<ワイヤーハーネス網>
図1は、車両に張り巡らされたワイヤーハーネス網の模式図(=車両のスケルトン図)である。近年の車両Xには、多数の電装品(各種ランプ、各種ポンプ、各種ファン、電子サスペンション、ワイパー、ドアロック、パワーウィンドウ、電動ドアミラーなど)が搭載されており、これらの電装品とバッテリX1及びECU[electronic control unit]X2との間には、電力や信号を伝達するためのワイヤーハーネスX3が縦横無尽に張り巡らされている。このように、多数の電装品を搭載する車両Xには、その安全性や信頼性を高めるべく、様々なイミュニティ試験やエミッション試験が課せられている。
なお、ワイヤーハーネス網を有する構造体としては、車両以外にも、鉄道、船舶、航空機などを挙げることができる。
<電装品BCI試験(ISO11452−4)>
図2は、電装品BCI試験の一構成例を示すブロック図である。電装品BCI試験は、国際標準化機構(ISO[international organization for standardization])で標準化された「車載電子機器向けの狭帯域電磁放射エネルギーによる電気的妨害を評価するためのコンポーネント試験方法(ISO11452−4)」に準拠するイミュニティ試験の一つである。
本図に即してより具体的に述べると、電装品BCI試験は、測定対象回路ユニット100(またはその模擬ユニット)のイミュニティ特性を評価するための実測ベンチマークとして、ノイズ源部20、検知部30、コントローラ40、及び、インジェクションプローブ80を用いて実施される。
測定対象回路ユニット100は、被試験デバイス10(以下ではDUT[device under test]10と呼ぶ)が搭載される実際の製品(実機)に相当するものであり、DUT10のほかに、バッテリ50、電源フィルタ部60、及び、ワイヤーハーネス70を含む。また、測定対象回路ユニット100は、DUT10の疑似負荷を含む場合もある。
DUT10は、LSI[large-scale integrated circuit]11とこれを搭載したプリント配線基板(PCB[printed circuit board])を含む。もちろん、DUT10として、LSI11単体を用いることも可能である。なお、DUT10は、必ずしも実機デバイスである必要はなく、一般的には試験用の模擬デバイスを用いることが多い。
特に、複数LSIの相互比較(例えば、新モデルLSIと旧モデルLSIとの相互比較や、自社LSIと他社コンパチブルLSIとの相互比較)を行う場合には、評価対象となるLSI以外の構成要素(PCBのサイズや配線パターン、ないしは、PCBに搭載されるディスクリート部品の種類や特性など)が共通化された試験用の模擬デバイスを用いることが望ましい。
ノイズ源部20は、DUT10の端子(図2では電源端子VCCを例示)に高周波ノイズ信号(妨害波電力)を注入する主体であり、シグナルジェネレータ21と、RFアンプ22と、双方向性結合器23と、進行波側パワーセンサ24と、反射波側パワーセンサ25と、パワーメータ26と、50Ω伝送線路28と、を含む。
シグナルジェネレータ(SG[signal generator])21は、正弦波状の高周波ノイズ信号を発生する。また、シグナルジェネレータ21は、必要に応じて高周波ノイズ信号に変調を加えることもある。高周波ノイズ信号の発振周波数、振幅、変調は、いずれもコントローラ40によって制御することができる。なお、妨害波がパルスである場合には、パルスジェネレータ(PG[pulse generator])を用いればよく、妨害波がインパルスである場合には、インパルスジェネレータ(IG[impulse generator])を用いればよい。
RF[radio frequency]アンプ22は、シグナルジェネレータ21で生成された高周波ノイズ信号を所定の利得で増幅する。
双方向性結合器(BDC[bi-directional coupler])23は、RFアンプ22で増幅された高周波ノイズ信号をDUT10に向かう進行波成分とDUT10から戻ってくる反射波成分に分離する。
進行波側パワーセンサ24は、双方向性結合器23で分離された進行波成分の電力測定を行う。一方、反射波側パワーセンサ25は、双方向性結合器23で分離された反射波成分の電力測定を行う。なお、進行波側パワーセンサ24及び反射波側パワーセンサ25への各伝送線路は、いずれも疑似遮断状態(例えば、電力通過特性:−20dB以下)としておくことが望ましい。
パワーメータ26は、進行波側パワーセンサ24で測定された進行波電力と反射波側パワーセンサ25で測定された反射波電力をコントローラ40に送出する。コントローラ40は、進行波電力と反射波電力との差分演算を行うことにより、DUT10に対して実際に注入された電力を算出し、その算出結果を記録する。このように、DUT10への注入電力は、DUT10からかけ離れた位置のパワーメータ26で測定される。従って、DUT10への注入電力を高精度に測定するためには、高周波ノイズ信号伝送時のケーブル特性を高精度で把握しておくことが望ましい。
検知部30は、DUT10の出力波形を監視してその監視結果をコントローラ40に送出する。検知部30としては、オシロスコープなどを好適に用いることができる。なお、検知部30の存在が電装品BCI試験に影響を及ぼさないように、高入力インピーダンス(1MΩ)でありかつ広帯域(3GHz)の差動プローブを使用して、DUT10から検知部30への伝送線路を疑似遮断状態とすることが望ましい。
コントローラ40は、電装品BCI試験を統括制御する主体である。電装品BCI試験の実施に際して、コントローラ40は、例えば、DUT10に注入される高周波ノイズ信号の発振周波数を固定したまま、高周波ノイズ信号の振幅(注入電力)を徐々に大きくしていくように、シグナルジェネレータ21を制御する。また、コントローラ40は、上記の振幅制御と並行して、検知部30の監視結果に応じたLSI11の誤動作判定(クロック信号のパルス抜けや周波数乱れ、出力電圧の規格外れ、または、通信エラーなどを起こしたか否かの判定)を行う。そして、コントローラ40は、LSI11の誤動作発生時点におけるパワーメータ26の測定値の演算結果(DUT10への注入電力)を取得し、これを現在設定中の発振周波数と関連付けて記憶する。以降も、コントローラ40は、高周波ノイズ信号の発振周波数をスイープしながら上記測定を繰り返すことにより、高周波ノイズ信号の発振周波数と誤動作発生時の注入電力とを関連付けた誤動作電力周波数特性を求める。なお、コントローラ40としては、上記測定をシーケンシャルに実施し得るパーソナルコンピュータなどを好適に用いることができる。
バッテリ50は、DUT10に電力供給を行う直流電源である。例えば、車載用LSIを評価対象とする場合には、バッテリ50として車載バッテリを用いればよい。ただし、DUT10への直流電源としては、バッテリに限らず、商用交流電力から所望の直流電力を生成するAC/DCコンバータなどを用いることも可能である。
電源フィルタ60は、ノイズ源部20からバッテリ50への伝送線路を疑似遮断状態とするための回路部であり、電源インピーダンス安定回路網61及び62(以下、LISN[line impedance stabilization network]61及び62と呼ぶ)を含む。LISN61及び62は、いずれもバッテリ50の見かけ上のインピーダンスを安定化させる。なお、LISN61は、バッテリ50の正極端子(+)とDUT10の電源端子(VCC)との間を結ぶ電源ラインに挿入されており、LISN62は、バッテリ50の負極端子(−)とDUT10のGND端子(VEE)との間を結ぶGNDラインに挿入されている。
ワイヤーハーネス70は、DUT10と電源フィルタ部60との間を電気的に接続する1.5〜2.0m程度の導電部材である。ワイヤーハーネス70は、一本のワイヤーであってもよいし、若しくは、複数本のワイヤーを束ねたものであってもよい。なお、ワイヤーハーネス70には、所定の位置にインジェクションプローブ(インジェクショントランス)80が取り付けられており、ノイズ源部20の50Ω伝送線路28を介してバルク電流が注入される。
