以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。なお、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。
(第1実施形態)
図1は、実施の形態に係る運転支援装置1のブロック図である。図1に示すように、運転支援装置1は、運転行動計測部10、高精度道路地図情報20、運転行動データベース30、逆危険確率算出部40、経路速度計画生成部50、及び車両制御部60を含む。
運転行動計測部10は後述する各種センサを用いて、車両の走行状況、及び、道路上の障害物の位置を含む、車両周辺の道路情報を表す運転行動データを計測する。
高精度道路地図情報20は、道路の接続形態を表す道路接続情報、並びに道路を構成する各種要素に関する情報を表す道路付加情報を含む道路地図情報である。
運転行動データベース30は、運転行動計測部10で計測された運転行動データを記憶する。
逆危険確率算出部40は、運転行動データベース30に記憶された運転行動データ、及び、高精度道路地図情報20に基づいて、車両が取り得る経路毎に、障害物に対する車両の回避可能性を表す確率モデルを規定するパラメータ群を算出する。
具体的には、逆危険確率算出部40で用いる確率モデルは、道路上の各地点における障害物に対する車両の衝突回避の度合い、すなわち、車両の安全性を表す確率モデルと、道路上の各地点を接続して得られる各経路上における車両の移動の困難度合い、すなわち、車両運動を表す確率モデルと、で表されるが、詳細については後ほど説明する。
なお、逆危険確率算出部40では、運転行動データのうち、障害物との衝突事例を含まない車両の運転行動データのみから、障害物との衝突の危険性を確率的に評価するため、当該確率を特に「逆危険確率」といい、逆危険確率から車両と障害物との衝突確率を求めることを可能にした確率モデルを「逆危険確率モデル」という。
経路速度計画生成部50は、運転行動データベース30に記憶された運転行動データ、高精度道路地図情報20、及び逆危険確率算出部40で算出した逆危険確率モデルの各種パラメータ群(逆危険確率パラメータ群)に基づいて、道路上に構築した仮想的なベイジアンネットワークを用いて、複数の経路の中から、車両の安全性が最も高くなる経路を選択し、選択した経路を走行するための車両の進行方向、及び選択した経路の各地点における車両の速度を示す速度列を生成する。なお、以降では、車両の安全性が最も高くなる経路を走行するための車両の進行方向及び速度列を総称して、「走行経路データ列」という。また、本実施形態に係る走行経路データ列は、走行情報の一例である。
車両制御部60は、経路速度計画生成部50で生成された走行経路データ列に従って、後述するブレーキ制御システム及びアクセル制御システムを制御することで、車両の運転者に代わって車両を自動的に制御する。
次に、図1に示した各ブロックの詳細について説明する。
図2は、運転行動計測部10の構成例を示す図である。運転行動計測部10は、運転行動計測センサ群110及びセンサデータ処理部120を含み、運転行動計測センサ群110とセンサデータ処理部120は、例えばCAN(Controller Area Network)131、LAN(Local Area Network)132、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)1394b、及びUSB(Universal Serial Bus)といった通信規格の異なる複数の接続バスで接続される。
なお、運転行動計測センサ群110及びセンサデータ処理部120の接続形態は一例であり、前述した通信規格とは異なる通信規格に準拠した接続バスで接続してもよく、また、単一の通信規格を用いて接続してもよい。また、以降では、IEEE1394b及びUSBを「シリアル回線133」という場合がある。
運転行動計測センサ群110は、車速センサ111、3軸加速度センサ112、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)受信機116、3次元レーザー距離センサ117及びカラー画像カメラ群118を含む。
ここで、車速センサ111は、車両の速度を計測するセンサである。
3軸加速度センサ112は、例えば車両の進行方向、車両の進行方向と直交する方向(以降、「車両の幅方向」という場合がある)、及び車両の上下方向の各方向における加速度を計測するセンサである。
GNSS受信機116は、GPS(Global Positioning System)等の人工衛星を利用した全地球測位システムが出力する情報を受信する機器であり、例えば車両の経緯度、地球の重心を座標系の原点として空間の位置を規定する世界測地系座標における車両の座標点及び時刻情報等をGPSから受信する。
3次元レーザー距離センサ117は、例えば照射したレーザーが物体で反射して戻ってくるまでの時間差を計測することで、3次元レーザー距離センサ117から物体までの距離を計測するセンサである。3次元レーザー距離センサ117は、車両を中心に360度にわたってレーザーを照射することで、車両周辺の例えば交通参加者の他、縁石或いは電柱といった車両の走行を妨げる障害物までの距離を計測する。なお、交通参加者とは、例えば歩行者、自転車、自動2輪車、及び4輪車といった道路上を通行する移動体をいい、障害物の一例である。
カラー画像カメラ群118は、例えば車両進行方向の画像を撮影する。なお、カラー画像カメラ群118が撮影する画像の種類は、動画であっても静止画であってもよい。また、カラー画像カメラ群118は、車両進行方向の画像に加えて、例えば車両の後方や車両の幅方向の画像等、車両を中心に360度にわたる画像を撮影してもよい。
なお、運転行動計測センサ群110のうち、車速センサ111及び3軸加速度センサ112は、例えばセンサ値をCAN131経由でセンサデータ処理部120に送信する。
また、GNSS受信機116及び3次元レーザー距離センサ117は、例えばセンサ値をLAN132経由でセンサデータ処理部120に送信する。
更に、カラー画像カメラ群118は、撮影した画像データ列をシリアル回線133でセンサデータ処理部120に送信する。ここで画像データ列とは、カラー画像カメラ群118の画素毎の画素値を並べたデータ列であり、画像データ列からカラー画像カメラ群118で撮影した画像を再現することができる。
なお、運転行動計測センサ群110に含まれる各センサは、例えばセンサ毎に予め定められた時間間隔でセンサ値をセンサデータ処理部120に送信するが、これに限らず、例えばセンサデータ処理部120によって指定されたタイミングで、センサ値をセンサデータ処理部120に送信してもよい。
一方、センサデータ処理部120は、センサデータ受信部121、時刻同期処理部122、データ統合部123及び認識部124を含む。
センサデータ受信部121は、運転行動計測センサ群110に含まれるカラー画像カメラ群118以外の各センサと接続され、運転行動計測センサ群110から送信される各センサ値を受信する。
