図1は、本発明の一の実施の形態に係る浮体構造物1を示す側面図である。図2は、浮体構造物1を示す平面図である。図3は、浮体構造物1を示す正面図である。浮体構造物1は、水面に浮かぶ構造物である。図1ないし図3に示す例では、浮体構造物1は、海底に係留されて風力発電を行う風力発電用の浮体構造物である。浮体構造物1は、カテナリー係留により3点係留されている。浮体構造物1の係留方法および係留点の数は、様々に変更されてよい。
浮体構造物1は、浮体本体2と、推力発生機構3と、風車4とを備える。なお、図3では、風車4については、一部のみを示す。浮体本体2は、水面に浮かぶ構造物である。図1ないし図3に示す例では、浮体本体2は略直方体状である。浮体本体2は、平面視において略矩形であり、例えば略正方形である。浮体本体2の中央部には、上下方向に浮体本体2を貫通する貫通孔21が設けられる。貫通孔21は、平面視において略矩形であり、例えば略正方形である。浮体本体2は、例えば鉄筋コンクリート製である。浮体本体2の平面視における形状は、例えば、1辺が約50mの略正方形である。また、浮体本体2の深さは約10mであり、浮体本体2の喫水は約5mである。貫通孔21の平面視における形状は、1辺が約25mの略正方形である。
浮体本体2は、図1および図2中の左側に位置する一の側面を、波の主方向の上流側である波上側に向けて配置される。換言すれば、図1および図2中の左側が波上側であり、右側が波下側である。以下の説明では、浮体本体2の波上側の側面を「前面22」と呼び、波下側の側面(すなわち、図中の右側の側面)を「後面23」と呼ぶ。また、図1および図2中の左右方向を「前後方向」と呼び、図2中の上下方向および図3中の左右方向を「幅方向」と呼ぶ。図3は、浮体構造物1を浮体本体2の前面22側から見た図である。図1ないし図3に示す例では、浮体本体2の前端部の幅方向中央部、および、浮体本体2の後端部の幅方向両端部に、係留索91が接続される。
浮体本体2は、振動水柱部24と、振動浮体25とを備える。振動水柱部24および振動浮体25は、貫通孔21よりも前側に配置される。図1ないし図3に示す例では、振動水柱部24および振動浮体25は、浮体本体2の波上側の端部において、幅方向の中央部に設けられる。図4は、浮体構造物1の波上側の部位を拡大して示す幅方向に垂直な断面図である。図4では、浮体構造物1の一部の構成については側面を示す。
図1ないし図4に示すように、振動水柱部24は、浮体本体2の前面22から後方に凹み、かつ、浮体本体2の底面26から上方に凹む凹部である。換言すれば、振動水柱部24は、浮体本体2の前端部かつ幅方向中央部において、前方および下方に開放された空間である。振動水柱部24は、浮体本体2の外壁により上側、後側(すなわち、波下側)、および、幅方向の両側を囲まれている。振動水柱部24は、当該外壁により浮体本体2の内部空間から隔絶された略直方体状の空間であり、水中に開放されている。したがって、振動水柱部24内には、浮体本体2の周囲の水に連続する水が存在する。
振動水柱部24は、前部隔壁241と、一対の側部隔壁242と、仕切壁243と、仕切突出部244と、透過壁245と、上部隔壁246とを備える。前部隔壁241は、振動水柱部24の後端に位置する。前部隔壁241は、浮体本体2の外壁の一部であり、浮体本体2の前後方向の中央部よりも波上側において上下方向に延びる。前部隔壁241は、前後方向に略垂直である。一対の側部隔壁242は、前部隔壁241の幅方向の両端から前方に延びる。一対の側部隔壁242は、浮体本体2の外壁の一部であり、浮体本体2の前後方向の中央部よりも波上側において上下方向に延びる。一対の側部隔壁242は、幅方向に略垂直である。前部隔壁241および一対の側部隔壁242は、水上(すなわち、水面よりも上側)から水中まで上下方向に延びる。換言すれば、前部隔壁241および一対の側部隔壁242は、水面を貫通する。
仕切壁243は、前部隔壁241の波上側(すなわち、前側)において前部隔壁241に対向して配置される板状部材である。仕切壁243は、前後方向に略垂直な略平板状の部材である。換言すれば、仕切壁243は、前部隔壁241から前方に離間しており、仕切壁243と前部隔壁241とは略平行である。仕切壁243は、水上から水中まで上下方向に延びる。すなわち、仕切壁243は水面を貫通する。仕切壁243の下端は、前部隔壁241の下端よりも上側に位置する。仕切壁243の幅方向の両端は、一対の側部隔壁242に接続される。
仕切突出部244は、仕切壁243の下端から波上側に(すなわち、前方に)延びる板状部材である。仕切突出部244は、上下方向に略垂直な略平板状の部材である。換言すれば、仕切壁243および仕切突出部244は、幅方向に垂直な断面が略L型の板状部材である。仕切突出部244は、水中にて前後方向に延びる。仕切突出部244の幅方向の両端は、一対の側部隔壁242に接続される。仕切突出部244の前端は、一対の側部隔壁242の前端と、前後方向において略同じ位置に位置する。仕切壁243および仕切突出部244は、水を透過しない不透過部材である。
上部隔壁246は、仕切壁243の上端から前方に延びる。上部隔壁246の幅方向の両端は、一対の側部隔壁242に接続される。上部隔壁246は、上下方向に略垂直であり、仕切突出部244に略平行である。上部隔壁246は、仕切突出部244と上下方向において対向する。上部隔壁246は、浮体本体2の上面27よりも下側に位置する。
