超高精度光周波数基準の光ファイバ伝送技術とは、超高精度に安定化された周波数(時間)基準を、光ファイバを介して遠隔地へ精度を損なうことなく伝送する技術のことである(非特許文献1参照)。近年、光周波数(数100THz)を基準とする光時計の研究開発が急速に進展し、現在の周波数の基準であるセシウム(Cs)原子時計の精度をはるかに上回る性能を示している。この結果、光周波数基準の精度を劣化させること無く遠隔地へ伝送し、超高精度光周波数基準を共有することを可能とする超高精度光周波数基準ファイバ伝送技術に注目が集まっている。
Cs原子時計では、基準周波数がRF周波数領域にあるのに対し、光時計の基準周波数は、光周波数領域となっている。このため、周波数νに対する周波数の不確かさΔνの割合(Δν/ν)という指標で精度を比較した場合、RF周波数(〜10GHz)に対して周波数が3〜5桁大きい光周波数(〜100THz)を用いる光時計の方が、精度が3〜5桁向上することになる。
現状、Cs原子時計において、世界最高精度が1×10-16の不確かさを実現しているのに対し、最も有力な方式と考えられている光時計である光格子時計では、質量数が87のストロンチウム(87Sr)を用いて、2×10-18の不確かさを実現しており、10-19の不確かさのレベルにも到達目前である。従って、将来的には、周波数の基準がCs原子時計のRF領域から、光格子時計の光領域へ取って代わる可能性は極めて高い。
また、このような10-18レベルの不確かさの周波数精度を有する光格子時計は、一般相対論効果により重力ポテンシャルの違いが周波数の違いとして検出されることから、重力センサーとして地球物理学や測地学への応用が期待されている。このためには、超高精度光周波数基準を単純に2地点間で共有するだけでなく、多地点間で共有する超高精度光周波数基準ファイバネットワークへの展開が必須である。
典型的な超高精度光周波数基準ファイバ伝送の構成では、図4に示すように、送信部301,中継部302,受信部303から構成されている。送信部301は、超高精度光周波数基準(例えば光格子時計)304、送信装置305を備える。中継部302は、中継装置306を備える。受信部303は、受信装置307を備える。各装置は、直列に光ファイバ308で接続している。
各光伝送装置の基本的機能は、以下の2つに分類できる。1つは、超高精度光周波数基準304を、送信装置305の送信用周波数可変狭線幅レーザ光に、精度を劣化させること無く再生(転写)する機能である。
このためには、超高精度光周波数基準304と送信用狭線幅レーザとの2つのレーザ光を干渉させることにより、差周波に相当するビート信号を検出し、このビート信号を高精度RF周波数基準に位相同期することによって、超高精度光周波数基準304を送信用レーザ光に再生する(オフセット同期)。
一般に、超高精度光周波数基準は、ファイバ伝送に適した通信波長帯とは異なる。例えば、Sr光格子時計では、波長698nm、Yb光格子時計では波長578nmである。このため、光周波数コムや第2高調波発生を利用して送信用レーザ光とのビート信号を得る。オフセット同期は、中継地においても用いられており、前段の中継地から送られてきた超高精度光周波数基準を、中継地における送信用レーザに再生し、後段へ送信する。
もう1つの機能は、送信装置305と中継装置306との間、また各々の中継装置306間、中継装置306と受信装置307とをつなぐ光ファイバ308の環境に由来する雑音を補償する機能である。環境に由来する雑音は、例えば、熱や振動といった光ファイバ308の敷設環境に由来する雑音である。
この光ファイバ308の雑音を補償する機能では、例えば、光ファイバ入射前の伝送光を音響光学素子(AOM)などの周波数シフタで周波数シフトさせ、光ファイバ308に入射し、中継装置306で折り返され、送信装置305に戻ってくる折り返し光と周波数シフト前の伝送光との干渉をとることによってビート信号を検出する。このビート信号には、光ファイバ308中の伝搬に伴い、光ファイバ308の環境に由来する雑音成分が乗畳されているが、このビート信号を高精度RF周波数基準に位相比較することによって、ファイバ雑音を抽出する。
