JP6653898B1 - 非侵襲的角膜又は強膜強化装置 - Google Patents

非侵襲的角膜又は強膜強化装置 Download PDF

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Abstract

【課題】従来の角膜クロスリンキングのように医療機関で一定時間拘束された状態で処置を受けなくても、角膜上皮を剥離せずに、日常生活の中での処置を可能にした、非侵襲で角膜又は強膜を強化する又は疾患進行を抑制する装置及び方法を提供する。【解決手段】角膜又は強膜組織を強化するために使用される投与剤を投与した眼に向けてバイオレットライトを照射する装置であって、前記眼の表面での前記バイオレットライトの放射照度が0.1〜1mW/cm2の範囲内であり、前記バイオレットライトを眼に照射する時間が一日あたり1〜5時間の範囲内であるように構成した非侵襲的角膜・強膜強化装置により上記課題を解決した。【選択図】図1

Description

本発明は、非侵襲的角膜・強膜強化装置及び方法に関し、さらに詳しくは、円錐角膜や他の角膜疾患の進行抑制治療である従来の角膜クロスリンキングを、医療機関で受けなくても、角膜上皮を剥離せずに、日常生活の中での処置を可能にした、非侵襲で角膜又は強膜を強化する又は疾患進行を抑制する装置及び方法に関する。
円錐角膜は、角膜の中央付近の厚みが薄くなり、角膜が円錐状に前方へ突出する進行性の疾患である。従来、そうした円錐角膜や他の角膜疾患(例えば、角膜屈折矯正手術後エクタジア、ペルーシド角膜変性症等)の進行を抑制する治療法として、角膜クロスリンキング(「CXL」と略す。)が提案され、高いエビデンスのもとで実施されている。しかし、このCXLは、リボフラビン点眼液を角膜実質に浸透させるために、通常、角膜上皮を手術で剥離する必要がある。手術は、侵襲が大きく、術後に疼痛や角膜感染性の合併症が起こるおそれがある。さらに、通常のCXLでは、患者は医療機関の手術室内に拘束された状態で光照射処置されるという不自由さがあるとともに、光照射の放射照度も高く、UVAによる眼合併症も危惧される。
従来のCXLについて、非特許文献1,2では、光増感リボフラビンをヒト等に適用し、眼を1cmの距離でUVA(波長370nm、放射照度3mW/cm)を30分間照射することが報告されている。また、非特許文献3では、光増感リボフラビンをウサギに適用し、眼を1cmの距離でUVA(波長370nm、放射照度3mW/cm)を30分間照射することが報告されている。また、非特許文献4では、光増感リボフラビンをモルモットに適用し、眼を2±3cmの一定距離でUVA(波長370nm、放射照度57mW/cm)を合計20分間照射することが報告されている。
Wollensak G, Spoerl E, Seiler T., Am.J.Ophthalmol., 2003 May;135(5):620-7. Gregor Wollensak, Eberhard Spoerl, Theo Seiler, J.CATARACT.REFRACT. SURG-VOL29,SEPTEMBER 2003. 1780-1785. Gregor Wollensak, Elena Iomdina, Dag-Daniel Dittert, Olga Salamatina and Gisela Stoltenburg,Acta Ophthalmol.Scand. 2005: 83: 477-482. Shuai Liu1, Shengjie Li1, Bingjie Wang1, Xiao Lin1, Yi Wu, Hong Liu1, Xiaomei Qu, Jinhui Dai, Xingtao Zhou, Hao Zhou, PLOS ONE,November 9,2016, 1-16.
