図1は、本願発明の実施の形態に係る水路システムの構成及び動作の一例を示す図である。
図1(a)を参照して、水路システムの構成及び動作の一例を説明する。水路システム1は、第1段気密管路111と、第2段気密管路112と、第3段気密管路113と、第1接続部171と、第2接続部172を備える。ここで、第1段気密管路111と第2段気密管路112と第3段気密管路113は気密管路であり、水や気体(空気)を通さない媒体で構成された管路で、例えば3気圧の気圧に耐えられる媒体で構成される。気密管路の内部では、気密状態(管路の出入り口以外の外部から気体・液体が入らない状態)で流体が流れる。
水面7は、開水路(水面が存在する水路)(例えば河川など)の水面である。底部3は、開水路の底にあたるもの(例えば川底など)である。底部3には、滝部5がある。底部3は、滝部5により途中に大きな落差があり、その前後では緩やかな傾斜であるとする。開水路では、定常状態(移動の形態が時間によって変化しない状態)では、一定方向に水が流れている。図1(a)では、定常状態で、図の左側から右側に水が流れている。
底部3には、第1段気密管路111と、第2段気密管路112と、第3段気密管路113が固定されている。第1段気密管路111の図中の左右の端を、それぞれ、左端131と右端151とする。第2段気密管路112の図中の左右の端を、それぞれ、左端132と右端152とする。第3段気密管路113の図中の左右の端を、それぞれ、左端133と右端153とする。
第1接続部171は、第1段気密管路111の右端151と第2段気密管路112の左端132の接続関係を調整する。第2接続部172は、第2段気密管路112の右端152と第3段気密管路113の左端133の接続関係を調整する。図1(a)では、第1接続部171及び第2接続部172は、気密状態で接続する。第1接続部171及び第2接続部172は、例えば遠隔制御(管理センタ等からの電気通信信号による遠隔制御)によって接続関係を調整してもよい。
第1段気密管路111の左端131の位置を第1地点とし、第3段気密管路113の右端153の位置を第2地点とする。
第1段気密管路111と第2段気密管路112と第3段気密管路113は、第1接続部171及び第2接続部172により気密状態でつながっている。端の一方から出水する水量と他方から出水する水量は同じである。左端131と右端153において、水が入出水する部分の面積は等しいとする。第1段気密管路111の左端131に単位時間あたりに入水する水量(入水速度)(第3段気密管路113の右端153から単位時間あたりに出水する水量(出水速度))をVaとする。
本実施例では、「疑似水面標高」の概念を導入することによって、気密管路を容易に設計することができ、さらに、低地を流れる流水をより高い位置に移動させるための設計やその限界値の算出も可能となる。なお、本願発明において、水面の標高は、疑似水面標高によって評価されるものであってもよい。
疑似水面標高は、ベルヌーイの定理に基づいて構築された気密管路の流速を算出するためのものである。疑似水面標高は、通常の水面の標高値の代わりに、水の移動エネルギーをその移動方向と気密管路の入口や出口の方向の関係を考慮して位置エネルギーに換算して疑似的な水面標高として示すものである。疑似水面標高差は、各地点の疑似水面標高の値の差異を表す。
ベルヌーイの定理により、左端131と右端153は、一方から開水路の水が入水し、他方から出水する。図1(a)の状況では、滝部5が存在して、第1地点における水面の標高は、第2地点における水面の標高よりも十分に高く、左端131に開水路の水が入水し、右端153から出水する。
疑似水面標高の一例について説明する。第1地点において、開水路の水の流水速度(単位時間あたりに水が流れる速度)、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V1、h1及びZh1とする。第2地点において、開水路の水の流水速度、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V2、h2及びZh2とする。
図1(a)の状況では、開水路の水は、左端131に入水しやすい方向に流れている。そのため、開水路の水の流れを考慮したエネルギー保存則よりmgZh1=mgh1+0.5×mV1 2が成立し、Zh1=h1+0.5×V1 2/gとなる。ここで、m及びgは、それぞれ移動する水の質量及び重力加速度(gは例えば9.80665m/s2)である。右端153では、水路システム1から出水する向きと開水路の水が流れる向きが同じであり、管路の出水速度に比較して開水路の流速は通常小さいため無視し、管路の出水側の疑似水面標高Zh2は、水面標高h2に等しいとして扱う。
