JP6666655B2 - エピタキシャル成長用積層基材の製造方法 - Google Patents

エピタキシャル成長用積層基材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、エピタキシャル成長用積層基材の製造方法に関する。
超電導線材は、金属基板の上に、酸化セリウム(CeO)、ジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ)、酸化イットリウム(Y)等の酸化物層やバッファー層等からなる単層又は複数層の中間層を積層して超電導線材用積層基材(エピタキシャル成長用積層基材)を形成し、この超電導線材用積層基材の上に、さらに超電導層(RE123膜等、RE:Y、Gd、Ho、Sm、Dy等)を積層することで製造する。
上記超電導線材においては、超電導層の結晶配向性が高いほど、得られる超電導特性が改善することが知られている。超電導層は、スパッタ法、パルスレーザー蒸着(PLD)法等の気相成長法や、塗布熱分解(MOD)法等の液相成長法を用いて、表層が結晶配向した超電導線材用積層基材の上に酸化物超電導体を所定の方向に結晶成長させて形成するため、超電導層の結晶配向性を向上させるには超電導線材用積層基材の結晶配向性を高めることが有効となる。
結晶配向性に優れた超電導線材用積層基材(エピタキシャル成長用積層基材)を得るための技術として、例えば(特許文献1)には、めっき法を用いて銅層上にニッケル層が形成された基材を準備する工程と、前記ニッケル層を800℃〜1000℃で熱処理する工程と、前記ニッケル層を熱処理する工程の後に前記ニッケル層上にCeO薄膜等の中間層をエピタキシャル成長させる工程とを備えた基板の製造方法が開示されており、この方法によって中間層の2軸配向性を向上させている。また、(特許文献2)には、配向金属基板上に、中間層、酸化物超電導層が順に積層されている酸化物超電導薄膜線材の製造方法であって、前記中間層の形成工程が、少なくとも、前記配向金属基板上にRFスパッタリング法を用いてCeO層を形成するCeO層形成工程と、前記CeO層上に電子ビーム蒸着法を用いてY層を形成するY層形成工程とを備えていることを特徴とする酸化物超電導薄膜線材の製造方法が開示されている。
特開2011−018598号公報 特開2012−243499号公報
上記のように、金属基板の最表層を予め結晶配向させておき、その金属基板最表層の結晶配向を引き継いで酸化物層をエピタキシャル成長させたエピタキシャル成長用積層基材においては、酸化物層の結晶配向性をより一層高めることが求められている。ましてや、酸化物層の結晶配向を金属基板最表層の結晶配向よりもむしろ改善させる技術については従来知られていない。また、そのような、酸化物層の結晶配向を金属基板の最表層の結晶配向よりも向上させたエピタキシャル成長用積層基材を製造する際には、より高速かつ効率的な製造を可能にして量産性を高めることが求められる。
そこで本発明は、金属基板の最表層に比べて結晶配向がより改善した酸化物層を形成することができ、しかも、より高速かつ効率的に製造することができる、エピタキシャル成長用積層基材の製造方法を提供することを目的とする。なお、本発明においてエピタキシャル成長用積層基材とは、金属基板とその上に形成された酸化物層とを含む積層基材を指し、その上に超電導層を形成して超電導線材を製造するために使用される超電導線材用積層基材の他、Si等の太陽光発電層を成膜するための基材や、半導体層を成膜するための半導体用積層基材等を含む概念である。
本発明者らが鋭意研究を行った結果、RFマグネトロンスパッタ法を用いて金属基板上へ酸化物層を成膜し、その際に、酸化物層を構成するターゲットと金属基板における成膜位置との相対位置を所定の範囲内に制御することによって、酸化物層の結晶配向が金属基板の最表層の結晶配向よりも向上した状態が得られることを見出した。さらに、上記のような相対位置を所定の範囲内に制御して行う成膜工程は、金属基板と酸化物層の界面近傍でのみ行えば良く、その後は非最適条件にて成膜を行っても最終的な酸化物層の高い結晶配向は維持されることを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)金属基板と、前記金属基板の上に形成された酸化物層とを含むエピタキシャル成長用積層基材の製造方法であって、
前記酸化物層が、前記金属基板の最表層の上に形成される、酸化物から構成される結晶配向性改善層と、前記結晶配向性改善層に対してエピタキシャル成長した酸化物から構成され、前記金属基板の最表層のΔωに比べて0.5°以上小さいΔωを有する第2酸化物層とを含み、
最表層のc軸配向率が99%以上である結晶配向した金属基板を準備する工程と、
前記金属基板上に、前記金属基板上の成膜位置における垂線と、前記成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度を15°以内にしてRFマグネトロンスパッタリングを行い、前記結晶配向性改善層を形成する第一工程と、
前記第一工程により形成した結晶配向性改善層に対して酸化物をエピタキシャル成長させ、前記第2酸化物層を形成する第二工程と、
を含む、エピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
(2)前記第2酸化物層が、前記金属基板の最表層のΔωに比べて0.5°〜3.0°小さいΔωを有する、上記(1)に記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
(3)前記結晶配向性改善層が、1単位格子〜7単位格子の酸化物から構成される上記(1)又は(2)に記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
(4)前記結晶配向性改善層の酸化物と、前記第2酸化物層の酸化物とが、同一の酸化物である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
