以下、印刷装置を含む複合機について図面を参照して説明する。なお、以下では、印刷部が印刷時に移動する方向を「走査方向X(幅方向X)」、媒体が印刷部と対向する箇所で搬送される方向を「搬送方向Y」、そして鉛直方向の下側に向く方向を「重力方向Z」とする。
図1に示すように、複合機11は、印刷機能を有する印刷装置12と、画像読取機能を有する画像読取装置13と、画像読取装置13へ原稿を給送する自動原稿給送装置14とを備える。印刷装置12は、直方体状の本体15と、本体15の不図示の上面開口に対して開閉可能に配置された本体蓋部151とを有している。画像読取装置13は、本体蓋部151に読取機構が内蔵されて構成されるスキャナー本体131と、スキャナー本体131の上面部を構成する原稿台132(図2参照)に対して開閉可能に回動する蓋部133とを有している。自動原稿給送装置14は、蓋部133上に組み付けられており、蓋部133と共に開閉方向に回動可能となっている。蓋部133は、自動原稿給送装置14と共に、原稿台132を覆う閉位置と、原稿台132が原稿を載置可能な状態に露出する開位置とに移動可能となっている。
また、本体蓋部151の側面前側(搬送方向Yの下流側)には、凹状の把持部152が設けられている。把持部152をユーザーが把持して上方へ持ち上げて、本体蓋部151を画像読取装置13および自動原稿給送装置14と共に開方向へ回動させることにより、図1に示す閉位置から、本体15の上部が開けられた不図示の開位置に配置される。本体蓋部151が開位置にある状態では、本体15を構成する筐体153内の印刷機構が露出し、ユーザーによるインクカートリッジ等のインク収容体39(図3参照)の交換作業および媒体ジャムの除去作業等を含むメンテナンス作業が可能となっている。
図1に示す自動原稿給送装置14は、原稿を複数枚セット可能な原稿載置台141と、原稿載置台141上にセットされた原稿を幅方向に位置決めする際に操作される一対の原稿エッジガイド142と、原稿載置台141からはみ出る原稿の部分を支持可能な原稿サポート143とを有する。
原稿載置台141の下側には、自動原稿給送装置14により給送された原稿が画像読取装置13にスキャンされたのちに排出される原稿排出部144が設けられている。自動原稿給送装置14は、原稿載置台141を原稿の搬送方向と交差する方向に挟んだ両側に配置された一対の壁部145と、原稿排出部144の排出口と対向して配置された側板146とを有する。このため、原稿排出部144は、一対の壁部145と、原稿載置台141と、側板146とに囲まれている。側板146には、原稿排出部144に排出された原稿をユーザーが確認するための凹部147が設けられている。このため、凹部147を通して原稿排出部144に排出された原稿を確認できるうえ、排出された原稿を凹部147からつまみ出すことも可能である。なお、原稿サポート143は、透明色の部材としてもよい。透明色の部材とすることで、自動原稿給送装置14を用いて小さなサイズの原稿(例えばA6判)をスキャンした場合でも、その小さなサイズの原稿を、原稿サポート143を透かして原稿排出部144に排出されていることを確認できるので、原稿の取り忘れが防止可能である。
図1に示すように、印刷装置12の前面上部には、電源ボタン17およびタッチパネル方式の表示部18を有する矩形板状の操作パネル16が設けられている。操作パネル16には、その他に、操作ボタン161、電源LED162、FAX受信LED163、印刷ジョブ受信LED164およびエラー報知LED165が設けられている。操作ボタン161は、印刷実行中はキャンセルボタンとして機能し、印刷待機中はコピーボタンとして機能する。操作ボタン161がコピーボタンとして操作された場合、原稿載置台141に原稿が載置されていることを不図示のセンサーが検知すれば、自動原稿給送装置14が駆動されて給送された原稿がスキャンされる。一方、そのセンサーが非検知状態で原稿載置台141に原稿が載置されていない場合は、原稿台132上に載置された原稿がスキャンされる。なお、本体15には、操作パネル16の側方に不図示のUSBスロットの蓋部154が設けられている。
また、印刷装置12における操作パネル16の下側には、印刷済みの媒体Pを排出する排出口19と、排出口19から排出された媒体Pを受けるスライド式の排出スタッカー20とが設けられている。排出スタッカー20は、手動操作により、図1に示す収納位置と、図2に示す展開位置との間をスライドさせることが可能となっている。また、本体15の筐体153における排出スタッカー20の下側には、前面が開口し奥方へ延びる収容空間からなるカセット収容部155が設けられている。カセット収容部155には、複数枚の媒体Pを収容可能な上下2段のカセット21,22が挿抜可能な状態で装着されている。なお、本体15の両側面の底部には、複合機11をユーザーが持ち上げるときに把持可能な凹状の手掛け部156(但し図1では一方のみ図示)が設けられている。
次に図2および図3を参照して、複合機11における特に印刷装置12の内部構成を説明する。図2に示すように、筐体153内には、媒体Pを搬送する搬送機構24と、搬送された媒体Pに印刷する印刷部25とが収容されている。搬送機構24は、カセット21,22内の媒体Pを1枚ずつ印刷部25へ給送する給送機構26を備える。給送機構26は、本体15内における各カセット21,22の挿着部分と対応する箇所に基端部を中心に回動可能に支持されたアーム部材27と、アーム部材27の先端部に設けられた給送ローラー28(ピックアップローラー)とを備える。なお、以下では、給送ローラー28を第1カセット21側と第2カセット22側とで区別する場合は、第1カセット21側の給送ローラー28を符号281で示し、第2カセット22側の給送ローラー28を符号282で示す。
また、カセット21,22は、載置(セット)された媒体Pの幅方向両側の側端に当てて媒体Pを幅方向に位置決め可能な側端エッジガイド211,221と、媒体Pの給送方向の上流側の端部(後端)に当てて後端を位置決め可能な後端エッジガイド212,222と、媒体Pの給送方向の下流側の端部(先端)に当てて先端を位置決め可能な不図示の爪部とを有している。カセット21,22にセットされた媒体Pはその先端が爪部に当たることでカセット21,22に保持される。なお、爪部は、カセット21,22を挿着する過程で給送ローラー28と接触しない位置に配置されている。
アーム部材27は、カセット21,22がカセット収容部155に挿着されていない状態では、図2における時計方向へ不図示のばねにより付勢されている。また、アーム部材27は、カセット21,22がカセット収容部155に挿着された状態では、カセット21,22によりばねの付勢が解除され、自重で時計方向に回転し、給送ローラー28がカセット22内の複数枚の媒体Pのうち最上位の1枚の媒体Pに接触する。
図2に示すように、本体15におけるカセット収容部155の奥方(同図における右方)には、カセット21,22の給送方向(図2では右方向)の端部と対向する位置に斜状の分離板157,158(分離壁部)がそれぞれ配置されている。給送ローラー28により仮に複数枚の媒体Pが送り出されても分離板157,158の面に摺動することで、最上位の1枚のみが分離されて給送方向の下流側へ給送される。このように本実施形態では、媒体Pを1枚に分離する分離方式として壁分離方式を採用している。なお、壁分離方式に替え、媒体Pを一対の分離用のローラー対の間を通すことにより1枚に分離するローラー分離方式を採用してもよい。
さらに図2に示すように、給送機構26は、各カセット21,22から送り出された媒体Pが分離板157,158を経由して搬送される搬送通路261,262を有する。2つの搬送通路261,262は、上段のカセット21側の分離板157の上方位置で合流している。なお、以下では、上段(1段目)のカセット21を「第1カセット21」、下段(2段目)のカセット22を「第2カセット22」ともいう。
図2に示すように、上段の第1カセット21の下側に位置する下段の第2カセット22からの媒体Pが搬送される搬送通路262は、第1カセット21を回避するために奥行き方向(同図における右方向)にオフセットしている。第1カセット21と第2カセット22とでは、取出し側の正面端部213,223は面一であるが、第2カセット22に対応する後端エッジガイド222、給送ローラー282および分離板158は、第1カセット21に対応する後端エッジガイド212、給送ローラー281および分離板157よりも、それぞれ奥行き方向にオフセットしている。
また、図2に示すように、給送機構26は、2つの搬送通路261,262の合流部263(図3参照)の斜め上方位置に配置された大径の中間ローラー30と、中間ローラー30の外周面に当接する小径の第1従動ローラー31および第2従動ローラー32とを備える。カセット21,22のうち選択された一方から送り出された媒体Pは、搬送通路261,262のうち対応する一方を通って合流部263へ至り、合流部263から中間ローラー30の回転により中間ローラー30と2つの従動ローラー31,32との間にニップ(挟持)された状態で、中間ローラー30の外周に沿った経路で搬送される。そして、媒体Pは、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所から搬送ローラー対33に向かって送り出される。
また、図2および図3に示すように、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所よりも搬送方向Yの直ぐ下流側の位置には、そのニップ箇所から送り出された媒体Pを案内してその送り出し方向を目標方向へ変更させる案内部材55が配置されている。媒体Pの給送時に、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所から送り出された媒体Pは、案内部材55の上面に沿って略水平方向の下流側へ案内され、斜状の天井壁部56に達したのち天井壁部56の斜状の面に沿って上限高さを保ちつつ斜め下方へ向かう経路で搬送される。また、中間ローラー30と搬送ローラー対33との間には、給送された媒体Pが案内部材55から垂れ下がった状態にあるときにその垂れ下がり部分を支持したり、案内部材55から落下した後の媒体Pの後端部を支持したりする支持部材57が配置されている。
図3に示すように、支持部材57は、媒体Pを支持する上面における搬送方向Yの上流側部分が下流側ほど低くなる凹曲面を有し、その凹曲面の部分よりも搬送方向Yの下流側の部分が略水平に延びた平坦面となっている。また、支持部材57は、その搬送方向Yの下流側端部に突端部57Eを有する。支持部材57の突端部57Eは、カセット21,22から給送された媒体Pを搬送ローラー対33へ導く下経路を形成する給送路と、一方の面(片面)に印刷された後に搬送ローラー対33から逆搬送された両面印刷の対象となる媒体Pを中間ローラー30へ導く反転通路40との分岐箇所となっている。
図2および図3に示すように、搬送機構24は、給送機構26から給送された媒体Pを、印刷部25が印刷可能な印刷領域を通る経路で搬送する搬送ローラー対33と、印刷部25が印刷した媒体Pを排出する排出ローラー対34とを備える。搬送ローラー対33よりも搬送方向Yの少し上流側の位置には、長尺状の揺動部材58が同図における反時計方向に不図示のばねにより付勢された状態で同図に示す斜めに傾く待機姿勢の状態で配置されている。揺動部材58は、下方に突出する押さえリブ581とフラップ部582とを有している。押さえリブ581は、媒体Pの後端部を下向きに付勢し、媒体Pの後端部の浮き上がりを押さえる機能を有している。
ここで、押さえリブ581において媒体Pと接触可能な突端部は、搬送ローラー対33のニップ位置と、支持部材57の突端部57Eとを結んだ仮想線よりも下方向(重力方向Z)にオフセットして位置している。押さえリブ581の突端部が、上記仮想線上に位置するのが理想ではあるが、製造上の公差を考慮し、上記仮想線よりも上方向にずれた場合の不都合を回避するべく、揺動部材58のばね荷重で押さえリブ581を下方へ付勢する状態で押さえリブ581の突端部を上記仮想線よりも下方向にオフセットさせている。
また、図2および図3に示すように、搬送方向Yにおける搬送ローラー対33と排出ローラー対34との間の位置には、搬送経路に沿って搬送される媒体Pを支持可能な支持台35が配置されている。搬送ローラー対33は、搬送駆動ローラー33Aと、搬送駆動ローラー33Aの回転に従動して回転可能な搬送従動ローラー33Bとからなる。また、排出ローラー対34は、排出駆動ローラー34Aと、排出駆動ローラー34Aの回転に従動して回転可能な排出従動ローラー34Bとからなる。また、搬送方向Yにおける排出ローラー対34と支持台35との間の位置には、排出ローラー対34にニップされる前の媒体Pの先端部を上側から押さえてその浮き上がりを防止する押さえローラー34Cが設けられている。
図2および図3に示すように、印刷部25は、ガイドレール部37に案内されて走査方向Xに往復動可能な状態で支持台35の上方位置に保持されたキャリッジ36と、キャリッジ36の支持台35と対向する面側に取着された印刷ヘッド38とを備える。キャリッジ36は、例えば上下一対のガイドレール部37により2箇所で支持され、搬送方向Yと重力方向Zに位置決めされた状態で走査方向Xに移動可能な状態で案内される。キャリッジ36の上部にはインク色と同数の複数のインク収容体39が装着されている。印刷ヘッド38は、キャリッジ36の上部に装着されたインク収容体39から供給されたインクを、走査方向Xに移動する過程で媒体Pに向かって吐出する。このため、印刷中に間欠的に搬送される媒体Pが停止する度に、印刷ヘッド38により1行ずつ印刷される。印刷後の媒体Pは、排出ローラー対34等の回転により排出口19から排出され、排出スタッカー20上に積載される。排出スタッカー20は、図1に示す収納位置からユーザーが搬送方向Yにスライドさせて突出させたのち、先端部分を回動させることで、図2に示す使用時の状態に展開される。なお、本実施形態のインク収容体39は、インクカートリッジにより構成されるが、本体15の内側または外側に取り付けられたインクタンクからインクチューブ(いずれも図示せず)を通じてインクの供給を受けてインクを一時貯留可能なアダプターでもよい。
また、本例の印刷装置12は両面印刷機能を備えている。本体15内には、搬送方向Yへ搬送されて印刷部25が一方の面(片面)に印刷した媒体Pを、搬送方向Yと反対側へ逆搬送して合流部263へ導く反転通路40(スイッチバック通路)が設けられている。反転通路40は、支持部材57の下側を通る経路で延び、各搬送通路261,262の合流部263と合流している。一方の面(表面)の印刷を終えた媒体Pは、反転通路40を通る搬送経路F3に沿って逆搬送されることで合流部263へ至り、合流部263から中間ローラー30と第1従動ローラー31とのニップ箇所へ導入される。詳しくは、媒体Pが反転通路40を通るとき、フラップ部582がスイッチバック時の媒体Pを下側へ案内して反転通路40へ導く。媒体Pの先端がフラップ部582に対して上流側から下流側へ向けて触れると、フラップ部582が搬送方向Yの下流側に向けて回動することにより媒体Pは規制されない。一方、他方の面(裏面)に印刷するために媒体Pがスイッチバックする際に、媒体Pの先端がフラップ部582に下流側から上流側へ向けて触れても回動せず、スイッチバックした媒体Pを反転通路40に案内する。
そして、媒体Pは、中間ローラー30の外周に沿って搬送される過程でその表裏が反転され、搬送ローラー対33を通って他方の面が印刷ヘッド38と対向する向きになった状態で印刷部25へ搬送される。そして、媒体Pの他方の面(裏面)に印刷部25による印刷がなされることにより、媒体Pに両面印刷がなされる。両面印刷を終えた媒体Pは排出スタッカー20上に積載される。
さらに図2に示すように、画像読取装置13は、フラットベッド型のスキャナー装置であり、原稿載置ガラス板134を備えた原稿台132と、原稿載置ガラス板134の下方位置を走査方向Xに沿って往復移動可能なスキャナーキャリッジ135とを備える。また、図2および図3に示すように、本体15内には、搬送経路よりも上方位置に、電源ユニット59が設けられている。電源ユニット59は、例えば商用交流電源からの電力を直流に変換し、印刷装置12、画像読取装置13および自動原稿給送装置14に駆動に必要な電力を供給する。
図2に示すように、本体15内において支持台35よりも搬送方向Yの下流側の位置には、インク収容体39のインク残量を検出する残量センサー201が設けられている。残量センサー201は、走査方向Xに所定位置に1つ配置されている。キャリッジ36には、残量センサー201と対向可能な位置に複数の被検出用の孔361が走査方向Xに一列に並んだ状態で開口している。各インク収容体39からのインクは被検出用の孔361の上側を経由して印刷ヘッド38へ供給される。キャリッジ36の走査方向Xへの移動に伴い孔361が残量センサー201の上方に位置するときに、残量センサー201は、孔361を通して孔361に対応するインク収容体39からのインクを検出し、インクが有れば非検知状態になり、インクが無くなれば検知状態になる。複数の孔361は、残量センサー201に検出されるためには走査方向Xに沿って一列に配列されている必要がある。キャリッジ36には、図3に示す調整用ダイヤル202が設けられ、調整用ダイヤル202を操作することによりキャリッジ36を重力方向Zの軸線周りに回動させてその姿勢角を調整することが可能になっている。キャリッジ36の姿勢角の調整により、複数の孔361の全てを残量センサー201による検出が可能な走査方向Xに沿った一列に配列することが可能になっている。
本実施形態の印刷装置12では、印刷ジョブに基づく印刷条件に応じて複数種の給送方式のうちから1つが選択される。印刷装置12は、普通紙かつバンド印刷かつ片面印刷の印刷ジョブを受信した場合に、先行の媒体Pと後続の媒体Pとを一部重ねた状態を維持しつつ後続の媒体Pの印刷開始位置まで一緒に搬送する重ね連送を伴う重ね給送方式を選択する。印刷装置12は、その他の印刷条件の印刷ジョブを受信した場合は、先行の媒体Pと後続の媒体Pとを間隔を開けた状態で後続の媒体Pを印刷開始位置まで搬送する通常給送方式を選択する。重ね給送方式が選択された場合、先に搬送された媒体Pである先行媒体の後端部に対して、先行媒体の次に搬送された媒体Pである後続媒体の先端部を重ねる重ね動作が行われ、その後、先行媒体の印刷を終了すると、先行媒体と後続媒体とをそのときの重ね状態を維持したまま後続媒体の印刷開始位置まで一緒に搬送する重ね連送が行われる。また、重ね動作の後かつ重ね連送の前には、後続媒体の先端を搬送ローラー対33に突き当ててそのスキュー(斜行)を矯正するスキュー取り動作が行われる。なお、重ね給送方式が選択された場合でも、先行媒体と後続媒体とに関する後述する重ね可能条件が成立した場合に限り、重ね連送が行われる。
また、重ね動作における重ね方には、後続媒体の先端部を先行媒体の後端部の上側に重ねる上重ねと、後続媒体の先端部を先行媒体の後端部の下側に重ねる下重ねとがある。本実施形態の重ね動作は上重ねで行われる。そのため、後続媒体の先端部を先行媒体の後端部の上側に重ねる必要がある。そこで、案内部材55は、重ね動作で先行媒体と後続媒体とが正しい重ね順で重なるように、中間ローラー30の第2従動ローラー32とのニップ箇所から送り出される媒体Pの送り出し方向を上重ねし易い上側寄りの案内方向へ変更する。中間ローラー30の最終ニップから所定の給送速度で送り出された媒体Pを、案内部材55の上面に沿わせることでその送り出し方向をより上側の略水平方向へ変更し、略水平方向へ送り出されたのちの媒体Pを天井壁部56の斜状の面に沿って上限位置を保ちつつ搬送ローラー対33へ向かって搬送させるようにしている。これにより後続媒体を先行媒体に対して上側(印刷面側)から重ねる上重ねがより高い頻度で成功する。
図3に示す案内部材55は、重ね動作時の送り出し方向へ媒体Pを案内可能な姿勢(例えば水平姿勢)に固定されていてもよいが、重ね動作を行わないときに、送り出し方向を上側寄りへ変更するときに搬送中の媒体Pに抵抗負荷を与えることは好ましくない。そのため、案内部材55を重ね動作時に媒体Pを案内するときの姿勢をとる案内位置(図3に示す位置である第1位置)と、重ね動作以外のときに媒体Pを案内しない姿勢もしくは案内される媒体Pが受ける負荷を軽減する姿勢をとる退避位置(第2位置)との間を変位可能に設けることが好ましい。
案内部材55を変位可能に設ける場合、変位方向については次の2通りが挙げられる。まず案内部材55の案内位置については2通りで共通であり、案内部材55は、媒体Pをできるだけ搬送方向Yの下流側かつ水平方向に飛ばし、先行媒体の上に後続媒体を重ねることを容易にする姿勢(例えば水平姿勢)をとる案内位置に配置される。そして、1つは、案内部材55をその上流側の端部を支点として斜め下向きの姿勢をとる退避位置と上述した案内位置との間で回動させる回動方式である。他の1つは、案内位置では回動式と同じで案内部材55は水平な姿勢で経路中に突出しており、退避位置では水平な姿勢であるが案内部材55が経路中に突出していない位置にあり、退避位置と案内位置との間を水平方向(搬送方向Y)にスライド移動するスライド方式である。
また、案内部材55を変位させる機構は、ばねの付勢力(ばね荷重)で案内位置に保持し、媒体Pのコシの強さに応じてばね荷重が媒体Pのコシに負けて退避位置に変位する方式が挙げられる。例えば写真用紙などの厚紙からなる媒体Pの場合、媒体Pのコシに負けて案内部材55が退避位置へ変位するときの変位量が相対的に大きく、普通紙などの薄紙からなる媒体Pの場合、媒体Pのコシが弱いので、案内部材55が退避するときの変位量が相対的に小さい。このように媒体Pのコシの強さに応じた変位量で案内部材55が退避するので、媒体Pが案内部材55から受ける負荷を軽減できる。なお、ばね加重で案内部材55を変位させる機構は、回動方式にもスライド方式にも適用できる。
また、案内部材55を変位させる機構は、ソレノイドや電動モーター等の動力源を用いて実現することもできる。すなわち、動力源の動力により案内部材55を案内位置と退避位置とに変位させる。この動力源を用いた機構は、回動方式にもスライド方式にも適用可能である。
また、図3に示す押さえリブ581の突端部を、搬送ローラー対33のニップ位置と支持部材57の突端部57Eとを結んだ仮想線よりも下方向へオフセットしている理由は、以下のとおりである。押さえリブ581の突端部が上記仮想線よりも高い位置にあった場合、先行媒体の後端部が浮き上がってしまい、後続媒体の先端部を先行媒体の後端部に重ねる際に支障を来たす(理由1)。また、押さえリブ581の突端部が上記仮想線よりも低い位置にあった場合、先行媒体が押さえリブ581の突端部により上記仮想線よりも下方へ押さえられるため、先行媒体のその押さえ箇所よりも少し上流側の部分が支持部材57の突端部57Eに押さえ付けられ、その結果、先行媒体において突端部57Eよりも上流側に位置する部分が浮き上がってしまう。この場合も、後続媒体の先端部を先行媒体の後端部に重ねる際に支障を来たす(理由2)。
さらに押さえリブ581の突端部が上記仮想線よりも低い位置にあった場合、押さえリブ581の突端部により下方へ押さえられた媒体Pの先端が、搬送ローラー対33のうち、アルミナ等の粉末を塗付するなどで滑り止め処理がされている一方の搬送駆動ローラー33Aに突き当たってしまい、その突き当たった箇所の滑り止め作用によって、搬送ローラー対33のニップ箇所への媒体Pの先端の摺動が規制されてしまい、想定するスキュー取り動作を行うことができなくなる(理由3)。
押さえリブ581の突端部が上記仮想線上に位置するように理想の形で設計してしまうと、上述した不都合な状況に陥ってしまう虞がある。そこで、押さえリブ581の突端部が上記仮想線よりも低く位置するように設計することで、上記理由1による問題を解消している。また、押さえリブ581は、ばね荷重で下方に付勢され、媒体Pのコシにより上方に動作可能にしている。これにより、上記理由2および理由3による問題も解消している。
また、媒体Pのスキューを矯正するスキュー取り動作は、媒体Pの姿勢が以下に示す状態1〜状態5を順に遷移して行われる。まず、媒体Pは、案内部材55により天井壁部56に沿わされながら、下流に向けて搬送される(状態1)。次に媒体Pの先端が、停止している搬送ローラー対33に突き当てられ、突き当たった後も、中間ローラー30により媒体Pは下流への搬送力を与えられる(状態2)。さらに、止まっている媒体Pの一部が天井壁部56に当たった状態で、中間ローラー30からの搬送力を与えられるので、上記当たった位置から下流部分が、下方向に向けて媒体Pが撓む(状態3)。媒体Pの撓みが成長するに従って、天井壁部56に当たっている位置が徐々に上流側に移動しながら、撓みが下方向に更に成長する(状態4)。そして、出来上がった撓みの力により、媒体Pの先端の端辺が搬送ローラー対33に沿わされることで、媒体Pのスキューが矯正される(状態5)。スキューが矯正された媒体Pは、搬送ローラー対33で搬送されることで、媒体Pにスキューが矯正された状態で印刷される。
ここで、重ね給送方式が選択された場合に、印刷装置12において判断される重ね可能条件について説明する。重ね連送は、重ね可能条件が成立した場合に許可される。重ね可能条件には、先行媒体の後端余白長(ボトムマージン)と後続媒体の先端余白長(トップマージン)との重ね連送可能な条件で示される余白条件が含まれる。余白条件は、先行媒体の後端余白長が約30mm〜約80mmの範囲にあること、後続媒体の先端余白長が約15mm以上であることのいずれをも満たす場合に、重ね連送を許可する。
余白条件は、先行媒体の後端余白長と、後続媒体の先端余白長とのいずれもが、下記の条件を満たす場合に、重ね連送を許可する。ここで、図3に示すように、搬送ローラー対33のニップ位置と案内部材55の下流端位置との距離をLU、搬送ローラー対33のニップ位置と最上流ノズル♯Qとの距離をLn、最下流ノズル♯1と押さえローラー34Cとの距離をLrとする。1つ目の条件として、先行媒体の後端余白長が、「距離Ln+α〜距離LU」の間に収まっていることである。ここで、距離Ln+αのうちα部分に後続媒体の先端部が重なる。2つ目の条件は、後続媒体の先端余白長が、距離Lr以上であることである。図3における距離Lr又はLUを短くすることで、重ね連送に必要な余白量を小さくすることができる。なお、距離Ln+αを、簡易的に距離Lnの2倍の値2・Lnとしてもよい。
先行媒体の後端余白長が少なくとも30mm必要な理由は、下記のとおりである。すなわち、印刷ヘッド38の最上流ノズル♯Qから搬送ローラー対33のニップ位置までの距離Lnは、一例として約13mmあり、更に、後続媒体の先端部が重なる領域として、搬送ローラー対33のニップ位置から搬送方向Yの上流に向けて約15mmを要するので、合計約28mmとなる。さらに媒体P自体の搬送方向Yにおける長さの製造誤差を幾らか考慮し、先行媒体の後端余白長に、少なくとも合計約30mmを必要とする。
また、先行媒体の後端余白長が80mm以下である理由は、下記のとおりである。すなわち、搬送ローラー対33のニップ位置から、案内部材55の搬送方向Yの下流端までの距離LUが約80mmある。そのため、80mmを越えると先行媒体の後端が案内部材55に到達してしまい、後続媒体の先端を重ね合わせることができない。
さらに後続媒体の先端余白長が約15mm必要な理由は、下記のとおりである。すなわち、印刷ヘッド38の最下流ノズル♯1から押さえローラー34Cまでの距離Lrは約14mmあり、製造公差を幾らか考慮して、約15mmを必要としている。後続媒体に約15mmの先端余白長を必要とする理由は下記のとおりである。すなわち、後続媒体に対する印刷(インク吐出)が開始される前に、後続媒体の先端を押さえておかないと、インク吐出時に媒体Pが印刷ヘッド38側にカールしてしまい、印刷ヘッド38に対する媒体Pの擦れが発生してしまう。そこで、印刷ヘッド38の最下流ノズル♯1から押さえローラー34Cまでにあたる媒体Pの先端部は余白にしている。ちなみに、先行媒体と後続媒体の重ね量は、先行媒体の後端余白長により変化する。すなわち、先行媒体の後端余白長が最小の30mmである場合は、印刷ヘッド38の最上流ノズル♯Qから搬送ローラー対33のニップ位置までの距離である約13mmを減じた、約17mmが先行媒体と後続媒体との重ね量となる。
また、先行媒体の後端余白長が最大の80mmである場合は、印刷ヘッド38の最上流ノズル♯Qから搬送ローラー対33のニップ位置までの距離である約13mmを減じた、約67mmが先行媒体と後続媒体との重ね量である。このように先行媒体と後続媒体との重ね量は、先行媒体の後端余白長に応じて、約17mm〜約67mmの範囲で変化する。なお、上記範囲は、あくまで単純に考えた場合であり、課題もある。その課題を解決した技術が、後述する第3実施形態である。
また、図2および図3に示すように、搬送方向Yにおける搬送ローラー対33と排出ローラー対34との間の位置には、搬送経路に沿って搬送される媒体Pを支持可能な支持台35が配置されている。搬送ローラー対33は、搬送駆動ローラー33Aと、搬送駆動ローラー33Aの回転に従動して回転可能な搬送従動ローラー33Bとからなる。また、排出ローラー対34は、排出駆動ローラー34Aと、排出駆動ローラー34Aの回転に従動して回転可能な排出従動ローラー34Bとからなる。また、搬送方向Yにおける排出ローラー対34と支持台35との間の位置には、排出ローラー対34にニップされる前の媒体Pの先端部を上側から押さえてその浮き上がりを防止する押さえローラー34Cが設けられている。
図2および図3に示すように、印刷部25は、ガイドレール部37に案内されて走査方向Xに往復動可能な状態で支持台35の上方位置に保持されたキャリッジ36と、キャリッジ36の支持台35と対向する面側に取着された印刷ヘッド38とを備える。キャリッジ36は、例えば上下一対のガイドレール部37により2箇所で支持され、搬送方向Yと重力方向Zに位置決めされた状態で走査方向Xに移動可能な状態で案内される。キャリッジ36の上部にはインク色と同数の複数のインク収容体39が装着されている。印刷ヘッド38は、キャリッジ36の上部に装着されたインク収容体39から供給されたインクを、走査方向Xに移動する過程で媒体Pに向かって吐出する。このため、印刷中に間欠的に搬送される媒体Pが停止する度に、印刷ヘッド38により1行ずつ印刷される。印刷後の媒体Pは、排出ローラー対34等の回転により排出口19から排出され、排出スタッカー20上に積載される。排出スタッカー20は、図1に示す収納位置からユーザーが搬送方向Yにスライドさせて突出させたのち、先端部分を回動させることで、図2に示す使用時の状態に展開される。なお、本実施形態のインク収容体39は、インクカートリッジにより構成されるが、本体15の内側または外側に取り付けられたインクタンクからインクチューブ(いずれも図示せず)を通じてインクの供給を受けてインクを一時貯留可能なアダプターでもよい。
また、本例の印刷装置12は両面印刷機能を備えている。本体15内には、搬送方向Yへ搬送されて印刷部25が一方の面(片面)に印刷した媒体Pを、搬送方向Yと反対側へ逆搬送して合流部263へ導く反転通路40(スイッチバック通路)が設けられている。反転通路40は、支持部材57の下側を通る経路で延び、各搬送通路261,262の合流部263と合流している。一方の面(表面)の印刷を終えた媒体Pは、反転通路40を通る搬送経路F3に沿って逆搬送されることで合流部263へ至り、合流部263から中間ローラー30と第1従動ローラー31とのニップ箇所へ導入される。詳しくは、媒体Pが反転通路40を通るとき、フラップ部582がスイッチバック時の媒体Pを下側へ案内して反転通路40へ導く。媒体Pの先端がフラップ部582に対して上流側から下流側へ向けて触れると、フラップ部582が搬送方向Yの下流側に向けて回動することにより媒体Pは規制されない。一方、他方の面(裏面)に印刷するために媒体Pがスイッチバックする際に、媒体Pの先端がフラップ部582に下流側から上流側へ向けて触れても回動せず、スイッチバックした媒体Pを反転通路40に案内する。
そして、媒体Pは、中間ローラー30の外周に沿って搬送される過程でその表裏が反転され、搬送ローラー対33を通って他方の面が印刷ヘッド38と対向する向きになった状態で印刷部25へ搬送される。そして、媒体Pの他方の面(裏面)に印刷部25による印刷がなされることにより、媒体Pに両面印刷がなされる。両面印刷を終えた媒体Pは排出スタッカー20上に積載される。
さらに図2に示すように、画像読取装置13は、フラットベッド型のスキャナー装置であり、原稿載置ガラス板134を備えた原稿台132と、原稿載置ガラス板134の下方位置を走査方向Xに沿って往復移動可能なスキャナーキャリッジ135とを備える。また、図2および図3に示すように、本体15内には、搬送経路よりも上方位置に、電源ユニット59が設けられている。電源ユニット59は、例えば商用交流電源からの電力を直流に変換し、印刷装置12、画像読取装置13および自動原稿給送装置14に駆動に必要な電力を供給する。
図2に示すように、本体15内において支持台35よりも搬送方向Yの下流側の位置には、インク収容体39のインク残量を検出する残量センサー201が設けられている。残量センサー201は、走査方向Xに所定位置に1つ配置されている。キャリッジ36には、残量センサー201と対向可能な位置に複数の被検出用の孔361が走査方向Xに一列に並んだ状態で開口している。各インク収容体39からのインクは被検出用の孔361の上側を経由して印刷ヘッド38へ供給される。キャリッジ36の走査方向Xへの移動に伴い孔361が残量センサー201の上方に位置するときに、残量センサー201は、孔361を通して孔361に対応するインク収容体39からのインクを検出し、インクが有れば非検知状態になり、インクが無くなれば検知状態になる。複数の孔361は、残量センサー201に検出されるためには走査方向Xに沿って一列に配列されている必要がある。キャリッジ36には、図3に示す調整用ダイヤル202が設けられ、調整用ダイヤル202を操作することによりキャリッジ36を重力方向Zの軸線周りに回動させてその姿勢角を調整することが可能になっている。キャリッジ36の姿勢角の調整により、複数の孔361の全てを残量センサー201による検出が可能な走査方向Xに沿った一列に配列することが可能になっている。また、調整用ダイヤル202を操作することにより印刷ヘッド38を重力方向Zの軸線周りに回動させてその姿勢角を調整することも可能となっている。この印刷ヘッド38の姿勢角の調整により、ノズル列381(図6参照)をガイドレール部37の長手方向(つまり走査方向X)に対して垂直に(つまり搬送方向Yと平行に)配置して、印刷画質を向上させることが可能である。
次に図4及び図5を参照して、主に媒体を搬送する構成の詳細を説明する。図4に示すように、中間ローラー30は、媒体Pの搬送路の幅内の略中央位置に例えば1つ配置され、図4及び図5に示すように、中間ローラー30の外周面上の2箇所に前述の第1従動ローラー31と第2従動ローラー32とが給送方向にこの順に当接している。筐体153内には、中間ローラー30、給送ローラー28(いずれも図2、図3参照)を駆動させる第1駆動源の一例としての給送モーター41が配設されている。図4に示す給送モーター41の出力軸は、クラッチ機構42を介して給送ローラー28及び中間ローラー30に動力伝達可能に連結されている(図7も参照)。また、筐体153内には、給送モーター41の回転を検出してその回転量に比例する数のパルスを含む検出信号を出力するロータリーエンコーダー43(以下、「第1エンコーダー43」ともいう。)が設けられている。
また、図4及び図5に示すように、本体15内には、搬送ローラー対33を構成する搬送駆動ローラー33Aと排出ローラー対34を構成する排出駆動ローラー34Aとを駆動させる第2駆動源の一例としての搬送モーター44が配設されている。また、筐体153内には、搬送駆動ローラー33Aの回転軸の回転を検出してその回転量に比例する数のパルスを含む検出信号を出力するロータリーエンコーダー45(以下、「第2エンコーダー45」ともいう。)が設けられている。なお、搬送方向Yにおける排出ローラー対34と支持台35との間の位置には、押さえローラー34Cが走査方向Xに沿って1列に配列された状態で複数個設けられている。なお、本実施形態では、搬送機構24、給送モーター41および搬送モーター44等により、搬送部の一例が構成される。
図4に示す制御部50は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動制御することにより、搬送機構24が媒体Pを搬送する搬送制御を行う。制御部50は、第1エンコーダー43から入力する検出信号の例えばパルスエッジの数を計数した計数値に対応する目標速度で給送モーター41を速度制御することにより、媒体Pの給送速度を制御する。また、制御部50は、第2エンコーダー45から入力した検出信号の例えばパルスエッジの数を計数した計数値に対応する目標速度で搬送モーター44を速度制御することにより、媒体Pの搬送速度を制御する。なお、本例では、給送モーター41と搬送モーター44は、直流モーター(DCモーター)であるが、そのうち少なくとも一方をステッピングモーターとしてもよい。この場合、制御部50が出力するステップ数(指令値)に基づいてモーターを速度制御するため、エンコーダー43,45のうち少なくとも一方を廃止できる。この場合、給送中および搬送中の媒体Pの搬送位置は、モーター制御に使用するステップ数を計数した計数値により取得する。
また、図4に示すように、キャリッジ36は、本体15内の不図示のフレームに取着された一対のプーリー46,46に巻き掛けられた無端状のタイミングベルト47の一部に固定されている。図4における右側のプーリー46はキャリッジモーター48の駆動軸に連結されており、キャリッジモーター48が正逆転駆動されることによりタイミングベルト47を介してキャリッジ36は走査方向Xに往復動する。
また、筐体153内には、キャリッジ36の移動経路に沿ってリニアエンコーダー49が走査方向Xに沿って延びるように張設されている。リニアエンコーダー49は、一定ピッチの多数の光透過部(例えばスリット)を有するテープ状の符号板49Aと、キャリッジ36に設けられた発光部と、発光部から符号板49Aの光透過部を透過した光を間欠的に受光する受光部とを有する光学式のセンサー49Bとを備える。リニアエンコーダー49は、キャリッジ36の走査方向Xにおける移動距離に比例する数のパルスを含む検出信号を出力する。
図4に示す制御部50は、キャリッジモーター48を駆動制御してキャリッジ36を走査方向Xに移動させる移動制御と、印刷データPD(図7参照)に基づき印刷ヘッド38にインク滴を吐出させて媒体Pに印刷データPDに基づく画像(文書を含む)を印刷させる印刷制御(吐出制御)とを行う。詳しくは、制御部50は、リニアエンコーダー49からの検出信号のパルスを検出して把握されるキャリッジ36の移動位置、移動速度及び移動方向に基づいて、キャリッジ36の速度制御及び位置制御を行う。印刷ヘッド38は、支持台35の上面に突設された複数のリブ35Aに支持された媒体Pに対して適切なギャップを隔てた状態でキャリッジ36と共に走査方向Xに移動し、その移動過程で媒体Pに向けてインク滴を吐出する。
シリアル式の印刷装置12は、印刷ヘッド38が走査方向Xに1回移動して媒体Pに1行分の印刷をする印刷動作と、媒体Pを搬送方向Yに次(次行)の印刷位置まで搬送する搬送動作とを略交互に繰り返すことで、印刷データPDに基づく画像を媒体Pに印刷する。本例では、キャリッジ36の走査方向Xへの移動に伴い印刷ヘッド38が媒体Pに1行分の印刷をする1回の移動を「パス」ともいう。印刷ヘッド38が1回目から最終のn回目(但しnは印刷内容に応じて決まる自然数)までのパスで、1枚分の印刷が行われる。印刷中の媒体Pは、印刷が進むに従って、最初は搬送ローラー対33のみにニップされ、次の段階で搬送ローラー対33と排出ローラー対34との両方にニップされ、最後の段階で排出ローラー対34のみにニップされる。
図4においてキャリッジ36の移動経路上の一方の端部(同図では右端部)は、キャリッジ36が非印刷時に待機するホーム位置HP(ホームポジション)となっている。このホーム位置HPに配置されたキャリッジ36の直下に相当する位置には、印刷ヘッド38のクリーニング等を行うメンテナンス装置54が配設されている。
また、図4及び図5に示すように、搬送方向Yに中間ローラー30と搬送ローラー対33との間における搬送経路上の所定位置には、媒体Pの有無を検知可能な第1センサー51及び第2センサー52が搬送方向Yに所定の間隔をあけてこの順番に配置されている。また、搬送経路に沿う方向で第1センサー51と第2センサー52との間には第3センサー53が設けられている。制御部50は、各センサー51〜53の検出信号を媒体Pの搬送制御に使用する。なお、本実施形態の制御部50は、後述する重ね連送を伴う搬送制御において第1センサー51の検出信号を使用する。
図5に示すように、第1センサー51は、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所の搬送方向Yの下流側近傍位置で媒体Pの有無を検知可能である。本例の第1センサー51は、接触式センサーであり、媒体Pと接触可能なレバー51Aを有している。レバー51Aが図5における実線位置にあるときに第1センサー51は媒体Pを非検知で、媒体Pに押されて同図に二点鎖線で示す検知位置に配置されることで媒体Pを検知し、検知信号を出力する。第1センサー51は、例えば非検知時にOFFし、検知時にONする。また、第2センサー52は、搬送ローラー対33のニップ箇所の搬送方向Yの上流側近傍位置で媒体Pの有無を検知可能である。本例の第2センサー52は、接触式センサーであり、媒体Pと接触可能なレバー52Aを有している。なお、各センサー51〜53は、接触式センサーに替え、光学式センサーでもよい。
図4に示すように、本実施形態では、先に給送された媒体P(以下「先行媒体P1」ともいう。)の後端部の余白部と、先行媒体P1の次に給送された媒体P(以下「後続媒体P2」ともいう。)の先端部とを少なくとも一部重ねた状態を維持して先行媒体P1と後続媒体P2とを一緒に搬送する重ね連送が行われる。すなわち、先行媒体P1へのn回目のパス(以下「ラストパス」ともいう。)の印刷動作を終えると、図4に示すように先行媒体P1と後続媒体P2とを一部重ねた状態を維持しつつ、後続媒体P2を印刷開始位置(図4に示す位置)まで搬送(頭出し)する。このため、先行媒体P1と後続媒体P2との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式の場合に比べ、先行媒体P1の印刷終了時点から後続媒体P2の印刷開始時点までの待ち時間を短縮できる。この重ね連送を行うに当たり、少なくとも先行媒体P1のラストパスの印刷動作を終了するまでに事前に、後続媒体P2を先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で待機位置Yw(図4参照)まで給送し、後続媒体P2を先行媒体P1に一部重なる状態に追い付かせる重ね動作(追い付き給送動作)を行う必要がある。
次に、図5を参照して、重ね動作と重ね連送とを行うための給送機構26の構成及び制御について説明する。図5に示すように、中間ローラー30は、搬送ローラー対33から反転通路40を通って搬入された片面が印刷済みの媒体Pを比較的大きな曲率半径で反転させるために大径となっている。このため、大径の中間ローラー30とその上側寄りの位置で当接する第2従動ローラー32とのニップ箇所である第1ニップ位置NP1に対して、搬送ローラー対33のニップ箇所である第2ニップ位置NP2は、重力方向Zの下側に位置する。
図5に示すように、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)よりも少し下流側となる位置には、媒体Pを案内する案内部材55が配置されている。案内部材55は、第1ニップ位置NP1から送り出される媒体Pの送り出し経路(射出経路)が、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ位置NP1における接線方向よりも、より上側(重力方向Zと反対側)の位置を送り出し方向として指向するように媒体Pを案内する。本例では、案内部材55はその案内面(上面)が水平となる姿勢に配置され、その送り出し案内方向が一例として水平方向となっている。
図5に示すように、中間ローラー30の第1ニップ位置NP1から搬送ローラー対33の第2ニップ位置NP2へ至る搬送経路に沿ったその上側には、搬送方向Yの下流側ほど低くなる斜状のガイド面56Aを有する天井壁部56が配置されている。案内部材55による案内方向(例えば水平方向)は、ガイド面56Aと交差している。案内部材55から案内方向へ所定の給送速度で送り出された媒体Pは、ガイド面56Aに沿ってなるべく上限位置を保つ経路で搬送ローラー対33へ向かって搬送される。搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも搬送方向Yの少し上流側位置には、重ね動作のときの後続媒体P2の目標位置となる待機位置Ywが設定されている。後続媒体P2がガイド面56Aに沿って給送されることによって、重ね動作時に待機位置Ywに到達した後続媒体P2の先端部が先行媒体P1の後端部に対して上側から重ね易くなっている。
また、図5に示す天井壁部56と重力方向Zに対向する下方位置には、第1ニップ位置NP1から外れた後に案内部材55から落下した媒体Pの後端部を支持するガイド面57Aを有する支持部材57が配置されている。ガイド面57Aは、案内部材55の下流端の下方に相当する上流側部分で下流側ほど低くなるように凹状に湾曲した湾曲面部と、下流側部分でほぼ水平に延びる平坦面部とを有している。案内部材55から落下した後の後続媒体P2の後端部は、ガイド面57Aに沿って搬送ローラー対33のニップ位置NP2へほぼ水平の搬送経路で第1ニップ位置NP1に対して比較的低い位置を通って案内される。このため、重ね動作でガイド面56Aに沿って案内された後続媒体P2の先端部は、先行媒体P1の後端部の上側に重ねられ易くなっている。
図4に示す給送モーター41と各ローラー28,30との動力伝達経路上にはクラッチ機構42が介装されている。給送モーター41は正逆転駆動が可能なモーターからなる。給送モーター41は、クラッチ機構42を介して給送ローラー28と中間ローラー30とを駆動させる。給送モーター41が正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)されると、クラッチ機構42が第1切換位置に切り換えられ、給送ローラー28および中間ローラー30が媒体Pを搬送経路に沿って印刷部25側へ搬送可能な正転方向(図5における矢印方向)に回転する。一方、給送モーター41が逆転方向(CCW方向)に駆動されると、クラッチ機構42が第2切換位置に切り換えられ、給送ローラー28は回転せず、中間ローラー30のみが正転方向に回転する。また、本実施形態のクラッチ機構42は、給送ローラー28の第1回転速度(第1周速度)と、中間ローラー30の第2回転速度(第2周速度)との間に所定の速度差を作り出す減速機構を内蔵する。このため、給送ローラー28の第1周速度よりも、中間ローラー30の第2周速度の方が大きくなっている。
次に、図6を参照し、印刷ヘッド38について説明する。図6に示すように、印刷ヘッド38の底面であるノズル開口面38Aには、インク色の種類と同数の1つ以上のノズル列381が設けられている。図6の例では、黒(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクをそれぞれ吐出可能な4つのノズル列381が設けられている。ノズル列381は、搬送方向Yに一定のノズルピッチで一列に配列された♯1,♯2,…,♯Q(但しQは2以上の自然数)で示される計Q個(例えば360個)のノズル382からなる。ノズル列381を構成するノズル382のうち搬送方向Yの最下流に位置する♯1のノズル382を「最下流ノズル♯1」と称し、最上流に位置する♯Qのノズル382を「最上流ノズル♯Q」とも称する。また、図6に示すように、最下流ノズル♯1から最上流ノズル♯Qまでのノズル382が位置する範囲の搬送方向Yにおける長さを「ノズル列長NL」という。なお、インク色は4色に限定されず、黒1色、カラー3色、あるいは5色以上でもよい。また、ノズル列381を構成するノズル382の配列パターンは、1列に限らず、2列のノズルが列方向に半ピッチずつずれたジグザグ状の配列でもよい。また、一列当たりのノズル数は複数であればその数は適宜変更してよい。
また、印刷ヘッド38には、ノズル382からインク滴を吐出するときに駆動される駆動素子383が、ノズル382と対応する位置に内蔵されている。そして、ノズル382と駆動素子383とにより構成される吐出部384が、ノズル列ごとに複数(Q個)設けられている。なお、図6では、印刷ヘッド38の外側に駆動素子383を模式的に描いている。
次に、図7を参照して印刷装置12の電気的構成を説明する。図7に示すように、印刷装置12の制御部50は、インターフェイス61を介して例えばホスト装置100から印刷データPD(印刷ジョブデータ)を受信する。