なお、一般的には、疑似水面標高は、開水路の水が気密管路に入る(及び/又は出る)位置における開水路の水の流水速度、水面標高及び気密管路の入水速度(及び/又は出水速度)などの関数になる。例えば図1(a)の状況では、左端131でも右端153でも、開水路の水の流れる向きと水路システム1において水が移動する向きが同じであり、出水時では、その移動エネルギーは管路出水の移動速度に比較して小さいため、開水路の水の移動エネルギーを考慮する必要はない。他方、これらが異なるならば(例えば図1(d)参照)、水路システム1において開水路の水の流れに逆らう向きに水が移動する。疑似水面標高は、厳密には左端131及び右端153での水の動きを考慮して決定されるものではあるが、出水の移動エネルギーが開水路の流水の移動エネルギーより通常数倍大きいため、水の出口地点では開水路の移動エネルギーは無視して算出する。なお、入水側及び出水側では開水路の流水の移動エネルギーを考慮してもよく、近似的に決定してもよい。
理想的な状態では、ベルヌーイの定理より、水路システム1では、第1地点と第2地点の疑似水面標高差(Zhd1[m])によって生じる水の圧力差によって水を押し出すことで、水を速度Va(Va=(2×g×Zhd1)0.5[m/s])で移動させる。なお、現実には様々な抵抗などが存在するため、水路システム1の現実の入水速度(出水速度)はVa以下ではあるが、開水路の流水速度V1及びV2よりも高速で水を移動させることができる。
開水路での水の動きと水路システム1(管水路)での水の動きの違いを説明する。河川などでは、通常、川底の傾斜などの地形に起因する水面勾配によって水が流れる。そのため、傾斜が緩やかなところでは水の流れが遅い。他方、管水路では、水が充填されており、両端での水面の標高差(水の圧力差)によって水が移動する。水路システム1では、水が充填されており、一方の端部で水が入り、他方の端部で水が出るため、水が流れるというよりは、水を押し出して移動すると表現すべきものである。このような違いにより、例えば第2地点において局所的に水が急増したときには、開水路では、水面の傾斜等に従って徐々に上流へと影響することになる。それに対し、気密管路では、第1地点と第2地点との水面標高差(疑似水面標高差)が変化することによって、左端131から入る水の量が減少し、さらに大幅に増加して水面標高差が逆転したときは右端153から左端131に水を押し出すようになる。
第1接続部171及び第2接続部172は、少なくとも一方が気密状態とは異なる状態とすることもできる。この場合、複数の気密管路が直列に存在するものとして考えることができる。
図1(b)〜(d)を参照して、他の構成を用いて動作の一例を説明する。水路システムは、開水路において、左側気密管路21(本願発明の「第1気密管路」の一例)と、右側気密管路23(本願発明の「第2気密管路」の一例)を備える。左側気密管路21は図の左側に位置し、右側気密管路23は右側に位置する。
左側気密管路21の左右端を、左端25と右端27とする。左端25及び右端27の位置を、それぞれ第3地点及び第4地点とする。右側気密管路23の左右端を、左端29と右端31とする。左端29及び右端31の位置を、それぞれ第5地点及び第6地点とする。
第3位置における開水路の水の流水速度、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V3、h3及びZh3とする。第4位置における開水路の水の流水速度、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V4、h4及びZh4とする。第5位置における開水路の水の流水速度、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V5、h5及びZh5とする。第6位置における開水路の水の流水速度、水面の標高及び疑似水面標高を、それぞれ、V6、h6及びZh6とする。
左側気密管路21において、左端25に入水する開水路の水の入水速度と、右端27から出水する出水速度は等しいとする。図1(b)、(c)及び(d)で、それぞれ、Vc、Ve及びVfとする。右側気密管路23において、左端29に入水する開水路の水の入水速度と、右端31から出水する出水速度は等しいとする。図1(b)、(c)及び(d)で、それぞれ、Vd、Ve及びVgとする。
第4位置と第5位置の間の合流箇所において開水路と支流が合流し、支流から開水路に水が流入しているとする。そのため、支流における水量が急増して、第4位置における水面標高(疑似水面標高)が、第3地点における水面標高(疑似水面標高)よりも高くなる場合があるとする。
図1(b)は、通常の定常状態を示す。定常状態では、基本的に、開水路の水面は、開水路の底部の傾斜と同様に傾斜する。そのため、開水路の水は、第3地点、第4地点、第5地点及び第6地点で左から右に流れている。また、左側気密管路21及び右側気密管路23は、共に左から右に水を移動させる。
