆問題演算部で抽出されたエネルギースペクトルと緩衝深度分布メモリに格納されている放射線源深度分布をもとに、土壌に沈着した放射性物質の核種と放射能濃度を求める深度分布演算部と、を備えている。
本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置は、シンチレータを有し、放射線が入射すると電気パルス信号を出力する放射線検出器と、放射線検出器の応答関数を格納している応答関数メモリと、緩衝深度に対応した放射線源深度分布を格納している緩衝深度分布メモリと、放射線検出器から出力される電気パルス信号を増幅する増幅回路と、増幅回路が出力した電気パルス信号から測定パルス波高分布を抽出するマルチチャンネルアナライザと、マルチチャンネルアナライザで抽出された測定波高分布に対して、応答関数メモリに格納されている応答関数を用いて、逆問題演算を実施し、放射線検出器に入射した放射線のエネルギースペクトルを抽出する逆問題演算部と、逆問題演算部で抽出されたエネルギースペクトルと緩衝深度分布メモリに格納されている放射線源深度分布をもとに、土壌に沈着した放射性核種と放射能濃度を求める深度分布演算部と、を備えていることにより、一般的なゲルマニウム半導体検出器では測定が困難な、高線量環境下においても、土壌に沈着した放射性物質の核種と放射能濃度を求めることが可能である。
本発明の実施の形態1における土壌放射能汚染検査装置の構成を示す全体図である。 本発明の実施の形態1における土壌放射能汚染検査装置の信号処理ブロック図である。 本発明の実施の形態1において、放射線検出器と測定装置筺体とを無線通信で接続する場合の構成を示す全体図である。 放射線検出器から出力されるパルス信号を示す模式図である。 シェーピングアンプから出力されるパルス信号を示す模式図である。 本発明の実施の形態1における土壌放射能汚染検査装置の信号処理ブロック図である。 地表面に分布した放射性物質に対する応答関数の概念を示す模式図である。 放射線検出器へガンマ線が側方から入射する様子を示す概念を示す図である。 放射線検出器へガンマ線が、前方または後方から入射する様子を示す概念を示す図である。 本発明の実施の形態2における土壌放射能汚染検査装置の信号処理ブロック図である。 本発明の実施の形態における数式1から数式4を表している図である。 土壌中の深さzの位置に存在する線源面から、ガンマ線が放出される様子を示す模式図である。 緩衝深度βの違いによる土壌中での放射線分布の違いを示す模式図である。 緩衝深度βの違いによるパルス波高分布の違いを示す模式図である。 緩衝深度βを変化させた場合に、測定された波高分布スペクトルと計算された波高分布スペクトルの相関関係の変化を示す模式図である。
本発明の実施の形態に係る土壌放射能汚染検査装置について、図を参照しながら以下に説明する。なお、各図において、同一または同様の構成部分については同じ符号を付しており、対応する各構成部のサイズや縮尺はそれぞれ独立している。例えば構成の一部を変更した断面図の間で、変更されていない同一構成部分を図示する際に、同一構成部分のサイズや縮尺が異なっている場合もある。また、土壌放射能汚染検査装置の構成は、実際にはさらに複数の部材を備えているが、説明を簡単にするため、説明に必要な部分のみを記載し、他の部分については省略している。
実施の形態1.
