以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態の一例に係る歯車伝動装置の構成を示す断面図、図2は図1の要部拡大断面図である。
歯車伝動装置G1は、振り分けタイプと称される偏心揺動型の歯車伝動装置で、内歯歯車10、一対の外歯歯車20(第1外歯歯車21、第2外歯歯車22)、一対の支持部材30(第1支持部材31、第2支持部材32)、一対の主軸受40(第1主軸受41、第2主軸受42)、一対のキャリヤ50(第1キャリヤ51、第2キャリヤ52)、およびクランクシャフト60を備えている。なお、便宜上、軸方向入力側(入力歯車96のある側)を第1、反入力側を第2と呼称して区別することがある。
内歯歯車10は、内歯部材13と内歯ピン14を備えている。内歯部材13は歯車伝動装置G1のケースの一部を構成している。内歯部材13の内周面には、キャリヤ50の軸心C50(以下、単に回転軸線C50と称す)に沿って延びる複数のピン溝15が設けられている。ピン溝15は、回転軸線C50の周りに等間隔に設けられている。ピン溝15内に内歯ピン14を配置することにより、内歯歯車10が形成されている。内歯ピン14は、円柱状であり、内歯歯車10の内歯に相当する。内歯部材13には、後述する連結ボルト94が挿通される中央貫通孔13Aが設けられている。
一対の外歯歯車20(第1外歯歯車21、第2外歯歯車22)は、内歯歯車10の歯数と異なる歯数を有すると共に、前記内歯歯車10と噛み合いながら偏心回転する。
一対の支持部材30(第1支持部材31、第2支持部材32)が、回転軸線C50方向において、内歯部材13の両側に配置されている。支持部材30は、キャリヤ50を回転可能に支持している。支持部材30は、歯車伝動装置G1のケースの一部を構成している。支持部材30の構成については、後に詳述する。
一対の主軸受40(第1主軸受41、第2主軸受42)が支持部材30とキャリヤ50の間に配置されている。つまり、キャリヤ50は、主軸受40によって、支持部材30に支持されている。主軸受40は、キャリヤ50が支持部材30に対してアキシャル方向およびラジアル方向に移動することを規制している。本歯車伝動装置G1では、主軸受40としてアンギュラ玉軸受が採用されている。
第1主軸受41は、第1外輪41A、第1内輪41B、および第1転動体41Cを備える。第2主軸受42は、第2外輪42A、第2内輪42B、および第2転動体42Cを備える。第1主軸受41の第1外輪41Aは、第1支持部材31が兼ねている。第2主軸受42の第2外輪42Aは、第2支持部材32が兼ねている。
より具体的には、第1支持部材31の内周面の内歯部材13側の端部に回転軸線C50に向かって第1外輪突出部31Aが突出している。第1外輪突出部31Aの曲線部31Bが第1主軸受41の(第1転動体41Cの)第1外輪転走面41Dを構成している。これにより、第1支持部材31の第1外輪突出部31Aが第1主軸受41の第1外輪41Aとして機能する。
同様に、第2支持部材32の内周面の内歯部材13側の端部に回転軸線C50に向かって第2外輪突出部32Aが突出している。第2外輪突出部32Aの曲線部32Bが第2主軸受42の(第2転動体42Cの)第2外輪転走面42Dを構成している。これにより、第2支持部材32の第2外輪突出部32Aが第2主軸受42の第2外輪42Aとして機能する。
一対の主軸受40の内輪(第1内輪41B、第2内輪42B)は、キャリヤ50が兼ねている。つまり、第1主軸受41の第1内輪41Bを第1キャリヤ51が兼ね、第2主軸受42の第2内輪42Bを第2キャリヤ52が兼ねている。
より具体的には、第1キャリヤ51は、径方向端部の内歯部材13側に第1内輪凹部51Aを有している。第1内輪凹部51Aの曲線部51Bが第1主軸受41の(第1転動体41Cの)第1内輪転走面41Fを構成している。これにより、第1キャリヤ51の第1内輪凹部51Aが第1主軸受41の第1内輪41Bとして機能する。
同様に、第2キャリヤ52は、径方向端部の内歯部材13側に第2内輪凹部52Aを有している。第2内輪凹部52Aの曲線部52Bが第2主軸受42の(第2転動体42Cの)第2内輪転走面42Fを構成している。これにより、第2キャリヤ52の第2内輪凹部52Aが第2主軸受42の第2内輪42Bとして機能する。
第1キャリヤ51の第1内輪転走面41Fは、第1支持部材31の第1外輪転走面41Dと、第1主軸受41の第1接触角に相当する角度だけ傾いた状態で対向し、「玉」で構成される第1主軸受41の第1転動体41Cと当接している。第1支持部材31、第1キャリヤ51、および第1転動体41Cによって第1主軸受41が構成されている。
