JP6788003B2 - スタチン封入ナノ粒子を含有する機能増強幹細胞を含む炎症性疾患治療用細胞製剤 - Google Patents

スタチン封入ナノ粒子を含有する機能増強幹細胞を含む炎症性疾患治療用細胞製剤 Download PDF

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Description

本発明は、スタチンを封入するナノ粒子に関し、特に炎症性疾患治療用の細胞の機能を増強するためのスタチン封入ナノ粒子(製剤に用いられる粒子、この粒子を含む製剤など)に関する。また、本発明は、スタチン封入ナノ粒子を含有する炎症性疾患治療用の幹細胞に関する。
スタチンは、肝臓でのコレステロール生合成の律速酵素であるHMG‐CoA還元酵素を阻害する化合物として知られている。スタチンにより、血液中のコレステロール値を低下できるので、高コレステロール血症の治療薬に用いられている。また、スタチンは、高コレステロール血症以外にも、その抗炎症作用によって狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、及び動脈硬化等の疾患に有効であることも臨床試験により明らかとなっている。
これまでに、スタチンによる疾患の治療効果の向上や、副作用の低減のために種々の研究が行われており、例えば特許文献1には、血管新生の促進を目的としてスタチンを投与する場合に、スタチンをナノ粒子に封入し、そのスタチン封入ナノ粒子を患者に局所投与することで、これまでよりも少量のスタチンで血管新生を促進できることが開示されている。
スタチンは、上述の通り、種々の作用を示しており、特に抗炎症作用を有するため炎症性疾患への適用についても盛んに研究がなされている。例えば非特許文献1には、スタチンの一種であるシンバスタチンがマウス炎症性腸疾患モデルにおいて、抗炎症作用を示すことが開示されている。また、非特許文献2には、クローン病患者に対するアトルバスタチンの抗炎症効果について記載されている。
また、近年、多能性を有する幹細胞を用いて、種々の疾患を治療する研究も行われている。幹細胞は、一般に胚性幹細胞(ES細胞)や、骨髄由来幹細胞及び脂肪由来幹細胞等の間葉系の体性幹細胞の他、人工多能性幹細胞(iPS細胞)等が知られており、種々の研究に用いられている。中でも、取り扱いが簡便な脂肪由来幹細胞に関する研究が急速に発展し、各種疾患に対する再生医療の臨床試験が広く行われている。また、脂肪由来幹細胞は、再生医療のみならず、薬剤誘発性腸炎マウスモデルにおいて腸炎抑制効果を示すことも報告されている(例えば非特許文献3を参照)。
特開2012−21002号公報
阿部洋介ら, 潰瘍, 37(2010), 169-173. Grip, O et al, Br J Pharmacol. 155(2008), 1085-1092. Gonzalez, MA et al. Gastroenterology 136(2009), 978-989.
炎症性疾患を治療するために、例えば上記非特許文献1及び2に開示されているようにスタチンを用いる際に、スタチンの効果をより効率的に発揮できるようにするために、例えば特許文献1に開示するようにスタチンをナノ粒子に封入し、当該スタチン封入ナノ粒子を患者に投与することが考えられる。しかしながら、特許文献1では、スタチン封入ナノ粒子を患者に局所投与しており、このようにすることで、これまでよりも少量のスタチンで有効性が認められるが、投与したスタチンナノ粒子がマクロファージに貪食されるなどして不均一に病巣に分布しやすく安定した治療効果が得られにくいことがある。
一方、非特許文献3に開示されているように、幹細胞のみを用いて炎症性疾患を治療する場合においても、幹細胞の患部への局所投与が必要であり、大量の細胞を必要とするため、コストや時間がかかるだけでなく細胞投与時の副作用の出現頻度も増加する可能性がある。さらに、自家細胞移植を想定した場合、脂肪組織が少なく分離できる幹細胞が少ない、あるいは、高齢・糖尿病などの代謝疾患の因子により幹細胞機能が低下した症例では、少ない数の幹細胞によって優れた治療効果を得るために、その幹細胞の種々の機能を向上させる必要があると考えられる。
本発明は、前記の課題を鑑みてなされたものである。本発明を創作する目的は、細胞製剤等として用いられる幹細胞の炎症性疾患に対する治療効果を向上し、副作用を抑制しながらその幹細胞の機能を向上できるようにすることにある。
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究した結果、スタチンがナノ粒子に封入されてなるスタチン封入ナノ粒子を幹細胞に含有させることにより、その幹細胞の機能が増強し、スタチンを所望の患部に効率よく送達等できて、炎症性疾患の治療において高い効果を示すことを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子は、スタチンが生体吸収性ポリマーを含むナノ粒子に封入されてなるスタチン封入ナノ粒子であり、幹細胞の機能を増強するための粒子であって、該幹細胞は、炎症性疾患の治療用の幹細胞であることを特徴とする。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子は、幹細胞に処理されることにより(具体的にはこのナノ粒子が幹細胞に取り込まれることにより)、その処理された幹細胞の機能を増強することができ、その幹細胞を生体内に投与することにより、種々の有効性を示す。具体的に、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子により幹細胞を処理すると、処理された幹細胞は、ファゴサイトーシスによりスタチン封入ナノ粒子を取り込み、スタチン封入ナノ粒子を取り込んだ幹細胞は、遊走能及び増殖能の増強に加えて、免疫抑制能が増強する。このため、例えば炎症性疾患を患う患者の体内に、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子が処理された幹細胞を投与することにより、幹細胞の増強された免疫抑制作用と該幹細胞から徐放されるスタチンの抗炎症作用により、優れた炎症性疾患の治療効果を示す。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子において、生体吸収性ポリマーとしては、ポリ乳酸重合体(poly lactic acid:PLA)又はポリ乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolicacid):PLGA)を用いることができる。
PLA及びPLGAは体内で加水分解されることにより、封入したスタチンを放出することができ、また、PLAはその加水分解により乳酸に分解され、PLGAはその加水分解により乳酸とグリコールとに分解され、それぞれ最終的に水と炭酸ガスとなり、ヒト等の動物に対して無害であるため、PLA又はPLGAをナノ粒子材料として用いることは極めて好ましい。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子は、上記幹細胞として間葉系幹細胞、特に脂肪由来幹細胞を増強するためのものであることが好ましい。
脂肪由来幹細胞は、脂肪組織を採取し、採取した組織をコラゲナーゼ処理した後に、遠心比重法により単核球細胞のみを採取し、採取した単核球細胞を培養プレートで4日間程度培養し、接着した細胞を脂肪由来幹細胞として選択及び分離できる。また、セリューションシステム(サイトリ社製)等を用いて脂肪組織から容易に且つ大量に抽出、分離培養することができる。脂肪由来幹細胞は、間葉系幹細胞に属し、多能性をも有し、また、上記のとおり、簡便に多くの量を採取することができるため、種々の疾病における再生医療のために用いるのに有利である。さらに、脂肪由来幹細胞は、抗炎症性サイトカインを産生放出し、炎症性細胞の活性を抑制するため、炎症性疾患の治療に有利である。
また、本発明に係る機能増強幹細胞は、上記スタチンが生体適合性ナノ粒子に封入されてなるスタチン封入ナノ粒子を含有し、炎症性疾患の治療用であることに特徴がある。
このような本発明に係る機能増強幹細胞は、上記スタチン封入ナノ粒子を含有しているため、上述のとおり、該スタチン封入ナノ粒子により免疫抑制能等の細胞機能が増強され、炎症性疾患の治療に優れた効果を発揮できる。また、本発明に係る機能増強細胞は、スタチンを徐放することができ、その放出されたスタチンの抗炎症作用により炎症性疾患の治療に有利となる。
