以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、超音波画像処理装置として機能する超音波診断装置が示されている。この超音波診断装置は、病院等の医療機関において設置され、生体に対する超音波の送受波により得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。超音波画像としては、組織画像(Bモード断層画像)、血流画像(カラーフロー画像)、三次元画像等が知られている。本実施形態において、診断対象となる臓器は心臓である。被検者の胸部表面における左側肋骨の下側に相当する位置に、以下に説明するプローブの送受波面が当接され、その状態において心臓(特に左室)に対して超音波の送受波が実行されている。つまり、本実施形態では、心臓における心尖部側から心臓が観察されている。もっとも、これは一例に過ぎないものである。診断目的や疾病に応じて様々な観察方向が選択される。心臓における四腔、二腔等が同時に観察されてもよい。なお、食道内にプローブを挿入し、食道内から心臓が観察されてもよい。
プローブ10は超音波診断装置本体に接続された可搬型の送受器である。プローブ10は、本実施形態において、複数の振動素子からなるアレイ振動子を有している。アレイ振動子によって超音波ビーム12が形成され、その超音波ビーム12が電子的に走査される。これにより観測面としてのビーム走査面14が形成される。本実施形態においては、電子走査方式として電子セクタ走査方式が利用されている。もちろん、電子リニア走査方式等の他の電子走査方式が利用されてもよい。超音波ビームを二次元走査することによって三次元データ取込空間を形成し、生体内からボリュームデータを得るようにしてもよい。
図1において、rはビーム方向(ライン方向、深さ方向)を示しており、θは超音波ビームの電子走査方向を示している。運動体である血流で超音波が反射する場合、いわゆるドプラシフトが生じる。受信信号に含まれるドプラシフト周波数成分を抽出することにより、血流の速度情報を得ることが可能である。
送受信部16は送信ビームフォーマ―及び受信ビームフォーマ―として機能する電子回路である。送信時において、送受信部16は、アレイ振動子に対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより生体内に送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がアレイ振動子において受波されると、アレイ振動子から送受信部16へ複数の受信信号が並列的に出力される。送受信部16においては、複数の受信信号をデジタル変換した上で、それらに対して遅延加算処理(整相加算処理)を適用し、これによりビームデータを生成する。1つのビーム走査面当たり、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータが取得される。それらは受信フレームを構成する。個々のビームデータは深さ方向に並んだ複数のエコーデータにより構成される。個々のエコーデータはドプラシフト周波数成分を含有する。
信号処理部18は、個々のビームデータを処理する電子回路である。信号処理部18は、複数の動作モードに対応した複数の信号処理機能を有し、例えば、直交検波回路、振幅演算回路、対数変換回路、フィルタ回路、相関回路等を有する。信号処理部18に対して断層画像用ビームデータが入力された場合、そのビームデータに対して断層画像形成のために必要な信号処理が施される。信号処理後のビームデータが座標変換部20へ送られる。信号処理部18に対して血流画像用ビームデータが入力された場合、それに対する直交検波処理により、当該ビームデータが複素信号に変換され、複素信号に対するクラッタ除去処理等の信号処理が適用され、そのような信号処理後の複素信号が速度演算部24に送られる。
座標変換部20はデジタルスキャンコンバータ等を含む電子回路により構成されるものである。座標変換部20は、座標変換機能、補間機能、フレームレート調整機能等を有する。座標変換機能は、rθ座標(極座標)をxy座標(直交座標)に変換する機能である。もっとも、電子リニア走査方式等が選択される場合、極座標から直交座標への変換は不要となる。座標変換部20によって断層画像(組織画像)が形成される。断層画像を示すデータ(表示フレーム)が表示処理部22へ送られている。