複合機11は、使用時に例えばホスト装置100と通信可能に接続される。ホスト装置100は、本体101と、キーボード102Aおよびマウス102Bを含む入力装置102とモニター103とを備える。本体101にはソフトウェアからなるプリンタードライバー104が内蔵されている。プリンタードライバー104は、印刷条件に基づいて、印刷対象の画像データに対して、解像度変換処理、色変換処理およびハーフトーン処理等を含む公知の画像処理を施して印刷画像データを生成する。そして、プリンタードライバー104は、印刷画像データに印刷制御コマンドをヘッダーとして付して生成した印刷データPDを、印刷装置12へ送信する。このとき、印刷装置12が1枚分の印刷データを格納できない記憶容量の比較的小さい機種である場合、プリンタードライバー104は、印刷データPDを例えば1行分ずつに分けた印字データを複数回送信する。また、印刷装置12が1枚分の印刷データを格納可能な記憶容量の比較的大きい機種である場合、プリンタードライバー104は、印刷データPDを1回で送信する。印刷装置12はホスト装置100から受信した印刷データPD中のコマンドを解釈してそのコマンドの指示に従って搬送制御およびキャリッジ制御を行うとともに、印刷データPD中の印刷画像データに基づき印刷部25(詳しくは印刷ヘッド38)のインク吐出制御を行うことで、画像等の印刷を行う。
また、インターフェイス61には、操作パネル16が電気的に接続されている。電源ボタン17の操作時や表示部18(いずれも図1参照)へのタッチ操作時の各操作信号が操作パネル16から制御部50へ入力される。また、制御部50は、操作パネル16の表示部18にメニュー画面や各種のメッセージ等を表示する。
図7に示す制御部50は、前述のインターフェイス61の他、同図に一点鎖線で示すコンピューター62(例えばマイクロコンピューター)、ヘッド駆動回路63、モーター駆動回路64〜66を備える。コンピューター62には、入力系として、操作パネル16のスイッチ系、エンコーダー43,45、リニアエンコーダー49、第1センサー51、第2センサー52及び第3センサー53が電気的に接続されている。また、コンピューター62には、出力系として、操作パネル16の表示部18および各種駆動回路63〜66が電気的に接続されている。コンピューター62は、ヘッド駆動回路63を介して印刷ヘッド38を制御するとともに、各モーター駆動回路64〜66を介してキャリッジモーター48、給送モーター41および搬送モーター44を制御する。
図7に示すコンピューター62は、CPU71(Central Processing Unit)、ASIC72(Application Specific IC(特定用途向けIC))、ROM73、RAM74及び不揮発性メモリー75を備え、これらはバス76を介して互いに接続されている。
ROM73には、各種制御プログラムおよび各種データ等が記憶されている。RAM74には、印刷装置12が受信した印刷データPD、CPU71による演算結果等の各種データ及びASIC72で処理された各種データ等が一時記憶される。不揮発性メモリー75には、ファームウェアプログラムをはじめとする印刷制御に必要な各種のプログラムPR及び印刷処理に必要な各種データ等が記憶されている。プログラムPRには、図20にフローチャートで示される搬送制御用のプログラムが含まれる。
コンピューター62は不揮発性メモリー75から読み出したプログラムPRに従って動作し、印刷装置12を制御する。詳しくは、コンピューター62は、リニアエンコーダー49からの検出信号に基づきキャリッジモーター48を制御するとともにヘッド駆動回路63を介して印刷ヘッド38を制御することにより、キャリッジ36を走査方向Xに移動させながら印刷ヘッド38からインク滴を吐出させて1行分ずつ印刷する印刷動作を制御する。また、コンピューター62は、第1エンコーダー43の検出信号に基づき給送モーター41を駆動制御するとともに、第2エンコーダー45の検出信号に基づき搬送モーター44を駆動制御することにより、媒体Pの印刷開始位置までの給送動作、印刷中の媒体Pの搬送動作および印刷終了後の媒体Pの排出動作を含む搬送制御を行う。この搬送制御には、後続媒体P2を先行媒体P1に一部重なる状態に待機位置Yw(図4参照)まで給送する重ね動作、および先行媒体P1と後続媒体P2とを重ね状態を維持したまま同じ搬送速度で搬送する重ね連送の制御が含まれる。なお、モーター41,44のうち少なくとも一方をステッピングモーターに替えてもよく、この場合、コンピューター62は、指令値としてステップ数をモーター駆動回路65,66のうち少なくとも一方に出力することにより、対応するモーターを駆動制御する。
コンピューター62は、印刷データPD(印刷ジョブデータ)から印刷条件情報を取得し、例えば普通紙かつバンド印刷かつ片面印刷の印刷ジョブであれば、カセット21,22内の媒体Pを印刷開始位置まで給送する給送方式として重ね給送方式を選択し、それ以外の印刷条件の印刷ジョブであれば、通常給送方式を選択する。なお、上記の給送方式の選択方法は一例であり、例えば高速印刷モードの片面印刷であれば重ね給送方式を選択し、高精細印刷モードであれば通常給送方式を選択してもよい。また、少なくとも重ね給送方式が選択された場合および高速印刷モードでは、印刷部25の往動時と復動時の両方で印刷をする双方向印刷が行われ、高精細印刷モードでは、印刷部25の単一方向のみで印刷を行う単一方向印刷が行われる。
次に図8〜図14を参照して、重ね給送方式における搬送制御の内容を説明する。この重ね給送方式では、重ね動作および重ね連送が含まれる。
図8に示すように、給送モーター41が正転駆動されると、図9に示す給送ローラー28の回転により最上位の先行媒体P1がカセット21から送り出され、その送り出された先行媒体P1は斜状の分離板157の面(内面)に摺動して1枚に分離される。分離された媒体Pは、回転する中間ローラー30の外周面と2つの従動ローラー31,32との間に2箇所でニップされた状態で中間ローラー30の外周に沿った経路で搬送された後、搬送ローラー対33に向かって給送される。その後、先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。スキュー取り動作を終えると、給送モーター41および搬送モーター44が同期して駆動されることで、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34とが同じ搬送速度で駆動され、先行媒体P1は印刷開始位置に搬送される(頭出しされる)。
次に図8に示すように、先行媒体P1が頭出しされた後、キャリッジモーター48の駆動により印刷部25を移動して行われる印刷動作と、給送モーター41および搬送モーター44との駆動とにより先行媒体P1を搬送する搬送動作とが略交互に行われる。詳しくは、頭出し以後、図10に示すキャリッジ36の走査方向Xへの1回の移動中(1パス中)に印刷ヘッド38からインク滴を吐出して先行媒体P1に1行分の印刷を行う印刷動作と、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する搬送動作とが略交互に行われることで印刷が進められる。印刷が進むことで先行媒体P1は間欠的に搬送方向Yの下流側へ搬送され、その印刷の途中で給送ローラー28が後続媒体P2に当接するようになると、後続媒体P2の給送が開始される。カセット21から送り出された後続媒体P2は、分離板157の面に摺動して1枚に分離され、中間ローラー30へ送られる。この給送過程では、クラッチ機構42(図7参照)内の減速機構による給送ローラー28と中間ローラー30との速度差により、後続媒体P2が先行媒体P1の搬送速度よりも遅い給送速度で給送されるので、先行媒体P1の搬送が進むに連れて、後続媒体P2との間隔は徐々に広がる。このため、通常給送方式で媒体Pを搬送する際に、第2センサー52が媒体P1,P2の端部を検知するうえで必要な間隔が媒体P1,P2間に確保される。
ところで、印刷中の先行媒体P1が中間ローラー30と第2従動ローラー32との間にニップされているうちは、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動することにより、中間ローラー30と搬送ローラー対33とを同じ搬送速度で同期させて回転させる必要がある。そして、先行媒体P1の後端が中間ローラー30と第2従動ローラー32との第1ニップ位置NP1から外れると、中間ローラー30を搬送ローラー対33から独立して回転させることが可能になるため、後続媒体P2を先行媒体P1の後端部に重ねる重ね動作が可能になる。
図10に示すように、先行媒体P1の後端が中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ(第1ニップ位置NP1)から外れると、図8に示すように第1センサー51がONからOFFへ切り換わることにより先行媒体P1の後端が検知される。第1センサー51がONからOFFへ切り換わると、そのとき駆動中の給送モーター41の駆動速度が、搬送動作時の速度よりも高速な速度に切り換えられる。これにより図11に示すように、後続媒体P2の重ね動作(追い付き給送動作)が開始される。重ね動作では、後続媒体P2が印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な給送速度で給送され、重ね動作の目標位置である待機位置Yw(図5、図12参照)まで給送される。このとき、図11に示すように、重ね動作によって、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)から接線方向へ送り出された後続媒体P2は、第1ニップ位置NP1の下流側近傍に配置された案内部材55により略水平方向へ案内されるため、ガイド面56Aに沿って搬送される。
図8に示すように、重ね動作の開始後直ぐに第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知することによりOFFからONに切り換わっており、この検知時点から給送モーター41は目標搬送量に応じた駆動量だけ駆動された後に駆動停止される。これにより図12に示すように、後続媒体P2はその先端が待機位置Ywに到達した位置で停止する。その後、重ね動作を終えた後続媒体P2は、先行媒体P1に最終行を印刷するラストパスの印刷動作が行われるときまで、待機位置Ywで待機する。そして、図8に示すラストパスの印刷動作開始前の所定時期の判定で、重ね可能条件が成立すれば、ラストパスの印刷動作中に給送モーター41が正転駆動され、スキュー取り動作が行われる。すなわち、図13に示すように、給送モーター41の正転駆動により中間ローラー30が所定回転量だけ回転して後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作が行われ、後続媒体P2のスキューが矯正される。
図8に示すように、ラストパスの印刷動作を終了すると、給送モーター41および搬送モーター44が同期して駆動され、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34が同じ搬送速度(周速度)で駆動されることにより、先行媒体P1と後続媒体P2とがそのときの重ね状態を維持したまま一緒に搬送される重ね連送が行われる。すなわち、先行媒体P1と後続媒体P2とがそのときの重ね量LP(図13参照)を維持したまま同じ搬送速度で、後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送される重ね連送が行われる。重ね連送の結果、図14に示すように、先行媒体P1の後端余白部に後続媒体P2の先端部が重なる状態で、後続媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。
次に図15を参照して重ね可能条件について説明する。図15に示すように、待機位置Ywは、搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも所定長さだけ搬送方向Yの上流側の位置に設定されている。所定長さは、一例として1〜20mmの範囲内の値である。待機位置Ywは、スキュー取り前の後続媒体P2のスキュー(斜行)や搬送誤差を考慮して、後続媒体P2の先端が搬送ローラー対33のニップ位置NP2に至らない値に設定されている。重ね動作で後続媒体P2の先端部を先行媒体P1の後端部に重ねられる頻度を高めるためには、待機位置Ywは、搬送方向Yの下流側の位置であるほど好ましい。なお、待機位置Ywは、第2ニップ位置NP2と、2つのニップ位置NP1,NP2間の中間位置との間の範囲内の適宜な位置に設定できる。
図15において、第2ニップ位置NP2から先行媒体P1の後端位置Y1までの長さが、重ね連送を実施するうえで最小限必要な最小重ね量Lminを決める下限LLよりも短いと、重ね連送時に先行媒体P1と後続媒体P2との間に最小重ね量Lminの重なりを確保できない。このため、先行媒体P1の後端位置Y1が、下限LL以上であることを条件の1つとしている。
また、先行媒体P1の後端部が案内部材55上に載っていると、後続媒体P2の先端部が先行媒体P1の後端部の下側へ入り込み、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね順が上下逆転した不適切な重なりになる虞がある。このため、上限位置YUは、ニップ位置NP2から案内部材55の下流端位置までの距離LUに設定されている。そのため、本例では、先行媒体P1の後端位置Y1が、重ね可能領域LA(=LL〜LU)内にあることを重ね可能条件の1つである余白条件に設定している。なお、案内部材55を設けない構成も可能であり、この構成も含めれば、重ね可能領域LA(=LL〜LU)は、搬送経路に沿う方向において第1ニップ位置NP1と第2ニップ位置NP2との間の範囲内に設定されていればよい。
また、先行媒体P1の後端余白長Ybm、後続媒体P2の先端余白長Ytmとすると、余白条件は、図3に示す各距離Ln、LU、Lrを用いて以下で表わされる。
Ybm≧Ln+Lmin+α…(1)
Ybm≦LU…(2)
Ytm≧Lr+β…(3)
ここで、α,βは、製造誤差を見込んだマージンであり、例えば0.1〜5mmの範囲内の値である。
なお、重ね可能条件には、上記余白条件の他、印刷デューティー値が閾値以下であることも条件の1つに含まれる。ここで、印刷デューティー値とは、媒体Pに印刷される単位面積当たりのインク量の比率(%)を指す。例えばベタ印刷(塗り潰し印刷)では印刷デューティー値が100%となる。本例では、印刷デューティー値が閾値以下という印刷されるインク量の多くないときに限り、重ね可能条件が成立する。
このように重ね可能条件の成否を判定する判定時期は、先行媒体P1の後端Y1が重ね可能領域LA内に位置するときに行われる印刷動作のうち最後(最終パス)の印刷動作が行われるときの搬送位置に設定されている。つまり、判定時期は、先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LAの下限位置YLを通過することになる搬送動作の開始位置に設定されている。特に本例の判定時期は、最終の搬送動作の開始直前のタイミングに設定されている。制御部50は、判定時期に重ね可能条件が成立すると、先行媒体P1の最終行(ラストパス)の印刷動作終了後に重ね連送を実施する。なお、重ね可能領域LAは、例えば待機位置Ywと、案内部材55の搬送方向Yの下流端位置との間の範囲内、案内部材55が無い構成では、待機位置Ywと第1ニップ位置NP1との間の範囲内の任意の領域に設定できる。
図7に示すコンピューター62は、重ね可能条件の成否の判定を次のように行う。コンピューター62は、印刷データPD中の印刷条件情報から先行媒体P1の後端余白長Ybm(ボトムマージン)と後続媒体P2の先端余白長Ytm(トップマージン)とを取得し、両余白長Ybm,Ytmが重ね連送が可能な条件を満たすか否かを判断する。本実施形態では、印刷データPDのうち印刷ヘッド38の制御に使用する印字データを1パス分(1行分)ずつ順番に受信する。印字データには、搬送量を含む改行および改頁の各種コマンドも含まれる。RAM74の所定記憶部には、1ページ分の全パスのうち複数パス分(例えば2〜5パスの範囲内の所定値)の印字データが記憶される。この場合、印刷データPDのうち最初に受信した印字データに付されたヘッダー情報を基に少なくとも直近2頁分の余白情報を取得できる場合は、予め重ね可能条件の成否を判定する。但し、印字データを受信したタイミングでないと余白長を把握できない構成の場合は、先行媒体P1の最終行および後続媒体P2の初回行の印字データを受信して余白長Ybm,Ytmを把握できたタイミングで、重ね可能条件の成否を判定してもよい。後者の場合、基本的に重ね可能条件の成否の判定が、重ね動作開始以後に行われることになる。つまり、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知すると、重ね可能条件の成否を判定することなく、後続媒体P2の重ね動作を行い、先行媒体P1の最終行の印字データおよび後続媒体P2の1行目の印字データを受信できた時点で重ね可能条件の成否を判定する。
コンピューター62は、上記重ね可能条件が成立しなかった場合、この判定前に重ね動作を既に実施した場合を除き、重ね動作および重ね連送を行わない。例えば先行媒体P1の後端が第1センサー51に検知される前に、先行媒体P1がラストパス(最終行)の印刷を終えた場合は、重ね可能条件不成立のため、重ね動作および重ね連送は行われない。この場合、コンピューター62は、先行媒体P1の排出過程でその後端が第1センサー51に検知されると、後続媒体P2の給送を開始し、例えば先行媒体P1の排出後に後続媒体P2のスキュー取り動作と後続媒体P2を印刷開始位置まで搬送する頭出しとを行う。
このため、コンピューター62は、重ね可能条件が不成立のため重ね動作を行わない場合、先行媒体P1と後続媒体P2との間に間隔を開けて後続媒体P2を給送する通常給送方式を選択する。通常給送方式では、コンピューター62は、第2センサー52が媒体Pの先端を検知した検知位置に基準に媒体Pの搬送位置を把握して媒体Pの搬送制御を行う。
また、図7に示すASIC72は、印刷データPDに基づいてヘッド駆動回路63を介して印刷ヘッド38のインク吐出制御を行い、媒体Pに印刷データPDに基づく画像を印刷させる。また、ASIC72は、第1カウンター81と第2カウンター82とを備える。
制御部50は、第1センサー51がONからOFFに切り換わって先行媒体P1の後端を検知した時点から、第1カウンター81が第1エンコーダー43の検出信号のパルスエッジの数を計数し、その計数値C1から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。先行媒体P1の後端位置Y1は、搬送ローラー対33のニップ位置NP2から搬送方向Yの上流側への距離で示される。図15に示すように、第1センサー51の検知位置である第1ニップ位置NP1から第2ニップ位置NP2までの距離をYN、第1カウンター81の計数値をC1とおくと、第2ニップ位置NP2を基準とする先行媒体P1の後端位置Y1は、Y1=YN−C1で示される。そして、制御部50は、取得した先行媒体P1の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUという余白条件を満たすか否かを判定する。
また、制御部50は、第1センサー51がOFFからONに切り換わって後続媒体P2の先端Y2を検知した時点から、第2カウンター82が第1エンコーダー43の検出信号のパルスエッジの数を計数する計数処理を開始し、その計数値C2から、後続媒体P2の先端位置Y2(=YN−C2)を取得する。制御部50は、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2とに基づき先行媒体P1と後続媒体P2との重ね量LPを取得可能である。
なお、第2センサー52は、先行媒体P1と後続媒体P2とを間隔を開けた状態で給送する通常給送時に媒体Pの先端及び後端の検知に使用される。重ね給送時は先行媒体P1と後続媒体P2との間に間隔がないため、第2センサー52は使用されない。通常給送時は、第2センサー52が媒体Pの先端を検知すると、その検知時点から第2カウンター82が第2エンコーダー45の検出信号のパルスエッジの数を計数する計数処理を開始し、第2カウンター82の計数値から取得される媒体Pの搬送位置に基づき媒体Pのスキュー取り動作および印刷開始位置まで搬送する頭出しが行われる。
以下、重ね動作及び重ね連送が行われる印刷装置12において、第1〜第6実施形態を順番に説明する。
ここで、第1実施形態は、重ね動作開始後に、先行媒体P1が重ね連送の実施可否を判定すべき判定位置に達したときに、後続媒体P2が重ね動作を終えて待機位置Ywに停止していること(重ね準備完了)を重ね連送実施の条件としている。このため、重ね準備完了していなければ重ね連送を中止することを基本とするが、条件によってはそのとき実施中の重ね動作を継続することで、重ね連送の実施頻度を高める実施形態である。第1実施形態には、第1実施形態の1〜3の3つが含まれる。
第2実施形態は、印刷ヘッド38が印刷に使用する搬送方向Yにおけるノズルの範囲を変更することで、最終行を印刷するときの先行媒体P1の後端位置Y1をなるべく搬送方向Yの上流側に位置させることで、重ね可能条件を満たし易くし、重ね連送の実施頻度を高めるものである。
第3実施形態は、重ね連送後の後続媒体P2の印刷で、先行媒体P1の後端部と重なった部分に印刷されることが原因で印刷画質が低下すると予測される所定の条件の下では、重ね連送を中止して、印刷画質の低下を未然に防止するものである。第3実施形態は、第3実施形態の1、2の2つが含まれる。
第4実施形態は、重ね動作中の後続媒体P2の動きを検出して、重ね動作失敗の可能性のある動きを検出した場合は、重ね連送を中止することで、重ね動作を失敗した状態のまま重ね連送を実施することに起因する印刷の失敗を回避するものである。第4実施形態には、第4実施形態の1、2の2つが含まれる。
第5実施形態は、重ね動作において後続媒体P2を待機位置Ywに停止させるときの停止位置精度を高めるものである。すなわち、待機位置Ywのすぐ上流側に配置された第2センサー52が媒体P1,P2の重なりによって後続媒体P2の先端を検知できなくても、第2センサー52よりも上流側に配置されて重ね動作の開始タイミングを決めるために用いられる第1センサー51を用いて停止位置精度を高めようとするものである。第5実施形態には、第5実施形態の1、2の2つが含まれる。
第6実施形態は、案内部材と支持部材とのうち少なくとも一方を可動式とし、重ね連送の成功率を高めるものである。なお、重ね連送の成功には、重ね動作から重ね連送までの一連の動作の成功が含まれ、この中にはスキュー取り動作の成功も含まれる。第6実施形態には、第6実施形態の1〜5の5つが含まれる。
以下、第1〜第6実施形態について順番に説明する。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、第1実施形態においては、中間ローラー30が第1ローラーの一例に相当し、第1従動ローラー31及び第2従動ローラー32が、複数の従動ローラーの一例に相当する。また、搬送ローラー対33が、第2ローラーの一例に相当する。以下、第1実施形態の1〜3について順番に説明する。
(第1実施形態の1)
重ね動作の開始後かつ先行媒体の最終行の印刷前の所定の判定時に、後続媒体の先端が待機位置Ywに到達しているか否かを判定する。後続媒体が待機位置Ywに到達していれば、最終行の印刷動作終了後に重ね連送を行うが、待機位置Ywに到達していなければ、重ね連送を行わない。
図16に示すように、待機位置Ywは、搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも所定の長さLだけ搬送方向Yの上流側の位置に設定されている。待機位置Ywは、スキュー取り動作前の後続媒体P2のスキューによる傾きや搬送誤差を考慮して、後続媒体P2の先端が搬送ローラー対33のニップ位置NP2に至らない値に少しのマージンを加えた値に設定されている。長さLは、例えば2〜10mmの範囲内の値に設定されている。重ね連送時の重ね量を少しでも多く確保するうえで、待機位置Ywは、搬送方向Yの下流側の位置であるほど好ましい。しかし、待機位置Ywを第2ニップ位置NP2に近付け過ぎると、重ね動作後の後続媒体P2の先端が搬送ローラー対33に当たってしまい、その回転時に搬送ローラー対33によって搬送されてしまう虞がある。そのため、待機位置Ywを上記の位置に設定している。なお、待機位置Ywは、第2ニップ位置NP2と、搬送方向Yにおける2つのニップ位置NP1,NP2間の中間位置との間の範囲内の適宜な位置に設定してもよい。
本実施形態の制御部50は、重ね動作の開始後、先行媒体P1の最終行の印刷が行われる搬送位置よりも搬送方向Yの上流側に位置する判定位置にあるときに、重ね動作が完了しているか否かを判定する。この判定位置において、重ね動作が完了していることを、重ね連送の実施を許可する条件としている。特に本実施形態では、図16に示すように、先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA内に位置する区間(LL≦Y1≦LU)のパスのうち最終パスの搬送位置(媒体停止位置)が、先行媒体P1の判定位置に設定されている。そして、先行媒体P1が判定位置にあるときに、後続媒体P2が重ね動作を完了して待機位置Ywに停止していることを、重ね連送の実行を許可する条件としている。以下、この条件を「第1重ね連送実行条件」という。
このように第1重ね連送実行条件の成否を判定する判定時期は、先行媒体P1の後端Y1が重ね可能領域LA内に位置するときに行われる1回以上の印刷動作におけるパスのうち最終パスの印刷動作が行われる搬送位置(判定位置)に設定されている。つまり、判定時期は、先行媒体P1が搬送されることによってその後端位置Y1が重ね可能領域LAの下限位置YLを通過することになる搬送動作(以下「最終の搬送動作」ともいう。)の開始位置に設定されている。特に本例の判定時期は、最終の搬送動作の開始直前のタイミングに設定されている。これは、先行媒体P1の後端Y1が重ね可能領域LAを抜けてから、後続媒体P2の先端が待機位置Ywに達しても、最小重ね量を確保できない虞があるからである。そのため、先行媒体P1の後端Y1が重ね可能領域LAを抜ける時点よりも、その抜けるときの最終の搬送動作の開始直前という少し早めのタイミングに設定している。また、判定時期を、最終の搬送動作の開始位置にある期間のうち、最終の搬送動作の開始直前のタイミングとしているのは、判定時期はなるべく遅くした方が、第1重ね連送実行条件の成立頻度が増すからである。制御部50は、判定時期に第1重ね連送実行条件が成立すると、先行媒体P1の最終行(ラストパス)の印刷動作終了後に重ね連送を実施する。なお、重ね可能領域LAは、例えば待機位置Ywと、案内部材55の搬送方向Yの下流端位置との間の範囲内、案内部材55が無い構成では、待機位置Ywと第1ニップ位置NP1との間の範囲内の任意の範囲に設定できる。
また、本実施形態では、判定時期に第1重ね連送実行条件が不成立であっても、所定条件の範囲内で重ね連送を実施し、所定条件の範囲外では重ね連送を実施しない。第1重ね連送実行条件が不成立であっても、所定条件の範囲内で重ね連送を実施するのは、重ね連送が実質的に可能な場合があるからである。特に本実施形態では、重ね動作で後続媒体P2が先行媒体P1に追い付くべき距離が比較的長いため、重ね連送の実施条件を実質的に満たす場合でも、判定時に重ね動作中となる場合が少なからずある。そこで、第1重ね連送実行条件が不成立でも、所定条件の範囲内で重ね動作を継続し、その完了後に重ね連送を実施する。本例では、所定条件として、次の所定位置条件を採用している。所定位置条件は、判定時の重ね動作中に、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2との位置関係を規定する条件である。判定時に重ね動作中であっても、所定位置条件を満たせば、最小重ね量を確保したうえで重ね連送を実施できる。本実施形態では、第1重ね連送実行条件に加え、判定時に第1重ね連送実行条件が不成立であっても、重ね連送の実行を許可する第2重ね連送実行条件が用意されている。第1重ね連送実行条件と第2重ね連送実行条件とのうち一方が成立すれば重ね連送の実行を許可する。なお、第2重ね連送事項条件の成立時は、次回以降の判定時(例えば最終の搬送動作以降の搬送動作の開始直前のタイミング)に第1重ね連送実行条件と同様の判定を行い、後続媒体P2が待機位置Ywに停止していることを確認できた場合に、最終行の印刷動作後に重ね連送を実施する。
次に図17を参照して、第2重ね連送実行条件について説明する。図17は、第1重ね連送実行条件の判定時において、後続媒体P2が重ね動作の途中にある状態を示す。判定時に重ね動作中である場合に判定される第2重ね連送実行条件は、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2との位置関係が、以下の所定位置条件を満たすことである。所定位置条件とは、先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA(=LL〜LU)の下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に位置し、かつ先行媒体P1と後続媒体P2とが搬送経路に沿う方向に所定距離を超えてまでは離れていないことである。ここで、所定距離を超えてまでは離れていないとは、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とが重なりを有する状態と、先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端とが接している状態と、先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端とが所定距離以内で離れている状態とを含む。ここで、所定距離は、後続媒体P2の重ね動作を継続して待機位置Ywに停止したとき、先行媒体P1との間に最小重ね量以上の必要な重なりを確保しうる値である。所定距離は、待機位置Yw、下限位置YL(最小重ね量)、追い付き給送速度プロファイル、先行媒体P1の搬送速度プロファイル、後端位置Y1及び先端位置Y2の各値に依存する。所定距離は可変の値でもよいし、固定値(最小の所定距離)でもよい。
また、図17において、第2ニップ位置NP2から後端位置Y1までの長さが最小重ね量よりも短いと、重ね動作を継続した後続媒体P2の先端が待機位置Ywに到達したときに、最小重ね量の重なりを確保できない。そのため、本例では、所定位置条件として、先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA(=LL〜LU)内にあって、かつ先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とが所定量(ymm)以上の重なりがあることという条件を設定している。換言すれば、所定位置条件は、先行媒体P1の後端位置Y1が、重ね可能領域LA(=LL〜LU)内に位置する場合において(LL≦Y1≦LU)、そのとき後続媒体P2の先端位置Y2が、先行媒体P1の後端位置Y1から搬送方向Yの下流側へ距離y(mm)の設定位置YSを過ぎていることを条件とする。この場合、所定量(ymm)は0(零)よりも大きな値であればよい。
制御部50は、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2とを取得し、LL≦Y1≦LUかつY1−Y2≧y(但しy>0)という第2重ね連送実行条件が成立すれば、後続媒体P2の重ね動作を継続し、第2重ね連送実行条件が不成立であれば、重ね動作を継続しない。制御部50は、重ね動作を継続して完了できた場合は、先行媒体P1への最終行の印刷動作終了後に、重ね連送を行う。一方、制御部50は、第2重ね連送実行条件が不成立であれば、重ね動作の中止後、重ね連送を行わず、媒体P1,P2間に間隔を作る間隔作成動作を行って、後続媒体P2を先行媒体P1との間に間隔を開けて印刷開始位置まで頭出しする通常給送を行う。
なお、本例では、第1重ね連送実行条件と第2重ね連送実行条件とで重ね可能領域LAを共通としたが、重ね可能領域LAをそれぞれの条件に適した異なる領域に設定してもよい。また、上記第2重ね連送実行条件からLL≦Y1の条件を無くしてもよい。この場合、継続した重ね動作の完了後の最終判定時に最小重ね量が確保されていなければ、重ね連送の実施を中止すればよい。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図8、図18〜図20を参照して、制御部50内のコンピューター62が図20にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む搬送制御について説明する。なお、図8、図18及び図19では、給送モーター41は正転(CW)と逆転(CCW)とを区別してその駆動速度を示し、キャリッジモーター48は正転と逆転とを区別せずモーター駆動速度を示している。また、搬送モーター44は、正転駆動のみする。
ステップS11において、先行媒体の印刷を開始する。すなわち、図8に示すように、給送モーター41が正転方向(CW方向)に駆動され、給送ローラー28及び中間ローラー30の回転により先行媒体P1は中間ローラー30を経由して給送されたのち、第1ニップ位置NP1から第2ニップ位置NP2に向かって搬送される。その先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられることでスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次に給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とが同期して行われ、先行媒体P1は中間ローラー30および搬送ローラー対33とが同じ搬送速度で回転することにより印刷開始位置まで頭出しされる。そして、キャリッジモーター48が駆動されてキャリッジ36が走査方向Xに移動する過程で印刷ヘッド38がインク滴を吐出して先行媒体P1に1行分(1パス分)の印刷が行われる。以後、次行の印刷位置まで先行媒体P1を搬送する搬送動作と、1行分を印刷する1パスの印刷動作とが略交互に行われ、先行媒体P1への印刷が進められる。
ステップS12では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を通過して、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51がONからOFFへ切り換わればステップS13に進み、ONからOFFへ切り換わらなければ、切り換わるまで待機する。この待機の期間も先行媒体P1への印刷は進められる。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わった際にリセットされた第1カウンター81に計数処理を行わせることで、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS13では、重ね可能条件が成立したか否かを判断する。重ね可能条件が成立すればステップS14に進み、重ね可能条件が不成立であれば当該ルーチンを終了する。当該ルーチンを終了した場合は、媒体P1,P2間に間隔を開けて給送する通常給送を行う。
ステップS14では、後続媒体を待機位置まで給送する重ね動作を開始する。詳しくは、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると(S12で肯定判定)、給送モーター41を正転駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywに向かって給送する。この給送過程では、コンピューター62は、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知した際にリセットした第2カウンター82に計数処理を行わせることで、その計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。そして、後続媒体P2の先端位置Y2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41の逆転駆動を継続する。
ステップS15では、先行媒体の後端が重ね可能領域内にあるときの最終パス(「重ね可能最終パス」ともいう。)であるか否かを判断する。つまり、重ね可能最終パスの印刷動作を終えた後の次回の搬送動作の開始直前のタイミングに設定された判定時期であるか否かを判断する。先行媒体P1が重ね可能最終パスの搬送位置にある判定時期になればステップS16に進み、その判定時期でなければ、その判定時期になるまで待機する。なお、この待機期間の間も、先行媒体P1の印刷は継続される。
ステップS16では、重ね動作を完了しているか否かを判断する。つまり、第1重ね連送実行条件が成立するか否かを判断する。本例では、コンピューター62が、後続媒体P2が待機位置Ywに停止しているか否か、つまり重ね連送を実施する準備が完了した重ね準備完了の状態にあるか否かを判断する。例えば図16に示すように、後続媒体P2が待機位置Ywに停止しており、重ね動作が完了済みであれば、ステップS22に進む。また、図17に示すように、後続媒体P2が待機位置Ywにまだ停止しておらず、重ね動作の途中にあれば、ステップS17に進む。
図20に示すステップS22では、ラストパス中にスキュー取り動作を行う。すなわち、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの位置まで搬送する搬送動作を終えて搬送モーター44の駆動を停止すると、給送モーター41を逆転駆動させ、後続媒体P2の待機位置Ywからの搬送を開始してその先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。
そして、次のステップS23では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重ね量を維持したまま同じ搬送速度で一緒に搬送する重ね連送(図8のハッチング部)を行う。これにより後続媒体P2は、先行媒体P1との重ね量を維持したまま印刷開始位置に頭出しされる。こうして図8に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目と2枚目の媒体P1,P2が余白量の少なくとも一部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置に搬送する頭出し時の搬送量が、後続媒体P2を先行媒体P1との間に間隔を開けて搬送する通常給送方式の場合に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、図20におけるステップS17では、ラストパスの印刷中であるか否かを判断する。ラストパスの印刷中でなければ、つまりラストパスの印刷がまだ開始されていなければステップS18に進み、ラストパスの印刷中であればステップS24に進む。
ステップS18では、先行媒体の後端が重ね可能領域内にあり、かつ先行媒体の後端部と後続媒体の先端部とはymm以上重なっているか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2との位置関係が所定位置条件を満たすか否かを、第2重ね連送実行条件が成立するか否かの判断をもって行う。第2重ね連送実行条件は、換言すれば、先行媒体P1の後端が重ね可能領域LA内にあり、かつ先行媒体P1の後端位置Y1から搬送方向Yの下流側へ距離ymmの位置に設定された設定位置YS(図17を参照)を、後続媒体P2の先端が通過していることを条件とする。コンピューター62は、第1カウンター81の計数値から取得した後端位置Y1と、第2カウンター82の計数値から取得した先端位置Y2とを用いて、第2重ね連送実行条件(LL≦Y1<LUかつY1−Y2≧y)が成立するか否かを判断する。この第2重ね連送実行条件が不成立であればステップS24に進み、第2重ね連送実行条件が成立すればステップS19に進む。
ステップS19では、後続媒体の重ね動作を継続する。コンピューター62は、給送モーター41の逆転駆動を継続することで、後続媒体P2の重ね動作を継続する。このため、重ね動作中の後続媒体P2は、引き続き待機位置Ywに向かって移動する。
次のステップS20では、先行媒体の1パス分の印刷を完了したか否かを判断する。最終の搬送動作以後も、ラストパスの印刷動作を終わるまで、キャリッジ36が走査方向Xに移動して1パス分を印刷する印刷動作と、先行媒体P1を次の行の印刷位置まで搬送する搬送動作が略交互に繰り返される。そして、このステップS20では、先行媒体の1パス分の印刷動作を完了したタイミングであるか、つまり次の搬送動作の開始直前のタイミングであるか否かを判断する。先行媒体P1の1パス分の印刷を完了すればステップS21に進み、1パス分の印刷を完了していなければステップS17に戻る。
ステップS21では、重ね動作を完了したか否かを判断する。つまり、後続媒体P2が待機位置Ywに停止しているか否かを判断する。重ね動作を完了していなければステップS17に戻り、重ね動作を完了していればステップS22に進む。
ステップS17に戻った場合、以後、ステップS17〜S21の処理を、ステップS17で肯定判定(ラストパスの印刷中)になるか、ステップS18で否定判定(第2重ね連送実行条件の不成立)になるか、ステップS21で肯定判定(重ね動作の完了)になるまで繰り返す。
ラストパスの印刷開始前(S17で否定判定)の期間に、第2重ね連送実行条件が成立したまま(S18で肯定判定)、重ね動作を完了した場合(S21で肯定判定)は、ステップS22に進む。この場合、ラストパス中にスキュー取り動作を実施し(S22)、さらにラストパスの印刷動作終了後に、先行媒体P1と後続媒体P2とを一部重ねた状態を維持しつつ後続媒体P2を頭出しする重ね連送を実施する(S23)。
例えば図18に示すように、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、給送モーター41が逆転駆動から正転駆動に切り換えられ、さらに例えば最高速で加速駆動されて重ね動作が開始される。その後、重ね可能領域LA内の最終パスの搬送位置から先行媒体P1の搬送動作を開始する直前の判定時に、後続媒体P2が重ね動作を完了した待機位置Ywに停止していないと判定されても、先行媒体P1の後端が重ね可能領域LA内にあり、かつ重ね量≧yという第2重ね連送実行条件が成立すれば、重ね動作が継続される。そして、ラストパスの印刷が開始される前に、後続媒体P2の先端が待機位置Ywに達して重ね動作を完了できれば、スキュー取り動作の後、重ね連送が実施される。このとき、重ね動作の完了後、ラストパスの印刷動作中に給送モーター41が逆転駆動され、後続媒体P2のスキュー取りが行われる。そして、ラストパスの印刷を終えると、給送モーター41と搬送モーター44とが同期して駆動されることにより、先行媒体P1と後続媒体P2とがそのときの重ね量を維持したまま一緒に搬送される重ね連送が行われる(図18のハッチング部)。重ね連送の結果、後続媒体P2は比較的短い搬送量で印刷開始位置に頭出しされる。そのため、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、図20において、重ね動作を完了する前に、ラストパスの印刷中になるか(S17で肯定判定)、第2重ね連送実行条件が成立しなくなれば(S18で否定判定)、ステップS24に進む。
ステップS24では、媒体間隔作成動作を行う。この媒体間隔作成動作では、まず重ね動作を中止する。この中止により重ね動作の途中にあった後続媒体P2は、待機位置Ywよりも搬送方向Yの上流側の位置で停止する。先行媒体P1のラストパスの印刷が終わると、先行媒体P1を排出するとともに、その排出の完了後に後続媒体P2を印刷開始位置に頭出しする。なお、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1のラストパスの印刷動作の終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。
例えば図19に示すように、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、給送モーター41が逆転駆動から正転駆動に切り換えられ、さらに加速駆動されて重ね動作が開始される。重ね可能領域LA内の最終パスの搬送位置から先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始直前の判定時に、重ね動作が完了していないと判定された際、例えば重ね量<yであり、第2重ね連送実行条件が不成立であれば、重ね動作はその時点で中止される。この場合、ラストパスの印刷動作終了後、間隔作成動作が行われる。すなわち、コンピューター62が搬送モーター44を駆動させ、搬送ローラー対33および排出ローラー対34の回転により、まず先行媒体P1を排出する。その後、コンピューター62は給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2のスキュー取りを行う。そして、先行媒体P1が排出された後に、コンピューター62は給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、後続媒体P2を印刷開始位置に頭出しする。なお、先行媒体P1の排出途中で、先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33を通り過ぎて一定の間隔が確保されたタイミングで、コンピューター62が給送モーター41の逆転駆動を開始し、スキュー取り済みの後続媒体P2の印刷開始位置への搬送を開始させてもよい。
また、例えば図18に示すように、後続媒体P2の重ね動作を継続した場合でも、その継続した重ね動作の完了前にラストパスの印刷が開始されたり、第2重ね連送実行条件が不成立になったりすると、その時点で重ね動作が中止される。これらの場合、その後、ラストパスの印刷を終えると、媒体間隔作成動作の実施(S24)により、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しが、媒体P1,P2間に間隔を開けて行われる。
なお、ステップS21において、重ね動作の継続中に後続媒体P2が待機位置Ywに達した後の減速中にラストパスの印刷中になった場合は、後続媒体P2の先端をそのまま回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、重ね動作とスキュー取り動作とを一緒に行ってもよい。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、先行媒体の印刷終了後に、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを一部重ねた状態で一緒に搬送する重ね連送の実施頻度が増加する。すなわち、重ね可能領域LA内の最終パスの位置からの搬送動作の開始直前の判定時に、後続媒体P2が重ね動作中であっても、先行媒体P1の後端位置Y1と後続媒体P2の先端位置Y2との位置関係が所定位置条件(第2重ね連送実行条件)を満たせば、重ね動作を継続する。そして、ラストパスまでに重ね動作を完了させて重ね連送を実施できる頻度が増加する。この結果、印刷のスループットが向上する。
以上詳述した第1実施形態の1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1−1)制御部50は、重ね動作中の後続媒体P2の先端位置Y2と、先行媒体P1の後端位置Y1との位置関係が所定位置条件(第2重ね連送実行条件)を満たしていれば、重ね動作の終了後に先行媒体P1と後続媒体P2とを重なり状態を維持したまま後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送する重ね連送を行う。一方、所定位置条件を満たしていなければ、後続媒体P2を先行媒体P1と間隔を開けて印刷開始位置まで搬送する。よって、先行媒体P1の後端が下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に位置しているときに、後続媒体P2が待機位置Ywに到達していなくても、重ね連送が実施される場合があり、これにより重ね連送の実施頻度が増加する。この結果、印刷のスループットが一層向上する。
