配管同士の連結に用いられる管継手には、ねじ込み式のものや、溶接式のもの、形状記憶合金を利用したもの等、種々の形式があり、用途に応じて使い分けられている。
パッケージ型空調機など、蒸発器、凝縮器や圧縮機といった各機器の間を配管で接続して冷凍サイクルを形成し、前記蒸発器や凝縮器を空調空気との熱交換器として利用するタイプの空調設備においては、配管内部にフルオロカーボン系冷媒などの冷媒を気液間で相転移させながら循環流通させている。こうした空調設備に用いられる配管(冷媒配管)には、完全な気密性が要求されることは勿論、耐腐食性、耐圧性、加工の容易性といった化学的、物理的性質、冷媒の圧力損失を可能な限り小さくし得る機械的形状など、種々の特性が求められる。こういった特性を満足し得る素材として、従来、主に銅(特に、純度の高いリン脱酸銅)が用いられており、銅管と管継手(あるいは銅管同士)の接続は、ろう材を溶かして金属同士を接合するろう付け(ろう接)によって行われることが一般的である。しかし、近年では銅管の原料である銅の価格の高騰を受け、銅の代わりにより安価な素材であるアルミを採用することが検討されつつある。また、ろう接は高度な技術を要する職人的な作業であり、熟練した職人による施工人件費が高くつくことから、より簡易な接続方法を用いて接続の作業を省力化することもあわせて要望されている。
ここで、銅管をろう接する場合、溶加材としてはりん銅ろうや銀ろうがしばしば用いられいる。りん銅ろうや銀ろうは、接合の際に細い隙間へ浸透しやすく、ボイド(空洞)等の欠陥が発生しにくいことや、高い耐食性を有することに加え、融点が母材である銅と比較して十分に低いという点で、銅管のろう接に適している。すなわち、ろう接の際、管継手と管との間に溶加材を浸透させるためには、溶加材の温度を融点よりある程度高めに保つ必要があるところ、母材である銅の融点が1,085℃であるのに対し、りん銅ろうや銀ろうの融点は600℃〜800℃前後である。このため、ろう接温度を760℃〜850℃と、融点以上に高く保っても、母材である銅の溶融が起きる心配はない。一方、配管の材料にアルミを用いる場合には、母材であるアルミの融点が660℃と低く、これに対し溶加材として用いるアルミろうの融点は450℃〜590℃前後と、両者の融点が近い。このため、溶融したアルミろうを浸透させるべく温度を上げると母材も一緒に溶融しかねず、管に穴が開かないようにろう接することが難しい。このような問題は、接続に溶接を必要としない乾式のメカニカル継手を用いることで回避できる。
メカニカル継手の一種として、金属に圧力を加えて変形させる(かしめる)ことにより配管に圧着する、かしめ継手と呼ばれるものが知られており、水(冷水)を熱媒として利用するタイプの空調設備において、水を搬送する水配管の連結などに一部利用されている。
そうした水配管の場合と比較すると、上に説明したような冷凍サイクルを構成する空調設備の冷媒配管に対して継手を利用しようとする場合には、継手により高い性能が要求される。すなわち、5〜10MPaという高い圧力下で完全な気密性を実現することを求められるため、管と管継手の間をより強い力(かしめ力)で接続する必要がある。こうした要求に応え得るかしめ継手として、管を裏打ちするインサート部材を管内部に挿入し、該インサート部材により管を内側から支持して強いかしめ力に対応するタイプのかしめ継手がある。
図14、図15はそうしたかしめ継手の一例を示すもので、金属製の管1端部の内部に挿入されて該管1を内側から支持するインサート部材2、管1の端部に外側から覆うように嵌合し、かしめ力により密着して複数の管1同士を連結するかしめ継手の本体部品であるジョイント部材3、該ジョイント部材3を管1に対して圧着するためのナット4を備えてなる。インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4は、各種のサイズや形状、材質のものがあり、接続される管1の径や形状、材質に対応したものを選んで用いることができる。
インサート部材2は、図14(b)、図15(b)に示す如く、均等な円断面を有する略円筒形の本体部21と、該本体部21の外周の一端側に張り出した鍔部22を備えてなる金属製の部材であり、管1の内径に本体部21の外径が略一致するサイズのものを用いる。インサート部材2の素材としては、例えば高強度鋼が用いられる。
ジョイント部材3は、図14(c)、図15(c)に示す如く、複数の管1の間を連結し、該複数の管1を自身を介して連通する管体部30の両端に、管1とそれぞれ接続するための複数の管接続部34を備えてなる金属製の部材である。管接続部34は、管1に外嵌する略円筒形のスリーブ31と、該スリーブ31の基部側の外周に張り出した支点部32とを備え、さらにスリーブ31の内面の基部側には、該スリーブ31の内周に張り出すように段差部33が備えられている。スリーブ31の外周面には、先端から所定の範囲にわたってテーパ部31aが形成されている。スリーブ31は、テーパ部31aを除いた部分(基部側(支点部32側)の所定の範囲)においては略一定の外径をなしているが、テーパ部31aにおいては、該テーパ部31aの基部側端部を起点として基部側から先端に向かって外径が小さくなっている。このスリーブ31と、支点部32、段差部33とで、管接続部34を形成している。図14(c)、図15(c)では、短管状の管体部30の一端に管接続部34を備え、他端に該管接続部34と対称をなすよう別の管接続部34を備えた直管ニップル形状のジョイント部材3を例示しているが、この他にT字型やY字型の管体部に3つの管接続部を備えたものや、L字型の管体部に2つの管接続部を備えたもの、2つの管接続部をフレキシブル管の管体部で繋いだもの等、各種の形状のものを使用することができる。
管1との接続には、管1の外径にスリーブ31の内径が略一致するサイズのジョイント部材3を用いる。ジョイント部材3の素材としては、例えば、ある程度の展性を有する鋼鉄が用いられる。
ナット4は、図14(d)、図15(d)に示す如き略円筒形の金属部材であり、その内周面の一端側には、先端から所定の範囲にわたり、内径が先端に向かって大きくなるテーパ部4aが形成されている。接続にあたっては、該テーパ部4aを含む内周面のうち少なくとも一部の内径が、ジョイント部材3のスリーブ31の外周面のうち少なくとも一部の外径よりも小さいサイズのものを用いる。より具体的には、テーパ部4a以外の部分の内径がジョイント部材3のスリーブ31のテーパ部31a以外の部分の外径より僅かに小さいサイズのものを用いることが望ましく、さらに、テーパ部4aの先端部(内径の最も大きい部分)の内径が、スリーブ31のテーパ部31aの先端部(外径の最も小さい部分)の外径より大きいサイズのものを用いることがより望ましい。ナット4の素材としては、例えば高強度鋼が用いられる。
尚、アルミ等を素材とする管1と、鉄等を素材とするかしめ継手(インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4)とを接続する場合、異種金属同士の接触によるガルバニ腐食を防止するため、予め各部材同士の接触箇所の表面に絶縁皮膜を形成する塗装を行ってから接続作業を行うことが望ましい。