本発明は、角膜上皮の剥離を伴うとともに高い放射照度でUVA照射する従来の侵襲的角膜クロスリンキング(CXLと略すことがある。)での課題を解決したものであって、その目的は、従来のCXLのように医療機関で一定時間拘束された状態で処置を受けなくても、角膜上皮を剥離せずに、日常生活の中での処置を可能にした、非侵襲で角膜又は強膜を強化する又は疾患進行を抑制する装置(本願では「非侵襲的角膜・強膜強化装置」という。)及び方法を提供することにある。
(1)本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置は、角膜又は強膜の組織を強化するために使用される投与剤を投与した眼に向けてバイオレットライトを照射する装置であって、前記眼の表面での前記バイオレットライトの放射照度が0.1〜1mW/cmの範囲内であり、前記バイオレットライトを眼に照射する時間が一日あたり1〜5時間の範囲内である、ことを特徴とする。
この発明によれば、角膜又は強膜の組織を強化するために使用される投与剤を投与した眼に向けてバイオレットライトを上記範囲内の低い放射照度で所定時間照射する装置によって、従来の角膜クロスリンキングと同等の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現する新しい治療技術を見いだした。この治療技術は、角膜組織だけではなく、強膜組織にも同様の効果を実現でき、しかも低い放射照度で照射するので、眼に対する影響を無くす又は極力小さくすることができる。さらに、低い放射照度のバイオレットライト光源を利用できるので、メガネ等の携帯型の照射装置とすることができ、医療機関で一定時間拘束された状態で処置することなく、日常生活の中で処置することができる。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、前記バイオレットライトが眼の方向に照射するように配置される顔前配置型の装置であって、光源付きメガネ、光源付き液晶ディスプレイ、電気スタンド、ハンディ光源、卓上載置型光源、パソコン・携帯端末装着型光源等の顔前配置型光源装置から選ばれる1又は2以上であることが好ましい。
この発明によれば、顔の前又は前方に配置されてバイオレットライトを眼の方向に照射する顔前配置型の装置であるので、上記した放射照度を所定の時間だけ眼に向けて照射することができる。特に日常生活で使用する種々の装置からバイオレットライトが発光するように構成することにより、日常生活での処置を実現することができる。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、前記投与剤の投与装置が、前記顔前配置型の装置と一体になっていることが好ましい。
この発明によれば、投与剤の投与装置が顔前配置型の装置と一体になっているので、コンパクトで携帯可能であり、対象者に負担を感じさせることなく処置することができる。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、前記投与剤が、点眼、眼軟膏、メガネフレームからの徐放、及び、コンタクトレンズからの徐放、から選ばれる1又は2以上によって眼に投与されることが好ましい。
この発明によれば、投与剤を容易に投与することができる。さらに、バイオレットライトを透過するコンタクトレンズを装用することにより、円錐角膜や他の角膜疾患(例えば、角膜エクタジア等)の病状進行を遅延・抑制させることができる。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、前記コンタクトレンズがバイオレットライトを透過する。なお、コンタクトレンズを透過するバイオレットライトの割合(透過率)は60〜100%であることが好ましい。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、前記投与剤の投与が、定期的又は連続的に行われることが好ましい。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、円錐角膜、又は、角膜エクタジア、角膜感染症、水泡性角膜症等、屈折異常眼等の他の角膜疾患、に適用することが好ましい 。
