本発明者は、特許文献1及び2の手法を用いて維管束植物のAEを測定することにより、恒温室のような温度制御が施された環境下でも、例えばミニトマトのような維管束植物の栽培における灌水条件を変動させると、灌水前後のキャビテーションに起因するAEの発生頻度の変化率と、果実の収量及び糖度に相関があるという知見を得た。
上記知見を基礎にした本発明の第1〜第3の実施の形態を、図面を参照して以下に説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
また第1〜第3の実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。更に、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」に、「右」が「左」になることは勿論である。
内部情報測定系(1a,1b,11)及び環境因子測定系(12〜15,51a)の一部は、維管束植物2aに取り付けられた内部情報測定用センサ(1a,1b)から内部情報のデータを取得する内部情報測定装置11と、外部環境を測定する環境因子測定用センサ(12〜15)から維管束植物2aの生育状態に影響を与える環境因子の変動データを取得する環境因子測定制御ユニット51aとはデータ測定装置7aによってポータブルに構成され、ビニールハウス10等の維管束植物2a,2bの生育現場に容易に配置できるようになっている。
データ測定装置7aはデータバス72を更に備える。内部情報測定装置11に入力された内部情報のデータ及び環境因子測定制御ユニット51aに入力された環境因子の変動データは、データバス72を介して一時記憶装置71に記憶される。無線ユニット73は一時記憶装置71に記憶されたデータを、アンテナ83を介して演算制御装置30に送信する。データ測定装置7aからの内部情報のデータ及び環境因子の変動データの送信は、サンプリングの都度逐次的に実行されてもよいし、或いは一定時間送信せずに、一時記憶装置71に蓄積した後でまとめて送る処理を定期的に行って実行してもよい。
なお、図1には2本の維管束植物2a,2bが示されているが模式的な例示にすぎない。現実の農家のビニールハウス10内には数十本乃至数百本以上の多数本の維管束植物が存在する。同様に、図1では、便宜上、データ測定装置7aが1台の場合が模式的に例示されているにすぎない。実用上は、ポータブルなデータ測定装置を、ビニールハウス10内に複数台、任意の箇所に設置することが好ましい。同じビニールハウス10の中であっても,ビニールハウス10内の場所により環境因子の値は大きく異なる場合があるため,維管束植物の生育状態がビニールハウス10内の場所に依存する可能性があるからである。又、ビニールハウス10内の場所により環境因子の値は大きく異なる場合があるため,特定の地点での環境因子の測定値を用いて相関係数を算出しても,他の場所の維管束植物の成育状態を適切に診断できないおそれも考慮する必要があるからである。
AE測定などの内部情報測定装置を取り付ける維管束植物(以下において「サンプリング植物」という。)の周辺の環境因子を測定した方が、より的確に対象とするサンプリング植物の生育状態を診断することができる。現実の農家は、実用上、多数本の維管束植物の内から、複数のサンプリング植物を、ビニールハウス10内の複数の場所に分散して選択することになる。図1における日射計12、温度計13、湿度計14等の配置も、図面を簡略化した模式的な例示にすぎない。これらの配置は、実用上は、それぞれのサンプリング植物の近傍に、それぞれのサンプリング植物毎にグループ分けして設定される。そして、複数台のデータ測定装置を用意することにより、ビニールハウス10内の複数の場所に選択したサンプリング植物のそれぞれに対し、ポータブルなデータ測定装置をサンプリング植物に個別に割り当てることができる。
図示を省略しているが、複数台のデータ測定装置を用いることにより、それぞれのサンプリング植物の個別の内部情報のデータと、この個別の内部情報に対応する環境因子の変動データを、ビニールハウス10内の複数の場所において、互いに独立して測定することが可能となる。ビニールハウス10内の複数の場所に配置された複数台のデータ測定装置のそれぞれのアンテナから、図1に示した演算測定装置30に、内部情報のデータや環境因子の変動データがパラレルに送信される。
維管束植物2aの軸部に取り付けられた第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bと、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bに接続された内部情報測定装置11によって内部情報としてのAEを測定する。第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bは、内部情報測定系(1a,1b,11)の「内部情報測定用センサ」を構成する。
また生育診断装置は、維管束植物2aに照射される光の強度を測定する日射計12と、維管束植物2aの外部の気温を測定する温度計13と、維管束植物2aの外部の湿度を測定する湿度計14と、維管束植物2aの土壌水分を測定する土壌水分センサ15と、を備える。日射計12、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15のそれぞれは、第1の実施の形態の環境因子測定系(12〜15,51a)の「環境因子測定用センサ」を構成する。
維管束植物としては、大半の草と樹木が含まれる。図1に示した維管束植物2aは、例えばトマトであり、ビニールハウス10の中に設置された栽培ベッド4の上に、複数個載置され栽培されている。図1中には、2本の維管束植物(トマト)2a,2bの株がそれぞれ不織布ポット3a,3bの中に固定された状態が例示されている。図示を省略したが、実際には図1中の左右の両端に向かって複数のトマト株が配列されている。また図1中の紙面を正面から見た方向である奥行方向にも、複数のトマト株の列が繰り返し配置され定植されている。
複数のトマト株のうち、一部のトマト株が、本発明に係る生育診断方法の対象として選定されAEセンサが取り付けられる。第1の実施の形態では、図1中の2本のトマト2a,2bのうち左側のトマト2aの茎の表面に、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bが上下に間隔を空けて設けられている。AEセンサは、トマトの主軸(茎)、側軸又は葉(葉脈、葉柄)(以下、これらをまとめて「軸」と称する。)のいずれにも設けることが可能である。第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bは、圧電式、エレクトレット式、静電式等の振動センサであり、例えば20kHz〜1000kHz(望ましくは50〜200kHz)の超音波領域の振動が検出可能である。
第1AEセンサ1aは、キャビテーションの発生箇所の最も近くに配置され、第1AEセンサ1aのみでキャビテーションに起因したAEの発生を内部情報として測定する。一方、第2AEセンサ1bは、第1AEセンサ1aが検知した、騒音や茎の振動等のノイズに起因した内部情報と同一の内部情報の検知は行えるものの、第1AEセンサ1aで検知したキャビテーションに起因した内部情報の検知は行えないような相対位置関係で取り付けられている。第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bが検知した内部情報は、内部情報測定装置11に入力される。
内部情報測定装置11は、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bから入力されたそれぞれの内部情報の信号から、ノイズに起因した内部情報を取り除いて、キャビテーションに起因した内部情報だけを検知し、検知したAEを演算制御装置30に入力する。入力された内部情報のデータは、演算制御装置30を介してデータ記憶装置42に格納される。内部情報測定装置11のAEのサンプリング間隔は、内部情報測定装置11に予め設定されているサンプリング速度に応じて適宜決定される。
日射計12は、ビニールハウス10の上部に設けられ、トマト2aに照射される日射量を環境因子の変動データとして経時的に測定する。「日射量」は光因子の一つであり、年間を通じて経験的に0〜0.9kW/m2程度の範囲で測定される。測定された日射量のデータは、環境因子測定制御ユニット51aを介して演算制御装置30に入力される。光因子としては、日射量の他に、例えば太陽光の照度が採用可能であり、経験的に0〜100,000Lx程度の範囲で測定される。他にも光因子としては、太陽光の光量子密度を採用できる。
温度計13及び湿度計14は、ビニールハウス10の内部に設けられ、トマト2aの外部の温度及び湿度をそれぞれ環境因子の変動データとして経時的に測定する。「温度」は年間を通じて経験的に−10℃〜60℃程度の範囲で測定される。また「湿度」は相対湿度であり、年間を通じて0〜100%程度の範囲で測定される。測定された温度及び湿度のデータは、環境因子測定制御ユニット51aを介して演算制御装置30に入力される。尚、温度計13及び湿度計14は、別々に設けられても一体的に構成された上で設けられてもよい。
土壌水分センサ15は、トマト2aの不織布ポット3a内の土壌に差し込んで設けられ、土壌水分を環境因子の変動データとして経時的に測定する。「土壌水分」は環境因子となる根圏水分因子の一つであり、年間を通じて風乾〜飽和の範囲で測定される。土壌水分は体積含水率で表されてもよいし、灌水時刻や灌水時間等の灌水条件から算出する予測値で表すこともできる。測定された土壌水分のデータは、環境因子測定制御ユニット51aを介して演算制御装置30に入力される。
根圏水分因子としては、土壌水分の他に、例えば土壌もしくは養液の誘電率や電気伝導度が採用可能である。誘電率及び電気伝導度は、土壌を用いない水耕栽培等で根圏水分因子として有効に使用できる。他にも根圏水分因子としては、灌水条件や根圏空間の相対湿度を採用でき、水耕栽培で有効に使用できる。すなわち本発明は、培地、無培地、水耕栽培といった栽培状態の如何に関わらず適用可能である。
日射量、温度、湿度及び土壌水分のそれぞれの、相関係数の算出に用いられる環境因子に関するデータは、AE発生数の場合と同様に、いずれも相対量すなわち時間に対する変化量(差分値)を用いた相対値を使用できる。また測定値は校正して厳密な値を求める必要はない。それぞれの環境因子に関するデータは、1〜16ビット(bit)(望ましくは3〜8ビット(bit))のデジタル値として測定される。