図1は、本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置100の構成を示している。本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置100は、屋外で、土壌に沈着した放射性物質の種類と、放射能濃度の深度分布を測定するのに適している。実施の形態における土壌放射能汚染検査装置100は、放射線検出器1と、三脚2と、測定装置筺体30と、ケーブル13などから構成されている。放射線検出器1は、放射線(特にガンマ線)を検出することで電気信号のパルスを出力する。三脚2は、ガンマ線を測定中に、放射線検出器1を一定の高さにするための器具である。測定装置筺体30は、信号処理ユニット(測定処理部)を内蔵している。ケーブル13は、放射線検出器1と測定装置筺体30の間を接続している。測定装置筺体30の内部に収納されている信号処理ユニットで、放射線検出器1で検出したガンマ線を処理し、土壌に沈着した放射性物質の種類と放射能濃度の深度分布を測定する。
本発明の実施の形態1における測定方法について、図2を参照して説明する。同図は、放射線検出器1の出力信号を処理する、信号処理ユニット3のブロックダイアグラムである。放射線検出器1から出力される電気パルスは、まず増幅回路4のプリアンプ4aに入力される。プリアンプ4aは、入力された電気パルスを増幅する。その後、電気パルスは、増幅回路4のシェーピングアンプ4bに入力され、適切な時定数のパルスに整形される。マルチチャンネルアナライザ6(MCA)は、放射線検出器1に入射したガンマ線のパルス波高分布を求める。
マルチチャンネルアナライザ6に蓄積された測定パルス波高分布は、逆問題演算部8に入力される。逆問題演算部8は、応答関数メモリ11から応答関数を読み込み、放射線検出器に入射したガンマ線のエネルギースペクトルφ(E)を算出する。応答関数は、応答関数入力手段から入力される。緩衝深度分布メモリ12には、あらかじめ与えられた緩衝深度βに基づき算出された緩衝深度分布が格納されている。深度分布演算部9は、緩衝深度βに基づき算出された、緩衝深度分布を緩衝深度分布メモリ12から読み込み、放射性物質の濃度の深度分布を算出する。算出された結果は、表示部10において表示する。
同図において、プリアンプ4a、シェーピングアンプ4b、マルチチャンネルアナライザ6は、測定装置筺体30の内部に配置しているが、これらを放射線検出器1の内部に組み込んでも良い。この場合、放射線検出器1の内部に組み込むのは、プリアンプ4aのみの形態、プリアンプ4aとシェーピングアンプ4bの形態、プリアンプ4aとシェーピングアンプ4bとマルチチャンネルアナライザ6の形態のいずれの場合でも良い。この様に、放射線検出器1の内部に信号処理回路を組み込む事で、電気的ノイズへの耐性を向上させることが出来る。
なお、図1では放射線検出器1と測定装置筺体30の間を、ケーブル13で接続しているが、図3に示す様に、放射線検出器1と測定装置筺体30の間を無線通信としても良い。送信機16は、放射線検出器1に取り付けられている。受信機17は、測定装置筺体30に取り付けられている。無線通信とする場合は、放射線検出器1と測定装置筺体30との距離がケーブル13の長さに制限されないため、放射線検出器1のみを遠方に持ち運んで測定を行うことが可能である。
図4は、放射線検出器1の出力パルスを示している。同図において、出力パルス21は、臭化セリウム(CeBr3)シンチレータや臭化ランタン(LaBr3)シンチレータの様に、シンチレーション発光の発光減衰時間が短いシンチレータの出力パルスを示している。一方、出力パルス22は、ゲルマニウム半導体検出器等の時間応答が遅い放射線検出器の出力パルスを示している。
図5は、シェーピングアンプ4bで整形されたパルス波形を示している。出力パルス23は、臭化セリウムシンチレータや臭化ランタンシンチレータの様に、シンチレーション発光の発光減衰時間が短いシンチレータのパルス波形を示している。出力パルス24は、ゲルマニウム半導体検出器等の時間応答が遅い放射線検出器のパルス波形を示している。同図に示す様に、放射線検出器1が出力するパルスの形状によって、波形整形後のパルス波形が決まる。
さらに、波形整形後のパルス幅により、測定可能な単位時間あたりのガンマ線の数が決まる。単位時間あたりに放射線検出器1に入射するガンマ線の頻度が高いと、ガンマ線を検出後、次のガンマ線が入射するまでの間隔が短くなる。このとき、波形整形後のパルス幅が大きいと、パルスの電圧がベースラインに落ちる前に、次のパルスが発生し、2つのパルスが重なる。さらに、2つのパルスの間隔が短くなると、両者は区別できなくなり、2つのパルスを1つと数えることになる。この結果、2つのパルスのうち1つを、数え落
