本発明は、バルーン表面に薬剤が保持されたバルーンカテーテルに関するものであり、詳細には、バルーンの外側面に補強部がバルーンの近位側直管部よりも遠位側直管部の方が高密度に設けられ、バルーンの近位側直管部に薬剤が保持されたバルーンカテーテルに関するものである。本発明のバルーンカテーテルによれば、血管内の石灰化した狭窄部や硬い病変部に対しても、薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けることが可能となる。
以下、下記実施の形態に基づき本発明のバルーンカテーテルを具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
図1および図2を参照して、バルーンカテーテルの全体構成について説明する。図1には、バルーンカテーテルの平面図を示し、図2には、図1に示したバルーンカテーテルのA−A断面図とB−B断面図を示している。図1には、シャフトの遠位側から近位側にわたってワイヤを挿通するオーバーザワイヤ型のバルーンカテーテルの構成例を示している。
バルーンカテーテル1は、シャフト2と、シャフト2の外側に設けられたバルーン10とを有する。バルーンカテーテル1は近位側と遠位側を有し、シャフト2の遠位側にバルーン10が設けられ、シャフト2の近位側にはハブ5が設けられる。本発明において、バルーンカテーテルの近位側とは、バルーンカテーテル(特にシャフト)の延在方向に対して使用者(術者)の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向(すなわち処置対象側の方向)を指す。また、バルーンの近位側から遠位側への方向を軸方向と称する。
バルーンカテーテル1は、ハブ5からシャフト2を通じてバルーン10の内部に圧力流体が供給されるように構成され、インデフレーターを用いてバルーン10の拡張および収縮を制御できる。
シャフト2は通常内部に、圧力流体の流路と、シャフト2の進行をガイドするワイヤの挿通路が設けられる。例えば、シャフト2は内管3と外管4から構成され、内管3がワイヤの挿通路として機能し、内管3と外管4の間の空間が圧力流体の流路として機能する。この場合、シャフト2の遠位側では、内管3が外管4の遠位端から延出してバルーン10を軸方向に貫通し、バルーン10の遠位側が内管3と接合され、バルーン10の近位側が外管4と接合されるように構成される。
ハブ5は、圧力流体の流路と連通した流体注入部6と、ワイヤの挿通路と連通した処置部7を有する。処置部7は、ワイヤを挿通する以外に、薬剤等の注入口や、生体体腔内の流体等の吸引口として機能させることができる。
バルーン10、シャフト2(内管3、外管4)、ハブ5の接合は、接着剤や熱溶着など従来公知の接合手段を用いて行うことができる。また、シャフト2のバルーン10が位置する部分には、バルーン10の位置をX線透視下で確認することを可能にするため、X線不透過マーカーを配置してもよい。
本発明は、シャフトの遠位側から近位側に至る途中までワイヤを挿通するラピッドエクスチェンジ型のバルーンカテーテルにも適用できる。その場合は、ワイヤの挿通路をシャフトの遠位側を含むシャフトの一部に設け、ハブには処置部を設けないようにすることもできる。また図1および図2には、シャフトの内部に血液が通ったりしない一般的なバルーンカテーテルを示しているが、本発明は、バルーンを長い時間拡張することによってバルーンに保持された薬剤を血管内壁などへ移行しやすくするために、バルーンを通過し、該バルーンの近位側と遠位側を血液などが移動できる灌流用ルーメンを有する灌流型バルーンカテーテルに適用することもできる。
図3には、図1に示したバルーンカテーテルに備えられたバルーンの拡大図を示した。なお、バルーンカテーテルに備えられるバルーンは、図3に示したバルーンに限定されない。
バルーン10は、ベースバルーン11と、ベースバルーン11の外側面に線状または網状に配置された補強部12とを有し、補強部12がベースバルーン11の外側面に突出して形成されている。ベースバルーン11はバルーン10の基本形状を規定し、近位側と遠位側にそれぞれ開口を有する袋状に形成される。補強部12はベースバルーン11の外側面に線状または網状のパターンで設けられており、補強部12が当該パターンでベースバルーン11の外側面に固定されている。ベースバルーン11の外側面に補強部12を設けることにより、バルーン10の高強度化や加圧時の過拡張の抑制が可能となる。また、補強部12にスコアリング機能を付与して、血管形成術において石灰化した狭窄部に亀裂を入れて拡張することも可能となる。
バルーン10は、少なくとも直管部14を有し、直管部14はバルーン10を軸方向に2等分して近位側直管部14Pと遠位側直管部14Dとに区分される。バルーン10は、図3に示すように、直管部14の近位側に接続する近位側テーパー部15と、直管部14の遠位側に接続する遠位側テーパー部16をさらに有することが好ましく、近位側テーパー部15と遠位側テーパー部16は直管部14から離れるに従って縮径するように形成される。近位側テーパー部15の近位側には円筒形状の近位側スリーブ17が接続し、遠位側テーパー部16の遠位側には円筒形状の遠位側スリーブ18が接続しており、図1に示したカテーテルでは、近位側スリーブ17がシャフト2の外管4に接合され、遠位側スリーブ18がシャフト2の内管3に接合されている。直管部14の外径や軸方向の長さ、テーパー部15、16のテーパー角度や軸方向の長さは、バルーン10の所望の機能に応じて適宜設定すればよい。また、テーパー部15、16のテーパー角度を軸方向に対して90°に設定して、バルーン10を略円筒形状に形成することもできる。なお、バルーン10は圧力流体が供給されることにより近位側テーパー部15から直管部14を経て遠位側テーパー部16が膨らむように構成されており、本発明においては当該膨張可能な部分をバルーンと見なす。