左側気密管路21では、第3地点及び第4地点の疑似水面標高は図1(a)と同様に近似計算することができる。他方、第4地点と第5地点では、左側気密管路21の右端27から出た水は、第5地点における流水速度V5よりも充分に速い速度で右側気密管路23の左端29に入る位置関係にある。そのため、右側気密管路23についての第5地点及び第6地点の疑似水面標高は、左側気密管路21から出水された水の影響を考慮する必要がある。右側気密管路23における移動速度Vdは、Vcの影響によって変わり、第5地点での疑似水面標高はVcを考慮して決定される。
図1(c)は、接続部33が、左側気密管路21の右端27と右側気密管路23の左端29を気密状態で接続した状態を示す。この場合、左側気密管路21と右側気密管路23は、接続部33を経由して連続した気密管路となる。第1地点及び第4地点の疑似水面標高は、図1(a)と同様に計算することができる。
図1(d)は、第4地点と第5地点において急に増水して開水路の水面が急上昇した場合を示す。この場合、開水路の水は、第5地点から第6地点に向けた流速V5が増え、第4地点から第3地点に向けて逆流が生じる。逆流は第3地点では生じておらず、左から右に流れる順流の状態である。この場合、第3地点と第4地点の間で水の流れの衝突が生じる。
左側気密管路21では、増水により第4地点の水面が上昇するために、増水の最初の段階では、第3地点と第4地点の水面標高差(疑似水面標高差)が小さくなり、左端25の入水量が減り、右端27の出水量が減る。さらに増水すると、第3地点と第4地点の水面標高(疑似水面標高)が逆転し、第4地点の水面標高(疑似水面標高)が第3地点の水面標高(疑似水面標高)よりも高くなり、右端27から入水し、左端25から出水するようになる。左側気密管路21での水の動きは、第3地点から第4地点までの開水路の水の動きとは異なるため、例えば第3地点において順流であっても逆流してもよい。第4地点及び第5地点で急増した水は、左側気密管路21及び右側気密管路23によって第3地点及び第6地点に分散させることができる。特に左側気密管路21によって、第3地点で開水路の逆流が生じていない段階でも、第4地点から第3地点に水を移動させて、水面標高差(疑似水面標高差)を小さくしたり、逆流の勢いを弱めたりすることができるという効果が認められる。
なお、本願発明を、第1開水路に設置された気密管路であって、第1開水路と第2開水路は合流箇所で合流し、第1開水路と第2開水路の水は定常状態で合流箇所に向けて流れており、気密管路は、一方端が他方端よりも合流箇所より遠く、第2開水路の水が合流箇所に定常状態よりも多く流入することによって合流箇所の水面が上昇した場合に、前記気密管路は、一方端から他方端に移動する単位時間あたりの水量を定常状態よりも減少したり、他方端から一方端に水を移動させたりして、気密管路を利用して合流箇所での水面上昇の影響を第1開水路の一方端側に反映するものとして捉えてもよい。
図1(b)について具体的な数値で説明する。左側気密管路21と右側気密管路23は、直列にあり、ほぼ直線上に並んでいる。左側気密管路21と右側気密管路23は、長さが500[m]であり、断面積(Sv)は1.0[m2]とする。気密管路内では、水の粘性、管路内の表面の摩擦や管路の曲がり等による水の移動抵抗があるが、気密管路の断面積を大きく設定してかつ水の摩擦やカーブの角度等を小さくすれば、移動の距離の長さにあまり依存せずに、気密管路の両端の水の圧力差によって高速に水を移動させることができる。また、第4地点と第5地点は距離が離れておらず、水面標高は同じとする。
左側気密管路21では、左端25と右端27との疑似水面標高差(Zhd3,4[m]=Zh3−Zh4)による水の圧力差によって水を押し出して、水を速度Vc(Vc=(2×g×Zhd3,4)0.5[m/s])で移動する。
他方、右側気密管路23では、左端29の近くでの開水路の流水速度V5は、Vcに比べて充分に小さい。そのため、左側気密管路21の右端27から出た水は、その移動速度Vcのまま右側気密管路23の左端29に到達し、第5地点での開水路の水の流れる速度はVcと仮定する。左端29での疑似水面標高Zh5は、Zh5=h5+0.5×Vc 2/gとなる。他方、右端31での疑似水面標高Zh6は、水面標高h6である。
定常状態(水かさが増加していない状態)でのh3、h4、h5及びh6を、それぞれ、20[m]、15[m]、15[m]、10[m]とする。
開水路は、左側気密管路21と右側気密管路23がない状態で、河川の断面積(S0)は、200[m2](河川の断面を長方形として河川の川幅(20[m])×堤防高さ(10[m]))であり、流速(単位時間に水が移動する距離)V0=1[m/s]とする。定常状態の流量(単位時間に通過する体積)(Qs)は、最大量の10分の1とすると、0.1×S0×V0[m3/s]となる。Qs=0.1×200×1=20[m3/s]となる。
