以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るカテーテル・シミュレーター用容器の一実施形態を示す図である。最初に、図1を参照して、カテーテル・シミュレーター用容器について説明する。
本実施形態のカテーテル・シミュレーター用容器10は、四面の側壁11〜14及び底面15によって水、電解水などの液体(図示せず)を収容する収容部10aを規定する容器として構成される。前記側壁には、前記収容部10aに液体を満たした状態で心臓モデル(図3の四腔型モデル(本実施形態における右心系モデル20)、図4の冠動脈モデル30、図5のTAVIモデル40、図6のTAVIモデル80又は図7のTAVIモデル100)を接続して保持可能な接続部11a、11cと、前記心臓モデルに一体形成された模擬血管に対して、前記容器10の外部からカテーテルを挿入する導入部11d、12a、13aと、前記収容部10a内の液体を拍動流生成ポンプ60(図12参照;以下ポンプと称する)に排出する排出口11bが形成されており、例えば図1に示すような位置関係で配設される。なお、前記接続部11a、11cは、前記容器10の外部からカテーテルを挿入する導入部の役割も兼ねる。
前記側壁11〜14及び前記底面15は、液体及び心臓モデルを安定的に収容可能な強度を有する材料によって作製されており、前記側壁11〜14及び前記底面15の形状は、短形形状、丸みを帯びた形状、それらを組合せた形状等、前記液体及び前記心臓モデルを安定的に収容できる形状であれば良い。また、前記側壁11〜14及び前記底面15の材料は透明性を有することが好ましい。側壁や底面が透明性を有することで、シミュレーションの際、前記容器10内に設置された心臓モデルや、前記容器10の外部から挿入するカテーテル等の挙動を目視によって観察することが可能となる。このような強度を有し、透明性のある材料は、例えばアクリル、ポリカーボネート、PET、ポリスチレン等が挙げられる。
なお、トレーニング者が視認できる材料で前記容器10を作製した場合でも、カメラを設置してモニタ等に表示したり、或いは、X線による透視をしてモニタ等に表示すれば、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握するシミュレーションを実施でき、より現実に近い状態を実現することも可能である。訓練の段階や内容に応じて、目視認識、モニタ表示確認、X線撮像の使用を選択できる。
前記容器10の上方は、開口しており、ここに開閉可能な蓋を配設しても良い。これにより、収容部10aに液体を充填する作業、心臓モデルを液体内に設置する作業等、訓練の準備や後始末をする際に、容器上面の開口を介して効率的に作業することができる。
本実施形態において、前記接続部11a、11cは略円筒状に構成され、前記側壁11を貫通し、前記容器10の外部に向けて、それぞれ突出している。この場合、前記接続部11a、11cには、前記容器収容部10a側に突出する保持突起11f、11gを形成しておくことが好ましく、これにより、心臓モデルの端部を差し込んで心臓モデルを容易に接続(保持)することが可能となる。なお、本実施形態の接続部11aには、前記容器10の外側に突出した先端に、上述したポンプ60の供給管63(図12参照)が接続される。このため、前記接続部11a及び保持突起11fには、前記ポンプ60から送られる液体を通過させる連通孔が形成されており、ポンプ60が作動した場合、ポンプ60からの液体流入口の役割も果たす。また、接続部11cは、カテーテルの導入部としての機能を備えているため、接続部11c及び保持突起11gには、カテーテルが挿通される連通孔が形成されている。
前記接続部11a、前記排出口11bは共に、開閉用のバルブ11V(接続部11a側のみ図示)を有する。この閉塞用のバルブ11Vは、シミュレーション終了後に、前記容器10から前記ポンプ60を取外す際、閉塞することで、前記収容部10a内の液体が前記容器10の外部に漏れ出ることを防ぐ。
前記接続部11cには、トレーニング者によって操作されるカテーテルを容器10の外部から導入する導入管50が接続される。また、前記側壁11には、カテーテル導入管51を接続する導入部11dが設けられている。前記接続部11c及び前記導入部11dは略円筒状に構成され、前記側壁11を貫通し、前記容器10の外部に突出している。前記接続部11c及び前記導入部11dは、前記容器10の外側で操作可能な接続機構を有する。接続機構は、例えば、導入管を差し込んで操作部材(ナット)19を回転すると、前記導入管50、51を固定・解放できる構造となっており、前記導入管の脱着操作が容易に行えるようになっている。なお、前記導入管50、51は、前記接続部、導入部に接続された際、前記収容部10a内に先端が突入していても良い。また、上記した接続部11a、11c及び導入部11dは必ずしも同一側壁上に配置される必要はない。
前記側壁11には、前記側壁11の強度を補強する補助板16を接着しても良い。前記補助板16によって強度補強を図ると、前記側壁11全体を厚くして強度を増す場合に比べて、容器10全体を軽量化できる。前記補助板16を側壁11に貼り合せることによって、通過するカテーテル等の視認性が低下してしまう場合には、側壁11のうち強度の増強が必要な面のみ、側壁の厚さを大きくしても良い。また、側壁については凹凸のない平板状にすることが好ましく、これにより光の屈折がなくなり、内部の視認性が向上する。
本実施形態において、前記側壁12には、トレーニング者によって操作されるカテーテルを容器10の外部から導入する導入管52と接続する導入部12aが設けられており、同様に前記側壁13には、カテーテル導入管53と接続する導入部13aが設けられている。これらの導入部12a、13aは、同一の側壁上に配置されていても良い。
実際のシミュレーションにおいては、前記容器内10aに水などの液体を充填し、心臓モデルを液体中に浮遊した状態で設置する。心臓モデルが浮遊状態になることで、トレーニング者がカテーテル操作時に、より現実に近い感触が得られるようになる。すなわち前記容器の側壁に設けられた接続部11a、11cに接続(保持)することで心臓モデルを液体中に浮遊した状態にすることができる。なお、側壁に接続部を設けることなく、例えば、専用ホルダを前記容器の底面に設置し、前記心臓モデルを下から支えるようにして液体中に保持するようにしても良い。
前記容器10に収容する要素は、人体の心臓と同じ大きさの心臓モデル、及びそれを浮遊させるだけの液体だけで済むため、前記容器10は小型化可能となる。本実施例における前記容器10の外形寸法は、20cm×20cm×15cm程度となっており、前記容器に充填が必要な液体(水)の量はおおよそ3L〜6L程度で済む。前記容器10を小型化すると、シミュレーションの実施場所のスペースの無駄を省くことができ、前記容器10及び前記容器10を用いたカテーテル・シミュレーターの収納性、運搬性が向上できる。また、前記容器の収容部10aに充填する水量が6L以内で済むことから、水道が利用不可な場所であっても、タンク等で水を運搬することでシミュレーションを実施可能となり、実施場所の選択肢が広がる。さらに、水が充填された容器の重量は、トレーニング者が一人で取扱いが可能な程度に軽量であるため、補助者の制約なしに、シミュレーションの準備や片づけをすることも行えるようになる。
後述するように、トレーニング者は、使用する心臓モデルやシミュレーションの内容によって、前記導入管50〜53の中から、カテーテルを導入する導入部(接続部)を選択する。前記導入管50〜53は、容器10の外部側の先端部に、カテーテル導入端子を有し、前記導入端子は、前記導入管50〜53に満たされた液体が、外部へ漏洩しないような機能(弁機能)を有すると共に、トレーニング者がカテーテルを前記導入管50〜53へ導入し、かつそこから引抜きができるような構造を有する。本実施形態において、前記導入管50は、前記導入部11cを通じて、前記冠動脈モデル30(図4)、前記TAVIモデル40(図5)、80(図6)又は100(図7)にそれぞれ形成された大動脈32、45、82、102に接続される。同様に、前記導入管51は、前記導入部11dを通じて前記右心系モデル20(図3)に形成された下大静脈22に、前記導入管52は、前記導入部12aを通じて前記冠動脈モデル30、前記TAVIモデル40にそれぞれ形成された右鎖骨下動脈34、46に、前記導入管53は、前記導入部13aを通じて前記右心系モデル20、前記TAVIモデル40にそれぞれ形成された上大静脈23、43にそれぞれ接続される。
次に、図2及び図3を参照して、容器10の収容部10aに、本発明に係る心臓モデルの一つである右心系モデル20(四腔型モデルの一実施形態)を設置した場合の態様について説明する。
カテーテルを心臓内部に到達させる際には、心臓に通じる太い血管(大静脈)に繋がる右心室系(右心房、右心室)からカテーテルを挿入するのが一般的であり、前記右心系モデル30は心臓内部のカテーテル検査、手術等のシミュレーション用に形成されたものである。
