本発明の導電性多孔体は、第1導電性材料と第1導電性材料間を繋ぐ第2導電性材料とを有する繊維状物を含むものであり、第1導電性材料同士が第2導電性材料によって繋がっているため、導電性に優れている。
なお、本発明における「第1導電性材料」はある程度、形状の揃った導電性材料を意味し、「第2導電性材料」は不定形の導電性材料を意味する。一般的には、第1導電性材料の方が第2導電性材料よりも導電性に優れている。
本発明の第1導電性材料は導電性に優れている材料からなるのが好ましく、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属、金属酸化物の群の中から選ばれる1種類、又は2種類以上からなるのが好ましい。これらの中でも、カーボンナノチューブは導電性に優れ、しかも繊維状物中において、繊維状物の長さ方向に配向しやすく、導電性に優れる繊維状物であることができるため、好適である。更に、第2導電性材料が、有機材料が炭化したものである場合でも、有機材料が炭化する際に、炭化する前の第1前駆繊維の収縮を抑制することができる点からも、カーボンナノチューブは好適である。なお、好適であるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであっても、コイル状となったものであっても良い。
この第1導電性材料の大きさは特に限定するものではないが、第1導電性材料が粒子形状の場合、繊維状物を形成しやすいように、第1導電性材料の平均粒径は5nm〜50μmであるのが好ましく、50nm〜25μmであるのがより好ましく、100nm〜10μmであるのが更に好ましい。
本発明において「平均粒径」は、基本的に、動的光散乱法による粒度分布計から求めた粒子の数平均粒子径を表すが、例えば、カーボンブラックなどのアグリゲートもしくはストラクチャーと呼ばれる状態を形成した粒子などの、上記動的光散乱法による測定が難しい場合には、粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、電子顕微鏡写真に写っている50個の粒子の直径の算術平均値を平均粒径とする。この場合、粒子の形状が写真上、非円形である場合には、写真上における、粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を、粒子の直径とみなす。
また、第1導電性材料が繊維形状をしている場合、繊維径は10nm〜5000nmであるのが好ましく、10nm〜1000nmであるのがより好ましく、10nm〜500nmであるのが更に好ましく、10nm〜250nmであるのが更に好ましい。なお、繊維長は繊維状物中で均一に分散しやすいように、アスペクト比が1000以下となる繊維長であるのが好ましく、500以下となる繊維長であるのがより好ましい。
なお、金属としては、例えば、金、白金、チタン、ニッケル、アルミ、銀、亜鉛、鉄、銅、マンガン、コバルト、及びステンレスなどの合金類などを挙げることができ、金属酸化物としては、これら金属の酸化物を挙げることができる。これら金属又は金属酸化物は、例えば、粒子形状、繊維形状、又はナノワイヤー形状であることができる。
本発明の導電性多孔体を構成する繊維状物は、上記のような第1導電性材料同士が第2導電性材料によって繋がった状態にあるため、導電性に優れている。特に、第1導電性材料同士が第2導電性材料によって結合した状態にあると、導電性に優れている。この第2導電性材料は第1導電性材料同士を繋ぐことができるものであれば良く、特に限定するものではないが、第1導電性材料との密着性に優れ、導電性に優れているように、有機材料が炭化したものであるのが好ましい。例えば、第1導電性材料を有機材料中に分散させた状態の第1前駆繊維の有機材料を炭化させると、第1導電性材料同士が炭化した第2導電性材料によって密着して繋がった、導電性に優れる繊維状物とすることができる。
このような炭化可能な有機材料(以下、「第1炭化可能有機材料」と表記することがある)としては、第1導電性材料との密着性に優れるものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ピッチ、ポリアミノ酸樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの熱可塑性樹脂;セルロース(多糖類)、タール;又はこれら樹脂のモノマーを成分とする共重合体(例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体など)など、その他の樹脂などの第1炭化可能有機材料を挙げることができる。なお、第1炭化可能有機材料は前記のような有機材料1種類のみであっても良いし、2種類以上であっても良い。
