以下に説明する構成例は、対象空間に電波を放射し、対象空間からの電波を受信することによって、空間情報を抽出する電波センサ、およびこの電波センサを備える設備機器に関する。ここでの空間情報は、対象空間に存在する物体までの距離の情報、対象空間に存在する物体が移動する速度、対象空間に定めた監視領域に物体が存在するか否かの情報、監視領域に存在する物体が監視対象である対象物か否かの情報などから選択される。
以下に説明する電波センサにおいて、対象空間に存在する物体が移動する速度、監視領域に物体が存在するか否かの情報、監視領域に存在する物体が対象物か否かの情報は、対象空間に存在する物体までの距離の情報を基にした情報である。したがって、電波センサは、基本的には、対象空間に存在する物体までの距離を計測する機能を備える。物体は人体であってもよく、この場合に、電波センサは人感センサとして用いることが可能である。また、電波センサは、負荷装置に対する制御信号を出力する構成であってもよい。
電波センサを備える設備機器は、電波センサが監視した空間情報に応じて負荷装置を制御するように構成されている。負荷装置は、照明装置、電動ドア、空調装置、警報機器などから選択される。ただし、負荷装置の種類はとくに限定されない。
たとえば、負荷装置が電動ドアである場合、電動ドアを通過しようとする人を電波センサが検知すると、電動ドアを開くように電波センサが制御信号を出力し、人が通過した後に電動ドアを閉じるように電波センサが制御信号を出力するように構成できる。つまり、負荷装置としての電動ドアと電波センサとにより設備機器である自動ドアを構成可能である。
また、負荷装置が街路灯を構成する照明装置であってもよい。この場合、照明装置に接近する人を電波センサが検知すると、照明装置の光出力を増加させるように電波センサが制御信号を出力し、人が通過した後には光出力を低減させるように電波センサが制御信号を出力するように構成できる。すなわち、負荷装置としての照明装置と電波センサとにより設備機器としての街路灯を構成可能である。
上述した設備機器は一例であり、電波センサと負荷装置とを適宜に組み合わせることによって、様々な設備機器を構成することが可能である。
図1に示すように、以下に説明する電波センサ10は、検知部11と処理部12とを備える。検知部11は、対象空間に電波を放射し、対象空間から電波を受信する。処理部12は、検知部11の出力に基づいて空間情報を抽出する。図1に示す構成例では、電波を対象空間に放射するタイミングを検知部11が定めている。ただし、電波を対象空間に放射するタイミングは、処理部12が定めてもよく、また電波を対象空間に放射するタイミングは、検知部11および処理部12とは別の構成が定めてもよい。
検知部11は、たとえば図2に示すように、対象空間に電波を放射する放射期間Tsと、対象空間に電波を放射しない休止期間Trとが、交互に生じるように動作する。すなわち、検知部11は、対象空間に電波を間欠的に放射する。以下では、1回の放射期間Tsと1回の休止期間Trとを合わせた期間を処理周期T0と呼ぶ。図2に示す動作例では、処理周期T0に対して放射期間Tsが2分の1に定められている。たとえば、処理周期T0が2[ms]であれば、放射期間Tsは1[ms]である。
処理周期T0と放射期間Tsとは適宜に定めることが可能である。たとえば、処理周期T0が50[ms]であり、放射期間Tsが1[ms]であるように定めることが可能である。また、電波の周波数は、マイクロ波からミリ波の範囲の周波数帯から選択される。放射期間Ts、処理周期T0などは、処理部12の処理能力、要求仕様などによって定められる。要求仕様は、距離の精度(分解能)、物体Obの予想される移動速度、対象空間の範囲などである。
電波の周波数、処理周期T0、放射期間Tsは、電波センサ10が抽出する空間情報の種類に応じて選択される。つまり、電波センサ10の用途、物体Obまでの距離、物体Obが移動する速さなどを考慮して、電波の周波数、処理周期T0、放射期間Tsが適宜に定められる。電波センサ10が抽出する空間情報の種類によっては、休止期間Trがなく放射期間Tsが繰り返すように構成されていてもよい。
ここに、休止期間Trには検知部11の動作は停止する。すなわち、休止期間Trにおいて受信を行う構成と比較すると、休止期間Trに検知部11の動作が停止する構成は、消費する電力が少ない。また、電波センサ10は、放射期間Tsに比べて休止期間Trを長く設定することが可能である。したがって、休止期間Trの電力の消費を抑制することは、電力の消費量の削減につながる。
検知部11は、放射期間Tsに電波を放射するだけではなく、放射期間Tsに電波の受信も行う。以下では、電波センサ10が放射した電波を送信波と呼び、物体Obで反射された電波を反射波と呼ぶ。
この構成例の電波センサ10では、検知部11が、FMCW方式(FMCW:Frequency-modulated continuous-wave)で空間情報を反映する信号を出力する。検知部11は、送信用回路と受信用回路とを備える。検知部11は、図2に示しているように、時間経過に伴って周波数が変化するFMCW信号を発生する。すなわち、FMCW信号は、時間を周波数に変えるように周波数変調を行った信号と言える。ここで説明する電波センサ10は、放射期間Tsにおいて時間経過に伴って周波数が直線的に上昇するFMCW信号を発生する。FMCW信号は、時間経過に伴って周波数が直線的に下降してもよく、また上昇する期間および下降する期間を含むことも可能であり、さらには周波数の変化が直線的であることも必須ではない。
図1に示す電波センサ10は、送信波を放射してから物体Obで反射された反射波を受信するまでの時間を周波数の変化に置き換えている。すなわち、同時刻における送信波と反射波との周波数差に基づいて、電波センサ10から物体Obまでの距離が求められる。以下にこの原理を説明する。
いま、電波センサ10から物体Obまでの距離がL[m]、送信波の放射から反射波の受信までの時間がΔt[s]、電波の伝播速度がc[m/s]で表されるとすると、距離L[m]は、L=c・Δt/2という形式で表される。一方、送信波の周波数の変化率をk[Hz/s]、同時刻における送信波と反射波との周波数差をΔf[Hz]で表すと、Δf=k・Δtであるから、Δt=Δf/kという関係式が得られる。すなわち、距離Lは、L=(c/2)Δf(1/k)と表される。ここで、p=c/2k[m・s]とおけば、L=p・Δfという関係が得られる。このように、周波数差Δfに係数pを乗じるだけで距離Lが求められる。
図3のように、放射期間Ts[s]における送信波の周波数の最小値fminと最大値fmaxとの差をBw[Hz]とすれば、k=Bw/Tsと表される。したがって、p=(c/2)(Ts/Bw)と表すことができる。ここに、Bw=fmax−fminである。以下では、送信波の周波数の最小値fminと最大値fmaxとの差Bwを「掃引周波数幅」という。
一例として、放射期間Tsを1[ms]に定め、放射期間Tsにおける掃引周波数幅Bwを150[MHz]に定める。また、光速cを3×108[m/s]とする。これらの数値を適用すると、係数pは、p=(c/2)(Ts/Bw)=1×10−3[m・s]である。したがって、同時刻における送信波と反射波との周波数差Δfが1[kHz]であるとき、距離Lは1[m]である。
なお、ここに示した数値は一例であって、動作を限定する趣旨ではない。すなわち、放射期間Ts、掃引周波数幅Bwは、電波センサ10の用途、物体Obまでの距離、物体Obが移動する速さなどに応じて適宜に定められる。また、対象空間の範囲は、距離によって定められる。
検知部11は、同時刻における送信波と反射波との周波数差Δfを抽出するために、図1に示す構成例では、発信器111と混合器112と2個の増幅器113、114と送信用アンテナ115および受信用アンテナ116とを備える構成を採用している。増幅器113は、発信器111が出力する高周波信号を増幅し、送信用アンテナ115に供給する。送信用アンテナ115は、増幅器113から受け取った高周波信号を送信波に変えて対象空間に放射させる。