図3に示すように、本実施形態の右心系モデル20は、人体の心臓を模した本体20Aを備えており、前記本体の内部は、人体の心臓と同様に、右心房20A1、右心室20A2、左心房(図示せず)、左心室20A4が形成されている。前記右心房20A1には大静脈(下大静脈22、上大静脈23)が、前記右心室20A2には肺動脈24が繋がっている。前記下大静脈22、前記上大静脈23は、カテーテル導入路となるため、前記容器10に形成されたカテーテル導入部11d、13aに接続可能な程度に十分長く形成されている。前記下大静脈22、前記上大静脈23の各先端部は開口しており(開口部22a、23a)、それぞれ前記容器10に形成された前記導入部11d、13aに接続されて、カテーテルの導入口となる。
前記下大静脈22は、鼠径部を走行する大腿静脈に至っており、鼠径部から導入されるカテーテルの導入路となり、前記上大静脈23は、首の付け根を走行する内頸静脈から導入されるカテーテルの導入路となる。前記右心系モデル20を用いたシミュレーション対象である心臓内部の検査や手術では、カテーテルを導入する血管は、大腿静脈が一般的であり、患者の状況等によって、内頸静脈が選択されることもあるため、実情に即した二通りの導入経路を選択可能としている。
前記右心系モデル20の本体20Aの尾側(端部)には、前記容器10と接続するサポート部21が形成されている。前記サポート部21は、人体には存在しないが、本実施形態においては、図3に示すように二つの略直方体を繋げたような形状をしている。前記サポート部21の端部に形成された凹部21a、21bが前記容器10の接続部11a、11cの各保持突起11f、11gに接続され、前記右心系モデル20を、前記容器10に安定的に固定する機能を有する。これにより、前記右心系モデル20は、容器の収容部10aに充填した液体中に浮遊するように、前記接続部11a、11cによって保持される。
上述したように、前記右心系モデル20を用いる場合には、前記したポンプ60を接続して、液体を循環させる必要はなく、容器10に充填された液体が、右心系モデル内に満たされていれば良い。このため、前記サポート部21の凹部21aは、本体20Aの内部に連通していなくても良い。
次に、図4を参照し、本実施形態における冠動脈モデル30について説明する。
図4に示すように、前記冠動脈モデル30は、人体の心臓を模した本体30Aを備えている。人体の心臓は、右心房、右心室、左心房、左心室を備えているが、前記本体30Aはこのような内部構造は備えておらず、内部は空洞となっている。
図4に示すように、前記本体30Aの頭側には、人体の心臓と同様、大動脈32が設けられている。また、本体30Aの尾側に形成された心尖部には流入管(端部)31が設けられている。前記流入管31は人体には存在しないが、本実施形態においては、ポンプ60(図12参照)から送られてくる液体(拍動流)を本体30A内に流入させる経路となる。前記流入管31から本体30A内に流入した液体は、一定の方向性をもって空洞内部を通過し、そのままの流れで前記大動脈32に到達する。
前記本体30Aの表面には、人体の心臓と同様、細く複雑な形状をもつ多数の冠動脈33が形成されている。前記冠動脈33は、前記大動脈32の根元から分岐しており、本体30Aの表面に沿うように設けられている。なお、本実施形態では、前記冠動脈33の先端領域に排出口33aが形成されており、前記冠動脈33に流入した液体は前記排出口33aから外部(本体30Aの外部)に排出される。
上記した大動脈32の経路上には、人体において大動脈と接続する血管の模擬体が設けられていることが好ましい。本実施形態においては、図4に示すような模擬血管、具体的には、人体と同様な、右鎖骨下動脈34、総頸動脈35、36、および、左鎖骨下動脈37が設けられている。前記右鎖骨下動脈34は、腕から導入されるカテーテルの導入路であり、トレーニング者が操作するカテーテルは前記右鎖骨下動脈34から前記大動脈32へ到達し、更に、その根元から分岐する冠動脈33に挿入される。また、図4において、本体30Aの裏側に延びる大動脈32は、鼠径部を走行する大腿動脈に至っており、鼠径部から導入されるカテーテルの導入路となる。
なお、上記した冠動脈モデル30は、流入管31の開口31aが接続部11aの保持突起11fに接続されるとともに、大動脈32の開口32aが接続部11cの保持突起11gに接続されることで液体中に浮遊するように保持される。そして、この状態で流入管31を介して外部ポンプから拍動流が流入される。
次に、図5を参照し、本実施形態におけるTAVIモデル40について説明する。図5に示すように、前記TAVIモデルは、人体の心臓を模した本体40Aを備えており、前記本体40Aの内部は、右心房40A1、右心室40A2、左心房(図示せず)、左心室40A4が形成されている。人体の心臓と同様に、前記右心房40A1には大静脈(下大静脈42、上大静脈43)が、前記右心室20A2には肺動脈44が、前記左心室40A2には大動脈45が繋がっている。尚、大動脈には、図4で示す冠動脈モデル30のように、左鎖骨下動脈37、総頸動脈35、36を備えていてもよい。また、大動脈45と左心室40A4の接続部には大動脈弁が配置されているが、実施形態に応じ弁をつけないことも可能である。前記大動脈45、前記下大静脈42、前記右鎖骨下動脈46、前記上大静脈43は、カテーテル導入路となるため、前記容器10に形成された接続部11c、カテーテル導入部11d、12a、13aに接続可能な程度に十分長く形成されている。前記大動脈45、前記下大静脈42、前記右鎖骨下動脈46、前記上大静脈43の各先端部は開口しており(開口部45a、42a、46a、43a)、図5に示すように、前記接続部11c、前記導入部11d、12a、13aに接続されてカテーテルの導入口となる。
図5に示すように、心臓本体の尾側に形成された心尖部には流入管41が設けられている。前記流入管41は人体に存在しないが、上述した冠動脈モデル30と同様に、本実施形態においては、ポンプ60(図12参照)から送られてくる液体(拍動流)を本体内に流入させる経路となる。前記流入管41から本体内に流入した液体は、主に左心室40A4から大動脈45へと流入し、一部は冠動脈、残りは大動脈から総頸動脈や鎖骨下動脈、下行大動脈へと流れる。尚、図はTAVIモデルの骨格となる部分のみを簡単に表現しているが、図4に示すように冠動脈33や総頸動脈35、36、鎖骨下動脈34、37を備えていてもよい。また、この際、冠動脈分枝部(入口部)は大動脈弁の頭側に位置する。
前記大動脈45、下大静脈42はそれぞれ、鼠径部を走行する大腿動脈、大腿静脈に至っており、鼠径部から導入されるカテーテルの導入路となる。前記上大静脈43は、首の付け根を走行する内頸静脈から導入されるカテーテルの導入路となる。前記TAVIモデル40を用いたシミュレーション対象である経カテーテル的大動脈弁置換術等では、カテーテルを導入する部位は、大腿動脈または心尖部が一般的であるが、患者の状況等によって、鎖骨下動脈、大腿静脈や内頸静脈が選択されることもあるため、実情に即した導入経路を追加可能としている。例えば、心尖部からのアプローチの場合、流入管41は、以下に詳述するように同時にカテーテルの挿入経路として利用することになるが、この際、ポンプから開口部41aにつなぐ間にカテーテルを挿入できるよう、新たにカテーテル導入部を設けるか、二股に分かれた管をつないでもよい。
図6は、TAVIモデルの別の実施形態(第2の実施形態であるTAVIモデル80)を説明する図である。
図6に示すように、前記TAVIモデル80は、人体の心臓を模した本体80Aの内部に右心房、右心室、左心房、左心室が形成されておらず、空洞である。前記本体80Aの内部を空洞とすることで、上記した冠動脈モデル30と同様に、ポンプ60から流入した拍動流によって、本体80Aが拍動しやすくなる利点がある。カテーテルが左心室から大動脈までの内部のみを移動するものであって、他の右心房、右心室、左心房の内部を移動するシミュレーションではないため、前記本体80Aの内部にはこれらのしきり、すなわち、心房中隔、心室中隔、三尖弁、僧帽弁が形成されていなくても大きな支障とはならない。一体となった空洞を左心室と見立ててシミュレーションすることが可能である。
人体の心臓と同様に、前記本体80Aの頭側には、大動脈82が設けられている。この大動脈82は、前記本体80Aの頭側から本体80Aの内部に突き出ており、その先端には人体同様に大動脈弁82Aが形成されている。前記大動脈弁82Aは、人体において大動脈82と左心室の境界に位置するが、本実施形態では左心室が形成されていないため、大動脈82は左心室がある場合に想定される位置付近まで本体80Aの内部に突き出ており、その先端に大動脈弁82Aが形成されている。
前記大動脈弁82Aは、人体と同様に、右冠尖82A1、左冠尖82A2、無冠尖82A3の三つの弁尖を有する。前記大動脈弁82Aは、これら3つの弁尖が花びらのように根元で繋がっている形状であって、各弁尖82A1、82A2、82A3は丸みを帯びた花びら状となっている。各弁尖の底部には3色の異なる点印(赤、黄色、緑)が描かれており、医療従事者の共通認識に従って、各弁尖と色が1対1で対応づけられたものとなっている。これらの点印は、目視下でカテーテルを導入し、模擬する際の目印となる。さらに、これらの点印にX線不透過の素材を使用することで、X線透視下でも、いわゆる不透過マーカーとして、模擬する際の目印とすることができる。なお、マーカーの形状は目印として認識できれば良く、図のような点印に限定されない。各弁尖の底部以外にも、弁輪部に同様の処理を行い目印とすることもできる。この部分もX線不透過の素材を使用することで、多くの大動脈弁狭窄症でみられる石灰化した状況を再現することができる。
