JP6666612B2 - トリチウム吸収材からトリチウムを回収する方法 - Google Patents

トリチウム吸収材からトリチウムを回収する方法 Download PDF

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Description

本発明は、トリチウム吸収材からトリチウムを回収する方法に関する。
トリチウム(T)は、水分子の同位体異性体(TO、HTO)として軽水(HO)に溶解する。トリチウム(T)は水素(H)の同位体であり、β線(電子線)を発する半減期12.3年の放射性元素である。また、トリチウムイオン(T)は、水素イオン(H)と化学的な性質が類似するため、生物の体内においてDNAを構成する水素イオン(H)とイオン交換することで体内に留まる性質を有する。このため、内部被曝の原因物質と成り得、有害である。
トリチウムの天然存在比は、極めて微量(水素原子1×1018個に一個の割合)であるが、人工的には核分裂型原子力発電施設や、核融合実験施設等の原子力関連施設において生成される。このため、日本ではトリチウムに関する排水濃度限度は、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定めた告示において、サンプル水1リットルあたり6万Bq/L(60Bq/mL)と定められている。
通常、水からトリチウムを分離するためには、高温下での水分子(HO)と同位体異性体分子(HTO、DTO、TO)に関する沸点の違いや、高性能な白金触媒を用いて水素ガス(H)との反応性の違いを利用する高コストかつ複雑なシステムが必要となる。例えば、 Vasaru, G. Tritium Isotope Separation 1993, CRC Press, Chap. 4-5、Villani, S. Isotope Separation 1976, Am. Nuclear Soc., Chap. 9、Gould, R.F. Separation of Hydrogen Isotopes 1978, Am. Nuclear Soc., Chap. 9等に解説されている。
最近、本発明者によって、水素イオンを含むスピネル結晶構造を有する酸化マンガン粉末を、トリチウム含有水に適用すると、水中からトリチウムが同酸化マンガンに含まれる水素イオン(H)とイオン交換して、トリチウムイオン(T)として同酸化マンガンの固相に捕集されることが明らかにされた。Hideki Koyanaka and Hideo Miyatake, Extracting Tritium from Water Using a Protonic Manganese Oxide Spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015), WO2015/037734。さらに、同酸化マンガン粉末を電極に加工し、同電極の片面に水素イオン導伝膜を配して同水素イオン導伝膜を希酸水溶液と接触させることで、希酸水溶液から同電極に対して水素イオン(H)を補充し続ける反応システムが提案された。古屋仲秀樹・五十棲泰人, 酸化マンガン電極膜を用いた水中のトリチウムの分離と回収, 電気化学会 第83回大会, 講演番号3Q29, 大阪大学(2016)。同反応系を用いた手法によって、水1リットル当たりに数ナノグラムという低い物質濃度で含まれるトリチウムを室温の水から継続的に同酸化マンガンの固相に捕集することが可能になった。
しかしながら、スピネル結晶構造を有する酸化マンガンに捕集されたトリチウムを、環境中に漏えいさせることなく同酸化マンガンから安全かつ効率的に回収する課題は解決されておらず、さらに同酸化マンガンをトリチウム吸収材として再利用することは、容易ではなかった。
既存の熱処理法によって、トリチウムを捕集した同酸化マンガンを密閉容器中で加熱して同酸化マンガンからトリチウムを蒸散させて回収する手法では、同酸化マンガンの結晶内からトリチウムイオンだけではなく、イオン交換性の水素イオンも同時に蒸散してしまう。結果として、同酸化マンガンと水との界面におけるイオン交換反応に必要な水素イオンが同結晶内で不足するため、トリチウム吸収材としての性能が大きく低下してしまう。この同結晶内における水素イオンの不足がトリチウム吸収材の性能を低下させる現象に関しては、以下の文献に記載されている。H. Koyanaka, and H. Miyatake, Extracting tritium from water using a protonic manganese oxide spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015), WO2015/037734。また、加熱処理の温度や圧力が高い場合には、同酸化マンガンのスピネル結晶構造が他の結晶構造に相変態することによってトリチウム吸収材としての機能が失われ、吸収材として再利用することができなくなる。このため、トリチウムを捕集した同酸化マンガンに含まれるトリチウムを熱処理によって回収する手法は、経済的に最良の回収手法ではない。
また、スピネル型の結晶構造を有する酸化マンガンに捕集されたトリチウムを、同酸化マンガンの固相中から反応槽内の気相中に効率的に分離・回収するためには、トリチウム含有水の水素イオン濃度(pH)は酸性であることが好ましい。一方、同酸化マンガンを用いてトリチウム含有水中から同酸化マンガンの固相中にトリチウムを捕集するためには、トリチウム含有水のpHは中性〜弱アルカリ性であることが好ましい。Hideki Koyanaka and Hideo Miyatake, Extracting Tritium from Water Using a Protonic Manganese Oxide Spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015)。このため、同酸化マンガンをトリチウム吸収材として再利用する際には、トリチウム含有水のpHを酸性から中性または弱アルカリ性に調整する必要がある。しかしながら、捕集したトリチウムを放出した後の同酸化マンガンは、中性〜アルカリ性の水溶液中においては同酸化マンガンからマンガンイオン(Mn2+)を溶出して水中でマンガンの水酸化物や酸化物を形成するため、処理対象水中に沈殿物としてスラッジが発生する。このようなスラッジの発生は、同酸化マンガン表面にスラッジが付着することでトリチウムの捕集効果を減じるだけでなく、トリチウムを放出した後の酸化マンガンの溶解が同酸化マンガンの吸収材としての寿命を短くする。したがって、トリチウムを放出した後の同酸化マンガンの溶解および前記スラッジの発生を防止する手法の開発は、本発明による水中からのトリチウム分離技術を実用化するための重要な課題である。
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、トリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガンからトリチウムを効率的に回収することを可能とするトリチウムの回収方法を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明のトリチウムの回収方法は、反応システムの容器内において、トリチウムを捕集した前記酸化マンガンから反応容器内の気相中にトリチウムを、トリチウムを含む水の同位体異性体(HTO)又は水素ガスの同位体異性体(HT)として放出させ、同気相からトリチウムを含んだ気体をポンプ等で吸引することによってトリチウムを少量の水(HO)中に導入し、回収する方法を提供する。その際、放出されるトリチウムの形態がHTの場合には、同HTを酸素(O又はO)、あるいは250〜500℃に加熱した酸化銅(CuO)と接触させて、トリチウム含有水(HTO)に酸化することで少量の水(HO)中に回収する。また、本発明のトリチウムの回収方法は、トリチウムを捕集した前記酸化マンガンに対して紫外光を照射してトリチウムの放出を促進することを特徴とする。また、本発明のトリチウムの回収方法は、トリチウムを捕集した前記酸化マンガンを、リチウムイオン(Li)を含む導電性ゲルに接触させた状態で電圧を印加することによって、トリチウムを導電性ゲル及び電解質中に回収する方法を提供する。その際、電圧の印加にあたっては、リチウムイオンを含む導電性ゲルに接触させた、トリチウムを含むスピネル結晶構造を有する酸化マンガンを正極とし、炭素棒を負極として、これらの両極を、電解質を含む水溶液中に配して構成されることを特徴とする。さらに、前記酸化マンガンに接する水溶液に適量のリチウムイオン(Li)を添加し、前記酸化マンガンに接する水溶液のpHを中性からアルカリ性に調整することで、トリチウムを放出後の酸化マンガンの結晶構造を安定させ、前記pH調整によるマンガンイオンの溶出およびスラッジの発生を抑制できる方法を提供する。
本発明のトリチウムの回収方法は、トリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガンに、LEDや放電ランプ等の各種の紫外光を照射することによって、トリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガンからトリチウムの放出を促進してもよい。
本発明のトリチウムの回収方法は、トリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガンに、pHが酸性の水を接触させて、同トリチウムを捕集した酸化マンガンからHTOガス又はHTガスの放出を促進してもよい。その際、各種のガス洗浄瓶(例えば、ウォルター式、市ノ瀬式、ドレッセル式、ムエンケ式、等)や微細気泡発泡法を用いた気体の溶解塔などを用いて、放出されたHTO又はHTを少量の水や各種の多孔体など、HTO又はHTに対して吸収性を有する媒体中に回収してもよい。
本発明のトリチウムの回収方法は、スピネル結晶構造を有する酸化マンガン粉末を金属や炭素などの導電性材料の表面に導電性塗料で固着して得られる電極を、トリチウム含有水に接触させてトリチウムを捕集させた後、前記の電圧印加法によって、同酸化マンガンに捕集されたトリチウムを前記の導電性ゲル、または電解質を含む水溶液中に溶出させてトリチウムを回収してもよい。
本発明では、前記回収方法によってトリチウムを回収した後の酸化マンガンを、トリチウム吸収材として再利用してもよい。また、トリチウムを捕集した酸化マンガンから、前記回収方法によってトリチウムをリチウムイオンに置換して得られるリチウムイオン含有酸化マンガンを、水素イオンを含む希酸に接触させて、同酸化マンガンのスピネル結晶構造に含まれるリチウムイオンを水素イオンに置換することによって、トリチウム吸収材として再生してもよい。
また、本発明では、前記酸化マンガンと接するトリチウム含有水に水酸化リチウム(LiOH)を添加することによって、前記酸化マンガンの結晶構造の安定化ならびに同水溶液のpH調整を実施してもよい。あるいは、前記酸化マンガンと接するトリチウム含有水に塩化リチウム(LiCl)などの水溶性のリチウム塩を添加して、水酸化ナトリウム(NaOH)などの添加によって同水溶液のpH調整を実施してもよい。また、前記酸化マンガンと接する希塩酸や希硝酸の水溶液に塩化リチウム(LiCl)などの水溶性のリチウム塩を添加して、前記酸化マンガンの結晶構造を安定化してもよい。
本発明によれば、酸化マンガンに捕集されたトリチウムを効率的に回収し、酸化マンガンを再利用できる。
(a)トリチウムを捕集するための実施形態を示した模式図、および(b)実施結果を示した図である。 (a)トリチウムを検出するための実施形態を示した模式図、および(b)実施結果を示した図である。 (a)トリチウムを回収するための実施形態を示した模式図、および(b)実施結果を示した図である。 (a)トリチウムを回収するための実施形態を示した模式図、および(b)、(c)実施結果を示した図である。 トリチウムを回収するための実施形態を示した模式図である。 (a), (b), (c), (d)トリチウムを回収するための実施結果を示した図である。 トリチウムをゲルに回収するための実施形態を示した模式図である。 (a)トリチウム吸収材を構成するマンガンの価数の計測結果、および(b)結晶構造の計測結果である。