一方、受信用アンテナ116は対象空間から受信した電波を高周波信号に変えて増幅器114に引き渡す。増幅器114は、受信用アンテナ116からの高周波信号を増幅し、増幅後の高周波信号を混合器112に引き渡す。混合器112は、増幅器114から受け取った高周波信号に発信器111が出力した信号を混合する。したがって、混合器112が出力する混合信号は、送信用アンテナ115が対象空間に放射した電波の周波数と、受信用アンテナ116が対象空間から受信した電波の周波数との和および差の成分を含む。すなわち、受信用アンテナ116が受信した電波に物体Obで反射された反射波が含まれていると、混合器112が出力する混合信号は、送信波と反射波との周波数差の情報を含む。
図1に示す構成例では、送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とが個別に設けられているが、1つのアンテナが送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とに兼用されていてもよい。また、増幅器113、114は、必要に応じて設けられ、省略される場合もある。
さらに、図1に示す構成例では、検知部11が1つの混合器112を備えているが、検知部11が2つの混合器を備える構成を採用してもよい。検知部11が2つの混合器を備える構成では、増幅器114が出力する高周波信号を2つの混合器がそれぞれ受け取る構成を採用してもよい。この構成では、2つの混合器において増幅器114が出力する高周波信号に混合する2つの信号は、同周波数であるが、位相差が付与されている。
たとえば、2つの混合器の一方に発信器111が出力した高周波信号を与え、2つの混合器の他方に発信器111が出力した高周波信号を移相器に通して90度の位相差を付与した高周波信号を与える。つまり、検知部11は、増幅器114が出力した高周波信号の直交検波を行うことによって、送信波と反射波との周波数差に相当する成分を含み、かつ位相が異なる2つの混合信号を出力するように構成される。この構成の場合、距離精度の向上のために、周波数分析は複素信号領域で行うことが望ましい。
また、検知部11として、増幅器114が出力する高周波信号のダウンコンバートを2段階行う構成を採用してもよい。すなわち、検知部11は、高周波信号のダウンコンバートの後に、さらにダウンコンバートを行うダブルコンバージョン方式の構成であってもよい。ダウンコンバートは、検知部11において混合器112が出力するアナログ信号に対して行う構成と、処理部12においてデジタル信号に対して行う構成とのどちらを採用してもよい。
混合器112から出力された混合信号は、アナログ−デジタル変換器によりデジタル信号に変換される。アナログ−デジタル変換器は、混合信号をシリアルのデジタル信号に変換する。ここに、アナログ−デジタル変換器は、検知部11と処理部12とのどちらが備えていてもよい。なお、近年ではFMCW方式のミリ波レーダを構成するデバイスとして、検知部11に相当する集積回路が製造されているから、この種のデバイスを検知部11に用いてもよい。この種のデバイスには、アナログ−デジタル変換器を備えている構成と備えていない構成とがある。
送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とを構成するアンテナは、パッチアンテナ、スロットアンテナ、ホーンアンテナなどから選択される。送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とは、送信用アンテナ115から物体Obまでの距離と、受信用アンテナ116から物体Obまでの距離との差が比較的小さくなるように、近接して配置される。
送信用アンテナ115および受信用アンテナ116は、たとえば、24.05GHzを超え24.25GHz以下の周波数帯に対応するように設計される。このような周波数帯であれば、送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とのサイズおよび間隔は数mm程度でもよい。ここに、送信用アンテナ115と受信用アンテナ116との間隔は、送信用アンテナ115と受信用アンテナ116との間に形成される隙間の寸法を意味する。
なお、国内において、この周波数帯は、人または物体のような対象物の存在、位置、動き、大きさなどから選択される情報を取得するために使用され、無線局の免許を受けることなく使用することが可能である。この種の無線局は、船舶または航空機の航行以外の目的で用いる無線局であって、日本国内では、「移動体検知電波センサー用特定小電力無線局」と呼ばれている。ここに示した周波数帯は、一例であって、必要に応じて変更することが可能である。
処理部12は、混合器112が出力した混合信号のうち送信波と反射波との周波数差に相当する成分について周波数スペクトルを求める周波数分析部120を備える。周波数分析部120は、デジタル信号に対して周波数分析を行う構成であって、DFT(Discrete Fourier Transform)、FFT(Fast Fourier Transform)、DCT(Discrete Cosine Transform)などから選択される処理を行う。すなわち、周波数分析部120は、時間領域の信号(混合信号をデジタル信号に変換した時系列の信号)を周波数領域の信号に変換する直交変換を行う。なお、周波数スペクトルを求めるためにウェーブレット変換を行う構成を採用することも可能である。混合器112が出力した混合信号をデジタル信号に変換する際に、混合信号はアンチエイリアシングフィルタ(anti-aliasing filter)に通される。したがって、周波数分析部120が周波数スペクトルを求める周波数の範囲はアンチエイリアシングフィルタにより制限される。アンチエイリアシングフィルタを通過する周波数の上限値は、上述した対象空間の上限距離に応じて定められる。
混合器112が出力した混合信号に、送信波と反射波との周波数差に相当する成分の信号が含まれている場合、周波数分析部120は、時間領域の信号から図4のような周波数スペクトルを求める。すなわち、周波数分析部120は、時間領域の情報を周波数領域の情報に変換する。ここでの周波数スペクトルは、周波数分析部120が定めた複数の周波数ビンそれぞれにパワー(エネルギースペクトル密度、電力スペクトル密度)または振幅値を対応付けた形式で表される。周波数分析部120は、入力された信号に対応したデジタル信号を図5Aに示すような所定の計測期間T1ごとに周波数領域の周波数スペクトルに変換する。計測期間T1は、1回の処理周期T0を最小の期間とし、処理周期T0の整数倍に定められている。計測期間T1は一般的には1回の処理周期T0に相当する期間でよい(図5A参照)。ただし、図5Bのように、計測期間T1は複数の処理周期T0に相当する期間であってもよい。
図4に示す周波数スペクトルは、3つのピークP11、P12、P13を含んでいるから、3つのピークP11、P12、P13それぞれに対応する周波数に相当する距離に、物体Obが存在すると推定される。ただし、3つのピークP11、P12、P13が生じたとしても3つの物体Obが存在するとは限らず、1つの物体Obに対して複数のピークが生じる場合もある。
ところで、処理部12は、対象空間において静止している物体Ob(以下、「静止物」という)と、対象空間において移動している物体Ob(以下、「移動物」という)とを区別するために、第1処理部121と第2処理部122とを備える。第1処理部121は、計測期間T1ごとに得られるセンサ信号と所定の一時点で事前に得られるセンサ信号との間で静止物の成分を除去する。所定の一時点は、電波センサ10の起動時、あらかじめ設定された所定の日時、ユーザが指示した時点などである。一方、第2処理部122は、計測期間T1ごとに得られるセンサ信号の相互間で静止物の成分を除去する。
センサ信号は、送信波と反射波との周波数差の情報を含む信号であり、周波数分析部120に入力される前の時間領域の混合信号と、周波数分析部120で求めた周波数スペクトル(図4参照)を表す周波数領域の信号とから選択される。すなわち、第1処理部121と第2処理部122は、時間領域のセンサ信号と周波数領域のセンサ信号とのいずれかを用いる。
第1処理部121と第2処理部122とのどちらについても、異なる時刻に得られたセンサ信号の差を求めることが必要であり、また、2つのセンサ信号のうちの一方は他方よりも先の時刻に得られるから、先の時刻に得られたセンサ信号を記憶する必要がある。第1処理部121と第2処理部122とは、記憶する情報が異なるが同様の構成であり、図6のように、第1処理部121と第2処理部122とは、どちらも減算部12Aと記憶部12Bとを備えている。第1処理部121が備える記憶部12Bは、所定の一時点で事前に得られるセンサ信号を記憶し、第2処理部122が備える記憶部12Bは、計測期間T1ごとに記憶するセンサ信号が更新される。