また、第2キャリヤ52の第2内輪転走面42Fは、第2支持部材32の第2外輪転走面42Dと、第2主軸受42の第2接触角に相当する角度だけ傾いた状態で対向し、「玉」で構成される第2主軸受42の第2転動体42Cと当接している。第2支持部材32、第2キャリヤ52、および第2転動体42Cによって第2主軸受42が構成されている。
一対のキャリヤ50(第1キャリヤ51、第2キャリヤ52)は、支持部材30に主軸受40を介して支持されている。第1キャリヤ51と第2キャリヤ52は、間隔を置いて(外歯歯車20を挟んで)対向して配置されている。第2キャリヤ52は柱状部52Fを一体的に備えている。柱状部52Fは、第2キャリヤ52から第1キャリヤ51に向けて延びており、第1キャリヤ51にキャリヤボルト54を介して固定されている。第1キャリヤ51および第2キャリヤ52の径方向(回転軸線C50に直交する方向)の外側を囲うように、第1支持部材31および第2支持部材32が配置されている。
内歯部材13は、歯車伝動装置G1のケースの一部を構成している。第1支持部材31と第2支持部材32は内歯部材13と固定され、それぞれケースの一部を構成している。第1キャリヤ51と第2キャリヤ52は固定され、キャリヤ50を構成している。つまり、キャリヤ50は、主軸受40を介してケースに回転可能に支持されている。
クランクシャフト60は、外歯歯車20を揺動させる機能を有する。クランクシャフト60は、円筒ころ軸受で構成される一対のクランク軸受70(第1クランク軸受71、第2クランク軸受72)によってキャリヤ50に回転可能に支持されている。この歯車伝動装置G1においては、クランクシャフト60は3本、回転軸線C50の周りに等間隔に配置されている(図1では1本のみ図示)。クランクシャフト60は、入力歯車96と第1偏心体61および第2偏心体62を備えている。第1偏心体61および第2偏心体62の各々の偏心方向は、クランクシャフト60の回転軸C60に対して対称である。
第1偏心体61および第2偏心体62は、軸方向において、第1クランク軸受71および第2クランク軸受72の間に配置されている。入力歯車96は、第1クランク軸受71の軸方向外側に配置されている。
外歯歯車20は、一対の偏心体軸受80(第1偏心体軸受81、第2偏心体軸受82)を介してクランクシャフト60の第1偏心体61および第2偏心体62に係合している。外歯歯車20は、クランクシャフト60の回転に伴って、内歯歯車10と噛み合いながら偏心回転する。
各クランクシャフト60に設けられた計3個の入力歯車96には、モータのモータピニオン(共に図示省略)が同時に噛み合っている。つまり、モータの回転は、同時に同一の回転速度で3個の入力歯車96に伝達可能である。入力歯車96にモータのトルクが伝達されると、クランクシャフト60が回転軸C60の周りを回転する。クランクシャフト60が回転すると、第1、第2偏心体61、62が回転軸C60の周りを偏心回転する。第1、第2偏心体61、62の偏心回転に伴って、第1、第2外歯歯車21、22が内歯歯車10と噛み合いながら回転軸線C50の周りをそれぞれ偏心回転する。
外歯歯車20の歯数は、内歯歯車10の歯数(内歯ピン14の数)よりも僅かだけ(この例では2だけ)少ない。そのため、外歯歯車20が偏心回転すると、内歯歯車10と外歯歯車20との歯数差に応じて、内歯歯車10と外歯歯車20が相対的に回転する。
外歯歯車20は、クランクシャフト60を介してキャリヤ50に支持されている。内歯歯車10は、内歯部材13(ケースの一部)の内周に形成されている。よって、外歯歯車20が偏心回転すると、キャリヤ50がケースの一部である内歯部材13に対して相対回転する。なお、キャリヤ50が歯車伝動装置G1の出力部を構成している場合、キャリヤ50が回転軸線C50の周りを回転する。支持部材30(ケースの一部)が歯車伝動装置G1の出力部を構成している場合、ケースが回転軸線C50の周りを回転する。すなわち、回転軸線C50は、キャリヤ50の回転軸でもあり、ケースの回転軸でもある。
なお、前述したように、この歯車伝動装置G1では、支持部材30の内周面の内歯部材13側の端部に第1、第2外輪突出部31A、32Aが設けられている。第1、第2外輪突出部31A、32Aは、回転軸線C50の周りを一巡している。内歯ピン14が該第1、第2外輪突出部31A、32Aの間に配置されている。換言すると、内歯ピン14は、支持部材30に形成された第1、第2外輪突出部31A、32Aによって軸方向の移動が規制されている。