上記インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4を備えてなるかしめ継手は、インサート部材2の挿入された複数の管1の端部をナット4に通してからそれぞれジョイント部材3の管接続部34に挿入し、さらに専用のかしめ継手工具5でナット4をそれぞれジョイント部材3に対し軸線方向に押し付けることにより、ナット4の内周面で管接続部34、およびここに挿入された管1端部とインサート部材2を外側から締め付け、かしめ力により複数の管1同士を接続する。より具体的な手順については、後に詳述する。
かしめ継手工具5は、図16(a)に示す如く、ハンドル部50に電動油圧式の万力部51を備え、該万力部51には第一台座52と第二台座53を備える。接続作業にあたっては、図16(b)に示す如く、第一台座52に第一治具54を、第二台座53に第二治具55を装着して使用する。万力部51は、第一台座52と第二台座53に対し、互いが近づく向きに力を加えるようになっている。
第一治具54は、図17(a)に示す如く、第一台座52(図16(b)参照)に接続する脚部56と、ジョイント部材3を支持しながら該ジョイント部材3に対し力を加えるクランプ部57を備えてなる。該クランプ部57は、上面57aにジョイント部材3を載置する略半円筒状の第一支持溝58を備え、該第一支持溝58には、該第一支持溝58の内周に突出し、ジョイント部材3の支点部32を係止するための第一係止鍔59を備えている。第一係止鍔59は第一支持溝58の一端側に形成され、第一係止鍔59の一端面がクランプ部57の一方の端面57bと連続するように形成されている。脚部56は、クランプ部57の底面57cに備えられた二本の突出部であり、図16(b)に示す如く、第一台座52に備えた溝を挟みこむように嵌合するようになっている。
第二治具55は、図17(b)に示す如く、第二台座53(図16(b)参照)に接続する脚部60と、管1を支持しながらナット4に対し力を加えるクランプ部61を備えてなる。該クランプ部61は、上面61aに管1を載置する略半円筒状の第二支持溝62を備え、該第二支持溝62には、該第二支持溝62の内周に突出し、ナット4を係止するための第二係止鍔63を備えている。第二係止鍔63は第二支持溝62の一端側に形成され、第二係止鍔63の一端面がクランプ部61の一方の端面61bと連続するように形成されている。脚部60は、クランプ部61の底面61cに備えられた二本の突出部であり、図16(b)に示す如く、第二台座53に備えた溝を挟みこむように嵌合するようになっている。
第一治具54、第二治具55には、それぞれジョイント部材3のサイズや形状に応じた各種のサイズのものがあり、適したものを選んで用いることができる。第一治具54としては、第一支持溝58の内径がジョイント部材3の支点部32の外径以上且つナット4の外径以上の大きさであり、第一係止鍔59の内径がジョイント部材3の支点部32の外径未満且つ管体部30の外径以上の大きさのものを用いる。第二治具55としては、第二係止鍔63の内径がナット4の外径未満且つ管1の外径以上の大きさのものを用いる。
上記したかしめ継手工具5および第一治具54、第二治具55によるかしめ継手の接続の手順を、図18〜図22を参照しながら説明する。
まず、図18に示す如く、管1の端部にインサート部材2の本体部21を挿入する。上記したように、本体部21の外径は管1の内径に略一致し、且つ本体部21の外周の一端側には鍔部22が張り出しているため、この鍔部22が位置決めとなって、インサート部材2は本体部21を鍔部22の位置まで挿入したところで止まる。尚、管1の端部には、該管1を切断した際にバリが形成されていることが多く、インサート部材2を挿入する前にリーマ等によりバリ取りを行うと良い。
次に、図19に示す如く、インサート部材2を挿入した管1の端部をナット4に通してから、ジョイント部材3のスリーブ31の開口に挿入する。このとき、上記したように、スリーブ31の内径は管1の外径に略一致し、且つスリーブ31の内面の基部側には内周に張り出すように段差部33が備えられているため、この段差部33が位置決めとなって、インサート部材2を挿入した管1の端部は、該管1の端部に装着したインサート部材2の鍔部22が段差部33の端面に当接する位置で止まる。
尚、管1の端部をジョイント部材3のスリーブ31に挿入する際、ナット4は、テーパ部4a側がジョイント部材3側に向くようにして管1に通される。上記したように、テーパ部4aの先端部における内径は、ジョイント部材3のスリーブ31に形成されたテーパ部31a先端部の外径より大きいため、ナット4のテーパ部4aは、スリーブ31のテーパ部31aに外嵌する。しかし、ナット4のテーパ部4a以外の部分の内径は、スリーブ31のテーパ部31a以外の部分の外径より小さいので、ナット4は図19に示す如く、テーパ部4aでスリーブ31のテーパ部31aに係合したところで止まる。
このように、管1にかしめ継手(インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4)を取り付けたら、次に管1とかしめ継手をかしめ継手工具5にセットする。
かしめ継手工具5には、まず第一台座52に第一治具54の脚部56を、第二台座53に第二治具55の脚部60を装着する(図16(b)参照)。第一治具54および第二治具55としては、上記した通り、かしめ継手に適したサイズのものを選択する。
次に、図20に示す如く、かしめ継手工具5に装着した第一治具54および第二治具55上に、かしめ継手を取り付けた管1を配置する。管1を第二治具55の第二支持溝62の位置に配置し、ナット4は第二治具55の第二係止鍔63と第一治具54の第一係止鍔59の間に位置するように配置し、ジョイント部材3は、管体部30が第一治具54の第一係止鍔59上に位置し、支点部32が第一係止鍔59の直近に位置するように配置する。
この状態で、かしめ継手工具5の万力部51を作動させる。第一治具54を装着した第一台座52と、第二治具55を装着した第二台座53が互いに接近するように動作する。第一治具54は、第一支持溝58にジョイント部材3を支持しつつ第一係止鍔59が管1側の支点部32と当接し、第二治具55は、第二支持溝62に管1を支持しつつ第二係止鍔63がナット4の端部と当接する。さらに、第一治具54と第二治具55の動作に伴い、ナット4の第一治具54側(一端側)端部が、ジョイント部材3のスリーブ31の先端部に押し付けられる。
ここで、上記した通り、ナット4はテーパ部4aがスリーブ31のテーパ部31aに外嵌した状態であるが、ナット4とジョイント部材3とが互いに元の形状を保っている限り、スリーブ31がそれ以上ナット4の内側に嵌り込むことはない。しかし、万力部51の動作により、展性のある素材で構成されたジョイント部材3のスリーブ31は、高い強度を有するナット4に対して軸線方向に強い力で押し付けられ、その結果、ナット4の内周面から径方向内側に向かう力を受けて圧縮されるように変形し(かしめられ)ながら、ナット4の内側に潜り込んで行く。スリーブ31がナット4に深く潜り込むに従い、スリーブ31の変形が大きくなり、変形に対する反発力としてのかしめ力が増大し、この反発力は万力部51にトルクとなって伝わる。図21に示す如く、ナット4の第一治具54側端部がジョイント部材3の支点部32近傍に達し、増大した反発力によるトルクが所定値に達すると、万力部51において、図示しないトルクリリース機構が働いて万力部51による軸線方向の圧縮動作が停止する。停止後、さらに図示しない前記トルクリリース機構により第一台座52と第二台座53が離間するように動作し、元の位置まで戻る。以上の工程により、管1に対するかしめ継手の接続は完了する。
