JP6760655B2 - サブナノ領域で原子数を精密に制御した第10族元素クラスター担持体の製造方法および白金クラスター担持体ならびに触媒 - Google Patents

サブナノ領域で原子数を精密に制御した第10族元素クラスター担持体の製造方法および白金クラスター担持体ならびに触媒 Download PDF

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Description

本発明は、第10族元素クラスター担持体の製造方法および白金クラスター担持体ならびに触媒に関する。
第10族のナノ粒子は、燃料電池、排気ガス浄化、メタンの化学変換等の触媒への応用に重要である。
従来、白金ナノ粒子は、単純な濃度制御や担体の添加等の条件下で、還元法により白金化合物から合成している。燃料電池用の白金触媒としては、粒径が2〜5nm、白金原子数に換算すると1000原子以上のものが知られている。
これらのナノ粒子の触媒活性は、その電子的性質および表面の性質に基づき粒径に対して穏やかな依存性を示すが、エッジ、キンク、ステップ、高い面指数等によって性質が大きく変化する場合がある。このような欠陥を導入する観点では、サブナノ粒子への小粒子化は、全ての欠陥を持つ構造として究極のアプローチである。
数少ない例として、本発明者らは、金属、有機カチオンが段階的に集積可能である独自のデンドリマー、フェニルアゾメチンデンドリマー(DPA)をテンプレートとし、構成原子数を1原子レベルで精密に制御した白金クラスターの合成に成功している(特許文献1等参照)。その触媒活性は12〜20原子の範囲で原子数に大きく依存することを見出し、安定性の低いクラスターほど良好な触媒特性を示すことが示唆された。しかし原子数10以下のようなものは検討されていない。この精密な合成がより小さい原子数に拡張できるならば、触媒や他の応用に資するものと期待される。
特許文献2は、複数個の貴金属原子を有するアセタト貴金属錯体の少なくとも1つの酢酸配位子がグルコン酸配位子で置き換えられている多核白金錯体を用いて、アルミナ等の担体に担持して空気中で焼成することが記載され、サイズを制御したクラスターが得られたとされている。しかし、核数が1つのみである制約があり、核数1間隔で生成する安定な前駆体は得られておらず、白金クラスターの1原子制御は可能とされていない。実施例ではオクタアセタト4白金錯体をアルミナに担持し、空気雰囲気下、500℃で2時間の高温で焼成を行っており、高温での焼成が必要であることから炭素材料を担体に用いることができない。また、図1のSTEM像に輝点で示された白金粒子のサイズは、15nmのスケールバーと対比して10nm程度であり、凝集せずに焼成還元する方法、特に原子数5〜10の範囲において1原子単位で精密に制御された白金クラスターを得る技術は開示されていない。
金属−チオラート錯体は、表面化学、クラスター化学、錯体化学の分野においてその構造の多様性から注目されている。本発明者らは、白金と直鎖チオールを用いたd8電子構造を有する平面型錯体を構成単位とした環状錯体である、ティアラ状の白金チオラート環状多核錯体[Pt(μ−SC17(n=5〜12)の精密な合成と核数ごとの単離に成功し(非特許文献1〜3)、これらの錯体は、その特異的な光化学および電気化学的挙動に反映された異なる構造的および電子的性質を持つことを明らかにした。
特開2013−159588号公報 特開2012−240939号公報
第9回分子科学討論会 2015東京(2015年9月16日 東京工業大学大岡山キャンパス 講演番号1P082)講演要旨 日本化学会第96春季年会(2016年3月25日 同志社大学 京田辺キャンパス 講演番号2D6−19)講演予稿 日本化学会第96春季年会(2016年3月26日 同志社大学 京田辺キャンパス 講演番号3E3−49)講演予稿
しかし、これを前駆体とするサブナノクラスターの合成については検討されていない。金属チオラート環状多核錯体は、原理的には、安定な魔法数にかかわらず広い合成を可能とする。しかし、チオラート配位子の除去は、金、銀のような第11族元素の安定な魔法数のクラスターの保護配位子である場合とは対照的に、第10族粒子へのアプローチでは、強い金属−硫黄結合エネルギーがきわめて高い焼成温度を必要とすることから成功例はなかった。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、サブナノ領域、特に従来では達成されていない少ない原子数の領域で、原子数を精密に制御した第10族元素クラスター担持体を製造する方法および白金クラスター担持体ならびに触媒を提供することを課題としている。