速度演算部24は、自己相関器、逆正接演算器等を有する電子回路である。速度演算部24によって、ビーム走査面14上におけるサンプル点ごとに繰り返し得られた複数のドプラ情報(ドプラシフト情報)に基づいて、サンプル点ごとに速度データが演算される。複数のサンプル点に対応する複数の速度データが速度データセットを構成する。各速度データは、各サンプル点における血流の向き及び速度の大きさを示すものである。プローブ10に近づく方向が正方向であり、それが正の符号によって表現される。プローブ10から遠ざかる方向が負方向であり、それが負の符号によって表現される。速度データが示す速度は、真の速度ではなく、ビーム方向に沿った速度成分である。折返し部分は、実際には順方向の流れであっても見かけ上、逆流として観測、表示される。なお、非常に高速な血流が存在する場合、2回又はそれ以上の回数、折返すこともあるが、本実施形態では、一般的な場合つまり1回の折返しが生じる場合を前提としている。また、ビーム走査面上において極性の異なる二種類の折返し現象が生じないことを前提としている。速度演算部24が分散演算器を有していてもよい。
図示の構成例において、速度演算部24から出力された速度データセットは、座標変換部30及びベクトル演算部34に送られている。座標変換部30は上記座標変換部20と同様の機能を有している。これにより座標変換後の速度データセットが得られる。それが表示処理部22に送られている。座標変換後に折返し補正が実行されてもよい。
ベクトル演算部34は、速度データセットに基づいて、ビーム走査面上のサンプル点ごとに二次元速度ベクトルを演算する電子回路である。例えば特許文献2にはベクトル演算部34が実行する演算方法が開示されている。他の演算方法が利用されてもよい。いずれにしても、本実施形態では、折返し補正後の速度データセットに基づいてベクトル演算を実行できるので、不自然な流れが表示されてしまう問題を回避又は軽減できる。
ベクトル演算部34の後段には図示の構成例において座標変換部36が設けられている。それは上記座標変換部20と同様の機能を有している。座標変換後においてベクトル演算が実行されてもよい。
シネメモリ25及びシネメモリ26はそれぞれリングバッファ構造を有するメモリである。シネメモリ25には、時系列順で得られた複数の受信フレームが順次格納される。個々の受信フレームは走査面に対応しており、複数のビームデータにより構成される。シネメモリ26には、時系列順で得られた複数の速度データセットが順次格納される。個々の速度データセットは電子走査方向に並ぶ複数の速度データ列により構成され、個々の速度データ列は深さ方向に並ぶ複数の速度データにより構成される。画像再生時においては、シネメモリ25から一連の受信フレームが順次読み出され、また、シネメモリ26から一連の速度データセットが順次読み出される。座標変換後のデータが別のシネメモリに格納されてもよい。
本実施形態において、フリーズ状態において、画像再生の過程で又はそれに先立って、シネメモリ26から読み出される複数の速度データセットに対して折返し補正が順次実行される。リアルタイムで得られる速度データセットに対して折返し補正がリアルタイムで実行されてもよい。シネメモリ26に格納された複数の速度データセットを外部装置へ転送し、当該外部装置において、補正範囲の設定、折返し補正、血流画像形成、ベクトル演算等が実行されてもよい。
表示処理部22は、表示画像を生成する電子回路であり、それは画像合成機能、カラー処理機能、ベクトル画像形成機能等を有する。図1においては、カラー処理機能がカラー処理部32として表現されており、ベクトル画像形成機能がベクトル画像形成部38として表現されている。カラー処理部32は、座標変換後の速度ベクトルセットに対してカラー処理を適用し、これによりカラー血流画像を生成する。座標変換部30及びカラー処理部32が血流画像形成部に相当する。ベクトル画像形成部38は、複数の二次元血流ベクトルに基づいてベクトル画像を形成するものである。ベクトル画像は、複数の演算点での複数の二次元速度ベクトルを表す複数の図形(例えば、矢印のようなグラフィック要素)からなる画像である。