ベースバルーンは、例えば、樹脂を成形することにより製造することができる。例えば、押出成形によって押し出された樹脂チューブを金型に配置し、二軸延伸ブロー成形することによりベースバルーンを製造することができる。ベースバルーンは、金型の形状によって任意の形状に形成することができる。また、ディップ成形、射出成形、圧縮成形などの公知の成形方法によりベースバルーンを製造することもできる。ベースバルーンは複数層の樹脂層から構成されていてもよく、あるいは樹脂層以外の層を有していてもよい。
ベースバルーンを構成する樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、天然ゴム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が好適に用いられる。これらの樹脂は、バルーンの薄膜化や柔軟性の点からエラストマー樹脂を用いることが好ましい。例えばポリアミド系樹脂の中でベースバルーンに好適な材料として、ナイロン12、ナイロン11等が挙げられ、ブロー成形する際に比較的容易に成形可能である点から、ナイロン12が好適に用いられる。また、バルーンの薄膜化や柔軟性の点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマー、ポリアミドエーテルエラストマー等のポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。なかでも、降伏強度が高く、バルーンの寸法安定性が良好な点から、ポリエーテルエステルアミドエラストマーが好ましく用いられる。
ベースバルーンの寸法は、治療部位の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。例えば、治療部位が血管の場合は、軸方向の長さを5mm〜300mm、外径を1mm〜12mmとすることが好ましく、治療部位が十二指腸乳頭等の消化管の場合は、軸方向の長さを10mm〜100mm、外径を3mm〜30mmとすることが好ましい。
補強部12は、ベースバルーン11の外側面に線状または網状のパターンで設けられる。補強部12はバルーン10の外側面に突出して形成され、すなわちバルーン10の外側面においてバルーン径方向の外方に突出するように設けられる。補強部12は、ベースバルーン11の外側面に部分的に配置された層として設けられる。バルーン10の外側面の補強部12以外の部分には、非補強部13が形成される。従って、バルーン10の外側面において、補強部12は非補強部13よりも突出して形成され、非補強部13は補強部12に対して凹んで形成される。また、バルーン10において、補強部12は非補強部13よりも厚みが厚く形成される。
線状のパターンで設けられた補強部12としては、線状の補強部12がバルーンの軸方向に延びるように配置された態様、線状の補強部12がバルーンの周方向に延び、リング状に配置された態様、線状の補強部がバルーンの外側面にらせん状(コイル状)に配置された態様などが示される。この場合、線状の補強部は複数設けられてもよいが、それぞれの補強部は互いに交わらないように配置される。図4(a)には、補強部12がバルーンの周方向にらせん状に延びるように配置された例が示されている。
網状のパターンで設けられた補強部は、線状の補強部が互いに交わるように配置されたものであれば特に限定されず、例えば、上記に説明した線状のパターンの各態様を組み合わせて形成することができる。線状の補強部が交わる部分では、線状の補強部どうしが単に交差するものであってもよく(重ね合わせ構造)、編み構造を形成するものであってもよい(編組構造)。図3には、補強部が、軸方向に線状に延びるパターンと右巻きおよび左巻きのらせん状パターンが組み合わさった網状のパターンで配置された態様が示されている。図4(b)には、補強部が、右巻きおよび左巻きのらせん状パターンが組み合わさった網状のパターンで配置された態様が示されている。また、網状のパターンとして、三角格子や六角格子等の格子状パターンで補強部を設けてもよい。図4(c)には、補強部が六角格子状のパターンで配置された態様が示されている。
補強部12は、遠位側直管部14Dの平均密度が近位側直管部14Pの平均密度より高くなるように設けられている。遠位側直管部14Dに補強部12を高密度で設けることにより、遠位側直管部14Dの強度を高め、加圧時の過拡張を抑えることができる。そのため、血管内の石灰化した狭窄部や硬い病変部などにバルーンを挿入して拡張した際に、これらの狭窄部や病変部を効果的に押し広げることが可能となる。一方、近位側直管部14Pには補強部12が低密度で設けられ、後述するように近位側直管部14Pの外側面には薬剤が保持されているため、遠位側直管部14Dによって狭窄部や病変部が押し広げられた状態でバルーンをさらに挿入することで、狭窄部や病変部の奥まで薬剤を届けることができる。図3、図4(a)、図4(b)に示したバルーンでは、補強部のらせん状に延びる部分のピッチを調整することにより、近位側直管部よりも遠位側直管部の補強部の設置密度を高めている。図4(c)に示したバルーンでは、六角格子の大きさを調整することにより、近位側直管部よりも遠位側直管部の補強部の設置密度を高めている。
