以下に、必要により添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
本発明のラップドVベルトは、圧縮ゴム層が、ゴム硬度の異なる2種類の圧縮ゴム層を含む積層構造を有し、かつ各層のゴム硬度が調整され、かつ心線の配列密度が調整されていることを除いて、慣用のラップドVベルトであってもよい。慣用のラップドVベルトは、例えば、内周側の圧縮ゴム層、外周側の伸張ゴム層、およびその間に介在する、心線を埋設した芯体層(接着ゴム層)を有する無端状でV字状断面のベルト本体と、前記ベルト本体のV字状断面の周囲をベルト周長方向の全長に渡って被覆する外被布(カバー布)とからなり、前記外被布で被覆されたV字状断面の左右の両側面が摩擦伝動面であるVベルトであってもよい。なお、V字状断面において、ベルト幅が広い側を外周側、ベルト幅が狭い側を内周側とする。
図2は、本発明のラップドVベルトの一例の概略断面図である。図2に示すラップドVベルト1は、ベルト外周側から、伸張ゴム層(または上芯ゴム層)2、心線3が加硫ゴム組成物中に埋設された芯体層(接着ゴム層)4、第1圧縮ゴム層(第1V芯ゴム層)5a、第2圧縮ゴム層(第2V芯ゴム層)5bが順次積層された無端状のベルト本体と、このベルト本体の周囲をベルト周方向の全長に亘って被覆している外被布6(織物、編物、不織布など)とで形成されている。この例では、心線3は、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した心線(撚りコード)である。また、この例では、芯体層4は、心線3が埋設された加硫ゴム組成物で形成されているが、芯体層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された心線3のみで形成されていてもよい。本明細書および特許請求の範囲では、芯体層が心線のみで形成されている場合、ベルト本体中で間隔をおいて配設された心線を芯体層と称し、このような芯体層は、心線が伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された形態だけでなく、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された心線の一部または全部が製造の過程で伸張ゴム層または圧縮ゴム層中に埋設された形態も含む。
本発明のラップドVベルトは、逆曲げを伴った連続的な屈曲を繰り返す多軸レイアウト(後述する実施例の評価試験における図6のようなレイアウト)で特有な転覆を防止できるベルトである。すなわち、ラップドVベルトが各プーリに巻きかかって屈曲した状態では、曲げに伴い、外周側のゴム層は伸張する変形、内周側のゴム層は圧縮する変形が生じる。また、逆曲げで巻きかかった場合は、外周側と内周側との関係が逆になり、いずれの場合でも、外周側や内周側のゴム層に変形(伸張や圧縮)し難いゴム組成物を用いると、屈曲性が低下する。その結果、プーリへの巻き付き性が低下すると、プーリのV溝に対してベルトがフィットし難くなり、走行中に転覆が生じ易くなる。その一方で、屈曲性(プーリへのフィット性)を優先して、変形し易い柔軟なゴム組成物を用いると、プーリに対する耐側圧性が低下する。その結果、耐側圧性が低下しても、座屈変形が大きくなるため、転覆し易くなる。これらの観点から、本用途では、屈曲性(プーリへのフィット性)と耐側圧性とのバランスが重要であり、設計思想としては、ベルト厚み方向の中央部分の層(第1圧縮ゴム層)の硬度および強度をできるだけ高くし、外周側または内周側の層となる伸張ゴム層、第2圧縮ゴム層の硬度を適度な範囲に調整する(高くも低くもしすぎない)ことに加えて、ベルトの屈曲性および耐側圧性に影響が大きい心線の埋設形態を適度な形態に調整することもポイントとなる。特に、屈曲性と耐側圧性とは相反する特性であり、バランスをとるのが困難であるが、本発明では、各層のゴム硬度の調整に加えて、心線の配列密度を調整することにより、耐転覆性を向上することに成功した。
本発明のラップドVベルトにおいて、ベルト外周面の幅は、例えば15〜35mm(特に16〜25mm)であってもよく、ラップドVベルトの厚みは、例えば10〜20mm(特に10〜15mm)であってもよい。
[圧縮ゴム層]
本発明では、圧縮ゴム層は、ベルト外周側に積層された第1圧縮ゴム層と、この第1圧縮ゴム層よりもゴム硬度が低く、かつベルト内周側に積層された第2圧縮ゴム層とを含む二層以上の積層構造を有しており、伸張ゴム層のゴム硬度を第1圧縮ゴム層よりも低く、第2圧縮ゴム層よりも高く調整することにより、ベルトの耐側圧性を向上できる。
圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層を含んでいればよく、三層以上の積層構造であってもよいが、耐側圧性や生産性などの点から、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層とからなる二層構造が好ましい。
第1圧縮ゴム層のゴム硬度は、第2圧縮ゴム層および伸張ゴム層のいずれのゴム硬度よりも大きく、第1圧縮ゴム層と伸張ゴム層とのゴム硬度Hs(JIS A)の差(第1圧縮ゴム層のゴム硬度−伸張ゴム層のゴム硬度)は、例えば1°以上であればよく、好ましくは1〜10°(例えば3〜10°)、より好ましくは2〜7°(例えば2〜5°)、さらに好ましくは3〜5°(特に3〜4°)程度である。両層のゴム硬度の差が小さすぎると、過酷な多軸レイアウト用途での耐転覆性が低下する虞があり、逆に大きすぎても前記耐転覆性が低下する虞がある。
第1圧縮ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば80〜100°程度の範囲から選択でき、好ましくは90〜95°、より好ましくは91〜95°、さらに好ましくは92〜94°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
第2圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および伸張ゴム層のいずれのゴム硬度よりも小さく、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層とのゴム硬度Hsの差(第1圧縮ゴム層のゴム硬度−第2圧縮ゴム層のゴム硬度)は、例えば1°以上(特に5°以上)であればよく、好ましくは5〜30°(例えば7〜27°)、より好ましくは10〜25°(例えば12〜21°)、さらに好ましくは12〜20°(特に15〜20°)、より好ましくは15〜18°、最も好ましくは16〜18°程度である。伸張ゴム層と第2圧縮ゴム層とのゴム硬度Hsの差(伸張ゴム層のゴム硬度−第2圧縮ゴム層のゴム硬度)は、例えば5〜30°(例えば7〜25°)、好ましくは10〜20°(例えば12〜18°)、さらに好ましくは13〜15°程度である。第2圧縮ゴム層と第1圧縮ゴム層または伸張ゴム層とのゴム硬度の差が小さすぎると、過酷な多軸レイアウト用途での耐転覆性が低下する虞があり、逆に大きすぎても前記耐転覆性が低下する虞がある。
第2圧縮ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば60〜90°程度の範囲から選択でき、好ましくは72〜80°、より好ましくは73〜78°、さらに好ましくは75〜78°、最も好ましくは75〜77°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、各ゴム層のゴム硬度は、JIS K6253(2012)(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−硬さの求め方−)に規定されているスプリング硬さ試験(A形)に準じて測定された値Hs(JIS A)を示し、単にゴム硬度と記載する場合がある。
第1圧縮ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば25〜50MPa、好ましくは30〜40MPa、さらに好ましくは35〜40MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
第2圧縮ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば12〜20MPa、好ましくは13〜18MPa、さらに好ましくは14〜17MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、各ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、JIS K6251(1993)に準拠した方法で測定できる。