表示器40は液晶表示器、有機EL表示器等により構成される。その表示画面上には、組織画像、カラー血流画像、ベクトル画像等が表示される。制御部42はCPU及び動作プログラムにより構成され、図1に示されている各構成の動作を制御している。制御部42には、入力デバイスとしての操作パネルが接続されている。それはボタン、つまみ、トラックボール等を有する。図1において、符号46で示す構成がソフトウエアで構成されてもよい。
図2には折返し補正部28の構成例が示されている。折返し補正部28を構成する各要素は、電子回路、プロセッサ、又は、CPUにおいて実行されるソフトウエアにより構成される。折返し補正部28には、時系列順で並ぶ複数の速度データセットが順次入力される。
補正対象選択部48は、補正対象選択手段として機能し、入力された複数の速度データセットの中で、折返し補正の対象となる1又は複数の速度データセットを選択する。その場合、個々の速度データセットの内容が検査される。本実施形態では、折返し部分が含まれている可能性が認められるものが折返し補正対象として選択される。
順方向(心拍時相)判定部50は、順方向判定手段又は心拍時相判定手段として機能し、選択された速度データセットに基づいて、順方向を判定する。すなわち、速度データセット全体から見て、血流の主たる流れの方向が正方向であるのか負方向であるのかが判定される。その判定は心拍時相の判定に相当する。心尖部アプローチの場合、通常、順流が負方向であれば収縮期であり、順流が正方向であれば拡張期である。観察断面の種類に応じて、順方向がいずれの方向であるかが定まる。重篤な弁閉鎖不全の場合、大きな高速の逆流が観測されることもある。そのような場合には、折返し補正処理を停止させてもよい。順方向判定部50はアルゴリズム選択手段としても機能する。
順方向判定部50の後段には、本実施形態において、第1及び第2補正範囲生成部52,54が並列的に設けられている。それら全体として補正手段として機能する。具体的には、第1補正範囲生成部52は、収縮期用補正範囲生成手段として機能し、第1アルゴリズムとしての収縮期用補正範囲生成アルゴリズムを実行する。第2補正範囲生成部54は、拡張期用補正範囲生成手段として機能し、第2アルゴリズムとしての拡張期用補正範囲生成アルゴリズムを実行する。補正範囲は、折返し部分ができるだけカバーされ、且つ、保存すべき部分ができるだけカバーされないように、定められる。
つまり、本実施形態においては、複数の心拍時相に適合する複数の補正範囲生成アルゴリズムが用意されており、判定された心拍時相に応じて、実際に利用する特定の補正範囲生成アルゴリズムが適応的に選択されている。具体的には、収縮期用補正範囲生成アルゴリズム及び拡張期用補正範囲生成アルゴリズムが用意されており、それら2つのアルゴリズムの中から心拍時相に適合したアルゴリズムが選択されている。一般に、健常者の場合、収縮期において折返し現象が生じるのは高速流出が観測される数フレーム程度であり、同様に、拡張期において折返し現象が生じるのは高速流入が観測される数フレーム程度である。もっとも、状況に応じて折返し現象が生じるフレーム数は大きく変化する。第1補正範囲生成部52及び第2補正範囲生成部54が両者併せて単一のプロセッサによって構成されてもよい。その場合、心拍時相に応じて、実行アルゴリズムつまり実行プログラムが切り換えられる。
折返し補正実行部56は、速度データセット中における補正範囲の内部に対して折返し補正を実行する。補正範囲の外側は保存される。具体的には、折返し補正実行部56は、補正範囲内において逆流部分を特定し、その逆流部分を順流部分に置き換える処理を実行する。折返し補正後の速度データセットが後段の回路へ出力される。折返し補正が不要な速度データセットは折返し補正部28を迂回して後段の回路へ出力される。
一連の折返し補正処理については後に詳述する。それに先立って、以下において、折り返し現象及び折返し補正前後の画像変化について説明する。
図3には折返し現象が示されている。横軸は深さを示しており、縦軸は正負速度を示している。正側最大値と負側最大値との間がパルス繰り返し周期(PRT)に依存する速度レンジである。符号58に示すように、深さ方向に血流の速度が徐々に増大してその速度が正側最大値を超えた場合、符号62で示すように、折返し現象が生じ、つまり、本来的には順流の流れが見かけ上、逆流のように観測されてしまう。これを補正するのが符号66で示す折返し補正である。図3には、負側の折返し現象だけが示されているが、正側の折返し現象も生じ得る。