とす事になる。
この現象は、数え落としと呼ばれている。数え落としの割合がある程度大きくなると、単位時間あたりに入射するガンマ線が増加しても、ガンマ線の計数率が増加しない、窒息と呼ばれる状態となる。この状態では、ゲルマニウム半導体検出器は、放射線検出器として機能しなくなる。放射線検出器の出力パルスの形状は、放射線検出器の物性で決まる。また、放射線検出器のサイズが大きいほど入射するガンマ線の頻度が高くなる。このため、放射線検出器の種類とサイズにより、測定可能なガンマ線の単位時間あたりの入射頻度が決まる。
例えば、現在、in-situ測定で一般的に用いられているゲルマニウム半導体検出器の場
合、波形整形後のパルス幅は、10〜20マイクロ秒である。測定可能なガンマ線の単位時間あたりの入射頻度は、1秒あたり5000本程度になる。この値から、ゲルマニウム半導体検出器に入射するガンマ線束を求めることができる。さらに、国際放射線防護委員会(ICRP : International Commission on Radiological Protection)で定義されている線束線量換算係数を用いてガンマ線量率を算出すると、ゲルマニウム半導体検出器に関する測定可能なガンマ線の単位時間あたりの入射頻度は、およそ10μSv/h(マイクロシーベルト毎時)となる。
原子力事故によって大量の放射性物質が周辺に放出された場合、線量率は10μSv/h(マイクロシーベルト毎時)以上に上昇することが予想されている。このような状況では、ゲルマニウム半導体検出器を使用することは難しい。逆に、10μSv/h(マイクロシーベルト毎時)の線量率で使用可能な放射線検出器としては、時間応答が100 ns(ナノ秒)程度の速いものが適している。半導体検出器の場合は、空乏層内のキャリアの移動速度を考慮すると、数100マイクロ秒以上の応答時間となる。このため、本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置100の放射線検出器1には、半導体検出器に比べて発光減衰時間の短い、シンチレータの方が適している。
近年、発光量が多く、かつ、発光減衰時間の短いシンチレータが開発されてきた。例えば、臭化セリウム(CeBr3)、臭化ランタン(LaBr3)、ランタンガドリニウムパイロシリケート(La-GPS)等のシンチレータは、発光量が1MeV(メガ電子ボルト)あたり数万光子ある。発光減衰時間も100ナノ秒よりも短いため、放射線量が高い環境下での測定に適している。そこで、本発明の実施の形態における土壌放射能汚染検査装置では、放射線検出器として、発光減衰時間の短いシンチレータを用いている。
次に、放射線検出器1に入射するガンマ線のエネルギースペクトルを求める。以下では、図6を参照して、本発明の実施の形態1における、シェーピングアンプ4bから出力された電気パルス信号の、演算処理の流れを説明する。シェーピングアンプ4bに入力され、適切な時定数のパルスに整形された電気パルスは、マルチチャンネルアナライザ6(波高分析部)に入力される。パルス波高値は、デジタル変換され、測定パルス波高分布61として蓄積される。マルチチャンネルアナライザ6に蓄積された測定パルス波高分布は、逆問題演算部8に入力される。逆問題演算部8は、応答関数メモリ11から応答関数RE(E,L)14を読み込み、放射線検出器1に入射したガンマ線のエネルギースペクトルφ(E)62を算出する。なお、応答関数RE(E,L)とは、放射線検出器に入射したガンマ線エネルギーがEのとき、放射線検出器が出力したパルス波高Lの分布を表したもので、例えば、E行×L列の行列で表される。
放射性物質の種類を判別するためには、放射性物質が放出するガンマ線のエネルギーを弁別する必要がある。放出されたガンマ線のエネルギー分解能は、放射線検出器の物性によって決まる。このため、ガンマ線のエネルギーを弁別する場合は、エネルギー分解能の
優れた放射線検出器が用いられている。現在、in-situ測定で一般的に用いられているゲ
ルマニウム半導体検出器は、60Coのエネルギー(1.33MeV(メガ電子ボルト))において、2keV(キロ電子ボルト)以下、すなわち0.2%以下のエネルギー分解能を持っている。
