JP6727519B2 - 電気刺激装置 - Google Patents

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本発明は、生体に電気刺激を付与する電気刺激装置に関する。
心臓外科術後の患者においては、病態管理に伴う術前・術後の身体活動量の低下に加え、手術侵襲に伴う筋蛋白の異化亢進により、全身の筋力低下が避けられない。特に高齢者は、加齢に伴う骨格筋の萎縮と減弱化とにより筋力が著しく低下し得るため、術後機能の回復が遅延して退院阻害要因となり得る。また、心大血管外科手術後の患者については、循環管理や呼吸管理の必要性から安静を余儀なくされるため、術後のリハビリテーションプログラムに遅れが生じやすい。
そのため、術後早期から適用できる離床促進の介入方法として、電気的刺激療法が検討されている。電気刺激療法とは、生体(典型的には患者)内の筋肉あるいは筋肉に指令を発する神経に対して電気刺激を付与することで、当該筋肉の収縮と弛緩とによる筋運動を不随意的に発現させるものである。この不随意の筋運動により、術後の筋力の低下を抑制することが期待されている。かかる電気刺激に関しては、刺激付与のための電気刺激信号の強度(出力)や、パルス幅、周波数等の条件により、筋肉に引き起こされる収縮の態様や効果が異なってくる。そのため、患者の治療や機能改善等といった所望の効果を得る目的で、様々な条件の電気刺激を付与する電気刺激装置が提案されている。
日本国特許出願公開2005−185660号公報 日本国特許出願公開2011−143061号公報
例えば、特許文献1には、プラス側とマイナス側とで交互に設定された所定波形の電圧信号を、複数の分割波形に分割して患者に付与するようにした電気刺激装置が開示されている。この電気刺激装置では、一つの電圧信号を複数に分割することで、電流値の大きな初期ピーク電流を分割数に応じて患者の体内に複数発生させ、電気刺激量を増大させるようにしている。これにより、患者に痛みを与えることなく、より大きな刺激量が得られることが開示されている。
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、患者に対し、痛みを感じさせることなく、マッサージ効果が得られる程度の電気刺激を付与するものであった。すなわち、患者の筋力に影響を及ぼすような電気刺激を付与するものではなかった。
本発明は上記の事情に鑑みて創出されたものであり、その目的とするところは、従来よりも、少ない電流でより効果的に所定の筋出力を得ることのできる電気刺激装置を提供することである。
本発明者らは、電気刺激信号の形態と、かかる信号により生体に誘発される筋出力(他動的筋収縮)との関係について鋭意研究を重ねている。かかる研究の一つの成果として、筋力低下を防止し得る程度の電気刺激を、筋疲労を抑制して生体に付与することができる電気刺激装置を既に提案している(例えば、特許文献2参照)。そして更なる研究の結果、より少ない電流で、効率よく筋収縮を促すことのできる電気刺激信号の形態を見出すに至った。ここに開示される技術は、かかる知見に基づき完成されたものである。
すなわち、ここに開示される発明は、電気刺激信号を生体に付与する電極部を備え、前記電気刺激信号は、複数のパルス状信号を有し、前記複数のパルス状信号は、プラスまたはマイナスのいずれか一方の極に立ち上がる第1パルス部と、前記第1パルス部の反対の極に立ち下がる第2パルス部を具備するとともに、前記第1パルス部の最大波高値(100%V)に対する立上がり時の10〜90%における平均変化率の絶対値を2.0%V/μS以上(50μSで100%Vに至るものに相当する変化率)とし、且つ、前記第2パルス部の最大波高値(100%V)に対する第2パルス部の立下り時の10〜90%、及び同立上がり時の90〜10%における平均変化率の絶対値を0.5%V/μS以下としてなるものである。
かかる構成によると、同形状の双極性のパルス状信号(双極性パルス波)による電気刺激信号に比べて、例えば同一電圧および/または同一電流において有意に高い筋収縮を誘発することができ、高い筋出力(筋力)ならびに筋運動を得ることができる。また、電気刺激に伴う痛みも緩和することができる。したがって、この電気刺激装置によると、生体機能により効果的に作用する電気刺激を付与することができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様において、前記第1パルス部の最大波高値の1/2における時間幅を第1パルス部全体の時間幅の80%以上とし、あるいは、前記第2パルス部の最高波高値に対する第2パルス部の立下がり時の10〜90%の平均変化率の絶対値よりも、同立上がり時の90〜10%における平均変化率の絶対値を小さくし、あるいは、前記第1パルス部の立上がり時の最大波高値の95%以上における平均変化率の絶対値を0.5%V/μS以下としてなることを特徴としている。また、必要に応じて、前記第2パルス部の最大波高値(100%V2)を、前記第1パルス部の最大波高値(100%V)の20〜70%としてなるものである。当該構成によると、更に、電気刺激に伴う痛みをより緩和しつつ、有意に高い筋収縮を誘発することができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様においては、上記電気刺激信号が上記生体の中枢側から末梢側に向かってプラスの電流が流れるように信号を付与することを特徴としている。かかる構成によると、電気刺激信号を生体機能に、より一層効果的に作用させることができ、高い筋出力および筋運動を誘発することができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様において、上記パルス群信号は、高周波パルス成分と、上記高周波パルス成分の後に発振される低周波パルス成分と、を含むことを特徴としている。電気刺激による筋収縮においては、低周波疲労(Low Frequency Fatigue:LFF)と呼ばれる筋疲労が生じやすい。しかしながら、かかる構成によると、高周波パルス成分によって素早く筋収縮を促し、低周波パルス成分によって筋収縮を持続させるようにしている。したがって、電気刺激信号を生体に効率的に作用させることができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様において、上記高周波パルス成分は、1周期以上4周期以下の高周波パルス信号を含むことを特徴としている。また、上記低周波パルス成分は、2周期以上20周期以下の低周波パルス信号を含むことを特徴としている。パルス群信号をかかる波形で構成することで、疲労を抑制しつつ、より高い筋収縮力を得ることができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様において、上記電気刺激信号は、第1休止期間を挟んで複数の上記パルス群信号を有する第1刺激信号を含むことを特徴としている。かかる構成とすることで、効果的に筋肉に作用する第1刺激信号を、適度な頻度で生体へ付与し、刺激量を平均的に低減させることができる。これにより、疲労の発生を確実に抑制して、筋収縮を誘発することができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様において、上記電気刺激信号は、第2休止期間を挟んで複数の上記第1刺激信号を有する第2刺激信号を含むことを特徴としている。かかる構成とすることで、第1刺激信号により疲労が生じた場合にも、第2休止期間においてかかる疲労を回復することができる。これにより、疲労の発生をより一層確実に抑制しながら、筋収縮を誘発することができる。また、例えば、全体として長時間および長期に亘って生体に電気刺激を付与することができる。あるいは、疲労をきたすことなく、より短い時間でより多くの量の筋運動を誘発することができる。
ここに開示される電気刺激装置の好ましい一態様では、本発明に係る電気刺激信号をNとし、周波数20Hzの双極同形波の双極性パルス波からなるパルス群信号を含む電気刺激信号をMとしたとき、これらの電気刺激信号Nおよび電気刺激信号Mに基づき生体に付与された単位ピーク電流当たりの筋出力を示すパラメータXおよびXが、次式:X≧1.3×X;を満たすことを特徴としている。ここで、上記パラメータXおよびXは、それぞれ、上記生体の大腿部に、上記電気刺激信号Nおよび上記電気刺激信号Mを等尺性最大筋力(MVC)の30%の他動的筋出力が得られる電圧にて付与して測定される膝関節伸展時の筋出力について、(1)上記筋出力を一の上記パルス群信号あたりで積分した積分値を総筋出力値とし、(2)一の上記パルス群信号より生体に流れる最大の電流値を平均した平均ピーク電流値としたとき、(3)次式:X=(総筋出力値)÷(平均ピーク電流値);で算出される。
