(本開示の基礎となった知見)
まず、本発明者らによって得られた知見について説明する。
固体電解質は典型的な電解液に比べてイオン抵抗が高い。また、正極活物質及び固体電解質間の抵抗、並びに、固体電解質及び負極活物質間の界面の抵抗も高い。そのため、固体電解質層の厚みが大きくなるほど、電池内の内部抵抗が大きくなり、電圧降下が大きくなり、大電流において良好な充放電特性を得ることが難しくなる。その結果、例えば、充電時間が長くなるという課題が生じる。
そのため、例えばリチウムイオン二次電池において、実用化されている固体電解質は限定的である。また、二価以上の金属を含む固体電解質は実用化されていない。
一方、本開示に係る一実施形態によれば、二価金属元素を含有する酸窒化膜を含む固体電解質を提供できる。
本開示の一態様に係る酸窒化膜は、例えば、全固体電池の固体電解質層に応用されうる。例えば、固体電解質のイオン伝導度が等しい場合、1つの二価金属イオンが動くことによって動く電荷は、1つの一価金属イオンが動くことによって動く電荷の2倍になる。すなわち、二価金属元素を可動イオンとして含有する固体電解質を有する二次電池は、一価金属元素を可動イオンとして含有する固体電解質の二次電池に比べて、理論容量を大きくすることが可能となる。
(実施形態)
以下、種々の実施形態に係る固体電解質、固体電解質の製造方法、固体電解質を有する二次電池について例示する。本開示で示される材料、組成、膜厚、形状、特性、製造方法のステップ、及びこれらステップの順序は、あくまでも一例である。製造方法の複数のステップは、同時に実行されてもよく、異なる期間に実行されてもよい。
以下では、酸窒化膜およびその製造方法について主に説明される。ただし、酸窒化膜は、「酸窒化物を含有する固体電解質」の一例である。本開示に係る固体電解質は、膜に限定されない。本開示において、窒化リン酸マグネシウムのことを「MgPON」と呼称することがあるが、これは説明の簡便のためであり、特定の組成比に限定するものではない。
[1.製造装置]
図1は、一実施形態に係る酸窒化膜をALD法によって成膜するための製造装置1の構成の一例を示す。製造装置1は、リアクタ2、コントローラ15、第1プリカーサー供給部3、第2プリカーサー供給部4、酸素供給部12、窒素供給部13、及びパージガス供給部14を備える。
リアクタ2は、例えば、プロセスチャンバーである。
第1プリカーサー供給部3は、第1プリカーサーをリアクタ2内に供給する。第1プリカーサーは網目形成体を含有する。第1プリカーサー供給部3は、例えば、第1プリカーサーを収容するボトルである。
第2プリカーサー供給部4は、第2プリカーサーをリアクタ2内に供給する。第2プリカーサーは、アルカリ土類金属元素を含有する。第2プリカーサー供給部4は、例えば、第2プリカーサーを収容するボトルである。
製造装置1は、第1プリカーサー供給部3からリアクタ2まで延びる第1配管P1と、第2プリカーサー供給部4からリアクタ2まで延びる第2配管P2とを備える。
酸素供給部12は、酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給する。窒素供給部13は、窒素ガス及び/又はアンモニアガスをリアクタ2内に供給する。パージガス供給部14は、パージガスをリアクタ2内に供給し、これにより、リアクタ2内に残留するガスをパージする。
図1に示される製造装置1は、補助ガス供給部7〜10、マスフローコントローラー5a〜5e、バルブV1〜7、マニュアルバルブMV1〜3、及び、ニードルバルブNVをさらに備える。
コントローラ15は、例えば、バルブV1〜V7とマスフローコントローラー5a〜5eを制御する。コントローラ15は、例えば、メモリとプロセッサを備える。コントローラ15は、例えば、半導体装置、半導体集積回路(IC)、LSI(large scale integration)、又は、それらが組み合わされた電子回路を含む。LSI又はICは、1つのチップに集積されていてもよいし、複数のチップが組み合わされていてもよい。例えば、各機能ブロックは、1つのチップに集積されていてもよい。LSIやICは、集積の度合いに応じて、例えば、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、又は、ULSI(ultra large scale integration)と呼ばれうる。
製造装置1としては、目的とする酸窒化膜の種類に応じて、市販品を応用することができる。市販品の製造装置としては、例えば、Savannah Systems、Fiji Systems、及びPhoenix Systems(いずれもUltratech/Cambridge NanoTech社製)、ALD−series(株式会社昭和真空製)、TFS 200、TFS 500、TFS 120P400A、及びP800等(いずれもBeneq社製)、OpAL、及びFlexAL(いずれもOxford Instruments社製)、InPassion ALD 4、InPassion ALD 6、及びInPassion ALD 8(いずれもSoLay Tec社製)、AT-400 ALD System(ANRIC TECHNOLOGIES社製)、ならびにLabNano、及びLabNano-PE(いずれもEnsure NanoTech社製)等が挙げられる。製造装置1に市販品を応用する場合、例えば、以下に説明される種々のフローを実行させるためのプログラムをコントローラ15内のメモリに記憶しておき、コントローラ15内のプロセッサにこのプログラムを実行させることによって、本実施の形態に係る製造装置1とすることができる。
[2.製造方法]
以下では、本実施の形態に係る酸窒化膜の製造方法の一例として、製造装置1が酸窒化膜を製造する方法が説明される。なお、本開示における酸窒化膜及びその製造方法は、特定の製造装置に限定されない。本開示における製造方法の各ステップは、製造装置内に記憶された所定のプログラムに基づいて実施されてもよいし、製造装置をマニュアル操作することによって実施されてもよい。
[2−1.全体のフロー]
