JP6621956B2 - セルロース含有樹脂製ギア - Google Patents

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Description

本発明は、セルロースを含有する樹脂組成物に関する。
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、摺動性、熱安定性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種無機材料をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
熱可塑性樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイなどの無機充填剤である強化材料で強化した樹脂組成物は、比重が高いため、得られる樹脂成形体の重量が大きくなるという課題がある。また、ガラス繊維を含む樹脂組成物を用いて、丸棒押出しを行った後に切削を行い特定形状に成形することや、射出成型にて肉厚な部品の成形を行っても、内部にボイド(真空状の空洞)が発生し、応力集中により耐久性に劣るという課題がある。これは、外部の冷却速度と内部の冷却速度の差から成形体内部にボイド(真空状の空洞)が発生するためである。そこで近年、樹脂の新たな強化材料として、環境負荷の低いセルロースが用いられるようになってきている。
セルロースは、その単体特性として、アラミド繊維に匹敵する高い弾性率と、ガラス繊維よりも低い線膨張係数を有することが知られている。また、真密度が1.56g/cm3と、低く、一般的な熱可塑性樹脂の補強材として使用されるガラス(密度2.4〜2.6g/cm3)やタルク(密度2.7g/cm3)と比較し圧倒的に軽い材料である。
セルロースは、樹木を原料とするもののほか、麻・綿花・ケナフ・キャッサバ等を原料とするものなど多岐にわたっている。さらには、ナタデココに代表されるようなバクテリアセルロースなども知られている。これら原料となる天然資源は地球上に大量に存在し、この有効利用のために、樹脂中にセルロースをフィラーとして活用する技術が注目を浴びている。
CNF(セルロースナノファイバー)は、パルプ等を原料とし、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミルやディスクミルといった粉砕法により解繊することにより得られるものであり、水中において微細なナノ分散と呼ばれるレベルの高度の分散状態やネットワークを形成していることが知られている。
しかし樹脂中にCNFを配合するためには、CNFを乾燥し粉末化する必要があるが、CNFは水と分離する過程で微分散状態から、強固な凝集体となり、再分散しにくいといった課題がある。この凝集力はセルロースが持つ水酸基による水素結合により発現されており、非常に強固であると言われている。
そのため、十分な性能を発現させるためには、セルロースが持つ水酸基による水素結合を緩和する必要がある。また水素結合の緩和を十分に実現できても、解繊された状態(ナノメートルサイズ(すなわち1μm未満))を樹脂中で維持することは困難である。
これらセルロースナノファイバー(以下、CNFと称することがある)をフィラーとして各種樹脂とコンポジットした組成物が開示されている。
例えば、特許文献1には、セルロース表面の水酸基を疎水基で置換したセルロースを用いた摺動性樹脂組成物が記載されている。また特許文献2にはアパタイト型化合物とポリアミドとの樹脂製ギアが記載されている。また特許文献3にはガラス繊維とポリアミド樹脂を用いた、表面粗さが算術平均粗さRaで0.15以下の電動パワーステアリング装置が記載されている。
特開2017−171698号公報 特開2001−289309号公報 特開2006−44306号公報
しかしながら、特許文献1では、セルロースとポリオキシメチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンとのコンパウンドの摺動性を、比較的一般的な摺動試験であるピンオンディスク試験及びジャーナル軸受試験で評価している一方、実用途であるギア成形片の耐久性に関する言及は無い。また、特許文献2では、ナノ物質を用いたポリアミド樹脂製ギアの引張強度及び引張伸度は記載されているが、実用途におけるギアの耐久性、静音性等には関する言及は無い。また、特許文献3では、ガラス繊維、ポリアミド樹脂の特定形状における表面粗さ、及び潤滑剤の活用方法に関する記載はあるが、ギアの耐久性、静音性等に関する言及は無い。
つまり従来技術では、肉厚成形体内部のボイドを低減させギア耐久性及び静音性を向上させる事は困難であり、これらを改良したギアが要望されていた。本発明は、上記の課題を解決し、実用途における十分な耐久性と静音性とが両立された樹脂製ギアを提供することを目的とする。
本発明者らは、前記の課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、熱可塑性樹脂に対して、特定のセルロースを含み、かつ他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である樹脂製ギアが、肉厚樹脂成形体でありながら前記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下であり、トルク3N/m以上で使用される、樹脂製ギア。
[2] (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが3.0μm以下である、樹脂製ギア。
[3] 80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持して吸水させた際の吸水寸法変化が、3%以下である、上記態様1又は2に記載の樹脂製ギア。
[4] 前記樹脂製ギア内のボイドの最大サイズが1.0μm以下である、上記態様1〜3のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[5] トルク5N/m以上で使用される、上記態様1〜4のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[6] トルク10N/m以上で使用される、上記態様1〜5のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[7] (A)熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、上記態様1〜6のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[8] (A)熱可塑性樹脂がポリアミド及びポリアセタールからなる群より選択される1種以上の樹脂である、上記態様7に記載の樹脂製ギア。
[9] (C)表面改質剤を含む、上記態様1〜8のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[10] (C)表面改質剤の数平均分子量が200〜10000である、上記態様9に記載の樹脂製ギア。
[11] (C)表面改質剤を、(B)セルロースナノファイバー100質量部に対して1〜50質量部含む、上記態様9又は10に記載の樹脂製ギア。
[12] (D)金属イオン成分を含む、上記態様1〜11のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[13] (D)金属イオン成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005〜5質量部含む、上記態様12に記載の樹脂製ギア。
[14] (E)摺動剤成分を含む、上記態様1〜13のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[15] (E)摺動剤成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含む、上記態様14に記載の樹脂製ギア。
[16] (E)摺動剤成分の融点が40〜150℃である、上記態様14又は15に記載の樹脂製ギア。
[17] モジュールが2.0以下である、上記態様1〜16のいずれかに記載の樹脂製ギア。
[18] 上記態様1〜17のいずれかに記載の樹脂製ギアと、作動回転数800rpm以上のモータである駆動源とを有する、ギア駆動体。
[19] 前記モータが、作動回転数10000rpm以下のモータである、上記態様18に記載のギア駆動体。
本発明によれば、実用途における十分な耐久性と静音性とが両立された樹脂製ギアが提供される。
以下、本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
本実施形態の樹脂製ギアは、(A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSa 3.0μm以下を有する。
≪(A)熱可塑性樹脂≫
本発明において用いることができる(A)熱可塑性樹脂は、典型的には、数平均分子量5000以上を有する。なお本開示の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)を用い、標準ポリメタクリル酸メチル換算で測定される値である。(A)熱可塑性樹脂としては、100℃〜350℃の範囲内に融点を有する結晶性樹脂、又は、100〜250℃の範囲内にガラス転移温度を有する非晶性樹脂が挙げられる。(A)熱可塑性樹脂は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい1種又は2種以上のポリマーで構成されてよい。
ここでいう結晶性樹脂の融点とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度をいう。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側の吸熱ピークのピークトップ温度を指す。この時の吸熱ピークのエンタルピーは、10J/g以上であることが望ましく、より望ましくは20J/g以上である。また測定に際しては、サンプルを一度融点+20℃以上の温度条件まで加温し、樹脂を溶融させたのち、10℃/分の降温速度で23℃まで冷却したサンプルを用いることが望ましい。
また、ここでいう非晶性樹脂のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定装置を用いて、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をいう。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度を指す。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とすることが望ましい。また、測定用サンプルの調製方法については特に制限はないが、成形歪の影響をなくす観点から、熱プレス成型品の切り出し片を用いることが望ましく、切り出し片の大きさ(幅及び厚み)はできるだけ小さい方が熱伝導の観点より望ましい。
(A)熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばα−オレフィン(共)重合体)、各種アイオノマー等が挙げられる。
(A)熱可塑性樹脂の好ましい具体例は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系樹脂、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α−オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物等が挙げられる。
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した熱可塑性樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が好ましい。
これらの中でもポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂、特に、ポリアミド系樹脂及びポリアセタール系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα−オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
また、セルロースとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
酸変性されたポリオレフィン系樹脂は、単独で用いても構わないが、組成物としての変性率を調整するため、変性されていないポリオレフィン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。例えば、変性されていないポリプロピレンと酸変性されたポリプロピレンとの混合物を用いる場合、全ポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。セルロースとの界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
酸変性されたポリプロピレンの好ましいISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)は、セルロース界面との親和性を高めるため、50g/10分以上であることが好ましい。より好ましい下限は100g/10分であり、更により好ましくは150g/10分、最も好ましくは200g/10分である。上限は特にないが、機械的強度の維持から500g/10分である。MFRをこの範囲内とすることにより、セルロースと樹脂との界面に存在しやすくなるという利点を享受できる。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られる、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られる、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体;が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは 80μモル/gである。
ポリアミド系樹脂において、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸 、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、 カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシル アミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7−228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H−NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003−055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H−NMRによる定量がより好ましい。
ポリアミド系樹脂は、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]が、0.6〜2.0dL/gであることが好ましく、0.7〜1.4dL/gであることがより好ましく、0.7〜1.2dL/gであることが更に好ましく、0.7〜1.0dL/gであることが特に好ましい。好ましい範囲、その中でも特に好ましい範囲の固有粘度を有する上記ポリアミド系樹脂を使用すると、樹脂組成物の射出成形時の金型内流動性を大幅に高め、成形片の外観を向上させるという効用を与えることができる。
本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。この粘度を求める具体的な方法は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法である。このゼロに外挿した値が固有粘度である。これらの詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice−Hall,Inc1994)の291ページ〜294ページ等に記載されている。
このとき濃度の異なるいくつかの測定溶媒の点数は、少なくとも4点とすることが精度の観点より望ましい。推奨される異なる粘度測定溶液の濃度は、好ましくは、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dLの少なくとも4点である。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)(3−ヒドロキシアルカン酸からなるポリエステル樹脂)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)量としては0.01〜4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%であり、最も好ましくは2.3モル%である。押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
<<(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー>>
次に本発明において用いることができる(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー(本開示で、「(B)セルロースナノファイバー」ということもある。)について詳述する。
(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの好適例は、特に限定されないが、例えばセルロースパルプを原料としたセルロースファイバー又はこれらセルロースの変性物の1種以上を用いることが出来る。これらの中でも、安定性、性能などの点から、セルロースの変性物の1種以上が好ましく使用可能である。
セルロースナノファイバーの製法は特に限定されないが、例えば、原料パルプを裁断後100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等を用いた粉砕法により解繊して得ることができる。
(B)セルロースナノファイバーの平均繊維径は、樹脂製ギアの良好な機械的強度(特に引張弾性率)を得る観点から、1000nm以下であり、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均繊維径は小さい方が好ましいが、加工容易性の観点からは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であることができる。上記平均繊維径は、レーザー回折/散乱法粒度分布計で、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径(体積平均粒子径)として求められる値である。
