JP6769109B2 - ガスバリア性フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
食品、医薬品、電子部材、電子機器等が、酸素や水蒸気等によって劣化したり変質したりすることを抑制するために、それらの包装用に、酸素や水蒸気の透過度を抑制したガスバリア性フィルムが用いられている。
従来、ガスバリア性フィルムとしては、基材フィルムの表面に、スメクタイト族粘土および雲母族粘土に代表される粘土鉱物である層状化合物と、水溶性高分子等の樹脂とを含むコーティング剤を塗布してガスバリア層を形成することにより、ガスバリア性を向上させたものが知られている。
粘土鉱物は、ナノシートと呼ばれる板状の単位構造からなる。一般的に、ナノシートの長手方向の平均長さが長い、すなわち、高アスペクト比の層状化合物を用いることにより、ガスバリア性フィルムのガスバリア性を向上することができる。そのため、粘土鉱物としては、天然のモンモリロナイト、溶融法もしくはタルク変性法によって合成されたフッ素化雲母、または、フッ素化ヘクトライト等の高アスペクト比の層状化合物を用いる研究が行われてきた。しかし、高アスペクト比の層状化合物を、樹脂と相溶させるためには、それらナノシートの表面を多量の有機イオンで有機修飾する工程が必要である。その結果、ナノシート同士が積み重なってできた層の間隔(以下、「層間距離」と言う。)が、有機修飾に用いられる有機イオンによって広がってしまう。
そこで、本発明では、粘土鉱物に代わる高アスペクト比の層状化合物として酸化グラフェンを用いることを検討した。グラフェンとは、1原子の厚さのsp2結合炭素原子のシートのことであり、炭素原子とその結合からできた蜂の巣のような六角形格子構造をなしている。厳密には、グラフェンとは、上記の定義のように1層のシートを指すが、本明細書では、これらのシートが2層〜1000層、積層した炭素膜もグラフェンと称する。
酸化グラフェンは、種々の製造方法で作製される。酸化グラフェンの製造方法の中でも、Hummers法は簡便な方法であり、多くの研究がなされている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。Hummers法では、最初に酸化剤でグラファイトを酸化する。酸化剤としては、過マンガン酸カリウムが用いられる。通常、酸化作用を促進するために、過マンガン酸カリウムと共に、硫酸等の酸が添加される。
米国特許出願公開第2007/0131915号明細書 米国特許出願公開第2010/0303706号明細書
酸化されたグラファイト(酸化グラファイト)は、層状構造を保っているものの、グラファイトに比較すると層の間隔が増大している。そのため、酸化グラファイトに超音波処理等を施すことにより、容易にその層状構造を破壊することができる。その結果、酸化されたグラフェン(酸化グラフェン)を得ることができる。なお、このとき、酸化グラフェンは1層以上の炭素原子のシートを有していることがある。
得られる酸化グラフェンは、厚みが0.75nm〜1.00nm、大きさ(長さ)が1μm〜数10μmであり、上記の粘土鉱物を超える高アスペクト比の層状化合物である。また、酸化グラフェンは、種々の還元剤を用いることでグラフェンに還元することが可能であり、グラフェンのナノシート同士の層間距離(層間間隔)は1nm以下、最小でグラフェンの単層の厚みに相当する0.334nmまで狭められる。
ここで、樹脂中における酸化グラフェンの割合を増加させていくと、ガスバリア層の厚み方向では、酸化グラフェンがガスバリア層の表面に対して平行に配列して積層する。そうすると、ガスバリア層中の気体は、この酸化グラフェンを迂回しながら透過するために透過距離が長くなり、結果として、ガスバリア性能が向上する。これを迷路効果と呼ぶ。さらに還元剤を用いて酸化グラフェンを還元することでその層間距離を狭めることでも効果が増してガスバリア性能が向上する。しかしながら、このような酸化グラフェン、または、酸化グラフェンが還元されてなるグラフェンから構成されるガスバリア層は、形成し難いばかりでなく、応力等による亀裂や剥離が生じてガスバリア性が低下する。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層において、応力等による亀裂や剥離が生じないガスバリア性フィルムを製造することができるガスバリア性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、酸化グラフェンとアミン化合物とを含むガスバリア用コーティング剤を塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜を乾燥して、前記酸化グラフェンと前記アミン化合物とを含むガスバリア層を形成する工程と、前記酸化グラフェンを還元する工程とを有することを特徴とする。
前記酸化グラフェンを還元する工程は、前記塗膜を形成する工程と前記ガスバリア層を形成する工程との間に行われてもよい。