時刻同期処理部122は、センサデータ受信部121及びデータ統合部123と接続され、センサデータ受信部121で受信したセンサ値の中から、GNSS受信機116が受信した時刻情報を取得する。そして、時刻同期処理部122は、センサデータ受信部121が同じタイミングで受信したセンサ値の各々が同じ時刻に計測されたセンサ値であることを示すため、取得した時刻情報をセンサ値の各々に対応付け、時刻情報が対応付けられた各センサ値をデータ統合部123に出力する。
一方、認識部124は、運転行動計測センサ群110のカラー画像カメラ群118及びデータ統合部123と接続され、カラー画像カメラ群118から画像データ列を受信する。そして、認識部124は、受信した画像データ列で表される画像から交通参加者を抽出し、歩行者、自転車、自動2輪車、及び4輪車で表される交通参加者の種別毎に、交通参加者種別番号を割り当てると共に、車両から交通参加者までの距離を算出し、画像データ列と共に、データ統合部123に出力する。
なお、画像データ列から交通参加者を抽出し、交通参加者の種別を推定する手法には公知の技術が利用できる。例えば、交通参加者の位置ずれ及び交通参加者の変形に対するコストを評価することにより、交通参加者を画像から精度よく抽出することができるDeformable Part Modelを適用することができる。また、車両から交通参加者までの距離(2次元相対位置情報)は、例えば、画像から抽出した交通参加者の大きさ等から推定することが可能であるが、カラー画像カメラ群118で撮影した画像から交通参加者の方向を推定し、3次元レーザー距離センサ117で計測した、交通参加者の方向に対応する距離を用いるようにしてもよい。
データ統合部123は、時刻情報が対応付けられたセンサ値と、画像データ列と、画像データ列で表される画像から抽出された交通参加者の交通参加者種別番号と、2次元相対位置情報とを統合して、図3に示す運転行動データ130を生成し、時系列に沿って運転行動データベース30に格納する。
なお、図3において、「周辺3次元点群」の次元数が“69120”となっているが、これは、3次元レーザー距離センサ117は、一例として32個のレーザー送受信機を内蔵し、レーザー送受信機の各々は、360度回転しながら2160地点の距離、すなわち、全体として69120地点の距離を計測するためである。
また、「画像データ列」の次元数が“883200”となっている理由は、カラー画像カメラ群118で撮影された縦640画素×横460画素(=294400画素)の画像を、それぞれ赤、青、及び緑の3色の濃度値で表しているためである。
なお、周辺3次元点群及び画像データ列の次元数は、使用する3次元レーザー距離センサ117及びカラー画像カメラ群118の仕様によって変化するため、図3に示す次元数の値は一例である。
次に、高精度道路地図情報20について説明する。高精度道路地図情報20は、道路接続情報210及び道路付加情報220を含む。
図4は、道路接続情報210を説明するための模式図である。図4に示すように、道路接続情報210は、世界測地系座標における3次元空間座標の座標点として表される地点(ノード201A〜ノード201I)と、2つのノード201を端点とする線であるリンク202との組み合わせによって表される。なお、ノード201とは、ノード201A〜ノード201Iの総称である。
ノード201は交差点の中心の他、例えば予め定めた曲率半径以上の値を有するカーブ等、実際の道路形状に応じて交差点以外の道路上の地点にも配置することができる。また、リンク202は、一方のノード201と他方のノード201を繋ぐ道路の有無を表す。
図4に示す道路接続情報210からは、例えばノード201Aからノード201Bへ行く経路として、ノード201A→ノード201C→ノード201Bの経路と、ノード201A→ノード201D→ノード201E→ノード201Bの経路とがあることがわかる。
図5は、道路接続情報210に含まれる情報のデータ構造の一例を示した図である。図5に示すように、道路接続情報210は、各ノード201の座標値と、リンク202によるノード201間の接続情報を含む。
このように道路接続情報210は、道路の位置及び道路間の接続状況を表すことを目的とする情報である。一方、道路付加情報220は、道路を構成する各種要素に関する情報を表すことを目的とする情報である。
図6は、道路付加情報220を説明するための模式図である。図6に示すように、道路付加情報220は、車両通行帯と歩道との境界である道路端の位置、車両が通行する車線位置及び進行方向、一方の道路端から他方の道路端までの距離である道路幅、車両通行帯に設定されている車両の制限速度及び停止線の位置に関する情報が含まれる。なお、道路付加情報220に含まれる情報は一例であり、例えば道路名称や中央分離帯の有無など、他の情報を含んでもよい。
図7は、道路付加情報220に含まれる情報のデータ構造の一例を示した図である。ここで、車線位置及び進行方向、並びに停止線情報の次元数がN(Nは自然数)となっているのは、任意の本数の車線及び停止線に関する情報が含まれるためである。
このように高精度道路地図情報20は、例えば実際の道路を測量することによって予め作成される情報であり、例えば地図情報提供者から提供される情報を用いることができる。また、車両が搭載するGNSS受信機116で取得した世界測地系座標における車両の座標点を用いて、車両が走行中の道路に対応する道路接続情報210及び道路付加情報220を高精度道路地図情報20から取得することができる。なお、車両が走行中の道路を特に「走行道路」ということにする。
図8は、逆危険確率算出部40の構成例を示す図である。図8に示すように、逆危険確率算出部40は、逆危険確率モデル41及び逆危険確率分析部42を含み、逆危険確率分析部42は、高精度道路地図情報20、運転行動データベース30、及び経路速度計画生成部50とそれぞれ接続される。
一方、図9は、車両70が走行道路に存在する障害物と衝突しないように、障害物を避ける経路について説明する図である。なお、以降では、障害物として道路を通行する交通参加者80を例にして説明を行うが、道路上に落下した落下物や電柱等の静止物体についても同様の方法を適用することができる。
後述する経路速度計画生成部50は、図9に示すように、走行道路における複数の経路X1,X2,・・・,Xi(iは整数)の各々に関して、交通参加者80に対する車両の安全性を示す評価関数J(Xi)を評価し、(1)式に従って複数の経路Xiの中から、評価関数J(Xi)の値が最も大きい経路Xiを、車両70が交通参加者80に衝突する確率が最も小さくなる経路、すなわち、最も安全性が高い経路Xとして選択する。
ここで、逆危険確率算出部40は、特定の経路Xi上のN個の各経由点(x1,x2,・・・,xN)における車両70の安全性を評価する方法として、 逆危険確率モデル41を用いる。
逆危険確率モデル41には、大別して2つの確率モデルが含まれる。1つ目の確率モデルは、特定の経路Xi上の各経由点における、交通参加者80に対する車両70の衝突回避の度合い、すなわち、道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルであり、2つ目の確率モデルは、経路Xi上の各経路点間の移動の困難度合い、すなわち、車両70の運動状態(車両運動)を表す確率モデルである。