上記平均繊維径は、以下の方法で測定することができる。(B)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー(例えば(株)品川工業所製、5DM−03−R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」処理条件)を用い、回転数15,000rpm×5分間で分散させ、遠心分離機(例えば久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA−400型)を用い、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(例えば堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」又は商品名「LA−950」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(すなわち、粒子全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径)を、体積平均粒子径とする。
典型的な態様において、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーのL/D比は、20以上である。セルロースナノファイバーのL/D下限は、好ましくは30であり、より好ましくは40であり、より好ましくは50であり、さらにより好ましくは100である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは10000以下である。本開示の樹脂製ギアの良好な機械的特性を少量のセルロースナノファイバーで発揮させるために、セルロースナノファイバーのL/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
本開示で、セルロースナノファイバーの長さ、径、及びL/D比は、セルロースナノファイバーの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、光学顕微鏡、又は高分解能走査型顕微鏡(SEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースナノファイバーが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースナノファイバーの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。また、本開示のセルロースナノファイバーの長さ及び径とは、上記100本のセルロースの数平均値である。
成形体中のセルロースファイバーの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で十分に洗浄した後、溶媒を純水又は分散可能な有機溶媒に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上の測定を行う。
本開示におけるセルロースの変性物としては、エステル化剤、シリル化剤、イソシアネート化合物、ハロゲン化アルキル化剤、酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物から選択される1種以上の変性剤により変性されたものが挙げられる。
変性剤としてのエステル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをエステル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。またエステル化は国際公開第2017/159823号の段落[0108]に記載の方法で実施できる。エステル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
エステル化剤の好適例としては、特に限定されないが、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物、並びに、これらから任意に選ばれる、対称無水物(無水酢酸、無水マレイン酸、シクロヘキサン−カルボン酸無水物、ベンゼン−スルホン酸無水物)、混合酸無水物(酪酸−吉草酸無水物)、環状無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、ナフタレン−1,8:4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,3,4−テトラカルボン酸3,4−無水物)、エステル酸無水物(酢酸3−(エトキシカルボニル)プロパン酸無水物、炭酸ベンゾイルエチル)等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、無水酢酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水フタル酸が好ましく使用可能である。
変性剤としてのシリル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基又はその加水分解後の基と反応できる少なくとも一つの反応性基を有するSi含有化合物を包含する。シリル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
シリル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロジメチルイソプロピルシラン、クロロジメチルブチルシラン、クロロジメチルオクチルシラン、クロロジメチルドデシルシラン、クロロジメチルオクタデシルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、クロロ(1−ヘキセニル)ジメチルシラン、ジクロロヘキシルメチルシラン、ジクロロヘプチルメチルシラン、トリクロロオクチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,3−ジフェニル−1,3−ジメチル−ジシラザン、1,3−N−ジオクチルテトラメチル−ジシラザン、ジイソブチルテトラメチルジシラザン、ジエチルテトラメチルジシラザン、N−ジプロピルテトラメチルジシラザン、N−ジブチルテトラメチルジシラザン又は1,3−ジ(パラ−t−ブチルフェネチル)テトラメチルジシラザン、N−トリメチルシリルアセトアミド、N−メチルジフェニルシリルアセトアミド、N−トリエチルシリルアセトアミド、t−ブチルジフェニルメトキシシラン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、オクチルメチルジメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からヘキサメチルジシラザン、オクタデシルジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランが好ましく使用可能である。
変性剤としてのハロゲン化アルキル化剤は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応してこれをハロゲン化アルキル化できる少なくとも一つの官能基を有する有機化合物を包含する。ハロゲン化アルキル化剤は市販の試薬又は製品であってもよい。
ハロゲン化アルキル化剤の好適例としては、特に限定されないが、クロロプロパン、クロロブタン、ブロモプロパン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードオクタン、ヨードオクタデカン、ヨードベンゼン等を用いることが出来る。これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からブロモヘキサン、及びヨードオクタンが好ましく使用可能である。
変性剤としてのイソシアネート化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できるイソシアネート基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。またイソシアネート化合物は、特定の温度でブロック基が脱離してイソシアネート基を再生する事が可能なブロックイソシアネート化合物であってもよく、また、ポリイソシアネートの2量体若しくは3量体、ビューレット化イソシアネートなどの変性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)等であってもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
イソシアネート化合物の好適例としては、特に限定されないが、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、ブロックイソシアネート化合物、ポリイソシアネート等が挙げられる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン)、トリレンジイソシアネート(TDI)、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、上記イソシアネート化合物にオキシム系ブロック剤、フェノール系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アミン系ブロック剤、ピラゾール系ブロック剤、重亜硫酸塩系ブロック剤、又はイミダゾール系ブロック剤を反応させたブロックイソシアネート化合物、等が挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点からTDI、MDI、ヘキサメチレンジイソシアネート、及び、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体とヘキサメチレンジイソシアネートとを原料とするブロック化イソシアネートが好ましく使用可能である。
前記ブロックイソシアネート化合物のブロック基の解離温度は、反応性、安定性の観点から、上限値が好ましくは210℃であり、より好ましくは190℃であり、さらに好ましくは150℃である。また下限値は好ましくは70℃であり、より好ましくは80℃であり、さらに好ましくは110℃である。ブロック基の解離温度がこの範囲となるようなブロック剤としては、メチルエチルケトンオキシム、オルト−セカンダリーブチルフェノール、カプロラクタム、重亜硫酸ナトリウム、3,5−ジメチルピラゾール、2−メチルイミダゾール等が挙げられる。
変性剤としての酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は、セルロースの表面のヒドロキシル基と反応できる酸化アルキレン基、グリシジル基及び/又はエポキシ基を少なくとも一つ有する有機化合物を包含する。酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物は市販の試薬又は製品であってもよい。
酸化アルキレン及び/又はグリシジル化合物の好適例としては、特に限定されないが、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、2−メチルオクチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−ターシャリーブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、n−ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェニルフェノールグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;グリシジルアセテート、グリシジルステアレート等のグリシジルエステル;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル等の多価アルコールグリシジルエーテルが挙げられる。
これらの中でも、反応性、安定性、価格などの点から2−メチルオクチルグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルが好ましく使用可能である。
セルロースナノファイバーの変性物は、成形体の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、溶液の遠心分離やろ過等により、セルロースを分離し、前記溶媒で十分に洗浄した後、分離したセルロースナノファイバーの変性物を熱分解又は加水分解処理することにより確認できる。又は直接1H−NMR、13C−NMR測定を行うことにより確認する事が出来る。
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対する(B)セルロースナノファイバーの配合量は、良好な機械的特性、熱安定性及び耐久性の観点から、好ましくは1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、十分な成形性を得る観点から、200質量部以下、好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。
≪(C)表面改質剤≫
次に本発明において付加的成分として使用可能な(C)表面改質剤について詳述する。典型的な態様において、(C)表面改質剤は、低分子熱可塑性樹脂、及び/又は両親媒性分子である。(C)表面改質剤は、(A)熱可塑性樹脂と分子量、繰り返し構造、及び/又はブロック構造が異なるポリマーであることができる。すなわち、(C)表面改質剤と(A)熱可塑性樹脂とが同一のポリマーでもよく、この場合は、それぞれの数平均分子量を比較した時に、分子量が小さい方が(C)表面改質剤となる。
(C)表面改質剤の数平均分子量の下限値は、好ましくは100であり、より好ましくは200であり、最も好ましくは300である。また、当該数平均分子量の上限値は、特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは50000、より好ましくは10000である。(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとの良好な親和性を確保するために、(C)表面改質剤の数平均分子量は上述の範囲内にあることが望ましい。
(C)表面改質剤は、水分散体、又は水溶液の状態で使用しても良く、市販の試薬又は製品であってもよい。
(C)表面改質剤の好ましい量は、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー100質量部に対し、(C)表面改質剤が50質量部以下の量の範囲内である。上限量は、より好ましくは45質量部、さらにより好ましくは40質量部、さらにより好ましくは35質量部、特に好ましくは30質量部である。下限は特に限定されないが、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー100質量部に対し、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.5質量部、最も好ましくは1質量部である。(C)表面改質剤の上限量を上記とする事で、(A)熱可塑性樹脂の強度を良好に保つことが出来る。また、(C)表面改質剤の下限量を上記とすることで、(A)熱可塑性樹脂中の(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの分散性を高めることができる。
また、樹脂製ギアの構成材料となる樹脂組成物を調製する際の、(C)表面改質剤の添加方法としては、特に制限はないが、(A)熱可塑性樹脂、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー、及び(C)表面改質剤をあらかじめ混合し溶融混練する方法、(A)熱可塑性樹脂にあらかじめ(C)表面改質剤を添加し、必要により予備混練した後、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを添加して溶融混練する方法、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと(C)表面改質剤とを予め混合した後、(A)熱可塑性樹脂と溶融混練する方法、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーが水に分散している分散液中に(C)表面改質剤を添加し、乾燥させてセルロース製剤を作製したのち、当該製剤を(A)熱可塑性樹脂に添加する方法、等が挙げられる。
(C)表面改質剤として好適に使用可能な低分子熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(ポリフェニレンエーテルを他の樹脂とブレンド又はグラフト重合させて変性させた変性ポリフェニレンエーテルも含む)、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂(例えば熱可塑性ポリウレタン)、ポリオレフィン系樹脂(例えばα−オレフィン共重合体)、各種アイオノマーが挙げられる。
(C)表面改質剤の好ましい具体例としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン(例えば直鎖状低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、環状オレフィン系、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテン、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン−プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体)、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸変性体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びその酸変性物、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、(エチレン及び/又はプロピレン)と(不飽和カルボン酸及び/又は不飽和カルボン酸エステル)との共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素のブロック共重合体の水素化物、他の共役ジエン化合物と非共役オレフィンとの共重合体、天然ゴム、各種ブタジエンゴム、各種スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンとp−メチルスチレンの共重合体の臭化物、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリロブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル、アクリロニトリルを主成分とするアクリロニトリル系共重合体、アクリロニトリル・ブタンジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、酢酸セルロース等のセルロース系樹脂、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、及びエチレン/酢酸ビニル共重合体のケン化物、