図6では、第1処理部121と第2処理部122とを区別していないが、減算部12Aと記憶部12Bとは、第1処理部121と第2処理部122とが共用する場合と、第1処理部121と第2処理部122とが個別に備える場合とがある。第1処理部121と第2処理部122とが減算部12Aと記憶部12Bとを共用する場合には、第1処理部121と第2処理部122とを異なる時刻に動作させる。この場合、第1処理部121と第2処理部122とは、それぞれ処理結果を一時的に記憶する。
処理部12は、第1処理部121と第2処理部122とが、ともに周波数分析部120に前置される構成と、ともに周波数分析部120に対して後置される構成とを選択可能である。また、処理部12は、第1処理部121が周波数分析部120に前置され第2処理部122が周波数分析部120に後置される構成を採用することも可能である。
第1処理部121と第2処理部122とのどちらであっても、周波数分析部120に前置される場合は、アナログ信号を扱う構成とデジタル信号を扱う構成との選択肢が考えられる。アナログ信号を扱う場合、記憶部12Bが記憶する信号はデジタル信号に変換される。記憶部12Bに格納されたデジタル信号は、減算部12Aに与えられるときには、アナログ信号に再変換され、減算部12Aからはアナログ信号同士の差分を出力する。一方、デジタル信号を扱う場合、センサ信号(混合信号)がシリアルのデジタル信号に変換され、減算部12Aは、シリアルのデジタル信号同士の差分を出力するように構成される。
第1処理部121と第2処理部122とのどちらであっても、周波数分析部120に後置される場合は、周波数スペクトル(図4参照)を表す周波数領域の信号の差分が求められる。すなわち、周波数スペクトルの周波数ビンごとの差分が求められる。すなわち、記憶部12Bは、周波数ビンごとのパワーまたは振幅値を記憶し、減算部12Aは周波数ビンごとに差分を求める。周波数スペクトルは、縦軸がパワーであるパワースペクトルと、縦軸が振幅値である振幅スペクトルとのどちらでもよいが、以下では一例としてパワースペクトルを想定して説明する。振幅スペクトルで差分を求める場合、振幅値同士の差分演算により差分値を直接求める演算と、振幅スペクトル間の実部同士と虚部同士との差分を求めた後に得られる振幅値を差分値とする演算とのどちらを採用してもよい。また、記憶部12Bはパワーと振幅値とのどちらを記憶してもよいが、以下では一例としてパワーを記憶する場合を想定して説明する。すなわち、以下の説明において、パワーは振幅値と読み替えることができ、また、パワースペクトルは振幅スペクトルと読み替えることができる。
電波センサ10の構成として、第1処理部121と第2処理部122とのそれぞれに周波数分析部120を一対一に対応付ける構成が考えられるが、通常は第1処理部121と第2処理部122とが1つの周波数分析部120を共用する構成が採用される。第1処理部121と第2処理部122との両方が1つの周波数分析部120に前置される場合、周波数分析部120は、第1処理部121の出力と第2処理部122の出力とを異なる期間に受け取る。つまり、周波数分析部120が、第1処理部121の出力を受け取る期間と第2処理部122の出力を受け取る期間とが重複しないように、第1処理部121の出力と第2処理部122の出力とを周波数分析部120に渡すタイミングが定められる。
第1処理部121が周波数分析部120に前置され、かつ第2処理部122が周波数分析部120に後置される場合もほぼ同様である。すなわち、周波数分析部120が第1処理部121の出力を受け取る期間と、周波数分析部120が第2処理部122にセンサ信号を引き渡す期間とが重複しないように、第1処理部121と第2処理部122とが動作するタイミングが定められる。
第1処理部121と第2処理部122との両方が1つの周波数分析部120に後置される構成を採用する場合には、第1処理部121と第2処理部122との両方が、周波数分析部120から出力されるセンサ信号を同時に受け取ることが可能である。この構成を採用した場合でも、第1処理部121がセンサ信号を受け取る期間と第2処理部122がセンサ信号を受け取る期間とを重複させないように構成することは可能である。ただし、周波数分析部120から出力されるセンサ信号を、第1処理部121と第2処理部122とが同時に受け取る構成を採用することが望ましい。この構成を採用すると、第1処理部121の出力と第2処理部122の出力とに時間差が生じない上に、周波数分析部120が出力するセンサ信号を、第1処理部121および第2処理部122に入力するタイミングを調節する処理が不要になるという利点が得られる。
上述した第1処理部121と第2処理部122との配置の例を表1に示す。表1において、「第1」は第1処理部121であり、「第2」は第2処理部122である。また、表1において、「前置」は第1処理部121または第2処理部122が周波数分析部120に前置される状態、「後置」は第1処理部121または第2処理部122が周波数分析部120に後置される状態を表している。「E」は、第1処理部121または第2処理部122を設けていることを表している。なお、表1では第1処理部121または第2処理部122が周波数分析部120に前置される場合に、アナログ信号とデジタル信号とのどちらを扱うかはとくに制限していない。
ところで、周波数スペクトルから対象空間の空間情報を得るには、たとえば図4に示すように、パワーを縦軸とした周波数スペクトルであるパワースペクトルにおいて、パワーがピーク値である周波数ビンを求める。以下では、パワーがピーク値である周波数ビンを「ピーク周波数」と呼ぶ。図4に示す例において、ピーク周波数はf11、f12、f13で示されている。ピーク周波数f11、f12、f13は、物体Obからの反射波と送信波との周波数差と推定される。
ここで、第1処理部121の記憶部12Bに記憶させる情報が、対象空間に移動物が存在しない状態で取得されていれば、第1処理部121の記憶部12Bには静止物の情報のみが記憶される。このような静止物は、比較的長時間にわたって存在している物体Obと推定される。以下では、第1処理部121の記憶部12Bに情報が記憶されている物体Obを「背景物」と呼ぶ。すなわち、第1処理部121は、計測期間T1ごとに得られる情報から背景物の情報を除去した情報を出力すると言える。
静止物の情報が第1処理部121の記憶部12Bに記憶された後、対象空間に背景物のほかに物体Obが存在しない状態では、計測期間T1ごとに第1処理部121が受け取る情報は、理想的には記憶部12Bが記憶している情報に一致する。この場合、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルにはピークが生じない。しかしながら、背景物が、樹木、カーテンなどであり、背景物の一部に揺らぎが生じると、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルにピークが生じることがある。同様の事象は、背景物の形態だけではなく、送信波または反射波のマルチパスなどに起因する場合もある。
対象空間に物体Obが存在する状態では、物体Obでの反射波によって、計測期間T1ごとに第1処理部121が受け取る情報と記憶部12Bが記憶している情報との間に差異が生じる。したがって、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルには、対象空間に存在するようになった物体Obに相当するピークが生じる。
ただし、背景物の少なくとも一部と物体Obとの重なり合い、送信波または反射波のマルチパスなどに起因して、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルには、対象空間に侵入した物体Obに対応しないピークが生じることがある。たとえば、電波センサ10から見て背景物の手前に物体Obが重なる場合、背景物からの反射波が減少するから、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルにおいて背景物に対応する周波数ビンのパワーが負の値になる。また、物体Obへの送信波あるいは物体Obからの反射波にマルチパスが生じると、パワースペクトルにはマルチパスに起因したピークが生じる可能性もある。このように、第1処理部121の出力は、誤った情報を含んでいる可能性がある。