周波数シフタにより、ファイバ雑音に由来する周波数揺らぎを補償するようにあらかじめ周波数揺らぎを伝送光に与えておくことによって、精度を劣化することなく中継装置まで光周波数基準を伝送するようにする(ファイバ雑音補償)。
以上のように、光のビート信号をRF周波数基準に安定化することで、再生または雑音補償された光の周波数精度は、最終的には、安定化に用いたRF周波数の精度で制限されることになる。例えば、伝送光の周波数を200THz(通信波長帯として知られている波長1500nm相当)として、10-18レベルの不確かさの周波数精度を保つには、周波数の不確かさを0.2mHz以内に抑える必要がある。
この精度を得るために、10MHzのRF周波数基準を用いる場合には、10-11の不確かさ以内のRF周波数精度が必要である。これには、水素メーザー級の単体の発振器を用意するか、ルビジウム(Rb)発振器などを、全地球測位システムを用いてCs原子時計によって較正しながら使用するか、あるいはこれらの高精度なRF周波数基準をその精度を劣化させることなく光ファイバで伝送するといった設備が必要になる。
しかしながら、このようなネットワーク構成は、光周波数基準およびRF周波数基準の2つが必要であるという意味において、周波数基準が重複としているという根本的な課題がある。また、別途、高精度RF周波数基準を設置する、もしくは配信するというシステム構成は、この部分のコストが必要となることから、不必要であることが望ましい。特に、多地点間を結ぶ超高精度光周波数基準ファイバネットワークを考えた場合、すべての地点に水素メーザー級の高精度RF周波数基準を用意するのは現実的ではない。
また、中継地点として有力な候補の1つである電話局には、一般に全地球測位システム( Global Positioning System;GPS)アンテナが設置されておらずGPS較正発振器を用いることも現状困難である。
上述した点を考慮し、発明者らは、各地に高精度RF周波数基準を必要としないで実現可能な遠隔地間超高精度光周波数基準のファイバ伝送方式を検討した。
図4を用いて説明した光伝送システムにおいて、ファイバ伝送部のみに着目すれば、過去にも高精度RF周波数基準を必要としない伝送方式が提案されている。例えば、非特許文献1に示されているファイバ雑音補償方式がある。
非特許文献1のFig.1に示されているように、送信部において、周波数シフタ(AOM2)を、周波数可変なRF発振器(VCXO:Voltage-Controlled Crystal Oscillator)を1/2に分周した信号で駆動し、これによって周波数シフトさせた伝送光の一部を参照光として取り出してからファイバに入射する[図5,(+80)]。ここで、+80とは、AOM2によって光の周波数を+80MHzシフトしたということを示している。なお、+80MHzという値は一例である。
受信部において、出射した伝送光を別のAOM1によって周波数シフトさせてから[図5,(−80)],一部をミラーによって打ち返す。打ち返された光は再びAOM1によって周波数シフトされ[図5,(−80)]、ファイバに入力し、送信部において参照光と重ねられディテクタに入射する。
受信部から打ち返された光と参照光には、受信部におけるAOM1の駆動周波数(80MHz)の2倍の周波数差が生じるため、これがビート信号として観測される。このAOM1による周波数シフトにより、受信部に到達して打ち返された光と、ファイバ中の散乱や反射によって戻ってきた光は区別される。このビート信号には、伝送光がファイバを往復する伝搬中に受ける周波数雑音と受信部のRF周波数の揺らぎが含まれる[図5,(−80b)]。
従って、このビート周波数にVCXOを位相同期することによって、AOM2の駆動周波数にファイバ雑音の1/2が逆位相で加えられ、ファイバ雑音が補償される。この技術では、送信部にはRF周波数基準を用いず、受信部のRF周波数の揺らぎはファイバ雑音と共に補償され、受信部のミラーの透過光では、送信部における伝送光の光周波数が再生される。
ところが、非特許文献1の技術は簡潔ではあるが、送信部において雑音を受けやすいという欠点がある。まず、送信部において周波数シフタから干渉計までのパスが干渉計に含まれないため、この間で受ける雑音は干渉計で検出されず、補償されない。