上記のパラメータX(XおよびX)は、単位ピーク電流あたりの総筋出力値として定義される。ここに開示される電気刺激装置によると、従来の一般的な電気刺激信号Mについて求められるパラメータXよりも、30%以上高いパラメータXを実現する電気刺激信号Nを発生することができる。かかる構成によると、単位ピーク電流あたり、より多くの筋出力を誘発することができる。換言すると、例えば、所定の筋出力を得るために要する電流量を少量に抑えることができる。これにより、例えば、生体にもたらされる痛み等の負担を軽減して、筋力の低下を抑制できる、電気刺激装置が提供される。あるいは、筋力を増強できる電気刺激装置が提供される。
なお、等尺性最大筋力(最大随意的筋張力ともいう。Maximal Voluntary Contraction force:MVC)とは関節角度あるいは筋の長さを一定に保った状態で筋肉が収縮することにより発揮される力の最大値であって、例えば、一般的に行われる握力測定や背筋力測定等で測定される筋力がこれに相当する。かかるMVCは、例えば、後述のMVC測定方法等により測定することができる。
本発明の電気刺激装置によると、電気刺激による生体の痛みを効果的に緩和しつつ、より少ない電流量で、筋収縮を誘発することができる。したがって、これにより、例えば、一定の効果を得るための電気刺激付与時間を低減することも可能となる。かかる電気刺激装置は、病気や怪我で積極的な運動が困難な患者、更には、心臓外科術後や心不全の急性増悪期のように運動自体が困難な生体の筋力低下を抑制するのに効果的に使用することができる。また、かかる電気刺激装置は、健康な生体に対しても筋出力および筋運動を促すことができるため、生体の筋力の維持、延いては筋力の増強を図る目的でも、快適に使用することができる。
図1は、一実施形態である電気刺激装置の構成を例示した模式図である。 図2は、一実施形態における第1、第2パルス部の波形を示した図である。 図3は、一実施形態における第1、第2パルス部の異なる波形を示した図である。 (A)、ここに開示される技術の電気刺激信号におけるパルス群信号の波形の一形態を模式的に示す図である。また、(B)は、ここに開示される技術の電気刺激信号の波形の一形態を模式的に示す図である。 図5は、従来の電気刺激信号におけるパルス群信号の波形の一形態を示す図である。 図6は、各例の電気刺激装置から付与される電気刺激AおよびBについてのパラメータXを示すグラフである。 図7は、試験1において、電気刺激装置により生体にもたらされた[1]最大収縮力、[2]運動量および[3]痛み、を示すグラフである。 図8は、試験2において、電気刺激装置により生体にもたらされた[1]最大収縮力、[2]運動量および[3]痛み、を示すグラフである。 図9は、試験5において、電気刺激装置により生体にもたらされた[1]最大収縮力、[2]運動量および[3]痛み、を示すグラフである。
以下、図面を適宜参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同様の作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために必要に応じて模式化されており、実際の寸法関係(長さ、幅、厚さ等)を必ずしも正確に反映したものではない。
図1は、ここに開示される電気刺激装置1の構成を説明する模式図である。かかる電気刺激装置1は、電気刺激信号を発生する信号発生部10と、この信号発生部10から発生された電気刺激信号を生体に付与する電極部20とを備えている。なお、この電気刺激装置1は、信号発生部10で発生させる電気刺激信号の形態等を制御する制御部(図示せず)を備え得る。また、外部装置としての制御部と、電気刺激信号の形態等の各種の情報の送受信が行えるように有線または無線で接続可能に構成されていても良い。
信号発生部10は、典型的には、所定の電気刺激信号を発生することのできる発振部を主体として構成することができる。そしてかかる信号発生部10は、典型的には、電極部20に電気的に接続可能に構成されている。
発振部の構成については特に制限されず、例えば、従来のこの種の電気刺激装置に使用されている発振部を用いることができる。具体的には、生体の一部に電気刺激信号を付与することで当該刺激付与領域に含まれる筋肉の収縮を誘発し得るものであれば、特に制限されることなく用いることができる。信号発生部10において形成される電気刺激信号の形態については後述するが、かかる発振部により発振可能な信号の周波数については特に制限されず、おおよその目安として、例えば、周波数が1Hz以上4000Hz以下程度の発振が可能な発振部を使用することができる。より好適には、周波数が1Hz以上1000Hz以下(1Hz以上1000Hz未満)の周波数領域を発生し得るものであってよい。特に好ましくは、周波数が1〜500Hz程度の低周波を任意のパルス波形で発振し得る低周波発振器等がより好適であり得る。かかる発振部により、所定の形態の電気刺激信号を形成し、出力することができる。この信号発生部10は、所定の形態の電気刺激信号を所定の出力値で発振可能なように、例えば演算機能を備える等して構成されていても良い。
電極部20は、信号発生部10に電気的に接続可能に構成されており、典型的には、少なくとも一組の電極パッド(例えば、正極(+)と負極(−)との組からなる電極パッド)を備えている。この電極パッドは、信号発生部10に対して着脱自在に備えていても良いし、常時固定して接続されていても良い。また、信号発生部10自体が電極部20と一体化されていても良い。電極パッドは、一組が備えられていても良いし、2組以上が備えられていても良い。また、電極パッドの形状も特に制限されない。そして、信号発生部10で発生された電気刺激信号を、この電極パッドを介して、生体の一部に付与することができる。電気刺激信号を付与する生体の部位に特に制限はないが、典型的には、筋肉または当該筋肉に指令を発する神経を対象とすることができる。この電極パッドを生体に装着する形態は特に制限されない。例えば、電極パッドが、粘着性を有する粘着パッドとして形成されており、生体の皮膚に粘着力により貼り付け可能とされていてもよい。あるいは、吸着性を有する吸盤状に形成されており、生体の皮膚に吸着力により付着可能とされていてもよい。かかる一組の電極パッドを生体の皮膚に当接させ、電極パッド間に電流を供給することで、当該電流が流れる領域に含まれる生体の筋肉および神経に電気刺激を付与し、当該筋肉の収縮を誘発することができる。
電極部20は、所定の形態の電気刺激信号を出力するに際し、プラスの出力信号は、典型的には、一組の電極パッドのうち、正極側の電極パッドから、負極側の電極パッドに向けて流される。そして、マイナスの出力信号は、典型的には、一組の電極パッドのうち、負極側の電極パッドから、正極側の電極パッドに向けて流される。したがって、典型的には、正極側の電極パッドを生体のより中枢側に、負極側の電極パッドを生体のより末梢側に貼り付けするのが好ましい。あるいは、電気刺激信号におけるプラスの出力が、生体のより中枢側から末梢側に向けて出力されるように、マイナスの出力が生体のより末梢側から中枢側に向けて出力されるように、信号発生部10において自動的に信号の出力の向きを調整するよう構成されていても良い。なお、ここでいう中枢側とは、生体において、動脈血流のより上流側を意味し、末梢側とは、動脈血流のより下流側を意味する。例えば、四肢について、中枢側とは体幹により近い近位であり、末梢側とは体幹からより遠い遠位であり得る。
制御部は、必須の構成ではないが、信号発生部10において出力する電気刺激信号の形態を好適に制御する手段として備えることができる。この制御部は、例えば、外部から入力したデータ等の各種データを格納したり、システムプログラム等の各種プログラムに基づいてかかるデータに対して所定の演算および処理をしたりすることができる。具体的には、例えば、信号発生部10から出力する電気刺激信号の波形を外部から入力したときに、かかる波形データを格納したり、その波形を信号発生部10に送ったりすることができる。あるいは、例えば、外部から入力した各種のデータを演算および処理をし、演算および処理後のデータに基づき信号発生部10に対して指示を出したりすることができる。かかる制御部は、特に制限されるものではないが、例えば、中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)、デジタル信号処理装置(Digital Signal Processor:DSP)等の各種マイクロプロセッサーや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、ICメモリーなどの電気電子素子等を主体として構成することができる。かかる制御部が電気刺激装置1の外部装置である場合、当該制御部は、例えば、パーソナルコンピュータ等のコンピュータにより構成することができる。