上記手順により管1とかしめ継手との接続が正常に完了したら、同様の工程により、ジョイント部材3のもう一方の管接続部34に対して別の管1を接続する。こうして、図22に示す如く、管1と別の管1が、2個のインサート部材2,2と、2個のナット4,4と、2つの管接続部34,34を備えた1個のジョイント部材3とからなるかしめ継手を介して連結される。
上記のようなかしめ継手と管1の接続の工程においては、展性を有する素材で構成されたジョイント部材3のスリーブ31がナット4の内周面から力を受けて圧縮変形し、管1の外周に食い込んでかしめ力を生じるが、それに伴い、スリーブ31の内側に位置する管1もスリーブ31の内周面から力を受け、径方向内側に圧縮変形する。変形した管1の内周は、さらに内側に位置するインサート部材2の外周面に強く押し付けられて径方向にかしめ力を生じる。インサート部材2は、上記したように均等な円断面を有する高強度鋼であり、管1から付加されるかしめ力に耐えうる十分な強度を有する。インサート部材2は外周面に押し付けられた管1を高い剛性で支持し、その結果、ジョイント部材3のスリーブ31と、管1、インサート部材2の間で、径方向に強い密着が生じる。
このようなかしめ継手を用いた接続構造には漏れがなく、また全体が金属で形成されているため、熱や温度変化、圧力に強い。したがって、空調設備の冷媒配管に用いる上で好適である。しかも、専用のかしめ継手工具を用いることで熟練を要することなく誰でも簡単に接続を行うことができ、作業の省力化、人件費の低減も見込める。
尚、こうしたかしめ継手に関する一般的技術水準を示す文献としては、例えば、下記特許文献1がある。
ところで、上記工程において、図20に示す如くかしめ継手を治具上にセットした状態では、第一治具54上に支持されているジョイント部材3に関しては、2つの支点部32,32の間に第一係止鍔59が嵌合した形になっている。一方、第二治具55の位置で支持されている管1に関しては、第二係止鍔63上に置かれただけの状態である。この状態でかしめ継手工具5の万力部51を作動させ、ジョイント部材3とナット4を互いに押し付けるように力をかけると、力のかかる方向と管1やかしめ継手の軸線方向が一致している場合は良いが、実際の接続作業では、図23や図24に示す如く、管1やかしめ継手が治具に対して傾斜するなどし、力のかかる方向が軸線方向とずれてしまうことが多い。
建築現場においては、複数の管1同士をかしめ継手を用いて接続するにあたり、施工作業の省力化、施工コストの低減、漏れのない確実な接続などの観点から、かしめ継手を使用する接続箇所の数は、可能な限り少なくすることが重要である。したがって、管1はなるべく長さを保った状態で接続するべきという前提があり、例えば、トラックによる搬送上の都合などで決まっている定尺長さ(直管で3m以上)のままで配管に用いられることが望ましい。そして、管1は長いほど撓みが発生しやすく、これを床上などの作業場所で水平に保持することは現実的に非常に難しい。また、スラブ下などに吊り下げられた状態の管1に対して接続作業を行う場合、管1は吊具によって吊られた部分ではある程度固定されているものの、空中にあって固定されていない端部は容易に揺動してしまう。搖動する管1端部に対し、重量のあるかしめ継手工具5を作業員が頭上へ持ち上げ、腕を伸ばして上方に保持し、上を向いた上向き作業の状態で、管1とかしめ継手を正しく定位置に配置したまま上記接続作業を行うことは困難を極める。
このように、建築現場において、上記のように管1同士をかしめ継手を介して接続しようとする場合には、管1やかしめ継手の治具に対するかしめ継手工具5の設置方向を正確に軸線方向に合わせにくい事情がある。そして、力のかかる方向が管1やかしめ継手の軸線方向とずれている場合、第一治具54上に支持されたジョイント部材3、または第二治具55上に支持された管1のいずれかが、第一支持溝58または第二支持溝62から逸脱しようとする。
すなわち、図23に示す如く、万力部51の作動により第一係止鍔59、第二係止鍔63を介してジョイント部材3の支点部32とナット4に力F,Fを加える際、管1と接続する側が相対的にかしめ継手工具5側(図中下)となるようにジョイント部材3が傾斜していると、該ジョイント部材3に対し、軸線方向の分力Fxの他に、該分力Fxと直交し第一支持溝58から外れる向き(図23中における上方)の分力Fyが発生し、ジョイント部材3が図中上方に押され、傾斜を深めながら第一支持溝58から逸脱しようとする。尚、図23に示すような向きに管1とかしめ継手が傾斜している場合には、ナット4側に発生する軸線方向と直交する向きの分力Fyは、ナット4を取り付けた管1を第二支持溝62に押し付ける向きに作用するため、管1が第二支持溝62から逸脱しようとすることはない。
同様に、図24に示す如く、万力部51の作動により支点部32とナット4に力F,Fを加える際、ジョイント部材3を取り付けた側が相対的にかしめ継手工具5側(図中下)となるように管1が傾斜していると、ナット4に対し、軸線方向の分力Fxの他に、該分力Fxと直交し第二支持溝62から外れる向き(図24中における上方)の分力Fyが発生し、ナット4を取り付けた管1が図中上方に押され、傾斜を深めながら第二支持溝62から逸脱しようとする。尚、図24に示すような向きに管1とかしめ継手が傾斜している場合には、ジョイント部材3側に発生する軸線方向と直交する向きの分力Fyは、ジョイント部材3を第一支持溝58に押し付ける向きに作用するため、管1が第一支持溝58から逸脱しようとすることはない。
ここで、ジョイント部材3が上記したように支点部32,32同士が近接して備えられた直管ニップル形状である場合、支点部32,32の間に第一係止鍔59が嵌合した形となる。このため、管1とかしめ継手が図23に示すような向きに傾斜し、ジョイント部材3が第一支持溝58から逸脱しようとすると、図25に示す如く、ジョイント部材3の傾斜が一定の大きさに達したところで他方の支点部32が第一係止鍔59に当接する。その結果、他方の支点部32に対して第一係止鍔59から力F'が加わり、ジョイント部材3を第一支持溝58へ向かって押し戻す方向の分力F'yが発生し、ジョイント部材3の逸脱をある程度抑止する作用が働く。