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(PTMEG)、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリブタジエンジオール及びこれらの共重合物(例えば、プロピレンオキシドとエチレンオキシドとのコポリマー、テトラヒドロフランとエチレンオキシドとのコポリマー)、これらのブロック共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、ポリマーアロイとして用いてもよい。また、上記した低分子熱可塑性樹脂が、不飽和カルボン酸、その酸無水物又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物により変性されたものも用いることもできる。
これらの中でも、耐熱性、成形性、意匠性及び機械特性の観点から、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、ポリプロピレングリコール系樹脂、及びこれらの2種以上の混合物が好ましく挙げられ、特に、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレングリコール系樹脂、及びポリプロピレングリコール系樹脂が、取り扱い性・コストの観点からより好ましい。
低分子熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα−オレフィン類)を含むモノマー単位を重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、特に限定されないが、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどに例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体などに例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体などに代表されるα−オレフィンと他のモノマー単位との共重合体等が挙げられる。
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。
また、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとの親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸としては、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、及びクエン酸等のポリカルボン酸等から適宜選択可能である。これらの中でも好ましいのは、変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物である。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下/非存在下で樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン系樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂はすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが中でも好適に使用可能である。
酸変性されたポリプロピレンは、単独で用いても構わないが、変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレンと混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレンに対する酸変性されたポリプロピレンの割合は、好ましくは0.5質量%〜50質量%である。より好ましい下限は、1質量%であり、更に好ましくは2質量%、更により好ましくは3質量%、特に好ましくは4質量%、最も好ましくは5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%であり、更に好ましくは40質量%、更により好ましくは35質量%、特に好ましくは30質量%、最も好ましくは20質量%である。(B)セルロースナノファイバーとの界面強度を良好に維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂製ギアとしての延性を良好に維持するためには、上限以下が好ましい。
低分子熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては、特に限定されないが、ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等;1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1−6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,7−ヘプタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、m−キシリレンジアミンなどのジアミン類と、ブタン二酸 、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン−1,2−ジカルボン酸、ベンゼン−1,3−ジカルボン酸、ベンゼン−1,4ジカルボン酸等、シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などのジカルボン酸類との共重合体として得られるポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等;及び、これらがそれぞれ共重合された共重合体(一例としてポリアミド6,T/6,I)等の共重合体;が挙げられる。
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12といった脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,Cといった脂環式ポリアミドがより好ましい。
低分子熱可塑性樹脂として使用可能なポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、20μモル/gであると好ましく、より好ましくは30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、150μモル/gであると好ましく、より好ましくは100μモル/gであり、更に好ましくは80μモル/gである。
低分子熱可塑性樹脂としてのポリアミドにおいて、好ましい全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることがより好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
ポリアミド系樹脂の末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ 酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸 、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルア ミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシル アミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、H−NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003−055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、H−NMRによる定量がより好ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリアリレート(PAR)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でより好ましいポリエステル系樹脂としては、PET、PBS、PBSA、PBT、及びPENが挙げられ、更に好ましくは、PBS、PBSA、及びPBTが挙げられる。
また、ポリエステル系樹脂は、重合時のモノマー比率並びに末端安定化剤の添加の有無及び量によって、末端基を自由に変えることが可能であるが、ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])が、0.30〜0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率下限は、より好ましくは0.35であり、さらに好ましくは、0.40であり、最も好ましくは0.45である。また、カルボキシル末端基比率上限は、より好ましくは0.90であり、さらに好ましくは、0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、(B)セルロースナノファイバーの組成物中への分散性の観点から0.30以上とすることが望ましく、得られる組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂には、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、例えば1,3−ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましく使用できる。特に、コモノマー成分(例えば1,3−ジオキソラン)量としては0.01〜4モル%の範囲内が好ましい。コモノマー成分量のより好ましい下限量は、0.05モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%であり、特に好ましくは0.2モル%である。またより好ましい上限量は、3.5モル%であり、さらに好ましくは3.0モル%であり、特に好ましくは2.5モル%、最も好ましくは2.3モル%である。
押出加工時及び成形加工時の熱安定性の観点から、下限は上述の範囲内とすることが望ましく、機械的強度の観点より、上限は上述の範囲内とすることが望ましい。
次に、(C)表面改質剤として使用可能な両親媒性分子について詳述する。
典型的な態様において、両親媒性分子は、動的表面張力60mN/m以下を有する。両親媒性分子としては、炭素原子を基本骨格とし、炭素、水素、酸素、窒素、塩素、硫黄、及びリンから選ばれる元素から構成される官能基を有するものが挙げられる。分子中に上述の構造を有していれば、無機化合物と上記官能基とが化学結合したものも好ましい。両親媒性分子は市販の試薬又は製品であってもよい。
両親媒性分子は、単独であってもよく、2種以上の両親媒性分子の混合物であってもよい。混合物の場合、本開示の両親媒性分子の特性値(例えば静的表面張力、動的表面張力、SP値)は、当該混合物の値を意味する。
本実施形態においては、両親媒性分子の静的表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。この静的表面張力は、ウィルヘルミー法で測定される表面張力を指す。室温で液体状の両親媒性分子を使用する場合は、25℃で測定した値を用いる。室温で固体又は半固形状の両親媒性分子を使用する場合は、両親媒性分子を融点以上に加熱し溶融した状態で測定し、25℃に温度補正した値を用いる。なお本開示で室温とは、25℃を意味する。また、添加を容易にするためなどの目的で、両親媒性分子を有機溶剤や水等に溶解・希釈してもよい。この場合の上記静的表面張力は、使用する両親媒性分子自体の静的表面張力を意味する。
両親媒性分子の静的表面張力が本開示の特定の範囲内であることは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が驚異的に向上するという効果を奏する。理由は定かではないが、両親媒性分子中にある親水性官能基が、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面の水酸基、又は反応性基と水素結合等を介することによって、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの表面を被覆し、樹脂との界面形成を阻害しているためであると考えられる。その親水性基が(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー側に配されることにより、樹脂側には疎水雰囲気となるため、樹脂側との親和性も増すためと考えられる。
両親媒性分子の好ましい静的表面張力の下限は、23mN/mであり、より好ましくは25mN/m、さらに好ましくは30mN/m、更により好ましくは35mN/m、最も好ましくは39mN/mである。(E)界面活性剤の静的表面張力の好ましい上限は、72.8mN/m、より好ましくは60mN/m、さらに好ましくは50mN/m、最も好ましくは45mN/mである。
両親媒性分子の熱可塑性樹脂に対する親和性と(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーに対する親和性とを両立し、樹脂中への(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの微分散性、樹脂組成物の流動性、樹脂成形体の強度及び伸びの向上といった特性を発現させる観点で、両親媒性分子の静的表面張力を特定の範囲にすることが好ましい。
本開示でいう両親媒性分子の静的表面張力は、市販の表面張力測定装置を用いることで測定することが可能である。具体的に例示すると、自動表面張力測定装置(例えば協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP−Z型」、付属のガラス製セルを使用。)を用い、ウィルヘルミー法により測定することができる。この時、(E)界面活性剤が室温で液体の場合は、付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm〜9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求められる。
γ=(P−mg+shρg)/Lcosθ
ここで、γ:静的表面張力、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度である。
なお、室温で固体のものは上述の方法では表面張力は測定できないため、便宜上、融点+5℃の温度で測定した表面張力を採用する。融点が未知の物質である場合、まずは目視による融点測定法(JIS K6220)により融点を測定し、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定することで可能である。
両親媒性分子の動的表面張力は60mN/m以下であることが好ましい。より好ましい動的表面張力の上限は、55mN/mであり、50mN/mがより好ましく、45mN/mがさらに好ましく、40mN/mが特に好ましい。(E)界面活性剤の動的表面張力の好ましい下限を挙げるとすると、10mN/mである。より好ましい下限は、15mN/mであり、20mN/mが最も好ましい。
ここでいう動的表面張力は、最大泡圧法(液体中に挿した細管(以下、プローブ)に空気を流して、気泡を発生させたときの最大圧力(最大泡圧)を計測し、表面張力を算出する方法)で測定される表面張力のことである。具体的には、(E)界面活性剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、25℃に調温した後、動的表面張力計(例えば英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt−60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、気泡発生周期を10Hzで測定された表面張力の値を指す。各周期における動的表面張力は、以下の式により求められる。
σ=ΔP・r/2
ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力−最小圧力)、r:キャピラリー半径である。
最大泡圧法で測定される動的表面張力は、動きの速い場における界面活性剤の動的な表面張力を意味する。両親媒性分子は水中では、通常ミセルを形成している。動的表面張力が低いということは、ミセル状態からの界面活性剤の分子の拡散速度が速いことを表し、動的表面張力が高いということは分子の拡散速度が遅いことを意味する。
両親媒性分子の動的表面張力が特定値以下であることは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂組成物中での分散を顕著に向上させるという効果を奏する点で有利である。この分散性向上の理由の詳細は不明であるが、動的表面張力が低い両親媒性分子は、押出機内での拡散性に優れることで、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと樹脂との界面に局在化できること、さらに(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面を良好に被覆できることが、分散性向上の効果に寄与していると考えられる。この界面活性剤の動的表面張力を特定値以下とすることにより得られる(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの分散性の改良効果は、成形体の強度欠陥を消失させるという顕著な効果を発現させる。
両親媒性分子としては、水より高い沸点を有するものが好ましい。なお、水よりも高い沸点とは、水の蒸気圧曲線における各圧力における沸点(例えば、1気圧下では100℃)よりも高い沸点を指す。
両親媒性分子として水より高い沸点を有するものを選択することにより、例えば、(E)界面活性剤の存在下で、水に分散された(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを乾燥させ、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー製剤を得る工程において、水が蒸発する過程で水と両親媒性分子とが置換されて(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー表面に両親媒性分子が存在するようになるため、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの凝集を大幅に抑制する効果を奏することができる。