ファイバ伝送装置は今後、オールファイバ化が進むことが予想されるため、雑音補償用の干渉計間の距離はできるだけ短くすることが重要であるという観点から、周波数シフタは干渉計の後段に配置することが望ましい。また、非特許文献1のFig.1に示された構成では、ファイバからの戻り光が周波数シフトされずに直接干渉計に入るため、参照光と区別がつかない。長距離ファイバ伝送においては、ファイバ内での光散乱や接続点からの反射により、比較的大きな戻り光が存在するため、これは雑音になり得る。
現在の主流は、送信部の周波数シフタを干渉計の後段に配置している。この構成では、雑音補償に用いる周波数シフタの2倍の周波数シフトが含まれたビート信号を干渉計で検出し、RF周波数基準と位相比較する。この信号を用いてVCXOにフィードバックすることで、ファイバの雑音に加えてVCXO自体の雑音や回路の雑音も補償されるため、より高精度なファイバ伝送が実現できる。また、干渉計とファイバの間に周波数シフタがあるため、ファイバの戻り光が周波数シフタで周波数シフトされ、参照光と区別することが可能である。
さらに、近年では、受信部に周波数シフタの代わりにリピータレーザを設置する構成が増えている。リピータレーザを受信光に対してオフセット同期させることで、周波数シフタ代わりに周波数シフトをつけることができると同時に、ファイバ伝送によって減衰した光パワーを増幅して打ち返すことができる。
送信部の周波数シフタを干渉計に含め、受信部にリピータを設置する構成は、高精度な雑音補償が実現できる一方、伝送光の周波数シフトが複雑になる。これを回避するために、送信局1か所にのみ高精度RF周波数基準を設置し、中継局には高精度RF周波数基準を必要としない多段階のファイバ伝送の方式が提案されている(非特許文献2、Fig.3参照)。
この技術では、N番中継局における周波数シフトと、N+1番中継局における周波数シフトとの正負を反転させて送ることにより、送信側の中継局のRF周波数の揺らぎも補償される配置としている(図6)。これにより、中継局のRF周波数基準の精度に依存しないファイバ配信が実現でき、送信局を除く中継局および受信局の各局には高精度RF周波数基準の設置が不要となる。
しかしながら、上述した従来の技術では、送信局においては必ず高精度RF周波数基準が必要となり、「超高精度光周波数基準をファイバ配信するためには高精度RF周波数基準も必要である」という周波数の二重基準に関する課題は克服されない。また、実際の光周波数基準は紫外線〜可視光領域であるため、通信波長帯であるファイバ伝送光は、光周波数コムを用いて光周波数基準にオフセット同期され、超高精度な伝送光が実現されていることが前提となっている。このような、伝送光を光周波数基準にオフセット同期する際にも、高精度なRF周波数基準が必要となる。
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、高精度なRF周波数基準などを必要とせずに、超高精度な周波数基準となる光が伝送できるようにすることを目的とする。
本発明に係る光伝送システムは、送信元に配置され、光源から出射された光源光を光周波数基準を用いた安定化制御により所望の基準周波数に安定化した安定化光源光を生成する安定化光源光生成部と、送信元と送信先とのあいだに設けられた光ファイバと、送信元に配置され、安定化光源光を周波数シフトする雑音補償部と、送信先に配置され、光ファイバを介して送信元より伝送された安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を生成する戻り光生成部とを備え、雑音補償部は、光ファイバを介して送信元から伝送された戻り光源光と、安定化制御により基準周波数に安定化されて生成されている安定化光源光との比較により、雑音補償部による周波数シフトを制御し、戻り光生成部は、送信元から送信先に伝送された安定化光源光の基準周波数からのシフト量と、送信先から送信元に伝送された戻り光源光の基準周波数からのシフト量とが、基準周波数に対して正負対称な周波数となるように、安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を生成する。