前記酸化グラフェンを還元する工程は、前記塗膜を形成する工程の前に、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液に、前記ガスバリア用コーティング剤を加えて還流することにより行われてもよい。
本発明によれば、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層において、応力等による亀裂や剥離が生じないガスバリア性フィルムを製造することができるガスバリア用コーティング剤を提供することができる。
本発明のガスバリア用コーティング剤、ガスバリア性フィルムおよびその製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
[ガスバリア用コーティング剤]
本実施形態に係るガスバリア用コーティング剤は、アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含む。
アニオン性層状化合物(A)としては、特に限定されないが、例えば、酸化グラフェン等が好適に用いられる。
酸化グラフェンは、種々の製造方法で作製される。酸化グラフェンの製造方法としては、例えば、Hummers法等が挙げられる。酸化グラフェンの製造過程において、グラファイトの酸化により、グラファイトの表面に生じる極性官能基は、ヒドロキシル基、エポキシ基、カルボニル基およびカルボキシル基である。酸化グラフェンとしては、これらの極性官能基を有するグラファイトを化学的に反応させて修飾した、官能性の酸化グラフェンを用いることもできる。例えば、極性官能基を有するグラファイトを修飾する方法としては、例えば、シランカップ剤によるヒドロキシル基のシリル化処理等が挙げられる。他にもハロゲン化反応、水素化反応、シクロ付加反応、Bingel反応、ラジカル付加反応、Friedel−Crafts反応等が挙げられる。
酸化グラフェンは、水で分散された状態における平均粒子径(Median径)が20nm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜50μmであることがより好ましく、1μm〜30μmであることがさらに好ましい。
酸化グラフェンの平均粒子径(Median径)が20nm以上であれば、酸化グラフェンのアスペクト比が大きくなり、十分にガスバリア性の向上効果が得られる。一方、酸化グラフェンの平均粒子径(Median径)が100μm以下であれば、ガスバリア層の表面から酸化グラフェンが突き出すことがなく、外観不良やガスバリア性低下を招くことがない。
本実施形態において、酸化グラフェンの平均粒子径(Median径)の測定方法としては、例えば、動的光散乱法が挙げられる。酸化グラフェンの平均粒子径の測定装置としては、例えば、日機装社製のNanotrac UPA−EX150が用いられる。
カチオン性化合物(B)としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物等が好適に用いられる。
アミン化合物としては、例えば、1級アミノ基を有する化合物およびその付加塩類、2級アミノ基を有する化合物およびその付加塩類、3級アミノ基を有する化合物およびその付加塩類、4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸エステルの1級アミン類およびその付加塩類、ジアリルアミン、ジアリルアミン付加塩類、(メタ)アクリル酸エステルの2級アミン類およびその付加塩類、(メタ)アクリル酸エステルの3級アミン類およびその付加塩類、(メタ)アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩類、(メタ)アクリル酸ピリジルアルキルエステル類およびそのピリジニウム塩類、(メタ)アクリル酸ピリジルアルキルエステルのN−置換ピリジニウム塩類、ビニルピリジン類およびそのピリジニウム塩類、ポリアルキレンポリアミン、ポリアミド化合物、ポリアミドアミン−エピハロヒドリンおよびそのホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミン−エピハロヒドリンおよびそのホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素−エピハロヒドリンおよびそのホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミンポリ尿素−エピハロヒドリンおよびそのホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドアミンポリ尿素−エピハロヒドリンおよびそのホルムアルデヒド縮合反応生成物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミン化合物、ポリエチレンイミン、ポリビニルピリジン、アミノ変性アクリルアミド系化合物、ポリビニルアミン、ポリビニルアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。これらのアミン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