左側気密管路21を設置すると、左側気密管路21では、Zh3=h3+0.5×V3 2/g=20.05[m]、Zh4=h4=15[m]である。ベルヌーイの定理及びZhd3,4=Zh3-Zh4=5.05[m]から、右端27の水の流出速度Vcは、Vc=(2×g×Zhd3,4)0.5=(2×9.8×5.05)0.5≒9.9[m/s]である。左側気密管路21の断面積を1.0[m2]とすると、流量Qv1は、Qv1=Vc×1=9.9[m3/s]である。すなわち、河川の定常的な流れる量Qs=20[m3/s]の内の9.9[m3/s]が、左側気密管路21によって流れている状態になる。よって、第3地点から第4地点に対して、左側気密管路21では、河川に比較して9.9倍の流速で移動している。左側気密管路21は、河川の断面積の内の0.5%の断面積(1.0[m2])を使用して、河川で移動する水量の約半分の量Qv1を高速で移動させている。また、河川と気密管路による最大総合流量は、河川の断面積が気密管路の河川内に設置しているため19[m2]となり、流量は19[m3/s]となる。気密管路の流量は9.9[m3/s]である。従って河川と気密管路との最大総合流量は、28.9[m3/s](28.9=19+9.9)であり、従来のQs=20[m3/s]より拡大している。また、最大総合流量を移動させている時の総合流速は、総合流量/河川の断面積=28.9/20≒1.5[m/s]であり、約1.5倍となっている。
次に、右側気密管路23を分析する。右側気密管路23の左端29の疑似水面標高は、次のように計算することができる。左側気密管路21の水の流出速度Vcは9.9[m/s]である。右側気密管路23の左端29での開水路の水の速度が速度Vcであるとの仮定により、第5地点の疑似水面標高Zh5は、Zh5=h5+0.5×Vc 2/g=20.0[m]となる。また、第6地点での右側気密管路23の右端31の疑似水面標高Zh6=h6=10[m]である。従って、疑似水面標高差Zhd5,6は、Zhd5,6=Zh5―Zh6=10[m]となり、この状態での速度Vdは、Vd=(2×g×Zhd5,6)0.5=(2×9.8×10)0.5=14[m/s]となる。速度Vdは、左側気密管路21の出水速度の1.4倍である。
定常状態では、左側気密管路21での速度Vcと右側気密管路23での速度Vdは大きな差異がないようにすることが望ましい。(既存の河川で流量が一定で流れていると仮定すると、数キロに渡って上流から下流に向かって川幅が多少広くなったり、狭くなったりしてもほぼ同一量の水が流れているため、河川自体と同様に河川に沿って同一流量を水路システムで移動させる必要がある。)そこで、第1地点と第2地点の疑似水面標高差と、第3地点と第4地点の疑似水面標高差を概略同一値に調節して、左側気密管路21の速度Vcと右側気密管路23の速度Vdを近似的に同一値にしてもよい。例えば、左側気密管路21の右端27と右側気密管路23の左端29の間で、左側気密管路21から出水した水の速度を減衰する。ここでは、左側気密管路21から出水した水の速度Vc=9.9[m/s]をV5≒1.0[m/s]に近い値に減速させる。例えば左側気密管路21の気密管路の断面における中心線を、右側気密管路23の気密管路の断面の中心線に3次元的に一致させて、一定距離量(Lb[m])離して水中に設置すれば、左側気密管路21から出水した水の速度を減速できる。その減速度合いは、他の水の流れや設置場所構造などにも影響するが、ほぼLbの距離長によって決定することができる。なお、左側気密管路21と右側気密管路23の流速は、完全に同一値にする必要はなく、20%程度の誤差はあっても右側気密管路23は故障などせずに動作できる。
また、Lb=2[m]とし、左側気密管路21から出水した水の第5地点での速度V5を5.0[m/s]とする。第5地点の疑似水面標高はZh5=h5+0.5×5.02/g=16.3[m]であり、第6地点の疑似水面標高Zh6=h6=10[m]である。
定常状態では、ベルヌーイの定理及びZd5,6=Zh6-Zh5=6.3[m]から、右側気密管路23での入水速度Vdは、Vd=(2×g×Zd5,6)0.5=(2×9.8×6.3)0.5≒11.1[m/s]である。右側気密管路23の管路の断面積は1.0[m2]であるから、Qv2は、Qv2=Vd×1=11.1[m3/s]である。開水路の定常的に流れる流量Qs=20[m3/s]の内の11.1[m3/s]が、右側気密管路23によって流れている状態になる。つまり、右側気密管路23の入水速度Vdは、左側気密管路21の流出速度Vcに比べて約1.1倍と、大きな値となる。(なお、左側気密管路21の出水速度と右側気密管路23の入水速度の違いによって、河川の流量が変化する。)結果として、定常状態では、河川の流量Qs=20[m3/s]に対して、第3地点から第4地点まで左側気密管路21で流量Qs=9.9[m3/s]を、第5地点から第6地点まで右側気密管路23で流量Qs=11.1[m3/s]を移動させている。Vd≒11.1[m/s]がVcに比較して多少大きいが問題ない。本願発明の水路システムでは多量の水を高速に移動させることが要求されており、かつ、もしVdをより小さな値にする必要がある場合にはLbを2[m]より大きくすることで実現できる。