一方、管1は上記ジョイント部材3における支点部32のような構造を有しておらず、管1とかしめ継手が図24に示すような向きに傾斜し、管1が第二支持溝62から逸脱しようとした場合、これを押し戻す上記のような作用は働かない。このために、第一治具54と第二治具55が接近するにつれて管1の傾斜が徐々に深まり、また管1が第二支持溝62から逸脱していくという事態になりがちである。その際、管1の傾斜が大きければ大きいほど、万力部51から加えられる力Fの軸線方向の分力Fxは小さくなるし、また軸線と直交する向きの分力Fyが大きくなることでジョイント部材3に挿入された管1が正しい位置からずれてしまうおそれも生じ、管1とかしめ継手を正しく接続することがますます困難になる。
また、傾斜の角度や向き(図23、図25参照)によって管1の逸脱が発生しない場合であっても、万力部51の作動によって軸線と直交する向きに発生する分力Fyは、ナット4をジョイント部材3のスリーブ31に対し径方向に押し付けるように作用する。結果として、ナット4の内周面からスリーブ31の外周面に対して加えられる力が偏ることになる。傾斜の角度が十分に小さい場合には問題とならないが、角度が大きい場合には軸線と直交する向きに発生する分力Fyも大きくなるので、展性のある素材で構成されたスリーブ31は、上記のように高強度鋼などの硬い材質で構成されたナット4により不均等に偏心圧縮され、ナット4がスリーブ31に噛みこんでしまうという事態が起こり得る。
このように、上記したような管とかしめ継手の接続工程において、治具上に支持された管がかしめ継手工具の作動の際に治具から逸脱しやすく、不安定であるという問題があった。同時に、管やかしめ継手の傾斜に伴い、ジョイント部材のスリーブがナットにより偏って圧縮されてしまう問題もあった。
本発明は上述の実情に鑑み、簡単な構造で管の逸脱を防止し得るかしめ継手用治具の管逸脱防止構造を提供しようとするものである。
本発明は、複数の金属製の管と連通する管体部の各端部に、前記管の端部が各々挿入されるスリーブと、該スリーブの基部側の外周に張り出した支点部を備えた金属製のジョイント部材に対し、内周面のうち少なくとも一部が、前記スリーブの外周面のうち少なくとも一部の外径よりも小さい内径を有するナットを軸線方向に押し付けて、該ナットを介し前記スリーブを径方向内側に圧縮変形させることで前記管に前記ジョイント部材を接続するかしめ継手用治具の管逸脱防止構造であって、
前記ジョイント部材の前記管体部を内周面に突出した第一係止鍔に載置して支持する第一支持溝を上面に配し、前記第一係止鍔の側面により前記支点部に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部を備えた第一治具と、
前記管を内周面に突出した第二係止鍔に載置して支持する第二支持溝を上面に配し、前記第二係止鍔の側面により前記ナットに対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部を備えた第二治具とを備え、
前記第二治具には、該第二治具のクランプ部の前記第二支持溝側方に固定された支持体と、該支持体により該支持体に対し回転可能に支持されて前記第二支持溝に浮いて配置された前記管の少なくとも一部を覆うように開閉可能な蓋体を備えたことを特徴とするかしめ継手用治具の管逸脱防止構造にかかるものである。
而して、このようにすれば、簡単な構造でかしめ継手工具の作動中に前記管が前記第二支持溝から逸脱することを防止し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造を具体的に実施するにあたり、前記支持体は、前記第二治具のクランプ部の前記第二支持溝側方側面に取り付けられた固定板であり、前記蓋体は、前記固定板に対して回転可能に取り付けられて前記第二支持溝の少なくとも一部を覆うように前記第二治具のクランプ部上面で開閉するよう構成された開閉板とすることができ、このようにすれば、極めて簡単な構造により前記管の前記第二支持溝からの逸脱を防止し得、また、既存の治具に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記開閉板を前記第二治具のクランプ部上面に対し付勢する付勢手段を備えることが好ましく、このようにすれば、簡単な構造により前記開閉板を適切な力で前記第二治具のクランプ部上面に固定し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記開閉板が前記第二治具のクランプ部上面に対し開いた状態となったことを検知し、作業者に通知するよう構成された開放検知手段を備えることが好ましく、このようにすれば、管やかしめ継手の目視が不完全であったとしても、接続作業を適切に行うことを容易にし得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記開閉板を前記第二治具のクランプ部上面に対し着脱可能に固定する固定手段を備えることが好ましく、このようにすれば、簡単な構造により前記開閉板を適切な力で前記第二治具のクランプ部上面に固定し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記第二支持溝の内周面に、前記管を支持する緩衝材を備えることが好ましく、このようにすれば、前記管を前記第二支持溝に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造を具体的に実施するにあたり、前記支持体は、前記第二支持溝の内周面に沿って備えられた支持鞘とし、前記蓋体は、前記支持鞘が前記第二支持溝の内周面に沿って形成する空間に収納され、前記支持鞘に対し円周方向にスライドするように出し入れ可能に支持されて、前記第二支持溝に載置された前記管の少なくとも一部を覆うように開閉する管カバーとすることができ、このようにすれば、極めて簡単な構造により前記管の前記第二支持溝からの逸脱を防止し得、また、既存の治具に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記支持鞘の内周面の径が、前記第二係止鍔の内周面の径と略一致することが好ましく、このようにすれば、前記管を前記第二支持溝に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記支持鞘と、該支持鞘から引き出した前記管カバーにより構成される内周面の径が、前記管の外径と略一致することが好ましく、このようにすれば、前記管の前記第二支持溝からの逸脱をより効果的に防止し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造を具体的に実施するにあたって、前記支持体は、前記第二支持溝の内周面に沿って突出する支持レールとし、前記蓋体は、軸線方向の両端において前記支持レールに挟持され、該支持レールに対し円周方向にスライド可能に支持されて、前記第二支持溝に載置された前記管の少なくとも一部を覆うように開閉する管カバーとすることができ、このようにすれば、極めて簡単な構造により前記管の前記第二支持溝からの逸脱を防止し得、また、既存の治具に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記支持レールの内周面の径が、前記第二係止鍔の内周面の径と略一致することが好ましく、このようにすれば、前記管を前記第二支持溝に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造においては、前記支持レールと、該支持レールから引き出した前記管カバーにより構成される内周面の径が、前記管の外径と略一致することが好ましく、このようにすれば、前記管の前記第二支持溝からの逸脱をより効果的に防止し得る。