(5)前記結晶配向性改善層の酸化物、及び/又は前記第2酸化物層の酸化物が、CeOである上記(1)〜(4)のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
(6)前記金属基板の最表層が、Ni又はNi合金からなる上記(1)〜(5)のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
本発明によれば、金属基板の最表層に比べてΔωが小さく結晶配向が改善した酸化物層を、より高速且つ効率的に成膜し、優れた特性を有するエピタキシャル成長用積層基材を得ることができる。また、得られる酸化物層の結晶配向について、所定の結晶方位からある程度以上ずれている面積の割合を低減することができる。
本発明における結晶配向性改善層の成膜方法を説明するための図である。 実施例及び比較例における成膜方法を説明するための図である。 実施例及び比較例の測定結果を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法は、最表層のc軸配向率が99%以上である結晶配向した金属基板上に、その金属基板上の成膜位置における垂線と、成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度を15°以内にしてRFマグネトロンスパッタリングを行い、金属基板の最表層の上に結晶配向性改善層を形成する第一工程と、その結晶配向性改善層に対して酸化物をエピタキシャル成長させることによりΔωに比べて0.5°以上小さいΔωを有する第2酸化物層を形成する第二工程とを含むことを特徴とする。これにより、上層に超電導層を設けることで超電導線材を製造するための、基板となる超電導線材用積層基材等のエピタキシャル成長用積層基材を得ることができる。以下では、超電導線材用積層基材を製造する場合について主に説明するが、これに限定されるものではない。
金属基板は、最表層のc軸配向率が99%以上であることを要する。c軸配向率は、X線回折のθ/2θ測定での(200)面の回折ピーク強度率から求められ、(200)面が金属基板の表面と垂直になっている割合を示している。具体的には、c軸配向率(%)=I(200)/ΣI(hkl)×100(%)により求められる。また、最表層の面内配向度(Δφ)及び面外配向度(Δω)については、Δφ≦6°、Δω≦8°であることが好ましく、特に超電導線材に用いる場合は、Δφ≦5°、Δω≦6°であることがより好ましい。いずれも、最表層のEBSD(Electron Back Scatter Diffraction:電子後方散乱回折)測定により求めることができる。EBSDとは、SEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折(菊池パターン)を利用して結晶方位を解析する技術である。通常、電子線は最表層表面に照射され、このとき得られる情報は電子線が侵入する数十nmの深さまでの方位情報、すなわち最表層の方位情報である。
金属基板の最表層は、特に限定されず種々の金属を含むことができる。例えば、ニッケル、銅、銀、タングステン、バナジウム、クロム、モリブデン、マンガン、アルミニウム、鉄及びパラジウムよりなる群から選ばれる1種以上又はそれらの合金を含むことができ、特に、ニッケル又はニッケル合金を含むことが好ましい。金属基板が複数の層から構成される場合、最表層にニッケル又はニッケル合金が含まれると、金属基板上に設けられる酸化物層によって最表層が酸化され、結晶配向が乱れるのを防止することができる。
また、金属基板は、最表層が上記のような所定の結晶配向を有していれば良く、その下層に例えば無配向の別の金属層が存在しても良い。一実施形態において、本発明における金属基板は、非磁性の金属板と、その非磁性の金属板の上に積層され、熱処理により結晶配向させた高圧下率金属層(以下、結晶配向金属層という)とを含む。なお、高圧下率金属層は、非磁性の金属板の片面のみに積層させても良く、あるいは金属板の両面に積層させても良い。
本発明において、「非磁性」とは、77K以上で強磁性体ではない状態、すなわちキュリー点やネール点が77K以下に存在し、77K以上の温度では常磁性体又は反強磁性体となる状態をいう。非磁性の金属板としては、ニッケル合金やオーステナイト系ステンレス鋼板が、強度に優れた補強材としての役割を有することから好ましく用いられる。一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は、常温では非磁性の状態、すなわち金属組織が100%オーステナイト(γ)相であるが、強磁性体であるマルテンサイト(α’)相変態点(Ms点)が77K以上に位置している場合、液体窒素温度で強磁性体であるα’相が発現する可能性がある。そのため、液体窒素温度(77K)下で使用される超電導線材用の金属板としては、Ms点が77K以下に設計されているものが好ましく用いられる。使用するオーステナイト系ステンレス鋼板としては、Ms点が77Kより十分に低く設計された安定なγ相を有し、且つ一般に普及し、比較的安価に入手できるという点から、SUS316やSUS316L、SUS310やSUS305等の金属板が好ましく用いられる。これらの金属板の厚さは、通常20μm以上であれば適用可能であり、超電導線材の薄肉化及び強度を考慮すると、50μm〜100μmであることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