また、本体80Aの尾側に形成された心尖部には流入管(端部)81が設けられている。前記流入管81は人体には存在しないが、本実施形態においては、前記ポンプ60から送られてくる液体(拍動流)を本体80A内に流入させる経路となる。前記本体80Aの表面には、人体の心臓と同様、冠動脈83が形成されており、上述した冠動脈モデル30と同様なシミュレーションを行うことも可能である。前記冠動脈83は、TAVIモデルによる経カテーテル的大動脈弁置換術等のシミュレーションに必須ではないため形成されていなくても良いが、あることが望ましい。経カテーテル的大動脈弁置換術では、合併症として冠動脈閉塞が発生することがあり、当該手術においては、冠動脈の造影を行ない、その閉塞状態を確認することがある。
上記した大動脈82の経路上には、人体において大動脈と接続する血管の模擬体が設けられていることが好ましい。本実施形態においては、図6に示すような模擬血管、具体的には、人体と同様な、右鎖骨下動脈84、総頸動脈85、86、および、左鎖骨下動脈87が設けられている。また、図6において、本体80Aの裏側に延びる大動脈82は、鼠径部を走行する大腿動脈に至っており、鼠径部から導入されるカテーテルの導入路となる。なお、心尖部アプローチの場合には、流入管81の開口81aからカテーテルが導入される。この場合、前記開口81aは、上述したように前記ポンプ60からの拍動流の流入口となると共に、心尖部アプローチにおけるカテーテル導入口にもなる。
図5のTAVIモデル40又は図6のTAVIモデル80については、流入管の開口41a、81aの径を冠動脈モデル(図4の流入管の開口31a)よりも大きくすることで、留置したステントバルブを心尖部側から容易に取り出せるようにすることができる。
図7〜8はTAVIモデルの別の実施形態(第3の実施形態であるTAVIモデル100を説明する図である。
図7に示すように、前記TAVIモデル100は、上記したTAVIモデル80と同様に、人体の心臓を模した本体100Aの内部に右心房、右心室、左心房、左心室が形成されておらず、空洞である。前記本体100Aの内部を空洞とすることで、ポンプ60から流入した拍動流によって、本体100Aが拍動しやすくなる利点がある。カテーテルが左心室から大動脈までの内部のみを移動するものであって、他の右心房、右心室、左心房の内部を移動するシミュレーションではないため、前記本体100Aの内部にはこれらのしきり、すなわち、心房中隔、心室中隔、三尖弁、僧帽弁が形成されていなくても大きな支障とはならない。一体となった空洞を左心室と見立ててシミュレーションすることが可能である。
人体の心臓と同様に、前記本体100Aの頭側には、大動脈102が設けられている。この大動脈102は、前記本体100Aの頭側から本体100Aの内部に突き出ており、その先端は開口102bとなっている。前記開口102bに対して、着脱可能な大動脈弁110が装着される。前記大動脈弁110は人体において、大動脈102と左心室の境界に位置するが、本実施形態では左心室が形成されていないため、大動脈102は左心室がある場合に想定される位置付近まで本体100Aの内部に突き出ており、その先端に大動脈弁110が装着されるように構成されている。
人体においては、第2実施形態の前記TAVIモデル80のように、大動脈の先端に大動脈弁が一体的に繋がっているが、本実施形態のTAVIモデル100においては、大動脈弁110はそれ以外の部分とは別々に形成されており、着脱可能となっている。このため、様々な症例、患者固有の状況に合わせた大動脈弁100を準備しておくと、大動脈弁100のみを交換することによって、様々な大動脈弁に対するシミュレーションを簡便に実施することができるようになる。前記TAVIモデル80の場合、大動脈弁に合わせてTAVIモデル全体を複数形成し、設置の際も、モデル全体を入れ替える必要があるが、前記TAVIモデル100の場合には、大動脈弁のみを複数準備すればよく、また設置の際も、大動脈弁のみを着脱交換すればよい。製造コスト、作業効率、保管スペース等の多くの点で効率的である。
また大動脈弁110を着脱可能とすることで、後述するように、シミュレーション終了時に大動脈弁110に留置されたステンドバルブ(人工弁付ステント)を容易に取り外せるようになる。以下、図7(b)〜図9を参照して、大動脈102及び大動脈に対して着脱される大動脈弁110について説明する。
図7(b)に示すように、前記大動脈弁110は、人体の大動脈弁を模した右冠尖110A1、左冠尖110A2、無冠尖110A3の各弁尖を具備する弁尖部110A、これらの弁尖が花びらのように繋がる前記弁尖部110Aの根元であって環状の弁輪部114、弁輪部114と繋がり、着脱時にユーザーの持ち手となる筒状の左室流出路部112を備える。前記大動脈弁110は、前記弁尖部110Aを前方にして、前記流入管の開口101aから心臓本体100Aの内部に差し込まれ、大動脈の開口102bに挿入される。挿入後、前記弁輪部114が開口102bの周縁部102cと接続されることによって、前記大動脈弁110は大動脈102の先端に固定、装着される。
ここで、後述するように、前記弁輪部114と開口102bの周縁部102cは、それぞれに接着されたインナーリング120の突起114Bと、アウターリング130の突起102Bを回転して重ね合せて接続される構造となっている。このため、挿入時には、弁輪部114側の突起114Bが、大動脈102側の内側内面に形成された突起102Bに接触しないように挿入する必要がある。図8に示すように、大動脈弁110及び大動脈102の外面に目印(図の黒丸)をつけて黒丸印を合わせるように挿入したり、周縁部102c上に突起102fを形成して、この突起102fに前記突起114Bが接触しないように挿入することによって、大動脈弁110を正しい向きで挿入することができる。
次に、図8及び図9を参照し、前記弁輪部114を前記大動脈の開口周縁部102cと接続する構造について説明する。前記弁輪部114の外周には、インナーリング120が固定されており、大動脈102の開口102bの周縁部102cの内側内周面には、アウターリング130が固定されている。前記インナーリング120は、環状の母体120Aと、母体120Aの外周に形成され、断面が略長方形状の突起114Bを有し、前記大動脈弁110の弁輪部114の外側に接着、固定される。前記突起114Bは、前記母体120Aの外周上の下部に、中心角80°程度の長さで、対向する2箇所に形成されており、突起114Bの端部の一方は、図に示すように周方向に連続形成された凸部114D、凹部114Eを備えている。一方、前記アウターリング130は、環状の母体130Aと、母体130Aの内周に沿って形成され、断面が略長方形状の突起102Bを有し、前記大動脈102の開口102cの周縁部102cの内側内周面に固定される。前記突起102Bは、前記母体130Aの内周上の上部に、中心角90°程度の長さで、対向する2箇所に形成されており、前記突起102Bの端部の一方は、図に示すように凸部102Eを備えている。
なお、アウターリング130は、大動脈102の開口102bの周縁部102cの内側内周面に円周溝102eを形成し、その部分に埋め込まれる。この場合、アウターリング130は、大動脈102の材料よりも硬い硬質樹脂(例えば、エポキシ系、ウレタン系の硬質樹脂)で形成されている。このように硬質のアウターリング130を埋め込むことで、大動脈弁110を大動脈102に接続する際、開口部分の変形を防止して両者を外れにくくする効果を奏する。
次に、大動脈弁110の外側に固定された前記インナーリング120を、大動脈の開口102cの内側に固定された前記アウターリング130に回転して係合する方法について説明する。図9の点線矢印で示すように、インナーリング120の突起114Bをアウターリングの突起102Bに、円周上で重ならないように挿入し、その後時計回りに90°程度回転させると、突起102Bの下部に突起114Bが位置するようになる。ここで、アウターリングの母体130Aの内周面には、前記凸部102Eから周方向にわずかに離れた位置に停止具130Bが形成されており、この停止具によってインナーリング120が90°程度回転した位置で突起114Bが停止するように設計されている。またその際、前記突起114の先端の凹部114Eが、前記突起102Bの凸部102Eに嵌合し、前記突起114の先端の凸部114Dが、前記突起102Bの凸部102Eと前記停止具130Bとの隙間に固定される。
このように凸部と凹部を嵌合接続して、固定することによって、装着された大動脈弁の安定性を向上することが出来る。大動脈弁110と大動脈102が係合する部分は、導入するカテーテルに押されたり、ポンプから流入する拍動流の圧力を受けたりするため、その接続が安定していることが好ましい。また、大動脈弁110を装着、固定した際、上述した各弁尖(右冠尖110A1、左冠尖110A2、無冠尖110A3)の位置が人体と同様になるように、前記弁輪部114に対するインナーリング120の円周方向の固定位置、大動脈102の開口102bの周縁部102cの内側内周面に対するアウターリング130の円周方向の固定位置を設計しておくことが好ましい。本実施形態では、前記突起114B及び102Bの円周方向の長さは中心角80〜90°の円周分で、突起の数はそれぞれ円周上に2箇所であるが、その長さや数は特に限定されるものでなく、上記したように、突起102Bと突起114Bが大動脈弁の装着時に重なり合う構造であれば良い。