圧縮ゴム層全体の平均厚みは、例えば1〜12mm、好ましくは2〜10mm、さらに好ましくは2.5〜9mm(特に3〜5mm)程度である。
第1圧縮ゴム層の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば95〜30%程度の範囲から選択でき、好ましくは90〜50%、より好ましくは85〜55%、さらに好ましくは80〜60%(特に70〜65%)程度である。この比率は、圧縮ゴム層が第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のみからなる場合の比率(すなわち、図2中のL2/L1)であってもよい。第1圧縮ゴム層の厚み比率が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層に加えて、ゴム硬度の異なる他の圧縮ゴム層をさらに含んでいてもよい。他の圧縮ゴム層は、単層であってもよく、複数の層であってもよい。また、他の圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層の上下面、第2圧縮ゴム層の下面のいずれに積層されていてもよい。他の圧縮ゴム層の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば30%以下であってもよく、好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下であってもよい。すなわち、圧縮ゴム層は、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層を主要な層として含むのが好ましく、第1圧縮ゴム層と第2圧縮ゴム層との合計の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば70%以上であってもよく、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であり、圧縮ゴム層が第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のみからなるのが特に好ましい。
圧縮ゴム層は、ラップドVベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている加硫ゴム組成物で形成されていてもよい。加硫ゴム組成物は、ゴム成分を含む加硫ゴム組成物であってもよく、組成物の組成を適宜調整することにより、圧縮ゴム層を構成する各層、特に第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層のゴム硬度等を調整できる。ゴム硬度等の調整方法としては、特に限定されず、組成物を構成する成分の組成および/または種類を変えて調整してもよく、簡便性などの点から、短繊維やフィラーの割合および/または種類を変えて調整するのが好ましい。
(第1圧縮ゴム層)
(A)ゴム成分
第1圧縮ゴム層を形成する加硫ゴム組成物を構成するゴム成分としては、公知の加硫または架橋可能なゴムおよび/またはエラストマーから選択でき、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン−α−オレフィン系ゴム(エチレン−α−オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、加硫剤および加硫促進剤が拡散し易い点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー[エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム]、クロロプレンゴムが汎用され、特に、変速ベルトなど高負荷環境で用いる場合、機械的強度、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐油性、接着性などのバランスに優れる点から、クロロプレンゴム、EPDMが好ましい。さらに、前記特性に加えて、耐摩耗性にも優れる点から、クロロプレンゴムが特に好ましい。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
ゴム成分がクロロプレンゴムを含む場合、ゴム成分中のクロロプレンゴムの割合は50質量%以上(特に80〜100質量%程度)であってもよく、100質量%(クロロプレンゴムのみ)が特に好ましい。
(B)短繊維
前記加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(例えば、ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2−4アルキレンC8−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維などが挙げられる。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらの短繊維のうち、合成繊維や天然繊維、特に、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンC6−12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、中でも剛直で高い強度およびモジュラスの繊維、例えば、ポリエステル繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維(特に、アラミド繊維)が好ましい。アラミド繊維は、高い耐摩耗性をも有している。そのため、短繊維は、少なくともアラミド繊維などの全芳香族ポリアミド繊維を含むのが好ましい。アラミド繊維は、商品名「コーネックス」、「ノーメックス」、「ケブラー」、「テクノーラ」、「トワロン」などの市販品であってもよい。
短繊維の平均繊維径は、例えば2μm以上、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜50μm(例えば5〜50μm)、さらに好ましくは7〜40μm(特に10〜30μm)程度である。短繊維の平均長さは、例えば1〜20mm、好ましくは1.5〜10mm、さらに好ましくは2〜5mm(特に2.5〜4mm)程度である。
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、短繊維は、慣用の方法で接着処理(または表面処理)されていてもよい。表面処理の方法としては、慣用の表面処理剤を含む処理液などで処理する方法などが挙げられる。表面処理剤としては、例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴム又はラテックス(L)とを含むRFL液[例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とが縮合物(RF縮合物)を形成し、前記ゴム成分、例えば、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを含むRFL液]、エポキシ化合物、ポリイソシアネート化合物、シランカップリング剤、加硫ゴム組成物(例えば、表面シラノール基を含み、ゴムとの化学的結合力を高めるのに有利な含水珪酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンなどを含む加硫ゴム組成物など)などが挙げられる。これらの表面処理剤は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、短繊維を同一または異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。
短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に埋設されていてもよい。
短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜50質量部、好ましくは10〜30質量部、さらに好ましくは15〜25質量部(特に18〜22質量部)程度である。短繊維の割合が少なすぎると、第1圧縮ゴム層のゴム硬度が低下する虞があり、逆に多すぎると、ゴム硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