また日射量、温度、湿度及び土壌水分のそれぞれの環境因子の変動データのサンプリング間隔は、それぞれを測定する装置に予め設定されているサンプリング速度に応じて適宜決定されるが、環境因子毎に互いに異なっていてもよい。サンプリングされた日射量、温度、湿度及び土壌水分の少なくともいずれかである環境因子の変動データは、演算制御装置30を介してデータ記憶装置42に格納される。
演算制御装置30は、例えばコンピュータの中央演算処理装置(CPU)又はプロセッサで実現することが可能であり、演算制御装置30には入力装置41及びデータ記憶装置42が接続されている。演算制御装置30は、データ記憶装置42の内部に格納されたデータにアクセス可能に構成されている。また演算制御装置30には送受信用のアンテナ84を有する無線ユニット74が接続されている。
演算制御装置30は、図2のブロック図に示すように、相関係数を算出するために必要な一定の時間幅で内部情報としてのAEの発生数のデータ列を作成するAEデータ列作成部301を有する。また演算制御装置30は、相関係数を算出するために必要な、一定の時間幅における、日射量のデータ列を作成する日射量データ列作成部302、温度のデータ列を作成する温度データ列作成部303、湿度のデータ列を作成する湿度データ列作成部304及び土壌水分のデータ列を作成する土壌水分データ列作成部305の少なくともいずれかを有する。
尚、AEデータ列作成部301の機能をデータ測定装置7aの内部情報測定装置11に含ませ、日射量データ列作成部302、温度データ列作成部303、湿度データ列作成部304及び土壌水分データ列作成部305の各機能を環境因子測定制御ユニット51aに含ませるようにし、作成したデータ列を一時記憶装置71に保存するようにしてもよい。一時記憶装置71に保存されたデータは、無線ユニット73、アンテナ83、アンテナ84及び無線ユニット74を介して、演算制御装置30に送信される。
また演算制御装置30は、一定の時間幅におけるAE発生数と、日射量、温度、湿度及び土壌水分の少なくともいずれかとの相関係数を算出する相関係数算出部307を有する。また演算制御装置30は、算出された相関係数が一定の閾値以上であるか否かを判定する相関係数判定部308を有する。相関係数判定部308は後述する生育補助装置で用いられる。
キャビテーションに起因したAEだけを内部情報として検知する方法としては、例えば特許文献2に記載の方法を使用できる。具体的には例えば、内部情報測定装置11において、内部情報測定用センサとしての第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bから入力されたそれぞれの内部情報の信号をAD変換した後、IIRフィルタ等のバンドパスフィルタを介して生成した信号を出力する。バンドパスフィルタとしては、例えば20〜100kHzの周波数の信号を抽出するバターワース6次のバンドパスフィルタ回路を使用できる。
そして第1AEセンサ1aの出力信号と第2AEセンサ1bの出力信号の2個の出力信号において、所定の閾値を超えた突発信号が検知されたときに、2個の出力信号の振幅を比較し、一方が他方より一定値以上大きい場合には、有効な内部情報を検出したと判定して、出力信号の大きさと共に検出した内部情報の検出時刻を、演算制御装置30に入力する。出力信号の振幅の比較に用いる値としては、12dB程度を使用できる。演算制御装置30に入力された出力信号の大きさ及び検出時刻は、データ記憶装置42に格納される。
一方、2個の出力信号の振幅の比較において大きさの違いが一定値未満である場合には、有効な内部情報を検出していないと判定して、上記した突発信号の検知処理に戻る。このようにして演算制御装置30に、相関係数の算出に必要なAE発生数の経時的なデータを内部情報のデータとして蓄積する。尚、相関係数の算出に用いられるAE発生数の測定値としては、実際の測定値の他、時系列に隣接する2つのデータの差分値を逐次算出して変化量又は相対値を使用してもよい。また相関係数の算出ができればよいので、測定値は校正して厳密な値を求める必要はない。
次にステップS2において、演算制御装置30の無線ユニット74は、アンテナ84を介して光、温度、湿度及び根圏水分のうち少なくともいずれかである環境因子の変動データを、データ測定装置7aから受信する。例えば演算制御装置30は、データ測定装置7aが日射計12を介して経時的に測定した日射量データを受信してデータ記憶装置42に蓄積する。或いは演算制御装置30は、データ測定装置7aが温度計13を介して経時的に測定した温度データを受信してデータ記憶装置42に蓄積する。また演算制御装置30は、データ測定装置7aが湿度計14を介して経時的に測定した湿度データを受信してデータ記憶装置42に蓄積する。また演算制御装置30は、データ測定装置7aが土壌水分センサ15を介して経時的に測定した土壌水分データを受信してデータ記憶装置42に蓄積する。ステップS2の環境因子(光、温度、湿度、根圏水分)の変動データの測定タイミングとステップS1の内部情報の測定タイミングは、互いに重複する時系列となるように行われる。
次にステップS3において、演算制御装置30のAEデータ列作成部301は、データ記憶装置42に蓄積された内部情報としてのAE発生数の検出時刻又は一定のサンプリング間隔s毎のAE発生数を用いて、図4(a)のグラフ図に示すように、AE発生数のデータ集団を作成する。サンプリング間隔sは、1秒程度〜1日程度であり、望ましくは1分程度〜1時間程度である。尚、図4(a)中に例示された、時刻t1〜t31,…において記録された離散データa1,a2,…a6,…a11、…の横軸からのそれぞれの高さは発生数の多少を表している。
次にAEデータ列作成部301は、図4(b)のグラフ図に示すように、図4(a)に示した測定値の離散データを一定の時間間隔ti毎の測定値に変換して補正し、相関係数を算出するためのデータ列を作成する。データ列の作成は、測定値の離散データa1,a2,…a6,…a11、…を間引いて残った離散データをデータ列として算出して行ってもよいし、或いは一定の時間間隔tiに含まれる複数のデータの平均値を時間間隔ti毎に求めて行ってもよい。
また時間間隔tiに比して測定できる内部情報としてのAE発生数が少なくなることや、或いは反対に、突発的に多くなり、データの変動量が極端に大きくなる場合が考えられる。その場合、一定の時間間隔tiを1時間程度〜1月程度、望ましくは6時間程度〜24時間程度の範囲内において、変動量を抑制するような値に設定することができる。また時間間隔tiの設定に加え、更に測定したデータに単純移動平均、荷重移動平均、指数移動平均等の移動平均処理を施して変動量を抑制してもよい。
時間間隔tiは、図4(b)に示すように、サンプリング間隔sを所定の個数、累積して設定される。すなわち時間間隔tiは、データ列の要素間の時間の長さであり、相関係数を算出する対象期間(生育診断期間)のすべての時間長さを、同じ時間で分けるための単位時間をなしている。
図4(b)中には、t1≦t<t6の区間において、区間開始の最初の時点で測定された先頭の離散データa1が、この区間を代表するデータ列として選定され、他の離散データa2〜a5は間引かれた状態が例示されている。また次のt6≦t<t11の区間においても、先頭の離散データa6がこの区間を代表するデータ列として選定されると共に、更に次のt11≦t<t16の区間においても、先頭の離散データa11が、この区間を代表するデータ列として選定された状態が例示されている。
次にステップS4において、演算制御装置30の日射量データ列作成部302は、データ記憶装置42に蓄積された日射量の検出時刻毎のデータを用いて相関係数を算出するためのデータ集団を作成する。或いはステップS4において、日射量データ列作成部302は、一定のサンプリング間隔sL毎の日射量データを用いて、図4(a)に示したAE発生数の場合と同様に、日射量のデータ集団を作成する。そして図4(b)に示したAEのデータ列の場合と同様に、日射量の測定値の離散データを一定の時間間隔ti毎の測定値に変換して補正し、相関係数を算出するためのデータ列を作成する。サンプリング間隔sLは、図4(a)に示したサンプリング間隔sと同じでも、異なっていてもよいが、sLとsの公倍数がtiに等しいことが望ましい。
環境因子に温度を含む場合は、演算制御装置30の温度データ列作成部303は、日射量の場合と同様に、温度のデータ集団を作成し、作成したデータ集団から一定の時間間隔ti毎の温度のデータ列を作成する。環境因子に湿度を含む場合は、演算制御装置30の湿度データ列作成部304は、同様に湿度のデータ集団を作成し、作成したデータ集団から一定の時間間隔ti毎の湿度のデータ列を作成する。環境因子に根圏水分度を含む場合は、演算制御装置30の土壌水分データ列作成部305は、同様に土壌水分のデータ集団を作成し、作成したデータ集団から一定の時間間隔ti毎の土壌水分のデータ列を作成する。
次にステップS5において、演算制御装置30の相関係数算出部307は、内部情報のデータとしてのAEのデータ列と環境因子のデータ列を用いて、一定の時間幅twについて、相互の相関係数を算出する。相関係数は、例えば内部情報のデータ列をxi、環境因子のデータ列をyiとしたとき、下記の式(1)で表される。
時間幅twは、図4(c)のグラフ図に示すように、時間間隔tiを所定の個数、累積して設定される。時間幅twの長さは、経験則により1時間程度〜1月程度であり、望ましくは6時間程度〜24時間程度である。図4(c)に例示したデータ列の場合、t1≦t<t16の区間からなる時間幅twについては、丸印で表された3個のデータ列a1,a6,a11が相関係数の算出に用いられることになる。またt16≦t<t31の区間からなる時間幅に3個のデータ列が含まれ、これら3個のデータ列が直前の時間幅tw(t1≦t<t16)の場合と同様に、相関係数の算出に用いられることになる。このように式(1)で表される内部情報のデータと環境因子の変動データとの相関係数の算出は、同じ時間幅twの範囲内で行われる。
相関係数の算出には、内部情報と環境因子の測定値を、対数、指数、べき乗関数などのスケールを変換して用いてよい。また相関係数の算出には、時間間隔ti毎のそれぞれの測定値の変化量や変化率を、データ列として用いてもよい。
(温度との相関係数CT及び光との相関係数CLを用いた生育診断方法の例)
