(第1実施形態)
以下、本実施形態を添付図面に基づいて説明する。まず、第1実施形態の超電導磁石装置について図1から図16を用いて説明する。図1の符号1は、永久電流モードで運転が可能な超電導磁石装置である。なお、永久電流モードとは、超電導磁石装置1を構成する回路が閉ループを成し、この回路が冷却されて超電導に転移されときに、電流が閉ループに沿っていつまでも流れる運転態様のことである。
図1に示すように、超電導磁石装置1は、超電導コイル2と、この超電導コイル2とともに超電導回路を構成するPCS(永久電流スイッチ)3と、超電導コイル2に電流を供給する主電源4と、超電導コイル2およびPCS3を冷却するための冷凍機5(冷却部)と、超電導コイル2およびPCS3にそれぞれ接続されて冷凍機5に熱を伝導する伝導部6と、超電導コイル2およびPCS3を収容する真空容器7と、PCS3を加熱するためのヒータ8と、ヒータ8に電流を供給するヒータ電源9と、主電源4や冷凍機5やヒータ電源9を制御する制御装置10とを備える。なお、この制御装置10は、主電源4や冷凍機5やヒータ電源9を制御するように個別に配置されても良い。
本実施形態の超電導磁石装置1は、超電導コイル2およびPCS3と冷凍機5とが、伝導部6で接続された伝導冷却方式を例示している。また、伝導部6は、アルミニウムや銅などの良熱伝導性を示す材質で形成される。さらに、冷凍機5は、ヒートポンプ式の冷凍機やヒートシンクなどを含む装置で構成される。なお、超電導コイル2およびPCS3を冷却する方式は、その他の態様であっても良い。例えば、図2に示すように液体ヘリウムを冷媒として用いたヘリウム冷却方式であっても良い。
図2に示すように、ヘリウム冷却方式の超電導磁石装置1’は、超電導コイル2と、PCS3と、主電源4と、冷凍機5と、ヒータ電源9と、制御装置10とを備える。さらに、この超電導磁石装置1’は、真空容器7の内部に設けられた輻射シールド板35と、この輻射シールド板35に囲まれた液体ヘリウム槽36と、この液体ヘリウム槽36に収容された液体ヘリウム37と、を備える。なお、液体窒素を用いた冷却方式であっても良い。
図3に示すように、超電導コイル2とPCS3と主電源4と冷凍機5とヒータ8とヒータ電源9とで超電導磁石部11を構成する。また、制御装置10は、主電源4を制御する主電源制御部12と、冷凍機5を制御する冷却制御部13と、ヒータ電源9を制御するヒータ制御部14と、永久電流モードの開始時のPCS3の温度である特定温度などを予め決定する温度決定部15と、特定温度を保持する時間(期間)である特定時間などを予め決定する時間決定部16と、決定された特定温度や特定時間などの制御情報を記憶する記憶部17と、外部の機器とネットワークを介して通信を行う通信部18と、を備える。
なお、制御装置10は、プロセッサやメモリなどのハードウエア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。
また、ヒータ制御部14は、ヒータ電源9を介してヒータ8を制御する。このヒータ制御部14は、ヒータ8を用いてPCS3の温度の制御を行う温度制御部19と、永久電流モードの開始時にPCS3を特定温度にする制御を行う特定制御部20と、PCS3の特定温度を特定時間に亘って保持する制御を行う保持制御部21と、定常運転時にPCS3を定常運転温度にする制御を行う定常運転制御部22と、特定時間の経過を計時する計時部23(RTC:Real-Time Clock)と、定常運転中にPCS3を再び特定温度にする制御を行う再特定制御部24と、PCS3の特定温度を再び特定時間に亘って保持する制御を行う再保持制御部25と、PCS3を再び定常運転温度にする制御を行う再定常運転制御部26と、を備える。
なお、超電導コイル2およびPCS3は、超電導物質の導体を有する超電導線材(巻線)が巻回されたコイルである。図4に示すように、PCS3は、その両端が超電導コイル2に接続されている。つまり、超電導コイル2とPCS3とで並列回路を構成する。そして、永久電流モードのときには、超電導コイル2とPCS3とで閉ループL(永久電流コイル)を形成することができる。
さらに、ヒータ8は、PCS3に熱が伝わる構成をとることができればどのような構成のものでも良い。例えば、フィルム状のヒータや、電熱線状のヒータなどが挙げられる。フィルム状のヒータを用いる場合には、ヒータ8をPCS3の表面に接着する、或いはPCS3を構成する超電導巻線の層間に挿入して接着するなどの構成が望ましい。また、電熱線状のヒータを用いる場合には、PCS3表面に電熱線を巻きつける、或いはPCS3を構成する超電導線材に沿って電熱線を共巻する構成が望ましい。