(2)本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置は、角膜又は強膜の組織を強化するために眼に向けてバイオレットライトを照射する装置であって、前記眼の表面での前記バイオレットライトの放射照度が0.1〜1mW/cmの範囲内であり、前記バイオレットライトを眼に照射する時間が一日あたり1〜5時間の範囲内である、ことを特徴とする。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置において、(a)前記バイオレットライトが眼の方向に照射するように配置される顔前配置型の装置であって、光源付きメガネ、光源付き液晶ディスプレイ、電気スタンド、ハンディ光源、卓上載置型光源、パソコン・携帯端末装着型光源等の顔前配置型光源装置から選ばれる1又は2以上である、(b)前記コンタクトレンズが、バイオレットライトを透過する、(c)円錐角膜、又は、角膜エクタジア、角膜感染症、水泡性角膜症等、屈折異常眼等の他の角膜疾患、に適用する、のいずれか1又は2以上であることが好ましい。
(3)本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化方法は、眼の表面でのバイオレットライトの放射照度を0.1〜1mW/cmの範囲内とし、前記バイオレットライトを眼に照射する時間を一日あたり1〜5時間の範囲内とすることができる非侵襲的角膜強膜強化装置を用い、当該非侵襲的角膜・強膜強化装置が備える前記バイオレットライトの照射が、眼に角膜又は強膜の組織を強化するために使用される投与剤を投与した後のタイミングで作動する、ことを特徴とする。
(4)本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化方法は、眼の表面でのバイオレットライトの放射照度を0.1〜1mW/cmの範囲内とし、前記バイオレットライトを眼に照射する時間を一日あたり1〜5時間の範囲内とすることができる非侵襲的角膜強膜強化装置を用いる、ことを特徴とする。
本発明によれば、従来の角膜クロスリンキングのように医療機関で一定時間拘束された状態で処置を受けなくても、角膜上皮を剥離せずに、日常生活の中での処置を可能にした非侵襲的角膜・強膜強化装置及び方法を提供することができる。
角膜組織の引張試験結果を示すグラフである。 強膜組織の引張試験結果を示すグラフである。 角膜組織・強膜組織のヤング率を示すグラフである。 本発明と従来法の概念図である。 投与剤ミスト噴霧装置一体型メガネの一例を示す写真である。 リボフラビン含有ソフトコンタクトレンズからの徐放量のグラフである。 豚眼角膜について実施した場合の引張試験結果を示すグラフである。 ヒト角膜の屈折力(D)の最大値の経時変化を示すグラフである。 眼鏡矯正視力(BSCVA)の経時変化を示すグラフである。 豚眼角膜について実施した場合の引張試験結果を示すグラフである。
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置及び方法について図面を参照しつつ説明する。本発明は、以下の実施形態及び実施例の内容に限定されず、本発明の要旨を包含する範囲で種々の変形例や応用例を含む。
[非侵襲的角膜・強膜強化装置]
本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置は、角膜又は強膜組織を強化するために使用される投与剤を投与した眼に向けてバイオレットライトを照射する装置であって、前記眼の表面での前記バイオレットライトの放射照度が0.1〜1mW/cmの範囲内であり、前記バイオレットライトを眼に照射する時間が一日あたり1〜5時間の範囲内であることを特徴とする。
この非侵襲的角膜・強膜強化装置は、角膜又は強膜組織を強化するために使用される投与剤を投与した眼に向けてバイオレットライトを上記範囲内の低い放射照度で所定時間照射する装置によって、従来の角膜クロスリンキングと同等の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現する新しい治療技術を見いだした。この治療技術は、角膜組織だけではなく、強膜組織にも同様の効果を実現でき、しかも低い放射照度で照射するので、眼に対する影響を無くす又は極力小さくすることができる。さらに、低い放射照度のバイオレットライト光源を利用できるので、メガネ等の携帯型の照射装置とすることができ、医療機関で一定時間拘束された状態で処置することなく、日常生活の中で処置することができる。