以下に、ここに開示される電気刺激装置1において信号発生部10により発生される特徴的な電気刺激信号とその形態等について、図2、図3等を用いて説明する。図2は、本発明の複数のパルス状信号を構成する第1パルス部と第2パルス部の波形等を示したものである。第1パルス部は、主に矩形波をベースとしたものであり、立ち上り時の最高波高値(100%V)に対する10%〜90%における平均変化率の絶対値を所定値(2%V/μS)以上とすることにより、筋肉をより効果的に収縮させることを意図したものである。一方、第2パルス部は、前記第1パルス部とは逆の極性に立ち下がるものであり、その第2パルス部の最大波高値(100%V)に対する立下り時の10〜90%の区間の平均変化率の絶対値、及び同立上がり時の90〜10%の区間の平均変化率の絶対値を所定値(0.5%V2/μS)以下とすることで、より痛みの少ない電気刺激とすることを意図したものである。
なお、更に高い筋出力を得るには、第1パルス部の最大波高値の1/2に相当する値における第1パルス部の出力時間幅を、第1パルス部の全体時間の80%以上とすることが望ましい。
また、電気刺激による痛みの発生を更に抑制するために、前記第2パルス部の最高波高値に対する第2パルス部の立下がり時の10〜90%の平均変化率の絶対値よりも、同立上がり時の90〜10%における平均変化率の絶対値をより小さくし、あるいは、前記第1パルス部の立上がり時の最大波高値の95%以上における平均変化率の絶対値を0.5%V1/μS以下とすることが望ましい。
なお、前記第1パルス部の立上がり時の最大波高値の95%以上における平均変化率の絶対値を0.3%V1/μS以下し、2パルス部の最大波高値(100%V)に対する立下り時の10〜90%の区間の平均変化率の絶対値、及び同立上がり時の90〜10%の区間の平均変化率の絶対値は、0.3%V2/μS以下とすることで、更に痛みの少ない電気刺激とすることが可能である。
また、第2パルス部の波形は、図2、図3に示すように、略U字または略レ字の波形となるように制御するものとする。
かかる構成により、生体に対して、電気刺激信号がより効果的に作用し、一定の実効電流で筋肉をより大きく収縮させることができる。換言すると、少ない電流で、所定の筋出力を得ることが可能とされる。また、電気刺激信号による痛みの発生を抑制しつつ、高い筋出力を得ることができる。
なお、図5は、一般的に使用されている従来型の双極性パルス波の波形を示した図である。この双極性パルス波においては、プラス側とマイナス側とに発振されるパルス波形は、発振方向が逆向きで、且つ、略同一形状となっている(例えば、特許文献1の0005段落等参照)。ここに開示される発明は、プラス側とマイナス側において、大きく異なる波形としている点で、従来技術と明瞭に区別することができる。
なお、電気刺激信号により生体にもたらされ得る痛みと筋出力との作用効果の関係に着目すると、ここに開示される電気刺激装置は、例えば、従来の電気刺激信号に比べて、少ない痛みでより高い筋出力を誘発し得るものとして把握することができる。例えば、ここに開示される電気刺激装置1の信号発生部10から発生される電気刺激信号をNとしたとき、この電気刺激信号Nに基づき生体に付与される、単位ピーク電流あたりの総筋出力値として定義されるパラメータXは、従来の電気刺激装置(プラス側とマイナス側とに発振されるものが、略同一形状)による電気刺激信号Mに基づくパラメータXよりも、十分高い値が得られる装置として認識することができる。
なお、上記のパラメータXは、具体的には、以下のようにして算出される値である。すなわち、これらの電気刺激信号NおよびMを、等尺性最大筋力(MVC)の30%の他動的筋出力が得られる電圧にて生体に付与する。すると、かかる電気刺激信号に基づき、生体の筋肉あるいは筋肉に指令を発する神経が刺激されて、筋収縮が誘発される。例えば、生体の大腿部に電気刺激信号を付与すると、膝関節の伸展運動が不随意に誘発される。このときの筋収縮力の程度を筋出力として計測したときに、その筋出力を一のパルス群信号あたりで積分した積分値を総筋出力値とすることができる。また、一のパルス群信号より生体に流れる最大の電流値を平均した値を、平均ピーク電流値とすることができる。そして、パラメータXは、次式:X=(総筋出力値)÷(平均ピーク電流値);として定義される。
このとき、例えば、従来の電気刺激装置により発生される典型的な電気信号として、周波数20Hzの双極同波形の双極性パルス波からなるパルス群信号を含む電気刺激信号Mを想定することができる。すると、ここに開示される電気刺激装置1から発生する上記電気刺激信号Nについて算出される上記パラメータXは、従来の電気刺激信号Mに基づくパラメータXとの関係において、次式:X≧1.3×X;を満たすものとして特徴づけることができる。すなわち、パラメータXは、パラメータXに対して、130%以上増大される。Xは、好ましくはX≧1.35×Xを満たし、より好ましくはX≧1.50×Xを満たす。
等尺性最大筋力(MVC)は、例えば、等尺性筋力測定装置等を用いて測定することができる。例えば、下肢筋力の代表値として認識され得る膝関節伸展筋力を例にすると、典型的には、以下のようにして測定することができる。すなわち、具体的には、まず、被験者を測定装置に座らせ(半座位姿勢)、シートベルトにより胸部および腹部を椅子に固定する。そして測定対象である筋肉を有する生体部位を、等尺性筋力測定装置の測定レバーに固定する。例えば、生体としての被験者の下肢伸展筋の等尺性最大筋力を測定する場合には、被験者の右脚の足頸部を、等尺性筋力測定装置のアームレバーに右膝関節を90度に保持した状態で固定する。次いで、かかる状態で、被験者に対して、0度/秒の膝関節屈曲伸展運動を、最大努力で試行回数を数回(例えば、2回から5回程度)実施させたときの、膝を伸展する際の筋出力を測定する。このとき、各屈曲伸展運動は十分な時間間隔を確保しながらも連続して行うようにする。このようにして得られたピークトルクの最大値を、等尺性最大筋力とすることができる。かかる等尺性最大筋力は、ここに開示される電気刺激装置の使用により増大されることが予想され得るため、長期(例えば、1か月以上)に亘って本装置を使用する場合には、一定期間(例えば、1週間から1か月程度)の経過ごとに等尺性最大筋力を測定しなおすのが好ましい。
また、等尺性最大筋力は、臨床的な簡便法を利用して大まかに把握することもできる。かかる手法では、例えば、下肢伸展筋の等尺性最大筋力に対する刺激強度として、下記の指標を採用している。すなわち、10%MVCは「踵がベッドから持ち上がる筋力」、20%MVCは「脹脛がベッドから持ち上がる筋力」、30%MVCは「膝関節がほぼ完全伸展する筋力」として把握するようにしている。その他の筋肉のMVCについても、常法に従って、適宜臨床的な簡便法を利用しても良い。
また、他動的筋出力とは、電気刺激信号による筋収縮で得られる筋出力であって、生体が自身の意思で筋収縮(随意筋収縮)を行った際の筋出力とは明瞭に区別され得る。本明細書では、この他動的筋出力を単に「筋出力」と表現する場合がある。この他動的筋出力は、例えば、30%MVC電気刺激信号を生体の筋肉(例えば大腿四頭筋)に付与したときの当該筋肉により誘発される関節運動を、等尺性筋力測定装置等を用いて測定することで、筋出力値を把握することができる。
そして、総筋出力値とは、測定された筋出力を電気刺激信号に含まれるパルス状信号を所定期間で積分した積分値である。この総筋出力値は、30%MVC電気刺激信号を生体に付与したときに実際に生体に誘発される筋出力波形(すなわち筋出力の時間推移データ)から算出することができる。パルス群信号は、生体に繰り返し付与されることから、かかる総筋出力値は各パルス群信号について算出された総筋出力値の平均値を採用してもよい。
ピーク電流は、電気刺激信号に含まれる一のパルス群信号により実際に生体に流れる電流(実効電流)の最大値を測定することで把握することができる。平均ピーク電流は、各パルス群信号について算出されたピーク電流の平均値とすることができる。かかる実効電流は、例えば、個々の生体の本質的な抵抗の違い、皮膚状態、筋力(身体能力)や筋肉量の違い等の個体差により異なり得る。