図4には、収縮期における超音波画像68が示されている。それはカラーフローマッピング(CFM)画像であり、白黒組織画像上にカラー血流画像を合成してなるものである。表示された断面において、符号70は左室を示しており、符号72は左房を示しており、符号76は僧帽弁を示している。符号74は大動脈を示しており、符号78は大動脈弁を示している。収縮期においては、左室70から大動脈弁78を介して大動脈74へ血流が流れ込む。収縮期においては負方向が順方向である。符号82は順流として表示された領域(見かけ上の逆流領域)を示しており、その領域82は高速部分88と中速低速部分86とを含んでいる。領域84は折返し部分であり又はそれを含む領域であり、それら全体として正方向の流れとして表示されている。そこには高速逆流92や中速低速逆流90が認められる。左房72内にも逆流に相当する正方向の流れ94が認められる。このように顕著な折返し現象が発生している場合、それが血流画像の観察上の妨げとなる。ベクトル演算を実行する場合には不正確な向きをもったベクトルが演算されてしまう。
図4に示した血流画像の基礎をなす速度ベクトルセットに対して収縮期用折返し補正を適用した結果が図5に示されている。領域84A内において、折返し部分が補正されて正しい順流として表示されている。符号96で示されているように、順流全体として折返し現象が消失している。一方、左房内に存在していた逆流(正方向の流れ)94は維持されている。
図6には、拡張期における超音波画像108が示されている。その超音波画像108もCF画像である。左室98内には正方向の流れとして順流110が表示されており、左房100内においても、正方向の流れとして順流111が表示されている。それらによって挟まれる領域112(特に僧帽弁102の中及びその出口側)においては折返し現象が生じている。つまり、その領域112内においては、負方向の流れとして、見かけ上の逆流が現れている。
図6に示した血流画像の基礎をなす速度ベクトルセットに対して拡張期用折返し補正を適用した結果が図7に示されている。領域112A内において、折返し部分の主要部114が補正されており、その主要部114が正しい順流(正方向の流れ)として表示されている。主要部114の両側には渦が生じており、それぞれの渦の一部が逆流(負方向の流れ)として表示されている。つまり、保存すべき逆流が維持されている。
図4及び図6に例示したように、心拍時相によって、折返し現象が生じる部分の位置、範囲、形態等が相違し、同時に、保存すべき部分の位置、範囲、形態等が相違する。このため、本実施形態では、複数の心拍時相に適合した複数の補正範囲生成アルゴリズムが用意されており、それらが選択的に利用されている。その結果、図5及び図7に示したように良好な補正結果を得ることが可能である。他の断面を観察する場合においても、そのような考え方に基づいて複数の心拍時相に適合する複数の補正範囲生成アルゴリズムを用意しておければよい。
次に、図8〜図23に基づいて、本実施形態に係る折返し補正処理の詳細について説明する。
図8には、折返し補正プロセスの全体が流れ図として示されている。符号118は、シネメモリ上に格納された時系列順で並ぶ複数の速度データセット120を示している。個々の速度データセット120は、電子走査方向(θ方向)に並ぶ複数の速度データ列122により構成される。個々の速度データ列122は深さ方向(r方向)に並ぶ複数の速度データにより構成される。個々の速度データは、正又は負の符号と速度値とを有する。
S10では、探索期間がユーザーにより指定される。記憶されたすべての速度データセットが補正対象として指定されてもよい。S12では、探索期間内の複数の速度データセットが取り込まれる。S14では、個々の速度データセットごとに折返し現象を含むか否か(正確にはその可能性があるか否か)が判定され、折返し現象が生じている速度データセットが補正対象として選択される。S16では、補正対象となった速度データセットに基づいて、順方向つまり心拍時相が判定される。S18では、判定された心拍時相に基づいて、適用する補正範囲生成アルゴリズムが選択される。