さらにその後の研究において、バイオレットライトを上記範囲内の低い放射照度で所定時間照射しただけでも、従来の角膜クロスリンキングと同等の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現できることが明らかになった。
以下、各構成要素を詳しく説明する。なお、本発明者は、この新技術を「ケラバイオ(KeraVio)」と呼ぶことがある。
(投与剤/光架橋剤)
投与剤は、眼に投与するものであり、投与後の光照射によって角膜組織又は強膜組織を強化するために使用される光架橋剤である。この投与剤は、後述するバイオレットライトの波長及び放射照度によって、角膜や強膜を構成するコラーゲン線維を架橋してコラーゲン組織を強化(架橋強化)する特性を有するものである。その特性を有するものであれば、その種類は、現在知られているものであっても今後開発されるものであってもよく、特に限定されない。そうした投与剤の例としては、補酵素型ビタミンB2であるフラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム(FAD:flavin adenine dinucleotide)を主成分とするもの、ベルテポルフィン(Verteporfin)、インドシアニングリーン(ICG)、シアノコバラミン(cyanocobalamin、ビタミンB12とも呼ばれる代表的なコバラミンの一種。)、等を挙げることができるが、これらに限定されない。
投与手段は各種の方法で行うことができ、特に限定されないが、例えば、点眼、眼軟膏、徐放性機能を有するメガネからの徐放、徐放性機能を有するコンタクトレンズからの徐放等を挙げることができる。これらの徐放手段により、投与剤を容易に眼に投与することができる。点眼及び眼軟膏は、投与剤を眼に直接投与する通常の手段である。徐放性機能を有するメガネからの徐放は、例えば図5に示す投与剤ミスト噴霧装置一体型メガネのように、メガネフレームに設けられたミスト噴霧装置から例えばミスト噴霧状にした投与剤を投与する手段である。徐放性機能を有するコンタクトレンズからの徐放は、投与剤を含浸させたコンタクトレンズを眼に装着させることにより、そのコンタクトレンズから徐々に投与剤が眼に投与されるものである。コンタクトレンズについては、後述するバイオレットライトを透過する徐放型コンタクトレンズであり、そうしたコンタクトレンズを適用して装用することにより、円錐角膜や他の角膜疾患(例えば角膜エクタジア等)の病状進行を効果的に遅延・抑制させることができる。
なかでも、徐放性機能を有するメガネや徐放性機能を有するコンタクトレンズは、投与剤の投与装置として機能し、広義又は狭義の顔前配置型の一体型装置ということができる。このような一体型装置とすることにより、コンパクトで携帯可能であり、対象者に負担を感じさせることなく処置することができる。なお、徐放性機能を有するコンタクトレンズでは、そのコンタクトレンズを透過するバイオレットライト(360〜400nmの範囲内の全部又は一部の波長光)の割合(透過率)は60〜100%であることが好ましい。全部とは360〜400nmの範囲内の全部であり、一部とはその範囲内の例えば365nmや375nmの波長のことである。
投与剤の投与は、定期的又は連続的に行われることが好ましい。点眼及び眼軟膏は、一定間隔又は不定期間隔で定期的に行われる。徐放性機能を有するメガネは、例えばメガネフレームに装着されたミスト噴霧装置を制御することにより、一定間隔又は不定期間隔で定期的に行ったり、連続的に行ったりすることができる。徐放性機能を有するコンタクトレンズは、その構成上、連続的に行うことができる。なお、「一定間隔や不定期間隔」についても、特に限定されず、求める強度の程度、生活パターン、投与手段、投与剤の種類、後述するバイオレットライトの照射強度、照射時間等の要素を考慮して任意に選択することができる。