補強部の遠位側直管部と近位側直管部における平均密度(面積割合)は、バルーンを外側面から見て、遠位側直管部と近位側直管部にそれぞれ設けられた補強部の面積(ベースバルーン表面への投影面積)を測定することにより求める。なお、補強部の面積は、補強部の高さが半分となる箇所を補強部と非補強部の境界として定めて、それより高い部分を補強部と見なして、遠位側直管部と近位側直管部における各面積を求める。また、後述するように補強部を繊維材料から形成する場合は、繊維材料の設置面積(ベースバルーン表面への投影面積)を補強部の面積として求めてもよい。
補強部の遠位側直管部の平均密度は、例えば、近位側直管部の平均密度の1.1倍以上が好ましく、1.3倍以上がより好ましく、1.5倍以上がさらに好ましい。補強部の遠位側直管部と近位側直管部における各面積割合は、バルーンの所望する性能に応じて適宜設定すればよい。
補強部の遠位側直管部における面積割合は、例えば、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。このように遠位側直管部に補強部を設けることにより、バルーンを拡張させた際、遠位側直管部によって、硬化した狭窄部や病変部を効果的に押し広げやすくなる。補強部の遠位側直管部における面積割合の上限は特に限定されず、例えば95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。一方、補強部の近位側直管部における面積割合は、例えば、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。このように近位側直管部に補強部を設けることにより、薬剤保持量を確保したり、狭窄部や病変部への送達中(デリバリー中)の薬剤の溶出や脱落を抑えやすくなる。補強部の近位側直管部における面積割合の上限は、例えば80%以下が好ましく、60%以下がより好ましい。
補強部の線幅は、例えば、0.02mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また0.3mm以下が好ましい。補強部は、全て同じ線幅で設けられてもよく、異なる線幅の部分を有するように設けられてもよい。補強部の線幅は、補強部の高さの半値幅(補強部の高さが半分となる箇所の幅)を測定することにより求めたり、後述するように補強部を繊維材料から形成する場合は、繊維材料の幅(太さ)を補強部の線幅としてもよい。
上記に説明した補強部の面積割合や線幅は、バルーンを切断したり展開して、バルーンを非加圧状態で測定することにより求められる。後述する様々な値についても、特に断りのない限り、バルーンの非加圧状態での値を意味する。
補強部は、ベースバルーンと同じ材料から構成されてもよく、異なる材料から構成されてもよい。なお、補強部はベースバルーンよりも高強度で伸びにくい材料から構成されることが好ましく、このように補強部を構成することにより、補強部にスコアリング機能を持たせたり、バルーンの寸法安定性を高めることが容易になる。
補強部は、例えば、繊維材料をベースバルーンの外側面に接合することにより形成することができる。繊維材料は、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。繊維材料は、バルーンの高強度化の点から、ベースバルーンよりも高強度で伸びにくい(弾性率が高い)ことが好ましく、さらに高い引張強度を有することが好ましい。そのような繊維材料として、例えば、ポリアリレート繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、PBO繊維、炭素繊維等が挙げられる。
例えば図3に示したバルーンの場合、ベースバルーンの軸方向に平行で、周方向に間隔をおいて並べた複数の繊維材料21と、複数のらせん状に巻いた繊維材料22、23を、編み込まずにそのまま重ね合わせるか、または、編み込むことにより形成することができる。各繊維材料を編み込まずに重ね合わせる場合、ベースバルーン11の軸方向の全長にわたり、その表面から順に、繊維材料21、繊維材料22(23)、繊維材料23(22)と重ねてもよいし、繊維材料22(23)、繊維材料21、繊維材料23(22)と重ねてもよいし、繊維材料22(23)、繊維材料23(22)、繊維材料21と重ねてもよい。各繊維材料を編み込む場合は、各繊維材料21、22、23を規則的にバルーン径方向の外側と内側を入れ替えて編み込んだ構造であればよい。なお、らせん状に巻いた繊維材料22の巻き方向は、らせん状に巻いた繊維材料23とは反対方向である。繊維材料21、22、23は均一に巻かれていてもよいし、不均一に巻かれていてもよい。例えば、複数本の繊維をまとめて繊維材料21、22、23を形成することで、周方向に多くの本数の繊維を配置する際に極めて複雑な装置を使用することなく、簡便に製造することが可能となる。
繊維材料のベースバルーンへの接合方法としては、ベースバルーンの外側面に繊維材料を配置した状態で接着剤を繊維材料の外側から塗布する方法、ベースバルーンおよび/または繊維材料に接着剤を塗布した後、ベースバルーンの外側面に接着剤を配置する方法、繊維材料を熱溶着によりベースバルーンに接合する方法等が挙げられる。接着剤としては、樹脂を用いることもできる。
繊維材料の本数は、ベースバルーンの大きさ、繊維材料の太さ(補強部の高さや線幅)、バルーンの強度、薬剤の保持量等を勘案して、適宜設定すればよい。例えば、軸方向に延びる繊維材料(軸方向に線状に延びる補強部)は周方向に間隔をおいて複数配されることが好ましく、このときの周方向に配置する本数は3本〜30本とすることが好ましい。また、らせん状に巻いた繊維材料は(らせん状に延びる補強部)の本数は3本〜30本とすることが好ましく、このときの巻き角度は軸方向に対して50°〜80°の範囲で設定することが好ましい。