本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造によれば、簡単な構造で管の逸脱を防止し得るという優れた効果を奏し得る。
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1、図2は本発明の実施によるかしめ継手用治具の管逸脱防止構造の一例(第一実施例)を示すものである。管1および該管1同士の連結に用いるかしめ継手(インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4)、かしめ継手工具5、第一治具54の構成は上記従来例(図14〜図17参照)と同様であるが、本第一実施例の場合、図1に示す如く、第二治具70に管逸脱防止構造71を備えた点に特徴がある。
本第一実施例の第二治具70は、上記従来例の第二治具55と基本的に同様の構成を有しており、第二台座53(図3、図16(a)参照)に接続する脚部72と、管1を支持しながらナット4に対し力を加えるクランプ部73を備えてなる。該クランプ部73は、上面73aに管1を載置する略半円筒状の第二支持溝74を備え、該第二支持溝74には、該第二支持溝74の内周に突出し、ナット4を係止するための第二係止鍔75を備えている。第二係止鍔75は第二支持溝74の一端側に形成され、第二係止鍔75の一端面がクランプ部73の端面73bと連続するように形成されている。脚部72は、クランプ部73の底面73cに備えられた二本の突出部であり、図3に示す如く、第二台座53に備えた溝を挟みこむように嵌合するようになっている。
本第一実施例の管逸脱防止構造71は、図1に示す如く、第二治具70のクランプ部73の側面73dに固定される支持体としての固定板76と、該固定板76に対し回転機構77を介して開閉可能に支持された蓋体としての開閉板78を備えてなる。回転機構77は、例えば図2に示す如く、固定板76の一端と開閉板78の一端を回転軸79を中心に回転可能に接続した公知の蝶番機構である。開閉板78は、図1に示す如く、クランプ部73の上面73aで開閉し、該上面73aに備えられた第二支持溝74の一部を覆うように配置されるが、このとき、上面73aに対し、回転機構77に備えた付勢手段80によって付勢される。付勢手段80は、例えば、弦巻ばねや板ばね等の弾性体である。図2では付勢手段80として弦巻ばねを備えた場合を例示しており、付勢手段(弦巻ばね)80の一端を固定板76に、他端を開閉板78にそれぞれ溶接し、前記一端と他端が互いに周方向に接近する向きに付勢することで、固定板76と開閉板78が閉じる方向に付勢するようにしている。
開閉板78と上面73aが接触する部分のうち所定位置には固定手段81が設けられており、上面73aに対し開閉板78が固定手段81により着脱可能に固定されるようになっている。固定手段81は、例えば図2に示す如く、開閉板78の上面73a(図1参照)に対向する面に備えられた板磁石であっても良いし、例えば、何らかの機械的手段により開閉板78と上面73aの間で係合する施錠機構のようなものでも良い。あるいは、上面73aと開閉板78とに備えられた面ファスナーであっても良い。
さらに、第二治具70の所定位置には、開放検知手段83が設けられている。開放検知手段83は、例えば図1、図2に示す如く、クランプ部73の上面73aおよび開閉板78の上面73aに対向する面の所定位置に一対の電極83aを備えた装置であり、該電極83a同士は、開閉板78を閉じた状態とした時に互いに接触し、開閉板78と上面73aとの間で通電するようになっている。電極83aの他に、開放検知手段83は、第二治具70の側面73dに備えた警報手段83bを備えている。警報手段83bは電極83aと連動しており、開閉板78が上面73aから離れると電極83a同士が離間して通電が解除され、電極83aから警報手段83bに対し開放検知信号が送信されるようになっている。開放検知信号を受信した警報手段83bからはブザー等の警報が発せられ、開閉板78が開いた状態となったことが作業者に通知される。尚、ここでは、警報手段83bを側面73dの固定板76と重なる位置に取り付けた例を図示しているが、この他の位置に取り付けても良い。警報手段83bからの警報を作業者が容易に認識できる位置であればどこでも良く、例えば、警報手段83bをかしめ継手工具5(図16(a)参照)に取り付けるようにしても良い。また、警報手段83bはブザーにより作業者に通知する形式のものに限らず、開閉板78が開いたことを作業者が知覚により容易に認識できるような形式であれば何でも良い。例えば、第二治具70の側面73dやかしめ継手工具5の所定位置等に備えられた発光ダイオードとして構成し、開放検知信号を受信して点灯するようになっていても良い。また、開放検知信号は電極83aから警報手段83bに無線で送信するようにしても良いし、電極83aと警報手段83bを有線で接続しても良い。開閉板78の開閉の検出についても、上記したような一対の電極83aを備えた形式に限らず、開閉板78が開いたことを検出することのできるものであればどのような構成でも良い。
尚、本第一実施例の管逸脱防止構造71は、付勢手段80と固定手段81の両方を備えているが、実施の形態によってはいずれか一方のみを備えるようにしても良い。付勢手段80と固定手段81の両方またはいずれか一方により、開閉板78が上面73aに対して管1の逸脱を防止することができる程度の力で固定され、またその固定された状態を人の手によって簡単に解除して開閉板78を開くことができるようになっていれば良い。
また、本第一実施例の第二治具70は、第二支持溝74の内周面に緩衝材82を備えている。緩衝材82は、例えば図1に示す如く、所定の厚さを有して第二支持溝74の内周面を覆うように配置された、柔軟性と弾力性を有する部材であり、例えばウレタンゴム等の素材で構成される。緩衝材82は、その厚さが第二支持溝74と第二係止鍔75の内径の差と略一致すること、すなわち、第二支持溝74の内周面に設置された場合、その表面が形成する内周面の径が第二係止鍔75の内径と略一致することが望ましい。
上記した本第一実施例の作動を、図3〜図6を参照しながら説明する。
管1とかしめ継手の接続にあたり、まず上記従来例と同様、インサート部材2を装着した管1の端部をナット4に通してから、ジョイント部材3の管接続部34に挿入する(図14、図15、図18、図19参照)。かしめ継手工具5(図16(a)参照)には、図3に示す如く、第一台座52に上記従来例と同じ第一治具54を装着し、第二台座53には、管逸脱防止構造71を備えた上記第二治具70を装着する。