透過壁245は、仕切壁243よりも波上側に配置され、水上から水中まで広がる。透過壁245は、波上側から入射する波を透過する壁状の構造である。透過壁245と仕切壁243との間の空間は、透過壁245を透過した波が流入する遊水室である。透過壁245に入射した波のエネルギーは、透過壁245を透過する際、および、遊水室内において消費される。このため、仕切壁243に作用する波の力が低減される。また、仕切壁243からの反射波が低減される。換言すれば、透過壁245および上記遊水室により、浮体本体2に入射する波の力が低減される。
図1ないし図4に示す例では、透過壁245は、複数の柱部材247を備える縦スリット部である。複数の柱部材247は、仕切壁243に沿って互いに離間しつつ配列される。複数の柱部材247はそれぞれ、水上から水中まで上下方向に略平行に延びる。換言すれば、各柱部材247は、水面を貫通する。各柱部材247は、例えば角柱状であってもよく、円柱状であってもよい。複数の柱部材247は、振動水柱部24の前端部に配置される。各柱部材247の下端部は、仕切突出部244の前端部に接続される。また、各柱部材247の上端部は、上部隔壁246の前端部に接続される。換言すれば、仕切突出部244は、複数の柱部材247を介して浮体本体2に接続される。
振動水柱部24では、図4に示すように、前部隔壁241と仕切壁243との間の空間に振動水柱240が位置する。具体的には、振動水柱部24内の水が、前部隔壁241、一対の側部隔壁242および仕切壁243により周囲を囲まれることにより(すなわち、側方を全周に亘って囲まれることにより)、振動水柱240が形成される。振動水柱部24では、浮体本体2に対して波上側から入射する波により、内部の振動水柱240の水面が昇降する。振動水柱部24の幅(すなわち、一対の側部隔壁242間の幅方向の距離)は、例えば、5m以上かつ50m以下である。図1ないし図4に示す例では、振動水柱部24の幅は、約12.5mである。
振動浮体25は、振動水柱部24の振動水柱240の水面に浮かぶ部材である。振動浮体25は、例えば、略平板状または略直方体状である。振動浮体25は、例えば、振動水柱240の水面の中央部に浮かんでおり、振動水柱240の周囲の壁(すなわち、前部隔壁241、一対の側部隔壁242および仕切壁243)に接触しないように、図示省略のガイド部材によりガイドされている。
推力発生機構3は、浮体本体2に接続される機構である。詳細には、推力発生機構3は、浮体本体2の振動浮体25に機械的に接続される。推力発生機構3は、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによって駆動されることにより、波上側に向かう推力を発生する。
推力発生機構3は、水中翼31と、翼角変更機構33とを備える。水中翼31は、平面視において略矩形の略板状部材である。図4に示すように、水中翼31は、波上側に前縁311を向けて、浮体本体2の波上側に配置される。水中翼31の後縁312は、波下側に配置される。図4に示す例では、水中翼31は、浮体本体2の前面22よりも前側、かつ、浮体本体2の底面26よりも上側に配置される。より具体的には、水中翼31は、振動水柱部24の波上側において仕切突出部244よりも前方に配置され、透過壁245と前後方向に対向する。
水中翼31の幅方向に垂直な断面形状(すなわち、翼型)は、例えば、前縁311から後方に向かうに従って厚さが漸次増大し、前後方向の中央部よりも前側にて最大厚さとなった後に、後縁312に向かって漸次減少する形状(いわゆる、翼形状)である。図4に示す例では、水中翼31は対称翼(いわゆる、上下対称翼)である。換言すれば、水中翼31の上面と下面とは、前縁311と後縁312とを結ぶ直線である翼弦線(基線ともいう。)に対して線対称である。
水中翼31の翼幅(すなわち、水中翼31の幅方向の端縁間の距離)は、例えば5m以上かつ50m以下であり、本実施の形態では約10mである。水中翼31の翼弦長は、好ましくは上記翼幅以下である。水中翼31の翼弦長は、例えば1m以上かつ10m以下であり、本実施の形態では約7.5mである。水中翼31の翼厚比は、例えば5%以上30%以下であり、本実施の形態では約20%である。水中翼31は、入射する波の力では変形しない(すなわち、形状が維持される)剛体である。水中翼31は、例えば、鉄等の金属製である。
翼角変更機構33は、水中翼31と振動浮体25とを機械的に接続するリンク機構である。図1ないし図4では、翼角変更機構33の構造を簡素化して示す。翼角変更機構33は、図示省略の支持構造により、浮体本体2に昇降可能に接続されて支持される。翼角変更機構33として利用されるリンク機構の構造は、例えば、公知のリンク機構の構造から適宜選択される。
図4に示すように、翼角変更機構33の波上側の端部は、水中翼31の後部(すなわち、前後方向の中央部よりも後側の部位)に接続される。翼角変更機構33は、水中翼31から上方へと延び、浮体本体2の前面22に設けられた開口221を介して後方へと延び、さらに、振動水柱240の上方の位置から下方へと延びる。翼角変更機構33の波下側の端部は、振動浮体25に接続される。なお、振動浮体25は、翼角変更機構33に接続されていない状態においても、浮力により振動水柱240の水面に浮かんでいる。