酸化グラフェン等のアニオン性層状化合物(A)の表面には電荷が存在するため、アニオン性を有し、アミン化合物等のカチオン性化合物(B)が吸着することができる。このようなアニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)とを含むガスバリア用コーティング剤を塗工してガスバリア層を形成すると、アニオン性層状化合物(A)の層間をカチオン性化合物(B)が埋めるため、アニオン性層状化合物(A)とカチオン性化合物(B)の相互作用により、酸化グラフェンが自然剥離したり、亀裂が生じたりすることを防止できる。また、酸化グラフェンが緻密に積層するため、ガスバリア層のガスバリア性が向上する。
ガスバリア用コーティング剤において、アニオン性層状化合物(A)とカチオン性化合物(B)との質量比((A)/(B))が、70.0/30.0〜99.0/1.0であることが好ましく、80.0/20.0〜90.0_/10.0であることがより好ましい。
アニオン性層状化合物(A)の質量比が70.0以上、すなわち、カチオン性化合物(B)の質量比が30.0以下であれば、アニオン性層状化合物(A)が緻密に積層するため、ガスバリア層はガスバリア性に優れる。一方、アニオン性層状化合物(A)の質量比が99.0以下、すなわち、カチオン性化合物(B)の質量比が1.0上であれば、基材フィルムに対するガスバリア層の密着性が得られ、応力により、ガスバリア層からアニオン性層状化合物(A)が自然剥離したり、ガスバリア層に亀裂が生じたりすることがない。
本実施形態のガスバリア用コーティング剤は、ガスバリア性を損なわない範囲内であれば、種々の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、フィラー、界面活性剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
本実施形態のガスバリア用コーティング剤は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、水が主に用いられるが、水に加えて、水に溶解あるいは均一に混合する溶媒も用いられる。水に溶解あるいは均一に混合する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、セロソルブ類、カルビトール類、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。
本実施形態のガスバリア用コーティング剤によれば、応力等による亀裂や剥離が生じない、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを製造することができる。
[ガスバリア性フィルム]
本実施形態に係るガスバリア性フィルムは、プラスチック材料からなる基材フィルムと、その基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられたガスバリア層と、を備える。また、本実施形態に係るガスバリア性フィルムは、ガスバリア層が、アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含む。
ガスバリア層において、カチオン性化合物は、アニオン性層状化合物(A)の層間に介在していてもよく、アニオン性層状化合物(A)の周囲を覆うように存在していてもよく、アニオン性層状化合物(A)と基材フィルムの間に介在していてもよい。
基材フィルムの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体等のポリC2−10等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等の脂肪族系ポリアミド、ポリメタキシリレンアジパミド等の芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体等のアクリル系樹脂、セロファン等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
基材フィルムとしては、上記の材料のうちから選択される1つの材料から構成される単層フィルム、または、上記の材料のうちから選択される2つ以上の材料から構成される単層フィルム、これらの単層フィルムを積層してなる積層フィルムが挙げられる。
また、基材フィルムとしては、上記の材料からなる層(皮膜)を他の基材(金属、木材、紙、セラミックス等)に積層した積層基材を用いてもよい。
これらの中でも、基材フィルムとしては、ポリオレフィン系樹脂フィルム(特に、ポリプロピレンフィルム)、ポリエステル系樹脂フィルム(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム)、ポリアミド系樹脂フィルム(特に、ナイロンフィルム)等が好適に用いられる。