なお、電装品BCI試験では、ワイヤーハーネス70の全長が1700mm−2000mmと定められている。また、インジェクションプローブ80の取り付け位置(=DUT10とインジェクションプローブ80との距離)についても、150mm、450mm、及び、750mmの3か所のみに制限されている。
<車両BCI試験(ISO11451−4)>
図3は、車両BCI試験の一例を示すブロック図である。車両BCI試験は、先述のDUT10やワイヤーハーネス70などが車両Xに搭載されている状態で実施されるBCI試験であり、ISO11451−4に準拠する。
<電装品エミッション試験(CISPR25)>
図4は、電装品エミッション試験の一例を示すブロック図である。本図の電装品エミッション試験は、電装品のエミッション特性を評価するための実測ベンチマークであり、国際無線障害特別委員会(CISPR)が作成した規格CISPR25「車載受信機保護のための妨害波の限度値及び測定法」に準拠する。なお、電装品エミッション試験は、放射性エミッション測定と伝導性エミッション測定の2つに分かれる。放射性エミッション測定では、ワイヤーハーネス70から放射されるノイズの強度をアンテナ90で測定する。一方、伝導性エミッション測定では、電源フィルタ60の端子91(イミュニティ試験では未使用)を用いて、ワイヤーハーネス70を伝わるノイズの強度を測定する。このように、電装品エミッション試験は、ノイズの強度を測定するという点において、先の電装品BCI試験(図2)や車両BCI試験(図3)とは、その構成や目的が異なる。ただし、電装品エミッション試験においても、ワイヤーハーネス70の全長に制約があり、その点においては電装品BCI試験(図2)と何ら変わりがない。
<シミュレーションモデル>
図5は、シミュレーションモデルの一例を示すブロック図である。本構成例のシミュレーションモデルAは、実測ベンチマーク(図2の電装品BCI試験)全体をモデル化したものであり、バッテリ/LISNモデルA1と、DUTモデルA2と、BCIインジェクションプローブモデルA3と、ワイヤーハーネスモデルA4と、を組み合わせて成る。
バッテリ/LISNモデルA1は、バッテリ50及び電源フィルタ60をモデル化したものである。なお、バッテリ50及び電源フィルタ60だけでなく制御系も接続される場合には、バッテリ/LISNモデルA1と並列に制御系モデルを加えればよい。
DUTモデルA2は、DUT10をモデル化したものである。DUTモデルA2には、LSI11をモデル化したLSIモデル、PCBをモデル化したPCBモデル、及び、これらのイミュニティ挙動を表すイミュニティ・ビヘイビア・モデルなどが含まれている。
BCIインジェクションプローブモデルA3は、インジェクションプローブ80をモデル化したものである。
ワイヤーハーネスモデルA4は、ワイヤーハーネス70をモデル化したものである。ワイヤーハーネスモデルA4には、その伝送特性を表すためのパラメータとして、ワイヤーハーネス70の全長に応じたパラメータLや、DUT10とインジェクションプローブ80との距離(=ノイズ注入位置と読み替えてもよい)に応じたパラメータLxが含まれている(詳細は後述)。
なお、電装品BCI試験のワイヤーハーネス構造をそのままモデル化する場合、上記ののパラメータL及びLxについては、ワイヤーハーネス70の全長制限(1700〜2000mm)やインジェクションプローブ80の位置制限(DUT10から150mm、450mm、750mmの位置)を反映するように、その値が制限されることになる。
<イミュニティ特性の評価手法>
図6は、誤動作電圧周波数特性(実線)と到達電圧周波数特性(破線)との比較例を示す図である。
誤動作電圧周波数特性とは、LSI11が誤動作を起こす限界の高周波ノイズ信号の大きさをLSI11の所定点間に現れる端子電圧V_LSIで表したものである。なお、誤動作電圧周波数特性は、DPI[direct power injection]試験により得られる誤動作電力周波数特性(=DUT10が誤動作を起こす限界の高周波ノイズ信号の大きさをDUT10に注入される電力で表したもの)から求めることができる。一方、到達電圧周波数特性とは、電装品BCI試験(またはこれを模擬したコンピュータシミュレーション)において、LSI11の所定点間に到達して現れる到達電圧V_arrの周波数特性である。
上記の誤動作電圧周波数特性と到達電圧周波数特性とを比較することにより、LSI11のイミュニティ特性を評価することができる。例えば、図6において、破線が実線を上回っている発振周波数では、LSI11が誤動作を生じ得ると判断することができる。また、LSI11の各端子毎に上記と同様の比較を行えば、誤動作を生じ得る端子を特定することができるので、速やかに回路設計を改善することが可能となる。
なお、本図では、誤動作電圧周波数特性と到達電圧周波数特性との比較例を挙げて、イミュニティ特性の評価手法を説明したが、例えば、誤動作電流周波数特性(=LSI11が誤動作を起こす限界の高周波ノイズ信号の大きさをLSI11の所定部分に流れる端子電流I_LSIで表したもの)と到達電流周波数特性(=電装品BCI試験でLSI11の所定部分に到達して流れる到達電流I_arrの周波数特性)との比較を行うことによっても、LSI11のイミュニティ特性を評価することが可能である。
<ワイヤーハーネスモデル>
次に、電装品BCI試験(図2)や電装品エミッション試験(図4)において使用されるワイヤーハーネスのシミュレーションモデルについて、その見直しを提案する。特に、今回の提案は、ワイヤーハーネスにおけるコモンモードインピーダンスのモデル化に関する。より具体的に述べると、以下では、複数本のワイヤーを束ねてワイヤーハーネスを形成するときのワイヤー敷設方法を定型化すると共に、実際のワイヤーハーネス構造に対応して高速処理を行うことが可能な伝送線路モデルを提案する。
図7は、ワイヤーハーネスの敷設例を模式的に示す断面図である。本図の例において、ワイヤーハーネスwhは、5本のワイヤーw1〜w5を束ねたものである。ワイヤーw1〜w5は、それぞれの被覆膜が接するように水平に敷設されていることを特徴とする。全てのワイヤーw1〜w5は、グラウンドプレーン(例えばテーブル上の銅板)から所定の距離(例えば50mm)だけ離して敷設されている。このような敷設状態を、本明細書中では「並行敷設」と呼ぶ。ワイヤーの敷設本数が増える場合には、水平方向にワイヤーの隣接本数を増やしていくものとする。
本図の例では、ハッチング付きのワイヤーw1及びw5が端部線に相当し、白抜きのワイヤーw2〜w4が中間線に相当する。端部線とは、並行敷設された複数本のワイヤーのうち、少なくともその片側に他のワイヤーが隣接していない状態のものを指す。一方、中間線とは、その両側に他のワイヤーが隣接している状態のものを指す。なお、ワイヤーの並行敷設本数は、何本であっても構わない。
また、ワイヤーハーネスの伝送特性は、これに対向するGND(グラウンドプレーンなど)の存在によって決まる。ワイヤーハーネスとGNDとの相対位置について、最も近い位置は隣接であり、最も遠い位置は無限遠である。以下では、端部線と中間線との伝送特性差(=伝送特性の敷設位置依存性)について詳述する。
図8は、ワイヤーw1〜w5それぞれの伝送特性が敷設位置依存性を持つことを示す周波数−ゲイン図である。なお、本図の実測結果は、並行敷設された5本のワイヤーw1〜w5について、それぞれの第1端を相互にショートしておき、それぞれの第2端を250Ω終端構造とする一方、計測対象のワイヤーのみ、その終端抵抗を直列200Ω抵抗と交換する、という実測環境で得られたものである。また、当然のことながら、ワイヤーw1〜w5としては、DC的にほぼ同インピーダンスのものを用いている。
例えば、ワイヤーw1の伝送特性(実線)とワイヤーw2の伝送特性(小破線)とを比較した場合、40MHz〜100MHzの周波数帯域において、それぞれの伝送特性に差が生まれており、特に、61MHzで6dB(約4倍)の差を確認することができる(図中の太い矢印箇所を参照)。この差は、ワイヤーハーネスwhが妨害ノイズを受けた場合に、その妨害エネルギーがワイヤーw1及びw2に均一に伝搬しないことを示している。