浮体構造物1では、浮体本体2に入射する波により振動水柱240の水面が昇降すると、当該水面に浮かぶ振動浮体25が上下方向に移動する。振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーは、電気的エネルギー等に変換されることなく、翼角変更機構33に直接的に伝達される。そして、当該機械的エネルギーによって翼角変更機構33が駆動され、水中翼31の後部が昇降する。その結果、水中翼31の前縁311と後縁312との上下方向における位置関係が変化し、水平面に対する水中翼31の翼角が変更される。
水平面に対する水中翼31の翼角(以下、単に「翼角」ともいう。)とは、幅方向に垂直な断面における水中翼31の翼弦線と、水平方向を示す基準線との成す角度である。水中翼31の前縁311を通る当該基準線よりも後縁312が下側に位置する場合の翼角が正であり、当該基準線よりも後縁312が上側に位置する場合の翼角が負である。水中翼31の翼角は、例えば、−20°以上かつ20°以下の範囲で変更される。
なお、浮体構造物1では、水中翼31の前縁311近傍の部位である前縁部に、幅方向に延びる回転軸が設けられてもよい。水中翼31は、上述のように後部が昇降する際に、当該回転軸を中心として回動してもよい。当該回転軸の幅方向の両端部は、例えば、前後方向に延びる支持部材を介して浮体本体2により支持される。
浮体構造物1では、翼角変更機構33の構造を変更することにより、振動水柱240の水面の位置(すなわち、振動浮体25の上下方向の位置)と、水中翼31の翼角との関係を様々に変更可能である。例えば、振動水柱240の水面が基準位置(すなわち、波浪がないと仮定した場合の静止水面の位置)に位置する場合の翼角を0°とし、振動水柱240の水面が基準位置よりも上側および下側に位置する場合の翼角をそれぞれ、負および正としてもよい。あるいは、振動水柱240の水面が基準位置よりも上側および下側に位置する場合の翼角をそれぞれ、正および負としてもよい。
図5および図6は、波浪中の水中翼31に対する水の流れと、水中翼31の揚力との関係を示す図である。図5および図6では、水中翼31の前縁311に流入する波浪中の水の流れを、符号Wfを付した矢印にて示す。図5中の水の流れWfは、上流から下流に向かうに従って上方に向かう(すなわち、水平面に対して上向きに傾斜している)上昇流である。図6中の水の流れWfは、上流から下流に向かうに従って下方に向かう(すなわち、水平面に対して下向きに傾斜している)下降流である。
さらに、図5および図6では、水中翼31が発生する揚力を、符号Lを付した矢印にて示す。また、揚力Lの上下成分および水平成分を、符号LzおよびLxを付した破線の矢印にて示す。図5および図6中の迎角αは、水の流れWfと、水中翼31の翼弦線313との成す角度である。水中翼31の前縁311を通る水の流れWfよりも後縁312が下側に位置する場合の迎角αが正であり、水の流れWfよりも後縁312が上側に位置する場合の迎角αが負である。
図5および図6に示すように、推力発生機構3では、波浪中の水の流れWfの向きに合わせて、水中翼31の翼角が翼角変更機構33により変更される。例えば、図5に示すように、水の流れWfが上昇流である場合、水中翼31の迎角αが正となるように翼角が変更される。これにより、水中翼31は上向きの揚力Lを発生し、揚力Lの水平成分Lxが前方(すなわち、波上側)を向く。換言すれば、水中翼31の揚力Lの水平成分Lxは、波上側に向かう推力である。これにより、浮体本体2に波上側に向かう力が作用する。
また、図6に示すように、水の流れWfが下降流である場合、水中翼31の迎角αが負となるように翼角が変更される。これにより、水中翼31は下向きの揚力Lを発生し、揚力Lの水平成分Lxが前方(すなわち、波上側)を向く。換言すれば、水中翼31の揚力Lの水平成分Lxは、波上側に向かう推力である。これにより、浮体本体2に波上側に向かう力が作用する。
浮体構造物1では、浮体構造物1の設置海域における主な波の周期および波長、並びに、水中翼31と振動浮体25との間の前後方向の距離に基づいて翼角変更機構33の構造が決定される。そして、翼角変更機構33により水中翼31の翼角が変更されることにより、上昇流中における水中翼31の迎角αが正とされ、下降流中における水中翼31の迎角αが負とされる。
例えば、浮体構造物1の設置海域における主な波により、上昇流が水中翼31に流入する際に振動水柱240の水面が基準位置よりも下側に位置し、下降流が水中翼31に流入する際に振動水柱240の水面が基準位置よりも上側に位置する場合を考える。この場合、翼角変更機構33の構造は、振動水柱240の水面が基準位置よりも上側のときに水中翼31の翼角が負となり、振動水柱240の水面が基準位置よりも下側のときに水中翼31の翼角が正となるように決定される。なお、翼角変更機構33により変更される水中翼31の翼角の最大値および最小値は、水中翼31の迎角αが失速角よりも小さくなるように決定されることが好ましい。
図1ないし図3に示すように、風車4は、浮体本体2上に配置される風力発電用の構造物である。風車4は、複数のブレード41と、ナセル42と、支柱43とを備える。複数(例えば、3枚)のブレード41は、略水平な回転軸を中心としてナセル42に回転可能に取り付けられる。複数のブレード41およびナセル42は、略上下方向に延びる支柱43により、浮体本体2の上面27よりも上側にて支持される。風車4では、複数のブレード41が風を受けて回転することにより、複数のブレード41の回転軸に接続された発電機(図示省略)により発電が行われる。例えば、風車4のロータ径は約100mであり、支柱43の高さは約70m〜80mである。風車4の定格出力は、例えば5MW(メガワット)である。