したがって、評価関数J(Xi)は、道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルを用いた評価値Ps(xi)と、車両運動を表す確率モデルを用いた評価値Pm(xi,xi+1)と、を含む(2)式によって表される。
ここで、wは各経路点間に対する評価値Pm(xi,xi+1)の重みである。
また、図10は、評価値Ps(xi)及び評価値Pm(xi,xi+1)の一例について具体的に説明した図である。例えば図10に示すように、評価値Ps(x1)は、経路Xi上の1つの経由点x1における車両70の安全性を示し、評価値Pm(xi,xi+1)は、車両70が経路Xi上のある経由点xiから次の経由点xi+1に移動する際の車両運動の妥当性を示す。
なお、本実施形態では、評価値Ps(xi)を、交通参加者の種別毎に算出した車両70の安全性を表す評価値に基づいて算出する。
評価値Ps(xi)に対応する道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルは、道路構造に関する危険度を表す逆危険確率モデル、又は、交通参加者に対する危険度を表す逆危険確率モデルによって表される。以下ではそれぞれの逆危険確率モデルについて説明する。
<道路構造に関する逆危険確率モデル>
車両70は、それぞれに割り当てられている通行帯を利用して移動するため、移動中の通行帯を逸脱し、他の交通参加者80に接近することは危険性を伴う行為となる。したがって、車両70は特別な事情がない場合、車線の中央部を走行する傾向が見られる。
しかし、路側帯に停車している他の車両や、路側帯を歩行している歩行者と衝突しないように、車両70が交通参加者80を回避する目的で走行中の車線の中央部から逸脱した経路を走行する場合もある。また、道路のカーブ部分においては、遠心力によって車両70が車線の中央部を逸脱する場合もある。
そこで、車両70が車線の中央部から逸脱して走行する際の危険度を表す確率モデルを含むように、道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルを構成することが好ましい。
また、車両70が走行している道路の道路幅が途中で狭くなる場合には、例えば縁石等の障害物を回避するための回避行動を取ると共に、車両70の速度を減速する傾向がある。したがって、車両70が通過する道路の道路幅と通過速度の関係性を表す確率モデルを含むように、道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルを構成することが好ましい。
したがって、逆危険確率算出部40は、道路構造に基づく逆危険確率モデルPlane(xi)を(3)式で規定する。
(3)式に示すように、逆危険確率モデルPlane(xi)は、道路の通行帯の中心線に対する車両70の逸脱量に伴う逆危険確率モデルProad(xi)と、道路幅に対する車両70の速度の適正度合いを表す逆危険確率モデルPvel(vi|wi)との積で構成される。ここで、wiは経路Xiが設定される道路の道路幅を表し、viは道路幅wiの道路を通過する車両70の速度を表す。
まず、図11を参照して、逆危険確率モデルProad(xi)の詳細について説明する。
図11は、道路における車両70の走行経路の一例を示した図であり、車両70の進行方向(x軸方向)に沿った車線の中心線72に対して、車両70の実際の走行経路が経路74で示されている。
中心線72からx軸と直交するy軸方向、すなわち道路幅方向に沿った各経路74までの距離を、中心線72に対する車両70の逸脱量として統計的に分析することで、図12のような車両70の逸脱量を示す分布の一例が得られる。車両70の逸脱量の分布は、(4)式に示すように、正規分布として近似することが可能である。
ここで、μroadは、車両70の逸脱量の平均値であり、σroadは車両70の逸脱量の分布における標準偏差である。また(4)式におけるxは、地点xiにおける車両70の逸脱量を表す。
したがって、逆危険確率分析部42は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130、及び運転行動データ130の世界測地系座標で表される車両70の座標点に対応した道路の高精度道路地図情報20から得られる、中心線72に対する車両70の逸脱量に対して、最小二乗法等の公知の数値解析を用いることで、車両70の逸脱量の分布における平均値μroad及び標準偏差σroadを算出する。
次に、図13及び図14を参照して、逆危険確率モデルPvel(vi|wi)の詳細について説明する。
図13は、道路幅の異なる領域における車両70の速度の傾向を説明する図である。図13に示すように、道路幅wAの領域Aにおける車両70の速度がvAであるのに対して、道路幅が道路幅wAより狭い領域B(wA>wB)では危険を回避するため、車両70は、領域Aにおける車両70の速度vAより遅い速度vBで通過する傾向が見られる。すなわち、車両70の速度viは、走行する道路の道路幅wiに応じて変化することがある。
図14は、車両70が通過した道路の道路幅と車両70の速度との関係の一例を示すグラフである。図14によれば、道路幅が狭くなるにつれて車両70の速度も低下する関係性が認められる。また、道路幅が広くなるにつれて車両70の速度は上昇するが、車両70の速度の上限は法定速度vreg以下に制限される関係性が認められる。
図14に示したグラフは、パラメータαとパラメータβによって形状が決定される(5)式に示すシグモイド関数μvel(wi)によって近似することができる。
したがって、逆危険確率分析部42は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130に含まれる車両速度と、高精度道路地図情報20に含まれる、当該車両速度で走行中の車両70の座標点に対応した道路の道路幅との分布に対して、最小二乗法等の公知の数値解析を用いることで、(5)式に示したシグモイド関数μvel(wi)のパラメータα及びパラメータβを算出する。
また、道路幅wiに対する車両70の速度viの適正度合いを表す逆危険確率モデルPvel(vi|wi)は、シグモイド関数μvel(wi)と、道路幅がwiである場合の速度viの標準偏差σvelとをパラメータとする、(6)式に示す正規分布として近似することが可能である。
したがって、逆危険確率分析部42は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130に含まれる車両速度と、高精度道路地図情報20に含まれる、当該車両速度で走行中の車両70の座標点に対応した道路の道路幅と、(5)式で示したシグモイド関数μvel(wi)と、によって得られる分布に対して、最小二乗法等の公知の数値解析を用いることで、標準偏差σvelを算出する。
<交通参加者に対する逆危険確率モデル>
車両70の経路計画において、経路74上に存在する交通参加者80との衝突を避ける目的で、交通参加者80の周辺における交通参加者80との衝突の可能性や危険度を表す確率モデルが用いられることがある。そして、車両70と交通参加者80との衝突確率を実際の運転行動データ130に基づいてモデル化する場合、衝突事例を含む運転行動データ130が必要になる。