一方、第2処理部122では、記憶部12Bが記憶している情報が計測期間T1ごとに更新される。ここで、第2処理部122の減算部12Aが、計測期間T1ごとに第2処理部122が受け取った情報と、記憶部12Bが記憶している情報との差を求めることにより静止している物体Obの成分を除去するように構成されていると仮定する。また、周波数ビンのビン幅は十分に小さいと仮定する。このような仮定のもとでは、第2処理部122の出力に対応したパワースペクトルは、物体Obが移動している限り、計測期間T1ごとに変化する。つまり、第2処理部122の出力に対応したパワースペクトルにおいて、計測期間T1ごとに移動物までの距離に応じたピークが生じる。
一方、対象空間において移動していた物体Obが静止すると、第2処理部122の減算部12Aに入力された情報と記憶部12Bが記憶している情報とが実質的に等しくなる。そのため、第2処理部122の出力に対応したパワースペクトルにおいてピークが生じなくなり、対象空間に物体Obが存在しているにもかかわらず、物体Obが静止したことにより、物体Obまでの距離を求めることができなくなる可能性がある。
上述したように、第1処理部121と第2処理部122とのどちらであっても、物体Obの状態によっては、物体Obまでの距離を計測するための正しい情報が得られない可能性がある。そのため、処理部12は、第1処理部121により得られる情報と第2処理部122により得られる情報とを、条件に応じて選択する選択部123を備える。ここに、選択部123は、第1処理部121により得られる情報として、第1処理部121の出力だけではなく、第1処理部121の記憶部12Bが記憶している背景物の情報も選択可能である構成を想定している。
選択部123は、基本的には、第1処理部121により得られる情報と第2処理部122により得られる情報とから対象となる物体の条件を満たすと推定される情報を抽出するように定められる。ここでは、一例として、検知部11から出力される混合信号に含まれる情報が、背景物の情報と、背景物以外の静止物の情報と、移動物の情報と、不要な情報(目的外の情報)との4種類に分類可能であると仮定する。また、4種類の情報は、いずれも距離に変換できる情報であると仮定する。たとえば、情報がパワースペクトルにおけるピーク周波数であれば、上述した計算によって距離を求めることができる。したがって、情報は距離の値であってもよい。
以下では、説明を簡単にするために、情報がピーク周波数である場合を例とする。また、ピーク周波数のみに基づいて、第1処理部121の出力に対応したピーク周波数、および第2処理部122の出力に対応したピーク周波数を、背景物と、静止物と、移動物と、不要な情報とに対応付ける場合を想定する。
対象空間に背景物のみが存在する場合は、理想的には、第1処理部121の出力に対応したピークが生じないが、不要な情報に対応したピークが生じる可能性はある。また、対象空間に背景物ではない物体Obが存在する場合、第1処理部121の出力に対応したピークに、静止物に対応するピークと、移動物に対応するピークと、不要な情報であるピークとの1種類以上が含まれる可能性がある。ただし、ピークが、静止物に対応するか移動物に対応するか不要な情報であるかは区別できない。
第1処理部121の記憶部12Bが記憶している情報に対応するピーク周波数は、背景物の情報を表している。したがって、第1処理部121の出力に対応したピーク周波数だけで、背景物の情報を区別できるが、静止物の情報と移動物の情報と不要な情報とは区別することができない。なお、静止物の情報と移動物の情報と不要な情報とは、ピーク周波数だけでは区別できないが、ピーク周波数と併せて、パワー、時間経過に伴うピーク周波数の変化などを用いると、区別が可能になる場合がある。
第2処理部122の出力に対応したピーク周波数は、移動物に対応している。第2処理部122は、環境がほとんど変化しない程度の時間内で情報の差を求めているから、第2処理部122の出力に対応したピーク周波数では、背景物の情報、静止物の情報、不要な情報は除外されているとみなせる。したがって、第2処理部122の出力に対応したピーク周波数により、移動物の情報と、他の3種類の情報とが区別される。
上述した関係を用いると、第1処理部121は記憶部12Bが記憶している情報によって単独で背景物に対応する情報を提供し、第2処理部122は単独で移動物の情報を提供する。さらに、第1処理部121の出力に対応するピーク周波数のうち、第2処理部122の出力に対応するピーク周波数には含まれないピーク周波数は、静止物の情報と不要な情報とのいずれかに対応すると推定される。
ここで、対象空間に存在する静止物は、静止物である前には移動物であったことが推定される。そのため、第1処理部121の出力に対応したピーク周波数が静止物に相当するとすれば、そのピーク周波数は、第2処理部122の出力に対応したピーク周波数として存在した後に消失したと考えられる。したがって、第2処理部122の出力に対応したピーク周波数が消失した場合、第1処理部121の出力に対応したピーク周波数との誤差が微小な所定範囲内であるときに、該当するピーク周波数は静止物の情報と推定される。
選択部123は、第1処理部121から得られる情報と、第2処理部122から得られる情報とに関する上述のような関係を用いることによって、4種類の情報を区別することが可能である。したがって、情報の用途に応じた条件で、選択部123は、上述した4種類の情報から必要な情報を選択する。
また、選択部123は、以下の動作を行うように構成されていてもよい。ここでは、選択部123の動作説明に際して、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルの意味で、「第1処理部121の出力」と表現し、第2処理部122の出力に対応したパワースペクトルの意味で、「第2処理部122の出力」と表現する。すなわち、「第1処理部121の出力」および「第2処理部122の出力」のそれぞれは、周波数分析部120に対する第1処理部121および第2処理部122の配置に依存せず、どの配置でも等価であるとみなしている。
選択部123は、常時は第1処理部121の出力を選択し、第1処理部121の出力にピークが生じ、かつピークに対応するパワーが所定の閾値以上であるときに、第2処理部122の出力を選択する状態に移行する。すなわち、対象空間に静止物ではない物体Obが侵入するか否かを監視し、物体Obが侵入すると第2処理部122の出力を選択する状態に移行する。
第2処理部122の出力が選択されている状態で、物体Obが移動している期間には第2処理部122の出力にピークが生じる。第2処理部122の出力にピークが生じている期間には、選択部123は、計測期間T1ごとに更新される第2処理部122の出力を選択する。
一方、第2処理部122が選択されている状態で、第2処理部122の出力にピークが生じなくなると、選択部123は、第1処理部121の出力を受け取りピークが生じているか否かを判定する。第1処理部121の出力にピークが生じることは、対象空間に物体Obが存在していることを表すから、第1処理部121の出力にピークが生じていれば、選択部123は、第2処理部122の出力を受け取る。ただし、選択部123は、ピークが消失する直前の第2処理部122の出力を維持して出力する。
この状態において、選択部123は、第2処理部122から受け取っている第2処理部122の出力にピークが生じるか否かの監視を続け、第2処理部122の出力にピークが生じると、計測期間T1ごとに更新される第2処理部122の出力を選択する。なお、ピークが消失する直前の第2処理部122の出力を選択部123が維持して出力している期間において、選択部123は第1処理部121の出力を適宜のタイミングで受け取り、対象空間に物体Obが存在するか否かを判定してもよい。
第2処理部122の出力からピークが消失し、かつ第1処理部121の出力にもピークが生じない場合には、対象空間から物体Obが退出したとみなし、選択部123は、第1処理部121の出力を選択する状態に復帰する。