また、超電導物質の導体は、臨界温度以下、臨界磁場以下、さらに臨界電流以下の3条件が揃った環境で電気抵抗がゼロの状態(超電導状態)で電流を流すことができる。従って、この電気抵抗がゼロの状態で、超電導コイル2とPCS3とで形成された閉ループLに電流を流すと、電流は殆ど減衰することなくほぼ一定値を維持することができる。また、閉ループLに流れる電流は、揺らぎが生じ難くなっているので、非常に安定度が高い一定磁場を発生し続けることができる。このような超電導技術は、例えば、0.1ppm/h以下の高い磁場安定度を要求する医療用のMRIや分子構造分析用のNMRなどに応用されている。
また、PCS3は、高電気抵抗の常電導状態(OFF状態)と電気抵抗がゼロの超電導状態(ON状態)とを切り替えることができる。ここで、PCS3がON状態となると、超電導コイル2とPCS3との閉ループLで、永久電流モードの運転が可能になる。一方、PCS3がOFF状態となると、PCS3の高電気抵抗によって閉ループLでの永久電流モードの運転が不可能になる。なお、PCS3をON状態からOFF状態にするときに投入する熱量を減らし、かつOFF状態からON状態にするときに必要となる冷却時間を低減させるために、PCS3は、OFF状態のときに、できるだけ少ない量の導体で高い電気抵抗を発生させる必要がある。
図5に示すように、PCS3の超電導線材(巻線)は、複数本の超電導フィラメント27と、これらの超電導フィラメント27の周囲の母材28とで構成される。なお、超電導フィラメント27は、一般的にNbTiで形成されるが、Nb3SnやMgB2などNbTi以外の超電導材料であっても良い。また、母材28は、一般的に高抵抗のCuNiで形成されるが、他の銅合金や高抵抗金属でも良い。例えば、PCS3の温度を臨界温度以下に冷却して超電導状態にすると、各超電導フィラメント27の電気抵抗がゼロになり、これらの超電導フィラメント27を電流が流れ続ける。一方、PCS3の温度を臨界温度よりも高くして常電導状態にすると、超電導フィラメント27に電気抵抗が発生するとともに、母材28を含めた領域に電流が流れるので、高い電気抵抗が発生する。このPCS3の電気抵抗により永久電流モードが終了する。
なお、CuNiを母材28として形成されたPCS3は、銅などの低電気抵抗金属を母材として形成される場合よりも安定性が低い。例えば、PCS3は、冷凍機5の状態などに起因する僅かな温度の変化や、電流密度の変化などの小さな擾乱(揺らぎ)によってクエンチが発生してしまうおそれがある。このクエンチは、複数本の超電導フィラメント27のうち、少なくとも1本の超電導フィラメント27を流れる電流が、臨界電流を超えてしまうことで生じる。また、超電導フィラメント27に臨界電流密度に相当する電流が流れている状態を飽和状態と称して以下に説明する。
また、永久モードの運転中に、PCS3において飽和状態の超電導フィラメント27が存在しているとクエンチが生じ易い。そこで、本実施形態では、クエンチの発生を防ぐために、永久電流モードの開始時に、定常運転温度よりも高い特定温度にし、この特定温度を特定時間が経過するまで保持する制御がなされる。なお、PCS3の温度は、ヒータ8により制御される。このヒータ8は、主電源4とは異なるヒータ電源9から電流を供給されている。また、PCS3を特定温度にした後に定常運転温度にする制御がなされる。
例えば、特定温度の超電導フィラメント27の臨界電流密度の値は、定常運転温度の場合よりも低い値となる。つまり、超電導フィラメント27を特定温度にして電流を流しておき、その電流値を維持したまま、超電導フィラメント27を定常運転温度にすると、この超電導フィラメント27には、臨界電流以下の値の電流が流れるようになる。そのため、超電導フィラメント27が飽和状態にならずに余裕のある状態となる。
ここで、定常運転温度とは、超電導磁石装置1が永久電流モードで運転されるときの通常時の温度であって、冷凍機5を用いて超電導コイル2およびPCS3を冷却するときの目標となる温度である。この定常運転温度が維持されることで、超電導磁石装置1が永久電流モードで長時間運転される。なお、この定常運転温度は、常に一定の値ではなく、外的要因や運転態様に応じて僅かながら上下に変動される値である。さらに、定常運転温度の変動範囲は、予測される範囲となっている。また、超電導コイル2およびPCS3に流れる電流値や導体の材質や導体長などの各種構成によって、定常運転温度の変動範囲の最小値および最大値を予め特定することができる。