さらに、第1外輪突出部31Aの内歯部材13側の端面31Eは、第1外歯歯車21が回転軸線C50に対して最も外側に偏心した位置において該第1外歯歯車21と当接すると共に、第1外歯歯車21が最も内側に偏心した位置においても第1外歯歯車21と当接している。また、第2外輪突出部32Aの内歯部材13側の端面32Eは、第2外歯歯車22が回転軸線C50に対して最も外側に偏心した位置において該第2外歯歯車22と当接すると共に、第2外歯歯車22が最も内側に偏心した位置においても第2外歯歯車22と当接している。つまり、支持部材30の第1、第2外輪突出部31A、32Aの軸方向内歯部材13側の端面31E、32Eは、外歯歯車20の軸方向位置を規制する規制手段として機能している。
なお、符号97はオイルシールである。オイルシール97は、第2支持部材32と第2キャリヤ52との間から潤滑剤が歯車伝動装置G1の外部に漏出するのを防止している。
ここで、内歯部材13と支持部材30の構成についてより詳細に説明する。
本歯車伝動装置G1では、回転軸線C50方向において、内歯部材13の両側に一対の支持部材30(第1支持部材31、第2支持部材32)が配置されている。内歯部材13には中央貫通孔13Aが設けられている。第1支持部材31には第1貫通孔31Cが設けられている。第2支持部材32には第2貫通孔32Cが設けられている。
内歯部材13の中央貫通孔13Aと支持部材30の第1、第2貫通孔31C、32Cは、同心かつ同径であり、全体で内歯部材13および支持部材30を貫通する連通ボルト孔95を構成している。連通ボルト孔95には、内歯部材13と支持部材30を第1相手部材101に固定するための連結ボルト94が通過する。連通ボルト孔95は、回転軸線C50に沿って延在されると共に、該回転軸線C50の周りに複数設けられている。
内歯部材13と支持部材30は、連通ボルト孔95に挿通した連結ボルト94によって第1相手部材101に固定される。内歯部材13と支持部材30を固定することにより、歯車伝動装置G1のケースが完成する。
本歯車伝動装置G1では、連結ボルト94は、第1相手部材101に形成された雌ねじ101Aに直接ねじ込まれている。また、第2キャリヤ52が、タップ穴52Gを介して図示せぬ第2相手部材に連結される。
第1支持部材31の外周面31Dの外径R31Dと第2支持部材32の外周面32Dの外径R32Dは、同一である(R31D=R32D)。内歯部材13の外周面13Dの外径R13Dは、第1支持部材31の外周面31Dの外径R31D(=R32D)よりも大きい。
内歯部材13の径方向端部に回転軸線C50方向に延びる一対の位置決め突出部90(第1位置決め突出部91、第2位置決め突出部92)が設けられている。入力側(入力歯車96がある側)の第1位置決め突出部91は、第1支持部材31の外周面31Dの一部を囲むように延びており、第1支持部材31の外周面31Dに当接している。第1位置決め突出部91が第1支持部材31の外周面31Dに当接することにより、内歯部材13と第1支持部材31が位置決めされている。内歯部材13の第1位置決め突出部91の内周91Aは、内歯部材13と第1支持部材31の第1位置決め部を構成している。
出力側(入力歯車96がない側)の第2位置決め突出部92は、第2支持部材32の外周面32Dの一部を囲むように延びており、第2支持部材32の外周面32Dに当接している。第2位置決め突出部92が第2支持部材32の外周面32Dに当接することにより、内歯部材13と第2支持部材32が位置決めされている。内歯部材13の第2位置決め突出部92の内周92Aは、内歯部材13と第2支持部材32の第2位置決め部を構成している。
第1、第2位置決め突出部91、92の内周91A、92Aの回転軸線C50からの距離(半径)R91A、R92Aは等しい。この距離R91A、R92Aは、径方向において反回転軸線側に位置する連通ボルト孔95の外側端部(連通ボルト孔95の回転軸線C50から最も遠い点)95Aを結んだ円(各連通ボルト孔95の回転軸線C50に対する外接円)の半径R95Aよりも大きい(R91A=R92A>R95A)。すなわち、第1位置決め部および第2位置決め部は、径方向において連通ボルト孔95の反回転軸線側の外側端部95Aを結んだ円よりも径方向外側に設けられている。
もっとも、位置決め部は、必ずしもこの位置に設けられていなくてもよい。具体的には、内歯部材13と支持部材30との位置決め部は、連通ボルト孔95の回転軸線C50側に位置する連通ボルト孔95の内側端部(連通ボルト孔95の回転軸線C50から最も近い点)95Bに接する円(各連通ボルト孔95の回転軸線C50に対する内接円)よりも径方向外側であれば、任意の位置に設けることができる。
例えば、連通ボルト孔95間に位置決め部を設ける場合、回転軸線C50方向における内歯部材13側の端面13E1、13E2に支持部材30に向けて延びる突出部(図示略)を設け、さらにその突出部に対応する支持部材30側の端面31E、32Eに溝(図示略)を設け、突出部を溝に挿入してもよい。