また、本発明において、「高圧下率金属層」とは、最終圧延時の圧下率が好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の高圧下率で冷間圧延され、且つ、その冷間圧延後再結晶のための熱処理が未だ施されず、冷間圧延により発達した圧延集合組織を保持した金属層をいう。圧下率が90%未満であると、後に行う熱処理において金属が配向しない恐れがある。金属基板に用いられる高圧下率金属層は、特に限定されずに、ニッケル、銅、銀、タングステン、バナジウム、クロム、モリブデン、マンガン、アルミニウム及び鉄よりなる群から選ばれる1種以上又はそれらの合金を含むことができるが、二軸結晶配向しやすく、特に超電導線材として用いる際には中間層との格子マッチングが良いことから、好ましくは銅又は銅合金を含む。高圧下率金属層には、熱処理による2軸結晶配向性をより向上させるため、1%以下程度の微量の元素を含有させても良い。このような添加元素としては、Ag、Sn、Zn、Zr、O及びN等から選択される一種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素と高圧下率金属層に含まれる金属とは固溶体を形成するが、添加量が1%を超えると固溶体以外の酸化物等の不純物が増加してしまい、結晶配向性に悪影響を及ぼす恐れがある。
高圧下率金属層としては、金属箔が好ましく用いられる。適用可能な金属箔は、一般的にも入手可能であり、例えば、銅箔として、JX日鉱日石金属(株)製の高圧下率銅箔(HA箔(商品名))や、(株)SHカッパープロダクツ製の高圧下率銅箔(HX箔(商品名))等がある。
高圧下率金属層の厚さは、高圧下率金属層自体の強度を確保するとともに、後に超電導線材を加工する際の加工性を良好にするため、通常7μm〜70μmの範囲とすることが好ましい。
非磁性の金属板と高圧下率金属層とを積層させるには、種々の方法により行われるが、その中でも表面活性化接合法を用いて積層させることが好ましい。表面活性化接合法では、非磁性の金属板及び高圧下率金属層のそれぞれの表面にスパッタエッチング処理を行うことによって表面吸着層及び表面酸化膜を除去して活性化させ、その後、活性化した2つの面同士を冷間圧接することにより接合する。
具体的には、例えば、非磁性の金属板及び高圧下率金属層を、幅150mm〜600mmの長尺コイルとして用意し、表面活性化接合装置のリコイラー部にそれぞれ設置する。各リコイラー部から搬送された非磁性の金属板及び高圧下率金属層は、連続的に表面活性化処理工程へ搬送され、そこで接合する2つの面を予め活性化処理した後、冷間圧接する。
表面活性化処理は、接合面を有する非磁性の金属板と高圧下率金属層をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1〜50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、スパッタエッチング処理することで行われる。その際に用いる不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトン等や、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。
スパッタエッチング処理では、非磁性の金属板及び高圧下率金属層の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、少なくとも表面吸着層を除去し、さらに表面酸化膜を除去しても良く、この処理により接合する面を活性化させる。このスパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防いでいる。
その後、連続的に圧接ロール工程に搬送し、活性化された面同士を圧接する。圧接下の雰囲気は、Oガス等が存在すると、搬送中、活性化処理された面が再酸化され密着に悪影響を及ぼす恐れがある。前記圧接工程を通って密着させた積層体は、巻き取り工程まで搬送され、そこで巻き取られる。
なお、前記スパッタエッチング工程において、接合面の吸着物は完全に除去するものの、表面酸化層は完全に除去する必要はない。表面全体に酸化層が残留していても、接合工程において圧下率を上げ、接合面での摩擦により素地を露出させることで、非磁性の金属板と高圧下率金属層との接合性を確保することができるからである。
また、乾式エッチングで酸化層を完全に除去しようとすると、高プラズマ出力、又は長時間のエッチングが必要となり、材料の温度が上昇してしまう。スパッタエッチング処理において、温度が、高圧下率金属層中の金属の再結晶開始温度以上に上昇すると、高圧下率金属層の再結晶が起こり、高圧下率金属層は接合前に結晶配向してしまうこととなる。結晶配向した高圧下率金属層を圧延すると、高圧下率金属層に歪が導入され、高圧下率金属層の2軸結晶配向性が劣化する。このような理由から、スパッタエッチング工程では、高圧下率金属層の温度を、金属の再結晶開始温度未満に保持する必要がある。例えば、高圧下率金属層として銅箔を用いる場合、銅箔の温度を150℃未満に保持する。好ましくは、100℃以下に保持し高圧下率金属層の金属組織を圧延集合組織のまま保持する。
また、非磁性の金属板をスパッタエッチングする処理においても、高プラズマ出力で処理したり、時間をかけ金属板温度を高圧下率金属層中の金属の再結晶開示温度以上にしたりすると、圧接時に高圧下率金属層との接触で高圧下率金属層の温度が上昇し、圧延と同時に高圧下率金属層の再結晶が起こり、2軸結晶配向性が劣化する恐れがある。このため、非磁性の金属板のスパッタエッチング工程においても、金属板の温度を高圧下率金属層中の金属の再結晶開始温度未満に保つことが望ましい。例えば、高圧下率金属層として銅箔を用いる場合、150℃未満、好ましくは常温〜100℃に銅箔を保持すると良い。
このように非磁性の金属板及び高圧下率金属層の表面を活性化処理した後、両者を真空中で圧延ロールにて接合する。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、10−5Pa〜10−2Paの範囲の真空度であれば良い。また、非磁性の金属板表面や高圧下率金属層表面への酸素の再吸着によって両者間の密着強度が低下するので、非酸化雰囲気中、例えばAr等の不活性ガス雰囲気中で前記圧延ロール接合をすることも好ましい。