本発明に係る機能増強幹細胞は、上述の理由から、上記脂肪由来幹細胞であることが好ましい。
また、本発明に係る機能増強幹細胞は、医薬として許容可能な溶媒及び賦形剤と混合して細胞製剤として製剤化することも可能である。本発明に係る幹細胞の生体内への投与は、開腹等の手術が不必要であることが好ましく、静脈内投与用又は動脈内投与用の細胞製剤として製剤化されていることが好ましい。このようにすると、簡便に患者に本発明に係る幹細胞を投与することができる。本発明に係る機能増強幹細胞製剤は、幹細胞の機能が増強されているため、静脈内投与又は動脈内投与であっても少ない投与量で高い効果を得ることができる。また、本発明に係る機能増強幹細胞製剤は、動脈内投与をすることで、特に静脈内投与では到達させることが困難な腸等の炎症部に幹細胞を集積させることができる。従って、動脈内投与を用いることで、少ない容量で均一に細胞を病巣に分布させて安定した高い効果を得ることができることもある。また、本発明に係る機能増強幹細胞製剤は、一定の所望の効果を得ることができるのであれば、局所投与されてもよい。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子及びそれを含有する機能増強幹細胞などによると、幹細胞の機能を増強することができ、該幹細胞を生体内に投与することにより、炎症性疾患の治療に優れた効果を示す。
ヒト脂肪由来幹細胞の培養培地中にローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子をその最終濃度が20μg/mL、50μg/mL、80μg/mL又は100μg/mLとなるように添加し、その1時間後又は2時間後に幹細胞を共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 マウス脂肪由来幹細胞の培養培地中にローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子をその最終濃度が20μg/mL、50μg/mL、75μg/mL又は100μg/mLとなるように添加し、その30分後に幹細胞におけるローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の取り込み量をFACSで測定した結果を示す写真である。 ヒト脂肪由来幹細胞の培養培地中に粒径が200nm〜400nm又は400nm〜600nmのローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子を添加し、その1時間後に幹細胞を共焦点レーザー蛍光顕微鏡で観察した結果を示す写真である。 ヒト脂肪由来幹細胞に対して100μg/mLの濃度でシンバスタチン封入PLAナノ粒子を1時間処理させた後に、脂肪由来幹細胞から培地中に放出されたシンバスタチンの量を測定した結果を示すグラフである。 マウス脂肪由来幹細胞に対して50μg/mLの濃度でシンバスタチン封入PLAナノ粒子を30分処理させた後に、脂肪由来幹細胞から培地中に放出されたシンバスタチンの量を測定した結果を示すグラフである。 (a)はPLAナノ粒子又はスタチン封入PLAナノ粒子を処理したヒト脂肪由来幹細胞の遊走性の測定結果を示すグラフであり、(b)はスタチン封入PLAナノ粒子を処理したヒト脂肪由来幹細胞の増殖性の測定結果を示すグラフである。 静脈投与によりローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞が投与されたマウスの大腸を、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す写真である。 動脈投与によりローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞が投与されたマウスの大腸を、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて観察した結果を示す写真である。 PBS(リン酸バッファー)、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したDSS腸炎モデルマウスの体重の経時的変化を示すグラフである。 (a)はPBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したDSS腸炎モデルマウスの大腸の長さを示すグラフであり、(b)はPBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したDSS腸炎モデルマウスのDAIスコアを示すグラフである。 DAIスコアの説明のための表である。 PBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したDSS腸炎モデルマウスにおける、TNFα、IL−17、IL−6及びIL−1βの遺伝子発現量を示すグラフである。 (a)はPBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したDSS腸炎モデルマウスの大腸の組織学的解析結果を示す写真であり、(b)はそれをスコア化したグラフである。 PBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与した間質性肺炎モデルマウス、及び正常マウスの肺の組織学的解析結果を示す写真である。 PBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与した強皮症モデルマウス、及び正常マウスの皮膚組織の組織学的解析結果を示す写真である。 PBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与した神経損傷モデルマウスの坐骨神経機能指数(SFI)の測定結果を示すグラフである。 正常マウスとShn−2KOマウスの巣作り行動解析結果を示す写真である。 PBS、スタチン非封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有脂肪由来幹細胞を投与したShn−2KOマウスの巣作り行動解析結果を示す写真である。 PBS、ヒト脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有ヒト脂肪由来幹細胞を投与した変形性関節症モデルマウス、正常マウスの関節軟骨組織の組織学的解析結果を示す写真である。 PBS、ヒト脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有ヒト脂肪由来幹細胞を投与した変形性関節症モデルマウスの関節損傷度のスコアリング結果を示すグラフである。 PBS、マウス脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子含有マウス脂肪由来幹細胞を投与した認知症モデルマウス、及び正常マウスの記憶解析の結果である。(a)はバーンズ迷路試験においてターゲットホールを見つけてエスケープケージに入るまでのマウスの移動距離を示すグラフであり、(b)は該エスケープケージに入るまでの時間を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子は、スタチンがポリ乳酸グリコール酸共重合体を含むナノ粒子に封入されてなる(封入されている)スタチン封入ナノ粒子であって、幹細胞の機能を増強するために用いられる。本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含むスタチン封入ナノ粒子製剤は、上記スタチン封入ナノ粒子以外に、安定化剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤等の製剤化に通常用いられる添加剤を含んでいてもよい。
本発明において、スタチンとは、HMG−CoA(3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA)還元酵素阻害剤である化合物を全て含むものであり、例えば、シンバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロバスタチン及びメバスタチン等が挙げられる。スタチンは、上述のとおり、コレステロール低下作用を有することが知られているが、この他に心血管イベントの発生や進行リスクを低下させることが大規模臨床試験で明らかになっている。また、血管内皮細胞や骨髄由来の血管内皮前駆細胞を介した血管新生促進作用についても多く報告がなされている。さらに、抗炎症作用を示すことも知られている。