これらの中でも、第1炭化可能有機材料として熱硬化性樹脂を含んでいると、炭化過程で繊維状物の収縮を抑制できるとともに、繊維状物の剛性を高めることができ、圧力によって潰れにくい導電性多孔体とすることができるため好適であり、特に、フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂を炭化した第2導電性材料は導電性にも優れているため、好適である。なお、第1炭化可能有機材料が熱硬化性樹脂のみであると、繊維状物の剛性が不十分になる傾向があるため、熱硬化性樹脂に加えて、熱硬化性樹脂以外の樹脂(例えば、熱可塑性樹脂)を含んでいるのが好ましい。
本発明の繊維状物は前述のような第1導電性材料と第2導電性材料とを有するものであるが、第1導電性材料間に第2導電性材料が充填された状態で、つまり、第1導電性材料間に空隙のない状態にあると、繊維状物は曲げ強度に優れているため、曲げ強度の優れる導電性多孔体となりやすい。また、第2導電性材料によって第1導電性同士が部分的に繋がっており、第1導電性材料間に空隙のある、多孔性の繊維状物であると、比表面積が広いため、繊維状物における空隙も利用できる導電性多孔体である。
また、第1導電性材料は繊維状物において、どのように存在していても良いが、繊維状物の内部を含む全体に存在していると、導電性に優れているため好適である。なお、第1導電性材料が繊維状物の表面から、その端部が突出していると、隣接する繊維状物と接触しやすく、導電性に優れているため好適である。このように第1導電性材料が繊維状物全体に存在し、繊維状物の表面から端部が突出した繊維状物は、例えば、第1炭化可能有機材料と、繊維状、チューブ状などの長尺状の第1導電性材料とを含む第1前駆繊維の、第1炭化可能有機材料を炭化することによって形成できる。
このような繊維状物における第1導電性材料と第2導電性材料との質量比は特に限定するものではないが、10〜90:90〜10であるのが好ましく、20〜90:80〜10であるのがより好ましく、30〜90:70〜10であるのが更に好ましく、40〜90:60〜10であるのが更に好ましい。第1導電性材料が10%を下回ると、導電性多孔体の導電性が不足しやすく、一方で、90%を上回ると、第1導電性材料間を繋ぐ第2導電性材料が少なく、導電性多孔体としての導電性に劣り、更に圧力によって潰れやすくなる傾向があるためである。
このような繊維状物の平均繊維径は特に限定するものではないが、0.1μm〜50μmであるのが好ましく、0.1μm〜30μmであるのがより好ましく、0.1μm〜20μmであるのが更に好ましい。平均繊維径が50μmを上回ると、導電性多孔体における繊維状物同士の接触点が少なく、導電性多孔体の曲げ強度等の機械的強度や導電性が不足する傾向があるためである。一方、0.1μmを下回ると、第1導電性材料が繊維状物の内部に含有されにくくなる傾向があるためである。
本発明における「平均繊維径」は、40点における繊維径の算術平均値を意味し、「繊維径」は、繊維状物又は繊維の平面の顕微鏡写真で観察される繊維状物又は繊維の長さ方向に直交する幅である。なお、繊維状物における第1導電性材料の端部が繊維状物から突出している場合には、その突出部を除いた繊維状物の幅を繊維径とする。
なお、繊維状物は導電性に優れているように、連続した繊維状物であるのが好ましい。このような連続した繊維状物は、例えば、第1導電性材料と第2導電性材料となる第1炭化可能有機材料とを含む紡糸液を、静電紡糸法又はスパンボンド法により紡糸した連続した第1前駆繊維を形成した後に、第1炭化可能有機材料を炭化し、第2導電性材料として製造できる。
なお、本発明における「繊維状物」とは、第1導電性材料間が第2導電性材料によって繋がっていることによって、繊維のように線状に延びる物であり、例えば、500〜2000倍程度の電子顕微鏡写真によって、確認することができる。
本発明の導電性多孔体は上述のような繊維状物を含むものであるが、上述のような繊維状物に加えて、繊維内部に空隙のない、内部充実導電性繊維を更に含んでいるのが好ましい。このような内部充実導電性繊維は繊維内部に空隙がなく、曲げても破断しにくいため、曲げたとしても破断しにくい導電性多孔体となりやすい。
特に、繊維状物が、第2導電性材料によって第1導電性同士が部分的に繋がっており、第1導電性材料間に空隙のある多孔性の状態であると、比表面積が広く、繊維状物における空隙も利用でき、好適であるが、このような繊維状物は曲げによって破断しやすいため、内部充実導電性繊維を含んでいるのが好ましい。
この「繊維内部に空隙がない」とは、導電性多孔体の厚さ方向における切断面において、輪郭が連続しており、横断面形状が明確な導電性繊維の横断面全体が1〜3本納まる視野での導電性繊維の観察を、10箇所で実施し、空隙が観察されない導電性繊維が70%以上である場合を意味する。なお、導電性繊維が後述のような第3導電性材料を含んでおり、導電性多孔体を厚さ方向に切断した時に、第3導電性材料が脱落して形成されたことが明らかな空隙は、上記空隙に含まない。
このような内部充実導電性繊維としては、例えば、炭素繊維、金属繊維、導電性材料含有繊維、金属被覆繊維、導電性高分子被覆繊維、金属酸化物繊維を挙げることができる。これらの中でも、導電性に優れている炭素繊維であるのが好ましい。