両親媒性分子は、その取扱い性の観点より、室温(すなわち25℃)で液体のものが好ましく使用可能である。常温で液体の両親媒性分子は、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーと親和しやすく、樹脂にも浸透しやすいという利点を有する。
両親媒性分子としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましく使用可能である。両親媒性分子がこの範囲のSP値を有することで、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が向上する。
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & Science,vol.12(10),p.2359−2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、Oct.2010)によると、後述する実施例に示す既存の主要な溶剤についてのSP値(cal/cm31/2が公開されている。
両親媒性分子のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に両親媒性分子を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、実施例に示す表中のSP値が異なる各種溶剤(10mL)に、両親媒性分子1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、両親媒性分子がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その両親媒性分子のSP値は7.25以上となる。
一態様において、両親媒性分子は界面活性剤である。界面活性剤としては、親水性の置換基と疎水性の置換基が共有結合した化学構造を有する化合物が挙げられ、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用して用いる。特に好ましい態様において、界面活性剤は、前述のような特定の動的表面張力を有する界面活性剤である。
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、(B)セルロースナノファイバーとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
陰イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(陰イオン)として、脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム,アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等が挙げられ、直鎖アルキルベンゼン系として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、高級アルコール系(陰イオン)系として、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等が挙げられ、アルファオレフィン系としてアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等、ノルマルパラフィン系としてアルキルスルホン酸ナトリウム等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系(非イオン)として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の糖脂質、脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられ、高級アルコール系(非イオン)としてポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、アルキルフェノール系としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
両性イオン系界面活性剤としては、アミノ酸系として、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等が挙げられ、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられ、アミンオキシド系としてアルキルアミンオキシド等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
陽イオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩系として、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等が挙げられ、それらを1種又は2種以上を混合して使用することも可能である。
界面活性剤は、油脂の誘導体であってよい。油脂としては、脂肪酸とグリセリンとのエステルが挙げられ、通常は、トリグリセリド(トリ−O−アシルグリセリン)の形態を取るものをいう。脂肪油で酸化を受けて固まりやすい順に乾性油、半乾性油、不乾性油と分類され、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができ、例えば以下のものを、1種又は2種以上併用して用いる。
油脂としては、動植物油として、例えば、テルピン油、トール油、ロジン、白絞油、コーン油、大豆油、ゴマ油、菜種油(キャノーラ油)、こめ油、糠油、椿油、サフラワー油(ベニバナ油)、ヤシ油(パーム核油)、綿実油、ひまわり油、エゴマ油(荏油)、アマニ油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォルナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油、鯨油、鮫油、肝油、カカオバター、ピーナッツバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ、乳脂(バター、ギー等)、硬化油(マーガリン、ショートニングなど)、ひまし油(植物油)等が挙げられる。
特に、上述の動植物油の中でも、(B)セルロースナノファイバー表面への親和性、均一コーティング性の観点から、テルピン油、トール油、ロジンが好ましい。
テルピン油(テルビン油ともいう)は、マツ科の樹木のチップ、或いはそれらの樹木から得られた松脂(まつやに)を水蒸気蒸留することによって得られる精油のことであり、松精油、ターペンタインともいう。テルピン油としては、例えば、ガム・テレピン油(松脂の水蒸気蒸留によって得られたもの)、ウッド・テレピン油(マツ科の樹木のチップを水蒸気蒸留或いは乾留することで得られたもの)、硫酸テレピン油(硫酸塩パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)、亜硫酸テレピン油(亜硫酸パルプ製造時にチップを加熱処理した時に留出して得られたもの)が挙げられ、ほぼ無色から淡黄色の液体で、亜硫酸テレピン油以外は主にα−ピネンとβ−ピネンを成分とする。亜硫酸テレピン油は、他のテレピン油と異なりp−シメンを主成分とする。上述の成分を含んでいれば、前記テルピン油に含まれ、いずれも単独又は複数の混合物の誘導体を、本発明の界面活性剤として使用することができる。
トール油は、松材を原料にクラフトパルプを作る際に副成する、樹脂と脂肪酸を主成分とする油である。トール油としては、オレイン酸とリノール酸を主成分とするトール脂肪を用いても、アビエチン酸などの炭素数20のジテルペノイド化合物を主成分とするトールロジンを用いてもよい。
ロジンは、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物で、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする天然樹脂である。コロホニー或いはコロホニウムとも呼ばれる。中でも、トールロジン、ウッドロジン、ガムロジンが好適に使用できる。これらロジン類に種々の安定化処理、エステル化処理、精製処理などを施したロジン誘導体を、界面活性剤として使用できる。安定化処理とは、上記ロジン類に水素化、不均化、脱水素化、重合処理等を施すことをいう。また、エステル化処理とは、上記ロジン類、又は安定化処理を施したロジン類を各種アルコールと反応させてロジンエステルとする処理のことをいう。このロジンエステルの製造には各種公知のアルコール又はエポキシ化合物等を使用することができる。アルコールとしては、例えば、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコールのような1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の3価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の4価アルコールが挙げられる。また、イソペンチルジオール、エチルヘキサンジオール、エリトルロース、オゾン化グリセリン、カプリリルグリコール、グリコール、(C15−18)グリコール、(C20−30)グリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、ジグリセリン、ジチアオクタンジオール、DPG、チオグリセリン、1,10−デカンジオール、デシレングリコール、トリエチレングリコール、チリメチルギドロキシメチルシクロヘキサノール、フィタントリオール、フェノキシプロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、BG、PG、1,2−ヘキサンジオール、ヘキシレングリコール、ペンチレングリコール、メチルプロパンジオール、メンタンジオール、ラウリルグリコール等の多価アルコールを用いてもよい。また、イノシトール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、ラクチトール等の糖アルコールとして分類されるものも、多価アルコールに含まれる。
さらに、上記アルコールとしては、アルコール性の水溶性高分子を用いることもできる。アルコール性の水溶性高分子としては、多糖類・ムコ多糖類、デンプンとして分類されるもの、多糖誘導体として分類されるもの、天然樹脂に分類されるもの、セルロース及び誘導体に分類されるもの、タンパク質・ペプチドに分類されるもの、ペプチド誘導体に分類されるもの、合成ホモポリマーに分類されるもの、アクリル(メタクリル酸)酸共重合体に分類されるもの、ウレタン系高分子に分類されるもの、ラミネートに分類されるもの、カチオン化高分子に分類されるもの、その他の合成高分子に分類されるもの等が挙げられ、常温で水溶性のものを用いることができる。より具体的には、ポリアクリル酸ナトリウム、セルロースエーテル、アルギン酸カルシウム、カルボキシビニルポリマー、エチレン/アクリル酸共重合体、ビニルピロリドン系ポリマー、ビニルアルコール/ビニルピロリドン共重合体、窒素置換アクリルアミド系ポリマー、ポリアクリルアミド、カチオン化ガーガムなどのカチオン系ポリマー、ジメチルアクリルアンモニウム系ポリマー、アクリル酸メタクリル酸アクリル共重合体、POE/POP共重合体、ポリビニルアルコール、プルラン、寒天、ゼラチン、タマリンド種子多糖類、キサンタンガム、カラギーナン、ハイメトキシルペクチン、ローメトキシルペクチン、ガーガム、アラビアゴム、セルロースウィスカー、アラビノガラクタン、カラヤガム、トラガカントガム、アルギン酸、アルブミン、カゼイン、カードラン、ジェランガム、デキストラン、セルロース(本開示のセルロースファイバー及びセルロースウィスカーではないもの)、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール、カチオン化シリコーン重合体等が挙げられる。
上述の各種ロジンエステルの中でも、(B)セルロースナノファイバー表面のコーティング性、樹脂中でのセルロース製剤の分散性がさらに促進される傾向にあるため、ロジンと水溶性高分子がエステル化したものが好ましく、ロジンとポリエチレングリコールとのエステル化物(ロジンエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレングリコール樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンロジン酸エステルともいう。)が特に好ましい。
硬化ひまし油型の界面活性剤としては、例えば、トウダイグサ科のトウゴマの種子等から採取する植物油の一種であるひまし油(ひましあぶら、ひましゆ、蓖麻子油)を原料として、水素化されたものを疎水基として、その構造中の水酸基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。ひまし油の成分は、不飽和脂肪酸(リシノール酸が87%、オレイン酸が7%、リノール酸が3%)と少量の飽和脂肪酸(パルミチン酸、ステアリン酸などが3%)のグリセリドである。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4〜40までのものがあり、代表的なものとしては15〜30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15〜30が好ましく、15〜25がより好ましく、15〜20が特に好ましい。
鉱物油の誘導体としては、例えば、カルシウム石鹸基グリース、カルシウム複合石鹸基グリース、ナトリウム石鹸基グリース、アルミニウム石鹸基グリース、リチウム石鹸基グリース等のグリース類等が挙げられる。
界面活性剤は、アルキルフェニル型化合物であってもよく、例えば、アルキルフェノールエトキシレート、すなわちアルキルフェノールをエチレンオキシドでエトキシル化して得られる化合物が挙げられる。アルキルフェノールエトキシレートは非イオン界面活性剤である。親水性のポリオキシエチレン(POE)鎖と、疎水性のアルキルフェノール基がエーテル結合で結びついていることから、ポリ(オキシエチレン)アルキルフェニルエーテルとも呼ばれる。一般にアルキル鎖長、POE鎖長の異なる多数の化合物の混合物として、平均鎖長の異なる一連の製品が市販されている。アルキル鎖長は炭素数6〜12(フェニル基を除く)が市販されているが、代表的なアルキル基の構造は、ノニルフェノールエトキシレートやオクチルフェノールエトキシレートが挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が5〜40までのものがあり、代表的なものとしては15〜30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15〜30が好ましく、15〜25がより好ましく、15〜20が特に好ましい。
界面活性剤は、βナフチル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ナフタレンを含み、芳香環の2又は3又は6又は7位の炭素が水酸基と結合したβモノ置換体と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4〜40までのものがあり、代表的なものとしては15〜30のものが挙げられる。EO残基が15〜30が好ましく、15〜25がより好ましく、15〜20が特に好ましい。
界面活性剤は、ビスフェノールA型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、ビスフェノールA(化学式 :(CH32C(C64OH)2)を含み、その構造中の二つのフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4〜40までのものがあり、代表的なものとしては15〜30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15〜30が好ましく、15〜25がより好ましく、15〜20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
界面活性剤は、スチレン化フェニル型化合物であってもよく、例えば、その化学構造の一部に、スチレン化フェニル基を含み、その構造中のフェノール基と、PEO鎖等の親水基が共有結合した化合物が挙げられる。スチレン化フェニル基は、フェノール残基のベンゼン環にスチレンが1〜3分子付加した構造を有する。また、代表的なPOE基の構造としては、エチレンオキサイド(EO)残基が4〜40までのものがあり、代表的なものとしては15〜30のものが挙げられる。ノニルフェノールエトキシレートのEO残基は、15〜30が好ましく、15〜25がより好ましく、15〜20が特に好ましい。このEO残基は、一つの分子中に、二つのエーテル結合がある場合は、それら二つを足し合わせた平均値を指す。
界面活性剤の具体的な好適例としては、例えば、アシルグタミン酸塩等のアシルアミノ酸塩、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウロイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシン酸塩等のアニオン性界面活性剤;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムジアルキルジメチルアンモニウム塩、塩化(N,N’−ジメチル−3,5−メチレンピペリジニウム)、塩化セチルピチジニウム等のアルキルピリジニウム塩、アルキル4級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のアルキルアミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体等のカチオン性界面活性剤;2−ウンデシル−N,N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミタゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤、2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホバタイン等のベタイン系両性界面活性剤等の両性界面活性剤、ソルビタンノモオレエート、ソルビタンモノモイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ−2−エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸グリセリン、α,α’−オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類、モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン−ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン−ソルビタンテトラオレエート等のポリオキシエチレン−ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン−ソルビットモノラウレート、ポリオキシエチレン−ソルビットモノオレエート、ポリオキシエチレン−ソルビットペンタオレエート、ポリオキシエチレン−ソルビットモノステアレート、ポリオキシエチレン−グリセリンモノイソステアレート、ポリオキシエチレン−グリセリントリイソステアレート等のポリオキシエチレン−グリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油トリイソステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油マレイン酸等のポリオキシエチレンヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