投与時間は、1日の生活パターンで支障がない程度の時間長さであることが望ましい。本発明では、病院等の医療機関内で拘束された状態で処理されるものではなく、日常生活の中で行われるものであるので、通常の生活時間内であればよい。さほど負担に感じることはない時間としては、例えば1〜5時間程度である。連続的に徐放する場合、徐放機能付きメガネの場合はその時間内装着し、装着時間内でミスト噴霧量を調整して行えばよく、徐放性コンタクトレンズの場合もその時間内装着し、装着時間内に徐放させればよい。間欠的(一定間隔又は不定期間隔)に投与する場合、点眼及び眼軟膏の場合は例えば30分経過毎に点眼又は眼軟膏投与する等すればよいし、徐放機能付きメガネの場合は間欠制御によって一定時間毎にミスト噴霧させること等を行えばよい。
投与量及び投与剤の含有量についても、特に限定されず、求める強度の程度、生活パターン、投与手段、投与剤の種類、後述するバイオレットライトの照射強度、照射時間等の要素を考慮して任意に選択することができる。投与剤は、通常は水溶液であり、その含有量は水溶液に含まれる含有量のことである。なお、一例として、点眼液中及び眼軟膏中のビタミンB2の含有量は上市されている市販品と同じ又は略同じであればよく、例えば0.05%〜0.1%配合されていればよい。
投与剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を配合してもよい。その配合量も本発明の効果を阻害しない範囲であり、例えば0.005〜0.02質量%以下とすることができる。
(バイオレットライト)
バイオレットライトは、その波長及び放射照度によって、上記した投与剤を光反応させ、角膜や強膜を構成するコラーゲン線維を架橋してコラーゲン組織を強化させるように作用する。バイオレットライトとしては、360〜400nmの範囲内の波長の全部又は一部ということができるが、その投与剤との関係で好ましい波長が選択される。これらの全ての波長であってもよいし、その範囲内の特定のピーク波長であってもよく、特に限定されない。特に、370nmの波長が好ましいが、365〜380nmの範囲内にピークを有するバイオレットライトであれば好ましく用いることができる。本発明者は、このバイオレットライトを眼にかなり弱い放射照度(例えば従来の10分の1程度)で照射した場合であっても、所定の投与剤とともに併用することにより、角膜や強膜の強度が増すことができることを見いだした。
バイオレットライトの放射照度は、0.1〜1mW/cmの範囲内であることが好ましい。このような低い放射照度で照射することができるので、メガネ等の携帯型の照射装置とすることが可能となり、医療機関で一定時間拘束された状態で処置することなく、日常生活の中で処置することができる。放射照度は、投与剤の光架橋作用と関係するものであるので、そうした低い放射照度でも架橋反応が生じる投与剤と組み合わせて適用される。本発明では、低い放射照度で行うので、光架橋反応をゆっくり行うことができると考えられ、結果としてコラーゲン組織を強化しているので、コラーゲン線維の架橋をうまく行うことができていると考えられる。こうした技術により、従来の角膜クロスリンキングと同等又はそれ以上の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現することができた。この技術は、角膜組織だけではなく、強膜組織にも同様の効果を実現でき、しかも低い放射照度で照射するので、眼に対する影響を無くす又は極力小さくすることができる。
さらにその後の研究において、バイオレットライトを上記範囲内の低い放射照度で所定時間照射しただけでも、後述の実験例のように、従来の角膜クロスリンキングと同等の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現できることが明らかになった。
照射強度が0.1mW/cm未満では、光架橋反応が十分に起こらない可能性があり、角膜又は強膜の強化に長期間必要になることがあると考えられる。一方、照射強度が1mW/cmを超えると、従来よりも弱いものの、それでもやや強めであることから、携帯型の光源として容易に入手できないこともある等を考慮して、これを上限とすることが好ましい。
バイオレットライトの照射時間は、一日あたり1〜5時間の範囲内であることが好ましい。そうした光は、任意に間欠的(一定間隔又は不定期間隔)としたり、連続的としたりすることができる。一日あたり1〜5時間は、投与剤のところでも説明したように、1日の生活パターンで支障がない程度の時間長さである。本発明では、病院等の医療機関内で拘束された状態で処理されるものではなく、日常生活の中で行われるものであるので、通常の生活時間内で例えば1〜5時間程度であればよく、さほど負担に感じることはない。