本発明において、ナノ粒子はスタチンを封入することができる生体吸収性ポリマーであればその材料は限定されないが、ポリ乳酸重合体(poly lactic acid:PLA)又はポリ乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic-co-glycolicacid):PLGA)を含むナノ粒子を用いることが好ましい。PLAは体内で加水分解されて乳酸に分解され、PLGAは、体内で加水分解されて乳酸とグリコールとに分解され、それぞれ最終的に水と炭酸ガスとなるので、体内に無害であって好ましい。
本発明において、スタチン封入ナノ粒子は、幹細胞への取り込み効率の観点から、光散乱法で測定したときに、個数平均粒径の上限と下限が、以下のように加工(製造)されている。
・個数平均粒径の上限は、1000nm未満、好ましくは約600nm以下(より好ましくは600nm以下)、更に好ましくは約400nm以下(より好ましくは400nm以下)である。
・個数平均粒径の下限は、約100nm以上(より好ましくは100nm以上)、好ましくは約200nm以上(より好ましくは200nm以上)である。
例えば、スタチン封入ナノ粒子の個数平均粒径は、光散乱法で測定したときに、1000nm未満、好ましくは約100nm〜約600nm(より好ましくは100nm〜600nm)、更に好ましくは約200nm〜約400nm(より好ましくは200nm〜400nm)となる。
本発明において、スタチン封入ナノ粒子は、上述の個数平均粒径を満たすように加工することができる方法であればいかなる方法によっても製造されることができるが、好ましくは球形晶析法を使用して製造される。球形晶析法は、化合物合成の最終プロセスにおける結晶の生成・成長プロセスを制御することで、球状の結晶粒子を設計し、その物性を直接制御して加工することができる方法として周知である。この球形晶析法の一つに、周知のエマルジョン溶媒拡散法(ESD法)がある。
エマルジョン溶媒拡散法は、スタチンを封入するための上記PLA又はPLGA等の生体吸収性ポリマーを溶解可能な良溶媒と、ポリマーを溶解しない貧溶媒との2種の有機溶媒を用いて行われる。まず、良溶媒中にPLA又はPLGA等のポリマーを溶解し、このポリマーが析出しないように、スタチン溶解液を良溶媒に添加し、混合する。この混合液を撹拌されている貧溶媒中に滴下すると、急速に良溶媒が貧溶媒に、また、貧溶媒は良溶媒に相互拡散するため、有機溶媒相と水相との界面が乱れ、良溶媒が自己乳化し、サブミクロンサイズのエマルジョン滴が形成される。その後、良溶媒及び貧溶媒の相互拡散がさらに進み、エマルジョン滴内のPLA又はPLGA等のポリマー及びスタチンの溶解度が低下し、その結果、スタチンを包含した球形結晶粒子のポリマーナノ粒子が生成する。
本発明において、幹細胞は、全能性、多能性又は多分化能を有する細胞であり、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)及び間葉系幹細胞等の体性幹細胞が挙げられる。本発明においては、多くの幹細胞をより簡便に且つ大量に得るという観点から骨髄組織や脂肪組織等から得られる間葉系幹細胞を用いることが好ましい。その中でも、特に脂肪由来幹細胞を用いることがより好ましい。脂肪由来幹細胞は、細胞単独で投与されることは既に臨床で行われており、脂肪をはじめ、骨、肝臓、心臓等に分化することが知られている。脂肪由来幹細胞は脂肪組織から得ることができ、該脂肪組織は脂肪吸引等の低侵襲技術で皮下脂肪等から容易に得ることができる。脂肪由来幹細胞は、上記のように得られた脂肪組織からセリューションシステム(サイトリ社製)等を利用して抽出及び分離されることで豊富に採取可能である。このため、本発明に係る幹細胞として用いるのに極めて有利である。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子の幹細胞への処理は、例えば該幹細胞が培養されている培養培地中に添加することにより行われる。このようにすると、ファゴサイトーシスにより幹細胞がスタチン封入ナノ粒子を細胞内に取り込むため、特別な試薬等を用いることなく、簡便に幹細胞内にスタチン封入ナノ粒子を含有させることができる。
本発明に係るスタチン封入ナノ粒子により処理された幹細胞は、特に遊走能、増殖能及び免疫抑制能が増強され、特に炎症性疾患に対する治療効果が増強する。このような、本発明に係る機能増強幹細胞は、静脈内投与又は動脈内投与によっても少ない投与量で優れた効果を示す。具体的に、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子により処理された上記脂肪由来幹細胞を動脈内投与すると、脂肪由来幹細胞が血流によって炎症を示す臓器、例えば腸に到達し、炎症部に集積及び増殖し、抗炎症性サイトカインを産生し、また、炎症性細胞の活性を抑制する。その結果、炎症性疾患に対する優れた治療効果を示す。
本発明において炎症性疾患とは、炎症を病因の一つとする疾患をいい、腸炎や肺炎といったそれらの疾患の特徴的な症状が炎症であるものに限らず、肺高血圧症や認知症といったそれらの疾患の発症プロセスに炎症が関与するものも含む。具体的に、本発明における炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、強皮症、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチ、間質性肺炎、気管支喘息、肺高血圧症、潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患(IBD)、神経損傷、脊髄損傷、脳卒中(脳梗塞や脳出血後後遺症)、筋萎縮性側索硬化症、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、統合失調症、認知症、臓器移植時の拒絶反応、慢性腎炎(腎硬化症)等が挙げられる。
また、脂肪由来幹細胞は、上述のとおり、取り込んだスタチン封入ナノ粒子を細胞内で加水分解することにより、封入されたスタチンを徐放するため、脂肪由来幹細胞は体内に投与された場合、投与後にスタチンを徐放し、放出されたスタチンにより更なる抗炎症効果を得ることができる。
以下に、本発明に係る幹細胞機能増強用スタチン封入ナノ粒子及びそれを含有する機能増強幹細胞等を詳細に説明するための実施例を示す。
まず、スタチン封入ナノ粒子の製造方法について説明する。ここでは、特にスタチンとしてシンバスタチンを用い、ナノ粒子としてポリ乳酸重合体(PLA)又はポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)を含むナノ粒子を用いた。
PLA(重量平均分子量20000)50mgとシンバスタチン2.5mgとをアセトン2mL、エタノール0.5mLの混液に溶解しポリマー溶液とした。これを室温、500rpmで攪拌した2wt%PVA溶液10mL中に滴下しシンバスタチン封入PLAナノ粒子懸濁液を得た。続いて室温、500rpmで攪拌を続けながら、有機溶媒(アセトン、エタノール)を留去した。約5時間溶媒留去後、懸濁液を4℃、60000gで30分間遠心分離し、沈殿物を回収して蒸留水に再懸濁させた。この遠心分離と蒸留水への再懸濁の操作は合計3回行った。その後、懸濁液を一晩凍結乾燥し、シンバスタチン封入PLAナノ粒子を得た。シンバスタチンは、1mgのナノ粒子中に24.94μg封入された。シンバスタチン封入PLGAナノ粒子も同様の方法により得た。
これらをスタチン封入ナノ粒子として以下の試験で用いた。
次に、幹細胞に対して上記のようにして得られたスタチン封入ナノ粒子を処理する際の最適な処理濃度を検討するために、以下の試験を行った。
当該試験を行うために、まず、コラゲナーゼ処理及び遠心比重法を利用した周知の方法を用いてヒト脂肪組織から脂肪由来幹細胞(Adipose derived Stem Cell:AdSC)を得、また、マウス脂肪組織から脂肪由来細胞を得た。その方法の詳細について以下に説明する。