図2Aは、実施形態に係る酸窒化膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2Aに示される製造方法は、網目形成体を含有する第1プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS1、酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給するステップS2、アルカリ土類金属元素を含有する第2プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS3、アンモニアガス及び/又は窒素ガスをリアクタ2内に供給するステップS4を含む。この製造方法は、例えば、パージガスをリアクタ2内に供給するステップをさらに含む。
各ステップの順番、タイミング、実行される回数は、特に限定されない。例えば、図2Aに示されるフローが繰り返し実行されてもよい。例えば、複数のステップが同時に実行されてもよい。例えば、ステップS1は、ステップS2又はS4の前に、少なくとも1回実行される。例えば、ステップS1とステップS3は、異なる期間に実行される。
図2Aに示される順序の場合、ステップS2において、第1プリカーサーがステップS2で酸化される。これにより、網目形成体が連なった骨格が得られる。ステップ3において、この骨格にアルカリ土類金属元素が結合する。ステップS4において、窒素置換が行われる。これにより、酸窒化膜が得られる。
ステップS3とステップS4との間に、再度ステップS2が行われてもよい。2度目のステップS2を行うことにより、第2プリカーサーが酸化される。
[2−2.準備]
酸窒化膜の製造を開始する前に、リアクタ2内に基板が配置される。
基板の材料としては、例えば、金属、金属酸化物、樹脂、ガラス、及びセラミックスが挙げられる。金属は、例えば、Auであってもよい。金属酸化物は、例えば、金属複合酸化物であってもよい。樹脂の例として、ポリエステル、ポリカーボネート、フッ素樹脂、及び、アクリル樹脂が挙げられる。ガラスの例として、ソーダ石灰ガラス、及び、石英ガラスが挙げられる。セラミックスの例として、酸化アルミニウム、シリコン、ガリウムナイトライド、サファイア、及び、シリコンカーバイドが挙げられる。例えば、Si基板の上に、膜厚400nmの熱酸化膜(SiO2)が形成されていてもよい。
リアクタ2内の温度は、特に限定されないが、250℃以上550℃以下でもよく、300℃以上500℃以下でもよく、320℃以上480℃以下でもよい。第1プリカーサー及び又は第2プリカーサーが炭素を含む場合、リアクタ2内の温度を250℃以上に設定することにより、プリカーサーを適切に燃焼させることができる。
[2−3.第1プリカーサーの供給]
ステップS1では、網目形成体を含有する第1プリカーサーをリアクタ2内に供給する。例えば、図1において、バルブV1を開いて、第1プリカーサー供給部3からリアクタ2内に第1プリカーサーを供給する。
第1プリカーサー供給部3の温度は、特に限定されないが、第1プリカーサーの蒸気圧が高い場合には、1℃以上50℃以下でもよく、5℃以上45℃以下でもよい。
ステップS1において、マニュアルバルブMV1を開放し、補助ガス供給部7からリアクタ2に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第1プリカーサー供給部3から第1配管P1中に放出された第1プリカーサーを、リアクタ2に押し流す。この補助ガスの流量は、特に限定されないが、20ml/min以上60ml/min以下であってもよく、25ml/min以上50ml/min以下であってもよい。ステップS1において、ニードルバルブNVの開度を調整して、第1プリカーサーの流量を制御してもよい。ニードルバルブNVの開度は、例えば、10〜60%である。
ステップS1において、第1プリカーサーの種類に応じて、バルブV2を開いて、補助ガス供給部8からリアクタ2に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第1プリカーサーをリアクタ2内に押し流す。この補助ガスの流量は、マスフローコントローラー5aで制御されうる。補助ガス供給部7、8から供給される補助ガスの温度は、特に限定されないが、100℃以上300℃以下であってもよく、120℃以上280℃以下であってもよい。
補助ガスは、例えば不活性ガスである。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス及び窒素ガスが挙げられる。補助ガスは、1種類のガスであってもよく、2種以上のガスが混合されたものであってもよい。
網目形成体は、互いに直接的又は間接的に結合することによってネットワーク構造を形成することができる、あるいは、既にネットワーク構造を形成している、原子又は原子団(すなわち基)を意味する。このネットワーク構造は、酸窒化物の骨格となっている。網目形成体は、例えば、第1プリカーサーを構成する分子の一部であってもよく、この分子の他部はネットワーク構造が形成される際に切り離されてもよい。網目形成体は、リンを含有する。
第1プリカーサーとしては、特に限定されないが、例えばリン含有化合物が挙げられる。リン含有化合物の例として、トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(TDMAP)、トリメチルホスフィン(TMP)、トリエチルホスフィン(TEP)、及びtert−ブチルホスフィン(TBP)が挙げられる。これらは、1種が単独に用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
バルブV1を閉じることで、ステップS1は終了される。ステップS1の継続時間は、特に限定されないが、約0.01秒以上10秒以下でもよく、約0.05秒以上8秒以下でもよく、約0.1秒以上5秒以下でもよい。
[2−4.酸素の供給]
ステップS2では、酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給する。例えば、図1において、バルブV5を開いて、酸素供給部12から酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給する。
酸素ガスは、例えば、プラズマ処理によって生成された酸素ラジカルを含有していてもよい。プラズマALDにより、反応性を高め、かつ、系の温度をより低温化することができる。
オゾンガスは、例えば、米国特許出願公開US2011/0099798 A1に記載されるように、OT−020オゾン発生装置(Ozone Technology社製)に酸素ガスを供給することによって生成されてもよい。