本発明のトリチウム吸収材は、スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンで構成される。
スピネル結晶構造を有した水素イオン又はリチウムイオン含有の酸化マンガンは、例えば、J. C. Hunter, Preparation of a new crystal structure of manganese dioxide: lambda-MnO2", Journal of Solid State Chemistry 39 (1981) 142-147.や、その水素化を最適にするための条件が、H. Koyanaka, O. Matsubaya, Y. Koyanaka, and N. Hatta, Quantitative correlation between Li absorption and H content in Manganese Oxide Spinel λ-MnO2", Journal of Electroanalytical Chemistry, 559, 77-81 (2003). などで報告されている。本発明においてトリチウム吸収材として用いたスピネル結晶構造を有する水素又はリチウム含有酸化マンガンは、以下の方法で合成することができる。
スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンは、例えば、炭酸マンガンや炭酸マンガンの水和物等のマンガンの炭酸塩、水酸化リチウム等のリチウムの水酸化物、等の薬品を原料として、混合、焼成、精製の工程を経て得ることができる。また、マンガンを含む水酸化物やリチウムを含む炭酸塩等の薬品を原料としてもよい。さらに、スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンは、前記した工程に加えて、さらに酸処理の工程を経て得ることができる。
混合工程では、例えば、上記した原料を室温下で混合する。このとき黒色化するまで混合する。これによって、スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンの結晶核を生成する。焼成工程では、混合工程で生成した核を成長させる。例えば、混合物を、大気中で200℃〜1000℃、好ましくは300℃〜500℃の温度、より好ましくは350℃〜450℃で、1時間〜10時間程度加熱する。精製工程では、焼成工程で得た焼成物を弱アルカリ性の純水に懸濁した後、一定時間静置し、沈殿物を回収する。この沈殿物が、スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンである。スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンを保管する場合には、濾過処理等で回収した沈殿物を湿潤した状態で冷暗所に保管すればよい。また、酸処理の工程を経て水素イオン含有酸化マンガンを合成する際には、スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンを希塩酸水溶液等の酸性溶液中に懸濁させ撹拌し、次いで固液分離して、水素イオン含有酸化マンガン粉末を得る。スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガン粉末は、湿潤した状態で冷暗所に保管する。同粉末に対して乾燥処理を施してはならない。この理由は、乾燥処理によって同結晶構造内の水素イオンが水として結晶から蒸散する反応が進むと結晶構造がイオン交換性の水素イオンを含まないラムダ型の二酸化マンガンの結晶構造に変化して、結果的に同吸収材が示す水中のトリチウムイオンに対する吸収能を減じることがH. Koyanaka, and H. Miyatake, Extracting tritium from water using a protonic manganese oxide spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015) で報告された。
上記の一連の工程から得られるスピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンは、トリチウム吸収材を構成する。もちろん、上記した以外の方法で合成されたスピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンについても、トリチウム吸収材を構成する。
スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンは、トリチウムの吸収能の観点から、その一次粒子の粒子径が20〜70nmの範囲内であることが好ましい。かかる範囲内の粒子径を得るには、上記した焼成工程において、焼成温度を350℃〜450℃の範囲に設定すればよい。
スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンを、実際にトリチウム含有水に適用するにあたっては、トリチウム吸収電極膜を構成することによって継続的なトリチウムの捕集が可能になる。トリチウム吸収電極膜は、上記したスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン粉末と樹脂バインダー、および水素イオン導伝膜とによる構成体として、同電極膜を構成することができる。具体的には、同電極膜は金属や炭素材料等の導電性材料の表面に、酸化マンガン粉末を導電性塗料で固定し、さらにナフィオン(登録商標)等の水素イオン導伝性材料を、同電極膜の片面に配することによって構成できる。より具体的には、トリチウム吸収電極膜は、スピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を、白金メッシュの表面にカーボンフィラーを含んだ導電性塗料で塗布・乾燥して固着させ、次いで水素イオン導電性材料を電極膜の片面に塗布・乾燥して固着することによって、得られる。同電極膜を希酸と接触させることで、電極膜中のスピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンからリチウムイオン溶出させて、水素イオン含有酸化マンガンに変化させることができる。同電極膜を構成することによって、同電極膜に捕集されたトリチウムを同電極膜から回収する際に、電圧を印加することが容易になる効果が得られる。もちろん、電極を構成せずにトリチウムを捕集した粉末状の同吸収材を金属容器等に圧詰して、電圧印加してもよい。
次に、本実施形態のトリチウムを捕集した吸収材からトリチウムを回収する方法、および再利用する方法について説明する。
本実施形態のトリチウム回収法は、反応容器内において、弱酸性〜アルカリ性のトリチウム含有水からトリチウムを捕集した前記酸化マンガンを含む同電極膜を、酸性の水溶液に接触させて同反応容器内の気相にトリチウムを含む水(HTO)のガス、又は水素(HT)のガスとして放出させることを特徴とする。この際、HTは同反応容器内の気相中で酸素によって酸化され、HTOに変換される。同気相中の酸素は、トリチウム含有水に含まれる水酸化物イオン(OT)の酸化分解反応(OT→ T+ 2e+ (1/2) O)から供給される。または、反応容器内の気体に含まれる酸素によって供給される。二酸化マンガン(MnO)が水酸化物イオン(OH)由来の酸素を生成する現象に関しては、例えば、以下の文献において報告されている。古屋仲秀樹, 竹内謙, Alexander I. Kolesnikov, 高純度ラムズデライト型二酸化マンガンによる水分子の酸化分解反応に基づく電子とプロトンおよび酸素の発生と貴金属微粒子析出を伴う充放電サイクル", 電気化学会,第80回大会講演予稿集1A32, p. 16, (2013)。
以上の様に、トリチウムを捕集した前記電極膜から反応容器内の気相に放出されるHTOガスは、真空ポンプ等で同反応容器内の気相中から容易に吸引除去できる。このため、吸引除去したHTOガスを含む気体を少量の水(HO)中に導入することで、トリチウムを回収できる。
また、本実施形態のトリチウム回収法は、上記トリチウムを捕集した同電極膜から放出されるHTガスを、耐熱ガラスチューブ内に導入し、250℃〜500℃に加熱した酸化銅(II)CuOの粉末に接触させることによって、HTを酸化してHTOに変換し、前記同様に少量の水(HO)中に導入することで、トリチウムを回収できる。
また、本実施形態のトリチウム回収法は、上記トリチウムを捕集した同電極膜に紫外光を照射することによって、同電極膜から水中にトリチウムの放出を促進し少量の水(HO)中に、トリチウムを回収できる。
さらに、本実施形態のトリチウム回収法は、前記トリチウムを捕集した同電極膜を、リチウムイオンを含むゲルと接触させた状態で電圧印加することで、同ゲルに含まれるリチウムイオンを同酸化マンガンのスピネル結晶構造内に挿入することによって、同酸化マンガンに含まれるトリチウムをゲルおよび同ゲルと電気的に接続された電解質の水溶液に溶出させることを特徴とする。また、同回収法によってリチウムイオンが挿入されたスピネル結晶構造を有する酸化マンガンが得られる。これを、再び希酸で酸処理することによってリチウムイオンを水素イオンに置換すれば、スピネル結晶構造を維持した水素イオン含有酸化マンガンが得られるため、トリチウム吸収材として再利用することが容易になる。
本実施形態において、前記トリチウムを捕集した電極膜からトリチウムをHTO又はHTとして放出させた後に、同電極膜と接する水溶液にリチウムイオンを添加するようにしてもよい。前記のように、トリチウムを放出した後のスピネル型酸化マンガンは、中性〜アルカリ性の水中においては結晶構造が不安定になり、同酸化マンガンからマンガンイオンが溶出する。そこで、本発明では、トリチウムを放出した後の同酸化マンガンの結晶構造を安定化して、中性〜アルカリ性の水溶液中でもマンガンイオンの溶出を抑えるために、リチウムイオン(Li)を同電極膜が含有する酸化マンガン1g当たりに数十ミリグラム程度の割合、かつ同電極膜と接する水溶液中のリチウム濃度が数十mg/L以下になるように、リチウムを含んだ水溶性の薬品、例えば、塩化リチウム(LiCl)、水酸化リチウム(LiOH)などを添加した。同リチウム添加によって、トリチウムを放出した後の同酸化マンガンをトリチウム吸収材として再利用する際に、トリチウム含有水のpHを中性からアルカリ性に調整してもマンガンの溶解が抑えられ、スラッジの発生を著しく減じることができた。結果として、同吸収材に対するトリチウムの捕集と放出を繰り返しながら、同吸収材を再利用することが可能となった。
以上を鑑みて、本発明のトリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガン粉末又は同酸化マンガンによって構成される電極膜からトリチウムを回収する方法は、室温下で簡易なトリチウムの回収を提供するだけでなく、トリチウム回収後の同酸化マンガンをトリチウム吸収材として再利用できる経済的な技術を提供する。
次に、本発明のトリチウムを捕集したスピネル結晶構造を有する酸化マンガンからトリチウムを回収する実施形態を、具体的に説明する。
<トリチウム吸収材の合成方法>
以下の手順に従って、スピネル結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンで構成されるトリチウム吸収材を合成した。
<原料と混合> 試薬炭酸マンガン水和物(MnCO・nHO)と水酸化リチウム水和物(LiOH・HO)の粉末を重量比2対1で混合し、室温下で黒色化するまでよく混合した。
<焼成> 電気炉を用いて同混合粉末を大気中390℃で6時間加熱した後、室温まで冷却した。