浮体本体2の波下側には、振動水柱部24による浮体本体2の浮力の減少、および、推力発生機構3の重量等と釣り合う錘29が設けられている。換言すれば、振動水柱部24および推力発生機構3により生じるモーメント(すなわち、浮体構造物1の幅方向を向く回転軸回りのモーメント)が、錘29により生じるモーメントにより相殺される。錘29は、例えば、浮体本体2の内部に配置される。あるいは、錘29は、浮体本体2の底面26に下側から接続される。浮体本体2が静止状態で浮かんでいる状態では、浮体本体2の上面27および底面26は略水平である。換言すれば、浮体本体2が静止水面に動揺することなく浮かんでいる状態では、浮体本体2の上面27および底面26は、上下方向(すなわち、重力方向)に対して略垂直である。なお、浮体構造物1では、錘29が設けられる代わりに、例えば、浮体本体2の形状が波上側または波下側において変更されることにより、振動水柱部24および推力発生機構3により生じるモーメントが相殺されてもよい。
以上に説明したように、浮体構造物1は、水面に浮かぶ浮体本体2と、浮体本体2に接続される推力発生機構3とを備える。浮体本体2は、振動水柱部24と、振動浮体25とを備える。振動水柱部24では、入射する波により内部の振動水柱240の水面が昇降する。振動浮体25は、振動水柱240の水面に浮かぶ。推力発生機構3は、振動浮体25に機械的に接続される。推力発生機構3は、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによって駆動されることにより、波上側に向かう推力を発生する。これにより、波の力を利用して、浮体構造物1に働く波漂流力を低減することができる。
また、上述のように、推力発生機構3は、推力発生機構3に直接的に入射する波の力(すなわち、水中翼31に流入する波の力)によっては駆動されず、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによって駆動される。このため、浮体構造物1の設置海域における主な波の周期および波長に基づいて、推力発生機構3の構造および設置位置(すなわち、振動浮体25との前後方向の距離)を適切に設計することにより、推力発生機構3に入射する水の流れWfの向きに合わせて、推力発生機構3を適切に駆動することができる。その結果、波の力を利用して、浮体構造物1に働く波漂流力を効率良く低減することができる。
浮体構造物1は、上述のように、浮体本体2上に配置される風力発電用の風車4をさらに備える。このため、風車4に加わる風圧により、浮体構造物1の波漂流力が大きくなる可能性がある。また、浮体構造物1の重心が高くなり、ピッチング等が比較的大きくなって波漂流力が大きくなる可能性もある。したがって、浮体構造物1に働く波漂流力を低減することができる上述の浮体構造物1の構造は、風力発電用の風車を備える浮体構造物に特に適している。
浮体構造物1では、振動水柱部24が、前部隔壁241と、仕切壁243と、仕切突出部244とを備える。前部隔壁241は、浮体本体2の波上側において水上から水中まで上下方向に延びる。仕切壁243は、前部隔壁241の波上側において前部隔壁241に対向して配置され、水上から水中まで上下方向に延びる。仕切壁243の下端は、前部隔壁241の下端よりも上側に位置する。仕切突出部244は、仕切壁243の下端から波上側に延びる。前部隔壁241と仕切壁243との間の空間には、振動水柱240が位置する。これにより、振動水柱部24の構造を簡素化して、浮体構造物1に振動水柱部24を容易に設けることができる。
上述の例では、仕切壁243は前後方向に略垂直な平板状の部材であり、仕切突出部244は上下方向に略垂直な平板状の部材である。換言すれば、仕切壁243および仕切突出部244は、幅方向に垂直な断面が略L型の板状部材である。これにより、振動水柱部24の製造コストを低減することができる。
浮体構造物1では、仕切壁243および仕切突出部244の形状は適宜変更されてよい。例えば、上下方向に延びる仕切壁243の下端部が波上側に向かって湾曲し、当該湾曲した部位の先端(すなわち、仕切壁243の下端)から、仕切突出部244が波上側に延びていてもよい。このように、仕切壁243と仕切突出部244との接続部を曲面とすることにより、振動水柱部24における振動水柱240の振幅を大きくすることができる。これにより、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーを増大させることができる。その結果、推力発生機構3の駆動に要する機械的エネルギーの供給を容易に実現することができる。
上述のように、振動水柱部24は、仕切壁243よりも波上側において水上から水中まで広がる透過壁245をさらに備える。これにより、仕切壁243に入射する波の力を低減することができ、その結果、浮体構造物1に働く波漂流力をさらに低減することができる。
また、透過壁245は、水上から水中まで上下方向に延びる複数の柱部材247を備える縦スリット部である。複数の柱部材247は、仕切壁243に沿って互いに離間しつつ配列される。これにより、透過壁245の構造を簡素化して浮体構造物1の製造コストを低減することができる。