酸素ガス及び/又はオゾンガスの流量は、マスフローコントローラー5cで制御され、例えば、20〜60ml/minでもよく、30〜50ml/minでもよい。酸素ガス及び/又はオゾンガスの濃度は、特に限定されないが、例えば、100%でもよい。酸素ガス及び/又はオゾンガスの温度は、特に限定されないが、例えば、100〜300℃でもよく、120〜280℃でもよい。
バルブV5を閉じることで、ステップS2は終了される。ステップS2の継続時間は、バルブV5を開いてから閉じるまでの時間に相当する。ステップS2の継続時間は、特に限定されないが、約0.1〜15秒でもよく、約0.2〜10秒でもよく、約0.2〜8秒でもよい。
[2−5.第2プリカーサーの供給]
ステップS3では、アルカリ土類金属元素を含む第2プリカーサーをリアクタ2内に供給する。例えば、図1において、バルブV3を開いて、第2プリカーサー供給部4からリアクタ2に、第2プリカーサーを供給する。
第2プリカーサー供給部4の温度は、特に限定されないが、第2プリカーサーの蒸気圧が低い場合には、90℃以上190℃以下でもよく、95℃以上180℃以下でもよい。
ステップS3において、マニュアルバルブMV2を開放し、補助ガス供給部9からリアクタ2に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第2プリカーサー供給部4より第2配管P2中に放出された第2プリカーサーを、リアクタ2に押し流す。補助ガスの流量は、特に限定されないが、20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上55ml/min以下でもよい。
ステップS3において、第2プリカーサーの種類に応じて、バルブV4を開いて補助ガス供給部10からリアクタ2に向かって補助ガスを供給してもよい。補助ガスは、第2プリカーサーを、リアクタ2に押し流す。この補助ガスの流量は、マスフローコントローラー5bで制御されうる。この補助ガスの流量は、特に限定されないが、1ml/min以上30ml/min以下でもよく、5ml/min以上20ml/min以下でもよい。
補助ガス供給部9、10から供給される補助ガスの温度は、特に限定されないが、100℃以上300℃以下でもよく、120℃以上280℃以下でもよい。
補助ガス供給部9、10から供給される補助ガスは、ステップS1の説明で例示されたものと同様のものであってもよい。
第2プリカーサーは、アルカリ土類金属元素を含有する物質である。アルカリ土類金属元素としては、例えば、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Raが挙げられる。第2プリカーサーは、例えばMgを含有する。
第2プリカーサーとしては、特に限定されないが、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp2Mg)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)マグネシウム(MeCp2Mg)、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム(EtCp2Mg)等が挙げられる。これらは、1種が単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
バルブV3を閉じることで、ステップS3は終了される。ステップS3の継続時間は、例えば、バルブV3を開いてから閉じるまでの時間に相当する。ステップS3は、特に限定されないが、約0.01秒以上10秒以下でもよく、約0.05秒以上8秒以下でもよく、約0.1秒以上5秒以下でもよい。
[2−6.窒素の供給]
ステップS4では、アンモニアガス及び/又は窒素ガスをリアクタ2内に供給する。例えば、図1において、バルブV6を開いて、窒素供給部13からアンモニアガス及び/又は窒素ガスをリアクタ2内に供給する。
窒素ガスは、例えば、プラズマ処理によって生成された窒素ラジカルを含有してもよい。プラズマALDにより、反応性を高め、かつ、系の温度をより低温化することができる。
アンモニアガス及び/又は窒素ガスの流量は、マスフローコントローラー5dで制御される。アンモニアガス及び/又は窒素ガスの流量は、例えば20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上50ml/min以下でもよい。あるいは、アンモニアガス及び/又は窒素ガスの流量は、100ml/min以上200ml/min以下でもよい。アンモニアガス及び/又は窒素供給源となるガスの濃度は、特に限定されないが、例えば、100%でもよい。アンモニアガス及び/又は窒素供給源となるガスの温度は、特に限定されないが、例えば、100℃以上300℃以下でもよく、120℃以上280℃以下でもよい。
バルブV6を閉じることで、ステップS4は終了される。ステップS4の継続時間は、バルブV6を開いてから閉じるまでの時間に相当する。ステップS4の継続時間は、特に限定されないが、約0.1秒以上15秒以下でもよく、約0.2秒以上10秒以下でもよく、約0.2秒以上8秒以下でもよい。
[2−7.パージガスの供給]
パージガスを供給するステップS11〜S14では、パージガスをリアクタ2内に供給し、これにより、リアクタ2内に残留している気体をパージする。例えば、図1において、バルブV7を開いて、パージガス供給部14からパージガスをリアクタ2内に供給する。
パージガスの流量は、マスフローコントローラー5eで制御され、例えば、20ml/min以上60ml/min以下でもよく、30ml/min以上50ml/min以下でもよい。パージガスの温度は、特に限定されないが、100℃以上300℃以下でもよく、120℃以上280℃以下でもよい。
パージステップS11〜S14は、例えば、ステップS1〜S4のそれぞれが完了する度に行われてもよく、ステップS1〜S4のうち特定のステップが完了する度に行われてもよい。あるいは、パージステップS11〜S14は、ステップS1〜S4の少なくとも1つと同時に行われてもよい。例えば、リアクタ2内のガスを十分に排気するために、酸窒化膜を形成し始めてから形成し終わるまでの間、パージステップを、バックグランドプロセスとして継続的に行ってもよい。
パージステップS11〜S14のそれぞれの継続時間は、特に限定されないが、約0.1〜20秒でもよく、約0.5〜15秒でもよく、約1.0〜10秒でもよい。