基材フィルムは、未延伸フィルムであってもよく、一軸または二軸延伸配向フィルムであってもよく、ガスバリア層を形成する面に表面処理(コロナ放電処理等)、低温プラズマ処理、アンカーコート処理、アンダーコート処理等を施したフィルムであってもよい。基材フィルムにこれらの処理を施すことにより、上述のガスバリア用コーティング剤に対する良好な濡れ性と、ガスバリア層に対する良好な接着強度とが得られる。
基材フィルムの厚さは、特に限定されないが、包装材料としての適性や、他の皮膜を積層する適性を考慮しつつ、用途に応じて適宜調整される。基材フィルムの厚さは、実用的には、3μm〜200μmであることが好ましく、5μm〜120μmであることがより好ましく、10μm〜100μmであることがさらに好ましい。
ガスバリア層は、上述のガスバリア用コーティング剤からなる。
ガスバリア層の塗工量は、乾燥質量で0.02g/m以上10.00g/m以下であることが好ましく、0.10g/m以上5.00g/m以下であることがより好ましい。
ガスバリア層の塗工量が乾燥質量で0.02g/m以上であると、基材フィルムの表面の凹凸の影響を受けて、ガスバリア層に欠陥が生じ難く、ガスバリア層のガスバリア性を向上することができる。ガスバリア層の塗工量が乾燥質量で10.00g/m以下であると、製造コストの増加を抑制できる。
アニオン性層状化合物(A)としては、特に限定されないが、例えば、酸化グラフェンまたはグラフェン等が好適に用いられる。
酸化グラフェンとしては、上述のガスバリア用コーティング剤に用いられるものと同様のものが挙げられる。
グラフェンとしては、上記の酸化グラフェンを、水素ガスまたは他の還元剤を用いて化学的に還元したものが挙げられる。
グラフェンは、水で分散された状態における平均粒子径(Median径)が20nm〜100μmであることが好ましく、0.1μm〜50μmであることがより好ましく、1μm〜30μmであることがさらに好ましい。
グラフェンの平均粒子径(Median径)が20nm以上であれば、グラフェンのアスペクト比が大きくなり、十分にガスバリア性の向上効果が得られる。一方、グラフェンの平均粒子径(Median径)が100μm以下であれば、ガスバリア層の表面からグラフェンが突き出すことがなく、外観不良やガスバリア性低下を招くことがない。
本実施形態において、グラフェンの平均粒子径(Median径)の測定方法としては、例えば、上述の酸化グラフェンの平均粒子径(Median径)の測定方法と同様の方法が挙げられる。
アニオン性層状化合物(A)がグラフェンである場合、グラフェンの層間距離は0.334nm〜1.000nmであることが好ましく、0.334nm〜0.500nmであることがより好ましい。
グラフェンの層間距離が0.334nm〜1.000nmであれば、ガスバリア層において、グラフェンが緻密に積層されるため、ガスバリア層において、ガスが透過し難くなり、ガスバリア性が向上する。
酸化グラフェンの還元によって得られたグラフェンの層間距離は、X線回折(X−Ray Diffraction、XRD)装置によるX線回折スペクトルの分析や、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)による積層状態の直接観察等によって測定することができる。
ここで、X線回折装置を用いたグラフェンの層間距離の測定方法を説明する。
X線回折装置を用いて、X線回折により、還元前の酸化グラフェンの構造解析を行うと、還元前の酸化グラフェンの(002)面の回折ピークを、例えば、2θ=12°付近(d=0.75nm)に観察することができる。酸化グラフェンの層間にアミン化合物が介在している状態では、酸化グラフェンの層間距離が広がり、例えば、2θ=6°付近(d=1.40nm)までピークがシフトすることもある。酸化グラフェンを還元すると、これらのピークが消失して、例えば、2θ=26°付近(d=0.334nm)に、ブロードなピークが生じる。このようにして、グラフェンの層間距離を測定することができる。
なお、グラフェンの層間距離が0.334nmである場合、この距離はグラフェンの単層の厚みに相当する。そのため、グラフェンの層間距離が0.334nmである部分では、グラフェンの層間には、アミン化合物等のカチオン性化合物(B)が介在しないと考えられる。また、グラフェンの層間距離が0.334nmを超える場合、グラフェンの層間には、アミン化合物等のカチオン性化合物(B)が介在すると考えられる。
カチオン性化合物(B)としては、特に限定されないが、例えば、アミン化合物等が好適に用いられる。
アミン化合物としては、上述のガスバリア用コーティング剤に用いられるものと同様のものが挙げられる。
ガスバリア層において、アニオン性層状化合物(A)とカチオン性化合物(B)との質量比((A)/(B))が、70.0/30.0〜99.0/1.0であることが好ましく、80.0/20.0〜90.0/10.0であることがより好ましい。
アニオン性層状化合物(A)の質量比が70.0以上、すなわち、カチオン性化合物(B)の質量比が30.0以下であれば、アニオン性層状化合物(A)が緻密に積層するため、ガスバリア層はガスバリア性に優れる。一方、アニオン性層状化合物(A)の質量比が99.0以下、すなわち、カチオン性化合物(B)の質量比が1.0以上であれば、基材フィルムに対するガスバリア層の密着性が得られ、応力により、ガスバリア層からアニオン性層状化合物(A)が自然剥離したり、ガスバリア層に亀裂が生じたりすることがない。