(1−2)制御部50は、重ね動作中の後続媒体P2の後端部と、下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に後端が位置するときの先行媒体P1の後端部とが所定量(ymm)以上の重なりを有すれば、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね連送を行う。一方、所定量以上の重なりを有しなければ、後続媒体P2は先行媒体P1と間隔を開けて印刷開始位置まで搬送される。よって、先行媒体P1の後端が下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に位置するときのパスのうち最終パスの搬送位置にあるときに、後続媒体P2が待機位置Ywに到達していなくても、重ね連送が実施される場合があり、これにより重ね連送の実施頻度が高めることができる。この結果、印刷のスループットが一層向上する。
(1−3)制御部50は、先行媒体P1の後端が下限位置YLを通過する搬送動作の開始位置に先行媒体P1が位置するときに、重ね動作を完了しているか否かを判定する。重ね動作を完了していれば、重ね連送を実施する。一方、重ね動作を完了していなければ、重ね動作中の後続媒体P2の先端部と先行媒体P1の後端部とが所定量以上の重なりを有するか否かが判定される。よって、判定時に後続媒体P2が待機位置Ywに到達していなくても、重ね連送が実施される場合があり、これにより重ね連送の実施頻度が高めることができる。
(1−4)下限位置YLは、待機位置Ywに到達した後続媒体P2の先端部と先行媒体P1の後端部とが、重ね連送の実施に必要な最小重ね量となるときの先行媒体の後端の位置に設定されている。制御部50は、先行媒体P1の後端が、下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に位置するときに、所定量(ymm)以上の重なりを有するか否かを判定する。この判定では、最小重ね量が得られない場合は、所定位置条件が不成立になるので、重ね連送の実施の可否をより適切に判定できる。そして、この判定時に、重ね動作が完了していなくても、重ね連送が実施される場合があるので、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(1−5)制御部50は、先行媒体P1の後端が下限位置YLよりも搬送方向Yの上流側に位置するときの先行媒体P1の後端部と、重ね動作中の後続媒体P2の先端部とが所定量(ymm)以上の重なりを有していれば、後続媒体P2の重ね動作が継続される。一方、所定量以上の重なりを有していなければ、後続媒体P2の重ね動作が継続されない。よって、後続媒体P2の重ね動作が継続された場合、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(1−6)搬送機構24は、給送モーター41により駆動される中間ローラー30と、第2駆動源の一例としての搬送モーター44により駆動されるとともに中間ローラー30よりも搬送経路における搬送方向Yの下流側の位置に配置された第2ローラーの一例としての搬送ローラー対33とを備える。中間ローラー30と複数の従動ローラー31,32とのニップ箇所のうち最終ニップ(第1ニップ位置NP1)を、先行媒体P1の後端が通過したタイミングで、後続媒体P2を先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で待機位置Ywに到達するまで搬送する重ね動作を開始する。そして、先行媒体P1の最終行の印刷位置への搬送動作を開始するまでに、後続媒体P2が重ね動作を完了していれば、重ね連送が実施される。このように比較的大径の中間ローラー30と複数の従動ローラー31,32との複数のニップ箇所のうちに最終ニップ位置(第1ニップ位置NP1)を、先行媒体P1の後端が通過した際の比較的長い間隔を開けた位置から後続媒体P2の重ね動作が開始される。よって、重ね動作開始時における先行媒体P1と後続媒体P2との間隔が比較的長く、判定時に後続媒体P2が重ね動作の途中となる頻度が比較的高くても、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(1−7)制御部50は、次の搬送動作で先行媒体P1の後端が下限位置YLを越えるとき、次の搬送動作の1つ前の今回の搬送動作を終えた後かつ次の搬送動作の開始前の判定時に、後続媒体P2が重ね動作の途中にあるときは、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とに所定量(ymm)以上の重ね量があれば、重ね連送が行われる。よって、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(1−8)制御部50は、後続媒体P2の重ね動作を開始した後、先行媒体P1が判定位置にあるときに、重ね動作が完了していれば、最終行の印刷動作の終了後に、重ね連送を行う。一方、制御部50は、重ね動作が完了していなければ、所定条件の一例としての第2重ね連送実行条件を満たす範囲で重ね動作を継続し、その継続した重ね動作が完了すれば、最終行の印刷動作の終了後に重ね連送を行い、第2重ね連送実行条件を満たさない場合は、重ね連送を行わない。よって、先行媒体P1が判定位置にあるとき(最終の搬送動作の開始直前)の判定で、後続媒体P2が重ね動作を完了していなくても、重ね連送が実施される場合があり、これにより重ね連送の実施頻度を高め、印刷のスループットを向上させることができる。
(1−9)制御部50は、第2重ね連送実行条件が不成立である場合、先行媒体P1と後続媒体P2との間隔を開けて後続媒体P2を印刷開始位置まで搬送する。よって、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部との重ね量が不十分な状態で重ね連送が行われることに起因するジャムの発生等を回避できる。
(第1実施形態の2)
次に図21及び図22を参照して第1実施形態の2について説明する。本実施形態では、第1実施形態の1と同様に、先行媒体P1が判定位置にあるときの判定時(例えば最終の搬送動作の開始直前)に、重ね動作を完了していない場合でも、所定条件を満たす範囲で重ね動作を継続する。本実施形態における所定条件は、少なくとも所定時間以内に重ね動作を完了可能であるという条件である。特に本例では、先行媒体P1を待機させることで次の搬送動作の開始時期を遅らせ、重ね動作を継続する時間を確保する。所定条件は、先行媒体P1を待機させる時間を所定時間以内に収まることである。判定時期以後に開始される次の搬送動作の開始時期が遅れることで、重ね連送の実施の可否を判定する最終判定時期を先延ばし、それまでは重ね動作の継続が可能となる。後続媒体P2の重ね動作は、所定時間を限度に継続される。所定時間内に重ね動作を完了できた場合は、最終行の印刷動作終了後に重ね連送を行い、所定時間内に重ね動作を完了できなかった場合は、重ね動作を行わない。このため、本実施形態では、少なくとも所定時間以内に重ね動作を完了可能な場合は、先行媒体P1を待機させるが、所定時間以内に重ね動作を完了不能な場合も、先行媒体P1を待機させる。本例では、所定時間の一例として待機時間Tmaxを設定している。
詳しくは、図21に示すように、重ね可能領域LA内の最終パスの判定時(図21における左側の最初の判定時)に重ね動作中であっても、待機時間Tmaxを限度に先行媒体P1を待機させ、次の搬送動作の開始時期を遅らせる。待機時間Tmax内に重ね動作を完了できた場合はその時点で先行媒体P1の次の搬送動作(図21における二点鎖線)を開始し、重ね動作の完了前に待機時間Tmaxを経過した場合は、その時点で重ね動作を中止するとともに先行媒体P1の次の搬送動作を開始する。
以下、図22に示すフローチャートを参照して、第1実施形態の1における制御部50のコンピューター62が実行する搬送制御について説明する。
まず図22におけるステップS31〜S36の処理は、第1実施形態の1における図20中のステップS11〜S16の処理と同様である。すなわち、先行媒体P1の印刷が開始され、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を抜けて第1センサー51がONからOFFに切り換わると、重ね可能条件が成立していれば(S33で肯定判定)、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する重ね動作が開始される(S34)。そして、先行媒体P1の後端が重ね可能領域LA内の最終パスの位置にあるときの判定時期に、重ね動作を完了して先行媒体P1が待機位置Ywに停止していると(S36で肯定判定)、ラストパス中にスキュー取り動作を実施後(S39)、そのラストパス中の印刷動作を終えると、重ね連送が実施される(S40)。一方、後続媒体P2が重ね動作中にあって待機位置Ywに停止していなければステップS37に進む。
ステップS37では、重ね動作が完了するまで待機時間Tmaxを限度に先行媒体P1を待機させる。待機時間Tmaxは、例えば0.1〜1秒の範囲内の所定値に設定されるが、これ以外の適宜な時間を設定してもよい。コンピューター62は内蔵する不図示のカウンターにより先行媒体P1を待機させている経過時間Tw(図21参照)を計時する。なお、待機時間Tmaxは、後続媒体P2の印刷開始時期が、重ね連送の実施により、通常給送に比べ、後続媒体P2の印刷開始時期が早まる時間よりも短い時間に設定されている。このため、待機時間Tmaxの待機によって重ね連送が実施できるようになれば、印刷のスループットは向上する。
ステップS38では、待機時間Tmaxを経過したか否かを判断する。コンピューター62は先行媒体P1を待機させている経過時間Twが待機時間Tmaxに達したか否かを判断する。待機時間Tmaxを経過していなければステップS36に戻る。以後、ステップS36〜S38の処理を、ステップS36で重ね動作を完了するか、ステップS38で待機時間Tmaxを経過するまで繰り返す。つまり、待機時間Tmaxを限度に重ね動作を完了するまで待機する。そして、待機時間Tmax内に重ね動作を完了すれば(S36で肯定判定)、ラストパス中にスキュー取り動作を行った後(S39)、重ね連送を実施する(S40)。
一方、後続媒体P2が重ね動作を完了する前に、待機時間Tmaxを経過した場合(S39で肯定判定)は、媒体間隔作成動作を実施する(S41)。すなわち、先行媒体P1の排出後、後続媒体P2を頭出しする。
例えば図21に示すように、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、給送モーター41が逆転駆動から正転駆動に切り換えられ、重ね動作が開始される。この重ね動作の開始後にさらに加速駆動され、後続媒体P2が先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で給送される。この重ね動作中に、先行媒体P1が重ね可能領域LA内の最終パスの位置である判定位置にあるとき(最終の搬送動作の開始直前)の判定で、重ね動作を完了していないと判定されても、先行媒体P1を待機させて次(最終)の搬送動作の開始時期を遅らせるとともにその待機の間、重ね動作が継続される。そして、待機中の経過時間Twが待機時間Tmaxに達する前に重ね動作が完了すれば、次の搬送動作を開始する。このとき、次の搬送動作の開始直前の判定時期に2回目の判定を行って、後続媒体P2が待機位置Ywに停止していることを確認する。
最終の搬送動作を終えた後、印刷データPDによってはさらに1回以上の搬送動作を行った後、ラストパスの印刷動作中になると、給送モーター41が逆転駆動され、後続媒体P2の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われることにより、後続媒体P2のスキューが矯正される。そして、ラストパスの印刷動作を終えると、給送モーター41と搬送モーター44とが図21中のハッチングで示すように同期して駆動され、先行媒体P1と後続媒体P2とは重なり状態を維持したまま同じ搬送速度で重ね連送される。この重ね連送の結果、先行媒体P1の排出動作と後続媒体P2の頭出し動作とが一緒に行われ、後続媒体P2は印刷開始位置に頭出しされる。こうして先行媒体P1への最終行(ラストパス)の印刷動作の終了後、後続媒体P2への初回行の印刷動作を速やかに開始できる。そのため、印刷のスループットが向上する。
このように第1実施形態の2によれば、以下の効果を得ることができる。
(1−10)制御部50は、後続媒体P2の重ね動作を開始した後、先行媒体P1が判定位置にあるとき(最終の搬送動作の開始直前)に、重ね動作が完了していれば、最終行の印刷動作の終了後に、重ね連送を行う。一方、制御部50は、重ね動作が完了していなければ、待機時間Tmax内の先行媒体P1の待機という条件を満たす範囲で重ね動作を継続し、その継続した重ね動作が完了すれば、最終行の印刷動作の終了後に重ね連送を行う。また、制御部50は、待機時間Tmax内の先行媒体P1の待機という条件を満たさない場合は、重ね連送を行わない。よって、先行媒体P1が判定位置にある判定時に、後続媒体P2が重ね動作を完了していなくても、重ね連送が実施される場合があり、これにより重ね連送の実施頻度を高め、印刷のスループットを向上させることができる。
(1−11)待機時間Tmaxを経過しなくても先行媒体P1の重ね動作を完了した時点で先行媒体P1の待機を終了し搬送動作を開始するので、待機による遅れを最小限に留めることができる。このため、先行媒体P1を待機させる割に先行媒体P1への印刷の遅延は最小限に抑えられる。
(第1実施形態の3)
次に図23を参照して第1実施形態の3について説明する。この第1実施形態の3では、第1実施形態の1と第1実施形態の2とを組み合わせた処理を行う。制御部50は、判定位置で重ね動作が完了していない場合、第1実施形態の1における重ね動作を継続する継続動作と、第1実施形態の2における待機時間Tmaxを限度に重ね動作の完了まで先行媒体P1を待機させる待機動作とのうち、先行媒体P1の印刷をより早く完了可能な一方を選択して実施する。継続動作は、所定条件及び所定位置条件の一例としての第2重ね連送実行条件を満たしているときに後続媒体P2の重ね動作を継続する動作である。また、待機動作は、少なくとも所定条件の一例としての待機時間Tmax以内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しうる場合は、重ね動作を完了するまで先行媒体P1を待機させる動作である。
以下、図23に示すフローチャートを参照して、制御部50のコンピューター62が実行する搬送制御について説明する。なお、一部の処理の説明に図20を参照する。
図23において、ステップS16よりも前の処理は、第1実施形態の1における図20中のステップS11〜S15の処理と同様である。また、ステップS52〜S56の処理は、第1実施形態の1における図20中のステップS17〜S21の処理と同様であり、これらの処理により継続動作を行う。さらにステップS57,S58の処理は、第1実施形態の2におけるステップS37,S38の処理と同様であり、これらの処理により待機動作を行う。
図20のステップS11において先行媒体P1の印刷が開始され、その後、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1から外れて第1センサー51に検知されると(S12で肯定判定)、重ね動作が開始される(S13,S14)。先行媒体P1が重ね可能領域LA内の最終パスの位置にあるときの判定時(最終の搬送動作の開始直前)に、重ね動作を完了していれば(S16で肯定判定)、ラストパス中にスキュー取り動作を行い(S22)、最終行の印刷動作終了後に重ね連送を実施する(S23)。
そして、図23に示すステップS16の判定で重ね動作が完了していない場合、ステップS51において、継続動作と待機動作とでどちらが早く先行媒体の印刷を完了できるかを判断する。ここで、継続動作では、重ね動作を継続するものの、最終の搬送動作の次のパスがラストパスでそのラストパスの印刷動作が直ぐ開始されたり、第2重ね連送実行条件が不成立になったりすると、その時点で重ね動作を中止しなければならない。これらの場合、重ね連送を行うことができない。一方、待機動作では、重ね動作が完了するまで先行媒体P1を待機させるため、待機時間Tmaxを限度にその待機した時間の分だけ先行媒体P1の搬送動作の開始時期が遅れることになる。この搬送動作の開始時期の遅れは、先行媒体P1の印刷完了時期の遅れに繋がる。そのため、ステップS51において、コンピューター62は、印刷データPDに基づいて継続動作と待機動作とをシミュレーションで重ね連送か間隔作成動作かを判別しつつ印刷完了までの所要時間を算出し、各所要時間を比較することで、継続動作と待機動作とのうち印刷完了時期の早い一方を選択する。先行媒体P1の印刷を早く完了できるのが継続動作であればステップS52に進み、以後、ステップS52〜S56において第1実施形態の1におけるステップS17〜S21と同様の処理を行う。
すなわち、後続媒体P2が重ね動作を完了していないと判定されても(S16で否定判定)、第2重ね連送実行条件が成立すれば(S53で肯定判定)、重ね動作が継続される(S54)。そして、ラストパスの印刷が開始されるまでに(S52で否定判定)、重ね動作を完了できれば(S56で肯定判定)、ラストパス中のスキュー取り動作(S22)の後、最終行の印刷動作終了後に重ね連送が行われる(S23)。
一方、ステップS51において、先行媒体P1の印刷を早く完了できるのが待機動作であれば、ステップS57に進み、以後、待機時間Tmaxを限度に重ね動作が完了するまで先行媒体P1を待機させる(S16,S57,S58)。先行媒体P1を待機させることで最終の搬送動作の開始時期が遅れ、これに伴い判定時期も遅れる。その待機の間、重ね動作が継続される。そして、待機時間Tmaxを経過する前に重ね動作が完了すれば(S16で肯定判定)、遅れた判定時期で2回目の判定を行って、後続媒体P2が待機位置Ywに停止していることを確認後、最終の搬送動作を開始する。最終の搬送動作を終えた後、印刷データPDによってはさらに1回以上の搬送動作を行った後、ラストパス中にスキュー取り動作が行われ(S22)、最終行の印刷動作終了後に重ね連送が行われる(S23)。
重ね連送では、先行媒体P1の排出動作と後続媒体P2の頭出し動作とが一緒に行われ、後続媒体P2は印刷開始位置に頭出しされる。こうして先行媒体P1への最終行(ラストパス)の印刷動作終了後、後続媒体P2への初回行の印刷動作を速やかに開始できる。そのため、印刷のスループットが向上する。
このため、第1実施形態の3によれば、前記第1実施形態の1における効果(1−1)〜(1−11)及び第1実施形態の2における効果(1−12),(1−13)を得ることができるうえ、以下の効果を得ることもできる。
(1−12)制御部50は、後続媒体P2の重ね動作を開始した後、先行媒体P1が判定位置にあるときの判定で、重ね動作が完了していれば、最終行の印刷動作の終了後に、重ね連送を行う。一方、制御部50は、重ね動作が完了していなければ、継続動作と待機動作とのうち、先行媒体P1の印刷をより早く完了可能な一方を選択して実施する。継続動作が実施された場合、重ね動作中の後続媒体P2の先端位置Y2と先行媒体P1の後端位置Y1との位置関係が、所定位置条件の一例である第2重ね連送実行条件を満たしていれば、後続媒体P2の重ね動作を継続する。一方、待機動作が実施された場合、少なくとも待機時間Tmax以内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しうる場合に、重ね動作を完了するまで先行媒体P1を待機させる。このように本実施形態では、判定時に重ね動作が完了していなくても、継続動作と待機動作とのうち先行媒体P1の印刷を早く完了できる一方を選択できるので、重ね連送が実施される頻度が、第1実施形態の1、2よりも高まり、より一層の印刷スループットの向上に寄与できる。
なお、上記第1実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・前記各実施形態において、壁分離方式に替え、分離ローラー対を用いたローラー分離方式でもよい。すなわち、図82に示すように、複合機11の印刷装置12は、媒体Pを複数積載する媒体積載部の一例としてのカセット21,22を備える。給送ローラー28は所定位置に設けられ、上方へ付勢されたホッパー板215上に積載された複数枚の媒体Pのうち最上位の媒体Pに当接し、回転すること最上位の1枚の媒体Pをカセット21,22から送り出す。搬送機構24は、カセット21,22から送り出された1つの媒体Pを他の媒体から分離する分離ローラー対95を備える。分離ローラー対95は、カセット21,22から送り出された媒体をニップ可能な位置に配置されており、媒体Pは分離ローラー対95を通ることで他の媒体Pと分離され1枚のみ中間ローラー30へ送り出される。また、クラッチ機構42は、給送モーター41が正転方向(CW方向)に駆動されるときに、第1切換位置に切り換えられ、給送ローラー28及び中間ローラー30を、媒体を搬送可能な回転方向(正転方向)に回転させる。また、クラッチ機構42は、給送モーター41が逆転方向(CCW方向)に駆動されるときに、第2切換位置に切り換えられ、給送ローラー28が停止する状態で中間ローラー30のみを正転方向に回転させる。複数頁を印刷する連続印刷時は、1頁目から最終1つ手前の頁までの搬送時は給送モーター41が正転駆動され、給送ローラー28及び中間ローラー30が正転方向に回転し、最終頁の媒体Pの搬送時は給送モーター41が逆転駆動され、給送ローラー28が停止する状態で中間ローラー30が正転方向に回転する。
この構成によれば、制御部50は、先行媒体P1の後端が中間ローラー30の第1ニップ位置NP1(最終ニップ)を外れたのちに、後続媒体P2をカセット21から先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で搬送する重ね動作を行わせる。このように先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を外れたのちに、カセット21から後続媒体P2の重ね動作を開始するため、その重ね動作の開始時における先行媒体P1との間隔が比較的長い。このため、先行媒体P1が重ね可能領域LA内の最終パスから搬送を開始する直前のタイミングに設定された判定時に、後続媒体P2が重ね動作の途中にあっても、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
・前記第1実施形態の2において、制御部50は、第1重ね連送実行条件が不成立である場合(図22のS36で否定判定)、先行媒体P1を待機させるに当たり、制御部50は、所定時間の一例である待機時間Tmax以内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しうるか否かを判定してもよい。判定の結果、待機時間Tmax内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しうる場合は、重ね動作を継続しその完了まで先行媒体P1を待機させるが、待機時間Tmax内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しえない場合は、先行媒体P1を待機させず、その時点で重ね動作を中止する。この場合、待機時間Tmax以内に後続媒体P2が待機位置Ywに到達しうるか否かの判定は、例えば次のように行う。後続媒体P2の先端位置Y2と、後続媒体P2の追い付き給送速度に関する速度情報とを用いて、後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまでの所要時間Tr(残り時間)を演算する。制御部50は、所要時間Trが待機時間Tmax以下であれば(Tr≦Tmax)、重ね動作が完了するまで先行媒体P1を待機させ、一方、所要時間Trが待機時間Tmax以下でなければ(Tr>Tmax)、先行媒体P1を待機させない。先行媒体P1を待機させた場合は、継続した重ね動作が完了すると、先行媒体P1の最終行の印刷動作終了後に重ね連送を行う。一方、先行媒体P1を待機させなかった場合は、重ね動作を中止し、先行媒体P1の最終行の印刷動作終了後に、間隔作成動作を行う。重ね動作を待機時間Tmax内に完了できない場合は、先行媒体P1を無駄な待機させないので、第1実施形態の2、3に比べ、印刷のスループットを一層向上できる。
・前記第1実施形態の2、3において、第1重ね連送実行条件が不成立の場合、第2重ね連送実行条件の成否を判定し、第2重ね連送実行条件が成立すれば、先行媒体P1を待機させ、第2重ね連送実行条件が不成立であれば、先行媒体P1を待機させない構成としてもよい。この構成によれば、第1実施形態の2、3に比べ、先行媒体P1の無駄な待機により後続媒体P2の頭出しの遅れを回避できる。
・前記第1実施形態の1、3において、所定位置条件の一例としての第2重ね連送実行条件は、各ニップ位置NP1,NP2間の搬送経路に沿う方向の距離、先行媒体P1の搬送速度、後続媒体P2の追い付き給送速度、重ね動作開始時点における先行媒体P1と後続媒体P2との間隔等の各種パラメーターに応じて適宜変更してもよい。第2重ね連送実行条件は、LL≦Y1かつY1−Y2≧0という先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端が接しているか重なりがあることを条件に含む所定位置条件でもよい。また、LL≦Y1かつY1−Y2≧−y(但しy>0)という先行媒体P1と後続媒体P2とが所定距離yを超えてまでは離れていないことを条件に含む所定位置条件でもよい。さらに上記所定位置条件からLL≦Y1の条件を無くしてもよい。この場合、継続した重ね動作の完了後の最終判定時に最小重ね量が確保されていなければ、重ね連送の実施を中止すればよい。
・前記第1実施形態の1、3において、所定位置条件は、後端位置Y1に応じて所定量(xmm)を変化させてもよい。例えば先行媒体P1の後端位置Y1が上流側に位置するときほど所定量を連続的又は段階的に小さくする。つまり、後端位置が待機位置Ywに近ければ所定量を大きな値とし、待機位置Ywから離れるほど所定量を小さな値とする。例えばLL≦Y1かつY1−Y2≧xとし、先行媒体P1の後端位置Y1に応じてxの値を変化させる。この場合、xの値は、先行媒体P1と後続媒体P2とが一部重なりを有することを意味する正の値であることに限らず、零を含んでもよいし、先行媒体P1と後続媒体P2とが所定量の間隔を開けて離れていることを意味する負の値を含んでもよい。
・前記第1実施形態の1〜3において、所定位置は、最小重ね量を確保しうる下限位置YLに限らず、待機位置Ywよりも搬送方向Yの上流側の適宜な位置に変更してもよい。但し、所定位置は、待機位置Ywと第1ニップ位置NP1との搬送経路に沿う方向における中間位置と、待機位置Ywとの間の範囲内の位置であることが好ましい。さらに所定位置は、待機位置Ywであってもよい。
・前記第1実施形態の1〜3において、重ね可能条件の成否を判定する処理は、重ね動作の後に行ってもよい。例えばラストパスの印刷動作の開始前又は判定位置に達する前であれば、重ね動作を開始し、待機位置Ywに停止してからラストパスの印刷動作開始までの期間で、重ね動作が完了しているか否かの判定と、重ね可能条件の成否の判定とを行う。そして、制御部50は両条件が共に成立した場合に、重ね連送を行う。
・前記第1実施形態の1〜3において、第1重ね連送実行条件の判定時期は、重ね可能領域LAの下限位置YLを先行媒体P1の後端が通過することになる最終の搬送動作の開始直前のタイミングに限らない。例えば判定時期は、先行媒体P1をラストパスの印刷動作が行われる搬送位置へ搬送する搬送動作の開始直前のタイミングでもよい。また、例えばラストパスの印刷動作の開始直前のタイミングでもよい。これらの構成によれば、重ね動作を完了している頻度が高くなり、重ね連送の実施頻度を高められる。この際、重ね量については、重ね量が閾値以上である場合に重ね動作を行ったり、重ね動作を先に行って判定時に重ね量が閾値であることを判定したりすれば、適切な重ね量で重ね連送を行うことができる。また、その他の判定時期も適宜選択でき、例えば重ね可能領域LA内の最終から2番目のパスの印刷動作中、または最終番目の1つ前の搬送動作中に判定してもよい。さらに例えば先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33のニップ位置NP2を通過する搬送動作の開始位置に先行媒体P1が位置するときや、この搬送動作よりも1つ前の印刷動作の期間中又は1つ前の搬送動作の期間中でもよい。
・前記第1実施形態の1〜3において、重ね可能領域LAを廃止してもよい。この場合、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね量が所定量以上あれば、重ね動作を継続して重ね連送を実施してもよい。
・前記第1実施形態の1〜3において、重ね連送の開始時期は、最終行の印刷動作終了後に限定されない。最終行の印刷動作よりも1つ前の行又は2つ前の行の印刷動作終了後の次の搬送動作から重ね連送を開始してもよい。これらの場合、重ね連送の開始後、先行媒体P1が最終行の印刷動作の位置に到達するまでは重ね連送で搬送動作を行い、最終行の印刷動作終了後に、後続媒体P2の印刷開始位置まで重ね連送で頭出しを行う。また、重ね動作の終了後、後続媒体P2の先端部がはじめて先行媒体P1の後端余白領域のみに重なる位置関係になったときに、そのときの先行媒体P1への印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行って、ラストパスよりも前のパスの印刷位置への搬送動作から重ね連送を開始してもよい。これらの構成によれば、重ね量をより多く確保でき、印刷のスループットの一層の向上に寄与できる。
・前記第1実施形態の1〜3において、判定後に重ね動作を継続した場合、その後、重ね動作が完了し後続媒体P2が待機位置Ywに停止しているか否かを判定したが、継続後の判定は廃止してもよい。仮に後続媒体P2が待機位置Ywよりも上流側の位置に停止していたとしても、十分な給送量でスキュー取り動作を行えば、スキューの矯正は確実に行われる。
<第2実施形態>
本実施形態では、印刷ヘッド38が走査方向Xに1回移動する1パスで1行を印刷する。このとき、重ね連送が行われる高速印刷モードでは双方向印刷が行われる。また、1行を印刷するときに1行幅がノズル列(1列分の全ノズル)のうちの一部のノズルを使用する場合、最下流ノズルを基準に媒体Pの搬送方向Yの印刷位置を合わせる最下流ノズル基準の場合と、最上流ノズルを基準に媒体Pの搬送方向Yの印刷位置を合わせる最上流ノズル基準の場合とがある。
本実施形態では、ノズル列381(1列分の全ノズル)のうち、1行を印刷するときに使用可能なその行幅から決まる使用ノズル(印刷ノズル)の範囲(以下「使用ノズル範囲」ともいう。)は、最下流ノズル♯1を基準に搬送方向Yの上流側に使用ノズルの数だけ選択した範囲を基本とする。つまり、最下流ノズル♯1を含む使用ノズルの数だけノズルがノズル列方向に連続する範囲である。例えば1行を印刷するときの使用ノズルの数がm個である場合、最下流ノズル♯1を含む連続するm個のノズルが、使用ノズル範囲となる。1行を印刷するときの行幅、つまり使用ノズルの数mは、印刷データPDに基づく印刷内容に応じて行毎に決まる。本実施形態では、使用ノズルの数mが全ノズル数Q個よりも少ない行幅で1行を印刷する場合、基本的に最下流ノズル♯1を基準に決められる使用ノズル範囲を、印刷ヘッド38においてノズル列方向(搬送方向Y)の上流側へ移動させて最下流ノズル♯1を含まない使用ノズル範囲へ変更するノズルシフト処理を行う場合がある。このノズルシフト処理によって、重ね可能条件の成立頻度を向上させる。
基本的に最下流ノズル♯1を含む使用ノズル範囲で印刷動作が行われるが、先行媒体P1の後端余白長が閾値以下と短い場合は、ノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を用いて印刷する行幅の最大幅より狭い行において、使用ノズル範囲を搬送方向Yの上流側へ移動(シフト)させるノズルシフト処理を行う。特に本例では、ノズルシフト処理による変更先の使用ノズル範囲として、最上流ノズル♯Qを含む範囲が選択される。なお、使用ノズル範囲のノズルは、印刷に使用可能なノズルであって、実際に印刷にそのノズルが使用されるか否かは印字データに依存する。
次に図24A、図24Bおよび図25を参照してノズルシフト処理について詳細に説明する。まず、図24Aおよび図24Bを参照して、最下流ノズル基準で印刷する第1モードの印刷処理を説明する。なお、本実施形態では、印刷ヘッド38の1パスで1行幅を印刷するバンド印刷が行われる。
図24Aに示すように、通常はノズル列381のうち最下流ノズル♯1を基準に上流側へ必要な数だけ連続するノズル382を含む使用ノズル範囲が選択される。ノズル列381の全てのノズル♯1〜♯Qを使用する必要があるバンド幅の行の印刷には、全てのノズル♯1〜♯Qを含む使用ノズル範囲NA0が選択される。図24Aの例では、1頁分のn行のうち1行目のバンドB1からn-1行目のバンドBn-1までは、使用ノズル範囲NA0のノズル♯1〜♯Qを用いて印刷する。
そして、図24Bに示すように、最終行(n行目)のバンドBnは、ノズル列381のうち最下流ノズル♯1を含む一部の使用ノズル範囲である第1ノズル範囲NA1を用いて印刷される。このとき、図24Bに示すように、最終行のバンドBnを印刷するときの第1ノズル範囲NA1が印刷部25に対して搬送方向Yの下流側寄りに位置するため、先行媒体P1の搬送位置も、印刷部25に対して第1ノズル範囲NA1に合わせて搬送方向Yの下流側寄りの位置にする必要がある。このため、後端余白長Ybmの割に、先行媒体P1における搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも搬送経路に沿って上流側へ延びた部分の長さが相対的に短くなる。この結果、先行媒体P1の後端余白部BAと後続媒体P2の先端部との重ね量LPが相対的に短くなる。例えば重ね量LP(つまり後端位置Y1)が下限LL未満であると、重ね可能条件を満たしうる程度に長い後端余白長Ybmを有していても、重ね連送が実施されない。つまり、先行媒体P1の印刷内容に応じて決まる最終行のバンド幅(行幅)によって、ラストパスの印刷動作時における先行媒体P1の後端位置Y1が変化するため、重ね連送の実施の可否が印刷内容に依存する。
そこで、本実施形態では、ノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を使用する行を印刷するときに、最下流ノズル♯1を含む第1ノズル範囲NA1を搬送方向Yの上流側へ移動(シフト)させ、最下流ノズル♯1を含まない使用ノズル範囲である第2ノズル範囲NA2に切り換えるノズルシフト処理を行う。特に本例では、第2ノズル範囲NA2を、最上流ノズル♯Qを含む使用ノズル範囲としている。このため、ノズルシフト処理による使用ノズル範囲のシフト量が最大となる。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図24A、図24B、図25及び図26等を参照して、制御部50内のコンピューター62が図26にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む印刷制御について説明する。コンピューター62は、例えばホスト装置100から印刷ジョブを受信すると、プログラムPRを実行する。複数枚印刷の場合、はじめに1枚目の媒体が先行媒体P1となる。また、先行媒体P1が印刷中である場合、先行媒体P1の次に給送される2枚目の媒体が後続媒体P2となる。
まずステップS111において、先行媒体を給送する。すなわち、コンピューター62は、図8に示すように、給送モーター41を正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)し、給送ローラー28及び中間ローラー30の回転により先行媒体P1を給送する。この給送途中で先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次にコンピューター62は、給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とを同期させて行い、同じ搬送速度で回転する中間ローラー30および搬送ローラー対33により先行媒体P1を印刷開始位置まで頭出しする。
ステップS112では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS113に進み、ラストパスであればステップS120に進む。なお、この判断時期は、次のパスの印刷動作が開始されるまでのタイミングであればよい。
ステップS113では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施前であれば「0」、重ね動作実施済みであれば「1」とするフラグを記憶部に備え、そのフラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みであると判断し、そのフラグの値が「0」であれば重ね動作実施前であると判断する。重ね動作実施済みでなければステップS114に進み、重ね動作実施済みであればステップS117に進む。
ステップS114では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1から外れ、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知してONからOFFへ切り換わればステップS115に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS117へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS115では、重ね可能であるか否かを判断する。つまり、重ね連送の実施条件となる重ね可能条件が成立したか否かを判断する。先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LAに位置するLL≦Y1<LU等の余白条件と、印刷デューティーが閾値以下であるという印刷濃度条件とを含む重ね可能条件が成立したか否かを判断する。重ね可能条件が成立して重ね可能であればステップS116に進み、重ね可能でなければステップS117に進む。
ステップS116では、重ね動作を行わせる。詳しくは、コンピューター62は、給送モーター41を正転駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2を給送し、後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41を駆動する。この重ね動作過程では、コンピューター62は第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わったときに第2カウンター82に計数処理を開始させ、その計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。そして、先端位置Y2が待機位置Ywに達すると、給送モーター41の駆動を停止する。この結果、後続媒体P2は待機位置Ywで停止する。コンピューター62は重ね動作を完了すると、フラグの値を「0」から「1」にする。なお、印刷装置12が、印字データを1パス分ずつ受信し、記憶部に数パス分の印字データしか記憶できないために後端余白長および先端余白長を、本頁の最終パスの印字データと次頁の1パス目の印字データとを受信するまで取得できない構成である場合がある。この場合、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知しても、重ね可能条件の成否の判断が不可能である。このような場合は、重ね可能条件の成否の判断は、必要な印字データを取得した時点で行うこととし、判定前であっても第1センサー51のONからOFFへの切り換わりをもって先に重ね動作を行って、後続媒体P2を待機位置Ywに待機させておく。
ステップS117では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。なお、頭出し直後で先行媒体P1が既に1行目の印刷位置にあるときは、この搬送動作は省略される。
ステップS118では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出することで、先行媒体P1に1パス分の画像を印刷する印刷動作を行う。
ステップS119では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1に印刷すべき全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS112に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS130に進む。
ステップS112に戻った場合、以後、ステップS112〜S119の処理を、ステップS112でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作実施済み(フラグ=「1」)である場合(S113で肯定判定)は、次行までの搬送動作(S117)と、その次行での1パス分の印刷動作(S118)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。この印刷動作では、図24Aに示すように、最下流ノズル♯1を基準とする使用ノズル範囲NA0,NA1で1パス(1行)分の印刷が行われる。そして、1パス目から、ラストパスの1つ前のn-1パス目の印刷まで、最下流ノズル基準で1行ずつ印刷される。一方、重ね動作実施済みでなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S112で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S114で肯定判定)かつ重ね可能条件が成立した場合(S115で肯定判定)に重ね動作を行う(S116)。こうしてラストパスに至る前に、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知し、かつそのとき重ね可能条件が成立すれば、重ね動作が行われる(S116)。
そして、ラストパスの1つ前(n-1回目)のパスの印刷動作を終えると、ステップS112に戻り、次のパスがラストパス(n回目のパス)であると判断されるため、ステップS120に進む。
ステップS120では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施済みであるかどうかをフラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作済みではないと判断する。重ね動作実施済みでなければステップS117に進み、重ね動作実施済みであればステップS121に進む。
重ね動作が行われていなければ、重ね連送を実施できないため、次のラストパスの印刷位置まで搬送動作(S117)を行って、ラストパスの1行分の印刷動作(S118)を行う。こうしてラストパスの印刷動作を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S119で肯定判定)、ステップS130において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして1枚目の先行媒体P1の印刷を終了し、1回目のルーチンが終わると、次のルーチンで、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、3枚目の媒体Pが新たな後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、次頁の印刷のために図17に示される印刷制御ルーチンを再び実行し、ステップS111において、それまでの後続媒体P2が新たな先行媒体P1としてその給送動作を行う。このとき、1枚目の先行媒体P1は既に排出済みであるため、1枚目の先行媒体P1の排出と、2枚目の先行媒体P1の給送は、両媒体P間に間隔を開けて行われる。一方、次のパスがラストパスであって(S112で肯定判定)、かつ重ね動作実施済み(ステップS120で肯定判定)である場合は、ステップS121に進んで以下の処理が行われる。
ステップS121では、最終行はノズル列の一部の範囲のノズルを使用して印刷するか否かを判断する。ラストパスにおいてノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を使用して最終行を印刷する場合は、ステップS122に進み、ノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を使用せず、つまりノズル列381の全てのノズル382を使用して最終行を印刷する場合は、ステップS125に進む。
ステップS122では、先行媒体の後端余白長を取得する。印刷データPDを最初に受信する構成である場合、コンピューター62は、印刷データPD中のヘッダーに含まれる印刷条件情報から後端余白長Ybmを取得したり、印刷データPDを解析して先行媒体P1の最終行の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長Ybmを取得したりする。また、印刷データPDを1パス分ずつの印字データとして順次受信する構成である場合、コンピューター62は、最終行の印字データから求めた先行媒体P1の最終行の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長Ybmを取得する。
次のステップS123では、後端余白長Ybmが閾値Y0以下であるか否かを判断する。後端余白長Ybmが閾値Y0以下であれば(Ybm≦Y0)、ステップS124に進む。一方、後端余白長Ybmが閾値Y0以下でなければ、つまり後端余白長Ybmが閾値Y0を超えていれば(Ybm>Y0)、ステップS125に進む。
ステップS124では、印刷に使用するノズルを変更する。すなわち、コンピューター62は、ノズル列381のうち印刷に使用する一部の範囲(第1ノズル範囲NA1)を、搬送方向Yの上流側へシフトするノズルシフト処理を行う。この場合、第1ノズル範囲NA1をその搬送方向Yの上流側へ最上流ノズル♯Qを含む位置までシフトさせることにより、最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2へ変更する。これと共にノズルシフト処理に合わせて、次回の搬送動作における搬送量をそのシフト量と等しい補正量だけ短く変更する。
ステップS125では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。このとき、ステップS124で印刷に使用するノズルを変更していなければ、当初の搬送量で先行媒体P1を搬送する。一方、ステップS124でノズルシフト処理を行って印刷に使用するノズルを変更した場合は、ノズルシフト処理のシフト量に合わせて変更した補正後の搬送量で先行媒体P1を搬送する。すなわち、図25に示すように、n-1パス目の印刷動作を終了すると、次に先行媒体P1を補正後の搬送量だけ搬送する。この結果、先行媒体P1は最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2のノズル382を使って印刷可能な図25に示す搬送位置に配置される。
ステップS126では、1パス分の印刷動作を行う。すなわち、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、その移動過程で印刷ヘッド38のノズルからインク滴を吐出することにより最終行を印刷する。このとき、ノズルシフト処理による印刷ノズルの変更を行っていない場合は、図24Bに示すように最下流ノズル♯1を含む第1ノズル範囲NA1のノズル382を用いて最終行が印刷される。つまり、最終行の印刷が最下流ノズル基準で行われる。この最終行印刷時の先行媒体P1は印刷部25に対して相対的に搬送方向Yの下流側寄りに位置する。
一方、ノズルシフト処理による印刷に使用するノズルを変更した場合は、図25に示すように、最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2のノズル382を用いて最終行が印刷される。つまり、最終行の印刷が最上流ノズル基準で行われる。この最終行印刷時の先行媒体P1は、印刷部25に対して相対的に搬送方向Yの上流側寄りに位置する。この結果、最下流ノズル基準で最終行を印刷した図24Bにおける先行媒体P1の後端位置Y1に比べ、図25における先行媒体P1の後端位置Y1の方が搬送方向Yのより上流側に位置する。つまり、図24Bにおける先行媒体P1の後端位置Y1の値に比べ、図25における先行媒体P1の後端位置Y1の値の方が大きくなる。
ステップS127では、先行媒体の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUの条件を満たすか否かを判断する。LL≦Y1<LUは重ね可能条件のうちの余白条件の1つである。図24Bに示すノズルシフト処理が行われなかったときの後端位置Y1の値がLL≦Y1<LUの条件を満たさなかった場合でも、ノズルシフト処理を行った結果、図16に示す後端位置Y1がより大きな値になるので、LL≦Y1<LUの条件を満たす頻度が高まる。LL≦Y1<LUを満たせばステップS128に進み、LL≦Y1<LUを満たさなければステップS130に進む。なお、重ね可能条件のうち他の条件の成否も一緒に判断し、重ね可能条件が成立した場合にステップS128に進む構成としてもよい。また、ラストパスの印刷動作時における先行媒体P1の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUの条件を満たすか否かを予め計算で確認し、この条件を満たさなかった場合にノズルシフト処理によってLL≦Y1<LUの条件を満たす後端位置Y1への変更が可能かどうかを計算で予測し、変更可能な場合にノズルシフト処理を行う構成でもよい。
ステップS128では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を減速または停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作の期間における搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当ててスキューを矯正するスキュー取り動作を行う。なお、重ね動作中にラストパスの印刷が開始された場合は、後続媒体P2の先端をそのまま回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、重ね動作とスキュー取り動作とを一動作で行ってもよい。
そして、次のステップS129では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重ね量を維持したまま同じ搬送速度で後続媒体P2の印刷開始位置に搬送する重ね連送(図8のハッチング部)を行う。
こうして図8に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の後端余白部の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、ステップS130では、先行媒体の排出動作を行う。このとき、後続媒体P2は重ね動作が行われた場合に待機位置Ywにあり、重ね動作が行われなかった場合は待機位置Ywよりも搬送方向Yの上流側に位置する。このため、搬送モーター44が駆動されて搬送ローラー対33と排出ローラー対34とが回転しても、先行媒体P1だけが排出され、後続媒体P2はそのときの位置で待機する。
次頁がある場合は、先行媒体P1の排出動作を終えた後、後続媒体P2を新たな先行媒体P1としてルーチンを再度実行し、ステップS111で先行媒体P1(次頁の媒体P)の給送動作を行う。このとき、次の媒体(前回の後続媒体P2)は、待機位置Ywまたはそれよりも少し上流側の位置に停止しているので、その停止位置から先行媒体P1の給送動作が開始され、次の先行媒体P1を印刷開始位置に頭出しする。また、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1の最終行の印刷終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。なお、先行媒体P1の排出途中で、先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33を通り過ぎて一定の間隔が確保されたタイミングで、コンピューター62が給送モーター41の駆動を開始し、スキュー取り済みの後続媒体P2の印刷開始位置への搬送を開始させてもよい。
こうして印刷枚数と同じ回数のルーチンを繰り返し実行し、最終枚目の印刷時は、先行媒体P1のみで後続媒体P2(次頁)がないので、重ね動作に関連する処理(S113〜S116等)をスキップする。そして、例えば前回の重ね連送(S129)で頭出しされた最終枚目の媒体Pに対する搬送動作(S117)と印刷動作(S118)とが略交互に行われ、1頁分の印刷が行われる。そして、1頁分の印刷が終了すると、最終枚目の媒体Pは排出動作(S130)により排出される(図8も参照)。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、ノズルシフト処理によって、先行媒体の印刷終了後に、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを一部重ねた状態で一緒に搬送する重ね連送の実施頻度が高まる。すなわち、ノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を使用して印刷する行(本例では最終行)において、最下流ノズル♯1を含む第1ノズル範囲NA1から、最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2へ印刷に使用するノズルが変更される。この結果、最終行を印刷するときの先行媒体P1の搬送位置を、ノズルシフト処理を行わない場合の搬送位置(図24B)に比べ、シフト量の分だけ搬送方向Yの上流側の位置(図25)へ変更することができる。このため、印刷内容に依らず、後端余白長Ybmが所定長さ(最上流ノズル♯Qの位置から第2ニップ位置までの距離と最小重ね量Lminとの和)以上あれば、ノズルシフト処理によって、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が重ね可能領域LAの下限LL以上の条件を満たすようになる。この結果、重ね連送の実施頻度が高まり、印刷のスループットが向上する。
以上詳述した第2実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(2−1)制御部50は、媒体を搬送する搬送機構24と、搬送機構24により搬送された媒体Pにインクを吐出して印刷する複数のノズル382を媒体Pの搬送方向Yに沿って配列してなるノズル列381(ノズル群の一例)を有する印刷部25とを制御する。制御部50は、先行媒体P1の後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合、ノズル列381の一部の範囲のノズル382を用いて印刷する少なくとも1行(例えば最終行)において、印刷に用いるノズル382が属する一部の範囲を、後端余白長Ybmが閾値Y0を超える場合の一部の範囲の位置よりも、搬送方向の上流側へ移動させる。この結果、一部の範囲を移動させた第2ノズル範囲NA2のノズル382を使用する場合は、一部の範囲を移動させなかった第1ノズル範囲NA1のノズル382を使用する場合に比べ、先行媒体P1が印刷部25に対して、一部の範囲を搬送方向Yの上流側へ移動させた分だけ、搬送方向Yの上流側寄りに位置することになる。よって、移動させた一部の範囲のノズル382を使用して印刷するときの先行媒体P1の搬送位置が、一部の範囲を移動させた分だけ搬送方向Yの上流側に変更される。最終行を印刷するときに先行媒体P1の後端(上流端)を印刷部25から搬送方向Yに下限距離(つまり重ね可能領域LAの下限位置YL)以上の位置に配置できる。この結果、重ね量の不足により重ね連送ができなかったところ、先行媒体P1と後続媒体P2との間に必要な重ね量が確保され、重ね連送が可能になったり、重ね連送が元々できた場合でもその重ね量をより広く確保できたりする。したがって、先行媒体P1の印刷内容にさほど依存せず、重ね連送の実施頻度を高めることができる。この結果、印刷のスループットを一層向上させることができる。
(2−2)印刷部25に対して搬送方向Yの上流側と下流側には、媒体Pを挟持可能なローラー対33,34が設けられている。先行媒体P1の後端余白長Ybmが閾値Y0以下と比較的短い場合でも、ノズル列381のうち第2ノズル範囲NA2が使用されることで、最終行を印刷するときの先行媒体P1の印刷部25に対する搬送方向Yの位置(例えば後端位置Y1)を、第1ノズル範囲NA1が使用される場合に比べより上流側に位置させることが可能になる。この結果、最終行が印刷されるときに媒体Pの搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも上流側へ延びた部分が長くなって、重ね連送の実施頻度の向上および一層多くの重ね量を確保できる。
(2−3)制御部50は、先行媒体P1に最終行を印刷した後、先行媒体P1と後続媒体P2とが一部重なる状態を維持したまま後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送する重ね連送を行う。このとき、後端余白長Ybmが閾値Y0以下と比較的短く、第1ノズル範囲NA1を使用して印刷する場合の先行媒体P1の位置では、重ね量の不足により重ね連送を実施できない。しかし、第2ノズル範囲NA2を使用して印刷することにより先行媒体P1をより搬送方向Yの上流側に位置させることができるので、重ね連送を実施できるようになったり、その重ね連送時の重ね量をより多く確保できたりする。
(2−4)制御部50は、最終行を印刷するときの印刷部25から媒体Pの後端までの長さが、重ね連送を実施可能な範囲の上限以下に収まる範囲内で、第1ノズル範囲に対する第2ノズル範囲への搬送方向の上流側へのシフト量を決める。よって、ノズルシフト処理を行って使用ノズル範囲を変更したにも関わらず、後端位置Y1が上限位置YUを越えたために重ね連送を実施できなくなる事態を回避できる。つまり、第1ノズル範囲NA1から第2ノズル範囲NA2へ変更したことが却って重ね連送の実施頻度を低くする事態を低減できる。
(2−5)閾値Y0は、最終行を印刷するときの印刷部25から媒体P(先行媒体P1)の後端Y1までの長さが、重ね連送を実施可能な条件を満たす下限LLとなるときの後端余白長Ybmに設定されている。よって、後端余白長Ybmが閾値Y0以下のときは、第2ノズル範囲が選択されることで、最終行を印刷するときの印刷部25から媒体P(先行媒体P1)の後端Y1までの長さが、重ね連送を実施可能な条件を満たす下限LL以上になって、重ね連送を実施可能な条件を満たすので、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(2−6)制御部50は、後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合、第1ノズル範囲NA1から第2ノズル範囲NA2への変更により、重ね連送を実施可能な条件を満たす場合に第2ノズル範囲NA2を選択し、重ね連送を実施可能な条件を満たさない場合は第1ノズル範囲NA1を選択する。よって、ノズル範囲を変更しても重ね連送を実施可能な条件を満たさない場合は、第1ノズル範囲NA1を使用して効率よく印刷でき、ノズル範囲の変更により重ね連送を実施可能な条件を満たす場合は第2ノズル範囲NA2を選択することで重ね連送の実施頻度を高めることができる。よって、印刷のスループットを一層高めることができる。
(2−7)制御部50は、先行媒体P1にノズル列381の一部の範囲を使用して最終行を印刷する場合、第2ノズル範囲NA2のノズル382を用いて最終行を印刷した後に、重ね連送を行う。例えば制御部50が最終行の印字データを受信するまで、最終行の行幅(バンド幅)が分からない場合でも、最終行を印刷するときに先行媒体P1を印刷部25に対して搬送方向Yのより上流側の位置に配置することができる。よって、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(2−8)第1ノズル範囲NA1は、ノズル列381のうち搬送方向Yにおける最下流ノズル♯1を含む一部の範囲であり、第2ノズル範囲NA2は、最下流ノズル♯1を含まない一部の範囲としている。ここで、最下流ノズル基準で範囲が決められる第1ノズル範囲NA1の場合、印刷装置12またはホスト装置100のプリンタードライバー104で印刷データPDを1行ずつに分けて印字データを生成するとき、先端余白長Ytmを考慮せず印刷データPDの画像を先頭から1行分ずつ順番に分けて印字データを生成すればよい。これに対して最上流ノズル基準で範囲が決められる第2ノズル範囲NA2の場合、印刷データPDを1行ずつ分けて頁毎の印字データを生成するとき、印刷データPD以外に先端余白長Ytmを考慮して画像を先頭から1行分ずつ順番に分けつつ印字データを生成する必要がある。この結果、媒体の後端部が上流側のローラー対に挟持された状態で最終行が印刷される頻度を高めたり、重ね連送が実施される頻度を高めたりすることができる。
(2−9)第1ノズル範囲は、ノズル列381のうち最上流ノズル♯Qを含まない一部の範囲であり、第2ノズル範囲は、ノズル列381のうち最上流ノズル♯Qを含む一部の範囲である。後端余白長Ybmが閾値Y0を超える場合は、ノズル列381のうち最上流ノズル♯Qを含まない範囲の一部のノズルを用いて媒体Pに印刷される。後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合は、ノズル列381のうち最上流ノズル♯Qを含む一部の範囲を使用して媒体Pに印刷される。よって、図25に示すように、先行媒体P1のうち最上流ノズル♯Qよりも上流側に位置する後端余白部BAを最大限に長くすることができる。この結果、最終行の印刷時に先行媒体P1の後端部を印刷ヘッド38よりも上流側に配置された搬送ローラー対33に挟持される頻度を高めたり、最小重ね量Lmin以上の必要な重ね量を確保して重ね連送の実施頻度を高めたりすることができる。
(2−10)制御部50は、印刷部25(つまり印刷ヘッド38)を制御し、ノズル列381のうち1行の幅に対応する範囲内の全てのノズル382を印刷に使用可能な使用ノズルとして1行を印刷するバンド印刷を行わせる。よって、印刷内容に応じた行幅で1行ごとにバンド印刷をするときに使用される使用ノズルが、ノズル列381のうち一部の範囲である場合に、使用するノズル範囲が選択(変更)される。印刷内容にさほど依存されることなく、最終行を印刷するときの媒体Pの後端を、印刷部25に対してなるべく搬送方向Yの上流側に位置させることができる。
(2−11)制御部50は、後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合、ノズル列381の一部の範囲を使用して媒体Pに印刷される行のうちいずれか1行を印刷するときに第2ノズル範囲NA2を選択する。よって、ノズル列381のうち使用する一部の範囲を変更する処理は、1つの媒体当たりに1回で済む。
なお、上記実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・前記第2実施形態において、使用ノズルの範囲を搬送方向Yの上流側へ移動させるシフト処理を行うときの印刷行は、最終行に限定されず、最終行以外の行でもよい。例えば図27に示すように、最終行よりも1つ前(最終行から2番目の行)でもよい。特に、印字データを1パス分ずつ受信し記憶部に数パス分の印字データしか格納できない構成の場合、最終行の印字データを受信して後端余白長が分かりその後端余白長が閾値未満と分かった時点以後、最初の印刷行において使用ノズルのシフト処理を行ってもよい。
・前記第2実施形態において、図28Aに示すように、ノズルシフト処理により第2ノズル範囲NA2を選択する印刷行は、1行目でもよい。例えば1頁分の印刷データPDをその1頁の印刷開始前に受信できる構成である場合、印刷データPDから先行媒体P1の後端余白長Ybmを取得し、その後端余白長Ybmが閾値Y0未満である場合、1行目から第2ノズル範囲NA2を選択してもよい。図28Aの例では、1行目に最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2が選択され、図28Bに示すように1行目のバンドB1から最終行のバンドBnまで最上流ノズル基準で選択された使用ノズル範囲を用いて、バンド印刷が行われる。この場合、制御部50は、後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合、ノズル列381のうち一部の範囲のノズル382を用いて印刷する行についてはその全ての行において、ノズルシフト処理を行って第2ノズル範囲NA2を選択して印刷する。つまり、制御部50は、後端余白長Ybmが閾値Y0以下である場合、その頁(先行媒体P1)の印刷を、最下流ノズル基準から最上流ノズル基準に切り換え、1行目から最終行までの全てのバンドB1〜Bn(全行)を最上流ノズル基準で印刷する。このように第1ノズル範囲NA1と第2ノズル範囲のうち一方の選択、例えば最下流ノズル基準から最上流ノズル基準への切り換えは頁単位に行ってもよい。この構成によれば、媒体Pの全ての行が、ノズル列381のうち最上流ノズル♯Qを含む範囲のノズル382を用いる最上流ノズル基準で印刷されるので、制御部50が印刷部25を制御する際の制御内容が比較的簡単に済む。
・前記第2実施形態では、閾値を定数としたが、閾値は変化する値であってもよい。例えば第1ノズル範囲NA1内で最上流に位置するノズルと搬送ローラー対33のニップ位置NP2との距離をLnとおくと、閾値Y0を、後端余白長Ybmから距離Lnを減算した値(=Ybm−Ln)としてもよい。つまり、後端余白長Ybmが、最終行を印刷するときの媒体Pの後端Y1が、印刷部25(例えば印刷ヘッド38)に対して搬送方向Yの上流側に下限距離LC以上の距離に位置する値である場合は、第1ノズル範囲NA1を選択し、下限距離LC未満の距離に位置する値である場合は、第2ノズル範囲NA2を選択する。ここで、搬送方向Yにおける第2ニップ位置NP2と印刷ヘッド38との距離をLhとおくと、下限距離LCは、下限LLの値を用いて、LC=LL+Lhで表わされる。このようにノズルシフト処理前の第1ノズル範囲NA1における最上流のノズルと搬送ローラー対33のニップ位置NP2との距離を減算することにより、可変の閾値を計算してもよい。この構成によれば、重ね動作完了後に後端位置Y1が下限値LL以下であるか否か、つまり最小重ね量Lminが確保されているか否かの判定を無くすこともできる。
・前記第2実施形態において、ノズル列のうち第1ノズル範囲NA1を搬送方向Yの上流側に位置する第2ノズル範囲NA2へ変更するノズルシフト処理は、重ね連送の制御と組み合わせて用いることに限定されない。印刷部25から媒体Pの後端Y1までの距離を長くすることにより、印刷上の他の効果が得られれば、印刷に用いるノズル列の一部の範囲を搬送方向Yの上流側へ変更するノズルシフト処理を行ってもよい。例えば、最終行が印刷される際に媒体Pが、上流側のローラー対の一例である搬送ローラー対33にニップされた状態にあることが、媒体Pの支持台35からの浮き上がりに起因する印刷ずれを抑えるうえで好ましい。このため、媒体Pの後端余白長Ybmが、最終行の印刷時に媒体Pの後端Y1が、搬送ローラー対33にニップされる最小の後端余白長に等しい閾値未満であるか否かを判断する。後端余白長Ybmが閾値未満である場合、使用ノズル範囲を搬送方向Yの上流側へ変更するノズルシフト処理を行い、後端余白長Ybmが閾値以上である場合は、ノズルシフト処理を行わない。この構成によれば、最終行を印刷するときに媒体Pの上流端を、印刷部25から搬送方向Yの上流側において搬送ローラー対33による媒体Pの後端部のニップが可能な下限距離以上の位置に配置できる頻度が高まる。よって、媒体Pの後端部が搬送ローラー対33に挟持された状態で最終行を印刷できる頻度を高くすることができる。なお、閾値は、定数でもよいし、最終行の行幅から決まる最下流ノズル基準の範囲である第1ノズル範囲NA1内で最上流に位置するノズルと、搬送ローラー対33のニップ位置NP2との搬送方向Yの距離、またはこの距離に少しのマージン(例えば1〜10mmの範囲内の値)を加えた値とする。また、ノズルシフト処理は、最終行のみ実施してもよいし、1行目から最終行までのいずれか1行(例えば最終行の1つ前の行)で実施してもよいし、さらに1行目から最終行までの全ての行で実施してもよい。
・前記第2実施形態において、第2ノズル範囲NA2は、最上流ノズル♯Qを含む範囲に限定されず、最上流ノズル♯Qを含まない範囲でもよい。また、搬送ローラー対33のニップ位置NP2から搬送方向Yの上流側へ媒体Pの後端Y1までの長さが、最低限必要な値(例えば最小重ね量Lmin)になるように第1ノズル範囲NA1から第2ノズル範囲NA2への搬送方向Yの上流側への変更量(シフト量)を決めてもよい。例えば後端位置Y1が重ね可能領域LAの下限LLに至るまでに不足している長さ、あるいはこの長さに一定のマージンを加えた長さだけ、第1ノズル範囲NA1をシフトさせて第2ノズル範囲NA2を決定する。また、最上流ノズル♯Qを含む第2ノズル範囲NA2に変更すると、後端位置Y1が重ね可能領域LAの上限位置YUを上流側へ越えてしまう場合は、上限位置YUを越えない範囲でシフト量を決めてもよい。
・前記第2実施形態において、制御部は、ホスト装置100のプリンタードライバー104を含んでもよい。印刷装置12は、印刷装置12とホスト装置100のプリンタードライバー104とを備える印刷システムであってもよい。印刷制御装置は、ホスト装置のコンピューターにインストールされたプリンタードライバー104により構成される。制御部は、印刷装置12の制御部50と印刷制御装置とにより構成される。制御部を構成する印刷制御部は、ステップS121〜S124の処理を実行し、ノズルシフト処理を行った結果として得られた印字データを印刷装置12の制御部50へ送信する。
・前記第2実施形態では、重ね動作で、先行媒体P1の後端部における印刷ヘッド38と対向する側の面(上面)の後端余白部BAに、後続媒体P2の先端部を重ねる上重ねとしたが、下重ねとしてもよい。下重ねの場合は、先行媒体P1の後端部における印刷ヘッド38と対向する側の面(上面)と反対側の面(下面)に、後続媒体P2の先端余白部を重ねる。また、下重ねの場合には、スキュー取り動作および重ね連送の実施タイミングが必ずしもラストパスである必要はない。その実施タイミングは、現在の先行媒体P1の後端位置Y1と、後続媒体P2の先端余白長Ytmとによって決まる。すなわち、下重ねした際に後続媒体P2の先端部は先行媒体P1によって覆われてしまうが、後続媒体P2の印刷開始位置が覆われていなければよい。
<第3実施形態>
次に第3実施形態について図面を参照して説明する。第3実施形態の1、2は、重ね連送後に頭出しされた後続媒体P2の印刷で、先行媒体P1の後端部と重なった部分に印刷されることが原因で印刷画質が低下する可能性がある所定の条件の下では、重ね連送を中止して、印刷画質の低下を未然に防止するものである。以下、第3実施形態の1、2について説明する。
(第3実施形態の1)
まず第3実施形態の1について図29〜図39を参照して説明する。不揮発性メモリー75には、図39にフローチャートで示される印刷制御用のプログラムPRが含まれる。コンピューター62は不揮発性メモリー75から読み出したプログラムPRに従って動作し、印刷装置12を制御する。
印刷装置12を構成する制御部50は、印刷データPDに基づき重ね給送方式を選択した場合、印刷部25の往動時と復動時の両方で印刷をする双方向印刷を行い、通常給送方式を選択した場合、印刷部25の単一方向のみで印刷を行う単方向印刷を行う。
次に図29を参照して双方向印刷について説明する。図29に示す印刷部25は、媒体Pの搬送方向Yと交差(例えば直交)する走査方向Xに沿って往復動するシリアル印刷方式である。図29において、印刷部25の左方向への移動が往動であり、右方向への移動が復動である。図29に示すように、双方向印刷では、キャリッジ36の往動で印刷ヘッド38のノズル382から吐出したインク滴による着弾位置D0(印刷位置)と、キャリッジ36の復動で印刷ヘッド38のノズル382から吐出したインク滴による着弾位置D0とを一致させる必要がある。
重ね給送方式が行われる印刷モードである高速印刷モードでは、キャリッジ36は高速度で往復動し、往動と復動との両方で印刷ヘッド38のノズル382からインク滴を吐出することで、1回の移動(1パス)で1行ずつ高速に印刷する双方向印刷が行われる。このとき、印刷部25の往動と復動とで、印刷ヘッド38のノズル382から吐出したインク滴を走査方向Xの同じ目標着弾位置に着弾させる必要がある。
図29に示すように、キャリッジ36が移動速度Vcで往動する場合、同図におけるキャリッジ36の吐出開始位置と着弾位置D0との間における走査方向Xのずれ量分早いタイミングで吐出開始位置を設定する必要がある。また、図29に示すようにキャリッジ36が移動速度Vcで復動する場合においても、同様に復動方向にずれ量分早いタイミングで吐出開始位置を設定する必要がある。
ここで、着弾位置は、キャリッジ36の移動速度Vc、ノズルと媒体PとのギャップPG、インク吐出速度Vm等のパラメーターで決まる。このため、印刷ヘッド38からインク滴を吐出させる吐出開始位置は、上記の各パラメーターに応じて決められる。ここで、重ね連送により頭出しされた後続媒体P2への1行目の印刷で、支持台35上で重なった先行媒体P1と後続媒体P2(図29では二点鎖線で示す)との重なり部分に印刷する場合、印刷部25と後続媒体P2との間が小さなギャップPG2となる。
図29に示すように、媒体Pが1枚のときの目標着弾位置をD0とする。キャリッジ36の一定の移動速度Vcでの往動中に印刷ヘッド38が同図の吐出開始位置からインク滴を吐出すると、インク滴は重力方向Zへの吐出速度Vmと印刷ヘッド38の往動方向への移動速度Vcとの合成ベクトルで示される斜め方向へ飛行し、目標着弾位置D0に着弾する。また、キャリッジ36の復動方向へ一定の移動速度Vcでの移動中に印刷ヘッド38が同図の吐出開始位置からインク滴を吐出すると、インク滴は重力方向への吐出速度Vmとキャリッジ36の往動方向への移動速度Vcとの合成ベクトルで示される斜め方向へ飛行し、同様に目標着弾位置D0に着弾する。
しかし、媒体Pが1枚のときの大きめのギャップPG1から媒体P1,P2が2枚重なったときの小さなギャップPG2になると、同じ一定の移動速度Vcで移動中の印刷ヘッド38から同じ吐出開始位置でインク滴を吐出した場合、インク滴は相対的に早く後続媒体P2の表面に着弾する。そのため、そのインク滴が目標着弾位置D0よりも少し手前(吐出開始位置側)にずれた着弾位置D1に着弾する。復動時も同様に目標着弾位置D0に対して着弾位置D1とは反対側の着弾位置D2にずれる。
このため、重ね連送後に後続媒体P2における先行媒体P1と重なった部分に印刷する場合、インク滴が着弾してできる印刷ドットが走査方向Xにずれてしまう。このため、本実施形態では、媒体P1,P2が重なった部分のギャップPG2に合わせて吐出タイミングを変更したり、キャリッジ36の移動速度を低速にしたりするなど、着弾位置のずれ量を小さくする対策を施している。図29に二点鎖線で示すキャリッジ36のように移動速度を低速にすれば、媒体Pが1枚であるときに目標着弾位置D0を狙う吐出開始位置から吐出しても、重なり部分の表面にインク滴が着弾した位置D3が目標着弾位置D0からずれるずれ量を小さく抑えることができる。
次に図30〜図37を参照して、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね連送後に正常に印刷できる条件について説明する。なお、図30及び図34では、各行のバンドBに示した矢印は、そのバンドBを印刷したときのキャリッジ36(つまり印刷ヘッド38)の走査方向Xを示す。図16に示すように、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね連送後に、キャリッジ36が走査方向Xに移動して後続媒体P2に1行目の印刷を行う。このとき後続媒体P2の先端部は先行媒体P1の後端部(後端余白領域)に対して上重ねの状態にある。先行媒体P1には、1行目からn行目のバンドB11〜B1nが印刷されており、後続媒体P2には1行目からのバンドB21,B22,…が印刷される。
まず、図30に示すように、先行媒体P1と後続媒体P2とが重なる部分に印刷される場合と、重なる部分に印刷されない場合とがある。重なる部分に印刷される場合、正常に印刷できない場合があるため、正常に印刷できる条件を設定している。以下、媒体Pの重なる部分に印刷する場合について説明する。
図30に示すように、先行媒体P1と後続媒体P2との重なり領域Lpには、後続媒体P2に対する1行目のバンドB21の一部がかかっており、1行分のバンドB21のうち搬送方向Yに画像重なり量PLの部分が、媒体P1,P2の重なり部分に印刷されている。
図31に示すように、先行媒体P1に対する最終行の印刷動作では、支持台35上には1枚の先行媒体P1のみが支持されているので、印刷ヘッド38と媒体Pとの間には、適切なギャップが確保されている。このため、仮に1行の最大幅(ノズル列長NLの幅)でバンドB1nが印刷されたとしても、バンドB1nは正常に印刷される。
図32に示すように、先行媒体P1と後続媒体P2との重なり部分を含む印刷領域に1行目のバンドB21が印刷される場合、重なり部分は2枚分の厚さがあるため、重なりのない部分に比べ、印刷ヘッド38と媒体Pとのギャップが媒体1枚分だけ小さくなる。このため、バンドB21のうち画像重なり量PLの部分では、図29に示すように、インク滴は、目標着弾位置D0に対してΔXだけ走査方向Xにずれた位置D1,D2に着弾することになる。
また、図32に示すように、画像重なり量PLは、先行媒体P1の後端余白長L1(=Ybm)と、後続媒体P2の先端余白長L2(=Ytm)と、搬送ローラー対33のニップ位置NP2と最上流ノズル♯Qとの距離Lnとを用いて、PL=L1−L2−Lnにより表わされる。
図33に示すように、後続媒体P2に印刷された1行目のバンドB21には、バンド幅BWに対して重なり部分に印刷される第1領域SGと、重なり部分と支持台35に接触する部分との間において傾斜している部分に印刷される第2領域VGと、後続媒体P2が支持台35に接触している部分に印刷される第3領域LGとが含まれる。第1領域SGは、印刷部25と正常なギャップよりも小さなギャップの下で印刷される。また、第3領域LGは、印刷部25との正常なギャップの下で印刷される。さらに第2領域VGは、第1領域SGが印刷されるときのギャップと、第3領域LGに印刷されるときのギャップとの間の値のギャップでかつそのギャップの値が搬送方向Yに徐々に変化するギャップの下で印刷される。
第1領域SGでは、第3領域LGと比べ、印刷時のギャップが媒体1枚分の厚さだけ小さいので、そのギャップの差に基づきインク滴が着弾してできた印刷ドットが走査方向Xにずれることになる。しかし、第2領域VGでは搬送方向Yの位置の違いに応じてギャップが徐々に変化するため、印刷ドットも走査方向Xに徐々にずれる。このため、バンドB21全体としては、印刷ドットのずれが比較的目立ちにくい。これは、1行のバンドB21の幅BW内に、走査方向Xにおける印刷ドットのずれ量が徐々に変化する第2領域VGの全部または大部分が含まれ、印刷ドットのずれに連続性があるからである。これに対して、第2領域VGが、走査方向Xに反対方向に移動した印刷部25によって印刷された2行のバンドB21,B22に跨る場合、バンドB21,B22間で印刷ドットのずれに連続性がなくなり、印刷ドットのずれが目立ち易くなる。
一方、図34に示す例は、先行媒体P1と後続媒体P2との重なり領域Lpの部分に、1行分のバンドB21の幅全体が印刷される場合である。重なり領域Lpの部分では、印刷ヘッド38と媒体Pとのギャップが1枚分だけ小さくなるため、図29に示すように、インク滴は、目標着弾位置D0に対してΔXだけ走査方向Xにずれた位置D1,D2に着弾することになる。このため、図34に示すように、後続媒体P2に対する1行目のバンドB21は、重なり領域Lp以外の部分に印刷される2行目のバンドB22に対して、走査方向Xにずれ量ΔBだけずれて印刷される。
図35及び図36に示す例は、先行媒体P1と後続媒体P2との重なり領域Lpの部分に、1行分のバンドB21のほとんどが印刷される場合である。ノズル列長NL(つまりバンド最大幅)に対する画像重なり量PLの割合がかなり高くなっている。図36に示す1行目のバンドB21では、バンド幅BWにおいて印刷部25が媒体P1,P2の重なり部分に小さなギャップで印刷した第1領域SGがほとんどを占める。そして、ギャップが徐々に変化する第2領域VGは、1行目のバンドB21と2行目のバンドB22との境界に位置する。さらに後続媒体P2における支持台35に接触している部分に適正なギャップで印刷された第3領域LGは、2行目のバンドB22に含まれる。ここで、1行目のバンドB21と2行目のバンドB22は、これらが印刷されるときに印刷ヘッド38が走査方向Xに移動した移動方向が逆方向になるので、両バンドB21,B22の境界を隔てた両側でドットのずれが比較的目立ち易い。
このため、本実施形態では、図34〜図36に示すように双方向印刷時の印刷ずれのリスクが高い条件においては、印刷ドットずれが目立つ印刷不良を回避する回避処理として、重ね連送を中止するようにしている。ここで、ノズル列長NLに相当するバンド幅BWである最大バンド幅に対する画像重なり量PLの割合が比較的小さいときは、1行のバンドに第2領域VGの全部または大部分が含まれる傾向にある。逆に、バンド幅BWの最大値に対する画像重なり量PLの割合が比較的大きいときは、1行のバンドに第2領域VGの一部しか含まない傾向にある。そのため、ドットのずれが目立つ条件の指標として、ノズル列長NLに対する画像重なり量PLの割合の大きさを用い、ノズル列長NLに対する画像重なり量PLの割合が閾値Fを超える場合、つまりPL/NL×100(%)>Fの条件を満たす場合は、印刷ずれリスクが高いものとみなして回避処理を行う。この条件は、PL>NL・F/100で表わされる。なお、閾値Fは、ノズル列におけるノズルの分布領域の長さであるノズル列長NLのF(%)の値である。本例では、F=50%としている。つまり、PL>NL/2の条件により、印刷ずれリスクが判定される。
また、図37に示すように、重ね連送により頭出しされた状態において、後続媒体P2の第2ニップ位置NP2から下流側へ延びた部分の長さが、押さえローラー34Cに至らず、押さえローラー34Cによって押さえられない場合がある。この場合、例えば後続媒体P2の先端部が上側へカールしていると、そのカールした先端部が、印刷ヘッド38のノズル開口面38Aに接触して、後続媒体P2がインクで汚れたり、ノズルのインクメニスカスを破壊してインク吐出不良を招いたりする原因になる。そのため、重ね連送後の後続媒体P2における第2ニップ位置NP2よりも搬送方向Yの下流側へ延びた部分の長さLが、第2ニップ位置NP2から押さえローラー34Cの軸中心までの距離Lrよりも短い場合は、この種の印刷不良を回避する回避処理として、重ね連送を中止する。
図38は、重ね可能条件のうち余白条件を示すグラフである。図38に示すグラフにおいて、縦軸が先行媒体P1の後端余白長L1を示し、横軸が後続媒体P2の先端余白長L2を示す。重ね可能条件で重ね連送が許可される重ね許可領域PAは、後端余白長L1がLL≦L1<LU、かつ先端余白長L2がL2≧Lrを満たす第1条件の範囲のうち、画像重なり量PLが、ノズル列長NLに対して、PL<NL/2という第2条件を満たす範囲である。また、重ね可能条件を構成する第2条件には、その他の条件として、印刷デューティーが閾値以下であるという条件も含まれる。そして、本実施形態の重ね可能条件は、第1条件と第2条件とを全て満たすときに成立する。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図8、図29〜図38等を参照して、制御部50内のコンピューター62が図39にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む搬送制御について説明する。なお、図8では、給送モーター41は正転(CW)と逆転(CCW)とを区別してその駆動速度を示し、キャリッジモーター48は正転と逆転とを区別せずモーター駆動速度を示している。また、搬送モーター44は、正転駆動のみする。
複数枚印刷の場合、はじめに1枚目の媒体が先行媒体P1となる。また、先行媒体P1が印刷中である場合、先行媒体P1の次に給送される2枚目の媒体が後続媒体P2となる。1枚目の印刷中は、仮に2枚目が1枚目と一緒に重ね連送されても、1枚目の後端余白領域の範囲内で2枚目の先端部が重ねられるため、1枚目に2枚目との重なり部分に印刷されることはない。このため、1枚目の印刷中はリスクが低いので、1枚目についてはリスク判定を行わない。これに対して、重ね連送で頭出しされた2枚目の媒体P(後続媒体P2)の先端部における印刷対象部が、これに先行する1枚目の媒体(先行媒体P1)の後端余白領域と重なっている場合がある。この重なりによるリスク判定は、1枚目と2枚目とを重ね連送するか否かの判定に用いた1枚目の媒体Pの後端余白長と2枚目の媒体Pの先端余白長の各情報とを用いて行う。以下、同様に、この重なりによるリスク判定は、先行媒体P1と後続媒体P2とを重ね連送するか否かの判定に用いた先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2の各情報とを用いて行う。
ステップS211において、先行媒体P1を給送する。複数枚印刷の場合、1枚目の媒体が先行媒体P1となる。また、先行媒体P1が印刷中である場合、次に給送される2枚目の媒体が後続媒体P2となる。すなわち、コンピューター62は、図8に示すように、給送モーター41を正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)し、給送ローラー28および中間ローラー30の回転によって、先行媒体P1を給送する。この給送途中で先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次にコンピューター62は、給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とを同期させて行い、同じ搬送速度で回転する中間ローラー30および搬送ローラー対33により先行媒体P1を印刷開始位置まで頭出しする。なお、この判断時期は、次のパスの印刷動作が開始されるまでのタイミングであればよい。
ステップS212では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS213に進み、ラストパスであればステップS223に進む。
ステップS213では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施前であれば「0」、重ね動作実施済みであれば「1」とするフラグを記憶部に備え、そのフラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みであると判断し、そのフラグの値が「0」であれば重ね動作実施前であると判断する。重ね動作実施済みでなければステップS214に進み、重ね動作実施済みであればステップS217に進む。
ステップS214では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1から外れ、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知してONからOFFへ切り換わればステップS215に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS217へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS215では、重ね可能であるか否かを判断する。つまり、重ね連送の実施条件となる重ね可能条件が成立したか否かを判断する。すなわちコンピューター62は、重ね可能条件のうち第1条件(余白条件)(LL≦L1<LUかつL2≧Lr)が成立するか否かを判断する。第1条件が成立して重ね可能であればステップS216に進み、重ね可能でなければステップS217に進む。
ステップS216では、重ね動作を行わせる。詳しくは、コンピューター62は、給送モーター41を正転駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2を給送し、後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41を駆動する。この重ね動作過程では、コンピューター62は第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わったときに第2カウンター82に計数処理を開始させ、その計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。そして、先端位置Y2が待機位置Ywに達すると、給送モーター41の駆動を停止する。この結果、後続媒体P2は待機位置Ywで停止する。コンピューター62は重ね動作を完了すると、フラグの値を「0」から「1」にする。なお、印刷装置12が、印字データを1パス分ずつ受信し、記憶部に数パス分の印字データしか記憶できないために後端余白長および先端余白長を、本頁の最終パスの印字データと次頁の1パス目の印字データとを受信するまで取得できない構成である場合がある。この場合、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知しても、重ね可能条件の成否の判断が不可能である。このような場合は、重ね可能条件の成否の判断は、必要な印字データを取得した時点で行うこととし、判定前であっても第1センサー51のONからOFFへの切り換わりをもって先に重ね動作を行って、後続媒体P2を待機位置Ywに待機させておく。
ステップS217では、双方向印刷のずれリスクを判定する。前回の重ね連送の判定に用いた先の先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2とを用いて、重なり部分のうち印刷が施される画像重なり量PLを求める。この画像重なり量PLが、PL>NL・F/100を満たすか否かを判断することで、印刷のずれリスクを判定する。ここで、NLはノズル列長、F(%)は、ノズル列におけるノズルの分布領域の長さであるノズル列長NLのF(%)を閾値としている。本例では、その一例としてF=50%としている。なお、F(%)は、適宜な値を選択できるが、例えば30〜80%の範囲内が好ましい。
ステップS218では、双方向印刷のずれリスクが高いか否かを判断する。本例では、PL>NL・F/100を満たすときに双方向印刷のずれリスクが高いとみなす。双方向印刷のずれリスクが高ければステップS219に進み、双方向印刷のずれリスクが高くなければ(つまり低ければ)ステップS220に進む。
ステップS219では、ずれ対策を実施する。ずれ対策としては、1行の印刷幅(バンド幅)を画像処理で双方向印刷によるずれが小さくなる幅に変更したり、印刷ヘッド38の吐出タイミングを双方向印刷によるずれが小さくなるタイミングに補正したりする。さらに双方向印刷に替えて単方向印刷に変更する対策、印刷部25の走査方向Xへの移動速度を通常の移動速度Vcから低速度VL(<Vc)に切り換える対策を行う。これらの対策のうち少なくとも1つをずれ対策として実施する。なお、このずれ対策は、重ね連送後に先行媒体P1と後続媒体P2との重ね部分を少なくとも一部に含む印刷領域を印刷対象とする印刷動作で実施される。
ステップS220では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。なお、頭出し直後で先行媒体P1が既に1行目の印刷位置にあるときは、この搬送動作は省略される。
ステップS221では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出させることで、先行媒体P1に1パス分の画像を印刷する印刷動作を行う。
ステップS222では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1に印刷すべき全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS212に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS232に進む。
ステップS212に戻った場合、以後、ステップS212〜S222の処理を、ステップS212でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作実施済み(フラグ=「1」)である場合(S213で肯定判定)は、次行までの搬送動作(S220)と、その次行での1パス分の印刷動作(S221)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。この印刷動作で、重ね可能条件が成立している場合(S215で肯定判定)でも、第1センサー51がONからOFFに切り換わっていなかったために重ね動作を行っていなかった場合において、第1センサー51がONからOFFに切り換わると(S214で肯定判定)、重ね動作が行われる(S216)。なお、ラストパスになっても、第1センサー51がONからOFFに切り換わらない場合は、重ね動作が行われない。
また、先行媒体P1が1頁目である場合は、後続媒体P2が仮に重ね連送された場合でも、その後端余白領域に後続媒体P2の先端部は重なるため、先行媒体P1の重なり部分に印刷されることはない。しかし、先行媒体P1が2頁目以降である場合、先行媒体P1がこれに先行する先の先行媒体の後端部に重なっているので、この先端側の重なり部分に印刷される虞がある。この重なり部分への印刷に起因する双方向印刷のリスクが判定(S217)され、双方向印刷のリスクが高い場合(S218で肯定判定)にずれ対策が行われる(S219)。この結果、ずれ対策によって、双方向印刷が行われても、バンド印刷の境界位置が変更されるなどの対策により印刷ずれの発生が抑えられるか、あるいは一方向印刷に切り換えられることによって印刷ずれの発生が抑えられる。なお、先行媒体P1と先の先行媒体との重なり部分の印刷を終える位置まで先行媒体P1が排出されると、リスクは低いと判定されるため(S218で否定判定)、ずれ対策が行われることなく、通常の印刷が行われる。
こうして1パス目から、ラストパスの1つ前のn-1パス目の印刷までの間に、重ね動作を実施済みでなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S212で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S214で肯定判定)かつ重ね可能条件が成立した場合(S215で肯定判定)に重ね動作を行う(S216)。こうしてラストパスに至る前に、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知し、かつそのとき重ね可能条件が成立すれば、重ね動作が行われる(S216)。
そして、ラストパスの1つ前(n-1回目)のパスの印刷動作を終えると、ステップS212に戻り、次のパスがラストパス(n回目のパス)であると判断されるため、ステップS223に進む。
ステップS223では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施済みであるかどうかをフラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作済みではないと判断する。重ね動作実施済みでなければステップS217に進み、重ね動作実施済みであればステップS224に進む。
重ね動作が行われていなければ、重ね連送を実施できないため、次のラストパスの印刷位置まで搬送動作(S220)を行って、ラストパスの1行分の印刷動作(S221)を行う。こうしてラストパスの印刷動作を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S222で肯定判定)、ステップS232において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして1枚目の先行媒体P1の印刷を終了し、1回目のルーチンが終わると、次のルーチンで、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、3枚目の媒体Pが新たな後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、次頁の印刷のために図39に示される印刷制御ルーチンを再び実行し、ステップS211において、それまでの後続媒体P2が新たな先行媒体P1としてその給送動作を行う。このとき、1枚目の先行媒体P1は既に排出済みであるため、1枚目の先行媒体P1の排出と、2枚目の先行媒体P1の給送は、両媒体P間に間隔を開けて行われる。一方、次のパスがラストパスであって(S212で肯定判定)、かつ重ね動作実施済み(ステップS223で肯定判定)である場合は、ステップS224に進んで以下の処理が行われる。
ステップS224では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。
ステップS225では、1パス分の印刷動作を行う。詳しくは、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、その移動過程で印刷ヘッド38のノズルからインク滴を吐出することにより最終行を印刷する。
ステップS226では、先行媒体の後端余白長を取得する。印刷データPDを1パス分ずつの印字データとして順次受信する構成である場合、コンピューター62は、先行媒体P1の最終行の印字データから取得した印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長L1を取得する。なお、印刷データPDを最初に受信する構成である場合、コンピューター62は、印刷データPD中のヘッダーに含まれる印刷条件情報から後端余白長L1を取得したり、印刷データPDを解析して先行媒体P1の最終行の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長L1を取得したりする。
ステップS227では、後続媒体の先端余白長を取得する。印刷データPDを1パス分ずつの印字データとして順次受信する構成である場合、コンピューター62は、後続媒体P2の1行目の印字データを用いて取得した印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて先端余白長L2を取得する。なお、印刷データPDを最初に受信する構成である場合、コンピューター62は、印刷データPD中のヘッダーに含まれる印刷条件情報から先端余白長L2を取得したり、印刷データPDを解析して後続媒体P2の1行目の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて先端余白長L2を取得したりする。
ステップS228では、リスク判定を行う。コンピューター62は、先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2とを用いて、リスク判定を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1の後端余白長L1と先行媒体P1の先端余白長L2とを用いて、重ね連送を行った際の先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部との重なり部分のうち印刷が施される画像重なり量PLを求める。この画像重なり量PLが、PL>NL・F/100を満たすか否かを判断することで、印刷ずれリスクを判定する。ここで、F(%)は、前述のステップS217と同じ値(例えば50%)であるが、異なる値でもよい。また、印刷デューティー値が閾値を超えることもリスク要因の1つに含まれる。ここで、印刷デューティー値とは、媒体Pに印刷される単位面積当たりのインク量の比率(%)を指す。本例では、印刷デューティー値が閾値を超えるときにリスクが高いとされる。さらに重ね連送の終了時点における後続媒体P2の先端部におけるニップ位置NP2から搬送方向Yの下流側への長さが、特定範囲内にある場合は、リスクが高いとされる。また、本実施形態では、重ね可能条件が成立するか否かもリスクの判定条件の1つとされ、重ね可能条件が成立しない場合は、リスクが高いとされる。そして、これらのリスク条件の1つでも成立すると、リスクが高いと判定する。
ステップS229では、リスクが高いか否かを判断する。リスクが高ければステップS232に進み、重ね連送は行わず、先行媒体P1を排出する排出動作を行う。この結果、先行媒体P1は排出され、その後、次のルーチンを開始したときに、先行媒体P1は待機位置Ywまたはそれより上流側の位置から給送される。一方、リスクが高くなければ(つまり低ければ)ステップS230に進む。
ステップS230では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作における搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、後続媒体P2のスキューを矯正するスキュー取り動作を行う。
そして、次のステップS231では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重なり量を維持したまま同じ搬送速度で一緒に搬送する重ね連送(図8のハッチング部)を行う。これにより後続媒体P2は、先行媒体P1との重なり量を維持したまま印刷開始位置に頭出しされる。こうして図8に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の余白領域の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、重ね動作が未実施であった場合(S223で否定判定)は、重ね連送を実施できないため、次行(ラストパスの印刷位置)まで搬送動作を行った後(S220)ラストパスの印刷動作(S221)を行う。この印刷動作に先立ち、コンピューター62は、双方向印刷のずれリスクを判定する(S217)。そして、ずれリスクが高い場合(S218で肯定判定)は、ずれ対策が施された印刷動作が行われ、双方向印刷のずれリスクが低い場合は、ずれ対策が施されない通常の印刷動作が行われる(S221)。
こうしてラストパスの印刷を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S222で肯定判定)、ステップS232において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして先行媒体P1の印刷を終了し、1回のルーチンが終わると、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、次頁の媒体Pが新たな後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、今回の頁の印刷のために図39に示される印刷制御ルーチンを再び実行する。このとき、前回のルーチンで重ね連送(S231)を行ったときは、先行媒体P1は印刷開始位置まで既に給送されているため、ステップS211の処理は省略され、ステップS212の処理から開始される。一方、前回のルーチンで重ね連送(S231)を行わず、排出動作(S232)を行ったときは、ステップS211における先行媒体P1の給送動作を行い、先行媒体P1を印刷開始位置まで給送して頭出しを行う。このとき、前回の先行媒体P1は既に排出済みであるため、今回の先行媒体P1の給送は、前回の先行媒体P1の排出との間に間隔を開けて行われる。
なお、次頁がある場合は、排出動作を終えた後、ステップS211の次頁の媒体Pの給送動作を行う。但し、次の媒体(前回の後続媒体P2)は、待機位置Ywよりも少し上流側の重ね動作を中止した位置に停止しているので、この中止位置から先行媒体P1(前回の後続媒体P2)の給送動作が行われることにより、新たな(2頁目の)先行媒体P1を印刷開始位置に頭出しする。なお、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1のラストパスの印刷動作の終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、リスクを判定してリスクが高くときは重ね連送を行わず、リスクが小さいときに重ね連送を行う。先行媒体の印刷終了後に、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを一部重ねた状態で一緒に搬送する重ね連送の実施頻度が増加する。すなわち、ノズル列のうち一部の範囲のノズルを使用する場合に、最下流ノズルを含む一部の範囲のノズルを使用する第1使用ノズル範囲から、最上流ノズルを含む一部の範囲のノズルを使用する第2使用ノズル範囲へ使用ノズルが変更される。この結果、最上流ノズル位置から後端までの後端余白長が、ニップ位置NP2よりも上流側の部分の長さである重ね可能長さが最小余白長Lmin以上となる重ね可能条件を満たすことになる。一方、ノズル変更を行っていなければ、最上流ノズル位置から後端までの後端余白長が、ニップ位置NP2よりも上流側の部分の長さである重ね可能長さが、最小余白長Lmin以上となる重ね可能条件を満たしていなくても、ノズル変更を行うことにより重ね可能条件を満たようになり、重ね連送が行われるようになる。このため、重ね連送の実施頻度が高まることになるので、印刷のスループットが向上する。
以上詳述した第3実施形態の1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(3−1)制御部50は、先行媒体P1と後続媒体P2との一部を重ね可能な第1条件の一例としての重ね可能条件が成立すると、先行媒体P1と後続媒体P2とを一部重なった状態を維持したまま後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送する重ね連送を行う。但し、制御部50は、印刷部25が重ね連送によって一部重なった状態にある後続媒体P2への正常な印刷を可能にする第2条件を満たさない場合は、第2条件を満たさないことによる印刷不良の発生を回避させる回避処理が行われる。よって、後続媒体P2を先行媒体P1と一部重なる状態で印刷開始位置へ搬送する重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良の発生頻度を低減できる。
(3−2)制御部50は、印刷の乱れがない印刷を可能にする第2条件を満たさない場合は、印刷の乱れの発生を回避させる回避処理を行う。よって、先行媒体P1と後続媒体P2とを一部重ねた状態で後続媒体P2の印刷開始位置まで一緒に搬送する重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷の乱れの発生頻度を低減できる。
(3−3)制御部50は、印刷部25が一部重なった状態にある後続媒体P2に印刷するときの位置において先行媒体P1と後続媒体P2とのうち少なくとも一方と印刷部25との媒体の搬送方向Yにおける相対位置関係が、正常な印刷を可能にする第2条件を満たさない場合に、回避処理を行う。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良の発生頻度を低減できる。
(3−4)第2条件は、印刷部25が先行媒体P1と後続媒体P2との重なり部分の少なくとも一部に印刷される印刷領域が、印刷部25の最大バンド幅(印刷可能領域)に対して搬送方向Yに占める比率が、所定値未満となる相対位置関係にあることを条件とする。そして、制御部50は、第2条件を満たさない場合に、回避処理を行う。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良(例えば印刷の乱れ)の発生頻度を低減することができる。
(3−5)制御部50は、回避処理として、印刷部25に印刷させる後続媒体P2に対する印刷領域を搬送方向Yに小さくする。印刷部25が先行媒体P1と後続媒体P2との重なり部分の少なくとも一部に印刷される印刷領域が、印刷部25の印刷可能領域に対して搬送方向Yに占める比率が小さくなり、重なる部分の少なくとも一部に印刷されても、印刷の乱れを低減することができる。
(3−6)第2条件は、印刷部25の印刷可能領域の最下流位置(最下流ノズル♯1)から排出ローラーの一例としての押さえローラー34Cまでの距離Lrと、後続媒体P2の先端余白長L2との差が、印刷不良として後続媒体P2の印刷部25に対する擦れを発生させる値をとらないことを条件とする。このため、距離Lrと先端余白長L2との差が、印刷不良として後続媒体P2の印刷部25に対する擦れを発生させる値をとる場合、回避処理が行われる。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良(例えば印刷部25に対する後続媒体P2の擦れ不良)の発生頻度を低減できる。
(3−7)制御部50は、第2条件を満たさない場合、回避処理として重ね連送を行わない。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良の発生頻度を低減できる。
(3−8)第2条件は、印刷部25が後続媒体P2に印刷するときの単位面積当たりのインク量が閾値未満であることを条件とする。制御部50は、単位面積当たりのインク量が閾値以上である場合は、重ね連送を行わない。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良の発生頻度を低減できる。
(3−9)制御部50は、重ね可能条件が成立すれば、第2条件を満たさなくても、重ね連送を行い、重ね連送の後に、回避処理を行う。よって、重ね連送を行うことによる後続媒体P2の印刷不良の発生頻度を低減できる。
(3−10)印刷装置12は、印刷部25が、媒体Pの搬送方向Yと交差する走査方向Xに往復動して媒体Pに印刷するシリアル印刷方式であるシリアルプリンターである。制御部50は、第2条件を満たす場合は、印刷部25の往動と復動との両方で印刷する双方向印刷を行い、第2条件を満たさない場合は、回避処理として、印刷部25が往動と復動とのうち一方のみで印刷する単方向印刷を行う。よって、重ね連送を行っても後続媒体P2の印刷の乱れの発生頻度を低減できる。
(3−11)制御部50は、回避処理として、印刷部25の走査方向Xへの移動速度(キャリッジ移動速度)を低下させる。よって、重ね連送を行っても後続媒体P2の印刷の乱れの発生頻度を低減できる。
(第3実施形態の2)
次に図40を参照して第3実施形態の2について説明する。この第3実施形態の2では、第3実施形態の1と同様にリスク判定を行うが、印刷データPDにより少なくとも2頁分先までの情報を受信するため、重ね動作を実施する前に予め先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2との各情報を取得する。重ね動作を実施するか否かを予め判定できるので、重ね連送を行うとリスクが高い場合は、重ね動作を実施しない構成である。
以下、図40を参照して、第3実施形態の2における印刷装置12について説明する。制御部50内のコンピューター62が図40にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね給送方式での印刷制御について説明する。なお、この第3実施形態の2でも、図29〜図38は共通であり、特に異なる搬送制御の内容を中心に説明する。
複数枚の連続印刷の場合、はじめに1枚目の媒体が先行媒体P1となる。また、先行媒体P1が印刷中である場合、次に給送される2枚目の媒体が後続媒体P2となる。1枚目の印刷中は、仮に2枚目が1枚目と一緒に重ね連送されても、1枚目の先行媒体P1に2枚目の後続媒体P2が重ねられる部分は後端余白領域であるため、1枚目の先行媒体P1における2枚目との重なり部分に印刷されることはない。このため、1枚目の印刷中はリスクが小さいので、1枚目についてはリスク判定を行わない。これに対して、重ね連送で頭出しされた2枚目の媒体P(後続媒体P2)の先端部における1枚目の先行媒体P1との重なり部分は必ずしも前端余白領域ではないため、重なり部分に印刷される場合もある。この重なりによる印刷不良のリスクの判定(以下「重なりリスク判定」ともいう。)は、1枚目と2枚目とを重ね連送するか否かの判定に用いた1枚目の媒体Pの後端余白長と2枚目の媒体Pの先端余白長の各情報とを用いて行う。以下、同様に、この重なりリスク判定は、重ね連送するか否かの判定に用いた先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2の各情報とを用いて行う。
ステップS241において、先行媒体P1を給送する。この処理は、第3実施形態の1におけるステップS211と同様である。コンピューター62は、図8に示すように、給送モーター41を正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)し、給送ローラー28および中間ローラー30の回転によって、先行媒体P1を給送する。この給送途中で先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次にコンピューター62は、給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とを同期させて行い、同じ搬送速度で回転する中間ローラー30および搬送ローラー対33により先行媒体P1を印刷開始位置まで頭出しする。
ステップS242では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次の行を印刷する次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS243に進み、ラストパスであればステップS253に進む。
ステップS243では、先行媒体の後端余白長を読み込む。印刷データPDを1パス分ずつの印字データとして順次受信する構成である場合、コンピューター62は、先行媒体P1の最終行の印字データから取得した印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長L1を取得する。なお、印刷データPDを最初に受信する構成である場合、コンピューター62は、印刷データPD中のヘッダーに含まれる印刷条件情報から後端余白長L1を取得したり、印刷データPDを解析して先行媒体P1の最終行の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて後端余白長L1を取得したりする。
ステップS244では、後続媒体の先端余白長を読み込む。印刷データPDを1パス分ずつの印字データとして順次受信する構成である場合、コンピューター62は、後続媒体P2の1行目の印字データを用いて取得した印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて先端余白長L2を取得する。なお、印刷データPDを最初に受信する構成である場合、コンピューター62は、印刷データPD中のヘッダーに含まれる印刷条件情報から先端余白長L2を取得したり、印刷データPDを解析して後続媒体P2の1行目の印刷位置と媒体サイズ情報とを用いて先端余白長L2を取得したりする。
ステップS245では、リスク判定を行う。コンピューター62は、先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2とを用いて、リスク判定を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1の後端余白長L1と後続媒体P2の先端余白長L2とを用いて、重ね連送を行った際の先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部との重なり部分のうち印刷が施される画像重なり量PLを求める。この画像重なり量PLが、PL>NL・F/100を満たすか否かを判断することで、ずれリスクを判定する。ここで、F(%)は、前述のステップS217と同じ値であるが、異なる値でもよい。また、印刷デューティー値が閾値を超えることもリスク要因の1つに含まれる。ここで、印刷デューティー値とは、媒体Pに印刷される単位面積当たりのインク量の比率(%)を指す。本例では、印刷デューティー値が閾値を超えるときにリスクが高いとされる。さらに重ね連送の終了時点における後続媒体P2の先端部におけるニップ位置NP2から搬送方向Yの下流側への長さが、特定範囲内にある場合は、リスクが高いとされる。また、本実施形態では、重ね可能条件が成立するか否かもリスクとして判定し、重ね可能条件が成立する場合は、リスクが高いとされる。ここで、重ね可能条件とは、先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA内にあるという余白条件(LL≦Y1<LU)を含む。そして、これらのリスク条件の1つでも成立すると、リスクが高いと判定する。コンピューター62は、これらの複数の判定内容を含むリスク判定を、例えば図38にグラフで示されるリスク判定条件(重ね許可領域)に該当するか否かを判断する。
ステップS246では、重ね動作が実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、記憶部中のフラグの値が「1」であれば重ね動作が実施済みであると判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作が実施前であると判断する。重ね動作が実施済みでなければ(つまり重ね動作が実施前であれば)ステップS247に進み、重ね動作が実施済みであればステップS250に進む。
ステップS247では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を通過し、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51がONからOFFへ切り換わればステップS248に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS250へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS248では、重ねリスクが低いか否かを判断する。重ねリスクが低ければステップS249に進み、重ねリスクが低くなければ(つまり高ければ)、ステップS250に進む。
ステップS249では、重ね動作を行わせる。詳しくは、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると(S247で肯定判定)、給送モーター41を正転方向に駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この給送過程では、コンピューター62は、第1カウンター81に計数処理を行わせることで、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41の正転駆動を継続する。そして、後続媒体P2は待機位置Ywに到達する。コンピューター62は重ね動作を完了すると、フラグの値を「0」から「1」にする。実施するなお、印刷装置12が、印字データを1パス分ずつ受信し、記憶部に数パス分の印字データしか記憶できないために後端余白長および先端余白長を、本頁の最終パスの印字データと次頁の1パス目の印字データとを受信するまで取得できない構成である場合がある。この場合、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知しても、重ね可能条件の成否の判断が不可能である。このような場合は、重ね可能条件の成否の判断は、必要な印字データを取得した時点で行うこととし、判定前に先に重ね動作を行って、後続媒体P2を待機位置Ywに待機させておく。
ステップS250では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。例えば、次行が1行目であるときは、先行媒体P1は印刷開始位置に頭出しされる(図8参照)。
ステップS251では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出させることで、先行媒体P1に1パス分の印刷する印刷動作を行う。
ステップS252では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS242に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS258に進む。
ステップS242に戻った場合、以後、ステップS242〜S252の処理を、ステップS212でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作を実施済み(フラグ=「1」)である場合は、次行までの搬送動作(S250)と、その次行への1パス分の印刷動作(S251)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。また、重ねリスクが低い場合(S248で肯定判定)でも、第1センサー51がONからOFFに切り換わっていなかったために重ね動作を行っていなかった場合、第1センサー51がONからOFFに切り換わったときに(S247で肯定判定)、重ね動作が行われる(S249)。こうして1パス目から、ラストパスの1つ前のn-1パス目の印刷までの間に、重ね動作が実施済みとなっていなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S242で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S247で肯定判定)かつ重ねリスクが低ければ(S248で肯定判定)に重ね動作を行う(S249)。なお、ラストパスになっても、第1センサー51がONからOFFに切り換わらない場合は、重ね動作が行われない。
また、先行媒体P1が1頁目である場合は、後続媒体P2が仮に重ね連送された場合でも、その後端部の余白領域に後続媒体P2の先端部は重なるため、その重なり部分に印刷されることはない。しかし、先行媒体P1が2頁目以降である場合、先行媒体P1の先端部がこれに先行する先の先行媒体の後端余白領域に重なっているので、この重なり部分に印刷される虞がある。しかし、後述するように本実施形態では、リスクが高い場合は、重ね動作を行わないことにより重ね連送を中止しているので、この重なり部分へ印刷されても印刷ずれは許容範囲内に抑えられる。なお、先行媒体P1と先の先行媒体との重なり部分の印刷を終える位置まで先行媒体P1が排出されると、通常の印刷が行われる。
一方、ラストパスの1つ前のn-1パス目の印刷動作を終えると、ステップS242において、次のパスがラストパスであると判断される。この判断は、ラストパス(n回目パス)の1つ前のパス(n-1回目パス)の印刷動作終了時点からラストパスの印刷位置への先行媒体P1の搬送動作開始時点までの期間に行われる。次のパスがラストパスになると、ステップS253に進む。
ステップS253において、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施済みであるかどうかを、フラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作が未実施であると判断する。重ね動作実施済みであればステップS254に進み、重ね動作が実施済みでなければ(重ね動作が未実施であれば)ステップS250に進む。
重ね動作が未実施である場合は、重ね連送を実施できないため、次の行(ラストパスの印刷位置)まで搬送動作(S250)を行って、ラストパスの1行分の印刷動作(S251)を行う。
ステップS254では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。
ステップS255では、1パス分の印刷動作を行う。詳しくは、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、ラストパスの行の印刷を行う。
ステップS256では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作における搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、後続媒体P2のスキューを矯正するスキュー取り動作を行う。
そして、次のステップS257では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重なり量を維持したまま同じ搬送速度で一緒に搬送する重ね連送(図8のハッチング部)を行う。これにより後続媒体P2は、先行媒体P1との重なり量を維持したまま印刷開始位置に頭出しされる。こうして図8に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の余白領域の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、重ね動作が未実施であった場合(S253で否定判定)は、次行(ラストパスの印刷位置)まで搬送動作を行った後(S254)、ラストパスの印刷を終え(S255)、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S252で肯定判定)、ステップS258において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして先行媒体P1の印刷を終了し、1回のルーチンが終わると、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、次頁の媒体Pが新たな後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、今回の頁の印刷のために図40に示される印刷制御ルーチンを再び実行する。このとき、前回のルーチンで重ね連送(S257)を行ったときは、先行媒体P1は印刷開始位置まで既に給送されているため、ステップS241の給送動作は省略され、ステップS242の処理から開始される。
一方、前回のルーチンで重ね連送(S257)を行わず、排出動作(S258)を行ったときは、ステップS241における先行媒体P1の給送動作を行い、先行媒体P1を印刷開始位置まで給送して頭出しを行う。このとき、前回の先行媒体P1は既に排出済みであるため、今回の先行媒体P1の給送は、前回の先行媒体P1との間に間隔を開けて行われる。
以上詳述したように第3実施形態の2によれば、前記第3実施形態の1における(3−1)〜(3−11)の効果を同様に得ることができる。
なお、上記第3実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・前記第3実施形態の1において、ステップS217又はステップS228においてリスクが高いと判定した場合、回避処理として先行媒体P1をリスクが低くなる位置まで搬送した後、スキュー取り動作および重ね連送を実施してもよい。例えば第1条件(例えばLL≦L1<LU)を満たさない場合、回避処理として、重ね動作の実施前に、先行媒体P1を、第1条件を満たす位置まで搬送してから重ね連送を実施することで、重ね動作の失敗のまま重ね連送を実施したことによる印刷ミスを回避する。また、第2条件(例えばPL>NL・F/100)を満たさない場合、回避処理として、先行媒体P1を、第2条件を満たす位置まで搬送してから重ね連送を実施することで、印刷の乱れを回避する。
・前記第3実施形態の1において、重ね可能条件の成否を判定する処理は、重ね動作の前に行ってもよい。
・前記第3実施形態の2において、重ね可能条件の成否を判定する処理を含むリスク判定は、重ね動作の後に行ってもよい。
・前記第3実施形態の1、2において、リスク判定は、複数の条件のうち1つのみを採用してもよい。例えばPL>NL・F/100のみを採用したり、印刷デューティー値のみを採用したり、重ね可能条件のみを採用したり、ヘッド接触条件のみを採用したりしてもよい。また、リスク判定は、複数の条件のうち2つのみを採用したり、3つのみを採用したりしてもよい。
・前記第3実施形態の1、2において、第2条件の1つである印刷濃度条件において印刷デューティー値が閾値を超える場合は、印刷デューティー値を低下させる回避処理を行ってもよい。この場合、回避処理として、印刷部25が吐出するインク量を減らしてもよい。インク量を減らす場合、ドットサイズを小さくしてもよい。例えば大ドットを中ドット又は小ドットに変更する。ドットサイズを小さくする場合、ドット数は同じでもよいし増やしてもよい。例えば小さく変更したドットサイズの数を増やして画質を維持しつつ吐出するインク量を減らしてもよい。後者の場合、プリンタードライバー104又は制御部50が大ドットを含む画像を生成するハーフトーン処理を、大ドットを含まない画像を生成するハーフトーン処理を行ってもよい。
<第4実施形態>
次に第4実施形態について図面を参照して説明する。第4実施形態の1、2は、重ね動作が失敗した可能性がある後続媒体P2の動きを検出して、失敗の可能性のある動きを検出した場合は、重ね連送を中止することで、重ね動作を失敗した状態のまま重ね連送を実施したことに起因する印刷の失敗を回避するものである。以下、第4実施形態の1、2を順番に説明する。
(第4実施形態の1)
次に第4実施形態の1について、図4、図41〜図53を参照して説明する。この実施形態は、重ね動作中に正常な経路で搬送されている後続媒体P2を検知可能なセンサー及び第2のセンサーの一例である第3センサー53を用いて、重ね動作中に後続媒体P2を検知できれば重ね連送を実施するが、後続媒体P2を検知できなければ重ね連送を実施しない構成である。
図4及び図41に示すように、搬送方向Yに中間ローラー30と搬送ローラー対33との間における搬送経路上の所定位置には、媒体Pの有無を検知可能な第1センサー51および第2センサー52が搬送方向Yの上流側からこの順に配置されている。また、搬送経路に沿う方向で第1センサー51と第2センサー52との間には第3センサー53が設けられている。本実施形態では、制御部50は、第1センサー51及び第3センサー53の検出信号を媒体Pの搬送制御に使用する。
第3センサー53は、重ね動作(追い付き給送動作)において正常な経路で給送される媒体Pの有無を検知可能である。本例の第3センサー53は、接触式センサーであり、媒体Pと接触可能なレバー53Aを有している。レバー53Aが図44における実線位置にあるときに第3センサー53は媒体Pを非検知で、媒体Pに押されて同図に二点鎖線に配置されることで媒体Pを検知し、検知信号を出力する。なお、第3センサー53は、接触式センサーに替え、光学式センサーでもよい。
図41に示すように、第3センサーは、中間ローラー30と搬送ローラー対33との間における搬送経路の途中の位置に配置されている。また、図4及び図41に示すように、この第3センサー53は、第1センサー51と第2センサー52との間における搬送経路の途中の位置に配置されている。第3センサー53は、重ね動作の正常な経路で搬送中の後続媒体P2を検知可能かつ正常な経路以外の経路で搬送中の後続媒体P2を検知不能なセンサーである。図7に示す制御部50は、第3センサー53が後続媒体P2を検知した場合に重ね連送を行い、第3センサー53が後続媒体P2を検知しなかった場合に重ね連送を行わない。すなわち、制御部50は、重ね動作中に正常な経路で搬送されている後続媒体P2を検知した場合は、重ね動作を終えた後に先行媒体P1に対する印刷を終えると、重ね連送を行う。一方、制御部50は、重ね動作中に正常な経路から外れて搬送されたために後続媒体P2を検知しなかった場合は、その後の重ね連送を中止する。
図41に示す案内部材55は、第1〜第3実施形態と同様のものである。すなわち、図41に示すように、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)よりも少し下流側となる位置には、媒体Pを案内する案内部材55が配置されている。案内部材55は、第1ニップ位置NP1から送り出される媒体Pの送り出し経路(射出経路)が、中間ローラー30の第1ニップ位置NP1における接線方向よりも、より上側(重力方向Zと反対側)の位置を指向するように媒体Pを案内する。本例では、案内部材55はその案内面(上面)が水平となる姿勢に配置され、その送り出し案内方向が一例として水平方向となっている。中間ローラー30の第1ニップ位置NP1から搬送ローラー対33の第2ニップ位置NP2へ至る搬送経路に沿ったその上側には、搬送方向Yの下流側ほど低くなる斜状のガイド面56Aを有する天井壁部56が配置されている。案内部材55による媒体案内方向は、ガイド面56Aと交差する。先行媒体P1の搬送速度よりも高速な給送速度で送り出された媒体Pは、案内部材55によりガイド面56Aに斜めに当てる方向(例えば水平方向)へ案内された後、ガイド面56Aに沿ってなるべく上限位置を保つ搬送経路で搬送ローラー対33へ向かって搬送される。このため、後続媒体P2の先端部は、先行媒体P1の後端部に対して上側から重ねられる。
仮にガイド面56Aから外れた正常でない経路で後続媒体P2が搬送されたとしても、重ね動作中の後続媒体P2のばたつきによって、第3センサー53がONすると、後続媒体P2が正常でない経路で重ね動作が行われたにも関わらず、正常な経路で重ね動作が行われたものと誤検知される。後続媒体P2の重ね動作が正常でない経路で行われた場合、後続媒体P2を先行媒体P1に対して上側から重ねる上重ねをすべきところ、下側から重ねる下重ねとされたり、先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端とが衝突したりして、重ね動作が失敗する場合がある。そして、重ね動作を失敗した状態のまま重ね連送が実施されると、下重ねとなった失敗の場合は、先行媒体P1の後端余白に後続媒体P2に印刷すべき内容が印刷されてしまい、先行媒体P1の印刷が失敗する。また、先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端とが衝突して突き当たった状態で重ね連送が行われると、媒体ジャム(紙ジャム等)の原因となる。そのため、この種の印刷の失敗や媒体ジャムを回避すべく、後続媒体P2の重ね動作中のばたつきによらず、後続媒体P2がガイド面56Aに沿った正常な経路で搬送されていれば第3センサー53がONし、ガイド面56Aから離れた正常でない経路で搬送されていれば第3センサー53がOFFのままとなる構成を採用している。
そこで、本実施形態では、重ね動作中の後続媒体P2を搬送方向Yと交差する幅方向Xに切った断面において上(ガイド面と対向する側)に凸に湾曲した形状に案内部材55により案内し、その上に凸に湾曲した部分が入り込むことが可能な凹部564(図43参照)をガイド面56Aに設ける。その凹部564に入り込んだ湾曲部分のみを検知可能な位置に第3センサー53を配置している。
図42に示す案内部材55は、図41におけるA−A線断面である。図42に示すように、案内部材55は、板状の底板部55Aと、底板部55Aの幅方向Xの両端部に上方に突出する一対の側壁部55Bと、一対の側壁部55Bの間における略中央位置において上方に突出する凸部の一例としての突出部55Cとを有する。そして、一対の側壁部55Bの間には突出部55Cの両側となる位置に、幅方向Xに並ぶ一対の凹部55Dが形成されている。中間ローラー30と第2従動ローラー32との間にニップされた位置から下流側へ搬送される重ね動作時の後続媒体P2は、一対の側壁部55Bと、一対の側壁部55Bの間に2つの凹部55Dに挟まれて位置する突出部55Cとにより、案内部材55の上面部側に形成された凹凸形状によって、幅方向Xに3つの山形の波が形成される。これら3つの山形の波が下流側へ搬送されるに連れて1つの大きな山の波へと変化し、上に凸に湾曲した形状を保ちつつガイド面56Aに沿って案内される。
図4に示すように、第3センサー53は、天井壁部56における幅方向Xの略中央位置に配置されており、幅方向Xにおいて中間ローラー30とほぼ同じ位置に配置されている。よって、第3センサー53は、幅方向Xにおいて案内部材55とほぼ同じ位置に配置されている。
図43に示すように、天井壁部56は、板状の基板部561と、基板部561から幅方向Xに所定の間隔をおいて下方へ延出する複数(同図では2つのみ図示)の第1延出部562と、第3センサー53の付近に配置され、第1延出部562よりも短い長さで下方へ延出する複数(同図の例では4つ)の第2延出部563とを有している。このため、第3センサー53の下方における第2延出部563の配置領域を挟んだ両側に位置する一対の第1延出部562の間には、幅方向Xにおいて各延出部562,563の間隔よりもかなり広い開口幅を有する凹部564が下方に向かって開口する状態で形成されている。なお、第1延出部562の先端面によりガイド面56Aの一部が形成されている。
第3センサー53は、基板部561の上面から上方へ突出する一対の支持部565に挿通支持されたピン53Cを中心に回動可能な状態で支持されたレバー53Aと、レバー53Aの上端部を検知対象としてレバー53Aの回動位置に応じてオン・オフが切り換わる光学式センサー53Bとを備える。
図43及び図44に示すように、第3センサー53のレバー53Aは、同図に二点鎖線で示す待機位置では、第1延出部562の下端面からなるガイド面56Aよりも少し下方へ突出した状態にある。第3センサー53はレバー53Aが待機位置にあるときに媒体Pを検知していないオフ状態にあり、オフ状態から媒体Pを検知するオン状態へ切り換わるためには、同図に実線で示す検知位置まで回動させる必要がある。レバー53Aを検知位置まで回動させるためには、媒体Pは同図に実線で示すように上に凸に湾曲した形状で凹部564内に入り込む必要がある。このため、案内部材55に案内されるときにできた山の波を保ちつつ正常な経路で搬送された後続媒体P2は、凹部564内に入り込んでレバー53Aを検知位置まで回動させることが可能になっている。一方、正常な経路で搬送されなかった後続媒体P2は図43に二点鎖線で示すように凹部564に入り込むことがないので、第3センサー53に検知されない。
後続媒体P2が、図44に実線で示す正常な経路でガイド面56Aに沿って搬送された場合、案内部材55によって後続媒体P2に形成された山の波の部分が凹部564に入り込んでレバー53Aを検知位置まで回動させることにより、第3センサー53がオフからオンに切り換わる。一方、後続媒体P2が図44に二点鎖線で示す正常でない経路で搬送された場合や、ガイド面56Aに沿って搬送されてもばたつき等の原因で山の波が崩れた場合(図43における二点鎖線)は、後続媒体P2が凹部564に入り込むことができないので、第3センサー53はOFFしたままとなる。
図45に示す例において1枚目または2枚目の印刷中に、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、給送モーター41が高速の駆動に切り換えられ、後続媒体P2の重ね動作が開始される。図42に示すように、後続媒体P2は案内部材55に案内される過程で形成された上に凸に湾曲した山型形状を保ちつつガイド面56A(図44参照)に沿って搬送される。このとき後続媒体P2が正常な経路で搬送された場合は、重ね動作の途中で、後続媒体P2の先端部の山型に湾曲した部分が凹部564に入り込んでレバー53Aを回動させるため(図43参照)、図45に示すように、第3センサー53がOFFからONに切り換わる。重ね動作中の後続媒体P2は正常な経路で搬送されている場合でもばたついたときは、第3センサー53がONとOFFを繰り返す場合がある。この第3センサー53がたまたまOFFになったときにコンピューター62が検出結果の判定を行うと誤判定することが心配される。このため、図45に示すように、重ね動作の開始後に後続媒体P2の先端を検知した第1センサー51がOFFからONに切り換わった後、第3センサー53がオンすると、コンピューター62は、後続媒体P2の重ね動作が正常な経路で行われた旨の値をフラグに書き込む。そのため、その後、後続媒体P2の先端部がばたついて第3センサー53がOFFしても、コンピューター62は、フラグの値から後続媒体P2が正常な経路で搬送されたことを認識できる。
そして、図45に示すように、重ね動作の途中で第3センサー53がONすれば(つまりフラグ=1)、その重ね動作が成功したと判定され、一方、重ね動作の途中で第3センサー53がONしなければ(つまりフラグ=0)、その重ね動作が失敗したと判定される。なお、重ね動作中の後続媒体P2が正常でない経路で搬送されている場合は、仮に後続媒体P2がばたついても、凹部564の奥にある第3センサー53のレバー53AをONになるまで押すことはないので、コンピューター62が誤判定することはない。
ここで、重ね動作中は、先行する先行媒体P1の後端部がばたつき、凹部564内のレバー53Aを押して第3センサー53をONさせる虞がある。この場合、仮に後続媒体P2がガイド面56Aから離れた不適切な経路で搬送されていても、コンピューター62は、先行媒体P1の後端部のばたつきによる第3センサー53のONを、後続媒体P2が正常な経路で搬送されたと認識されてしまう虞がある。
そこで、図46に示すように、搬送経路上に第3センサー53の検知位置を含む所定距離の検出範囲SAを設定し、後続媒体P2の先端が検出範囲SA内に位置するときに限り、第3センサー53を有効にする。検出範囲SAの下限(図46では左端の入口位置)と上限(図46では右端の出口位置)は、次のように設定されている。ここで、下限は、検出範囲SAの搬送方向Yにおける上流側限界位置であり、上限は、検出範囲SAの搬送方向Yにおける下流側限界位置である。検出範囲SAの下限は、後続媒体P2の先端が検出範囲SAの下限に達したときには、先行媒体P1の後端が第3センサー53により検知できる位置を既に過ぎている位置に設定されている。また、検出範囲SAの上限は、後続媒体P2の先端部がばたついても正常な経路で搬送されていれば検知できるように先端から所定長さの部分を検出対象とすることが可能な位置に設定されている。
ここで、図46に示す例では、検出範囲SAの下限は、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わるときの位置に設定されている。また、検出範囲SAの上限は、重ね動作を終了する待機位置Ywに達するよりも手前(上流側)の位置に設定されている。図46に示す例では、検出範囲SAの上限は、重ね動作の減速開始位置に設定されている。
制御部50は、後続媒体P2の先端を検知した第1センサー51がOFFからONに切り換わると、第2カウンター82によりエンコーダー43からの検出信号のパルスエッジの計数を開始することで、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知した時点からの給送モーター41の駆動量(カウンター換算値)を取得する。そして、第2カウンター82が計数した給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAにあるときに限り、第3センサー53を有効にする。つまり、後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの下限に達してから上限を過ぎるまでの間に限り、正常な経路で重ね動作中の後続媒体P2を検知する検出処理を行う。そして、制御部50は、給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの下限に達するまでは第3センサー53が無効とされ、検出処理を行わない。また、制御部50は、給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの上限を過ぎてからは第3センサー53が無効とされ、検出処理を行わない。
図46に示すように、制御部50は、後続媒体P2の先端位置Y2が検出範囲SAを通過する間に、第3センサー53がONすれば(フラグ=1)、同図に二点鎖線で示すように後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで重ね動作を継続する。しかし、制御部50は、後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAを通過する間に第3センサー53がONしなければ(フラグ=0)、検出範囲SAの上限を越えた時点で給送モーター41の駆動を停止させ、同図に実線で示すように重ね動作を中断する。
次に図47〜図52を参照して、重ね給送方式における搬送制御内容を説明する。この重ね給送方式では、重ね動作および重ね連送が含まれる。
図47に示すように、給送モーター41が正転駆動されると、給送ローラー28の回転によりカセット21から分離板157で1枚に分離されつつ送り出された先行媒体P1は、回転する中間ローラー30の外周に沿って搬送された後、搬送ローラー対33に向かって給送される。1枚目の媒体Pが給送されるときは重ね動作は行われないので、第3センサー53による検出処理は行われない。その後、先行媒体P1の先端が搬送ローラー対33に突き当てられてスキュー取り動作が行われる。
次に図48に示すように、スキュー取り動作の後、給送モーター41および搬送モーター44が同期して駆動されることで、先行媒体P1は印刷開始位置に搬送される(頭出しされる)。頭出し以後、キャリッジ36の走査方向Xへの1回の移動中(1パス中)に印刷ヘッド38からインク滴を吐出して先行媒体P1に1行分の印刷を行う印刷動作と、先行媒体P1を次(次行)の印刷位置まで搬送する搬送動作とが略交互に行われることで印刷が進められる。印刷が進むことで先行媒体P1は間欠的に搬送方向Yの下流側へ搬送され、その印刷の途中でカセット21内において給送ローラー28が後続媒体P2に接触するようになると、後続媒体P2の給送が開始される。カセット21から分離板157で1枚に分離されつつ送り出された後続媒体P2は、中間ローラー30の外周を通って先行媒体P1の後端と間隔を開けた状態で給送される。そして、先行媒体P1の後端Y1が中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ(第1ニップ位置NP1)から外れたことを、第1センサー51に検知されると、そのとき駆動中の給送モーター41の駆動速度が、搬送動作時の速度からより高速な給送速度に切り換えられ、後続媒体P2の重ね動作(追い付き給送動作)が開始される。
図49に示すように、重ね動作によって、後続媒体P2は中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)から接線方向に送り出されるが、第1ニップ位置NP1の下流近傍に位置する案内部材55によりガイド面56Aに当てる方向(同図では略水平方向)へ案内されるため、ガイド面56Aに沿って給送される。このとき、図42に示すように、案内部材55の案内面における一対の凹部55Dと突出部55Cとによる凹凸形状によって、後続媒体P2は波打つ形状をとりながら案内される。
図44に示すように、案内部材55により案内された後続媒体P2がガイド面56Aに沿った正常な経路(同図では実線)で給送されれば、第3センサー53がONする。一方、案内部材55により案内された後続媒体P2がガイド面56Aから離れた正常でない経路(同図では二点鎖線)で給送された場合は、第3センサー53はOFFのままである。
このとき、図43に示すように、ガイド面56Aに当たった後にガイド面56Aに沿って案内される過程において後続媒体P2は山型の湾曲形状をとり、その一部が凹部564に入り込んでレバー53Aを押すことで第3センサー53がONする。一方、ガイド面56Aから離れた正常でない経路(同図では二点鎖線)で給送された場合は、後続媒体P2が凹部564にレバー53Aを押せるほど凹部564に入り込むことはない。この結果、第3センサー53はONしない。
そして、図50に示すように、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知(ON→OFF)した時点から給送モーター41が目標搬送量だけ駆動されて停止することにより、後続媒体P2はその先端が待機位置Ywに到達した位置で停止する。この状態では、後続媒体P2の先端部が先行媒体P1の後端部に重ねられる。その後、重ね動作を終えた後続媒体P2は、先行媒体P1に最終行を印刷するラストパスの印刷動作が行われるときまで、待機位置Ywで待機する。そして、ラストパスの印刷動作開始前の所定時期に、重ね可能条件が成立すれば、ラストパスの印刷動作中に給送モーター41が正転駆動され、図51に示すように、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作が行われる。
ラストパスの印刷動作を終了すると、図45に示すように、給送モーター41および搬送モーター44が同期して駆動され、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34が同じ搬送速度(周速度)で駆動される。この結果、図45及び図52に示すように、先行媒体P1と後続媒体P2とがそのときの重ね量LP(図51参照)を維持したまま同じ搬送速度で、後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送される重ね連送が行われる(図52)。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図45、図47〜図52等を参照して、制御部50内のコンピューター62が図53にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む搬送制御について説明する。
ステップS311において、先行媒体を給送する。すなわち、図45に示すように、給送モーター41が正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)され、給送ローラー28及び中間ローラー30の回転により先行媒体P1が給送され、先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次に給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とが同期して行われ、先行媒体P1は中間ローラー30および搬送ローラー対33とが同じ搬送速度で回転することにより印刷開始位置まで頭出しされる。
そして、キャリッジモーター48が駆動されてキャリッジ36が走査方向Xに移動する過程で印刷ヘッド38がインク滴を吐出して先行媒体P1に1行分(1パス分)の印刷が行われる。以後、次行の印刷位置まで先行媒体P1を搬送する搬送動作と、1行分を印刷する1パスの印刷動作とが略交互に行われ、先行媒体P1への印刷が進められる。
ステップS312では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次の行を印刷する次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS313に進み、ラストパスであればステップS326に進む。
ステップS313では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施前であれば「0」、重ね動作実施済みであれば「1」とするフラグを記憶部に備え、そのフラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みであると判断し、そのフラグの値が「0」であれば重ね動作実施前であると判断する。重ね動作実施済みでなければステップS314に進み、重ね動作実施済みであればステップS323に進む。
ステップS314では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を通過し、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51がONからOFFへ切り換わればステップS315に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS323へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS315では、重ね可能であるか否かを判断する。つまり、重ね連送を行う前提条件となる重ね可能条件が成立したか否かを判断する。先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA内にあること(LL≦Y1<LU)を含む余白条件と、印刷デューティーが閾値以下である印刷濃度条件とを含む重ね可能条件が成立したか否かを判断する。重ね可能条件が成立すればステップS316に進み、重ね可能条件が不成立であればステップS323に進む。
ステップS316では、重ね動作を開始させる。詳しくは、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると(S314で肯定判定)、給送モーター41を正転方向に駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この給送過程では、コンピューター62は、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わると、第2カウンター82に給送モーター41の駆動量を表わす値を計数する計数処理を開始させ、その計数値から給送モーター41の駆動量に応じた後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2を搬送し、その先端位置Y2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41の正転駆動を継続する。
ステップS317では、後続媒体が待機位置に到達したか否かを判断する。後続媒体が待機位置Ywに到達していなければステップS318に進み、待機位置Ywに到達していればステップS323に進む。
ステップS318では、第3センサーが検知済みであるか否かを判断する。第3センサー53が検知済みでなければステップS319に進み、第3センサー53が検知済みであれば、ステップS317に戻る。
ステップS319では、後続媒体が検出範囲の下限を越えたか否かを判断する。詳しくは、制御部50のコンピューター62は、第2カウンター82が計数する計数値で表わされる給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの下限を越えたか否かを判断する。後続媒体P2が検出範囲SAの下限を越えていなければステップS317に戻り、後続媒体P2が検出範囲SAの下限を越えていればステップS320に進む。なお、後続媒体P2の先端位置Y2が検出範囲SAの下限を越えていなければ、第3センサー53は無効となっており検出処理は行われない。また、後続媒体P2の先端位置Y2が検出範囲SAの下限を越えていれば、第3センサー53は有効となっており検出処理が行われる。
ステップS320では、第3センサーが検知したか否かを判断する。第3センサー53が検知すればステップS317に戻り、第3センサーが検知しなければステップS321に進む。重ね動作中の後続媒体P2は、案内部材55に案内されて山型の湾曲形状(図43における実線)をとり、正常な経路で搬送された場合は、その湾曲した一部が凹部564に入り込んで第3センサー53をONさせる。コンピューター62は、第3センサー53がONすれば、フラグを「1」にする。一方、重ね動作中の後続媒体P2が、ガイド面56Aから離れた正常でない経路で搬送された場合は、第3センサー53がONしない。この場合、フラグは「0」のままである。
ステップS321では、後続媒体が検出範囲の上限を越えたか否かを判断する。詳しくは、制御部50のコンピューター62は、第2カウンター82が計数する計数値で表わされる給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの上限を越えたか否かを判断する。後続媒体が検出範囲の上限を越えていなければステップS317に戻り、後続媒体が検出範囲の上限を越えていればステップS322に進む。
ステップS322では、重ね動作を中止する。つまり、後続媒体P2の先端位置Y2が検出範囲SAにある区間で第3センサー53が検知(ON)しなかった場合は(S320で否定判定)、重ね動作中の後続媒体P2が正常な経路で搬送されなかったことになるので、検出範囲SAの上限を越えた時点(S321で肯定判定)で給送モーター41の駆動を停止させ、重ね動作を中止する。
ステップS323では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。例えば、次行が1行目であるときは、先行媒体P1は印刷開始位置に頭出しされる(図7参照)。
ステップS324では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出させることで、先行媒体P1に1パス分の画像を印刷する印刷動作を行う。
ステップS325では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS312に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS332に進む。
ステップS312に戻った場合、以後、ステップS312〜S325の処理を、ステップS312でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作を実施済み(フラグ=「1」)である場合は、次行までの搬送動作(S323)と、その次行への1パス分の印刷動作(S324)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。一方、重ね動作を実施済みでなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S312で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S314で肯定判定)かつ重ね可能条件が成立した場合(S315で肯定判定)に重ね動作を行う(S316)。こうしてラストパスに至る前に、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知し、かつそのとき重ね可能条件が成立すれば、重ね動作が開始される(S316)。
そして、ラストパスの1つ前のパスの印刷動作を終えると、ステップS312に戻り、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、ラストパス(n回目パス)の1つ前のパス(n-1回目パス)の印刷動作終了時点からラストパスの印刷位置への先行媒体P1の搬送動作開始時点までの期間に行われる。次のパスがラストパスになると、ステップS326に進む。
ステップS326において、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は重ね動作実施済みであるかどうかを、フラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作が未実施であると判断する。重ね動作実施済みであればステップS327に進み、重ね動作実施済みでなければ(重ね動作未実施であれば)ステップS323に進む。
重ね動作が未実施である場合は、重ね連送を実施できないため、次の行(ラストパスの印刷位置)まで搬送動作(S323)を行って、1行分(ラストパスの1行分)の印刷動作(S324)を行う。こうしてラストパスの印刷を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S325で肯定判定)、ステップS332において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして先行媒体P1の印刷を終了し、1回のルーチンが終わると、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、3頁目が新たに後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、次頁の印刷のために図53に示される印刷制御ルーチンを再び実行し、ステップS311において、それまでの後続媒体P2が新たな先行媒体P1としてその給送動作を行う。このとき、1頁目の先行媒体P1は既に排出済みであるため、先行媒体P1の排出と、後続媒体P2の給送は、両者間に間隔を開けて行われる。一方、次のパスがラストパスであって(S312で肯定判定)、かつ重ね動作実施済み(ステップS326で肯定判定)である場合は、ステップS327に進んで以下の処理が行われる。
ステップS327では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。
ステップS328では、1パス分の印刷動作を行う。すなわち、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、その移動過程で印刷ヘッド38のノズル382からインク滴を吐出することにより最終行を印刷する。
ステップS329では、重ね連送可能であるか否かを判断する。ここでは、重ね動作を終えた後続媒体P2が待機位置Ywで待機している重ね準備完了の状態にあるか否かを判断する。重ね連送可能であれば、ステップS330に進み、重ね連送可能でなければ、ステップS332に進む。なお、重ね準備完了の状態にあることの他、現在の媒体P1,Pの位置情報に基づく実際の媒体P1,P2の位置から、例えば先行媒体P1の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUの条件を満たす位置にあるか否かの判断など、媒体の位置が重ね連送を実施可能な位置にあることを確認する少なくとも1つの条件の成否を併せて判断してもよい。
ステップS330では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作における搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、後続媒体P2のスキューを矯正するスキュー取り動作を行う。
コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の待機位置Ywからの搬送を開始してその先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。
そして、次のステップS331では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重ね量を維持したまま同じ搬送速度で搬送する重ね連送(図45のハッチング部)を行う。これにより後続媒体P2は、先行媒体P1との重ね量を維持したまま印刷開始位置に頭出しされる。こうして図45に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の後端余白部の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、ステップS332では、先行媒体の排出動作を行う。このとき、後続媒体P2は重ね動作が行われた場合に待機位置Ywにあり、重ね動作が行われなかった場合は待機位置Ywよりも上流側に位置する。このため、搬送モーター44が駆動されて搬送ローラー対33と排出ローラー対34とが回転しても、先行媒体P1だけが排出され、後続媒体P2はそのときの位置で待機する。
なお、次頁がある場合は、排出動作を終えた後、ステップS311の次頁の媒体Pの給送動作を行う。但し、次の媒体(前回の後続媒体P2)は、待機位置Ywまたはそれよりも少し上流側の位置に停止しているので、先行媒体P1(前回の後続媒体P2)の給送動作が行われることにより、新たな(2頁目の)先行媒体P1を印刷開始位置に頭出しする。なお、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1のラストパスの印刷動作の終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。なお、先行媒体P1の排出途中で、先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33を通り過ぎて一定の間隔が確保されたタイミングで、コンピューター62が給送モーター41の駆動を開始し、スキュー取り済みの後続媒体P2の印刷開始位置への搬送を開始させてもよい。また、重ね動作中にラストパスの印刷が開始された場合は、後続媒体P2の先端をそのまま回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、重ね動作とスキュー取り動作とを一緒に行ってもよい。
以上詳述した第4実施形態の1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(4−1)第1ローラーの一例としての中間ローラー30と第2ローラーの一例としての搬送ローラー対33との間の位置で重ね動作の正常な経路で搬送中の後続媒体P2を検知可能かつ正常な経路以外の経路で搬送中の後続媒体P2を検知不能なセンサーの一例としての第3センサー53を設けた。第3センサー53の検知結果に応じて重ね動作のときに正常な経路で搬送中の後続媒体P2が検知された場合は、その重ね動作の終了後、重ね連送が行われる。一方、重ね動作のときに正常な経路で搬送されなかったために第3センサー53が後続媒体P2を検知できなかった場合は、その重ね動作の終了後、重ね連送が行われない。よって、重ね動作時に後続媒体P2が不適切な搬送経路をとったために、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね順が上下で逆転したり、先行媒体P1の後端と後続媒体P2の先端とが衝突したりするなどの重ねミスのまま重ね連送を行ったことに起因する印刷品質の低下を抑制することができる。
(4−2)制御部50は、中間ローラー30のニップ位置NP1から後続媒体P2の先端が外れたことを第1のセンサーの一例として第1センサー51が検知した時からの搬送部を構成する給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。制御部50は、後続媒体P2の先端位置Y2が、検出範囲SAの下限に達するまでは第3センサー53により正常な経路で重ね動作中の後続媒体P2を検知する検出処理を行わず、検出範囲SAの下限を越えると検出処理を行う。よって、先行媒体P1の後端部のばたつきを第3センサー53が検知したことを、正常な経路で搬送された後続媒体P2を検知したとする誤検知を防止できる。
(4−3)制御部50は、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知した時からの給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、第3センサー53の検出範囲SAの上限に達するまで後続媒体P2を検知する検出処理を行い、上限を越えると、検出処理を停止する。よって、後続媒体P2の先端部のばたつきを第3センサー53が検知したことを、重ね動作中の正常な経路で搬送された後続媒体P2を検知したとする誤検知を防止できる。
(4−4)制御部50は、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知した時からの給送モーター41の駆動量に基づく後続媒体P2の先端位置Y2が、第3センサー53の検出範囲SA内にあれば、後続媒体P2の検出処理を行い、検出範囲SA内になければ第3センサー53による後続媒体P2の検出処理を停止する。よって、後続媒体P2が正常な経路で搬送されていないにも関わらず、先行媒体P1の後端部のばたつきや、後続媒体P2の先端部以外の部分のばたつきを検知したことを、重ね動作で正常な経路で搬送されている後続媒体を検知したとする誤検知を回避し易くなる。
(4−5)印刷装置12は、中間ローラー30と搬送ローラー対33との間において後続媒体P2を重ね動作が行われるときに正常な経路に沿って案内可能なガイド面56Aと、中間ローラー30の第1ニップ位置NP1よりも搬送方向Yの下流側の位置に配置されて後続媒体P2をガイド面56Aと交差する方向に案内する案内部材55とを備える。中間ローラー30のニップ位置NP1を先端が過ぎた後続媒体P2は、ニップ位置NP1よりも搬送方向Yの下流側の位置に配置されて案内部材55により後続媒体P2はガイド面56Aと交差する方向に案内され、ガイド面56Aに到達したのち、ガイド面56Aに沿って正常な経路で搬送される。ガイド面56Aに沿って搬送されることで、後続媒体P2を先行媒体P1に対して正常な重ね順で重ねることができる。そして、ガイド面56Aから外れて正常な経路で搬送されなかった場合は、第3センサー53により検知されない。このため、ガイド面56Aに沿って搬送されず、重ね動作で先行媒体P1に対して後続媒体P2が正しく重ねられていない可能性がある場合は、重ね連送を中止できる。この結果、重ね動作を失敗した重ねミスのまま重ね連送を行った場合に発生する印刷ミスや媒体ジャムを回避できる。
(4−6)案内部材55は、後続媒体P2をガイド面56Aに向かって凸状に湾曲する状態に案内するように構成した。ガイド面56Aには、後続媒体P2の凸状に湾曲した部分の一部が入り込むことが可能な凹部564が設けられ、第3センサー53は、凹部564に入り込んだ後続媒体P2の凸状に湾曲した部分を検出する。後続媒体P2が正常に搬送されれば、後続媒体P2の幅方向に凸状に湾曲した部分がガイド面56Aの凹部564に入り込むことで、後続媒体P2は第3センサー53により検知される。よって、後続媒体P2が案内部材55により適切に案内されず凸状に湾曲しなかった場合や、ガイド面に沿って搬送されなかった場合は、第3センサー53により検知されない。よって、正常な経路で搬送された後続媒体P2とそうでない後続媒体P2とをしっかり区別して正常な経路で搬送された後続媒体P2を検知できる。
(4−7)案内部材55は、後続媒体P2の搬送方向Yと交差する幅方向Xに並ぶ一対の凹部55Dと、一対の凹部55Dの間に配置された凸部の一例としての突出部55Cとを有する。このため、後続媒体P2が案内部材55に案内されるときに一対の凹部55Dの間に配置された突出部55Cに当たることで、後続媒体P2を幅方向Xに凸状に湾曲させることができる。
(第4実施形態の2)
次に図54A、図54B及び図55を参照して、第4実施形態の2について説明する。図54Aに示すように、本実施形態の印刷装置12は、先行媒体P1の後端部の下側から後続媒体P2の先端部を重ねる下重ねを行う。印刷装置12は、上流側の搬送ローラー対301のニップ箇所の直ぐ下流側の位置に下重ね用に斜め下方に傾斜した姿勢に配置された案内部材55と、案内部材55により斜め下方へ案内された後続媒体P2を支持する下重ね用の下経路を形成する下側ガイド面571とを有する。下側ガイド面571は、その搬送方向Yの上流側寄りに位置する下重ね用の下経路を形成する凹状の第1ガイド面部571Aと、搬送ローラー対33のニップ箇所へ先行媒体P1の後端部を略水平に導くように支持する第2ガイド面部571Bと、第1ガイド面部571Aと第2ガイド面部571Bとを連接する斜面571Cとを有している。凹状の第1ガイド面部571Aの底面は、第2ガイド面部571Bよりも低く位置している。第1ガイド面部571Aには、重ね動作時に第1ガイド面部571Aに沿った正常な経路で搬送中の後続媒体P2を検知可能かつ第1ガイド面部571Aから離れた正常でない経路で搬送中の後続媒体P2を検知不能な第2のセンサーの一例としての正常検知用の第3センサー531が設けられている。第3センサー531のレバー531Aは、第1ガイド面部571Aから少し突出しており、下側ガイド面571に沿って正常な経路で搬送された重ね動作中の後続媒体P2は、レバー531Aを押して第3センサー531をONさせることが可能である。
なお、第4実施形態の1で説明したものと同様に、後続媒体P2を案内する過程で下に凸の湾曲形状に案内可能な案内部材55を用いることも可能である。この場合、第1ガイド面部571Aに、後続媒体P2の下に凸に湾曲した部分の一部が入り込む凹部を設け、第3センサー531は、下に凸に湾曲した後続媒体P2のうち凹部に入り込んだ部分をレバー531Aで検知可能に構成すればよい。
ガイド面571と対向する上方位置には、搬送ローラー対33のニップ箇所よりも高い位置に上側ガイド面566が設けられている。上側ガイド面566は、重ね動作時に正常でない経路で搬送された後続媒体P2を規制する規制面として機能する。上側ガイド面566の搬送方向Yの下流寄りの箇所には、重ね動作時に正常でない経路で搬送されて先行媒体P1の後端部よりも上側へ進入して上側ガイド面566に規制された後続媒体P2を検知可能な異常検知用の第3センサー532が設けられている。第3センサー532は、上側ガイド面566から少し突出するレバー532Aを備える。
図54Aに示すように、重ね動作時は後続媒体P2が上流側の搬送ローラー対301の回転により送り出される過程でその直ぐ下流に位置する案内部材55により斜め下方へ案内され、下側ガイド面571に沿って案内される。後続媒体P2が下側ガイド面571の第1ガイド面部571Aに沿って正常な経路で搬送された場合、その後続媒体P2が第3センサー531により検知される。このように正常な経路で重ね動作が行われた場合、図54Bに示すように、重ね動作によって同図に示す待機位置まで給送された後続媒体P2の先端部は、第2ガイド面部571Bに支持された先行媒体P1の後端部に対して下側から重なる。その後、所定の重ね連送開始時期になると、第3センサー531が重ね動作中にONしていた場合、重ね連送が行われる。所定の重ね連送開始時期とは、先行媒体P1における搬送ローラー対33のニップ位置よりも上流側の部分の長さが、後続媒体P2の先端余白長未満となった後における最初の搬送動作の開始タイミングである。但し、1つ前の印刷動作がラストパスでないうちは、先行媒体P1の搬送動作のときに後続媒体P2も重ね量を維持したまま一緒に搬送され、ラストパスを終えると、先行媒体P1と後続媒体P2とを重ね量を維持したまま一緒に搬送される重ね連送が行われる。
一方、図55に示すように、例えば先行媒体P1の後端部が下側へカールし、かつ後続媒体P2の先端部が上側にカールしていた場合、重ね動作時に後続媒体P2の先端部が先行媒体P1の後端部の上側に載り上げて、後続媒体P2が正常でない経路(つまり異常な経路)で搬送される。この場合、正常検知用の第3センサー531はONせず、上側ガイド面566に当たって規制された後続媒体P2の先端部が異常検知用の第3センサー532のレバーを押すことにより、その第3センサー532がONする。このように第3センサー531がOFFかつ第3センサー532がONの場合は、その後、所定の重ね連送開始時期になっても、重ね連送は行われない。よって、重ね動作が失敗したにも関わらず、重ね連送が行われたことに起因して、印刷ミスや媒体ジャムが発生する頻度を低減できる。
よって、この第4実施形態の2においても、先行媒体P1と後続媒体P2との重ね順が下重ねであるだけで、前記(4−1)〜(4−7)と同種の効果を得ることができる。
なお、上記第4実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・前記第4実施形態の1、2において、給送機構26として、後述する第6実施形態の5における図79、図80に示すような上重ねと下重ねとを選択できる一対の案内部材555,556を有するフラップ部材550を備えた構成を採用してもよい。この場合、図79に示すように、上重ねを選択したときに上経路を形成するガイド面56Aに沿って正常な搬送経路で搬送される後続媒体P2を検出可能な第3センサー533と、図80に示すように、下重ねを選択したときに下経路を形成するガイド面57A(特に第2支持面578)に沿って正常な搬送経路で搬送される後続媒体P2を検出可能な第3センサー534とを設ければよい。また、上重ね用の案内部材556に、ガイド面56Aに向かって上に凸の湾曲状態に後続媒体P2を案内可能な図42に示す案内面部を形成し、下重ね用の案内部材555に、ガイド面57Aに向かって下に凸の湾曲状態に後続媒体P2を案内可能な図42に示すような案内面部を形成する。そして、ガイド面56Aに上方へ向かって凹む図43に示す凹部564を形成し、ガイド面57Aに下方へ向かって凹む、図43に示す凹部564を上下方向に反転させた凹部を形成する。この構成によれば、上重ねが選択されたときにガイド面56Aに沿った正常な経路で重ね動作が行われているか否かを検出でき、正常な経路であれば重ね連送を実施し、正常な経路でなければ重ね連送を中止する。一方、下重ねが選択されたときにガイド面57Aに沿った正常な経路で重ね動作が行われているか否かを検出でき、正常な経路であれば重ね連送を実施し、正常な経路でなければ重ね連送を中止する。よって、重ね動作を失敗したまま、重ね連送を実施したことによる印刷ミスの発生頻度を低減できる。なお、図79、図80の例では、搬送ローラー対93が第1ローラーの一例に相当し、搬送ローラー対33が第2ローラーの一例に相当する。
・前記第4実施形態の1、2において、案内部材55の案内面は、山型の凸部を幅方向Xの中央部、つまり媒体Pの幅方向Xの中央部に対応する位置に1つ備えた形状でもよい。
・天井壁部56のガイド面56Aにおける凹部564を無くし、ガイド面56Aを斜面としてもよい。この場合、第3センサー53のレバー53Aをガイド面56Aの斜面から突出させ、斜面からなるガイド面56Aに沿った正常な経路で搬送される後続媒体P2を検知可能かつガイド面56Aから離れた正常でない経路で搬送される後続媒体P2を検知不能に第3センサー53を構成してもよい。
<第5実施形態>
第5実施形態は、重ね動作において後続媒体を停止させる目標位置である待機位置Ywに対する停止位置精度を高める構成及び制御を示す例である。以下、図面を参照して第5実施形態の1、2について順番に説明する。
(第5実施形態の1)
まず図7、図45、図56及び図57を参照して第5実施形態の1について説明する。複合機11及び印刷装置12の基本的構成および電気的構成は、第1及び第4実施形態と同様である。つまり、印刷装置12の基本的構成および電気的構成は、第1実施形態の図1〜図7と同様である。図7に示す不揮発性メモリー75に記憶されたプログラムPRには、図57にフローチャートで示すプログラムが含まれる。
図56に示すように、搬送方向Yに中間ローラー30と搬送ローラー対33との間における搬送経路上の所定位置には、媒体Pの有無を検知可能な第1センサー51及び第2センサー52が搬送方向Yの上流側からこの順に配置されている。制御部50は、各センサー51,52の検出信号を媒体Pの搬送制御に使用する。第1センサー51は、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所の搬送方向Yの下流側近傍位置で媒体Pの有無を検知可能である。本例の第1センサー51は、接触式センサーであり、媒体Pと接触可能なレバー51Aを有している。レバー51Aが図56に二点鎖線で示す位置にあるときに第1センサー51は媒体Pを非検知で、媒体Pに押されて同図に実線で示す位置に配置されることで媒体Pを検知し、検知信号を出力する。第1センサー51は、例えば非検知時にOFFし、検知時にONする。
また、第2センサー52は、搬送ローラー対33のニップ箇所よりも搬送方向Yに少し上流側の位置を検出対象位置として媒体Pの有無を検知可能である。接触式センサーである第2センサー52は、レバー52Aが図56に二点鎖線で示す位置にあるときに媒体Pを非検知で、媒体Pに押されて同図に実線で示す位置に配置されることで媒体Pを検知し、検知信号を出力する。第2センサー52は、例えば非検知時にOFFし、検知時にONする。なお、待機位置Ywは、搬送方向Yにおいて第2センサー52の検知位置と搬送ローラー対33のニップ位置NP2との間に設定されている。なお、第1センサー51と第2センサー52は、接触式センサーに替え、光学式センサーでもよい。
重ね動作過程では、第2センサー52のレバー52Aが先行媒体P1の後端部を検知したON状態にあるため、後続媒体P2の先端を検知できない。このため、第2センサー52は、接触式であるか光学式であるかに関わらず、重ね動作過程では、先行媒体P1と重なる位置となる後続媒体P2の先端を検知できない。通常給送方式では、媒体Pを印刷開始位置に頭出しするときに、第2センサー52が媒体Pの先端を検知した位置を基準にし、その基準位置から所定のパルス数(ステップ数)を計数したのちに給送モーター41の駆動を停止させることにより媒体Pを目標位置に停止させる位置制御を行っている。このため、通常給送方式のときは、第2センサー52の検出対象位置よりも搬送方向Yの下流側に目標位置がある場合は、目標位置よりも上流側でかつ目標位置からの距離のより短い第2センサー52を用いて、媒体Pの停止位置制御を行うことが好ましい。
しかし、重ね給送方式の場合、第2センサー52が先行媒体P1の後端部を検知してON状態に保持されるので、第2センサー52によって後続媒体P2の先端の検知ができない。このため、第2センサー52を用いて後続媒体P2の先端を待機位置Ywに停止させる停止位置制御ができない。このため、本実施形態では、第2センサー52よりも搬送方向Yの上流側に配置されて重ね動作の開始タイミングを決めるために用いられる第1センサー51を用いて後続媒体P2の先端を待機位置Ywに停止させる停止位置制御を行う。つまり、第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知した位置を基準にして、その基準位置から所定のパルス数(ステップ数)を計数したのちに停止することで、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止位置制御を行う。しかし、目標位置である待機位置Ywと第1センサー51の検知位置との距離は、待機位置Ywと第2センサー52の検知位置との距離に比べ2倍程度長い。そのため、第1センサー51を用いた停止位置制御では、パルス数(ステップ数)を計数する距離(目標ステップ数)が長い分だけ、より誤差が累積し易く、停止位置制御における停止位置精度が低下する。
後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止位置精度が低いと、その停止位置精度の誤差を考慮して、重ね可能条件を狭く設定しなければならない。この場合、実際には重ね連送を実施できたにも関わらず、狭く設定された重ね可能条件を満たすことができず、重ね連送の実施頻度を低下させる事態を招く。そのため、本実施形態では、第1センサー51を用いても、待機位置Ywに対する後続媒体P2の停止位置精度を高める構成を採用している。
図7に示す制御部50のコンピューター62は、不揮発性メモリー75に記憶された図57にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより、後続媒体P2を待機位置Ywに位置精度よく停止させる重ね動作を含む印刷制御を行う。また、図7に示す不揮発性メモリー75には、後述する重ね動作を行うときに参照する搬送距離FD、およびこの搬送距離FDを算出する際に使用するデータが記憶されている。例えばデータの1つとして、第2センサー52の検知位置から搬送ローラー対33のニップ位置NP2までの距離ND(図56参照)に相当する第3駆動量のデータが不揮発性メモリー75に記憶されている。距離NDは、カウンター相当値であって、この距離NDだけ媒体Pを搬送するのに必要な給送モーター41の駆動量を示す値である。なお、本実施形態では、不揮発性メモリー75が記憶部の一例に相当し、距離NDが第3駆動量の一例に相当する。
コンピューター62は、普通紙かつバンド印刷かつ片面印刷という印刷条件を含む印刷データPD(印刷ジョブデータ)を受信した場合に、給送方式として重ね給送方式を選択し、その他の印刷条件であれば、通常給送方式を選択する。コンピューター62は、重ね給送方式を選択したとき、図57に示す印刷制御用のプログラムPRを実行する。
また、図7に示す制御部50は、第1センサー51がOFFからONに切り換わって、先行媒体P1又は後続媒体P2の先端を検知した時点から第2カウンター82に、第1エンコーダー43の検出信号のパルスエッジの数を計数する計数処理を行わせ、その計数値Lc2から後続媒体P2の先端位置Y2(=Lo−Lc2)を取得する。重ね給送方式が選択された場合でも、1枚目の媒体Pが給送されるときは、第2センサー52により媒体Pの先端を検知することが可能である。制御部50は、1枚目の媒体Pが給送される過程で、第2カウンター82が計数した計数値に基づいて、図56に示すように第1センサー51の検知位置S1から第2センサー52の検知位置S2までの距離SD、つまり2つのセンサー51,52の検知位置S1,S2間の距離SDのカウンター相当値で示される第1駆動量を計測する。制御部50は、異なる媒体Pの給送過程でそれぞれ計測した複数回分の距離SDを不揮発性メモリー75に一時記憶する。複数回分の距離SDの平均である平均距離SDaveを用いて、図56に示す搬送距離FDを計算し、搬送距離FDのカウンター相当値で示される第2駆動量を不揮発性メモリー75に記憶する。
先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1から外れ、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、制御部50は、給送モーター41の駆動速度を搬送駆動速度からより高速な給送駆動速度に切り換えて、先行媒体P1の搬送速度よりも高速な給送速度で後続媒体P2を搬送する重ね動作を開始する。この重ね動作の途中で後続媒体P2の先端が第1センサー51に検知され、OFFからONに切り換わると、制御部50は、第2カウンター82に計数処理を開始させ、その計数値が搬送距離FDのカウンター相当値で示される第2駆動量に達すると、重ね動作を停止させるべく、給送モーター41を駆動停止する。
次に図56を参照して、重ね動作の停止位置精度向上のための搬送制御について説明する。図56に示すように、第1センサー51のOFFとONの切り換わり位置を検知位置S1とし、第2センサー52のOFFとONの切り換わり位置を検知位置S2とする。第1検知位置S1は、第1ニップ位置NP1よりも僅かに搬送方向Yの下流側に位置する。本実施形態では、1枚目の媒体Pを給送する過程で、第1センサー51の検知位置S1から待機位置Ywまでの搬送距離FDを計測し、計測した搬送距離FDを不揮発性メモリー75に記憶する。その計測した搬送距離FDを参照して後続媒体P2の重ね動作を行う。
以下、搬送距離FDの計測方法について説明する。コンピューター62は、1枚目の媒体Pを給送する過程で、第1センサー51の検知位置S1から第2センサー52の検知位置S2までのセンサー間の距離SDを、第1カウンター81の計数処理により計測する。不揮発性メモリー75には、図56に示すように、第2センサー52の検知位置S2から搬送ローラー対33のニップ位置NP2までの距離NDと、搬送ローラー対33のニップ位置NP2から待機位置Ywまでの距離ynとが、予め記憶されている。そして、コンピューター62は、計測したセンサー間の距離SDと、不揮発性メモリー75から読み出した距離NDおよび距離ynとを用いて、第1センサー51の検知位置S1から待機位置Ywまでの搬送距離FD(=SD+ND−yn)を計算し、不揮発性メモリー75に記憶することで搬送距離FDを設定する。
なお、不揮発性メモリー75に予め記憶されている距離NDは、例えば複合機11の出荷前検査で計測されたものである。複合機11における印刷装置12に所定厚さおよび所定サイズの媒体P(計測用シート)をカセット21から印刷開始位置まで給送させる。このとき、コンピューター62は、第2センサー52が計測用シートの先端を検知した検知位置S2から第1カウンター81に計数処理を開始させ、計数値が印刷開始位置に応じた目標値に達すると、給送モーター41の駆動を停止させる。コンピューター62は、目標値から計測用シートの先端と最上流ノズル♯Qの位置との距離を減算して、検知位置S2と最上流ノズル♯Qとの距離QDを取得する。さらにコンピューター62は、この距離QDから、最上流ノズル♯Qの位置と第2ニップ位置NP2との間の既知の距離RDを減算して得た距離NDのカウンター計数値相当の値を不揮発性メモリー75に記憶させている。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図45、47〜図52等を参照して、制御部50内のコンピューター62が図57にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む搬送制御について説明する。
ステップS411において、1枚目の媒体を給送する。すなわち、図45に示すように、給送モーター41が正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)され、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により1枚目の媒体Pを給送する。すなわち、給送ローラー28が回転すると、カセット22内の最上位の媒体Pが送り出され、分離板157の面に摺動することで1枚に分離される。分離された1枚目の媒体Pは、中間ローラー30の外周に沿った経路で2つの従動ローラー31,32により2箇所でニップされた状態で給送される。
ステップS412では、センサー間の距離SDを計測する。1枚目の媒体Pの先端が中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ位置NP1を通過し、その媒体Pの先端を検知した第1センサー51がOFFからONに切り換わると、コンピューター62は第1カウンター81に計数処理を開始させる。つまり、コンピューター62は、第1センサー51がOFFからONに切り換わると、第1カウンター81に第1エンコーダー43から入力する検出信号のパルスエッジの数を計数する計数処理を開始させる。そして、給送中の1枚目の媒体Pの先端が第2センサー52に検知される。1枚目の媒体Pの先端を検知した第2センサー52がOFFからONに切り換わると、第1カウンター81の計数処理を停止し、第1カウンター81の計数値を取得する。この計数値は、第1センサー51の検知位置S1から第2センサー52の検知位置S2までの距離SDに相当する。つまり、この計測処理では、センサー51,52間の距離SDを、カウンター計数値相当の値として取得する。
ステップS413では、平均距離SDaveを算出する。本実施形態では、過去に計測したセンサー間の距離SDのデータが例えば不揮発性メモリー75に記憶されており、コンピューター62は、今回計測した距離SDと不揮発性メモリー75から読み出した直近K−1個の距離SDとを含むK個(但し、Kは自然数)の距離SDの和をKで割ることにより、平均距離SDaveを算出する。
ステップS414では、搬送距離FDを算出する。すなわち、コンピューター62は、平均距離SDaveを用いて、式FD=SDave+ND−ynにより、搬送距離FDを算出する。搬送距離FDは、第1センサー51の検知位置S1から待機位置Ywまでの距離である。ここで、値NDは、第2センサー52の検知位置S2から搬送ローラー対33のニップ位置NP2までの距離(例えばカウンター計数値相当の値)であり、予め計測されて不揮発性メモリー75に記憶された値である。コンピューター62は、算出した搬送距離FDをRAM74および不揮発性メモリー75に記憶する。
このステップS412〜S414の処理が行われている間も、ステップS411における1枚目の媒体Pの給送動作は継続されている。1枚目の媒体Pが第2センサー52に検知された後、1枚目の媒体Pの先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当ててスキューを矯正するスキュー取り動作が行われる。なお、スキュー取り動作終了後、次に給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とが同期して行われ、1枚目の媒体Pは中間ローラー30および搬送ローラー対33とが同じ搬送速度(周速度)で回転することにより、印刷ヘッド38が印刷を開始するときの媒体Pの搬送位置である印刷開始位置まで搬送(頭出し)される。この頭出し動作は、1枚目の媒体Pに対する印刷制御を行う本ルーチンにおける初めての後述するステップS420の搬送動作の処理として行われる。なお、以下では、先に給送(搬送)された印刷中の媒体Pを先行媒体P1、先行媒体P1の次に給送(搬送)される媒体Pを後続媒体P2とする。このため、1枚目の媒体Pは先行媒体P1となる。
ステップS415では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次の行を印刷する次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS416に進み、ラストパスであればステップS423に進む。なお、1行目の印刷開始位置へ先行媒体P1を搬送する場合、この判断処理は、スキュー取り動作終了後かつ頭出し動作の開始前のタイミングで行われる。
ステップS416では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施前であれば「0」、重ね動作実施済みであれば「1」とするフラグを記憶部に備え、そのフラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みであると判断し、そのフラグの値が「0」であれば重ね動作実施前であると判断する。重ね動作実施済みでなければステップS417に進み、重ね動作実施済みであればステップS420に進む。
ステップS417では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、コンピューター62は、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1を外れ、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51がONからOFFへ切り換わればステップS418に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS420へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS418では、重ね可能であるか否かを判断する。つまり、重ね連送を行う前提条件となる重ね可能条件が成立したか否かを判断する。先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA内にあること(LL≦Y1<LU)を含む余白条件と、印刷デューティーが閾値以下である印刷インク量条件とを含む重ね可能条件が成立したか否かを判断する。重ね可能条件が成立すればステップS419に進み、重ね可能条件が不成立であればステップS420に進む。
ステップS419では、重ね動作を行わせる。詳しくは、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると(S414で肯定判定)、給送モーター41を正転方向に駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この給送過程では、コンピューター62は、第1カウンター81に計数処理を行わせることで、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41の正転駆動を継続する。詳しくは、コンピューター62は、RAM74から搬送距離FDを読み出し、第1カウンター81の計数値で示される第1センサー51の検知位置からの後続媒体P2の実際の搬送距離が目標とする搬送距離FDに到達するまで重ね動作を継続する。そして、第1カウンター81の計数値として示される実際の搬送距離が、目標とする搬送距離FDに一致すると、給送モーター41の駆動を停止して重ね動作を終了する。この重ね動作の結果、後続媒体P2は、その先端が待機位置Ywに到達するまで給送される。
コンピューター62は重ね動作を終了すると、フラグの値を「0」から「1」にする。実施するなお、印刷装置12が、印字データを1パス分ずつ受信し、記憶部に数パス分の印字データしか記憶できないために後端余白長および先端余白長を、本頁の最終パスの印字データと次頁の1パス目の印字データとを受信するまで取得できない構成である場合がある。この場合、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知しても、重ね可能条件の成否の判断が不可能である。このような場合は、重ね可能条件の成否の判断は、必要な印字データを取得した時点で行うこととし、判定前に先に重ね動作を行って、後続媒体P2を待機位置Ywに待機させておく。
ステップS420では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。例えば、次行が1行目であるときは、先行媒体P1は印刷開始位置に頭出しされる(図7参照)。
ステップS421では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出させることで、先行媒体P1に1パス分の画像を印刷する印刷動作を行う。
ステップS422では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS412に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS429に進む。
ステップS415に戻った場合、以後、ステップS415〜S422の処理を、ステップS415でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作を実施済み(フラグ=「1」)である場合は、次行までの搬送動作(S420)と、その次行への1パス分の印刷動作(S421)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。一方、重ね動作を実施済みでなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S415で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S417で肯定判定)かつ重ね可能条件が成立した場合(S418で肯定判定)に重ね動作を行う(S419)。こうしてラストパスに至る前に、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知し、かつそのとき重ね可能条件が成立すれば、重ね動作が行われる。
そして、ラストパスの1つ前のパスの印刷動作を終えると、ステップS415に戻り、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、ラストパス(n回目パス)の1つ前のパス(n-1回目パス)の印刷動作終了時点からラストパスの印刷位置への先行媒体P1の搬送動作開始時点までの期間に行われる。次のパスがラストパスになると、ステップS423に進む。
ステップS423では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は重ね動作実施済みであるかどうかを、フラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作が未実施であると判断する。重ね動作実施済みであればステップS424に進み、重ね動作実施済みでなければ(重ね動作未実施であれば)ステップS420に進む。
重ね動作が未実施である場合は、重ね連送を実施できないため、次の行(ラストパスの印刷位置)まで搬送動作(S420)と、1行分(ラストパスの1行分)の印刷動作(S421)とを行う。こうしてラストパスの印刷を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S422で肯定判定)、ステップS429において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして先行媒体P1の印刷を終了し、1枚目(1頁目)の印刷制御ルーチンが終わると、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、3枚目(3頁目)が新たに後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、次頁の印刷のために図14に示される印刷制御ルーチンを再び実行し、ステップS411において、それまでの後続媒体P2を新たな先行媒体P1としてその給送動作を行う。このとき、1頁目の先行媒体P1は既に排出済みであるため、先行媒体P1の排出と、後続媒体P2の給送は、両者間に間隔を開けて行われる。一方、次のパスがラストパスであって(S415で肯定判定)、かつ重ね動作実施済み(ステップS423で肯定判定)である場合は、ステップS424に進む。
ステップS424では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。
ステップS425では、1パス分の印刷動作を行う。すなわち、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、その移動過程で印刷ヘッド38のノズルからインク滴を吐出することにより最終行を印刷する。
ステップS426では、重ね連送可能であるか否かを判断する。ここでは、重ね動作を終えた後続媒体P2が待機位置Ywで待機している重ね準備完了の状態にあるか否かを判断する。重ね連送可能であれば、ステップS427に進み、重ね連送可能でなければ、ステップS429に進む。なお、重ね準備完了の状態にあることの他、現在の媒体P1,Pの位置情報に基づく実際の媒体P1,P2の位置から、例えば先行媒体P1の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUの条件を満たす位置にあるか否かの判断など、媒体の位置が重ね連送を実施可能な位置にあることを確認する少なくとも1つの条件の成否を併せて判断してもよい。
ステップS427では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作における搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を所定駆動量だけ駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、後続媒体P2のスキューを矯正するスキュー取り動作を行う。
コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を停止すると、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の待機位置Ywからの搬送を開始してその先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。
そして、次のステップS428では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重ね量を維持したまま同じ搬送速度で搬送する重ね連送(図6のハッチング部)を行う。これにより後続媒体P2は、先行媒体P1との重ね量を維持したまま印刷開始位置に頭出しされる。こうして図6に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の余白領域の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、ステップS429では、先行媒体の排出動作を行う。このとき、後続媒体P2は重ね動作が行われた場合に待機位置Ywにあり、重ね動作が行われなかった場合は待機位置Ywよりも上流側に位置する。このため、搬送モーター44が駆動されて搬送ローラー対33と排出ローラー対34とが回転しても、先行媒体P1だけが排出され、後続媒体P2はそのときの位置で待機する。
なお、次頁がある場合は、先行媒体P1の排出動作を終えた後、ステップS411の次頁の媒体Pの給送動作を行う。但し、次の媒体(前回の後続媒体P2)は、待機位置Ywまたはそれよりも少し上流側の位置に停止しているので、先行媒体P1(前回の後続媒体P2)の給送動作が行われることにより、新たな(2頁目の)先行媒体P1を印刷開始位置に頭出しする。また、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1のラストパスの印刷動作の終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。また、先行媒体P1の排出途中で、先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33を通り過ぎて一定の間隔が確保されたタイミングで、コンピューター62が給送モーター41の駆動を開始し、スキュー取り済みの後続媒体P2の印刷開始位置への搬送動作を開始させてもよい。また、重ね動作中にラストパスの印刷が開始された場合は、重ね動作中の後続媒体P2の先端をそのまま回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、重ね動作とスキュー取り動作とを一動作で行ってもよい。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、後続媒体P2の重ね動作による搬送位置精度が向上する。このため、最小重ね量Lminを少なめの値に設定し、重ね連送の実施頻度を向上させることができる。つまり、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止位置精度にばらつきがあると、そのばらつき分を見込んで最小重ね量Lminを設定する必要がある。これは、後続媒体の停止位置精度のばらつきが原因で、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とが重ならなかった場合、媒体P1,P2の端面同士が突き当たってジャムの原因になる場合がある。また、重ね順が上下逆転し、後続媒体P2が先行媒体P1に対してその表面(印刷面)側に重なる上重ねではなく、後続媒体P2が先行媒体P1に対してその裏面(非印刷面)側に重なる下重ねとなって、先行媒体P1に後続媒体P2に印刷されるべき1行目を印刷してしまう印刷ミスを発生させる原因にもなる。
また、重ね動作で後続媒体P2の先端を搬送ローラー対33のニップ位置NP2になるべく近い方が、重ね量を多くするうえで都合がよい。しかし、待機位置Ywを搬送ローラー対33のニップ位置NP2に近づけすぎると、後続媒体P2の停止位置精度のばらつきによって、後続媒体P2の先端が搬送ローラー対33に当たってしまい、先行媒体P1と共に一緒に搬送されてしまう虞がある。このため、この種のばらつき分を考慮して待機位置Ywを設定する必要がある。しかし、本実施形態では、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止位置精度を比較的高くすることができるので、待機位置Ywをなるべく搬送ローラー対33のニップ位置NP2に近づけることができる。このため、下限LLを小さくすることができる。この結果、先行媒体の印刷終了後に、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを一部重ねた状態で一緒に搬送する重ね連送の実施頻度を高めることができる。このように重ね連送の実施頻度が高まることにより、印刷スループットが向上する。
以上詳述した第5実施形態の1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(5−1)制御部50のコンピューター62は、搬送機構により搬送される媒体を第1センサー51が検知した検知位置S1から第2センサー52が検知した検知位置S2までの第1駆動量の一例としてのセンサー間距離SDを第2カウンター82により計測する。センサー間距離SDに基づき第1センサー51の検知位置S1から待機位置Yw(所定位置の一例)まで搬送機構24の給送モーター41を駆動させるときの第2駆動量の一例としての搬送距離FDを補正する。よって、第1センサー51の検知位置から補正後の搬送距離FDに相当する第2駆動量だけ給送モーター41を駆動させることにより、後続媒体P2を比較的高い停止位置精度で待機位置Ywに停止させることができる。したがって、待機位置Ywの停止位置精度の誤差を考慮しても、広めの条件で重ね可能条件を設定できるので、補正なしの搬送距離に基づき低い停止位置精度で重ね動作を行うことにより狭めの重ね可能条件を設定する必要がある構成に比べ、重ね連送の実施頻度を高めることができる。このため、重ね給送方式で印刷を行う場合において、印刷のスループットが向上する。
(5−2)待機位置Ywは、第2センサー52と第2ローラーにおける媒体がニップされるニップ位置NP2との間の位置に設定されている。第1センサー51及び第2センサー52の各検知位置S1,S2間の距離SDに相当する第1駆動量に基づいて、第1センサーから第2ローラーの一例としての搬送ローラー対33のニップ位置NP2よりも搬送経路の上流側に設定された待機位置Ywまでの第2駆動量が補正される。よって、後続媒体P2を第1センサー51を通って待機位置Ywまで搬送して停止させるときの停止位置精度を高めることができる。
(5−3)制御部50は、媒体Pを第1センサー51が検知した検知位置S1から第2センサー52が検知した検知位置S2までの距離SDのカウンター相当値で示される第1駆動量を第2カウンター82により計測する。さらに制御部50は、第1駆動量に基づき、第1センサー51の検知位置S1から待機位置Ywまで搬送機構24を構成する給送モーター41を駆動させるときの搬送距離FDのカウンター相当値で示される第2駆動量が補正される。その後、後続媒体を、先行媒体の搬送速度よりも高速な給送速度で給送して先行媒体と一部重ねる重ね動作が行われるときに、補正された第2駆動量で重ね動作が行われ、重ね動作の目標位置である待機位置への後続媒体の停止位置精度を高めることができる。その後、先行媒体P1と重ね動作を終えた後続媒体P2とを、そのときの重ね量を維持したまま先行媒体P1と後続媒体P2とを一緒に搬送する重ね連送が行われる。重ね動作の停止位置精度が高まることにより、重ね連送の実施頻度を高めることができる。
(5−4)記憶部の一例としての不揮発性メモリー75には、第2センサー52の検知位置S2から第2ローラーの一例としての搬送ローラー対33の媒体Pをニップするニップ位置NP2までの第3駆動量の一例としての駆動量ND(駆動量相当の距離ND)のデータを記憶する。制御部50は、複数の媒体に連続印刷をする場合、1枚目の媒体Pを搬送するときに第1センサー51の検知位置S1から第2センサー52の検知位置S2までの距離SDに相当する第1駆動量を計測し、第1駆動量と第3駆動量とに基づいて第2駆動量を補正する。よって、搬送距離FDのカウンター相当値で示される第2駆動量を適切に補正することができる。
(第5実施形態の2)
次に、図58〜図61を参照し、第5実施形態の2における印刷装置12の構成および制御内容について説明する。なお、図58〜図60では、第2センサー52を省略している。図58〜図60に示すように、搬送ローラー対33のニップ位置NP2の近傍には、図58または図59に示す第4センサー84と、図60に示す第5センサー85とが設けられている。ところで、第2センサー52のようにレバー52Aを備えた接触式センサーでは、先行媒体P1と後続媒体P2との間に所定長さ以上の隙間(間隔)が無いと媒体Pの有無を検知できない。これに対して、図58又は図59に示す第4センサー84は、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とが重なった状態にあっても、後続媒体P2の先端の位置を検出可能である。また、図60に示す第5センサー85は、第2センサー52のような接触式センサーでは検知不能な媒体P1,P2間の僅かな隙間を検出可能である。コンピューター62は、重ね動作の終了後に、第5センサー85が先行媒体P1と後続媒体P2との間に僅かな隙間を検出すると、重ね動作を失敗した旨の重ね異常と判定する。なお、本例では、図58に示す第4センサー84は超音波センサー86であり、図59に示す第4センサー84は、梃子式センサー87である。また、図60に示す第5センサー85は、光学式センサー88である。
以下、各第4センサー84および第5センサー85の構成を順番に説明する。
図58に示す第4センサー84は、超音波センサー86であり、超音波を発振させる発振器86Aと、発振器86Aから発振された超音波を受信する受信器86Bとを備える。超音波センサー86は、搬送方向Yに待機位置Ywを中心とする比較的広い範囲を検出範囲UAとする。検出範囲UAは、例えば第2ニップ位置NP2を下限とし、待機位置Ywよりも第2ニップ位置NP2と待機位置Ywとの距離に等しい距離だけ上流側の位置を上限とする。
また、図59に示す第4センサー84は、梃子式センサー87であり、回動軸87Aを中心に回動可能な長尺のロッドまたは矩形板からなるレバー87Bと、レバー87Bの回動軸87Aから遠い側の端部(図59では上端部)を検知可能なセンサー87Cとを備える。レバー87Bの回動軸87Aから近い側の端部(図59では下端部)が後続媒体P2の先端に接触して変位すると、その変位量が梃子の原理で拡大された大きな変位量で上端部が変位する。このため、レバー87Bの下端部の僅かな変位も検知できるため、後続媒体P2の先端Y2が待機位置Ywに達したことを比較的高い位置精度で検出できる。
また、図60に示す第5センサー85は、光学式センサー88であり、待機位置Ywに搬送経路を挟んで対向して位置する発光部88Aと受光部88Bとを備える。発光部88Aと受光部88Bとの間に媒体Pがなければ、発光部88Aからの光を受光部88Bが受光することにより光学式センサー88は検知状態(例えばON状態)となる。一方、発光部88Aと受光部88Bとの間に、先行媒体P1と重ね動作を終了した後続媒体P2とが一部重なった状態にあれば、発光部88Aからの光は媒体P1,P2に遮られて受光部88Bにより受光されないので、光学式センサー88は非検知状態(例えばOFF状態)となる。図60に示すように、重ね動作完了時点で先行媒体P1と後続媒体P2との間に僅かな隙間があり、光学式センサー88が検知状態にあると、コンピューター62は重ね動作を失敗と判定する。
本実施形態では、コンピューター62は、後続媒体P2の位置検出精度が比較的高い図58または図59に示す第4センサー84の検出信号に基づいて後続媒体P2の待機位置Ywへの停止制御を行い、図60に示す重ね動作失敗検出用の第5センサー85の検出信号に基づいて重ね動作の失敗を検出する。不揮発性メモリー75には、第4センサー84および第5センサー85の各検出信号に基づいて重ね動作を制御する図61にフローチャートで示す重ね動作制御ルーチンのプログラムPRが記憶されている。コンピューター62はこの重ね動作制御用のプログラムPRを実行することにより、後続媒体P2の重ね動作を制御する。
本実施形態のコンピューター62は、重ね動作において、前記第5実施形態の1における搬送距離FDよりも位置調整用の距離Δyだけ短い搬送距離(FD−Δy)で後続媒体P2を高速搬送する。このとき後続媒体P2は高速搬送されるので、計測値に基づく搬送距離FDを用いるものの、相対的に粗い停止位置精度となる。その後、コンピューター62は、位置調整用の距離Δyだけ後続媒体P2を低速搬送させて、第4センサー84の検出信号に基づき後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止制御を行う。さらにコンピューター62は、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させたのちに第5センサー85の検出信号に基づいて重ね動作が失敗であるか否かを判定する。
次に上記のように構成された印刷装置12の作用を説明する。コンピューター62は、位置検出用の第4センサー84と重ね動作失敗検出用の第5センサー85との各検出信号に基づいて重ね動作を制御する。なお、本実施形態のコンピューター62は、前記第5実施形態の1と同様に図57に示す搬送制御を行い、図57中のステップS419における重ね動作の制御として、図61に示す重ね動作制御ルーチンを実行する。
まずステップS431では、後続媒体を搬送距離FD−Δyだけ給送する。すなわち、コンピューター62は、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知してから、第1カウンター81の計数値が搬送距離FD−Δyに達するまで給送モーター41を駆動し、後続媒体P2を待機位置Ywよりも距離Δyだけ上流側の位置に停止させる。このときの給送制御には、1枚目の媒体Pを給送するときに計測したセンサー間の距離SDと過去に計測した距離SDとを複数個の平均値である平均距離SDaveを用いて算出した搬送距離FD(=SDave+ND−yn)を用いている。このため、後続媒体P2は、搬送距離FD−Δyの給送によって、待機位置Ywよりも位置調整用の距離Δyだけ手前(上流側)の位置まで比較的高い位置精度で給送される。
次のステップS432では、後続媒体の低速搬送を開始する。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41の駆動速度を高速から低速に切り換える。なお、コンピューター62は、給送モーター41の高速度での駆動を一旦停止させたのち、給送モーター41の駆動を低速度で再開してもよい。
次のステップS433では、第4センサーが待機位置に達した後続媒体を検知したか否かを判断する。第4センサー84が待機位置Ywに達した後続媒体P2を検知してOFFからONに切り換わると、ステップS434に進む。一方、第4センサー84が待機位置Ywに達した後続媒体P2を検知しておらずOFFのままであれば、第4センサー84が後続媒体P2を検知してONに切り換わるまで待機する。
ステップS434では、低速搬送を停止させる。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41の駆動を停止させる。この結果、後続媒体P2は待機位置Ywに停止する。こうして後続媒体P2は、重ね動作を開始してから待機位置Ywよりも位置調整用の距離ΔYだけ手前の位置まで高速で搬送されたのち、低速搬送され、第4センサー84が後続媒体P2の先端を検知すると、給送モーター41の駆動が停止されることにより待機位置Ywに高い位置精度で停止する。
次のステップS435では、第5センサーが隙間を検出したか否かを判断する。コンピューター62は、第5センサー85が媒体P1,P2の隙間を検出してその検出信号がON状態にあると、ステップS436に進み、媒体P1,P2間の隙間を検出しておらずその検出信号がOFF状態であれば、当該重ね動作制御ルーチンを終了する。
ステップS436では、重ね連送を中止する。コンピューター62は重ね連送を中止する旨のフラグを「0」から「1」に変更する。このフラグは図57におけるステップS426で重ね連送が可能か否かを判断するときに一緒に用いられ、コンピューター62は、このフラグが重ね連送中止の旨の値(例えば「1」)である場合、重ね連送が可能ではないと判断する(S426で否定判定)。この場合、重ね連送は中止され、先行媒体P1の印刷が終了すると、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の印刷開始位置までの搬送(頭出し)とが、両媒体P1,P2間に間隔を開けて行われる。
以上詳述したように、本実施形態によれば、重ね動作を高速搬送で待機位置Ywよりも位置調整用の距離Δyだけ手前の位置まで後続媒体P2を高速搬送し、その後、低速搬送に切り換えて第4センサー84が待機位置Ywに達した後続媒体P2を検知するまで後続媒体P2を低速度で搬送する。また、重ね動作中の高速搬送も、1枚目の媒体Pを給送する過程で計測したセンサー間の距離SDに基づく搬送距離FDを用いて制御するので、低速搬送に切り換えられる位置までの比較的高い搬送位置精度で後続媒体P2を搬送することができる。この結果、前記第1実施形態に比べ、後続媒体P2を一層精度高く待機位置Ywに停止させることができる。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、後続媒体P2の重ね動作による搬送位置精度が向上する。このため、最小重ね量Lminを少なめの値に設定し、重ね連送の実施頻度を向上させることができる。また、本実施形態では、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させる停止位置精度を比較的高くすることができるので、待機位置Ywをなるべく搬送ローラー対33のニップ位置NP2に近づけることができる。このため、下限LLを小さくでき、先行媒体の印刷終了後に、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを一部重ねた状態で一緒に搬送する重ね連送の実施頻度を高めることができる。この結果、印刷スループットが向上する。
(5−5)印刷装置12は、後続媒体P2が待機位置Ywに達したことを検知する位置センサーの一例である第4センサー84を更に備える。制御部50は、補正後の駆動量に基づいて媒体Pの次以降の媒体を待機位置Ywよりも上流側の設定位置まで第1搬送速度で搬送させる。設定位置から待機位置Ywまで第1搬送速度よりも低速な第2搬送速度で搬送させる。第4センサー84が媒体Pを検知した位置で、給送モーター41の駆動を停止させる。この結果、後続媒体P2を待機位置Ywに比較的高い停止位置精度で停止させることができる。
(5−6)印刷装置12は、後続媒体P2の重ね動作を終えたときに先行媒体P1と後続媒体P2との隙間を検出可能な隙間センサーの一例である第5センサー85を更に備える。制御部50は、後続媒体P2を待機位置Ywに停止させた後、第5センサー85が先行媒体P1と後続媒体P2との間に隙間を検出した場合は、重ね連送を中止する。よって、重ね動作を失敗した場合は、重ね連送を中止することができる。先行媒体P1と後続媒体P2とが適切に重なっていないにも関わらず、不適切に重ね連送が行われる事態を回避できる。
なお、上記第5実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・特許文献1に記載の印刷装置のように、第1センサーは媒体(後続媒体)の先端を検知したことをトリガーとして重ね動作を開始するためのものであってもよい。
・重ね連送を行わない構成でもよい。例えば先行媒体P1と後続媒体P2とを重ねる重ね動作は行うが、先行媒体P1の印刷終了後の排出と、後続媒体P2の頭出しとを両媒体P1,P2間に間隔を開けて行う構成において、重ね動作を終える目標停止位置まで後続媒体P2を搬送するときに、補正した第2駆動量に基づいて搬送制御を行ってもよい。
<第6実施形態>
次に第6実施形態について図面を参照して説明する。第6実施形態は、案内部材と支持部材とのうち少なくとも一方が媒体Pを案内可能な案内位置を含む複数の位置に移動可能な可動式となっている例である。以下、第6実施形態の1〜5について順番に説明する。
(第6実施形態の1)
まず第6実施形態の1について図62〜図74を参照して説明する。本実施形態では、案内部材と支持部材とが可動式となっている。
図62に示すように、中間ローラー30の搬送方向Yの直ぐ下流側には、回動軸551を中心に回動可能な可動式の案内部材の一例であるフラップ部材550が配置されている。また、中間ローラー30と搬送ローラー対33との間における媒体Pの搬送路の下側には、搬送路の幅よりも幅方向Xに少し長い可動式の下経路部材572が配置されている。
図63に示すように、フラップ部材550は、回動軸551を中心として回動可能に設けられた一対のアーム552に支持され、回動軸551を中心に所定の回動角範囲に渡って回動可能となっている。また、中間ローラー30と搬送ローラー対33との間には、媒体Pを下側から支持する支持部材57が配置されている。支持部材57における搬送方向Yにフラップ部材550よりも少し下流側の位置には、可動式の下経路部材572が、上下方向に変位可能な状態で設けられている。フラップ部材550は、支持部材57のガイド面57Aに対して出没可能となっている。
次に、図63を参照して、案内部材55と下経路部材572との構成および動作について説明する。前記第1実施形態と基本的に同じ構成であるが、本実施形態では、可動式の案内部材55と可動式の下経路部材572とを設けた点が、第1実施形態と異なる。図63に示すように、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)よりも少し下流側となる位置には、媒体Pを案内するフラップ部材550が配置されている。フラップ部材550は、基端部が回動軸551を中心に回動可能な状態で不図示のフレーム部に支持されたアーム552の先端部に支持されている。フラップ部材550は、図63に示す案内位置にある状態において、中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ位置NP1における接線方向へ送り出される媒体Pを、その接線方向より上側(重力方向Zと反対側)の位置を指向する方向を目標方向として媒体Pの送り出し方向を案内する。案内部材55による案内方向(例えば水平方向)は、上経路案内用のガイド面56Aと交差している。本例では、案内部材55は案内位置に配置されたとき、その案内面(上面)が水平となる姿勢に配置され、案内位置ではその送り出し方向が一例として略水平方向となっている。
図64に示すように、下経路部材572はその搬送方向Yの下流側端部に固定された回動軸574を中心に回動可能となっており、同図に実線に示す案内位置と二点鎖線で示す退避位置との間を移動する。また、フラップ部材550は、図63に示す案内位置と図64に示す退避位置との間を移動する。そして、フラップ部材550が退避位置に配置された状態において、中間ローラー30と第2従動ローラー32との間にニップされた状態で第1ニップ位置NP1から垂れ下がった後続媒体P2は、案内位置に配置された下経路部材572のガイド面573に支持される。ガイド面573は搬送方向Yと平行に切断した図64における断面において下流側ほど曲率半径が大きくなる凹曲面状に形成され、第1ニップ位置NP1から垂れ下がった後続媒体P2はガイド面573によって曲面を描くように支持される。例えば下経路部材572がない場合、後続媒体P2は座屈する心配があるが、案内位置に配置された下経路部材572に支持されることにより座屈の心配がない。
図65に示すように、重ね動作が行われるとき、フラップ部材550は同図に実線で示す案内位置に配置され、下経路部材572は同図に実線で示す退避位置に配置される。このため、後続媒体P2はフラップ部材550に案内されてガイド面56Aに沿った上限位置近くの経路で搬送される。このとき、先行媒体P1の後端部は下経路部材572上に位置していても、下経路部材572が退避位置にあるので浮き上がりが抑えられる。また、重ね動作が終了すると、フラップ部材550は同図に二点鎖線で示す退避位置に配置され、下経路部材572は同図に二点鎖線で示す案内位置に配置される。このため、後続媒体P2は、同図に二点鎖線で示すように下経路部材572のガイド面573に支持されることで、第1ニップ位置NP1から同図の側面視で曲線を描くように垂れ下がる。例えばスキュー取り動作のときに中間ローラー30の回転により後続媒体P2に伝えられた力はその先端まで確実に伝達され、その先端を搬送ローラー対33にスキュー取りに必要な力で突き当てることができる。
ここで、フラップ部材550および下経路部材572を可動式とした理由について説明する。例えば前記各実施形態のように、案内部材55をガイド面56Aと交差する方向に後続媒体P2を案内可能な略水平姿勢に配置した場合、重ね動作が終わった後続媒体P2は案内部材55の下流側端部から垂れ下がる。この垂れ下がった後続媒体P2は、第1実施形態の固定式の支持部材57の上面に接触した箇所で座屈しやすい。媒体Pが座屈していると、スキュー取り動作を行ったとき、中間ローラー30の回転により後続媒体P2を送り出す力は、座屈箇所等が邪魔をしてそれよりも下流側の部分へは伝わりにくい。そのため、スキュー取り動作を行ったときに後続媒体P2の先端が搬送ローラー対33に突き当たる力が相対的に弱くなり、適切なスキュー取り動作が行われにくくなる。そのため、前記各実施形態では、斜状のガイド面57Aを有する支持部材57を配置し、水平姿勢の案内部材55から垂れ下がる部分の途中を斜状のガイド面57Aで支持することで、後続媒体P2の案内部材55から垂れ下がる部分がS字カーブを描く経路をとるようにした。このため、中間ローラー30から後続媒体P2を送り出す力が、後続媒体P2の先端まで確実に伝わり、その先端を比較的強い力で搬送ローラー対33に突き当てることが可能になる。
しかし、斜状のガイド面57Aを有する支持部材57を設けると、先行媒体P1の後端部が斜状のガイド面57Aに載って浮き上がり易く、重ね動作により給送された後続媒体P2の先端部が、先行媒体P1の浮き上がった後端部の下側へ入り込んで、重ね順序が上下で逆転する虞がある。
そのため、本実施形態では、案内部材を案内位置と退避位置との間を移動可能な可動式のフラップ部材550とし、フラップ部材550を斜め下向き姿勢の退避位置に配置することで、水平に配置された案内部材55から垂れ下がることによる後続媒体P2の座屈を回避する。
但し、本実施形態では、仮に重ね動作後の後続媒体P2が水平な姿勢をとる案内位置にある案内部材55から垂れ下がっても、その垂れ下がり途中の部分を、案内位置に配置された下経路部材572の斜状のガイド面573で支持する。これにより後続媒体P2がS字カーブを描く経路で支持され、スキュー取り動作時に後続媒体P2の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に適切な力で突き当たるようにしている。このため、フラップ部材550が退避位置に配置されているときも、媒体種および媒体サイズによって硬さ等が異なり、垂れ下がったときの撓み方や座屈のし易さなどが異なる複数種類の媒体Pに対しても、後続媒体P2を案内位置にある下経路部材572のガイド面573で支持することで、S字カーブの経路をとらせることが可能となっている。
また、支持部材57は、重ね動作後の後続媒体P2を、曲線経路をとるように支持する必要がないので、下経路部材572に相当する部分の周辺でガイド面57Aが低く位置するように形成されている。このため、支持部材57を、第1実施形態における支持部材57よりもガイド面57Aのカーブが緩やかでかつ高さがより低いものとし、下経路部材572が退避位置に配置されたときには、ガイド面57A及びガイド面573が低く位置する。重ね動作時に先行媒体P1の後端部がガイド面57A,573に載ったとしてもその浮き上がりを起きにくくしている。
次に、図66を参照して印刷装置12の電気的構成を説明する。印刷装置12の電気的構成は基本的に前記第1および第2実施形態と同様であり、フラップ部材550及び下経路部材572を駆動させるアクチュエーターを備えた点が異なる。図66に示すように、制御部50には、フラップ部材550を駆動させる動力源である第1ソレノイド91および下経路部材572を駆動させる動力源である第2ソレノイド92が電気的に接続されている。詳しくは、制御部50のコンピューター62には、駆動回路67(励消磁回路)を介して第1ソレノイド91が電気的に接続されるとともに、駆動回路68(励消磁回路)を介して第2ソレノイド92が電気的に接続されている。
コンピューター62が第1ソレノイド91を励磁させると、フラップ部材550は案内位置に配置され、消磁させると、フラップ部材550は退避位置に配置される。また、下経路部材572は例えば不図示のばねにより案内位置側へ付勢されており、コンピューター62が第2ソレノイド92を励磁させると、下経路部材572は退避位置に配置され、第2ソレノイド92を消磁させると、下経路部材572は案内位置に配置される。また、不揮発性メモリー75には、図74にフローチャートで示される印刷制御用のプログラムPR等が記憶されている。なお、重ね動作後にフラップ部材550は退避位置に配置されるため、先行媒体P1の後端部が、重ね動作後にフラップ部材550に載っている心配がないため、重ね可能条件の1つである余白条件を規定する重ね可能領域LAの上限位置YUは、第1ニップ位置NP1に設定されている。
次に図67〜図73を参照して、重ね給送方式における搬送制御内容を説明する。この重ね給送方式では、重ね動作および重ね連送が含まれる。なお、給送モーター41、搬送モーター44及びキャリッジモーター48の制御内容は、第1実施形態等と同じなので、特に第1ソレノイド91及び第2ソレノイド92の制御を中心に説明する。また、図67では、各ソレノイド91,92の励磁をON、消磁をOFFで示している。
図67に示すように、印刷開始前は、各ソレノイド91,92は消磁状態にあり、フラップ部材550が退避位置に下降し、下経路部材572が案内位置に上昇した状態にある。この状態で給送モーター41が正転駆動されることにより1枚目の媒体Pが給送される。
図68に示す給送ローラー28の回転により最上位の先行媒体P1は、カセット21から送り出されて1枚に分離された後、回転する中間ローラー30の外周を経由して2つの従動ローラー31,32との間にニップされた状態で、搬送ローラー対33に向かって給送される。その給送途中で先行媒体P1は回転停止中の搬送ローラー対33に先端が突き当てられてスキュー取りされた後、印刷開始位置に搬送される(頭出しされる)。このとき、フラップ部材550は退避位置にあり、支持部材57は案内位置にある。このため、先行媒体P1の中間ローラー30と従動ローラー32とのニップ位置NP1から垂れ下がる部分が支持部材57の凹状のガイド面57Aに支持されることでS字カーブを描く経路をとるので、スキュー動作時に先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に適切な力で突き当てられ、スキューが適切に矯正される。
次に図67に示すように、先行媒体P1が頭出しされた後、キャリッジモーター48の駆動により印刷部25を移動して行われる印刷動作と、給送モーター41および搬送モーター44との駆動とにより先行媒体P1を搬送する搬送動作とが略交互に行われる。印刷が進むことで先行媒体P1は間欠的に搬送方向Yの下流側へ搬送され、その印刷の途中で給送ローラー28が後続媒体P2に当接し、後続媒体P2の給送が開始される。カセット21から送り出された後続媒体P2は、給送ローラー28と中間ローラー30との速度差により、先行媒体P1の搬送が進むに連れて、後続媒体P2との間隔は徐々に広がる。
図68に示すように、先行媒体P1の後端が中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ(第1ニップ位置NP1)から外れ、図67に示すように第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知してONからOFFへ切り換わると、そのとき駆動中の給送モーター41の駆動速度が、搬送動作時の速度よりも高速な速度に切り換えられる。これにより図69に示すように、後続媒体P2の重ね動作(追い付き給送動作)が開始される。また、第1センサー51が先行媒体P1の後端Y1を検知したことをトリガーとし、第1ソレノイド91が励磁駆動されることで、案内部材55が図69に実線で示す退避位置から同図に二点鎖線で示す案内位置に移動する。このとき、第2ソレノイド92が励磁駆動されることで、支持部材57が図69に実線で示す案内位置から同図に二点鎖線で示す退避位置に移動する。
図70に示す重ね動作では、後続媒体P2が印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な給送速度で、目標位置である待機位置Yw(図71参照)まで給送される。このとき、図70に示すように、重ね動作によって中間ローラー30と第2従動ローラー32とのニップ箇所(第1ニップ位置NP1)から接線方向へ送り出された後続媒体P2は、第1ニップ位置NP1の下流側近傍で、案内位置に配置されたフラップ部材550により略水平方向へ案内されるため、上経路案内用のガイド面56Aに沿って搬送される。また、支持部材57は退避位置にあるので、先行媒体P1の後端部が仮に支持部材57に相当する位置にあっても、支持部材57が案内位置にある場合に比べ、退避した分だけ浮き上がりにくくなる。よって、重ね動作によって、支持部材57の退避により浮き上がりにくい先行媒体P1の後端部に対して、後続媒体P2がガイド面56Aに沿った上経路を通って待機位置Ywまで給送されるので、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部が適切な上重ねの状態で重ねられる。
図67に示すように、重ね動作の開始後直ぐに第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わった時点から、給送モーター41は目標搬送量に応じた駆動量だけ駆動された後に駆動停止される。これにより図71に示すように、後続媒体P2はその先端が待機位置Ywに到達した位置で停止する。重ね動作を終えた後続媒体P2は、先行媒体P1に最終行を印刷するラストパスの印刷動作が行われるときまで、待機位置Ywで待機する。そして、図67に示すように、ラストパスの印刷動作開始前の所定時期の判定で、重ね可能条件が成立すれば、ラストパスの印刷動作中に給送モーター41が正転駆動され、図71に示すように、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作が行われることで、後続媒体P2のスキューが矯正される。このスキュー取り動作時に後続媒体P2の垂れ下がった部分が支持部材57の凹状のガイド面57Aに支持されているので、第1ニップ位置NP1から待機位置Ywに至るまでの部分で後続媒体P2はS字カーブの経路をとる。給送モーター41の駆動により後続媒体P2を押し出すときの力は、S字カーブの経路を通って先端まで伝えられ、その先端が適切な強さで回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられる。
図67に示すように、ラストパスの印刷動作を終了すると、給送モーター41および搬送モーター44が同期して駆動され、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34が同じ搬送速度(周速度)で駆動され、重ね連送が行われる。すなわち、先行媒体P1と後続媒体P2とがそのときの重ね量LP(図72参照)を維持したまま同じ搬送速度で、後続媒体P2が印刷開始位置に到達するまで一緒に搬送される重ね連送が行われる。重ね連送の結果、図73に示すように、先行媒体P1の後端余白部に後続媒体P2の先端部が重なる状態で、後続媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。
次に印刷装置12の作用を説明する。以下、図65、67等を参照して、制御部50内のコンピューター62が図74にフローチャートで示されるプログラムPRを実行することにより行われる重ね連送を含む印刷制御について説明する。コンピューター62は、例えばホスト装置100から印刷ジョブを受信すると、プログラムPRを実行する。複数枚印刷の場合、はじめに1枚目の媒体が先行媒体P1となる。また、先行媒体P1が印刷中である場合、先行媒体P1の次に給送される2枚目の媒体Pが後続媒体P2となる。
まずステップS511において、媒体種、媒体サイズ、給送経路による重ね可能判定を行う。重ね可能判定の判定結果は後のステップで使用する。
次のステップS512では、先行媒体を給送する。すなわち、コンピューター62は、図67に示すように、給送モーター41を正転方向(CW方向)に駆動(正転駆動)し、給送ローラー28及び中間ローラー30の回転により先行媒体P1を給送する。この給送途中で先行媒体P1の先端が回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てられるスキュー取り動作が行われ、先行媒体P1のスキューが矯正される。次にコンピューター62は、給送モーター41の正転駆動と搬送モーター44の駆動とを同期させて行い、同じ搬送速度で回転する中間ローラー30および搬送ローラー対33により先行媒体P1を印刷開始位置まで頭出しする。
ステップS513では、次のパスがラストパスであるか否かを判断する。この判断は、次のパスの印刷位置へ先行媒体P1を搬送する搬送動作の開始前のタイミングで行われる。ラストパスでなければステップS514に進み、ラストパスであればステップS525に進む。なお、この判断時期は、次のパスの印刷動作が開始されるまでのタイミングであればよい。
ステップS514では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施前であれば「0」、重ね動作実施済みであれば「1」とするフラグを記憶部に備え、そのフラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みであると判断し、そのフラグの値が「0」であれば重ね動作実施前であると判断する。重ね動作実施済みでなければステップS515に進み、重ね動作実施済みであればステップS522に進む。
ステップS515では、第1センサーがONからOFFへ切り換わったか否かを判断する。つまり、先行媒体P1の後端が第1ニップ位置NP1から外れ、その後端を第1センサー51が検知したか否かを判断する。第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知してONからOFFへ切り換わればステップS516に進み、ONからOFFへ切り換わらなければステップS522へ進む。なお、コンピューター62は、第1センサー51がONからOFFに切り換わると、第1カウンター81に計数処理を行わせ、その計数値から先行媒体P1の後端位置Y1を取得する。
ステップS516では、重ね可能であるか否かを判断する。つまり、重ね連送の実施条件となる重ね可能条件が成立したか否かを判断する。先行媒体P1の後端位置Y1が重ね可能領域LA内にあること(LL≦Y1<LU)等の余白条件と、印刷デューティーが閾値以下であるという印刷濃度条件とを含む重ね可能条件が成立したか否かを判断する。重ね可能条件が成立して重ね可能であればステップS517に進み、重ね可能でなければステップS522に進む。
ステップS517では、フラップ部材を案内位置に移動配置する。すなわち、コンピューター62は、第1ソレノイド91を励磁駆動させることによりフラップ部材550を図65に実線で示す案内位置に移動配置する。
ステップS518では、下経路部材を退避位置に移動配置する。すなわち、コンピューター62は、第2ソレノイド92を励磁駆動させることにより下経路部材572を図65に実線で示す退避位置(非案内位置)に移動配置する。こうして図65に示すように、先行媒体P1の後端Y1が第1ニップ位置NP1から外れ、その後端Y1を検知して第1センサー51がONからOFFに切り換わると、フラップ部材550が退避位置から案内位置へ移動するとともに、下経路部材572が案内位置から退避位置へ移動する。
ステップS519では、重ね動作を行わせる。詳しくは、コンピューター62は、給送モーター41を正転駆動させ、給送ローラー28および中間ローラー30の回転により、後続媒体P2を待機位置Ywまで給送する。この重ね動作では、印刷中の先行媒体P1の搬送速度よりも高速な搬送速度で後続媒体P2を給送し、後続媒体P2が待機位置Ywに到達するまで、給送モーター41を駆動する。この重ね動作過程では、コンピューター62は第1センサー51が後続媒体P2の先端を検知してOFFからONに切り換わったときに第2カウンター82に計数処理を開始させ、その計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得する。そして、先端位置Y2が待機位置Ywに達すると、給送モーター41の駆動を停止する。この結果、後続媒体P2は待機位置Ywで停止する。コンピューター62は重ね動作を完了すると、フラグの値を重ね動作未実施の値「0」から重ね動作実施済みの値「1」にする。なお、印刷装置12が、印字データを1パス分ずつ受信し、記憶部に数パス分の印字データしか記憶できないために後端余白長および先端余白長を、本頁の最終パスの印字データと次頁の1パス目の印字データとを受信するまで取得できない構成である場合がある。この場合、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知しても、重ね可能条件の成否の判断が不可能である。このような場合は、重ね可能条件の成否の判断は、必要な印字データを取得した時点で行うこととし、判定前であっても第1センサー51のONからOFFへの切り換わりをもって先に重ね動作を行って、後続媒体P2を待機位置Ywに待機させておく。
ステップS520では、フラップ部材を退避位置に移動配置する。すなわち、コンピューター62は、第1ソレノイド91を消磁させてフラップ部材550を図65に二点鎖線で示す退避位置に移動させる。
次のステップS521では、下経路部材を案内位置に移動配置する。すなわち、コンピューター62は、第2ソレノイド92を消磁させて下経路部材572を図65に2点鎖線で示す案内位置に移動させる。こうして図65に示すように、後続媒体P2の重ね動作が完了すると、フラップ部材550が案内位置から退避位置へ移動するとともに、下経路部材572が退避位置から案内位置へ移動する。この結果、中間ローラー30と第2従動ローラー32との間にニップされて第1ニップ位置NP1から待機位置Ywに至るまで垂れ下がった後続媒体P2は、下経路部材572のガイド面573に支えられ、ガイド面573に沿った湾曲経路に案内される。凹状のガイド面573の曲率は、第1ニップ位置NP1から待機位置Ywへ至る後続媒体P2を、凹状の曲線カーブを描くように案内可能な値をとる。
ステップS522では、次行の印刷位置まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。なお、頭出し直後で先行媒体P1が既に1行目の印刷位置にあるときは、この搬送動作は省略される。
ステップS523では、1パス分の印刷動作を行う。コンピューター62は、キャリッジモーター48を駆動させることでキャリッジ36を走査方向Xに1パス分移動させ、その1パスの移動過程で印刷ヘッド38が印字データに基づきノズル382からインク滴を吐出することで、先行媒体P1に1パス分の画像を印刷する印刷動作を行う。
ステップS524では、1頁の印刷を終了したか否かを判断する。つまり、先行媒体P1に印刷すべき全行の印刷動作を終了したか否かを判断する。1頁の印刷を終了していなければステップS513に戻り、1頁の印刷を終了すればステップS531に進む。
ステップS513に戻った場合、以後、ステップS513〜S524の処理を、ステップS513でラストパスになるまで繰り返す。このとき、重ね動作実施済み(フラグ=「1」)である場合(S514で肯定判定)は、次行までの搬送動作(S523)と、その次行での1パス分の印刷動作(S524)とを略交互に行うことで、先行媒体P1への印刷が進められる。一方、重ね動作実施済みでなければ(フラグ=「0」)、ラストパスに至る前(S513で否定判定)に、第1センサー51がONからOFFに切り換わり(S515で肯定判定)かつ重ね可能条件が成立した場合(S516で肯定判定)に重ね動作を行う(S519)。こうしてラストパスに至る前に、第1センサー51が先行媒体P1の後端を検知し、かつそのとき重ね可能条件が成立すれば、重ね動作が行われる。
そして、ラストパスの1つ前(n-1回目)のパスの印刷動作を終えると、ステップS513に戻り、次のパスがラストパス(n回目のパス)であると判断されるため、ステップS525に進む。
ステップS525では、重ね動作実施済みであるか否かを判断する。コンピューター62は、重ね動作実施済みであるかどうかをフラグの値に基づいて判定する。すなわち、フラグの値が「1」であれば重ね動作実施済みと判断し、フラグの値が「0」であれば重ね動作済みではないと判断する。重ね動作実施済みでなければステップS522に進み、重ね動作実施済みであればステップS526に進む。
重ね動作が行われていなければ、重ね連送を実施できないため、次のラストパスの印刷位置まで搬送動作(S522)を行って、ラストパスの1行分の印刷動作(S523)を行う。こうしてラストパスの印刷動作を終え、先行媒体P1の1頁の印刷を終了すると(S524で肯定判定)、ステップS531において、先行媒体を排出する排出動作を行う。コンピューター62は、給送モーター41および搬送モーター44を駆動して先行媒体P1を排出する。こうして1枚目の先行媒体P1の印刷を終了し、1回目のルーチンが終わると、次のルーチンで、それまでの後続媒体P2が先行媒体P1となり、3枚目の媒体Pが新たな後続媒体P2となる。そして、コンピューター62は、次頁の印刷のために図74に示される印刷制御ルーチンを再び実行し、ステップS511において、それまでの後続媒体P2が新たな先行媒体P1としてその給送動作を行う。このとき、1枚目の先行媒体P1は既に排出済みであるため、1枚目の先行媒体P1の排出と、2枚目の先行媒体P1の給送は、両媒体P間に間隔を開けて行われる。一方、次のパスがラストパスであって(S513で肯定判定)、かつ重ね動作実施済み(ステップS525で肯定判定)である場合は、ステップS526に進む。
ステップS526では、次行まで搬送動作を行う。すなわち、コンピューター62は、給送モーター41と搬送モーター44とを同期させて駆動し、給送ローラー28、中間ローラー30、搬送ローラー対33および排出ローラー対34を同じ搬送速度で回転させ、先行媒体P1を次行の印刷位置まで搬送する。
ステップS527では、1パス分の印刷動作を行う。すなわち、コンピューター62はキャリッジモーター48を駆動させてキャリッジ36にラストパスの移動を行わせ、その移動過程で印刷ヘッド38のノズル382からインク滴を吐出することにより最終行を印刷する。
ステップS528では、重ね連送可能であるか否かを判断する。ここでは、重ね動作を終えた後続媒体P2が待機位置Ywで待機している重ね準備完了の状態にあるか否かを判断する。重ね連送可能であれば、ステップS529に進み、重ね連送可能でなければ、ステップS531に進む。なお、重ね準備完了の状態にあることの他、現在の媒体P1,Pの位置情報に基づく実際の媒体P1,P2の位置から、例えば先行媒体P1の後端位置Y1が、LL≦Y1<LUの条件を満たす位置にあるか否かの判断など、媒体の位置が重ね連送を実施可能な位置にあることを確認する少なくとも1つの条件の成否を併せて判断してもよい。
ステップS529では、スキュー取り動作を行う。詳しくは、コンピューター62は、先行媒体P1をラストパスの印刷位置まで搬送する搬送動作を終えるべく搬送モーター44の駆動を減速または停止すると、キャリッジモーター48を駆動させて印刷動作を行う。この印刷動作において搬送モーター44の駆動停止中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。このとき、後続媒体P2が支持部材57のガイド面57Aに案内されて、第1ニップ位置NP1から待機位置Ywへ至る部分の後続媒体P2の経路は曲線カーブ(例えばS字状カーブ)を描く。よって、中間ローラー30と従動ローラー32とにニップされた状態で中間ローラー30の回転により後続媒体P2を押し出す力は、曲線カーブを描く後続媒体P2に沿ってその先端Y2にまで伝えられる。この結果、先行媒体P1の先端が搬送ローラー対33に比較的強く突き当てられるので、このスキュー取り動作によるスキューの矯正が適切に行われる。なお、重ね動作中にラストパスの印刷が開始された場合は、後続媒体P2の先端をそのまま回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てることで、重ね動作とスキュー取り動作とを一動作で行ってもよい。
そして、次のステップS530では、重ね連送を実施する。すなわち、先行媒体P1へのラストパスの印刷動作を終えたキャリッジモーター48の減速中に、給送モーター41と搬送モーター44とを同期して駆動させ、先行媒体P1と後続媒体P2とをそのときの重なり量を維持したまま同じ搬送速度で後続媒体P2の印刷開始位置に搬送する重ね連送(図67のハッチング部)を行う。
こうして図67に示すように、1枚目の最終行の印刷が終了すると、1枚目の媒体P1と2枚目の媒体P2とが先行媒体P1の後端余白部の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重なる状態を維持したまま一緒に搬送され、2枚目の媒体P2が印刷開始位置に頭出しされる。この重ね給送方式の場合、先行媒体P1の排出と後続媒体P2の頭出しとが1つの動作で進められるうえ、後続媒体P2を印刷開始位置まで頭出しする際の搬送量が、先行媒体P1との間に間隔を開けて後続媒体P2を頭出しする通常給送方式のときの搬送量に比べ相対的に少なく済む。この結果、先行媒体P1への印刷終了後、速やかに後続媒体P2の印刷を開始できる。よって、重ね給送方式の場合、通常給送方式に比べ、印刷のスループットが向上する。
一方、ステップS531では、先行媒体の排出動作を行う。このとき、後続媒体P2は重ね動作が行われた場合に待機位置Ywにあり、重ね動作が行われなかった場合は待機位置Ywよりも搬送方向Yの上流側に位置する。このため、搬送モーター44が駆動されて搬送ローラー対33と排出ローラー対34とが回転しても、先行媒体P1だけが排出され、後続媒体P2はそのときの位置で待機する。
次頁がある場合は、先行媒体P1の排出動作を終えた後、後続媒体P2を新たな先行媒体P1として図74のルーチンを再度実行する。但し、同じ印刷ジョブであるうちは、2枚目以降の媒体Pを先行媒体P1とするとき、ステップS511の処理はスキップされ、ステップS511で先行媒体P1(次頁の媒体P)の給送動作を行う。このとき、次の媒体(前回の後続媒体P2)は、待機位置Ywまたはそれよりも少し上流側の位置に停止しているので、その停止位置から先行媒体P1の給送動作が開始され、次の先行媒体P1を印刷開始位置に頭出しする。また、ラストパスの印刷動作時に後端位置Y1が第2ニップ位置NP2を所定距離以上通過した位置にあれば、ラストパスの印刷動作中に後続媒体P2のスキュー取り動作を行い、先行媒体P1の最終行の印刷終了後に、先行媒体P1の排出と後続媒体P2との頭出しとを間隔を開けた状態のまま行ってもよい。なお、先行媒体P1の排出途中で、先行媒体P1の後端が搬送ローラー対33を通り過ぎて一定の間隔が確保されたタイミングで、コンピューター62が給送モーター41の駆動を開始し、スキュー取り済みの後続媒体P2の印刷開始位置への搬送を開始させてもよい。
こうして印刷枚数と同じ回数のルーチンを繰り返し実行し、最終枚目の印刷時は、先行媒体P1のみで後続媒体P2(次頁)がないので、重ね動作に関する処理(S514〜S521等)をスキップする。そして、例えば前回の重ね連送(S530)で頭出しされた最終枚目の媒体Pに対する搬送動作(S522)と印刷動作(S523)とが略交互に行われ、1頁分の印刷が行われる。そして、1頁分の印刷が終了すると、最終枚目の媒体Pは排出動作(S531)により排出される(図67も参照)。
このように本実施形態の重ね給送方式によれば、重ね動作を開始するに当たり、フラップ部材550を退避位置から案内位置に移動配置させるとともに、支持部材57を案内位置から退避位置へ移動配置させる。このため、重ね動作により送り出された後続媒体P2を上経路案内用のガイド面56Aと交差する略水平方向に案内されるので、その目標方向に案内された後続媒体P2はガイド面56Aに沿って上経路を通って給送される。このとき、支持部材57が案内位置にあると、先行媒体P1の後端部が仮に支持部材57に至るほど長い場合に、その後端部が支持部材57に載り上げて浮き上がった状態になり易く、特に後端部がカールしていると、さらにその浮き上がり量はさらに大きくなる。例えば先行媒体P1の後端部が浮き上がっていると、重ね動作中の後続媒体P2が浮き上がった後端部に衝突し、その下側へ入り込む虞がある。しかし、本実施形態では、重ね動作時において支持部材57は下方へ退避しているため、先行媒体P1の後端部が浮き上がりにくくなる。この結果、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を上重ね状態で重ねることができる。よって、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を重ねる向きが上下逆転したときに、後続媒体P2の1行目の印刷を、先行媒体P1の後端余白部に行ってしまう印刷ミスを低減できる。
以上詳述した第6実施形態の1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(6−1)後続媒体P2を先行媒体P1の搬送速度よりも高速な給送速度で給送して先行媒体P1と一部重ねる重ね動作と、後続媒体P2のスキューを矯正するスキュー取り動作と、先行媒体P1の最終行の印刷動作終了後に後続媒体P2を先行媒体P1との重なり状態を維持したまま印刷開始位置まで搬送する重ね連送とが順番に行われる。重ね動作時には、案内部材の一例であるフラップ部材550が後続媒体P2の送り出し方向を目標方向へ案内する。また、スキュー取り動作が行われるときは、後続媒体P2の重ね動作で送り出された部分の一部が支持部材の一例である下経路部材572により支持される。フラップ部材550と下経路部材572は、後続媒体P2の移動経路を案内する案内位置と、後続媒体P2を案内しない非案内位置の一例である退避位置とに移動する。よって、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とが正しい重ね順で重ねられる頻度を高めることができるうえ、後続媒体P2のスキュー取り動作の失敗を回避し易い。したがって、先行媒体P1と後続媒体との重ね順のミスやスキューの矯正が不十分な場合における印刷品質の低下を抑えることができる。
(6−2)案内部材の一例であるフラップ部材550が、案内位置と非案内位置との間を移動する。よって、重ね動作が行われるときに、フラップ部材550を案内位置に配置することで、後続媒体P2を目標方向へ案内することができる。この結果、後続媒体P2を先行媒体P1に対して適切な重ね順で重ねることができる。また、スキュー取り動作が行われる前に、フラップ部材550を案内位置から退避位置(非案内位置)へ退避させることにより後続媒体P2が垂れ下がっても座屈しにくくなる。
(6−3)重ね動作が開始されると、給送された後続媒体P2がフラップ部材550に至る前にフラップ部材550が案内位置に移動し、後続媒体P2の送り出し方向を目標方向へ案内する。このため、目標方向へ送り出された後続媒体P2を、先行媒体P1の一部と適正な重ね順で重ねることができる。また、スキュー取り動作が行われるときに、フラップ部材550が退避しにくくなる。このため、後続媒体P2のスキュー取り動作が適切に行われる。
(6−4)可動式の支持部材の一例である下経路部材572が、案内位置と退避位置(非案内位置)との間を移動する。よって、重ね動作が行われるときに、下経路部材572を非案内位置に配置して先行媒体P1の後端部の浮き上がりを抑えることで、先行媒体P1の後端部と後続媒体P2の先端部とを適切な重ね順で重ねることができる。また、スキュー取り動作が行われる前に、下経路部材572が案内位置に配置され、後続媒体P2における重ね動作で送り出された部分の一部を案内位置に配置された下経路部材572で支持することができる。この結果、後続媒体P2のスキューを適切に矯正できる。よって、重ね動作とスキュー取り動作とを適切に行うことができる。
(6−5)重ね動作が行われるときに、下経路部材572が退避位置(非案内位置)に移動することにより、先行媒体P1の後端部が浮き上がりにくくなる。この結果、後続媒体P2を先行媒体P1の一部に適切な重ね順で重ねることができる。また、スキュー取り動作が行われる前に、下経路部材572は案内位置に配置され、後続媒体P2の重ね動作により送り出されて垂れ下がった部分が下経路部材572により支持される。重ね動作とスキュー取り動作とを適切に行うことができる。
(6−6)制御部50は、搬送機構24を制御して後続媒体P2の先端を、印刷部25よりも搬送方向Yの上流側に設けられたローラー対の一例としての搬送ローラー対33に突き当てることでスキュー取り動作を行う。後続媒体P2におけるフラップ部材550の上側を通って垂れ下がる部分は、スキュー取り動作が行われる前に案内位置に配置された下経路部材572における搬送方向Yの下流側ほど低くなる斜状の面形状を有する支持面の一例としてガイド面573に支持される。よって、後続媒体の垂れ下がった部分が座屈しにくくなるので、後続媒体の先端をローラー対に突き当てるために後続媒体を送り出したときの力が垂れ下がり部を経て先端に伝わり、適正なスキュー取り動作を行うことができる。
(第6実施形態の2)
次に図75を参照して第6実施形態の2について説明する。この実施形態は、可動式の案内部材であるフラップ部材550と、固定式の支持部材57とを組合せた例である。図75に示すように、フラップ部材550は、第1実施形態と同様に、案内位置と退避位置とを移動可能に設けられている。すなわち、案内部材55は、第1ソレノイド91が励磁駆動されることにより案内位置に移動配置され、第1ソレノイド91が消磁駆動されることにより退避位置(非案内位置)に移動配置される。また、支持部材57は、前記第1実施形態における案内位置のときの位置で突出する状態で固定されている。なお、本例では、支持部材57が固定式であるため、図66及び図67における第2ソレノイド92は備えていない。
支持部材57が固定式の本実施形態では、図74に示すフローチャートにおいて、支持部材57の駆動に関するステップS518およびS521の処理が省略される。そのため、第1ニップ位置NP1から外れた先行媒体P1の後端Y1を、第1センサー51が検知してONからOFFへ切り換わると(S515で肯定判定)、コンピューター62は、第1ソレノイド91を励磁させることによりフラップ部材550を、図75に二点鎖線で示す退避位置から同図に実線で示す案内位置に移動配置する(S517)。
図75に示すこの状態で、重ね動作が行われる(S519)。本実施形態の重ね給送方式によれば、この重ね動作を開始するに当たり、コンピューター62が第1ソレノイド91励磁駆動させ、案内部材55を退避位置から案内位置へ移動配置させる。このとき、略水平姿勢の案内部材55により、重ね動作により送り出された後続媒体P2は、上経路案内用のガイド面56Aと交差する略水平方向に案内されるので、その目標方向に案内された後続媒体P2はガイド面56Aに沿って上経路を通って給送される。この結果、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を狙いどおりに上重ね状態で重ねることができる。よって、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を重ねる向きが上下逆転したときに後続媒体P2の1行目を先行媒体P1の後端余白部に印刷してしまう印刷ミスを低減することができる。なお、この重ね動作時において支持部材57は案内位置に突出した状態で固定されているが、案内部材55が後続媒体P2とあまり接触しないように退避し、斜め下方へ垂れ下がっているので、案内部材55が水平姿勢に固定された構成に比べ、支持部材57の突出量は相対的に少なく済む。このため、先行媒体P1の後端部が支持部材57のガイド面57Aに載った場合のその後端部の浮き上がりは、相対的に少なく済む。
この重ね動作中において、コンピューター62は、第2カウンター82の計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得し、その取得した先端位置Y2が待機位置Ywに達すると、給送モーター41の駆動を停止する。この結果、重ね動作が完了し、後続媒体P2はその先端が待機位置Ywに位置する状態で停止する。
重ね動作を完了すると、コンピューター62は、第1ソレノイド91を消磁させることによりフラップ部材550を図75に実線で示す案内位置から同図に二点鎖線で示す退避位置(非案内位置)に移動配置する。この結果、中間ローラー30と従動ローラー32とのニップ位置NP1から垂れ下がった後続媒体P2は、支持部材57のガイド面57Aに支持されることで曲線カーブを描く経路で案内される。
そして、コンピューター62は、ラストパスの印刷動作中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。このとき、第1ニップ位置NP1から待機位置Ywへ至る途中の部分で後続媒体P2が、支持部材57のガイド面57Aに支持されることで、後続媒体P2の第1ニップ位置NP1から待機位置Ywへ至る部分がカーブを描く経路をとるので、中間ローラー30の回転により後続媒体P2が押し出される力はその先端Y2にまで確実に伝えられる。この結果、先行媒体P1の先端が搬送ローラー対33に比較的強く突き当てられるので、スキュー取り動作によるスキューの矯正が適切に行われる。
(第6実施形態の3)
次に図76を参照して第6実施形態の3について説明する。この実施形態は、固定式の案内部材55と、可動式の支持部材の一例である下経路部材572とを組合せた例である。図76に示すように、案内部材55は、前記第1実施形態における案内位置のときの水平な姿勢で固定されている。下経路部材572は、第6実施形態の1と同様に、図76に二点鎖線で示す案内位置と実線で示す退避位置との間を移動可能に設けられている。すなわち、下経路部材572は、制御部50のコンピューター62が第2ソレノイド92(図66及び図67参照)を励磁させることにより退避位置に移動配置され、第2ソレノイド92を消磁させることにより不図示のばねの付勢力により案内位置に移動配置される。なお、本例では、案内部材55が固定式であるため、図66及び図67における第1ソレノイド91は備えていない。
案内部材55が固定式である本実施形態では、図76に示すフローチャートにおいて、ステップS517及びS520の処理が省略される。そのため、先行媒体P1の後端Y1が第1ニップ位置NP1から外れ、第1センサー51が先行媒体P1の後端Y1を検知してONからOFFへ切り換わると(S515で肯定判定)、コンピューター62は、第2ソレノイド92を励磁させることにより、下経路部材572を図76に二点鎖線で示す案内位置から同図に実線で示す退避位置に移動配置させる(S518)。
図76に実線で示す状態で、重ね動作が行われる(S519)。本実施形態の重ね給送方式によれば、この重ね動作を開始するに当たり、コンピューター62が第2ソレノイド92を励磁させ、下経路部材572を案内位置から退避位置へ移動配置させる。このとき、重ね動作中の後続媒体P2は、略水平の姿勢で固定された案内部材55から、上経路案内用のガイド面56Aと交差する略水平方向へ送り出されるので、斜状のガイド面56Aに沿って上限位置近くを保ちつつ搬送される。この重ね動作時において下経路部材572は下方の退避位置に退避しているため、先行媒体P1の後端部が浮き上がりにくくなる。この結果、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を狙いどおりに上重ね状態で重ねることができる。よって、先行媒体P1の後端部に対して後続媒体P2の先端部を重ねる順序が上下逆転したときに後続媒体P2の1行目を先行媒体P1の後端余白部に印刷してしまう印刷ミスを低減することができる。
この重ね動作中において、コンピューター62は、第2カウンター82の計数値から後続媒体P2の先端位置Y2を取得し、その取得した先端位置Y2が待機位置Ywに達すると、給送モーター41の駆動を停止する。この結果、重ね動作が完了し、後続媒体P2はその先端が待機位置Ywに位置する状態で停止する。
後続媒体P2の重ね動作が完了すると、コンピューター62は、第2ソレノイド92を消磁させることにより、下経路部材572を図76に実線で示す退避位置から同図に二点鎖線で示す案内位置に移動配置する。この結果、中間ローラー30と従動ローラー32とのニップ位置NP1から垂れ下がった後続媒体P2は、案内位置に上昇した下経路部材572のガイド面573に支持されることで曲線経路を描くように案内される。
そして、コンピューター62は、ラストパスの印刷動作中に、給送モーター41を駆動させ、後続媒体P2の先端を回転停止中の搬送ローラー対33に突き当てるスキュー取り動作を行う。このとき、第1ニップ位置NP1から待機位置Ywへ至る途中の部分で後続媒体P2は、下経路部材572のガイド面573に支持されて曲線(例えばS字状カーブ)を描く経路をとるので、中間ローラー30の回転により後続媒体P2が押し出される力はその先端Y2にまで確実に伝えられる。この結果、先行媒体P1の先端が搬送ローラー対33に比較的強く突き当てられるので、スキュー取り動作によるスキューの矯正が適切に行われる。
(第6実施形態の4)
次に図77、図78を参照して第6実施形態の4について説明する。本実施形態は、可動式の案内部材の一例であるフラップ部材550による媒体案内方向を選択することにより、図77に示す下重ねと図78に示す上重ねとを選択できる例である。図77に示すように、下経路案内用の支持部材57は固定式であり、そのガイド面57Aは、先行媒体P1における搬送ローラー対33のニップ箇所よりも上流側の部分である後端部を、ニップ位置NP2と同程度の所定高さに支持する支持部575と、支持部575よりも上流側の部分で下方へ大きく凹んだ凹面576とを有している。凹面576の上流側部分は斜状のガイド面57Bとなっている。
フラップ部材550の構成は、第6実施形態の1、2と同様であり、回動軸551を中心にアーム552を介して所定の角度範囲内で回動可能となっている。フラップ部材550は、その動力源である第1ソレノイド91の励磁により配置される案内位置と、第1ソレノイド91の消磁により配置される退避位置(非案内位置)との間を移動(回動)する構成である。そして、上重ねのときの退避位置(非案内位置)が下重ねのときの案内位置として使用され、上重ねのときの案内位置が下重ねのときの退避位置(非案内位置)として使用される点が異なる。つまり、フラップ部材550は、回動軸551を中心に回動することで、案内位置として、上重ね用の第1案内位置と下重ね用の第2案内位置との間を移動可能である。また、目標方向として、フラップ部材550が第1案内位置に配置されたときに媒体Pの送り出し方向を案内するときの上重ね用の第1目標方向と、フラップ部材550が第2案内位置に配置されたときに媒体Pの送り出し方向を案内するときの下重ね用の第2目標方向とがある。なお、本例では、支持部材57が固定式であるため、図66及び図67における第2ソレノイド92は備えていない。
制御部50のコンピューター62(図66参照)が第1ソレノイド91を励磁させると、フラップ部材550は、先行媒体P1における印刷部25と対向する側の面(印刷面)に後続媒体P2の先端部を重ねる上重ねが可能な第1案内位置に移動配置される。また、コンピューター62が第1ソレノイド91を消磁させると、フラップ部材550は、先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面(非印刷面)に後続媒体P2の先端部を重ねる下重ねが可能な第2案内位置に移動配置される。なお、本実施形態では、上重ねのときには下重ね用の第2案内位置が非案内位置となり、下重ねのときには上重ね用の第1案内位置が非案内位置となるが、非案内位置は、第1案内位置と第2案内位置との間の位置でもよい。
ここで、上重ねでは、先行媒体P1の後端余白部の少なくとも一部に後続媒体P2の先端部が重ねられる。また、上重ねのとき、先行媒体P1の上に後続媒体P2を重ねた状態において、先行媒体P1のラストパスのときに、後続媒体P2の先端位置が、先行媒体P1の画像後端位置よりも上流側に位置するときに、後続媒体P2のスキュー取り動作を行う。この構成によれば、重ね連送しつつ後続媒体P2のスキュー取り動作が可能になる。一方、下重ねでは、先行媒体P1の後端部に後続媒体P2の先端余白部の少なくとも一部が重ねられる。余白部の全部が重ねられるか一部が重ねられるかは、重ね連送開始時の先行媒体P1と後続媒体P2との位置関係による。下重ねのときは、先行媒体P1の下側に後続媒体P2を重ねた状態において、先行媒体P1のラストパス時、先行紙後端位置が、後続紙の画像先端位置よりも下流のときに、後続媒体P2のスキュー取り動作を行う。この構成によれば、重ね連送しつつ後続媒体P2のスキュー取り動作が可能にある。なお、上重ねでは、ラストパスの印刷動作の次に重ね連送を開始することを基本とするが、下重ねでは、重ね連送を開始する直前の印刷動作はラストパスに限定されない。
制御部50のコンピューター62は、先行媒体P1の後端余白長(ボトムマージン)と後続媒体P2の先端余白長(トップマージン)との情報に基づき、上重ねと下重ねとのうちどちらが重ね量を多く確保できるか又は重ね連送を実施できるかを頁毎に判断し、より多くの重ね量を確保できる一方又は重ね連送を実施できる一方を頁毎に選択する。コンピューター62は、上重ねを選択した場合、第1ソレノイド91を励磁してフラップ部材550を図77に示す第1案内位置(案内位置)に移動配置し、後続媒体P2を上重ね用の第1目標方向へ送り出す。また、コンピューター62は、下重ねを選択した場合、第1ソレノイド91を消磁してフラップ部材550を図78に示す第2案内位置に移動配置し、後続媒体P2を下重ね用の第2目標方向へ送り出す。なお、上重ねと下重ねとのうちどちらが重ね量を多く確保できるか又は重ね連送を実施できるかの判断は、頁毎ではなく印刷ジョブ毎とし、より多くの重ね連送を実施できる一方を印刷ジョブ毎に選択してもよい。
スキュー取り動作時には、図77に示す上重ねと図78に示す下重ねとで共通に、フラップ部材550は、第2案内位置に配置され、後続媒体P2の垂れ下がり途中の部分が、斜状のガイド面57Bで支持されてS字カーブを描く経路をとる。このため、スキュー取り動作時に中間ローラー30が後続媒体P2を送り出すときの力がその先端まで確実に伝えられ、先端が適切な力で搬送ローラー対33に突き当たることで、適切にスキューが矯正される。
(6−7)可動式の案内部材の一例であるフラップ部材550は、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する側の面に重ね可能な目標方向に案内する案内位置と、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面に重ね可能な非案内位置とに移動可能である。よって、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する側の面に重ねることも、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面に重ねることもできる。
(6−8)フラップ部材550は、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する側の面に重ね可能な第1目標方向に案内する第1案内位置と、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面に重ね可能な第2目標方向に案内する第2案内位置とに移動する。よって、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する側の面に重ねることも、後続媒体P2を先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面に重ねることもできる。また、非案内位置が、第2案内位置、又は第1案内位置と第2案内位置との間の位置であるので、スキュー取り動作が行われる前に、フラップ部材550が、第2案内位置、あるいは第1案内位置と第2案内位置との間の位置である非案内位置に配置される。ことにより、後続媒体P2の適切なスキュー取り動作が行われ、後続媒体P2のスキューを適切に矯正できる。
(第6実施形態の5)
次に図79、図80を参照して第6実施形態の5について説明する。本実施形態は、可動式の案内部材が一対設けられ、一対の案内部材が媒体Pを別々の媒体案内方向へ案内することにより、図79に示す上重ねと図80に示す下重ねとを選択できる例である。図79に示すように、支持部材57のガイド面57Aは、先行媒体P1の搬送ローラー対33よりも上流側の後端部を、ニップ位置NP2へ案内可能にその下面(裏面)を支持する第1支持面577と、第1支持面577よりも上流側かつ下方に位置する第2支持面578と、第1支持面577と第2支持面578とを連接する斜面579とを有している。
一対の案内部材555,556は、不図示のフレームに個別の回動軸553,554を中心に回動可能に連結され、互いに平行な状態を維持しつつ連動して回動するリンク機構を構成する一対のアームからなる。一対の案内部材555,556は、その動力源である第1ソレノイド91(図66及び図67参照)の励磁により、図79に示す案内位置の一例としての第1案内位置と、図80に示す非案内位置(退避位置)の一例としての第2案内位置との間を移動する構成である。
つまり、案内部材555,556は、回動軸553,554を中心に回動することで、上重ね用の第1案内位置(案内位置)と、下重ね用の第2案内位置(非案内位置)との間を移動可能である。目標方向として、一対の案内部材555,556が第1案内位置に配置されたときに媒体Pの送り出し方向を案内するときの上重ね用の第1目標方向と、一対の案内部材555,556が第2案内位置に配置されたときに媒体Pの送り出し方向を案内するときの下重ね用の第2目標方向とがある。なお、本例では、支持部材57が固定式であるため、図66及び図67における第2ソレノイド92は備えていない。
第1ソレノイド91が励磁されると、案内部材555,556は、先行媒体P1における印刷部25と対向する側の面(印刷面)に後続媒体P2の先端部を重ねる上重ねが可能な第1目標方向に後続媒体P2を案内する第1案内位置(案内位置)に移動配置される。また、第1ソレノイド91が消磁されると、案内部材555,556は、先行媒体P1に対して印刷部25と対向する面と反対側の面(非印刷面)に後続媒体P2の先端部を重ねる下重ねが可能な第2目標方向に後続媒体P2を案内可能な第2案内位置(非案内位置)に移動配置される。なお、本実施形態でも、上重ねのときには下重ね用の第2案内位置が非案内位置となり、下重ねのときには上重ね用の第1案内位置が非案内位置となるが、非案内位置は、第1案内位置と第2案内位置との間の位置でもよい。
図79及び図80の例では、第4実施形態で述べた第3センサーを、上重ね用と下重ね用のそれぞれについて備える。すなわち、上重ねが選択されたときに上経路を形成するガイド面56Aに沿って正常な搬送経路で搬送される後続媒体P2を検出可能な第3センサー533と、下重ねが選択されたときに下経路を形成するガイド面57A(特に第2支持面578)に沿って正常な搬送経路で搬送される後続媒体P2を検出可能な第3センサー534とを備える。第3センサー533,534は、レバー533A,534Aを備える接触式センサーからなり、非検知位置においてガイド面56A,57Aから突出した状態にある。上重ねが選択されたときの重ね動作中に第3センサー533が検知(ON)すれば重ね連送を実施するが、検知しなければ(OFF)重ね連送を中止する。一方、下重ねが選択されたときの重ね動作中に第3センサー534が検知(ON)すれば重ね連送を実施するが、検知しなければ(OFF)重ね連送を中止する。なお、この第6実施形態の5において、第3センサー533,534は必須ではない。
制御部50のコンピューター62(図66及び図67参照)は、先行媒体P1の後端余白長(ボトムマージン)と後続媒体P2の先端余白長(トップマージン)との情報に基づき、上重ねと下重ねとのうちどちらが重ね量を多く確保できるか又は重ね連送を実施できるかを頁毎に判断する。そして、その判断結果に基づいて、より多くの重ね量を確保できる一方又は重ね連送を実施できる一方を頁毎に選択する。コンピューター62は、上重ねを選択した場合、第1ソレノイド91を励磁して案内部材555,556を図79に示す第1案内位置(案内位置)に移動配置し、後続媒体P2を上重ね用の第1目標方向へ送り出す。また、コンピューター62は、下重ねを選択した場合、第1ソレノイド91を消磁して案内部材555,556を図80に示す第2案内位置(非案内位置)に移動配置し、後続媒体P2を下重ね用の第2目標方向へ送り出す。
スキュー取り動作時に案内部材555,556は、図79における上重ねと図80に示す下重ねとの場合で共通に第2案内位置に配置される。つまり、スキュー取り動作時における案内部材555,556の配置位置である非案内位置が第2案内位置ともなっている。また、大径の中間ローラー30(図78参照)を使用していない構成なので、第1ニップ位置NP1と支持部材57のガイド面57Aとの高さの差が比較的小さく、スキュー取り動作時は、後続媒体P2の垂れ下がりが少なくガイド面57Aに接触した箇所での座屈は起きにくい。また、スキュー取り動作時の後続媒体P2は、搬送ローラー対33寄りの部分でそのニップ箇所の高さと略同じ高さで略水平に延びる第1支持面577にも支持される。
スキュー取り動作時に、搬送駆動ローラー93Aと搬送従動ローラー93Bとからなる上流側の搬送ローラー対93が回転して後続媒体P2を送り出すときの力が、ガイド面57Aに沿ったカーブを描く経路をとる後続媒体P2の先端まで伝えられ、先端が適切な力で搬送ローラー対33に突き当てられることで、適切なスキュー取り動作が行われる。
よって、この第6実施形態の5についても、前記(6−7)の効果及び前記(6−8)の効果を同様に得ることができる。
なお、上記第6実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・図81に示すように、可動式の支持部材である下経路部材572はスライド式であってもよい。図81に示すように、固定式の支持部材57にはそのガイド面57Aに対して搬送方向Yと平行な方向にスライド可能な可動式の支持部材の一例である下経路部材572が設けられている。支持部材57には搬送方向Yの上流側寄りの位置に所定長さに亘って開口するガイド孔57Cが形成されており、下経路部材572は、下方へ延出するガイド部57Dがガイド孔57Cに挿通されることで、ガイド孔57Cに沿って搬送方向Yと平行な移動方向にスライド可能となっている。下経路部材572は、その動力源である例えば第2ソレノイド92の励磁により同図に実線で示す案内位置から同図に二点鎖線で示す非案内位置へ移動し、第2ソレノイド92の消磁により非案内位置から案内位置へ移動する。支持部材57は、幅方向Xにおいて中間ローラー30と対応する箇所が不図示の凹部となっており、同図に示す二点鎖線の位置まで移動可能となっている。
図64に示す回動式の下経路部材572である場合、非案内位置へ退避した下経路部材572が反転通路40の一部を塞ぐこともありうる。これに対して図81に示すように下経路部材572がスライド式であれば、退避位置(非案内位置)に移動したときにも、反転通路40等の搬送通路の一部を塞ぐ事態を回避できる。また、動力源に電動モーターを用いれば、スライド位置を連続的に変更して後続媒体P2を支持するガイド面573の高さを調整することができ、この場合、媒体種(例えば用紙種)や媒体サイズ(用紙サイズ)等に応じて後続媒体P2を適切に支持することができる。なお、案内部材は、可動式のフラップ部材550に替え、固定式の案内部材55としてもよい。
・可動式の支持部材の一例である下経路部材572を重力方向Z(高さ方向)と平行な方向にスライドする構成としてもよい。また、この構成において、動力源に電動モーターを用いて、後続媒体P2支持するときのスライド位置を変更してガイド面573の高さを調整可能とすれば、後続媒体P2のニップ位置NP1から垂れ下がる途中の部分を、媒体種や媒体サイズ等に応じて適切に支持することができる。
・第6実施形態において、可動式の案内部材の一例であるフラップ部材550は、ソレノイド91や専用の電動モーターを動力源とする構成に替え、給送モーター41の動力を利用して機械式に駆動される構成でもよい。フラップ部材550の機械式駆動機構は、例えば重ね動作時に第1ニップ位置NP1を過ぎた後続媒体P2の先端によって操作される位置に配置された被操作部と、被操作部が操作されると、給送モーター41の動力をフラップ部材550に伝達可能に接続されるワンタイムクラッチとを備える。被操作部が操作されると、ワンタイムクラッチが接続されることで、給送モーター41の動力がワンタイムクラッチを介してフラップ部材550に伝達され、フラップ部材550が退避位置から案内位置に移動する。ワンタイムクラッチは接続により伝達された動力により作動するカム機構を有する。カム機構の作動が開始されると、フラップ部材550を退避位置から案内位置に移動させ、案内位置に重ね動作が終了するまでの所定の回転量の期間だけ保持した後、フラップ部材550を元の退避位置へ移動させ、退避位置に戻ると、カム機構によりクラッチの接続が解除される。この構成によれば、ソレノイド91や電動モーター等のアクチュエーターを用いなくても、フラップ部材550を重ね動作が行われる必要な期間だけ案内位置に配置し、重ね動作が行われない不要な期間に非案内位置に配置できる。
・第6実施形態において、可動式の支持部材の一例である下経路部材572は、ソレノイド91や専用の電動モーターを動力源とする構成に替え、給送モーター41の動力を利用して機械式に駆動される構成でもよい。下経路部材572の機械式駆動機構は、例えば重ね動作時に第1ニップ位置NP1を過ぎた後続媒体P2の先端によって操作される位置に配置された被操作部と、被操作部が操作されると、給送モーター41の動力を下経路部材572に伝達可能に接続されるワンタイムクラッチとを備える。被操作部が操作されると、ワンタイムクラッチが接続されることで、給送モーター41の動力がワンタイムクラッチを介してフラップ部材550に伝達され、フラップ部材550が退避位置から案内位置に移動する。ワンタイムクラッチは接続により伝達された動力により作動するカム機構を有する。カム機構の作動が開始されると、カム機構を介して伝達される動力によりフラップ部材550が退避位置から案内位置に移動し、案内位置に重ね動作終了までの所定の回転量の期間だけ保持した後、フラップ部材550を元の退避位置へ移動させ、退避位置に戻ると、カム機構によりクラッチの接続が解除される。この構成によれば、ソレノイド91や電動モーター等のアクチュエーターを用いなくても、フラップ部材550を重ね動作が行われる必要な期間だけ案内位置に配置し、重ね動作が行われない不要な期間に非案内位置に配置できる。
また、前記第1〜第6実施形態は、以下に示す形態に変更もできる。
・前記各実施形態において、重ね可能条件の成否を判定する処理は、重ね動作の後に行ってもよい。例えばラストパスの印刷動作の開始前又は判定位置に達する前であれば、重ね動作を開始し、待機位置Ywに停止してからラストパスの印刷動作開始までの期間で、重ね動作が完了しているか否かの判定と、重ね可能条件の成否の判定とを行う。そして、制御部50は両条件が共に成立した場合に、重ね連送を行う。
・前記各実施形態において、重ね連送の開始時期は、最終行の印刷動作終了後に限定されない。最終行の印刷動作よりも1つ前の行又は2つ前の行の印刷動作終了時点に重ね連送を開始してもよい。先行媒体P1の後端余白長が分かり、先行媒体P1の後端余白領域のみに後続媒体P2の先端部を重ねられる位置関係に初めてなった印刷動作のときにスキュー取り動作を行い次の搬送動作で重ね連送を行えばよい。これらの場合、重ね連送の開始後、先行媒体P1が最終行の印刷動作の位置に到達するまでは重ね連送で搬送動作を行い、最終行の印刷動作終了後に、後続媒体P2の印刷開始位置まで重ね連送を行う。これらの構成によれば、重ね量をより多く確保でき、印刷のスループットの一層の向上に寄与できる。
・前記各実施形態において、スキュー取り動作は、重ね連送を行う直前の印刷行(例えば最終行)の印刷動作中(ラストパス中)に限定されない。重ね連送を行う印刷行(例えば最終行)よりも1つ以上前の印刷動作中(パス中)にスキュー取り動作を行ってもよい。要するに、スキュー取り動作は最終行の印刷動作までに終了すれば足りる。
・前記各実施形態において、搬送ローラー対33よりも搬送方向Yの上流側の位置に給送モーター41により駆動されるとともに給送モーター41の動力伝達経路上にクラッチを介して連結されたレジストローラー対を設け、回転停止状態のレジストローラー対に後続媒体の先端を突き当てることで事前にスキュー取りを行ってもよい。この場合、予めスキュー取りされた後続媒体P2を待機位置Ywに配置できるので、ラストパスの終了までに後続媒体P2を待機位置Ywに停止させることができれば、重ね連送を行うことができる。また、この構成をラインプリンターに適用してもよい。ラインプリンターでは、一定速度で搬送される先行媒体P1に印刷部が一度に1行(1バンド)ずつ印刷しながら印刷が進められる。先行媒体P1の搬送を妨げない状態でレジストローラーの回転を一時停止し、回転停止中のレジストローラー対に先端を突き当てて後続媒体P2のスキュー取りを行う。その後、後続媒体P2の先端部が先行媒体P1の後端余白領域のみに重なる状態になったタイミングで、レジストローラー対の回転により後続媒体P2の搬送を開始することで、重ね連送を行う。なお、下重ねの場合は、後続媒体P2の先端余白領域のみが先行媒体P1の後端部に重なる状態になったタイミングで、レジストローラー対の回転により後続媒体P2の搬送を開始することで、重ね連送を行う。
・媒体Pの搬送方向Yと平行な2つの側辺に両側からガイドを当てて媒体Pのスキューを矯正するスキュー矯正装置を設け、搬送ローラー対33又はレジストローラー対に突き当てるスキュー取り動作を行わない構成でもよい。例えばラインプリンターにおいて、このスキュー矯正装置を用いれば、後続媒体P2のスキュー取り動作のために先行媒体P1を一旦停止させなくてもよく、印刷のスループットを一層向上させることができる。
・上重ねのみの例を示した第1〜第5実施形態において、重ね動作で、先行媒体の後端部の下側に後続媒体の先端部を送り込むことで、重ね順が上下逆になる下重ねを採用してもよい。この場合、先行媒体の後端部の下側に隙間ができる状態に先行媒体P1を案内する上側の搬送ガイド(例えばガイド面56A)と、先行媒体P1の後端部の下側の隙間へ後続媒体P2の先端部を送り込むように後続媒体P2を案内する下側の搬送ガイド(例えばガイド面57A)とを設けることが好ましい。
・媒体積載部は、カセットに限らず、給送トレイでもよい。例えば図3において、中間ローラー30と第2従動ローラー32との間に向かって下流側かつ下方に斜めに延びる給送通路と、筐体153における上流側(同図右側)の側面に設けた開閉式のカバーを開けると露出する給送トレイとを設ける。そして、給送トレイに載置した媒体Pを、給送通路、第1及び第2ニップ位置NP1,NP2を通って給送する構成としてもよい。
・印刷装置は、シリアルプリンターに限定されず、印刷部が主走査方向と副走査方向との2方向に移動して媒体に印刷するラテラル式プリンターでもよい。
・中間ローラー30の外周に媒体Pをニップ可能な2つの従動ローラーを配置したが、従動ローラーの配置数は少なくとも1つあればよい。例えば従動ローラーを1つ配置したり、3つ又は4つ以上配置したりしてもよい。
・制御部50が行う処理は、プログラムを実行するコンピューター62によりソフトウェアで実現される構成に限定されず、例えばFPGA(field-programmable gate array)やASIC等の電子回路によりハードウェアで実現されたり、ソフトウェアとハードウェアとの協働により実現されたりしてもよい。
・印刷装置は、インクジェット方式の他、ドットインパクト方式や電子写真方式でもよい。また、印刷装置は、複合機に備えられたものではなく、印刷専用機でもよい。
・媒体は、用紙に限定されず、樹脂製のフィルムやシート、樹脂と金属の複合体フィルム(ラミネートフィルム)、織物、不織布、金属箔、金属フィルム、セラミックシートなどの媒体であってもよい。
・印刷装置は、用紙等の平面状の媒体に印刷を行う印刷装置に限らず、例えばインクジェット方式で樹脂液滴を吐出して三次元立体物を成形する三次元立体物成形用の印刷装置でもよい。この場合、媒体は樹脂液滴の吐出対象の台紙又はシート状基板でもよい。
・前記第1〜第6実施形態は、構成上矛盾がない限りにおいて、全てを組み合わせたり、少なくとも2つを組み合わせたり、1つのみ実施したりしてもよい。