また、特定温度とは、PCS3の温度を電流分流温度よりも低い温度であり、かつ定常運転温度の変動範囲の最大値よりも高い温度である。この特定温度が、定常運転温度の変動範囲の最大値よりも高い温度であることで、定常運転中にPCS3の温度が変動しても、超電導フィラメント27が飽和状態にならずに済む。
また、電流分流温度とは、PCS3が備える複数本の超電導フィラメント27の材質の臨界温度以下の温度であって、各超電導フィラメント27に分流される電流が臨界電流密度に達する温度である。なお、一般に超電導技術で用いられている臨界温度(転移温度)が、超電導フィラメント27を形成する超電導物質の物性に応じて一義的に決定される温度であるのに対して、本実施形態の電流分流温度は、主電源4により供給される電流の値に応じて予め決定される温度である。つまり、電流分流温度は、主電源4の設定に応じて適宜変更される温度である。
なお、主電源4により供給される電流の値が大きくなる場合は、電流分流温度を低い値に設定し、主電源4により供給される電流の値が小さくなる場合は、電流分流温度を高い値に設定する。
なお、超電導コイル2の場合は、外部磁場効果で超電導フィラメント同士の不均一性を解消することができるので、クエンチが生じ難くなっている。この外部磁場効果とは、超電導コイル2の超電導線材(巻線)が備える各超電導フィラメントにおいて、長手方向に対して垂直方向に変動磁場が印加されつつ、電流が流れ始めると、各超電導フィラメントを流れる電流が均一に流れるように作用する効果のことである。このように超電導コイル2の各超電導フィラメントは、通電開始時から均一な電流が流れるので、一部の超電導フィラメント27が飽和状態にならず、クエンチが生じ難くなっている。
次に、本実施形態の超電導磁石装置1の運転方法について図7から図14のグラフを用いて説明する。なお、図7から図12において、縦軸は、各超電導フィラメント27の電流値を示す。ここで、横軸に並んだ各棒A〜Hは、PCS3の断面視において径方向に並んだ各超電導フィラメント27の電流値を示す(図5参照)。例えば、図7から図12の棒A,B,G,Hは、PCS3の外周部に配置された超電導フィラメント27の電流値に対応し、棒C,D,E,Fは、PCS3の中央部に配置された超電導フィラメント27の電流値に対応している。さらに、線Qは、定常運転温度T0または特定温度T2であるときに、各超電導フィラメント27が臨界電流密度となる値を示す。なお、温度が低くなるに従って臨界電流密度の値は大きくなるので、定常運転温度T0のときの臨界電流密度の値Qは、特定温度T2のときの臨界電流密度の値Qよりも大きな値になる。
図13(b)に示すように、超電導磁石装置1の運転を開始するときには、まず、主電源4およびヒータ電源9の出力を停止した状態で、冷凍機5を用いて超電導コイル2およびPCS3を冷却する。ここで、冷却された超電導コイル2およびPCS3は、臨界温度以下の温度である定常運転温度T0となり、超電導に転移される。
図13(a)および図13(b)に示すように、経過時間J0において、ヒータ電源9からヒータ8に電力を供給し、このヒータ8によりPCS3の加熱を開始する。なお、ヒータ電源9の出力(電流値、電圧値)の上昇に伴ってPCS3の温度が上昇される。そして、ヒータ電源9の出力が第1電流値C1に達すると、PCS3の温度が電流分流温度T3を超えた状態になる。なお、このときの温度は、臨界温度以上であっても良い。ここで、PCS3の各超電導フィラメント27は、常電導状態(OFF状態)に転移される。
図13(c)および図13(d)に示すように、経過時間J1において、主電源4から超電導コイル2に電力の供給を開始する。なお、主電源4から電力が供給されても、PCS3は、常電導状態であるのでPCS3に流れる電流は小さく、主電源4から供給された電流のほとんどは超電導コイル2に流れる。ここで、主電源4の出力の上昇に伴って超電導コイル2を流れる電流値が上昇する。
図13(a)および図13(b)に示すように、ヒータ電源9の出力を開始してから所定時間経過したときに、ヒータ電源9の出力を一旦停止(低減)する。なお、冷凍機5による冷却は継続されているので、ヒータ電源9の停止に伴ってPCS3の温度が低下する。そして、PCS3の温度が電流分流温度T3よりも下がった時点で、PCS3の各超電導フィラメント27は、超電導状態(ON状態)に転移される。