本実施形態のガスバリア性フィルムは、必要に応じて、印刷層、アンカーコート層、オーバーコート層、遮光層、接着剤層、ヒートシール層等を有していてもよい。
本実施形態のガスバリア性フィルムは、JIS K5600−5−1:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第1節:耐屈曲性(円筒形マンドレル法)」に準拠して、8mmのマンドレルで屈曲した後の30℃、40%RHでの酸素透過度が1.0cc/m・day以下であることが好ましく、0.1cc/m・day以下であることがより好ましい。
屈曲後の酸素透過度が上記の範囲内であれば、本実施形態のガスバリア性フィルムは、加工・成型後も良好なガスバリア性を発揮することができる。
本実施形態のガスバリア性フィルムによれば、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層において、応力等による亀裂や剥離が生じることを防止できる。
[ガスバリア性フィルムの製造方法]
本実施形態のガスバリア性フィルムの製造方法は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、上述のガスバリア用コーティング剤を塗布し、塗膜を形成する工程(工程a)と、塗膜を乾燥して、アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含むガスバリア層を形成する工程(工程b)と、を有する。
工程aでは、基材フィルムの少なくとも一方の面に、上述のガスバリア用コーティング剤を、乾燥質量で0.02g/m以上10.00g/m以下となるように塗工することが好ましく、0.10g/m以上5.00g/m以下となるように塗工することがより好ましい。
基材フィルムの少なくとも一方の面に、ガスバリア用コーティング剤を塗布する方法としては、特に限定されず、公知の塗工方法を用いることができる。塗工方法としては、例えば、スピンコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター等の塗工装置を用いた方法が挙げられる。
工程bにおいて、基材フィルムの少なくとも一方の面に形成した塗膜の乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、UV乾燥、熱ロール乾燥、赤外線照射等が挙げられる。
乾燥温度は、50℃〜200℃であることが好ましい。乾燥温度が50℃以上であれば、塗膜内の溶媒が抜けるため、アニオン性層状化合物(A)がより緻密になり、ガスバリア性が向上する。一方、乾燥温度が200℃以下であれば、基材フィルムやガスバリア層が熱により劣化することを防止できる。
本実施形態のガスバリア性フィルムの製造方法では、工程aと工程bの間に、塗膜に含まれるアニオン性層状化合物(A)を還元する工程(工程c)を有することが好ましい。
アニオン性層状化合物(A)を還元する方法としては、例えば、水素ガスまたは他の還元剤を用いた化学的還元方法が用いられる。
還元剤としては、アニオン性層状化合物(A)を還元することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ヒドラジン(ヒドラジン、N,N−ジメチルヒドラジン、ヒドラジン一水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドロキノン、アスコルビン酸、ヨウ化水素等が挙げられる。
アニオン性層状化合物(A)を還元する方法としては、例えば、上記の塗膜が形成された基材フィルムを密閉された容器内等の空間に配置し、その空間内で加熱により発生させた、上記の還元剤の蒸気に、上記の塗膜を曝露する方法が挙げられる。
また、本実施形態のガスバリア性フィルムの製造方法では、工程cの代わりに、工程aの前に、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液に、ガスバリア用コーティング剤を加えて還流することにより、ガスバリア用コーティング剤に含まれるアニオン性層状化合物(A)を還元する工程(工程d)を有することが好ましい。
工程cまたは工程dにより、ガスバリア層を形成する上記のガスバリア用コーティング剤に含まれるアニオン性層状化合物(A)が還元され、最終的に、アニオン性層状化合物(A)が緻密に配されたガスバリア層を形成することができる。
本実施形態のガスバリア性フィルムの製造方法によれば、応力等による亀裂や剥離が生じない、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを製造することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例]
酸化グラフェンとしては、Graphenea Graphene Oxide(Graphenea社製)を用いた。