まず、ヒト脂肪組織から脂肪由来幹細胞を得る方法について説明する。予め、Liberase TM RG(0.5mg/mL=0.47WU/mL, Sigma5401127001 50mg/vial)/HBSS(ThermoFisher14175095)溶液、及び10×溶血溶液(NH4Cl 8.3g, NaHCO31.2g, 0.5M EDTA溶液 200μL/100mL)を準備しておく。50mL吸引注射器内の脂肪3本(150mL)をノズル付きプラスチックボトル(アズワン#1-4640-03 広口洗浄瓶 1000ml)に移し、等量のPBS(−)で洗浄・廃液を4、5回繰り返す。上記Liberase TM RG溶液(50mg/vialを20mLのHBSSで溶解し、半量10mLをHBSS 40mL(合計50mL)で希釈したのちに約150mLの脂肪組織に使用する。)を脂肪溶液のボトルに入れ、軽くVortexしてからシェーカー付恒温槽を用いて37℃ 20分間振盪インキュベーションする。その後、20%FBS/DMEM F12 50mLを該ボトル内に加えて、酵素反応を停止させる。ボトルのノズルから液層(脂肪の下層)をセルストレーナー(100μm, BD)に通しながら複数の新しい50mLチューブに分けて回収する。1200rpm (300g)×5minで遠心(ブレーキ有り)し、上清を捨てる。1mM EDTA/PBS 40mL/チューブで細胞ペレットを懸濁し、セルストレーナー(40μm, BD)に通しながら同数の新しい50mLチューブに移す。1200rpm(300g)×5minで遠心(ブレーキ有り)し、上清を捨てる。1mMEDTA/PBS 2mlで細胞を懸濁し1本のチューブにまとめ、溶血溶液8mLを加えて混和後10分間冷所(OnIce)保存する(溶血操作)。1mM EDTA/PBSを45mL付近まで加えた後、1200rpm (300g)×5minで遠心し上清を捨てる。細胞ペレットをPBS(−)または10%DMEM F12で懸濁し、5%COインキュベーターで10%DMEMF12とともに3、4日間培養し、接着細胞を脂肪由来幹細胞(AdSC)として実験に用いる(P0)。継代培養する場合は、1:3〜4の割合(3000-4000/cm2の密度)でさらに3、4日間継代培養する。
一方、マウス脂肪組織から脂肪由来幹細胞を得る方法は、以下の通りである。予め、コラゲナーゼVIII型(2mg/mL, Sigma #C2139)/1%BSA HBSS溶液をシェーカー付恒温槽37℃で解凍しておく。また、1mMEDTA/PBSは、EDTA(0.5MEDTA, pH 8.0, LifeTechnologies, AM9260G)、10X DPBS,Ca(-), Mg(-)(GIBCO, 14200-166)を希釈して作製しておく。その後、2、3匹のマウスを麻酔の後に心窩部より26〜29G針付シリンジ(インスリンシリンジなど)で脱血死させる。皮下脂肪(鼠径部〜背部)を採取し3.5cm培養皿(生理食塩水を中央に1滴滴下して脂肪組織が取り出しやすいようにおく)にまとめて置く。脂肪組織を蓋の上に載せたままハサミで小片(20〜30回程度)になるようにカットした後、脂肪組織を脂肪と同じ体積のコラゲナーゼ溶液とともに15mLチューブに入れる。キャップを閉め、チューブを転倒混和の後にシェーカー付恒温槽を用いて37℃ 30分間インキュベーションする。10%FBS/DMEM F12培地を同量加えて酵素反応を停止させる。最上部の脂肪層を吸引除去した後に、上清をセルストレーナー(40μm, BD, 352340)に通して新しい50mLチューブに回収する。1200rpm(250g)×5minで遠心(ブレーキ有り)し、上清を捨てる。1mM EDTA/PBS(-)を10mlまでチューブに加えて細胞ペレットを懸濁する。1200rpm(250g)×5minで遠心(ブレーキ有り)し、上清を捨てる。細胞ペレットを10%FBS/DMEM F12培地で懸濁してから培養皿に播種する(P0)。5%COインキュベーターで3、4日間培養し、接着細胞をAdSCとして1:1で継代(P1)する。5%COインキュベーターで4、5日間培養し、接着細胞をAdSCとして1:3で継代(P2)する。80〜90%程度まで細胞密度が増加した時点で実験に用いる。
上述した方法により、ヒト脂肪由来幹細胞を得た後に、上記エマルジョン溶媒拡散法を利用してスタチンの代わりにローダミン赤色蛍光色素をPLAナノ粒子に封入することにより得られたローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子をその最終濃度が20μg/mL、50μg/mL、80μg/mL又は100μg/mLとなるように、上記脂肪由来幹細胞の培養培地中に添加した。その1時間後(1h)又は2時間後(2h)に、ローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子の取り込みについて共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて観察した。なお、核の染色はDAPIを用いて常法で染色した。その結果を図1に示す。
また、上記と同様の方法でマウス脂肪由来幹細胞においてもローダミン赤色蛍光色素封入ナノ粒子を取り込ませて、その取り込みについてフローサイトメトリー(FACS)解析によって測定した。但し、ナノ粒子としてPLGAナノ粒子を用い、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の最終濃度は、20μg/mL、50μg/mL、75μg/mL及び100μg/mLとし、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の添加の30分後にFACS装置(BD FACSAria, BD Biosceinces)及び該装置に付属の解析ソフトを用いて測定及び解析をした。その結果を図2に示す。
図1に示すように、ローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子は、いずれの濃度であってもヒト脂肪由来幹細胞に取り込まれたことがわかる。但し、処理濃度依存的に、ヒト肪由来幹細胞のローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子の取り込み量が増大する。また、処理時間が1時間の場合よりも2時間の場合の方が、ヒト脂肪由来幹細胞によるシンバスタチン封入PLAナノ粒子の取り込み量が多いこともわかる。特に、ローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子を100μg/mLの濃度でヒト脂肪由来幹細胞に処理した場合に多くのローダミン赤色蛍光色素封入PLAナノ粒子が幹細胞に取り込まれているのが確認された。
一方、マウス脂肪由来細胞においても、図2に示すように、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子は、いずれの濃度であってもマウス脂肪由来幹細胞に取り込まれ、特に処理濃度依存的に、マウス脂肪由来幹細胞のローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の取り込み量が増大した。
次に、脂肪由来幹細胞によるナノ粒子の取り込みが、ナノ粒子の粒径によって差が生じるか否かを検討するために以下の試験を行った。
まず、200nm〜400nmの粒径を有するPLGAナノ粒子と、400nm〜600nmの粒径を有するPLGAナノ粒子とを準備し、上記試験と同様に、上記エマルジョン溶媒拡散法を利用してスタチンの代わりにローダミン赤色蛍光色素を当該PLGAナノ粒子に封入した。これにより、上記各粒径範囲のローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子を調製した。次に、調製した当該PLGAナノ粒子を最終濃度が100μg/mLとなるように、ヒト脂肪由来幹細胞の培養培地(10%FBS/DMEM F12)中に添加した。その1時間後に、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の取り込みについて共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて観察した。なお、核の染色はDAPIを用いて常法で染色した。その結果を図3に示す。