また、経過時間J2において、ヒータ電源9の出力が直ぐに再開される。ここで、ヒータ電源9の出力は、第1電流値C1よりも低い第2電流値C2に制御される。このときのヒータ8の加熱によりPCS3の温度は、特定温度T2になる。この特定温度T2は、電流分流温度T3よりも低く、かつ定常運転温度T0の変動範囲の最大値T1よりも高い温度となっている。なお、PCS3の温度は、電流分流温度T3から下がって特定温度T2になっても良いし、一旦、定常運転温度T0まで下がってから特定温度T2に上がっても良い。
図13(c)に示すように、PCS3の超電導フィラメントが超電導状態になっている経過時間J2’に主電源4の電流を下げ始めると、徐々にPCS3に流れる電流が増加する。ここで、電流が流れ始めたときのPCS3では、中央部の超電導フィラメント27よりも外周部の超電導フィラメント27に多くの電流が流れる。そして、外周部の超電導フィラメント27の電流値が最初に臨界電流密度の値Qに到達し、飽和状態となる。なお、飽和状態になった超電導フィラメント27には、それ以上の電流が流れず、流れる電流が増加すると、他の未飽和状態の超電導フィラメント27に電流が分流される。
図13(c)および図13(d)に示すように、経過時間J3において、主電源4の電力供給が停止される。ここで、永久電流モードが開始となり、超電導コイル2およびPCS3の閉ループL(図4参照)には、一定電流が流れ続ける。そして、経過時間J4において、ヒータ電源9の電力供給が停止される。すると、PCS3の温度は、定常運転温度T0まで低下して定常運転が開始される。
経過時間J3直後では、各超電導フィラメントには概ね図7に示す電流密度分布になっている。本実施形態は、永久電流モードが開始されてからヒータ電源9の電力供給が停止されるまで、PCS3の特定温度T2が保持される。
なお、PCS3の特定温度T2を保持する特定時間Rは、各フィラメント電流分布が定常となるために必要な最小限の時間である。特に、主電源4の電力供給が停止されてから特定時間Rが経過するまで、PCS3の温度が特定温度T2に保持されれば良い。本実施形態では、PCS3の温度を特定温度T2に保持する時間が、特定時間Rよりも長い時間となっている。例えば、時点J2の直後から時点J4までに亘ってPCS3の温度が特定温度T2に保持される。
図9に示すように、PCS3の温度が特定温度T2から定常運転温度T0まで低下すると、各超電導フィラメントに流れる電流分布を保持した状態(定常状態)で、その臨界電流密度の値Qが大きくなる。PCS3の温度が定常運転温度T0まで低下される以前に、既に主電源4の電力供給が停止されているので、臨界電流密度の値Qが大きくなっても、各超電導フィラメント27の電流値が増えることはない。すなわち、各超電導フィラメント27の電流密度の値と臨界電流密度の値Qまでの間に差分Mが生じ、超電導フィラメント27が飽和状態にならずに余裕のある状態となる。そのため、僅かな温度の変化や電流密度の変化などの小さな擾乱がPCS3に生じてもクエンチが発生することがなく、長時間に亘って安定的に運転される。つまり、クエンチが発生する確率が飛躍的に低下する。
なお、PCS3の超電導フィラメント27は、長時間運転を行うと、再び一部の超電導フィラメント27が飽和状態になるおそれがある。例えば、図6に示すように、PCS3の各超電導フィラメント27と超電導コイル2との接続部には、僅かな接続抵抗29が存在する。このPCS3の各超電導フィラメント27は、接続抵抗29を伴った並列回路とみなすことができる。これらの接続抵抗29は、超電導状態に影響を与えない程度の極めて小さい電気抵抗である。しかしながら、各接続抵抗29の値は一定ではなく、それぞれ異なる抵抗値となっている。
図10に示すように、PCS3を定常運転温度T0にした状態で長時間運転を行っていると、各接続抵抗29のばらつきによって、各超電導フィラメント27の電流値がゆっくりと変化する。例えば、一部の超電導フィラメント27の電流値が上昇され、他の超電導フィラメント27の電流値が低下するようになる。
このように各超電導フィラメント27の電流値が変化すると、一部の超電導フィラメント27の電流密度の値が臨界電流密度の値Qに近づいて飽和状態となる。この状態を放置していると飽和領域(飽和状態に到達した超電導フィラメント27が占める領域)が拡大してクエンチが生じてしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、定常運転温度T0で運転中に所定時間毎に、ヒータ8を動作させてPCS3の温度を特定温度T2に上昇させる制御を行う。