なお、透過壁245の構造は適宜変更されてよい。例えば、透過壁245は、略水平に延びる複数の柱部材が上下方向に配列された横スリット部であってもよい。あるいは、透過壁245は、平板状の壁部材に、前後方向に貫通する複数の貫通孔が略均等に設けられた構造であってもよい。いずれの場合であっても、上記と同様に、浮体構造物1に働く波漂流力をさらに低減することができる。
浮体構造物1では、推力発生機構3が、水中翼31と、翼角変更機構33とを備える。水中翼31は、波上側に前縁311を向けて配置される。翼角変更機構33は、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによって駆動され、水中翼31の翼角を変更する。推力発生機構3が発生する波上側に向かう推力は、水中翼31の揚力の水平成分である。このように、浮体構造物1では、水中翼31の揚力を利用することにより、推力発生機構3における可動部の動きを比較的小さくしつつ、比較的大きい推力を得ることができる。その結果、浮体構造物1に働く波漂流力をさらに低減することができる。
また、浮体構造物1では、浮体本体2の外部に水中翼31が設けられることにより、浮体構造物1の幅方向を向く回転軸回りの慣性モーメントを大きくすることができる。これにより、浮体構造物1のピッチングを抑制することができる。その結果、浮体構造物1に働く波漂流力をさらに低減することができる。
浮体構造物1では、水中翼31が浮体本体2よりも波上側に設けられることにより、上記慣性モーメントをより一層大きくすることができる。その結果、浮体構造物1に働く波漂流力をより一層低減することができる。また、水中翼31が浮体本体2の鉛直下方に配置される場合等に比べて、水中翼31および翼角変更機構33のメンテナンスを容易とすることができる。浮体構造物1では、水中翼31が剛体であるため、水中の浮遊物等との衝突による水中翼31の破損や経年劣化を抑制することができる。
上述のように、水中翼31は、振動水柱部24の波上側にて透過壁245と前後方向に対向する。浮体構造物1では、浮体本体2に入射した波の反射波を透過壁245により低減することができるため、当該反射波による水中翼31の性能低下を抑制することができる。その結果、浮体構造物1に働く波漂流力を好適に低減することができる。
推力発生機構3では、水中翼31の前縁311に流入する水の流れWfが水平面に対して上向きに傾斜している場合、水中翼31は上向きの揚力を発生する。また、水中翼31の前縁311に流入する水の流れWfが水平面に対して下向きに傾斜している場合、水中翼31は下向きの揚力を発生する。これにより、水中翼31に対する水の流れWfが上昇流である場合であっても、下降流である場合であっても、水中翼31は波上側に向かう推力を発生することができる。その結果、浮体構造物1に働く波漂流力を効率良く低減することができる。
なお、推力発生機構3では、必ずしも、水中翼31に対する水の流れWfが上昇流である場合および下降流である場合の双方で、水中翼31が波上側に向かう推力を発生する必要はない。換言すれば、水中翼31に対する水の流れWfが上昇流または下降流である場合に、水中翼31は波上側に向かう推力を発生すればよい。例えば、水中翼31に対する水の流れWfが上昇流である場合のみ、水中翼31の揚力が上向きとなり、波上側に向かう推力を発生するように、翼角変更機構33により水中翼31の翼角が変更されてもよい。この場合、水中翼31に対する水の流れWfが下降流である状態では、例えば、水中翼31の揚力がほぼゼロとなるように、水中翼31の翼角が変更される。
上述のように、翼角変更機構33は、水中翼31の後部に接続されて水中翼31の後部を昇降する。これにより、水中翼31の翼角を容易に変更することができる。また、翼角変更機構33が水中翼31の前部に接続される場合等に比べて、水中翼31の周囲の水の流れが翼角変更機構33の影響により乱れることを抑制することができる。このため、水中翼31が、波上側に向かう推力を効率良く発生することができる。
なお、波上側に向かう所望の推力を水中翼31から得ることができる場合、翼角変更機構33は、例えば水中翼31の前部に接続されてもよい。また、水中翼31の構造は様々に変更されてよい。
図7は、他の好ましい推力発生機構3aを示す側面図である。推力発生機構3aでは、図1ないし図4に示す水中翼31とは構造が異なる水中翼31aが、水中翼31に代えて設けられる。図7では、翼角変更機構33については、一部のみを示す。
図7に示すように、水中翼31aは、水中翼本体315と、フラップ316とを備える。フラップ316は、水中翼本体315の後縁側に設けられる。水中翼本体315とフラップ316とを合わせた形状は、図4に示す水中翼31と略同じである。換言すれば、図4に示す水中翼31の後縁312近傍の部位である後縁部がフラップ316に相当し、当該水中翼31の後縁部以外の部位が水中翼本体315に相当する。
水中翼本体315は、例えば、幅方向の両側に接続された図示省略の支持部材により、浮体本体2に固定される。フラップ316は、幅方向に延びる回転軸317を介して水中翼本体315に接続される。フラップ316は、回転軸317を中心として回動可能である。回転軸317の幅方向の両端部には、例えば、波下側に突出する突出部318が設けられる。突出部318は、図1ないし図4と略同様の構造を有する翼角変更機構33に機械的に接続される。