<精製> 自然冷却後の粉末をビーカー等の容器内の適量のイオン交換純水に懸濁させ、ビーカー等の容器の壁面を通じて超音波を照射して粉末の凝集をほぐした。未反応の炭酸マンガンは比重が軽いためイオン交換純水の上澄みに濁りとして残り、比重の重たいスピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガンは容器の底に沈殿した。一定時間静置した後に上澄みの炭酸マンガンを、アスピレーター等を利用して除去し、沈殿したスピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を回収した。この時、粉末を懸濁させたイオン交換純水のpHを弱アルカリからアルカリ側に維持した。
<保管> 濾過処理等で回収されたスピネル結晶構造を有したリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を冷暗所に保管した。乾燥処理が必要な際には、減圧下(マイナス50cmHg程度)で室温乾燥した。または、大気圧下で100℃以下の温度で乾燥した。
以上の操作によって、一次粒子径が20〜70nmのスピネル結晶構造を有するスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガンで構成されるトリチウム吸収材が得られた。
<トリチウム吸収電極膜の製作方法>
上記の合成方法によって得られたリチウム含有酸化マンガンの粉末を、市販の導電性塗料を用いて白金メッシュ又はステンレスメッシュの表面に固着し、乾燥機を用いて大気中150℃で加熱乾燥して電極膜を作成した。その後、同電極膜の片面に、ナフィオン(登録商標)分散液を塗布して大気中60℃で乾燥し、ついで大気中120℃で加熱することによって、水素イオン導伝膜として電極膜の表面に固着させ、トリチウム吸収電極膜を製作した。
<トリチウムを含む水(HTO)ガスおよび水素(HT)ガスを検出する試験方法>
本実施例の実験系からトリチウムを含む水(HTO)ガス、および水素ガス(HT)が発生していることを、IsoShield社製の気体中水素同位体濃度分析試験装置(HPTGM/PC−1、HPTGM/PHA、HPTGM/GC-1、TPTGM/PCDT−S)を用いて明らかにした。同分析試験装置は、電圧が印加されたアルミニウム筒(直径8 cm、長さ50 cm)の陰極(電圧:0 V)と同アルミニウム筒の中心に配した金でメッキされたタングステン線(直径20 μm)の陽極(電圧:+1750 V)から構成された比例計数管を検出器として用いる。この検出器に、キャリアガスと共にサンプルガスを900KPaの圧力で導入して得られる出力電圧の波形を解析し、トリチウムに由来する信号と宇宙線などの外部放射線に由来するバックグラウンド信号とを波高(Energy)および立ち上がり時間(Rise Time)の違いから弁別することによって、気体中に含まれる極めて低い濃度(検出限界:1 Bq/L)のトリチウムを検出することができる。一般に、気体に含まれる微量成分を分析する際に最も優れた手法のひとつであるガスクロマトグラフ質量分析法(GC−MASS)では、本実験における測定対象であるHTが大気中に含まれるヘリウム(He)と質量数が等しい4であり、かつ極めて低い質量濃度であるため、分析することが極めて困難である。
<水素イオン導伝膜を片面に配した電極膜を用いてトリチウム含有水からトリチウムを捕集する試験方法>
前記トリチウム吸収電極膜を酸処理した後、トリチウム含有水に接触させてトリチウムを同電極膜で捕集した。
本試験にあたっては、市販されているトリチウム水の標準試薬を室温の蒸留水で希釈して、トリチウム含有水を調合した。トリチウムの放射能濃度の測定には、液体シンチレーションカウンター(Liquid Scintillation Analyzer TRI−CARB 2100TR PACKARD (USA))を用いた。トリチウム含有水のサンプル1.0mLに対し、シンチレーターとしてβ線で発光する蛍光剤を含んだ界面活性剤を10mL添加して、サンプル1.0mLからのトリチウム由来の放射能濃度を測定した。ブランク試料として、実験に用いた蒸留水1.0mLに同様にシンチレーターを添加してトリチウム由来の放射能濃度を計測し、0.41Bq/mLを検出した。このため、本試験で使用した液体シンチレーションカウンターは、トリチウム放射能濃度の検出下限値が0.41Bq/mLであることを確認した。トリチウム含有水のpH調整には、試薬0.1M、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた。また、pHおよび水温の確認には、pHメーター、およびpH試験紙を使用した。
<トリチウムをゲル及び電解質中に回収する試験方法>
トリチウム吸収電極膜で捕集したトリチウムを、リチウムイオンを含むゲル、および電解質を含む水に以下の様に回収した。
はじめに、トリチウムを捕集した電極膜の上半分を金属型枠内に充填したリチウムイオンを含むゲル中に挿入した。また、同ゲルに挿入された同電極膜の下部分はリチウムイオンを含んだ電解質の水溶液に接触させた。
前記ゲルは、例えば、試薬塩化リチウム粉末および試薬寒天粉末を蒸留水に加えて加熱し、寒天粉末を充分溶解させた後、ステンレス製の型枠に流し込み室温下に静置して寒天を固化させて作成した。また、トリチウムを捕集した電極膜の下半部を、電解質を添加した蒸留水に接触させた。電解質としては、例えば、リチウムやナトリム、カリウム等の水酸化物や塩化物、または希塩酸、希硫酸、希硝酸等を用いることができる。さらに、炭素棒等の電極を配置して、前記導電性の水溶液中に配置した前記金属型枠内のゲルに挿入されたトリチウムを含む電極膜を正極とし、前記導電性の水溶液中に配置した炭素棒を負極とした。
定電圧電源を用いて、同回路を構成する正極と負極に4〜5V程度の電圧を印加する。その際、定電圧電源のプラス極を銅線で前記ゲルの金属型枠に接続し、マイナス極を炭素棒に接続した。一定時間電圧を印加した後、ゲルを金属製の密閉容器内で加熱して溶解し、同溶解液から1.0mLサンプルを採取した。また、電解質水溶液からもサンプル水を1.0mL濾過採取し、各サンプルに含まれるトリチウム濃度を、液体シンチレーションカウンターを用いて計測することによって、トリチウムを捕集した電極膜から前記ゲルおよび電解液に溶出・回収されたトリチウムの量を調べた。
<トリチウム放出後のスピネル型酸化マンガンを、トリチウム吸収材として再利用する試験方法>
前記の水素イオン導伝膜を片面に配した電極膜を用いてトリチウム含有水からトリチウムを捕集する試験方法においては、トリチウム含有水のpH調整のために濃度が0.1M、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた。このpH調整のための水酸化ナトリウムの代わりに、濃度が1Mの水酸化リチウム1水和物(LiOH・HO)を用いることで、トリチウム含有水にリチウムイオンを添加した。また、塩化リチウム(LiCl)をトリチウム含有水に添加して、pH調整のために上記水酸化ナトリウムを用いた。いずれの場合にも、トリチウム含有水中のリチウム量が、トリチウム吸収材粉末1グラム当たり約30mgを超過しない様にリチウムを含んだ上記薬品を添加した。また、トリチウム含有水中のリチウム濃度が50mg/Lを超過しない様に添加量を設定した。リチウムの添加量が多すぎる場合には、水素含有酸化マンガンの溶解が生じるため、リチウムの添加量は前述の適量にとどめるべきである。適量のリチウムの添加によって、トリチウム放出後のスピネル型酸化マンガンの結晶構造が安定する。結果として、トリチウム吸収材を再利用する際に、pHが中性〜アルカリ性のトリチウム含有水に接触させた際に、マンガンイオンの溶出が抑えられ、スラッジの発生を抑えることが出来る。同様な効果が、トリチウム電極膜に水素イオンを供給するための希酸水溶液中にリチウムを溶存させておくことによっても期待できる。
<トリチウム吸収材を構成するマンガンの価数を計測する試験>
トリチウム吸収材として用いた水素イオン含有酸化マンガンを構成するマンガンの価数を、X線吸収分光分析法(XANES)によって測定することを試みた。また、結晶構造をX線回折分析法(XRD)によって調べた。
一般的な知見として、水素イオン含有酸化マンガンを構成するマンガン(Mn)の価数に関しては、リチウムイオン含有酸化マンガン(LiMn)を構成するマンガンの価数が+3.5価であることから、酸処理によってリチウムイオンが水素イオンと置き換わって得られるHMnにおいても、電荷中性を保つため+3.5価を維持していると考えられる。しかしながら、最近の研究報告において、本発明の様に酸化マンガンの焼成温度としては比較的低温の390℃で焼成したスピネル型リチウム含有酸化マンガンを酸処理して得られるスピネル型水素イオン含有酸化マンガンは、500〜1000℃のような高温で焼成して得られるスピネル型結晶構造リチウム酸化マンガンよりも、結晶内部における水素イオンの移動に関する自由度が著しく高いことが指摘されている。H. Koyanaka, O. Matsubaya, Y. Koyanaka, and N. Hatta, Quantitative correlation between Li absorption and H content in Manganese Oxide Spinel λ-MnO2", Journal of Electroanalytical Chemistry 559 (2003) 77-81、およびH. Koyanaka, Y. Ueda, K. Takeuchi, and A. I. Kolesnikov, Effect of crystal structure of manganese dioxide on response for electrolyte of a hydrogen sensor operative at room temperature", Sensors & Actuators: B, Vol. 183, pp. 641-647, (2013)。これらの文献によれば、同結晶内部における水素イオンの移動の自由度が高い主な原因は、同結晶内で水素イオンが弱い共有結合で特定の酸素原子のペアに捕捉されているためとされている。しかしながら、同水素イオンのプラス電荷(+1)を電気的に中和して電荷中性を維持するための電子が、同結晶内に如何なる状態で保持されているかについては明らかにされていない。そこで、本試験では、トリチウム吸収材として機能する水素イオン含有酸化マンガン(約1g)を2日間、超純水(HO)100mL中で撹拌して調製したサンプルを用いて、トリチウム吸収材を構成するMnの価数をX線吸収分光分析法で調べた。本分析方法は、後述の実施例5に詳しく記載した。結果として、本トリチウム吸収材として機能する水素イオン含有酸化マンガンは、従来の知見(WO2015/037734)と同一のスピネル型の結晶構造を有していたが、今回の分析によって、同酸化マンガンを構成する殆どのマンガンの価数は+4価であることが新たに明らかになった。同結果は、本トリチウム吸収材の組成式が、(H+, e-x Mn2O4であり、同結晶内において移動の自由度(導伝性)が高い水素イオン(H)の影響を受けることで、電子(e)がマンガンのd軌道には関与していないことを示唆している。この新しい知見は、本トリチウム吸収材が水中のトリチウムを同吸収材の固相に捕集し、同固相からトリチウムを含む水分子(HTO)のガスとして気相に放出する化学反応が、以下の様に進行することを示唆した。
化学式(1)は、リチウムイオン含有酸化マンガンを酸処理することによって本吸収材(H+, e-x Mn24が得られる反応を示す。化学式(2)は、トリチウム含有水中のOTに対する酸化分解反応を伴ったHとTのイオン交換反応に基づいて、本吸収材が弱酸性〜アルカリ性の水中でトリチウムをイオンとして同スピネル結晶構造内に捕集する反応を示す。また、化学式(3)は、本吸収材が酸性の水中でトリチウムを水素ガス(HT)として同スピネル結晶構造から放出する反応を示す。化学式(4)は、(2)式と(3)式を統合した見かけ上の反応を示し、OTとして水中に存在するトリチウムがHTOガスとして本吸収材が気相に露出した個所から反応容器内の気相に蒸散して放出される反応を示す。上記の化学式(1)〜(4)中、記号xは吸収材に含まれる水素イオン又はリチウムイオンの他成分に対するモル比を示し、yは吸収材に吸収されたトリチウムの他成分に対するモル比および発生するトリチウムを含む水(HTO)のガスおよび水素ガス(HT)のモル比を示す。化学式(3)および(4)では、「□」で示されたトリチウムイオン(T)の放出に伴って同結晶内に発生する空の吸着席が表現されている。化学式(3)、(4)中において、「□」で示された吸着席は、実際の同酸化マンガンにおいては、同スピネル型の結晶構造中に存在する原子間距離が2.57〜2.60Åの酸素ペアで構成された酸素四面体サイトに相当する(H. Koyanaka, Y. Ueda, K. Takeuchi, A. I. Kolesnikov, Effect of crystal structure of manganese dioxide on response for electrolyte of a hydrogen sensor operative at room temperature", Sens. Act. B 2013, 183, 641-647)。