雨が続き、第3地点〜第6地点での水面の標高が同じく5[m]上昇した場合、各地点間の疑似水面標高差は上記の説明事象と同一値である。なお、通常の河川では、最終地点は河口を介して海岸である。海面は水害時でも5mの海面上昇は生じないため、少なくとも最終段の気密管路の疑似水面標高差は大きく、最終段の気密管路で高速に水を移動させると、前段の出水口の水面の標高が下がり、結果として前段の疑似水面標高差が生じて、この前後の気密管路も高速に水を移動させる。このように順次気密管路が水を移動させることで高速に水を移動させることができる。最終段の気密管路が水を急速に移動すると、その前段の気密管路は、疑似水面標高差が大きくなって水を急速に移動する。このように、少なくとも下流の方から水を高速に移動して、玉突き的に前段の気密管路を有効に運用することができる。
図1(b)の設置形態で、第3地点でのみ水かさが5[m]急激に増加した状態とする。第3地点の疑似水面標高が、Zh3=h3+0.5×V3 2/g=25.05[m]に上昇する。そのため、左側気密管路21では、開水路で流れる量Qsの内の14.0[m3/s]が移動している状態で、左側気密管路21の定常的な流量の1.4倍の流量を移動させている。左側気密管路21の出水速度が増加すると、第5地点の疑似水面標高が増加し、右側気密管路23の流出速度が増加して、定常状態よりも多い水量を移動させることができる。
この設置形態で、第4地点及び第5地点でのみ水かさが5[m]急激に増加した状態とする(図1(d)参照)。左側気密管路21では、第4地点の疑似水面標高が高くなり、定常状態よりも少ない水量を移動させることになる。右側気密管路23では、第5地点の疑似水面標高が増加し、出水速度が増加して、定常状態よりも多い水量を移動させることができる。第4地点及び第5地点で水かさがさらに高まると、左側気密管路21でも右端27から左端25に水が移動することとなる。
この設置形態で、第6地点でのみ水かさが5[m]急激に増加した状態とする。右側気密管路23では、第6地点の疑似水面標高が高くなる。そのため、定常状態よりも少ない水量を移動させることになる。左側気密管路21は、第4地点の疑似水面標高が高まるにつれて、定常状態よりも少ない水量を移動させる状態になる。
この設置形態で、第6地点の水面の標高が第4地点及び第5地点の水面の標高より高い場合(h3=20[m]、h4=h5=15[m]、h6=16[m])について考察する。これら地点の水面の標高は、地形に依存して固定的であるとする。例えば、第6地点が河口で急速に汐が満ちた場合や、水源が乏しい特異な地点への水の供給が必要であるが供給地点より標高が高いなどである。この場合、第5地点の水面は第6地点の水面よりも低く、水は、定常状態では第5地点から第6地点へは流れない。左側気密管路21の動作は既述のとおりVc=9.9[m/s]である。左側気密管路21と右側気密管路23の間の距離Lbを小さく取りLb=0.2[m]とする。右側気密管路23の左端29における開水路の水の速度V5は、9.9[m3/s]から減速した6.0[m3/s]とする。第5地点の疑似水面標高はZh5=h5+0.5×6.02/g=16.8[m]であり、第6地点の疑似水面標高 Zh6=h6=16.0[m]である。この設置形態では、ベルヌーイの定理及びZd5,6=Zh5- Zh6=0.8[m]から、右側気密管路23では左端29から右端31に水が流れる。既存の河川では定常的には流れない場所への水の移動が可能であることを示している。なお、左側気密管路21から水の移動エネルギーをより大きくして出水すれば、より高い標高の第6地点に水を移動できる。水の移動の経路構成をより柔軟に設計して、水供給路を構成できる。
気密管路内の水の移動速度は、河川の水移動速度に比較して一定以上高速であると利用価値が高い。一般に、河川の定常的な水の移動速度は約2[m/s]以下がほとんどで、山岳地帯の河川は高低差が大きく流れも速い。ただし、山岳地帯の河川は川幅が短くかつ容量が小さいため、突発的に氾濫する可能性は高い。このため、突発的な氾濫を避けるための気密管路装置の設計は、河川の構造に留意した設計が必要になる。一方、中流、下流域の氾濫は重大な被害を招くため、今後の突発的な氾濫に対処できる気密管路装置の適用は、中流、下流域での適用が重要・必須となる。