内部充実導電性繊維が好適である炭素繊維からなる場合、どのような有機材料を炭化させた炭素繊維であっても良いが、前述の繊維状物を構成する第2導電性材料のもととなった第1炭化可能有機材料と同様の有機材料(以下、「第2炭化可能有機材料」と表記することがある)であることができる。つまり、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ピッチ、ポリアミノ酸樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの熱可塑性樹脂;セルロース(多糖類)、タール;又はこれら樹脂のモノマーを成分とする共重合体(例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体など)など、その他の樹脂などの、第2炭化可能有機材料1種類以上であることができる。これらの中でもポリアクリロニトリル樹脂は炭化率が高く、内部充実導電性繊維を形成しやすいため好適である。
なお、内部充実導電性繊維が炭素繊維からなる場合であっても、導電性材料(以下、「第3導電性材料」と表記する)を含んでいることができる。このような第3導電性材料を含んでいることによって、更に導電性に優れている。この第3導電性材料は繊維状物を構成する第1導電性材料と同様のものであることができる。つまり、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属、金属酸化物の群の中から選ばれる1種類以上であることができる。特に限定するものではないが、内部充実導電性繊維を形成しやすいように、分散性の高いカーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長カーボンファイバーが好適である。なお、炭素繊維に含まれていることのできる第3導電性材料の平均粒径、繊維径、繊維長、含有量も繊維状物を構成する第1導電性材料と同様であることができる。
このような内部充実導電性繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、0.01μm〜20μmであるのが好ましく、0.1μm〜3μmであるのがより好ましく、0.1μm〜1μmであるのが更に好ましい。平均繊維径が20μmを上回ると、導電性多孔体の剛性が強くなり、取り扱い性が悪くなる傾向があり、一方、0.01μmを下回ると、内部充実繊維自体の強度が低くなる傾向がある。
なお、内部充実導電性繊維は導電性に優れているように、連続しているのが好ましい。このような連続した内部充実導電性繊維は、例えば、第2炭化可能有機材料を含む紡糸液(好適には第3導電性材料を含む紡糸液)を、静電紡糸法又はスパンボンド法により、連続した第2前駆繊維を紡糸した後に、第2炭化可能有機材料を炭化して製造できる。
このような内部充実導電性繊維を含む場合、繊維状物と内部充実導電性繊維との質量比率は90:10〜10:90であるのが好ましく、70:30〜30:70であるのがより好ましく、60:40〜60:40であるのが更に好ましい。内部充実導電性繊維の質量比率が10%未満であると、曲げによって破断しやすくなる傾向があり、内部充実導電性繊維の質量比率が90%を超えると、圧縮耐性及び比表面積が小さくなる傾向があるためである。
本発明の導電性多孔体は上述のような繊維状物を含むものであるが、上述のような繊維状物に加えて、平均繊維径が1μm以下の導電性細繊維を更に含んでいるのが好ましい。このような導電性細繊維を含んでいることによって、導電性多孔体を曲げたとしても破断しにくいためである。つまり、導電性細繊維は平均繊維径が小さいため、繊維状物と絡みやすく、同量であれば、導電性細繊維量が多く、繊維状物とより絡むことができ、曲げても破断しにくくなるためである。
特に、繊維状物が、第2導電性材料によって第1導電性同士が部分的に繋がっており、第1導電性材料間に空隙のある多孔性の状態であると、比表面積が広く、繊維状物における空隙も利用でき、好適であるが、このような繊維状物は曲げによって破断しやすいため、導電性細繊維を含んでいるのが好ましい。
この導電性細繊維は繊維状物と絡みやすいように、平均繊維径が1μm以下であるが、細い方がより絡みやすく、同量であれば導電性繊維量が多くなるため、平均繊維径は0.9μm以下であるのが好ましく、0.7μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以下であるのが更に好ましい。一方で、0.01μmよりも細くなると、導電性細繊維自体の強度が低くなる傾向があるため、0.01μm以上であるのが好ましい。
このような導電性細繊維としては、例えば、炭素繊維、金属繊維、導電性材料含有繊維、金属被覆繊維、導電性高分子被覆繊維、金属酸化物繊維を挙げることができる。これらの中でも、導電性に優れている炭素繊維であるのが好ましい。