推力発生機構3aでは、振動浮体25(図4参照)の昇降により生じる機械的エネルギーが、電気的エネルギー等に変換されることなく、翼角変更機構33に直接的に伝達される。そして、当該機械的エネルギーによって翼角変更機構33が駆動されることにより、水中翼31aの突出部318が下方に押し下げられ、あるいは、上方に持ち上げられる。これにより、図7中において二点鎖線にて示すように、フラップ316の水中翼本体315に対する相対翼角であるフラップ角βが変更される。フラップ角βとは、水中翼31aの翼弦線313とフラップ316の翼弦線319との成す角度である。水中翼31aの翼弦線313よりもフラップ316の後縁312(すなわち、水中翼31aの後縁312)が下側に位置する場合のフラップ角βが正であり、水中翼31aの翼弦線313よりもフラップ316の後縁312が上側に位置する場合のフラップ角βが負である。
水中翼31aでは、翼角変更機構33によりフラップ角βを正とすることにより、水中翼31aの翼角が実質的に正となり、フラップ角βを負とすることにより、水中翼31aの翼角が実質的に負となる。換言すれば、翼角変更機構33によりフラップ316の水中翼本体315に対する相対翼角(すなわち、フラップ角β)を変更することにより、水中翼31aの翼角が実質的に変更される。
推力発生機構3aが設けられた浮体構造物1においても、上述と同様に、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによって推力発生機構3aが駆動されることにより、水中翼31aが波上側に向かう推力を発生する。これにより、波の力を利用して、浮体構造物1に働く波漂流力を低減することができる。
また、推力発生機構3aでは、水中翼31a全体ではなく、フラップ316のみが翼角変更機構33により駆動されて角度変更される。換言すれば、翼角変更機構33による水中翼31aの翼角変更が、フラップ316のフラップ角βの変更である。これにより、比較的小さい機械的エネルギーで水中翼31aの翼角を実質的に変更することができる。その結果、推力発生機構3aの構造を小型化または簡素化することができる。なお、翼角変更機構33によるフラップ角βの変更は、上述の例とは異なる様々な構造により行われてもよい。
図8は、他の好ましい推力発生機構3bの一部を示す側面図である。図8では、浮体構造物1の一部の構成については断面を示す。推力発生機構3bは、図1ないし図4と同様の水中翼31および翼角変更機構33に加えて、周期変更部34をさらに備える。周期変更部34は、例えば、台風の影響により大波高の波が浮体構造物1の振動水柱部24に入射する際に、推力発生機構3bを駆動する機械的エネルギーの周期を、振動浮体25の昇降周期よりも短い周期に変更する。
図8に示す例では、周期変更部34は、翼角変更機構33の水中翼31(図4参照)とは反対側の端部と振動浮体25との間に設けられる。周期変更部34は、翼角変更機構33と振動浮体25とを機械的に接続する。
周期変更部34は、ピニオン341と、ラック342と、ボールネジ343と、カム344とを備える。ピニオン341は、振動浮体25に接続され、振動浮体25から上方に延びる。ピニオン341は、振動浮体25の昇降に伴って昇降する。ラック342は、ピニオン341と係合し、ピニオン341の昇降を回転運動に変換する。ラック342には、ボールネジ343の前後方向を向くネジ軸345が固定されており、ラック342の回転に伴ってネジ軸345が回転する。これにより、ボールネジ343のナット346(すなわち、スライダ)に接続されたカム344が前後方向に移動する。カム344の上端は、略サイン曲線状の凹凸を有する。図8に示す例では、カム344は、前後方向に交互に並ぶ3つの凸部および3つの凹部を備える。カム344の上端には、翼角変更機構33の先端に設けられたローラ状の接触子331が接触する。
推力発生機構3bでは、通常の波高の波が入射している状態では、カム344のうち、中央の凸部の右側の斜面が、翼角変更機構33の接触子331に接触する。換言すれば、翼角変更機構33の接触子331は、カム344の中央の凸部と中央の凹部との間で往復移動する。例えば、振動浮体25が上昇の頂点に位置するときには、接触子331はカム344の中央の凸部の頂点に位置し、振動浮体25が下降の頂点に位置するときには、接触子331はカム344の中央の凹部の底部に位置する。
一方、台風等の影響により、通常よりも波高が大きい波が浮体構造物1の振動水柱部24に入射すると、振動浮体25の上下方向の振幅は大きくなり、カム344の前後方向の移動距離も大きくなる。換言すれば、翼角変更機構33の接触子331のカム344上における移動距離が大きくなる。例えば、振動浮体25の振幅が通常時の3倍である場合、翼角変更機構33の接触子331は、カム344の最も波上側の凹部と最も波下側の凸部との間で往復移動する。
これにより、振動浮体25の1回の上下方向の往復移動の間に、翼角変更機構33の上下方向の往復移動は3回行われる。換言すれば、翼角変更機構33を介して水中翼31の翼角変更に供される機械的エネルギーの周期は、振動浮体25の昇降周期の約1/3となる。また、翼角変更機構33の上下方向の移動距離(すなわち、振幅)は、通常の波が入射する場合と同じであるため、水中翼31の翼角の変動範囲も、通常の波が入射する場合と同じである。