パージガスは、例えば、不活性ガスである。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガス及び/又は窒素ガスが挙げられる。パージガスは、1種類のガスであってもよく、2種以上のガスが混合されたものであってもよい。
[2−8.アンモニアガスの供給]
本実施形態に係る酸窒化膜の製造方法は、ステップS4とは別に、アンモニアガスをリアクタ2内に供給するステップをさらに含んでもよい。アンモニアガスを供給するステップは、ステップS1〜S3、パージ及びパージステップからなる群から選ばれる少なくとも1つと同時に実行されうる。これにより、酸窒化膜に窒素をより安定的に導入することができる。また、酸窒化膜における窒素の割合を増大させることができる。
あるいは、ステップS4は、少なくともアンモニアガスをリアクタ2内に供給するステップであって、ステップS1〜S3、パージ及びパージステップからなる群から選ばれる少なくとも1つと同時に実行されてもよい。
この場合、例えば、図1において、バルブV6を開き、アンモニアガスがリアクタ2内に供給される。例えば、バルブV6は、酸窒化膜を形成し始めてから形成し終わるまでの間、常時開いていてもよい。アンモニアガスの流量は、特に限定されないが、例えば30〜100ml/minでもよく、50〜100ml/minでもよい。アンモニアガスの濃度は、特に限定されないが、例えば、100%でもよい。アンモニアガスの温度は、特に限定されないが、100〜200℃でもよい。アンモニアガスの温度は、リアクタ温度の低下を小さくするために、180℃〜200℃としてもよい。アンモニアガスの供給時間は、特に限定されない。
[2−9.リアクタの真空度、及び配管の温度]
本実施形態に係る酸窒化膜の製造方法において、リアクタ2内の真空度が制御されてもよい。例えば、図1において、排気用のマニュアルバルブMV3の開度を調整することで、リアクタ2内の真空度を制御できる。
真空度は、酸窒化膜の種類に応じて設定されるが、例えば、0.1Torr以上8.0Torr以下でもよく、0.5Torr以上5.0Torr以下でもよい。真空度を0.1Torr以上に設定することにより、例えば、第1プリカーサーが継続的にリアクタ2内に供給され、第1プリカーサーを十分に酸化される。そのため、例えば、第1プリカーサーが炭素を含む場合には、十分な酸化によって、酸窒化膜中のカーボンの量が低減されうる。真空度8.0Torr以下に設定することにより、例えば、第2プリカーサーの供給量を適切に制御することができる。リアクタの真空度は、例えば、ピラニーゲージ(TPR280 DN16 ISO-KF:PFEIFFER VACUUM社製)で測定できる。
本実施形態に係る酸窒化膜の製造方法において、各配管の温度は、例えば次のように設定されてもよい。
例えば、図1において、第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサーの沸点又は昇華温度よりも高く、かつ、第2プリカーサーの沸点又は昇華温度より高く設定される。例えば、第1プリカーサーがトリス(ジメチルアミノ)ホスフィンである場合、その沸点は、48〜50℃程度である。例えば、第2プリカーサーがビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムである場合、その沸点は65℃程度である。
例えば、第1配管P1の温度は、第1プリカーサー供給部3の温度よりも高く、かつ、第2配管P2の温度は、第2プリカーサー供給部4の温度よりも高い。これにより、第1プリカーサーが第1配管P1中で固化することを抑止でき、かつ、第2プリカーサーが第2配管P2中で固化することを抑止できる。
第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサー供給部3の温度よりも55℃以上高く、かつ、第2プリカーサー供給部4の温度よりも55℃以上高くてもよい。第1配管P1の温度及び第2配管P2の温度は、第1プリカーサー供給部3の温度よりも60℃以上高く、かつ、第2プリカーサー供給部4の温度よりも60℃以上高くてもよい。
例えば、第1プリカーサー供給部3の温度が35℃である場合、第1配管P1は、110℃程度に設定されてもよい。また、第2プリカーサー供給部4の温度が100℃である場合、第2配管P2の温度は、180℃程度に設定されてもよい。
[2−10.繰り返し処理]
図2Bは、実施形態に係る酸窒化膜の製造方法の一例を示すフローチャートである。図2Bに示される製造方法は、第1プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS1と、酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給するステップS2と、第2プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS3、アンモニアガス及び/又は窒素ガスをリアクタ2内に供給するステップS4と、パージガスをリアクタ2内に供給するステップS11〜S14と、繰り返し回数が所定の設定値に達したか否かを判定するステップS5とを含む。これにより、ステップS1〜S5及びS11〜S14を含むサイクルが、複数回繰り返される。図2Bのうち、図2Aを参照しながら説明された事項については、説明が省略される場合がある。
図2Bに示される製造方法では、ステップS1〜S4が完了した後に、パージステップS11〜S14が、それぞれ実行される。
図2Bに示される例では、ステップS5において繰り返し回数が設定数に達したか否かが判定される。そして、繰り返し回数が所定の設定値に達していない場合(ステップS5でNO)には、ステップS1に戻り、繰り返し回数が所定の設定値に達した場合(ステップS5でYES)には、酸窒化膜の形成が終了する。
サイクルの繰り返し回数は、特に限定されず、例えば、目的とする酸窒化膜の膜厚、並びに、第1プリカーサーの種類、第2プリカーサーの種類に応じて、適宜設定される。サイクルの繰り返し回数は、例えば、2〜8000程度であってもよく、5〜3000程度であってもよい。例えば、酸窒化膜の膜厚を500nm程度にする場合、サイクルの繰り返し回数は、1000〜2000に設定されてもよい。あるいは、酸窒化膜の膜厚を50nm以下にする場合、サイクルの繰り返し回数は、150以下に設定されてもよい。