導電性細繊維が好適である炭素繊維からなる場合、どのような有機材料を炭化させた炭素繊維であっても良いが、前述の繊維状物を構成する第2導電性材料のもととなった第1炭化可能有機材料と同様の有機材料(以下、「第3炭化可能有機材料」と表記する)であることができる。つまり、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ピッチ、ポリアミノ酸樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの熱可塑性樹脂;セルロース(多糖類)、タール;又はこれら樹脂のモノマーを成分とする共重合体(例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体など)など、その他の樹脂などの、第3炭化可能有機材料1種類以上であることができる。これらの中でもポリアクリロニトリル樹脂は炭化率が高く、また、繊維径の小さい導電性細繊維であることができるため好適である。
なお、導電性細繊維が炭素繊維からなる場合であっても、導電性材料(以下、「第4導電性材料」と表記する)を含んでいることができる。このような第4導電性材料を含んでいることによって、更に導電性に優れている。この第4導電性材料は繊維状物を構成する第1導電性材料と同様のものであることができる。つまり、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属、金属酸化物の群の中から選ばれる1種類以上であることができる。第4導電性材料は特に限定するものではないが、導電性細繊維を形成しやすいように、粒子径が小さく、分散性の高いカーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長カーボンファイバーであるのが好ましい。なお、第4導電性材料の平均粒径、繊維径、繊維長、含有量も繊維状物を構成する第1導電性材料と同様であることができる。
なお、導電性細繊維は導電性に優れているように、連続しているのが好ましい。このような連続した導電性細繊維は、例えば、第3炭化可能有機材料を含む紡糸液(好適には第4導電性材料を含む紡糸液)を、静電紡糸法により、連続した第3前駆繊維を紡糸した後に、第3炭化可能有機材料を炭化して製造できる。
更に、導電性細繊維は繊維内部に空隙がないのが好ましい。繊維内部に空隙がなければ、導電性細繊維を曲げても破断しにくいため、破断しにくい導電性多孔体となりやすいためである。なお、このように導電性細繊維が繊維内部に空隙がない場合、導電性細繊維は内部充実導電性繊維でもある。
このような導電性細繊維を含む場合、繊維状物と導電性細繊維との質量比率は90:10〜10:90であるのが好ましく、70:30〜30:70であるのがより好ましく、60:40〜60:40であるのが更に好ましい。導電性細繊維の質量比率が10%未満であると、曲げによって破断しやすくなる傾向があり、導電性細繊維の質量比率が90%を超えると圧縮耐性および比表面積が小さくなる傾向があるためである。
本発明の導電性多孔体は上述のような繊維状物、内部充実導電性繊維、導電性細繊維以外の繊維を含むことができる。例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属や金属酸化物などの微粒子;レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、フッ素繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィン繊維又はポリウレタン繊維などの合成繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維、綿、麻などの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維;活性炭粉体(例えば、水蒸気賦活炭、アルカリ処理活性炭、酸処理活性炭など)、無機粒子(例えば、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン含有酸化物、ゼオライト、触媒担持セラミックス、シリカなど)、イオン交換樹脂粉体、植物の種子などの非導電性材料;を含むことができる。
本発明の導電性多孔体は前述のような繊維状物を含む限り、一層構造を有するものであっても、二層以上の多層構造を有するものであっても良いし、繊維状物の含有比率が徐々に変化していても良い。例えば、繊維状物の含有量の異なる層を二層以上有する多層構造、異なる繊維状物を有する層を二層以上有する多層構造、内部充実導電性繊維の種類及び/又は量の異なる層を二層以上有する多層構造、導電性細繊維の種類及び/又は量の異なる層を二層以上有する多層構造を有するものであっても良い。また、導電性多孔体の主面において、繊維状物の含有量が異なっていても良い。例えば、導電性多孔体の主面において、繊維状物の含有比率の高い部分が点状、直線状及び/又は曲線状(円状など)に存在することができる。更に、導電性多孔体の主面において、繊維状物の含有比率が徐々に変化していても良い。