しかし、日頃から事故を起こさないように安全運転を心掛けている運転者の運転行動データ130には、車両70が交通参加者80に衝突した際の各種センサ値が含まれないことが予想されるため、車両70と交通参加者80との衝突確率を直接計算することができないことがある。
したがって、逆危険確率分析部42では、運転行動データ130のうち、交通参加者80との衝突事例を含まない車両70の運転行動データのみから、交通参加者80に対する車両70の衝突回避性を表す逆危険確率モデルを生成する。
図15は、運転行動データ130から得られた、交通参加者80と衝突しないように交通参加者80を回避した車両70の経路74の一例を示す図である。そして、図16は、各経路74について、道路幅方向に沿った車両70から交通参加者80までの距離と、交通参加者80との間に確保した距離毎の車両70の走行頻度との関係を表す分布を示している。
図16に示すように、車両70の走行頻度は、例えば交通参加者80から一定の距離L0だけ離れた地点を最大値とする山形の分布で表される。すなわち、交通参加者80から道路幅の方向に距離L0だけ離れれば、交通参加者80を安全に回避することができると考える車両70の運転者が最も多いことがわかる。
しかし、図16に示す分布をそのまま車両70の安全性を表す確率分布モデルとして扱うと、実際には交通参加者80から離れるほど車両70の安全性が高くなるにも関わらず、距離L0を超えた地点の車両70の安全性が、距離L0における地点の車両70の安全性よりも低く評価されることになる。
したがって、図17に示すように、交通参加者80から見て、或る距離未満を通過した車両70がどの程度あるのかを表す累積確率分布を用いることで、交通参加者80から見て、より遠くの地点を通過する車両70の安全性ほど高く評価することができるようにする。図17に示す累積確率分布を車両70の安全性を表す確率分布モデルとして扱うことで、交通参加者80との衝突事例を含まない運転行動データ130から、交通参加者80に対する車両70の衝突回避性を表す逆危険確率モデルを生成することができる。すなわち、これまで交通参加者80との衝突事故を起こしたことのない車両70の運転者からも、運転行動データ130に基づいて、交通参加者80に対する逆危険確率モデルを生成することができる。
具体的には、運転行動データ130には、交通参加者80の種別を示す交通参加者種別番号と、車両70を基準にした交通参加者80までの距離である2次元相対位置情報が含まれる。したがって、逆危険確率分析部42は、交通参加者80の種別毎に、2次元相対位置情報に基づいて交通参加者80を基準とした車両70の相対位置を表す分布(図18参照)を生成する。
既に図16を用いて説明したように、交通参加者80に対する車両70の相対位置の分布は山形の分布として表されるため、当該分布は、2次元の正規分布に従った(7)式に示す条件付確率分布Pobs(O|x,y)として近似することが可能である。
ここで、条件付確率分布Pobs(O|x,y)は、図11のように道路に設定したxy座標系上の地点(x,y)に車両70がいる場合に、交通参加者Oが存在する確率を表す。また、Σは車両位置(x,y)の共分散行列を表し、σx及びσyは、それぞれx軸方向及びy軸方向における車両位置の標準偏差を表す。
したがって、逆危険確率分析部42は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130から得られる、交通参加者80を基準とした車両70の相対位置を表す分布に対して、最小二乗法等の公知の数値解析を用いることで、条件付確率分布Pobs(O|x,y)における共分散行列Σ、標準偏差σx、及び標準偏差σyを算出する。
そして、逆危険確率分析部42は、図17に示す累積確率分布を表す逆危険確率モデルPrisk(O|x,y)を(8)式を用いて算出する。
なお、逆危険確率分析部42は、条件付確率分布Pobs(O|x,y)を規定する共分散行列Σ、標準偏差σx、及び標準偏差σyを交通参加者80の種別毎に算出すると共に、逆危険確率モデルPrisk(O|x,y)についても交通参加者80の種別毎に算出する。
このように、道路の各地点における車両70の安全性を表す確率モデルを用いた評価値Ps(xi)は、道路構造に関する逆危険確率モデルPlane(xi)、或いは交通参加者80に対する危険度を表す逆危険確率モデルPrisk(O|x,y)に基づいて算出される。しかし、3次元レーザー距離センサによる距離の計測範囲内に交通参加者80が存在しない場合には、逆危険確率モデルPrisk(O|x,y)が得られないことになる。したがって、具体的には、評価値Ps(xi)は(9)式で表される。
なお、変数kは、交通参加者80の種別を示すインデックスである。
<車両運動を表す逆危険確率モデル>
これまでは、車両70の経路及び速度に基づいて生成した、道路の各地点における車両70の安全性を表す逆危険確率モデルについて説明してきた。
しかし、車両70の安全性を表す逆危険確率モデルのみから車両70の経路及び速度を計画した場合、計画された経路の走行可能性については評価されていないため、計画された経路を実際に走行しようとしても、例えば急ハンドル又は急ブレーキを伴う運転が必要となるような、物理的に走行不可能な経路が生成される場合がある。
したがって、(1)式に示したように評価関数J(Xi)には、車両70の安全性を表す逆危険確率モデルによって計画された経路が車両70にとって移動の困難性を伴わない妥当な車両運動であるかどうかを評価する評価値Pm(xi,xi+1)が含まれる。本実施形態では、評価値Pm(xi,xi+1)を(10)式及び(11)式によって算出する。
ここで、a(xi,xi+1)は、車両70が地点xiから地点xi+1に移動する際の加速度を表し、μacc及びσaccは、それぞれ移動の際の加速度の平均値及び標準偏差を表す。また、r(xi,xi+1)は、車両70が地点xiから地点xi+1に移動する際の角加速度を表し、μyaw及びσyawは、それぞれ移動の際の角加速度の平均値及び標準偏差を表す。
したがって、(10)式の第1項は、車両70が地点xiから地点xi+1に移動する際の加速度a(xi,xi+1)の妥当性を評価する項であり、第2項は、車両70が地点xiから地点xi+1に移動する際の角加速度r(xi,xi+1)の妥当性を評価する項である。
(10)式に示す評価値Pm(xi,xi+1)が従う逆危険確率モデルは、車両70の加速度及び角加速度の分布をそれぞれ正規分布で表したモデルであり、運転行動データ130に含まれる車両速度、3軸加速度、及び車両進行方向角等の値から、車両70がどのような加速度及び角加速度で走行しているかを正規分布に基づいて分析することで、車両70の安全性を表す逆危険確率モデルのみによって計画された経路を走行する車両運動が、車両70にとってどの程度ありふれた運動であるかを評価することができる。
そのため、逆危険確率分析部42は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130に含まれる車両速度、3軸加速度、及び車両進行方向角によって得られる加速度分布及び角加速度分布に対して、最小二乗法等の公知の数値解析を用いることで、平均値μacc、標準偏差σacc、平均値μyaw、及び標準偏差σyawを算出する。