ここで、本歯車伝動装置G1においては、連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの最外端94B1が、内歯部材13および支持部材30の「両方の」最外周13D1、31D1(=32D1)よりも内側に位置している。ここで、「連結ボルト94の頭部94Aの座面94B」とは、「連結ボルトの頭部が相手部材に当接し得る面の全体」、つまり、「頭部94Aにおいて、相手部材である第2支持部材32に対向する面であって第2支持部材32の被当接面32Fと当接する面と面一の部分」を指している。
この実施形態では、連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの最外端94B1は、内歯部材13の最外周13D1よりも内側に位置しており、かつ支持部材30の最外周31D1、32D1よりも内側に位置している。ここで、内歯部材13および支持部材30の最外周13D1、31D1、32D1とは、それぞれの外周面13D、31D1、32D1の中で最も外径が大きな部分のことである。また、連結ボルト94の座面94Bの最外端94B1とは、連結ボルト94の座面94Bにおいて、回転軸線C50から最も遠い点のことである。なお、連結ボルト94の座面94Bが円でない場合(例えば六角形の場合)は、この回転軸線C50から最も遠い点は、一義的には定まらず、連結ボルト94を締め終わったときの六角形の頂点の向き(締め付け位相)に依存することになる。しかし、ここでは、連結ボルトの座面が多角形の場合は、該多角形の頂点の外接円上において、回転軸線C50から最も遠い点と定義する。このように定義することによって、連結ボルト94の座面94Bのそのときの六角形の頂点の向きに関わらず(締め付け位相の如何に関わらず)、連結ボルト94の座面94Bの全て(全面)が、必ず最外周13D1、31D1、32D1よりも内側に位置することが担保される。
より具体的には、本歯車伝動装置G1では、回転軸線C50から連結ボルト94の座面94Bの最外端94B1までの距離はL94B1である。この距離L94B1は、内歯部材13の最外周13D1の径R13D1より小さく、かつ、支持部材30の最外周31D1(32D1)の径R31D1(R32D1)と同一である(R13D1>L94B1=R31D1=R32D1)。つまり、連結ボルト94の座面94Bの最外端94B1が、内歯部材13および支持部材30の両方の最外周13D1、31D1(32D1)よりも内側に位置している(この場合の内側の概念には同一径を含む)。
なお、本歯車伝動装置G1の構成は、該連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの全面が、該座面94Bが当接している部材である第2支持部材32の被当接面32Fに当接している構成、と捉えることもできる。
以下、本歯車伝動装置G1の利点を説明する。
本歯車伝動装置G1では、内歯部材13と支持部材30との位置決め部が連通ボルト孔95よりも径方向外側に設けられている。そのため、キャリヤ50から支持部材30に加わる力が、連通ボルト孔95よりも内側の内歯部材13に作用しにくい。つまり、この歯車伝動装置G1は、キャリヤ50から支持部材30に加わる力が内歯部材13の内周に設けられた内歯歯車10に直接作用しないため、内歯部材13の厚みを薄くすることができ、径方向のサイズを小さくすることができる。
ここで、本歯車伝動装置G1においては、連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの最外端94B1が、内歯部材13および支持部材30の両方の最外周13D1、31D1(32D1)よりも内側に位置している。このため、内歯部材13および一対の支持部材30(第1支持部材31、第2支持部材32)に対する拘束力は、連結ボルト94の座面94Bの全体から無駄なく内歯部材13および支持部材30側に与えられる。つまり、基本的に連結ボルト94の座面94Bにおいて締め付け応力のアンバランスが生じにくい。したがって、内歯部材13と支持部材30は、強固に拘束され、該連結ボルト94よりも径方向外側にある位置決め部を介してキャリヤ50から支持部材30に加わる力が内歯部材13の内周に設けられた内歯歯車10に直接作用するのをより効率的に遮断することができる。