そして、かしめ継手を装着した管1を、第一治具54と第二治具70上にセットする。図1に二点鎖線で示すように、管逸脱防止構造71の開閉板78は、第二治具70のクランプ部73の側面73dに固定された固定板76に対して回転軸79を中心に開閉するので、この開閉板78を開いて管1とかしめ継手を配置する。図4に示す如く、管1を第二治具70の第二支持溝74の位置に配置し、ナット4は第二治具70の第二係止鍔75と第一治具54の第一係止鍔59の間に位置するように配置し、ジョイント部材3は、管体部30が第一係止鍔59上に位置し、管接続部34の支点部32が第一係止鍔59の直近に位置するように配置する。管1を第二支持溝74に配置する際、上記したように緩衝材82の厚さが第二支持溝74と第二係止鍔75の内径の差と略一致していると、管1は第二係止鍔75に支持されると同時に第二支持溝74の内周面に備えた緩衝材82にも支持される。
管1とかしめ継手を配置した後、開閉板78を閉じる。開閉板78は、上記した付勢手段80と固定手段81によりクランプ部73の上面73aに固定され、図4に示す如く、管1の載置された第二支持溝74の一部が開閉板78に覆われた形になる。
この状態で、かしめ継手工具5の万力部51を作動させ、第一治具54を装着した第一台座52と、第二治具70を装着した第二台座53に対し、互いに接近する向きに力F,Fを加える。ここで、図5に示す如く、ジョイント部材3を取り付けた側が相対的にかしめ継手工具5側(図中下)となるように管1が傾斜していると、ナット4に対し、軸線方向の分力Fxの他に、該分力Fxと直交し第二支持溝74から外れる向き(図5中における上方)の分力Fyが発生し、ナット4を取り付けた管1が図中上方に押され、傾きながら第二支持溝74から逸脱しようとする。
ところが、上記した通り、管1の載置された第二支持溝の一部は開閉板78に覆われた状態である。このため、図6に示す如く、管1のナット4と反対側の端部が上面73a側(図中上方向)へ持ち上がると、持ち上がった管1の前記端部は第二支持溝74を覆う開閉板78の一端に当接する。そして、上記した通り、付勢手段80および固定手段81によって開閉板78は上面73aに対して管1の逸脱を防止することができる程度の力で固定されているので、通常、それ以上持ち上がることはない。
ただし、管1やかしめ継手の傾斜角度が大きく、管1が第二支持溝74から逸脱しようとする力が大きい場合には、その力が付勢手段80や固定手段81の力を上回り、管1が開閉板78を持上げて開閉板78が上面73aに対して開いてしまうことも起こり得る。特に、例えば、スラブ下などに吊られた管1に対して下方に位置する作業者がかしめ継手工具5を上方に向けてあてがって上記接続作業を行うような場合には、管1やかしめ継手がかしめ継手工具5や第一治具54、第二治具70に対し適切に配置されているかどうか目視によって確認することが難しい。また、そのような作業状況では重量のあるかしめ継手工具5を水平に保持すること自体も難しくなるため、見えない場所で管1の逸脱が大きくなってしまうといった事態が起こりやすい。
しかし、本第一実施例の場合には、開閉板78がクランプ部の上面73aに対して開いたことを作業者に対して検知する開放検知手段83を備えている。このため、管1の逸脱が大きくなり、付勢手段80や固定手段81の力を上回って開閉板78を押し上げるに至った場合には、電極83aの離間に伴い開放検知信号が発せられ、それに従って警報手段83bからブザーにより開閉板78が開いたことが作業者に対し通知される。警報手段83bがそのようなブザー装置ではなく、第二治具70の側面73dやかしめ継手工具5の所定位置等に配置された発光ダイオード等として構成されている場合には、前記開放検知信号への応答としての点灯を作業者が下方から目視することにより、開閉板78が開いたことを容易に知ることができる。作業者は、開閉板78が開いたことを知った時には即座に接続作業を中断し、管1やかしめ継手をかしめ継手工具5に正しく設置し直して作業を再開すれば良い。このように、作業者は、開放検知手段83からの警報を頼りにして、管1やかしめ継手の目視が不完全であったとしても適切に接続作業を行うことが容易となる。
こうした管逸脱防止構造71は、極めて簡単な構造であり、既存の第二治具70に対しても複雑な作業や大きなコストを要することなく容易に取り付けることができる。また、接続作業にあたっても、開閉板78を開閉するだけで済み、操作が容易である。
また、本第一実施例においては、上記した通り管1は第二係止鍔75だけでなく、同時に第二支持溝74の内周面に備えた緩衝材82にも支持される。このため、かしめ継手工具5の万力部51の作動開始時点で管1を第二治具70上に適切な位置ないし角度で配置することが容易であり、万力部51の作動中においても、管1の位置ずれを防止できる。
このように、上記本第一実施例によれば、複数の金属製の管1と連通する管体部30の各端部に、管1の端部が各々挿入されるスリーブ31と、該スリーブ31の基部側の外周に張り出した支点部32を備えた金属製のジョイント部材3に対し、内周面のうち少なくとも一部が、前記スリーブ31の外周面のうち少なくとも一部の外径よりも小さい内径を有するナット4を軸線方向に押し付けて、該ナット4を介しスリーブ31を径方向内側に圧縮変形させることで管1にジョイント部材3を接続するかしめ継手用治具の管逸脱防止構造に関し、ジョイント部材3を支持する第一支持溝58を上面57aに配し、第一支持溝58の内周面に突出した第一係止鍔59により支点部32に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部57を備えた第一治具54と、管1を支持する第二支持溝74を上面73aに配し、第二支持溝74の内周面に突出した第二係止鍔75によりナット4に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部73を備えた第二治具70とを備え、該第二治具70には、該第二治具70上に固定された支持体(固定板)76と、該支持体(固定板)76により該支持体(固定板)76に対し回転可能に支持されて第二支持溝74に配置された管1の少なくとも一部を覆うように開閉可能な蓋体(開閉板)78を備えているので、簡単な構造でかしめ継手工具5の作動中に管1が第二支持溝74から逸脱することを防止し得る。
また、上記本第一実施例において、支持体76は、第二治具70のクランプ部73の側面73dに取り付けられた固定板であり、蓋体78は、固定板76に対して回転可能に取り付けられて第二支持溝74の少なくとも一部を覆うように第二治具70のクランプ部73の上面73aで開閉するよう構成された開閉板であるので、極めて簡単な構造により管1の第二支持溝74からの逸脱を防止し得、また、既存の治具(第二治具70)に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
また、上記本第一実施例においては、開閉板78を第二治具70のクランプ部73の上面73aに対し付勢する付勢手段80を備えているので、簡単な構造により開閉板78を適切な力で第二治具70のクランプ部73の上面73aに固定し得る。
また、上記本第一実施例においては、開閉板78が第二治具70のクランプ部73の上面73aに対し開いた状態となったことを検知し、作業者に通知するよう構成された開放検知手段83を備えているので、管1やかしめ継手の目視が不完全であったとしても、接続作業を適切に行うことを容易にし得る。