なお、本開示における「繰り返し」とは、1つのサイクル内で各ステップが完了する態様のみに、限定されない。例えば、酸窒化膜の形成が開始してから終了するまで、継続的にアンモニアガスがリアクタ2内に供給される場合、当該ステップは、1つのサイクル内で完了せず、複数のサイクルにわたって継続的に実行される。本開示における「繰り返し」は、そのような形態をも含みうる。
本実施形態に係る酸窒化膜の膜厚は、特に限定されない。酸窒化膜の厚さとしては、例えば、5μm以下であってもよく、2μm以下であってもよく、550nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。酸窒化薄膜の厚さとしては、例えば、200nm以下でもよく、150nm以下でもよく、110nm以下でもよく、100nm以下でもよく、50nm以下であってもよい。酸窒化膜の膜厚の下限値は、特に限定されないが、0.1nm以上であってもよく、1nm以上であってもよい。
図2Bに示される例において、1つのサイクルにおいてステップS1〜S4が1回ずつ実行されるが、1つのサイクルにおける各ステップの回数は、これに限定されない。また、パージステップを実行する回数及びタイミングは、図2Bに示される例に限定されない。
酸窒化膜の形成を継続するか終了させるかは、繰り返し回数とは異なる条件に基づいて判定されてもよい。例えば、酸窒化膜の形成は、経過時間が所定の値に達することによって終了されてもよく、酸窒化膜の膜厚が所定の値に達することによって終了されてもよい。
酸窒化膜における各元素の組成比は、例えば、第1プリカーサーの流量、第1プリカーサーのパルスの継続時間、第2プリカーサーの流量、第2プリカーサーのパルスの継続時間、及び、パージガスのパルスの継続時間によって、制御されうる。酸窒化膜における各元素の組成比は、例えば、最も蒸気圧の低いプリカーサーの量を設定し、これを基準として、他の元素の流量とパルスの継続時間を設定することによって、制御されてもよい。
[2−11.MgPON膜の製造方法]
以下、酸窒化膜がMgPON膜である場合の製造方法の一例について説明する。なお、図2A又は図2Bを参照しながら説明された事項については、説明が省略される場合がある。
MgPON膜の製造方法は、例えば、リンを含有する第1プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS1と、酸素ガス及び/又はオゾンガスをリアクタ2内に供給するステップS2と、マグネシウムを含有する第2プリカーサーをリアクタ2内に供給するステップS3と、アンモニアガス及び/又は窒素ガスをリアクタ2内に供給するステップS4と、を含む。これらのステップは、例えば、図2Aに示される順序で行われる。
第1プリカーサーのリンは、基板の表面上の酸素と結合する。酸素ガス及び/又はオゾンガスに含有される酸素は、基板表面上のリンを酸化し、リン酸骨格を形成する。第2プリカーサーのマグネシウムが、リン酸骨格中の酸素と結合する(例えば、配位結合、イオン結合)。アンモニアガス及び/又は窒素ガスに含有される窒素が、リン酸骨格中のリンのうち酸素と結合していないものと結合する。
例えば、ステップS3よりも前に、ステップS1が少なくとも1回実行される。これにより、リン酸骨格が存在する状態でマグネシウムが導入され、不導体膜の形成を抑止できる。例えば、ステップS2よりも前に、ステップS1が少なくとも1回実行されてもよく、かつ/又は、ステップS4よりも前に、ステップS1が少なくとも1回実行されてもよい。
ステップの順番については、これらに限定されない。例えば、ステップS3は、ステップS2の後に実行されてもよい。ステップS3は、ステップS4の後に実行されてもよい。ステップS3は、ステップS1よりも前に実行されてもよい。ステップS3とステップS4との間に、ステップS2が再度実行されてもよい。また、MgPON膜が、例えば図2Bに示されるような繰り返し処理を含む場合、1周目でリン酸骨格が形成されるため、2周目以降のステップの順序は任意に設定されうる。
リン酸骨格は、ステップS2の前にステップS1を少なくとも1回実行することによって形成される。例えば、図2Bに示されるように、ステップS1、S11、S2、S12をこの順で行うことにより、リン酸骨格が形成される。
MgPON膜における各元素の組成比は、例えば、第1プリカーサーの流量、第1プリカーサーのパルスの継続時間、第2プリカーサーの流量、第2プリカーサーのパルスの継続時間、及び、パージガスのパルスの継続時間によって、制御されうる。MgPON膜における各元素の組成比は、例えば、最も蒸気圧の低い、マグネシウムを含有する第2プリカーサーの量を設定し、これを基準として他の元素の流量とパルスの継続時間を設定することによって制御されてもよい。マグネシウムの量は、膜が成長するために十分な量であって、かつ、窒素を膜に導入できる程度に多すぎない量に設定される。
例えば、リアクタ2内の温度は、400℃以上480℃未満に設定される。
リンを含有する第1プリカーサーの蒸気圧は比較的高いため、第1プリカーサー供給部3の温度は、例えば1〜50℃でもよく、5〜45℃程度でもよい。第2プリカーサー供給部4の温度は、例えば、40℃〜50℃でもよい。パージガスの温度は、例えば150〜250℃でもよい。酸素ガス及び/又はオゾンガスの温度は、例えば、150〜250℃でもよい。アンモニアガス及び/又は窒素ガスの温度は、例えば、150〜250℃でもよい。これらの温度条件により、MgPON膜の成膜ばらつきを低減できる。各ガスの流量、各ガスのパルスの継続時間、及び、パージ時間等は、上述の条件から適宜選択されうる。
[3.酸窒化膜]
本実施形態に係る酸窒化膜の構造の例について説明する。なお、本実施形態に係る酸窒化膜は、例えば、上述の製造方法によって製造されたものであってもよい。
本実施形態に係る酸窒化膜は、リンを含有する網目形成体と、アルカリ土類金属元素とを含有する。
酸窒化膜のX線光電子分光測定(XPS測定)におけるP2pスペクトルは、P−O結合由来のピーク成分と、P−N結合由来のピーク成分を含む。P−O結合由来のピーク成分とは、133〜135eV近傍に現れるピーク成分である。P−N結合由来のピーク成分とは、127.5〜130.5eV近傍に現れるピーク成分である。
本実施形態に係る酸窒化膜は、P2pスペクトルがP−N結合由来のピーク成分を含む点に特徴を有する。このピーク成分は、導入された窒素が、膜中のリンに適切に結合していることを反映している。後述される種々の実施例から示されるように、酸窒化膜中のP−N結合は、酸窒化膜におけるアルカリ土類金属(例えばマグネシウム)のイオン伝導度を向上させうると推察される。したがって、酸窒化膜のP2pスペクトルが、P−N結合由来のピーク成分を示すとき、この酸窒化膜は、固体電解質として効果的に機能しうる。