とりわけ、この実施形態では、連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの最外端94B1が、内歯部材13および支持部材30の両方の最外周13D1、31D1(32D1)よりも内側に位置している。連結ボルト94は、頭部94Aの座面94Bの最外端94B1が内歯部材13および支持部材30の少なくとも一方の最外周13D1、または31D1(32D1)よりも内側に位置していれば、内歯部材13および支持部材30に対して良好な締め付け力を与えることができる。しかし、このように、連結ボルト94の座面94Bの最外端94B1が、内歯部材13および支持部材30の両方の最外周13D1、31D1(32D1)よりも内側に位置している場合には、より直接的に内歯部材13および支持部材30の双方に連結ボルト94の締め付け力を付与することができる。
さらに、この歯車伝動装置G1では、連結ボルト94は、第1相手部材101に形成された雌ねじ101Aに直接ねじ込まれている。そのため、第1相手部材101は、連結ボルト94に対してナットに相当する役割を果たしていることになる。この第1相手部材101は、支持部材側端面101E(支持部材30との当接面)が、軸方向から見たときに、連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの全面と重なっている。別言するならば、この歯車伝動装置G1においては、当該連結ボルト94が挿通される支持部材(第2支持部材32)に対して内歯部材13の反対側に位置する支持部材(第1支持部材31)が、該連結ボルト94に係合するナットに相当する部材(この例では第1相手部材101)が当接する当接面31Fを有し、かつ、この当接面31Fが、回転軸線C50方向から見て連結ボルト94の頭部94Aの座面94Bの全面と重なるスペースを連通ボルト孔95の周囲に有している。
そのため連結ボルト94は、自身の頭部94Aの座面94Bと(ナットに相当する)第1相手部材101の支持部材側端面101Eとの間で、内歯部材13と一対の支持部材30を極めて安定した状態で挟持することができ、内歯部材13および支持部材30に対してより一層確実な拘束力を与えることができる。
なお、本発明において、内歯部材と支持部材とを固定する連結ボルトとは、例えば本歯車伝動装置G1のように、内歯部材13と支持部材30の両者を相手部材(上記実施形態では第1相手部材101:歯車伝動装置G1を固定する部材、あるいは、歯車伝動装置G1が駆動する部材)に固定するボルトであってもよいし、内歯部材13と支持部材30のみを互いに固定するボルトであってもよい。連結ボルトが内歯部材13と支持部材30のみを互いに固定するボルトである場合には、第1相手部材101の雌ねじ101Aに代えて専用のナット(図示略)を当接させてもよいし、第1支持部材31自体に雌ねじを形成して連結ボルト94を直接第1支持部材31にねじ込んでもよい。この場合は、第1支持部材31がナットの機能を果たすことになる。なお、第1相手部材101は、例えば、内歯部材13あるいは第1支持部材31の外周に連結してもよい。
次に、図3を参照して本発明の実施形態の他の例に係る歯車伝動装置G2の構成を説明する。
本歯車伝動装置G2においては、内歯部材113の外径が、支持部材130(第1支持部材131、第2支持部材132)の外径よりも小さい。第1支持部材131の外径と第2支持部材132の外径は同一である。支持部材130の径方向端部に回転軸線C50方向の内歯部材113側に延びる一対の位置決め突出部190(第1位置決め突出部191、第2位置決め突出部192)が設けられている。位置決め突出部190は、内歯部材113の外周面113Dの両端を囲むように延びており、内歯部材113の外周面113Dに当接している。すなわち、一対の位置決め突出部190によって、内歯部材113の両端部が支持されている。位置決め突出部190が内歯部材113の外周面113Dに当接することにより、内歯部材113と支持部材130が位置決めされる。つまり、支持部材130の位置決め突出部190は、内歯部材113と支持部材130との位置決め部を構成している。
この実施形態においても、位置決め突出部190は、径方向において連通ボルト孔195の反回転軸線側の端部を結んだ円よりも径方向外側に設けられている。そして、連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bの最外端194B1が、内歯部材113および支持部材130の両方の最外周113D1、131D1(=132D1)よりも内側に位置している。ただし、本実施形態は、連結ボルト194は、該連結ボルト194の座面194Bよりも径の大きな座金98を、当該連結ボルト194と別体で有している。
本発明にあっては、(座金の有無に関わらず)連結ボルトの頭部の座面の最外端が、内歯部材および支持部材の少なくとも一方の最外周よりも内側に位置することを基本としている。この場合、連結ボルトの頭部の座面の最外端が、該座面が当接している部材(本歯車伝動装置G1では第2支持部材32)の最外周よりも内側に位置する(つまり、連結ボルトの頭部の座面の全面が、該座面が当接している部材の被当接面と完全に当接している)ことがより好ましい。