図14(a)および図14(b)に示すように、PCS3が定常運転温度T0で運転を開始した時点J4から再動作時間Pが経過した時点J5で、ヒータ電源9からヒータ8に電力を供給し、このヒータ8によりPCS3を加熱する。ここで、ヒータ電源9の出力は、第2電流値C2に制御される。このヒータ8の加熱によりPCS3の温度は、再び特定温度T2に上昇される。そして、特定時間Rが経過する時点J6まで特定温度T2が保持される。
図11に示すように、PCS3の温度が定常運転温度T0から特定温度T2まで上昇されると、各超電導フィラメント27の臨界電流密度の値Qが小さくなる。なお、PCS3の温度が特定温度T2まで上昇するときに、一部の超電導フィラメント27が飽和状態になるが、他の超電導フィラメント27が未飽和状態であるので、飽和状態の超電導フィラメント27を流れる電流が未飽和状態の超電導フィラメント27に分流される。ここで、各超電導フィラメント27の電流値の合計値は、各超電導フィラメント27の臨界電流密度の値Qの合計値を超えないので、クエンチが生じない。
図14(a)および図14(b)に示すように、ヒータ8によりPCS3を加熱して特定温度T2にした時点J5から、特定時間Rが経過するまで特定温度T2を保持する。そして、特定時間Rが経過した時点J6でヒータ電源9の電力供給を停止し、PCS3の温度を再び定常運転温度T0まで低下させる。なお、この特定時間Rは必ずしも一定間隔である必要はなく、PCS3の状態に応じて適宜短縮または延長することも可能である。
図12に示すように、PCS3の温度が特定温度T2から定常運転温度T0まで低下されると、各超電導フィラメント27の電流値がほぼ均一な状態(定常状態)で、その臨界電流密度の値Qが大きくなる。すなわち、各超電導フィラメント27の電流値と臨界電流密度の値Qまでの間に差分Mが生じ、超電導フィラメント27が飽和状態にならずに余裕のある状態に戻る。
図14(a)および図14(b)に示すように、PCS3の温度を再び定常運転温度T0まで低下させた時点J6から再動作時間Pが経過した時点J7で、PCS3の温度を特定温度T2にする。そして、特定時間Rが経過した時点J8で、PCS3の温度を再び定常運転温度T0まで低下させる。以後、この制御を繰り返し行う。
本実施形態の再動作時間Pは、24時間以上、15000時間以下であることが好ましい。この再動作時間Pは、PCS3の導体長(巻線の長さ)に基づいて予め決定される。例えば、伝導冷却方式のPCS3の導体長が5mであり、各接続抵抗29のばらつきが10倍程度と想定される場合には、再動作時間Pが24時間に設定される。また、伝導冷却方式のPCS3の導体長が500mであり、各接続抵抗29のばらつきが2倍程度と想定される場合には、その再動作時間Pが15000時間に設定される。このようにすれば、適切な再動作時間PでPCS3の温度上昇を繰り返して安定的に運転することができる。なお、この再動作時間Pは、必ずしも一定間隔である必要はなく、PCS3の状態に応じて適宜短縮または延長することも可能である。
なお、本実施形態では、永久電流モードの開始時の特定温度T2と、定常運転時の特定温度T2とが同一の温度となっているが、永久電流モードの開始時と定常運転時とで特定温度T2を異なる温度としても良い。例えば、定常運転時の特定温度T2は、永久電流モードの開始時の特定温度T2よりも低い温度にしても良い。
次に、超電導磁石装置1が実行する永久電流モードの開始時の制御内容について図15を用いて説明する。なお、フローチャートの各ステップの説明にて、例えば「ステップS11」と記載する箇所を「S11」と略記する。なお、制御装置10には、通信部18を介して超電導コイル2およびPCS3に流れる電流値や導体の材質や導体長などの各種情報が入力される。
まず、制御装置10において、温度決定部15は、超電導コイル2およびPCS3に流れる電流値や導体の材質や導体長などの予め入力された各種情報によって、電流分流温度T3や、特定温度T2や、定常運転温度T0や、定常運転温度T0の変動範囲の最大値T1などの各種温度を予め決定する(S11:温度決定ステップ)。このようにすれば、特定温度T2などを適切な温度に決定することができる。なお、これら決定された各種温度は、記憶部17に記憶される。
次に、時間決定部16は、超電導コイル2およびPCS3に流れる電流値や導体の材質や導体長などの予め入力された各種情報によって、特定時間Rや、再動作時間Pなどの各種時間を予め決定する(S12:時間決定ステップ)。このようにすれば、PCS3の導体長に応じて再動作時間Pなどを適切な時間に決定することができる。なお、これら決定された各種時間は、記憶部17に記憶される。