以上説明したことにより、本発明によれば、高精度なRF周波数基準などを必要とせずに、超高精度な周波数基準となる光が伝送できるという優れた効果が得られる。
以下、本発明の実施の形態に係る光伝送システムについて図1を用いて説明する。この光伝送システムは、送信元101より光ファイバ102を介して送信先103に安定化光源光を伝送する。
送信元101では、安定化光源光生成部104で生成された安定化光源光を、雑音補償部105で光ファイバ102における雑音を補償し、光ファイバ102により送信先103に伝送する。
安定化光源光生成部104は、光源から出射された光源光を、光周波数基準を用いた安定化制御により所望の基準周波数に安定化した安定化光源光を生成する。また、雑音補償部105は、安定化光源光生成部104が生成した安定化光源光を、光ファイバ102における雑音を補償するために周波数シフトする。
送信先103では、戻り光生成部106が、光ファイバ102を介して送信元101から伝送された安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を生成する。戻り光は、雑音補償部105による雑音補償のために用いられる。雑音補償部105は、光ファイバ102を介して送信元101より伝送された戻り光源光と、安定化制御により基準周波数に安定化されて生成されている安定化光源光との比較により、雑音補償部105による周波数シフトを制御する。この制御は、よく知られた光ファイバ102の雑音補償と同様である。
よく知られているように、光ファイバの雑音を補償する機能では、例えば、光ファイバ入射前の安定化光源光を、音響光学素子(AOM)などの周波数シフタで周波数シフトさせ、光ファイバに入射し、送信先で折り返され、送信元に戻ってくる戻り光源光と周波数シフト前の安定化光源光との干渉をとることによってビート信号を検出する。このビート信号には、光ファイバ中の伝搬に伴い、光ファイバの雑音成分が乗畳されている。このビート信号を、RF周波数基準となるRF発振器からの信号と位相比較することによって、ファイバ雑音を抽出する。
周波数シフタにより、ファイバ雑音に由来する周波数揺らぎを補償するようにあらかじめ周波数揺らぎを安定化光源光に与えておくことによって、精度を劣化することなく中継装置まで安定化光源光を伝送することが可能となる。
ここで、本発明では、戻り光生成部106が、送信元101から送信先103に伝送された安定化光源光の基準周波数からのシフト量と、送信先103から送信元101に伝送された戻り光源光の基準周波数からのシフト量とが、基準周波数に対して正負対称な周波数となるように、安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を生成する。これにより、高精度なRF周波数基準などを必要とせずに、超高精度な周波数基準となる光(安定化光源光)が、送信元から送信先に伝送できるようになる。
以下、図2,図3を用いてより詳細に説明する。図2は、本発明における光伝送システムの構成例を示している。図3は、図2に示した光伝送システムにおける周波数伝送ダイアグラムである。
図2に示す光伝送システムは、送信部(送信元)201と受信部(送信先)231とから構成している。この光伝送システムでは、光ファイバ221を介し、送信部201から受信部231に、超高精度に安定化された基準周波数(周波数ν0)の周波数基準の光を伝送する。
送信部201は、光源202、光周波数基準発生部203、第2高調波発生部204、帰還制御部205、RF発振器206、周波数シフタ207、帰還制御部208、RF発振器209、ビームスプリッタ210、光検出部211、半反射ミラー212、ビームスプリッタ213、光検出部214、ミラー215を備える。
受信部231は、周波数シフタ232、RF発振器233、ビームスプリッタ234、光リピータ235、光検出部236、帰還制御部237、RF発振器238、ミラー239を備える。