なお、「異なる繊維状物」とは、第1導電性材料又は第2導電性材料の組成、形態、大きさ、密度、強度等が異なる;繊維状物の密度が異なる、繊維状物における第1導電性材料の存在状態が異なる、繊維状物における第1導電性材料と第2導電性材料との質量比が異なる、繊維状物の繊維径が異なる、繊維状物の長さが異なる、繊維状物の空隙率が異なる、繊維状物の集合状態が異なる、繊維状物の比表面積が異なるなど、これらの中の一点以上が異なることをいう。
本発明の導電性多孔体は前述のような繊維状物を含むものであり、好ましくは内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含むものであり、繊維状物間に(内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含む場合には、繊維状物と内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維との間にも)、空隙を有する多孔性のものである。導電性多孔体の形態は特に限定するものではないが、例えば、糸状、シート状の二次元的な形態であることも、円柱、角柱、三角柱などの柱状体;円錐、角錐などの錐体;円錐台、角錘台などの錘台体;球、半球などの球体などの三次元的な形態であることもできる。なお、シート状であると汎用性に優れているため、好適な形態である。
なお、導電性多孔体は繊維状物を含み、好ましくは内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含むものであるが、繊維状物同士は(内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含む場合には、繊維状物と内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維とは)、結合していても、結合していなくても良いが、結合している方が、導電性及び形態安定性に優れているため好適である。例えば、繊維状物を構成する第2導電性材料(内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含む場合には、内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維の構成材料)によって結合しているのが好ましい。
また、導電性多孔体は織物状態又は編物状態であっても良いが、繊維状物間(内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維を含む場合には、繊維状物と内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維との間)の空隙がより微細であるように、ランダムに集合した、いわゆる不織布状態にあるのが好ましく、不織布状態のみからなるのがより好ましい。なお、不織布状態であっても、繊維状物(好ましくは含む内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維)がある程度一定方向に配向していると、その配向方向における導電性が高い。
本発明の導電性多孔体は前述のような繊維状物を含み、好ましくは内部充実導電性繊維及び/又は導電性細繊維の構成材料を含むものであるが、比表面積が100m2/g以上と表面積が広いため、各種用途において、十分な性能を発揮できる。例えば、本発明の導電性多孔体を電気二重層キャパシタの電極用基材として使用した場合には、静電容量の大きい電気二重層キャパシタとすることができる。この比表面積が大きければ大きい程、各種性能を発揮することができるため、導電性多孔体の比表面積は100m2/g〜3000m2/gであるが好ましく、150m2/g〜2500m2/gであるのがより好ましく、200m2/g〜2000m2/gであるのが更に好ましく、200m2/g〜1000m2/gであるのが更に好ましく、200m2/g〜800m2/gであるのが更に好ましい。比表面積が3000m2/gを超えると、繊維状物の密度が極端に低下し、導電性多孔体の曲げ強度および導電性が低下する傾向があるためである。
本発明の比表面積はBET法で測定した値であり、例えば、自動比表面積/細孔分布測定装置(BELSORP mini;日本ベル株式会社)を用い、吸着ガスとして、窒素ガスを使用して測定できる。
また、本発明の導電性多孔体は曲げ強度が10MPa以上であるため、曲げたとしても破断しにくい。この曲げ強度が強い程、曲げても破断しにくいため、12MPa以上であるのが好ましく、14MPa以上であるのがより好ましく、16MPa以上であるのが更に好ましい。なお、曲げ強度は100MPa以下であるのが好ましい。一方で、この曲げ強度が強いことは導電性多孔体の剛性が高い場合があり、取り扱い性が悪くなる傾向があるため、曲げたわみ量が1mm以上と、ある程度曲がり、剛直過ぎず、取り扱い性に優れるものである。好ましくは、曲げたわみ量が1.4mm以上であり、より好ましくは1.8mm以上であり、更に好ましくは2.0mm以上である。なお、曲げたわみ量は10mm以下であるのが好ましい。