次に、冷却制御部13は、冷凍機5の動作を開始することで、超電導コイル2とPCS3の冷却を開始する(S13:冷却ステップ)。なお、冷却が開始されると、超電導コイル2とPCS3が定常運転温度T0まで冷却され、超電導状態に転移される。
次に、冷凍機5による冷却が継続される状態で、温度制御部19は、ヒータ8を用いてPCS3を加熱して電流分流温度T3以上にする。すると、PCS3が高電気抵抗の常電導状態(OFF状態)になる(S14:OFFステップ)。次に、主電源制御部12は、主電源4による電力(電流)の供給を開始し、超電導コイル2に電流を流し始める(S15:通電ステップ)。
次に、温度制御部19は、ヒータ電源9の出力を一旦停止(低減)する。ここで、PCS3の温度が電流分流温度T3よりも下がった時点で、PCS3の各超電導フィラメント27は、超電導状態(ON状態)に転移される(S16:ONステップ)。
次に、特定制御部20は、ヒータ電源9の出力を直ぐに再開し、PCS3の温度を特定温度T2にする(S17:特定ステップ)。次に、主電源制御部12は、主電源4による電力の供給を停止する(S18:永久電流ステップ)。ここで、超電導コイル2とPCS3は、閉ループLを形成しているので、超電導コイル2を流れる電流がPCS3に流れるようになり、永久電流モードが開始される(S19)。
次に、保持制御部21は、主電源4による電力の供給が停止された時点で、計時部23を用いて特定温度タイマのカウントを開始する。ここで、保持制御部21は、特定温度タイマがカウント中である場合に、PCS3の温度を特定温度T2に保持する(S20:保持ステップ)。
次に、保持制御部21は、計時部23を参照して特定温度タイマのカウントを開始してから特定時間Rが経過したか否かを判定する(S21)。つまり、計時部23による特定温度タイマのカウントが、記憶部17に記憶された特定時間R(判定値)以上か否かを判定する。ここで、特定時間Rが経過していない場合は、前述のS20に戻る。一方、特定時間Rが経過した場合は、計時部23による特定温度タイマのカウントを終了する。そして、定常運転制御部22は、ヒータ電源9による電力供給を停止し、PCS3の温度を定常運転温度T0まで低下させることで、定常運転を開始する(S22:定常運転ステップ)。なお、S21については、特定温度タイマのカウントを判定の基準としているが、作業員によって一定時間経過後に手動でPCS温度を上げる作業を行うことも可能である。
次に、超電導磁石装置1が実行する定常運転時の制御内容について図16を用いて説明する。なお、ヒータ制御部14は、PCS3の温度を定常運転温度T0にするために、ヒータ電源9による電力供給を停止した時点で、計時部23を用いて定常運転温度タイマのカウントを開始する。
まず、制御装置10において、定常運転制御部22は、PCS3の温度を定常運転温度T0に保持する(S31)。次に、定常運転制御部22は、計時部23を参照して定常運転温度タイマのカウントを開始してから再動作時間Pが経過したか否かを判定する(S32)。つまり、計時部23による定常運転温度タイマのカウントが、記憶部17に記憶された再動作時間P(判定値)以上か否かを判定する。
ここで、再動作時間Pが経過していない場合は、前述のS31に戻る。一方、再動作時間Pが経過した場合は、計時部23による定常運転温度タイマのカウントを終了する。そして、再特定制御部24は、ヒータ電源9による電力供給を開始し、PCS3の温度を特定温度T2まで再び上昇させる(S33:再特定ステップ)。
次に、再保持制御部25は、ヒータ電源9による電力供給が開始された時点で、計時部23を用いて特定温度タイマのカウントを開始する。ここで、再保持制御部25は、特定温度タイマがカウント中である場合に、PCS3の温度を特定温度T2に保持する(S34:再保持ステップ)。
次に、再保持制御部25は、計時部23を参照して特定温度タイマのカウントを開始してから特定時間Rが経過したか否かを判定する(S35)。つまり、計時部23による特定温度タイマのカウントが、記憶部17に記憶された特定時間R(判定値)以上か否かを判定する。ここで、特定時間Rが経過していない場合は、前述のS34に戻る。一方、特定時間Rが経過した場合は、計時部23による特定温度タイマのカウントを終了する。そして、再定常運転制御部26は、ヒータ電源9による電力供給を停止し、PCS3の温度を定常運転温度T0まで低下させることで、定常運転を開始する(S36:再定常運転ステップ)。
なお、ヒータ制御部14は、PCS3の温度を定常運転温度T0にするために、ヒータ電源9による電力供給を停止した時点で、計時部23を用いて定常運転温度タイマのカウントを開始し、前述のS31に戻る。以降、S31〜S36のステップを繰り返す。