これに対し、シンチレータの場合は、最もエネルギー分解能が良いものでも、数%のエネルギー分解能となる。このため、シンチレータは、ガンマ線のエネルギー弁別においてはゲルマニウム半導体検出器に比べ不利となる。そこで、本発明の実施の形態における土壌放射能汚染検査装置では、シンチレータのエネルギー分解能を向上させるために、放射線検出器の応答関数を用いた逆問題演算により、放射線検出器1に入射するガンマ線のエネルギースペクトルを算出する。逆問題演算の計算方法は、様々な手法が開発されており、公知の逐次近似法を用いることが出来る(例えば、非特許文献2を参照)。
放射線検出器1の応答関数は、放射線検出器1に入射する単一のエネルギーを有するガンマ線に対し、放射線検出器1で検出されるパルスの波高スペクトルである。このとき、ガンマ線源は、測定対象に応じて、図7に示す様に、地表面31に一様に分布した場合を仮定しても良い。同図では、放射線検出器1は、地表面31から1mの高さに設置されている。ガンマ線33の線源(仮定する放射性物質の分布)は、同心円上の線源分布32を仮定している。
また、図8に示すように、放射線検出器1に対して垂直に入射されるガンマ線33を仮定してもよい。また、図9に示すように、放射線検出器1に対して平行に入射されるガンマ線を仮定してもよい。あるいは、放射線検出器の四方八方から等方に入射されるガンマ線を仮定してもよい。広範囲にわたって放射性物質が土壌に沈着している状況では、地表面に一様に分布した場合と、放射線検出器に平行に入射する場合とで、パルス波高スペクトルに大きな差は生じない。
このとき、応答関数メモリ11に格納されている、放射線検出器1の入射面での応答関数14は、放射線検出器のエネルギー分解能、すなわち、単一のエネルギーをもつガンマ線を測定した場合に、パルス波高に現れるピークの広がり、を精度よく再現している。このため、逆問題演算によって得られる、放射線検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルは、シンチレータのエネルギー分解能をゲルマニウム半導体検出器と同等にまで向上させることが可能である。
次に、深度分布演算部9において、放射線検出器1に入射するガンマ線のエネルギースペクトルから、土壌中の放射性物質の深度分布を求める。この段階の処理は、現在一般的に行われているゲルマニウム半導体検出器を用いたin-situ測定と同じ方法を用いる(例
えば、非特許文献1を参照)。なお、放射線検出器にシンチレータを用いた場合は、エネルギー分解能が悪いため、ゲルマニウム半導体検出器を用いたin-situ測定と同じ方法を
使うことは、通常、困難である。
本発明の実施の形態における土壌放射能汚染検査装置では、放射線検出器1にシンチレータを用いており、逆問題演算部8によって、ゲルマニウム半導体検出器と同等のエネルギー分解能でガンマ線のエネルギースペクトルを取得することが出来る。このため、本発明の実施の形態における土壌放射能汚染検査装置では、ゲルマニウム半導体検出器を用いたin-situ測定と同じ方法を用いる事が可能である。
土壌中の放射性物質の深度分布を求める、深度分布演算部9について、より具体的に説明する。深度分布演算部9には、逆問題演算部8から、放射線検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルφ(E)62が送られる。緩衝深度分布メモリ12には、あらか
じめ与えられた緩衝深度βに基づき算出された放射線源深度分布D(z)64が格納されている。
深度分布演算部9は、あらかじめ与えられた、単位面積当たりの放射能濃度Aaと、関係式φ(E)/Aa66を用いて、先ず、単位面積当たりの放射能濃度Aa(β)67を求める。なお、関係式φ(E)/Aa(β)66は、ガンマ線エネルギーEについてのフルエンス率φ(E)の関係を示しており、緩衝深度βごとに値が与えられている。関係式φ(E)/Aa(β)66は、例えば、非特許文献1の付表-1に、代表的な放射性核種
について示されている。
次に、あらかじめ与えられた緩衝深度βに基づき算出された、規格化された放射線源深度分布D(z)を緩衝深度分布メモリ12から読み込み、単位面積当たりの放射能濃度Aaを用いて、表面(土壌中の深さz=0)における単位体積当たりの放射能濃度A0(=
Aa/β)を求め、放射性物質の濃度深度分布A(z)51を算出する。ここで、濃度深度分布A(z)51は、A0・D(z)で表される。算出された結果は、表示部10にお
いて表示する。なお、緩衝深度βはあらかじめ与えられたもの以外の値でもよく、緩衝深度入力手段15を用いて、値を、入力、変更することも可能である。