本発明者らは鋭意検討した結果、水素ガス流通下で焼成することにより、低温で、単分散で0価の白金クラスター担持体が得られ、その原子数は前駆体錯体のそれと同じであり、5〜12原子の白金クラスターの1原子制御が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第10族元素クラスター担持体の製造方法は、核数5〜12の第10族元素チオラート環状多核錯体を担体に担持し、この担持体を水素ガス雰囲気下で焼成することを特徴としている。
本発明の白金クラスター担持体は、原子数5〜10の白金クラスターが担体に担持されている。
本発明の炭化水素の酸化反応用触媒は、上記白金クラスター担持体からなる。
本発明によれば、サブナノ領域、特に従来では達成されていない少ない原子数の領域で、原子数を精密に制御した第10族元素クラスター担持体が得られる。
実施例で合成した白金オクタンチオラート環状多核錯体[Pt(μ−SC17における、(a)は環状多核錯体の化学構造、(b)は示差屈折計でモニターしたサイズ排除カラム(SEC)による分取HPLCのクロマトグラム、(c)はDCTBマトリックスで測定した[Pt(μ−SC17(n=5〜13)のMALDI−TOF−MSスペクトルである。 白金オクタンチオラート環状多核錯体の合成、単離から単分散のPt12クラスターの調製までの概略を示した図である。 (a)は、水素雰囲気下での還元による白金オクタンチオラート環状多核錯体から白金サブナノクラスターへの直接変換のスキーム、(b)は、水素雰囲気下、250℃での焼成前後のPt4f7/2およびPt4f5/2領域における[Pt(μ−SC1712錯体のXPSスペクトル(Pt12*はフェニルアゾメチンデンドリマー(特許文献1参照)を用いて調製された試料である。)、(c)は、炭素材料(ケッチェンブラック)に担持した焼成試料の低倍率暗視野STEM像、(d)は、収差補正したSTEMによる高倍率像、(e)は、還元した白金サブナノクラスターの平均直径と前駆体錯体中の白金原子数との関係(エラーバーは2σ(95%予測区間)を表す)を示す。 (A)は、ヘリウム雰囲気下、昇温速度10℃min−1、ヘリウム流速300mlmin−1で測定した示差熱分析(DTA)のデータ、(B)は熱重量分析のデータである。 水素雰囲気下、250℃における処理後の厚い[Pt(μ−SC17(nが異なる生成物の混合物)のフィルムの粉末X線散乱(XRD)の測定結果である。挿入写真は作製した実物である。 水素雰囲気下、250℃における処理前後の[Pt(μ−SC17のX線光電子スペクトル(S2p3/2)である。硫黄原子の完全な除去が確認された。 炭素材料(ケッチェンブラック)に担持した異なる原子数(Pt〜Pt12)の白金オクタンチオラート環状多核錯体を焼成した白金サブナノクラスターの低倍率暗視野STEM像である。 図7のSTEM像に見出された白金サブナノクラスター(Pt〜Pt12)の各粒径のヒストグラムである。 銀(I)イオンと[Pt(μ−SC17の錯形成挙動の検証結果を示す。スペクトル変化が1当量で収束し、錯体と銀イオンの1対1の相互作用が示唆された。 銀(I)イオンと錯体の錯形成定数の見積もりを示す。 質量分析により、銀(I)イオン内包ティアラ型錯体を観測したデータである。 銅(I)イオンと[Pt(μ−SC17の錯形成挙動の検証結果を示す。スペクトル変化が1当量で収束し、錯体と銅イオンの1対1の相互作用が示唆された。 銅(I)イオンと錯体の錯形成定数の見積もりを示す。 Naイオンを一つ内包した[Pt(μ−SC17の単結晶構造解析の結果を示す。左は全体構造、右は各白金原子とNa原子の原子間距離を示す。 (a)はインダンの酸素を酸化剤とした酸化反応のスキームおよび、その生成物3種類である。(b)はクラスターPtと市販カーボン担持白金触媒(アルドリッチ社製)をそれぞれ用いて行なった場合の、1時間あたり、1白金原子あたりに得られる生成物のモル数(TOF)である。 Ptの精密合成と担持に用いる溶媒の検討を行った。各溶媒における仕込み量Pt 2.0Wt%に対して、担体に担持された白金の量を示す。 [Pt(μ−SC17をPt 0.4wt%担持したとき、焼成前の錯体が低密度で担持されていること、焼成による凝集が起こらないことを観察したSTEM画像を示す。 [Pt(μ−SC17をPt 1.0wt%、1.8wt%担持したとき、焼成後粒径1−2nm程度の凝集体が観測されたSTEM画像を示す。 凝集による粒子数の変化を、STEM像上で観測された面積当りの粒子数をもとに統計的に解析した結果を示す。 