上述の中でも、(B)セルロースナノファイバーとの親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボン酸、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、(B)セルロースナノファイバーとの親和性が高まるが、コーティング性((A)熱可塑性樹脂及び(B)セルロースナノファイバーとの界面への局在性)とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
疎水性の樹脂(例えばポリオレフィン、ポリフェニレンエーテル等)に(B)セルロースナノファイバーを配合する場合には、親水基としてポリオキシエチレン鎖に代えて、ポリオキシプロピレン鎖を有するものを用いることが好ましい。ポリオキシプロピレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、(B)セルロースナノファイバーとの親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であるこことが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限は設定されないが、好ましくは30、より好ましくは25である。
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましく、環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が特に好ましい。これらの中でも、特にロジンエステル型、硬化ひまし油型が最も好ましい。
したがって、特に好ましい態様において、界面活性剤は、ロジン誘導体、アルキルフェニル誘導体、ビスフェノールA誘導体、βナフチル誘導体、スチレン化フェニル誘導体、及び硬化ひまし油誘導体からなる群より選択される1種以上である。
≪(D)金属イオン成分≫
次に本発明において用いることができる(D)金属イオン成分について詳述する。
樹脂製ギアは、付加的成分として(D)金属イオン成分を含むことが可能である。(D)金属イオン成分は市販の試薬又は製品であってもよい。
(D)金属イオン成分としては、銅化合物、金属(銅又は銅以外)のハロゲン化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
本実施形態の樹脂製ギアにおける(D)金属イオン成分の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、5質量部であることが好ましく、2質量部であることがより好ましく、0.5質量部であることがさらに好ましい。(D)金属イオン成分の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。驚くべきことに、(D)金属イオン成分の量が上記範囲内であることで、樹脂製ギアの摺動試験における耐摩耗性が向上する。このような優れた耐摩耗性の発現要因は未解明ではあるが、(B)セルロースナノファイバー表面と(C)表面改質剤との界面、又は(B)セルロースナノファイバー表面と(A)熱可塑性樹脂との界面に(D)金属イオン成分が存在し、密着性を増大させていると推測される。
銅化合物としては以下に限定されるものではないが、例えば、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅等のハロゲン化銅;酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅、ステアリン酸銅等のカルボン酸銅塩;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤に銅が配位した、銅錯塩;等が挙げられる。銅化合物は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。銅化合物としては、耐熱エージング性に一層優れること、成形押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食(以下、単に「金属腐食」ともいう。)を抑制できること等の観点から、ヨウ化銅(CuI)、臭化第一銅(CuBr)、臭化第二銅(CuBr2)、塩化第一銅(CuCl)、及び酢酸銅が好ましく、ヨウ化銅、及び酢酸銅がより好ましい。
銅化合物の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。銅化合物の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。銅化合物の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。また銅化合物の含有量の上限が上記範囲内であると、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
本実施形態の樹脂製ギアは、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属ハロゲン化物をさらに含有していてもよい。金属ハロゲン化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属ハロゲン化物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、樹脂組成物の耐熱エージング性が一層向上し、金属腐食が一層抑制される点で、ヨウ化カリウム、及び臭化カリウムが好ましく、ヨウ化カリウムがより好ましい。
樹脂製ギアにおける金属ハロゲン化物の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。樹脂製ギアにおける金属ハロゲン化物の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。金属ハロゲン化物の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。また金属ハロゲン化物の含有量の上限が上記範囲内であると、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができる。
金属ハロゲン化物は、ハロゲン元素の含有量C3と銅元素の含有量C4とのモル比C3/C4が、2/1〜50/1となるように配合することが好ましく、2/1〜40/1となるように配合することがより好ましく、5/1〜30/1となるように配合することがさらに好ましい。モル比C3/C4を2/1以上とすることで、銅析出及び金属腐食を一層抑制することができ、50/1以下とすることで、靭性、剛性などの機械物性を損なうことなく、金属腐食を一層抑制することができる。
アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウム等の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。樹脂製ギアの熱安定性向上の観点から、具体的にはカルシウム塩が好ましい。
当該カルシウム塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)が挙げられる。脂肪酸カルシウム塩の脂肪酸成分は、例えばヒドロキシル基で置換されていてもよい。これらの中では、樹脂製ギアの熱安定性向上の観点から、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)がより好ましい。
樹脂製ギアにおけるアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の上限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.6質量部であることが好ましく、0.4質量部であることがより好ましく、0.3質量部であることがさらに好ましい。アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の下限は、上記(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.005質量部であることが好ましく、0.01質量部であることがより好ましく、0.015質量部であることがさらに好ましい。アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の下限が上記範囲内であると、耐熱エージング性が一層向上する。またアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量の上限が上記範囲内であると、樹脂製ギアの熱分解を一層抑制することができる。
(D)金属イオン成分を樹脂製ギア中に存在させる方法としては、例えば、(A)熱可塑性樹脂の重合時(製法1)に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩)を配合する方法、溶融混練(製法2)を用いて(A)熱可塑性樹脂に銅化合物(必要に応じて、さらに金属ハロゲン化物、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩)を配合する方法が挙げられる。
本実施形態の樹脂製ギアの製造方法では、銅化合物を固体状態で添加してもよく、例えば水溶液の状態で添加してもよい。前記製法1における(A)熱可塑性樹脂の重合時とは、原料モノマーからポリマーへの重合が完了するまでの、どの段階でもよい。製法2の溶融混練を行う装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば、単軸又は2軸押出機、バンバリーミキサー、及びミキシングロールなどの溶融混練機などを用いることができる。中でも2軸押出機が好ましく用いられる。
溶融混練の温度は、好ましくは、(A)熱可塑性樹脂の融点より1〜100℃程度高い温度、より好ましくは10〜50℃程度高い温度である。混練機での剪断速度は100sec-1以上程度であることが好ましく、混練時の平均滞留時間は0.5〜5分程度であることが好ましい。
≪(E)摺動剤成分≫
次に本発明において用いることができる(E)摺動剤成分について詳述する。本実施形態の樹脂製ギアは、付加的成分として(E)摺動剤成分を含むことが可能である。これらは市販の試薬又は製品であってよい。
(E)摺動剤成分の好ましい下限量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.01質量部であり、より好ましくは0.5質量部であり、特に好ましくは、1.0質量部である。また、(E)摺動剤成分の好ましい上限量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部であり、より好ましくは4質量部であり、特に好ましくは3質量部である。(E)摺動剤成分の量を上記範囲とすることで、摩耗量を抑制でき、さらには繰り返し疲労試験における破断回数が向上する。通常のフィラー(例えばガラスファイバー等)を用いた場合、フィラー表面に(E)摺動剤成分が偏在し、摺動剤分子が多数積層する構造となることで、フィラーが脱落しやすい、長期疲労試験などでは効果が低下する、といった問題が生じる場合がある。しかし、(B)平均繊維径が1000nm以下であるナノセルロースの場合は表面積はガラスファイバー等と大きく異なり大表面積であるため、(E)摺動剤成分がセルロース表面に偏在しにくく、摺動剤分子が積層しにくい。これにより、疲労試験における破断回数が向上し、さらには耐摩耗性も維持されると推測される。
(E)摺動剤成分の量が(A)熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部以下である場合、樹脂成形体における層剥離及びシルバーストリークスの発生がより良好に抑制される。また、(E)摺動剤成分の量が(A)熱可塑性樹脂に対して0.01質量部以上である場合、摩耗量低減のより顕著な効果が得られる。
(E)摺動剤成分としては、例えば、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表わされる構造を有する化合物が挙げられる。
[R11−(A−R12)−A−R13]・・・(1)
−R11−A・・・(2)
14−A・・・(3)
ここで、式(1)及び(2)中、R11、R12及びR13は、各々独立して、炭素数1〜7000のアルキレン基、置換若しくは非置換の炭素数1〜7000のアルキレン基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜7000のアリール基で置換された置換アルキレン基、炭素数6〜7000のアリーレン基、又は炭素数6〜7000のアリーレン基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリーレン基である。
また、式(3)中、R14は、炭素数1〜7000のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数1〜7000のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜7000のアリール基で置換された置換アルキル基、炭素数6〜7000のアリール基、又は炭素数6〜7000のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリール基である。
これらの基は二重結合、三重結合、又は環状構造を含む基でもよい。
また、式(1)中、A及びAは、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、チオアミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、アゾ結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、又はトリスルフィド結合である。
また、式(2)、(3)中、A、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基、アミジン基、アジ基、シアノ基、チオール基、スルフェン酸基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、ニトロ基、又はチオール基である。
微小荷重摺動時の摩耗特性の観点から、(E)摺動剤成分における上記一般式(1)、(2)、(3)で表わされる構造を以下の範囲内とすることが好ましい。
すなわち、R11、R12、R13、R14における炭素数は、好ましくは2〜7000であり、より好ましくは3〜6800であり、さらに好ましくは4〜6500である。
式(1)中、xは1〜1000の整数を示し、1〜100の整数が好ましい。yは1〜1000の整数を示し、1〜200の整数が好ましい。
式(1)中、好ましいA及びAは、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合であり、より好ましいA及びAは、各々独立して、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合である。
式(2)及び(3)中、好ましいA、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、アジ基、シアノ基、チオール基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、及びチオイソシアネート基であり、より好ましいA、A及びAは、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、イソシアニド基、ケテン基、及びイソシアネート基である。
具体的には、(E)摺動剤成分として、特に限定されないが、例えば、アルコール、アミン、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミド、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーンオイル、並びにワックス、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が例示される。
アルコールとしては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価のアルコール類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、ベヘニルアルコール、メリシルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、デシルミリスチルアルコール、デシルステアリルアルコール、ユニリンアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルバイト、ソルビタン、ソルビトール、マンニトールが挙げられる。
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数11以上のアルコールが好ましい。より好ましくは炭素数12以上のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアルコールである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和アルコールである。
これらの中では、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく使用可能であり、ベヘニルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが特に好ましく使用可能である。
アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。
一級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロパンアミン、ブタンアミン、ペンタンアミン、ヘキサンアミン、へプタンアミン、オクタンアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、アニリン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン等が挙げられる。