前記突起102Bと前記母体130Aの連続部の一部にはスリット102Dが設けられており、これによって、前記凸部114Dが前記凸部102Eに接触した際に、前記凸部102Eが(図9の上方方向に)若干持ち上がるようになっている。このため前記凸部114Dは、前記凸部102Eに接触後も回転し、突起102Bの端部を変位させた後、前方の停止具130Bに達することができるように構成されている。これにより、大動脈の装着時に節度感を持たせることができ、ユーザーに正確な装着位置を把握させることができる。
インナーリング120又はアウターリング130には、着色を施しておくことが好ましい。これによって大動脈弁110を着脱する際に、大動脈の所定位置と位置合わせとなる目印となるほか、目視下でカテーテルを導入し、ステントバルブ留置を模擬する際の位置の目安にもすることができる。また、着色部分にX線不透過の素材を使用すると、X線透視下においても、いわゆる不透過マーカーとして、模擬する際の目印となる。周縁部102c及び開口102bの代わりに大動脈弁110の弁輪部114および突起114Bに着色、あるいはX線不透過の素材を用いてもよい。TAVIモデルのシミュレーション対象となるカテーテル手技が必要となる大動脈弁狭窄症等においては、通常、患者の弁輪部は石灰化した状況にありX線不透過であることから、これによって、人体と同様の状況を再現することが可能となる。さらに、弁尖部110Aや大動脈102についても、その表面にX線不透過性を有する物質を塗布したり、弁輪部110Aの形成素材にX線不透過性を持たせることによって、人体と同様の石灰化の状況を再現でき、X線透過下におけるシミュレーションを、より一層現実に近いものとすることが可能となる。なお、このようなX線不透過性の素材には、例えば、ハイドロキシアパタイトやカルシウム成分又は金属成分を含む物質が挙げられる。
図10は、大動脈弁110内部に支持部(表面の摩擦力を向上する凹凸)116を備える実施形態を示す。この実施形態においては、図に示すように、大動脈弁110の弁輪部114の内壁に、弁輪部114の内周に沿って略三角形状の支持部116が多数形成されている。前記支持部116は人体には存在しないが、カテーテル操作により留置したステントバルブを確実に固定、支持することができる利点がある。具体的には、ステントバルブ留置の施術等を行う患者の大動脈弁は、石灰化等によって表面がざらついていたり、弁自体の硬度が高いため、ステントバルブは固定されやすいが、心臓モデルを用いるシミュレーションでは、大動脈弁の表面は滑らかで、弁自体の硬度もそれほど高くないため、留置したステントバルブが滑って拍動流の流れに沿って動いてしまうことがある。大動脈弁110の内壁に、それよりも表面摩擦力を向上する前記支持部116を形成することでこのような問題を解消できる。
図7(a)に示すように、本体100Aの尾側に形成された心尖部には流入管(端部)101が設けられている。前記流入管101は人体には存在しないが、本実施形態においては、前記ポンプ60から送られてくる液体(拍動流)を本体100A内に流入させる経路となる。前記本体100Aの表面には、人体の心臓と同様、冠動脈103が形成されており、上述した冠動脈モデル30と同様なシミュレーションを行うことも可能である。前記冠動脈103は、TAVIモデルによる経カテーテル的大動脈弁置換術等のシミュレーションに必須ではないため形成されていなくても良いが、あることが望ましい。経カテーテル的大動脈弁置換術では、合併症として冠動脈閉塞が発生することがあり、当該手術においては、冠動脈の造影を行ない、その閉塞状態を確認することがある。また、事前に冠動脈内にガイドワイヤを挿入しておくことで、閉塞した際の対処が可能となる。
前記流入管101の内径は、前記大動脈弁110の外径よりも大きく形成することが好ましい。これによりステントバルブが留置された大動脈弁110を取り出す際、その経路となる流入管101内を大動脈弁110が容易に通過できるようになる。大動脈弁110は人体を模した大きさであることが好ましく、前記流入管101の内径を調整することによって、大動脈弁110の外径より大きくすることが好ましい。
上記した大動脈102の経路上には、人体において大動脈と接続する血管の模擬体が設けられていることが好ましい。本実施形態においては、図7(a)に示す模擬血管、具体的には、人体と同様な、右鎖骨下動脈104、総頸動脈105、106、および、左鎖骨下動脈107が設けられている。また、図7(a)において、本体100Aの裏側に延びる大動脈102は、鼠径部を走行する大腿動脈に至っており、鼠径部から導入されるカテーテルの導入路となる。なお、心尖部アプローチの場合には、流入管101の開口101aからカテーテルが導入される。この場合、前記開口101aは、上述したように前記ポンプ60からの拍動流の流入口となると共に、心尖部アプローチにおけるカテーテル導入口にもなる。
上記したTAVIモデル40、80又は100を用いたシミュレーションにおいて、大動脈弁に留置するステントバルブは、形状記憶合金で形成され、体温に近い温度(30℃〜40℃近辺)で拡張し、留置されるシステムを採用しているものがある。この場合、前記容器10の温度を人の体温と同程度に維持可能な恒温槽の機能(容器10に設置されるヒーター等)を付加することで、実際の手術と同様なシミュレーションを実施することができる。
なお、TAVIモデル80又は100を用いる場合、心臓本体80A又は100Aの内部が空洞であることから、ポンプ60から流入した拍動流が心臓本体の内部で散逸してしまい、拍動流が大動脈弁82A(110)に集中しにくいことがある。次に、その課題を解消する延長部材140について説明する。図11は延長部材140の斜視図であり、延長部材140は筒状の延長部144と、延長部144とねじ嵌合すると共に、前記容器10の保持突起11f及びTAVIモデル80(100)の流入管81(101)と接続する筒状の基部142を有する。図に示すように基部142は外周面上に凹凸があり、流入管81(101)に挿入した際、外れにくいように構成されている。
基部142の内部には、その内部を貫通し、ねじ溝が形成された内壁を備える開口142cが形成されている。前記延長部144の端部の一方144bにはねじ山が形成されており、このねじ山が前記開口142cのねじ溝と回転嵌合することによって、基部142と延長部144が接続される。延長部144の内部には貫通開口144cが形成されており、基材142と延長部144とが接続されると、この開口144cと前記開口142cとが連通するようになる。
このようにして基材142と延長部144とを繋いだ延長部材140を、前記保持突起11fに接続し、その後流入管81(101)を基部142の外側に装着すると、ポンプ60から送り出された拍動流は、開口142cを介して開口144c内を通過後、延長部144のもう一方の端部144aから排出し、TAVIモデル80(100)の心臓本体80A(100A)に流入する。すなわち、心臓本体80A(100A)における拍動流の流入口は、延長部材140を用いることによって、流入管81(101)の付け根から前記端部144aに移動するため、より大動脈弁82A(110)に近づくようになる。心臓モデルに流入する拍動流の流入口をより大動脈弁82A(110)に近づけることによって、拍動流を散逸させることなく大動脈弁82A(110)に集中させることが可能となる。
前記開口142c内の前記端部144bの位置は、ねじ嵌合により調整可能であり、これによって心臓モデルに流入する拍動流の流入口(端部124b)の位置を可変できるように構成されている。これによりシミュレーションに使用するTAVIモデルの大きさや拍動流の圧力等に応じて、前記端部124bの位置を調整することができ、大動脈弁82A(110)に対する拍動流の集中度合いを最適化できる。
図12は、二股コック70を備えたカテーテル・シミュレーター用容器10の使用態様を示す図である。各TAVIモデルにおいて上記した心尖部アプローチをシミュレーションする場合、図12に示すように、前記容器10の接続部11aに二股に分れた管(二股コック70)を繋ぐと良い。これにより、一つの開口41a、81a又は101aによって、拍動流の流入とカテーテルの導入が実現できるようになる。図7において、前記容器10は、供給管63及び排出管61を介してポンプ60と接続されており、前記供給管63と前記容器の接続部11aの間には前記二股コック70が介在している。
図12に示すように、前記容器10は固定台200に設置しても良い。挿入されるカテーテル、ガイドワイヤ、その他デバイスによっては、トレーニング者がこれらの挿入時に加える圧力によって、容器10が移動してしまうため、固定台200で固定することによって、このような事態を防止できる。前記固定台200は、容器10の保持、固定に十分な強度を持ち、容器10に充填する液体に耐性を持つ素材(硬化ウレタンフォーム等)により形成されていれば良い。安定性があれば、形状は特に限定されないが、図12のように板状とした場合、板面上に窪みを形成して容器10を設置することができる。これにより、液体の満たされた容器10が重しとなり、固定台200が動きにくくなり、安定した操作が可能となる。また、固定台200の上に、カテーテルの導入路を挟持、固定する固定部91を形成しても良い。これにより、トレーニング者がカテーテル等の挿入時に圧力を加えやすくなる。