全体の現象を明らかとするためにSTEM像を統計的に解析した結果を示す。n=8に比べて錯体の間隔はn=6、7でそれぞれ約0.9、0.8倍で、粒子の残留比との相関関係を見てみると、間隔が狭くなるほどに凝集が起こりやすいことが明らかとなった。 白金担持量をPt0.4wt%としてPt、Pt10、Pt11、Pt12の合成を行ったSTEM画像を示す。いずれも凝集が抑制され、原子数の制御されたクラスターが得られた。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の第10族元素クラスター担持体の製造方法では、核数5〜12の第10族元素チオラート環状多核錯体を担体に担持し、この担持体を水素ガス雰囲気下で焼成する。
第10族元素としては、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)が挙げられる。これらの中でも白金が好ましい。
第10族元素チオラート環状多核錯体は、非特許文献1の開示が参照される。具体的には、第10族元素の塩または錯体と、チオール化合物とを溶媒中、塩基の存在下に加熱して反応させることで合成できる。
第10族元素の塩または錯体のうち、白金化合物としては、例えば、塩化白金(IV)などの白金塩または白金錯体を用いることができる。
チオール化合物としては、例えば、R−SH(Rは下記と同義である。)で表される化合物を用いることができる。
溶媒としては、各成分の溶解性、沸点等を考慮し、有機溶媒を用いることができる。塩基としては、例えば、N,N−ジイソプロピルエチルアミンを用いることができる。線状オリゴマーの成長後に環状化することを考慮して、白金化合物と、過剰量のチオール化合物とをアセトニトリルとモノクロロベンゼンとの混合溶媒中、塩基の存在下に加熱して反応させた後、濃縮し、この濃縮した粗生成物をR−SHを含むモノクロロベンゼン中に再び溶解し、さらに高温にして反応させてもよい。
反応後、沈殿である不溶部分を除去するために溶液を遠心分離し、粗生成物が得られる。例えば第10族元素として白金を使用した場合、この粗生成物は、様々な核数の白金チオラート環状多核錯体[Pt(μ−SRを混合物として含んでいる。この粗生成物は、クロマトグラフィーで精製、単離することによって、核数ごとに白金チオラート環状多核錯体を単離することができる。具体的には、リサイクル分取HPLCを使用し、サイズ排除カラムを用いてリテンションタイムで単離することができる。第10族チオラートはティアラ状の環状チオラート錯体を形成し、単離操作に対して十分に安定である。
白金チオラート環状多核錯体としては、[Pt(μ−SRで表されるものが挙げられる。ここでRは、R−SHの沸点、クロマトグラフィーによる単離のしやすさ等を考慮して、特に限定されず適宜のものとすることができるが、炭素数1〜20の有機基が好ましく、炭素数6〜16の有機基がより好ましい。有機基としては、例えば、炭化水素基、鎖式飽和炭化水素基、鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、環式不飽和炭化水素基、含芳香族炭化水素基や、これらの基の炭素−炭素結合の一部がヘテロ原子で中断されたもの、あるいはヘテロ原子を含む置換基で置換されたもの等が挙げられる。これらの中でも、直鎖または分岐アルキル基が好ましく、直鎖アルキル基がより好ましい。
第10族元素チオラート環状多核錯体は、核数5〜12、好ましくは5〜10である。
第10族元素チオラート環状多核錯体を担体に担持することによって、凝集せずに第10族元素クラスターを生成できる。担体の形状は、特に限定されるものではなく、粒状、繊維状、顆粒状、膜状、板状等、各種のものであってよい。単位質量当たりの表面積が大きく触媒等の各種用途に適している点を考慮すると、粒状(粉末状)が好ましい。担体としては、炭素材料、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバーなどの非晶質(微結晶)カーボン、フラーレン、ナノチューブ、グラフェンなどのナノカーボン、グラファイトなどの3次元結晶等が挙げられる。これらの炭素材料は多孔質物質であってもよく、細孔表面に第10族元素クラスターを担持できる。また本発明では低温での焼成が可能であるため、炭素材料の使用に適している。
この他、担体として無機材料を用いることができる。無機材料としては、例えば、シリカゲル、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄、酸化銅、ガラス、珪砂、タルク、マイカ、クレイ、ウォラスナイト等が挙げられる。