バイオレットライトの照射装置としては、バイオレットライトが眼の方向に照射するように配置される顔前配置型の装置を好ましく挙げることができる。例としては、光源付きメガネ、光源付き液晶ディスプレイ、電気スタンド、ハンディ光源、卓上載置型光源、パソコン・携帯端末装着型光源等の顔前配置型光源装置から選ばれる1又は2以上であることが好ましい。こうした顔前配置型の装置は、上記した放射照度を所定の時間だけ眼に向けて照射することができるので、特に日常生活で使用する種々の装置からバイオレットライトが発光するように構成することにより、日常生活での処置を実現することができる。
(その他)
非侵襲的角膜・強膜強化装置には、各種の機能部品や部材を設けることができる。例えば、投与剤を一定時間毎に点眼又は眼軟膏投与することを知らせるための通知装置を備えてもよい。この通知は、スマートフォン又はタブレット端末アプリを介して行うことができる。
また、こうした非侵襲的角膜・強膜強化装置を用いた方法としては、眼の表面でのバイオレットライトの放射照度を0.1〜1mW/cmの範囲内とし、そのバイオレットライトを眼に照射する時間を一日あたり1〜5時間の範囲内とすることができる非侵襲的角膜強膜強化装置を用いたものであって、その非侵襲的角膜・強膜強化装置が備えるバイオレットライトの照射が、眼に角膜組織又は強膜組織の強化に使用される投与剤を投与した後のタイミングで作動するようにして実現できる。そうした作動タイミングは、予めコンピュータで任意に設定して作動させるものであり、任意に入力可能となるように構成されたものであることが好ましい。入力項目としては、バイオレットライトの放射照度、間欠的(一定間隔又は不定期間隔)か連続的か、照射時間、等を挙げることができる。また、ミスト噴霧機能を有する場合には、その投与時間、投与タイミング(間欠的(一定間隔又は不定期間隔)か連続的か)、投与量等を挙げることができる。
また、上記同様、その後の研究において、バイオレットライトを上記範囲内の低い放射照度で所定時間照射しただけでも、後述の実験例のように、従来の角膜クロスリンキングと同等の効果(円錐角膜や他の角膜疾患等の進行抑制)を実現できることが明らかになった。
以上説明したように、本発明に係る非侵襲的角膜・強膜強化装置は、従来の角膜クロスリンキングのように医療機関で一定時間拘束された状態で処置を受けなくても、角膜上皮を剥離せずに、日常生活の中での処置を可能にすることができる。対象とする眼疾患は、円錐角膜や、他の角膜疾患(角膜エクタジア、角膜感染症、水泡性角膜症、水泡性角膜症、屈折異常眼等)に適用することができる。
以下、実験例により本発明をさらに詳しく説明する。
[実験1]
家兎眼球を対象とし、FADを0.53mg/mL含有するFAD点眼液を用い、バイオレットライト照射による角膜・強膜組織の強度変化を測定した。バイオレットライトは波長375nmのLED(NITRIDE株式会社製、型名:フラッシュライト)を用い、その放射照度を310μW/cmとした。このバイオレットライトを1日3時間、その間は連続的に照射し、点眼はその3時間中に30分間隔で合計6回行った。合計の点眼量は、50〜60μgであった。
これを1週間(7日間)行った。全ての例で上皮剥離を行っていない。1週間経過した後、家兎の角膜・強膜組織を採取した。幅5mm、縦10mmの角膜・強膜組織ストリップを作成し、幅5mm、縦5mmの部分を引張試験機(TA.XTplus;Stable Micro Systems,U.K.)に固定した。0.029mm/secの速度で縦方向に牽引して引張強度を測定した。図1は角膜組織の引張試験の結果であり、図2は強膜組織の引張試験の結果である。図1及び図2のいずれも、符号aは本発明の実施結果であり、符号bはコントロールにおける結果である。なお、コントロール(図1の符号b、図2の符号b)として、点眼及び照射をしない角膜・強膜組織を用いた。
FAD点眼とバイオレットライト照射によって、角膜・強膜組織の強度の増大が認められた。また、図3に示すように、FAD点眼とバイオレットライト照射後はヤング率が増大していた。図3において、「Cornea」は角膜のことであり、「Sclera」は強膜のことである。また、実験前後で、細隙灯顕微鏡上、角膜、水晶体に変化は認められなかった。
[評価]