また、(座金の有無に関わらず)連結ボルトの頭部の座面の最外端が、内歯部材および支持部材の両方の最外周よりも内側に位置することがさらに好ましい。別言するならば、連結ボルトの頭部の座面の全面が、該座面が当接している部材(本歯車伝動装置G1では第2支持部材32)の被当接面と完全に当接しており、かつ軸方向から見たときに、連結ボルトの頭部の座面が当接していない部材(本歯車伝動装置G1では内歯部材13および第1支持部材31)と完全に重なっていることがさらに好ましい。
その一方で、本実施形態のように、連結ボルト194は、該連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bよりも径の大きな座金98を、連結ボルト194と別体(一体でも可)で有する場合がある。この場合は、連結ボルトの頭部の座面に代えて、座金の座面に関して同様の関係の構成となるのが、さらに好ましい。
具体的には、連結ボルト194が、該連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bよりも径の大きな座金98を、連結ボルト194と別体または一体で有する場合は、好ましくは、当該座金98の座面98Bの最外端98B1が、内歯部材113および支持部材130の少なくとも一方の最外周113D1または131D1(=132D1)よりも内側に位置するようにすると一層よい。この場合、座金98の座面98Bの最外端98B1が、当該座面98Bが当接している部材(本歯車伝動装置G1では第2支持部材32)の最外周132D1よりも内側にある(つまり、座金98の座面98Bの全面が、該座面98Bが当接している第2支持部材132の被当接面132Fと完全に当接している)ことがより好ましい。
ここで、座金98の座面98Bとは、「座金98が相手部材に当接し得る面の全体」、つまり、「座金98において、第2支持部材132に対向する面であって第2支持部材132の被当接面132Fと当接する面と面一の部分」を指している。座金98の座面98Bの最外端98B1とは、座金98の座面98Bにおいて、回転軸線C50から最も遠い点を指している。
そして、このように、連結ボルト194が、該連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bよりも径の大きな座金98を、連結ボルト194と別体または一体で有する場合は、座金98の座面98Bの最外端98B1が、内歯部材113および支持部材130の両方の最外周113D1、131D1、132D1よりも内側に位置することが最も好ましい。別言するならば、座金98の座面98Bの全面が、該座面98Bが当接している部材である第2支持部材132の被当接面132Fと完全に当接しており、かつ軸方向から見たときに、該座面98Bが当接していない部材である内歯部材113および第1支持部材131の両方とも完全に重なっていることが、最も好ましい。
本歯車伝動装置G2では、少なくとも連結ボルト194の頭部194Aの座面194B部分の最外端194B1は、内歯部材113および支持部材130の両方の最外周113D1、131D1(=132D1)よりも内側に位置している。
そして、本歯車伝動装置G2では、座金98の座面98Bの最外端98B1は、当接していない内歯部材113の最外周113D1よりは外側に位置しているものの、当接している部材である第2支持部材132の最外周(内歯部材113および支持部材130の一方の最外周)132D1よりは内側に位置している。別言するならば、座金98の座面98Bの全面が、該座面98Bが当接している部材である第2支持部材132の被当接面132Fと完全に当接している。
なお、当該座金の座面の最外端が、内歯部材および支持部材の両方の最外周よりも内側に位置するようにするならば、座金の座面の全面を無駄なく内歯部材と支持部材の拘束に寄与させることができる。
連結ボルト194の頭部194Aより径の大きな座金98は、連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bの面積を拡大し、締め付け面圧を低減させて支持部材130の被当接面132Fが損傷したりするのを防止する作用がある。つまり、連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bよりも大きな座面98Bを、内歯部材113と支持部材130の拘束に有効に活用することができる。また、座金98の配置により、連結ボルト194の頭部194Aの座面194Bと支持部材130の被当接面132Fとをなじませ、連結ボルト194の緩み止め効果を高めると共に潤滑剤の流出をより確実に防止できるようになるという作用も得られる。これらの作用は、本歯車伝動装置G2のように、強い締め付け力で内歯部材113および支持部材130を連結する必要がある用途にあっては、特に有効に機能する。