担体への担持は、例えば、第10族元素チオラート環状多核錯体を有機溶媒等の適宜の溶媒に溶解した溶液を用いて、含浸、塗布、滴下等によって担体に接触させた後、乾燥することによって行うことができる。
担体への担持に使用する溶媒としては、精密なクラスター合成を達成するためには分散性の高い溶媒が望ましい。第10族元素チオラート環状多核錯体の密集を抑制し、担体上での均一分散に適した溶媒としては、例えば、炭化水素を挙げることができ、その中でも鎖式飽和炭化水素が好ましい。鎖式飽和炭化水素としては、特に限定されるものではないが、分散性と沸点等を考慮すると、炭素数5〜7が好ましく、具体的には、ペンタン、ヘキサン、へプタンが挙げられる。
第10族元素チオラート環状多核錯体の担体への担持量としては、原子数の制御されたクラスター合成を達成するためには、錯体が凝集しない適切な担持量を選択することが考慮される。焼成前の錯体が低密度で担持されていると焼成による凝集が起こりにくい。またクラスターの原子数が少なくなる程、面積あたりの粒子数が多くなり、粒子の平均間隔が狭くなることから凝集が起こりやすいため、凝集を抑制する点では担持量はより少ないことが望ましい。触媒活性等の使用目的のために担持量が高いことや、当該使用目的の性能等として凝集が起こりにくいことが要求されることのバランスとしては、錯体が凝集しない程度での高い担持量を選択することが考慮される。一例として、担体として市販のケッチェンブラックを使用した場合、核数5〜12の白金チオラ−ト環状多核錯体の担体への担持量は、白金換算で0.1〜1.0Wt%が好ましく、0.2〜0.4Wt%がより好ましい。
この担持体を水素ガス、あるいは水素を含む窒素やアルゴンとの混合ガス雰囲気下で焼成する。第10族元素チオラートは、還元的な金属−硫黄結合の解離がベアメタルクラスターの形成につながる。焼成工程における水素ガスの流量は、0.5〜10Lmin−1が好ましく、1〜5Lmin−1がより好ましい。
焼成温度は、特に限定されるものではないが、焼成時間が長くなりすぎないことやクラスター凝集の抑制等を考慮すると、50〜300℃が好ましく、100〜300℃がより好ましい。
焼成時間は、上記のような条件によって、例えば、1〜24時間とすることができる。
以上のようにして得られる第10族元素クラスター担持体は、第10族元素クラスターの原子数が、第10族元素チオラート環状多核錯体の核数と等しい。第10族元素チオラート環状多核錯体として、核数5〜12のうちいずれか一つに単離したものを用いると、単分散の第10族元素クラスターを担持した担持体が得られる。この場合、担体表面における第10族元素クラスターのSTEM像より観察した粒径の90%以上が原料の第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることが好ましく、95%以上が原料の第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることがより好ましく、98%以上が原料の第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることがさらに好ましい。特に、核数5〜10のうちいずれかの白金チオラート環状多核錯体を原料に用いると、原子数5〜10のうちいずれかの単分散白金クラスター担持体が得られる。
第10族元素チオラート環状多核錯体は、第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素を環の内部に1〜2個内包することができる。この第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素のイオンを内包した第10族元素チオラート環状多核錯体を担体に担持し、上記と同様の方法で水素ガス雰囲気下で還元することによって、第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素(以下、他元素とも言う。)を1〜2個含んだ第10族元素クラスター(以下、第10族元素合金クラスターとも言う。)とその担持体を得ることができる。
第1族のうちアルカリ金属元素、すなわち第1族元素から水素を除くものとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
第2族元素としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
第3族元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド等が挙げられる。