(C)フィラー
前記加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えてフィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどが挙げられる。フィラーは、補強性フィラーを含む場合が多く、このような補強性フィラーは、カーボンブラック、補強性シリカなどであってもよい。なお、通常、シリカの補強性は、カーボンブラックの補強性よりも小さい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。本発明では、耐側圧性を向上させるため、補強性フィラーを含むのが好ましく、カーボンブラックを含むのが特に好ましい。
カーボンブラックの平均粒径(個数平均一次粒径)は、例えば5〜200nm、好ましくは10〜150nm、さらに好ましくは15〜100nm程度であり、補強効果が高い点から、小粒径であってもよく、例えば5〜38nm、好ましくは10〜35nm、さらに好ましくは15〜30nm程度であってもよい。小粒径のカーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF−HM、ISAF−LM、HAF−LS、HAF、HAF−HSなどが例示できる。これらのカーボンブラックは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
本発明では、カーボンブラックを多量に配合しても加工性の低下を抑制できるため、第1圧縮ゴム層の力学特性(弾性率)を向上できる。さらに、カーボンブラックは、第1圧縮ゴム層の摩擦係数を低減でき、第1圧縮ゴム層の耐摩耗性を向上できる。
フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10〜100質量部、好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部(特に40〜60質量部)程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下する虞があり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、プーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
カーボンブラックの割合は、フィラー全体に対して例えば50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。フィラー全体に対するカーボンブラックの割合が少なすぎると、第1圧縮ゴム層のゴム硬度が低下する虞がある。
(D)他の添加剤
前記加硫ゴム組成物は、必要に応じて、加硫剤または架橋剤、共架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、金属酸化物(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(例えば、ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド、ワックス、パラフィンなど)、接着性改善剤[例えば、レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物(RF縮合物)、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、滑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は、架橋剤として作用してもよい。また、接着性改善剤において、レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物およびアミノ樹脂は、レゾルシンおよび/またはメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
加硫剤または架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分が使用でき、例えば、前記金属酸化物加硫剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系加硫剤などが例示できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの架橋剤または加硫剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。ゴム成分がクロロプレンゴムである場合、加硫剤または架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)を使用してもよい。なお、金属酸化物は、他の加硫剤(硫黄系加硫剤など)と組合せて使用してもよく、金属酸化物および/または硫黄系加硫剤は、単独でまたは加硫促進剤と組み合わせて使用してもよい。
加硫剤の割合は、加硫剤およびゴム成分の種類に応じて、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して例えば1〜20質量部程度の範囲から選択できる。例えば、加硫剤としての金属酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜20質量部、好ましくは3〜17質量部、さらに好ましくは5〜15質量部(特に7〜13質量部)程度である。金属酸化物と硫黄系加硫剤とを組み合わせる場合、硫黄系加硫剤の割合は、金属酸化物100質量部に対して、例えば0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜10質量部程度である。有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して例えば1〜8質量部、好ましくは1.5〜5質量部、さらに好ましくは2〜4.5質量部程度である。
共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co−agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート]、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’−1,2−エチレンジマレイミド、N,N′−ヘキサメチレンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)シクロヘキサンなどのアルキレンビスマレイミド;アレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド、例えば、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレジマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンジマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンジマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋助剤のうち、多官能(イソ)シアヌレート、多官能(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド)が好ましく、ビスマレイミド類を用いる場合が多い。架橋助剤(例えば、ビスマレイミド類)の添加により架橋度を高め、粘着摩耗などを防止できる。
ビスマレイミド類などの共架橋剤(架橋助剤)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜8質量部、さらに好ましくは1〜5質量部(特に2〜4質量部)程度である。
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ−ル系促進剤[例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル、2−メルカプトベンゾチアゾ−ルの亜鉛塩、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジo−トリルグアニジンなど)、ウレア系又はチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの加硫促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBSなどが汎用される。