一方、ワイヤーw1の伝送特性(実線)とワイヤーw5の伝送特性(二点鎖線)との間には、上記の周波数帯域における顕著な差が見られない。また、ワイヤーw2の伝送特性(小破線)、ワイヤーw3の伝送特性(大破線)、及び、ワイヤーw4の伝送特性(一点鎖線)の間にも、上記の周波数帯域における顕著な差が見られない。
上記の実測結果から、本願の発明者は、並行敷設されたワイヤーw1〜w5の特性インピーダンスがそれぞれの敷設状態(隣接状態)に応じた傾向を示すことに着目し、ワイヤーw1〜w5を少なくとも端部線グループ(w1及びw5)と中間線グループ(w2〜w4)の2種類に分類することができる、という知見を得るに至った。
従来のワイヤーハーネスモデルは、その簡素化のために、互いに隣接するワイヤー同士の相互作用を無視し、単一の特性インピーダンスを持つものとして一律的に表現されていた。そのため、従来のワイヤーハーネスモデルでは、終端条件の等しいワイヤーw1〜w5全てに同一の電流及び電圧が発生することになるので、それぞれの敷設状態に応じた差違を表現することができなかった。また、集中定数では反射が存在しないので、ワイヤーハーネスwhの全長に依存した定在波を表現することもできなかった。
一方、ワイヤーハーネスwhを少なくとも端部線グループ(w1及びw5)と中間線グループ(w2〜w4)の2種類に分類することにより、単一の特性インピーダンスを持つ従来のワイヤーハーネスモデルや集中定数では表現することのできなかった伝送特性を再現することが可能となる。
<モデル分類>
図9A〜図9Cは、いずれもワイヤーハーネスを模式的に示す断面図であり、各図中のハッチングを付されたワイヤーが単線モデル(図9A)、端部線モデル(図9B)、並びに、中間線モデル(図9C)としてそれぞれモデル化される。また、各図の底辺は、いずれもグラウンドプレーンに相当する。
なお、単線モデル(図9A)は、その両側に他のワイヤーが存在しないワイヤー(つまり単線)をモデル化したものである。このように、単線モデル(図9A)は、複数本のワイヤーを並行敷設する事例には該当しないが、ここでは、伝送線路モデルの基本単位として、端部線モデル(図9B)及び中間線モデル(図9C)と共に説明する。なお、単線モデル(図9A)は、端部線モデル(図9B)の特殊例として理解することもできる。
各図中の白抜き矢印は、それぞれ、代表的な電気力線を示している。各図を比較参照すると分かるように、ワイヤーの敷設状態により、それぞれの電界分布が異なることから、3種類(単線モデル、端部線モデル、中間線モデル)の特性インピーダンスが混在する。なお、各図には、2種類のワイヤー種別(CPAVS0.75fとIV8mm2LFV)を例に挙げて、各モデル毎に2種類の特性インピーダンスZ0が示されている。
単線モデル(図9A)の場合、CPAVS0.75fではZ0=300Ωであり、IV8mm2LFVではZ0=207Ωである。端部線モデル(図9B)の場合、CPAVS0.75fではZ0=520Ωであり、IV8mm2LFVではZ0=364Ωである。中間線モデル(図9C)の場合、CPAVS0.75fではZ0=2600Ωであり、IV8mm2LFVではZ0=2400Ωである。
このように、単線モデル(図9A)及び端部線モデル(図9B)と中間線モデル(図9C)とでは、特性インピーダンスZ0の数値が一桁程度異なることが分かる。
図10は、CPAVS0.75fの特性インピーダンスを導出する際に取得された実測波形図である。なお、特性インピーダンスの実測に用いられたワイヤーハーネスwh11〜wh15の敷設状態については、凡例と共に示したように、wh11(実線)が単線、wh12(小破線)が並行敷設2本、wh13(大破線)が並行敷設5本、wh14(一点鎖線)が並行敷設2本(ただしワイヤー間距離100mm)、及び、wh15(二点鎖線)が並行敷設3本(ただしワイヤー間距離50mm)である。
特性インピーダンスの計測手法としては、TDR[time domain reflectometry]を用い、計測器はagilent 8510C(IFFT[inverse fast fourier transform]内蔵)、計測帯域は45MHz〜18.045GHz、計測ポイント数は401、計測範囲は−1ns〜15nsとした。また、特性インピーダンスの計測に際しては、各ワイヤーの両端をショートし、ワイヤーハーネス直線部のコモンモードインピーダンスとして特性インピーダンスを取得した。
ワイヤーハーネスwh11(実線)の実測結果は、Z0=300Ωであった。ワイヤーハーネスwh11は、単線のワイヤーそのものとして理解することができる。従って、単線モデルの特性インピーダンスは、「300Ω」に設定すればよい(図9Aを参照)。
ワイヤーハーネスwh12(小破線)の実測結果は、Z0=260Ωであった。ワイヤーハーネスwh12は、2本の端部線を並行敷設したものとして理解することができる。従って、端部線モデルの特性インピーダンスは、「520Ω(=260Ω×2)」に設定すればよい(図9Bを参照)。
ワイヤーハーネスwh13(大破線)の実測結果は、Z0=200Ωであった。なお、ワイヤーハーネスwh13は、2本の端部線と3本の中間線を並行敷設したものとして理解することができる。従って、中間線モデルの特性インピーダンスをRとした場合には、次の(1)式が成立する。
1/200=2/520+3/R …(1)
この(1)式を解くことにより、中間線モデルの特性インピーダンスを「2600Ω」と求めることができる(図9Cを参照)。
ワイヤーハーネスwh14(一点鎖線)の実測結果は、Z0=150Ωであり、ワイヤーハーネスwh15(二点鎖線)の実測結果は、Z0=120Ωであった。これらの実測結果とワイヤーハーネスwh11(実線)の実測結果(Z0=300Ω)との比較から、ワイヤー間距離が100mm以上になると、並行敷設された各ワイヤーが単線と同等の伝送特性を示すことが確認された。
また、ワイヤーハーネスwh11〜wh15いずれの実測においても、4.72ns/770mmの遅延時間が確認された。このことから、単位長さ(1m)当たりの単位遅延時間を「6.13ns/m」と求めることができる。
図11は、IV8mm2LFVの特性インピーダンスを導出する際に取得された実測波形図である。なお、特性インピーダンスの実測に用いられたワイヤーハーネスwh21〜wh24の敷設状態については、凡例と共に示したように、wh21(実線)が単線、wh22(小破線)が並行敷設2本、wh23(大破線)が並行敷設5本、及び、wh24(一点鎖線)が並行敷設2本(ただしワイヤー間距離100mm)である。また、特性インピーダンスの計測手法、計測器、計測帯域、計測ポイント数、及び、計測範囲については、先の図10と同一である。
ワイヤーハーネスwh21(実線)の実測結果は、Z0=207Ωであった。ワイヤーハーネスwh21は、単線のワイヤーそのものとして理解することができる。従って、単線モデルの特性インピーダンスは、「207Ω」に設定すればよい(図9Aを参照)。
ワイヤーハーネスwh22(小破線)の実測結果は、Z0=182Ωであった。ワイヤーハーネスwh22は、2本の端部線を並行敷設したものとして理解することができる。従って、端部線モデルの特性インピーダンスは、「364Ω(=182Ω×2)」に設定すればよい(図9Bを参照)。
ワイヤーハーネスwh23(大破線)の実測結果は、Z0=149Ωであった。なお、ワイヤーハーネスwh23は、2本の端部線と3本の中間線を並行敷設したものとして理解することができる。従って、中間線モデルの特性インピーダンスをRとした場合には、次の(2)式が成立する。
1/149=2/364+3/R …(2)
この(2)式を解くことにより、中間線モデルの特性インピーダンスを「2400Ω」と求めることができる(図9Cを参照)。