第4族元素としては、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等が挙げられる。
第5族元素としては、バナジウム、ニオブ、タンタル等が挙げられる。
第6族元素としては、クロム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
第7族元素としては、マンガン、テクネチウム、レニウム等が挙げられる。
第8族元素としては、鉄、ルテニウム、オスミウム等が挙げられる。
第9族元素としては、コバルト、ロジウム、イリジウム等が挙げられる。
第10族元素としては、ニッケル、パラジウム、白金等が挙げられる。
第11族元素としては、金、銀、銅等が挙げられる。
第1族から第11族までのいずれかの元素のイオンを内包した第10族元素チオラート環状多核錯体は、これらを内包しない第10族元素チオラート環状多核錯体と、第1族から第11族までのいずれかの元素を陽イオンとする塩または錯体とを、有機溶媒等の適宜の溶媒中で、例えば当量に相当する量で混合し、会合錯体として得ることができる。陽イオンの価数は特に限定されず、例えば1価、2価、3価等が例示される。
このようにして得られた第1族から第11族までのいずれかの元素のイオンを内包した第10族元素チオラート環状多核錯体を担体に担持することによって、凝集せずに、他元素を含んだ第10族元素合金クラスターを生成できる。担体や、担体への担持とその条件は、特に限定されるものではなく、その詳細は前述した他元素を内包しない場合と同様である。担持体を水素ガス雰囲気下で焼成する条件も、特に限定されるものではなく、その詳細は前述した他元素を内包しない場合と同様である。
以上のようにして得られる、第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素を含む第10族元素合金クラスターは、内包した数に相当する他元素を含む。また、第10族元素合金クラスター担持体は、第10族元素クラスターの原子数が、第10族元素チオラート環状多核錯体の核数と等しい。第10族元素チオラート環状多核錯体として、核数5〜12のうちいずれか一つに単離したものを用いると、単分散の第10族元素合金クラスターを担持した担持体が得られる。この場合、担体表面における第10族元素合金クラスターのSTEM像より観察した粒径の90%以上が原料の他元素を内包した第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることが好ましく、95%以上が原料の他元素を内包した第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることがより好ましく、98%以上が原料の他元素を内包した第10族元素チオラート環状多核錯体の核数であることがさらに好ましい。特に、他元素を内包した核数5〜10のうちいずれかの白金チオラート環状多核錯体を原料に用いると、原子数5〜10のうちいずれかの単分散白金合金クラスター担持体が得られる。
本発明によれば、核数1間隔で生成する安定な前駆体の第10族元素チオラート環状多核錯体によって、凝集せずに原子数を保ちながら焼成還元し、1原子の精度で原子数を制御して、原子数5〜12の第10族元素クラスターとその担持体を得ることができる。したがって原子数を選択可能な第10族元素クラスターとその担持体の合成が実現される。この原子数が制御された第10族元素クラスターとその担持体は、その特性から触媒や量子物理応用等への応用が期待される。
本発明の白金クラスター担持体は、酸化反応に触媒活性を示し、炭化水素の酸化反応、特に、空気酸化または酸素酸化反応の触媒に好適である。また、燃料電池や金属空気電池の空気極における酸素還元触媒への使用も期待できる。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
1.白金オクタンチオラート環状多核錯体の合成
図1(a)に示すティアラ状の白金オクタンチオラート環状多核錯体[Pt(μ−SC17を合成した。
塩化白金(IV)(303mg 0.90mmol)を混合溶媒(モノクロロベンゼン/アセトニトリル=1/1 300mL)に溶解し、この溶液をN,N−ジイソプロピルエチルアミン(69mmol)およびn−オクタンチオール(3.6mmol)の存在下、90℃で1時間加熱した。得られた溶液を乾燥するまで蒸発させた後、この粗生成物をn−オクタンチオール(9.0mmol)を含むモノクロロベンゼン(10ml)中に再び溶解し、さらに125℃で1時間反応させた。反応の間に、溶液の色は赤から淡黄色に変化した。反応後、沈殿である不溶部分を除去するために溶液を遠心分離し、様々なリング数のティアラ状錯体[Pt(μ−SC17を混合物として含む粗生成物を収率36%で得た。