S20は補正範囲生成工程に相当し、それは、具体的には、収縮期用の補正範囲生成アルゴリズムを実行する工程(S20A)と、拡張期用の補正範囲生成アルゴリズムを実行する工程(S20B)と、からなる。それらは択一的に選択、実行されるものである。S22では、血流データセットにおいて補正範囲内が折返し補正の対象となり、具体的には、補正範囲内における逆流部分が折返し部分であるとみなされ、その逆流部分が順流部分になるように補正される。
図9には、心尖部アプローチにおいて取得された収縮期の血流画像124が示されている。実際には、その血流画像124は、収縮期内であって高速の血流が生じる時相において取得されたものである。この血流画像124は図4に示した血流画像に対応する。血流画像124は、負方向の流れとしての順流領域126と、見かけ上の正方向の流れとしての逆流領域128と、を有する。図示の例において、収縮期では、順方向130は負方向である。一般に、順流領域126の方が逆流領域128よりも大きい。逆流領域は一般に単一の塊の態様を呈する。このような傾向に基づいて、本実施形態では、収縮期においては、見かけ上の逆流領域128の着目し、その逆流領域128を基礎として補正範囲を生成するようにしている。このような処理により、左房において実際に生じている正方向の流れが補正対象となってしまう事態を回避でき又はその可能性を軽減できる。収縮期における補正範囲の生成方法については後に詳述する。
図10には、心尖部アプローチにおいて取得された拡張期の血流画像132が示されている。実際には、その血流画像132は、拡張期であって高速の血流が生じる時相において取得されたものである。この血流画像132は図6に示した血流画像に対応する。血流画像132は、正方向の流れとしての順流領域133と、見かけ上の負方向の流れとしての逆流領域134,136R,136Lと、を有する。図示の例において、拡張期においては順方向138が正方向である。逆流領域134は、折返し現象により生じた見かけ上の逆流に相当しており、それを補正対象に含める必要がある。逆流領域136R,136Lは、一対の渦により生じた実際の逆流に相当しており、それらについては保存する必要がある。このような要請に基づいて、本実施形態では、拡張期においては、逆流領域134,136R,136Lではなく、順流領域133に着目し、その順流領域133に取り囲まれる又は挟まれる領域が含まれるように補正範囲を生成している。拡張期における補正範囲の生成方向については後に詳述する。
図11には、図8に示した補正対象選択工程(S14)の具体例が示されている。S30では、速度データセットの中から、調査対象となる速度データ列が取り出される。S32では、取り出された速度データ列が調査される。具体的には、正方向の高速データと負方向の高速データとが隣接している不自然な符号反転箇所が探索される。発見された符号反転箇所の個数がカウントされる。S34では、計数値が所定値k1以上であるか否かが判断され、その条件が満たされた場合にはS38が実行され、その条件が満たされない場合にはS36が実行される。S36では、次の速度データ列が存在しているか否かが判断され、それが存在していればS30以降の各工程が繰り返し実行される。S36において次の速度データ列が存在していないと判断された場合、S40が実行される。S38では、現在注目している速度データセットが補正対象であると判定される。S40では、現在注目している速度データセットが補正対象ではないと判定される。以上の処理が速度データセット単位で繰り返し実行される。ちなみに、上記k1は1であってもよい。すなわち、少なくとも1つの不自然な符号判定箇所が存在している場合、直ちにS38を実行するようにしてもよい。
図12には、図11に基づいて説明した内容が模式図として示されている。速度データセット140において、調査対象となった速度データ列には複数の符号反転箇所148が含まれる。ちなみに、白丸146は正の速度データを示し、黒丸は負の速度データを示している。符号反転箇所148の存在又は個数に基づいて、補正対象であるか否かが判定される。
図13には、図8に示した順方向判定工程(S16)の具体例が示されている。S50では、補正対象となった血流データセットから正の符号を有する速度データが抽出され、これにより正方向セットが生成される。同様に、S52では、補正対象となった速度データセットから負の符号を有する速度データが抽出され、これにより負方向セットが生成される。それらの工程S50,S52は並列的に又は順次実行される。