酸化グラフェンの固形分が0.5質量%になるように、酸化グラフェンに、水とメタノールを質量比で70:30の割合で混合した混合溶液を加えた。
これらの混合物を、室温で60分間超音波処理した後、回転数500rpmにて12時間攪拌して、酸化グラフェン分散液を調製した。
酸化グラフェン分散液に、トリエチレンテトラミン(東京化成工業社製)の5質量%水溶液を、この水溶液の添加後の溶液(分散液)における酸化グラフェンとトリエチレンテトラミンの固形分質量比が80:20の割合になるように添加して、ガスバリア用コーティング剤を調製した。
基材フィルム(厚さ100μm、ポリエチレンテレフタレートフィルム、商品名:A4100、東洋紡社製)の一方の面に、スピンコーターにより、20回にわたりガスバリア用コーティング剤を積層塗工した。
その後、この積層体をオーブンにより、70℃で10分間乾燥させて、基材フィルムの一方の面に、厚さ200nmの皮膜が形成されたフィルムを得た。
得られたフィルムを、ヒドラジン一水和物(東京化成工業社製)を0.5mL染み込ませた濾紙とともにシャーレに入れて蓋をした。
次に、このシャーレをホットプレート上で90℃に加熱して、ヒドラジン一水和物の蒸気にフィルムを30分間暴露することで酸化グラフェンを還元し、基材フィルムと、その一方の面に形成されたガスバリア層とからなる実施例のガスバリア性フィルムを得た。
[比較例1]
酸化グラフェン分散液に、トリエチレンテトラミン(東京化成工業社製)の5質量%水溶液を、この水溶液の添加後の溶液(分散液)における酸化グラフェンとトリエチレンテトラミンの固形分質量比が65:35の割合になるように添加したこと以外は実施例と同様にして、比較例1のガスバリア性フィルムを得た。
[比較例2]
酸化グラフェン分散液に、トリエチレンテトラミン(東京化成工業社製)の5質量%水溶液を、この水溶液の添加後の溶液(分散液)における酸化グラフェンとトリエチレンテトラミンの固形分質量比が50:50の割合になるように添加したこと以外は実施例と同様にして、比較例2のガスバリア性フィルムを得た。
[比較例3]
酸化グラフェン分散液に、トリエチレンテトラミン(東京化成工業社製)の5質量%水溶液を、この水溶液の添加後の溶液(分散液)における酸化グラフェンとトリエチレンテトラミンの固形分質量比が99.5:0.5の割合になるように添加したこと以外は実施例と同様にして、比較例3のガスバリア性フィルムを得た。
[比較例4]
酸化グラフェン分散液に、トリエチレンテトラミンの水溶液を添加しないこと以外は実施例と同様にして、比較例4のガスバリア性フィルムを得た。
[評価]
実施例および比較例1〜4のガスバリア性フィルムを、下記の方法に従って評価した。
[酸素透過度(等圧法)の測定]
実施例および比較例1〜4のガスバリア性フィルムについて、酸素透過度(cc/m・day)を、下記の方法に従って測定した。
酸素透過度測定装置MOCON(商品名:OX−TRAN2/20 SLモジュール、モダンコントロール社製)を用いて、30℃、70%RHの雰囲気下におけるガスバリア性フィルムの酸素透過度を測定した。
なお、ここでは、ガスバリア性フィルムの酸素透過度を、酸素透過度測定装置に測定用のガスバリア性フィルムをセットしてから24時間後に測定した値とした。
結果を表1に示す。
[ガスバリア性フィルムの剥離観察]
酸素透過度測定装置にセットしてから24時間後に、実施例および比較例1〜4のガスバリア性フィルムについて、基材フィルムとガスバリア層の間における剥離の有無を目視により観察した。
結果を表1に示す。
Figure 0006769109
表1の結果から、実施例のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性に優れることが分かった。
一方、比較例1、2では、アミン化合物(トリエチレンテトラミン)の添加量が多いため、グラフェンによる迷路効果が低下してガスバリア性が低下することが分かった。
比較例3では、アミン化合物の添加量が少ないため、ガスバリア層の一部が基材フィルムから剥離しており、ガスバリア性が低下することが分かった。
アミン化合物を含まない比較例4では、酸化グラフェンのみからなるガスバリア層が基材フィルムから自然剥離していた。
このように、ガスバリア層におけるアミン化合物の添加量が少ないか、もしくは、アミン化合物を含まない場合、応力により、ガスバリア層に亀裂や剥離が生じると考えられる。
ガスバリア層中のアミン化合物の存在は、ガスバリア性フィルムのフーリエ変換赤外分光分析(Fourier Transform Infrared spectroscopy、FT−IR)により確認することができる。
第一級のアミンであれば3350cm−1〜3150cm−1近傍に、第二級のアミンであれば2800cm−1〜2000cm−1近傍に、第三級のアミンであれば2700cm−1〜2250cm−1近傍に等にN−H伸縮振動に由来するピークが現われる。
また、塗工前の分散液をイオンクロマトグラフィー法で分析したり、ガスバリア層を削り取り、その削り取ったものを溶媒に溶かして、塗膜に含まれるイオンを溶出させた後、これをイオンクロマトグラフィー法で分析したりすることにより、アミン化合物のイオン濃度を定量することでも、ガスバリア層中のアミン化合物の存在を確認できる。