このように、周期変更部34により、推力発生機構3bを駆動する機械的エネルギーの周期が、振動浮体25の昇降周期よりも短い周期に変更される。これにより、台風等の影響による大波高の波が浮体構造物1に入射する場合であっても、推力発生機構3bの可動部(例えば、水中翼31)の移動範囲が過剰に大きくなることを抑制することができる。これにより、推力発生機構3bの損傷を防止または抑制することができる。また、台風等の影響による長波長の波が浮体構造物1に入射する場合、波の周期よりも短い周期で比較的頻繁に水中翼31を上下に揺動させることができる。そして、当該揺動によっても波上側に向かう推力を発生させることにより、浮体構造物1に働く波漂流力をさらに低減することができる。なお、周期変更部34の構造(例えば、カム344の形状)は、適宜変更されてよい。
図9は、本発明の関連技術に係る浮体構造物1aの一部を示す断面図である。図9では、浮体構造物1aの波上側の部位を示す。また、図9では、浮体構造物1aの一部の構成については側面を示す。浮体構造物1aでは、図1ないし図4に示す振動水柱部24および振動浮体25に代えて、移動子25aが浮体本体2に設けられる。また、浮体構造物1aでは、図1ないし図4に示す推力発生機構3に代えて、翼角変更機構33とは構造が異なる翼角変更機構33aを備える推力発生機構3cが設けられる。浮体構造物1aの他の構造は、図1ないし図4に示す浮体構造物1とほぼ同様である。以下の説明では
、浮体構造物1の各構成と対応する浮体構造物1aの構成に同符号を付す。
図9に示すように、浮体本体2は、移動子25aおよびガイド部材251を備える。移動子25aは、浮体本体2に固定されたガイド部材251に沿って、上下方向に滑らかに移動可能である。移動子25aは、例えば、比較的質量が大きい錘である。
水中翼31の前縁311近傍の部位である前縁部には、幅方向に延びる回転軸314が設けられる。水中翼31は、回転軸314を中心として回動可能である。回転軸314の幅方向の両端部は、図示省略の支持部材を介して浮体本体2により支持される。
翼角変更機構33aは、上部接続ライン332と、2つの上部滑車333と、下部接続ライン334と、2つの下部滑車335とを備える。2つの上部滑車333はそれぞれ、水中翼31の上方、および、移動子25aの上方に配置される。上部接続ライン332は、移動子25aと水中翼31の後縁部とを、2つの上部滑車333を介して接続する。上部接続ライン332のうち、水中翼31の上方の上部滑車333と水中翼31との間の部位には、弾性部材332aが設けられる。2つの下部滑車335はそれぞれ、水中翼31の下方、および、移動子25aの下方に配置される。下部接続ライン334は、移動子25aと水中翼31の後縁部とを、2つの下部滑車335を介して接続する。下部接続ライン334のうち、水中翼31の下方の下部滑車335と水中翼31との間の部位には、弾性部材334aが設けられる。上部接続ライン332および下部接続ライン334は、例えば金属ワイヤである。弾性部材332aおよび弾性部材334aは、例えばコイルバネである。
図9に示すように、水中翼31の翼角が0°の状態では、弾性部材332aおよび弾性部材334aは伸張状態であり、移動子25aは、ガイド部材251の上下方向の中央部に位置する。移動子25aは、弾性部材332a,334aの復元力により支持される。浮体本体2に上向きの加速度が加わると、図10に示すように、移動子25aは慣性力により下方へと移動する。これにより、水中翼31の後縁部が上方に引っ張られ、水中翼31の翼角が負に変更される。一方、浮体本体2に下向きの加速度が加わると、図11に示すように、移動子25aは慣性力により上方へと移動する。これにより、水中翼31の後縁部が下方に引っ張られ、水中翼31の翼角が正に変更される。
換言すれば、浮体構造物1aでは、浮体本体2に入射する波により浮体本体2が昇降すると、移動子25aが慣性力により上下方向に移動する。移動子25aの昇降により生じる機械的エネルギーは、電気的エネルギー等に変換されることなく、翼角変更機構33aに直接的に伝達される。そして、当該機械的エネルギーによって翼角変更機構33aが駆動され、水中翼31の後縁部が昇降することにより、水中翼31の翼角が変更される。
浮体構造物1aでは、浮体構造物1aの設置海域における主な波の周期および波長、並びに、当該主な波により生じる浮体構造物1aの揺れ(特に、ピッチングおよびヒービング)に基づいて、水中翼31と浮体本体2との間の前後方向の距離が決定される。そして、翼角変更機構33aにより水中翼31の翼角が変更されることにより、上昇流中における水中翼31の迎角αが正とされ、下降流中における水中翼31の迎角αが負とされる。
具体的には、浮体構造物1aの設置海域における主な波により、浮体構造物1aに上向きの加速度が作用して水中翼31の翼角が負になる際に、図6に示すように、水中翼31に流入する水の流れWfが下降流となる前後方向の位置に水中翼31が配置される。水中翼31の前後方向の位置は、また、浮体構造物1aに下向きの加速度が作用して水中翼31の翼角が正になる際に、図5に示すように、水中翼31に流入する水の流れWfが上昇流となる位置でもある。なお、翼角変更機構33aにより変更される水中翼31の翼角の最大値および最小値は、水中翼31の迎角αが失速角よりも小さくなるように決定されることが好ましい。
以上に説明したように、浮体構造物1aは、水面に浮かぶ浮体本体2と、浮体本体2に接続される推力発生機構3cとを備える。推力発生機構3cは、入射する波により浮体本体2が昇降する際に生じる機械的エネルギーによって駆動され、波上側に向かう推力を発生する。これにより、波の力を利用して、浮体構造物1aに働く波漂流力を低減することができる。