また、本吸収材を前記電極膜として適用した場合には、この空の吸着席に対して水素イオン(H)が水素イオン導伝膜を通じて希酸水溶液から補充されるため、化学式(2)の左辺における本吸収材(H+, e-x Mn24が再構成され、結果としてトリチウムの吸収反応が持続すると考えられる。さらに、本吸収材が水中からトリチウムを選択的に吸収・分離できる理由としては、第一にはスピネル型の酸化マンガンの結晶内部において、質量が大きなトリチウムイオン(T)の拡散速度が水素イオン(H)の拡散速度よりも低いため、結果として同結晶内にとどまって水素化される確率が高いこと、および第二には化学式(2)、(3)、および(4)に基づいて、トリチウムの水中から気相への移動が進行するに伴って、トリチウム含有水中におけるOTの不足を補うために、HTOの自己解離反応(HTO → H+ OT)が、トリチウムを含まない軽水の分子(HO)の自己解離反応(HO → H + OH)に比べて速く進行することが考えられる。
さらに、化学式(3)の右辺に示された(H+, e-x-y (□, e-y Mn2O4は、トリチウムイオン(T)の放出後のスピネル型酸化マンガンを示しており、前記の様に結晶構造が不安定な状態にあるために、再利用のために単にpHを中性〜アルカリ性に調整するとマンガンイオンの溶解が生じてしまう。したがって、前記の様に、不安定な結晶構造を安定させるために、リチウムイオンを添加することでマンガンイオンの溶出を防止する必要がある。ここで、添加するリチウムの量と濃度が高すぎてもトリチウムの吸収には好ましくない。本発明のトリチウム吸収材の粉末1グラム当たり、1〜30mg程度のリチウム量の添加、およびトリチウム吸収材と接する水溶液中のリチウム濃度が1〜50mg/L程度が、本酸化マンガンを利用した水中からのトリチウムの捕集と回収のために好ましい。
すなわち、本発明のトリチウム吸収電極膜を、反応容器内において弱酸性からアルカリ性(例えばpH6〜9)のトリチウム含有水に適用することによって水中のトリチウムが継続的に捕集され、さらにトリチウム含有水のpHが酸性(例えばpH3以下)の場合にトリチウムの放出が活発になる。これらの化学反応によって、反応容器内の気相に移動したトリチウムを真空ポンプ等で吸引する操作によって、同反応系から外部にトリチウムを移動・分離することが可能となった。また、トリチウム吸収電極膜と接する水溶液に、リチウムイオンを添加することによって、本トリチウム吸収材の再利用性を向上させることができる。以上の様に、本発明の技術によって、水中の低濃度トリチウムを従来技術に比べて飛躍的に容易かつ低コストに回収することが可能になった。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンを含む電極膜の片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜によるトリチウムの捕集試験>
<トリチウム吸収材の合成>
以下の手順に従って、スピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン、およびスピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンで構成されるトリチウム吸収材を合成した。
<原料と混合> 和光純薬工業製の試薬炭酸マンガン水和物(MnCO・nHO)と水酸化リチウム水和物(LiOH・HO)の粉末を重量比2対1で混合し、室温下で黒色化するまでよく混合した。
<焼成> 電気炉(YAMATO製FO−410)を用いて同混合粉末を大気中390℃で6時間加熱した後、室温まで自然冷却した。
<精製> 自然冷却後の粉末、例えば20gをガラスビーカー内のイオン交換純水1Lに懸濁させ、ビーカーの壁面を通じて超音波を10分間照射して粉末の凝集をほぐした。未反応の炭酸マンガンは比重が軽いため、イオン交換純水の上澄みに濁りとして残り、比重の重たいスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガンは容器の底に沈殿した。30分間静置した後に上澄みの炭酸マンガンを、アスピレーターを利用して除去し、沈殿したスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を濾過処理で回収した。この時、スピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガンの粉末を懸濁させたイオン交換純水のpHを弱アルカリからアルカリ性に維持した。この精製処理によって、焼成の工程で未反応物として残留している炭酸マンガンを除去した。
<保管> 濾過処理で回収したスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を、減圧デシケーター内で、マイナス600hPaの圧力下で室温乾燥した。
以上の操作によって、一次粒子径が20〜70nmのスピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン、及びスピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンで構成されるトリチウム吸収材を得た。
<トリチウム吸収電極膜の製作>
上記の合成方法によって得られたリチウムイオン含有酸化マンガンの粉末0.24gを、導電性塗料(藤倉化成DOTITE XC−12)をバインダーとして、ステンレスメッシュ(SUS304、100mesh、6cm×1.5cm×0.16cm)の表面(5.0cm×1.5cm×0.16cm)に膜厚0.3mmで固着し、乾燥機(EYELA製WFO-401)を用いて大気中150℃で3時間加熱乾燥することで、同バインダーを炭化してポーラス状に成形された電極膜を得た。次いで、同電極膜の片面(5cm×1.5cm)に濃度20%のナフィオン(登録商標)の分散液(和光純薬工業製)を均一に塗布して大気中60℃で2時間乾燥し、最後に、大気中120℃で1時間加熱することによってナフィオン(登録商標)を水素イオン導伝膜として同電極膜の表面に固着した。
<トリチウム含有水の調合>
トリチウム含有水の調合にあたっては、トリチウム標準試薬(PerkinElmer 3H, water)14μLを室温の蒸留水(和光純薬工業製)140mLで希釈して、放射能濃度が3105 Bq/mLのトリチウム含有水を調合した。したがって、同実験用トリチウム含有水140mLからは、434700 Bqのトリチウム由来の放射能が総量として発生している計算になる。
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンを含み片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜によるトリチウム捕集試験の方法>
本実施例では、図1(a)に示した反応系を構成した。すなわち、前記トリチウム吸収電極膜を含むユニットを、透明アクリル容器に配したトリチウム含有水(140mL)に接触させた。同ユニットの製作にあたっては、同ユニットを構成するアクリル製容器に同電極膜を密着させて、同アクリル製容器に注入した少量の希酸水溶液から、電極膜のナフィオン(登録商標)の膜を被覆した反応面に水素イオン(H)が供与される様に配置した。本技術の実用化を考慮する場合、少量の希酸水溶液を用いて多量のトリチウム含有水を処理すれば処理後に生じる希酸の廃液容量を最少化できるため、経済的に好ましい。具体的に、本実施例では、図1(a)に示したトリチウム吸収電極膜ユニットを構成する電極膜に対して水素イオン(H)を供与するために濃度0.5Mの希硝酸(7.0mL)を用いた。
また、電極膜の反応面にトリチウム含有水及び希酸水溶液を浸潤させるため、同ユニットを構成するアクリル板とシリコンゴム膜の防水シール、およびアクリル容器には、直径4mmの円形孔(面積12.6mm)を2か所設けることで、孔の面積の合計を25.2mmとした。さらに、前記酸化マンガンを固着した同電極膜の上端から1cmを、トリチウム含有水の水面から突出させて気相に接触するように配置した。
次に、具体的な実験手順について述べる。はじめに、図1(a)に示した同ユニットのアクリル製容器上面の小孔から濃度0.5Mの希硝酸7.0mLを注入し、さらに同ユニットを立方体のアクリル製容器に満たした濃度0.5M希硝酸140mLに1時間浸した。このユニットの酸処理によって、電極膜に含まれているリチウムイオン含有酸化マンガンから希硝酸にリチウムを溶出させて、水素イオン含有酸化マンガンに組成を変化させた。その後、同ユニットおよび立方体型のアクリル製容器から希硝酸を除去し、さらに、それら容器の内表面を蒸留水で充分濯いで希硝酸を洗い流した。その後、同ユニット上部の小孔から新規に濃度0.5Mの希硝酸7.0mLを注入し、これを立方体型のアクリル製容器内に配した放射能濃度3105 Bq/mLのトリチウム含有水140mLに浸した。また、電極膜の上端に銅線を接続し、アースに接地した。その後、トリチウム含有水をテフロン(登録商標)でコートされた撹拌子とマグネチックスタラーを用いて緩やかに撹拌しながら、適量の濃度0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、トリチウム含有水のpHを9.5に調整した。実施例1と同様の器具と方法で、トリチウム含有水から一定時間の経過毎にサンプル1.2mLを採取し、各サンプルから分取した1.0mL中のトリチウムの放射能濃度を実施例1と同様の手法によって、液体シンチレーションカウンターで測定した。
実験結果を図1(b)に示した。同図は、トリチウム含有水中のトリチウムの放射能濃度の経時変化を示す。同図から、トリチウム含有水のトリチウム放射能濃度が継続的に減少していることがわかる。実験中、トリチウム含有水のpHが緩やかに低下したため、適時に濃度0.1M又は0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してトリチウム含有水のpHを3.0以上9.7以下に維持した。また、実験中は、トリチウム含有水に浸す電極膜ユニットの位置を、サンプル採取時に微調整することで、立方体型のアクリル製容器に満たしたトリチウム含有水の水面と電極膜ユニット内に注入した希硝酸の水面との間に水位差が生じないようにした。これは、電極膜に対して同水位差による静圧負荷がかかることを防止するためである。本実験におけるトリチウム含有水中のトリチウムの放射能濃度は、初期濃度(3105 Bq/mL)から最終濃度(2777 Bq/mL)まで変化した。このため、同電極膜が含む0.24 gの吸収材が同トリチウム含有水140mLから約45920 Bqのトリチウムを吸収・分離したことを示す結果が得られた。また、実験終了時の電極膜ユニット内に設置した希硝酸中7 mL中のトリチウムの放射能濃度は113 Bq/mLであった。このため、希硝酸に溶出したトリチウムは791 Bqに相当した。
以上の結果、吸収材に水素イオンを供与するための希酸水溶液の容量が、処理対象であるトリチウム含有水に対して20分の1と少量あっても良好なトリチウム吸収が得られること、およびステンレスの様な比較的安価な金属で電極膜を構成してもトリチウムの再溶出は発生せず、継続的なトリチウムの吸収が得られることを証明した。
<実施例2>