超高精度な光周波数基準の光を生成する光周波数基準発生部203は、例えば、Sr光格子時計(波長698nm)を用いればよい。一般に、光源202より出射される光源光の波長は、通信波長帯の1397nmであるが、この光源光より第2高調波を発生させれば、光周波数コムを用いることなく、光源光を、周波数2ν0の光周波数基準の光で安定化して安定化光源光を生成することができる。
光源202より出力された光源光(の一部)を半反射ミラー212で反射し、第2高調波発生部204で光源光の第2高調波を得る。この第2高調波と、光周波数基準発生部203より出力された周波数2ν0の光周波数基準の光とを、ビームスプリッタ210で干渉させる。この干渉により発生する光源光の第2高調波と光周波数基準の光との周波数差の光信号(ビート信号)を光検出部211で検出(光電変換)する。
このようにして光検出部211で検出されたビート信号を元に、帰還制御部205が、光源202の出力をフィードバック制御する。このフィードバック制御においては、ビート信号をRF発振器206から出力されるRF基準信号に位相同期することで、出力される光源光の周波数を安定化して安定化光源光を生成する。光源202、光周波数基準発生部203、第2高調波発生部204、帰還制御部205、RF発振器206、ビームスプリッタ210、光検出部211、半反射ミラー212により、安定化光源光生成部が構成される。
この安定化では、光源光の第2高調波と周波数2ν0の光周波数基準の光とのビート信号を観測し、RF発振器206のRF基準信号と位相比較をして光源光のオフセット同期を行うが、本発明では、参照信号であるRF基準信号は高精度でなくてもよい。ここで、RF発振器206から出力されるRF基準信号の周波数をf1とすると、上述したことにより安定化した安定化光源光の周波数は、ν0+f1となる。
次に、安定化光源光の周波数を、光ファイバ221の雑音補償のために、周波数シフタ207でシフトし、光ファイバ221で受信部231に伝送する。なお、周波数シフタ207、帰還制御部208、RF発振器209、ビームスプリッタ213、光検出部214、ミラー215が、雑音補償部となる。
なお、雑音補償では、まず、ビームスプリッタ213で一部が反射され、ミラー215で反射した安定化光源光と、受信部231より戻ってきた戻り光源光とを、ビームスプリッタ213で干渉させる。この干渉により発生したビート信号を光検出部214で検出し、帰還制御部208で、RF発振器209から出力されるRF基準信号と位相比較することで、ファイバ雑音を検出する。周波数シフタ207によりシフトに、検出したファイバ雑音の1/2が逆位相で加わり、ファイバ雑音が補償されるようになる。なお、RF発振器209のRF基準信号は、RF発振器206のRF基準信号と同期している。この、ファイバ雑音補償に用いるRF発振器209のRF基準信号も、高精度でなくてもよい。
ここで、送信部201において、安定化光源光を生成するために用いたRF発振器206によるRF基準信号は、揺らぎaを持っており、f1という周波数を設定したときに、f1 (a)=(1+a)f1という揺らぎをもった信号が出力されるとする。例えば、一般的な水晶発振器を用いて生成されるRF基準信号の揺らぎは、10-8程度である。
このような揺らぎを持っているRF基準信号を参照信号として、前述したように光源光を安定化すると、安定化光源光の周波数νA (a)は、ν0+f1 (a)になる。本発明の実施の形態における図2に示す光伝送システムでは、周波数νA (a)の安定化光源光を図3に示す周波数ダイアグラムで伝送することで、受信部231で超高精度に基準周波数ν0が再生されるようにしている。
なお、本発明は、前述したように第2高調波発生のみでは通信波長帯の伝送光に変換できない場合でも利用可能である。例えば、光周波数コムを高精度に安定化することなく、光周波数基準(m1/m2)ν0と通信波長帯の伝送光との仮想的なビート信号を観測する場合、このビート信号をRF周波数f1 (a)に安定化することで、同様に伝送光の周波数をνA (a)=ν0+f1 (a)とすることができる。