なお、連結ボルトの頭部より径の大きな座金を一体、または別体で有する場合も、連結ボルトのナットに相当する部材の座面が、軸方向から見て、当該座金の座面の全面と完全に重なっているように構成するのが好ましい。これにより、座金によって拡張された連結ボルトの機能を最大限に享受することができる。
その他の構成は、先の歯車伝動装置G1と同様であるため、先の歯車伝動装置G1と同一または機能的に同一の部位に同一または下2桁が同一の符号を付すことで、重複説明を省略する。
本歯車伝動装置G1(G2も同様)は、外歯歯車20が揺動しながら内歯歯車10に噛み合うため、支持部材30の振動等が内歯部材13にできるだけ伝達されないように、これまで説明してきたように、連結ボルト94による内歯部材13と支持部材30との拘束力を高く維持するのは重要である。
しかし、本歯車伝動装置G1は、支持部材30を内歯部材13の両側に有するため、各支持部材30に製造誤差があると、内歯部材13に極めて不安定な態様で微振動等が伝達されてしまうことになる。このような状態は、連結ボルト94による締め付けが緩んでしまう要因となり、ひいては歯車伝動装置G1自体の耐久性を低下させる要因ともなる。
そこで、既に説明した歯車伝動装置G1(G2も同様)においては、第1支持部材31と第2支持部材32の製造を以下のようにして行っている。
すなわち、図4に示されるように、先ず、内歯部材13の両側に配置される一対の支持部材30(第1、第2支持部材31、32)を軸方向に連結する(第1工程)。第1支持部材31と第2支持部材32は、各軸心を一致させた状態で、かつ内歯部材13を間に介在させない状態で、予め形成されていたノックピン孔36にノックピン37を打ち込んで両支持部材31、32を仮固定した後、連結手段38を介して軸方向に直に連結される。
次いで、この連結された状態のまま(同一のチャッキングを維持したまま)、第1支持部材31の曲線部31B(第1外輪転走面41D)および第2支持部材32の曲線部32B(第2外輪転走面42D)を仕上げ研磨する(第2工程)。
その後、第1支持部材31と第2支持部材32の連結を解除して、各支持部材31、32の間に内歯部材13を挟み、前記第1、第2工程時に連結されていたときの第1支持部材31と第2支持部材32の位相と同じ位相を保った上で、連結ボルト94を介して第1支持部材31および第2支持部材32を内歯部材13に連結する(第3工程)。
この第3工程を良好に実現するために、第1支持部材31および第2支持部材32には、第1、第2工程で連結されているときに(連結手段38による連結を解除する前に)、相互の周方向位置を記録するためのマーク39が付けられる。
すなわち、本歯車伝動装置G1の第1支持部材31および第2支持部材32は、相互の周方向位置を合わせるためのマーク39を有したものとなる。この例では、マーク39は、マーカーインクを第1、第2支持部材31、32を横断して付けたものとしている。しかし「マーク」の具体的形式や態様は問われない。例えば、ノックピン孔36自体を「マーク」として活用したものでもよい。この場合、内歯部材13にも図示せぬノックピン孔を設け、第1支持部材31、第2支持部材32、および内歯部材13に連通するノックピン(図示略)を打ち込めばよい。
そして、第3工程で、このマーク39を活用して第1支持部材31および第2支持部材32の周方向位置の位相を合わせる。
この結果、第1、第2工程によって、第1外輪転走面41Dと第2外輪転走面42Dは、回転軸線C50周りの位相に関して、真円からのずれや寸法上の誤差等の加工誤差の態様が類似する傾向を有して加工されることになる。つまり、加工誤差の態様が類似する部分同士が、同じ位相を保ったまま内歯部材13に連結されることになる。このため、第1主軸受41の第1転動体41Cと第2主軸受42の第2転動体42Cの挙動が揃うことになり、柱状部52Fを介して一体的に回転するキャリヤ50の挙動をより安定させることができる。
このため、連結ボルト94によって内歯部材13と支持部材30とが強固に連結されることと相まって、歯車伝動装置G1の減速作用をより円滑化させることができ、連結ボルト94の緩みを抑制して締め付けトルクを長期に亘って確実に維持し、歯車伝動装置G1(G2も同様)の耐久性をより向上させることができるようになる。