そして単位ピーク電流あたりの総筋出力値(すなわちパラメータX)とは、ピーク電流1mApあたりに得られる総筋出力値(例えば、単位はkgf)であって、上記の総筋出力値を平均ピーク電流で除することで算出することができる。
このパラメータXは、同じ電気刺激を付与した場合であっても個体により変動し得る。例えば、従来の筋力の増強等を目的とする一般的な電気刺激装置において、電気刺激信号等における波形は双極性パルス波であることが当業者の常識であった。そしてこのパラメータXは、健康な成人男性について、100〜300kgf/mAp程度(典型的には150〜250kgf/mAp程度)であった。例えば、従来より、筋力トレーニング等の筋力の維持または増強等を目的として生体に電気刺激信号を付与する場合、筋肉への電気刺激量を増大させるために実際に生体に流れる実効電流量を多くすることが望まれていた。しかしながら、単に実効電流の出力を大きくすることは、ピーク電流の増大をもたらし得る。延いては、患者の感じる電気信号による痛みを増大することに繋がり得る。
これに対し、ここに開示される技術では、上記のとおり、個体差はあるものの、このパラメータXを30%程度以上向上した値(例えば、1.3倍以上)とすることができる。例えば、成人男性について、このパラメータXを、典型的には、概ね200〜400kgf/mAp程度へと改善することができる。すなわち、単位ピーク電流あたりに高い他動的筋出力を得ることが可能とされる。延いては、ピーク電流が小さく痛みをきたさない電気刺激信号により、高い他動的筋出力を得ることが可能となる。
また、かかる第1パルス部の信号は、典型的には、パルス幅が1000μS以下の電気信号として把握することができる。このパルス幅については厳密な制限はないものの、かかる電気刺激信号により筋肉に対して好適な刺激を与えるには、パルス幅は100μS以上であるのが好ましく、200μS以上であるのがより好ましく、例えば500μS以上とするのがより好ましい。しかしながら、強すぎる電気刺激は生体に筋疲労をもたらしたり、場合によっては火傷を生じさせたりするために好ましくない。かかる観点から、パルス幅は900μS以下であるのが好ましく、800μS以下であるのがより好ましく、例えば700μS以下とするのがより好ましい。
また、第1パルス部の信号の強度は厳密には制限されず、例えば、所望の筋収縮効果が得られる範囲で適宜設定することができる。ここで、健康な生体はもちろんのこと、病気や怪我等で積極的な運動が困難な生体患者等に過度な痛みを伴う刺激は好ましくない。かかる観点から、第1パルス部の信号の強度は、例えば、電気刺激信号を付与する対象(生体)の等尺性最大筋力(MVC)を基準として、1〜30%MVC(より好ましくは10〜20%MVC)程度に相当する運動を誘発する刺激強度に設定するのが好適である。なお、20%MVCは疲労や痛みをきたし難い刺激強度として一つの目安とすることができる。しかしながら、多少の痛みを伴っても筋収縮を誘発したい場合(例えば、筋力トレーニング時)などには、第1パルス部の信号の強度を、20%MVCを超えて、30%MVC以上、例えば、40〜60%MVC程度の範囲で設定することも可能である。例えば、具体的には、20%MVCを超える(例えば30%MVCの)パルス群信号と、20%MVC以下(例えば10%MVC)のパルス群信号とを適切に組み合わせて電気刺激信号を構成することで、疲労や痛みを伴い難い状態で、より大きな筋収縮を誘発することができるために好ましい。なお、筋力維持に必要な最低限の強さ(例えば10〜20%MVC程度)の電気刺激信号は、生体にとってより負担なく(快適で)痛みや筋疲労も発生しにくいため、この電気刺激装置の一回の使用時間を長くしたり、長期間に亘って使用したりするのに好適であり得る。
なお、必要に応じて、複数のパルス信号を含んで構成されるパルス群信号とすることが望ましい。本発明の電気刺激装置は、痛みを伴い難い状態で、延いては刺激をより抑制した状態で、生体に付与するのが好ましい。かかる観点から、当該パルス群信号は、典型的には、低周波パルス成分を主体として構成することができる。なお、本明細書において、低周波パルス成分に関する「低周波」とは、周波数が80Hz未満であることを意味する。かかる低周波パルス成分は、周波数が50Hz以下であることが好ましく、40Hz以下であることがより好ましく、例えば30Hz以下とすることができる。低周波パルス成分の周波数の下限は特に制限されないものの、周波数が低すぎる場合は効果的な刺激を筋肉に付与できなくなり、好ましくない。また、筋収縮を持続させ難くなる点においても好ましくない。かかる観点から、低周波パルス成分の周波数は、5Hz以上であるのが好ましく、10Hz以上であると、より好ましい。所望の効果にもよるが、低周波成分としては、例えば、15Hz以上25Hz以下程度が好適である。
また、パルス群信号は、上記の一群の低周波パルス成分に先行して、高周波パルス成分を含むことが好ましい。低周波パルス成分よりも先に高周波パルス成分を筋肉に付与することで、当該筋肉を瞬間的に刺激して活性化する効果を高め、続く低周波パルス成分による筋収縮を効果的に促すことができる。ここで「高周波」とは、上記の低周波パルス成分における周波数との比較において相対的に周波数が高いことを意味し、周波数が80Hz以上であることを意味する。筋肉をより効果的に刺激(活性化)するためには、かかる高周波パルス成分は、周波数が90Hz以上であることが好ましく、95Hz以上であることが好ましく、例えば100Hz以上、より好ましくは200Hz以上とすることができる。なお、低周波パルス成分と高周波パルス成分との周波数が近い場合には、生体が両者の差異を識別し難いために好ましくない。
一のパルス群信号に含まれる低周波パルス成分と高周波パルス成分とは、例えば周波数に50Hz以上の差があることが好ましい。高周波パルス成分の周波数の上限は特に制限されないが、周波数が高すぎると筋肉を刺激する効果が低減し、筋収縮を誘発し難くなるために好ましくない。かかる観点から、高周波パルス成分の周波数は、500Hz以下(500Hz未満)であるのが好ましく、450Hz以下であるのがより好ましく、例えば400Hz以下とすることができる。所望の効果にもよるが、高周波成分としては、例えば、50Hz以上400Hz以下(150Hz以上250Hz以下)程度が好適である。なお、具体的なデータは示していないが、本発明者は、高周波パルス成分の周波数が、例えば50Hz以上400Hz以下(150Hz以上250Hz以下)の場合に、痛みを十分に低減しつつ効果的に筋収縮を誘発し得ることを確認している。
高周波パルス成分は、低周波パルス成分に先行して一つ(すなわち、1周期の高周波パルス信号)でも含まれていることで筋肉を刺激する効果を高めることができ、その数は特に制限されない。例えば、図4(A)に示されるパルス群信号は、9つ(9周期の高周波パルス信号である。以下、「9パルス」のように言う場合もある。また、本実施例の以下の説明では、第1パルス部と第2パルス部の1セットを1パルスと数える)の低周波パルス成分に先行して、1つ(1周期)の高周波パルス成分を含む例を示している。しかしながら、高周波パルス成分の数が多くなると刺激量も多くなり、筋疲労を生じる可能性があるために好ましくない。また、高周波パルス成分による刺激が痛みとして知覚され、かかる痛みが増大される虞がある。そして高周波パルス成分は、低周波パルス成分による刺激前の筋活性化の目的から付されるものであり、その数と筋収縮を促す効果とは比例しないことが確認できた。かかる観点から、高周波パルス成分の数は、5つ(5周期)以下とするのが好ましく、典型的には4つ(4周期)以下、好ましくは3つ(3周期)以下、例えば1つ〜2つ(1〜2周期)とするのが好適である。
なお、このようなパルス群信号は、生体に対し途切れなく継続的に付与すると、生体に疲労をきたし得る。したがって、パルス群信号は断続的に付与するのが好ましい。換言すると、電気刺激信号は、電気信号が出力されない休止期間を挟んで複数の上記のパルス群信号を含むよう構成されるのが好ましい。
かかる休止期間については、特に制限はないが、多様な観点から設計することができる。例えば、(1)パルス群信号による刺激量を適切に調整し、電気刺激信号による筋疲労(LFF)が発生しにくい状態を維持するよう考慮することができる。また、(2)たとえ筋疲労が生じたとしても、筋収縮により体内に生成される代謝産物を血流で洗い流し、疲労が回復されるよう考慮することができる。
そこで、ここに開示される技術においては、上記(1)の観点から、例えば図4(B)に示すように、電気刺激信号に、第1休止期間Tを挟んで複数のパルス群信号Pを有する第1刺激信号Sを含むことを好ましい態様としている。すなわち、筋肉に対し筋収縮作用の高いパルス群信号Pを付与した後、この第1休止期間Tによって、パルス群信号Pによる筋刺激量を緩和させて、疲労の発生を確実に低減させるようにしている。換言すると、パルス群信号Pの長さを適切に制御するとともに、各パルス群信号Pの間に第1休止期間Tを挟んで第1刺激信号Sを構成することが好ましい。