バルーンの近位側直管部には薬剤が保持されている。バルーンの近位側直管部に薬剤を保持させることにより、バルーンを狭窄部や病変部に挿入した際、遠位側直管部が押し広げた狭窄部や病変部の奥まで薬剤を届けることができる。
バルーンに保持される薬剤は、薬理活性物質であれば特に限定されず、例えば、非遺伝子治療薬、生体分子、小分子、細胞等の医薬として許容される薬剤が挙げられる。特に、バルーンカテーテルを血管形成術における治療後の血管の再狭窄を抑制する目的で使用する場合は、薬剤として抗増殖剤や免疫抑制剤などの抗再狭窄剤を好ましく用いることができ、具体的には、パクリタキセル、シロリムス(ラパマイシン)、エベロリムス、ゾタロリムス等の薬剤を用いることができる。これらの薬剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
薬剤は、薬剤層として近位側直管部の外側面に保持されていてもよく、またマイクロカプセル等の形態で近位側直管部の外側面に保持されていてもよい。また、近位側直管部の補強部などに薬剤が染み込む形で保持されていてもよい。薬剤には、薬理活性物質とともに、薬剤の分散性、溶解性、血管壁への移行性、保存安定性を向上させるための助剤が含まれていてもよい。助剤としては、安定化剤、結合剤、崩壊剤、防湿剤、防腐剤、溶解助剤などが用いられ、具体的には、乳糖、白糖、麦芽糖、デキストリン、キシリトール、エリスリトール、マンニトール、エチレンジアミン、ヨウ化カリウム、尿素、ポリソルベート、ジブチルヒドロキシトルエン、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル類等が挙げられる。
薬剤は、デリバリー中に薬剤が血液中に溶出したり脱落することを抑制するために、被覆層で保護された状態でバルーンに保持されていてもよい。被覆層は、薬剤の初期バーストを防止する観点から水溶性高分子であることが望ましく、例えば、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ペクチン、アラビアガム、ジェランガム、グアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ゼラチンなどから形成することができる。
薬剤または被覆層のバルーン表面との密着性を高めるために、バルーンの外側面には表面処理が施されてもよい。表面処理としては、プラズマ処理、レーザー処理、イオン処理、オゾン処理、放電処理、プライマー処理等が例示できる。
バルーンは遠位側直管部にも薬剤が保持されていてもよいが、薬剤のデリバリー中のロスを低減する点からは、遠位側直管部に保持される薬剤量は少ないことが好ましい。具体的には、遠位側直管部に保持される薬剤量は近位側直管部に保持される薬剤量よりも少ないことが好ましい。
バルーンの近位側直管部において、薬剤は、例えば補強部に保持されることが好ましい。近位側直管部には補強部が比較的低密度に設けられるため、バルーンを拡張させることにより、補強部を狭窄部や病変部に食い込ませるようにすることができ、補強部にスコアリング機能を付与することができる。そのため、補強部に薬剤を保持させることにより、狭窄部や病変部のより奥まで薬剤を届けることが可能となる。
補強部のスコアリング機能を高め、薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けることを容易にする点から、バルーンには、高さが0.2mm以上0.5mm以下の補強部が設けられることが好ましい。バルーンの近位側直管部にこのような高さの補強部が設けられれば、補強部を狭窄部や病変部に食い込ませるようにして、薬剤を狭窄部や病変部のより奥まで届けることが容易になる。例えば、血管形成術において石灰化した狭窄部の奥まで薬剤を届けることも可能となる。補強部は、全て同じ高さで設けられてもよく、異なる高さの部分を有するように設けられてもよい。なお、ここで説明した補強部の高さとは、補強部の最高高さを意味し、バルーンにはこれよりも高さの低い補強部が設けられていてもよい。
補強部の高さは、非補強部からの高さを測定することにより求めることができる。また、前述したように補強部を繊維材料から形成する場合は、繊維材料の太さを補強部の高さとしてもよい。補強部の高さは、バルーンの切断断面を測定することにより求めることができる。
補強部に薬剤を保持させる場合、補強部は、バルーンの外側面での突出状態が際立つように設けられることが好ましく、具体的には、隣接する補強部とある程度の間隔を空けて設けられることが好ましい。この点から、バルーンの近位側直管部には、補強部以外の部分が、少なくとも直径0.5mm(当該直径は0.8mmがより好ましく、1.0mmがさらに好ましい)の円形を包含する大きさで形成されていることが好ましい。このように補強部を設けることにより、補強部のスコアリング機能を高めて、薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けることが容易になる。一方、薬剤保持量を確保する点から、バルーンの近位側直管部には、補強部以外の部分が、直径1.5mm(当該直径は1.3mmがより好ましく、1.1mmがさらに好ましい)の円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましい。例えば、図4(a)〜(c)に示したバルーンでは、隣接する複数の補強部12に接する内接円19の直径が0.5mm以上となることが好ましく、また1.5mm未満となることが好ましい。なお、内接円19は、補強部12で囲まれた部分または挟まれた部分で最も大きな径を有するように規定される。