本発明のバイオレットライト放射照度は310μW/cmであり、従来法の3.0mW/cmの約10%であるため、UVAに伴う有害事象・副作用を回避することができた。図4は、従来法の角膜クロスリンキングと本発明の非侵襲的角膜・強膜強化装置の概念図である。本発明は、低放射照度で長い時間照射することで、従来法と同等の効果を有することがわかった。従来法は角膜上皮剥離を伴い、高放射照度で行うため比較的侵襲度が高いが、本発明は、顔前配置型装置からの照射が可能であるため、医療機関に拘束されることがなく、自己で治療を行うことができる。つまり、患者は、日常生活の中で治療を実践でき、多くの患者に利用できる機会を与えることが可能である。
また、従来法では角膜上皮を剥離する必要があり、侵襲的であったが、本発明では非剥離下で実施できるため、術後の疼痛、角膜感染症などの合併症を回避できるという利点がある。また、本発明は低侵襲であるため、従来法での慎重適応であった小児、アトピー、ダウン症、重症ドライアイに対しても適応でき、その範囲を拡大することができる。また、円錐角膜の多くはハードコンタクトレンズ(HCL)を装用して屈折矯正を行うため、従来法では術直後HCLの装用を禁止されて不便であるが、本発明では治療中でもHCLの装用が可能である。また徐放性メガネ又は徐放性コンタクトレンズを使用した場合には一定時間点眼をする手間が省ける。
[実験2]
実験2では、実際の装置を適用した。図5は、投与剤ミスト噴霧装置一体型メガネの一例を示す写真である。この投与剤ミスト噴霧装置一体型メガネでは、図5(B)に示すように、フレーム部分(テンプル部分)に装着した投与剤ミスト噴霧装置からミストを眼に向けて噴霧し、投与剤ミストを投与した。また、図5(A)に示すように、バイオレットライトの光源は、両側の上側フレーム部に装着されている。
[実験3]
実験3では、リボフラビン含有ソフトコンタクトレンズを用いた。図6(A)は、そのリボフラビン含有ソフトコンタクトレンズからの徐放量のグラフである。こうした徐放性能を有するコンタクトレンズを用いることにより、本発明を効果的に実施することができることがわかる。なお、図6(A)は、時間の経過とともにFAD成分が徐々に放出されていることがわかる。図6(B)は、リボフラビン含有ソフトコンタクトレンズの写真である。
[実験4]
実験4では、豚眼角膜について実施した。その引張試験結果を図7に示した。実験手段は、実験1と同じであり、対象を豚眼とした点だけ変更した。図7の符号aに示すように、FAD点眼とバイオレットライト照射によって、豚眼角膜組織の強度の増大が認められた(KeraVio)。図7の符号cに示すリボフラビン点眼による従来の角膜クロスリンキング法(Riboflavin)、図7の符号bに示すリボフラビン含有ソフトコンタクトレンズからの徐放とバイオレットライト照射による方法(Ribo releasing CL)でも角膜組織の強度の増大が認められた。なお、図7の符号dは、コントロールである。
[実験5]
実験5では、ヒト角膜を対象とした。それ以外は実験1と同様、FADを0.53mg/mL含有するFAD点眼液を用い、バイオレットライトを照射した。バイオレットライトは波長375nmのLED(NITRIDE株式会社製、型名:フラッシュライト)を用い、その放射照度を310μW/cmとした。このバイオレットライトを1日3時間、その間は連続的に照射し、点眼はその3時間中に30分間隔で合計6回行った。6回の合計の点眼量は、50〜60μgであった。
これを1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、それぞれの期間継続して行った。全ての例で上皮剥離を行っていない。それぞれの期間経過した後、屈折力及び眼鏡矯正視力を測定した。屈折力の測定は、前眼部解析装置(製品名:CASIA、株式会社トーメーコーポレーション製)を用いて測定した。また、眼鏡矯正視力は、視力表(ランドルト環)を用いて最高矯正視力(BSCVA)で評価した。
図8は、ヒト角膜の屈折力(D)の最大値の経時変化を示すグラフ(n=8)である。図9は、眼鏡矯正視力(BSCVA)の経時変化を示すグラフ(n=8)である。図8及び図9の結果より、FAD点眼とバイオレットライト照射によって、角膜の屈折力の維持と眼鏡矯正視力の維持又は改善とが認められた。グラフ中、折れ線グラフから上に延びる線は、標準偏差の範囲を示している。