図3に示すように、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子は、いずれの粒径であってもヒト脂肪由来幹細胞に取り込まれたことがわかる。この結果から、ナノ粒子の粒径が200nm〜600nmの範囲であれば良好に脂肪由来幹細胞に取り込ませることが可能であることが示唆された。なお、以下の各試験では、個数平均粒径が約300nmのナノ粒子を用いた。
次に、シンバスタチン封入ナノ粒子を取り込んだ脂肪由来幹細胞が、その後に細胞内からスタチンをどの程度の時間をかけて放出するのかを検討するために、培地中に放出されたスタチンの量を測定した。ここでは、上記試験と同様にヒト脂肪由来幹細胞に対して100μg/mLの濃度でシンバスタチン封入PLAナノ粒子を1時間処理した後に、培地を交換し、培地交換から6時間後、18時間後、24時間、48時間、72時間、120時間、168時間及び336時間後に、培地中に放出されたシンバスタチンの量を測定した。具体的に、この測定は、HPLC (High-pressure Liquid Chromatography)法を用いて行った。この測定結果を図4に示す。
また、上記と同様の方法でマウス脂肪由来幹細胞においてもスタチンをどの程度の時間をかけて放出するのかを測定した。但し、ここでは、50μg/mLの濃度でシンバスタチン封入PLGAナノ粒子を30分間処理した。その結果を図5に示す。
図4に示すように、測定開始から24時間後に約60%程度のスタチンがヒト脂肪由来幹細胞から放出され、全てのスタチンが放出されるのに約336時間もの時間が掛かっている。この結果から、ヒト脂肪由来幹細胞に取り込まれたスタチンは、ヒト脂肪由来幹細胞から急速に放出されるのではなく、緩やかに徐放されることがわかる。従って、長い時間を掛けてスタチンを放出できるため、良好な治療効果を期待することができる。
一方、マウス脂肪由来細胞においても、図5に示すように、ヒト脂肪由来幹細胞の場合と同様に、測定開始から24時間後に約60%程度のスタチンがマウス脂肪由来幹細胞から放出され、全てのスタチンが放出されるのに約336時間もの時間が掛かっている。この結果から、マウス脂肪由来幹細胞に取り込まれたスタチンも、長い時間を掛けて放出されるため、良好な治療効果を期待することができる。
次に、上記シンバスタチン封入ナノ粒子による脂肪由来幹細胞の遊走能及び増殖能といった機能の増強について検討するために以下の試験を行った。
まず、遊走性試験キット(Transwell(登録商標))を用いてヒト脂肪由来幹細胞の遊走能について検討した。具体的に、Transwellプレートの各ウェルの多孔メンブレン上にヒト脂肪由来幹細胞を5×10cells/wellで播種し、培地中に、スタチンを封入していないPLAナノ粒子を20μg/mL、又はシンバスタチン封入PLAナノ粒子を20μg/mL、50μg/mL及び100μg/mLの濃度となるように添加し、16〜18時間後にTranswellのメンブレンを通過した細胞数を計測した。その結果を図6(a)に示す。
図6(a)に示すように、20μg/mLのスタチン非封入PLAナノ粒子で処理した場合(PLA20)、及び20μg/mLのシンバスタチン封入PLAナノ粒子で処理した場合(PLA−ST20)は、未処理であるコントロール群(Control)と比較してヒト脂肪由来幹細胞の遊走性に変化はなかったが、50μg/mLのシンバスタチン封入PLAナノ粒子で処理した場合(Statin50)は、ヒト脂肪由来幹細胞の遊走性が増大した。また、100μg/mLのシンバスタチン封入PLAナノ粒子で処理した場合(Statin100)は、ヒト脂肪由来幹細胞の遊走性が低減する結果となった。この結果から、最適な処理濃度があるものの、シンバスタチン封入PLAナノ粒子により、ヒト脂肪由来幹細胞の遊走能を亢進できることが示された。
次に、シンバスタチン封入ナノ粒子による脂肪由来幹細胞の増殖性向上についてMTTアッセイを用いて検討した結果について説明する。
まず、ヒト脂肪由来幹細胞を96wellマイクロプレートに5000cells/wellの細胞数で播種し、シンバスタチン封入PLAナノ粒子を20μg/mL、50μg/mL又は100μg/mLの濃度となるように添加し、48時間後に培地を交換し、MTT溶液を各ウェルに加え、2時間後に分光光度計を用いて450nmの吸光度を測定した。その結果を図6(b)に示す。
図6(b)に示すように、シンバスタチン封入ナノ粒子を20μg/mL(Statin20)、50μg/mL(Statin50)及び100μg/mL(Statin100)の濃度で処理した場合のいずれも、未処理であるコントロール群(Control)と比較してヒト脂肪由来幹細胞の増殖が認められ、特に、50μg/mLの濃度で処理した場合、コントロール群と比較して顕著な増殖性の増加が見られた。この結果から、シンバスタチン封入PLAナノ粒子により、ヒト脂肪由来幹細胞の増殖能を亢進できることが示された。
以上のとおり、スタチン封入ナノ粒子による脂肪由来幹細胞の遊走能及び増殖能といった機能の増強について検討した結果、スタチン封入ナノ粒子により、脂肪由来幹細胞の機能を増強することができる。これらの機能が増強することにより、脂肪由来幹細胞は炎症性疾患の治療に有利となる。
次に、マウスIBDモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。
まず、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いた腸炎マウスモデルを用いて、本発明にかかる幹細胞の好ましい投与細胞数及び投与経路を検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
まず、6〜8週齢のC57BJ/6Jマウスに対して、水の代わりに2.5%のDSSを含む水を5日間与え続けて腸炎を発症させ、5日目にマウス脂肪由来幹細胞を経静脈的、腹腔内又は経動脈的に投与した。なお、マウス脂肪由来幹細胞としては、予め上記と同様の方法でローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子を取り込ませたものを用いた。経動脈的投与は、具体的に、マウスの左総頚動脈遠位を6−0絹糸にて結紮し、その直下にハサミで約2mm切開した後に30Gのカテーテルを挿入して行った。投与細胞数は、2×10、1×10及び3×10cellsとした。その後、5日目から8日目までは通常の水に戻し、自由飲水とした。8日目にマウスを安楽死した上で解剖し、大腸を取り出して組織学的解析を行った。具体的に、ローダミン赤色蛍光色素封入PLGAナノ粒子の取り込みについて共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて観察した。なお、核の染色はDAPIを用いて常法で染色した。その結果を図7及び図8に示す。
図7に示すように、マウス脂肪由来幹細胞を経静脈的又は腹腔内に投与した場合は、ローダミン染色された幹細胞の存在が認められなかった。一方、図8に示すように、マウス脂肪由来幹細胞を経動脈的に投与した場合は、投与細胞数が1×10cells以上であれば、幹細胞の存在が認められ(図8の矢印部分)、すなわち、幹細胞が炎症を起こした腸に集積できると示唆された。
次に、上記結果に基づいて、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞の腸炎抑制効果について検討した。以下に、その方法及び結果について説明する。
まず、上記試験と同様に、6〜8週齢のC57BJ/6Jマウスに対して、水の代わりに2.5%のDSSを含む水を5日間与え続けて腸炎を発症させた。5日目にPBS、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を経動脈的に投与した(各群n=6)。マウス脂肪由来幹細胞の投与量は2×10cells/マウスとした。スタチン非封入ナノ粒子はPLGAを用い、スタチン封入ナノ粒子は、上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子50μg/mLとマウス脂肪由来幹細胞とを30分〜1時間共培養してスタチン非封入ナノ粒子又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。