また、上記本第一実施例においては、開閉板78を第二治具70のクランプ部73の上面73aに対し着脱可能に固定する固定手段81を備えているので、簡単な構造により開閉板78を適切な力で第二治具70のクランプ部73の上面73aに固定し得る。
また、上記本第一実施例においては、第二支持溝74の内周面に、管1を支持する緩衝材82を備えているので、管1を第二支持溝74に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
したがって、上記本第一実施例によれば、簡単な構造で管の逸脱を防止し得る。
次に、本発明を実施する形態の別の例(第二実施例)について、図7〜図13を参照しながら説明する。
図7、図8は本発明の実施によるかしめ継手用治具の管逸脱防止構造の第二実施例を示すものである。管1および該管1同士の連結に用いるかしめ継手(インサート部材2、ジョイント部材3、ナット4)、かしめ継手工具5、第一治具54の構成は上記従来例(図14〜図17参照)および上記第一実施例と同様であるが、本第二実施例では、図7に示す如く、第二治具90に上記第一実施例とは異なる形態の管逸脱防止構造91を備えている。
本第二実施例の第二治具90は、上記従来例および第一実施例の第二治具55、70と基本的に同様の構成を有しており、第二台座53(図9、図16(a)参照)に接続する脚部92と、管1を支持しながらナット4に対して力を加えるクランプ部93を備えてなる。該クランプ部93は、上面93aに管1を載置する略半円筒状の第二支持溝94を備え、該第二支持溝94には、該第二支持溝94の内周に突出し、ナット4を係止するための第二係止鍔95を備えている。第二係止鍔95は第二支持溝94の一端側に形成され、第二係止鍔95の一端面がクランプ部93の端面93bと連続するように形成されている。脚部92は、クランプ部93の底面93cに備えられた二本の突出部であり、図9に示す如く、第二台座53に備えた溝を挟みこむように嵌合するようになっている。
本第二実施例の管逸脱防止構造91は、図7に示す如く、第二支持溝94の内周面に沿って設けられた支持体としての支持鞘96と、該支持鞘96により第二支持溝94の内周面に沿って周方向に回転可能に支持される蓋体としての管カバー97を備えてなる。
支持鞘96は、第二支持溝94の内周面に沿って管カバー97を収納する空間96aを形成する略半円筒形状の部材であり、例えば図7(a)に示す如く、第二支持溝94の内周面と支持鞘96の外周面との間に空間96aを形成する構成であっても良いし、図8に示す如く、支持鞘96自体が内部に空間96aを有する袋状に形成されていても良い。一端には、軸線方向に沿って、管カバー97の軸線方向の長さに対応したスリット96bが設けられ、このスリット96bが管カバー97の出入口として機能する。支持鞘96の内周面の径は、第二係止鍔95の内径と略一致していることが望ましい。
管カバー97は、支持鞘96の形成する空間96aに収納される略半円筒形状の部材である。管カバー97の一端はスリット96bからはみ出すように収納され、該スリット96bからはみ出した側の端部の外周面には該外周面に突出した把持部98を備えている。接続作業の際、この把持部98を摘んで管カバー97を円周方向に沿って回転するようにスライドさせ、図7(b)中に二点鎖線で示す如く支持鞘96に出し入れすることで開閉できるようになっている。管カバー97を引き出した(閉じた)状態において、管カバー97と支持鞘96のなす内周面の径は、管1の外径と略一致していることが望ましい。
上記した第二実施例の作動を、図9、図10を参照しながら説明する。尚、ここでは、図7に示した支持体として第二支持溝94の内周面との間に空間96aを形成する支持鞘96を備える形態のものを例にとって説明するが、図8に示す支持鞘96自体が内部に空間96aを有する袋状の形態のものである場合も作動は同様である。
管1とかしめ継手の接続にあたり、まず上記従来例と同様、インサート部材2を装着した管1の端部をナット4に通してから、ジョイント部材3の管接続部34に挿入する(図14、図15、図18、図19参照)。かしめ継手工具5(図16(a)参照)には、図9に示す如く、第一台座52に上記従来例と同じ第一治具54を装着し、第二台座53には、管逸脱防止構造91を備えた上記第二治具90を装着する。
そして、かしめ継手を装着した管1を、第一治具54と第二治具90上にセットする。上記したように、管逸脱防止構造91の蓋体(管カバー)97は、第二治具90の第二支持溝94に固定された支持体(支持鞘)96に対し周方向に回転するようにスライド可能に配置されているので、この管カバー97を開いた状態、すなわち支持体96に収納した状態で管1とかしめ継手を配置する。図10に示す如く、管1を第二治具90の第二支持溝94の位置に配置し、ナット4は第二治具90の第二係止鍔95と第一治具54の第一係止鍔58の間に位置するように配置し、ジョイント部材3は、管体部30が第一係止鍔58上に位置し、管接続部34の支点部32が第一係止鍔58の直近に位置するように配置する。管1を第二支持溝94に配置する際、上記したように支持鞘96の内周面の径が第二係止鍔95の内径と略一致していると、管1は第二係止鍔95に支持されると同時に第二支持溝94の内周面に備えた支持鞘96にも支持される。管1とかしめ継手を配置した後、管カバー97をスライドさせて引き出して閉じ(図7(b)参照、二点鎖線で示す)、管カバー97により第二支持溝94に支持された管1の一部を覆うようにする。
この状態で、かしめ継手工具5の万力部51を作動させ、第一治具54を装着した第一台座52と、第二治具90を装着した第二台座53に対し、互いに接近する向きに力を加える。ここで、上記したように管カバー97と支持鞘96のなす内周面の径が管1の外径と略一致している場合には、管1は管カバー97と支持鞘96の間に固定され、ほとんど傾斜ないし第二支持溝94から逸脱することがない。管カバー97と支持鞘96のなす内周面の径が管1の外径と比較して大きい場合には、管1は傾斜し得るが、仮に傾斜しても管カバー97と支持鞘96のなす内周面に当接することでそれ以上に傾斜することはなく、第二支持溝94からの逸脱は防止される。
こうした管逸脱防止構造91は、極めて簡単な構造であり、既存の第二治具90に対しても複雑な作業や大きなコストを要することなく容易に取り付けることができる。また、接続作業にあたっても、管カバー97を開閉するだけで済み、操作が容易である。
また、本第二実施例においては、上記した通り管1は第二係止鍔95に支持されるだけでなく、同時に第二支持溝94の内周面に備えた支持体(支持鞘)96にも支持される。このため、かしめ継手工具5の万力部51の作動開始時点で管1を第二治具90上に適切な位置ないし角度で配置することが容易であり、万力部51の作動中においても、管1の位置ずれを防止できる。