[実験6]
実験6では、豚眼角膜を対象とした。実験条件と実験手段について、まずバイオレットライトは波長375nmのLED(NITRIDE株式会社製、型名:フラッシュライト)を用い、その放射照度を310μW/cmとした。このバイオレットライトを連続で4.8時間照射した。ここでは、角膜上皮剥離の有無、点眼薬の変化等、様々な条件での引張試験を行った。その引張試験結果を図10に示した。
図10において、符号aは、何も処理していない場合の結果である。符号bは、上皮剥離を行わず(Epi-on)にバイオレットライトを照射しただけの場合である。符号cは、従来方式の上皮剥離を行った(Epi-off)後、FAD点眼(実験1と同じ点眼条件)し、バイオレットライトを照射(放射照度310μW/cmを連続4.8時間)した場合である。符号dは、上皮剥離を行わず(Epi-on)にFAD点眼(実験1と同じ点眼条件)し、バイオレットライトを照射(放射照度310μW/cmを連続4.8時間)した場合である。符号eは、従来方式の上皮剥離を行った(Epi-off)後、シアノコバラミン点眼し、バイオレットライトを照射(放射照度310μW/cmを連続4.8時間)した場合である。なお、符号eの実験において、シアノコバラミン点眼は、シアノコバラミンを0.2mg/mL含有するシアノコバラミン点眼液(商品名:サンコバ点眼液)を用い、点眼はその3時間中に30分間隔で合計6回行った。合計の点眼量は、36〜60μgであった。
図10中の符号dに示すように、上皮剥離を行わずに、点眼液の投与とバイオレットライトの照射とを併用することにより、角膜組織の強度の増大が従来の侵襲手段と同程度に認められた。また、図10中の符号bに示すように、上皮剥離を行わず、かつ点眼液の投与を行わなくても、バイオレットライトの照射だけでも、角膜組織の強度の増大が従来手段と同程度に認められた。なお、図10中の符号c,eに示すように、来の侵襲手段ではあるが、点眼液として、FAD点眼液以外のサンコバ点眼液(シアノコバラミンは従来眼精疲労に使用されているものである。)でも、角膜強度を改善する薬剤として利用できることが確認できた。



Claims (6)

  1. 角膜又は強膜組織を強化するために使用される投与剤を投与した、角膜上皮を剥離しない眼に向けてバイオレットライトを照射する装置であって、前記投与剤を投与する投与装置と、前記眼の表面での前記バイオレットライトの放射照度を0.1〜1mW/cmの範囲内とし、前記バイオレットライトを前記眼に照射する時間が一日あたり1〜5時間の範囲内で照射する顔前配置型光源装置とが一体になっている、ことを特徴とする非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
  2. 前記バイオレットライトが前記眼の方向に照射するように配置される装置であって、光源付きメガネ、光源付き液晶ディスプレイ、電気スタンド、ハンディ光源、卓上載置型光源、及び、パソコン又は携帯端末装着型光源等の顔前配置型光源装置、から選ばれる1又は2以上である、請求項1に記載の非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
  3. 前記投与剤が、点眼、眼軟膏、メガネフレームからの徐放、及び、コンタクトレンズからの徐放、から選ばれる1又は2以上によって眼に投与される、請求項1又は2に記載の非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
  4. 前記コンタクトレンズが、バイオレットライトを透過する、請求項3に記載の非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
  5. 前記投与剤の投与が、定期的又は連続的に行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
  6. 円錐角膜、又は、角膜エクタジア、角膜感染症、水泡性角膜症等、屈折異常眼等の他の角膜疾患、に適用する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の非侵襲的角膜又は強膜強化装置。
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