一のパルス群信号Pを構成するパルス状信号の数は、特に制限されず、例えば、上記の高周波パルス成分や低周波パルス成分の形態(パルス幅、波数、強度等)を考慮して決定することができる。一例として、筋収縮を好適に持続し得ることを目安に高周波パルス成分と低周波パルス成分との組み合わせを決定しても良い。より疲労を抑制し得るとの観点から、パルス状信号の数で、は、具体的には、例えば、50パルス以下程度を目安に決定することができる。かかるパルス状信号の数は、40パルス以下であるのがより好ましく、30パルス以下とするのがさらに好ましく、例えば20パルス以下とすることができる。一方で、筋肉に対してかかる電気的刺激信号をより効果的に作用させるには、ある程度まとまった量の刺激を生体に対して付与するのが好ましい。かかる観点から、パルス群信号に含まれるパルス状信号の数は、4パルス以上であるのが好ましく、6パルス以上がより好ましく、8パルス以上であるのがさらに好ましい。好適な一例として、例えば、高周波パルス成分の数を1〜4パルス(例えば1〜2パルス)とし、これに続く低周波パルス成分の数を2〜20パルス(例えば5〜15パルス)程度とすることが例示される。なお、具体的なデータは示していないが、本出願人らは、高周波パルス成分の数が0パルスの場合よりも、例えば1〜3パルス(特に1〜2パルス)の場合に、誘発される運動量が大きくなることを確認している。
また、上記第1休止期間Tは、比較的短い時間に設定することができる。かかる第1休止期間Tは、厳密に制限されるものではないが、例えば、1000ms以下とすることができ、好ましくは800ms以下、例えば700ms以下である。また、疲労の発生を低減させるとの観点から、200ms以上とするのが好ましく、さらには300ms以上、たとえば400ms以上とすることができる。
また、ここに開示される技術においては、上記(2)の観点から、電気刺激信号に、第2休止期間Tを挟んで複数の上記第1刺激信号Sを有する第2刺激信号Sを含むことを好ましい態様としている。換言すると、第1刺激信号Sにより疲労が蓄積する可能性を考慮して、第1刺激信号Sの間に適切な頻度で疲労回復のための第2休止期間T2を設けることで、第2刺激信号Sを構成することが好ましい。
第2休止期間T2は、電気刺激信号の総付与時間によっても異なり得るため一概には言えないが、例えば、電気刺激信号の総付与時間を30〜60分間程度とする場合、電気刺激後の筋疲労の回復を図るには、第1刺激信号Sの2倍〜4倍程度を目安として第2休止期間Tを設けることができる。例えば、具体的には、第1刺激信号Sによる電気刺激期間を数秒〜十数秒に設定し、その後に20秒間〜60秒間程度の第2休止期間Tを設けることが例示される。
これにより、筋肉に対し効果的に作用するパルス群信号Pにより疲労が発生した場合であっても、生体内に発生した筋疲労物質を血流によって洗い流し、電気刺激を行いながら疲労回復を図ることができる。すなわち、他動的筋出力を十分に得ながら、筋萎縮を防止することができる。
なお、以上のような電気刺激信号において、第1パルス部の信号の出力波形は、必ずしも制限されず、立上がり時の変化率が所定値以上であれば、矩形波パルス形、正弦波パルス形、三角波パルス形、鋸歯パルス形等のいずれであっても良い。なかでも矩形波パルス形であるのが好ましい。なお、具体的なデータは示していないが、本発明者らは、パルス状信号の出力波形が矩形波である場合に、比較的少ない電流で効果的に筋収縮を誘発し得ることを確認している。このような矩形波としては、具体的には、例えば、デジタルスイッチング回路等で広く使用されている矩形パルス信号を基本とすることができる。この矩形パルス信号を使用することで、電気刺激量を多く確保することができ、かつ波形制御をより簡便に行うことができる点で好ましい。なお、言うまでもないが、この波形は電気刺激装置からの電気刺激信号の出力波の形状である。したがって、当該電気刺激信号を生体に付与した時の実際の電流波形には若干の違いが見られ得る。
ここで、矩形パルスとは、短時間に急峻な変化をする信号形態を意味し、基準電位(例えば下限値)から設定電位(上限値)まで立ち上がり、一定時間設定電位を維持した後、再び基準電位(例えば下限値,生体基準で0Vであり得る)まで立ち下がる形状を有するものをいう。概ね、正弦波パルス形の信号(すなわち正弦波パルス信号。以下同様。)、三角波パルス信号、鋸歯パルス信号を除く各種の信号を包含し得る概念である。かかる矩形パルスの形状(出力形状)は、必ずしも幾何学的矩形に制限されるものではなく、立ち上がりおよび立ち下りに若干の傾斜が設けられたり、立ち上がりおよび立ち下りと上限値および下限値との境界における角部を滑らかに曲線化されたりしても良い。
特に、第1パルス部の立上がり時において、最大波高値の95%以上では、その平均変化率の絶対値を0.5%V/μS以下とすることにより、更に、電気刺激時の生体に対する痛みを緩和することができる。
また、かかる矩形パルスにおいては、生体に対して電気刺激信号に基づく痛みを完全に禁じることは難しい。そこで、ここに開示される技術においては、パルス状信号(第1パルス部)の立ち下がりに引きつづき、基準電位(基線)よりも更に立ち下がる第2パルス部を備えたものである。ここに開示される第2パルス部は、生体の痛みを緩和するために、その平均変化率等を意図的に制御することを意図している。
具体的には、本実施例の第2パルス部の形状は、図3に示すように、第2パルス波の立下り時の変化率に加えて、その後の立上がり時の変化率を考慮するものである。そのため、図2、図3に示すように、第2パルス部は、概ねU字状またはレ字状(角無し)の波形等であり、第1パルス部のような急峻な電位変動を含むことなく、連続的に電位変動幅を低減させながら立ち下がり、一定の深度まで達した後(電位変動幅ゼロ)、徐々に基準電位にまで収束する形状であり得る。
第2パルス部の強度(立下り方向への突出深さ)は、厳密には制限されない。例えば、電気刺激による筋肉への作用の他に求める副次的な効果に応じて決定することができる。 例えば、電気刺激による筋力低下の防止または筋力増強効果をより高めたい場合には、より高い筋出力が誘発されることが好ましい。かかる点において、第2パルス部の強度は第1パルス部の信号の強度を100%(基準)としたとき、−20%以下(すなわち、立下り方向へ20%以上の深さ。以下同様。)であるのが好ましく、−40%以下であるのがより好ましく、例えば−45%以下とすることができる。
なお、電気刺激による痛みの低減を図る観点からは、第2パルス部の強度は、−20%以下(すなわち、立下り方向へ20%以上の深さ。以下同様。)であるのが好ましく、−30%以下であることがより好ましく、例えば−40%以下とすることができる。しかしながら、立下り方向への深さが、あまり大きすぎると、は電気刺激信号による痛みを緩和する効果が却って低減する。したがって、第2パルス部の強度は−65%以上(すなわち、立下り方向へ65%以下の深さ。以下同様。)であるのが好ましく、−63%以上であるのがより好ましく、−60%以上であるのが特に好ましく、例えば−58%以上とすることが望ましい。
以上の電気刺激信号の付与時間は特に制限されず、個々の生体に応じて、所望の筋収縮を誘発し得る適切な時間を設定することができる。例えば、全体として1分間以上180分間以下、より好ましくは5分間以上120分間以下、例えば10分間以上90分間以下の時間に亘って生体に対して付与することができる。
すなわち、ここに開示される電気刺激装置によると、例えば、少ない電流で効率良く筋肉を収縮させることができる。その結果、例えば、生体に筋肉疲労をきたすことなく筋収縮を誘発することができる。また、所望の効果に応じて、より痛みを抑えた状態で、筋収縮を誘発することができる。したがって、例えば、全体として5分間以上(例えば30〜90分間)の電気刺激プログラムを長期に亘って安全に受けることができる。あるいは、同等の筋出力効果を得るための電気刺激装置の使用時間を短縮することができる。これらのことは、電気刺激装置により引き起こされる生体への負担を確実に軽減するものであって、延いては電気刺激装置の快適な使用を実現するものであり得る。
これらのことから、ここに開示される技術は、生体の筋肉の収縮をより効果的に誘発し得る電気刺激信号を付与する方法としても把握することができる。
以下、本発明に関する実施例を図面に基づいて説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