また、同様の理由によって、前記容器10内に設置された心臓モデルが、容器10の保持突起11f、11gから外れてしまうことがある。その場合には、心臓モデルを保持突起11f、11gに接続後、固定用リング(図示せず)によって接続を補強したり、心臓モデルを保持台(図示せず)によって固定したりすることによって、上記した事態を防ぐことが出来る。
次に、図13〜図14を参照して、前記二股コック70について説明する。前記二股コック70の本体70Aは、前記ポンプ60からの液体(拍動流)が流入する流入管71、カテーテルの導入路72、前記カテーテルの導入路72に設置され、一方向弁として機能するダックビルバルブ74、ダックビルバルブ74に隣接するシリコンゴムパッキン76、シリコンゴムパッキン76に隣接し、外部からカテーテルを挿入するカテーテル導入口78aを備えるエンドプレート78を有する。前記流入管71は前記導入路72に対して直交するように配設されており、前記流入管71の開口71aは、前記ダックビルバルブ74の下流側で前記カテーテル導入路72の内部に連通している。このため、前記流入管71を通過した拍動流は、開口71aを介して前記導入路72に流入する。なお、前記流入管71は、前記ダックビルバルブ74の下流側で前記カテーテル導入路72の内部に連通するように導入路72に配設されていれば良く、必ずしも導入路72に対して直交するように配設される必要はない。
前記導入路72の一端72aには、ネジ状の凹凸が形成されており、前記容器10の接続部11aにネジ螺合によって接続される。これによって前記流入管71から導入路72に流入した液体は、前記一端72aを介して、前記容器10内のTAVIモデル40、80又は100に流れ込む。
前記導入路72の内部において、前記流入管71が直交配設される箇所と前記エンドプレート78との間には、前記ダックビルバルブ74及びシリコンゴムパッキン76が配設されている。前記ダックビルバルブ74は開口時にカテーテルの挿入を許容するものであって、前記シリコンゴムパッキン76には、カテーテルが挿通する孔76aが形成されている。これらは、前記導入路72に流入した液体がカテーテル導入口78aの外部に漏出しないよう逆止弁として機能しつつ、かつ、カテーテルの挿抜を許容する役割を果たす。
前記ダックビルバルブ74の断面は鳥のくちばし状であるため、断面略円状のカテーテルが導入されると、両者間に隙間が生じ、この際、前記流入管71の液体がダックビルバルブ74から漏出してしまう。この漏出した液体を前記シリコンゴムパッキン76で流出防止することによって、前記導入路72に流入した液体がカテーテル導入口78aから外部に漏出しないよう逆止弁として機能させることができる。具体的には、前記シリコンゴムパッキン76に形成されたカテーテル貫通孔76aの径を、カテーテルの径より小さく設計することによって、カテーテルを貫通孔76aに密着させて隙間をなくす事が出来、ダックビルバルブ74から漏出した液体をシリコンゴムパッキン76によって流出防止可能である。
一方、シミュレーション終了後にカテーテルを引き抜いた場合には、ダックビルバルブ74が前記カテーテル導入路72内の液圧によって自動閉口するため、前記カテーテル導入管72内の液体がダックビルバルブ74で遮断され、その結果カテーテル導入口78aから外部への液体流出が制限されたまま保たれる。液体流出防止のための機構として、カテーテル導入口78aの部分に蓋または栓をつけてもよい。
なお、二股コック70については、カテーテルの挿通部とポンプ60からの流入口が一致する場合において、カテーテルの心臓モデルへの挿入を許容し、かつ、ポンプ60から送り込まれる液体がカテーテル挿入部側に漏れないような逆止弁構造を有するものであればよく、内部に設置される弁体や液体の漏れを防止する機構については、クロススリットバルブを用いる等、適宜、変形することが可能である。
図14は二股コック90にクロススリットバルブ94を用いた例を示している。前記二股コック90の本体90Aは、前記ポンプ60からの液体(拍動流)が流入する流入管91、カテーテルの導入路92、前記カテーテルの導入路92に設置され、一方向弁として機能するシリコン製のクロススリットバルブ94、クロススリットバルブ94に隣接するバルブユニット96、バルブユニット96に隣接し、外部からカテーテルを挿入するカテーテル導入口98aを備えるエンドプレート98を有する。前記流入管91は前記導入路92に対して直交するように配設されており、前記流入管91の開口91aは、前記クロススリットバルブ94の下流側で前記カテーテル導入路92の内部に連通している。このため、前記流入管91を通過した拍動流は、開口91aを介して前記導入路92に流入する。なお、前記流入管91は、前記クロススリットバルブ94の下流側で前記カテーテル導入路92の内部に連通するように導入路92に配設されていれば良く、必ずしも導入路92に対して直交するように配設される必要はない。
前記導入路92の一端92aには、ネジ状の凹凸が形成されており、前記容器10の接続部11aにネジ螺合によって接続される。これによって前記流入管91から導入路92に流入した液体は、前記一端92aを介して、前記容器10内のTAVIモデル40、80又は100に流れ込む。
前記導入路92の内部において、前記流入管91が直交配設される箇所と前記エンドプレート98との間には、クロススリットバルブ94及びバルブユニット96が配設されている。前記バルブユニット96は、内部にスリット入シリコンプレート96Aを備えており、このシリコンプレート96Aと前記クロススリットバルブ94及びエンドプレート98の間には、図14のようにプラスチックスペーサー96B及びプラスチックスペーサー96B間の密着度を高めるためのゲル96Cが設けられている。前記バルブユニット96の各構成部材(シリコンプレート96A、プラスチックスペーサー96B、ゲル96C)には、カテーテルの挿抜を許容する孔が形成されている。前記クロススリットバルブ94と前記スリット入りシリコンプレート96Aを組み合わせることによって、前記導入路92に流入した液体がカテーテル導入口98aの外部に漏出しないよう逆止弁としての効果を実現でき、かつ、カテーテルの挿抜を許容することができる。なお、前記スリット入りシリコンプレート96Aは、図14の実施例では2枚構成(スリットの形状が横スリット、縦スリットの各1枚構成)としているが、これに限定されず、スリットの形状やプレートの枚数については複数通りの組合せが可能である。
上記した心臓モデル(右心系モデル20、冠動脈モデル30、TAVIモデル40、80又は100)は、実際の人体の心臓に近い弾力性を有する材料によって形成されており、シミュレーションの際、現実に近いカテーテル操作時の感触を得ることができる。また、前記冠動脈モデル30、前記TAVIモデル40、80又は100を用いたシミュレーション時には、心尖部から大動脈に向けて拍動流を流入させると、弾力性のある心臓本体が膨張と伸縮を繰り返し、実際の心臓のように、血液(液体)を送り出すことが可能となる。このような弾力性を有する材料は、例えばPVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせたもの等が挙げられる。これにより、人体の臓器に近い触手感覚にてカテーテル操作を訓練することが可能となる。
また、前記心臓モデル(右心系モデル20、冠動脈モデル30、TAVIモデル40、80又は100)については、透明又は半透明の材料によって作製することで、トレーニング者は、挿入されるカテーテル、ガイドワイヤ、その他のデバイスの動きを、直接、目視によって観察することができ、さらに、カテーテルから注入される注入剤が示す挙動を視覚的に認識することが可能となる。すなわち、手元での操作とカテーテル先端の動きをリンクさせながら、心臓カテーテル検査、治療をシミュレーションすることが可能となる。なお、トレーニング者が視認できる材料で前記心臓モデルを作製した場合でも、前記心臓モデルが目視できないように容器10にカバー等を被せたり、或いは、X線による透視をしてモニタ等に表示すれば、カテーテルの挙動をモニタ上のみで把握することも可能である。
また、上記した各心臓モデル(右心系モデル20、冠動脈モデル30、TAVIモデル40又は80)は、人工的な継ぎ目を有さず、一体的に製造されることが好ましい。これにより、継ぎ目によって人体には見られない血流が発生することを防止でき、また、カテーテル挿入時に、継ぎ目によって視界が遮断されることを防止できるほか、X線透視下での不自然な陰影の出現が生じない。
上述したような性質を満たす材料を用いて、心臓モデルを形成する方法として、例えば、本出願人が発明した光学的造形法(日本特許第5236103号)を用いることが可能である。前記造形法を用いると、人体臓器の撮影データ(心臓CTデータ)に基づいて、患者毎の高精度な心臓モデルを比較的低コストで短期間のうちに形成できる。このため、トレーニング者は、実際の手術に先立って、患者固有の血管構造や疾患部位を考慮した、カテーテル操作を模擬訓練することが可能となる。また、検査や手術の前に患者に最適なカテーテルや各種のデバイスを選択検討する等、実際のカテーテル操作前の事前準備としても、本発明に係るカテーテル・シミュレーターを活用可能となる。これにより、カテーテルの入れ替えに伴う血管損傷や脳塞栓症などといったリスクの低減、患者の血管の解剖学的特性に合ったカテーテルを選ぶことで得られる手術成績の向上、さらに、カテーテルをはじめとする不要な医療機器の使用を抑えることによる医療費の抑制などにも寄与すると考えられる。