次に、第1の実施の形態に係る生育診断方法の実施例を、図1のビニールハウス10を用いる場合について説明する。図1に示す約4m×約8mの矩形状の地面を内部に有するビニールハウス10内で、トマト(品種:桃太郎はるか、タキイ種苗)を栽培し、内部情報及び環境因子を測定した。栽培は、冬期(11下旬から5月上旬)、夏期(7月下旬〜11月上旬)の2つの期間で行い、それぞれの期間において、内部情報と環境因子の相関係数を算出した。
栽培条件としては、32本のトマトの苗を30日間育苗後、ビニールハウス10内に定植した。栽培ベッド4の上には不織布ポット3a,3bを設置し、不織布ポット3a,3b内の上部にトマト2a,2bの株を固定し、無培地で栽培した。そして定期的にドリッパーを用いて各株に養液の点滴灌水を行った。この時、養液の電気伝導度は0.5mS/mとした。そして32本のトマト株を16個ずつ2区に分け、一方は乾燥ストレスが発生しない十分な灌水条件に固定した「対照区」、他方は乾燥ストレスが発生するようにファジー制御により灌水時間又は灌水間隔を変動させた「ファジー区」として設定した。灌水条件を以下に示す。
冬期
対照区:灌水間隔30分、灌水時間15分
ファジー区:灌水間隔30分、灌水時間1分〜20分以内
夏期
対照区:灌水間隔6分、灌水時間1分
ファジー区:灌水間隔3分以上〜120分以下、灌水時間1分
そして、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bとしてNECトーキン社の振動センサを、図1に示したように、同じトマト2aの株の茎の上下に取付けた。また内部情報測定用センサとしての第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bに内部情報測定装置11を接続して内部情報測定系(1a,1b,11)を構成した。
また環境因子測定用センサとしての温度計13及び湿度計14としてオムロン社製の温湿度ロガーを、図1に示したようにビニールハウス10内に設置した。また環境因子測定用センサとしての日射計12を同様にビニールハウス10内に設置し、温湿度ロガ−及び日射計12により環境因子測定系(12,13,14,15)を構成した。
そして図3のステップS1において、内部情報測定系(1a,1b,11)により、キャビテーションに起因したAEだけを検出し、検出数と秒単位の検出日時を記録した。そして内部情報測定系(1a,1b,11)を対照区とファジー区にそれぞれ導入し、内部情報測定系(1a,1b,11)から得たデータから、サンプリング間隔s=1秒で図5のグラフ図に示すように、AE発生数を算出し、AE発生数を対照区及びファジー区毎に測定した。
次にステップS2において、環境因子測定系(12,13,14,15)により、温度、湿度及び日射量の測定値を、いずれもサンプリング間隔s=5分で、AEの測定と同時に測定して記録した。
次にステップS3において、時間間隔tiを1時間とし、図6のグラフ図に示すように、AEの発生数のデータ列を算出して作成した。更にAE発生数のデータ列の中の連続する2値間の差分(変化量)(Δxi=xi−xi−1)を算出した。
次にステップS4において、AEの場合と同じ1時間の時間間隔tiで、図7(a)のグラフ図に示すように、温度データ列を、時間間隔ti毎の平均値を算出して作成した。そして図8(a)のグラフ図に示すように、温度データ列の変化量ΔTをAEの場合と同様に連続する2値間の差分によって算出した。またti=1時間として、図7(b)のグラフ図に示すように、日射量データ列を、時間間隔ti毎の平均値を算出して作成した。そして図8(b)のグラフ図に示すように、日射量データ列の変化量ΔLをAEの場合と同様に連続する2値間の差分によって算出した。また同じ1時間の時間間隔tiで、湿度データ列を、時間間隔ti毎の平均値を算出して作成した。そして湿度データ列の変化量ΔHを連続する2値間の差分によって算出した。
次にステップS5において、時間幅twを1日とし、図9のグラフ図中に正方形状のデータ点を実線で結んだ軌跡で示すように、温度との相関係数CTを算出した。また時間幅twを同じ1日とし、図9のグラフ図中に正円状のデータ点を破線で結んだ軌跡で示すように、光との相関係数CLを算出した。また図示を省略しているが、時間幅twを同じ1日とし、湿度との相関係数CHを算出した。
一般的に、環境因子である温度及び日射量が増加すると、内部情報のデータとしてのAE発生数は増加する傾向を有する。また環境因子である湿度が低下すると、AE発生数は増加する傾向を有する。そのため温度及び日射量が増加する時期には、AE発生数は温度及び日照に対して正の相関を示すことが多く、図9に示したように、相関係数は正の値を示すことが多くなる。
図9に示したAE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLの挙動から分かるように、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLが大きいほど、維管束植物2aの蒸散速度や成長速度が、環境に応じて変化している。つまり相関係数が大きい場合、日射量が強いときには光合成がより活発に行われると共に、温度が高いときには植物がより成長する。従って、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLが大きいほど、植物は健全に生育していると診断できる。
冬期では、図10のグラフ図に示すように、栽培期間の経過に従い、実線で示したAE発生数と温度の相関係数CT及び破線で示したAE発生数と光の相関係数CLがいずれも上昇する傾向が表れた。特に栽培日数120日付近までは明らかな上昇基調であり、トマトの株の成長に伴って、より活発に光合成と成長が行われていることが分かる。一方、夏期では、図11に示すように、栽培日数60日付近から、実線で示したAE発生数と温度の相関係数CT及び破線で示したAE発生数と光の相関係数CLが、冬期とは逆に、いずれも減少する傾向が表れた。尚、図10及び図11に示した相関係数の変化はいずれも、14日間の指数加重移動平均値をプロットして作成した。
また図12(a)のグラフ図に示すように、AE発生数と温度の相関係数CTの累積値ΣCTが大きくなるほど収量が増加した。また図12(b)のグラフ図に示すように、AE発生数と光の相関係数CLの累積値ΣCLが大きくなるほど糖度が増加した。
また図12で示したように、夏期の対照区で栽培されたトマトAs及びファジー区で栽培されたトマトBsは、冬期の対照区で栽培されたトマトAw及びファジー区で栽培されたトマトBwに比べ、いずれの株も収量及び糖度が大幅に低下した。図12に示した結果により、夏期の相関係数CT及び相関係数CLの累積値が、冬期の相関係数CT及び相関係数CLの累積値より小さくなると、トマトの果実の収量及び糖度が低下することが分かる。夏期の相関係数CT及び相関係数CLの累積値が小さくなるのは、図11に示したように、相関係数CT及び相関係数CLが、トマトの栽培途中で小さくなることに起因している。
また図12で示したように相関係数を単純に累積するだけでなく、複数の相関係数を、それぞれに所定の係数を乗じた上で、これらの差分を求めるように組み合わせた指標を用いてもよい。例えば図13(a)に示すように、AE発生数と温度の相関係数CTの累積値の2倍値(2ΣCT)から、AE発生数と光の相関係数CLの累積値(ΣCL)を引いた値(2ΣCT−ΣCL)は、トマトの収量と強い相関関係があることが分かる。また図13(b)に示すように、AE発生数と光の相関係数CLの累積値の1.5倍値(1.5ΣCL)からAE発生数と温度の相関係数CTの累積値(ΣCT)引いた値(1.5ΣCL−ΣCT)は、トマトの平均糖度と強い相関関係があることが分かる。
このように、栽培中のAE発生数と温度の相関係数CTとAE発生数と光の相関係数CLから上記のように組み合わせた指標を算出することにより、栽培中のトマトの収量及び糖度をより正確に予測することが可能になる。尚、指標を構成するための係数や差分の組み合わせパターンは、経験則により適宜設定される。
また図14に示すように、湿度との相関係数CHの累積値ΣCHも、収量と強い相関があることが分かる。このようにAE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CL以外の、AE発生数と湿度の相関係数CHやAE発生数と土壌水分の相関係数CSも、相関係数CT及び相関係数CLと同様に取り扱って生育診断方法を行うことができる。
ただし湿度及び土壌水分を環境因子として用いる場合、測定値が減少するほど、AEの発生が促進される面があるため、測定値及び変化量をそのままデータ列として使用すると、AEと負の相関を示すことが多くなる。従って、湿度及び土壌水分については、AE発生数と温度の相関係数CTやAE発生数と光の相関係数CLと極性を合わせるために、測定値及び変化量の数値の極性を逆転させて用いると、生育診断における取扱い性が高まる。
(灌水との相関係数を用いた生育診断方法の例)
次に、内部情報のデータとしてのAE発生数と環境因子としての灌水の相関係数を用いた生育診断方法を説明する。
まずAE発生数と灌水の相関係数CDを用いるに先立ち、灌水条件が少量多灌水であるかどうか判定する。例えば不織布ポット3a,3bにより根域を制限した養液栽培では、1時間に複数回の灌水を行うなどの少量多灌水が実施されることがある。灌水条件が少量多灌水でない場合には、AE発生数と灌水の相関係数CDを問題なく算出できるが、実施例の冬期の場合で説明したような少量多灌水では、土壌水分を測定しても灌水による変化を正確に検出できず、土壌水分のデータ列の作成処理が有効に実行できない場合がある。
また少量多灌水で灌水間隔が短すぎると、AEの検出数が不足することがある。例えば、トマト栽培の場合、1つの株につき、1時間に数個のAEしか検出されないことがある。しかし土壌水分の測定値及びAEの検出が難しくても、灌水によって植物の乾燥ストレスが緩和されていることは事実として発生しており、灌水による乾燥ストレスの変動状態は確実に存在している。
このような検出数が比較的少ない状況で、内部情報のデータとしてAE発生数の変動を正確に捕らえるためには、データ列の時間間隔tiは例えば1時間以上と設定すべきであるが、少量多灌水の場合、灌水間隔は1時間より短くなるため、灌水条件側の時間間隔tiとの整合性を考慮すると、時間間隔tiを1時間以上延長する方法は好ましくない。そこで本発明者は、下記(1)〜(4)に示した手順で、乾燥ストレスの変化率及びAE発生数のデータ列を作成することにより、乾燥ストレスの変化率とAE発生数のデータ列を有効に求める方法を考案した。