圧延ロールによる加圧は、接合界面の密着面積の確保、及び圧下時の接合界面で起こる摩擦により一部表面酸化膜層を剥離させ、素地を露出させるために行い、300MPa以上加えることが好ましく、特に、非磁性の金属板及び高圧下率金属層は、共に硬い材料であるため、600MPa以上1.5GPa以下での加圧が好ましい。圧力はこれ以上かけても良く、圧下率で30%までは後の熱処理後に結晶配向性が劣化しないことは確認されているが、好ましくは、5%未満の圧下率となるように加圧する。圧下率で30%を超えると、高圧下率金属層の表面にクラックが発生するとともに、圧延、熱処理後の結晶配向金属層の結晶配向性が低下する場合がある。
金属板及び高圧下率金属層を接合した後、熱処理を行い、高圧下率金属層を結晶配向させて結晶配向金属層とする。熱処理は、例えば、150℃以上の温度で行う。熱処理時間は温度によって異なるが、例えば400℃であれば1時間〜10時間、700℃以上の高温であれば数秒〜5分程度保持すると良い。熱処理温度をあまり高温にすると結晶配向金属層が2次再結晶を起こしやすくなり、結晶配向性が悪くなるため、150℃以上1000℃以下で行うことが好ましい。特に、700℃以上の高温において良い結晶配向が得られること、及び、超電導線材として用いる場合には後の超電導層を形成する工程において基板が600℃〜900℃の高温雰囲気におかれることを考慮すると、700℃〜900℃での熱処理が好ましい。結晶配向金属層を金属基板の最表層とする場合、上記熱処理によって、結晶配向金属層のc軸配向率を99%以上にする必要があり、Δφ及びΔωについても所定の範囲内になるように制御することが好ましい。より好ましくは段階的に、低温での熱処理の後、高温での熱処理を行うことにより、結晶配向金属層及びその後に形成する保護層の結晶配向及び表面粗度が良好となる。具体的には200℃〜400℃での熱処理の後、800℃〜900℃での熱処理を行うことが特に好ましい。
また、本発明における金属基板は、結晶配向金属層の上にさらに保護層を形成することが好ましい。この場合、保護層が金属基板の最表層となる。保護層は、特に限定されず、ニッケル、パラジウム、銀等又はそれらの合金を含み、好ましくはニッケル又はニッケル合金を含む。ニッケルを含む保護層は耐酸化性に優れ、また保護層が存在することによって、その上にCeO等の酸化物層を形成する際に、結晶配向金属層に含まれる金属の酸化膜が生成して結晶配向性が崩れることを防止することができる。ニッケル、パラジウム又は銀の合金中の含有元素としては、磁性が低減されるものが好ましく、例としてCu、Sn、W、Cr等の元素が挙げられる。また、結晶配向性に悪影響を及ぼさない範囲であれば、不純物を含んでいても良い。
保護層の厚さは、薄過ぎると、例えば超電導線材の製造において、その上に酸化物層、超電導層を積層する際に結晶配向金属層中の金属が保護層表面まで拡散することにより表面が酸化する可能性があり、また厚過ぎると保護層の結晶配向性が崩れ、めっき歪も増大するため、これらを考慮して適宜設定される。具体的には、1μm〜5μmの範囲であることが好ましい。
上記保護層は、熱処理により2軸結晶配向した非磁性の金属板と結晶配向金属層との積層体をめっき処理することにより、結晶配向金属層の上に結晶配向金属層の結晶配向を引き継いだ保護層を形成することができる。めっき処理は、保護層のめっき歪が小さくなるような条件を適宜採用して行うことができる。ここで、めっき歪とは、金属板等の下地にめっき処理を施した場合に、めっき皮膜内に生ずる歪(ひずみ)の度合いをいう。例えば、保護層としてニッケルからなる層を形成する場合は、めっき浴として従来知られたワット浴やスルファミン酸浴を用いて行うことができる。特に、スルファミン酸浴は、保護層のめっき歪を小さくしやすいため好適に用いられる。めっき浴組成の好ましい範囲は以下の通りであるが、これに限定されるものではない。
(ワット浴)
硫酸ニッケル 200〜300g/l
塩化ニッケル 30〜60g/l
ホウ酸 30〜40g/l
pH 4〜5
浴温 40〜60℃
(スルファミン酸浴)
スルファミン酸ニッケル 200〜600g/l
塩化ニッケル 0〜15g/l
ホウ酸 30〜40g/l
添加剤 適量
pH 3.5〜4.5
浴温 40〜70℃
めっき処理を行う際の電流密度は、特に限定されるものではなく、めっき処理に要する時間とのバランスを考慮して適宜設定される。具体的には、例えば、保護層として2μm以上のめっき皮膜を形成する場合、低電流密度であるとめっき処理に要する時間が長くなり、その時間を確保するためにラインスピードが遅くなって、生産性が低下したり、めっきの制御が困難になる場合があるため、通常、電流密度を10A/dm以上とすることが好ましい。また、電流密度の上限は、めっき浴の種類によって異なり、特に限定されるものではないが、例えばワット浴であれば25A/dm以下、スルファミン酸浴であれば35A/dm以下とすることが好ましい。一般に、電流密度が35A/dmを超えると、所謂めっき焼けによって良好な結晶配向が得られない場合がある。
保護層の表面には酸化物が存在する場合があるので、熱処理によって酸化物を除去し、また、めっき条件等によって表面にマイクロピットが発生する場合があるので、必要に応じて、めっき後にさらに熱処理による平均化を行ない、表面を平滑にすることができる。保護層の熱処理は、Hを3モル%含んだArガス等の1Pa程度の還元雰囲気下、650℃〜1000℃の温度で5分〜30分行うことが好ましい。
金属基板の厚さは、最終的なエピタキシャル成長用積層基材の用途等によっても異なり特に限定されないが、例えば50μm〜200μmであることが好ましい。厚さが50μm未満であると基板の機械的強度が確保できず、厚さが200μmより大きいと例えば超電導線材に加工する際の加工性が確保できない場合があるためである。