なお、上記した光学的造形法によって心臓モデルを形成した場合、人体に近い状態が再現できるため、心臓モデルの表面は平滑でなく、人体同様に軽微な凹凸が含まれる。この場合、上述したような透明または半透明の材料によって作製した場合であっても、前記凹凸面に可視光が乱反射するため、視認性が低下してしまうことがある。この場合には、心臓モデルの形成後に、同一の材料を表面にコーティングして前記凹凸面を平滑化することによって、乱反射を低減し、視認性を改善することが出来る。
前記TAVIモデル100は、着脱可能な大動脈弁110を有するため、大動脈弁110とそれ以外の部分は別々に形成されるが、上記した他の心臓モデルと同様の理由で、極力人工的な継ぎ目を有さず、上記光学的造形法やコーティング手法等で形成されることが好ましい。本実施形態においては、図9に示したインナーリング120、アウターリング130はエポキシ樹脂によって、それ以外の部分はシリコンによって形成されている。インナーリング120、アウターリング130の形成材料はエポキシ樹脂に限定されず、ウレタン等、心臓モデルのその他の部分の形成材料(本実施例におけるシリコン)より硬質の材料であればよい。
次に、カテーテル・シミュレーション用容器10及び各心臓モデル(右心系モデル20、冠動脈モデル30、TAVIモデル40、80又は100)の使用方法について、説明する。
前記右心系モデル20を用いる場合、図2に示すように、準備として前記容器10に液体を充填した状態で前記容器10の収容部10aに右心系モデル20を設置する。この際、前記本体の内部に空気が入らないように、液体中で、前記サポート部の端部21a、21bを、それぞれ前記容器の接続部11a、11cに接続して保持する。また、前記下大静脈22の先端部22aを前記容器の導入部11dに、前記上大静脈23の先端部23aを前記容器の導入部13aに接続する。
以上の準備を行い、カテーテルの操作訓練を開始する。本実施形態では、カテーテルを首の付け根の内頸静脈から挿入する場合と、鼠径部の大腿静脈から挿入する場合の二通りのシミュレーションが実施できる。トレーニング者が、前記内頸静脈からカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管53を介して、上大静脈23から導入される。前記上大静脈23から導入されたカテーテルは、右心房20A1に入り、右心室20A2に到達する。一方、トレーニング者が、前記大腿静脈からカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管51を介して、下大静脈22から導入される。前記下大静脈22から導入されたカテーテルは、右心房20A1に入り、右心室20A2に到達する。
カテーテルが前記右心房20A1、右心室20A2に到達した後は、対象の検査や手術に応じたシミュレーション、例えば、カテーテルの先端部に装着した電極により心電図を計測し、処置部を検出するマッピングや、カテーテル先端部の電極により疾患部を電気的に焼灼するアブレーション治療、病理検査の為に、疾患が疑われる部分の心臓の筋肉を摘んで採取する心筋生検等、心臓内部の圧力や心拍出量を測定するための右心カテーテル検査等、心臓内部のカテーテル操作を実施する。
次に、前記冠動脈モデル30を用いる場合について説明する。
この場合にはまず、拍動流を生成するポンプ60を本発明に係るカテーテル・シミュレーション用容器10と接続する。その際、前記ポンプ60から供給される液体の流れが、前記容器10の接続部11aから流入するように、前記ポンプ60の供給管63を前記容器10の外側に突出した前記接続部11aの先端に接続する。また、前記容器の収容部10aから前記ポンプ60へ排出される液体が、前記排出口11bから前記外部ポンプ60へ流出するように、前記排出口11bに前記ポンプ60の排出管61を接続する。
このようにして前記容器10と前記ポンプ60を接続後、準備として前記容器10に液体を充填した状態で前記容器の収容部10aに前記冠動脈モデル30を設置する。この際、前記冠動脈モデル30に空気が入らないように、液体中で、前記冠動脈モデル30の流入管31を前記容器の接続部11aの保持突起11fに接続するとともに、大動脈32の先端の開口部32aを前記容器の接続部11cの保持突起11gに接続し、さらに、右鎖骨下動脈34の先端の開口部34aを前記容器の導入部12aに接続する。以上の準備を行い、前記冠動脈モデル30を液体中に浮遊する状態で保持すると、前記ポンプ60から流入する拍動流によって、実際の心臓と同じように拍動させることが可能となる。
前記冠動脈モデル30に接続されるポンプ60は、液体に拍動流を生起させるように間欠的に駆動される。前記ポンプ60は、容器10に充填された液体を前記排出口11bから受け入れ、所定の圧力で前記導入管31に送り出して、容器10内の液体を還流させる機能を備えている。例えば、駆動モーターによってピストンを往復駆動し、液体を送り出すような循環型のポンプで構成することが可能である。この場合、往復駆動されるピストンのストロークを変えることで、1回の拍動で送り出す液体の量(血圧に対応する)を変更することができ、ピストンの1往復の時間を変えることで、心臓モデルの鼓動の周期(心拍数に対応する)を変えることができる。具体的には、最大で300mmHgの圧を毎分20〜200回出力することで、実際の人体に近い拍動流を生成することが可能となる。同様の拍動流はローブポンプ、チューブポンプなどの容積変化型のポンプでも生成することができる。なお、ポンプの液体を送り出す圧は、300mmHgを超えると、実際の人体の心臓の拍動とは異なる状態になることから、最大で300mmHgとなるように設定しておくことが好ましい。すなわち、0mmHg〜300mmHgの範囲で調整することにより、患者毎(患者の症例毎)に応じた拍動状態に設定することができる。
実際の心臓に対するカテーテル操作をシミュレーションするに際しては、想定し得る人体の拍動を考慮すると、心拍数20〜200bpm(beat per minute)であれば十分であり、実際の心臓手術では、心拍数が40〜100bpm程度の範囲で行なわれることが殆どと考えられるため、ポンプ60の能力としては、毎分20〜200回の拍動流を心臓モデルに送り込める仕様であれば良く、ポンプの負荷を考慮した場合、少なくとも毎分40〜150回の拍動流を心臓モデルに送り込めるものであれば効果的なシミュレーションを行うことが可能となる。
前記ポンプ60から送り出され、流入管31を介して前記冠動脈モデル30の本体30A内に流入した液体は、一部が冠動脈33に流入し、残りの部分は大動脈32に到達する。前記冠動脈33に流入した液体は、前記冠動脈33の先端に設けられた排出口33aから、前記心臓モデル30の外部に排出され、容器10に充填された液体に合流する。一方、前記大動脈32に流入した液体は、前記大動脈32の経路上に設けられた血管である頸動脈35、36、左鎖骨下動脈37を介して、容器20中に排出され、前記容器20に充填された液体に合流する。前記冠動脈33、前記頸動脈35、36、前記左鎖骨下動脈37の各先端開口部から容器10に排出された液体は、前記排出口11bから流出し、ポンプ60に循環する。この場合、排出口11bに異物を除去するフィルタ(図示せず)を配設することが好ましい。このようなフィルタを配設することで、シミュレーション中に容器内に異物等が混入しても、排出口部分で除去され、ポンプ60の動作に支障をきたすことはない。
前記冠動脈モデル30を用いる場合、このように模擬血流を発生させた状態で、カテーテルの操作訓練を開始する。本実施形態では、カテーテルを腕の動脈から挿入する場合と、鼠径部の動脈から挿入する場合の二通りのシミュレーションが実施できる。トレーニング者が腕の動脈からのカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管52を介して、右鎖骨下動脈34から導入される。前記右鎖骨下動脈34から導入されたカテーテルは、頸動脈35に入り込み、前記頸動脈35を通過して大動脈32に到達する。その後、カテーテルを更に挿入して行くと、カテーテルは、前記大動脈32内を通り、本体30Aとの接続部付近で分岐する冠動脈33の導入口(冠動脈入口部に相当)に位置する。この際、トレーニング者は、左右の冠動脈の内、挿入対象(治療対象)となる冠動脈33を目視しながら入口部を把握し、対象となる冠動脈入口部にカテーテルが係合するように操作を行なう。すなわち、トレーニング者は、細く形状が複雑な冠動脈33に対して、治療が必要となる冠動脈を目視しながらカテーテルを操作して入口部に係合させ、続いて治療に要するガイドワイヤを目的の部位まで進入させ、そのガイドワイヤに沿わせてバルーンカテーテルによる血管拡張や、ステント(金属の筒)を留置するなどの実際のカテーテル検査・手術(冠動脈造影検査・冠動脈形成術)に則した訓練ができる。
一方、トレーニング者が、鼠径部の動脈からのカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管50を介して、大動脈32の尾側先端(鼠径部に相当する部分)から導入される。カテーテルは、前記大動脈32内を通り、前記大動脈32と本体30Aとの接続部付近に設けられた冠動脈33の導入口に到達する。この場合、カテーテルの導入路は大動脈32の経路上のみであるが、その経路上に、頸動脈35、36および右鎖骨下動脈37との分岐点が存在するため、カテーテルを操作するに際して、各模擬血管との位置関係等を確認しながら冠動脈入口部に相当する前記導入口に到達させる訓練ができる。トレーニング者は、上記腕の血管で行う場合と同様に、カテーテル検査・手術のトレーニングが行える。