(1)図15(a)中には、1時間の間に灌水された時刻が、5個の下向き矢印の位置で例示されている。これらの5個の矢印の位置に応じて、図15(b)に示すように、ある時点の灌水時刻から次の灌水時刻までの間の中間の時刻までの間を、乾燥ストレスが減少していく「−1」の時期とすると共に、中間の時間から次の灌水時刻までの間を、乾燥ストレスが増加していく「+1」の時期と定義する。すなわち、乾燥ストレスの変化率を、±1と1ビット(bit)の情報に簡略化する。
(2)一方、図15(c)中には、図15(a)及び図15(b)で示したのと同じ1時間の間に検出されたAEの検出時刻が、13個の下向き矢印の位置で例示されている。次に、図15(b)を用いて、13個のAEの検出時刻が、乾燥ストレスが増加しているときのAE(H)か、減少しているときのAE(L)かに、それぞれ分類する。図15(c)中の13個のAEの検出時刻の場合、AE(H)は10個、AE(L)は3個である。
(3)次に、実際の灌水間隔より大きな時間間隔tiを設定する。そして1つの時間間隔ti内に、乾燥ストレスの変化率が−1の時期と+1の時期の2つのデータ列に大きく分けられるように作成する。例えば時間間隔tiが1時間の場合、図15(d)に示すように、−1の時期と+1の時期がそれぞれ30分間ずつ分けられることになる。
(4)次に、時間間隔tiでのAE(L)の発生数の合計ΣLのデータ列と、AE(H)の発生数の合計ΣHのデータ列とをそれぞれ、上記の乾燥ストレスが−1の時期と+1の時期のデータ列と、時間を合わせてデータ列を作成する。例えば時間間隔tiが1時間の場合、図15(c)の場合のAE(L)及びAE(H)の個数と同じとなり、−1の時期のデータ列はΣL=3、また+1の時期のデータ列はΣH=10となる。
上記(1)〜(4)の手順を繰り返すことで、少量多灌水であっても、複数の灌水イベントをまとめて簡略化した乾燥ストレスの変動状態を、図16(a)に示すように、連続して有効に作成可能になる。またAE発生数のデータ列についても、図16(b)に示すように、連続して有効に作成可能になる。
図16(a)中には、上記(1)の手順により、実施例の冬期のような灌水間隔が30分であり、1時間に2回の周期的な灌水が行われる少量多灌水の場合における、乾燥ストレスの変化率が例示されている。図16(a)に示すように、乾燥ストレスは1時間ごとに−1と+1の変化を繰り返すように設定される。すなわち実際には1時間に2回灌水されているが、相関係数の算出に際しては、1回の乾燥ストレスの変動と見做して灌水イベントを簡略化する。
また図16(b)中には、上記(2)〜(4)の手順により、対応する時間帯のAEの検出時刻をAE(H)とAE(L)に分類し、乾燥ストレスの変化率が−1のときのAE(L)の発生数の合計ΣLを、また乾燥ストレスの変化率が+1のときのAE(H)の発生数の合計ΣHをそれぞれ算出して作成されたAE発生数のデータ列が例示されている。例えば、図16(a)中の−1の時期α1に対応するAE発生数は、図16(b)中の左端のデータ点A1である。また図16(a)中の時期α1に後続する+1の時期α2に対応するAE発生数は、図16(b)中のデータ点A1に後続するデータ点A2である。
また図16(c)中には、作成したAE発生数のデータ列を、更に差分値(変化量)のデータ列に変換した場合が例示されている。図16(a)中の+1の時期α2に対応するAE発生数のデータ列は、図16(c)中のデータ点「A2−A1」である。
そして作成したデータ列を用いて、AE発生数と灌水の相関係数CDを算出する。図17(a)のグラフ図に示すように、乾燥ストレスが無いように灌水間隔を一定として灌水が十分になされている対照区では、AE発生数と灌水の相関係数CDは0付近を変動しており、変動量も小さい。またAE発生数と灌水の相関係数CDが負の値である時期は全栽培期間中の約44%(162日間のうち71日間)の期間であり、図17(b)に示すファジー区より長い。
一方、図17(b)のグラフ図に示すように、ファジー区では、対照区に比べてAE発生数と灌水の相関係数CDは大きく変動し、全栽培期間中の約90%(162日間のうち145日間)の期間で正となり、正の値を示す時期が長い。すなわちファジー区は、乾燥ストレスの増大とともにAEが増大する傾向が強く、対照区より相関係数CDの値が大きい。
また図18(a)のグラフ図に示すように、夏期のファジー区で栽培されたトマトBsは、夏期の対照区で栽培されたトマトAsより収量が減少した。また冬期のファジー区で栽培されたトマトBwも、冬期の対照区で栽培されたトマトAwより収量が減少した。しかし、図18(b)のグラフ図に示すように、夏期のファジー区で栽培されたトマトBsは、夏期の対照区で栽培されたトマトAsより糖度は上昇した。また冬期のファジー区で栽培されたトマトBwも、冬期の対照区で栽培されたトマトAwより糖度は上昇した。これは、ファジー区の乾燥ストレスが強かったためである。すなわちAE発生数と灌水の相関係数CDが、図17(b)に示したように、正の値を示す時期が長ければ糖度が増加すると診断できる。一方、AE発生数と灌水の相関係数CDが、図17(a)に示したように0又は負の値を示す時期が長ければ、収量が増加すると診断できる。
第1の実施の形態に係る生育診断方法によれば、維管束植物2aの外部の環境因子(温度、湿度、日照、土壌水分又は灌水)と内部情報(キャビテーションに起因するAE)を同時に測定して、同じ時間幅での環境因子の変動データと内部情報のデータの相関係数を算出し、栽培している植物の生育診断を、従来以上に正確に行うことが可能になる。
第1の実施の形態に係る生育診断方法によれば、通常市販されているAEセンサや温度計等の環境因子測定センサの出力を小型のデータ測定装置7aに接続し、データ測定装置7aから一般的なコンピュータ(PC)等に送信し、PCに備えられた演算制御装置30を構成することにより、高価な装置を不要として、植物の生育診断を低コストで行うことができる。
第1の実施の形態に係る生育診断方法においては、環境因子や内部情報の測定値や、測定値の変化量をそのまま相関係数算出用のデータ列として使用することが可能である。しかし、例えば土壌の電気伝導度が温度の影響を受けるように、特定の環境因子や特定の内部情報の測定値が、他の環境因子等の影響を受けて変動する場合がある。そのような場合には、他の環境因子等による影響分を考慮して測定値を校正することにより、相関係数算出用のデータ列としての有用性をより高めるような手法も可能である。
<維管束植物の生育補助装置>
実施例で説明したように、内部情報のデータと特定の環境因子の変動データとの相関係数を用いれば、維管束植物2aの生育を診断できる。或いは内部情報のデータと、複数の相関係数の組み合わせからなる指標を用いれば、維管束植物2aの生育を診断できる。そこで相関係数のデータをフィードバックして維管束植物2aの環境因子に所定の処理を施して生育を補助すれば、高収量・高品質の栽培が可能な、第1の実施の形態に係る生育診断方法を基礎とした生育補助方法を構成できる。まず、第1の実施の形態に係る維管束植物2aの生育補助装置の構造を説明する。
第1の実施の形態に係る生育補助装置は、図1に示した生育診断装置の構造に加え、ビニールハウス10内に設けられた日射量を調節する日射量調節装置21、水やミストを噴霧する噴霧装置22、ビニールハウス10内の空気を排出する換気装置23、ビニールハウス10内部の温度を調節する空調装置24、維管束植物2aであるトマトの根圏に水を供給する灌水装置25等の環境因子のデータの値を調節する調節装置を更に備える。
日射量調節装置21は、例えば遮光カーテンで構成でき、ビニールハウス10の屋上又は内部の天井に設けられる。遮光カーテンの開度を調節することにより日射量だけでなく温度を制御できる。
噴霧装置22は、例えばビニールハウス10の内部でトマトの上側に設けられ、水やミストを噴霧して、内部の温度を制御できる。
換気装置23は、例えば換気扇等で構成でき、換気扇のオン/オフを切り替えると共に、回転数を調節することにより、内部の温度を制御できる。
空調装置24は、例えばエアコン等で構成でき、温風/冷風を切り替えて送風することにより、内部の温度を制御できる。また空調装置24が除湿機能を有していれば、内部の湿度を制御できる。
灌水装置25は、例えば図示を省略した給水タンクに配管を介して接続された給水管を有する給水装置であり、給液タンクから水をポンプ36により吸水して給水管に送り出し、給水管からドリッパーを介して不織布ポット3a,3b毎に水を供給する。ポンプ36の吸水動作を調節することにより、土壌水分を制御できる。
第1の実施の形態に係る生育補助装置は、図1に示すように、日射量制御部32、温度制御部33、湿度制御部34、土壌水分制御部35、及び受信用のアンテナ85を有する無線ユニット73を有する作業制御装置8aを備える。作業制御装置8aは、それぞれの調節装置に対する演算制御装置30からの指令の情報を受信し、それぞれの調節装置に送信する。
日射量調節装置21には遮光カーテンの開度を調節する作業制御装置8aの日射量制御部32が接続され、日射量制御部32は、無線ユニット74、アンテナ84、アンテナ85及び無線ユニット75を介して演算制御装置30からの命令を受信する。また日射量調節装置21、噴霧装置22及び換気装置23のそれぞれには作業制御装置8aの温度制御部33が接続され、温度制御部33は、無線ユニット74、アンテナ84、アンテナ85及び無線ユニット75を介して演算制御装置30からの命令を受信する。
また換気装置23には、作業制御装置8aの湿度制御部34が接続され、湿度制御部34は、無線ユニット74、アンテナ84、アンテナ85及び無線ユニット75を介して演算制御装置30からの命令を受信し、換気扇のオン/オフの切り替え及び回転数を調節する。またポンプ36には、作業制御装置8aの土壌水分制御部35が接続され、土壌水分制御部35は、無線ユニット74、アンテナ84、アンテナ85及び無線ユニット75を介して演算制御装置30からの命令を受信し、ポンプ36の吸水動作を調節する。
<維管束植物の生育補助方法>
(AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTを用いた生育補助方法の例)
次に、第1の実施の形態に係る生育補助方法を説明する。まず図19のフローチャートのステップS10において、図2に示したステップS1〜S5からなる生育診断方法を上記のとおり行い、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTを算出する。