上述した動作例では、選択部123は、第1処理部121の出力と第2処理部122の出力とを以下のように選択している。すなわち、第1処理部121の出力によって対象空間に物体Obが存在するか否かを判断でき、第2処理部122の出力によって対象空間で移動している物体Obが存在するか否かを判断できることを利用して、選択部123での選択の条件を定めている。選択部123は、第1処理部121の出力から得られる情報と第2処理部122の出力から得られる情報とを互いに補完するように選択するから、対象となる物体Obの条件を満たす情報を抽出できる可能性が高まる。
上述した選択部123の動作は一例であり、他の動作を行うことも可能である。たとえば、選択部123は、第1処理部121の出力と第2処理部122の出力とを選択部123が交互に受け取る構成を採用してもよい。
ところで、上述したように、背景物の一部が揺れる場合、あるいは送信波あるいは反射波の経路にマルチパスが生じる場合などでは、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルにピークが生じることがある。このようなピークが生じる周波数は、時間経過に伴って変動する可能性がある。ピークが生じる周波数が変化しない場合であっても、混合信号の強度に変動が生じる可能性がある。
いま、所定の一時点において事前に得られた混合信号の周波数スペクトルが、図7Aに特性F11で示すように、3つのピークP11、P12、P13を有している場合を想定する。また、3つのピークP11、P12、P13それぞれのピーク周波数f11、f12、f13が背景物の距離に対応していると仮定する。この場合、理想的には、第1処理部121の出力に3つのピークP11、P12、P13は出現しない。すなわち、背景物のほかに物体Obが存在しなければ、理想的には、第1処理部121が出力する残差はゼロである。
しかしながら、特性F12で示すように、対象空間における背景物ではない物体Obの影響によってピークP21、P22、P23の値が変動し、第1処理部121の出力に3つのピーク周波数f11、f12、f13のいずれかが出現する場合がある。つまり、第1処理部121において、受け取った情報から記憶部12Bが記憶している背景物の情報を差し引くだけでは背景物の情報を消去できない場合がある。また、第1処理部121が出力する残差は、図7Bのように、ピークP21、P22、P23の値が大きいほど大きいという傾向が見られる。この残差はパワーが比較的小さいが、対象空間に侵入した物体Obからの反射波のパワーも比較的小さい。そのため、第1処理部121の出力に対応したパワースペクトルでは、対象空間に侵入した物体Obを背景物と区別することが困難になる場合がある。
この問題に対応するために、処理部12は周波数分析部120よりも後段に計算部124を備えることが望ましい。計算部124は、背景物に対応したピーク周波数f11、f12、f13の残差に重み係数を適用することによって、残差を低減させるように構成される。重み係数は、周波数スペクトルにおけるピークに対応付けて設定するから周波数ビンごとに定められる。具体的には、計算部124は、背景物の周波数スペクトルから周波数ビンごとに求めたパワーの逆数を重み係数とする。
たとえば、背景物の周波数スペクトルにおける周波数ビンf(j)のパワーをp(j)で表すと、周波数ビンf(j)における重み係数w(j)は、w(j)=1/p(j)で表される。ここに、jは周波数ビンを区別するための整数値である。パワーp(j)が0である場合、重み係数w(j)はあらかじめ定めた固定値が選択される。このように定めた重み係数w(j)は、背景物に相当する周波数ビンf(j)に対しては相対的に小さい値であり、背景物ではない周波数ビンf(j)に対しては相対的に大きい値になる。
計算部124は、選択部123が第1処理部121の出力を選択している期間に、パワースペクトルの残差に対し、周波数ビンf(j)それぞれに重み係数w(j)を適用する。つまり、残差の周波数ビンf(j)ごとのパワーp(j)それぞれに、対応する重み係数w(j)を乗じる。残差に重み係数w(j)を適用すると、背景物に対応する周波数ビンf(j)のパワーは相対的に小さくなり、背景物ではない周波数ビン(j)のパワーは相対的に大きくなる。
計算部124によりパワースペクトルの残差に重み係数を乗じると、第1処理部121の出力に対応するパワースペクトルにおいて、背景物に対応した周波数ビンf(j)のパワーp(j)がほぼ消去される。また、第1処理部121の出力に対応するパワースペクトルにおいて、対象空間に侵入した物体Obに対応した周波数ビンf(j)のパワーp(j)が相対的に大きくなる。言い換えると、対象空間に侵入した物体Obと背景物とに対応した周波数ビンf(j)のパワーp(j)の差が大きくなる。
上述のように、計算部124を設けておけば、第1処理部121の出力に対応するパワースペクトルのパワーに適宜の閾値を用いて、対象空間に侵入した物体Obに対応したパワーp(j)を残し、背景物に対応したパワーp(j)を消去することが可能である。つまり、第1処理部121の出力に対応するパワースペクトルの周波数ビンf(j)ごとにパワーを閾値と比較するだけの簡単な処理で、対象空間に侵入した物体Obを検出する精度が高まる。
ところで、処理部12は、選択部123が選択した情報から物体Obまでの距離に相当する距離データを求める距離処理部125と、距離データから物体Obの移動する速度に相当する速度データを求める速度処理部126とを備えることが望ましい。ただし、速度処理部126は必須ではなく、処理部12は、距離処理部125と速度処理部126とのうち距離処理部125のみを備える構成であってもよい。
距離処理部125は、選択部123が出力する周波数成分からピーク周波数(図4におけるf11、f12、f13に相当)を求め、ピーク周波数を物体Obまでの距離に相当する距離データとして求める。すなわち、距離処理部125は、選択部123が出力する周波数成分のうち極大値となる周波数ビンの値を距離データとして求める。選択部123が出力した周波数成分から複数のピーク周波数が抽出された場合には、距離処理部125は、複数のピーク周波数それぞれを距離データとする。
速度処理部126は、距離データの時系列から異なる時刻における距離データの差を速度データとして求める。たとえば、距離データをL1(i)で表し、速度データをV1(i)で表すと、距離データL1(i)と速度データV1(i)とは、V1(i)=L1(i)−L1(i+1)という関係で表される。ここに、変数iは、距離データおよび速度データの時系列における並び順を表しており、計測期間T1と一対一に対応する。言い換えると、変数iは時刻に対応する。
上述した速度データは、正値、ゼロ、負値のいずれかに分類される。速度データがゼロであることは、物体Obまでの距離に変化がないことを表している。さらに、上述のように定義した速度データは、負値であれば物体Obまでの距離が増加していること、すなわち物体Obが電波センサ10から遠ざかっていることを表し、正値であれば物体Obが電波センサ10に近づいていることを表す。また、速度データの絶対値は、計測期間T1において物体Obが移動した距離であるから、物体Obが移動した速さに相当する。要するに、速度データは、物体Obが移動している向きおよび速さの情報とを含む。
速度データが時系列で隣接している2個の距離データの差であることは必須ではなく、速度データは、3個以上の距離データを用いて求めることが可能である。距離データと速度データとは、たとえば、V1(i)=L1(i−1)−L1(i+1)という関係でもよい。また、距離データと速度データとは、V1(i)={L1(i−1)−L1(i+1)}/2という関係でもよく、V1(i)=[{L1(i)−L1(i+1)}+{L1(i−1)−L1(i))}]/2という関係でもよい。速度データは、物体Obの速度の情報であるから、これらの例に限らず、適宜に定めることが可能である。なお、時間経過に伴って送信波の周波数を上昇させる期間と、時間経過に伴って送信波の周波数を下降させる期間とを持つように送信波の周波数を変化させ、2つの期間のビート周波数の周波数差から物体Obの速度を求めてもよい。
ところで、処理部12は、距離データの値に基づいて対象空間の範囲を定めている。対象空間の範囲を定めるために、処理部12は、距離データの値に対して1つ以上の区間を定める区間設定部127を備える。つまり、区間設定部127は、1つの区間について距離データの範囲が定められており、定められた範囲内の距離データを通過させる。