また、特に超電導線材として用いる場合、保護層の上にさらにエピタキシャル成長によって積層させる中間層及び超電導層の結晶配向性を良好に維持するため、必要に応じて、非磁性金属板と高圧下率金属層とを接合させた後、熱処理の前に、高圧下率金属層の表面粗度Raを低減するための処理を行っても良い。具体的には、圧延ロールによる圧下、バフ研磨、電解研磨、電解砥粒研磨等の方法を用いることができ、これらの方法により、表面粗度Raを例えば20nm以下、好ましくは10nm以下にすることが望ましい。
以上のような結晶配向した金属基板の上に、第一工程として、RFマグネトロンスパッタリングを行って酸化物を成膜し、結晶配向性改善層を形成する。金属基板上に形成する酸化物の組成は特に限定されないが、例えば超電導線材用としては、蛍石型、パイロクロア型、岩塩型又はペロブスカイト型の結晶構造を有する酸化物が好ましく、具体的には、CeO、MgO、SrTiO、La、YSZ、Y等を挙げることができる。これらの酸化物は、金属基板と超電導層との格子定数の差を緩和するとともに、金属基板から超電導層への金属原子の拡散を防止する役割を果たす。特に、CeO等の蛍石型構造を有する酸化物は、金属基板の最表層がNiを含む2軸結晶配向状態である場合、本発明の製造方法によって結晶配向性が非常に良い結晶配向性改善層を形成可能であるため好ましく用いられる。
結晶配向性改善層の厚さは、特に限定されるものではなく、金属基板の最表層を完全に覆わない状態、例えば最表層の一部が結晶配向性改善層によって島状、まだら状に覆われている状態であっても、金属基板の最表層のΔωから0.5°以上改善したΔωを得ることができる。また、結晶配向性改善層を介在させることにより、酸化物層のΔφについても金属基板の最表層のΔφに比べて向上させることができる。好ましくは、結晶配向性改善層は金属基板の最表層を完全に覆った状態とし、且つその厚さは少なくとも1単位格子の酸化物から構成されるような厚さとするが、それを超える厚さを有していても構わない。しかし、本発明の効果は、金属基板と結晶配向性改善層の界面近傍のみを第一工程により成膜し、その後は非最適条件による第二工程で成膜することによって全体の製造効率を向上させることにあるので、Δωの改善効果が得られる範囲で、第一工程による成膜厚さはできるだけ小さい方が好ましい。具体的には、結晶配向性改善層が1単位格子〜7単位格子の酸化物から構成されることが好ましい。ここで、1単位格子に相当する厚さは、結晶配向性改善層を構成する酸化物の組成によって異なる。例えば、CeOによって結晶配向性改善層を構成する場合、1単位格子は、0.5411nmの厚さに相当する。
第一工程におけるRFマグネトロンスパッタリングでは、上記酸化物をターゲットとし、このターゲットの裏面に磁石を設置して磁界を発生させ、ガスイオンをターゲット表面に衝突させ、叩き出される二次電子をローレンツ力で捕らえてサイクロトロン運動で不活性ガスのイオン化を促進する。負イオンや二次電子が磁界で捕らえられるため、金属基板の温度上昇が抑えられ、捕らえた電子でガスイオン化が促進され、成膜速度を高速にすることができる。
第一工程において、RFマグネトロンスパッタリングにより結晶配向性改善層を成膜する際には、図1に示すように、金属基板20上の成膜位置20aにおける垂線と、その成膜位置20aから最短距離にあるターゲット10上の垂直方向の磁束密度0地点10aへ至る線とが成す角度αを15°以内にしてRFマグネトロンスパッタリングを行う。垂直方向の磁束密度0地点とは、ターゲット裏面に設置する磁石からの磁力線によって形成される、垂直方向の磁束密度が0となる地点であり、この地点を中心としてエロージョン領域(ターゲットが侵食される領域)が形成される。角度αを15°以内とすることにより、下層となる金属基板最表層の粒径が結晶配向性改善層に引き継がれ、さらに第2酸化物層を形成した際にその第2酸化物層のΔωを0.5°以上、例えば0.5°〜3.0°向上させることができる。すなわち、第2酸化物層の面内配向度及び面外配向度をそれぞれΔφ、Δωとし、金属基板の最表層の面内配向度及び面外配向度をそれぞれΔφ、Δωとしたとき、Δω−Δω≧0.5°の関係を満たすような第2酸化物層を得ることができる。特に、角度αを13.5°以内とすることが好ましい。得られる第2酸化物層の結晶配向性は、c軸配向率が99%以上であり、好ましくはΔφ≦5.5°、特に好ましくはΔφ≦4.5°であり、好ましくはΔω≦7.5°、特に好ましくはΔω≦5.5°である。
RFマグネトロンスパッタリングは、Arガス雰囲気下で行うことが好ましいが、ヘリウム、ネオン、クリプトン等の他の不活性ガスを用いても良い。また、ガス圧は特に限定されないが、例えば0.01Pa〜6Paの範囲内とすることが好ましい。さらに、結晶配向性改善層の成膜速度は、1nm/min〜30nm/minの範囲内になるようスパッタリング条件を設定することが好ましい。
また、RFマグネトロンスパッタリングを行う際の金属基板の温度は、350℃以上600℃未満、特に400℃以上550℃未満となるように制御することが好ましい。350℃以上600℃未満の範囲内に制御することにより、結晶配向性改善層のc軸配向率を良好に維持することができる。
なお、図1の例では、ターゲット10及び金属基板20がともに円盤形状である場合を示しているが、「金属基板上の成膜位置における垂線と、その成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度を15°以内にする」という条件を満たす限り、種々の形状が適用可能である。例えば、超電導線材を製造する場合に、ターゲット及び金属基板の両方を長尺板状とすることができる。その際には、必要に応じて、ターゲットと金属基板との間に一部を開口させたマスクを設置し、角度αが15°以内である結晶配向性改善層のみが成膜されるようにしつつ、同時に金属基板を移動させて金属基板の全面に結晶配向性改善層を形成させる方法等を採用することができる。また、ターゲットは円盤形状、四角形状のものを金属基板に沿って複数配置することもできる。