次に、得られた粗生成物の精製、同定を行った。粗生成物の精製には、リサイクル分取HPLC(日本分析工業株式会社 LC908)を使用し、サイズ排除カラム(日本分析工業株式会社 JAIGEL−2H、JAIGEL−2.5H)を直列に配置し、溶離液にクロロホルムを使用し、示差屈折計でモニターした。粗生成物はヘキサン可溶部分を抽出し、数回のリサイクル工程の後、各画分を単離した。また、MALDI−TOF−MS(質量分析計 Bruker Ultra flex:Positive ion mode)によりDCTBをマトリックスに用いて同定した。
異なるリングサイズのティアラ状クラスター[Pt(μ−SC17(n=5〜13)はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により単離された(図1(b))。リテンションタイムの異なる各成分[Pt(μ−SC17(n=5〜13)をそれぞれ抽出、単離した。MALDI-TOF-MSによって、各リングサイズに同定された(図1(c))。粗生成物は、様々なクラスター種[Pt(μ−SC17を示した。高い分子量のクラスター(n〜30)も見出されたが、n=8および9に最も高いピークが観測された。すべてのクラスター(5≦n≦30)は、環状ティアラ状構造に帰属される分子量を有していた。
2.白金サブナノクラスターの合成
(実施例1)
図2は、白金オクタンチオラート環状多核錯体の合成、単離から単分散のPt12クラスターの合成までの概略を示し、図3(a)は、水素雰囲気下での還元による白金オクタンチオラート環状多核錯体から白金サブナノクラスターへの直接変換のスキームを示す。
上記のスキームを実施する前に、まず白金クラスターのための前駆体としての可能性を明らかにするために、それらの熱安定性を調べた。図4(A)は、ヘリウム雰囲気下、昇温速度10℃min−1、ヘリウム流速300mlmin−1で測定した示差熱分析(DTA)のデータ、(B)は熱重量分析のデータである。不活性ガス雰囲気下において、配位しているチオラート配位子は200℃で除去され始めることが確認された。
示差熱天秤−質量分析法(TG−DTA−MS)は、チオラート配位子の炭素−硫黄結合が最初に解離し、その後続いて白金−硫黄結合が解離することが示された(図4)。パラジウムチオラートの場合、結合解離は完全に段階的で、白金チオラートもまた同様に2段階の解離を示した。この結果は、ティアラ状錯体の対応する白金(金属)または硫化白金クラスターへの選択的な変換は原理的に難しいことを示唆した。
そこで、0価の白金クラスターの選択的な製造のための還元的な白金−硫黄結合の解離を促進するために、水素ガス流下での反応を行った。ガラス基板にキャストした厚い[Pt(μ−SC17(nが異なる生成物の混合物)のフィルムを、250℃で2時間、水素ガス流通下で加熱したところ、メタリックなフィルムが形成され、X線散乱(XRD)により白金に同定された(図5)。
還元の間に前駆体の原子数を維持するために、[Pt(μ−SC17はカーボン(ケッチェンブラック)に担持した。担持された[Pt(μ−SC17の低温(250℃)での焼成を行った。
担持条件は、Pt/C=3質量%とし、含浸とそれに続く乾燥によって担持体を得た。
水素ガスの流量は1Lmin−1とし、装置構成は管状炉(光洋サーモシステムKTF040N1−AS)として、2時間焼成を行った。
図3(b)は、水素雰囲気下、250℃での焼成前後のPt4f7/2およびPt4f5/2領域における[Pt(μ−SC1712錯体のXPSスペクトル(Pt12*はフェニルアゾメチンデンドリマー(特許文献1参照)を用いて調製された試料である。)、図6は、水素雰囲気下、250℃における処理前後の[Pt(C17S)のX線光電子スペクトル(S2p3/2)である。焼成後の生成物のX線光電子スペクトル(XPS)は、0価の白金(Pt4f7/2:図3(b))の生成およびチオラート配位子の完全な除去(S2p3/2:図6)を示した。
図3(c)、図3(d)、図7は、炭素材料(ケッチェンブラック)に担持した白金サブナノクラスターのHAADF−STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法)による観察像である。灰色〜白に見えている塊は担体のケッチェンブラック、明るい白い輝点は白金サブナノクラスター粒子を示している。