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンを含み片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜から蒸散するトリチウムの検出試験>
トリチウムを捕集した電極膜からトリチウムを含む水(HTO)および水素ガス(HT)が発生していることを、IsoShield社製の気体中水素同位体濃度分析試験装置(HPTGM/PC−1、HPTGM/PHA、HPTGM/GC-1、TPTGM/PCDT−S)を用いて明らかにした。本実施例における実験系を図2(a)に示した。トリチウム吸収材の合成方法、電極膜の作成方法、電極膜の配置方法、およびトリチウム濃度の測定方法に関しては、実施例1と同様の方法にしたがって実験を実施した。
本実験系を図2(a)に示した。透明アクリル樹脂製の容器(5.8×5.8×5.8cm)に満たしたトリチウム初期濃度5450 Bq/mLのトリチウム含有試験水140 mLに、トリチウム吸収電極膜を配したユニットを浸した。さらに、同電極膜を配したユニットを、別の透明アクリル樹脂製の密閉容器(7.8×7.8×7.8cm)の中に配した。次に、同密閉容器内の気相のガスを同分析試験装置のキャリアガス(メタン10%とアルゴン90%の混合ガス)と混合したサンプルガスとして、流量300mL/分でパイレックス(登録商標)製のガラス管(長さ50 cm、外径9mm、内径8mm)内に管長12cmにわたって充填したモレキュラーシーブ(3A1/16, 和光純薬工業製134−06095)に接触させて脱水した。次いで、脱水後のサンプルガスを前記分析試験装置の比例計数管に導入した。本実験では、測定対象であるサンプルの気体を同分析試験装置に50000秒間導入し続けることで得られた積算出力信号を解析した。その結果、トリチウムを含んだガス(HTO又はHT)に特有な立ち上がり時間を有する波形を検出した(図2(b))。
<実施例3>
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンを含み片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜から蒸散するトリチウムを回収する実験>
本実験では、図3(a)に示した反応系を構成した。同反応系では、密閉容器内においてトリチウム吸収電極膜をトリチウム含有水と接触させて、反応容器内部のヘッドスペースの気体をモレキュラーシーブに通して脱水後、同気体を400℃に加熱した酸化銅(CuO)、0.1gと接触させることによって、同気体に含まれるHTガスをHTOに酸化してガス洗浄瓶中の蒸留水中に回収することを試みた。
<トリチウム吸収電極膜の製作>
上記の合成方法によって得られたリチウム含有酸化マンガンの粉末(0.8g)を市販の導電性塗料(藤倉化成製DOTITE XC−12)を用いて、ステンレスメッシュの表面(SUS304、100mesh、4cm × 3cm × 0.16cm)に塗布し、乾燥機を用いて大気中150℃で3時間加熱乾燥することで、同バインダーを炭化してポーラス状に成形された電極膜を得た。その後、同電極膜の片面(4cm × 3cm)に、20%ナフィオン(登録商標)分散液(和光純薬工業)を塗布し、大気中60℃で1時間乾燥する工程を2回繰り返した。ついで、大気中120℃で1時間加熱することによって、水素イオン導伝膜として電極膜の表面に固着させ、トリチウム吸収電極膜を製作した。この電極膜を、図3(a)に示したアクリル樹脂製容器に配し、トリチウム含有水槽側および希硝酸水槽の両槽にそれぞれ濃度0.5Mの希硝酸200mLを注入し、1時間保持した。同保持中、トリチウム含有水槽側の同希硝酸を、テフロン(登録商標)でコートされた撹拌子を用いたマグネチックスタラーで1時間撹拌した。この希硝酸との接触で、電極膜に含まれるリチウムイオン含有酸化マンガンは、リチウムイオンを希硝酸中に溶出して水素イオン含有酸化マンガンに組成が変化する。ついで、両槽から0.5M希硝酸水溶液を除去した後、蒸留水で充分濯いで希硝酸を除去した。
<トリチウム吸収電極膜から蒸散するトリチウムを回収する実験>
図3(a)に、本実験系の反応容器を示した。同反応容器は、上記の手法で製作した水素イオン含有酸化マンガンを含むトリチウム吸収電極膜で仕切られたアクリル樹脂製の反応容器である。さらに、前記酸化マンガンを固着した同電極膜の上端から1cmを、トリチウム含有水の水面から突出させて気相に接触するように配置した。トリチウム含有水槽側には、トリチウム含有水200mL(初期トリチウム放射能濃度:99253 Bq/mL、濃度0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液の添加によって初期pH9.29に調整)を配し、希硝酸水槽には濃度0.5Mの希硝酸200mLを配した。その際、トリチウム含有水の水温は20.0℃であった。同電極膜は、銅線を通じてアースに接地した。また、テフロン(登録商標)でコートされた撹拌子を用いてマグネチックスタラーで、同トリチウム含有水を攪拌した。トリチウム含有水のpHは、濃度0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH6.8〜9.0に維持した。
図3(a)に示した反応容器内部のヘッドスペースのガスを、ポンプ(JPO製W600、吐出圧:0.16kg/cm) によって圧送し、長さ40cm、外径9mm、内径7mmの石英ガラス製の管内に配した酸化銅(0.1g、CuO:99.9%、粉末、和光純薬工業038−13191)に接触させた。その際、同石英ガラス管の外壁を温度コントローラー(ASONE TC−3000)付きのヒーター(ダイカ電気 Type CL, 100V, 60W)を用いて400℃に加熱保持した。この加熱によって同石英ガラス管内に配した酸化銅の温度を350〜400℃に保った。同石英ガラス管内における酸化銅粉末の位置は、グラスウール(TOSO Grade: fine 2〜6μm、coarse 4〜9μm)を用いて固定し、さらに、同石英ガラス管内において、酸化銅の前段に水の侵入を防止するためモレキュラーシーブ3A1/16(和光純薬工業134−06095)を、グラスウールで固定した。
また、図3(a)に示した実験系の終端に位置するウォルター式ガス洗浄瓶内に予め配した40mLの蒸留水(HO)から、一定時間の経過毎に、マイクロピペットを用いてサンプルを1.0mLずつ採取した。各サンプルに、シンチレーターとしてβ線で発光する蛍光剤を含んだ界面活性剤(Perkin Elmer Ultima−Gold)を10mL添加して、各サンプル1.0mLあたりからのトリチウム由来の放射能濃度を測定した。ブランク試料として、実験に用いた蒸留水1.0mLを同様に前処理してトリチウム由来の放射能濃度を計測し、1.1Bq/mLを検出した。このため、本計測法においては1.1Bq/mLが実験用に添加したトリチウム由来の放射能の検出下限値であることを確認した。以上の手順によって、ウォルター式ガス洗浄瓶内の水に回収されたトリチウムの量の時間変化を調べた。
図3(b)に、同ウォルター式ガス洗浄瓶中の水に回収されたトリチウムの量の変化を示した。同図では、25時間の間に回収されたトリチウムの量が直線的に増加した結果が得られた。この増加は、トリチウム含有水からトリチウム吸収電極膜に吸収されたトリチウムが、トリチウムを含むガス(HTO又はHT)として気相に移動し、HTは図3(a)の反応系中で酸化銅と反応して水HTOに変換されて同ウォルター式ガス洗浄瓶の水中に蓄積された結果と考えられる。また、同実験では酸化銅の温度を250℃以上に保つために石英ガラス管内で酸化銅粉末が位置する周辺のガラス管の外壁温度を350〜400℃に保った。しかしながら、同温度を270℃に設定した際には、同ウォルター式ガス洗浄瓶中の水中のトリチウムの放射能の増加は全く観察されなかった。これは、酸化銅を用いた水素ガスの酸化反応に必要な最低温度である250℃に管内の温度が充分上昇していなかったことが原因として考えられる。
さらに、本実施例の実験系のヘッドスペースの気体をメタン10%とアルゴン90%の混合ガス(流量300mL/分)をキャリアガスとして、IsoShield社製の気体中水素同位体濃度分析試験装置に導入し、同ヘッドスペースの気体にトリチウムが含まれることを確認した。同分析では、同反応容器内部のヘッドスペースの気体を同装置のキャリアガスであるメタン10%とアルゴン90%の混合ガス(流量300mL/分)に混合し、パイレックス(登録商標)製のガラス管(長さ50cm、外径9mm、内径8mm)内に管長12cmにわたって装填したモレキュラーシーブ(3A1/16 和光純薬工業134−06095)に接触させて脱水した後、同装置の検出器に導入した。最終的に、同装置によって5万秒間の積算データを分析した結果、トリチウムを含むガス(HTO又はHT)に特有な波形を検出した。したがって、本トリチウム吸収電極膜に水中から吸収されたトリチウムが気相に移動していることが証明された。
<紫外光を照射することでトリチウム吸収電極膜からトリチウムの放出を促進する実験>
本実施例では、図3(a)に示したアクリル樹脂製の反応容器を用い、トリチウム吸収電極膜に対して同反応容器の外部から紫外光を照射することで、試験水(150mL)のサンプル中のトリチウム濃度変化を調べた。トリチウム試験水のサンプルを採取するために、反応容器上部のアクリル板に小孔(直径5mm)を設け、同小孔からシリコンチューブをトリチウム含有試験水に挿入して同試験水のサンプルを採取できるようにした。サンプル採取時以外は同小孔をアルミニウム製のテープでふさいだ。紫外光源としては、日亜化学工業製のUV−LED(波長375nm、三灯仕様、レンズ付き、PW−UV343H−02)を用いて、トリチウム吸収電極膜に対してトリチウム含有試験水との接触面に1時間、反応容器のアクリル壁を通して紫外光を照射した。紫外光の照射前後の時刻において採取した試験水の各サンプル1.3mLから各1.0mLを、アドバンテック製のディスポーザブル・フィルター(DISMIC AS−25)を用いて濾過し、シンチレーターとしてβ線で発光する蛍光剤を含んだ界面活性剤(Perkin Elmer Ultima−Gold)を10mL添加して、サンプル1.0mLあたりからのトリチウム由来の放射能濃度を測定した。
その結果、同紫外光の照射前はトリチウム含有試験水(150mL)中のトリチウムの放射能濃度が3737Bq/mLであり、照射を1時間続けた後は同トリチウム含有試験水中のトリチウム放射能濃度が3752Bq/mLと増加した。さらに、照射を止めた40分後に採取したサンプルではトリチウムの放射能濃度が3672Bq/mLに減少したことがわかった。紫外光の照射によって引き起こされるこのトリチウム放射能濃度の変動は、紫外光の照射によって同電極膜から水中にトリチウムが溶出する現象に基づくことを示唆する。すなわち、トリチウム吸収電極膜に対する紫外光の照射は、トリチウムを同電極膜からトリチウムの放出を促進する効果を有し、放出されたトリチウムがトリチウム含有試験水中に再溶解することによって同試験水中のトリチウム濃度が増加したと考えられる。また、紫外光の照射を止めることで同電極膜からのトリチウムの放出量が減少し、同電極膜によるトリチウムの吸収が再開された結果、トリチウムの放射能濃度が減少したと考えられる。
<実施例4>
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンから構成され、片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜から蒸散するトリチウムを回収するトリチウムの回収実験−1>