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1〜15質量部、好ましくは0.3〜10質量部(例えば0.5〜5質量部)、さらに好ましくは0.5〜3質量部(特に0.5〜1.5質量部)程度である。
軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは3〜10質量部(特に3〜8質量部)程度である。
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0〜10質量部)、好ましくは0.1〜5質量部(例えば0.5〜3質量部)、さらに好ましくは1〜3質量部(特に1.5〜2.5質量部)程度である。
接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1〜20質量部(例えば0.2〜10質量部)、好ましくは0.3〜5質量部(例えば、0.5〜2.5質量部)、さらに好ましくは0.5〜3質量部(特に0.5〜1.5質量部)程度である。
老化防止剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2.5〜7.5質量部(特に3〜7質量部)程度である。
(第2圧縮ゴム層)
第2圧縮ゴム層を形成する加硫ゴム組成物を構成するゴム成分としては、第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)と同様である。
第2圧縮ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、第1圧縮ゴム層のフィラー(C)として例示されたフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合も第1圧縮ゴム層のフィラー(C)と同様である。
第2圧縮ゴム層において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜80質量部、好ましくは10〜60質量部、さらに好ましくは15〜50質量部(特に20〜40質量部)程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下する虞があり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、プーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
第2圧縮ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸系可塑剤(アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤など)、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤などが挙げられる。これらの可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、エーテルエステル系可塑剤が好ましい。
可塑剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは3〜10質量部(特に3〜8質量部)程度である。
第2圧縮ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の短繊維(B)として例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、第1圧縮ゴム層の他の添加剤(D)として例示された添加剤を利用できる。これらのうち、第2圧縮ゴム層では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。
加硫剤としての金属酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜20質量部、好ましくは3〜17質量部、さらに好ましくは5〜15質量部(特に7〜13質量部)程度である。
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.1〜15質量部、好ましくは0.3〜10質量部(例えば0.5〜5質量部)、さらに好ましくは0.5〜3質量部(特に0.5〜1.5質量部)程度である。
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10質量部以下(例えば0〜5質量部)、好ましくは0.1〜3質量部、さらに好ましくは0.3〜2質量部(特に0.5〜1.5質量部)程度である。
老化防止剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2.5〜7.5質量部(特に3〜7質量部)程度である。
[伸張ゴム層]
伸張ゴム層のゴム硬度は、前述のように、第2圧縮ゴム層のゴム硬度よりも高く、かつ第1圧縮ゴム層のゴム硬度よりも低い。
伸張ゴム層のゴム硬度Hsは、例えば75〜95°程度の範囲から選択でき、例えば80〜93°(例えば85〜90°)、好ましくは86〜90°、さらに好ましくは88〜90°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
伸張ゴム層の引張弾性率(モジュラス)は、ベルト幅方向において、例えば15〜30MPa、好ましくは17〜28MPa、さらに好ましくは20〜27MPa程度である。引張弾性率が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、硬度が高すぎてプーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
伸張ゴム層の平均厚みは、例えば0.5〜10mm(例えば0.5〜1.5mm)、好ましくは0.6〜5mm、さらに好ましくは0.7〜3mm(特に0.8〜1mm)程度であってもよい。
伸張ゴム層は、ラップドVベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている加硫ゴム組成物で形成されていてもよい。加硫ゴム組成物は、ゴム成分を含む加硫ゴム組成物であってもよく、組成物の組成を適宜調整することにより、伸張ゴム層のゴム硬度等を調整できる。ゴム硬度等の調整方法としては、特に限定されず、組成物を構成する成分の組成および/または種類を変えて調整してもよく、簡便性などの点から、短繊維やフィラーの割合および/または種類を変えて調整するのが好ましい。
伸張ゴム層を形成する加硫ゴム組成物を構成するゴム成分としては、第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)と同様である。
伸張ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の短繊維(B)として例示された短繊維を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合も第1圧縮ゴム層の短繊維(B)と同様である。
伸張ゴム層の加硫ゴム組成物は、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、第1圧縮ゴム層のフィラー(C)として例示されたフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合も第1圧縮ゴム層のフィラー(C)と同様である。
伸張ゴム層において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜100質量部、好ましくは10〜80質量部、さらに好ましくは20〜60質量部(特に30〜50質量部)程度であってもよい。フィラーの割合が少なすぎると、弾性率が不足して耐側圧性や耐久性が低下する虞があり、多すぎると、弾性率が高くなりすぎて、プーリ溝とのフィット性が低下する虞がある。
伸張ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、第1圧縮ゴム層の他の添加剤(D)として例示された他の添加剤を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合も第1圧縮ゴム層の他の添加剤(D)と同様である。