熱分解した[Pt(μ−SC1712のHAADF−STEM像は、単分散白金クラスターがカーボンに担持されたことを示し、そのサイズはクラスターモデルと良く一致した(図3(c)、(d))。図3(c)は、ケッチェンブラックに担持した焼成試料の低倍率暗視野STEM像(JEOL JEM−2100F 200kV)、(d)は、収差補正したSTEMによる高倍率像(JEOL ARM−200F 80kV)を示す。
これらの現象は様々な錯体[Pt(μ−SC17(n=5〜12)から導かれる他の原子数にも共通する(図3(e)、図7、図8)。図7は、ケッチェンブラックに担持した異なる原子数(Pt〜Pt12)の白金オクタンチオラート環状多核錯体を焼成した白金サブナノクラスターの低倍率暗視野STEM像、図8は、図7のSTEM像に見出された白金サブナノクラスター(Pt〜Pt12)の各粒径のヒストグラムである。粒径は画像上で計測し、粒径のヒストグラムを得た。STEMで観測された全ての粒子サイズは、構造モデルに基づいて予測されるサイズとほぼ等しかった。
(実施例2)
(1)Agイオンの内包
[Pt(μ−SC17と1当量のトリフルオロメタンスルホン酸銀とクロロホルム:アセトニトリル=2:3(体積比)混合溶媒中で混合し、その会合錯体Ag@[Pt(μ−SC17OTfを得た。これを実施例1と同様に担持体に吸着させ、水素流通下で還元処理を行った。
得られた合金がAg@[Pt(μ−SC17であることを確認するため、[Pt(μ−SC17溶液(0.39mM)とトリフルオロメタン銀(I)溶液(クロロホルム:アセトニトリル=2:3(体積比)を滴下してUV−Visタイトレーションを行った。図9はUV−Vis吸収スペクトルの変化を示す。また、478.5nmの吸光度の変化から、錯形成定数(Kは2.87×10−1と見積もられた(図10)。質量分析により、銀イオン内包ティアラ型錯体を観測した(図11)。
熱分解したAg@[Pt(μ−SC17OTfのHAADF−STEM像は、単分散クラスターがカーボンに担持されたことを示し、PtAgクラスターが生成したと考えられる。
(2)Cuイオンの内包
[Pt(μ−SC17溶液(0.39mM)にトリフルオロメタンスルホン酸銅(I)ベンゼン錯体溶液(クロロホルム:アセトニトリル=2:3(体積比))を滴下してUV−Visタイトレーションを行った。図12はUV−Vis吸収スペクトルの変化を示す。図13は、図10における加えたトリフルオロメタンスルホン酸銅(I)ベンゼン錯体の[Pt(μ−SC17に対する当量数と438nmの吸光度変化の関係(丸点のプロット)、実線はシミュレーション結果を示す。錯形成定数(K)は7.0×10−1と見積もられ、Cuイオンの内包を確認した。
(3)Naイオンの内包 Naイオンを少量含む5mgの[Pt(μ−SC17を混合溶媒(クロロホルム/メタノール=1/1)3mLに溶解し、溶媒蒸気拡散法を用いてメタノールを徐々に加えてゆき、単結晶を析出させた。図14は単結晶構造解析を示し、左は全体構造、右は各白金原子とNa原子の原子間距離を示す。単結晶X線構造解析の結果、Naイオンが環内部に内包された構造を確認した。
3.触媒活性
(実施例3)
実施例1で合成されたクラスターPtを用いて、基質にインダンを用いてα−メチレン酸化反応の触媒活性を評価した。
酸化雰囲気において、ケッチェンブラックに担持したPtクラスターを蒸留直後のインダンに加え、反応を行った(図15(a))。
反応条件は次のとおりとした。
インダン:9.0mmol
酸素圧:1atm
反応温度:90℃
触媒量:2.4×10−3mmol(白金原子換算)
反応時間:6時間
反応では、インダン中に触媒を添加し、酸素雰囲気下に攪拌した。
また、比較例として、カーボン担体に市販の白金ナノ粒子を担持した触媒を用意した。
これらの触媒について、全金属一原子あたり、一時間あたりでのTOF(turnover frequency)で触媒活性を比較したところ、6時間の反応で、図15(b)に示す結果が得られた。
インダノン、インダノール、1−ヒドロペルオキシインダンを含む酸化生成物が確認され、Ptの触媒活性は、比較例の触媒に比べて11倍高かった(図15(b))。実施例1の白金サブナノ粒子は、メタンのより有用性の高い化合物への直接変換の鍵となるプロセスである、炭化水素の空気酸化反応のための触媒として作用することが確認された。
(実施例4)
精密なクラスター合成を目指してより分散性の高い担持法を検討するうえで、Ptの担持に用いる溶媒の検討を行った。クロロホルム、ヘキサン、クロロメタンについて異なる濃度の[Pt(μ−SC17溶液を滴下し、担持後のSTEM観察を行った。滴下濃度に関わらず、ヘキサンが最も錯体の担体上での均一分散に適した溶媒であることが明らかとなった(図16)。他の溶媒では主に担持剤の縁に、錯体の密集が確認された。