そして、逆危険確率分析部42はそれぞれ算出した、(4)式で表される車両70の逸脱量の分布における平均値μroad及び標準偏差σroadと、(5)式で表される道路幅wiと車両70の速度viとの関係を表すシグモイド関数μvel(wi)のパラメータα及びパラメータβと、(6)式で表される道路幅wiに対する車両70の速度viの適正度合いを示す分布における標準偏差σvelと、(7)式で表される交通参加者80の種別毎に対する車両70の相対位置の分布Pobs(O|x,y)における共分散行列Σ、標準偏差σx、及び標準偏差σyと、(10)式で表される車両70の加速度分布における加速度の平均値μacc及び標準偏差σacc、並びに、車両70の角加速度分布における角加速度の平均値μyaw及び標準偏差σyawと、を逆危険確率パラメータ群として経路速度計画生成部50に出力する。
図19は、経路速度計画生成部50の構成例を示す図である。図19に示すように、経路速度計画生成部50は、危険度評価マップ生成部51及び最適経路生成アルゴリズム52を含む。そして、経路速度計画生成部50は、高精度道路地図情報20、運転行動データベース30、逆危険確率算出部40、及び車両制御部60とそれぞれ接続される。
危険度評価マップ生成部51は、運転行動データベース30から車両70が走行している位置を取得すると共に、当該位置に対応する走行道路の高精度道路地図情報20を取得し、取得した走行道路の高精度道路地図情報20から得られる道路地図上に車両70及び交通参加者80を配置する。なお、走行道路における交通参加者80の位置は、世界測地系座標で表される車両70の位置と、2次元相対位置情報とによって算出することができる。
そして、危険度評価マップ生成部51は、図20に示すように、車両70の進行方向に向かって、車両70の進行方向と直交する道路幅方向に沿った線分78を複数設定し、各々の線分78上に経路評価用のサンプリング点76を配置する。
更に、危険度評価マップ生成部51は、逆危険確率算出部40から逆危険確率パラメータ群を取得し、(9)式に基づいて、サンプリング点76で示される各々の地点に対して、交通参加者80に対する車両70の安全性を表す評価値Ps(xi)を設定した危険度評価マップを生成する。
最適経路生成アルゴリズム52は、危険度評価マップに配置された各線分78上のサンプリング点76の中から、線分78毎に1つのサンプリング点76を選択し、選択したサンプリング点76を車両70の進行方向に向かって順に接続することで、車両70の経路を生成する。
この際、最適経路生成アルゴリズム52は、(1)式で示したように、評価関数J(Xi)の値が最も大きくなるような経路を生成するサンプリング点76を選択する。したがって、サンプリング点76を選択する毎に、選択したサンプリング点76を経由点とする経路の評価関数J(Xi)の値を(2)式に基づいて計算する。
こうした経路決定方法は、事象から確率的に原因を推定するベイジアンネットワークと呼ばれるネットワークモデルとして扱うことが可能であるため、例えば確率伝搬法(Belief Propagation:BP)を用いて最適解を得ることができる。
そして、最適経路生成アルゴリズム52は、車両70の現在の運転行動データ130に基づいて、評価関数J(Xi)の値が最も大きくなるような経路(設定経路)に沿って車両70が走行するための走行経路データ列を生成する。
なお、危険度評価マップに配置する線分78及びサンプリング点76の配置密度に特に制限はないが、線分78及びサンプリング点76の配置密度を高くするにつれて、より多くの経路候補を評価することができるため、交通参加者80との衝突を回避する経路を精度よく生成することができる。
図21は、経路速度計画生成部50で生成される走行経路データ列の一例を示す図である。図21に示すように、走行経路データ列は、走行経路データ列を生成した時点からの時刻と、各時刻における車両70の目標速度と、その時の車両70の目標座標を含んで構成される。
図22は、車両制御部60の構成例を示す図である。車両制御部60は、目標加減速度計算部61、ブレーキ機構モデル62、ブレーキ制御システム63、アクセル機構モデル64、アクセル制御システム65、目標操舵角計算部66、操舵機構モデル67、及び操舵制御システム68を含む。
そして、車両制御部60は、経路速度計画生成部50で生成された走行経路データ列、及び運転行動データベース30に記憶される車両70の運転行動データ130を入力とし、走行経路データ列に従って車両70の速度及び進行方向を制御することで、車両70を設定経路に沿って走行させる。
具体的には、目標加減速度計算部61は、走行経路データ列に含まれる目標速度と、現在の車両70の運転行動データ130で示される車両速度との差分を逐次計算する。そして、目標加減速度計算部61は、当該差分に基づいて、車両70の速度を走行経路データ列に示された各時刻における目標速度に近づけるための調整量を逐次計算する。
計算した速度の調整量が、車両70を減速させる方向の調整量(制動調整量)であった場合、目標加減速度計算部61は、制動調整量をブレーキ機構モデル62に出力する。
ブレーキ機構モデル62は、制動調整量を目標加減速度計算部61から受け付けると、制動調整量に対応した制御指令値をブレーキ制御システム63に出力する。なお、制御指令値の表現形態に制限はなく、例えば電圧や波形パターン等を用いることができる。また、制動調整量と制御指令値との対応は車両70毎に異なるため、ブレーキ機構モデル62は、任意の制動調整量が与えられた場合に、当該制動調整量を実現するための制御指令値を算出するモデルとして構築しておくことが好ましい。
ブレーキ制御システム63は、ブレーキ等の制動装置を制御するシステムであり、ブレーキ機構モデル62から受け付けた制御指令値に応じた制御量で制動装置を制御し、車両70の速度を減速させる。
一方、目標加減速度計算部61で計算した速度の調整量が、車両70を加速させる方向の調整量(加速調整量)であった場合、目標加減速度計算部61は、加速調整量をアクセル機構モデル64に出力する。
アクセル機構モデル64は、加速調整量を目標加減速度計算部61から受け付けると、加速調整量に対応した制御指令値をアクセル制御システム65に出力する。なお、加速調整量と制御指令値との対応は車両70毎に異なるため、ブレーキ機構モデル62と同様にアクセル機構モデル64は、任意の加速調整量が与えられた場合に、当該加速調整量を実現するための制御指令値を算出するモデルとして構築しておくことが好ましい。
アクセル制御システム65は、アクセル等の加速装置を制御するシステムであり、アクセル機構モデル64から受け付けた制御指令値に応じた制御量で加速装置を制御し、車両70の速度を加速させる。なお、本実施形態に係る制動装置及び加速装置は、速度調整装置の一例である。
また、目標操舵角計算部66は、走行経路データ列に含まれる車両70の目標座標と、現在の車両70の運転行動データ130で示される車両70の座標点との差分を逐次計算する。そして、目標操舵角計算部66は、当該差分に基づいて、車両70の位置を走行経路データ列に示された各時刻における目標座標に近づけるためのハンドル調整量を逐次計算し、計算したハンドル調整量を操舵機構モデル67に出力する。