二級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン等が挙げられる。
三級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
特殊なアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサンアミン、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペラジン、ヘキサメチレンジアミンがより好ましく使用可能であり、これらの中でも、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが特に好ましく使用可能である。
カルボン酸としては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族カルボン酸類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコン酸、モンタン酸等、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、セトレイン酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ネルボン酸、エルカ酸、プロピオール酸、ステアロール酸等が挙げられる。
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上の脂肪酸が好ましい。より好ましくは炭素数11以上の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数12以上の脂肪酸である。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の中ではパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、アジピン酸、セバシン酸等が、工業的にも容易に入手可能であり、更に好ましい。
また、かかる成分を含有してなる天然に存在する脂肪酸又はこれらの混合物等でもよい。これらの脂肪酸はヒドロキシ基で置換されていてもよく、合成脂肪族アルコールであるユニリンアルコールの末端をカルボキシル変性した合成脂肪酸でもよい。
ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、脂肪族ヒドロキシ酸、芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。脂肪族ヒドロキシ酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸や乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
芳香族ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、モノヒドロキシ安息香酸誘導体としてサリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ジヒドロキシ安息香酸誘導体としてピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、トリヒドロキシ安息香酸誘導体として、没食子酸、フェニル酢酸誘導体として、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸やヒドロケイヒ酸誘導体として、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸が挙げられ、これらの異性体であってもよい。これらの中では、脂肪族ヒドロキシ酸がより好ましく、脂肪族ヒドロキシ酸の中でも炭素数が5から30の脂肪族ヒドロキシ酸が更に好ましく、炭素数8から28の脂肪族ヒドロキシ酸が特に好ましい。
アミドとしては、炭素数が6〜7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族アミド類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、1級アミドとしてヘプタンアミド、オクタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、ペンタデシルアミド、セチルアミド、ヘプタデシルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド、ノナデシルアミド、エイコシルアミド、セリルアミド、ベヘニルアミド、メリシルアミド、ヘキシルデシルアミド、オクチルドデシルアミド、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
2級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド、などの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
3級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
これらの中でも、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイドがより好ましく使用可能である。
これらの中でも、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイドが好ましく使用可能である。これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上のアミドが好ましい。より好ましくは、炭素数11以上のアミドであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアミドである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪族アミドである。
エステルとしては、上述のアルコールとカルボン酸、又はヒドロキシ酸とが反応してエステル結合を形成している反応生成物などが好ましい。
具体的な例としては特に限定されないが、例えば、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、べへニン酸モノグリセライド、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシルペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート等が挙げられる。
これらの中でもミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレートが好ましく使用可能であり、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールジステアレートが特に好ましく使用可能である。
ポリオキシアルキレングリコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の3種類が挙げられる。
第1のポリオキシアルキレングリコールは、アルキレングリコールをモノマーとする重縮合物である。このような重縮合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックコポリマー、ランダムコポリマー等が挙げられる。これらの重縮合物の重合度の好ましい範囲は5〜2500、より好ましい範囲は10〜2300である。
第2のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と脂肪族アルコールとのエーテル化合物である。このようなエーテル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールオレイルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜500)、ポリエチレングリコールセチルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜500)、ポリエチレングリコールステアリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル(エチレンオキサイド重合度5〜300)、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度2〜1000)、ポリエチレングリコールオキチルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度4〜500)等が挙げられる。
第3のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と高級脂肪酸とのエステル化合物である。このようなエステル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート(エチレンオキサイド重合度2〜300)、ポリエチレングリコールモノステアレート(エチレンオキサイド重合度2〜500)、ポリエチレングリコールモノオレート(エチレンオキサイド重合度2〜500)等が挙げられる。
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、シュラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、セラックろう、ウールろう、カルバナワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、はぜろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が挙げられる。
これらの中でもカルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型がより好ましく使用可能であり、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が特に好ましく使用可能である。
これらの中でも(E)摺動剤成分としては、アルコール、アミン、カルボン酸、エステル、1価又は2価のアミンとカルボン酸とからなるアミド化合物、並びにワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物に用いる(E)摺動剤成分のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型は、特に限定されないが、ポリオレフィンワックスの酸化反応により酸性基を導入したり、ポリオレフィンを酸化分解したり、ポリオレフィンワックスに無機酸、有機酸或いは不飽和カルボン酸などを反応させてカルボキシル基やスルホン酸基などの極性基を導入したり、ポリオレフィンワックス重合時に酸性基を持つモノマーを導入する方法により得られる。
これらは、酸化変性型或いは酸変性型ポリオレフィンワックスなどの名称で市販されており、容易に入手することができる。
ポリオレフィンワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、特殊モノマー変性型などが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン−ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等などが挙げられる。
(E)摺動剤成分としては摺動性改良効果の観点からパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの酸変性物、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体の酸変性物が好ましい。
(E)摺動剤成分は、特に、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含む変性ワックスであることが好ましい。
上記(E)摺動剤成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、(E)摺動剤成分は、樹脂製ギア(すなわち成形体)から分離することで分子構造や分子量、融点、酸価、粘度などを算出することが可能である。
成形体における(E)摺動剤成分は、成形体を溶解後ろ別などの操作を行い単離したのちに、(E)摺動剤成分を再結晶化や再沈殿などの操作で精製することが可能である。(E)摺動剤成分をH−NMRや13C−NMRや二次元NMR、MALDI−TOF MSなど各種測定を行うことにより、繰り返し構造や分岐構造、各種官能基の位置情報などの分子構造を決定することができる。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、酸価は0〜85mg−KOH/gの範囲であることが好ましい。酸価の好ましい下限は特にないが、0mg−KOH/g以上であることが好ましい。酸価のより好ましい上限は83mg−KOH/gであり、さらに好ましくは80mg−KOH/gであり、よりさらに好ましくは75mg−KOH/gである。酸価を上述の範囲とすることで、乾燥時の変色性を抑制し、微小荷重の高温摺動時の耐摩耗性が良好となる傾向にある。(E)摺動剤成分の酸価はJIS K0070に準拠した方法により測定できる。
(E)摺動剤成分の酸価は、例えば特開2004−75749号公報の実施例1又は2に記載の方法、市販の高密度ポリエチレンを酸素雰囲気下で熱分解することで、酸性基の導入量、及び/又は極性基の導入量を調整又は制御する方法、等によって制御可能である。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、市販品を使用することも可能である。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃の溶融粘度は1〜3000mPa・sの範囲であることが好ましい。下限は特に限定されるものではないが、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の溶融混練時の加工性の観点から、1mPa・sが好ましく、20mPa・sがより好ましく、さらに好ましくは25mPa・sであり、さらにより好ましくは30mPa・sであり、よりさらに好ましくは50mPa・sである。また、上記140℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sである。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、180℃の溶融粘度は100〜2900mPa・sの範囲であることが好ましい。(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の下限は、好ましくは110mPa・sであり、より好ましくは140mPa・sであり、さらに好ましくは160mPa・sであり、さらにより好ましくは300mPa・sである。また(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合の180℃溶融粘度の好ましい上限は、2850mPa・sであり、より好ましくは2800mPa・sであり、さらに好ましくは2700mPa・sであり、さらにより好ましくは2650mPa・sであり、よりさらに好ましくは2000mPa・sであり、特に好ましくは1600mPa・sである。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、溶融粘度を上記範囲内とすることで、本実施形態の樹脂製ギアの構成材料である樹脂組成物の溶融混練時に、樹脂ペレットが完全溶融となり、混練が十分に行われる傾向にある。
(E)摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃及び180℃の溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定できる。
(E)摺動剤成分として用いることのできる潤滑油は、以下に限定されるものではないが、熱可塑性樹脂成形体の摩擦・摩耗特性を向上させ得る物質であればよく、例えば、エンジンオイルやシリンダーオイルなどの天然オイル;パラフィン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル PS32など)、ナフテン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル NS90Sなど)、アロマ系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル AC12など)などの合成炭化水素オイル;シリコーングリス(信越化学株式会社製 G30シリーズなど)、ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーンオイル、シリコーンガム、変性シリコーンガム等のシリコーン系オイル;等を挙げることができ、一般に市販されている潤滑油の中から適宜に選んで、そのまま、又は、所望により適宜に配合して用いればよい。これらの中でもパラフィン系オイルとシリコーン系オイルが摺動性の観点からも優れ、かつ工業的にも容易に入手可能であり好ましい。これら潤滑油は、単独で用いても、組み合わせて用いても構わない。
潤滑油の分子量の下限は100が好ましく、400がより好ましく、500がさらに好ましい。また、上限は500万が好ましく、200万がより好ましく、100万がさらに好ましい。潤滑油の融点の下限値は−50℃が好ましく、−30℃がより好ましく、−20℃がさらに好ましい。潤滑油の融点の上限値は50℃が好ましく、30℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。分子量は100以上にすることで潤滑油の摺動性が良好となる傾向にある。また分子量を500万以下、特に100万以下にすることで、潤滑油の分散が良好となり耐摩耗性が向上する傾向にある。また、融点を−50℃以上とすることで、成形体表面に存在する潤滑油の流動性が維持され、アブレッシブ摩耗を抑制することにより、成形体の耐摩耗性が向上する傾向にある。また融点を50℃以下とすることで、潤滑油を(A)熱可塑性樹脂と容易に混練しやすくなり、潤滑油の分散性が向上する傾向にある。上記した観点より、潤滑油の分子量及び融点は、上記範囲内にすることが好ましい。なお、上記融点は潤滑油の流動点の2.5℃低い温度を意味し、当該流動点はJIS K2269に準拠して測定される値である。