結晶配向性改善層を形成する第一工程に続き、第二工程として、その結晶配向性改善層に対して酸化物をエピタキシャル成長させ、第2酸化物層を形成する。第2酸化物層を構成する酸化物としては、特に限定されるものではなく、結晶配向性改善層の場合と同様に、蛍石型、パイロクロア型、岩塩型、ペロブスカイト型等の結晶構造を有する酸化物から適宜選択することができる。具体的には、酸化セリウム(CeO)、ジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ)、酸化イットリウム(Y)等を挙げることができる。また、結晶配向性改善層の酸化物と、第2酸化物層の酸化物とは同一であっても良く、異なる酸化物であっても良いが、特に、結晶配向性改善層の酸化物と格子定数が同一もしくは近い酸化物から第2酸化物層を構成することが好ましい。
第二工程では、上述の第一工程のような、RFマグネトロンスパッタリングにおけるターゲットと成膜位置との相対的な位置関係についての制限はなく、通常のRFマグネトロンスパッタリングの手順に従って、第1工程よりも高速且つ効率的に第2酸化物層を成膜することができる。無論、第一工程に引き続き角度αを15°以内にしてRFマグネトロンスパッタリングを行っても良い。また、RFマグネトロンスパッタ法に限らず、例えば、EBD(電子線ビーム蒸着;Electron Beam Deposition)法、PLD法、熱蒸着法等によって第2酸化物層をエピタキシャル成長させても良い。第二工程によって形成する第2酸化物層の厚さは、特に限定されるものではないが、結晶配向性改善層との合計厚さが、50nm〜300nmの範囲であることが好ましい。これにより、金属基板の最表層のΔωに比べて0.5°以上小さいΔωを有する第2酸化物層が得られる。
また、結晶配向性改善層を介して形成した第2酸化物層の結晶配向について、所定の結晶方位からある程度以上ずれている面積の割合を、従来の金属基板上に形成した酸化物層に比して低減することができる。ここで、「所定の結晶方位からある程度以上ずれている面積の割合」とは、EBSD法で観察した場合に、所定の結晶方位(例えば、(001)[110])からの角度差がある程度(例えば、4°)以上である結晶の面積の割合をいう。このように、上層である第2酸化物層の結晶配向性が金属基板の最表層よりも改善される理由は定かではないが、結晶配向性改善層の形成過程において角度αを15°以内とすることによって、酸化物ターゲット表面で発生する酸素イオンが成膜中の結晶配向性改善層へ衝突し、酸素欠損等の格子欠陥が起こりにくい状態で結晶配向性改善層が成膜されてΔφ及びΔωが大きく低下し、一旦そのようにして金属基板最表層の界面近傍の結晶配向性が改善した後は、その上に非最適条件で第2酸化物層を成膜しても界面近傍における高い結晶配向性が引き継がれる可能性が考えられる。
以上のようにして得られた超電導線材用積層基材(エピタキシャル成長用積層基材)の上に、従来の方法に従って中間層及び超電導層を順次積層することにより、超電導線材を製造することができる。具体的には、超電導線材用積層基材の最表層の上に、SrTiO、MgO、La、YSZ、Y等を含む一つ又は複数の中間層をエピタキシャル成膜し、さらにその上にREBaCuO(RE:Y、Gd、Ho、Sm、Dy等)等の超電導化合物層をスパッタ法、EB蒸着法、MOD(有機金属成膜;Metal Organic Deposition)法、PLD(パルスレーザー蒸着;Pulse Laser Deposition)法、MOCVD(有機金属気相成長;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法等の方法により成膜することによって超電導線材を得ることができる。また、必要に応じて、超電導層の上にさらにAg、Au、Pt、Al又はこれらの合金等からなる保護層を設けても良い。
なお、上述のように、第2酸化物層と超電導層の間に中間層をさらに形成する場合、その中間層を形成する際の成膜方法は、RFマグネトロンスパッタ法に限らず、例えば、EBD(電子線ビーム蒸着;Electron Beam Deposition)法、PLD法、熱蒸着法等によって形成しても良い。
次に、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
(実施例1〜6)
非磁性の金属板としてSUS316L(厚さ100μm)を用い、高圧下率金属層として、圧下率96.8%で圧延された銅箔(厚さ48μm)を用いた。SUS316Lと銅箔とを、表面活性化接合装置を用いて常温で表面活性化接合し、SUS316Lと銅箔の積層材を形成した。表面活性化接合においては、スパッタエッチングを、0.1Pa下で、プラズマ出力を200W、接合面へのスパッタ照射時間を20秒の条件で実施し、SUS316L及び銅箔上の吸着物層を完全に除去した。また、圧延ロールでの加圧は600MPaとした。
得られた積層材に対し、積層材の銅箔側表面を研磨して表面粗度Raを20nm以下とした後、Arの非酸化雰囲気下、温度250℃にて5分均熱保持し、続いて850℃にて5分均熱保持するという条件にて熱処理を行い、銅箔を2軸結晶配向させて結晶配向金属層を形成した。
次に、積層材をカソードとして、銅箔からなる結晶配向金属層上にニッケルめっきを施し、ニッケルめっき層を保護層として形成して、Ni/Cu/SUSの3層からなるφ50mmの金属基板を作製した。めっき浴の組成は以下の通りである。めっき厚は2.5μmとし、めっき浴温は60℃、めっき浴のpHはpH4に設定した。得られた金属基板の中心部分の最表層のc軸配向率、Δφ、Δω、並びに結晶方位が(001)[100]から4°以上6°未満ずれている面積の割合、6°以上8°未満ずれている面積の割合及び8°以上ずれている面積の割合をX線回折及びEBSDによって測定したところ、サンプルによって異なるが、最表層のNiのc軸配向率は99%以上であり、Δφ=4.02°〜4.68°、Δω=4.7°〜5.26°であり、4°以上6°未満ずれている面積の割合が16.5%〜22.2%、6°以上8°未満ずれている面積の割合が1.1%〜4.2%、8°以上ずれている面積の割合が0〜0.7%であった。