操舵機構モデル67は、ハンドル調整量を目標操舵角計算部66から受け付けると、ハンドル調整量に対応した制御指令値を操舵制御システム68に出力する。なお、ハンドル調整量と制御指令値との対応は車両70毎に異なるため、操舵機構モデル67は、任意のハンドル調整量が与えられた場合に、当該ハンドル調整量を実現するための制御指令値を算出するモデルとして構築しておくことが好ましい。
操舵制御システム68は、ハンドル等の操舵装置を制御するシステムであり、操舵機構モデル67から受け付けた制御指令値に応じた制御量で操舵装置を制御し、車両70の進行方向を変更する。
図23は、図1に示した運転支援装置1をコンピュータで実現するための構成の一例を示す図である。
図23に示すように、コンピュータ100は、CPU101、メモリ102及び不揮発性の記憶部103を含む。CPU101、メモリ102及び記憶部103は、バス104を介して互いに接続される。また、コンピュータ100は、通信装置106、入出力装置105、及び運転行動計測センサ群110とコンピュータ100とを接続するI/O(Input/Output)107を備え、I/O107はバス104に接続される。
ここで、入出力装置105は、例えばボタン及びスイッチ等の入力デバイス、スピーカー、並びに、液晶モニタ等の表示装置を含む。また、入出力装置105は、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)またはメモリカード等の記録媒体に記録されるプログラム等のデータを読み取る読み取り装置を含む。
通信装置106は、例えばインターネット等のネットワークに接続する通信プロトコルを含み、ネットワーク上の他の装置とコンピュータ100とを接続してデータ通信を行う。なお、通信装置106は、運転支援装置1に必ずしも必要な装置ではないが、例えばネットワーク経由で高精度道路地図情報20の更新等を行うことができるため、運転支援装置1は通信装置106を備えることが好ましい。
また、記憶部103は、フラッシュメモリまたはHDD(Hard Disk Drive)等によって実現される。
記憶部103には、コンピュータ100を図1に示す運転支援装置1として機能させるための運転支援プログラム140と、高精度道路地図情報20とが記憶される。CPU101は、運転支援プログラム140を記憶部103から読み出してメモリ102に展開し、メモリ102に展開された運転支援プログラム140を実行することで、コンピュータ100を図1に示す運転支援装置1として動作させる。また、CPU101は、高精度道路地図情報20を記憶部103から読み出してメモリ102に展開する。
なお、コンピュータ100は、例えば半導体集積回路、より詳しくはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で実現することも可能である。この場合、ソフトウエアで運転支援装置1の処理を実行する場合に比べて、運転支援装置1の処理速度を高速化することができる。
次に、車両70が交通参加者80を自動的に回避するための運転支援処理について説明する。運転支援処理は、逆危険確率パラメータ群算出処理と設定経路走行処理とに分類される。
なお、逆危険確率パラメータ群算出処理及び設定経路走行処理を開始するタイミングに制限はなく、例えば車両70のエンジン始動のタイミングで開始してもよいし、入出力装置105を介して車両70の運転者に指示されたタイミングで開始してもよい。
以下では、これまでの走行時に逐次収集した車両70の運転行動データ130を含む運転行動データベース30が、メモリ102に予め構築されているものとして説明を行う。
図24は、本実施形態に係る逆危険確率パラメータ群算出処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、ステップS100において、逆危険確率算出部40は、運転行動データベース30に記憶された車両70の運転行動データ130をメモリ102から取得する。取得する運転行動データ130の数に特に制限はないが、運転行動データ130の数が多くなるに従って、逆危険確率パラメータ群を精度よく算出することができるため、できるだけ多くの運転行動データ130を取得することが好ましい。
ステップS110において、逆危険確率算出部40は、ステップS100で取得した運転行動データ130の各々の世界測地系座標を参照し、当該世界測地系座標で表される車両70の位置に対応した各々の道路の高精度道路地図情報20をメモリ102から取得する。そして、逆危険確率算出部40は、運転行動データ130毎に、運転行動データ130によって示される車両70の位置に対応した道路の高精度道路地図情報20を対応づけて、例えばメモリ102に記憶する。
なお、本実施形態では、高精度道路地図情報20が予めメモリ102に記憶されている形態について説明しているが、例えば、高精度道路地図情報20を、通信装置106を介してネットワークに接続される地図情報サーバ等の他の装置から取得するようにしてもよい。
ステップS120において、逆危険確率算出部40は、ステップS110でメモリ102に記憶された各々の運転行動データ130、及び各々の運転行動データ130に対応付けられた高精度道路地図情報20を用いて、道路の中心線72に対する車両70の逸脱量の分布を生成し、当該分布に対して公知の数値解析を用いることで、(4)式における平均値μroad及び標準偏差σroadを算出する。
また、逆危険確率算出部40は、運転行動データ130、及び各々の運転行動データ130に対応付けられた高精度道路地図情報20を用いて、車両70の速度viと、速度viで走行中の道路の道路幅wiとの分布を生成し、当該分布に対して公知の数値解析を用いることで、(5)式におけるパラメータα及びパラメータβを算出する。
また、逆危険確率算出部40は、車両70が速度viで走行中の道路の道路幅wiと、算出したパラメータα及びパラメータβを用いて、(5)式に基づいてシグモイド関数μvel(wi)の値を計算する。そして、車両70の速度viと、シグモイド関数μvel(wi)とを用いて、道路幅wiに対する車両70の速度viの適正度合いを表す分布を生成し、当該分布に対して公知の数値解析を用いることで、(6)式における標準偏差σvelを算出する。
また、逆危険確率算出部40は、運転行動データ130、及び各々の運転行動データ130に対応付けられた高精度道路地図情報20を用いて、交通参加者80を基準とした車両70の相対位置を表す分布を生成し、当該分布に対して公知の数値解析を用いることで、(7)式における共分散行列Σ、標準偏差σx、及び標準偏差σyを算出する。
また、逆危険確率算出部40は、運転行動データ130に含まれる車両70の車両速度、3軸加速度、及び車両進行方向角を用いて、車両70の加速度分布及び角加速度分布を生成し、当該分布に対して公知の数値解析を用いることで、(10)式における車両70の加速度の平均値μacc及び標準偏差σacc、並びに、車両70の角加速度の平均値μyaw及び標準偏差σyawを算出する。
そして、逆危険確率算出部40は、算出した平均値μroad、標準偏差σroad、パラメータα、パラメータβ、標準偏差σvel、共分散行列Σ、標準偏差σx、標準偏差σy、平均値μacc、標準偏差σacc、平均値μyaw、及び標準偏差σyawを逆危険確率パラメータ群としてメモリ102に記憶する。