図2を参照して、本願発明の他の実施の形態について説明する。河川は、開水路(水面が存在する水路)であり、上流から下流に水が流れている。河川41から河川43の水の流れが本流である。河川45は支流であり、合流箇所において本流に合流する。河川41及び河川45は、定常状態では合流箇所に向けて流れており、河川43は合流箇所から離れる向きに流れている。
図2(a)を参照して、水路システムは、第1気密管路51(本願発明の「第1気密管路」の一例)と、第2気密管路63(本願発明の「第2気密管路」の一例)と、第3気密管路57(本願発明の「第3気密管路」の一例)と、接続部69(本願発明の「接続部」の一例)と、固定部71を備える。
第1気密管路51、第2気密管路63及び第3気密管路57は、それぞれ、河川41、河川43及び河川45に設置されている。第1気密管路51は、上端55は下端53よりも合流箇所から遠い。第2気密管路63は、上端65は下端67より合流箇所に近い。第3気密管路57は、上端61は下端59よりも合流箇所から遠い。
固定部71は、第1気密管路51の下端53と第2気密管路63の上端65と第3気密管路57の下端59を川底に固定する。
接続部69は、第1気密管路51の下端53と第2気密管路63の上端65と第3気密管路57の下端59の接続関係を変更する。
なお、第1気密管路51、第2気密管路63及び第3気密管路57は、一つの気密管路でもよく、図1(a)と同様に複数の気密管路を直列に並べたものであってもよい。
第1気密管路51、第2気密管路63及び第3気密管路57は気密管路であり、両端は河川の水中にある。
第1気密管路51の上端55及び第3気密管路57の上端61は、入水する水の方向に適切に設定され、かつ高速な入水によって変形・振動・移動をしないように、図示を省略する固定部や設置地点の岩盤などに固定してもよい。ただし、流水が安定していたり、流入が妨害されたり振動や移動したりする可能性が低い場合、固定せずに設置される場合もありうる。第2気密管路63の下端67も同様である。
接続部69が無い場合に、定常状態では、第1気密管路51及び第3気密管路57から出水した水は、第2気密管路63に入水する。第1気密管路51及び第3気密管路57から出水した水は、第2気密管路63の上端65での水の圧力を増加させて、第2気密管路63の両端間の水の圧力差を変化させる。
接続部69は、第1気密管路51及び第3気密管路57から出水した水の移動方向を調整したり移動速度を調整したりして、第1気密管路51及び第3気密管路57から出水した水による、第2気密管路63の上端65における水の圧力の変化を調整する。接続部69は、例えば、第2気密管路63の上端65における河川の流量が少なくならないように、定常時でも水を供給するために貯水する機能を装備してもよい。
第1気密管路51、第2気密管路63及び第3気密管路57の両端では、岩石や流木などの流動物の衝突などにより破損する危険がある。そのため、例えば全面に障害物を排除できるようなフィルタを設けることが望ましい。このフィルタは、何段か重ねて設置して、巨大なものから小さなものまでゴミを排除してもよい。
図2(b)〜(f)は、接続部69による接続関係の一例を示す。
図2(b)は、気密状態で接続する場合である。この場合は、第1気密管路51の上端55と、第2気密管路63の下端67と、第3気密管路57の上端61の水面の標高によって、各気密管路で移動する水量や向きが変化する。
図2(c)は、開いた状態(気密状態でない状態)で接続する場合である。この場合は、第1気密管路51の上端55と、第2気密管路63の下端67と、第3気密管路57の上端61と、合流箇所における水面の標高によって、各気密管路で移動する水量や向きが変化する。
図2(d)では、第1気密管路51と第2気密管路63を気密状態で接続し、第3気密管路57から出水した水が入らないようにする。この場合、図1(a)と同様に、第1気密管路51の上端55と、第2気密管路63の下端67の水面の標高によって水の移動が生じる。
図2(e)では、第1気密管路51と第2気密管路63と第3気密管路57を気密状態で接続するが、第1気密管路51と第3気密管路57から出水する水量を手動もしくは遠隔制御で制限する。例えば第1気密管路51の上端55と第3気密管路57の上端61で水面の急上昇があった場合に、支流河川45で堤防の低いところがあるならば、当初は第1気密管路51の水の移動を制限して第3気密管路57の水の移動を優先し、徐々に第1気密管路51の水の移動を緩和して、第1気密管路51と第3気密管路57の水の移動のバランスを調整することができる。
図2(f)では、第1気密管路51と第3気密管路57を気密状態で接続し、第2気密管路63には水が移動しないようにする。例えば第1気密管路51の上端55で水面が急上昇した場合に、それを直接に河川43に流すのではなく、河川45の上流を経由させることにより、河川43の水面が上昇するようになるまでの時間を遅らせることができる。なお、第2気密管路63の上端65は、これを閉じて第2気密管路63を使用しないようにしてもよく、第2気密管路63の上端65を開いた状態として、第2気密管路63を第1気密管路51及び第3気密管路57と独立に動作させてもよい。