<実施形態1>
本実施形態では、図1に示される電気刺激装置1を用いて生体に電気刺激信号を導入し、かかる電気刺激信号の波形とこの電気刺激信号により誘発される筋運動効果との関係を評価した。
生体としては、規則的なトレーニング経験のない健康な男子大学生4名を対象(被験者)として選定した。
[MVC測定]
最初に、被験者の膝関節伸展の際の等尺性最大筋力の測定を行った。かかる測定には、測定機能付自力運動訓練装置(ミナト医科学(株)製,WT−C20)を用いた。測定に際しては、まず、被験者を測定装置に座らせた(半座位姿勢)後、シートベルトにより腹部を椅子に固定した。そして測定対象である右足の大腿部を、膝関節が90度となる状態でアームレバーに固定し、次いで、下腿遠位部に測定アタッチメントのパッドを装着した。その後、被験者に最大努力で、十分な時間間隔を確保しながら、膝関節伸展運動をさせた。そして、かかる右脚の伸展運動に伴う筋出力を測定し、その最大値を等尺性最大筋力(MVC)とした。
[電気刺激付与]
次いで、被験者の太腿部に電気刺激装置の電極パッドを装着し、下記の電気刺激信号A,Bをそれぞれ3分間付与した。電極パッドは、被験筋である右側大腿四頭筋を挟むように近位側(中枢側)と遠位側(末梢側)とに貼り付けた。なお、電極は、特筆しない限り、近位側にプラスの電極パッドを、遠位側にマイナスの電極パッドを貼り付けた。
電気刺激信号Aは、パルス群信号(a)を600msの休止期間を介して繰り返し3分間付与するものである。パルス群信号(a)は、下記のように、パルス波を所定の周波数で10パルス出力するものである。ここで、パルス波は、プラス側で600μSの第1パルス部である矩形波を出力した後、マイナス側に−75%の第2パルス部を備えて(本構成においては、第1パルス波を矩形波として、第2パルス部よりも主体的に生体に刺激を与えることから、本実施例では、以下、「片方向性パルス複合波」と称する)構成されている。
(a)片方向性パルス複合波
プラス側:矩形波
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(プラス側)主体 計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,片極(プラス側)主体 計9パルス
マイナス側:第2パルス部(深さ−75%)
電気刺激信号Bは、パルス群信号(b)を600msの休止期間を介して繰り返し3分間付与するものである。パルス群信号(b)は、下記のように、双極性パルス波を所定の周波数で10パルス出力するものである。ここで、双極性パルス波における各パルス成分は、プラス側で300μS,マイナス側で300μSの矩形波を連続的に出力することで構成されている。
(b)双極性パルス波
プラス側およびマイナス側:矩形波
パルス成分:周波数20Hz,双極計10パルス
[30%MVC出力の確認]
以上の電気刺激信号A,Bにより膝関節に誘発される伸展運動の大きさ(筋収縮量)を、MVC測定と同様に測定機能付自力運動訓練装置(ミナト医科学(株)製,WT−C20)を用いて、膝関節伸展時の筋出力として測定した。そして各々の電気刺激信号について、誘発される最大収縮力が30%MVCとなる電圧を調べた。
[筋出力および電流値の測定]
十分な休憩時間を挟んで、電気刺激信号AおよびBを上記で求めた30%MVCとなる電圧でそれぞれ生体に印加したときに、膝関節に誘発される伸展運動の大きさ(筋収縮量)を、上記測定機能付自力運動訓練装置により測定した。
そして、1群のパルス状信号(一のパルス群信号)につき測定された膝関節の伸展時の筋出力を当該パルス状信号における筋収縮力とし、その値を一のパルス群信号あたりで積分した積分値を総筋出力値として算出した。
また、電気刺激装置から出力した電気刺激により、生体に実際に付与された電圧および電流量を測定し、ピーク電流値を調べた。
[評価]
電気刺激装置からの出力は、負荷(生体)のインピーダンスによって出力電圧が僅かながら変動を起こす。本実施形態において、各電気刺激信号により生体に付与された電流は、被験者ごとのインピーダンスの相違に伴う若干の違いはあるが、電気刺激信号に対する変化の傾向は揃っており、安定して通電できていることが確認できた。
電気刺激信号Aにおける片方向性パルス複合波によると、生体には、電流波形のプラス側パルスの立ち上がり時に高い周波数成分に基づく大きなピーク電流が流れ、その後は低い電流が安定して流れることがわかった。このようにピーク電流が高周波パルス成分の矩形波パルス信号の立ち上がり部分で発生することは、パルス複合波の特徴によるものであると言えた。また、マイナス側の第2パルス部においても、周波数分が高いために比較的大きなピーク電流が流れ、ゆっくりと電流値0へと収束することが確認された。
一方の、電気刺激信号Bにおける双極性パルス波では、電流波形のプラス側の矩形波部分は概ねそのままの矩形波形状で電流が流れ、その後のマイナス側の矩形波部分では、電圧が0へと切り替わる部分で逆に大きなオーバーシュート電流が発生し、その後ゆっくりと電流値0へと収束することが確認された。すなわち、オーバーシュートとして、電圧の急峻な変化が双極性パルス波の1周期の終わりに発生することがわかった。また、オーバーシュート電流が流れてしまう電気刺激信号Bでは、30%MVCの筋出力を得るために生体に流れる実効電流が大きくなることがわかった。
なお、電気刺激信号により生体に実際に流れた電流のピークであるピーク電流値は、電気刺激による痛みの大きさを反映し得る。そこで、被験者ごとに、上記で算出した総筋出力値を、ピーク電流値で除することにより、単位ピーク電流(1mAp)当たりの総筋出力値Xを算出した。この様に定義されるパラメータXは、単位ピーク電流で誘発される筋出力を表すものであり、パラメータXが大きくなればなる程、少ない痛みでより多くの筋出力が得られることを意味する。電気刺激信号AとBに対するパラメータXの値を、図6に示した。図6中の各マーカーは、4人の被験者について、電気刺激信号AとB関して算出したパラメータXを示している。そして図中の点線は、各電気信号における4人の被験者のパラメータXの平均を結んだ線である。
図6に示されるように、全ての被験者について、ここに開示される電気刺激装置により付与された電気刺激信号AによるパラメータX(すなわちX)の方が、従来装置により付与された電気刺激信号BによるパラメータX(すなわちX)よりも、高い値を示すことがわかった。なお、4人の被験者について、電気刺激信号Aに関するパラメータXは、電気刺激信号Bに関するパラメータXに対し、約44%〜70%程度高い値(すなわち、約1.44〜1.70倍の値)を示すことが確認できた。すなわち、ここに開示される電気刺激装置によると、従来の電気刺激装置に比べて、例えば、痛みを伴うことなく、あるいは、痛みをより抑えて、より高い筋出力が得られることが確認された。
<実施形態2>
[試験1]
以下では、電気刺激装置から出力される電気刺激波形の筋出力等に及ぼす影響について、詳細に検討した。下記の各種の試験において、生体としては、規則的なトレーニング経験のない健康な男子大学生9名を対象(被験者)として選定した。そして各被験者について、実施形態1と同様の手順で、MVC測定を行った。
[30%MVCの決定]
次いで、下記「出力設定用基準波形」による電気刺激を各被験者に与えることで、この基準波形に基づく各被験者のMVCの30%に相当する筋出力(30%MVC出力)を誘発する刺激強度(電圧)を調べた。
(出力設定用基準波形)
高周波パルス成分:周波数200Hz,双極(プラス側−マイナス側)計1つ
低周波パルス成分:周波数20Hz,双極(プラス側−マイナス側)計9つ
この出力設定用基準波形は、従来波形とも言える双極パルス信号により構成されている。
[最大収縮力の測定]
上記30%MVC測定から十分な時間の経過後、ここに開示される電気刺激装置を用いて、被験者に対して電気刺激を付与するとともに、かかる電気刺激により誘発される筋力を測定した。本実施形態では、誘発された筋力を、常法に従って測定される筋出力(kgf)により評価した。
具体的には、まず、9人の被験者の太腿部に、電気刺激装置の電極パッドを装着し、下記(r1)(a1)(a2)で示すパルス成分(パルス状信号)からなるパルス群信号を複数組み合わせてなる電気刺激信号(R1)(A1)(A2)を付与した。なお、各パルス成分は、上記で求めた各被験者の基準波形に基づく30%MVC出力となる電圧で付与した。
(r1)