その後、5日目から8日目までは通常の水に戻し、自由飲水とした。試験開始0日目から8日目まで毎日体重測定をした。また、8日目にマウスを安楽死した上で解剖し、大腸を取り出して組織学的解析等を行った。具体的に、大腸長さの測定、Disease Activity Index(DAI)スコアの測定、炎症性サイトカイン等の免疫制御に関わる遺伝子発現の測定を行った。
まず、図9に上記各群の体重測定結果を示す。図9のグラフは、0日目の体重を100%とした場合の体重の増減割合を示している。図9に示すように、各群において、DSSにより腸に炎症が生じて5日目を境に体重が同様に減少した。しかし、6日目以降、PBSを投与したControl群と比較して、スタチン非封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与した群(AdSC群)及びスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与した群(Sim−AdSC群)の体重の減少割合が小さくなり、特にSim−AdSC群では体重の減少がほぼ見られなくなった。
次に、図10(a)に大腸の長さの測定結果を示し、図10(b)にDAIスコアの測定結果を示す。
図10(a)に示すように、Sim−AdSC群、AdSC群、Control群の順に大腸の長さが長いことがわかる。大腸に炎症が生じると通常その長さが短くなることが知られており、従って、Sim−AdSC群、AdSC群、Control群の順に炎症が抑えられていることがわかる。
また、図10(b)に示すように、DAIスコアについてもSim−AdSC群、AdSC群、Control群の順にスコアが小さいことがわかる。DAIスコアとは、図11に示す基準に従って、各マウスの重症度をスコア化したものであり、スコアが大きいほど重症であることを示す。従って、Sim−AdSC群、AdSC群、Control群の順に炎症が抑えられていることがわかる。
次に、各群における炎症等の免疫制御に関わるサイトカインとしてTNFα、IL−17、IL−6及びIL−1βの遺伝子発現について測定した結果を図12に示す。具体的に、ここでは、各群における腸組織を採取し、それらの組織のTNFα、IL−17、IL−6及びIL−1βの遺伝子発現について、マウスのそれら各遺伝子に特異的なプライマーを用いて定量的RT−PCR法によって解析を行った。
図12に示すように、TNFα、IL−17及びIL−1βにおいて、Sim−AdSC群及びAdSC群では、control群と比較してそれらの遺伝子発現量が顕著に低減した。また、IL−6においては、Sim−AdSC群が、control群及びAdSC群と比較してその遺伝子発現量が顕著に低減した。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、免疫抑制作用が生じて炎症を抑制できることが示唆される。
次に、各群における、組織学的解析の結果を図13に示す。具体的に、ここでは、各群における腸組織を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液にて固定の後に薄切標本を作製し、HE染色を行った。炎症細胞の浸潤程度により組織傷害程度のスコア化(Mattsの生検組織分類)を行い比較検討した。なお、Mattsの生検組織分類は以下の基準でスコア化するものである。
1 正常組織
2 粘膜・粘膜下層に少量の炎症性細胞浸潤
3 粘膜・粘膜下層に多量の炎症性細胞浸潤
4 クリプト膿瘍の存在と粘膜全層に多数の炎症性細胞浸潤
5 炎症性細胞浸潤を伴った粘膜組織のびらん・潰瘍・壊死。
図13(a)は、各群の大腸切片の染色写真であり、図13(b)はそれをスコア化したものである。
図13(a)及び(b)に示すように、Sim−AdSC群、AdSC群、Control群の順に炎症が抑えられていることがわかる。
次に、間質性肺炎マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
間質性肺炎マウスモデルとしてはC57B6/Jマウスに皮下植込み式浸透圧性持続注入ポンプによってブレオマイシンを投与して間質性肺炎を発症させる周知のモデルを用いた。具体的に、まず、6〜8週齢のC57B6/Jマウスに対して、ブレオマイシンを毎日100μg/日の量で2週間皮下投与することにより間質性肺炎を発症させた。また、ブレオマイシン投与開始から1週間後にPBS、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を静脈内に投与した。マウス脂肪由来幹細胞の投与量は2.5×10cells/マウスとした。スタチン非封入ナノ粒子はPLGAを用い、スタチン封入ナノ粒子は、上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子100μg/mLとマウス脂肪由来幹細胞とを30分〜1時間共培養してスタチン非封入ナノ粒子又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。
その後、ブレオマイシンの投与開始から3週間後にマウスを安楽死した上で解剖し、肺を取り出して組織学的解析を行った。具体的に、ここでは、各群における肺組織を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液にて固定の後に薄切標本を作製し、HE染色を行った。図14に、各群の肺切片の染色写真を示す。なお、図14にはブレオマイシンを投与されていない正常なマウスの肺切片の染色写真も示す。
図14に示すように、正常なマウスの肺組織では、肺胞内に染色されない空洞部分が多く認められるが、ブレオマイシンにより間質性肺炎が生じたマウスに対しPBSのみを投与したマウスの肺組織は、正常マウスと比較して炎症部分と考えられる領域が染色され、空洞部分の減少が認められる。また、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(AdSC)では、上記PBS群と比較して染色部分が減少し、空洞領域の増大が認められる。さらに、スタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(Sim−AdSC)では、正常マウスと同等の程度にまでの回復が認められる。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、間質性肺炎においても炎症を抑制できることが示唆される。
次に、強皮症マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
強皮症マウスモデルとしてはBALB/cマウスにブレオマイシンを投与して強皮症を発症させる周知のモデルを用いた。具体的に、まず、6〜8週齢のBALB/cマウスに対して、ブレオマイシンを毎日100μg/日の量で3週間皮下投与することにより強皮症を発症させた。また、ブレオマイシン投与開始から1週間後にPBS、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞(1.0×10cells/マウス若しくは2.5×10cells/マウス)、又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞(1.0×10cells/マウス)を静脈内に投与した。スタチン非封入ナノ粒子はPLGAを用い、スタチン封入ナノ粒子は、上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子100μg/mL又は200μg/mLとマウス脂肪由来幹細胞とを30分〜1時間共培養してスタチン非封入ナノ粒子又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。
その後、ブレオマイシンの投与開始から3週間後にマウスを安楽死した上で解剖し、皮膚組織を採取して組織学的解析を行った。具体的に、ここでは、各群における皮膚組織を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液にて固定の後に薄切標本を作製し、HE染色を行った。図15に、各群の皮膚切片の染色写真を示す。なお、図15にはブレオマイシンを投与されていない正常なマウスの皮膚切片の染色写真も示す。