以上の様に、本発明の実施の形態1における土壌放射能汚染検査装置では、発光減衰時間の短いシンチレータを使用し、応答関数を用いた逆問題演算を行うことで、測定されたパルス波高分布から、放射線検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルを高い分解能で求めることが出来る。このため、10μSv/h(マイクロシーベルト毎時)程度の放射線量が高い環境においても、土壌中の放射性物質の種類とその深度分布を現場で測定する事が可能となる。
すなわち、本実施の形態に係わる土壌放射能汚染検査装置は、ガンマ線を検出して電気パルスを出力する放射線検出器を備え、放射線検出器の出力パルスを増幅、整形し、出力パルスの波高スペクトルを出力する信号処理回路を備え、検出器の応答関数入力手段または応答関数作成手段を備え、緩衝深度情報を入力する手段を備え、逆問題演算によって、放射線検出器で測定した検出器の出力波高スペクトルから、検出器の応答関数を用いて、検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルを求める逆問題演算部を備え、検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルから、あらかじめ設定しておいた緩衝深度情報をもとに、土壌に沈着した放射性核種の放射能または放射能濃度、およびその深度分布を求める深度分布演算部を備え、放射性核種ごとの濃度とそれぞれの放射性核種の土壌中の放射能または放射能濃度とそれらの深度分布を表示する表示部を備えることを特徴とする。
また、本発明に係わる土壌放射能汚染検査装置は、シンチレータを有し、放射線が入射すると電気パルス信号を出力する放射線検出器と、放射線検出器の応答関数を格納している応答関数メモリと、緩衝深度に対応した放射線源深度分布を格納している緩衝深度分布メモリと、放射線検出器から出力される電気パルス信号を増幅する増幅回路と、増幅回路が出力した電気パルス信号から測定パルス波高分布を抽出するマルチチャンネルアナライザと、マルチチャンネルアナライザで抽出された測定波高分布に対して、応答関数メモリに格納されている応答関数を用いて、逆問題演算を実施し、放射線検出器に入射した放射線のエネルギースペクトルを抽出する逆問題演算部と、逆問題演算部で抽出されたエネルギースペクトルと緩衝深度分布メモリに格納されている放射線源深度分布をもとに、土壌に沈着した放射性物質の核種と放射能濃度を求める深度分布演算部と、を備えている。
実施の形態2.
図10を用いて、本発明の実施の形態2による土壌放射能汚染検査装置を説明する。同
図は、本発明の実施の形態2における演算処理の流れを示すものである。本実施の形態は、緩衝深度βを自動的に算出し、放射性物質の深度分布を求める点が、実施の形態1による土壌放射能汚染検査装置と異なる。本実施の形態では、緩衝深度βを自動的に変化させ、緩衝深度βから計算される放射性物質の深度分布と、放射線検出器1の応答関数を用いて、放射線検出器1のパルス波高分布を計算し、実際に計測された測定パルス波高分布61と比較することで、最も正しい緩衝深度βを求める。
本実施の形態では、深度分布演算部9は、逆問題演算部8において求めた、放射線検出器1に入射したガンマ線のエネルギースペクトルφ(E)62を規格化する。これを規格化エネルギースペクトルS(E)63と称する。規格化エネルギースペクトルS(E)63は、数式1の通り定義される(図11を参照)。この様にして、放射線検出器1に入射するガンマ線の規格化エネルギースペクトルS(E)63を求める。応答関数メモリ11には、放射線検出器の入射面での応答関数RE(E,L)が格納されている。緩衝深度入力手段15から、緩衝深度分布メモリ12に、あらかじめ想定される緩衝深度βに対して十分広い範囲の緩衝深度βの値を入力しておく。
次に、規格化エネルギースペクトルS(E)を基に、線源面が土壌中の深さzにあると仮定した場合の、線源面におけるガンマ線のエネルギースペクトルを求める。図12に示す様に、ガンマ線33の線源面が、土壌中の深さzの位置にあると仮定する。同図では、地表面31の下に土壌34が充てんされていることを表している。土壌中の深さzにおける仮想線源面43から、ガンマ線33が、地表に向かって放出されている。このガンマ線33は、地表面31に出るまでに、厚さzの土壌中を通過するため、吸収されて、強度が減衰する。