[芯体層]
芯体層に含まれる心線は、通常、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した撚りコードである。心線は、ベルトの長手方向に延びて配設され、通常、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて螺旋状に配設されている。
芯体層は、配列密度が調整された複数の心線を含んでいればよく、前述のように、心線のみで形成された芯体層であってもよいが、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、心線が埋設された加硫ゴム組成物で形成された芯体層(接着ゴム層)であるのが好ましい。心線が埋設された加硫ゴム組成物で形成された芯体層は、通常、接着ゴム層と称され、ゴム成分を含む加硫ゴム組成物で形成された層内に、心線が埋設されている。接着ゴム層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層(特に第1圧縮ゴム層)の間に介在して伸張ゴム層と圧縮ゴム層とを接着するとともに、接着ゴム層には心線が埋設されている。心線の埋設形態は、特に限定されず、その一部が接着ゴム層に埋設されていればよく、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層に心線が埋設された形態(心線の全体が接着ゴム層に完全に埋設された形態)が好ましい。
本発明では、芯体層における心線の配列密度を調整することにより、過酷な多重レイアウト用途での耐転覆性を向上できる。
すなわち、図3は本発明のラップドVベルトにおけるベルト幅W、心線径D、心線間隔d、心線ピッチPを示した図面であるが、図3に示すように、接着ゴム層を備えたベルト1では、複数の心線3は、芯体層4にベルト幅方向に所定の間隔dを空けて配列されており、この間隔dを調整することにより、耐転覆性を向上できる。詳しくは「ベルト幅W」に対する「前記間隔dの合計値」の割合X(%)が調整され、この間隔dには、隣り合う心線3同士の間隔に加えて、両端の心線3とベルト端部(外被布6を含まない)との間隔(図3中の両端のd)も含まれる。なお、前記ベルト端部は、外被布6を含まないベルト端部であり、心線3の中心を結ぶ線上にある端部を意味する。また、ベルト端部は、図3においては、接着ゴム層である芯体層4の端部であるが、接着ゴム層を備えおらず、心線が単独で芯体層を形成するベルトでは、伸張層や圧縮ゴム層がベルト端部に相当する。
すなわち、本明細書および特許請求の範囲において、間隔dの合計値は、「ベルト幅」の値Wから「心線径Dの合計(心線径D×心線の本数)」の値を減算した値を意味する。そのため、前記割合Xは、下記式に示されるように、心線径Dと心線ピッチPの関係式に置換可能である。
X=(間隔dの合計/ベルト幅W)×100
=[(ベルト幅W−心線径Dの合計)/ベルト幅W]×100
={[ベルト幅W−(心線径D×心線本数)]/ベルト幅W}×100
=「{ベルト幅W−[心線径D×(ベルト幅W/心線ピッチP)]}/ベルト幅W」×100
=[1−(心線径D/心線ピッチP)]×100。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、ベルト幅W、心線径D、間隔d、心線ピッチPは、ベルトの長さ方向に垂直な断面図(断面視)に基づいて求められ、心線ピッチPは、図3に示すように、前記断面図における隣り合う心線の中心間の距離となる。
心線径Dは、心線の平均線径(撚りコードの繊維径)を意味する。心線径Dは、例えば0.5〜3mmであってもよく、好ましくは1〜2.5mm、さらに好ましくは1.5〜2.3mm、より好ましくは1.7〜2.1mm(特に1.8〜2mm)程度である。心線径Dが小さすぎると、ベルトの耐側圧性が低下して座屈変形が発生し、ベルトが転覆する虞がある。一方、心線径Dが大きすぎると、ベルトの屈曲性の低下によりプーリへの巻き付け性が低下してベルトが転覆する虞がある。
心線ピッチPは、前述のように、芯体層のベルト幅方向の一方の端から他方の端にかけて、螺旋状に埋設された隣り合う心線における中心間の距離を意味する。心線ピッチPは、例えば1〜3.5mm、好ましくは1.2〜3mm、さらに好ましくは1.5〜2.5mm(特に1.9〜2.3mm)である。心線ピッチPは、通常、このような範囲から、、心線が等間隔で配列されるように選択される。心線ピッチPが小さすぎると、ベルトの屈曲性の低下によりプーリへの巻き付け性が低下してベルトが転覆する虞がある。一方、心線ピッチPが大きすぎると、ベルトの耐側圧性が低下して座屈変形が発生し、ベルトが転覆する虞がある。一方、心線径Dが大きすぎると、ベルトの屈曲性の低下によりプーリへの巻き付け性が低下してベルトが転覆する虞がある。
なお、本明細書および特許請求の範囲において、心線の本数は、図3に示すように、ベルト幅方向に所定の心線ピッチPで配列された心線の断面視での見かけ上の数を意味する。すなわち、心線の本数は、一本の心線を螺旋状に埋設した場合、その螺旋数を意味する。もっとも、実際は、心線は螺旋状に埋設されているため、1本の無端状のラップドVベルト1の中でも断面を採取する部位により、心線3の配置態様が異なる。そのため、実用的には、各心線ピッチPが、1〜3.5mmの範囲の一定の値である場合には、ベルト幅を心線ピッチPで割った計算値から小数点以下の値を切り捨てた値を、概算的な「心線の本数」(有効本数)と見做している。
具体的には、本明細書および特許請求の範囲において、割合Xは、前記式:X=[1−(心線径D/心線ピッチP)]×100に基づいて測定できる。
例えば、心線径Dが1.81mmである場合、心線ピッチP、間隔dおよびベルト幅Wに対するdの合計値の割合Xの関係を表1に示す。
割合Xが小さいほど、心線同士の間隔dが小さくなるため、心線の配列密度が高いことを意味し、逆に大きいほど、心線の配列密度が低いことを意味する。
本発明では、この割合Xが5〜17%(例えば5〜16%)であり、例えば5〜15%(例えば5.5〜15%)、好ましくは5.5〜13%(例えば6〜13%)、さらに好ましくは6〜12%(例えば7〜12%)、より好ましくは6〜10%(特に6.5〜8%)程度である。割合Xが小さすぎると、心線配列が密になりすぎるため、ベルトの屈曲性の低下によりプーリへの巻き付け性が低下する上に、心線間へのゴムの侵入が困難となって心線が固定されず、容易に剥離して張力が不均一となり、ベルトが転覆する虞がある。一方、割合Xが大きすぎると、心線配列が疎になりすぎるため、ベルトの耐側圧性が低下して座屈変形が発生し、ベルトが転覆する虞がある。特に、本発明では、伸張ゴム層のゴム硬度を第1圧縮ゴム層のゴム硬度より低く、かつ第2圧縮ゴム層のゴム硬度より高く調整するとともに、前記割合Xをこのような範囲に調整することにより、過酷な多軸レイアウトにおける耐転覆性を高度に向上できる。
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。
心線を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2−4アルキレン−C6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維などが汎用される。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレン−C6−12アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維(特に、アラミド繊維)が好ましい。
繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100〜5000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよく、好ましくは500〜4000本、さらに好ましくは1000〜3000本程度のモノフィラメント糸を含んでいてもよい。