上記に説明した補強部以外の部分の大きさは、高さが0.2mm以上0.5mm以下の補強部に対して定められることが好ましい。すなわち、バルーンの近位側直管部には、高さが0.2mm以上0.5mm以下の補強部以外の部分が、少なくとも直径0.5mmの円形を包含する大きさで形成されていることが好ましく、また直径1.5mmの円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましい。補強部の高さの好適範囲や補強部以外の部分の大きさの好適範囲は上記に説明した通りである。このように補強部を設けることにより、バルーンのスコアリング機能を高めたり、より多くの薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けることが容易になる。
なお補強部の近位側直管部における面積割合は、前述したように、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましいが、補強部に薬剤を保持させる場合は、このように近位側直管部に補強部を設けることにより、補強部への薬剤保持量が確保され、狭窄部や病変部へより多くの薬剤を届けやすくなる。一方、補強部の近位側直管部における面積割合の上限については、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、このように補強部を設けることにより、補強部のスコアリング機能を高めて、薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けることが容易になる。
補強部に薬剤を保持させる場合、補強部は、2.03MPa(20atm)加圧時にも、バルーンの外側面の補強部以外の部分よりもバルーン径方向の外方に突出していることが好ましい。補強部は、バルーンの非加圧時にバルーンの外面側に突出して形成されているが、20atm加圧時にも補強部がバルーンの外面側に突出して形成されていれば、バルーンを20atmと高い圧力まで加圧した際にも、補強部を石灰化した狭窄部に対して食い込ませるようにすることができる。そのため、石灰化した狭窄部の奥まで薬剤を届けることが容易になる。20atmのような高い圧力まで加圧しないバルーンの場合は、補強部は、例えば1.01MPa(10atm)加圧時にも、バルーンの外側面の補強部以外の部分よりもバルーン径方向の外方に突出するように形成されていることが好ましい。なお、上記に説明した加圧時の圧力は、バルーン拡張時に使用するデバイスであるインデフレーターに備えられている圧力ゲージの値に相当する。以下も同様である。
バルーンの近位側直管部には、バルーン外側面の補強部以外の部分に薬剤が保持されていてもよい。この場合、近位側直管部の少なくとも非補強部に薬剤が保持されることとなる。バルーンの外側面において、非補強部は補強部に対して凹んで形成されるため、ここに薬剤を保持させることにより、デリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑えることができる。バルーンを加圧して拡張する際には、隣接する補強部の間隔が広がったり、非補強部がバルーンの内側から押圧されることにより、非補強部に保持された薬剤を狭窄部や病変部に移行させることができる。補強部がスコアリング機能を有する場合は、補強部によって狭窄部や病変部に亀裂を入れて、狭窄部や病変部のより奥まで薬剤を届けることも可能となる。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合、デリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑制する点から、バルーンには、高さが0.1mm以上の補強部が設けられることが好ましい。一方、補強部の高さが高すぎると、バルーンを拡張した際に薬剤がバルーンの外側面に残留しやすくなることから、補強部の高さは0.5mm以下が好ましい。補強部は、全て同じ高さで設けられてもよく、異なる高さの部分を有するように設けられてもよい。なお、ここで説明した補強部の高さとは、補強部の最高高さを意味し、バルーンにはこれよりも高さの低い補強部が設けられていてもよい。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合、デリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑える点から、バルーンの近位側直管部には、補強部以外の部分が、直径1.5mm(当該直径は1.3mmがより好ましく、1.1mmがさらに好ましい)の円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましい。一方、薬剤保持量を確保する点から、バルーンの外側面には、補強部以外の部分が、直径0.5mm(当該直径は0.8mmがより好ましく、1.0mmがさらに好ましい)の円形を包含する大きさで形成されていることが好ましい。このように近位側直管部を形成することにより、バルーンを加圧して拡張した際に、隣接する補強部の間隔が広がったり、非補強部がバルーンの内側から押圧されやすくなって、薬剤が放出されやすくなる。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合、デリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑える点から、補強部は網状のパターンで設けられることが好ましい。この場合、近位側直管部には、補強部以外の部分が8.0mm2以下の面積で設けられることも好ましく、7.5mm2以下がより好ましい。一方、薬剤保持量を確保する点から、補強部以外の部分は0.1mm2以上の面積で設けられることが好ましく、0.4mm2以上がより好ましい。このように近位側直管部を形成することにより、バルーンを加圧して拡張した際に、補強部以外の部分に保持された薬剤が放出されやすくなる。