次にステップS11において、演算制御装置30の相関係数判定部308は、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTがいずれも増加傾向であるか否かを判定する。そしてAE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTのうち少なくとも一方が、減少傾向又は一定レベルに留まる傾向であると判定された場合、演算制御装置30は、環境因子を能動的に変動させる可能性があると判断し、ステップS12に移行する。一方、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTがいずれも増加傾向であると判定された場合、演算制御装置30は、環境因子を能動的に変動させる必要がないと判断し、ステップS14に移行し、生育補助処理を続行するか否かを続けて判定する。
次にステップS12において、演算制御装置30の相関係数判定部308は、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTがいずれも閾値以上であるか否かを判定する。そしてAE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTのうち少なくとも一方が、閾値未満であると判定された場合、演算制御装置30は、環境因子を能動的に変動させる必要があると判断し、ステップS13に移行する。一方、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTがいずれも閾値以上であると判定された場合、演算制御装置30は、環境因子を能動的に変動させる必要がないと判断し、ステップS14に移行し、生育補助処理を続行するか否かを判定する。
次にステップS13において、演算制御装置30は、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTのうち、閾値未満であると判定された相関係数を高めるように、無線ユニット74、アンテナ84、アンテナ85及び無線ユニット75を介して作業制御装置8aに命令信号を送信し、図20の表中に例示したような環境因子を制御する調節処理を行う。図20の環境因子制御テーブルのデータは、予めデータ記憶装置42に格納しておく。尚、図20中に示したように、それぞれの閾値としては「0.6」の値が、経験則により設定可能である。
よって例えば、冬期において、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTのそれぞれが0.6未満である場合、演算制御装置30は、温度制御部33を介して加温処理を行うと共に、日射量制御部32を介して補光処理を行う。尚、図20中で、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTがいずれも0.6以上である場合に示されている「N」は、現在の栽培条件を維持することを表している。
次にステップS14において、演算制御装置30は、生育補助処理を続行するか否かを判定する。この判定は、例えば演算制御装置30に図示を省略した表示装置を接続して設け、この表示装置に、続行するか否かの問いかけを表示し、表示を見た作業者が、入力装置41を介して続行するか否かを入力することにより実行することができる。
そして生育補助処理を続行すると判定された場合、演算制御装置30は、ステップS10に移行し、上記したステップS10〜ステップS13の各処理を繰り返す。一方、生育補助処理を続行しないと判定された場合、演算制御装置30は生育補助処理を終了する。このように、生育補助処理では、環境因子を能動的に変動させることで環境因子とAEの相関係数を意図的に高める制御を行い、作物の収量と品質の向上を達成する。
尚、図19及び図20を用いて説明した例では、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTの2個を選択的に用いて生育補助処理を行う場合を例示的に説明したが、第1の実施の形態に係る生育補助方法は、AE発生数と湿度の相関係数CH、AE発生数と土壌水分の相関係数CS或いはAE発生数と養液濃度(EC)の相関係数等他の相関係数を用いて行ってもよいし、或いは複数個の相関係数を適宜組み合わせて用いても行うことができる。
例えば図17(a)及び図17(b)を用いて説明したように、AE発生数と灌水の相関係数CDが正の値を示すように栽培すれば、糖度を増加させることができ、逆に0又は負の値を示すように栽培すれば、収量を増加させることができる。
図21に示すように、1日の灌水量が少ない程、AE発生数と灌水の相関係数CDが増加する傾向にあることが分かる。すなわちAE発生数と灌水の相関係数CDを増加させるように制御するには、灌水量を減らして乾燥ストレスが増加するように、灌水条件を変更すればよい。またAE発生数と灌水の相関係数CDを減少させるように制御するには、灌水量を増やして乾燥ストレスが減少するように、灌水条件を変更すればよい。
灌水条件は、具体的には、例えばポンプ36の電源を、ポンプ36に接続された図示を省略するリレー等の継電器で切り替えることにより、現在のAE発生数と灌水の相関係数CDの値が目標値に到達するように制御可能である。制御アルゴリズムは、一般的なPID制御、ファジー制御、ニューラルネットワークを用いた制御方法などが使用できる。
第1の実施の形態に係る生育補助方法は、灌水条件の変更だけに限らず養液濃度(EC)や土壌水分の変更を用いて行うことも可能である。すなわち、実施例のように灌水スケジュールからの乾燥ストレスの予測値を算出する方法以外に、土壌水分や植物体周辺の湿度に対する相関係数等を用いることでも、AE発生数と灌水の相関係数CDを用いる場合と同様の診断及び制御が可能となる。
(CDを介してCL及びCTを変動させる生育補助方法の例)
図1に示した生育診断装置では、内部情報のデータの測定系と環境因子の変動データの測定系は互いに独立して存在し、互いの相関係数を診断結果として出力する装置構成である。そして第1の実施の形態に係る生育補助方法では、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTを高めるために、温度調節処理及び光調節処理を行い、日射量及び温度の環境因子の値がそれぞれ増加するように直接的に制御を行った。
しかし第1の実施の形態に係る生育補助方法においては、日射量及び温度の環境因子の値を直接的に高めるのではなく、AE発生数と灌水の相関係数CDを高めることにより、AE発生数と光の相関係数CL及びAE発生数と温度の相関係数CTを間接的に高めるように、変動させることが可能である。
図22は、実施例で得られた全ての実験データを用いて算出されたものであり、図22(a)に示すように、AE発生数と灌水の相関係数CDが0.15以上0.2以下の範囲のときの、AE発生数と温度の相関係数CTの変化量ΔCTは0.35程度となり、すべての範囲の中で最も大きい。またAE発生数と灌水の相関係数CDが0.1以上0.15以下の範囲のときの、AE発生数と温度の相関係数CTの変化量ΔCTの値はすべての範囲の中で、2番目に大きい。
また図22(b)に示すように、AE発生数と灌水の相関係数CDが0.15以上0.2以下の範囲のときの、AE発生数と光の相関係数CLの変化量ΔCLの平均値は0.49程度となり、すべての範囲の中で最も大きい。またAE発生数と灌水の相関係数CDが0.1以上0.15以下の範囲のときの、AE発生数と光の相関係数CLの変化量ΔCLの平均値はすべての範囲の中で、2番目に大きい。すなわちAE発生数と灌水の相関係数CDが0.1以上0.2以下のとき、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLが大きくなり易い。
よって、図3のステップS5で算出したAE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLのうち少なくとも一方が、一定の閾値未満の小さい値であるか、或いは減少傾向にあると判定される場合、AE発生数と灌水の相関係数CDが0.1以上0.2以下となるように、灌水条件を変動させればよい。このときAE発生数と灌水の相関係数CDが0.1未満である場合には灌水量を減らし、AE発生数と灌水の相関係数CDが0.2を超える場合には灌水量を増やせばよい。
一方、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLがいずれも一定の閾値以上の大きな値であるか、或いは増加傾向にあると判定される場合には、現在の灌水条件を維持すればよい。一定の閾値としては、上記した0.6の値を用いることができる。
このようにAE発生数と灌水の相関係数CDが0.1以上0.2以下となるように灌水条件を調節してAE発生数と灌水の相関係数CDを制御することにより、間接的にAE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLを変動させて、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLを両方とも高める生育補助を行うことにより、高い収量と高糖度を安定して両立させた栽培を行うことができる。
尚、栽培条件によっては、AE発生数と灌水の相関係数CDを0.1以上0.2以下に制御しても、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLを高めることができない場合も発生し得る。その際には、図16に示したように、AE発生数と温度の相関係数CT及びAE発生数と光の相関係数CLをそれぞれ、灌水制御以外の調節処理により、直接的に増加させればよい。
第1の実施の形態に係る生育補助装置は、図1に示す演算制御装置30、データ測定装置7a及び作業制御装置8aによるコンピュータシステムを用いて、自動的な環境因子の最適化をすることができる。一方、第1の実施の形態に係る生育補助装置は、演算制御装置30によって決定された、行われるべき最適な調節処理を、実際にビニールハウス10内で作業を行う生産者に対して表示装置に表示し、生産者が決定された調節処理の最適条件に応じて、換気、暖気、細霧冷却、遮光カーテンによる温度調節又は日照調節といった具体的な作業を行うようにしてもよい。コンピュータシステムによる自動的な処理か、人間の判断を伴う半自動的な処理であるかを問わず、第1の実施の形態に係る生育補助方法により、生産者は生育補助のための適切な作業を、的確な実施タイミングで実施することができる。