本実施形態では、電流分流温度T3は、主電源4により供給される電流の値に応じて予め決定されることで、永久電流モードの運転中にPCS3を流れる電流密度が変動しても臨界電流に到達せずに、余裕がある状態にすることができる。また、主電源4の電流の値に応じて適切な特定温度T2を設定することができる。
また、本実施形態では、特定温度T2は、PCS3の定常運転温度T0の変動範囲の最大値T1よりも高い温度であることで、永久電流モードの運転中にPCS3の温度が変動し、その変動範囲の最大値T1になっても、クエンチが発生することがなくなる。
また、保持ステップおよび再保持ステップにて、特定時間Rが経過するまでPCS3の温度を特定温度T2に保持することで、複数本の超電導フィラメント27の全てに臨界電流以下の電流をほぼ均一に流すことができる。さらに、永久電流モードの運転中に一部の超電導フィラメント27に高い値の電流が流れても、全ての超電導フィラメント27を流れる電流を均一にすることができる。
また、定常運転が開始された定常運転ステップ後に、PCS3の温度を再び特定温度T2に上昇させる再特定ステップを含むことで、クエンチの発生を防いで安定的に永久電流モードの運転を継続することができる。
また、再特定ステップを予め決められた再動作時間Pを空けて繰り返すことで、複数の超電導フィラメント27に流れる電流値が不均一になって一部の超電導フィラメント27を流れる電流が臨界電流になる前に、各超電導フィラメント27を流れる電流を均一にして安定させることができる。
また、本実施形態では、冷凍機5が伝導冷却型であり、液体ヘリウムなどの高価な冷媒が必要ないので、安価に超電導コイル2やPCS3を冷却することができる。しかしながら、伝導冷却型の超電導磁石装置1の場合は、超電導物質の導体の周囲に液体ヘリウムなどの冷媒が存在する浸漬冷却、ガス冷却などの冷却方式の超電導磁石装置と比較して、小さな擾乱でクエンチに至ってしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、永久電流モードの開始時と定常運転時にPCS3を特定温度T2に上昇させる操作を行うことで、クエンチの発生を防ぐようにしている。
なお、本実施形態では、再動作時間Pを一定の値にしているが、この再動作時間Pは、常に一定の値でなくても良い。例えば、超電導磁石装置1の使用状況は、起動時からの経過時間に応じて、再動作時間Pが変化されても良い。また、第1の長さの再動作時間Pと第2の長さの再動作時間Pを交互に繰り返して用いても良い。さらに、再動作時間Pを、タイマを使用して特定なくても良い。例えば、定期点検時の作業員の手動操作または遠隔操作によって特定温度T2に上昇させる操作を行うことにしても良い。
なお、本実施形態では、超電導磁石部11と制御装置10とが別体として設けられているが、これらの装置を一体的に形成しても良い。また、ヒータ制御部14は、ヒータ電源9に内蔵されても良い。
なお、本実施形態を用いた超電導磁石装置1の実験結果の一例について詳述する。母材28の材質をCuNiとし、超電導フィラメント27の材質をNbTiでとしたPCS3を用いて通電実験を行った。ここで、このときのPCS3の定常運転温度T0は、約3.8Kであり、電流分流温度T3は、約8Kであり、冷凍機5に伴うPCS3の温度の変動範囲(揺らぎ)の最大値T1は、約3.9Kである。このPCS3と超電導コイルとで構成した閉ループL(永久電流コイル)に約300Aの電流を流し、PCS3の安定性を評価した。
また、本実施形態の運転方法を行う場合は、永久電流モードの開始時にPCS3の温度を約6Kの特定温度まで上昇させた。さらに、この特定温度を10分間に亘って保持し、その後、定常運転温度T0まで低下させた。この動作実施することで、PCS3は約750時間に亘ってクエンチすることなく安定に運転することができた。一方、本実施形態の運転方法を行わない場合は、永久電流モードの開始時から数分から1時間程度でPCS3にクエンチが発生する現象が確認された。このように、本実施形態の運転方法がクエンチの発生を抑制することができることを示すことができた。
また、再動作時間Pが経過する度にPCS3の温度を再び特定温度まで上昇させる制御を行わなかった場合は、780時間を超えた時点でクエンチが発生した。これに対して、再動作時間Pが経過する度にPCS3の温度を再び特定温度まで上昇させる制御を行った場合は、クエンチが発生せずに長時間運転することができた。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の超電導磁石装置の運転方法について図17から図18を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