前記実施例3と同様の手法で片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した水素イオン含有酸化マンガンを含む電極膜を作成した。本実施例では、図4(a)に示した反応系を構成し、トリチウム含有水を片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した前記電極膜に接触させた。次いで、反応容器内部において同電極膜が気相と接している表面からトリチウムを反応容器内部の気相に蒸散させ、ポンプによってガス洗浄瓶1に配した蒸留水にシリコン製のチューブを通じて吸引して回収した。なお、反応容器とポンプはシリコンチューブで接続した。さらに、同ガス洗浄瓶1から排気される気体を、前記実施例3と同様にヒーターで400℃に加熱した一酸化銅(CuO)0.1gに接触させて、後段のガス洗浄瓶2に導き、その後再び同反応容器の上部から戻して循環させた。また、希硝酸を配した反応水槽の上部に吸気口を設けることで、前記反応容器内部のヘッドスペースガスの循環で生じる圧力損失によって同反応容器の内部が負圧になることを防止し、ほぼ大気圧下で実験を実施した。
実験にあたっては、図4(a)に示した様に、透明アクリル製の水槽を、前記リチウムイオン含有酸化マンガン粉末を含む電極膜によって2槽に仕切った。漏水防止のために、アクリル槽の各継ぎ目にはシリコンシーラ(セメダイン製バスコーク)を塗布して2日間乾燥した。また、図4(a)の反応容器内において、トリチウム含有水を配した水槽と希硝酸水溶液を配した水槽のヘッドスペースは両槽で共有されており、同反応系に外部の空気を吸引して供給した際に、両水槽を仕切る電極膜にかかる圧力が等しくなるよう配慮した。本実施例の電極膜の製作にあたっては、前述の実施例1に記載の方法にしたがって、スピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガンを合成した。本実施例におけるトリチウム吸収電極膜の製作にあたっては、ステンレスメッシュ(SUS304、100mesh、6cm×3cm×0.16cm)の表面(4cm×3cm×0.16cm)に、リチウムイオン含有酸化マンガン粉末0.83gを前記の導電性塗料を用いて同様に加熱・固着させた。次いで、同電極膜の片面に濃度20%のナフィオン(登録商標)の分散液(和光純薬工業製)を均一に塗布した後、大気中60℃で2時間乾燥することを2回繰り返し、最後に、大気中120℃で1時間加熱することによって、ナフィオン(登録商標)を水素イオン導伝膜として同電極膜の片面に固着させた。得られた同電極膜の膜厚は約1.3mmであった。また、同電極膜の反応面にトリチウム含有水及び希硝酸水溶液を浸潤させるため、同ユニットを構成するアクリル板とシリコンゴム膜の防水シール、およびアクリル容器には、直径4 mm の円形孔(面積12.6 mm)を5ヶ所設けることで、接触孔の面積の合計を63.0 mmとした。さらに、前記酸化マンガンを固着した同電極膜の上端から1cmを、トリチウム含有水の水面から突出させて気相に接触するように配置した。
次いで、図4(a)に示した反応容器内の水槽で前記電極膜を酸処理した。この酸処理にあたっては、同反応容器内の両水槽に濃度0.5Mの希硝酸を、それぞれ200mLずつ満たして1時間静置することによって、電極膜に含まれるリチウムイオン含有酸化マンガンからリチウムを希硝酸に溶出させて、水素イオン含有酸化マンガンに組成を変化させた。その後、両水槽から希硝酸を除去し、さらに両水槽に蒸留水200mLをそれぞれ満たした状態で1時間静置することによって、両水槽の内表面から希硝酸を洗い流した。
トリチウム含有水の調合にあたっては、トリチウム標準試薬(PerkinElmer 3H, water)を室温の蒸留水(和光純薬工業製)200mLで希釈して、放射能濃度が4408.7 Bq/mLのトリチウム含有水を調合した。次に、図4(a)における向かって右側の水槽に同トリチウム含有水(200mL)を配し、左側の水槽には濃度0.5Mの希硝酸水溶液(200mL)(和光純薬工業製)を配した。電極膜のナフィオン(登録商標)によって被覆された反応面を希硝酸に接する面とし、スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガン吸収材が露出した電極膜の反応面をトリチウム含有水に接する面となるように配置した。実験では、これらの2槽にそれぞれ満たしたトリチウム含有水と希硝酸水溶液、および2つのガス洗浄瓶中に予め配した蒸留水(50mL)中のトリチウムの放射能濃度の経時変化を実施例1、2、および3と同様に液体シンチレーションカウンターを用いて調べた。また、本実験中は、トリチウム含有水のpHおよび水温を、pHメーター(HORIBA製pHメーター,F−55ガラス電極型式6378−10D)、およびpH試験紙を使用してモニタリングした。また、電極膜は銅線を用いてアースに接地した。本実験では、図4(a)に示した様に反応容器内部のヘッドスペースの気体を、小型ポンプ(ADVANTEC製EP−01)を用いて、石英ガラス管(外径9 mm、内径6 mm)を通じてガス洗浄瓶1(ウォルター式:全容量100mL)内に予め配した蒸留水50mL(和光純薬工業製)に導入した。さらに、同ガス洗浄瓶1からの排気を石英ガラス管内で400℃に加熱・保持した酸化銅(CuO),(和光純薬工業製038−13191)0.1gに接触させた。なお、酸化銅の温度を400℃に保持するにあたっては、酸化銅の粉末を石英ガラス管内にグラスウール(TOSO Grade: fine 2〜6μm、coarse 4〜9μm)で固定し、同ガラス管の外壁を温度コントローラー(ASONE TC−3000)付きのヒーター(大科電器 Type CL, 100V, 60W)で加熱した。その後、前記CuOを通過した気体を、後段のガス洗浄瓶2(ウォルター式:全容量100mL)に予め配した50mLの蒸留水(和光純薬工業製)に導入した。なお、ポンプによる気体の脈動を減じるために緩衝チャンバーを本実験系の配管中に設けた。
本実施例では、室温(15.7〜21.6℃)のトリチウム含有水に対して、テフロン(登録商標)でコートされた撹拌子とマグネチックスタラーでトリチウム含有水を攪拌しながら、濃度0.1M又は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を適量添加することによって初期pH9.36に調整した後、自然にpH4以下に減少するまで実験を継続した。次いでトリチウム含有水に対して再度、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH8.10に上昇させた後、再び自然にpH5以下に低下するまで実験を継続した。反応系における各水溶液中の放射能濃度の変化を調べるため、サンプル採取にあたっては、トリチウム含有水、希硝酸水溶液、およびガス洗浄瓶1および2の蒸留水からサンプルを、それぞれ2.0mLずつ濾過採取した。同濾過採取には、ディスポーザブルフィルター(ADVANTEC製DISMIC GS−25AS020AN)、およびディスポーザブルシリンジ(テルモ製SS−02SZP)を用いた。濾過採取した各サンプルから1.0mLを精密マイクロピペットで採取し、液体シンチレーションカウンターを用いた前述の手法によって、各サンプル中のトリチウムの放射能濃度を計測した。
実験結果を、図4(b)、(c)に示した。はじめに、図4(b)は、トリチウム含有水中のトリチウム放射能濃度の経時変化を示す。縦軸はサンプル水のトリチウム放射能濃度を示し、横軸は反応時間を示す。本実験では、トリチウム含有水に対する最初のpH調節から約6時間経過後、トリチウム含有水のpHが3.8に低下した時点でサンプル(図中S1)を採取した。同サンプル採取後に再度水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8.1に上昇させた。その際、同pH調節によってトリチウム含有水が薄い茶色に着色した。この着色は、同電極膜から溶出したマンガンが水酸化マンガンを形成したことに基づくものと考えられる。次いで、46.5時間経過時にpH5.0に低下した際にサンプル(図中S2)を採取した。最後に、実験開始から約50時間経過時にpH4.68まで低下した際にサンプル(図中S3)を採取した。図4(b)から、トリチウム含有水のトリチウム放射能濃度が初期の4408.7 Bq/mLから約6時間経過時まで継続的に減少し、その後46.5時間経過時まで若干上昇する傾向を示したことがわかる。さらに50時間経過時に、pH4.68に低下した時点で、トリチウムの放射能濃度は4044.0 Bq/mLに減少した。同濃度と初期濃度の差から、トリチウム含有水のトリチウム量は、50時間経過時点で約71116.5 Bq減少した結果が得られた。図4(c)に、前段のガス洗浄瓶1に配した蒸留水50mL中のトリチウム放射能濃度の変化を示した。同図から、50時間経過時点で同蒸留水におよそ15885 Bqのトリチウムが回収されたことがわかった。これは、前記実施例3においてモレキュラーシーブと接触後に同様なガス洗浄瓶に配した蒸留水50mLに、74時間経過時点で回収された3235 Bqよりも、約5倍多い回収量である。また、本実施例の50時間経過時に同ガス洗浄瓶1の蒸留水は初期容量の50mLからサンプルとして採取された容量を差し引いた容量をほぼ維持していた。さらに、同ガス洗浄瓶1における50時間経過時点の蒸留水を原子吸光法で分析し、同蒸留水に含まれるマンガン(Mn)、リチウム(Li)、およびナトリウム(Na)の濃度を計測した。その結果、MnとLi濃度は検出限界以下の0.01mg/Lであり、Na濃度は0.48mg/Lであることを確認した。本実験において、50時間の経過時点までにトリチウム含有水に添加された0.1MのNaOHの総量が約0.28gであることを考慮すると、仮に、トリチウム含有水が同ガス洗浄瓶1の蒸留水に単に液体として移動した場合には、同蒸留水中には、より高濃度のNaやMnが検出されるべきである。したがって、本分析結果は同ガス洗浄瓶1の蒸留水に、トリチウムがHTO又はHTのガスとして移動したことを示唆している。また、50時間経過時に希硝酸200mL中に移動したトリチウムは約5881.3 Bqであった。また、後段のガス洗浄瓶2に配した蒸留水50mLには、839.5 Bqのトリチウムが回収された。これらは、いずれも前段のガス洗浄瓶1の蒸留水に回収されたトリチウムの量(15885 Bq)よりも少ないことから、トリチウム含有水から抽出されたトリチウムは主にガス洗浄瓶1の蒸留水に回収されたことがわかる。
以上の結果、50時間経過時点で2つのガス洗浄瓶の蒸留水、および希硝酸に移動が確認されたトリチウムの総量は22605.8 Bqであった。これに対して、図4(b)に示したトリチウム含有水のトリチウム濃度の減少値から算出されるトリチウムの総減少量は71116.5 Bqであるため、同総減少量の約31.8%に相当する22605.8 Bqのトリチウムを回収できたことになる。残りの約68.2%のトリチウムについては、実験中に反応容器の内壁面に水滴の付着が発生することから、これらの水滴に捕集されてガス洗浄瓶1に到達していないものと考えられる。
<実施例5>
<スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガンから構成され、片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した電極膜から蒸散するトリチウムを回収するトリチウムの回収実験−2、およびトリチウム吸収材として再利用する実験>
前記実施例1,2、3、および4と同様の手法で片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した水素イオン含有酸化マンガンを含む電極膜を作成した。本実施例では、図5に示した反応系を構成し、トリチウム含有水を片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆した前記電極膜に接触させた。次いで、反応容器内部において同電極膜が気相と接している表面からトリチウムを反応容器内部の気相に蒸散させ、ポンプによってガス洗浄瓶に配した超純水にテフロン(登録商標)製のチューブを通じて圧送して回収した。なお、反応容器とポンプはシリコンチューブで接続した。