−−第2の実施形態−−
<維管束植物の生育診断装置>
図7(b)に示したように、屋外での栽培では、夜間におけるAE発生数は、昼間と比較して著しく少ないことが分かる。そのため本発明者は、昼間に発生する内部情報とこの内部情報に影響を与える環境因子との相関係数だけを用いても、栽培している植物の生育診断を行うことが十分に可能であるとの知見を得た。
第2の実施の形態に係る生育診断装置は、図7(b)に示した環境因子である日射量のデータから、曇の日でも20W/m2以上の日射量が朝から発生していることに着目し、図23のブロック図に示すように、日射量を活用して太陽光発電を行い、発電した電気を、内部情報測定系(1a,1b,11)及び環境因子測定系(12〜15,51a)を有するデータ測定装置7bに供給する安定化電源(61,62)を設け、生育診断装置を昼間に自立的に稼働させる。
図23に示した維管束植物2aの生育状態を示す内部情報のデータを測定する内部情報測定系(1a,1b,11)と、維管束植物2aの生育に影響を与える環境因子の変動データを測定する環境因子測定系(12〜15,51a)と、内部情報のデータと環境因子の変動データの相関係数を算出する演算制御装置30と、を備えるコンピュータシステムからなる生育診断装置は、算出した相関係数の値により、維管束植物2aの生育状態を診断する。
内部情報測定系(1a,1b,11)は、維管束植物2aの軸部に取り付けられた内部情報測定用センサである第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bと、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bに接続された内部情報測定装置11を備える。また環境因子測定系(12〜15,51a)は、日射計12、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15と、日射計12、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15に接続された環境因子測定制御ユニット51aを備える。
また生育診断装置のデータ測定装置7bには、電源モジュール62と電源モジュール62に接続された太陽電池(ソーラーセル)61を有する安定化電源(61,62)が設けられる。第2の実施の形態に係る生育診断装置は、安定化電源(61,62)以外の構造については、第1の実施の形態におけるそれぞれ同名の部材と等価であるため、これらについては以下、重複説明を省略し、主に太陽光発電システム及び自立型構造に関して説明する。
内部情報測定装置11及び環境因子測定制御ユニット51aを備えるデータ測定装置7bは、安定化電源(61,62)が出力する例えばDC5Vの電源で、消費電力は0.1W程度で十分に稼働させることが可能である。また0.1W程度の消費電力で、測定値及び相関係数等のデータを、データ測定装置7bから演算制御装置30に、無線ユニット73及びアンテナ83を介して無線LANにより送信することも可能である。
太陽電池61は、例えば主面が25cm×15cm程度の矩形状であり、データ測定装置7bに供給する電気を発電する。太陽電池61は、データ測定装置7bの消費電力を考慮して、例えば1000W/m2の日射量に対して5W程度の出力を得るように、0.1W以上の出力を得られるものが好ましい。すなわち太陽電池61は、日中に20W/m2の日射量が得られる場合、昼間に、野外のビニールハウス10内に設けられるデータ測定装置7bを十分稼働させることができるように構成されている。
太陽電池61によって発電された電気はデータ測定装置7bに送られ、その一部は内部情報測定系(1a,1b,11)を駆動するために用いられる。また発電された電気の他の一部は、環境因子測定系(12〜15,51a)を駆動するために用いられる。内部情報測定系(1a,1b,11)及び環境因子測定系(12〜15,51a)は、発電可能な時間帯のみ測定を行う。
電源モジュール62には、充放電サイクル特性、急速充放電特性及び使用温度範囲特性等に優れた電気二重層コンデンサ(スーパーキャパシタ)が搭載されている。また電源モジュール62に、オプションで二次電池を組み込むよう構成して、更なる安定化が図られてもよい。
またデータ測定装置7bは、図23に示した構成の他、演算制御装置30に有線で接続されてよい。また測定データは、内部情報測定装置11及び環境因子測定制御ユニット51aを介して、測定の都度、演算制御装置30に対し無線で送信するように構成してもよいし、或いは、測定の都度でなく、一時記憶装置71にデータを格納することにより、稼働中の所定のタイミングで、一定の時間幅分をまとめて演算制御装置30に送信するように構成してもよい。
また一時記憶装置71を、SDカード等の記憶媒体にデータを書き込み可能なデータ保存装置をなすように構成し、測定データを記憶媒体に保存した上で、記憶媒体を作業者又はドローンやロボットのような作業機械の巡回中に、回収するように構成してもよい。特に作業機械を用いて回収するように構成すれば、省力化を一層促進し、作業者の負担をより軽減できる。これは暑さの厳しい夏期や寒さの厳しい冬期において、作業者の負担を抑えて最小限にして安定稼働できる点で効果が大きい。このように図23に示した第2の実施の形態に係る生育診断装置は、維管束植物2aの生育状態の診断を、太陽の日照がある昼間だけに行うことができる。
図24のグラフ図に示すように、日射量の少ない冬期であっても、実線で示したAE発生数と温度の相関係数CT及び破線で示したAE発生数と光の相関係数CLのそれぞれの大まかな傾向は、図10に示したものの場合と同様に表れ、略一致することが分かる。すなわち第2の実施の形態に係る生育診断方法によれば、昼間の測定だけであっても十分に実用的な処理が可能である。尚、24時間測定している第1の実施の形態の方が、昼間だけの測定の場合より精度を高められることは言うまでもない。
第2の実施の形態に係る生育診断装置を用いて生育診断方法を行えば、野外のビニールハウス10において、昼間は太陽光発電により外部電源を用いることなく安定して電源を供給することにより、外部電源に依存することなく自立的に稼働させ、生育診断を行うことが可能になる。第2の実施の形態に係る生育診断方法の他の効果は、第1の実施の形態の場合と同様である。
−−第3の実施形態−−
<維管束植物の生育診断装置>
第1及び第2の実施の形態に係る生育診断装置では、AE発生数のデータを内部情報のデータとし、AE発生数と維管束植物2aの環境因子(光、温度、湿度、根圏水分)の相関係数を用いて生育診断を行う場合を説明したが、内部情報はAE発生数だけに限定されず、更に維管束植物2aの他の内部情報が利用可能であり、測定した他の内部情報と環境因子の相関係数を算出し、算出した相関係数をAE発生数のデータと環境因子の変動データの相関係数に付加して生育診断を行うことができる。
維管束植物2aのAE発生数以外の他の内部情報としては、例えば茎や幹の内部の蒸散流量(蒸散流速度)や、茎や幹の径、茎や幹や葉の硬さ(水ポテンシャル)の変化、及び茎や幹や葉の生体電位がある。
蒸散流量は、例えば樹液流センサ(Sap Flow Sensor、Dynamax Inc.社製など)を用いて、加熱した茎の上下の温度差を算出して行う茎熱収支法により内部情報として測定できる。また茎や幹の径の変化は、茎や幹にひずみゲージやレーザー変位計を用いた径ゲージを取り付ければ内部情報として測定できる。また茎や幹や葉の硬さは、例えばエレクトレット素子を用いたセンサにより内部情報として測定できる。また生体電位は、茎や幹や葉に電極を取り付けて、内部情報として電位を測定すればよい。
以下の第3の実施の形態に係る生育診断装置の説明では、AE発生数を「第1の内部情報」とすると共に、維管束植物2aの内部情報として茎の硬さを選択し、この茎の硬さを「第2の内部情報」として、第1の内部情報に加えて行う生育診断方法に用いる場合を、例示的に説明する。
第3の実施の形態に係る生育診断装置は、図25のブロック図に示すように、維管束植物2aの生育状態を示す第1の内部情報のデータを測定する第1の内部情報測定系(1a,1b,11a)と、維管束植物2aの生育に影響を与える環境因子の変動データを測定する環境因子測定系(12〜15,51a)と、第1の内部情報のデータと環境因子の変動データの相関係数を算出する演算制御装置30zと、を備える。
第3の実施の形態に係る生育診断装置は、維管束植物2aの生育状態を示す第2の内部情報のデータを測定する第2の内部情報測定系(101,11b)を更に備える。演算制御装置30zは、第1の内部情報のデータと第2の内部情報のデータの相関係数、及び、第2の内部情報のデータと環境因子の変動データの相関係数も算出する。
維管束植物2aの軸部には、第1の内部情報測定用センサとして、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bが取り付けられ、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bには内部情報測定装置11が接続されている。
また第3の実施の形態に係る生育診断装置は、日射計12、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15のそれぞれと演算制御装置30zの間に介在するように設けられた環境因子測定制御ユニット51aを備える。第3の実施の形態に係る生育診断装置は、内部情報測定装置11及び環境因子測定制御ユニット51aに、電源モジュール62を介して接続された太陽電池61(ソーラーセル)を備える。
第3の実施の形態に係る生育診断装置は、第2の内部情報測定系(101,11b)及び演算制御装置30z以外の構造については、第1及び第2の実施の形態におけるそれぞれ同名の部材と等価であるため、これらについては以下、重複説明を省略し、主に第2の内部情報測定系(101,11b)及び演算制御装置30zに関して説明する。
第2の内部情報測定系(101,11b)を構成する硬さ測定センサ101は、維管束植物2aの茎に取り付けられ、第2の内部情報測定用センサとして、維管束植物2aの第2の内部情報としての硬さ(水ポテンシャル)の変動データを測定する。硬さ測定センサ101には、第2の内部情報測定系(101,11b)を構成する第2の内部情報測定装置11bが接続され、硬さ測定センサ101から硬さの測定データが入力される。