以上によって、図24に示した逆危険確率パラメータ群算出処理を終了する。
一方、図25は、本実施形態に係る設定経路走行処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下では、設定経路走行処理を実施するにあたり、例えば車両70の運転者が、入出力装置105を介して車両70の目的地の座標を予め設定しているものとして説明を行う。
まず、ステップS200において、経路速度計画生成部50は、運転行動データベース30に記憶された車両70の最新の運転行動データ130をメモリ102から取得する。
ステップS210において、経路速度計画生成部50は、ステップS200で取得した運転行動データ130の世界測地系座標を参照し、当該世界測地系座標で表される車両70の位置に対応した道路の高精度道路地図情報20をメモリ102から取得する。
ステップS220において、経路速度計画生成部50は、図24のステップS120でメモリ102に記憶された逆危険確率パラメータ群を取得する。
ステップS230において、経路速度計画生成部50は、ステップS200で取得した運転行動データ130から、車両70の位置と、交通参加者80の位置を求め、ステップS210で取得した高精度道路地図情報20で表される道路地図上に、車両70及び交通参加者80を配置する。
そして、経路速度計画生成部50は、車両70の進行方向に向かって線分78を予め定めた間隔で複数設定し、各々の線分78上に予め定めた間隔でサンプリング点76を配置する。なお、線分78の間隔及びサンプリング点76の間隔は等間隔である必要はなく、例えば交通参加者80の周辺では間隔をより短くする等、状況に応じて間隔を変化させるようにしてもよい。
経路速度計画生成部50は、ステップS200で取得した運転行動データ130の交通参加者種別番号及び2次元相対位置情報から、走行道路上に交通参加者80が存在するか否かを判断する。そして、経路速度計画生成部50は、交通参加者80の有無に応じた(9)式に示す何れかの評価値Ps(xi)の定義に従って、ステップS220で取得した逆危険確率パラメータ群、及び逆危険確率パラメータ群に含まれる各パラメータに対応した逆危険確率モデルを用いて、サンプリング点76で示される走行道路上の各地点に対する評価値Ps(xi)を算出して危険度評価マップを生成する。
ステップS240において、経路速度計画生成部50は、ステップS230で生成した危険度評価マップを用いて、車両70の進行方向に沿ってサンプリング点76を順次選択し、(2)式に基づいて、選択したサンプリング点76を接続して生成される経路の評価関数J(Xi)の値を計算し、評価関数J(Xi)の値が最も高くなるような経路を設定経路に設定する。
なお、経路速度計画生成部50が生成する設定経路は、現在の車両70の位置から目的地までの経路であっても、目的地の手前にある経由地点までの経路であってもよい。
ステップS250において、経路速度計画生成部50は、ステップS200で取得した運転行動データ130の車両速度、3軸加速度、車両進行方向角及び世界測地系座標を用いて、車両70が設定経路に沿って走行できるような走行経路データ列を生成し、メモリ102に記憶する。
ステップS260において、車両制御部60は、ステップS250で生成した走行経路データ列をメモリ102から取得し、走行経路データ列に含まれる目標速度と、ステップS200で取得した運転行動データ130で示される車両速度との差分、及び、走行経路データ列に含まれる車両70の目標座標と、ステップS200で取得した運転行動データ130で示される車両70の座標点との差分を計算する。
そして、車両制御部60は、各時刻における車両70の速度及び位置が、走行経路データ列に含まれる目標速度と目標座標に近づくように、車両70の制動装置、加速装置、及び操舵装置を制御する。
ステップS270において、車両制御部60は、最新の運転行動データ130を参照して、現在の車両70の位置が予め設定された目的地の座標と一致するか否かを判定し、否定判定の場合にはステップS200に移行する。そして、ステップS200で最新の運転行動データ130を取得して、ステップS200〜S270を繰り返すことで、危険度評価マップを逐次更新しながら、車両70の走行状況に合わせて設定経路を更新し、車両70の速度及び進行方向を制御する。
一方、ステップS270の判定処理が肯定判定の場合には、図25に示した設定経路走行処理を終了する。
このように、第1実施形態に係る運転支援装置1では、車両70の運転行動データ130を用いて、逆危険確率モデルに基づく逆危険確率パラメータ群を算出する。そして、運転支援装置1は、算出した逆危険確率パラメータ群を用いて、走行道路上の各地点における車両70の安全性を示した危険度評価マップを生成し、車両70にとって最も安全性が高くなるような経路を設定する。
したがって、運転支援装置1は、運転行動データ130に交通参加者80との衝突事例に対応するデータが含まれない場合であっても、交通参加者80との衝突事例に対応するデータが含まれない運転行動データ130から交通参加者80との衝突の危険性を表すことができる逆危険確率モデルを適用することによって、交通参加者80との衝突を回避する安全な経路を設定することができる。
また、本実施形態に係る運転支援装置1では、交通参加者80との衝突を回避する安全な経路を設定する際、車両70の加減速及び方向転換という車両70の物理的な運動を確率モデルで表現し、設定経路の計画に関わる要因を確率モデルとして統一的に扱う。
したがって、設定経路の計画にBP法に基づく確率場の最適化計算方法が適用できるようになり、試行錯誤的に設定経路を計画する場合と比較して、短時間に設定経路を計画することができる。
なお、本実施形態では、走行経路データ列に基づいて車両70の速度及び進行方向を自動的に制御する運転支援装置1の例を示したが、運転支援装置1が提供する運転支援の方法はこれに限られない。例えば、運転支援装置1は、生成した走行経路データ列に含まれる目標速度と、目標座標に対応した進行方向とを、例えば音声で時系列に沿って車両70の運転者に通知するようにしてもよい。この場合、車両70の運転者が車両制御部60に代わって、運転支援装置1から通知された目標速度及び進行方向となるように、車両70の制動装置、加速装置、及び操舵装置を制御する。
(第2実施形態)
第1実施形態では、設定経路に対応した走行経路データ列に基づいて、車両70の速度及び進行方向を自動的に制御する運転支援装置1の例を示したが、第2実施形態では、車両70が設定経路を走行するように運転者の運転を支援する運転支援装置1の例について説明する。
なお、第2実施形態に係る運転支援装置1(以降、特に断りがない限り「運転支援装置1」という)のブロック図は、図1に示した第1実施形態に係る運転支援装置1のブロック図と同じであり、運転支援装置1をコンピュータで実現するための構成例も、図23に示した第1実施形態に係る構成例と同じになる。
ただし、運転行動計測部10及び車両制御部60の機能が第1実施形態に係る運転支援装置1と一部相違するため、以下では、相違点を中心に説明を行う。