距離処理部125が求めた距離データが、区間設定部127が定めた範囲を逸脱している場合、その距離データは処理対象外として扱われ、区間設定部127を通過した距離データのみが、処理対象として扱われる。たとえば、物体Obまでの距離を求めるには、区間設定部127を通過した処理対象の距離データが用いられる。また、処理部12が速度処理部126を備える場合、速度処理部126は区間設定部127を通過した距離データを受け取る。
対象空間において距離データを求めている物体Obの同一性を判断するには、距離および速度にそれぞれ範囲を定め、しかも距離および速度の範囲を比較的広く設定する必要がある。距離データが単一の物体Obに対応しているか否かを判断するために、速度処理部126は、距離データを用いて追尾処理を行うように構成されている。また、追尾処理を行う際には、距離処理部125が出力した距離データを修正した修正距離データが求められ、速度データは修正距離データに基づいて求められる。速度処理部126は、計測期間T1ごとに得られる距離データおよび速度データが単一の物体Obに対応すると判断できる場合に、該当する物体Obの距離データおよび速度データにラベルを付与する。
処理部12は、ラベルが付与された距離データを送信波と反射波との周波数差に相当するとみなし、距離データに基づいて距離を計算することが可能である。また、ラベルが付与された速度データがあれば、処理部12は、速度データに基づいて速度を計算することが可能である。ラベルは物体Obに対応付けて定められるから、単一の物体Obに対応した距離データおよび速度データには、同じラベルが付与される。なお、距離データから距離を求める計算、あるいは速度データから速度を求める計算は必須ではなく、電波センサ10の用途に応じて適宜に実施される。
ところで、周波数スペクトルにおけるピーク周波数は、静止している単一の物体Obであっても変動することがある。すなわち、物体Obがカーテン、樹木などであって、物体Obの一部が揺れる場合、あるいは送信波と反射波との少なくとも一方の経路にマルチパスが生じる場合には、ピーク周波数に揺らぎが生じる可能性がある。言い換えると、単一の物体Obについて得られる距離データであってもばらつきの程度が比較的大きくなる可能性がある。距離データにばらつきが大きくなれば、速度データのばらつきも大きくなる。
距離データのばらつきが大きい場合には、距離データに基づいて単一の物体Obとして認識する範囲を広げる必要がある。しかしながら、単一の物体Obと判断する距離データの範囲を広げると、対象空間に複数の物体Obが存在する場合に、距離データに対して誤ったラベルを付与する可能性が高くなる。たとえば、速度の差が比較的小さい2つの物体Obが対象空間に存在すると仮定し、2つの物体Obに対する距離データの値がほぼ等しくなったとすると、2つの物体Obを区別することが困難になる。
そのため、速度処理部126は、以下の処理を行うことによって、距離データおよび速度データのばらつきを抑制するように構成されていることが望ましい。速度処理部126が以下の処理を行うことは必須ではないが、距離データおよび速度データに対して誤ったラベルを付与する可能性を低減するには以下の処理を行うことが望ましい。
速度処理部126は、たとえば、以下の関係式を用いることにより、同一物から得られる距離データおよび速度データを真値に近づけるように追尾する。言い換えると、速度処理部126は、距離処理部125が出力した距離データのばらつきを抑制して真値に近づけた修正距離データを求め、修正距離データを用いて速度データを求める。
Xs(k)=Xp(k)+α{Xm(k)−Xp(k)}
Vs(k)=Vs(k−1)+β{Xm(k)−Xp(k)}/T1
Xp(k+1)=Xs(k)+Vs(k)・T1
ここにおいて、Xm(k)は距離処理部125がk番目に出力した距離データを意味しており、Xs(k)は計算で求めたk番目の修正距離データである。また、Vs(k)は計算で求めた速度データであり、Xp(k)はk番目の距離データの予測値である。距離データは距離に読替可能であり、速度データは速度に読替可能である。
ここに、定数αと定数βとは、たとえば、β=α2/(2−α)の関係となるように定められている。定数αと定数βとは、この関係に限らないが、この関係を用いることにより比較的よい結果が得られている。修正距離データXs(k)および速度データVs(k)は、定数α、βが小さいほどノイズの影響を受けにくく、定数α、βが大きいほど急峻な変化の影響を受けにくい。したがって、目的に応じて定数α、βの大きさが定められる。
上述した関係式を用いるには、距離データの予測値Xp(k)に関する初期値Xp(1)、および速度データVs(k)に関する初期値Vs(0)が必要である。ここでは、距離データの予測値Xp(k)に関する初期値Xp(1)は、距離データXm(1)で代用する(すなわち、Xp(1)=Xm(1))。また、速度データVs(k)に関する初期値Vs(1)は、距離データXm(2)と距離データXm(1)との差を採用する(すなわち、Vs(1)=Xm(1)−Xm(2))。
上述した初期値を適用すれば、上述した3つの式の値は、距離データXm(k)に基づいて求められる。すなわち、距離処理部125から出力される距離データXm(k)に基づいて、速度処理部126は、距離データの予測値Xp(k)を求めることによって、距離データXm(k)のばらつきを抑制した修正距離データXs(k)を求める。さらに、速度処理部126は、修正距離データXs(k)に基づいて、ばらつきを抑制した速度データVs(k)を求める。このように距離データおよび速度データのばらつきが抑制されていると、対象空間に複数の物体Obが存在していても、複数の物体Obそれぞれの距離と速度とを合理的に対応付けることによって、複数の物体Obそれぞれに誤りなくラベルを付与できる可能性が高くなる。
いま、図8Aのように、時間経過に伴って物体Obの位置が変化したとする。図8Aの例では、物体Obが、約11[m]の距離から電波センサ10に接近し、約0[m]まで近づいた後に、電波センサ10から遠ざかっている。図8Aでは、物体Obが移動する速さは、ほぼ一定であり、約1.5[m/s]である。定数αを0.3、定数βを0.0529に定めて、上述した計算を行ったところ、図8B、図8Cに示す結果が得られた。図8Bにおいて、ドットXmは距離の測定値Xm(k)の誤差、特性Xsは距離の計算値Xs(k)の誤差を表している。すなわち、電波センサ10から物体Obまでの距離の真値をXt(k)とすると、ドットXmはXm(k)−Xt(k)を表し、特性XsはXs(k)−Xt(k)を表す。また、図8Cにおいて、特性Vmは距離の測定値Vm(k)から求めた速度の測定値を表しており、特性Vsは速度の計算値Vs(k)を表している。図8B、図8Cによれば、速度処理部126が上述した処理を行うことによって、距離データおよび速度データのばらつきが抑制されていることがわかる。
距離データおよび速度データのばらつきを抑制するために用いた上述の関係式は、ばらつきを抑制する原理を表した一例にすぎない。ここでは、測定値と予測値との差分に定数α、βを乗じる関係式を用いているから、定数α、βの値を適宜に定めることにより、距離データおよび速度データのばらつきの程度を調節することが可能である。
この種の処理を行う構成は、追尾フィルタと呼ばれており、上述した関係式を用いるαβフィルタのほかにも追尾フィルタは数種類が知られている。すなわち、速度処理部126には、他の追尾フィルタを用いることが可能である。速度処理部126は他の関係式を用いて距離データおよび速度データのばらつきを抑制してもよい。
ところで、上述した動作例では、背景物のほかには対象空間に1つの物体Obのみが存在する場合について説明したが、背景物のほかに複数の物体Obが対象空間に存在する場合もある。以下では、背景物のほかに複数の物体Obが対象空間に存在する場合の動作について説明する。対象空間に存在する物体Obについては、上述したように、追尾処理により距離データおよび速度データのばらつきが抑制される。
ここで、距離データが時間経過に伴って図9のように変化したと仮定する。図9は計測期間T1ごとに求められた距離データの時間変化を示すグラフの例であり、横軸が時間、縦軸が距離データの値を表している。図9には、背景物などで生じた不要な情報と、対象空間において移動している物体Obの情報とが表されている。背景物の情報および不要な情報は、図9において特性L11で表されている。背景物の情報は、時間が経過しても距離データの値はほとんど変化せず、距離データの値の変化は誤差の範囲内である。一方、図9において特性L12と特性L13とは、一時的には距離の変化がほとんどない期間が生じているが、ほとんどの期間で時間経過に伴って距離が変化している。すなわち、特性L12と特性L13とは、対象空間に存在する異なる2つの物体Obに対応していると推定される。