P2pスペクトルにおいて、P−N結合由来のピーク成分の強度は、例えば、P−O結合由来のピーク成分の強度の0.1%以上であってもよい。
酸窒化膜のN1sスペクトルは、三重配位窒素(−N<)由来のピーク成分と、二重配位窒素(−N=)由来のピーク成分を含んでよい。三重配位窒素由来のピーク成分の強度は、二重配位窒素由来のピーク成分の強度の50%以下であってもよく、40%以下であってもよく、30%以下であってもよい。ここで、三重配位窒素とは、3原子と単結合する窒素原子を意味し、二重配位窒素とは、1原子と単結合し、かつ、他の1原子と二重結合する窒素原子を意味する。窒素原子は、例えば、網目形成体を構成する原子と結合する。
三重配位窒素由来のピーク成分とは、399.4eV近傍に現れるピーク成分であり、二重配位窒素由来のピーク成分とは、397.9eV近傍に現れるピーク成分である。
酸窒化膜がアルカリ土類金属としてマグネシウムを含む場合、酸窒化膜のXPS測定におけるO1sスペクトルは、P−O結合由来のピーク成分と、Mg−O結合由来のピーク成分を含む。O1sスペクトルP−O結合由来のピーク成分とは、531.8eV近傍に現れるピーク成分であり、Mg−O結合由来のピーク成分とは、529.7eV近傍に現れるピーク成分である。
Mg−O結合由来のピークは、酸窒化膜中に不純物として生じるMgO等に由来するものと推察される。このMgO等を構成するマグネシウムは、イオン伝導に寄与しない。したがって、Mg−O結合由来のピークの強度が低い酸窒化膜ほど、イオン伝導が効率的に生じる。したがって、Mg−O結合由来のピーク成分の強度は、例えば、P−O結合由来のピーク成分の強度よりも小さいことが望ましい。不活性ガス(例えばアルゴンガス)の流量に対する、アンモニアガス及び/又は窒素供給源となるガスの流量の割合が、例えば30%以上に設定されてもよい。これにより、P−O結合由来のピーク成分の強度を、Mg−O結合由来のピーク成分の強度よりも大きくさせることができる。
なお、本開示における「ピーク成分」とは、XPSスペクトル上にピークとして現れているものに限らず、XPSスペクトルをフィッティングすることによって見出されるものをも含む。
本実施形態に係る酸窒化膜において、リンに対する窒素の割合N/Pは、例えば、0.2≦N/P<1を満たしてもよい。窒素が充分に導入されることにより、酸窒化膜のイオン伝導度が高まりうる。ALD法によれば、他の方法(例えばスパッタリング法)に比べて、酸窒化膜における窒素の割合を高めることができる。
酸窒化膜がアルカリ土類金属としてマグネシウムを含む場合、リンに対するマグネシウムの割合Mg/Pは、例えば、1.5≦Mg/Pを満たしてもよい。言い換えると、本実施形態に係る酸窒化膜におけるMg/Pは、リン酸マグネシウム(Mg3(PO4)2)におけるMg/Pよりも大きくてもよい。これにより、イオン伝導種であるマグネシウムの量を増やすことができる。
[4.二次電池]
本実施形態に係る酸窒化膜は、二次電池の固体電解質として利用されうる。例えば、本実施形態に係る二次電池は、正極、負極、及び上述の酸窒化物を含有する固体電解質を含む。正極は、正極集電体と正極活物質とを含み、負極は、負極集電体と、負極活物質とを含む。
二次電池は、例えば、全固体二次電池であってもよい。この場合、酸窒化膜が、正極と負極とに挟まれていてもよい。正極及び負極間に電圧を印加することにより、酸窒化膜内にイオン伝導が生じる。正極材料は、例えば、フッ化黒鉛((CF)n)の他に、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等の金属元素の酸化物やハロゲン化物等材料が用いられ得る。負極材料は、例えば、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、スズ(Sn)金属又は、それらを含む合金が用いられ得る。
二次電池において、固体電解質は、酸窒化膜のみであってもよいし、酸窒化膜と他の膜とが積層された積層体であってもよい。他の膜の例としては、硫化物やハロゲン化物等が挙げられる。固体電解質は、膜でなくてもよく、例えば、粉体であってもよい。したがって、本実施形態において「酸窒化膜」として説明されているものは、適宜「酸窒化物」の説明として読み替えることができる。
正極は凹凸面を有してもよく、固体電解質はその凹凸面を覆う被膜であってもよい。負極は凹凸面を有してもよく、固体電解質はその凹凸面を覆う被膜であってもよい。これにより、電極と固体電解質との接触面積を大きくすることができ、電極と固体電解質との反応を活性化できる。固体電解質の被膜は、例えば上述のALDによって成膜されることによって、凹凸面に追従したコンフォーマルな形状となる。これにより、プロセスばらつきが少ない固体電解質を形成できる。正極及び負極の少なくとも一方は、例えばポーラス形状を有してもよく、固体電解質は、このポーラスによる凹凸面に追従した形状を有してもよい。
例えば、正極活物質は複数の活物質粒子からなってもよく、固体電解質はそれらの活物質粒子のそれぞれの表面を覆う被膜であってもよい。負極活物質は複数の活物質粒子からなってもよく、固体電解質はそれらの活物質粒子のそれぞれの表面を覆う被膜であってもよい。これにより、活物質と固体電解質との接触面積を大きくすることができ、活物質と固体電解質との反応を活性化できる。例えば、上述のALDによれば、各工程において、原料ガスが活物質粒子間まで侵入でき、これによって、複数の粒子のそれぞれの表面を覆う固体電解質膜が成膜されうる。
あるいは、固体電解質は、正極集電体または負極集電体上に成膜されていてもよい。
本実施形態に係る二次電池は、全固体二次電池に限定されない。二次電池は、例えば、固体電解質に加えて、液体電解質を有してもよい。液体電解質としては、例えば、Mg(TFSI)2/3Gが挙げられる。ここで、Mg(TFSI)2はマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであり、3Gはトリエチレングリコールジメチルエーテルである。液体電解質は、例えば、1Mの3Gに対し、0.5MのMg(TFSI)2を配合したものでもよい。
[5.実験結果]
本実施形態に係る酸窒化膜の種々の実施例について説明する。
[5−1.実施例1]