以下に、図3の周波数ダイアグラムを用いて詳細に説明する。まず、送信部201におけるRF発振器206(RF発振器209)から出力されるRF基準信号の周波数は、前述したように、f1 (a)=(1+a)f1,である。また、受信部231におけるRF発振器238(RF発振器233)から出力されるRF基準信号は、揺らぎbを持っており、この周波数は、f2という周波数を設定したときにf2 (b)=(1+b)f2である。例えば、f1=5MHz,f2=10MHzとする。また、周波数シフタ207でシフトする周波数fAOM1は、80MHzとし、周波数シフタ232でシフトする周波数は、−75MHzとする。これらの数値が、図3に反映されている。
前述したように、送信部201において,周波数νA (a)=ν0+f1 (a)の安定化光源光を用意する。安定化光源光は、帰還制御部208によって電圧駆動される周波数シフタ207によって+fAOM1 駆動電圧だけ周波数シフトさせた後、光ファイバ221によって受信部231へ伝送される。
上述したように周波数シフトされた安定化光源光を受信した受信部231では、光ファイバ221の雑音補償のために戻り光源光を生成して打ち返す。このとき、この光伝送システムでは、戻り光源光の周波数を、受信部231で受信した安定化光源光に対して周波数を−2f1 (b)−2fAOM1 (b)だけシフトさせる。ここで、f1 (b)は、RF発振器238(RF発振器233)において、f1という周波数を設定したときに揺らぎbをもって生成される周波数である。また、fAOM1 (b)は、周波数シフタ207と同じ周波数のシフトを、周波数シフタ232において実施した場合の周波数である。
前述したように、受信部231で受け付けられた安定化光源光の基準周波数からのシフト量と、送信部201で受け付けられる戻り光源光のシフト量とが、基準周波数に対して正負対称な周波数となるように、安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を生成する。
ここで、受信部231において、RF発振器238および帰還制御部237によりオフセット同期させることで、光リピータ235により上述したようなシフト量とした戻り光源光を生成するようにしてもよい。しかしながら、この場合、オフセット同期のための光学系を構成するビームスプリッタ234、光検出部236に、生成した戻り光が入り、ミラー239を反射してビームスプリッタ234で干渉させる参照光と区別がつかなくなる。このため、上述したシフト量とする戻り光を生成するために、周波数シフタ232を設ける。
図2に示すシステムでは、まず、RF発振器238および帰還制御部237によりオフセット同期させる光リピータ235において、オフセット同期周波数を−2f2 (b)とする。また、周波数シフタ232では、シフト量を−f1 (b)−fAOM1 (b)+f2 (b)とする。受信部231に到達した安定化光源光は、まず周波数シフタ232を通過し、ビームスプリッタ234で反射され、ミラー239で反射して参照光となる。この参照光を元に光リピータ235より出力される光がオフセット同期されるため、光リピータ235より出力される光は、−2f2 (b)のシフトに、周波数シフタ232によるシフトが加わっている。この出力光が、再度、周波数シフタ232で周波数シフトを受けて、戻り光源光として送信部201に送られる。
このように、戻り光源光を生成する過程で、周波数シフタ232を2回通過するので、周波数シフタ232のシフト量を「−f1 (b)−fAOM1 (b)+f2 (b)」すれば、光リピータ235のオフセット同期周波数−2f2 (b)に、−2f1 (b)−2fAOM1 (b)+2f2 (b)が加わることとなる。この結果、−2f2 (b)+(−2f1 (b)−2fAOM1 (b)+2f2 (b))=−2f1 (b)−2fAOM1 (b)となる。
以上のように、受信部231で−2f1 (b)−2fAOM1 (b)のシフトを受けて生成され、送信部201に伝送された戻り光源光の周波数は、νA (a)+fAOM1 駆動電圧−2f1 (b)−2fAOM1 (b)となる。このように、送信部201より送信された周波数νA (a)+fAOM1 駆動電圧の安定化光源光は、光ファイバ221を往復し、νA (a)+fAOM1 駆動電圧−2f1 (b)−2fAOM1 (b)の戻り光源光として送信部201に戻ってくる。