ワイヤーハーネスwh24(一点鎖線)の実測結果は、Z0=145Ωであった。この実測結果とワイヤーハーネスwh21(実線)の実測結果(Z0=207Ω)との比較から、ワイヤー間距離が100mm以上であっても、並行敷設された各ワイヤー間の干渉が存在することが確認された。
また、ワイヤーハーネスwh21〜wh24いずれの実測においても、5.36ns/880mmの遅延時間が確認された。このことから、単位長さ(1m)当たりの単位遅延時間を「6.09ns/m」と求めることができる。
<伝送線路モデル>
以上の測定結果を踏まえて、ワイヤーの伝送線路モデル(例えばSPICEモデル)を提案する。図12は、伝送線路モデルのパラメータ値を示すテーブルであり、ワイヤー種別(CPAVS0.75f/IV8mm2LFV)、モデル分類(単線モデル/端部線モデル/中間線モデル)、特性インピーダンス、及び、単位遅延時間が示されている。
なお、ワイヤー種別(=伝送線路の種別)としては、低圧伝送線路(信号線路)としてCPAVS0.75fを例示し、高圧伝送線路(電源線路)としてIV8mm2LFVを例示したが、必要に応じて別種のワイヤーをモデル化してもよい。
CPAVS0.75fの単線モデルは、特性インピーダンスがZ0=300[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.13[ns/m]に設定される。CPAVS0.75fの端部線モデルは、特性インピーダンスがZ0=520[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.13[ns/m]に設定される。CPAVS0.75fの中間線モデルは、特性インピーダンスがZ0=2600[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.13[ns/m]に設定される。
一方、IV8mm2LFVの単線モデルは、特性インピーダンスがZ0=207[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.09[ns/m]に設定される。IV8mm2LFVの端部線モデルは、特性インピーダンスがZ0=364[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.09[ns/m]に設定される。IV8mm2LFVの中間線モデルでは、特性インピーダンスがZ0=2400[Ω]に設定されて、単位遅延時間がTD=6.09[ns/m]に設定される。
このように、各モデルの特性インピーダンスは、ワイヤーのモデル分類(単線モデル、端部線モデル、中間線モデル)に応じて異なる値に設定される。特に、端部線モデルと中間線モデルに着目すると、端部線モデルの特性インピーダンスは、中間線モデルの特性インピーダンスよりも一桁程度低い値に設定される。一方、各モデルの単位遅延時間については、ワイヤーのモデル分類に依ることなく同一値に設定される。また、上記の特性インピーダンスと単位遅延時間は、ワイヤー種別毎にそれぞれ個別に設定される。
図13は、伝送線路モデルの記述例を示す模式図である。本図の例において、ワイヤーハーネスwhは、5本のワイヤーw1〜w5を並行敷設したものであり、その全長は、L[m]である。ワイヤー種別については、ワイヤーw1及びw2がCPAVS0.75fであり、ワイヤーw3〜w5がIV8mm2LFVであるものとする。
一方、ワイヤーw1〜w5の敷設状態に着目した場合には、ワイヤーw1及びw5が端部線に分類されて、ワイヤーw2〜w4が中間線に分類される。従って、ワイヤーハーネスwhは、端部線モデルと中間線モデルを組み合わせて適宜表現することができる。
なお、伝送線路モデルの記述様式については、ワイヤー番号(名)、内部導体c1の第1ポート接続先、外部導体c2の第1ポート接続先、内部導体c1の第2ポート接続先、外部導体c2の第2ポート接続先、特性インピーダンスZ0、及び、遅延時間TD(=単位遅延時間×全長)の順に、各パラメータを記述するものとする。
例えば、吹き出し中の上段第1行目における「w1 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=300 TD=6×L」という記述を読み解くと、「ワイヤーw1は、内部導体c1の第1ポート接続先がノードND1であり、外部導体c2の第1ポート接続先がグラウンドプレーンであり、内部導体c1の第2ポート接続先がノードND2であり、外部導体c2の第2ポート接続先がグラウンドプレーンであり、特性インピーダンスZ0が300[Ω]であり、遅延時間TDが6×L[ns]である。」と解釈される。
なお、吹き出し中の上段には、ワイヤーw1〜w5を単一の特性インピーダンス(Z0=300[Ω])で表した従来の伝送線路モデルが記述されている。一方、吹き出し中の下段には、ワイヤーw1〜w5をそれぞれの敷設状態に応じて異なる特性インピーダンスで表した新規の伝送線路モデルが記述されている。
より具体的に述べると、ワイヤーw1は、CPAVS0.75fの端部線モデル(Z0=520[Ω]、TD=6.13×L[ns])としてモデル化されている。ワイヤーw2は、CPAVS0.75fの中間線モデル(Z0=2600[Ω]、TD=6.13×L[ns])としてモデル化されている。ワイヤーw3及びw4は、いずれも、IV8mm2LFVの中間線モデル(Z0=2400[Ω]、TD=6.09×L[ns])としてモデル化されている。ワイヤーw5は、IV8mm2LFVの端部線モデル(Z0=364[Ω]、TD=6.09×L[ns])としてモデル化されている。
以上、本項で提案する新規の伝送線路モデルは、モデル化の対象となるワイヤーをその敷設状態に応じて端部線と中間線の2種類(または単線を含む3種類)に分類するステップと、端部線と中間線の2種類(または単線を含む3種類)をそれぞれ個別にモデル化して端部線モデルと中間線モデルの2種類(または単線モデルを含む3種類)を生成するステップと、を経て生成されるものである。
このような伝送線路モデルであれば、従来の伝送線路モデルと異なり、ワイヤーの敷設状態に応じた伝送特性の差(図8を参照)を忠実に再現することができるので、実測値とシミュレーション値との乖離を低減することが可能となる。
また、本項で提案する伝送線路モデルは、その伝送特性を表すパラメータとして、特性インピーダンスZ0と遅延時間TDを含むものであり、この点においては、従来の伝送線路モデルと何ら変わりがない(図13の吹き出し中における上段と下段を比較参照)。従って、EMCコンピュータシミュレーションの準備時間や実行時間に大きな影響はない。
また、伝送線路モデルの表現方法は、損失を考慮に入れる場合(=ロス有り)と損失を無視する場合(=ロス無し)に大別される。前者の場合、損失の表現方法は多岐に亘る。なお、先述の電装品BCI試験(図2)や電装品エミッション試験(図4)で使用されるワイヤーハーネスの全長は2m程度であり、車両への実装を考慮してもその全長は10m程度である。これを鑑みれば、ロス有りの伝送線路モデルとロス無しの伝送線路モデルを必要に応じて適宜使い分けることが望ましいと言える。なお、上記で説明してきた特性インピーダンス及び単位遅延時間は、いずれもロス無しの数値例である。
図14は、伝送線路シミュレーションによる再現確認例を示す周波数−特性インピーダンス図である。なお、本図中の実線はシミュレーション値(損失を考慮に入れた場合)を示しており、破線は実測値を示している。本図から、実線の挙動と破線の挙動が精度良く合致していることが分かる。例えば、熱に変わる電力と放射で失われる電力を損失として考慮に入れた伝送線路モデルでは、放射量の算出を行うことが可能となる。
<車体試験への応用>
先の電装品BCI試験(図2)では、その現実的な実施を担保すべく、多種多様なワイヤーハーネス構造(車両の数だけ種類がある)の中から1構造が固定されており、かつ、ノイズ注入点が3つの離散点に限定されていた。
しかしながら、実際の車両に敷設されるワイヤーハーネスは、その全長が100mm〜5000mmと様々であり、また、ワイヤーの本数についても1本〜60本程度と千差万別であった。そのため、電装品BCI試験では、予測できていない現象が膨大であり、見落としが多いという点は否めなかった。