実施例1のMgPON膜は、図1に示される製造装置1を用いて製造された。ここでは、ステップS4を除いて図2Cに示されるフローと同様の製造方法が実施された。
第1プリカーサー供給部3、及び、第2プリカーサー供給部4は、それぞれ、プリカーサボトル(Japan Advanced Chemicals Ltd.製)であった。リアクタ2、リアクタ2内のサンプルホルダ、第1プリカーサー供給部3、第2プリカーサー供給部4、及び、種々の配管の材質は、ステンレス鋼(SUS316)を使用した。リアクタ2、第1プリカーサー供給部3、第2プリカーサー供給部4、及び、種々の配管にリボンヒーターが巻きつけられ、リボンヒーターを加熱することによって各部位が加熱された。各部位の温度は熱電対で測定され、温度コントローラで温度制御が行われた。マスフローコントローラー5a〜5e及びバルブV1〜V7は、シーケンサー(MELSEC−Q;三菱電機株式会社製)及び制御プログラム(日本スプリード株式会社製)を用いて制御された。マスフローコントローラー5c及び5eとしては、SEC−E40(株式会社堀場エステック製)であった。マスフローコントローラー5dは、SEC−N112MGM(株式会社堀場エステック製)であった。ニードルバルブNVは、ベローズ・シール・バルブ(SS−4VMG;Swagelok社製)であった。リアクタ2内の真空度は、ピラニーゲージ(TPR280 DN16 ISO-KF:PFEIFFER VACUUM社製)で測定された。製膜中のリアクタ2内の真空度は、アングルバルブMV3の開度を調節することにより、10-1Pa〜103Paに制御された。
基板は、Au電極が形成されたガラス基板であった。Au電極は、5μmピッチのくし型であった。Au電極を有するガラス基板が、リアクタ2内に配置された。第1プリカーサーはトリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(TDMAP)であり、第2プリカーサーはビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムであった。パージガスは、アルゴンガスであった。酸素供給部12は、酸素ガスを供給可能であった。窒素供給部13は、アンモニアガスを供給可能であった。リアクタ2内の温度は、450℃に設定された。第1プリカーサー供給部3の温度は40℃に設定された。第2プリカーサー供給部4の温度は40℃に設定された。第1配管P1の温度は170℃に設定された。第1配管P1及び第2配管P2以外のすべての配管の温度は、200℃に設定された。酸素ガス、アンモニアガス、及びパージガスの流量は、それぞれ50ml/min、100ml/min、30ml/minに設定された。マニュアルバルブMV1及びMV2は常時開放されており、補助ガス供給部7及び9からの補助ガスの流量は、50ml/minに設定された。ニードルバルブNVの開度は、37.5%であった。
図2Cに示されるステップS1の前に、以下の準備ステップが実行された。
バルブV7が開かれ、約1800秒間パージガス供給部14からリアクタ2内へパージガスが供給され、バルブV7が閉じられた。ついで、バルブV5が開かれ、6秒間、酸素供給部12からリアクタ2内へ酸素ガスが供給され、バルブV5が閉じられた。その後、パージステップが8秒間、行われた。準備ステップの後、図2Cに示される繰り返しサイクルが、5000回行われた。前記繰り返しサイクルにおける各ステップの供給原料と処理時間を下記表1に示す。ただし、本実施例に係る製造方法は、製膜の開始から終了までステップS4が継続的に実行された点が、図2Cに示されるフローチャートと異なる。具体的には、1回目のサイクルの開始と同時にバルブV6が開かれ、5000回目のサイクル終了と同時にバルブV6が閉じられた。アンモニアガスの流量は100ml/minであった。アンモニアガスの温度は、200℃であった。ステップS1において、TDMAPのパルスの継続時間は、1秒であった。ステップS2において、酸素ガスのパルスの継続時間は、6秒であった。ステップS3において、EtCp2Mgのパルスの継続時間は、2.5秒であった。パージステップS11〜S14において、アルゴンガスのパルスの継続時間は8秒であり、すなわち、パージ時間は8秒であった。パージステップS13とS14の間には、1秒の休止時間が設けられた。
[5−2.実施例2]
繰り返しサイクル数が999である点、及び製膜中の真空度を実施例1より低くした点、アンモニアガスの流量を増やした点、S13直後のS2およびS14のステップを省略した点を除き、実施例1と同様の条件で、実施例2に係るMgPON膜が製造された。実施例2に係るMgPON膜の組成はMg3.5PO5.9N0.45であった。
[5−3.実施例3、4及び参考例]
実施例3、4のMgPON膜は、アンモニアガスの流量が異なることを除き、実施例1と同様の条件で作製された。具体的には、実施例3及び4におけるアルゴンガスの流量に対するアンモニアガスの流量の割合は、それぞれ、50%及び30%であった。参考例の酸窒化膜は、アンモニアガスの流量をほとんど流さなかったことを除き、実施例1と同様の条件で作製された。
[5−4.MgPON膜のXPSスペクトル]
図3、4A、及び5は、実施例1及び2に係るMgPON膜のXPSスペクトルを示し、図4Bは、実施例3、4及び参考例に係るMgPON膜のXPSスペクトルを示す。XPSスペクトルの測定には、XPS装置(Quamtera SXM;アルバック・ファイ株式会社製)を用いた。
図3は、実施例1及び2のMgPON膜、並びにリン酸マグネシウムのP2pスペクトルを示す。図中、実線は実施例1のMgPON膜のスペクトルを示し、破線は実施例2のMgPON膜のスペクトルを示す。図3において、一点鎖線は、比較例として、リン酸マグネシウム(Mg3(PO4)2)のスペクトルを示す。
図3において、実施例1及び2のMgPON膜のスペクトルは、P−O結合由来のピーク成分に加え、P−N結合由来のピーク成分を示した。一方、リン酸マグネシウムのスペクトルは、P−N結合のピーク成分を示さなかった。
後述するように、実施例1及び2のMgPON膜ではイオン伝導が確認された。一方、リン酸マグネシウムは一般的にイオン伝導を示さないことが知られている。そのため、MgPON膜のイオン伝導にはP−N結合が寄与していると推察される。
図4Aは、実施例1及び2のMgPON膜のO1sスペクトルを示す。図中、実線は実施例1のMgPON膜のスペクトルを示し、破線は実施例2のMgPON膜のスペクトルを示す。