図15に示すように、正常なマウスの皮膚組織では、表皮(白色矢印)の存在が認められるが、ブレオマイシンにより強皮症が生じたマウスに対しPBSのみを投与したマウスの皮膚組織は、正常マウスと比較して表皮が極めて薄くなり、真皮部分(黒色矢印)が厚くなっている。また、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(AdSC1×10、AdSC 2.5×10)では、上記PBS群と比較して真皮の厚みが小さくなっており、特に幹細胞をより多く投与したAdSC2.5×10では真皮の厚みがより小さくなっていることがわかる。また、スタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(Sim100−AdSC1.0×10、Sim200−AdSC 1.0×10)では、上記PBS群と比較して真皮の厚みが小さくなっており、特に200μg/mLのスタチンを封入したナノ粒子を用いたSim200−AdSC1.0×10では正常マウスの皮膚組織における真皮の厚みに近い程度まで回復していることがわかる。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、強皮症の症状を改善できることが示唆される。
次に、神経損傷マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
神経損傷マウスモデルとしてはC57B6/Jマウスの左坐骨神経を鉗子で20秒間締め付けて神経損傷を作製する周知のモデルを用いた。具体的に、まず、10〜12週齢のC57B6/Jマウスに対して、麻酔下で、左臀部の皮膚切開をした後、大腿部の筋肉の筋鞘を剥離して左坐骨神経を露出し、当該左坐骨神経を鉗子で20秒間圧迫して神経損傷させた。その3日後にPBS、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を静脈内に投与した。マウス脂肪由来幹細胞の投与量は5×10cells/マウスとした。スタチン非封入ナノ粒子はPLGAを用い、スタチン封入ナノ粒子は、上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子100μg/mLとマウス脂肪由来幹細胞とを30分〜1時間共培養してスタチン非封入ナノ粒子又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。
そして、神経損傷の直前、上記投与の直前、神経損傷から1週間後、2週間後、3週間後、4週間後及び5週間後に運動機能評価を行った。運動機能は坐骨神経機能指数(Sciatic Functional Index:SFI)を用いて評価した。SFIは、マウスの後脚の足痕の長さ(PL)、第一趾の中央から第五趾の中央までの距離(TS)、第二趾の中央から第四趾の中央までの距離(IT)を右側の正常な脚(N)と左側の神経損傷を受けた脚(E)の両方で測定し、以下の式から求めた。
SFI=-38.3×(EPL-NPL)/NPL+109.5×(ETS-NTS)/NTS+13.3×(EIT-NIT)/NIT-8.8
各群におけるSFIの測定結果を図16のグラフに示す。図16に示すように、PBSのみを投与したマウスと比較して、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(AdSC)では、SFIが高くなっており、運動機能が回復したことが認められる。さらに、スタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(Sim−AdSC)では、SFIがより高くなっており、より運動機能が回復したことが認められる。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、神経損傷の症状を改善できることが示唆される。
次に、統合失調症マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
統合失調症マウスモデルとしてはC57B6/Jマウスのschnurri−2(Shn−2)遺伝子をノックアウトしたマウスを用いた(RIKEN BRC)。Shn−2ノックアウト(KO)マウスの脳は統合失調症患者の脳で報告されている特徴を極めて高い類似度で備えていることが知られている(K Takao et al.,Neuropsychophamacology (2013), 38, p1409-1425)。実際に、Shn−2KOマウスが正常マウスと比較して、行動異常を示すか否かを巣作り行動で検討した。ここでは、正常マウス(WT)及びShn−2KOマウスにフェルトを与え、フェルトをかじり巣状態に敷くか否かを観察した。その結果を図17に示す。
図17に示す通り、正常マウスでは、フェルトを全てかじり、それを敷いていたが、Shn−2KOマウスではほとんどフェルトをかじることは無かった。この結果からも、Shn−2がノックアウトされたマウスは統合失調症モデルとして用いることができるといえる。
そこで、上記Shn−2KOマウスを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の統合失調症の治療効果について検討した。まず、上記Shn−2KOマウスに対して、PBS、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を静脈内に投与した。マウス脂肪由来幹細胞の投与量は1×10cells/マウスとした。スタチン非封入ナノ粒子はPLGAを用い(50μg)、スタチン封入ナノ粒子は、上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子(20μg又は50μg)を用い、それらのナノ粒子とマウス脂肪由来幹細胞とを30分〜1時間共培養してスタチン非封入ナノ粒子又はスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。投与後に各マウスのケージ内にフェルトを入れ、その1週間後にフェルトの状態を観察した。また、下記表1に示すように、フェルトの状態に基づいてスコアを付けた。図18に観察結果及びスコアを示す。
図18に示すように、PBSのみを投与したマウスでは巣作り行動はほぼ見られず、統合失調症の症状が強く見られる。また、スタチンが非封入のナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウス(PLGA50μg‐AdSC)においても、巣作り行動がわずかに見られる程度であった。一方、スタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を投与したマウスにおいて、シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を20μg用いた場合(SimPLGA20μg‐AdSC)では、巣作り行動が一部見られ、症状の回復が認められる。また、シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を50μg用いた場合(SimPLGA 50μg‐AdSC)では、正常マウスに近い巣作り行動が見られ、症状の顕著な回復が認められる。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、統合失調症の症状を改善できることが示唆される。
次に、変形性関節症(osteoarthritis:OA)マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
OAマウスモデルとしてはBALB/cマウスに対して右膝関節前十字靭帯の切断及び内側半月板の切除を行う周知のモデルを用いた。具体的には、外科的にBALB/cヌードマウス(雄、10週齢)の右膝関節における前十字靭帯を切断すると共に、内側半月板を切除し、その4日後から4日間(術後4〜7日目)、当該マウスに対して回転ホイールを用いて15000回転程度のホイール運動負荷を与えて、OAを誘導した。術後7日目に、PBS、ヒト脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含むヒト脂肪由来幹細胞を、29Gの注射針を用いて当該マウスの右膝内関節に局所投与した。PBSの投与量は10μLとした。また、ヒト脂肪由来幹細胞の投与量は1×10cells/マウスとし、溶媒として10μLのPBSを用いた。スタチン封入ナノ粒子としては上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子20μg/mLとヒト脂肪由来幹細胞(1×10cells)とを30分〜1時間強培養してスタチン封入ナノ粒子を含むヒト脂肪由来幹細胞を得た。なお、各群n=3とした。