演算制御装置30zは、図26のブロック図に示すように、相関係数を算出するために必要な、一定の時間幅におけるAEの発生数のデータ列を作成するAEデータ列作成部301を有する。また演算制御装置30zは、相関係数を算出するために必要な、一定の時間幅における、日射量のデータ列を作成する日射量データ列作成部302、温度のデータ列を作成する温度データ列作成部303、湿度のデータ列を作成する湿度データ列作成部304及び土壌水分のデータ列を作成する土壌水分データ列作成部305を有する。
また演算制御装置30zは、一定の時間幅における第2の内部情報としての茎の硬さのデータ列を作成する硬さデータ列作成部306を有する。また演算制御装置30zは、一定の時間幅における第1の内部情報としてのAE発生数と、日射量、温度、湿度及び土壌水分のそれぞれとの第1の相関係数と、一定の時間幅における第2の内部情報としての茎の硬さとそれぞれの環境因子との第2の相関係数と、を算出する相関係数算出部307を有する。また演算制御装置30zは、算出された第1及び第2の相関係数のそれぞれが一定の閾値以上であるか否かを判定する相関係数判定部308を有する。
更に演算制御装置30zが、図27の模式図に示すように、一定の時間幅における第1の内部情報であるAE発生数と第2の内部情報である茎の硬さとの第3の相関係数を算出するように構成してもよい。また相関係数判定部308が、第3の相関係数が一定の閾値以上であるか否かを判定するように構成してもよい。
硬さ測定センサ101は、茎部の水ポテンシャル変動に伴う茎の硬さの変化を第2の内部情報として測定し、演算制御装置30zに入力する。尚、相関係数の算出に用いる第2の内部情報である茎の硬さデータとしては、茎の硬さの変化量を使用できるが、茎の硬さの変化量は水ポテンシャルの変化量に対応しており、茎の硬さの測定値が増大すれば水ポテンシャルは低下していることを意味する。硬さ測定センサとしては、図28の断面図に例示したような硬さ測定センサ(デュアルエレクトレットセンサ)101が用いられる。
図28において、第1振動板(126a,125a)と第1エレクトレット層123aと第1背面電極122aとで受信用素子101aを構成し、第2振動板(126b,125b)と第2エレクトレット層123bと第2背面電極122bとで送信用素子101bを構成している。図28に示したデュアルエレクトレットセンサ101により、送信時の送信用素子101bの振動を受信用素子101aを用いて知ることができる。
尚、図28に示したデュアルエレクトレットセンサ101において、第1振動板(126a,125a)は、第1振動電極126aと第1振動電極126aの下面(第2主面)に第1主面を接した第1振動板絶縁層125aを備え、第2振動板(126b,125b)は、第2振動電極26bと第2振動電極26bの下面(第2主面)に第1主面を接した第2振動板絶縁層25bを備える。図28に示したデュアルエレクトレットセンサを用いれば、硬さ測定センサをフレキシブルな構造として、植物の茎や葉の形状にあわせて変形させながら水ポテンシャルを測定することができる。
例えば、図28に示した第1振動電極126aと、第1振動電極126aの下面に設けられた第1振動板絶縁層125aと、第1振動板絶縁層125aに対向した第1エレクトレット層123aと、第1エレクトレット層123aの上面に形成された複数の第1スペーサと、第1エレクトレット層123aの下面に接合された第1背面電極122aとを用いて、図29(a)に示すように、フレキシブルなフィルム状エレクトレットセンサを用意する。更に、このフィルム状エレクトレットセンサの第1背面電極122aの一部に第1背面電極側引出電極GNDを設け、第1振動電極126a側の一部に第1振動電極側引出電極O2を設けた上で、図29(b)に示すように、第1の折り曲げ線A−A´を介して折り畳んで接着し、図30(a)に示すように、受信子をなす第1のフィルム状エレクトレットセンサ101aを形成する。
また同様に、図30(b)に示すように、送信子をなす第2のフィルム状エレクトレットセンサ101bを形成し、図30(c)に示すように、第1のフィルム状エレクトレットセンサ101aと第2のフィルム状エレクトレットセンサ101bを貼り合わせれば、維管束植物2aに貼り付け可能なフレキシブルなデュアルエレクトレットセンサ101が完成する。デュアルエレクトレットセンサ101の第1のフィルム状エレクトレットセンサ101aと第2のフィルム状エレクトレットセンサ101bは、図30(d)に示すように、層間接着層120により接着されている。
そして、図30に示したデュアルエレクトレットセンサ101を、ミニトマト等の維管束植物2aの茎や葉の形状にあわせて変形させながら押し付けて、水ポテンシャルを測定することができる。更に、図31に示すように被測定試料2tの植物の茎等にデュアルエレクトレットセンサ101を押し付けた後、その上からプラスチックフィルム等の保護膜135を押しつけても良い。
図28に示したようなフレキシブルなデュアルエレクトレットセンサ101によれば、デュアルエレクトレットセンサ101を構成する片方のフィルム状エレクトレットセンサを送信用素子101bとして、デュロメータ硬さ100以下の軟質材料からなる被測定試料2tに振動を送信し、もう片方のフィルム状エレクトレットセンサを受信用素子101aとして被測定試料2tからの振動を受信して、送受信波形を測定すれば,送受信波形のピーク強度と重心周波数を用いて、軟質材料からなる被測定試料2tの硬さと押付圧力を測定することが可能である。ピーク強度は、被測定試料2tを構成している軟質材料の重心周波数と送受信波形の高速フーリエ変換(FFT)スペクトルの、第1ピークの大きさである。
ピーク強度Vpと重心周波数fwの間には、下記の式(2)の関係がある。
c=fw(Vp)a …(2)
また重心周波数fwは、iを1からnまでの正の整数とすると、下記の式(3)で定義される。
fw=Σ(I(i)×f(i))/ΣI(i) …(3)
そして、式(2)中の係数aの値が定まれば、被測定試料2tのデュロメータ硬さ(タイプA)は一定の硬さ範囲内で、係数cと比例関係を有するので、第2の内部情報としてデュロメータ硬さを算出することが可能にある。
(実験例)
次に、被測定試料2tをミニトマトである維管束植物2aとし、このミニトマトの茎に、図28に示したデュアルエレクトレットセンサ101を貼り付けて、第2の内部情報としての茎の硬さ(水ポテンシャル)を測定した際の、送受信波形を解析した実験例を説明する。
実験例では、不織布ポット3aに定植して、恒温室の中で栽培した1株のミニトマトを選定し、このミニトマトにデュアルエレクトレットセンサ101を貼り付けた。デュアルエレクトレットセンサ101は、図25に例示したように、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bより下側の根元近くの茎部に、クリップで茎部に挟み込むように固定して設置した。
ミニトマトに対しては、照明を1日に12時間点灯して照射することで栽培における昼間の状態を形成すると共に、点灯と点灯の間隔を12時間設けて夜間の状態を形成した。尚、このように太陽の光だけでなく、人工的に形成した光であっても、本発明では光の環境因子として用いることができる。また栽培期間中、養液のミストを450秒毎に定期的に、ミニトマトの根に噴霧した。
そして、デュアルエレクトレットセンサ101の送信子に、約20Vのステップ電圧を10分間隔で入力して、その際の受信子からの信号を取得した。そして得られた送受信波形を解析した結果、送受信波形の、ミニトマトを構成している軟質材料のピーク強度Vp及び重心周波数fwを、図32に示すように、算出した。
図32中の菱形のデータ点の軌跡で示すように、昼間は夜間と比較して、ピーク強度Vpが大きい傾向が認められる。また図32中の三角形のデータ点の軌跡で示すように、昼間は夜間と比較して、重心周波数fwが小さい傾向が認められる。そして係数aを0.14として、式(2)から算出した係数c及び1時間毎のAE発生数NAEの挙動を図33のグラフ図に示す。図33中の正円のデータ点の軌跡で示すように、係数cは昼間に低下し、夜間に増加して回復していることが分かる。係数cは、硬さに対して負の相関があるため、図33は、昼間に茎部の硬さが増加し、夜間に減少していることを示している。
すなわち昼間の水ポテンシャルの減少及び夜間の水ポテンシャルの増加の変動が、第2の内部情報である茎部の硬さの挙動に反映されている。そして係数cの挙動は、水ポテンシャルの変動と相対的に一致している。一方、第1の内部情報であるAE発生数NAEは、図33中の正方形のデータ点の軌跡で示すように、昼間に増加し、夜間に減少することが分かる。
このように係数cを用いることで、第1の内部情報としてのAE発生数の測定と同時に、第2の内部情報である維管束植物2aの硬さを測定可能であるので、図27に示したように、第1の内部情報と第2の内部情報の第3の相関係数を求めることができる。本実験例のようにデュアルエレクトレットセンサを、維管束植物2aの茎部に取り付けるだけで、水ポテンシャルを間接的な内部情報として測定することが簡単になる。そして第1〜第3の相関係数を算出し、維管束植物2aの生育状態の診断に用いることが可能となる。
<維管束植物の生育診断方法>
次に、第3の実施の形態に係る生育診断方法を説明する。まず図34のフローチャートのステップS21において、演算制御装置30zは第1の内部情報測定装置11aを介して、第1の内部情報としてキャビテーションに起因したAEだけを選別して、図3のステップS1と同様に、選別したAEの発生数のデータを測定する。
次にステップS22において、演算制御装置30zは環境因子の変動データを、図3のステップS2と同様に、測定する。すなわち演算制御装置30zには日射計12が測定する日射量を、温度計13が測定する温度を、また湿度計14が測定する湿度を、また土壌水分センサ15が測定する土壌水分の少なくともいずれかが経時的に入力され、演算制御装置30zは、入力された日射量データ、温度データ、湿度データ及び土壌水分データの少なくともいずれかをデータ記憶装置42に蓄積する。ステップS22の環境因子(光、温度、湿度、根圏水分)の測定処理は、ステップS21の第1の内部情報の測定処理と同時に行われる。
次にステップS23において、演算制御装置30zは、硬さ測定センサを介して、第2の内部情報である茎の硬さのデータを測定する。ステップS21の第1の内部情報の測定処理、ステップS22の環境因子の測定タイミングとステップS23の第2の内部情報の測定タイミングは、互いに重複する時系列となるように行われる。