図9のようなグラフが得られた場合に、人が見れば、これらの特性のうちL11のような時間変動を示す特性が背景物などで生じた不要な情報に対応し、特性L12と特性L13とが異なる2つの移動物に対応することを容易に判断することができる。しかしながら、処理部12にとって特性L12と特性L13とが異なる2つの移動物に対応すると認識するのは容易ではない。そこで、処理部12は判断部128を備えている。
判断部128は、計測期間T1ごとに得られる距離データおよび速度データの追跡を行い、追跡が可能である場合に同一の物体Obとして認識する。判断部128は、実際には修正距離データを用いるが、以下では単に距離データと記載する。判断部128は、距離データの時間変化が同一の物体Obと合理的に判断でき、かつ速度データの時間変化が同一の物体Obと合理的に判断できることを条件とする。距離データおよび速度データの追跡を行う場合、判断部128は、基本的には、時系列において隣接する2つの距離データの関係、および時系列において隣接する2つの速度データの関係を評価する。ただし、判断部128は、距離データと速度データとの少なくとも一方について、3つ以上の関係を評価することにより追跡を行ってもよい。
判断部128が用いる条件の一例を以下に説明する。ここでは、判断部128が、時系列において隣接する2つの距離データの関係と、時系列において隣接する2つの速度データの関係とを評価する場合を例として説明する。また、距離データが時間経過に伴って図9に示すように変化する場合を例とする。図9に示す特性L12および特性L13では、物体Obまでの距離データがほとんど変化しない期間Tnがあり、また交差している部分Pxが2箇所ある。ここで、距離データが交差していることは、必ずしも2つの物体Obが接近していることを表しているわけではなく、単に電波センサ10からの距離がほぼ等しいことを表している。
特性L12と特性L13とが交差していない期間、つまり同時刻における2つの距離データの差が、所定の判断閾値より大きいという条件が成立している期間には、物体Obそれぞれに対応した距離データの追跡を個別に行うことが可能である。すなわち、距離データおよび速度データが上述した追跡の条件を満足すれば、判断部128は、条件を満足した距離データを同一の物体Obに対応すると推定する。
一方、同時刻における2つの距離データの差が、所定の判断閾値以下であるという条件が成立している期間には、2つの物体Obが電波センサ10からほぼ同じ距離に存在していることを表しているから、距離データが交差する確率が高くなる。距離データが交差する場合、交差前の2つの距離データと交差後の2つの距離データとの対応関係を保証しなければならない。上述したように、距離データにはラベルが付与される。すなわち、交差前の2つの距離データと交差後の2つの距離データとに正しくラベルを付与する必要がある。
同時刻における2つの距離データの差が判定閾値以下であるという条件下では、判断部128は、当該2つの距離データに一対一に対応する2つの速度データと、一時点前の計測期間T1における2つの速度データと比較する。同時刻における2つの距離データの差が判定閾値以下になった時点では、当該2つの距離データに一対一に対応する2つの速度データにはラベルが付与されていないが、1つ前の計測期間T1における2つの速度データそれぞれにはラベルが付与されている。そのため、判断部128は、1つ前の計測期間T1における2つの速度データと、ラベルが付与されていない2つの速度データとを比較することによって、ラベルが付与されていない2つの速度データそれぞれにラベルを付与する。
ここでは、ラベルが付与されていない速度データを「対象データ」と呼び、1つ前の計測期間T1における速度データを「直前データ」と呼ぶ。直前データには、ラベルが付与されている。判断部128は、2つの直前データそれぞれに対応する2つのラベルを把握しているから、2つの直前データそれぞれと2つの対象データとを比較することにより、2つの対象データそれぞれにラベルを一対一に対応付けることが可能である。
具体的には、判断部128は、1つの物体Obに関して言えば、時系列において隣接する速度データの差は比較的小さいという経験則によって、2つの対象データそれぞれにラベルを対応付ける。この経験則によれば、対象データと直前データとの差が小さいほど、対象データと直前データとが同一の物体Obに対応する可能性が高いと言える。そこで、判断部128は、2つの対象データそれぞれと、2つの直前データのうちの一方との差を求め、差が小さいほうの対象データに差を求めた直前データと同じラベルを対応付ける。判断部128は、残りの対象データに対しては、2つの直前データのうちの他方のラベルを対応付ければよい。
判断部128は、同時刻における2つの距離データの差が判定閾値以下である期間は、上述した処理によって対象データにラベルを付与する。この処理により、2つの距離データが交差していたとしても、ラベルが誤りなく対応付けられ、2つの距離データを個別に追跡できる可能性が高くなる。つまり、人が距離データを追跡する場合と同程度の結果が得られる。図9に示す動作例では、理解を容易にするために、2つの距離データについて説明したが、同時刻に3つ以上の距離データが生じている場合も同様の処理が行われる。すなわち、2つずつの距離データの差を評価し、いずれかの差が判定閾値以下であれば、速度データの時間変化に基づいて距離データを追跡すればよい。
なお、上述した構成例において、距離処理部125および速度処理部126が選択部123に後置されているが、距離処理部125および速度処理部126が選択部123に後置されるように構成してもよい。
上述した処理部12は、マイコン(Microcontroller)を主なハードウェア要素として構成されている。マイコンは、プログラムに従って動作するプロセッサと、プロセッサを動作させるプログラムを格納するためのメモリおよび作業用のメモリとを備えた1チップのデバイスとして構成される。処理部12は、マイコンではなく、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、DSP(Digital Signal Processor)、PIC(Peripheral Interface Controller)などから選択されるデバイスで構成されていてもよい。あるいは、処理部12は、MPU(Micro Processing Unit)のようにプロセッサのみを備え、メモリを接続して用いられるデバイスで構成されていてもよい。
処理部12が複数のプロセッサを備える場合には、第1処理部121と第2処理部122とを同時に動作させることが可能である。また、第1処理部121と第2処理部122とを周波数分析部120の後段に設ける構成(表1の構成3)を採用する場合、第1処理部121と第2処理部122とが周波数分析部120を共用することが可能である。周波数分析部120の後段では前段よりも情報量が圧縮されるから、第1処理部121および第2処理部122が周波数分析部120の後段に設けられることにより処理負荷の軽減につながる。
処理部12が単一のプロセッサで構成される場合には、処理部12は、第1処理部121と第2処理部122とのプロセスを切り替えて実施する。すなわち、処理部12は、マルチタスクの機能を持つ。第1処理部121と第2処理部122とのプロセスは、交互に切り替えることが可能であるが、第1処理部121のプロセスと、第2処理部122のプロセスとを適宜の比率で行うようにしてもよい。たとえば、第1処理部121のプロセスに対して、第2処理部122のプロセスの割合を1:10などに設定することが可能である。あるいは、第1処理部121のプロセスと第2処理部122のプロセスとを切り替える条件を定めておき、条件の成立によって第1処理部121のプロセスと第2処理部122のプロセスとを切り替えるようにしてもよい。第1処理部121のプロセスと第2処理部122のプロセスとを切り替える条件は、たとえば、上述した選択部123が用いた条件に準じて定められる。なお、第1処理部121のプロセスおよび第2処理部122のプロセスに当てる最小の時間は計測期間T1であり、計測期間T1の最小の時間は処理周期T0である。