心線は、接着ゴム層中に埋設させる場合、接着ゴム層を形成する加硫ゴム組成物との接着性を向上させるため、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、前記第1圧縮ゴム層の短繊維の表面処理剤として例示された表面処理剤などが挙げられる。前記表面処理剤は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、同一または異なる表面処理剤で複数回に亘り順次に処理してもよい。心線は、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
(接着ゴム層)
接着ゴム層を形成する加硫ゴム組成物のゴム硬度Hsは、例えば72〜80°、好ましくは73〜78°、さらに好ましくは75〜77°程度である。ゴム硬度が小さすぎると、耐側圧性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、心線の周囲の加硫ゴム組成物が剛直となって心線が屈曲しにくくなり、接着ゴム層の発熱劣化(亀裂)、心線の屈曲疲労などが生じて、心線が剥離する虞がある。
接着ゴム層を形成する加硫ゴム組成物を構成するゴム成分としては、第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)と同様である。
接着ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、第1圧縮ゴム層のフィラー(C)として例示されたフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合も第1圧縮ゴム層のフィラー(C)と同様である。
接着ゴム層において、フィラーの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜100質量部、好ましくは10〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部(特に40〜60質量部)程度であってもよい。カーボンブラックの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1〜50質量部、好ましくは10〜45質量部、さらに好ましくは20〜40質量部程度であってもよい。
接着ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、第2圧縮ゴム層の可塑剤として例示された可塑剤を利用でき、好ましい態様およびゴム成分に対する割合も第2圧縮ゴム層の可塑剤と同様である。
接着ゴム層の加硫ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の短繊維(B)として例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、第1圧縮ゴム層の他の添加剤(D)として例示された添加剤を利用できる。これらのうち、接着ゴム層では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。これらの添加剤のゴム成分に対する割合は、第2圧縮ゴム層と同様である。
接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.2〜5mm、好ましくは0.5〜4mm、さらに好ましくは1〜3.5mm(特に2〜3mm)程度である。
[外被布]
外被布(カバー布)は、慣用の布帛で形成されている。布帛としては、例えば、織布、編布(緯編布、経編布)、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度で製織した織布、編布などが好ましく、一般産業用や農業機械用の伝動ベルトのカバー布として汎用されている織布[経糸と緯糸との交差角が直角である平織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度である平織布(広角度帆布)]が特に好ましい。さらに、耐久性が要求される用途では、広角度帆布であってもよい。
布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール共重合体繊維、ビニロン繊維など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;セルロース系繊維(セルロース繊維、セルロース誘導体の繊維など)、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの繊維は、単独で使用した単独糸であってもよく、二種以上を組み合わせた混紡糸であってもよい。
これらの繊維のうち、機械的特性および経済性に優れる点から、ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との混紡糸が好ましい。
ポリエステル系繊維は、ポリアルキレンアリレート系繊維であってもよい。ポリアルキレンアリレート系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2−4アルキレン−C8−14アリレート系繊維などが挙げられる。
セルロース系繊維には、セルロース繊維(植物、動物またはバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維が含まれる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)などが挙げられる。
ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との質量割合は、例えば前者/後者=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜20/80、さらに好ましくは70/30〜30/70(特に60/40〜40/60)程度である。
布帛を構成する繊維の平均繊度は、例えば5〜30番手、好ましくは10〜25番手、さらに好ましくは10〜20番手程度である。
布帛(原料布帛)の目付量は、例えば100〜500g/m2、好ましくは200〜400g/m2、さらに好ましくは250〜350g/m2程度である。
布帛(原料布帛)が織布の場合、布帛の糸密度(経糸及び緯糸の密度)は、例えば60〜100本/50mm、好ましくは70〜90本/50mm、さらに好ましくは75〜85本/50mm程度である。
外被布は、単層であってもよく、多層(例えば2〜5層、好ましくは2〜4層、さらに好ましくは2〜3層程度)であってもよいが、生産性などの点から、単層(1プライ)または2層(2プライ)が好ましい。
外被布は、ベルト本体との接着性を向上させるために、ゴム成分が付着した布帛であってもよい。ゴム成分が付着した外被布は、例えば、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊をソーキング(浸漬)する処理、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛であってもよい。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくともベルト本体と接触する面を処理するのが好ましい。
外被布に付着させるゴム組成物を構成するゴム成分としては、第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)として例示されたゴム成分を利用でき、好ましい態様も第1圧縮ゴム層のゴム成分(A)と同様である。
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、フィラーをさらに含んでいてもよい。フィラーとしては、第1圧縮ゴム層のフィラー(C)として例示されたフィラーを利用でき、好ましい態様およびフィラー中のカーボンブラックの割合も第1圧縮ゴム層のフィラー(C)と同様である。
外被布に付着させるゴム組成物において、フィラー(特にカーボンブラック)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5〜80質量部、好ましくは10〜75質量部、さらに好ましくは30〜70質量部(特に40〜60質量部)程度である。
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤としては、第2圧縮ゴム層の可塑剤として例示された可塑剤を利用でき、好ましい態様も第2圧縮ゴム層の可塑剤と同様である。
外被布に付着させるゴム組成物において、可塑剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば3〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜30質量部(特に15〜25質量部)程度である。