(スルファミン酸浴)
スルファミン酸ニッケル 450g/l
塩化ニッケル 5g/l
ホウ酸 30g/l
添加剤 5ml/l
続いて、金属基板に対し、Hを3モル%含んだArガスからなる1Paの還元雰囲気下、温度700℃、20分間の条件にて熱処理を行い、表面のNi酸化物を除去した。次に、ターゲットとしてCeOを用意し、図2に示すように基板アダプター30(金属基板を保持する皿状部材)の中心から10mm偏心した位置(位置I)に金属基板20をはめ込み、この基板アダプター30とターゲットとを平行に設置し、RFマグネトロンスパッタ法により金属基板上にCeOからなる結晶配向性改善層及び第2酸化物層を成膜して、エピタキシャル成長用積層基材を製造した。ターゲットから金属基板20を含む面までの距離(図1のD1)は40mm、60mm又は80mmに設定した。RFマグネトロンスパッタリングは、Arガス、1Pa雰囲気下、基板温度を400℃に設定し、成膜初期は図2の位置Iの状態で所定の時間スパッタリングを行い、結晶配向性改善層を形成した。このとき、位置Iにおける金属基板20の中心は、ターゲット上のエロージョン領域の直上付近(すなわち、金属基板上の成膜位置における垂線と、その成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度αが3.81°の地点)に位置する。
上記のように結晶配向性改善層を形成した後、ターゲットと基板アダプター30との相対位置は変えずに、基板アダプター30を図2の矢印で示すように半回転(180度回転)させ、結晶配向性改善層の場合と同じ条件下で所定の時間スパッタリングを行って第2酸化物層を形成した。基板アダプター30を半回転させて金属基板20を対称となる位置(位置II)に切り替えた状態では、金属基板20の中心における「金属基板上の成膜位置における垂線と、その成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度α」は21.80°(非最適条件)となる。下表に、実施例1〜6における結晶配向性改善層の成膜時間、形成される結晶配向性改善層の平均膜厚、及び第2酸化物層の成膜時間をまとめて示す。なお、結晶配向性改善層の成膜条件は、実施例1ではRF出力25W(約2.8nm/min)、実施例2〜6ではRF出力50W(約7.1nm/min)に設定した。これは、スパッタリング装置の設計上、成膜時間を3.0秒以下に設定できないため、成膜速度を下げることで結晶配向性改善層の厚さが0.35nm未満である場合(実施例1の0.18nm)の効果を検証可能にしたものである。実施例1における0.18nmの膜厚は、CeOの格子定数よりも小さいため、実施例1における結晶配向性改善層は金属基板の最表層の全面を覆っていないと考えられる。また、第2酸化物層の成膜条件は実施例1〜6でいずれもRF出力50Wに設定した。実施例1〜6において形成された結晶配向性改善層及び第2酸化物層の合計厚さは、金属基板の中心部において約100nmであった。
Figure 0006666655
形成した第2酸化物層の中心部分のCeOの結晶配向性について、Δφ、Δω、並びに結晶方位が(001)[110]から4°以上6°未満ずれている面積の割合、6°以上8°未満ずれている面積の割合及び8°以上ずれている面積の割合をEBSDにより測定した。表2及び図3に、金属基板の最表層における測定値と第2酸化物層における測定値との差をまとめて示す。表2中、「4°〜6°」、「6°〜8°」及び「8°〜」の各項目は金属基板の最表層における測定値から第2酸化物層における測定値を引いた値を示している。また、Δφの測定値にはΔωの成分が含まれているため、Δφ成分の大きさのみを反映していないことに留意する。表2及び図3に示すように、角度αを15°以内として結晶配向性改善層を形成した場合には、その後に非最適条件下で第2酸化物層を成膜したとしても、第2酸化物層のΔωは金属基板の最表層のΔωに比べていずれも0.5°以上改善されることが明らかとなった。また、結晶配向性改善層を1単位格子以上の酸化物から構成することによって結晶配向性の改善効果はより高まることが分かった。さらに、Δφについても改善されることが分かった。そして、表2に示すように、角度αを15°以内にすることによって、所定の結晶方位からずれている面積の割合が大きく低減することが明らかとなった。なお、第2酸化物層のc軸配向率は、実施例1〜6のいずれにおいても99%以上であった。
ここで、以下に、面内配向度(Δφ)、面外配向度(Δω)及び結晶方位がずれている面積の割合の測定方法を具体的に示す。
(1)面内配向度(Δφ)
EBSD(日本電子株式会社SEM-840及び株式会社TSLソリューションズDigiView、以下同じ)及び結晶方位解析ソフト(EDAX社OIM Data Collection及びOIM Analysis、以下同じ)を用い、「Crystal Direction」の<111>‖NDを用いて以下の方法で解析することにより得た。
1. 結晶座標系において、<111>を試料座標系のND[001]と合わせるような軸の回転操作を行う。
2. その後、試料座標系のND[001]軸に対して、各測定点の結晶座標系の<111>軸がどれくらい傾いているかを測定点毎に算出する。
3. 各点の傾きを積算グラフで表示し、縦軸:Number fractionが0.5のときの傾き:AlignmentをΔφの1/2とする。よって、Δφは得られた値の2倍とする。
(2)面外配向度(Δω)