図26は、運転支援装置1の運転行動計測部10の構成例を示す図である。図26に示す運転行動計測部10の構成例が、図2に示した第1実施形態に係る運転支援装置1の運転行動計測部10の構成例と異なる点は、運転行動計測センサ群110にハンドル角センサ113、ブレーキペダル操作量センサ114、及びアクセルペダル操作量センサ115が追加され、CAN131でセンサデータ受信部121に接続される点である。
ハンドル角センサ113は、例えば車両70が直進するハンドル位置に対するハンドルの回転量を角度として出力するセンサである。
ブレーキペダル操作量センサ114は、ブレーキペダルの踏み込み量を計測するセンサであり、例えばブレーキペダルの踏み込み量が“0”であれば、運転者はブレーキをかけていない状態を示し、ブレーキペダルの踏み込み量が大きくなるにつれて、車両70の減速量が増加していることを示す。
アクセルペダル操作量センサ115は、アクセルペダルの踏み込み量を計測するセンサであり、例えばアクセルペダルの踏み込み量が“0”であれば、運転者はアクセルを踏んでいない状態を示し、アクセルペダルの踏み込み量が大きくなるにつれて、車両70の加速度が増加していることを示す。
したがって、運転行動計測部10は、図27に示すように、図3に示した第1実施形態に係る運転行動データ130に対して、ハンドル角、ブレーキペダル操作量、及びアクセルペダル操作量を追加した運転行動データ130を生成し、運転行動データベース30に格納する。
また、第2実施形態に係る車両制御部60の構成例は、図22に示した第1実施形態に係る車両制御部60の構成例と同じ構成を用いることができるが、目標加減速度計算部61及び目標操舵角計算部66の処理が異なる。
第2実施形態に係る目標加減速度計算部61(以降、特に断りがない限り「目標加減速度計算部61」という)は、走行経路データ列で示される目標速度と、運転行動データ130で示される車両速度との差分を計算する。車両速度が目標速度より遅い場合、目標加減速度計算部61は、車両70を目標速度で走行させるために必要なアクセルペダル操作量を算出し、運転行動データ130で示されるアクセルペダル操作量との差分(アクセル操作量差分)を算出する。そして、目標加減速度計算部61は、アクセル操作量差分に対応する加速調整量を計算し、アクセル機構モデル64に出力することで、車両70の速度を目標速度に近づける。
すなわち、運転支援装置1は、運転者のアクセルペダル操作によって得られる加速調整量に、アクセル操作量差分に対応した加速調整量を加える補正を行うことで、車両70の速度を走行経路データ列で示される目標速度に近づける運転支援を行う。
一方、車両速度が目標速度より速い場合、目標加減速度計算部61は、車両70を目標速度で走行させるために必要なブレーキペダル操作量を算出し、運転行動データ130で示されるブレーキペダル操作量との差分(ブレーキ操作量差分)を算出する。そして、目標加減速度計算部61は、ブレーキ操作量差分に対応する制動調整量を計算し、ブレーキ機構モデル62に出力することで、車両70の速度を目標速度に近づける。
すなわち、運転支援装置1は、運転者のブレーキペダル操作によって得られる制動調整量に、ブレーキ操作量差分に対応した制動調整量を加える補正を行うことで、車両70の速度を走行経路データ列で示される目標速度に近づける運転支援を行う。
また、第2実施形態に係る目標操舵角計算部66(以降、特に断りがない限り「目標操舵角計算部66」という)は、走行経路データ列で示される目標座標と、運転行動データ130で示される車両70の座標との差分を計算する。目標操舵角計算部66は、車両70を目標座標に向かって進行させるために必要なハンドル角を算出し、運転行動データ130で示されるハンドル角との差分(ハンドル操作量差分)を算出する。そして、目標操舵角計算部66は、ハンドル操作量差分に対応するハンドル調整量を計算し、操舵機構モデル67に出力することで、車両70の位置を目標座標に近づける。
すなわち、運転支援装置1は、運転者のハンドル操作によって得られるハンドル調整量に、ハンドル操作量差分に対応したハンドル調整量を加える補正を行うことで、車両70の位置を走行経路データ列で示される目標座標に近づける運転支援を行う。
なお、アクセルペダル操作量と加速度、ブレーキペダル操作量と減速量、及びハンドル角と車両70の進行方向との対応は、車両70の実機による実験や車両70の設計仕様に基づくコンピュータシミュレーション等により予め算出しておき、メモリ102に記憶しておけばよい。
次に、車両70が交通参加者80を自動的に回避するための運転支援処理について説明する。運転支援処理は、第1実施形態に係る運転支援処理と同様に、逆危険確率パラメータ群算出処理と設定経路走行処理とに分類される。
このうち、逆危険確率パラメータ群算出処理については、図24に示したフローチャートと同様の処理を行えばよい。
また、設定経路走行処理については、図25に示したフローチャートのステップS260の処理に変更を加えることで対応可能である。
具体的には、車両制御部60は、ステップS250で生成した走行経路データ列をメモリ102から取得し、走行経路データ列に含まれる目標速度と、ステップS200で取得した運転行動データ130で示される車両速度との差分、及び、走行経路データ列に含まれる車両70の目標座標と、ステップS200で取得した運転行動データ130で示される車両70の座標点との差分を計算する。
そして、車両速度が目標速度より遅い場合、車両制御部60は、運転行動データ130で示されるアクセルペダル操作量、及びアクセルペダル操作量と加速度との対応を示したテーブルに基づいて、アクセル操作量差分を算出し、目標速度に近づくように車両70の加速装置を制御する。
また、車両速度が目標速度より速い場合、車両制御部60は、運転行動データ130で示されるブレーキペダル操作量、及びブレーキペダル操作量と減速量との対応を示したテーブルに基づいて、ブレーキ操作量差分を算出し、目標速度に近づくように車両70の制動装置を制御する。
また、車両制御部60は、運転行動データ130で示されるハンドル角、及びハンドル角と車両70の進行方向との対応を示したテーブルに基づいて、ハンドル操作量差分を算出し、目標座標に近づくように車両70の操舵装置を制御する。
このように、第2実施形態に係る運転支援装置1では、運転者による車両70のアクセル操作、ブレーキ操作、及びハンドル操作をセンサで計測し、逆危険確率パラメータ群を用いて、走行道路上の各地点における車両70の安全性を示した危険度評価マップに基づいて設定された設定経路を車両70が走行するように、運転者の運転を補助することができる。
以上、各実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明は各実施形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で各実施形態に多様な変更又は改良を加えることができ、当該変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、本発明の要旨を逸脱しない範囲で図25に示した設定経路走行処理における処理の順序を変更してもよい。