放射線検出器1に入射するガンマ線は、規格化エネルギースペクトルS(E)で表される。土壌中の深さzに線源面があった場合、線源面におけるガンマ線のエネルギースペクトルは、土壌中でexp(-μ(E)z)に減衰する。この減衰分を考慮すると、土壌中の深さ
zにおける線源面では、S(E)/exp(-μ(E)z)となる。ここで、μ(E)は、ガンマ線のエネルギー毎の減弱係数である。
一方、緩衝深度βは、図13に示す様に、土壌中の放射性物質の濃度を、指数関数で記述した場合の、指数関数の減衰定数である。深度分布41は、緩衝深度βが小さい場合の分布である。深度分布42は、緩衝深度βが大きい場合の分布である。緩衝深度βが小さい場合は、放射性物質は地表付近に固まって存在しており、大きい場合は、地中深くまで浸透していることを表す。
このため、緩衝深度βを決めれば、土壌中での放射線源深度分布D(z)64は一意に決まる。そこで、本発明の実施の形態2においては、数式2(図11を参照)で表わされるように、放射線源深度分布D(z)として、緩衝深度βによって決まる、土壌中での放射能濃度の相対放射線源深度分布を用いている。
ここで、放射線源深度分布D(z)は、数式3に示されるように、1に規格化されている(図11を参照)。そこで、本発明の実施の形態2においては、緩衝深度分布メモリ12に、あらかじめ想定される緩衝深度βに対して十分広い範囲の緩衝深度βの値を入力しておき、それぞれの緩衝深度βに対応する、1に規格化されている放射線源深度分布D(z)64を計算しておく。
次に、畳み込み積分器49に、規格化エネルギースペクトルS(E)63と、緩衝深度βに対応する放射線源深度分布D(z)64を入力し、放射線検出器1における、深度分布補償済みパルス波高分布を計算する。規格化エネルギースペクトルS(E)63と放射
線源深度分布D(z)64が与えられた場合の、放射線検出器1における、深度補償済みパルス波高分布MC(L)は、数式4の通り計算される(図11を参照)。
ここで、応答関数RE(E,L)は、エネルギーEのガンマ線が放射線検出器1に入射した場合の放射線検出器1のパルス波高Lの分布である。入射関数Rz(z,E)は土壌中の深さzにある線源面から放出されたエネルギーEのガンマ線が放射線検出器1に入射する割合である。この様にして求めた深度分布補償済みパルス波高分布と、MCA6で算出された測定パルス波高分布61(測定スペクトルデータ M(L))を相関係数演算器50に入
力し、両者の類似度を比較するために、相関係数を求める。
図14は、深度補償済みパルス波高分布の計算結果の例を示している。同図に示しているように、計算結果は、緩衝深度βの値により異なる。実際の緩衝深度β0よりも小さいβ1の値を用いた場合は、土壌中での減衰が小さいため、測定パルス波高分布(61)45に対し、畳み込み積分器49で計算したパルス波高分布46は、大きくなる。逆に、実際の緩衝深度βよりも大きいβ2の値を用いた場合は、土壌中での減衰が大きくなるため、測定パルス波高分布(61)45に対し、畳み込み積分器49で計算したパルス波高分布47は、小さくなる。
図15は、畳み込み積分器49で計算した深度分布補償済みパルス波高分布と、放射線検出器1で計測された測定パルス波高分布61の相関係数を示している。相関係数は、同図に示す様に、実際の緩衝深度β048に近い値において大きく、他のβの値では低くなる。そこで、あらかじめ想定される緩衝深度βに対して十分広い範囲のβについて相関係数を求めておく。
最も相関係数が高い緩衝深度βの値が、計算によって推定される適切な緩衝深度βとなる。このようにして、相関係数演算器50は、緩衝深度推定値65を自動的に出力する。この実施の形態2の方法を用いることで、例えば、ボーリング調査の様な手段を用いること無く、緩衝深度βを自動的に求めることが可能となる。
すなわち、本実施の形態に係わる土壌放射能汚染検査装置は、ガンマ線を検出して電気パルスを出力する放射線検出器を備え、放射線検出器の出力パルスを増幅、整形し、出力パルスの波高スペクトルを出力する信号処理回路を備え、検出器の応答関数入力手段または応答関数作成手段を備え、逆問題演算によって、放射線検出器で測定した検出器の出力波高スペクトルから、検出器の応答関数を用いて、検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルを求める逆問題演算部を備え、あらかじめ複数の緩衝深度を考慮した応答関数を用意しておき演算により緩衝深度を自動的に算出する手段を備え、検出器に入射するガンマ線のエネルギースペクトルから、演算により自動的に求めた緩衝深度を用いて、土壌に沈着した放射性核種の放射能または放射能濃度、およびその深度分布を求める深度分布演算部を備え、放射性核種ごとの濃度とそれぞれの放射性核種の土壌中の放射能または放射能濃度とそれらの深度分布を表示する表示部を備えることを特徴とする。