本願発明は、洪水の被害減少に寄与できる。洪水が発生しやすい地域の川に気密管路を水中につけて、下流側端部を川下に(例えば河口の水面近くに)設置すれば、上流側端部から入った水が高速に下流側端部まで移動して放出される。その水の移動速度を、河川の水の移動速度の10倍程度に設定し、かつ気密管路の断面積を、河川の最大水流の断面積の0.1倍に設定すれば、気密管路の流量は、河川の流量(=10×0.1)と同一となる。従って、気密管路を河川にそってその内部に設置すれば、気密管路と河川による流水の容量を約1.9倍にすることができ、洪水になる可能性を大幅に抑えることができる。この例では、約1.9倍の流量増加する例を示したが、約5倍程度の流速は、実現できる。従って、洪水の発生確率を下げて、かつ増水した雨水を急速に移動させて、水被害期間を短縮でき、社会基盤の安定に寄与できる。
さらに、河川に沿って、洪水が発生しやすい幾つかの地点の川の水中に気密管路をつけて設置してあれば、気密管路を川下に直列に設置して、例えば最終段の気密管路の下流側端部を河口の水面近くに設置すれば、それらが設置された範囲の任意の場所で発生した大量の水は、その下流の複数の気密管路を経て最終段の下流側端部から噴出して高速に水が移動することができ、河川の流速が大幅に拡大する。
第1気密管路51、第2気密管路63及び第3気密管路57は、弁を備えてもよい。この弁により、気密管路で水を移動させるか否かを調整したり、移動する水量を調整したりすることなどができる。弁は、制御栓などであってもよい。また、弁の開閉状態の制御は、自動制御であってもよく、遠隔又は手動で人が制御してもよい。また、一方向弁のようなものでもよい。弁(制御栓を含む)を利用することにより、津波を防いだり、制御が必要でない場合(例えば上流側端部又は下流側端部において水が少ない場合など)には閉じて水を確保したりすることができる。
図3を参照して、本願発明において弁を設けた場合の具体的な一例について説明する。図3(a)を参照して、この例では、気密管路の海に近い方の端に弁を設けている。弁は、海側から気密管路に水が入るのを防ぎ(閉じた状態)、気密管路内の水が海側に出水することは許容する(開いた状態)。図3(b)にあるように、気密管路は、例えば河口に並列に設置する。
例えば津波が到来したときのように海から部分的に水面の高まった状態が移動してくる場合に(気密管路は充分に長く、気密管路の長さに比較して水面が高まった部分が充分に短い場合に)、図3(c)にあるように弁は閉じた状態にあり、気密管路において水が海側から水が入るのを防ぐ。図3(d)及び(e)にあるように、弁が設けられていない方の端に水面の高まった状態が到達するまでは、弁は閉じた状態である。図3(f)にあるように、少なくとも弁が設けられていない方の端まで水面の高まった状態が移動したときに、気密管路の両端での水面標高差(疑似水面標高差)により気密管路において海側の水圧が低くなるため、弁が内側から押されて、弁は開いた状態になり、気密管路から海側に出水する。この出水量だけ、津波の量が減少する。なお、もちろん、弁を設けなくても適用できる。その際は、海側から気密管路に水が入り、気密管路内を河口側に高速に移動される。その移動された水の量だけは、津波の波高から分離され、河口の方向に移動する難点があるが、波高は低くなる。
図4は、直列に設置した2つの気密管路の間の構成の一例を示す。図4(a)にあるように、2つの気密管路の間は単純に距離をとったものでもよい。図4(b)にあるように中心軸の方向が異なる場合などに、水の移動方向を変えるような移動制御部材を設けてもよい。図4(c)にあるように移動制御部材を連続して複数設けて、移動方向を変えつつ移動速度を減らすようにしてもよい。
図5は、3つの気密管路の間の構成の一例を示す。図5(a)にあるように、3つの気密管路の間は距離を開けてもよい。図5(b)にあるように水量や水流抵抗を調整する水量等調整部材を設けてもよい。図5(c)及び(d)は、水量調整部材の一例を示す。例えば、図5(c)及び(d)に示すように、下流側の気密管路の上流側端部の形状をジョウロ型にすれば、等価的に高低差を調整できる。さらに、図5(c)に示すように、下流側の気密管路の上流側端部の上流に、水流を誘導するように水流抵抗となる抵抗装置を設置しても、流入する水流の流れが遅くなったり速くなったりして、等価的に高低差を調整できる。このような水量等調整部材は、適切に入水するように端部の間の位置関係(それらの間隔・中心軸の角度・端部の面積や形状・水流抵抗装置)を設計して、設計値通りにそれらの接続器を設置して実現すればよい。