外被布に付着させるゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、短繊維および他の添加剤をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、第1圧縮ゴム層の短繊維(B)として例示された短繊維を利用でき、他の添加剤としては、第1圧縮ゴム層の他の添加剤(D)として例示された添加剤を利用できる。これらのうち、外被布に付着させるゴム組成物では、前記ゴム成分に加えて、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤、加工剤または加工助剤、老化防止剤を含むのが好ましい。これらの添加剤のゴム成分に対する割合は、第2圧縮ゴム層と同様である。
伝動面である外被布の摩擦係数は、例えば0.9〜1、好ましくは0.91〜0.96、さらに好ましくは0.92〜0.95程度である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、摩擦係数は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
外被布の平均厚み(多層の場合、多層全体である合計の平均厚み)は、例えば0.4〜2mm、好ましくは0.5〜1.4mm、さらに好ましくは0.6〜1.2mm程度である。外被布の厚みが薄すぎると、耐摩耗性が低下する虞があり、厚すぎると、ベルトの耐屈曲性が低下する虞がある。
[補強布層]
本発明のラップドVベルトは、圧縮ゴム層の内周面(内周側の表面)と外被布との間に補強布層をさらに含んでいてもよい。図4に、補強布層を備えた本発明のラップドVベルトの例を示す。この例では、ラップドVベルト11は、図2のラップドVベルトと同様に、伸張ゴム層12、芯体(心線)13を埋設した接着ゴム層14、第1圧縮ゴム層15a、第2圧縮ゴム層15bを備えた上で、図2のラップドVベルトとは異なり、第2圧縮ゴム層15bと外被布16との間に補強布層17が介在している。
補強布層も、前記外被布と同様に慣用の布帛で形成されている。布帛としては、外被布の布帛として例示された布帛を利用でき、好ましい態様も外被布と同様である。
補強布層は、圧縮ゴム層および外被布との接着性を向上させるために、ゴム成分が付着した布帛であってもよい。ゴム成分が付着した外被布は、例えば、ゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊をソーキング(浸漬)する処理、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛であってもよい。ゴム組成物としては、外被布のゴム組成物として例示されたゴム組成物を利用でき、好ましい態様も外被布と同様である。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくとも圧縮ゴム層と接触する面を処理するのが好ましく、両面を処理するのが特に好ましい。
補強布層は、単層であってもよく、多層(例えば2〜5層、好ましくは2〜4層、さらに好ましくは2〜3層程度)であってもよいが、生産性などの点から、単層(1プライ)または2層(2プライ)が好ましい。
補強布層の平均厚み(多層の場合、多層全体である合計の平均厚み)は、例えば0.4〜2mm、好ましくは0.5〜1.4mm、さらに好ましくは0.6〜1.2mm程度である。補強布層の厚みが薄すぎると、耐亀裂性の向上効果が低下する虞があり、厚すぎると、ベルトの耐屈曲性が低下する虞がある。
[ラップドVベルトの製造方法]
本発明のラップドVベルトは、慣用の方法、例えば、特開平6−137381号公報、WO2015/104778号パンフレットに記載の方法などによって製造できる。
具体的には、本発明のラップドVベルトは、例えば、接着処理した補強布用布帛と圧延処理して得られた未加硫の第2圧縮ゴム層用シートと第1圧縮ゴム層用シートとの積層体を裁断してマントルにセッティングし、未加硫の接着ゴム層用シートを第1圧縮ゴム層用シートの上に巻き付けた後、巻き付けた接着ゴム層用シートの上に芯体を巻き付け、さらに巻き付けた芯体の上に未加硫の伸張ゴム層用シートを巻き付ける巻付け工程、得られた環状の積層体をマントル上で切断(輪切り)する切断工程、切断した環状積層体を一対のプーリに架け渡し、回転させながらV形状に切削加工するスカイビング工程、得られた未加硫ベルト本体を、接着処理した外被布用布帛によってラッピング(被覆)し、加硫工程を経て得ることができる。加硫工程において、加硫温度は、ゴム成分の種類に応じて選択でき、例えば120〜200℃、好ましくは150〜180℃程度である。なお、短繊維を含む各ゴム層用シートは、カレンダーロール等で圧延処理する方法などによって、短繊維を圧延方向に配列(配向)させることができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下に、ゴム組成物の使用原料、ゴム組成物の調製方法、使用した繊維材料、各物性の測定方法又は評価方法などを示す。
[ゴム組成物の使用原料]
クロロプレンゴム:DENKA(株)製「PM−40」
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製「キョーワマグ30」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD−3」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
シリカ:エボニックジャパン(株)製、「ULTRASIL(登録商標)VN3」、BET比表面積175m2/g
可塑剤:ADEKA(株)製「RS−700」
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
ナフテン系オイル:出光興産(株)製「NS−900」
N,N’−m−フェニレンジマレイミド:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
アラミド短繊維:帝人(株)製「コーネックス短繊維」、平均繊維長3mm、平均繊維径14μm、RFL液(レゾルシン2.6部、37%ホルマリン1.4部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2部、水78.8部)で接着処理した固形分の付着率6質量%の短繊維
ポリエステル短繊維:帝人(株)製、平均短繊維長3mm。
[心線]
アラミド繊維の撚りコード、平均線径1.81mmまたは1.99mm。
[接着ゴム層、フリクションゴム用ゴム組成物]
表2に示す配合のゴム組成物Aをバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシートとして、接着ゴム層用シートを作製した。また、表2に示すゴム組成物Bをバンバリーミキサーでゴム練りし、フリクション用の塊状未加硫ゴム組成物を調製した。さらに、それぞれのゴム組成物の加硫物の硬度および引張弾性率を測定した結果も表2に示す。
[伸張ゴム層、第1圧縮ゴム層および第2圧縮ゴム層用ゴム組成物]
表3および4に示す配合のゴム組成物C〜Lをバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシートとして、伸張ゴム層用シート、第1圧縮ゴム層用シートおよび第2圧縮ゴム層をそれぞれ作製した(表4は第2圧縮ゴム層用シートのみ)。さらに、それぞれのゴム組成物の加硫物の硬度および引張弾性率を測定した結果も表3および4に示す。
[加硫ゴムのゴム硬度Hs]
各ゴム層用シートを温度160℃、時間30分でプレス加硫し、加硫ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。加硫ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、JIS K6253(2012)に準じ、デュロメータA形硬さ試験機を用いて硬度を測定した。なお、フリクション用の塊状未加硫ゴム組成物Bは、塊状ゴムから試験体をサンプリングし、カレンダーロールに通して所定厚みの未加硫圧延ゴムシートを調製した。
[加硫ゴムの引張弾性率(モジュラス)]