本明細書は、以下の技術思想を含んでいる。
(付記項1)
アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含むことを特徴とするガスバリア用コーティング剤。
(付記項2)
前記アニオン性層状化合物(A)は、酸化グラフェンであることを特徴とする付記項1に記載のガスバリア用コーティング剤。
(付記項3)
前記カチオン性化合物(B)は、アミン化合物であることを特徴とする付記項1または2に記載のガスバリア用コーティング剤。
(付記項4)
前記アニオン性層状化合物(A)と前記カチオン性化合物(B)との質量比((A)/(B))が、70.0/30.0〜99.0/1.0であることを特徴とする付記項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア用コーティング剤。
(付記項5)
プラスチック材料からなる基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられたガスバリア層と、を備え、
前記ガスバリア層は、アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含むことを特徴とするガスバリア性フィルム。
(付記項6)
前記アニオン性層状化合物(A)は、酸化グラフェンまたはグラフェンであることを特徴とする付記項5に記載のガスバリア性フィルム。
(付記項7)
前記カチオン性化合物(B)は、アミン化合物であることを特徴とする付記項5または6に記載のガスバリア性フィルム。
(付記項8)
前記アニオン性層状化合物(A)と前記カチオン性化合物(B)との質量比((A)/(B))が、70.0/30.0〜99.0/1.0であることを特徴とする付記項5〜7のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
(付記項9)
前記アニオン性層状化合物(A)は、前記グラフェンであり、前記グラフェンの層間距離が0.334nm〜1.000nmであることを特徴とする付記項6〜8のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム。
(付記項10)
基材フィルムの少なくとも一方の面に、付記項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア用コーティング剤を塗布し、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を乾燥して、アニオン性層状化合物(A)と、カチオン性化合物(B)と、を含むガスバリア層を形成する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
(付記項11)
前記塗膜を形成する工程と前記ガスバリア層を形成する工程の間に、前記アニオン性層
状化合物(A)を還元する工程を有することを特徴とする付記項10に記載のガスバリア
性フィルムの製造方法。
(付記項12)
前記塗膜を形成する工程の前に、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液に、前記ガスバリア用コーティング剤を加えて還流することにより、前記ガスバリア用コーティング剤に含まれる前記アニオン性層状化合物(A)を還元する工程を有することを特徴とする付記項10に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
本発明のガスバリア用コーティング剤は、応力等による亀裂や剥離が生じない、酸化グラフェンを主体とするガスバリア層を有するため、食品やトイレタリー製品、薬品、医療品、電子部材などの容器や包材などの様々な分野へ応用することができる。

Claims (3)

  1. 基材フィルムの少なくとも一方の面に、酸化グラフェンとアミン化合物とを含むガスバリア用コーティング剤を塗布して塗膜を形成する工程と、
    前記塗膜を乾燥して、前記酸化グラフェンと前記アミン化合物とを含むガスバリア層を形成する工程と、
    前記酸化グラフェンを還元する工程と、
    を有する、
    ガスバリア性フィルムの製造方法。
  2. 前記酸化グラフェンを還元する工程は、前記塗膜を形成する工程と前記ガスバリア層を形成する工程との間で行われる、
    請求項1に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
  3. 前記酸化グラフェンを還元する工程は、前記塗膜を形成する工程の前に、水素化ホウ素ナトリウムを含む溶液に、前記ガスバリア用コーティング剤を加えて還流することにより行われる、
    請求項1に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
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