本実験では、図5に示した様に透明アクリル製の水槽を、前記の片面にナフィオン(登録商標)の膜を被覆したリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を含む電極膜によって2槽に仕切った。漏水防止のために、アクリル槽の各継ぎ目にはシリコンシーラ(セメダイン製バスコーク)を塗布して2日間乾燥した。また、図5の反応容器内において、トリチウム含有水を配した水槽と希塩酸を配した水槽のヘッドスペースは両槽で共有されており、同反応系に外部の空気を供給した際に、両水槽を仕切る電極膜にかかる圧力が等しくなるよう配慮した。本実施例の電極膜の製作にあたっては、実施例1に記載の方法にしたがって、スピネル結晶構造を有するリチウムイオン含有酸化マンガン粉末を合成した。本実施例におけるトリチウム吸収電極膜の製作にあたっては、白金メッシュ(100mesh、5.5cm×3cm×0.16cm)の表面(3.5cm×3cm×0.16cm)に、リチウムイオン含有酸化マンガン粉末0.92gを前記の導電性塗料を用いて同様に加熱・固着させた。次いで、同電極膜の片面に濃度20%のナフィオン(登録商標)の分散液(和光純薬工業製)を均一に塗布した後、大気中60℃で2時間乾燥することを2回繰り返し、最後に、大気中120℃で1時間加熱することによって、ナフィオン(登録商標)を水素イオン導伝膜として同電極膜の片面に固着させた。得られた同電極膜の膜厚は約1.3mmであった。また、同電極膜の反応面にトリチウム含有水及び希塩酸水溶液を浸潤させるため、同電極膜のユニットを構成するアクリル板とシリコンゴム膜の防水シール、およびアクリル容器には、直径2mm の円形孔(面積3.14 mm)を4ヶ所設けることで、接触面積の合計を12.56 mmとした。さらに、前記酸化マンガンを固着した同電極膜の上端から1.5cmを、トリチウム含有水の水面から突出させて気相に接触するように配置した。
次いで、図5に示した反応容器内で前記電極膜を酸処理した。この酸処理にあたっては、同反応容器の両水槽に濃度0.5Mの希塩酸水溶液を、それぞれ200mLずつ満たして1時間静置することによって、電極膜に含まれるリチウムイオン含有酸化マンガンからリチウムを希塩酸水溶液に溶出させて、水素イオン含有酸化マンガンに組成を変化させた。その後、両水槽から希塩酸水溶液を除去し、さらに両水槽に超純水200mLをそれぞれ満たした状態で1時間静置することによって、両水槽の内表面から希塩酸を洗い流した。
トリチウム含有水の調合にあたっては、トリチウム標準試薬(PerkinElmer 3H, water)を室温の超純水150mLで希釈して、放射能濃度が4054.2Bq/mLのトリチウム含有水を調合した。次に、図5における向かって右側の水槽に同トリチウム含有水150mLを配し、左側の水槽には濃度0.5Mの希塩酸水溶液150mL(和光純薬工業製)を配した。ナフィオン(登録商標)によって被覆された電極膜の反応面を希塩酸に接する面とし、スピネル結晶構造を有する水素イオン含有酸化マンガン吸収材が露出した電極膜の反応面をトリチウム含有水に接する面となるように配置した。実験では、これらの2槽にそれぞれ満たしたトリチウム含有水と希塩酸水溶液、およびガス洗浄瓶に予め配した超純水50mL中のトリチウムの放射能濃度の経時変化を実施例1、2、3、および4と同様に液体シンチレーションカウンターを用いて調べた。また、本実験中は、トリチウム含有水のpHおよび水温を、pHメーター(HORIBA製pHメーター,F−55ガラス電極型式6378−10D)、およびpH試験紙を使用してモニタリングした。また、電極膜は銅線を用いてアースに接地した。本実験では、図5に示した様に反応容器内部のヘッドスペースの気体を、小型ポンプ(ADVANTEC製EP−01)を用いて圧送し、テフロン(登録商標)チューブ(外径3mm、内径2mm)を通じてガス洗浄瓶(ウォルター式:全容量100mL)に予め配した超純水50mL(和光純薬工業製)に導入した。
本実施例では、室温(24.0〜28.2℃)のトリチウム含有水に対して、テフロン(登録商標)でコートされた撹拌子とマグネチックスタラーでトリチウム含有水を攪拌しながら、濃度0.1M又は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を適量添加することによって初期pH9.26に調整した後、自然にpH2.7以下に減少するまで実験を継続した。次いでトリチウム含有水に対して再度、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7に上昇させた後、再び自然にpH2.7以下に低下するまで実験を継続した。この様なトリチウム含有水に対するpHの再調整を5回繰り返しながら、実験を89時間継続した。反応系における各水溶液中の放射能濃度の変化を調べるため、サンプル採取にあたっては、トリチウム含有水、希塩酸水溶液、およびガス洗浄瓶の超純水からサンプルを、それぞれ2.0mLずつ濾過採取した。各サンプル採取のタイミングは、トリチウム含有水のpHが2.7以下に低下した時点とした。同濾過採取には、ディスポーザブルフィルター(ADVANTEC製DISMIC GS−25AS020AN)、およびディスポーザブルシリンジ(テルモ製SS−02SZP)を用いた。濾過採取した各サンプルから1.0mLを精密マイクロピペットで採取し、液体シンチレーションカウンターを用いた前述の手法によって、各サンプル中のトリチウムの放射能濃度を計測した。なお、本実施例で用いた超純水および0.5M希塩酸水溶液のサンプル中のトリチウム濃度を、本実施例で使用した液体シンチレーションカウンターによるトリチウム放射能濃度の検出下限値を確認するために、同様に計測した結果は、それぞれ1.72Bq/mL、および1.43Bq/mLであった。
実験結果を、図6(a)、(b)、(c)、および(d)に示した。各図にプロットされた全データは、サンプル採取によって減少するトリチウムの量を考慮して補正されている。また、本実施例の89時間経過時に、ガス洗浄瓶の超純水は初期容量の50mLからサンプルとして採取された容量を差し引いた容量をほぼ維持していた。はじめに、図6(a)は、トリチウム含有水中のトリチウム放射能濃度の経時変化を示す。縦軸はサンプル水のトリチウム放射能濃度を示し、横軸は反応時間を示す。図6(a)の結果から、トリチウム含有水のトリチウム濃度が89時間の経過後に、初期値の4054.2Bq/mLから3195.53Bq/mLへ858.67Bq/mL低下しており、初期値の21.2%に相当するトリチウム濃度が減少したことがわかった。また、本実験では、上記の様にトリチウム含有水のpH調整を繰り返したが、水酸化ナトリウム水溶液の添加によって同pHを中性に調節した際に、毎回、トリチウム含有水は薄い茶色に着色し、沈殿物のスラッジが蓄積した。この着色とスラッジの発生は、同電極膜から溶出したマンガンが水酸化マンガンを形成し、さらに反応系に供給される空気中の酸素によって酸化されて酸化マンガン生じたことが原因であると考えられる。図6(b)は、ガス洗浄瓶の超純水、および希塩酸中のトリチウム放射能濃度の変化を示す。また、図6(c)は、トリチウム含有水から除去されたトリチウム量、ガス洗浄瓶の超純水と希塩酸に蓄積されたトリチウム量の合計、および希塩酸に蓄積されたトリチウムの量に関するマスバランスの経時変化を示す。図6(c)の結果から、トリチウム含有水から除去されたトリチウムの45.2%がガス洗浄瓶の超純水と希塩酸に移動していることがわかる。また、ガス洗浄瓶の超純水と希塩酸に蓄積されたトリチウム量の合計の大部分である86%がガス洗浄瓶の超純水に回収されていることを示す。図6(d)は、トリチウム含有水のpH変化に対するガス洗浄瓶の超純水に回収されたトリチウムの単位時間当たりの回収量の経時変化を示す。図6(d)から、トリチウム含有水のpHが3以下の時に同回収率が著しく向上することがわかる。前記実施例4の結果と比較すると、図4(b)の結果においては、トリチウム含有水からサンプルを採取する際にいずれもpH3以下ではなかったためにトリチウムの吸収と蒸散が同時に生じた時間が長く、本実施例の図6(a)の様にトリチウム濃度が一様には減少しなかったと考えられる。したがって、トリチウム含有水のpHが3以下に低下してからサンプルを採取することで、図6(a)に示したトリチウム濃度の一様な減少が得られるものと考えられる。また、本トリチウム吸収材はpH3以下の酸性の水中ではトリチウムを吸収しないことが報告されている。Hideki Koyanaka and Hideo Miyatake, Extracting Tritium from Water Using a Protonic Manganese Oxide Spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015)。したがって、本吸収材は弱アルカリ性から中性(例えば、pH9〜7)の水溶液中ではトリチウムを吸収し、酸性の水溶液中ではトリチウムを放出すると言える。この性質は、前記化学式(2)および(3)の反応をサポートする実験結果である。
<リチウムイオン添加によるトリチウム吸収材の再利用性の向上>
前記の実施例5においては、トリチウム含有水がpH3以下に低下した後、再度pHを水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH7に再調整することで、トリチウム吸収材の再利用を繰り返した。しかしながら、実施例5の 同pHの再調整の際には、マンガンの溶出に基づくスラッジが発生した。この問題を解決するために、同pHの再調整 に使う試薬として実施例5における水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、水酸化リチウム水溶液を添加した。反応容器と電極膜に関しては、前記実施例5と同様とし、同様の手順で実験を実施した。具体的には、トリチウム含有水に 対する水酸化リチウム水溶液の添加量は、トリチウム含有水約150mLに対して、濃度1MのLiOH・HOを0.1gを 添加して、トリチウム含有水のpHを8.0〜8.5に調整した。この効果として、前記実施例5ではpHの再調整1回当たりに発生していたスラッジの量を、乾燥重量で約20分の1以下の0.016gに低減することができた。また、マンガンイオンの溶出によるトリチウム含有水の着色も抑えることが出来た。
以上の様な好ましい効果は、トリチウム含有水に対する水酸化リチウム水溶液の添加が、トリチウム含有水のpHを 酸性から中性以上に上昇させる事と共に、トリチウムを放出した後の酸化マンガンの不安定な同結晶構造にリチウムイオンが侵入して、結晶構造を安定化する効果に基づくものと考えられる。また、同様の効果が、塩化リチウム(LiCl)をトリチウム含有水に添加し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを再調整した場合にも確認できた。したがって、添加するリチウム試薬は水溶性であれば、水酸化物や塩化物など、リチウム含有錯体中の陰イオンの種類を問わず、リチウムイオンを添加しなかった場合に比べて、マンガンの溶解およびスラッジの発生を抑制できる。
トリチウム含有水への適量なリチウムの添加量としては、前記スピネル結晶構造を有する酸化マンガン粉末1gに対 して1〜30mg程度が好ましい。また、リチウム濃度としては、1〜50mg/L程度の範囲が好ましい。なぜならば、前記適量を超過した多量又は高濃度のリチウムイオンの添加は、前記酸化マンガンの溶解を促進するからである。 したがって、本発明のトリチウム含有水に対する適量かつ適度な濃度を実現する上記のリチウムイオンの添加は、本技術を実用化する際にスラッジの発生を抑え、かつトリチウム吸収材の寿命を延ばす上で、有用な知見である。
また、本トリチウム吸収電極膜の効果によって、一旦、トリチウム含有水の液相から気相にHTO又はHTとして蒸散したトリチウムを回収する手法としては、本実施例に示した様にポンプを用いて少量の水中に回収する手法に限らず、通常の水素や水に対して高い吸収能を有する多孔体等の既存の物質を、本実施例における蒸留水や超純水の代わりに用いることができる。
以上の様に、本発明のトリチウム吸収電極膜をトリチウム含有水に適用することによって、従来の技術では為し得なかったナノグラム/Lオーダーと極めて低い質量濃度で水に溶存しているトリチウムを、室温下で簡易かつ安価に水から分離して回収することが可能になった。
<実施例6>
<トリチウムを捕集した電極膜からトリチウムをゲル及び電解質中に回収する実験>