これに対して、本項では、ワイヤーハーネスをモデル化した伝送線路モデルのパラメータ(例えば、特性インピーダンス、遅延時間、及び、敷設本数)を可変値とし、これらのパラメータを所定範囲内で掃引しながらDUTのイミュニティ特性またはエミッション特性を評価するコンピュータシミュレーション方法について提案する。
まず、以下では、パラメータ変更の具体的な事例をいくつか挙げながら、伝送線路モデルの記述内容がどのように変わるかを説明する。
図15は、ノイズ注入点を1ヶ所から2ヶ所に増設する場合において、伝送線路モデルの記述内容をどのように変えればよいかを示す模式図である。
本図の上段で示したように、信号ノードSIG1と信号ノードSIG2との間に敷設されたワイヤーW(全長:L)の1ヶ所(本図の例ではワイヤーWを2等分する点)にノイズ注入点INJ1が取り付けられている場合には、信号ノードSIG1とノイズ注入点INJ1との間に敷設された部分を分割ワイヤーW1(長さ:L/2)として理解し、ノイズ注入点INJ1と信号ノードSIG2との間に敷設された部分を分割ワイヤーW2(長さ:L/2)として理解することにより、例えば、次のように伝送線路モデルを記述することができる。
W1 SIG1 GPLANE INJ1 GPLANE Z0=300 TD=6
W2 INJ1 GPLANE SIG2 GPLANE Z0=300 TD=6
一方、本図の下段で示したように、ワイヤーWの2ヶ所(本図の例ではワイヤーWを3等分する点)にノイズ注入点INJ1及びINJ2が取り付けられている場合には、信号ノードSIG1とノイズ注入点INJ1との間に敷設された部分を分割ワイヤーW3(長さ:L/3)として理解し、ノイズ注入点INJ1とノイズ注入点INJ2との間に敷設された部分を分割ワイヤーW4(長さ:L/3)として理解し、ノイズ注入点INJ2と信号ノードSIG2との間に敷設された部分を分割ワイヤーW5(長さ:L/3)として理解することにより、例えば、次のように伝送線路モデルを記述することができる。
W3 SIG1 GPLANE INJ1 GPLANE Z0=300 TD=4
W4 INJ1 GPLANE INJ2 GPLANE Z0=300 TD=4
W5 INJ2 GPLANE SIG2 GPLANE Z0=300 TD=4
上記のように、ノイズ注入点を増設する場合には、ワイヤーの分割数が増えるので、これに合わせて伝送線路モデルの記述行数を適宜増やしてやればよい。また、ノイズ注入点を増設する場合には、分割ワイヤーの長さが変化するので、これに合わせて伝送線路モデルの遅延時間TDを適宜書き替えてやればよい。
図16は、ノイズ注入位置を変更する場合において、伝送線路モデルの記述内容をどのように変えればよいかを示す模式図である。
本図の上段では、図15の上段と同じく、信号ノードSIG1と信号ノードSIG2との間に敷設されたワイヤーW(全長:L)を2等分する点にノイズ注入点INJ1が取り付けられている。従って、伝送線路モデルは、次のように記述することができる。
W1 SIG1 GPLANE INJ1 GPLANE Z0=300 TD=6
W2 INJ1 GPLANE SIG2 GPLANE Z0=300 TD=6
一方、本図の下段では、ノイズ注入点INJ1がワイヤーWを2等分する点ではなく、ワイヤーWを3等分する点の一つ(本図の例では、分割ワイヤーW1の長さがL/3となり、分割ワイヤーW2の長さが2L/3となる点)に取り付けられている。従って、伝送線路モデルは、次のように記述することができる。
W1 SIG1 GPLANE INJ1 GPLANE Z0=300 TD=4
W2 INJ1 GPLANE SIG2 GPLANE Z0=300 TD=8
上記のように、ノイズ注入位置を変更する場合には、分割ワイヤーの長さが変化するので、これに合わせて伝送線路モデルの遅延時間TDを適宜書き替えてやればよい。また、改めて図示はしないが、ワイヤーの全長変更についても、遅延時間TDの書き替えにより対応可能であることは言うまでもない。
図17は、ワイヤー敷設状態を変更する場合において、伝送線路モデルの記述内容をどのように変えればよいかを示す模式図である。
本図の上段では、図13と同じく、ノードND1とノードND2との間に、5本のワイヤーw1〜w5(全長:L)が並行敷設されている。なお、ワイヤー種別については、ワイヤーw1及びw2がCPAVS0.75fであり、ワイヤーw3〜w5がIV8mm2LFVである。また、ワイヤーw1及びw5が端部線に分類されて、ワイヤーw2〜w4が中間線に分類される。従って、伝送線路モデルは、次のように記述することができる。
w1 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0= 520 TD=6.13xL
w2 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2600 TD=6.13xL
w3 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2400 TD=6.09xL
w4 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2400 TD=6.09xL
w5 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0= 364 TD=6.09xL
一方、本図の下段では、ワイヤーw3がIV8mm2LFVからCPAVS0.75fに変更されている。また、ワイヤーw5が端部線から中間線に変更されている。さらに、新たな端部線としてワイヤーw6(CPAVS0.75f)が別途増設されている。このとき、伝送線路モデルの記述内容は、次のように変更すればよい。
w1 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0= 520 TD=6.13xL
w2 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2600 TD=6.13xL
w3 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2600 TD=6.13xL
w4 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2400 TD=6.09xL
w5 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0=2400 TD=6.09xL
w6 ND1 GPLANE ND2 GPLANE Z0= 520 TD=6.13xL
上記した記述内容の変更箇所について説明する。まず、ワイヤーw3については、ワイヤー種別の変更(IV8mm2LFV→CPAVS0.75f)に伴い、ワイヤーw3の特性インピーダンスZ0が「2400」から「2600」に変更されると共に、ワイヤーw3の遅延時間TDが「6.09×L」から「6.13×L」に変更されている。また、ワイヤーw5については、モデル分類の変更(端部線→中間線)に伴い、ワイヤーw5の特性インピーダンスZ0が「364」から「2400」に変更されている。さらに、ワイヤーw6の増設に伴い、ワイヤーw6の記述行が1行分追加されている。なお、ワイヤーw6の記述内容は、ワイヤーw1の記述内容と同一である。
このように、伝送線路モデルのパラメータ(例えば、特性インピーダンス、遅延時間、及び、敷設本数)を適宜変化させることにより、多種の電装品実測環境構造を簡便に表すことが可能となり、さらには、車両に敷設されるワイヤーハーネス構造を再現することが可能となる。従って、実測ベンチマークの制約に縛られることなく、現実に生じ得る現象をコンピュータシミュレーションで十分にカバーすることができるようになる。