S54では、正方向セット及び負方向セットが個別的に前処理される。その前処理には、ノイズ除去処理、オープニング処理、ラベリング処理、除外処理等が含まれる。例えば、ノイズ除去処理では、各セットにおいて、閾値以下の速度を有するデータが削除される。オープニング処理では、各セットに対して、複数回の膨張処理及び複数回の収縮処理が施される。図14には、オープニング処理前の状態150及びオープニング処理後の状態152が模式的に示されている。ラベリング処理では、孤立して存在する個々の画素集団(以下「島」という。)が特定され、個々の島に対してラベルが付与される。除外処理では、複数の島の中で、深部や周辺に存在する特定の島が除外される。その条件は断面種別その他の状況に応じて適宜定めることができる。
図13において、上記のような前処理(S54)の実行後、S56では、正方向セットに含まれる複数の島の中で最大面積を有する正方向代表島が特定され、S58では、負方向セットに含まれる複数の島の中で最大面積を有する負方向代表島が特定される。面積はピクセル数(データ数)のカウントにより計算可能である。S60では、正方向代表島の面積と負方向代表島の面積とが比較され、大きい方が判定される。大きい代表島に対応する方向が順方向として判定される。順方向の判定は心拍時相の判定に相当する。
図15には上記S60の内容が模式的に示されている。正方向セット154には正方向代表島156が含まれ、負方向セット158には負方向代表島160が含まれる。それらが符号162で示されるよう比較される。このように本実施形態では、血流データセットに基づいて、順方向つまり心拍時相が自動的に適応的に判定される。判定条件については断面種別や血流の現れ方に応じて適宜定めればよい。次の補正範囲生成工程では、判定された心拍時相に適合する補正範囲生成アルゴリズムが選択され、それが実行される。
図16には、図8に示した収縮期用の補正範囲生成アルゴリズム(第1アルゴリズム)の具体例が示されている。S70では、上記の正方向セットが生成され、又は、既に生成されている正方向セットが取得される。正方向セットは、正の符号を有する速度データからなるものである。S72では、コア領域を抽出する処理が実行され、S74では、周辺領域を抽出する処理が実行される。S76では、抽出されたコア領域及び周辺領域を合体し又は重合させることにより、収縮期用の補正範囲が生成される。以下に、S72の具体的内容及びS74の具体的内容について説明する。
本実施形態において、S72では、例えば、高速データ抽出処理、ライン方向塗り潰し処理、膨張処理等が実施される。S74では、例えば、低速除外処理、オープニング処理、ラベリング処理、選別処理、等が実施される。それらの処理について図17に基づいて説明する。
コア領域の抽出に際しては、まず、正方向セットの中で、所定の第1閾値を超える高速データが抽出される。図17における符号164は閾値処理後の正方向セットを示している。それは複数の高速データ166を含むものである。次に、深さ方向に平行なライン168ごとに、塗り潰し処理が実行される。具体的には、ライン方向に離れている2つの高速データ170A,170Bが特定され、それらの間に対して塗り潰し処理が適用される。もっとも、それらの間隔が所定の長さ以下の場合に限って塗り潰し処理が実行される。この処理がラインごとに実行されると、塗り潰し領域172が得られる。その後、その塗り潰し領域172に対して所定回数の膨張処理等が適用され、その結果として、コア領域174が生成される。コア領域174は補正範囲における中核的又は主要な領域である。
一方、周辺領域の抽出に際しては、まず、閾値処理によって、所定の第2閾値未満の低速データが除外される。この場合において、左房内の正方向の流れが補正範囲に含まれてしまわないように、第2閾値が設定される。次に、低速データ除外後の正方向セットに対してオープニング処理が施された上で、ラベリング処理が実行される。これにより、通常、複数の島が生じる(符号176参照)。続いて、複数の島の中で、コア領域と所定の重合関係を有する島だけが残される。つまり、所定の重合関係を有しない島が除外される。ここで、所定の重合関係は、例えば、一定比率以上をもってコア領域に重合する関係である。この処理により、折返し現象とは無関係な島が除外され、残された複数の島の集合体として周辺領域178が画定される。コア領域174と周辺領域178とを合体することにより、収縮期用の補正領域180が生成される。補正領域180に対して後処理が適用されてもよい。