このように、上記本第二実施例によれば、複数の金属製の管1と連通する管体部30の各端部に、管1の端部が各々挿入されるスリーブ31と、該スリーブ31の基部側の外周に張り出した支点部32を備えた金属製のジョイント部材3に対し、内周面のうち少なくとも一部が、前記スリーブ31の外周面のうち少なくとも一部の外径よりも小さい内径を有するナット4を軸線方向に押し付けて、該ナット4を介しスリーブ31を径方向内側に圧縮変形させることで管1にジョイント部材3を接続するかしめ継手用治具の管逸脱防止構造に関し、ジョイント部材3を支持する第一支持溝58を上面57aに配し、第一支持溝58の内周面に突出した第一係止鍔59により支点部32に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部57を備えた第一治具54と、管1を支持する第二支持溝94を上面93aに配し、第二支持溝94の内周面に突出した第二係止鍔95によりナット4に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部93を備えた第二治具90とを備え、該第二治具90には、該第二治具90上に固定された支持体(支持鞘)96と、該支持体(支持鞘)96により該支持体(支持鞘)に対し回転可能に支持されて第二支持溝94に配置された管1の少なくとも一部を覆うように開閉可能な蓋体(管カバー)97を備えているので、簡単な構造でかしめ継手工具5の作動中に管1が第二支持溝94から逸脱することを防止し得る。
また、上記本第二実施例において、支持体96は、第二支持溝94の内周面に沿って備えられた支持鞘であり、蓋体97は、支持鞘96が第二支持溝94の内周面に沿って形成する空間96aに収納され、支持鞘96に対し円周方向にスライドするように出し入れ可能に支持されて、第二支持溝94に載置された管1の少なくとも一部を覆うように開閉する管カバー97であるので、極めて簡単な構造により管1の第二支持溝94からの逸脱を防止し得、既存の治具(第二治具90)に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
また、上記本第二実施例においては、支持鞘96の内周面の径が、第二係止鍔95の内周面の径と略一致するので、管1を第二支持溝94に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
また、上記本第二実施例においては、支持鞘96と、該支持鞘96から引き出した管カバー97により構成される内周面の径が、管1の外径と略一致するので、管1の第二支持溝94からの逸脱をより効果的に防止し得る。
したがって、上記本第二実施例によっても、簡単な構造で管の逸脱を防止し得る。
また、第三実施例として、管逸脱防止構造91は図11〜図13に示す如く、第二支持溝74の内周面に沿って突出し、略円筒形状の管カバー97と軸線方向の両端で係合して該管カバー97を挟持する略半円形状の支持レール96c,96cを支持体として備え、該支持レール96c,96cの間で管カバー97を円周方向に回転するようにスライド可能に支持する構成としても良い。この場合、支持鞘96の内周面の径は、第二係止鍔95の内径と略一致していることが望ましく、管カバー97を引き出した(閉じた)状態において、管カバー97と支持レール96c,96cのなす内周面の径は、管1の外径と略一致していることが望ましい。
本第三実施例の作動については、上記第二実施例とほぼ同様であるため省略する。
上記本第三実施例によれば、複数の金属製の管1と連通する管体部30の各端部に、管1の端部が各々挿入されるスリーブ31と、該スリーブ31の基部側の外周に張り出した支点部32を備えた金属製のジョイント部材3に対し、内周面のうち少なくとも一部が、前記スリーブ31の外周面のうち少なくとも一部の外径よりも小さい内径を有するナット4を軸線方向に押し付けて、該ナット4を介しスリーブ31を径方向内側に圧縮変形させることで管1にジョイント部材3を接続するかしめ継手用治具の管逸脱防止構造に関し、ジョイント部材3を支持する第一支持溝58を上面57aに配し、第一支持溝58の内周面に突出した第一係止鍔59により支点部32に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部57を備えた第一治具54と、管1を支持する第二支持溝94を上面93aに配し、第二支持溝94の内周面に突出した第二係止鍔95によりナット4に対して軸線方向に圧力を加えるクランプ部93を備えた第二治具90とを備え、該第二治具90には、該第二治具90上に固定された支持体(支持レール)96c,96cと、該支持体(支持レール)96c,96cにより該支持体(支持レール)96c,96cに対し回転可能に支持されて第二支持溝94に配置された管1の少なくとも一部を覆うように開閉可能な蓋体(管カバー)97を備えているので、簡単な構造でかしめ継手工具5の作動中に管1が第二支持溝94から逸脱することを防止し得る。
また、上記本第三実施例において、前記支持体96c,96cは、前記第二支持溝の内周面に沿って突出する支持レールであり、蓋体97は、軸線方向の両端において支持レール96c,96cに挟持され、該支持レール96c,96cに対し円周方向にスライド可能に支持されて、第二支持溝94に載置された管1の少なくとも一部を覆うように開閉する管カバーであるので、極めて簡単な構造により管1の第二支持溝94からの逸脱を防止し得、既存の治具(第二治具90)に対しても容易に管逸脱防止構造を設置し得る。
また、上記本第三実施例においては、支持レール96c,96cの内周面の径が、第二係止鍔95の内周面の径と略一致するので、管1を第二支持溝94に適切な位置ないし角度で容易に支持し得る。
また、上記本第三実施例においては、支持レール96c,96cと、該支持レール96c,96cから引き出した管カバー97により構成される内周面の径が、管1の外径と略一致するので、管1の第二支持溝94からの逸脱をより効果的に防止し得る。
尚、上記本第一〜第三実施例においては、第二治具(70、90)にのみ管逸脱防止構造(71、91)を備えるようにしているが、同様の管逸脱防止構造を第一治具54にも備えるようにしても良い。すなわち、ジョイント部材3として直管ニップル形状のもの(図14(c)、図15(c)等参照)を使用する場合には、複数の管接続部34に備えられた支点部32同士が近接しているため、ジョイント部材3が傾斜した際に該ジョイント部材3を第一支持溝58に押し戻す力F'がかかるが(図25参照)、例えば管体部がある程度の長さを有しているなど、二つの支点部同士が近接した構造でない場合にはこうした作用は得られない。ジョイント部材がT字型やY字型の管体部に3つの管接続部を備えたものであったり、L字型の管体部に2つの管接続部を備えたものであったり、2つの管接続部をフレキシブル管の管体部で繋いだものであるなどといった場合も同様である。そこで、第一治具に対しても上記と同様の管逸脱防止構造を適用すれば、第二支持溝からの管の逸脱に加え、第一支持溝からのジョイント部材の逸脱をも防止することが可能である。
その他、本発明のかしめ継手用治具の管逸脱防止構造は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。