図18は、新旧のEMC評価手法を対比して示すフローチャートである。なお、本図左枠には、一般的なEMC評価手法の作業フローが示されている。一方、本図右枠には、本項で提案する新規なEMC評価手法の作業フローが示されている。
本図左枠で示したように、一般的なEMC評価手法では、まず、ステップS11において、車両毎のワイヤーハーネス構造が記述される。このワイヤーハーネス構造は、車両に実際に張り巡らされているワイヤーハーネス網を3次元レベルで解析し、その解析結果に基づいてその構造内容を詳細に記述したものである。
次に、ステップS12では、上記のワイヤーハーネス構造を用いて電磁界シミュレーションが実施され、続くステップS13において、車両毎に固定された伝送線路回路モデルが生成される。ただし、当然のことながら、ステップS12の電磁界シミュレーション1回につき、1つの伝送線路回路モデルしか生成することができない、という制約がある。
その後、ステップS14では、上記の伝送線路回路モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより、電装品のEMC評価(=イミュニティ特性またはエミッション特性の評価)が行われる。ただし、先にも述べたように、上記の伝送線路回路モデルは、1回の電磁界シミュレーション毎に1つずつしか生成することができない。そのため、複数種類の伝送線路回路モデルを用いて電装品のEMC評価を行いたい場合には、伝送線路回路モデルの種類(=固定形状の数)だけ、条件を変えながらステップS12の電磁界シミュレーションを繰り返す必要がある。
しかしながら、1回の電磁界シミュレーションを実施するためは、少なくとも数十時間を必要とし、シミュレーション精度を高めた場合には、その所要時間が数百時間に及ぶ場合もある。そのため、例えば、先の図15〜図17で例示した条件変更(ノイズ注入点の増設、ノイズ注入位置の変更、ワイヤー全長の変更、並びに、ワイヤー敷設状態の変更)を全て網羅するように、多種類の伝送線路回路モデルを生成しようとすると、数百時間〜数千時間が必要となるので、到底現実的な手法とは言えない。
このように、本図左枠のEMC評価フローは、まず第一に車両の特定を前提としているので、その汎用性は決して高くない。そのため、不特定の車両に搭載される電装品のEMC評価や、車両の実走行時に生じるワイヤーハーネス構造の変化まで想定したコンピュータシミュレーションの実施には不向きである。
一方、本図右枠で示したように、本項で提案する新規なEMC評価手法では、まず、ステップS21において、ワイヤーハーネスの特性インピーダンス計測が行われる。この特性インピーダンス計測は、ワイヤー種別(例えばCPAVS0.75fとIV8mm2LFV)毎にそれぞれ実施すればよい。本ステップの具体的な内容は、図10や図11で既に説明しているので、重複した説明を割愛する。なお、ワイヤーハーネスの特性インピーダンスは、単位長電磁界シミュレーションにより取得しても構わない。
次に、ステップS22では、ワイヤーハーネスを形成する複数のワイヤーについて、モデル分類(端部線、中間線、及び、単線)が行われる。このモデル分類も、先の特性インピーダンス計測と同様、ワイヤー種別毎にそれぞれ実施すればよい。本ステップの具体的な内容は、図9A〜図9Cや図12で既に説明しているので、重複した説明は割愛する。
その後、ステップS23では、細分化された複数の伝送線路モデルと、これに接続される種々のエレメント(DUTモデル、LISNモデル、バッテリモデルなど)を適宜組み合わせることにより、可変の伝送線路回路モデルが生成される。すなわち、本ステップで生成される伝送線路回路モデルには、ノイズ注入位置やワイヤーの敷設状態(延いてはワイヤーハーネス構造そのもの)に関するパラメータが含まれており、それらの値を可変値とすることにより、多種多様な試験条件を再現することができる。
これを踏まえて、続くステップS24では、上記の伝送線路回路モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより、各種パラメータ(例えば、特性インピーダンス、遅延時間、及び、敷設本数)を適宜掃引しながら、電装品のEMC評価が行われる。すなわち、本ステップでは、長時間を要する電磁界シミュレーション(ステップS12を参照)を何度も繰り返すことなく、各種パラメータを変化させて多種多様な試験条件(=ワイヤーハーネス構造)を再現することができる。従って、極めて効率的に短時間で最悪条件のスクリーニングを行うことが可能となる。
このように、新旧のEMC評価手法は、試験条件の変更作業が電磁界シミュレーションに律速されているか否かという点で大きく異なる。すなわち、本項で提案する新規なEMC評価手法であれば、多種多様な車両構造を無理に1つに集約することなくパラメータ化することにより、電磁界シミュレーションから独立して試験条件を連続的に変更することができる。従って、試験条件設定の自由度を高めることができるので、電装品のイミュニティ特性またはエミッション特性を従来よりも正しく評価することが可能となる。
<パラメータ掃引範囲>
図19は、ステップS24における各種パラメータ(特性インピーダンス、ワイヤー全長、ノイズ注入位置、及び、ワイヤー本数)の掃引範囲を示す模式図である。
特性インピーダンスZ0は、ワイヤーの敷設状態変動または種別変更を再現するように掃引される。ワイヤーの敷設状態変動としては、先に述べたモデル分類(端部線モデル、中間線モデル、及び、単線モデル)の変更のほかに、ワイヤーの位置ずれ(走行振動、経年変化、温度変化、または、湿度変化などに伴うワイヤーとグラウンドプレーンとの相対距離変化)、車種(車体構造)の変更、ボディ材質の変更など、ワイヤーの特性インピーダンスに影響を及ぼし得る状態変動を含めることができる。
なお、特性インピーダンスZ0の掃引範囲は、実測ベンチマークと同等の制約が課された値(例えば300Ω)を内包するように、(300−α)Ω≦Z0≦(300+β)Ωに設定するとよい。また、ワイヤー全長Lとノイズ注入位置Lxの掃引範囲についても、実測ベンチマークと同様の制約が課された値を内包するように設定すればよい。例えば、ワイヤー全長Lの掃引範囲は、1500mm〜1700mmを内包しつつ、実機で考えられるワイヤーの敷設長さを考慮して、100mm≦L≦5000mmに設定するとよい。また、例えば、ノイズ注入位置Lxの掃引範囲は、150mm、450mm、及び、750mmを内包するように、0mm≦Lx≦Lmmに設定するとよい。
上記のように、特性インピーダンスZ0、ワイヤー全長L、及び、ノイズ注入位置Lxの掃引範囲を設定すれば、従前の実測ベンチマークを用いてシミュレーション結果の検証(=シミュレーション結果と実測結果との照合)を行うことが可能となる。
なお、ワイヤー全長L及びノイズ注入位置Lxの掃引に際しては、これを再現するように遅延時間TDが掃引されることになる。
また、ワイヤー本数Nの掃引範囲には、実際のワイヤーハーネスを考慮して、1本≦N≦60本に設定すればよい。
なお、上記では、実測ベンチマークをベースとして各種パラメータの掃引範囲を設定する例を挙げたが、その設定手法はこれに限定されるものではなく、例えば、実機における伝送線路回路の構造記述(図18のステップS11)により求められた値を内包するように、各種パラメータの掃引範囲を設定してもよい。
このような設定によれば、実際の車両で生じ得る諸条件を忠実に反映したコンピュータシミュレーションを行うことができる。従って、例えば、従来のEMC評価手法(図18の左枠)では、いくら長時間を掛けても見落とされていた事象(例えば、走行振動に伴うワイヤーの位置ずれによって生じる意図しないイミュニティ特性やエミッション特性の変動)さえも、これを看過せずに評価することが可能となる。
<複数同時注入モデル>
背景技術の項でも述べた通り、実際の車両が外部からEMC妨害を受けた場合(例えば車両が落雷に晒された場合)には、車両に張り巡らされているワイヤーハーネス網(図1を参照)全体が同時に妨害を受ける。このとき、ワイヤーハーネス毎に異なる強さの妨害が発生したり、若しくは、直列に繋がったワイヤーハーネス群に妨害が発生したりする。そのため、実際のEMC妨害を再現するためには、影響を受ける複数のワイヤーハーネスに対して同時に妨害を加える必要がある。