(A)熱可塑性樹脂100質量部に対する、潤滑油の含有量の下限値は、特に限定されないが、0.1質量部が好ましく、0.2質量部がより好ましく、0.3質量部がさらに好ましい。また、上記含有量の上限値も特に限定されないが、5.0質量部が好ましく、4.5質量部がより好ましく、4.2質量部がさらに好ましい。潤滑油の含有量が上述した範囲である場合、樹脂製ギアの構成材料である樹脂組成物の耐摩耗性が向上する傾向にある。特に、潤滑油の含有量が0.1質量部以上である場合、良好な摺動性を確保でき、耐摩耗性が向上する傾向にある。また、潤滑油の含有量が5.0質量部以下である場合、樹脂の軟化を抑制でき、ハス歯ギア等の用途にも耐えうる樹脂組成物の強度を確保できる傾向にある。したがって、本実施形態の樹脂製ギアにおける潤滑油の含有量の範囲を上記のとおり調整する場合、摺動時の摩耗特性を改善し、さらには安定摺動性に優れるという観点から好ましい。
樹脂製ギアにおいては、表層近傍における摺動剤成分の分散状態が摺動特性に大きな影響を与えるため、(E)摺動剤成分の重量平均分子量は重要である。(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい下限量は、500であり、より好ましくは600であり、特に好ましくは、700である。また、(E)摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい上限量は特にないが、取扱いの容易さから、100000が目安である。本実施形態の樹脂製ギアにおいて、(E)摺動剤成分の重量平均分子量を上述の範囲とすることで、1万回を超える摺動回数における耐摩耗性の維持を達成可能となる。
(E)摺動剤成分の分子量分布の下限は特にないが、摺動時の摩擦係数の安定性の観点から、1.0に近いことが目安である。また(E)摺動剤成分の分子量分布の好ましい上限は9.0であり、より好ましくは8.5であり、さらに好ましくは8.0であり、さらにより好ましくは7.5である。
(E)摺動剤成分の重量平均分子量は、重量平均分子量1000以下の場合は、液体クロマトグラフ/質量分析により測定され、重量平均分子量が1000を超える場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン等の換算の重量平均分子量で表される。
(E)摺動剤成分は、その融点が40〜150℃であることが好ましい。(E)摺動剤成分の融点を40℃以上とすることにより、より高い温度での樹脂成形体の耐摩耗性を向上させることが可能となる傾向にあり、(E)摺動剤成分の融点を150℃以下とすることで、加工時の樹脂中への(E)摺動剤成分の良好な分散を達成しやすくなる。(E)摺動剤成分の融点のより好ましい下限は、45℃であり、さらに好ましい下限は50℃であり、特に好ましい下限は80℃である。また、(E)摺動剤成分の融点のより好ましい上限は、140℃であり、さらに好ましくは135℃であり、特に好ましくは130℃である。(E)摺動剤成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定できる。
≪その他の成分≫
本実施形態の樹脂製ギアは、本実施形態の目的を損なわない範囲で、従来熱可塑性樹脂に使用されている各種安定剤を含有することができる。安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記の無機充填剤、熱安定剤等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらは市販の試薬又は製品であってもよい。
無機充填剤は、以下に限定されるものではないが、例えば、繊維状粒子、板状粒子、及び無機顔料からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。ここでいう繊維状粒子及び板状粒子とは、ポリアセタール樹脂成形体中に存在する繊維状粒子、板状粒子の平均アスペクト比が5以上である粒子である。
繊維状粒子としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、チタン酸カリウム繊維、アスベスト繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、メタケイ酸カルシウム繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
また、板状粒子としては、特に限定されないが、例えば、タルク、マイカ、カオリン、ガラスフレーク、ベントナイト等が挙げられる。これらの中では、タルク、マイカ、及びガラス繊維が好ましい。これらを用いることにより、機械的強度により優れ、かつ経済的である傾向にある。
また無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミ酸コバルト、バライト粉、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、フェロシアン化鉄カリカオリン、チタンイエロー、コバルトブルー、ウルトラマリン青、カドミウム、ニッケルチタン、リトポン、ストロンチウム、アンバー、シェンナ、アズライト、マラカイト、アズロマラカイト、オーピメント、リアルガー、辰砂、トルコ石、菱マンガン鉱、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、サンゴ粉、白色雲母、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレッド、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、プルシアンブルー、オーレオリン、雲母チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、植物性黒、骨炭、炭酸カルシウム、紺青等が挙げられる。
これらの中でも硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化チタン、チタンイエロー、コバルトブルー、及び炭酸塩が、より高い耐摩耗性を付与する観点から好ましく、酸化亜鉛、及びチタンイエローが、モース硬度が十分に低く、更に高い摩耗性を付与する観点から、より好ましい。
上述した無機充填剤の添加量は、特に限定されないが、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、無機充填剤が0.002〜70質量部の範囲であると好ましい。無機充填剤の添加量を上述の範囲とする事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
熱安定剤としては、樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、1,4−ブタンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)等が挙げられる。
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレンビス−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス(2−(3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミド等も挙げられる。
上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、及びテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
上述した酸化防止剤の添加量は、特に限定されないが、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1〜2質量部、の範囲であると好ましい。酸化防止剤の添加量を上述の範囲とする事で樹脂組成物の取扱い性を高めることができる。
≪ギア摺動面の算術平均表面粗さSa≫
本実施形態の樹脂製ギアは、他のギア歯との摺動面の表面粗さが、算術平均表面粗さSaで3.0μm以下である必要がある。算術平均表面粗さSaとは、ISO25178に準拠した測定方法で得られる値であり、算術平均表面粗さRaを面に拡張して得ることができる。算術平均表面粗さRaは、JISB0031に準拠し、樹脂製ギアの他のギア歯との摺動面(当該摺動面は、樹脂製ギアの形状に基づいて当業者によって特定できる。)における粗さ曲線を計測し、粗さ曲線の平均線方向で基準長さ(a)だけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向をX軸、縦倍率の方向をY軸とし、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記式(4)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
Figure 0006621956
また、算術平均表面粗さSaとは、算術平均表面粗さRaを面に拡張したものであり下記式(5)で表される。
Figure 0006621956
算術平均表面粗さSaの上限は0.9μmであることが好ましく、より好ましくは0.8μm、さらにより好ましくは0.7μm、最も好ましくは0.6μmである。算術平均表面粗さSaの下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、0.1μmであることが好ましい。表面粗さは、共焦点顕微鏡(例えばOPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)等の市販の顕微鏡装置を用いて測定する事が出来る。
≪ボイド≫
樹脂製ギア中のボイドは少ない方が良い。ボイドが存在する事で、その部分を起点に、ギアの歯にかかる荷重による応力集中が起こり、繰り返し疲労時の破断の起点となりうる。特に、射出成型により成形したギアのモジュールサイズが大きくなると、ボイドは大きくなる傾向にある。ボイドの存在は、ギアを歯に対して垂直方向に半分に割断し、その断面を観察し、ミクロボイドを観察する事で確認できる。例えば、共焦点顕微鏡(例えばOPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定する事で。ミクロボイドのサイズを確認する事が出来る。ボイドの最大サイズ(本開示で、樹脂製ギアの上記断面全体で観察されるボイドの円相当径の最大値として定義される。)の上限は2.0μmであることが好ましく、より好ましくは1.0μm、さらにより好ましくは0.5μm、最も好ましくは0.4μmである。ボイドは、存在しないことが好ましく、また存在する場合でもその最大サイズが小さいことが好ましいが、実用上の耐久性の観点から、例えば、ボイドの最大サイズが、0.01μm以上であってもよい。
樹脂製ギア中のボイドの数は、少ない方が好ましく、上記断面の100mm2当たり、好ましくは10個以下、より好ましくは8個以下、さらに好ましくは5個以下である。ボイドの数は、実用上の耐久性の観点から、上記断面の100mm2当たり、例えば1個以上であってもよい。
≪吸水寸法変化≫
樹脂製ギアにおいては、平衡状態(80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持)で吸水させた際の吸水寸法変化(以下、平衡吸水寸法変化ともいう。)が、3%以下であることが好ましい。実使用環境において、寸法変化が小さい方が、ギアの特定の歯に大きな荷重がかかること(応力集中)が起こりにくくなり、耐久性が向上しやすい。平衡吸水寸法変化の上限は3%であることが好ましく、より好ましくは2%、さらにより好ましくは2.5%、最も好ましくは1%である。平衡吸水寸法変化の下限は特に制限されないが、実用上の耐久性の観点から、例えば、0.5%であってもよい。
≪トルク≫
本実施形態の樹脂製ギアは、トルクが大きい使用環境においても優れた耐久性を示すことから、一態様において、トルク3N/m以上で使用される。本実施形態の樹脂製ギアの使用時のトルクの上限は、耐久性の観点から、25N/mであることが好ましく、より好ましくは20N/m、さらにより好ましくは15N/mである。トルクの下限は、本実施形態の樹脂製ギアによる良好な耐久性の利点を得る観点から、好ましくは5N/m、より好ましくは10Nである。
≪作動回転数≫
本実施形態の樹脂製ギアは、作動回転数が100rpm以上である駆動源に好ましく適用できる。したがって、本開示の一態様は、本開示の樹脂製ギアと、本開示の駆動源とを有するギア駆動体を提供する。ギアは、当該ギアが適用される駆動源の作動回転数によってその耐久性が大きく変動し、高作動回転数の使用環境下では劣化しやすい傾向がある。本実施形態の樹脂製ギアは、より高作動回転数の駆動源に適用された場合にも優れた性能を示す。駆動源は、典型的にはモータである。駆動源の作動回転数の上限は10000rpmであることが好ましく、より好ましくは5000rpm、さらにより好ましくは3000rpm、最も好ましくは2000rpmである。作動回転数の下限は特に制限されないが、本実施形態の樹脂製ギアによる良好な耐久性の利点を得る観点から、例えば、10rpm、又は100rpm、又は300rpm、又は800rpmであることが好ましい。
≪モジュール≫
本実施形態の樹脂製ギアは、モジュールが0.5以上であってよい。モジュールとは、ギアの基準円直径を歯数で除した値であり、歯車の大きさを表す。モジュールの大きさによってギアの耐久性は大きく変動する。本実施形態の樹脂製ギアは幅広いモジュール設計に亘って優れた性能を示す。モジュールの上限は5.0であることが好ましく、より好ましくは3.0、さらにより好ましくは2.0、最も好ましくは1.0である。モジュールの下限は特に制限されないが、本実施形態の樹脂製ギアによる良好な耐久性の利点を得る観点から、例えば、0.5であることが好ましい。
≪線膨張係数≫
本実施形態の樹脂製ギアは、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーを含むため、従来の樹脂製ギアよりも低い線膨張性を示すことが可能となる。具体的には、樹脂製ギアの構成材料である樹脂組成物の温度範囲0℃〜60℃における線膨張係数は60ppm/K以下であることが好ましい。線膨張係数は、より好ましくは50ppm/K以下であり、さらにより好ましくは45ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。線膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。
≪樹脂製ギアの製造方法≫
本実施形態の樹脂製ギアは、例えば、上述した(A)熱可塑性樹脂100質量部と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー1〜50質量部と、を含む、樹脂組成物を溶融混練し、特定の形状に成形すること等により製造することができる。
樹脂組成物を製造する装置としては、特に限定されず、一般に実用されている混練機が適用できる。当該混練機としては、以下に限定されるものではないが、例えば、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等を用いればよい。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が好ましい。
これら混練機を用いて、樹脂組成物を様々な形状に成形する事が可能である。樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等のさまざまな形状が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられる。ペレット形状は、押出加工時のカット方式により異なる。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
上記の方法で得られた樹脂組成物(例えば、樹脂ペレット)を、所望のギア形状の金型を備えた射出成形機に投入し成形行うことで、所望のギア形状の成形体を得る事が出来る。また、例えば、樹脂ペレットを押し出し成形機に投入し、丸棒押出しを行うことで、丸棒状の成形体を得る事が出来る。この丸棒を所望のギア形状に切削する事で所望のギア形状の成形体を得る事が出来る。これらは当業者であれば容易である。より好ましい成形方法は射出成型である。上記方法によれば、金型表面温度、射出速度、保圧等を制御する事で肉厚の成形体でもボイドが発生しにくい傾向にある。典型的な態様において、樹脂製ギアは、歯幅の寸法が例えば2〜50mmであるような肉厚の成形体である。
≪用途≫
本実施形態の樹脂製ギアは、機械的強度、耐久性及び静音性に優れるため、様々な用途に好適に使用できる。特に、歯車として、以下に制限されないが、例えば、はすば歯車、平歯車、内歯車、ラック歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギア、ねじ歯車、ウォームギア、ウォームホイールギア、ハイポイドギア、及びノビコフ歯車が挙げられる。また、上記のはすば歯車や平歯車などは、シングル歯車及び2段歯車、並びに駆動モータから多段に組み合わせ、回転ムラをなくして減速するような構造を有する組合せ歯車であってもよい。
かかる歯車が好適に用いられる部品としては、以下に制限されないが、例えばカム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイドが挙げられる。加えて、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板も挙げられる。
本実施形態の樹脂製ギアの具体的な用途としては、以下に制限されないが、例えば、オフィスオートメーション機器用機構部品、カメラ又はビデオ機器用機構部品、音楽、映像又は情報機器用機構部品、通信機器用機構部品、電気機器用機構部品、電子機器用機構部品、自動車用の機構部品(ドア周辺部品、シート周辺部品、空調器周辺部品)、自転車の機構部品(駆動モーター伝達等)、スイッチ部品、文具機構部品、住居設備の機構部品、自動販売機機構部品、スポーツ・レジャー・レクリエーション関係機器の機構部品、及び工業用機器の機構部品が挙げられる。
また、本実施形態の樹脂製ギアは、従来の樹脂製ギアと比較して、顕著に優れた耐久性及び静音性を保持できる観点から、自動車、電動車全般に適用することができる。電動車としては、以下に制限されないが、例えば、シニア四輪、バイク及び電動二輪車が挙げられる。
本実施形態の樹脂製ギアは、グリースを塗布して使用されることが好ましい。これにより、耐久性及び静音性が大きく向上し得る。
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
≪原料及び評価方法≫
以下に、使用した原料及び、評価方法について説明する。
≪(A)熱可塑性樹脂≫
(a−1)PA6 宇部興産株式会社製 UBEナイロン 1013B
(a−2)POM 旭化成株式会社製 テナックTM 4520
≪(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバー≫
(b−1)セルロースA