下流側の気密管路が入水する際の疑似水面標高値は、その上流に設置された気密管路の出水の移動エネルギー量に依存する。そのため、図4及び図5にあるように、気密管路の端部の3次元的な面構造とその面積、その向きや、複数の気密管路の間での3次元の中心軸の一致度合いを設定することなどにより、気密管路に望ましい動作をさせるとすることができる。
図6は、複数の気密管路を接続する接続部の一例を示す。図6(a)は、上流側に2つの接続口を、下流側に1つの接続口があるものである。上流側の接続口の一つに気密管路を接続し、もう一つには接続しない。下流側の接続口には気密管路を接続する。気密管路を接続した接続口の制御栓を開き、気密管路を接続しない接続口の制御栓を開くと、2つの気密管路を気密でない状態で接続することができる。気密管路が接続していない接続口の制御栓を閉じ、気密管路を接続した接続口の制御栓をすべて開くと、2つの気密管路を気密状態で接続することができる。図6(b)にあるように、気密管路を接続しない接続口を対向して設けるなどの工夫をしてもよい。図6(c)及び(d)にあるように上流側に複数の接続口を設けてもよく、図6(e)にあるように下流側に複数の接続口を設けてもよく、図6(f)にあるように上流側にも下流側にも複数の接続口を設けてもよい。このような接続部を利用して、図2(b)〜(d)の制御を実現することができる。
図7は、複数の開水路を接続する場合の一例を示す。
図7(a)は、気密管路の一部分の標高値が、両端の水面よりも高い位置にある場合に、その気密管路装置の初期設定をする構成を示す。図7に示すように、河川の構造によっては、例えば堤防を越えるように、気密管路を設置する際に気密管路の一部の位置が河川の水面より高い位置を通って設置する必要がある場合がある。この場合に、気密管路内に気体(空気など)があると水は気密管路を流れ込まず、流れ出ない。このため、気密管路を気密状態にするために初期設定する必要がある。最も高い位置に、水栓と空気栓を設ける。設置地点の気圧が1気圧とすると、ベルヌーイの定理より、最も高い個所の高さと高いほうの水面の高さとの違いが約9m以下であれば、一度初期設定された気密管路においては、それから以後は継続的に水が移動して噴出する。気密管路の初期設定は、「両端の水栓を閉じて、かつ、最も高い個所の水栓と空気栓を開いて、開いた水栓の水挿入口から水を送入して開いた空気栓の空気口から空気を出して終えて水が出るまで送入する。最も高い個所の水栓と空気栓を閉じる。そして、両端の水栓を開くと、水が、低い方の端部から放出する」作業である。その放出速度は、高い方の水面の位置と他方の端部の標高(もしくは他方が設置された開水路の水面の標高)の差に依存する。通常、川には水があるが、渇水時などには水がなくなる場合がありうる。そのため、両端の水の状況に応じて端部の水栓を制御する必要がある。これは、遠隔自動制御でもよく、手動制御でもよい。
図7(b)にあるように、2つの独立した河川との間で、本願発明の水路システムを利用して水の移動ができるようにしてもよい。局所的な降雨などにより、一方の河川の狭い範囲でのみ水面が上昇する場合がある。本願発明の水路システムの一方端をこのような局所的な水面上昇が生じる箇所に設け、他方端を異なる河川に設ける。定常状態では、この両端の水面の標高がほぼ同一な場所に設置する。一方端がある河川の水は、河川に従って移動しても他方端がある位置には到達しない。同様に、他方端がある河川の水は、河川に従って移動しても一方端がある位置には到達しない。このような場合でも、本願発明の水路システムを利用して、一つの河川での局所的な水面が上昇した場合、他方より疑似水面標高が高くなり、自動的に高い方から低い方に水が移動する。したがって、洪水などのリスクを低減することができる。なお、このような河川を横断する気密管路を利用して、例えば3つ以上の河川の間で水を移動させてもよい。
なお、図7(a)にあるように、気密管路の両端が位置する開水路において、少なくとも水面の標高が高い方に対応する気密管路の端が水中にあればよく、水面の標高が低い方に対応する端は、水中にあってもよく、空中にあってもよい。一方端が水中にあり、他方端が空中にある場合には、空中にある他方端の疑似水面標高は他方端の標高と等しくする。また、他方端を常に空中にして、固定的に出水口として使用してもよい。
本願発明は、気密管路の両端部分における開水路(河川など)の水面の標高によって作動し、両端部分の間は、河川などの位置構造に依存せずに作動する。そのため、例えば堤防などを超えて、水の移動を実現してもよい。さらに、水の移動速度は0〜30m/sと高速であるが、その作動動作からの動作開始時間は水圧の変化の伝達速度に依存し、設定からほぼ瞬時に作動する。また、気密管路の断面は、円形、楕円形、四角形、6角形等の形状がありうる。気密管路の入水口から出水口までの形状は、その内部の水移動の制御のために任意の方向への曲がった形状がありうる。