図4Aにおいて、MgPON膜のO1sスペクトルは、P−O結合由来のピーク成分と、Mg−O結合由来のピーク成分とを示した。実施例1及び2の両方において、P−O結合由来のピーク成分の強度は、Mg−O結合由来のピーク成分の強度よりも高かった。また、実施例1及び2のO1sスペクトルのそれぞれをP−O結合由来のピーク成分の高さで規格化したとき、実施例1のMg−O結合由来のピーク成分は、実施例2のMg−O結合由来のピーク成分よりも低かった。
図4Bは、実施例3及び4、並びに参考例に係るMgPON膜のO1sスペクトルを示す。図中、実線、破線、及び点線は、それぞれ、実施例3及び4、並びに参考例に係る酸窒化膜のスペクトルを示す。
図4Bに示される実施例3及び4のスペクトルにおいて、P−O結合由来のピーク成分の強度は、Mg−O結合由来のピーク成分の強度よりも高かった。また、実施例3におけるMg−O結合由来のピーク成分の強度は、実施例4におけるMg−O結合由来のピーク成分の強度よりも小さかった。一方、参考例のスペクトルにおいて、P−O結合由来のピーク成分の強度は、Mg−O結合由来のピーク成分の強度よりも低かった。
これらの結果から、アンモニアガスの流量を増大させることによって、Mg−O結合由来のピーク成分を低減できることが分かった。不活性ガス(例えばアルゴンガス、窒素ガス)の流量に対する、アンモニアガス及び/又は窒素供給源となるガスの流量の割合は、例えば30%以上に設定されうる。これにより、P−O結合由来のピーク成分の強度が、Mg−O結合由来のピーク成分の強度よりも大きくなりうる。Mg−O結合由来のピーク成分の強度が相対的に低くなることにより、膜中において、イオン伝導に寄与するマグネシウムの割合が増大しうる。
図5は、実施例1及び2のMgPON膜のN1sスペクトルを示す。図中、実線は実施例1のMgPON膜のスペクトルを示し、破線は実施例2のMgPON膜のスペクトルを示す。
図5に示される実施例1及び2のN1sスペクトルにおいて、399.4eV近傍の値よりも、397.9eV近傍の値の方が大きかった。すなわち、実施例1及び2のMgPON膜において、二重配位窒素由来のピーク成分は、三重配位窒素由来のピーク成分より大きかった。また、実施例1のN1sスペクトルにおける二重配位窒素由来のピーク成分の強度と三重配位窒素由来のピーク成分の強度との差は、実施例2に比べて大きかった。このことには、製膜中の真空度が影響していると考えられる。
[5−5.イオン伝導度の測定]
実施例1及び2に係るMgPON膜のイオン伝導度を、電気化学測定装置(Modulab; Solartrom Analytical社製)を用いて測定した。
図6は、実施例1及び2のMgPON膜のイオン伝導度の温度依存性を示す。黒丸が実施例1、白丸が実施例2の測定結果を表す。図6に示されるように、実施例1のMgPON膜のイオン伝導度は、実施例2よりも高かった。この理由は次のように推察される。第一に、実施例1のP2pスペクトルにおけるP−N結合由来のピークは、実施例2よりも大きかった。これは、実施例1のMgPON膜内において、窒素がより適切にリンと結合していることを表している。そのため、実施例1のMgPON膜は、マグネシウムイオンがより伝導しやすい構造を有していたと考えられる。第二に、実施例1のO1sスペクトルにおけるMg−O結合由来のピークは、実施例2よりも小さかった。これは、これは、実施例1のMgPON膜内において、MgO等の不純物が少なく、イオン伝導に寄与するMgがより多いことを表している。第三に、実施例1のN1sスペクトルにおける二重配位窒素由来のピーク成分は、実施例2によりも大きかった。このことも、イオン伝導度の高さに寄与していると考えられる。
実施例1のMgPON膜の活性化エネルギーは0.645eVであり、実施例2のMgPON膜の活性化エネルギーは1.34eVであった。マグネシウムを含む他の固体電解質材料の活性化エネルギーは、参考例として、MgZr4(PO4)6の活性化エネルギーは1.4eVであり、MgHf(WO4)3の活性化エネルギーは0.835eVである。そのため、実施例1及び2のMgPON膜は、参考例と同じく、固体電解質としての機能を有する。
[5−6.MgPON膜の断面形状と組成分析]
実施例1のMgPON膜とAu電極対とを備えるサンプルを準備し、Au電極間に450℃の下で、1Vの直流電圧を1週間印加した。その後、このサンプルの断面を、TEM(走査型透過電子顕微鏡;HF2200;株式会社日立製作所製)で観察した。
図7Aは、この試料の断面TEM像を示し、図7Bは、図7Aにおいて点線で囲った部分の拡大図を示す。このMgPON膜の膜厚は約2μmであった。図8は、図7Bにおいて点線で囲った部分の拡大図を示す。
図7Bに示される領域R1、R2、及びR3の組成を、分析装置(商品名:NORAN System 7 X-ray Microanalysis System; Thermo Fisher Scientific Inc. 社製)を用いてエネルギー分散型X線(EDS)で分析した。領域R1及びR3は、それぞれ、Au電極近傍の領域であり、領域R2は、Au電極対の間の中央の領域である。領域R1、R2、及びR3の面積は、それぞれ50nm×500nmであった。
表2は、各領域における、リンに対するマグネシウムの割合(Mg/P)の測定結果を示す。領域毎にEDS測定を3回行い、それらの平均は表中の「Mg/P Ave.」に示される。
表2に示すように、領域R1においてMgの割合が高かった。これは、領域R1において、Mgが偏析したことを示している。図8において破線で囲まれる領域は、領域R1及びその周辺領域に相当する。図8において、破線で囲まれた領域は、その周囲よりもコントラストが暗かった。これは、この部分において、Mgが偏析していることを示している。
EDS分析とは別に、実施例1のMgPON膜について、X線光電分光法(XPS)によって深さ方向の組成分析を行った。具体的には、X線光電子分光装置(Quamtera SXM;アルバック・ファイ株式会社製)を用いて、MgPON膜のXPS測定とMgPON膜に対するArスパッタとを交互に繰り返しながら、膜の深さ方向における元素濃度プロファイルを測定した。測定した結果、実施例1に係るMgPON膜における、リンに対するマグネシウムの割合は、2.0であった。なお、EDSによる測定結果と、XPSによる測定結果とのズレは、測定手法の違いによるものである。いずれにせよ、実施例1のMgPON膜におけるMg/Pは、1.5以上の値であった。