EBSD及び結晶方位解析ソフトを用い、「Crystal Direction」の<001>‖NDを用いて以下の方法で解析することにより得た。
1. 試料座標系のND[001]軸に対して、各測定点の結晶座標系の<001>軸がどれくらい傾いているかを測定点毎に算出する。
2. 各点の傾きを積算グラフで表示し、縦軸:Number fractionが0.5のときの傾き:AlignmentをΔωの1/2とする。よって、Δωは得られた値の2倍とする。
(3)結晶方位がずれている面積の割合
EBSD及び結晶方位解析ソフトを用いて解析し、1mm当たりの結晶方位がずれている面積の割合を求めた。具体的には、金属基板の保護層(Niめっき層)の測定においては結晶方位が(001)[100]から4°以上6°未満ずれている面積の割合、6°以上8°未満ずれている面積の割合、及び8°以上ずれている面積の割合を、第2酸化物層(CeO層)の測定においては結晶方位が(001)[110]から4°以上6°未満ずれている面積の割合、6°以上8°未満ずれている面積の割合及び8°以上ずれている面積の割合を求めた。
具体的には、「Crystal Orientation」にて、Orientationを金属基板の保護層の測定においては(001)[100]に設定し、第2酸化物層の測定においては(001)[110]に設定し、その方向からの傾きの範囲を指定して、それぞれの範囲での面積率を算出した。
(比較例1)
金属基板に対し、最初に図2の位置IIに示す相対位置でCeOを60秒成膜し(非最適条件)、その後に、基板アダプター30を半回転させ位置Iの状態として840秒成膜した以外は、実施例1と同様にしてエピタキシャル成長用積層基材を製造した。なお、成膜条件はRF出力50W(約7.1nm/min)に設定した。得られたエピタキシャル成長用積層基材について測定した値を表2及び図3に示す。これらの結果から、第2酸化物層の結晶配向性は金属基板の最表層に比べてほとんど改善しないことが分かった。
(比較例2)
金属基板に対し、成膜初期から最後まで図2の位置IIに示す相対位置に固定してCeOを900秒成膜した以外は、実施例1と同様にしてエピタキシャル成長用積層基材を製造した。なお、成膜条件はRF出力50W(約7.1nm/min)に設定した。得られたエピタキシャル成長用積層基材について測定した値を表2及び図3に示す。これらの結果から、酸化物層の結晶配向性は金属基板の最表層に比べてほとんど改善せず、むしろ低下する可能性があることが分かった。
Figure 0006666655
(実施例7)
金属基板に対し、CeOの結晶配向性改善層を図2の位置Iの状態で30秒間成膜し、その後に位置Iの状態のまま870秒間YSZからなる第2酸化物層を形成した以外は、実施例1と同様にしてエピタキシャル成長用積層基材を製造した。なお、第一工程及び第二工程のいずれにおいても、成膜条件はRF出力50Wに設定した。得られたエピタキシャル成長用積層基材について測定した値を図3に示す。この結果から、結晶配向性改善層及び第2酸化物層が異なる酸化物から構成された場合であっても、結晶配向性改善層の結晶配向性を引き継いでYSZが成長し、結晶配向性の改善効果が得られることが分かった。
10 ターゲット
10a 垂直方向の磁束密度0地点
20 金属基板
20a 成膜位置
30 基板アダプター

Claims (6)

  1. 金属基板と、前記金属基板の上に形成された酸化物層とを含むエピタキシャル成長用積層基材の製造方法であって、
    前記酸化物層が、前記金属基板の最表層の上に形成される、酸化物から構成される結晶配向性改善層と、前記結晶配向性改善層に対してエピタキシャル成長した酸化物から構成され、前記金属基板の最表層のΔωに比べて0.5°以上小さいΔωを有する第2酸化物層とを含み、
    最表層のc軸配向率が99%以上である結晶配向した金属基板を準備する工程と、
    前記金属基板上に、前記金属基板上の成膜位置における垂線と、前記成膜位置から最短距離にあるターゲット上の垂直方向の磁束密度0地点へ至る線とが成す角度を15°以内にしてRFマグネトロンスパッタリングを行い、前記結晶配向性改善層を形成する第一工程と、
    前記第一工程により形成した結晶配向性改善層に対して化物をエピタキシャル成長させ、前記第2酸化物層を形成する第二工程と、
    を含み、
    前記第二工程における成膜速度が、前記第一工程における成膜速度よりも大きく、
    前記結晶配向性改善層の酸化物と、前記第2酸化物層の酸化物とが、同一の酸化物である、エピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
  2. 前記第二工程では、前記第一工程により形成した結晶配向性改善層に対し、15°を超える前記角度でRFマグネトロンスパッタリングを行い酸化物をエピタキシャル成長させる、請求項1に記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
  3. 前記第2酸化物層が、前記金属基板の最表層のΔωに比べて0.5°〜3.0°小さいΔωを有する、請求項1又は2に記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
  4. 前記結晶配向性改善層が、1単位格子〜7単位格子の酸化物から構成される請求項1〜のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
  5. 前記結晶配向性改善層の酸化物、及び記第2酸化物層の酸化物が、CeOである請求項1〜のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
  6. 前記金属基板の最表層が、Ni又はNi合金からなる請求項1〜のいずれかに記載のエピタキシャル成長用積層基材の製造方法。
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