しかしながら、従来のEMC試験でノイズ注入点を複数設定するためには、1基当たり数千万円のEMC試験設備(数kWクラスのA級アンプなど)をノイズ注入点の数だけ用意しなければならず、コストを鑑みると非現実的であった。
そのため、従来の実測ベンチマーク(例えば、図2の電装品BCI試験、若しくは、図3の車両BCI試験)では、DUTに接続されたワイヤーハーネスの1ヶ所にノイズ信号が注入されており、その他の部分が同時に妨害を受けている状態は無視されていた。このように、従来の実測ベンチマークでは、DUTの単独試験が行われており、実際の車両で生じるEMC妨害を再現し切れていない原因の一つとなっていた。
また、先にも述べたように、従来のコンピュータシミュレーションでは、車両のワイヤーハーネス網を3次元レベルで解析して電磁界シミュレーションを行う必要がある(図18の左側を参照)。この電磁界シミュレーションは、極めて高負荷の演算処理であり、ノイズ注入点を1ヶ所に絞っても、その処理時間が数十時間〜数百時間に及ぶ。そのため、従来のコンピュータシミュレーションを用いてノイズ信号の複数同時注入を再現することは、処理時間(処理能力)の面から非現実的であった。
以下では、これまでに説明してきた新規のコンピュータシミュレーション方法(=被試験デバイスに接続される伝送線路をモデル化した伝送線路モデルを用いて被試験デバイスのイミュニティ特性を評価する手法)をベースとして、伝送線路網の複数個所が同時に妨害を受けている環境を安価にかつ妥当な処理時間で再現することのできるシミュレーションモデルの構築について提案する。
図20は、複数同時注入モデルの第1例を示す模式図である。なお、本図の上段には、モデル化の対象となる構造体が模式的に描写されている。一方、本図の中段には、従来の1点注入モデルが描写されており、本図の下段には、今回提案する複数同時注入モデルの第1例が描写されている。
本図上段の構造体には、3つの被試験デバイスDUT1〜DUT3と、独立した2本のワイヤーW10及びW20が含まれている。ワイヤーW10は、被試験デバイスDUT1と被試験デバイスDUT2とを結ぶ伝送線路であり、両デバイス相互間に屈曲せずに敷設されている。一方、ワイヤーW20は、被試験デバイスDUT2と被試験デバイスDUT3とを結ぶ伝送線路であり、両デバイス相互間に屈曲せずに敷設されている。なお、本図上段では、被試験デバイスDUT1〜DUT3がそれぞれ一直線上に設けられているが、その配置レイアウトについてはこの限りではない。また、ワイヤーW10ないしはW20または双方のグラウンドプレーン(=ボディ)にノイズ電流を注入するものとして理解することもできる。また、ワイヤーW10及びW20のそれぞれをワイヤーハーネス(=複数のワイヤーの束)に置き換えて理解することもできる。
上記構造体が外部からEMC妨害を受けた場合(例えば車両が落雷に晒された場合)には、ワイヤーW10及びW20の双方が同時に妨害を受ける。本図上段では、ワイヤーW10の1点(被試験デバイスDUT1からの距離がL11で被試験デバイスDUT2からの距離がL12である点)と、ワイヤーW20の1点(被試験デバイスDUT2からの距離がL21で被試験デバイスDUT3からの距離がL22である点)の双方で同時に妨害を受ける様子が描写されている。
上記構造体のモデル化に際して、従来の1点注入モデル(本図中段)では、ワイヤーW10のみにノイズ注入点INJ10が設けられており、ワイヤーW20が同時に妨害を受けている状態は無視されていた(破線を参照)。
一方、今回提案する複数同時注入モデル(本図下段)では、ワイヤーW10及びW20に1つずつノイズ注入点INJ10及びINJ20が設定されており、それぞれにノイズ信号が同時注入される。
ノイズ注入点INJ10の設定については、ワイヤーW10(全長:L11+L12)のうち、被試験デバイスDUT1とノイズ注入点INJ10との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW11(長さ:L11)とし、ノイズ注入点INJ10と被試験デバイスDUT2との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW12(長さ:L12)として理解すればよい。
同様に、ノイズ注入点INJ20の設定については、ワイヤーW20(全長:L21+L22)のうち、被試験デバイスDUT2とノイズ注入点INJ20との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW21(長さ:L21)とし、ノイズ注入点INJ20と被試験デバイスDUT3との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW22(長さ:L22)として理解すればよい。
また、分割ワイヤーW11及びW12、並びに、分割ワイヤーW21及びW22をそれぞれモデル化した伝送線路モデルについては、これまでにも説明してきたように、その伝送特性を表すパラメータとして、特性インピーダンスZ0と遅延時間TDを含むものとすればよい。
なお、特性インピーダンスZ0は、分割ワイヤーW11及びW12、並びに、分割ワイヤーW21及びW22それぞれの敷設状態または種別に応じて設定すればよい。例えば、伝送線路モデルは、ワイヤーW10及びW20の敷設状態に応じて少なくとも端部線モデルと中間線モデルの2種類に分類しておき、それぞれの特性インピーダンスZ0を異なる値に設定しておくとよい。
また、遅延時間TDは、ワイヤーW10の全長または種別、若しくは、ノイズ注入点INJ10及びINJ20の位置(=分割ワイヤーW11及びW12の長さ、並びに、分割ワイヤーW21及びW22の長さ)に応じて設定すればよい。
また、被試験デバイスDUT1〜DUT3のうち、特にワイヤーW10及びW20の双方が接続される被試験デバイスDUT2は、ワイヤーW10が接続される第1ポートと、ワイヤーW20が接続される第2ポートを備える等価回路として、2ポート分のSパラメータを記述しておくとよい。
上記したように、今回提案する複数同時注入モデルでは、ワイヤーW10及びW20を伝送線路モデルとして記述するとともに、それぞれの結合部分を等価回路で接続することにより、評価対象となる伝送線路網が仮確定されている。さらに、ワイヤーW10及びW20には、それぞれ、ノイズ注入点INJ10及びINJ20が設定されており、コンピュータシミュレーションの実行時には、それぞれのノイズ注入点INJ10及びINJ20に対して同時にノイズ信号が注入される。
このような手法を用いれば、高価なEMC試験設備も高負荷の電磁界シミュレーションも要することなく、伝送線路網の複数個所が同時に妨害を受けている環境を安価にかつ妥当な処理時間で再現することができる。従って、例えば、実際の車両で生じるEMC妨害を正しく評価して、ワイヤーハーネス網の敷設構造を最適化することが可能となる。
また、車両の構造上、ワイヤーハーネスの敷設長や敷設経路には制約があるので、これを条件の一つとして、車両に張り巡らされた多数のワイヤーハーネスの中から、同時に妨害を受ける一群のワイヤーハーネス(=モデル化の対象とすべきワイヤーハーネス)を抽出することができる。従って、過度な演算負荷を掛けることなく、コンピュータシミュレーションを実施することが可能となる。
なお、ノイズ注入点INJ10及びINJ20にそれぞれ注入されるノイズ信号については、そのパラメータ(電流量(=強度)、周波数、及び、波形など)を可変値とし、当該パラメータを調整ないし掃引しながら、被試験デバイスDUT1及びDUT2のイミュニティ特性を評価するとよい。このような評価手法を採用することにより、ワイヤーW10及びW20に対して様々な角度から印加される磁界を疑似的に設定することができる。