図18には、図8に示した拡張期用の補正範囲生成アルゴリズム(第2アルゴリズム)の具体例が示されている。S80では、上記の正方向セットが生成され又は既に生成されている正方向セットが取得される。収縮期では逆流に基づいて補正領域が生成されていたが、拡張期では順流に基づいて補正領域が生成される。
S82では補正範囲の基礎をなす基礎領域が生成される。S82では、例えば、正方向セットに対して最初に閾値処理が適用され、そこから低速データが除外される。次に閾値処理後の正方向セットに対してオープニング処理及びラベリング処理が適用される。その上で、折返し現象の発生部位に隣接している可能性がある速い流速が特定され、速い流速を有する島が選択される。その後、深さ方向のクロージング処理等が適用される。これにより基礎領域が生成される。
S84では基礎領域に対して穴埋め処理が実行される。その場合、例えば、反転処理、ラベリング処理、除去処理、OR処理等が実行される。S86では基礎領域に対して連結処理が実行される。その場合、ライン方向塗り潰し処理、ライン方向ノイズ除去処理等が実行される。S88では、穴埋め処理後の領域と連結処理後の領域とを合体させ又は重合させることにより拡張期用の補正領域が生成される。
以下に図19〜図22を用いて拡張期用補正領域の生成方法について更に具体的に説明する。
図19には拡張期用補正領域の生成方法が模式図として示されている。血流画像196は速度データセットと同視できるものであるので、説明の都合上、速度データセットの処理を血流画像196の処理として説明することにする。血流画像196には、正方向(順方向)の流れ領域198が含まれる。図示の例では、正方向の流れ領域198が、上側部分及び下側部分に分断されている。かなり速い流れによる折返し現象の場合、このような分断が生じ易い。血流画像196には、見かけ上負方向の流れとして表示された折返し部分200,202と、折返し部分202の両側に生じた2つの渦における負方向の流れ部分204R,204Lと、が含まれる。負方向の流れとして、折返し部分の他に、補正すべきでない部分が生じているので、負方向の流れを基礎として補正範囲を画定することは困難である。そこで、本実施形態では、正方向の流れ領域198が利用されている。
まず、血流画像における正方向の流れ(正方向セット)206が抽出されている。それは、上側領域210と下側領域208とからなる。上側領域210内には、補正対象とすべき穴(折返し部分)212が含まれている。上側領域210と下側領域208との間には、補正対象とすべき隙間が生じている。
図20には、穴埋め処理が模式的に例示されている。二値化された対象画像182において、順流領域184中には、見かけ上の逆流としての穴186が存在している。対象画像182を反転処理することにより、反転画像190が生成される。これにより順流に相当していた領域184Aが削除され、穴に相当する領域186Aと、周囲に相当する領域188Aと、が生成される。その内で、周囲に相当する領域188Aが削除される。その上で、対象画像182と、残された領域186Aと、が合体され(OR処理され)、これにより、合体画像192として、穴埋め処理後の領域194が生成される。この穴埋め処理後の領域が図19において上側領域210で示されている。続いて、上側領域210と下側領域208との間の隙間を埋めるために、図21に示される連結処理が実行される。
図21において、上側領域210と下側領域208との間に跨がって、ライン単位で、ライン上に存在する閾値以上の高速データ間が連結される。つまり、ラインン方向に塗り潰される。例えば、ライン218上の高速データ214,216の間が塗り潰される。この処理がラインごとに実行される。但し、図22に示されるように、同じ領域内に属する2つの高速データ222、224間は塗り潰し対象から外される(符号226参照)。これにより、補正範囲が必要以上に拡大することを防止して、適度な連結を実現することが可能となる。