補強部が網状のパターン設けられる場合、補強部は、五角形以上の多角形を含む網状に配置されていることが好ましい。このように補強部が設けられれば、バルーンを拡張した際に、バルーン外側面の網状の交点(結節点)近傍に保持されていた薬剤も、バルーンに残留しにくくなり、より多くの薬剤を狭窄部や病変部に移行させやすくなる。
上記に説明した補強部以外の部分の大きさや形状は、高さが0.1mm以上0.5mm以下の補強部に対して定められることが好ましい。すなわち、バルーンの外側面には、高さが0.1mm以上0.5mm以下の補強部以外の部分が、直径1.5mmの円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましく、また直径0.5mmの円形を包含する大きさで形成されていることが好ましい。高さが0.1mm以上0.5mm以下の補強部が網状のパターンで設けられる場合は、当該補強部以外の部分は8.0mm2以下の面積で設けられることが好ましく、また0.1mm2以上の面積で設けられることが好ましい。また、高さが0.1mm以上0.5mm以下の補強部は、五角形以上の多角形を含む網状に配置されていることも好ましい。補強部の高さの好適範囲や補強部以外の部分の大きさの好適範囲は上記に説明した通りである。
なお補強部の近位側直管部における面積割合は、前述したように、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましいが、補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合は、このように近位側直管部に補強部を設けることにより、デリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑えやすくなる。一方、補強部の近位側直管部における面積割合の上限については、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、このように補強部を設けることにより、近位側直管部の薬剤保持量を確保しやすくなる。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合、バルーンの外側面の補強部以外の部分は、バルーンを加圧した際に、バルーン径方向の外方に盛り上がるように形成されていることが好ましい。このようにバルーンを形成することにより、バルーンを狭窄部や病変部で加圧して拡張させた際に、近位側直管部の補強部以外の部分に保持された薬剤が放出されやすくなり、薬剤を狭窄部や病変部に効果的に移行させることができるようになる。
バルーンの外側面の補強部以外の部分がどの程度の圧力でバルーン径方向の外方に盛り上がるように形成されるようにするかは、バルーンカテーテルの用途に応じて適宜設定すればよい。バルーンの拡張圧に追従してバルーン径が拡張するタイプのセミコンプライアント型のバルーンの場合は、比較的低い拡張圧で使用されるため、例えば0.51MPa(5atm)加圧時に、バルーンの近位側直管部の補強部以外の部分がバルーン径方向の外方に盛り上がるように形成されていることが好ましい。一方、ある圧力以上ではバルーンを加圧してもバルーン径がほとんど増加しないノンコンプライアント型のバルーンの場合は、比較的高い拡張圧で使用されるため、例えば2.03MPa(20atm)加圧時に、バルーンの近位側直管部の補強部以外の部分がバルーン径方向の外方に盛り上がるように形成されていることが好ましい。
バルーンの外側面の補強部以外の部分の盛り上がりの程度は、バルーンの外側面の補強部の高さHaと補強部以外の部分の高さHbに基づき表すことができる。基本的には、バルーンの外側面の補強部の高さHaは拡張圧によらずほぼ一定の高さを維持し、補強部以外の部分の高さHbは拡張圧が高くなるほど高くなることが好ましい。
補強部以外の部分の盛り上がりの程度は、補強部の高さHaと補強部以外の部分の高さHbとの差(ΔH=Ha−Hb)を指標として定めてもよく、例えば、0.51MPa(5atm)加圧時のΔH5が0.20MPa(2atm)加圧時のΔH2よりも小さくなることが好ましい。補強部以外の部分は、0.51MPa(5atm)加圧時に、補強部の高さまで盛り上がるように形成されていてもよく、0.51MPa(5atm)加圧時に、補強部以外の部分が補強部よりもバルーン径方向の外方に盛り上がるように形成されていてもよい。また、2.03MPa(20atm)加圧時のΔH20が0.20MPa(2atm)加圧時のΔH2よりも小さくなることも好ましい。
バルーン加圧時の補強部の高さHaと補強部以外の部分の高さHbは、表面粗さ計を用いて測ることができる。表面粗さ計によりバルーン外側面の3次元画像を取得し、非補強部の最低部を基準として、補強部の最高部の高さを補強部と高さとして求め、非補強部の最高部の高さを補強部以外の部分の盛り上がり高さとして求める。非補強部の最高部は、非補強部の最低部よりも補強部から遠い位置にあるものとする。