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で2.5時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに2時間叩解を実施し、セルロースAを得た。
(b−2)セルロースB
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾、純水中に固形分率が1.5重量%になるように叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに4時間叩解を実施し、セルロースBを得た。
(b−3)セルロースC
国際公開第2017/159823号[0108]実施例1に記載の方法でセルロースCを得た。
<(B)セルロースナノファイバーの重合度>
「第14改正日本薬局方」(廣川書店発行)の結晶セルロース確認試験(3)に規定される銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法により測定した。
<(B)セルロースナノファイバーの結晶形、結晶化度>
X線回折装置(株式会社リガク製、多目的X線回折装置)を用いて粉末法にて回折像を測定(常温)し、Segal法で結晶化度を算出した。また、得られたX線回折像から結晶形についても測定した。
<(B)セルロースナノファイバーのL/D>
(B)セルロースナノファイバーを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1〜0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長径(L)と短径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個〜150個の粒子の平均値として算出した。
<(B)セルロースナノファイバーの平均繊維径>
(B)セルロースナノファイバーを固形分40質量%として、プラネタリーミキサー((株)品川工業所製、商品名「5DM−03−R」、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練した。次いで、固形分が0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED−7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させ、遠心分離(久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA−400型、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理する。)した。遠心後の上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(堀場製作所(株)製、商品名「LA−910」、超音波処理1分間、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(体積平均粒子径)を測定し、この値を平均繊維径とした。
Figure 0006621956
≪(C)表面改質剤≫
(c−1)青木油脂工業株式会社製 ブラウノンRCW−20(CASNo.61788−85−0、静的表面張力42.4mN/m、動的表面張力52.9mN/m)
常圧下沸点100℃超。
(c−2)第一工業株式会社製 スーパーフレックス 300
(c−3)三洋化成株式会社製 PEG20000
<静的表面張力の測定>
各界面活性剤を用い、自動表面張力測定装置(協和界面科学株式会社製、商品名「CBVP−Z型」、付属のガラス製セル)を用い、ウィルヘルミー法により静的表面張力を測定した。実施例、比較例で用いた各界面活性剤は常温で液体であったので、装置に付属のステンレス製シャーレに底から液面までの高さを7mm〜9mmとなるように仕込み、25℃±1℃に調温した後に測定し、以下の式により求めた。γ=(P−mg+shρg)/Lcosθ。ここで、P:つりあう力、m:プレートの質量、g:重力定数、L:プレート周囲長、θ:プレートと液体の接触角、s:プレート断面積、h:(力が釣り合うところまで)液面から沈んだ深さ、ρ:液体の密度(実施例、比較例で用いた界面活性剤は密度が1±0.4g/mLだったので、1を用いた。)、である。
常温で固体のものは、融点以上に加熱して溶融させた後、融点+5℃の温度に調節し、上述したウィルヘルミー法により表面張力を測定した。
<動的表面張力の測定>
各界面活性剤を用い、動的表面張力計(英弘精機株式会社製 製品名シータサイエンスt−60型、プローブ(キャピラリーTYPE I(ピーク樹脂製)、シングルモード)を使用し、最大泡圧法により気泡発生周期を10Hzで動的表面張力を測定した。実施例、比較例で用いた各界面活性剤を5質量%としてイオン交換水に溶解又は分散し測定液を調製し、その溶液又は分散液100mLを、100mL容量のガラス製ビーカーに仕込み、25℃±1℃に調温された後、測定された値を用いた。動的表面張力は、以下の式により求められた。σ=ΔP・r/2。ここで、σ:動的表面張力、ΔP:圧力差(最大圧力−最小圧力)、r:キャピラリー半径、である。
≪(D)金属イオン成分≫
(d−1)ヨウ化銅(I) 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化銅(I)
(d−2)ヨウ化カリウム 和光純薬工業製 商品名 ヨウ化カリウム
(d−3)ステアリン酸カルシウム 堺化学工業社製 商品名 ステアリン酸カルシウム
≪(E)摺動剤成分≫
(e−1)ワックス ベーカーペトロライト社製 商品名 ユニシド700(融点110℃)
(e−2)エチレンビスステアリルアミド ライオン製 商品名 アーモワックス EBS(融点145℃)
≪(F)ガラスファイバー≫
(f−1)平均繊維径φ10μm 旭ファイバーグラス(株)製 商品名 JAFT756
(f−2)平均繊維径φ13μm 日本電気ガラス(株)製 商品名 ECS03T−651P
≪製造条件≫
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM−26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、ポリアミド系材料は260℃、ポリオキシメチレン系材料は200℃にシリンダー温度を設定し、(A)、(B)成分、場合により(C)成分、(D)成分並びに付加的成分を一括混合し、押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断しペレット形状の樹脂組成物を得た。
≪成形条件・多目的試験片≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を射出成形機を用いて、ISO294−3に準拠した多目的試験片を成形した。
ポリアミド系材料:JIS K6920−2に準拠した条件
ポリオキシメチレン系材料:JIS K7364−2に準拠した条件
なお、ポリアミド系材料は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
≪評価条件・多目的試験片≫
先の≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片を、ISO527に準拠して引張降伏強度及び引張破断伸び、ISO179に準拠して、曲げ弾性率を測定した。
≪エージング試験≫
エスペック株式会社製GPH−102を用いて150℃雰囲気にて多目的試験片の暴露試験を実施した。暴露後のサンプルはアルミ袋に保管し、ISO527に準拠して引張降伏強度を測定した。この時の強度保持率は暴露0日の多目的試験片を基準(100%)とし、引張降伏強度が80%を保持している日数を評価した。
≪摩耗量≫
上記≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製AFT−15MS型)、及び相手材料としてSUS304試験片(直径5mmの球)を用いて、線速度50mm/sec、往復距離50mm、温度23℃、湿度50%で、摺動試験を実施した。摩擦係数は下記試験条件終了時の値を採用した。また摩耗量は摺動試験後のサンプルの摩耗量(摩耗断面積)を、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。摩耗断面積はn=4で測定した数値の平均値とし、小数点第一位で四捨五入した。測定箇所は摩耗痕の端より12.5mmの位置とし、等しい間隔をあけて実施した。また摩耗断面積は数値が低い方が摩耗特性に優れると評価した。
試験条件:荷重9.8N、往復回数10,000回
≪吸水寸法変化≫
上記≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片について、平衡状態(80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持)とした後、吸水前後のそれぞれの外径寸法を株式会社ミツトヨ製のデジタル精密ノギスにて測定し、平衡吸水寸法変化(%)=(吸水後寸法)/(吸水前寸法)×100、を算出した。吸水前とは成形直後の多目的試験片をアルミ袋に保管し、常温に戻った状態を言う。
≪線膨張係数≫
先の≪成形条件・多目的試験片≫で得られた多目的試験片の中央部から、精密カットソーにて縦4mm、横4mm、長さ10mmの直方体サンプルを切り出し、測定温度範囲−10〜80℃で、ISO11359−2に準拠して測定し、0℃〜60℃の間での膨張係数を算出した。
≪成形条件・ギア成形A≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i−A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール0.8、歯数50、歯幅5mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては、鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
≪成形条件・ギア成形B≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i−A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール0.8、歯数50、歯幅12mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては、鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
≪成形条件・ギア成形C≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機(商品名「α50i−A射出成形機」)を用いて、シリンダー温度をポリアミド系材料について250℃、ポリオキシメチレン系材料について190℃とし、金型温度80℃、射出圧力120MPa、射出時間10秒、冷却時間60秒の射出条件で射出成形し、モジュール1.5、歯数50、歯幅12mmの平歯車を得た。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。この時の金型表面としては鏡面仕上げ、シボ仕上げの2種を用いた。鏡面仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは0.03、シボ仕上げの金型表面の算術平均表面粗さRaは2.0とした。
≪アニール処理≫
先の≪成形条件・ギア成形A≫、≪成形条件・ギア成形B≫、≪成形条件・ギア成形C≫で得られた平歯車を、ポリアミド系材料については130℃1時間(A条件)、ポリオキシメチレン系材料については140℃5時間(B条件)、エスペック株式会社製GPH−102を用いて加熱処理した。
≪ギア摺動面の算術平均表面粗さSa≫
先の≪成形条件・ギア成形A≫、≪成形条件・ギア成形B≫、≪成形条件・ギア成形C≫で得られた平歯車、又は先の≪アニール処理≫によるアニール後の平歯車を用いて、1つの平歯車につき任意の5個の歯を切りだし、各歯の表面の面内方向中心部の100μm角の面積について、ISO25178に準拠して表面粗さ(算術平均表面粗さSa)を測定した。また、測定した5個の歯のSa(すなわち各平歯車についてn=5、各歯についてはn=1回の測定)で数平均値を算出した。この時上記表面粗さは、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いて測定した。
≪ギア耐久性試験≫
先の≪成形条件・ギア成形A≫、≪成形条件・ギア成形B≫、≪成形条件・ギア成形C≫で得られた平歯車を、東芝機械(株)製の歯車耐久試験機に同材同士の歯車を編み合わせて設置した。片方の歯車を駆動側、もう一方の歯車を従動側とした。次に、駆動側の歯車を下記条件で回転させ、歯車が破壊するまでの時間(耐久時間)を測定した。
耐久性試験A:トルク5N/m、回転数1000rpm
耐久性試験B:トルク5N/m、回転数2000rpm
耐久性試験C:トルク15N/m、回転数1000rpm
耐久性試験D:トルク20N/m、回転数1000rpm
また、耐久性試験Aにおいて、吸水寸法変化を、先の≪吸水寸法変化≫と同様に測定した。
≪静音性の評価≫
静音性については、≪ギア耐久性試験≫の際に評価した。駆動側の歯車の軸より50mm離れた箇所にマイクを設置し、ギア耐久性試験開始後、60分後から1分間、騒音計(JIS C1502準拠)にて騒音レベルを測定し、以下の基準で評価した。
◎:最大の騒音レベルが70dB未満
○:最大の騒音レベルが70dB以上75dB未満
△:最大の騒音レベルが75dB以上85dB未満
×:最大の騒音レベルが85dB以上
≪成形条件・丸棒ギア成形≫
先の製造条件で得られたペレット形状の樹脂組成物を、引き取り装置と、押出機ダイ部に水冷ゾーンを有した30mm単軸固化押出成形機に供給し、シリンダー温度をポリアミド系材料について280℃、ポリオキシメチレン系材料について230℃に設定し、直径60mmの丸棒を固化押出した。この際、押出成形体のヒケと、ミクロボイドの発生を抑制するため、押出速度が3mm/分となるよう、引き取り装置をダイ側に向かって駆動させた。得られた丸棒を切削し、≪成形条件・ギア成形A≫と同じ歯車に成形した。なお、ポリアミド系材料については、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋にて保管し、吸湿を抑制した。
≪ボイドの観察≫
先の≪成形条件・ギア成形A≫で得られたギアを射出成型ギア、≪成形条件・丸棒ギア成形≫で得られたギアを丸棒切削ギアとし、各々のギアを歯に対して垂直方向に半分に割断し、その断面を観察し、ミクロボイドの有無を確認した。観察には、共焦点顕微鏡(OPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)を用いた。ミクロボイドが観察されたものについては、そのボイドが発生している領域の大きさを測定し、発生領域の円相当径の直径で数値として表した。観察されたボイドのうち最大値を記録した。
[実施例1〜12及び比較例1〜5]
ポリアミド系樹脂組成物を表2及び3記載の方法で得た。これらを上述した評価方法に準拠して成形及び評価した。結果を表2及び3に記載する。
Figure 0006621956
Figure 0006621956
[実施例13〜16及び比較例6〜9]
ポリアセタール系樹脂組成物を表4記載の方法で得た。これらを上述した評価方法に準拠して成形及び評価した。結果を表4に記載する。
Figure 0006621956
本発明の樹脂製ギアは、特に耐久性と静音性が要求される自動車機構部品の分野において有用である。

Claims (19)

  1. (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下であり、トルク3N/m以上で使用される、樹脂製ギア。
  2. (A)熱可塑性樹脂と、(B)平均繊維径が1000nm以下であるセルロースナノファイバーとを含み、他のギア歯との摺動面の算術平均表面粗さSaが0.8μm以下である、樹脂製ギア。
  3. 80℃熱水中に24時間暴露させ、その後、80℃相対湿度57%の条件下で120時間保持して吸水させた際の吸水寸法変化が、3%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂製ギア。
  4. 前記樹脂製ギア内のボイドの最大サイズが1.0μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  5. トルク5N/m以上で使用される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  6. トルク10N/m以上で使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  7. (A)熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びポリフェニレンスルフィド系樹脂からなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  8. (A)熱可塑性樹脂がポリアミド及びポリアセタールからなる群より選択される1種以上の樹脂である、請求項7に記載の樹脂製ギア。
  9. (C)表面改質剤を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  10. (C)表面改質剤の数平均分子量が200〜10000である、請求項9に記載の樹脂製ギア。
  11. (C)表面改質剤を、(B)セルロースナノファイバー100質量部に対して1〜50質量部含む、請求項9又は10に記載の樹脂製ギア。
  12. (D)金属イオン成分を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  13. (D)金属イオン成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.005〜5質量部含む、請求項12に記載の樹脂製ギア。
  14. (E)摺動剤成分を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  15. (E)摺動剤成分を、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部含む、請求項14に記載の樹脂製ギア。
  16. (E)摺動剤成分の融点が40〜150℃である、請求項14又は15に記載の樹脂製ギア。
  17. モジュールが2.0以下である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の樹脂製ギア。
  18. 請求項1〜17のいずれか一項に記載の樹脂製ギアと、作動回転数800rpm以上のモータである駆動源とを有する、ギア駆動体。
  19. 前記モータが、作動回転数10000rpm以下のモータである、請求項18に記載のギア駆動体。
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