図19には、穴埋め処理後の領域と連結処理後の領域とを重合し又は合体して構成される拡張期用補正領域217が示されている。連結処理により上側部分210と下側部分208との間が塗り潰されており、つまり連結領域212が生成されている。図示された処理は一例であり、結果として、折返し部分をできるだけ取り込むことができ、且つ、保存すべき部分をできるだけ補正対象から除外できる処理を適用するのが望ましい。生成された補正領域に対してクロージング処理等を適用してもよい。
図23には、図8に示した折返し補正処理の具体例が示されている。S90では、実際に補正を行ってもよいか否かが確認される。例えば、補正領域の外縁に隣接しているデータ列が参照される。そして、そのデータ列において、補正領域内の符号と同じ符号を有するデータの個数と、補正領域内の符号と異なる符号を有するデータの個数と、の比率が計算され、その比率が一定値以上の場合に、折返し補正が見送られる。このような処理により、生成された補正領域の適否を事後的に評価できる。もっとも、そのような処理は必要に応じて設ければよく、上記以外の処理を実行するようにしてもよい。
S92では、補正範囲内の逆流部分に対して折返し補正が適用される。収縮期の場合には、S94Aで示すように、補正領域内の各正データからオフセット値を減算する処理が実行される。オフセット値は、速度レンジに相当するものであり、例えば、速度レンジが+50cm/sから−50cm/sまでの範囲である場合、オフセット値は100cm/sとなる。拡張期の場合には、S94Bで示すように、補正範囲内の各負データにオフセット値を加算する処理が実行される。この折返し補正により、逆流領域に含まれる折返し部分が消失し、それが順流として表現される。流線に沿って速度を観察した場合、不自然な速度の変化が解消される。
図24には、収縮期における折返し補正前のベクトル画像230が示されている。本来であれば、左室から大動脈に流れている筈の血流が逆向きの矢印群によって表現されており、しかも大動脈弁の流入側においては不自然な横向きの流れが認められる。
図25には、収縮期における折返し補正後のベクトル画像234が示されている。左室から大動脈へ流れる血流が矢印群として自然に表現されている。このように、特に、ベクトル画像を表示する場合においては、折返し補正を行うべき高いニーズがある。
図26には表示例が示されている。表示画面内にはCFM画像が表示されている。それにはカラー血流画像が含まれているが、折返し補正が適用済みであるために、カラー血流画像には折返し部分が含まれていない。マーカー240は折返し補正が施されたフレームであることを示している。CFM画像の下側には心電波形238が表示されている。その下側にはフレーム列を示す目盛248が表示されている。ライン246は、表示されているCFM画像に対応する時相を示しており、ライン242及びライン244によって時間軸上における補正対象範囲の両端が示されている。目盛248には複数のラインが含まれ、個々のラインはフレームが形成された時相を表している。マーカー250は、折返し補正が適用されたフレームを表している。
図27に示すように、上記で説明した画像処理を情報処理装置(パーソナルコンピュータ等)252において実行するようにしてもよい。その場合、超音波診断装置251から、ドプラ情報又は速度情報を情報処理装置252へ伝送すればよい。この場合、情報処理装置252は超音波画像処理装置として観念される。
図28には、補正範囲生成アルゴリズム群の第2例が示されている。図示されるように、断面種類に応じて、収縮期用のアルゴリズム及び拡張期用のアルゴリズムを用意するようにしてもよい。
図29には、補正範囲生成アルゴリズム群の第3例が示されている。図示されるように、断面種類、病態、及び、心拍時相の組み合わせに応じて、アルゴリズムを用意してもよい。また、その組み合わせごとに、折返し有無の判定方法や折返し補正方法を切り換えるようにしてもよい。
上記実施形態においては、収縮期においては逆方向の流れに基づいて補正範囲が生成されており、拡張期においては順方向の流れに基づいて補正範囲が生成されている。このように心拍時相に応じて補正範囲の生成方法を変えることにより、動的に変化する血流に適合した補正範囲を生成することが可能である。上記実施形態では、心尖部アプローチが前提とされていたが、他の方向から観察が行われる場合においても、上記考え方に基づいて個々の心拍時相に相応しい補正範囲生成アルゴリズムを用意しておけばよい。