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(プラス側)主体 計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,双極(マイナス側−プラス側)計9パルス
(a1)
高周波パルス成分:なし
低周波パルス成分:周波数20Hz,片極(プラス側)主体 計10パルス
(a2)
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(プラス側)主体 計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,片極(プラス側)主体 計9パルス
信号(r1)は、上記の参考試験1における信号(r1)と同じであって、図5に示したような、プラス側とマイナス側に信号を有する公知のパルス群波形である。信号(a1)は、プラス側にのみ信号を有する本提案のパルス群波形であって、低周波パルス成分のみから構成されるものである。信号(a2)は、図4(A)に示したような、プラス側を主体とした信号を有する本提案のパルス群波形であって、高周波パルス成分と低周波パルス成分とを有するものである。
これにより、パルス群信号を構成する各パルス信号が、双極性パルス波である場合(r1)と片方向性パルス波である場合(a1)(a2)とで、誘発される筋収縮にどのような違いがあるのかを評価した。また、片方向性パルス波である場合に、高周波パルス成分の無(a1)と、有(a2)とでその違いを評価した。
そして、(R1)〜(A2)の各電気刺激信号は、「上記のパルス群信号を1秒間に1回のタイミングで10秒間(すなわち第1休止期間を挟んで10群)付与する」ことを1クール(第1刺激信号に相当)とし、この1クールを、30秒間の休止期間(第2休止期間)を挟んで5回(すなわち5クール)繰り返し行う(第2刺激信号に相当)ものとした。
また、被験筋は実施形態1と同様に右側大腿四頭筋とし、電気刺激装置に備えられた2枚の電極パッドを、右側大腿四頭筋を挟むように大腿前面の近位側(中枢側)と遠位側(末梢側)に貼り付けた。
9人の被験者には、試験の信頼性を増すため、出力設定用基準波形にて出力設定を行った後、3通りの電気刺激信号(R1)〜(A2)をラテン方格法に従って無作為な順序で付与した。各電気刺激信号は、十分な筋休息時間を挟んで付与した。
以上の電気刺激信号により膝関節に誘発される伸展運動の大きさ(筋収縮量)を、MVC測定同様に測定機能付自力運動訓練装置(ミナト医科学(株)製,WT−C20)を用いて、筋出力として測定した。1群のパルス状信号につき測定された最大筋出力の治療中における平均値を筋収縮力とした。測定結果は、9人の被験者の筋収縮力の平均値を、電気刺激付与時間との関係として示した。また、かかる筋収縮力の積分値を、電気刺激による当該筋肉の運動量として算出した。
[痛みの測定]
また、上記の電気刺激信号(R1)〜(A2)の付与に際し、2クール目、4クール目および5クール目に被験者が感じた電気刺激による痛みを、視覚的評価スケール(Visual Analog Scale:VAS)法により評価した。具体的には、「0」を痛みのない状態、「10」をこれまで経験した一番強い痛みの状態として、各評価クールにおける電気刺激による痛みを10cmの直線上のどの地点に位置するかを10段階で示した。結果は、9人の被験者による痛みを示すVAS値の平均値として示した。
[評価]
図7[1]は、電気刺激信号の付与に伴う筋出力(kgf)の時間推移を示した図である。なお、図7以下の各図におけるデータ群は、左から1クール目,2クール目…のデータを示している。休止期間は筋出力がない(ゼロである)ため、図7には休止期間は短縮(割愛)して示している。また、各図において、データの時間推移の傾向が明瞭となるように、筋出力等の値を示す目盛は適宜調整している。図7の[1]に示されるように、片方向性の電気刺激信号(A1)および(A2)を付与した場合は、双極性の電気刺激信号(R1)を付与した場合に比較して、筋出力値が有意に大きく、高い最大収縮力が得られることが確認できた。これとは対照的に、片方向性の電気刺激信号(A1)と(A2)との間には、誘発される筋出力値に大きな差は見られなかった。
また、図7[2]は、電気刺激による筋肉の運動量(kgf・sec)の推移を示した図である。図7[2]に示されるように、運動量についても、片方向性の電気刺激信号(A1)および(A2)を付与した場合の方が、双極性の電気刺激信号(R1)を付与した場合に比べて、明らかに大きくなる傾向が見られた。なお、片方向性の電気刺激信号(A1)と(A2)とによる運動量については、筋出力の場合と比較して両者間に差がみられるが、これは電気刺激の付与時間(通電時間)の差によるとも考えられ、特筆すべき差ではないと考えられる。
一方の、図7[3]は、電気刺激により知覚する痛み(cm)の時間推移を示した図である。電気刺激信号による痛みについては、双極性の電気刺激信号(R1)を付与した場合に最も小さく、片方向性の電気刺激信号(A1)および(A2)を付与した場合に比較的強くなる結果であった。このような痛みの差は、電気刺激信号により生体内に流れる実効電流量の差および誘発される筋力の差に基づくものと考えられる。つまり、本実施形態2では、生体に付与する電気刺激信号の各パルス信号成分の出力を、被験者に「出力設定用基準波形」による電気刺激信号を付与したときの30%MVCに相当する電圧に設定していた。そのため、この大きさの電気刺激信号により誘発される筋の最大収縮力に相違が生じる場合には、結果として痛みの大きさも異なるものとなっていた。より詳細には、同じ出力(電圧)でも、片方向性パルス複合波による電気刺激信号(A1)および(A2)を付与することでより多くの電流が生体に導入され、片方向性パルス複合波により誘発される最大収縮力は30%MVCよりも大きな値(概ね50%MVC以上)となっていることが予想された。なお、電気刺激信号(A1)および(A2)による痛みについては、高周波パルス成分のある電気刺激信号(A2)の方が小さいことから、上記参考試験1の結果も踏まえると、全体として、片方向性で高周波成分を備える電気刺激信号(A2)が、筋運動効果と痛みとのバランスの良い筋収縮を誘発できることが分かった。
[試験2]
パルス群信号を下記に示す(r1)(a2)(a3)とし、その他の条件は上記参考試験1と同様にして、生体に電気刺激信号(R1)(A2)(A3)を付与した。そして、かかる電気刺激信号(R1)〜(A3)により誘発される[1]最大収縮力、[2]運動量および[3]痛みを上記参考試験1と同様に測定し、その結果を図8に示した。
なお、各パルス群信号における各パルス成分は、上記試験1と同様、出力設定用基準波形に基づく各被験者の30%MVCに相当する出力となるように設定した電圧を用いた。
(r1)
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(プラス側)計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,双極(マイナス側−プラス側)計9パルス
(a2)
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(プラス側のみ)計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,片極(プラス側のみ)計9パルス
(a3)
高周波パルス成分:周波数200Hz,片極(マイナス側のみ)計1パルス
低周波パルス成分:周波数20Hz,片極(マイナス側のみ)計9パルス
すなわち、信号(r1)は、上記の試験1における信号(r1)と同じであって、プラス側とマイナス側に信号を有する公知のパルス群波形である。信号(a2)は、上記の試験1における信号(a2)と同じであって、プラス側にのみ信号を有する本提案のパルス群波形である。信号(a3)は、信号(a2)とは逆に、マイナス側にのみ信号を有する本提案の片方向性のパルス群波形である。
これにより、パルス群信号を構成する片方向性のパルス信号が、プラス側にある場合(a2)とマイナス側にある場合(a3)とで、誘発される筋収縮にどのような違いがあるのかを評価した。
[評価]
図8の[1]に示されるように、片方向性の電気刺激信号(A2)および(A3)を付与する場合であっても、その極性の向きによって、誘発される筋力に大きな違いが生じることがわかった。すなわち、生体に付与する電気刺激信号によってもたらされる効果は、その電気刺激信号の方向性により大きな影響を受けることがわかった。そして、電気刺激信号の方向は、電気刺激信号(A2)のように、生体の中枢側から末梢側に向かって進行するように付与することで、より高い筋最大収縮力が誘発されることが確認された。なお、逆向きに、すなわち、生体の末梢側から中枢側に向かって電気刺激信号が進行するように付与する(電気刺激信号(A3))場合には、双極性の電気刺激信号(R1)を付与した場合よりも筋最大収縮力が小さくなり得ることが確認された。