このように周波数シフトされた戻り光源光を、周波数シフタ207を通過させ、ビームスプリッタ213において、周波数νA (a)=ν0+f1 (a)の安定化光源光と干渉させると、|2f1 (b)+2fAOM1 (b)−2fAOM1 駆動電圧|の干渉信号が得られる。
この干渉信号を、RF発振器209より得られる2f1 (a)のRF基準信号と位相比較し、2f1 (b)+2fAOM1 (b)−2fAOM1 駆動電圧=2f1 (a)となるように、帰還制御部208で周波数シフタ207の駆動電圧を制御し、周波数シフタ207のシフト周波数fAOM1 駆動電圧にフィードバックをかけて安定化する。
この安定化により、周波数シフタ207のシフト周波数fAOM1 駆動電圧は、f1 (b)+fAOM1 (b)−f1 (a)となる。
このように安定化された周波数シフタ207で、ファイバ補償のためにシフトされた安定化光源が、光ファイバ221を介して受信部231に伝送されると、光リピータ235より出力される光の周波数νB (b)は、
νB (b)=νA (a)+fAOM1 駆動電圧−f1 (b)−fAOM1 (b)+f2 (b)−2f2 (b)
=νA (a)−f1 (a)−f2 (b)
=ν0−f2 (b)
となる。
上記式においては、送信部201のRF発振器206(RF発振器209)から出力されるRF基準信号における揺らぎaを備える項がなく、前述したことにより光リピータ235より出力される光の周波数νB (b)は、送信部201におけるRF周波数の揺らぎaの影響を受けなくなる。
また、受信部231において、光リピータ235より出力される光の周波数を+f2 (b)だけシフトさせることで、受信部231におけるRF基準周波数の揺らぎbの影響もキャンセルされ、超高精度に安定化された基準周波数の信号(周波数ν0)が再生できる。
また、受信部231を中継局とし、他の受信局に光ファイバを介して安定化光源光を伝送する場合、前述同様にすればよい。RF発振器238(RF発振器233)に同期するRF発振器のRF基準周波数を用いる帰還制御部の駆動電圧で駆動する位相シフタによって、−fAOM2 駆動電圧だけ周波数シフトさせた光を、光ファイバで送信先の受信局に送り,受信局において、打ち返す光の周波数が+2f2 (c)+2fAOM2 (c)だけシフトするように、受信局の光リピータのオフセット同期周波数2f3 (c)および受信局における周波数シフタのシフト周波数を決めればよい。
中継局において、光ファイバを往復してきた光と、中継局の光リピータで出力する光とを干渉させ、2f2 (b)のRF基準信号と位相比較することでfAOM2 駆動電圧を安定化すれば、受信局における光リピータで出力する光の周波数は、中継局におけるRF基準周波数f2 (b)の揺らぎbの影響を受けなくなる。
以上に説明したように、本発明では、送信先で受け付けられた安定化光源光の基準周波数からのシフト量と、送信元で受け付けられる戻り光源光のシフト量とが、基準周波数に対して正負対称な周波数となるように、安定化光源光の周波数をシフトさせた戻り光源光を送信先で生成する。この結果、本発明によれば、高精度なRF周波数基準などを必要とせずに、超高精度な周波数基準となる光が伝送できるようになる。本発明によれば、送信元で用いるRF基準周波数、ファイバ補償のためのシフト周波数、送信先で用いるRF基準周波数を、いかなる値にしても、送信先において、超高精度な周波数基準の光が再生できる。
本発明によれば、従来技術と比較して、用いるRF周波数基準によって伝送周波数精度が制限されることがなく、伝送周波数精度が、超高精度な光周波数基準のみで決まるため、原理的に極めて優れている。また、従来技術で用いられている位相同期の周波数を適切に設定するだけで実現できる方式であることから、極めて簡便な方式であり、実現性には全く問題がない。さらに、多地点間を結ぶ超高精度光周波数基準ファイバネットワークという新しいインフラストラクチャを構築する上で、各地点に一般的な精度を有する安価なRF周波数発振器を用いるだけで、高精度なRF周波数基準を配備する必要が無くなるという、より実用的な面においてもメリットが大きい。
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。