バルーンは、加圧した際に、補強部以外の部分の面積が広がるように形成されていることも好ましい。このようにバルーンが形成されていれば、バルーンを加圧した際に、補強部以外の部分に保持された薬剤と補強部との間に隙間が形成されやすくなり、バルーンに保持された薬剤が放出されやすくなる。例えばセミコンプライアント型のバルーンの場合は、バルーンの近位側直管部における補強部以外の部分の面積が、0.20MPa(2atm)加圧時よりも0.51MPa(5atm)加圧時の方が広くなるように形成されていることが好ましい。ノンコンプライアント型のバルーンの場合は、バルーンの近位側直管部における補強部以外の部分の面積が、0.20MPa(2atm)加圧時よりも2.03MPa(20atm)加圧時の方が広くなるように形成されていることが好ましい。
バルーンの外側面の補強部以外の部分の盛り上がりの程度や伸張性、拡張圧に対する応答性は、ベースバルーンの材料や厚み、補強部の材料や太さ、設置態様を適宜選択することにより、調整することができる。
補強部は、主補強部と、主補強部よりも高さの低い補助補強部から構成されていてもよい。例えば補強部に薬剤を保持させる場合は、バルーンの近位側直管部に、補強部として、高さが0.2mm以上0.5mm以下の主補強部と、高さが0.01mm以上0.2mm未満の補助補強部とが設けられることが好ましい。この場合、少なくとも主補強部に薬剤が保持されていることが好ましい。この場合、主補強部によって、スコアリング機能を高めたり、薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けるように機能させることができ、補助補強部によってバルーンの耐圧性や形状保持性を高めることができる。補助補強部の高さは、0.02mm以上がより好ましく、また0.1mm以下がより好ましい。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合は、バルーンの近位側直管部には、補強部として、高さが0.1mm以上0.5mm以下の主補強部と、高さが0.01mm以上0.1mm未満の補助補強部が設けられることが好ましい。この場合、バルーンの近位側直管部の主補強部以外の部分に薬剤が保持されていることが好ましく、補助補強部には薬剤が保持されていてもよい。主補強部はデリバリー中の薬剤の溶出や脱落を抑制するように機能し、補助補強部によってバルーンの耐圧性や形状保持性を高めることができる。そのため、バルーン加圧時の過拡張をより抑えやすくなり、例えば石灰化した狭窄部に対しても、狭窄部を押し広げて、バルーンに保持した薬剤を狭窄部の奥まで届けやすくなる。補助補強部の高さは、0.02mm以上がより好ましく、また0.08mm以下がより好ましい。
図5および図6には、補強部として、主補強部と補助補強部が設けられたバルーンの例を示した。図5に示したバルーンは、図3に示したバルーンにおいて、バルーンの軸方向に延在する補強部12が主補強部12Aとして設けられ、バルーンの周方向にらせん状に延在する補強部12が補助補強部12Bとして設けられている。図6に示したバルーンは、バルーン周方向の一方向と他方向にらせん状に延在する補強部12のうち、一方向のらせん状に延在する補強部12が主補強部12Aとして設けられ、他方向のらせん状に延在する補強部12が補助補強部12Bとして設けられている。
補強部に薬剤を保持させる場合は、バルーンの近位側直管部には、主補強部以外の部分が少なくとも直径0.5mm(当該直径は0.8mmがより好ましく、1.0mmがさらに好ましい)の円形を包含する大きさで形成されていることが好ましい。また主補強部以外の部分は、直径1.5mm(当該直径は1.3mmがより好ましく、1.1mmがさらに好ましい)の円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましい。一方、補助補強部の設置態様は特に限定されず、主補強部よりも高密度に設けられてもよく、低密度に設けられてもよく、同程度の密度で設けられてもよい。なお、主補強部によるスコアリング機能や薬剤供給性能を確保しつつ、バルーンの形状保持性を高める点からは、補助補強部は、主補強部よりも広い面積割合で設けられることが好ましい。
補強部以外の部分に薬剤を保持させる場合は、バルーンの近位側直管部には、主補強部以外の部分が、直径1.5mm(当該直径は1.3mmがより好ましく、1.1mmがさらに好ましい)の円形を包含しない大きさで形成されていることが好ましい。また、主補強部以外の部分は、直径0.5mm(当該直径は0.8mmがより好ましく、1.0mmがさらに好ましい)の円形を包含する大きさで形成されていることが好ましい。主補強部が網状のパターンで設けられる場合は、主補強部以外の部分が8.0mm2以下の面積(当該面積は7.5mm2以下がより好ましい)で設けられることが好ましく、また0.1mm2以上の面積(当該面積は0.4mm2以上がより好ましい)で設けられることが好ましい。また、主補強部が五角形以上の多角形を含む網状に配置されていることも好ましい。一方、補助補強部の設置態様は特に限定されず、主補強部よりも高密度に設けられてもよく、低密度に設けられてもよく、同程度の密度で設けられてもよい。バルーンへの薬剤保持量を確保し、バルーンの形状保持性を高める点からは、補助補強部は、主補強部よりも広い面積割合で設けられることが好ましい。