(実施例5)
(1)Ptの精密合成:凝集しない担持量の検討
原子数の制御された白金クラスターの合成に向けて、錯体が凝集しない適切な担持量の検討を行った。[Pt(μ−SC17をヘキサン中でケッチェンブラックに担持(Pt 0.4wt%、1.0wt%、1.8wt%)、焼成(250℃、3% H/N stream、8h)、焼成前後のSTEM観測を行った。[Pt(μ−SC17をPt 0.4wt%担持したとき、焼成前の錯体が低密度で担持されていること、焼成による凝集が起こらないことをSTEMで観察した(図17)。高倍率の観察では、白金8原子からなる集合体が観測された(図17b)。一方、Pt 1.0wt%、1.8wt%担持したとき焼成後は粒径1−2nm程度の凝集体が観測された(図18)。
凝集による粒子数の変化を、STEM像上で観測された面積当りの粒子数をもとに統計的に解析した(図19)。Pt 1.0wt%、1.8wt%を担持したとき、焼成後の面積当りの粒子数は焼成前に比べて約3割に減少し、担持した錯体が焼成により凝集体を形成した(図19)。Pt 0.4wt%では焼成前後で面積当りの粒子数にほとんど変化はなく、担持量を減らしたことで凝集は抑えられ、約9割が原子数制御されたまま維持されていることが明らかとなった。得られた密度からSTEM像上での平均粒子間距離を計算したところ、焼成前の平均粒子間距離が短いほど焼成による粒子数の減少が大きいことが明らかとなった。担持量をPt 1.0wt%、1.8wt%とした場合、錯体が近接して担持されるため、焼成後は凝集体が形成され、原子数制御が出来なかったが、担持量をPt 0.4wt%に減らした場合、錯体が低密度で担持、凝集せずに焼成することが明らかとなった。
(2)Pt(n=5、6、7)の精密合成:担持量検討
[Pt(μ−SC17(n=6、7)をヘキサン中でケッチェンブラックに担持し(Pt 0.4wt%)、焼成(250℃、H/N stream、18h)前後のSTEM像を比較した。Ptの場合と比較して、Pt、Ptではその凝集体Ptnx(x=2 、3…)がより多い割合で観測され、この条件では原子数制御が不十分であることが判明した。Ptと比較して凝集がより進行した理由として、担持量を白金質量で揃えることで、面積あたりの粒子数がPt<Pt<Ptの順に多くなり、粒子の平均間隔が狭くなったことが挙げられる。全体の現象を明らかとするためにSTEM像を統計的に解析したところn=8に比べて錯体の間隔はn=6、7でそれぞれ約0.9、0.8倍で、粒子の残留比との相関関係を見てみると、間隔が狭くなるほどに凝集が起こりやすいことが明らかとなった(図20)。n=6、7の白金担持量をPt 0.2wt%とすることで凝集を抑制し、原子数の制御されたPt(n=6、7)の合成に成功した。Ptも白金担持量をPt 0.2wt%とすることで精密合成を達成した。
(3)Ptの精密合成:担持量検討(n=9−12)
白金担持量がPt 0.4wt%のときPtは精密に合成されたが、Pt、Ptは一部で凝集が生じた。担持密度と凝集の相関関係が示唆され、Pt以上のクラスターの場合Pt 0.4wt%で精密に合成できることが推測された。白金担持量をPt 0.4wt%としてPt、Pt10、Pt11、Pt12、の合成を行ったところ、いずれも凝集が抑制され、原子数の制御されたクラスターが得られた(図21)。

Claims (5)

  1. 核数5〜12の白金チオラート環状多核錯体を担体に担持し、この担持体を水素ガス雰囲気下で焼成する白金クラスター担持体の製造方法。
  2. 白金クラスターは、その原子数が、白金チオラート環状多核錯体の核数と等しい請求項1に記載の白金クラスター担持体の製造方法。
  3. 白金チオラート環状多核錯体として、核数5〜12のうちいずれか一つに単離したものを用いる請求項1または2に記載の白金クラスター担持体の製造方法。
  4. 焼成温度が50〜300℃である請求項1〜3のいずれか一項に記載の白金クラスター担持体の製造方法。
  5. 白金チオラート環状多核錯体は、第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素を環の内部に1〜2個内包し、この環状多核錯体を担体に担持し、この担持体を水素ガス雰囲気下で焼成することで、第1族のうちアルカリ金属元素から第11族までのいずれかの元素を含む白金クラスターの担持体を得る、請求項1〜4のいずれか一項に記載の白金クラスター担持体の製造方法。
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