なお、本歯車伝動装置G1(G2も同様)では、支持部材30の第1外輪転走面41Dと第2外輪転走面42Dの軸方向間隔が、(内歯部材13の軸方向長さ+第1支持部材31の内歯部材13側の端面31Eから第1外輪転走面41Dまでの長さ+第2支持部材32の内歯部材13側の端面32Eから第2外輪転走面42Dまでの長さ)でリジッドに確定している。
また、キャリヤ50の第1内輪転走面41Fと第2内輪転走面42Fの軸方向間隔も、(柱状部52Fの軸方向長さ+第1キャリヤ51の第2キャリヤ52側の端面51Eから第1内輪転走面41Fまでの長さ+第2キャリヤ52の第1キャリヤ51側の端面52E(図1)から第2内輪転走面42Fまでの長さ)でリジッドに確定している。
そのため、(アンギュラ玉軸受である)主軸受40の予圧の調整が難しいという事情がある。一方で、この予圧の管理が適正でないと、主軸受40ががたついたり、円滑な回転ができなかったりする要因となる。
そこで、第1支持部材31と第2支持部材32を内歯部材13と連結する際には、予め軸方向長さが僅かに異なる複数の内歯部材13を用意しておき、この複数の内歯部材13の中から適正厚みの内歯部材13を適宜に選択した上で両側の支持部材30と連結するとよい。これにより、少ない部品点数で、より簡易に第1、第2主軸受41、42の予圧を同時に適正値に調整することができるようになる。したがって、これによっても歯車伝動装置G1の減速作用をより円滑化させることができ、連結ボルト94の緩みを抑制して締め付けトルクを長期に亘って確実に維持し、歯車伝動装置G1(G2も同様)の耐久性をより向上させることができるようになる。
なお、本発明では、支持部材と内歯部材とをより確実に固定することが可能となることから、必ずしも内歯部材の両側に支持部材を配置しなくてもよく、また、必ずしも振り分けタイプの偏心揺動型の歯車伝動装置としなくてもよい。
この2点についてより具体的に説明すると、先ず、本発明においては、(連結ボルト94による拘束力が強化されていることから)支持部材30は必ずしも内歯部材13の軸方向両側に存在する必要はない。例えば、上記歯車伝動装置G1における第1支持部材31および第1主軸受41を省略し、第2主軸受42として、クロスローラ軸受のようなアキシャル方向およびラジアル方向の双方の荷重を受け得る軸受を採用した上で、第1キャリヤ51を柱状部52Fを介して片持ち状態で第2キャリヤ52に連結・支持させるようにしてもよい。
また、本歯車伝動装置G1における第1支持部材31を省略してこの部分にまで内歯部材13を延在させ、第1キャリヤ51側だけを、(延在した)内歯部材13の内周との間に配置した第1主軸受41で支持する構成を採用してもよい。これらの歯車伝動装置にあっては、内歯部材13と第2支持部材32に相当する支持部材30との間のみに本発明が適用されることになる。
なお、軸方向のコンパクト性がより強く要求される場合等にあっては、例えば、第1支持部材31のみならず、第1主軸受41および第1キャリヤ51をそっくり省略し、クロスローラ軸受等を活用して第2キャリヤ52によって各部材を片持ち状態で支持させる構成を採用してもよい。
このように、特に支持部材が内歯部材の両側に存在しないときには、片側にしか存在しない支持部材と内歯部材との連結の強固性が一層重要になる。そのため、本発明のメリットが顕著となる。また、歯車伝動装置の径方向の寸法縮小に加えて、さらに回転軸線方向の寸法縮小をも意図した設計がより容易に行えるという相乗効果が得られるようになる。
次に、本発明に係る歯車伝動装置は、必ずしも振り分けタイプの偏心揺動型の歯車伝動装置で構成しなくてもよい。具体的には、例えば、本発明に係る歯車伝動装置は、入力軸としてのクランクシャフトをキャリヤの回転軸線上に1個のみ備え、キャリヤ側から一体的に突出させた柱状部を介して外歯歯車と内歯歯車の相対回転を取り出す、センタクランクタイプと称される偏心揺動型の歯車伝動装置をベースとして構成してもよい。
センタクランクタイプの偏心揺動型の歯車伝動装置の場合、例えば、第1キャリヤと第2キャリヤとを連結する両持ち型の柱状部を有するものであってもよいし、あるいは、第1支持部材、第1主軸受、および第1キャリヤを省略し、(第2)キャリヤ側から片持ち状態で突出させる片持ち型の柱状部を有するものであってもよい。このような第1支持部材、第1主軸受、および第1キャリヤを省略するタイプの場合は、(第2)主軸受として、クロスローラ軸受のようなアキシャル方向およびラジアル方向の双方の荷重を受け得る軸受を採用するとよい。このような構成のセンタクランクタイプの偏心揺動型の歯車伝動装置とした場合には、第1支持部材、第1主軸受、および第1キャリヤを全て省略することが可能となり、径方向だけでなく軸方向にも大きくコンパクト化した歯車伝動装置が得られる。