補強部の少なくとも一部は、バルーンの軸方向に延在して設けられていることが好ましい。バルーンの外側面に保持された薬剤を血管壁等に確実に移行させるためには、バルーンを血管内である程度の時間拡張させておくことが望ましいが、バルーンを拡張させると血流が妨げられるため、バルーンを拡張させる時間は制限されるのが実態である。しかし、補強部の少なくとも一部がバルーンの軸方向に延在して設けられれば、バルーンを拡張させた際に、バルーンと血管壁の間にバルーンの軸方向に延びる隙間が形成されやすくなる。すなわち、補強部の隣接する軸方向延在部分の間でバルーンと血管壁の間に隙間が形成されたり、あるいは補強部以外の部分が補強部よりもバルーンの径方向の外方に膨らむ場合は、補強部の軸方向延在部分でバルーンと血管壁の間に隙間が形成されやすくなる。そのため、バルーンを拡張させても完全に血流が止められるのを防ぐことができ、バルーンの拡張時間を長くとることができるようになる。
補強部の一部はバルーンの軸方向に延在して設けられ、他部はバルーンの周方向にらせん状に延在して設けられることも好ましい。この場合、上記の効果に加え、加圧時のバルーンの径方向への拡張を抑えることができる。そのため、石灰化などにより硬化した狭窄部に対してもバルーンを拡張させて押し広げることが可能となり、硬化した狭窄部の奥まで薬剤を届けることが可能となる。
バルーンに主補強部と補助補強部が設けられる場合は、図5に示すように、主補強部12Aがバルーンの軸方向に延在して設けられ、補助補強部12Bがバルーンの周方向に延在して設けられることが好ましい。周方向に延在する部分は、周方向にらせん状に延在してもよく、周方向にリング状に延在してもよい。この場合、補強部のバルーン軸方向に延在する部分を軸方向延在部分とし、補強部のバルーン周方向に延在する部分を周方向延在部分とすると、主補強部は軸方向延在部分のみに設けられることが好ましい。軸方向延在部分の一部は、補助補強部から構成されていてもよい。周方向延在部分は補助補強部のみから構成されることが好ましい。このように主補強部と補助補強部が設けられれば、補強部の隣接する軸方向延在部分の間でバルーンと血管壁の間に隙間が形成されやすくなったり、あるいは補強部の軸方向延在部分でバルーンと血管壁の間に隙間が形成されやすくなり、バルーンを拡張させた際の血流を維持して、バルーン拡張時の時間をより長くとることができる。
バルーンに主補強部と補助補強部が設けられる場合は、図6に示すように、主補強部12Aがバルーンの周方向にらせん状に延在して設けられ、補助補強部12Bがバルーンの周方向に主補強部とは反対向きのらせん状に延在して設けられることも好ましい。この場合、補強部のうち、一方向のらせん状に延在する部分を第1らせん状延在部分とし、他方向のらせん状に延在する部分を第2らせん状延在部分とすると、主補強部は第1らせん状延在部分のみに設けられることが好ましく、第1らせん状延在部分の一部は補助補強部から構成されてもよい。第2らせん状延在部分は補助補強部のみから構成されることが好ましい。なお、このように構成されたバルーンには、補強部としてさらに軸方向延在部分が形成されていてもよいが、この場合、軸方向延在部分は補助補強部のみから構成されることが好ましい。このように主補強部と補助補強部を設ければ、主補強部が血管の延在方向に対して斜め方向となるように狭窄部や病変部に食い込んで、血管を周方向の全体に拡張させやすくなる。そのため、補強部によるスコアリング機能をより発揮させやすくなり、バルーンを拡張させた際に、狭窄部や病変部を押し広げて、バルーンに保持した薬剤を狭窄部や病変部の奥まで届けやすくなる。
バルーンは軸方向への拡張が抑えられることが好ましい。例えば図3に示したバルーンにおいて、軸方向に延在する繊維材料21の弾性率が周方向に延在する繊維材料22、23の弾性率より高く形成されることが好ましい。血管の再狭窄を抑制する薬剤溶出バルーンカテーテルに保持される薬剤は、狭窄部や病変部ではない正常血管内壁に塗布すると悪影響を及ぼす薬剤も多い。これまでの薬剤溶出バルーンカテーテルでは、軸方向への拡張を抑制することができず、正常血管にも薬剤を塗布してしまうことにより、病変部の再狭窄を予防することはできても病変部近位側または遠位側に新たな病変を生じることがあった。しかし、上記のようにバルーンが形成されていれば、バルーンの軸方向への拡張が抑えられ、薬剤を意図しない正常血管に塗布すること避けつつ、狭窄部や病変部等の血管壁の限定した範囲に塗布することが容易になる。また、狭窄部や病変部等の長さに合わせた直管長のバルーンを適切に選択することで、バルーンに保持された薬剤のより多くを目的とする狭窄部や病変部等に塗布することが可能となる。
バルーンは、硬化した狭窄部や病変部を効果的に押し広げることを容易にする点から、加圧時のバルーン径方向への拡張が抑えられることが好ましい。具体的には、バルーンは、0.20MPa(2atm)加圧時の外径をDとしたとき、2.03MPa(20atm)加圧時の外径が1.5D以下となることが好ましく、1.4D以下がより好ましく、1.3D以下がさらに好ましい。このようにバルーンが形成されていれば、20atmと高い圧力まで加圧してもバルーンの径方向への拡張が抑えられるため、石灰化した狭窄部に対してもバルーン施術を適用して押し広げることが可能となり、そのような狭窄部の奥まで薬剤を届けることができる。
バルーンは、0.20MPa(2atm)加圧時の直管部の長さをLとしたとき、2.03MPa(20atm)加圧時の直管部の長さが1.4L以下となることが好ましく、1.3L以下がより好ましく、1.2L以下がさらに好ましい。このようにバルーンが形成されていれば、加圧時のバルーンの軸方向への拡張が抑えられ、狭窄部や病変部等の血管壁の限定した範囲に薬剤を塗布することが容易になる。