加硫ゴムのゴム硬度Hs測定のために作製した加硫ゴムシートを試料とし、JIS K6251(1993)に準じ、ダンベル状に打ち抜いた試験片を作製した。短繊維を含む試料においては、短繊維の配列方向(列理方向)が引張方向となるようにダンベル状に打ち抜いた。そして、試験片の両端をチャック(掴み具)で掴み、試験片を500mm/minの速度で引っ張ったときに、試験片が切断に至るまでの引張応力(引張弾性率)を測定した。
[外被布および補強布層用織布]
ポリエステル繊維と綿との混紡糸(ポリエステル繊維/綿=50/50質量比)の織布(120°広角織り、繊度は20番手の経糸と20番手の緯糸、経糸および緯糸の糸密度75本/50mm、目付量280g/m2)を、表2のゴム組成物Bを用いて、カレンダーロールの表面速度の異なるロール間にゴム組成物Bと織布と同時に通過させ、織布の織り目の間にまでゴム組成物Bを擦り込む方法でフリクション処理(織布表裏に対して各1回行う)して補強布前駆体および外被布前駆体を調製した。
[ベルトの摩擦係数]
ベルトの摩擦係数は、図5に示すように、切断したベルト21の一方の端部をロードセル22に固定し、他方の端部に3kgfの荷重23を載せ、プーリ24へのベルトの巻き付け角度を45°にしてベルト21をプーリ24に巻き付けた。そして、ロードセル22側のベルト21を30mm/秒の速度で15秒程度引張り、摩擦伝動面(外被布)の平均摩擦係数を測定した。なお、測定に際して、プーリ24は回転しないように固定した。
[ベルト走行試験]
実施例および比較例で得られたラップドVベルトを用いて、図6に示すように、直径175mmの駆動(DR)プーリ、直径150mmの従動(Dn1)プーリ、直径162mmの従動(Dn2)プーリ、直径140mmの従動(Dn3)プーリ、直径80mmのテンション(Ten1)プーリ、直径127mmの従動(Dn4)プーリ、直径70mmのテンション(Ten2)プーリ、直径70mmのテンション(Ten3)プーリを配置した多軸レイアウトの試験機を用い、表5に示す条件でベルトを走行し、ベルトの転覆が発生する時間を評価した。耐転覆性の評価は、以下の基準で評価され、×、△、○、◎の順序で評価が高くなることを示す。
◎:転覆が発生するまでの時間が50時間以上
○:転覆が発生するまでの時間が40時間以上50時間未満
△:転覆が発生するまでの時間が30時間以上40時間未満
×:転覆が発生するまでの時間が30時間未満
実施例1〜25および比較例1〜10
円筒状ドラムの外周面に、補強布前駆体と、表7〜11に示す第2圧縮ゴム層用シートと、表7〜11に示す第1圧縮ゴム層用シートとの積層体を裁断して載置した後、接着ゴム層用シート、心線、および表7〜11に示す伸張ゴム層用シートを、順次積層して貼着し、補強布前駆体と未加硫ゴム層と心線とが積層した筒状の未加硫スリーブを形成した。得られた未加硫スリーブを、円筒状ドラムの外周に配置された状態で、周方向に切断し、環状の未加硫ゴムベルトを形成した。なお、伸張ゴム層および第1圧縮ゴム層は、短繊維をベルト幅方向に配列させた。
次に、未加硫ゴムベルトをドラムから取り外し、未加硫ゴムベルトの両側面を所定の角度で切削(スカイブ)し、未加硫ゴムベルトの断面形状を、V字状断面に形成した。図4に示すように、V字状断面の未加硫ゴムベルト(伸張ゴム層12、芯体(心線)13が埋設された接着ゴム層14、第1圧縮ゴム層15a、第2圧縮ゴム層15b、補強布層17からなるベルト)に対して、その周囲を外被布前駆体で覆うカバー巻き処理を施し、未加硫ベルト成形体を形成した。
得られた未加硫ベルト成形体を、リングモールドの凹溝に挿入した。さらに、リングモールドおよび未加硫ベルト成形体の外周面に円筒状のゴムスリーブを嵌め込んだ状態で、それらを加硫缶に収納し、加硫温度160℃で加硫を行い、加硫ベルトを得た。得られた加硫ベルトを、リングモールドから取り外して、B形のラップドVベルト(JIS B、断面寸法:幅16.5mm×厚み11.0mm、ベルト長さ157インチ)を得た。
得られたラップドVベルトの積層構造を図7に示すが、外周側の外被布から内周側の外被布までの各層は、厚みA〜Gを有している。図7において、厚みFを有する補強布層は、補強布前駆体を2枚重ねて形成されている。また、外被布も、外被布前駆体を2枚重ねてカバー巻き処理されているが、図7に示すように、厚みGを有するベルト内周側の外被布が2枚重ね(2層構造)であるのに対して、ベルトの外周側では外被布前駆体をオーバーラップしているため、厚みAを有する外周側の外被布は3枚重ね(3層構造)である。各層の厚みをまとめた結果を表6に示す。
得られたラップドVベルトについて、耐転覆性を評価した結果を表7〜11に示す。なお、実施例1で得られたラップドVベルトの摩擦係数を測定したところ、0.93であった。
表7の結果から明らかなように、実施例2〜4および7〜8(X=7〜12%)ではベルトの屈曲性、耐側圧性のバランスに優れ安定した走行が可能(判定◎)であった。また、実施例1(X=5%)のベルトは心線配列が密になりすぎて、屈曲性が不十分でプーリへの巻き付け性が低下して走行中に転覆しやすくなった(判定〇)。特に、比較例3(X=3%)のベルトは、屈曲性の低下に加えて、心線間へのゴム成分の侵入が不足するためか、早期に転覆が発生した(判定×)。さらに、実施例5〜6(X=14%、16%)のベルトは心線配列が疎であるため、屈曲性には優れるが、耐側圧性の不足による座屈変形で、走行中に転覆しやすくなった(判定〇)。一方、比較例1〜2(X=18%、20%)のベルトは心線配列が疎になりすぎて、耐側圧性の不足による座屈変形で早期に転覆が発生した(判定×)。
表8の結果から明らかなように、実施例2に対して、伸張ゴム層と第1圧縮ゴム層とのゴム硬度差を変更した実施例9〜12においても、実施例2と同様に安定した走行が可能(判定◎)であったが、比較例4〜7は、心線配列はX=7%であるが、伸張ゴム層のゴム硬度が第1圧縮ゴム層のゴム硬度以上であるため、早期に転覆が生じた(判定×)。
表9の結果から明らかなように、実施例2に対して、L2/L1比を変更した実施例14〜15においても、実施例2と同様に安定した走行が可能(判定◎)であったが、L2/L1比が低い実施例13やL2/L1比が高い実施例16は、耐転覆性が若干劣る結果であった(判定〇)。大型機械の中で負荷の大きい機能を担うラップドVベルトは、高い伝動能力を得るために高張力で用いられると、プーリ内へ落ち込むことにより大きな変形(座屈変形)が生じ、ベルト内部にせん断応力が発生する。すなわち、実施例13でも座屈変形が大きくなり、比較的早期に転覆が発生する結果となった。一方、実施例16は圧縮ゴム層全体の硬度が硬いためプーリV溝とのフィット性に欠けることから転覆しやすい結果となった。
表10の結果から明らかなように、実施例2に対してHs3を大きくしてHs2−Hs3が小さくなった実施例17〜19、および実施例10に対してHs3を小さくしてHs2−Hs3が大きくなった実施例20〜22においても、Hs2−Hs3が12〜21°の範囲にある実施例では安定した走行が可能であった(判定◎または〇)。その範囲よりもHs2−Hs3が小さい実施例19や、Hs2−Hs3が大きい実施例20では比較的早期に転覆が発生した(判定△)。
表11の結果から明らかなように、実施例12(X=7%)に対して、X=5〜18%の範囲でX値を変化させたベルトにおいて、実施例24(X=12%)が実施例12と同等の結果であった。すなわち、X=7〜12%ではベルトの屈曲性、耐側圧性のバランスに優れ安定した走行が可能であった(判定◎)。一方、X=5%のベルト(実施例23)やX=16%のベルト(実施例25)は、実施例12および24のベルトに比べて、走行中に転覆し易くなった(判定〇)。一方、X=18%のベルト(比較例8)は早期に転覆が発生した(判定×)。これらの結果から、各ゴム層の硬度の関係(第1圧縮ゴム層>伸張ゴム層>第2圧縮ゴム層)を満たしていても、X値が5〜17%の範囲を満たさないと、早期に転覆が生じると云える。
さらに、表11の結果から明らかなように、比較例6(X=7%)に対して、X=12%に変化させたベルトである比較例9においても、比較例6と同様に、早期に転覆が生じた(判定×)。さらに、比較例5(X=7%)に対して、X=12%に変化させたベルトである比較例10においても、比較例5と同様に、早期に転覆が生じた(判定×)。これらの結果から、X値が5〜17%の範囲を満たしていても、各ゴム層の硬度の関係(第1圧縮ゴム層>伸張ゴム層>第2圧縮ゴム層)を満たしていないと、早期に転覆が生じると云える。
このような表11の結果から、上記の2つの条件を満たす組み合わせが、早期転覆の防止に有効であると云える。