上記投与から2週間後にマウスを安楽死した上で解剖し、右膝の関節軟骨組織を採取して組織学的解析を行った。具体的に、ここでは、各群における右膝の関節軟骨組織を採取し、4%パラホルムアルデヒド溶液による固定の後に薄切標本を作製し、サフラニンO染色を行った。サフラニンOは、軟骨基質を染色する染色試薬である。図19に、各群の関節軟骨組織切片の染色写真を示す。なお、図19には右膝関節前十字靭帯の切断及び内側半月板の切除を受けていない正常なマウスにおける右膝の関節軟骨組織切片の染色写真も示す。
図19に示すように、正常なマウスの関節軟骨組織では、脛骨の骨頭部に厚い軟骨層が存在すると共に、サフラニンOによる染色が認められる(濃い灰色部分)。これに対して、OAが誘導されたマウスに対してPBSを投与した群(PBS群)では、脛骨の骨頭部の軟骨層が極めて薄くなっており、当該軟骨層においてサフラニンOによる染色は認められない。一方、OAが誘導されたマウスに対してヒト脂肪由来幹細胞を投与した群(AdSC群)では、PBS群と比較して脛骨の骨頭部の軟骨層が厚く、サフラニンOによる染色もわずかであるが認められる。また、OAが誘導されたマウスに対してスタチン封入ナノ粒子を含むヒト脂肪由来幹細胞を投与した群(Statin−AdSC群)では、上記AdSC群よりもさらに脛骨の骨頭部の軟骨層が厚く、サフラニンOによる染色部分も多く認められる。
さらに、上記PBS群、AdSC群及びStatin−AdSC群について、関節損傷度を病理組織学的所見でスコアリングした。なお、スコアリングの基準はOsteoarthritis and Cartilage 18 (2010) S17-S23に基づき、以下の通りに評価した。
上記スコアリングの基準に基づいて、各群のスコアリングを行った結果を図20に示す。図20に示すように、PBS群ではスコアが高く、間接損傷度が高いが、AdSC群はPBS群よりもスコアが低く、さらにStatin−AdSC群ではスコアがより低い結果となった。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、変形性関節症の症状を改善できることが示唆される。
次に、認知症マウスモデルを用いて、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子を含有する幹細胞の炎症性疾患の治療効果について検討した。その方法及び結果について以下に説明する。
認知症モデルマウスとしては、理化学研究所バイオリソースセンターから得られたC57BL/6−App<tm3(NL−G−F)Tcs>を用いた。当該モデルマウスに対して、PBS、脂肪由来幹細胞、又はスタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞を、マウスの尾静脈から緩徐に投与した。本試験では、脂肪由来幹細胞としてC57BL/6マウスの皮下脂肪から得られたマウス脂肪由来幹細胞を用いた。脂肪由来幹細胞の投与量は1×10cells/マウスとし、溶媒として200μLのPBSを用いた。スタチン封入ナノ粒子としては上記シンバスタチン封入PLGAナノ粒子を用い、それらのナノ粒子20μgを1×10cellsのマウス脂肪由来幹細胞と37℃で30分培養してスタチン封入ナノ粒子を含むマウス脂肪由来幹細胞を得た。投与時の溶媒は200μLのPBSを用いた。
上記投与されたマウス及び正常な野生型マウスに対して、それらの記憶評価をするために周知のバーンズ迷路試験を行った。具体的に、上記投与の日を0日目として、0日目、7日目及び14日目に記憶解析として、各マウスがバーンズ迷路テーブルの周縁部に設けられた20個のサークルのうちの1つにのみ設けられたターゲットホールを見つけて、該ターゲットホールと連通するエスケープケージに達するまでの時間及び移動距離を測定した。また、上記測定(記憶解析)の日の前日の午前及び午後に各1回ずつ記憶訓練を行った。
上記各マウスは、複数匹のマウスと共に1つのケージで飼育し、上記記憶訓練及び記憶解析の1時間以上前に個別ケージに分けて環境に慣らした。記憶訓練は、まず、マウスを迷路テーブルの中央に配置された白い円筒容器内に1分間静置した後、該円筒容器を迷路テーブルから取り外すと共に、マウスが嫌う超音波ブザーを鳴らした。その後3分間、マウスにターゲットホールを探させて、エスケープケージに入った時点で超音波ブザーを停止した。但し、3分経過してもマウスがエスケープケージに入らない場合は、マウスを透明な円筒容器に入れて周囲の環境を見せて記憶させながら30秒程度の時間をかけて強制的にマウスをエスケープケージに入れた。エスケープケージに入れた後1分間はその環境に慣らした。記憶訓練は上記工程を3回繰り返した。
記憶訓練の翌日に行う記憶解析は、まず、記憶訓練と同様に、マウスを迷路テーブルの中央に配置された白い円筒容器内に1分間静置した後、該円筒容器を迷路テーブルから取り外すと共に、マウスが嫌う周波数の超音波ブザーを鳴らし、行動追跡記録を開始した。その後、マウスがターゲットホールを探し、エスケープケージに入った時点で超音波ブザーを停止し、行動追跡記録を停止した。行動追跡記録には、行動解析システムであるLimeLiteソフト(ActiMetrics, Inc. IL, USA)を用い、超音波ブザーが鳴ってからマウスがエスケープケージに入るまでの移動距離(目標到達移動距離)と時間(目標到達時間)とを測定した。上記各マウスにおける記憶解析の結果を図21に示す。
図21に示すように、0日目では、正常マウス(WT)と比較して、PBSが投与された認知症モデルマウス(PBS)、脂肪由来幹細胞が投与された認知症モデルマウス(AdSC)及びスタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞が投与された認知症モデルマウス(SimAdSC)のいずれも、エスケープケージに到達するまでの移動距離及び時間が長かった。しかし、7日目、14日目と時間が経過するに従って、脂肪由来幹細胞又はスタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞が投与された認知症モデルマウスは、PBSが投与された認知症モデルマウスと比較して、エスケープケージに到達するまでの移動距離及び時間が短くなった。特に、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞が投与された認知症モデルマウスは、14日目において正常マウスと同等の結果が認められた。これらの結果から、スタチン封入ナノ粒子を含む脂肪由来幹細胞によって、認知症の症状を改善できることが示唆される。
以上の結果から、本発明に係るスタチン封入ナノ粒子は、幹細胞の機能を増強でき、この機能増強幹細胞は、炎症性疾患を有する対象に投与されることで腸等の炎症部に集積し、免疫を抑制して抗炎症作用を発揮できる。また、本発明に係る幹細胞は、取り込んだスタチンを徐放することができ、これにより、スタチン自体の抗炎症効果も得られるので、炎症性疾患の治療に有益である。

Claims (3)

  1. スタチン封入ナノ粒子を含有する機能増強幹細胞を含む、炎症性疾患を治療するための細胞製剤であって、
    前記スタチン封入ナノ粒子は、スタチンが生体吸収性ポリマーを含むナノ粒子に封入されてなるものであり、
    前記幹細胞は脂肪由来幹細胞であり、
    前記機能増強幹細胞は、遊走能又は増殖能が増強されているとともに、スタチンを徐放する機能を有しており、
    前記炎症性疾患は、炎症性腸疾患、間質性肺炎、強皮症、神経損傷、統合失調症、変形性関節症または認知症であることを特長とする、細胞製剤。
  2. 前記生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸重合体(PLA)又はポリ乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)である、請求項1に記載の細胞製剤。
  3. 動脈投与用、静脈投与用または局所投与用である、請求項1または2に記載の細胞製剤。
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