図7に示した実験系を用いて、トリチウムを捕集した電極膜からトリチウムをゲルおよび電解質を含んだ水中に回収することを試みた。
本発明のトリチウム回収方法を、図7を用いて説明する。同図中の導電性ゲルの作成にあたっては、まず、ガラスビーカー内で、塩化リチウム粉末(和光純薬工業 特級試薬127−01165、99%以上)10g、および試薬寒天粉末(和光純薬工業 試薬特級018−15811)1.7gを蒸留水(50mL)に加え、ヒーターで加熱して寒天の粉末を溶解させた。次に、加熱によって得られたリチウムイオンを含んだ寒天の水溶液を、ステンレス(SUS304)製の型枠(内径30mm、高さ20mm、厚さ0.7mm)に流し込み、室温下で静置して固化することで、ステンレス型枠に密着して固化したリチウムイオンを含んだ導電性ゲルを作成した。
前記実施例1のトリチウム捕集実験において10分間でトリチウムを2353 Bq捕集した電極膜を、前記のリチウムイオンを含んだ導電性ゲルに15mm挿入することで、トリチウムを含む酸化マンガンが導電性ゲルと接触するように配置した。次に、前記ステンレス型枠内のゲルに挿入した電極膜におけるステンレス製の型枠部分に接続した銅線を定電圧電源に接続して同電極膜を正極とした。さらに、炭素棒(直径5mm、長さ5cm)に接続した銅線を定電圧電源に接続して同炭素棒を負極とした。これらの正極と負極をガラスビーカー内に配置し、電解質として1Mの水酸化リチウム水溶液0.5mLを加えて導電性を付加した蒸留水120mL中に配置した。次に、電解質を添加した蒸留水120mLをテフロン(登録商標)製の撹拌子とマグネチック スターラーによって撹拌しながら、定電圧電源を用いて前記の正極と負極に4〜5Vの電圧を10分間印加した。電圧印加を始めて10分経過時に、同導電性を付加した蒸留水のサンプルを1.2mL濾過採取した。また、上記のゲルをステンレス缶の中に密閉して、同ステンレス缶を加熱することによってトリチウムを溶出させたゲルを液化して、サンプルを採取した。サンプルの採取には、ADVANTEC製のDISMIC GS−25AS020ANおよびテルモ製ディスポーザブルシリンジSS−02SZPを用いた。採取した同サンプルから1.0mLを精密マイクロピペットで分取し、液体シンチレーションカウンターを用いた前記の手法でサンプル1.0mL中のトリチウムの放射能濃度を計測した。
本実験結果として、前記電解質の添加によって導電性を付加した蒸留水120mL中のトリチウム濃度は6.86Bq/mLと計測された。この値を、同導電性を付加した蒸留水120mL中に10分間で溶出したトリチウムの放射能に換算し、823.2 Bqを得た。また、本実施例におけるトリチウム回収実験に供した電極がトリチウム含有水から吸収したトリチウムは2353.0 Bqであった。したがって、本発明のトリチウム回収方法によれば、計算式:(823.2/2353.0)×100=34.99によって、吸収されたトリチウムの約35%が電解質を添加した蒸留水中に回収されたことを示す結果が得られた。
<比較実験:リチウムイオンを含むゲルを使用しないトリチウム回収実験>
トリチウムの回収実験を、図7に示したステンレス製の型枠内で固化させたリチウムイオンを含むゲルを使用せずに、トリチウムの回収実験を実施することで、前記同ゲルを使って得られた効果と比較した。実験では、トリチウムを含んだ電極膜を、図7におけるゲルを介さず銅線を用いて定電圧電源に直接接続した。同電極を正極とし、負極の炭素棒との間に4〜5Vの電圧を10分間、ゲルを用いた場合と同様に印加した。その結果、同蒸留水中に、電極膜が含むトリチウム全量の1.2%が回収された。したがって、本発明の手法による、リチウムイオンを含むゲルを使用することによって、使用しない場合に比べて30倍以上高いトリチウムの回収率が得られることがわかった。
<実施例7>
<トリチウム吸収材を構成する水素含有酸化マンガンを構成するマンガンの価数分析>
本トリチウム吸収材であるスピネル型の結晶構造を有した水素イオン含有酸化マンガンを構成するマンガンの価数を、X線吸収分光分析法(XANES)によって分析した。同分析には、リガク製のX線吸収分光分析装置(R−XAS LOOPER)を用いた。また、同分析用のサンプルとして、前記リチウムイオン含有酸化マンガン1gを、濃度0.5Mの希塩酸100mLに懸濁させて、テフロン(登録商標)で被覆された撹拌子とマグネチックスタラーで24時間撹拌することで、前記化学式(1)にしたがって、リチウムイオンを水素イオンに置換した水素イオン含有酸化マンガンを得た。同水素イオン含有酸化マンガンを、pH3、およびpH6に調整した蒸留水100mLに懸濁させて、それぞれのpHを維持しながら2日間撹拌することで、サンプルを2種類用意した。同pH調整には、濃度0.1M水酸化ナトリウム、および0.1M希塩酸を用いた。また、マンガンの価数が既知である金属マンガンの粉末、Mnの粉末、LiMnの粉末、およびMnOの粉末を準備した。これらは、市販試薬として和光純薬工業から入手し、それぞれ、マンガンの価数が、0価、3価、3.5価、および4価に対応するリファレンスのサンプルとして同様に計測した。
図8(a)に、各サンプルの計測結果を示した。同図から明らかな様に、本トリチウム吸収材として機能する水素イオン含有酸化マンガンに関しては、pH3の水溶液中に保持したサンプル、およびpH6の水溶液中に保持したサンプルの両方とも、リファレンスとして計測した二酸化マンガン(MnO)と、ほぼ同一の吸収端形状を示した。同結果によって、同水素イオン含有酸化マンガンに含まれる殆どのマンガンの価数がプラス4価であることが明らかになった。
また、図8(b)には、本水素イオン含有酸化マンガン、および酸処理前のリチウムイオン含有酸化マンガンのX線回折(XRD)パターンを示した。どちらの計測結果もスピネル型の酸化マンガンの結晶構造に特有な回折パターンを示した。同図において、上部に示した水素イオン含有酸化マンガンの回折パターンは、下部に示したリチウムイオン含有酸化マンガンの回折パターンに比べて、僅かに高角側にシフトしている。これは、従来のスピネル型の結晶構造を有した酸化マンガンに関する多くの研究報告と一致する結果であり、水素イオンのサイズがリチウムイオンのサイズよりも小さいために、水素イオン含有酸化マンガンの結晶が僅かに収縮した効果とされている。例えば、J. C. Hunter, Preparation of a new crystal structure of manganese dioxide: lambda-MnO2", Journal of Solid State Chemistry, 39, 142-147, (1981) に示された。同水素イオン含有酸化マンガンを100℃以上で24時間程度加熱して、スピネル結晶構造から水素イオンを水として大気中に蒸散させた場合には、同酸化マンガンはラムダ型の二酸化マンガンとなるが、同二酸化マンガンは、イオン交換性の水素イオンを結晶から失っているために、本発明の水素イオン含有酸化マンガンが有するリチウムイオンやトリチウムイオンに対する吸収性を全く示さない。この現象は、例えば、Hideki Koyanaka and Hideo Miyatake, Extracting Tritium from Water Using a Protonic Manganese Oxide Spinel", Separation Science and Technology, 50, 14, 2142-2146, (2015)、およびH. Koyanaka, O. Matsubaya, Y. Koyanaka, and N. Hatta, Quantitative correlation between Li absorption and H content in Manganese Oxide Spinel λ-MnO2", Journal of Electroanalytical Chemistry, 559, 77-81 (2003) などで報告されている。また、同報告には、390℃のように比較的低温で焼成して得られるリチウムイオン含有酸化マンガンを酸処理した場合には、同結晶内のほとんどのリチウムイオンが水素イオンに置換された理論組成比:HMn(x=1)近い水素イオン含有酸化マンガンが得られることも記載されている。したがって、水素イオンをスピネル結晶構造に多量に含む本トリチウム吸収材を構成するマンガンの価数がプラス3.5価ではなく、殆どがプラス4価であることは、その組成式をHMnと記載することで4個の酸素イオンによるマイナス8価を水素イオン1個によるプラス1価とマンガンイオン2個によるプラス8価で補償するとした場合に、電荷中性が成立しない。したがって、本トリチウム吸収材を構成する水素イオン含有酸化マンガンの組成は、電荷中性が成立する(H, e)Mnと記述することが合理的である。同組成をサポートする報告例として、スピネル型酸化マンガンの結晶内部において、水素イオン(H)が結晶を構成する特別な酸素原子ペアと弱い共有結合(強い水素結合とも言える)で結合し、結晶内部における水素イオンの濃度勾配に応じて水素イオン導伝性を示すことが、次の文献で指摘されている。H. Koyanaka, Y. Ueda, K. Takeuchi, A. I. Kolesnikov, Effect of crystal structure of manganese dioxide on response for electrolyte of a hydrogen sensor operative at room temperature", Sens. Act. B 2013, 183, 641-647。このような弱い共有結合でスピネル結晶内に捕捉されたトリチウムイオン(T)は、水素イオン(H)と同様に同結晶内の酸素による束縛から容易に外れることができるため、本発明のトリチウム吸収材は、前記化学式(2)〜(4)にしたがって、水中のトリチウム(OT)を水の同位体異性体(HTO)に変換し、同吸収材の固相から気相にHTOのガスとして蒸散することを可能にしているものと考えられる。

Claims (8)

  1. トリチウムを含有する吸収材から蒸散するトリチウムを含むガス(HTO又はHT)を回収するトリチウムの回収方法であって、トリチウムを含有する吸収材に紫外光を照射することによって、トリチウムを含有する吸収材からトリチウムの回収を促進することを特徴とするトリチウムの回収方法。
  2. トリチウムを含有する吸収材から蒸散するトリチウムを含むガス(HTO又はHT)を回収するトリチウムの回収方法であって、酸化剤として酸素(O)又は250℃から500℃に加熱した酸化銅(II)(CuO)を用い、トリチウムを含有する吸収材から発生するトリチウムを含む水素(HT)を前記酸化剤と接触させて水(HTO)に変換することを特徴とするトリチウムの回収方法。
  3. トリチウムを含むガスの蒸散を促進するために吸収材が固着された電極膜の一部が気相に露出していることを特徴とする請求項1又は2に記載のトリチウムの回収方法。
  4. トリチウムを含有する吸収材を、導電性のゲルおよび電解質水溶液に接触させて電圧を印加することで、吸収材が含有するトリチウムを、導電性のゲルおよび水溶液中に回収することを特徴とするトリチウムの回収方法。
  5. 導電性のゲルが、リチウムイオンを含んだゲルであることを特徴とする請求項4に記載のトリチウムの回収方法。
  6. 吸収材が、スピネル結晶構造を有する酸化マンガンであることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載のトリチウムの回収方法。
  7. 吸収材が、トリチウムの水酸化物(OT )を、トリチウムを含む水(HTO)又は水素(HT)に変換することを特徴とする酸化マンガンであることを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか一項に記載のトリチウムの回収方法。
  8. 吸収材が、水素イオン(H )を含有し、かつマンガンの価数が+4価の酸化マンガンであることを特徴とする請求項1からのうちのいずれか一項に記載のトリチウムの回収方法。
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