なお[2]に示される運動量についても、最大収縮力と同様の結果であり、生体の中枢側から末梢側に向かって電気刺激信号が進行するように刺激を付与することで、より高い運動量が得られることが確認された。
痛みの評価については、各電気刺激信号により誘発される最大収縮力の差が大きいために単純な比較ができないが、双極性の電気刺激信号(R1)と片方向性の電気刺激信号(A3)とでは、その差は大きくはないものの片方向性信号(A3)の方が痛みが強いという結果となった。これは、例え電気刺激の生体への導入方向が適切でない場合であっても、片方向性信号(A3)により生体により多くの実効電流が導入され得ることを示唆している。
以上のことから、公知の双極性の電気刺激信号(R1)は、その方向性を意識することなく生体に刺激を付与しうるものの、より高い筋収縮効果を得るには片方向性の電気刺激信号(A2)に大きく及ばないことが確認された。
[試験3]
次に、上記の試験1と同じ信号(a2)のパルス状信号に設ける第2パルス部の深さを(a2):−25%〜−85%の間で10%ずつ変化させ、7通りのパルス群信号(a4)〜(a10)とした。そして、その他の条件は上記試験1と同様にして、これらのパルス群信号を組み合わせた電気刺激信号(A4)〜(A10)を生体に付与し、誘発された[1]最大収縮力、[2]運動量および[3]痛みを上記試験1と同様に測定した。
なお、各パルス群信号における各パルス成分は、出力設定用基準波形において、各被験者の30%MVCに相当する出力となるように設定した電圧を用いた。
また、被験者に対し、上記7通りの電気刺激信号を同一の日に付与するのは疲労をきたす等して試験の信頼性を損ねる可能性が考えられる。そのため、(a4):−25%,(a5):−35%,(a6):−45%の3通りを同一の日に、(a6’):−45%,(a7):−55%,(8):−65%を他の同一の日に、(a8’):−65%,(a9):−75%,(a10):−85%をさらに他の同一の日に試験して、併せて評価した。
[評価]
上記の電気刺激信号により誘発された筋運動および痛みの測定結果を図9に示した。第2パルス部の深さを−45%とした電気刺激信号(A6)および(A6’)ならびに第2パルス部の深さを−65%とした電気刺激信号(A8)および(A8’)により誘発された筋収縮態様は、測定日が異なることで、その結果に若干の相違が見られた。しかしながら、同日に測定された電気刺激信号(A4),(A5)および(A6)の間と、電気刺激信号(A6’),(A7)および(A8)の間と、電気刺激信号(A8’)および(A9)との間では、それぞれ、第2パルス部の深さが深くなるに従い、[1]最大収縮力および[2]運動量が大きくなる傾向が見られた。しかしながら、[1]最大収縮力および[2]運動量ともに、第2パルス部が−85%まで深くなる(A10)では低下する傾向が見られた。
また、痛みの評価では、同日に測定された電気刺激信号(A4),(A5)および(A6)の間では概ね第2パルス部の深さが深くなるほど、また、電気刺激信号(A6’)〜(A10)の間では概ね第2パルス部の深さが浅くなるほど、電気刺激信号によりもたらされる痛みが小さくなることがわかった。しかしながら、全体として、第2パルス部の深さは−65%よりも浅い範囲であれば、さほど大きな差異は見られなかった。以上のことから、第2パルス部の深さは、[1]最大収縮力および[2]運動量と、[3]痛みとのバランスから、例えば−65%よりも浅い深さ(例えば、−20%〜−60%、好ましくは−25%〜−55%、特に好ましくは−45%〜−55%)とするのが好適であることがわかった。ただし、痛みを伴ってもより大きな最大収縮力を得たいのであれば、第2パルス部は−65%よりも深くするのが効果的であり、例えば、−65%〜−85%、好ましくは−65%〜−80%、より好ましくは−65%〜−75%等とすることができる。
以上のことから、ここに開示される電気刺激装置によると、少ない電流により効率的に筋運動を誘発できることがわかった。また、かかる筋運動による痛みは、得られる最大収縮力に比較して有意に増大されないことがわかった。換言すると、ここに開示される電気刺激装置は、生体の筋収縮作用に対し負荷を低減し、より効果的に働き掛けることができるといえる。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
1 電気刺激装置
10 信号発生部
20 電極部

Claims (12)

  1. 電気刺激信号を生体に付与する電極部を備え、
    前記電気刺激信号は、複数のパルス状信号を有し、
    前記複数のパルス状信号は、プラスまたはマイナスのいずれか一方の極に立ち上がる第1パルス部と、前記第1パルス部の反対の極に立ち下がる第2パルス部を具備するとともに、前記第1パルス部の最大波高値(100%V)に対する第1パルス部の立上がり時の10〜90%における平均変化率の絶対値を、2.0%V1/μS以上とし、且つ、前記第2パルス部の最高波高値(100%V2)に対する第2パルス部の立下がり時の10〜90%、及び同立上がり時の90〜10%における平均変化率の絶対値を共に0.5%V/μS以下としてなる電気刺激装置。
  2. 前記第1パルス部の最大波高値の1/2における時間幅を第1パルス部全体の時間幅の80%以上としてなる請求項1記載の電気刺激装置。
  3. 前記第2パルス部の最高波高値に対する第2パルス部の立下がり時の10〜90%の平均変化率の絶対値よりも、同立上がり時の90〜10%における平均変化率の絶対値を小さくしてなる請求項1または2記載の電気刺激装置。
  4. 前記第1パルス部の立上がり時の最大波高値の95%以上における平均変化率の絶対値を0.5%V1/μS以下としてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
  5. 前記第2パルス部の最大波高値(100%V2)を、前記第1パルス部の最大波高値(100%V)の20〜70%としてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
  6. 前記第1パルス部は、前記生体の中枢側から末梢側に向かってプラスの電流が流れるように出力されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
  7. 前記電気刺激信号は、高周波パルス成分と、前記高周波パルス成分の後に発振される低周波パルス成分を具備するパルス群信号を有してなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
  8. 前記高周波パルス成分は、1周期以上4周期以下の高周波パルス信号としてなる請求項7記載の電気刺激装置。
  9. 前記低周波パルス成分は、2周期以上20周期以下の低周波パルス信号としてなる請求項7記載の電気刺激装置。
  10. 前記電気刺激信号は、第1休止期間を挟んで複数の前記パルス群信号を有する第1刺激信号を含む請求項7〜9のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
  11. 前記電気刺激信号は、第2休止期間を挟んで複数の前記第1刺激信号を有する第2刺激信号を含む請求項10記載の電気刺激装置。
  12. 前記電気刺激信号をNとし、周波数20Hzの正負極同形状パルス波からなるパルス群信号を含む電気刺激信号をMとしたとき、
    これらの電気刺激信号Nおよび電気刺激信号Mに基づき生体に付与された単位ピーク電流当たりの筋出力を示すパラメータXおよびXが、次式:X≧1.3×X;を満たす、
    ここで、前記パラメータXおよびXは、それぞれ、
    前記生体の大腿部に、前記電気刺激信号Nおよび前記電気刺激信号MをMVCの30%の他動的筋出力が得られる電圧にて付与して測定される膝関節伸展時の筋出力について、
    (1)前記筋出力を一の前記パルス群信号あたりで積分した積分値を総筋出力値とし、
    (2)一の前記パルス群信号より生体に流れる最大の電流値を平均した平均ピーク電流値としたとき、
    (3)次式:X=(総筋出力値)÷(平均ピーク電流値);で算出される、
    請求項1〜11のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
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