次に、TAVIモデル40を用いる場合について説明する。
まず、上述した冠動脈モデル30を使用する場合と同様に、前記ポンプ60をカテーテル・シミュレーション用容器10と接続する。その際、前記ポンプ60から供給される液体の流れが、前記容器10の接続部11aから流入するように、前記ポンプ60の供給管63を前記容器10の外側に突出した前記接続部11aの先端に接続する。また、前記容器の収容部10aから前記ポンプ60へ排出される液体が、前記排出口11bから前記ポンプ60へ流出するように、前記排出口11bに前記排出管61を接続する。
このようにして前記容器10と前記ポンプ60を接続後、準備として前記容器10に液体を充填した状態で前記容器の収容部10aに前記TAVIモデル40を設置する。この際、前記TAVIモデル40に空気が入らないように、液体中で、前記TAVIモデル40の流入管41を前記容器の接続部11aの保持突起11fに接続するとともに、大動脈45の先端部45aを前記容器の接続部11cの保持突起11gに接続し、さらに下大静脈42の先端の開口部42aを前記容器の導入部11dに、上大静脈43の先端の開口部43aを前記容器の導入部13aにそれぞれ接続する。
以上の準備を行い、前記TAVIモデル40を液体中に浮遊する状態で保持すると、前記ポンプ60から流入する拍動流によって、実際の心臓と同じように拍動させることが可能となる。前記ポンプ60は、上述した通り、冠動脈モデル30と接続する場合と同様の仕様によって、液体に拍動流を生起させるように間欠的に駆動される。
前記ポンプ60から送り出され、流入管41を介して前記TAVIモデル40の本体に流入した液体は、主に左心室40A4から大動脈45へと流入し、一部は冠動脈、残りは大動脈から総頸動脈や鎖骨下動脈、下行大動脈へと流れる。尚、図はTAVIモデルの骨格となる部分のみを簡単に表現しているが、図4に示すように冠動脈33や総頸動脈35、36、鎖骨下動脈34、37を備えていてもよい。
前記TAVIモデル40を用いる場合、このように模擬血流を発生させた状態で、カテーテルの操作訓練を開始する。本実施形態では、主に鼠径部の動脈および静脈から挿入する場合、心尖部から挿入する場合、鎖骨下動脈からカテーテルを挿入する場合、首のつけ根の静脈から挿入する場合のシミュレーションが実施できる。鼠径部の動脈からカテーテルを導入する場合、カテーテルは、前記導入管50を介して前記大動脈45の尾側先端に挿入後、前記大動脈45の経路上を心臓本体に向かって進行し、左心室40A2との接続部付近に到達する。前記左心室40A2の接続部には、実際の人体では、血流の逆流を防ぐための大動脈弁が存在しており、大動脈弁が硬化して、血液の通過できる面積が狭くなる大動脈弁狭窄症等に対する処置として、大動脈弁を人工弁にする手術(TAVIまたはTAVR;経カテーテル的大動脈弁置換術)が行われる。本実施形態においては、大動脈弁を取り付けた構造であるため、TAVIを模擬するにあたっては、折り畳んだ人工弁をカテーテルによって前記大動脈45と前記左心室40A2の接続部付近に到達させ、その後、人工弁をカテーテルによって拡張させて、所定の位置に固定する訓練ができる。また、人工弁を搭載したカテーテルの代わりに、バルーンカテーテルのみを操作し、大動脈弁のところでバルーンを膨らませることで弁を拡げる治療、すなわちバルーン大動脈弁形成術(BAV:Balloon Aortic Valvuloplasty)も可能である。
心尖部からのアプローチを模擬する場合には、カテーテルは流入管41を介して、左心室40Aへ導入され、大動脈弁付近に至る。また、鎖骨下動脈からのアプローチを模擬する場合には、カテーテルは右鎖骨下動脈46を介して、大動脈45へ導入され、大動脈弁付近に至り、以降は鼠径部の動脈からのアプローチとほぼ同じ流れでシミュレーションを行うことが可能である。
一方、トレーニング者が、首の付け根の静脈からのカテーテル挿入を模擬する場合には、カテーテルは導入管53を介して、上大静脈43から導入され、右心房40A1に到達する。同様に、鼠径部の静脈からカテーテルを導入する場合には、カテーテルは導入管51を介して、下大静脈42から導入され、右心房40A1に到達する。いずれの場合においても、前記右心房40A1に到達したカテーテルは、その後、右心房内部を通過して、前記右心房40A1の先に形成された右心室40A2に入る。前記右心房40A1と前記右心室40A2の境界には、人体同様に、血液の逆流を防止する三尖弁(図示せず)が設けられている。さらに、カテーテルが前記右心室40A2を通過すると、肺動脈44に到達する。前記右心室40A2と前記肺動脈44の境界には、人体同様に、血液の逆流を防止する肺動脈弁(図示せず)が設けられている。トレーニング者は、本実施形態におけるTAVIモデルを用いると、これらの三尖弁および肺動脈弁についても、上述した大動脈弁と同様のカテーテル処置のシミュレーションが行える。
次に、TAVIモデルの第2の実施形態80を用いる場合について説明する。
まず、上述したTAVIモデル40を使用する場合と同様に、ポンプ60をカテーテル・シミュレーション用容器10と接続後、事前準備として前記容器10に液体を充填した状態で前記容器の収容部10aに前記TAVIモデル80を設置する。この際、前記TAVIモデル80に空気が入らないように、液体中で、前記TAVIモデル80の流入管81を前記容器の接続部11aの保持突起11fに接続するとともに、大動脈82の先端部82aを前記容器の接続部11cの保持突起11gに接続する。なお、上述した延長部材140を用いる場合には、前記延長部材の基部142を前記保持突起11fに接続後に、TAVIモデル80を設置する。この場合、前記流入管81は前記基部142に接続する。
以上の準備を行い、前記TAVIモデル80を液体中に浮遊する状態で保持すると、前記ポンプ60から流入する拍動流によって、実際の心臓と同じように拍動させることが可能となる。前記ポンプ60は、上述した通り、冠動脈モデル30、TAVIモデル40と接続する場合と同様の仕様によって、液体に拍動流を生起させるように間欠的に駆動される。
前記ポンプ60から送り出され、流入管81を介して前記TAVIモデル80の本体に流入した液体は、心臓本体80Aから大動脈弁82Aを通過して、大動脈82へと流入する。前記大動脈82に流入した液体は、一部が冠動脈83に流入し、前記冠動脈83の先端に設けられた排出口83aから、前記TAVIモデル80の外部に排出され、容器10に充填された液体に合流する。一方、前記大動脈82に沿って流れる液体は、前記大動脈82の経路上に設けられた血管である頸動脈85、86、鎖骨下動脈84、87を介して、容器10中に排出され、前記容器10に充填された液体に合流する。前記冠動脈83、前記頸動脈85、86、前記鎖骨下動脈84、87の各先端開口部から容器10に排出された液体は、前記排出口11bから流出し、ポンプに循環する。
前記TAVIモデル80を用いる場合、このように模擬血流を発生させた状態で、カテーテルの操作訓練を開始する。本実施形態では、主に鼠径部の動脈から挿入する場合、心尖部から挿入する場合のシミュレーションが実施できる。鼠径部の動脈アプローチは、患者の身体に対する負担が少なくて済むが、心臓に達するまでの経路が長いため、血管の蛇行が複雑であったり、血管に石灰化が見られたりする場合にはカテーテルの導入路として適さない。その場合には、心臓に針を刺してカテーテル導入口を開口する心尖部アプローチが有力な手段となる。
鼠径部の動脈からカテーテルを導入する場合、カテーテルは、前記導入管50を介して前記大動脈82の尾側先端に挿入後、前記大動脈82の経路上を心臓本体に向かって進行し、大動脈弁82A付近に到達する。この大動脈弁が硬化して、血液の通過できる面積が狭くなる大動脈弁狭窄症等に対する処置として、大動脈弁を人工弁に置き換える手術(TAVIまたはTAVR;経カテーテル的大動脈弁置換術)が行われる。TAVIを模擬するにあたっては、折り畳んだ人工弁をカテーテルによって大動脈弁82A付近に到達させ、その後、人工弁をカテーテルによって拡張させて、所定の位置に固定する訓練ができる。また、人工弁を搭載したカテーテルの代わりに、バルーンカテーテルのみを操作し、大動脈弁のところでバルーンを膨らませることで弁を拡げる治療、すなわちバルーン大動脈弁形成術(BAV:Balloon Aortic Valvuloplasty)も可能である。
なお、目視によるシミュレーションの場合、上述した大動脈弁85Aの3つの弁尖の底面に描かれた点印によって、人工弁を拡張させたり、バルーンを膨らませたりする位置の目安とすることができる。初学者にとっては有効な補助手段となる。X線透視下等でシミュレーションを行う場合には、これらの点印にX線不透過の素材を使用することで、X線透視下でも、いわゆる不透過マーカーとして、模擬する際の目印とすることができる。さらに、造影剤を注入することで、大動脈弁85Aとカテーテルの位置関係を把握し、人工弁を拡張させたり、バルーンを膨らませたりする位置を確認する。