例えば、ノイズ信号の波形を正弦波ではなくインパルスとし、ノイズ注入点INJ10及びINJ20にそれぞれ注入されるノイズ信号の電流量を適宜変化させることにより、落雷に晒された車両に対して様々な角度から印加される磁界の影響を正しく検証することが可能となる。以下では、複数同時注入モデルの第2例を挙げながら、雷のような自然現象の影響を評価する手法について提案する。
図21は、複数同時注入モデルの第2例を示す模式図である。なお、本図の上段には、モデル化の対象となる構造体が模式的に描写されており、本図の下段には、今回提案する複数同時注入モデルの第2例が描写されている。
本図上段の構造体には、2つの被試験デバイスDUT1及びDUT2と、独立した2本のワイヤーW30及びW40が含まれている。ワイヤーW30は、被試験デバイスDUT1と被試験デバイスDUT2とを結ぶ伝送線路であり、両デバイス相互間のノードn1で90°屈曲するように敷設されている。一方、ワイヤーW40も、同じく被試験デバイスDUT1と被試験デバイスDUT2とを結ぶ伝送線路であり、両デバイス相互間のノードn2で90°屈曲するように敷設されている。
このように、本図上段では、雷のような自然現象の影響を評価するための最も簡易な構造体として、ワイヤーW30及びW40により形成された矩形状のループ構造(以下ではワイヤーループと呼ぶ)が描写されている。
なお、本図上段では、ワイヤーW30及びW40がそれぞれ90°屈曲されているが、その角度についてはこの限りではない。また、ワイヤーW30ないしはW40または双方のグラウンドプレーン(=ボディ)にノイズ電流を注入するものとして理解することもできる。また、ワイヤーW10及びW20のそれぞれをワイヤーハーネス(=複数のワイヤーの束)に置き換えて理解することもできる。
上記構造体が外部からEMC妨害を受けた場合(例えば車両が落雷に晒された場合)には、ワイヤーW30及びW40の双方が同時に妨害を受ける。なお、ワイヤーW30は、ノードn1で屈曲しており、ワイヤーループの上辺に相当する部分と右辺に相当する部分では、それぞれの敷設方向が異なっているので、EMC妨害の受け方に差違がある。ワイヤーW40についても、上記と同様であり、ワイヤーループの下辺に相当する部分と左辺に相当する部分では、EMC妨害の受け方に差違がある。
これを鑑み、本図上段では、ワイヤーW30上の2点(ワイヤーループの上辺において被試験デバイスDUT1からの距離がL31でノードn1からの距離がL32である1点と、ワイヤーループの右辺においてノードn1からの距離がL33で被試験デバイスDUT2からの距離がL34である1点)と、ワイヤーW40上の2点(ワイヤーループの下辺において被試験デバイスDUT2からの距離がL41でノードn2からの距離がL42である1点と、ワイヤーループの左辺においてノードn2からの距離がL43で被試験デバイスDUT3からの距離がL44である1点)のそれぞれにおいて、同時に妨害を受ける様子が描写されている。
上記構造体のモデル化に際して、今回提案する複数同時注入モデル(本図下段)では、ワイヤーW30及びW40のそれぞれについて、2つずつノイズ注入点INJ31及びINJ32、並びに、ノイズ注入点INJ41及びINJ42が設定されており、それぞれにノイズ信号が同時注入される。
ノイズ注入点INJ31及びINJ32の設定については、ワイヤーW30(全長:L31+L32+L33+L34)のうち、被試験デバイスDUT1とノイズ注入点INJ31との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW31(長さ:L31)とし、ノイズ注入点INJ31からノードn1を経てノイズ注入点INJ32まで敷設されている部分を分割ワイヤーW32(長さ:L32+L33)とし、ノイズ注入点INJ32と被試験デバイスDUT2との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW33(長さ:L34)として理解すればよい。
また、上記と同じく、ノイズ注入点INJ41及びINJ42の設定についても、ワイヤーW40(全長:L41+L42+L43+L44)のうち、被試験デバイスDUT2とノイズ注入点INJ41との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW41(長さ:L41)とし、ノイズ注入点INJ41からノードn2を経てノイズ注入点INJ42まで敷設されている部分を分割ワイヤーW42(長さ:L42+L43)とし、ノイズ注入点INJ42と被試験デバイスDUT1との間に敷設されている部分を分割ワイヤーW43(長さ:L44)として理解すればよい。
このように、1本のワイヤーに複数のノイズ注入点を設定しておけば、伝送線路モデル自体の記述内容を変更することなく、分割ワイヤーの長さやノイズ信号のパラメータを変えるだけで、ワイヤーの屈曲状態(屈曲位置や屈曲方向など)を表現することができる。従って、様々な敷設状態の伝送線路網を自由にモデル化することができるので、例えば、妨害波の強度が車両の構造に依存する場合であっても適切に対応することが可能となる。
図22は、図21で示したワイヤーループの開口に対して、垂直方向の磁界Bが印加されている様子(=ワイヤーループの有効断面積が最大である様子)を示す模式図である。なお、本図左側には、図21のワイヤーループをZ軸方向から見た模式図(XY平面図)が描写されている。また、本図右側には、図21のワイヤーループをX軸方向から見た模式図(YZ平面図)が描写されている。
一方、図23は、図21のワイヤーループの開口に対して、斜め方向の磁界Bが印加されている様子(=ワイヤーループがZ軸方向に傾いて有効断面積が図22よりも減少した様子)を示す模式図である。なお、本図左側には、図21のワイヤーループをZ軸方向から見た模式図(XY平面図)が描写されている。また、本図右側には、図21のワイヤーループをX軸方向から見た模式図(YZ平面図)が描写されている。
なお、図22と図23との差違については、一定方向の磁界Bが印加されている中でワイヤーループが回転された状況であると理解してもよいし、これとは逆に、固定されているワイヤーループに対して磁界Bの印加方向が回転された状況であると理解してもよい。
両図を比較すると分かるように、ワイヤーループの上辺及び下辺に注入されるノイズ信号の強度(=ノイズ注入点INJ31及びINJ41がそれぞれ設けられたワイヤーを貫く磁力線の本数と等価)は、磁界Bの印加方向に依ることなく一定である。一方、ワイヤーループの左辺及び右辺に注入されるノイズ信号の強度(=ノイズ注入点INJ32及びINJ42が設けられたワイヤーを貫く磁力線の本数と等価)は、ワイヤーループの有効断面積が減少するほど小さくなる。
上記を鑑みると、例えば、ノイズ注入点INJ31及びINJ41のノイズ強度を維持したまま、ノイズ注入点INJ32及びINJ42のノイズ強度を引き下げれば、ワイヤーループをZ軸方向に傾けた状況を再現することができる。これと同様に、各ノイズ注入点のノイズ強度を適宜調整することにより、ワイヤーループに対していかなる方向から磁界Bが印加されている状況についても、これを任意に再現することが可能である。
また、ワイヤーループの上辺と下辺それぞれに生じる誘導電流、または、ワイヤーループの左辺と右辺それぞれに生じる誘導電流について、それぞれが互いに強め合ったり弱め合ったりする状況についても、各ノイズ注入点のノイズ強度を適宜調整することにより、自在に表現することが可能である。
このように、複数同時注入モデルの第2例(図21)を採用し、ワイヤーハーネスが受ける妨害の位置、経路、強度、周波数、及び、波形を適宜調整することにより、実際に起きてみないと妨害条件を確定することのできない自然現象(落雷など)についても、これが構造体(車両など)に及ぼす影響を正しく評価することができる。従って、その評価結果を事前設計に反映することにより、信頼性の向上に寄与することが可能となる。
<その他の変形例>
なお、本明細書中に開示されている種々の技術的特徴は、上記実施形態のほか、その技術的創作の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。