図17に示すように、第2実施形態では、複数の超電導磁石部11が設けられている。そして、各超電導磁石部11をそれぞれ制御する制御装置10がネットワーク30に接続されている。なお、このネットワーク30は、インターネットでも良いし、特定のエリアに設けられたネットワークでも良い。また、ネットワーク30は、有線通信で構成されても良いし、無線通信で構成されても良い。さらに、このネットワーク30には、各制御装置10を遠隔操作するための遠隔操作装置31が接続されている。なお、超電導磁石装置1と制御装置10とネットワーク30と遠隔操作装置31とで、第2実施形態の超電導磁石装置1Aが構成される。
なお、遠隔操作装置31は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウエア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。
また、遠隔操作装置31は、各制御装置10を制御する遠隔制御部32と、特定温度や特定時間などの各種情報を記憶する記憶部33と、各制御装置10とネットワーク30を介して通信を行う通信部34と、を備える。
また、記憶部33は、各超電導磁石部11のPCS3を管理するためのPCS管理テーブルを記憶している。図18に示すように、PCS管理テーブルは、各制御装置10を識別可能な装置IDに対応付けて、PCS3の巻線の導体長と、特定温度と、特定時間と、再動作時間と、超電導磁石部11の冷却方式とが登録されている。なお、これら以外の情報がPCS管理テーブルに登録されても良い。
例えば、伝導冷却方式のPCS3の巻線の導体長が5mである場合は、特定温度を6Kとし、特定時間を1分とし、再動作時間を24時間としている。また、ヘリウム冷却方式のPCS3の巻線の導体長が5mである場合は、特定温度を6Kとし、特定時間を1分とし、再動作時間を720時間としている。また、伝導冷却方式のPCS3の巻線の導体長が500mである場合は、特定温度を6Kとし、特定時間を10分とし、再動作時間と15000時間としている。
また、遠隔制御部32は、記憶部33のPCS管理テーブルに基づいて、各種情報を制御装置10に送信する。そして、各制御装置10は、受信した各種情報に基づいて、PCS3の温度の制御などを行う。なお、超電導磁石部11の運転態様に応じてPCS管理テーブルの登録内容を適宜変更しても良い。このようにすれば、ネットワーク30を介して多数の超電導磁石部11の管理を一括して行うことができる。
なお、各超電導磁石部11のPCS3でクエンチが発生した場合は、対応する制御装置10がクエンチの発生情報を遠隔操作装置31に送信しても良い。このようにすれば、クエンチの発生頻度を遠隔操作装置31が把握することができる。
なお、各制御装置10の記憶部17がPCS管理テーブルを記憶していても良い。例えば、制御装置10は、PCS管理テーブルを参照し、超電導磁石部11のPCS3の導体長などに応じて、再動作時間などを設定しても良い。
本実施形態に係る超電導磁石装置の運転方法を第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
なお、本実施形態の所定の値と判定値との判定において「判定値以上か否か」の判定をしているが、この判定は、「判定値を超えているか否か」の判定でも良いし、「判定値以下か否か」の判定でも良いし、「判定値未満か否か」の判定でも良い。
なお、本実施形態では、再動作時間Pが経過する度に、PCS3の温度を特定温度に上昇させる制御を行っているが、その他の制御態様であっても良い。例えば、PCS3の温度変化を把握するための温度センサや、各超電導フィラメント27の電流密度の変化を把握するための電流センサなどを設けるようにし、これら各種センサが取得する情報に応じて、PCS3の温度を特定温度に上昇させる制御を行っても良い。
なお、超電導コイル2およびPCS3は、1個の冷凍機5で冷却しなくても良い。例えば、超電導コイル2を冷却する冷凍機と、PCS3を冷却する冷凍機との複数の冷凍機を設けても良い。
以上説明した実施形態によれば、永久電流モードの開始時や定常運転時に永久電流スイッチ(PCS3)の温度を特定温度にすることで、クエンチの発生を低減して安定的に超電導磁石装置1を運転することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。