次にステップS24において、演算制御装置30zのAEデータ列作成部301は、データ記憶装置42に蓄積された第1の内部情報の検出時刻又は一定のサンプリング間隔s毎の第1の内部情報の発生数を用いて、図3のステップS3と同様に、第1の内部情報のデータ集団を作成する。そしてAEデータ列作成部301は、第1の内部情報のデータ集団を用いて、第1及び第3の相関係数を算出するためのデータ列を作成する。
次にステップS25において、演算制御装置30zの日射量データ列作成部302は、図3のステップS4と同様に、データ記憶装置42に蓄積された環境因子(光、温度、湿度、根圏水分)の少なくともいずれかの変動データを用いて、それぞれのデータ集団を作成する。そして日射量データ列作成部302は、作成したデータ集団を用いて、第1及び第2の相関係数を算出するためのデータ列を作成する。
次にステップS26において、演算制御装置30zの硬さデータ列作成部306は、データ記憶装置42に蓄積された第2の内部情報である茎の硬さデータを用いて、茎の硬さのデータ集団を作成する。そして硬さデータ列作成部306は、茎の硬さのデータ集団を用いて、第2及び第3の相関係数を算出するためのデータ列を作成する。
次にステップS27において、演算制御装置30zの相関係数算出部307は、第1の内部情報のデータ列と環境因子のデータ列を用いて、一定の時間幅twについて、図3のステップS5と同様に、式(1)を用いて第1の相関係数を算出する。
次にステップS28において、演算制御装置30zの相関係数算出部307は、環境因子のデータ列と第2の内部情報のデータ列を用いて、一定の時間幅twについて、式(1)を用いて第2の相関係数を算出する。
次にステップS29において、演算制御装置30zの相関係数算出部307は、第1の内部情報のデータ列と第2の内部情報のデータ列を用いて、一定の時間幅twについて、式(1)を用いて第3の相関係数を算出する。
第1の内部情報と環境因子の変動に係る第1相関係数の算出、第2の内部情報の変動と環境因子の変動に係る第2の相関係数の算出及び第1の内部情報と第2の内部情報の変動に係る第3の相関係数の算出は、いずれも同じ時間幅twで行われる。そして第1〜第3の相関係数を用いて、生育診断を行う。
第3の実施の形態に係る生育診断方法によれば、第1〜第3の複数の相関係数を用いることにより、第1及び第2の実施の形態の場合より多くの情報を用いるので、維管束植物2aの生育を、より正確性を高めて診断することができる。
また茎の硬さの測定値を水ポテンシャルに変換するためには、通常、測定値に対して校正処理が必要である。この点、第3の実施の形態においては第1〜第3の相関係数を用いるため、茎の硬さの測定値そのものの構成値は必須ではなく、測定値の変化量すなわち相対変化を測定すれば済む。そのため測定値の校正処理は必要なく、間接的な内部情報となる水ポテンシャルを用いても、処理を容易化できる。
また第3の実施の形態に係る生育診断方法では、間接的な内部情報となる茎内部の水ポテンシャルと第1の内部情報の応答状態が数値化されるため、特に灌水制御において、維管束植物2aの水分状態に関するより詳細な情報を得て、生育診断に用いることができる。第3の実施の形態に係る生育診断方法の他の効果については、第1及び第2の実施の形態の場合と同様である。
また、第1の実施の形態の場合と同様に、第3の実施の形態に係る生育診断方法を用いて生育補助処理を行えば、第1〜第3の複数の相関係数を用いて、より正確な栽培制御を行うことが可能になる。
−−その他の実施の形態−−
本発明は上記のとおり第1〜第3の実施の形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになると考えられるべきである。
例えば、図35の模式図に示すように、太陽電池61a及び電源モジュール62をデータ測定装置7cが内蔵するように構成してもよい。或いはポータブルなデータ測定装置及び作業制御装置を個別に構成することなく、図36のように、維管束植物2aの内部情報及び環境因子の変動データを演算制御装置30に有線によって直接送信するように、生育診断装置を構成することもできる。
一方、図37のブロック図によって模式的に示すように、一定の目的のためには、内部情報測定装置11と環境因子測定制御ユニット51b,51cとを互いに独立させたセットで構成し、それぞれに、一時記憶装置71a〜71c及び無線ユニット73a〜73cを接続させる構成も可能である。図37中では、第1AEセンサ1a及び第2AEセンサ1bからの内部情報としてのAE発生数が入力される内部情報測定装置11と、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15からの変動データが入力される環境因子測定制御ユニット51bと、日射計12からの変動データが入力される環境因子測定制御ユニット51cとが、空間的に分離して配置された状態が例示されている。すなわちデータ測定装置7aの形で一体的に構成されることなく、個別に設けられたセットを構成している。
内部情報測定装置11に入力された内部情報としてのAE発生数のデータは、一時記憶装置71aに記憶されると共に、無線ユニット73aは一時記憶装置71aに記憶されたデータを、アンテナ83aを介して無線LANで演算制御装置30に送信する。また環境因子測定制御ユニット51bに入力された環境因子の変動データは、一時記憶装置71bに記憶されると共に、無線ユニット73bは一時記憶装置71bに記憶されたデータを、アンテナ83bを介して無線LANで演算制御装置30に送信する。また環境因子測定制御ユニット51cに入力された環境因子の変動データは、一時記憶装置71cに記憶されると共に、無線ユニット73cは一時記憶装置71cに記憶されたデータを、アンテナ83cを介して無線LANで演算制御装置30に送信する。
図37に例示した構成のように内部情報測定装置11及び環境因子測定制御ユニット51b,51cを個別に設ける場合には、一般的に販売されている既存の商用の測定装置を組み合わせて用いることが可能となり、生育診断装置の製造コストを削減することができる。
既に説明した図1、図23、図25、図35、図36中では、紙面の都合上、いずれも環境因子測定制御ユニット51aは1台の場合を例示的に示した。しかし、図37中の2台の環境因子測定制御ユニット51b,51cで例示したように、環境因子測定制御ユニットは1台に限らず、複数のサンプリング植物を選択した場合は、複数のサンプリング植物の近傍に複数台設置することができる。例えば4個の環境因子を用いる場合、それぞれに応じて4台の環境因子測定制御ユニットのセットを、1個のサンプリング植物の近傍に設けることも可能である。
第1の実施の形態で既に述べたように、同じビニールハウス10等の施設内であっても、場所により環境因子の値は大きく異なる場合があるため、ある特定の地点における環境因子の測定値を用いて相関係数を算出しても、その地点から離れた別の場所で栽培される維管束植物2aの生育状態を適切に診断できないおそれがある。そのため図37に例示した構成においても、複数台の環境因子測定制御ユニット51b,51cから成るセットを複数用意して、これらの複数のセットを選択したサンプリング植物となる維管束植物2aの周辺で適切な位置に個別にそれぞれ設けることにより、維管束植物2aの生育診断をより適切に行うことができる。
特に、第1の実施の形態で既に述べたのと同様に、維管束植物2aの生育診断を適格に行う観点から、環境因子測定用センサ(12〜15)のそれぞれは、内部情報測定用センサ(1a,1b)が取り付けられるサンプリング植物の周辺の近傍の適切な位置に、セットを構成する互いに独立したグループとして配置されることが望ましい。図1〜図37中では、図示できるスペースに限界があるため、環境因子測定用センサ(12〜15)及びそれぞれ対応する環境因子測定制御ユニット51a,51b,51cの位置は、便宜上、模式的にビニールハウス10の外壁やビニールハウス10の外部等の位置にあり、集中管理しているかのように示されている。しかし、特に環境因子測定用センサ(12〜15)をなす日射計12、温度計13、湿度計14及び土壌水分センサ15は、ビニールハウス10の内部のサンプリング植物となる維管束植物2aの近傍、例えば、維管束植物2aが接触しない範囲で可能な限り近接した位置等に、複数のグループに分けた複数のセットで配置され、分散した情報を提供できるように構成することが実用上好ましいのは、既に述べたとおりである。
また第1〜第3の実施の形態では、維管束植物2aの外部の環境因子として、温度、湿度、日照、土壌水分のすべてについて、第1又は第2の内部情報に対する相関係数を算出して生育診断を行ってもよい。しかし複数の環境因子についての相関係数をすべて算出することは必須ではなく、少なくとも1個以上の環境因子を用いれば、本発明を構成できる。尚、用いられる環境因子の数が多いほど、得られる相関係数も多くなり、より多くの情報を用いて、生育診断方法及び生育補助処理の正確性を高めることができるため、多くの環境因子を用いて相関係数を算出することが好ましい。
また第1〜第3の実施の形態ではコンピュータシステムである生育診断装置が自発的に生育診断方法を実行する場合について説明したが、生育診断装置の代わりに、生育診断方法と等価な内容の処理を作業者が手作業で行うことにより生育診断方法を構成できる。また生育診断装置の場合と同様に、生育補助装置の代わりに、生育補助処理と等価な内容の処理を作業者が手作業で行えば、生育補助方法を構成できる。
また第1の実施の形態に係る生育診断方法及び生育補助方法のそれぞれのステップを、演算制御装置30,30zに実行させるようなプログラムを構成することにより、生育診断プログラム及び生育補助プログラムをそれぞれ構成できる。生育診断プログラム及び生育補助プログラムを実行させるには、例えば演算制御装置30,30zが有する不図示のプログラム記憶装置に生育診断プログラム及び生育補助プログラムをそれぞれ記憶させると共に、記憶させた生育診断プログラム及び生育補助プログラムをプログラム記憶装置から適宜読みだして実行すればよい。
また本発明は、第1〜第3の実施の形態で開示した構造の一部を組み合わせて用いて構成することもできる。以上のとおり本発明は、本明細書及び図面に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。