一方、心尖部からのアプローチを模擬する場合には、カテーテルは流入管81を介して、心臓本体80Aへ導入され、大動脈弁82A付近に至る。それ以降は鼠径部の動脈からのアプローチとほぼ同じ流れでシミュレーションを行うことが可能である。この場合、上述した二股コック70によって、流入管81から拍動流の流入を維持しつつ、流入管81からカテーテルを導入する。
次に、TAVIモデルの第3の実施形態100を用いる場合について説明する。
まず、上述したTAVIモデル40又は80を使用する場合と同様に、ポンプ60をカテーテル・シミュレーション用容器10と接続後、事前準備として前記容器10に液体を充填した状態で前記容器の収容部10aに、前記TAVIモデル100を設置する。
設置に際しては、前記TAVIモデル100に空気が入らないように、液体中で、前記TAVIモデル100の流入管101を前記容器の接続部11aの保持突起11fに接続するとともに、大動脈102の脚側の先端部102aを前記容器の接続部11cの保持突起11gに接続する。なお、上述した延長部材140を用いる場合には、前記延長部材の基部142を前記保持突起11fに接続後、TAVIモデル100を設置する。この場合、前記流入管101は前記基部142に接続する。
ここで、TAVIモデル100には、容器設置前に前記大動脈弁110が装着されているが、シミュレーションを継続的に行い、大動脈弁110の着脱を繰り返す場合には、TAVIモデル100が設置された状態で前記流入管101を保持突起11f(延長部材140を用いる場合には前記基部142)から外して、前記流入管101の開口101aから大動脈弁110のみ(内部に留置されたステントバルブを含む場合もある)を取り出し、その後、次のように大動脈弁110のみを前記開口101aから挿入して、装着しても良い。
その場合、前記大動脈弁110は、ユーザーによって前記左室流出路部112を保持された状態で、前記弁尖部110Aを前方にして前記流入管の開口101aから心臓本体100Aの内部に入り、大動脈の開口102bに挿入される。挿入後、前記弁輪部114が開口102bの周縁部102cと接続されることによって、前記大動脈弁110は大動脈102の先端に固定、装着される。固定方法については前述のとおりである。
以上の準備を行い、前記TAVIモデル100を液体中に浮遊する状態で保持すると、前記ポンプ60から流入する拍動流によって、実際の心臓と同じように拍動させることが可能となる。前記ポンプ60は、上述した通り、冠動脈モデル30、TAVIモデル40又は80と接続する場合と同様の仕様によって、液体に拍動流を生起させるように間欠的に駆動される。
前記ポンプ60から送り出され、流入管101を介して前記TAVIモデル100の本体に流入した液体は、心臓本体100Aから大動脈弁110を通過して、大動脈102へと流入する。大動脈弁110は着脱可能であるが、ポンプからの液流によって脱着しないように固定されている。前記大動脈102に流入した液体は、一部が冠動脈103に流入し、前記冠動脈103の先端に設けられた排出口103aから、前記TAVIモデル100の外部に排出され、容器10に充填された液体に合流する。一方、前記大動脈102に沿って流れる液体は、前記大動脈102の経路上に設けられた血管である頸動脈105、106、鎖骨下動脈104、107を介して、容器10中に排出され、前記容器10に充填された液体に合流する。前記冠動脈103、前記頸動脈105、106、前記鎖骨下動脈104、107の各先端開口部から容器10に排出された液体は、前記排出口11bから流出し、ポンプに循環する。
前記TAVIモデル100を用いる場合、このように模擬血流を発生させた状態で、カテーテルの操作訓練を開始する。本実施形態では、主に鼠径部の動脈から挿入する場合、心尖部から挿入する場合のシミュレーションが実施できる。鼠径部の動脈アプローチは、患者の身体に対する負担が少なくて済むが、心臓に達するまでの経路が長いため、血管の蛇行が複雑であったり、血管に石灰化が見られたりする場合にはカテーテルの導入路として適さない。その場合には、心臓に針を刺してカテーテル導入口を開口する心尖部アプローチが有力な手段となる。
鼠径部の動脈からカテーテルを導入する場合、カテーテルは、前記導入管50を介して前記大動脈102の先端部102bに挿入後、前記大動脈102の経路上を心臓本体に向かって進行し、大動脈弁110A付近に到達する。大動脈弁110A付近に到達後は、上述したTAVIモデル80のシミュレーション同様に、TAVIやBAVの施術を模擬することができる。一方、心尖部からのアプローチを模擬する場合には、カテーテルは流入管101を介して、心臓本体100Aへ導入され、大動脈弁110A付近に至る。それ以降は鼠径部の動脈からのアプローチとほぼ同じ流れでシミュレーションを行うことが可能である。この場合、上述した二股コック70によって、流入管101から拍動流の流入を維持しつつ、流入管101からカテーテルを導入する。
なお、TAVIモデル80における大動脈弁82Aの目印(弁尖の点印)と同様に、前述した大動脈弁110の目印(弁輪部の目印)によって、人工弁を拡張させたり、バルーンを膨らませたりする位置の目安としたり、造影剤を注入することで、大動脈弁110とカテーテルの位置関係を把握したりすることができる。また、弁尖の辺縁部に線状に目印をつけたり、弁尖の点印と弁輪部の目印の両方を施し、併用できるようにしても良い。
シミュレーション終了後は、ステントバルブ(図示せず)が留置された大動脈弁110をTAVIモデル100から取り外し、手元で大動脈弁からステントバルブを取り外すことができる。取り外しに際しては、流入管101の開口101aから手を差し込み、前記左室流出路部112を保持して回転することによって、嵌合を解除後、再び流入管101内を戻ってTAVIモデル100の外部に取り出す。手の代わりに、鉗子・ハサミ・クリップ等で同様の作業を行っても良い。
一方、大動脈弁が着脱可能でないTAVIモデル40、80では、ステントバルブを取り外すために、前記流入管41、81から柄の長い鉗子・ハサミ・クリップ等を挿入して、先端のクリップを大動脈弁付近に到達させてステントバルブを挟み、ステントバルブを掴んだクリップ先端を引き戻して、流入管内を通過させ、TAVIモデル外部に引き出す作業を行う。この際、前述した形状記憶合金製のステントバルブ等では、ステントバルブが大動脈弁を径方向に押し広げるように大動脈弁の内面に密着しているため、ハサミ・クリップで掴んでも容易に取り外せないことがある。TAVIモデル100では、ステントバルブが留置された大動脈弁ごと取り出すことによって、手元でステントバルブを取り外せるようになるため、操作性の向上が図れる。
以上のように、上述したカテーテル・シミュレーター用容器10によれば、検査や手術の態様に応じた複数パターンの心臓カテーテル手技を、より簡便に、連続的に訓練可能となる。また、シミュレーションの種類や内容、順番等に応じて、トレーニング者が前記容器に接続する心臓モデルを切替えることで、同一の容器を用いたまま、前記容器に充填された液体を入れ替える必要なく、様々なタイプの心臓疾患に対するカテーテル操作を訓練することができる。また、本実施形態では、前記容器に接続する心臓モデルに応じて、外部の拍動流生成ポンプの接続、使用を選択することができ、各種心臓モデルを切替えられると共に、外部ポンプの使用も選択できるように構成されている。これにより、心臓の拍動の影響が大きいカテーテル処置に対しては、心臓モデル内に拍動流を流入させ、現実に近い拍動下でのシミュレーションを行うことができる。
また、前記容器10は、前記容器10の側壁に設けた接続部11a、11cにて心臓モデルを浮遊した状態で保持できるため、他に専用ホルダ等を必要とせず、小型軽量化が可能である。これにより、シミュレーションの実施場所の選択肢が広がり、また、補助者の制約なしに、トレーニング者が一人でシミュレーションの準備や片づけをすることもできるようになる。
このような容器に収容される心臓モデル(冠動脈モデル20、右心系モデル30、TAVIモデル40、80又は100)によれば、心臓表面の冠動脈に対する処置、冠動脈造影、冠動脈形成術等のカテーテル手技だけでなく、心臓内部の疾患に対するマッピング、アブレーション治療、心筋生検のための組織採取等のカテーテル操作や、経カテーテル的大動脈弁置換術等を、連続的にシミュレーション可能となる。心臓の拍動の影響が大きい冠動脈に対する処置や経カテーテル的大動脈弁置換術等に対しては、外部ポンプを使用することで、心臓モデル内に流入する拍動流によって、現実に近い拍動下でのシミュレーションを行うことができる。
また、上述した各種心臓モデルは、実際の患者のCT画像に基づいて、或いは、個々の症例に基づいて作製することができるため、症例ごとの術前シミュレーションを行うことができる。本発明では、心臓モデルを簡単に入れ替えることができるため、医学生や研修医等の初学者に対しては練習用の汎用モデルとしてトレーニングする環境を提供できる一方、熟練者に対しても難易度の高い症例のトレーニングに用いることができる。すなわち、事前に撮影された心臓CTデータを基にして心臓モデルを成型し、実際の術前に、シミュレーションすることが可能となる。
以上、本発明に係るカテーテル・シミュレーター用容器、及び前記容器内に収容される各種心臓モデルの実施形態の一例を示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、容器や二股コックの形状、接続部及び導入部の配設位置等については、適宜変形することが可能である。