以上の説明では、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、種々の処理変更を行うことが可能である。
1 放射線検出器、2 三脚、3 信号処理ユニット、4 増幅回路、4a プリアンプ、4b シェーピングアンプ、6 マルチチャンネルアナライザ、8 逆問題演算部、9 深度分布演算部、10 表示部、11 応答関数メモリ、12 緩衝深度分布メモリ、13 ケーブル、15 緩衝深度入力手段、16 送信機、17 受信機、
30 測定装置筺体、31 地表面、33 ガンマ線、34 土壌、
49 畳み込み積分器、50 相関係数演算器

Claims (10)

  1. シンチレータを有し、放射線が入射すると電気パルス信号を出力する放射線検出器と、前記放射線検出器の応答関数を格納している応答関数メモリと、
    緩衝深度に対応した放射線源深度分布を格納している緩衝深度分布メモリと、
    前記放射線検出器から出力される電気パルス信号を増幅する増幅回路と、
    前記増幅回路が出力した電気パルス信号から測定パルス波高分布を抽出するマルチチャンネルアナライザと、
    前記マルチチャンネルアナライザで抽出された測定波高分布に対して、前記応答関数メモリに格納されている応答関数を用いて、逆問題演算を実施し、前記放射線検出器に入射した放射線のエネルギースペクトルを抽出する逆問題演算部と、
    前記逆問題演算部で抽出されたエネルギースペクトルと前記緩衝深度分布メモリに格納されている放射線源深度分布をもとに、土壌に沈着した放射性核種と放射能濃度を求める深度分布演算部と、
    を備えている土壌放射能汚染検査装置。
  2. 前記放射線検出器が有しているシンチレータは、発光減衰時間が100ナノ秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  3. 前記放射線検出器が有しているシンチレータは、臭化セリウム、臭化ランタン、およびランタンガドリニウムパイロシリケートからなる群のうち、一種を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  4. 前記深度分布演算部は、
    前記逆問題演算部で抽出されたエネルギースペクトルから規格化エネルギースペクトルを計算し、
    この規格化エネルギースペクトルと前記放射線源深度分布に対して畳み込み積分を行って、深度分布補償済みパルス波高分布を計算することを特徴とする請求項1に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  5. 前記応答関数メモリが格納している放射線源深度分布は、複数の緩衝深度に対応していることを特徴とする請求項4に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  6. 前記深度分布演算部は、
    前記深度分布補償済みパルス波高分布と前記測定パルス波高分布の相関係数を計算し、
    この計算された相関係数の大きさから、緩衝深度推定値を選定することを特徴とする請求項5に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  7. 前記応答関数メモリに格納されている応答関数は、前記放射線検出器に対して平行に入射するガンマ線に対する波高スペクトルであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  8. 前記放射線検出器は、前記電気パルス信号を有線で前記増幅回路に送信することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  9. 前記放射線検出器は、前記電気パルス信号を無線で前記増幅回路に送信することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の土壌放射能汚染検査装置。
  10. 放射性核種ごとの濃度を表示する表示部をさらに備えていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の土壌放射能汚染検査装置。
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