プログラムは、メモリのうちのROM(Read Only Memory)に格納された状態で提供されるほか、コンピュータで読取可能な光ディスクあるいは外部記憶装置のような記録媒体で提供することも可能である。また、インターネットのような電気通信回線を通してプログラムが提供されてもよい。記憶媒体または電気通信回線を通して提供されるプログラムは、書換可能な不揮発性のメモリに格納される。
また、区間設定部127は、ユーザが操作する外部装置と通信するインターフェイス部として構成されていればよい。この種の外部装置は、専用の設定器のほか、汎用のパーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末などから選択される。
ところで、図10に示すように、上述した電波センサ10は設備機器20が備えていてもよい。この設備機器20は、負荷装置21と電波センサ10とを備え、電波センサ10が監視している物体Obの状態に応じて、負荷装置21の動作が指示されるように構成される。たとえば、負荷装置21が照明装置であって、電波センサ10が対象空間に物体Obとしての人が存在するか否かを監視するとすれば、対象空間に人が存在する期間に照明装置を点灯させるように設備機器20を構成することが可能である。
以上説明した電波センサ10は、検知部11と処理部12とを備える。検知部11は、所定の計測期間T1内で時間経過に伴って周波数が変化する電波を対象空間に放射し、かつ対象空間から電波を受信する。処理部12は、複数の計測期間T1それぞれにおいて、放射した電波と受信した電波との周波数差の情報を含むセンサ信号に基づいて対象空間に存在する物体までの距離を計測する。処理部12は、第1処理部121と第2処理部122と選択部123とを備える。第1処理部121は、所定の一時点で事前に得られるセンサ信号を記憶し、記憶したセンサ信号と複数の計測期間T1それぞれで得られるセンサ信号との間で静止している物体の情報を除去する。第2処理部122は、複数の計測期間T1それぞれで得られるセンサ信号の相互間で静止している物体の情報を除去する。選択部123は、第1処理部121の出力から得られる情報と第2処理部122の出力から得られる情報とから所定対象となる物体の条件を満たす情報を選択する。
この構成によれば、第1処理部121の出力から得られる情報により、対象空間に定常的に存在している物体Obの情報を除外して、対象空間に新たに侵入した物体Obの情報を得ることができる。また、第2処理部122の出力から得られる情報により、対象空間において静止している物体Obの情報を除外して、対象空間において移動している物体Obの情報を得ることができる。そして、第1処理部121の出力から得られる情報と第2処理部122の出力から得られる情報とを、条件に応じて選択部123が選択するから、第1処理部121の出力から得られる情報と第2処理部122の出力から得られる情報とが補完される。その結果、物体Obが背景物の前に存在する場合、あるいは対象空間において物体Obが静止している場合であっても、物体Obに関する情報を正しく抽出できる可能性が高くなる。
検知部11は、送信用アンテナ115と受信用アンテナ116とをそれぞれ備えることが望ましい。この構成によれば、図1で例示するFMCW方式のような測距技術において、送信波の受信側への回り込みを減らすことが可能である。そのため、送信波の回り込みによる受信側での測距方式原理上で不要な混合による信号の発生が低減可能である。
処理部12は、距離処理部125と速度処理部126とを備えることが望ましい。距離処理部125は、上述の周波数差から物体Obまでの距離に相当する距離データを複数の計測期間T1それぞれにおいて求める。また、速度処理部126は、複数の計測期間T1それぞれで求めた複数の距離データと計測期間T1の長さとから物体Obの速度に相当する速度データを求める。さらに、速度処理部126は、距離データの時系列に基づいて真値に近づくようにばらつきを抑制した修正距離データを求め、かつ修正距離データを用いて速度データを求めるように構成されていることが望ましい。
この構成によれば、物体Obの一部の揺らぎに起因する距離データのばらつき、送信波あるいは反射波のマルチパスなどに起因する距離データのばらつきなどが抑制される。すなわち、物体Obに距離データを対応付ける処理が容易になる。また、修正距離データを用いて速度データを求めるから速度データのばらつきも抑制される。
処理部12は、判断部128を備えることが望ましい。判断部128は、速度処理部126が同時刻に複数の修正距離データを出力し、かつ同時刻における複数の修正距離データの間の差が所定の判断閾値以下である期間に、複数の修正距離データそれぞれを時間変化に基づいて個別に追跡する。
この構成によれば、複数の物体Obについて同時刻に複数の修正距離データが得られた場合に、個々の物体Obから得られた修正距離データを個別に追跡することができる。すなわち、同時刻に得られた複数の修正距離データの間の差が判断閾値以下である場合に、複数の修正距離データそれぞれを個別に追跡するから、修正距離データを物体Obに正しく対応付けることが可能になる。すなわち、修正距離データだけでは複数の物体Obを区別できない場合でも、修正距離データの時間変化を用いて複数の物体Obを個々に区別できる可能性を高め、物体Obと修正距離データとを正しく対応付けることが可能になる。
処理部12は、修正距離データの値に対して1つ以上の区間を定める区間設定部127を備えていてもよい。この場合、区間設定部127が定めた特定の区間を対象空間とすることが望ましい。
この構成によれば、対象空間の設定が可能であり、しかも対象空間を複数の区間に分割して設定することも可能である。
センサ信号は、検知部11が放射した電波に相当する信号と受信した電波に相当する信号とを混合した時間領域の信号であることが好ましい。また、センサ信号は、検知部11が放射した電波に相当する信号と受信した電波に相当する信号とを混合した後に周波数分析を行った周波数領域の信号であってもよい。センサ信号が時間領域の信号である場合、第1処理部121と第2処理部122とは、静止している物体Obの情報を時間領域において除去するように構成されていればよい。また、センサ信号が周波数領域の信号である場合、第1処理部121と第2処理部122とは、静止している物体Obの情報を周波数領域において除去するように構成されていればよい。さらに、センサ信号が時間領域の信号と周波数領域の信号とである場合、第1処理部121は、静止している物体Obの情報を時間領域において除去し、第2処理部122は、静止している物体Obの情報を周波数領域において除去するように構成されていてもよい。
これらの構成は、静止している物体Obの情報を除去するための具体例である。センサ信号が時間領域の信号である場合は、静止している物体Obの成分を時間領域において除去することになる。すなわち、背景物の成分が除去された混合信号の周波数分析を行えばよいから、周波数分析を行う際の処理負荷が軽減される可能性がある。
一方、センサ信号が周波数領域の信号である場合は、静止している物体Obの成分を周波数領域において除去することになる。送信波または反射波のマルチパスなどがあると、混合信号では静止している物体Obに相当する成分に変動が生じる可能性があるが、混合信号から周波数スペクトルを求める過程において、このような変動の影響が緩和されるから、静止している物体Obに対応する成分の除去が容易である。
上述した設備機器20は、電波センサ10と、電波センサ10が監視している物体Obの状態に応じて動作が指示される負荷装置21とを備える。
この構成によれば、物体Obの状態に応じて、負荷装置21の動作が指示可能である。
物体Obの状態には、たとえば、物体Obが所定の距離に存在するか否かという状態、物体Obが電波センサ10に近づいているか遠ざかっているかという状態などがある。したがって、照明装置、空調装置、表示装置、自動ドアなどの各種の負荷装置21の動作を物体Obの状態に応じて制御することが可能になる。たとえば、負荷装置21が街路灯のような照明装置である場合、人が存在する領域と人が存在しない領域とを電波センサ10が監視し、それぞれの領域に対応した照明装置の点灯状態を制御することが可能である。
なお、上述した実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることはもちろんのことである。