[実施の形態の説明]
本実施の形態には、少なくとも以下のものが含まれる。
(1)第1のスロットアンテナと、第1のスロットアンテナと隔てて設けられた第2のスロットアンテナと、を備え、第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間であって、第1のスロットアンテナのスロット素子が構成されている面である表面および第2のスロットアンテナの表面の前方に、導電体の第1の部材が設けられている、アンテナ。
上記の構成によれば、スロットアンテナの間隔を狭くした場合であっても、アイソレーションの低下等を抑えることができる。そのため、当該アンテナを搭載したレーダでの検知精度を低下させることなく検知角をより広角とすることができる。
(2)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとは、第1の方向に並んで配置され、第1のスロットアンテナからみて第1の方向の両側のうち、一方側には、第2のスロットアンテナが配置され、他方側には、他のスロットアンテナが配置されておらず、他方側には、第1のスロットアンテナの表面の前方に、導電体の第2の部材が設けられている、(1)に記載のアンテナ。
上記の構成によれば、スロットアンテナの間隔を狭くした場合であっても、複数のスロットアンテナそれぞれによるレーダ波の受信強度のばらつきを抑えることができる。そのため、当該アンテナを搭載したレーダの検知性能を高精度とすることができる。
(3)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとは、第1の方向に並んで配置され、第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとは、それぞれ、第1の方向に直交する第2の方向に沿って配列された複数のスロット素子を有する、(1)または(2)に記載のアンテナ。
上記の構成によれば、当該アンテナを搭載したレーダの検知精度を向上させることができる。
(4)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隔は、1.5λ(λ:当該アンテナの使用周波数の波長)以下である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載のアンテナ。
上記の構成によれば、当該アンテナを搭載したレーダの検知角をより広角とすることができる。
(5)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隙は、(1/20)λ以上である、(4)に記載のアンテナ。
上記の構成によれば、第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隔を狭くする中で、第1の部材を配置しやすくすることができる。
(6)第1の部材は、第1のスロットアンテナおよび第2のスロットアンテナの表面よりも前方に間隔を置いて設けられている、(1)〜(5)のいずれか一つに記載のアンテナ。
上記の構成によれば、当該アンテナを搭載したレーダの検知精度を向上させることができる。
(7)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとが形成された基板を有し、基板は、第1のスロットアンテナの表面と第2のスロットアンテナの表面とを形成する第1面を有し、第1の部材は、第1面の前方に設けられている、(1)〜(6)のいずれか一つに記載のアンテナ。
上記の構成によれば、アンテナを構成しやすくでき、また、取り扱いが容易になる。
(8)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとは、第1の方向に並んで配置され、第1の部材を基板の第1面に対して支持するための支持部を有し、第1のスロットアンテナのスロット素子および第2のスロットアンテナのスロット素子の少なくとも一方が、当該支持部からみて第1の方向のいずれかに形成されている位置には、支持部は設けられず、第1のスロットアンテナのスロット素子および第2のスロットアンテナのスロット素子のいずれもが、当該支持部からみて第1の方向のいずれにも形成されていない位置に、支持部が設けられる、(7)に記載のアンテナ。
上記の構成によれば、第1の部材が基板に対して安定して支持されると共に、第1の部材を有するアンテナの製造が容易になる。
(9)基板は、複数の板が積層された積層構造を有し、複数の板は、第1面を有する第1の板と、第1面よりも前方に配置される第2の板と、を含み、第1の板は、スロット素子を形成する第1の貫通孔を有し、第2の板は、第1の貫通孔と連通し、第1の貫通孔よりも大きい第2の貫通孔と、支持部を形成する領域とを有する、(8)に記載のアンテナ。
上記の構成によれば、アンテナの形成を容易にすることができる。特に、当該アンテナの使用周波数の波長がミリ波などの小さい波長であった場合に、当該アンテナの形成をより容易にすることができる。
(10)第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとは、第1の方向に並んで配置され、第1の部材は、基板の第1面に設けられた、第1の方向に直交する第2の方向に伸びる金属板である、(7)〜(9)のいずれか一つに記載のアンテナ。
上記の構成によれば、第1の部材を容易に形成することができる。
(11)部材は、第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとから均等な位置に設けられる、(1)〜(10)のいずれか一つに記載のアンテナ。
上記の構成によれば、第1の部材を間に挟んで隣接する第1のスロットアンテナおよび第2のスロットアンテナそれぞれに対する第1の部材の影響を均等にすることができる。
(12)
(1)〜(11)のいずれか一つに記載のアンテナを搭載した、レーダ。
上記の構成によれば、検知角をより広角とすることができる。
(13)検知角が±20°以上である、(12)に記載のレーダ。
上記の構成によれば、検知角をより広角とすることができる。
[実施の形態の詳細]
以下に、図面を参照しつつ、好ましい実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらの説明は繰り返さない。
[第1の実施の形態]
スロットアンテナを利用したアンテナがレーダに搭載される場合がある。スロットアンテナは、無線通信用のアンテナであって、後述する導波管と、導波管に対して設けられたスロット素子とを有するアンテナである。導波管は、電波の伝送のために用いられる、円形または方形の断面を有する管である。スロット素子とは、導波管の中空から外部に向かう貫通孔である。スロットアンテナを利用したアンテナは、導波管の管長手方向が平行するように配列された複数のスロットアンテナを含む。このようなレーダでは、複数の受信用のアンテナ系統を構成する複数のスロットアンテナが同時に受信するレーダ波(電波)の位相差に基づいて、検知対象物のアンテナに対する角度が検知される。アンテナは、一例として、上記のように配列された複数のスロットアンテナの管長手方向を鉛直にして設置される。
複数の受信用のアンテナ系統それぞれを構成する複数のスロットアンテナのそれぞれは、受信用のアンテナ系統の受信対象とするレーダ波の波長に基づいて設計されている。受信用のアンテナ系統の受信対象とするレーダ波の周波数は、アンテナの使用周波数とも呼ばれる。たとえば、レーダ波としてミリ波レーダと呼ばれるミリ波帯の電波を用いるレーダでは、受信用のアンテナ系統に含まれる各スロットアンテナは、送信用のアンテナ系統から送信された20GHz以上のミリ波帯の電波を受信可能に設計されている。
受信用のアンテナ系統に平行に配列されるスロットアンテナの間隔をできるだけ狭くすることによって、レーダの検知角をより広角とすることができる。
しかしながら、隣接するスロットアンテナとの間隔を狭くすると、隣接するスロットアンテナ間のアイソレーションが低下する。アイソレーションとは、アンテナ間での影響し難さの度合いを表し、たとえば、受信信号の影響し難さの度合いなどを表す。スロットアンテナ間のアイソレーションが低下することによりこれらスロットアンテナ間の受信信号の純度が低下してしまい、レーダの検知性能が低下することにつながる。また、スロットアンテナの間隔を狭くすることによって隣接するスロットアンテナ間の干渉が生じる。そして、それによって水平面における受信強度の指向性のばらつきが大きくなる。また、スロットアンテナの間隔を狭くするためには受信用のアンテナ系統につきスロットアンテナを1列(すなわち1本の導波管)とせざるを得ない。そのため、受信用の1つのアンテナ系統に複数のスロットアンテナ(すなわち複数の導波管)を水平方向に配列した場合と比べて、アンテナ利得が低下する。アンテナ利得とは、放射が最大となる放射角におけるエネルギーの強さを指し、具体的には、同一電界において対象アンテナと基準アンテナとで受信したときの受信電力の比を指す。これらは、レーダの検知精度の低下させる要因となる。
そこで、発明者らは、上のような要因を抑えつつスロットアンテナの間隔を狭くすることによって、搭載されたレーダにおいてより広い検知角にて高精度で検知対象物の位置を検知可能となるようなアンテナを設計した。
<アンテナの構成>
図1は、本実施の形態にかかるアンテナ100を搭載したレーダ300の構成の一例を模式的に表した図である。図1では後述する金属板50が省略されている。図2は、アンテナ100の構成の一例を模式的に表した図である。図2は、図1のAA位置での断面図である。
図1および図2を参照して、アンテナ100は、複数のスロットアンテナ20A〜20Eを含む。スロットアンテナ20A〜20Eを代表させて、スロットアンテナ20と称する。
1本のスロットアンテナは、1本の導波管と、当該導波管を共有する複数のスロット素子とを有するものである。2本以上のスロットアンテナが、導波管の管長手方向が平行する向き(第1の方向)に配列されて1つのアンテナが構成される。アンテナ系統は、配列された1本以上のスロットアンテナ群を指し、本実施の形態では、1つのアンテナ系統を1本のスロットアンテナが構成するものとする。
詳しくは、図1および図2を参照して、スロットアンテナ20A〜20Eは、それぞれ、1本ずつの導波管11A〜11Eと、各導波管11の管長手方向(第2の方向)に沿って配列された複数のスロット素子12とを有する。導波管11A〜11Eを代表させて導波管11と称する。各スロットアンテナ20に複数のスロット素子12を設けることによって、当該アンテナ100を搭載したレーダ300の検知精度を向上させることができる。
アンテナ100において、複数のスロットアンテナ20は、たとえば金属などの導電体で形成された板材10の内部に配置されている。すなわち、板材10に複数のスロットアンテナ20が形成されている、とも言える。この板材10を、基板10と称する。基板10に複数のスロットアンテナ20が形成される構成とすることによって、アンテナ100を構成しやすくすることができる。また、アンテナ100の取り扱いを容易にすることができる。
スロットアンテナ20の、スロット素子12が設けられた面を、スロットアンテナ20の表面(ひょうめん)とする。複数のスロットアンテナ20のすべての表面を含む面を、アンテナ100の正面とする。基板10の表面(第1面)は、複数のスロットアンテナ20すべての表面を形成する。すなわち、複数のスロットアンテナ20は、それぞれ、表面が基板10の表面と一致、あるいは略一致するように、基板10内に配置される。ここでの略一致とは、基板10に対して複数のスロットアンテナ20すべての表面が完全に一致している場合のみならず、たとえば基板10表面に対してスロットアンテナ20の表面が多少凹凸している場合を含むことを意味している。導波管11は、基板10内に、管長手方向が平行するように配置される。
以降の説明において、導波管11が並ぶ方向、つまり、導波管11の管長手方向に直交する方向(第1の方向)を、アンテナ100の幅方向とする。アンテナ100の正面から前方をアンテナ100の正面方向とし、アンテナ100の正面から後方をアンテナ100の背面方向とする。アンテナ100の正面から後方とは、アンテナ100の正面から基板10内に向かう向きを指す。アンテナ100の正面から前方とは後方の逆向きであって、アンテナ100の正面を基点として基板10から遠くなる向きを指す。
図1を参照して、1つのスロットアンテナ20に含まれる複数のスロット素子12は、一例として、1本の導波管11につき、管長手方向の2直線CSL,CSRに沿って2列に配列される。複数のスロット素子12は、概ね、2本の直線CSL,CSRに沿って配列されていればよく、その中心がすべて必ずしも2本の直線CSL,CSRのいずれかの真上でなくてもよい。2直線CSL,CSRは、導波管11の管長手方向の中心線Cwを挟んで均等な距離に位置する。中心線Cwは、スロットアンテナ20の幅方向の中心線でもある。複数のスロット素子12は、直線CSL,CSRに沿って、管長手方向に等間隔に配置される。直線CSLに沿った複数のスロット素子12と直線CSRに沿った複数のスロット素子12との、幅方向の位置は一致せず、交互に配置される。複数のスロット素子は、その形状はすべて同じであっても、多少の大きさの差異があってもよい。以下の説明では、複数のスロット素子12の形状がすべて同じものとし、その中心が2本の直線CSL,CSRいずれかの真上に位置して2本の直線CSL,CSRに沿って配列されるものとする。
複数のスロットアンテナ20A〜20Eは、スロットアンテナ20A〜20Dとスロットアンテナ20Eとに分離して配置されている。スロットアンテナ20Aは、幅方向の両側のうち、一方側にはスロットアンテナ20Bが配置され、他方側には他のスロットアンテナが配置されていない。また、スロットアンテナ20Dは、幅方向の両側のうち、一方側にはスロットアンテナ20Cが配置され、他方側には他のスロットアンテナが配置されていない。
スロットアンテナ20A〜20Dはそれぞれ受信機170に接続される。スロットアンテナ20A〜20Dは、それぞれ受信用のアンテナ系統として機能する。スロットアンテナ20Eは送信機150に接続される。スロットアンテナ20Eは、送信用のアンテナ系統として機能する。
受信用のアンテナ系統における、隣接するスロットアンテナ20の間隔はたとえば1.5λ以下とする。隣接するスロットアンテナ20の間隔とは、図1を参照して、スロットアンテナ20の中心線Cwと当該スロットアンテナ20に隣接するスロットアンテナ20の中心線Cwとの間の距離L1である。λは、当該アンテナの使用周波数の波長である。当該レーダ300がミリ波レーダである場合、λは15mmである。好ましくは、隣接するスロットアンテナ20の間隔L1は、1.0λ以下とする。上記のように、スロットアンテナ20の間隔L1をできるだけ狭くすることによって、レーダ300における検知角をより広角とすることができるためである。
さらに、隣接するスロットアンテナ20の間隙はたとえば(1/20)λ以上とする。隣接するスロットアンテナ20の間隙とは、隣接するスロットアンテナ20それぞれの導波管11同士の隙間である。詳しくは、図1を参照して、隣接するスロットアンテナ20の間隙は、導波管11の隣接するスロットアンテナ20に近い側の端部間の距離L2である。隣接するスロットアンテナ20の間隔L1を上記のように狭くする中でスロットアンテナ20の間隙L2を広くすることによって、後述する溝40や金属板50が配置されやすくなる。
送信機150は、アンテナの使用周波数の波長の送信波を発生させる。レーダ300がミリ波レーダである場合、送信機150は、20GHz以上のミリ波帯の送信波を発生させる。送信機150において発生した送信波は導波管11Eを経てスロットアンテナ20Eに設けられた複数のスロット素子11に達する。そして、送信波は、各スロット素子11から所定方向に発射される。
アンテナ100に到達した、当該アンテナの使用周波数の波長の電波は、スロットアンテナ20A〜20Dそれぞれに設けられた複数のスロット素子11によって受信される。受信波は、スロット素子11から受信機150に送られる。レーダ300がミリ波レーダである場合、20GHz以上のミリ波帯の電波が受信機150に送られる。受信機150は、スロットアンテナ20A〜20Dそれぞれが受信した電波に対して規定された処理を行う。レーダ300の検知範囲に検知対象物が存在する場合、スロットアンテナ20Eから発射された電波は、検知対象物によって反射される。反射された電波は、スロットアンテナ20A〜20Dによって受信される。
電波が発射されたタイミングから受信されたタイミングまでの時間に基づいて、検知対象物の当該アンテナ100からの距離が算出される。スロットアンテナ20A〜20Dそれぞれで受信された電波の位相差に基づいて、検知対象物の当該アンテナ100に対する角度が算出される。
受信用のアンテナ系統において、基板10の表面の、隣接する2つのスロットアンテナ20の間の領域には、1つ以上の第1の凹部が形成されている。たとえば、スロットアンテナ20Aとスロットアンテナ20Bとの間の基板10の表面には、1つ以上の第1の凹部が形成されている。第1の凹部は、たとえば、導波管11の管長手方向に延びる溝である。第1の凹部を溝とすることによって、容易に形成することができる。すなわち、図1,図2に表されたように、隣接するスロットアンテナ20Aと20B、20Bと20C、20Cと20Dそれぞれの間の基板10の表面には、それぞれ、導波管11の管長手方向に延びる溝40B,40C,40Dが形成される。溝…,40B,40C,40D,…を代表させて溝40とも称する。
詳しくは、図1を参照して、第1の凹部である溝40は、中心線Cgに沿って伸びる。中心線Cgは、導波管11の管長手方向に平行する。好ましくは、第1の凹部は、隣接する2つのスロットアンテナ20から均等な距離の位置に設けられる。すなわち、中心線Cgは、隣接する2つのスロットアンテナ20それぞれの中心線Cwとの間がいずれも距離l(エル)である。中心線Cw間の距離L1に対して距離l(エル)はL=2×l(エル)の関係を有する。溝40がこのような位置に設けられることによって、この溝40を間に挟んで隣接する2本のスロットアンテナ20それぞれに対する溝40の影響を均等にすることができる。また、アンテナ100の製法に後述する製法の一例を採用する場合、アンテナ100の形成を容易にすることができる。
また好ましくは、図1に表された幅方向の両端に配置されたスロットアンテナ20A,20Dの、他のスロットアンテナと隣接しない側、つまり受信用のアンテナ系統の外側の両サイドの基板10の表面にも、たとえば導波管11の管長手方向に延びる溝40A,40Eである第2の凹部がさらに設けられる。
図2を参照して、好ましくは、受信用のアンテナ系統において、隣接する2つのスロットアンテナ20の間の基板10の表面よりも前方(正面方向に正の距離を有する位置)に、導電体の第1の部材が設けられている。導電体は、たとえば金属である。導電体の第1の部材を金属板とすることによって、容易に形成することができる。また、凹部と同様に、受信用のアンテナ系統の外側の両サイドの基板10の表面も、金属板である導電体の第2の部材が設けられていてもよい。
この部材のアンテナ100の幅方向の長さは、隣接する2つのスロットアンテナ20それぞれの導波管11の間隙L2よりも短い。この部材は、たとえば、導波管11の管長手方向に延びる、金属等の板部材(金属板)である。すなわち、図2に表されたように、隣接するスロットアンテナ20Aと20B、20Bと20C、20Cと20Dそれぞれの間の基板10の表面よりも正面方向に正の距離を有する位置に、それぞれ、導波管11の管長手方向に延びる金属板50A,50B,50Cが形成される。金属板50A,…を代表させて金属板50と称する。
なお、溝40などの凹部と、金属板50などの部材とは、いずれもがアンテナ100に設けられていてもよいし、いずれか一方のみが設けられていてもよい。
<効果検証>
上記のアンテナ100を設計した発明者らは、アンテナ100の一部分を用いて凹部である溝40A〜40Eおよび上記部材である金属板50A〜50Cを変化させた様々な条件においてシミュレーションを行った。そして、アンテナ利得、受信の指向性、および受信用のアンテナ系統間のアイソレーションそれぞれを評価項目として、アンテナ100の設計の効果を検証した。
<条件の詳細>
はじめに、発明者らの行ったシミュレーションに用いた条件について説明する。図3は、発明者らの行ったシミュレーションに用いられた14の条件をまとめた表である。図3において、系統数は、アンテナモデルに含まれるスロットアンテナ20の本数を表す。系統間は、隣接するスロットアンテナ20の間を表す。図4〜図17は、図3に示された条件1〜14それぞれにおけるアンテナモデルの構成の概略を表した図である。図4〜図17の(A)は各アンテナモデルの正面の概略図である。図4〜図17の(B)は、それぞれ、図4〜図17の(A)におけるBB位置での断面図である。すなわち、図4〜図17の(B)は各アンテナモデルを導波管の管長手方向が直交する面で切断した断面図である。なお、シミュレーションにおいては、アンテナの使用周波数を、ミリ波レーダの一般的な使用周波数である76.5GHzとした。各アンテナモデルは、一例としてミリ波レーダの波長(λ=3.92mm)を設計波長として設計されている。
詳しくは、図3および図4に表された条件1のアンテナモデルは、2本のスロットアンテナ20A,20Bを有する。各スロットアンテナ20の導波管11の管長手方向の長さは18.86mm、管長手方向に直交する幅方向の長さは2.54mm、隣接する導波管11の間隔(スロットアンテナ20の間隔)は3.85mm(≒λ)とする。スロット素子12は、導波管11の管長手方向に沿って配置されるため、存在する範囲の管長手方向の長さは18.86mm以内である。これらのサイズは、以降の各条件においても共通する。また、図3および図5に表された条件2のアンテナモデルは、4本のスロットアンテナ20A〜20Dを有する。条件1および条件2のアンテナモデルは、いずれも、上記した溝40や金属板50を有さない。これら条件は、他の条件における溝40および金属板50の組み合わせと比較するための基準として用いられる。
図3および図6に表された条件3のアンテナモデルは、2本のスロットアンテナ20A,20Bを有し、これらスロットアンテナ20A,20B間に2本の溝40Bが設けられている。2本の溝40Bの導波管11の管長手方向の長さは、いずれも20.86mmである。この長さは、以降の各条件のアンテナモデルでも共通する。また、2本の溝40Bの幅は、いずれも0.2mmである。2本の溝40Bの深さは、いずれも1.2mm(≒(3/10)λ)である。2本の溝40Bは、導波管11の管長手方向の直線を中心線として0.4mm(≒(1/10)λ)隔てて設けられている。該中心線は、スロットアンテナ20A,20Bそれぞれの中心線Cwから均等の位置にある。さらに、条件3のアンテナモデルには、スロットアンテナ20A,20B間の基板10の表面から正面方向に隔てられて金属板50Aが設けられている。金属板50Aの導波管11の管長手方向の長さは20.86mmである。この長さは、以降の各条件のアンテナモデルでも共通する。金属板50Aは、基板10の表面から正面方向に0.5mm(=0.128λ)隔てて設けられている。金属板50Aは、正面方向の長さが0.98mm、幅方向の長さが0.5mmである。管長手方向の長さはスロット素子12が存在する範囲の管長手方向の長さよりも長く、具体的には18.86mmよりも長い。金属板50Aの幅方向の中心線は、隣接するスロットアンテナ20それぞれの中心線Cwから均等の位置にある。
図3および図7に表された条件4のアンテナモデルは、2本のスロットアンテナ20A,20Bを有し、スロットアンテナ20A,20B間の2本の溝40Bに加えて、外側の両サイドに、それぞれ2本ずつ溝40A,40Cが設けられている。各2本の溝40A,40B,40Cの幅は、いずれも0.3mm(=0.0765λ)である。各2本の溝40A,40B,40Cの深さは、いずれも1mm(≒(1/4)λ)である。各2本の溝40A,40B,40Cは、隣接するスロットアンテナ20それぞれの導波管11との隙間が0.205mm(≒(1/20)λ)となる位置に設けられている。2本の溝40Bは、導波管11の管長手方向の直線を中心線として0.3mm(=0.0765λ)隔てて設けられている。該中心線は、スロットアンテナ20A,20Bそれぞれの中心線Cwから均等の位置にある。
図3および図8に表された条件5のアンテナモデルは、図3および図7に表された条件4のアンテナモデルから溝40A,40Cを除いたものである。すなわち、条件5のアンテナモデルは、2本のスロットアンテナ20A,20Bを有し、スロットアンテナ20A,20B間に、2本の溝40Bが設けられている。各部のサイズは条件4のアンテナモデルの対応する各部のサイズと同じである。
図3および図9に表された条件6のアンテナモデルは、4本のスロットアンテナ20A〜20Dを有し、スロットアンテナ20A〜20Dそれぞれの間に2本ずつ溝40B〜40Dが設けられている。また、スロットアンテナ20A,20Dの外側の両サイドに、それぞれ2本ずつ溝40A,40Eが設けられている。各溝40の位置およびサイズは、条件4のアンテナモデルの対応する各部のサイズと同じである。さらに、条件6のアンテナモデルには、スロットアンテナ20A〜20Dそれぞれの間の基板10の表面から正面方向に隔てられて金属板50A〜50Cが設けられている。また、スロットアンテナ20A,20Dの外側の両サイドに、それぞれ金属板50’,50”が設けられている。各金属板50の位置およびサイズは、条件3のアンテナモデルの対応する各部のサイズと同じである。
図3および図10に表された条件7のアンテナモデルは、図3および図6に表された条件3のアンテナモデルから溝40A,40Cを除いたものである。すなわち、条件7のアンテナモデルは2本のスロットアンテナ20A,20Bを有し、スロットアンテナ20A,20B間の基板10の表面から正面方向に隔てられて金属板50Aが設けられている。各部のサイズは条件3のアンテナモデルの対応する各部のサイズと同じである。
図3および図11〜図14それぞれに表された条件8〜11のアンテナモデルは、いずれも2本のスロットアンテナ20A,20Bを有し、スロットアンテナ20A,20B間に1本の溝40Bが設けられている。条件8と条件9とは、溝40Bの幅1mm(≒(1/4)λ)が共通し、深さが1.2mm(≒(3/10)λ)、1mm(≒(1/4)λ)と異なっている。条件9〜条件11は、溝40Bの深さ1mm(≒(1/4)λ)が共通し、幅が1mm(≒(1/4)λ)、0.3mm(=0.0765λ)、0.5mm(=0.128λ)と異なっている。いずれの条件においても、溝40Bの中心線は、スロットアンテナ20A,20Bそれぞれの中心線Cwから均等の位置にある。
図3および図15に表された条件12のアンテナモデルは、図3および図8に表された条件5のアンテナモデルにおける2本の溝40Bのサイズおよび位置を変更したものである。すなわち、条件12のアンテナモデルにおけるスロットアンテナ20A,20B間の2本の溝40Bの幅は、いずれも0.2mmである。2本の溝40Bは、導波管11の管長手方向の直線を中心線として0.4mm(≒(1/10)λ)隔てて設けられ、該中心線は、スロットアンテナ20A,20Bそれぞれの中心線Cwから均等の位置にある。溝40Bと、隣接するスロットアンテナ20それぞれの導波管11との隙間は0.255mmとなる。2本の溝40Bの深さは、いずれも1.2mm(≒(3/10)λ)である。
図3および図16,図17それぞれに表された条件13,14のアンテナモデルは、いずれも4本のスロットアンテナ20A〜20Dを有し、それぞれの間の基板10の表面から正面方向に隔てられて金属板50A〜50Cが設けられている。また、スロットアンテナ20A,20Dの外側の両サイドに、それぞれ金属板50’,50”が設けられている。
条件13のアンテナモデルと条件14のアンテナモデルとでは、金属板50のサイズおよび位置が異なっている。すなわち、図16を参照して、条件13のアンテナモデルは、条件3のアンテナモデルおよび条件6のアンテナモデルと同様の位置に、同様のサイズの金属板50を有する。具体的には、条件13のアンテナモデルにおいて、金属板50は、基板10の表面から正面方向に0.5mm(=0.128λ)隔てられて設けられている。金属板50の正面方向の長さは0.98mm、幅方向の長さは0.5mmである。図17を参照して、条件14のアンテナモデルにおいては、金属板50は、基板10の表面から正面方向に0.3mm(=0.0765λ)隔てられて設けられている。金属板50の正面方向の長さは0.2mm、幅方向の長さは1mm(≒(1/4)λ)である。いずれの条件のアンテナモデルでも、金属板50の中心線は、隣接するスロットアンテナ20それぞれの中心線Cwから均等の位置にある。
<受信強度のシミュレーション結果>
図18〜図31は、それぞれ、図3において条件1〜14で表された各条件におけるアンテナモデルによる、受信強度のシミュレーション結果を表した図である。各図の(A)が水平方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果、(B)が水平方向の各角度での受信強度のスロットアンテナ間でのばらつき、(C)が垂直方向の各角度での受信強度のシミュレーション結果を表している。より詳しくは、各図において、横軸は水平面または垂直面におけるアンテナ表面からの角度[°(deg)]を表し、縦軸が受信強度[dB]を表している。なお、等方性アンテナの受信強度を0[dB]の基準としている。等方性アンテナとは、均等な三次元放射パターンを持つ、完全無指向性アンテナを指す。
なお、図38を用いて、シミュレーション結果における方向を定義する。アンテナの水平面は、車載用のレーダなどにおける一般的なアンテナの設置状態である、導波管の管長手方向を鉛直としてアンテナを設置した場合の水平面を指す。図38の矢印A方向を水平方向における指向性の+方向の角度とする。すなわち、水平面内において、アンテナの正面方向の角度を0°とし、アンテナの正面から反時計回りに基板10の表面に達する(+90°)までを指向性の+方向の角度とする。図38の矢印B方向を水平方向における指向性の−方向の角度とする。すなわち、水平面内において、時計回りに基板10の表面に達する(−90°)までの角度を指向性の−方向の角度とする。図38の矢印C方向を垂直方向における指向性の+方向の角度とする。すなわち、鉛直面内において、アンテナの正面方向の角度を0°とし、アンテナの正面から下向きに基板10の表面に達する(+90°)までを指向性の+方向の角度とする。図38の矢印D方向を垂直方向における指向性の−方向の角度とする。すなわち、鉛直面内において、上向きに基板10の表面に達する(−90°)までの角度を指向性の−方向の角度とする。このようにアンテナが設置された場合、レーダの検知角とは、一般的には、アンテナの水平面において検知可能な角度を言う。検知角は、アンテナ正面に対して水平面内での正負両方向で表す場合もある。図18〜図31では、0°から±45°の範囲の各角度におけるシミュレーション結果が示されている。ここでは、レーダ300は、たとえば車載レーダなどの、一般に用いられるレーダと想定する。この場合、レーダ300にとって、アンテナ正面(0°)を挟んで90°、つまり±45°の範囲の検知性能が重要と考えられるためである。
図18〜図31の(A)に表された水平方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果は、当該アンテナモデルにおける±45°の範囲の水平方向の受信の指向性を表している。また、(C)に表された垂直方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果は、当該アンテナモデルにおける±45°の範囲の垂直方向の受信の指向性を表している。
各角度における受信強度の指向性は、指標の一例としてビーム幅を用いて表すことができる。ビーム幅は、受信強度の最大値の方位から所定強度(たとえば3dB)減少する方位までの間の範囲(角度)である。受信強度の指向性が小さいほどビーム幅が大きくなる。ビーム幅が大きいほど当該アンテナを搭載したレーダの検知角度が大きくなる。
図18〜図31の(B)に表された水平方向の各角度での受信強度のスロットアンテナ間でのばらつきは、±45°の範囲の水平方向の各角度におけるスロットアンテナ間での受信強度の差分である。これは、±45°の範囲の水平方向の指向性のスロットアンテナ間でのばらつきを表している。なお、各図の(B)中の、1系統目はスロットアンテナ20A、2系統目はスロットアンテナ20B、…を指す。
複数のスロットアンテナ20を含むアンテナ100を搭載したレーダ300では、受信用のアンテナ系統に含まれる複数のスロットアンテナ20それぞれによって受信された電波の位相差に基づいて検知対象物までの角度が算出される。そのため、スロットアンテナ20間の水平方向の指向性にばらつきがあると角度の算出精度が劣化するおそれがある。したがって、スロットアンテナ間の水平方向の指向性にばらつきが小さいほど検知物までの角度の算出精度が向上し、アンテナ100を搭載したレーダ300の検知性能が高いと言える。
これに対して、水平方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果は、±45°の範囲において、いずれも0°をピークとして、概ね、0°を中心に正負角度において対称の受信強度を示しているとは言える。しかしながら、条件によって水平方向の各角度における受信強度のばらつき度合いに差がある。また、条件によってスロットアンテナ間でのばらつきの度合いも異なる。
図32は、図3において条件1〜14で表された各条件のアンテナモデルを用いたシミュレーションにおける受信強度から得られる、各条件における水平方向の受信強度の指向性を表す値と、受信強度のスロットアンテナ間でのばらつき度合いを表す値とを表した一覧表である。図32に表された一覧表においては、図3に示された各条件における水平方向の指向性を表す値として、各条件におけるアンテナモデルの水平方向におけるビーム幅が用いられている。このシミュレーション結果において水平方向におけるビーム幅は、図18〜図31の(A)に表された水平方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果から、受信強度の最大値の方位から3dB減少する方位までの角度を読み出したものである。各条件におけるアンテナモデルの水平方向におけるビーム幅は、各条件のアンテナモデルに含まれるスロットアンテナごとのビーム幅から得られる統計値とする。上記統計値は、たとえば、最小値である。統計値は、最大値や平均値であってもよい。また、図32に表された一覧表においては、指向性のばらつき度合いを表す値として、各条件におけるアンテナモデルの、±45°の範囲の各角度でのスロットアンテナ間の受信強度の差分の最大値が用いられている。
なお、図32の一覧表においては、各条件のアンテナモデルにおけるアンテナ利得、および受信用のアンテナ系統に含まれるスロットアンテナ間でのアイソレーションを表す値も示されている。このシミュレーション結果においてアンテナ利得は、基準アンテナが等方性アンテナであるものとした、絶対利得で表されている。アンテナ利得は、図18〜図31の(A)に表された水平方向の各角度における受信強度のシミュレーション結果から最大値の方位を読み出したものである。各条件のアンテナモデルにおけるアンテナ利得は、各条件のアンテナモデルに含まれるスロットアンテナごとのアンテナ利得から得られる統計値とする。上記統計値は、たとえば、最小値である。統計値は、最大値や平均値であってもよい。
アンテナ利得が高いと、アンテナ100から発射された電波が遠くまで到達するようになる。そのため、当該アンテナ100を搭載したレーダ300によって検知可能な距離が長くなる。したがって、アンテナ利得が高いほどアンテナ100を搭載したレーダ300の検知性能が高いと言える。
また、各条件のアンテナモデルにおけるアイソレーションは、各条件のアンテナモデルに含まれる、異なる任意の2本のスロットアンテナ間におけるアイソレーションから得られる統計値とする。上記統計値は、たとえば、最小値である。統計値は、最大値や平均値であってもよい。
受信用のアンテナ系統に含まれる複数のスロットアンテナ間でのアイソレーションが低いと、各スロットアンテナでの受信電波の位相差に基づいて検知対象物までの角度を算出する際に受信信号が混ざり合う可能性が高くなる。その結果、角度の算出精度が低下し、検知精度が低下することになる。したがって、アイソレーションが高いほどアンテナ100を搭載したレーダ300の検知性能が高いと言える。
<考察>
図32に表された結果の一覧に基づいて、各条件での、上記の、アンテナ利得、水平方向のビーム幅、ばらつき度合い、およびアイソレーションの各項目に関して有効なアンテナ形状について考察する。
(1)スロットアンテナ間の溝の効果についての考察
条件1でのシミュレーション結果と条件9でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルでの、その間に溝40Bがない場合(条件1)とある場合(条件9)とのアンテナの性能を比較することができる。
図32を参照して、スロットアンテナ間に溝40Bがある場合(条件9)、アンテナ利得、水平方向のビーム幅、水平方向の指向性のばらつき度合い、およびアイソレーションの各項目のいずれも、溝40Bがない場合(条件1)よりも効果が見られる。特に、水平方向の指向性のばらつき度合い、およびアイソレーションに関しては溝20Bがある方が効果が大きいと言える。したがって、受信用のアンテナ系統に含まれる複数のスロットアンテナ間に溝等の凹部を設けることは、レーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(2)溝深さについての考察
条件8でのシミュレーション結果と条件9でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルにおいて、その間に設けられた溝40Bの幅を1mmと共通させ、深さが1.2mmである場合(条件8)と1mmである場合(条件9)とのアンテナの受信強度の特性を比較することができる。
図32を参照して、アンテナ利得はいずれの条件においても変わらず、溝40Bがない場合(条件1)からの効果が見られる。水平方向のばらつき度合いおよびアイソレーションに関しては溝40Bが深い方(条件8)が効果が大きく、ビーム幅に関しては溝40Bが浅い方(条件9)が効果が大きい。したがって、今回のシミュレーションに用いた程度の溝の深さの差異はアンテナの性能には大きく影響しないと言える。
(3)溝幅についての考察
条件9〜条件11でのシミュレーション結果を比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルにおいて、その間に設けられた溝40Bの深さを1mmと共通させ、幅が1mmである場合(条件9)と、0.3mmである場合(条件10)と、0.5mmである場合(条件11)とを比較することができる。
図32を参照して、アンテナ利得およびアイソレーションに関してはいずれの条件においても大きくは変わらず、いずれも溝40Bがない場合(条件1)からは向上している。ビーム幅に関しては溝幅が広い方(条件9)が効果が大きく、水平方向のばらつき度合いに関しては溝幅が広いこと(条件9)は効果の向上に寄与せず、溝幅が狭い方(条件10)が効果が大きい。なお、水平方向のばらつき度合いに関しては、溝幅が広い場合(条件9)は、溝がない場合(条件1)から大きな効果があることが示されていない。それに対して、アンテナ利得、ビーム幅、およびアイソレーションに関しては、条件9〜11間で多少の差異はあるものの、いずれも、溝がない場合(条件1)から大きな効果があることが示されている。したがって、特に水平方向のばらつき度合いへの効果に着目すると、今回の条件におけるシミュレーションでは溝幅は細い方がレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(4)溝数についての考察
条件1と条件5と条件10とでのシミュレーション結果を比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルでの、その間に、溝40Bがない場合(条件1)と、幅0.3mm、深さ1mmの1本の溝40Bがある場合(条件10)と、同サイズの2本の溝40Bがある場合(条件5)とを比較することができる。
図32を参照して、条件でのシミュレーション結果と比較すると、溝40Bが1本であっても2本であっても、溝40Bが設けられている方が(条件5,10)が、アンテナ利得、ビーム幅、水平方向のばらつき度合い、およびアイソレーションの各項目のいずれも効果があることが示されている。溝数を比較すると、水平方向のばらつき度合いに関しては溝数の少ない方(条件10)が効果が高く、他の評価項目に関しては溝数の多い方(条件5)が効果が高い。したがって、今回の条件におけるシミュレーションでは溝数は多い方がレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(5)スロットアンテナの外側の両サイドの溝の効果についての考察
条件4でのシミュレーション結果と条件5でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルにおいて、その間の2本の溝40B(それぞれ幅0.3mm、深さ1mm)を共通させ、さらに、スロットアンテナ20A,20Bの外側の両サイドそれぞれ2本ずつの溝40A,40Cがある場合(条件4)と、いずれもない場合(条件5)とを比較することができる。
図32を参照して、アンテナ利得およびアイソレーションに関しては、いずれの条件においても大きくは変わらず、いずれも溝40Bがない場合(条件1)からの効果が見られる。ビーム幅に関してはスロットアンテナの外側の両サイドに溝40A,40Cがない方(条件5)が効果が高く、水平方向のばらつき度合いに関してはスロットアンテナの外側の両サイドに溝40A,40Cがある方(条件4)が効果が高い。したがって、ビーム幅が広くなることによってアンテナの受信範囲が広くなるという効果を重視するか、水平方向の指向性のスロットアンテナ間のばらつき度合いによるレーダの検知性能の向上を重視するかに応じて、スロットアンテナの外側の両サイドにさらに溝を設けるか否かを設計し分けることで、アンテナ性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(6)スロットアンテナ間の板部材の効果についての考察
条件1でのシミュレーション結果と条件7でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルでの、その間に金属板50Aがない場合(条件1)とある場合(条件7)とのアンテナの性能を比較することができる。
図32を参照して、アンテナ利得および水平方向のばらつき度合いに関しては金属板50Aが設けられることによる大きな効果は見られず、水平方向のビーム幅に関しては、金属板50Aが設けられている方(条件7)がない場合(条件1)よりも大きい。アイソレーションに関しては、金属板50Aが設けられている方(条件7)がない場合(条件1)よりも高い。特に、金属板50Aが設けられている方(条件7)がない場合(条件1)よりもアイソレーションを大きく向上させる。したがって、受信用のアンテナ系統に含まれる複数のスロットアンテナ間に金属板50等の部材を設けることは、特にアイソレーションを向上させる観点よりレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(7)板部材のサイズについての考察
条件13でのシミュレーション結果と条件14でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを4本有するアンテナモデルにおいて、その間および外側の両サイドの金属板50A〜50C,50’,50”を共通させ、幅の狭い金属板50がアンテナ表面から遠い位置に設置される場合(条件13)と、幅の広い金属板50がアンテナ表面から近い位置に設置される場合(条件14)とのアンテナの性能を比較することができる。
図32を参照して、アンテナ利得、水平方向のばらつき度合いに関しては、幅の広い金属板50を配置した方(条件14)が小さい。アイソレーションに関しては、幅の広い金属板50を配置した方(条件14)が高い。ビーム幅に関しては、幅の狭い金属板50を配置した方(条件13)が効果が大きい。特に、アイソレーションに関しては、幅の広い金属板50を配置した方(条件14)が幅の狭い金属板50を配置した場合(条件13)よりも、金属板50が設置されていない場合(条件2)からより大きくなることが示されている。したがって、受信用のアンテナ系統に含まれる複数のスロットアンテナ間に板部材等の部材を設けることはレーダの検知性能を向上させる上で効果があり、特に、アイソレーションの向上に着目した場合には、板部材等の部材の幅が大きい方がアンテナ性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(8)溝と板部材との組み合わせについての考察I
条件3と条件7と条件12とのシミュレーション結果を比較することによって、スロットアンテナを2本有するアンテナモデルでの、その間に2本の溝40Bおよび金属板50Aが配置されている場合(条件3)と、条件3の状態から溝40Bを除いて金属板50Aのみが配置されている場合(条件7)と、条件3の状態から金属板50Aを除いて溝40Bのみが配置されている場合(条件12)とのアンテナの性能を比較することができる。
図32を参照して、条件3でのシミュレーション結果と条件7でのシミュレーション結果とを比較すると、スロットアンテナ間に2本の溝40Bおよび金属板50Aの両方が配置されている方(条件3)が溝40Aが配置されていない場合(条件7)よりも、アンテナ利得、水平方向のビーム幅、水平方向のばらつき度合い、およびアイソレーションの各項目のいずれも効果が高く、また、溝40Bおよび金属板50Aの両方が配置されていない場合(条件1)よりも効果が高い。条件3でのシミュレーション結果と条件12でのシミュレーション結果とを比較すると、アンテナ利得に関しては金属板50Aが配置されていない方(条件12)が効果が高いものの、水平方向のビーム幅、水平方向のばらつき度合い、およびアイソレーションに関しては、スロットアンテナ間に2本の溝40Bおよび金属板50Aの両方が配置されている方(条件3)が金属板50Aが配置されていない場合(条件12)よりも効果が高い。特に、水平方向のばらつき度合いおよびアイソレーションに関しては、スロットアンテナ間に溝40Bおよび金属板50Aの両方が配置されている方(条件3)が、いずれかが設置されていない場合(条件7,12)よりも、いずれもが設置されていない場合(条件1)から大きな効果を示す。したがって、スロットアンテナ間に溝等の凹部と板部材等の部材とを組み合わせて設けることは、いずれも設けない場合、あるいはいずれか一方のみを設ける場合よりも、レーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
(9)溝と板部材との組み合わせについての考察II
条件6でのシミュレーション結果と条件13でのシミュレーション結果とを比較することによって、スロットアンテナを4本有するアンテナモデルにおいて、その間および外側の両サイドの金属板50A〜50C,50’,50”を共通させ、スロットアンテナ間およびその外側の両サイドに2本ずつの溝40A〜40Eがある場合(条件6)とない場合(条件13)とのアンテナの性能を比較することができる。
図32を参照して、スロットアンテナ間およびその外側の両サイドに溝40A〜40Eおよび金属板50A〜50C,50’,50”の両方が配置されている方(条件6)が、アンテナ利得、水平方向のビーム幅、水平方向のばらつき度合い、およびアイソレーションの各項目のいずれも、金属板50A〜50C,50’,50”のみが配置されている場合(条件13)よりも効果が高く、また、溝40および金属板50の両方が配置されていない場合(条件2)よりも効果が高い。特に、アイソレーションに関しては、スロットアンテナ間およびその外側の両サイドに溝40および金属板50が配置されている方(条件6)が、溝40が設置されていない場合(条件13)よりも、いずれもが設置されていない場合(条件2)から大きな効果を示す。したがって、スロットアンテナ間に溝等の凹部と板部材等の部材とを組み合わせて設けることは、いずれも設けない場合、あるいはいずれか一方のみを設ける場合よりも、レーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
<まとめ>
以上のシミュレーションの結果より、アンテナ100は、受信用のアンテナ系統として複数のスロットアンテナを含み、隣接する第1のスロットアンテナの表面と第2のスロットアンテナの表面との間に、溝40などの1つ以上の凹部が構成されるものとする。1つ以上の凹部としては、2本以上の溝であってもよい。アンテナ100をこの構成とすることによって、アンテナ利得を向上させ、水平方向のビーム幅を大きくし、水平方向の受信強度のスロットアンテナ間でのばらつき度合いを小さくし、スロットアンテナ間でのアイソレーションを大きくする効果を有する。
同様に、アンテナ100は、受信用のアンテナ系統として複数のスロットアンテナを含み、隣接する第1のスロットアンテナの表面と第2のスロットアンテナの表面との間の、アンテナの正面方向に正の距離を有する位置に、金属板50などの導電体の部材を有するものとする。アンテナ100をこの構成とすることによって、水平方向のビーム幅を大きくし、また、スロットアンテナ間でのアイソレーションを大きくする効果を有する。
さらに、アンテナ100は、上記の溝40などの1つ以上の凹部と、上記の金属板50などの導電体の部材との両方を設ける構成としてもよい。
なお、溝40などの凹部や、金属板50などの導電体の部材は、上記の複数のスロットアンテナの外側の両サイドにさらに設けられていてもよい。
好ましくは、アンテナ100において、隣接する第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隔は1.5λ(λ:アンテナ100の使用周波数の波長)以下とする。より好ましくは、隣接する第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隔は1.0λ以下とする。これにより、レーダ300の検知角をより広角とすることができる。
なお、この場合であっても、好ましくは、第1のスロットアンテナと第2のスロットアンテナとの間隙は(1/20)λ以上とする。このようにすることによって、隣接するスロットアンテナの間に、溝40などの凹部や金属板50などの部材を配置しやすくなる。
アンテナ100をこのような構成とすることによって、スロットアンテナの間隔を狭くした場合であっても、アイソレーションの低下等を抑えることができる。そのため、レーダ300での検知精度を低下させることなく検知角をより広角とすることができる。
発明者らのシミュレーションの結果より、アンテナ100を上記構成とすることによって、少なくとも±45°の範囲において、上記の構成を有さないアンテナよりもレーダ300の検知性能が向上することがわかった。したがって、上記の構成を有するアンテナ100を搭載することによって、レーダ300の検知角は少なくとも±45°の範囲と設定することができる。好ましくは、レーダ300の検知角は、図18〜図31に示された各条件でのシミュレーション結果より、少なくとも±20°の範囲と設定することができる。
[第2の実施の形態]
上記の例では、隣接するスロットアンテナの間の基板10の表面よりも前方に存在する導電体の第1の部材として、基板10の表面に接することなく、表面から距離を置いて前方に配置されている金属板50が例示されている。このように配置されることによってレーダ300の検知性能が向上されることが発明者らによるシミュレーションにより示されている。この部材は、少なくとも一部分が基板10の表面よりも前方に存在すればよい。そこで、発明者らは、一部分が基板10の表面よりも前方に存在し、他の部分が表面よりも背面方向に存在するように金属板50を配置した、条件15のアンテナモデルについて、上記と同様のシミュレーションを行った。
図33は、条件15のアンテナモデルの構成の概略を表した図であって、当該アンテナモデルを、導波管の管長手方向が直交する面で切断した断面外略図である。図33に表された条件15のアンテナモデルでは、たとえば、図3および図12に表された条件9のアンテナモデルに対して、スロットアンテナ20A,20B間に正面方向に長い矩形断面の金属板が配置される。この金属板の正面方向の長さは溝40Bの深さよりも長く、幅方向の長さは溝40Bの幅よりも短い。この金属板は、正面方向の長さの約半分が溝40Bに含まれ、その底辺は溝40Bの底面よりも正面方向に離れた位置となるように配置されている。
条件15のアンテナモデルを用いて同様のシミュレーションを行ったところ、アンテナ利得が14.1[dB]、水平方向のビーム幅が70.4[deg]、およびアイソレーションが17.5[deg]であった。この結果と条件9でのシミュレーション結果とを比較することによって、高さ方向の一部分が基板の表面よりも背面方向に位置する金属板が配置されている場合(条件15)と、該金属板が配置されていない場合(条件9)とのアンテナの性能を比較することができる。
上記のシミュレーション結果および図32を参照して、水平方向のビーム幅に関しては、金属板が上記のように配置されている方(条件15)が効果が高く、また、金属板も溝40も設けられていない場合(条件2)よりも大きな効果を示す。したがって、水平方向のビーム幅の観点からは、正面方向の一部分が基板の表面よりも背面方向に位置していても、基板の表面よりも前方に存在する金属板等の部材を設けることがレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。
[第3の実施の形態]
隣接するスロットアンテナ20間のアンテナ表面に2本以上の溝40が設けられる場合、それら複数の溝40が、その内部において、少なくとも一箇所が互いに連通していてもよい。すなわち、隣接する2本の溝40の間に第1の隔壁部として存在する基板10の部材である導電体が、上記少なくとも1箇所では2本の溝40間に存在せず、2本の溝40の空間がその1箇所において連続するように構成されていてもよい。たとえば、条件5のアンテナモデルにおいて、隣接するスロットアンテナ20A,20B間の基板10の表面に設けられた2本の溝40Bがその内部において少なくとも一箇所が連通していてもよい。
発明者らは、スロットアンテナ20A,20B間の基板10の表面に2本の溝40Bを形成し、さらに、2本の溝40Bが内部において一箇所連通している、条件16のアンテナモデルについて、上記と同様のシミュレーションを行った。条件16のアンテナモデルは、図33に表された条件15のアンテナモデルに含まれる金属板が、基板10の表面よりも正面方向には存在せず、背面方向のみに存在する状態と同様の形態である。
条件16のアンテナモデルを用いて同様のシミュレーションを行ったところ、アンテナ利得が16.0[dB]、水平方向のビーム幅が59.2[deg]、およびアイソレーションが24.1[deg]であった。この結果と条件5でのシミュレーション結果とを比較することによって、2本の溝40Aの一部が連通している場合(条件16)としていない場合(条件5)とのアンテナの性能を比較することができる。
上記のシミュレーション結果および図32を参照して、各評価項目について2本の溝40Bの一部が連通している場合(条件16)としていない場合(条件5)とで大きな差異がなく、いずれの場合(条件5,16)も、溝40の設けられていない場合(条件2)よりも大きな効果を示す。したがって、基板10の表面より背面方向において、少なくとも一箇所が連結している場合であっても、隣接するスロットアンテナの間の基板10の表面に1本以上の溝等の凹部を設けることがレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが検証された。それ故、溝40等の凹部を、基板10の表面より背面方向において、少なくとも一箇所連通する方が容易であるような製法によってアンテナ100を製造する場合には、凹部をこのような形状とすることでアンテナ100の形成を容易にすることができる。
[第4の実施の形態]
レーダ300に搭載されるアンテナ100の製造方法は、特定の製造方法には限定されない。しかしながら、上記のように、隣接するスロットアンテナ20の間隔は、たとえば1.5λ以下、好ましくは1.0λ以下とし、その間隔において隣接するスロットアンテナ20の間隙は(1/20)λ以上である。このように隣接するスロットアンテナ20の間隙内に、1本以上の溝40や板部50を配置する必要がある。さらに、溝40は本数が多く、また、幅は細い方がレーダの検知性能を向上させる上で効果があることが、今回の条件におけるシミュレーションでは検証されている。そのため、アンテナ100の使用周波数の波長によっては、基板10の表面から溝40を削り出して形成することが難しい場合がある。そこで、好ましくは、アンテナ100は、拡散接合または熱圧接と呼ばれる複数の板を積層し、さらに圧着させる製法で製造される。すなわち、好ましくは、基板10を、複数の板が積層された積層構造とする。なお、積層する前の状態の板を、以降の説明において積層板とも言う。
図34は、アンテナ100の製造方法の一例を説明するための図である。図34(A)は、アンテナ100を、導波管の管長手方向が直交する面で切断した断面の概略図において積層板を表した図である。図34(B)は、各積層板の形状を説明するための図であって、アンテナ100の正面方向から各積層板を見た図である。
図34(A)を参照して、隣接するスロットアンテナ20A,20Bの間に溝40Bが設けられている場合、アンテナ100は、基板10の表面に平行する積層板T1〜T4を、その順に積層し、さらに圧接することによって形成される。基板10の表面に平行する面の断面が同じ形状となるように、各積層板の厚みが決定される。具体的には、図34(A)を参照して、積層板T1の厚みは、基板10の底面から導波管11の底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh1である。積層板T2の厚みは、導波管11の底面から溝40Bの底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh2である。積層板T3の厚みは、溝40Bの底面からスロット素子12の底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh3である。積層板T4の厚みは、スロット素12の底面から基板10の表面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh4である。なお、積層板T3,T4等の厚みTh3、Th4等は、同一形状の薄い板を重ねて必要厚さとなるように実現されてもよい。
各積層板T1〜T4の厚みTh1〜Th4をこのように設定することによって、各積層板T1〜T4は図34(B)に表されたような形状となる。すなわち、積層板T1は、孔加工されていない板である。積層板T2は貫通孔H1,H2を有する。貫通孔H1,H2は、導波管11A,11Bそれぞれの、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。積層板T3は、貫通孔H1,H2と、貫通孔H3とを有する。貫通孔H3は、溝40Bの、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。積層板T4は、貫通孔H3と、複数の貫通孔H4とを有する。貫通孔H4は、スロット素子12の、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。
積層板T2の貫通孔H1,H2は、背面方向には、積層板T1によって塞がれる。また、積層板T2の貫通孔H1,H2は、正面方向には、積層板T3の貫通孔H1,H2と連通する。積層板T3の貫通孔H3は、背面方向には、積層板T2によって塞がれる。また、積層板T3の貫通孔H3は、正面方向には、積層板T4の貫通孔H3と連通する。
アンテナ100の製造方法に、拡散接合と呼ばれる、積層板を圧着させる製法を採用することによって、図34(B)に示されたように、スロット素子12や溝40などの複雑な要素を、積層板においては貫通孔として形成することができる。そのため、基板10の表面からこれらを削り出すよりも容易に製造することができる。特に、アンテナ100の使用周波数の波長がミリ波などの小さい波長であった場合には溝40を削り出すことが非常に困難になる。それ故、このような製法を採用することによって、特に使用周波数の波長が小さい場合にアンテナの形成を容易にすることができる。
なお、第3の実施の形態において説明されたように、2本の溝40が基板10の表面よりも背面方向において連通している場合にも、上記の拡散接合と呼ばれる製法を採用することによって容易に形成することができる。
図35は、この場合のアンテナ100の製造方法を説明するための図である。すなわち、図35は、隣接するスロットアンテナ20A,20Bの間に2本の溝40Bが設けられ、かつ、これら2本の溝40Bが基板10の表面よりも背面方向において一部連結されている場合の製造方法を説明するための図である。図35を参照して、アンテナ100は、アンテナ表面に平行する積層板T1,T2,T31,T32,T4をこの順に積層し、さらに圧接することによって形成される。具体的には、図35(A)を参照して、積層板T1の厚みは、基板10の底面から導波管11の底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh1である。積層板T2の厚みは、導波管11の底面から2本の溝40Bの底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh2である。積層板T31の厚みは、2本の溝40Bの底面からこれら2本の溝40Bの連結が終了する位置までの、アンテナ100の正面方向の長さTh31である。積層板T32の厚みは、2本の溝40Bの連結が終了した位置からスロット素子12の底面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh32である。積層板T4の厚みは、スロット素12の底面から基板10の表面までの、アンテナ100の正面方向の長さTh4である。
積層板T1,T2,T31,T32,T4の厚みTh1,Th2,Th31,Th32,Th4をこのように設定することによって、の厚みをこのように設定することによって、各積層板T1,T2,T31,T32,T4は図35(B)に表された形状となる。すなわち、積層板T1は、孔加工されていない板である。積層板T2は貫通孔H1,H2を有する。貫通孔H1,H2は、導波管11A,11Bそれぞれの、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。積層板T31は、貫通孔H1,H2と、貫通孔H5とを有する。貫通孔H5は、2本の溝40Bおよび連通部分の、表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。積層板T32は、貫通孔H1,H2と、貫通孔H6,H7とを有する。貫通孔H6,H7は、2本の溝40Bそれぞれの、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。積層板T4は、貫通孔H6,H7と、複数の貫通孔H4とを有する。貫通孔H4は、スロット素子12の、基板10の表面に平行する面での断面形状(矩形形状)を有する。
積層板T2の貫通孔H1,H2は、背面方向には、積層板T1によって塞がれる。また、積層板T2の貫通孔H1,H2は、正面方向には、積層板T31および積層板T32の貫通孔H1,H2と連通する。積層板T31の貫通孔H5は、背面方向には、積層板T2によって塞がれる。積層板T31の貫通孔H5のうちの、2本の溝40Bの連通部分に相当する孔領域は、正面方向には、積層板T32によって塞がれる。積層板T31の貫通孔H5のうちの、2本の溝40Bに相当する孔領域は、正面方向には、積層板T32および積層板T4の貫通孔H6,H7と連通する。
アンテナ100の製造方法に、拡散接合と呼ばれる、板を積層してさらに圧着させる製法を採用することによって、第3の実施の形態において説明されたような、溝40がその内部において互いに連通している場合にも、図35(B)に示されたように、連通部分と2本の溝40Bが隔壁部によって分離されている箇所とを、それぞれ異なる積層板にて、それぞれに対応した形状の貫通孔として形成することができる。そのため、このように基板10の表面から削り出して生成することができないような複雑な形状であっても、この製法を採用することによって容易に形成することができる。
なお、連通部分は、溝40の底部よりも正面側であってもよい。この場合、溝40の底部から連通部までを形成する2つの貫通孔を有する積層板と、連通部を形成する貫通孔を有する積層板と、連通部よりも正面側の、隔壁部によって分離された2本の溝40Bを形成する2つの貫通孔を有する積層板と、を用いればよい。
[第5の実施の形態]
上記の例では、隣接するスロットアンテナ20の間の基板10の表面に構成された1つ以上の凹部として、導波管11の管長手方向に延びる1本以上の溝40が例示されている。この溝40は、基板10の表面の、隣接する2つのスロットアンテナの表面の間の領域であって、幅方向に、少なくとも一方のスロット素子12が存在する位置に形成されればよい。すなわち、導波管11の管長手方向に延びる溝40は、管長手方向に途切れていてもよい。言い換えると、導波管11の管長手方向に延びる溝40は、第2の隔壁部を挟んで管長手方向に2つ以上、並列に設けられてもよい。そして、第2の隔壁部は、幅方向のいずれかの側に、隣接する2つのスロットアンテナのスロット素子12がある位置には存在せず、いずれの側にもスロット素子12がない位置に存在する。
なぜなら、発明者らの実証試験の結果より溝40などである凹部を設けることによってアイソレーションが向上するなどの効果が見られることから、凹部は隣接するスロットアンテナ20における受信信号の他方への影響を抑える効果があると言える。それ故、少なくともスロットアンテナ20のレーダ波を受信する要素であるスロット素子12に隣接する位置に凹部を構成することによって、上記の効果が得られると考えられるためである。
図36は、隣接するスロットアンテナ20間に設けられる溝40の他の例を説明するための図である。図36を参照して、一例として、スロットアンテナ20において、スロット素子12は、すべての中心がスロットアンテナ20の中心線Cwを挟んで平行する2本の直線CSL,CSRそれぞれの真上に位置するように、導波管11の管長手方向に等間隔に配置される。直線CSL上に配列されるスロット素子12と、直線CSR上に配列されるスロット素子12との幅方向の位置は一致しない。図36に示されたように、各スロット素子12の、管長手方向の両端それぞれが接する、管長手方向に直交する直線をそれぞれ直線HT,HBとする。図36を参照して、基板10の表面の、隣接する直線HTと直線HBとで区切られた、幅方向に延びる、管長手方向に連続する領域は、スロット素子12を含む領域と、含まない領域とが交互となっている。なお、スロット素子12を含む領域と、含まない領域とは、図37でも同様に示されている。
スロットアンテナ20A,20B間に設けられた溝40Bは、幅方向にスロット素子12を含む領域では溝を形成する。溝40Bの管長手方向に途切れている箇所、つまり第2の隔壁部は、幅方向にスロット素子12を含まない領域内に存在し、その領域外には存在しない。図36の例では、スロットアンテナ20A,20Bの間の領域であって、直線HTと、図36において直線の下に隣接する直線HBとで区切られた領域にスロット素子12が存在し、直線HBと、図36において直線の下に隣接する直線HTとで区切られた領域にはスロット素子12が存在しない。従って、溝40Bは前者の領域には必ず存在する。第2の隔壁部である溝40Bの途切れた箇所は、後者の領域内に存在し、当該領域を超える範囲には存在しない。
溝40に途切れた箇所、つまり第2の隔壁部を設けることによって、アンテナ100の管長手方向の強度が低下することを防止できる。
[第6の実施の形態]
たとえば金属板50である、隣接するスロットアンテナ20間の基板10の表面よりも正面方向に正の距離を有する位置に設けられる部材もまた、少なくともスロット素子12に隣接する位置の基板10の表面よりも上方に設けられればよい。なお、この部材の基板10に対する取り付け方法は、特定の方法に限定されない。そこで、一例として、基板10表面のスロット素子12に隣接しない位置に、金属板50を基板10表面に対して支持するための支持部を設けて、金属板50を基板10に取り付けてもよい。
図37は、金属板50の基板10への取り付け方法の一例として、支持部を用いて取り付ける方法を説明するための図である。図37(A)は、アンテナ100を正面から見た図であり、図37(B)は、図37(A)におけるCC位置でのアンテナ100の断面の概略図である。
図37(A)を参照して、導波管11の管長手方向に延びる金属板50Aの、スロット12を含まない領域には、金属板50Aを基板10の表面に対して支持するための支持部50A’が設けられる。図37(B)を参照して、支持部50A’は、たとえば、基板10表面から金属板50Aに向けて延びる柱状の部材である。
支持部50A’が設けられる位置は、第5の実施の形態において説明された、溝40Bに設けられる第2の隔壁部の位置と同じである。すなわち、支持部50A’は、幅方向のいずれかの側に、隣接する2つのスロットアンテナのスロット素子12がある位置には設けず、いずれの側にもスロット素子12がない位置に設ける。なぜなら、発明者らの実証試験の結果より金属板50などの部材を設けることによってアイソレーションが向上するなどの効果が見られることから、当該部材は隣接するスロットアンテナ20における受信信号の他方への影響を抑える効果があると言える。それ故、少なくともスロットアンテナ20のレーダ波を受信する要素であるスロット素子12に隣接する位置に金属板50を設置し、その効果に影響を与える可能性のある支持部50A’はスロット素子12に隣接しない位置とした方が、上記の効果が得やすいと考えられるためである。
支持部50A’は、幅方向にスロット素子12を含まない領域内に存在し、その領域外には存在しない。図37の例では、スロットアンテナ20A,20Bの間の領域であって、直線HTと、図37において直線の下に隣接する直線HBとで区切られた領域にスロット素子12が存在し、直線HBと、図37において直線の下に隣接する直線HTとで区切られた領域にはスロット素子12が存在しない。従って、支持部50A’は、後者の領域内に設けられ、当該領域を超える範囲には設けられない。
支持部50A’は、金属板50Aと一体に形成されていてもよい。このように形成することによって、たとえば拡散接合によって製造されたアンテナ100に対して、金属板50Aを容易に接合させることができる。
支持部50A’は、基板10と一体に形成されていてもよい。さらには、支持部50A’は、金属板50Aおよび基板10と一体に形成されていてもよい。この場合、支持部50A’、または支持部50A’および金属板50Aも、基板10と共に拡散接合によって製造することができる。支持部50A’、または支持部50A’および金属板50Aを、基板10と共に拡散接合によって製造する場合、基板10の底部から表面までは、図34に表わされた積層板T1〜T4などをその順に積層する。図37を参照して、基板10の表面を形成する積層板T1より正面方向には、支持部50A’を形成するための積層板T5と、金属板50Aを形成するための積層板T6とが、さらに積層される。積層板T5は、支持部50A’を形成するための領域として、支持部50A’の、基板10の表面に平行する面での断面形状の領域を含む。また、積層板T5は、スロット素子12の、基板10の表面に平行する面での断面形状以上の孔領域を有する。この孔領域は、積層板T5の背面方向に隣接する積層板に設けられた、スロット素子12の形成する貫通孔と連通する。支持部50A’、または支持部50A’および金属板50Aを基板10と共に拡散接合によって製造することによって、金属板が基板10に対して安定して支持されると共に、金属板を有するアンテナ100の製造が容易になる。
[第7の実施の形態]
上に定義したように、アンテナ系統は配列された1本以上のスロットアンテナ群から構成されるものであって、以上の実施の形態では、1つのアンテナ系統が1本のスロットアンテナによって構成される例が示されている。それ故、受信用のアンテナ系統の場合、アンテナ系統ごとに受信された電波の位相差として、スロットアンテナごとの受信された電波の位相差に基づいて、検知対象物の当該アンテナ100に対する角度が算出される。
他の例として、1つのアンテナ系統が複数本のスロットアンテナによって構成されてもよい。第7の実施の形態にかかるアンテナ100の一例として、図39に、1つのアンテナ系統が3本のスロットアンテナを含むアンテナ100の構成が示されている。図39の例では、送信用のアンテナ系統が3本のスロットアンテナ20E,20F,20Gで構成されている。3本のスロットアンテナ20E,20F,20Gは、それぞれ、導波管11E,11F,11Gを有し、導波管11E,11F,11Gの長手方向が平行するように配列される。3本のスロットアンテナ20E,20F,20Gは送信機150に接続される。
送信機150および受信機170とスロットアンテナとは、アンテナ系統ごとに独立した給電線にて接続される。図1では1つのアンテナ系統が1本のスロットアンテナから構成されるものであるために、4本のスロットアンテナそれぞれと受信機170とを接続する4本の給電線が模式的に1本のラインにて表されていたが、図39には、各スロットアンテナと送信機150および受信機170とを接続する給電線が具体的に表されている。詳しくは、図39を参照して、各1本のスロットアンテナが構成している(4つの)受信用のアンテナ系統では、スロットアンテナ20A〜20Dごとに独立した給電線によって受信機170に接続されている。3本のスロットアンテナ20E,20F,20Gが構成している送信用のアンテナ系統では、送信機150から延びた1本の給電線が3本に分岐して、それぞれスロットアンテナ20E,20F,20Gに接続される。
なお、上のシミュレーションを踏まえて、スロットアンテナ20Eとスロットアンテナ20Fとの間、スロットアンテナ20Fとスロットアンテナ20Gとの間にも、溝40G,40Hが形成されていてもよい。また、スロットアンテナ20Eおよびスロットアンテナ20Gのスロットアンテナ20Fに隣接しない側(外側)の両サイドにも、溝40F,40Iが設けられていてもよい。また、溝40G〜40Iに替えて、あるいは溝40G〜40Iに加えて、上の実施の形態と同様に金属板(不図示)が設けられてもよい。
送信機150から送信された送信波は給電線で分配され、導波管11E,11F,11Gから放射される。導波管11E,11F,11Gから放射された電波は、それぞれの隣接するスロットアンテナによって受信される。
アイソレーションが低い(悪い)場合にはスロットアンテナ20E,20F,20Gによって受信された電波が大きくなり、その受信電波が送信機150に戻ってくる。そのため、電波放射の効率が悪くなる。しかしながら、スロットアンテナ20Eとスロットアンテナ20Fとの間、およびスロットアンテナ20Fとスロットアンテナ20Gとの間にそれぞれ溝40G,40Hが形成されることによって、スロットアンテナ20Eと20Fとの間、およびスロットアンテナ20Fと20Gとの間のアイソレーションが向上する。そのため、送信機150からの送信電波が隣接アンテナを経由して、送信機150に戻ってくる量が抑えられる。その結果、送信機150の電波の送信の効率が良くなる。なお、一般的にこのことをVSWR特性(Voltage Standing Wave Ratio:電波の戻り量を示す特性値)が向上するという。
[第8の実施の形態]
アンテナ100の他の例として、並列して配置されたスロットアンテナ20の外側の両サイドに、さらにダミーのスロットアンテナが配列されてもよい。第8の実施の形態にかかるアンテナ100の一例として、図40に、受信用のアンテナ系統を構成する4本のスロットアンテナ20A〜20Dの外側の両サイドに1本ずつのダミーのスロットアンテナDU1,DU2が配置されたアンテナ100が示されている。なお、スロットアンテナDU1,DU2のさらに外側の両サイドに、溝40が設けられてもよい。
並列された複数のスロットアンテナ20A〜20Dの外側の両サイドにダミーのスロットアンテナDU1,DU2を設けることで、さらに、各スロットアンテナの特性の一致性を高めることができ、アンテナ指向性の対称性を向上させることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。