また、上述のように、推力発生機構3cは、推力発生機構3cに直接的に入射する波の力(すなわち、水中翼31に流入する波の力)によっては駆動されず、浮体本体2の昇降により生じる機械的エネルギーによって駆動される。このため、浮体構造物1aの設置海域における主な波の周期および波長に基づいて、推力発生機構3cの構造および設置位置(すなわち、移動子25aとの前後方向の距離)を適切に設計することにより、推力発生機構3cに入射する水の流れWfの向きに合わせて、推力発生機構3cを適切に駆動することができる。その結果、波の力を利用して、浮体構造物1aに働く波漂流力を効率良く低減することができる。
浮体構造物1aでは、浮体本体2が昇降する際に生じる機械的エネルギーにより翼角変更機構33aを駆動する構造は、上述の移動子25aには限定されず、適宜変更されてよい。水中翼31の翼角を変更する構造も、上述の翼角変更機構33aには限定されず、適宜変更されてよい。また、浮体構造物1aでは、水中翼31に代えて、図7に示す水中翼31aが設けられ、フラップ角βが変更されることにより、水中翼31aの翼角が実質的に変更されてもよい。
上述の浮体構造物1,1aでは、様々な変更が可能である。
例えば、図1に示す浮体構造物1では、水中翼31は、必ずしも浮体本体2の前面22よりも前側に配置される必要はなく、底面26よりも上側に配置される必要もない。例えば、水中翼31は、浮体本体2の底面26よりも下側において、前面22の鉛直下方に配置されてもよい。
図1に示す浮体構造物1では、振動水柱部24の構造は、上述のものには限定されず、適宜変更されてよい。例えば、透過壁245は振動水柱部24から省略されてもよい。また、振動水柱部24は、例えば、浮体本体2の波下側(すなわち、後面23近傍)に設けられてもよい。
図9に示す浮体構造物1aでは、移動子25aは、図4に示す振動水柱部24の水面に浮かぶ振動浮体25にローラカム等を介して接続されてもよい。この場合、振動浮体25の昇降により移動子25aが上下方向に移動される。
浮体構造物1,1aでは、水中翼31,31aに代えて、波上側に向かう推力を発生する様々な構成が利用されてよい。例えば、図12に示す推力発生機構3dは、上述の振動水柱部24および振動浮体25に加えて、プロペラ35を備える。プロペラ35は、前後方向を向く回転軸351を中心として回転する。プロペラ35は、例えば、振動浮体25に接続されたピニオン352、ラック353、傘歯車354,355、ワンウェイクラッチ356等の駆動機構により駆動される。当該駆動機構は、振動浮体25の昇降を、プロペラ35の回転軸351の回転に変換する。推力発生機構3dでは、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによってプロペラ35が一方向に回転されることにより、波上側に向かう推力が発生する。
図13に示す推力発生機構3eは、上述の振動水柱部24および振動浮体25に加えて、フィン36を備える。フィン36は、幅方向に略垂直な略平板状の部材である。フィン36は、入射する波の力では変形しない(すなわち、形状が維持される)剛体である。フィン36の波上側の端部は、上下方向を向く回転軸361に固定されている。フィン36は、回転軸361の回転に伴い、回転軸361を中心として回動(すなわち、幅方向に揺動)する。フィン36は、例えば、振動浮体25に接続されたピニオン362、ラック363、傘歯車364等の駆動機構により駆動される。当該駆動機構は、振動浮体25の昇降を、フィン36の回転軸361の回転に変換する。推力発生機構3eでは、振動浮体25の昇降により生じる機械的エネルギーによってフィン36が幅方向に揺動されることにより、波上側に向かう推力が発生する。なお、フィン36は弾性体により形成されてもよい。
図12および図13に示す例では、プロペラ35およびフィン36は浮体本体2の波上側の部位の下方に配置されるが、プロペラ35およびフィン36の位置は様々に変更されてよい。また、プロペラ35およびフィン36を駆動する機械的エネルギーは、振動浮体25の昇降により生じるものには限定されず、例えば、図9に示すように、浮体本体2の昇降により生じるものであってもよい。
浮体構造物1,1aでは、浮体本体2、推力発生機構3,3a〜3eおよび風車4の大きさおよび形状は様々に変更されてよい。例えば、浮体本体2の平面視における形状は、略六角形または略八角形であってもよい。これにより、浮体本体2の抗力係数が小さくなり、浮体本体2に生じる波漂流力が低減される。また、浮体本体2の喫水等も適宜変更されてよい。風車4では、ブレード41の数は、1枚、2枚または4枚以上であってもよい。また、風車4は、上述のような水平軸型風車(すなわち、横軸風車)には限定されず、ダリウス型風車等の垂直軸型風車(すなわち、縦軸風車)であってもよい。
浮体構造物1,1aは、必ずしも係留される必要はなく、DPS(Dynamic Positioning System)により浮体構造物1,1aの位置保持が行われてもよい。
浮体構造物1,1aは、必ずしも風力発電用の風車4を備える必要はない。浮体構造物1,1aは、風力発電以外の様々な用途に使用されてよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。