本発明における「曲げ強度」及び「曲げたわみ量」は次の手順により得られる値をいう。
(1)導電性多孔体を裁断し、50mm(試験片の製造時の流れ方向)×10mm[幅方向(流れ方向と直交する方向)]の試験片(流れ方向試験片)を5枚と、50mm[幅方向]×10mm(試験片の製造時の流れ方向)の試験片(幅方向試験片)を5枚採取する。
(2)先端が2±0.2mmの丸みを有する金属製支点を用意し、支点間距離が16mmとなるように、支点を配置する。
(3)支点間を跨ぐように、試験片を配置する。
(4)試験片の支点間の中央部(一方の支点から8mmの地点)に対して、先端が5±0.1mmの丸みを有する金属製加圧くさびを用いて速度1mm/min.で加圧し、試験片の中央部が折れたときの荷重を0.001Nまで測定する。
(5)上記結果をもとに、次の式から曲げ強度(S、単位:MPa)を算出する。
S=3PL/(2Wh2)
ここで、Pは試験片が折れた時の荷重(単位:N)、Lは支点間距離(=16mm)、Wは試験片の幅(=10mm)、hは試験片の厚さ(単位:mm)を、それぞれ意味する。
(6)前記曲げ強度の測定を、流れ方向試験片5枚と幅方向試験片5枚のそれぞれについて行い、流れ方向試験片5枚の算術平均値と幅方向試験片5枚の算術平均値をそれぞれ算出する。その結果、曲げ強度の算術平均値のより高い値を本発明の「曲げ強度」とする。
(7)上記曲げ強度の測定において、試験片が折れた時の加圧くさびによる押し込み量(=試験片の上面又は下面の初期位置と折れた位置との距離)を曲げたわみ量(mm)とする。
(8)前記曲げたわみ量の測定を、流れ方向試験片5枚と幅方向試験片5枚のそれぞれについて行い、流れ方向試験片5枚の算術平均値と幅方向試験片5枚の算術平均値をそれぞれ算出する。その結果、曲げたわみ量の算術平均値のより高い値を本発明の「曲げたわみ量」とする。
なお、導電性多孔体は圧力によって破損せず、厚さを維持して導電性多孔体の多孔性を十分に利用できるように、2MPa加圧後における厚さの維持率が60%以上であるのが好ましい。例えば、固体高分子形燃料電池の電極基材として使用した場合、厚さを維持できるため、ガスの供給性及び排水性に優れている。この厚さの維持率が高ければ高い程、導電性多孔体の空隙を有効に利用することができるため、厚さ維持率は60%〜100%であるのが好ましく、70%〜100%であるのがより好ましく、80%〜100%であるのが更に好ましい。
この厚さの維持率(Tr)は次の式から算出される値である。
Tr=(Ta/Tb)×100
ここで、Taはステンレス板間に導電性多孔体を挟み、積層方向に、圧力2MPaで30秒間加圧し、圧力を取り除いた時における厚さであり、Tbは導電性多孔体の2MPa加圧前における厚さであり、本発明における「厚さ」は、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−401:測定力3.5N以下)を用いて測定した値をいう。
更に、本発明の導電性多孔体は空隙を有効に活用できるように、空隙率が50%以上であるのが好ましい。このような空隙率の導電性多孔体を、例えば、固体高分子形燃料電池の電極基材として使用すると、排水性およびガス拡散性に優れ、発電性能の高い燃料電池を作製することができる。空隙率が高い方が、空隙がより多く、空隙をより有効に活用できるため、空隙率は60〜99%であるのがより好ましい。99%を超えると、導電性多孔体としての形態安定性が極端に低下する傾向があるためである。
この空隙率P(単位:%)は、次の式から得られる値をいう。
P=100−(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは導電性多孔体を構成する成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn=[M×Prn/(T×SGn)]×100
ここで、Mは導電性多孔体の単位あたりの質量(単位:g/cm2)、Tは導電性多孔体の厚さ(cm)、Prnは導電性多孔体における成分n(例えば、第1導電性材料、第2導電性材料)の存在質量比率、SGnは成分nの比重(単位:g/cm3)をそれぞれ意味する。
本発明の導電性多孔体は導電性に優れているように、電気抵抗は150mΩ・cm2以下であるのが好ましく、100mΩ・cm2以下であるのがより好ましく、50mΩ・cm2以下であるのが更に好ましく、25mΩ・cm2以下であるのが更に好ましく、15mΩ・cm2以下であるのが更に好ましく、10mΩ・cm2以下であるのが更に好ましい。本発明の「電気抵抗」は、5cm角に切断した導電性多孔体(25cm2)を両面側からカーボンプレートで挟み、カーボンプレートの積層方向に、2MPaで加圧下、1Aの電流(I)を印加した状態で、電圧(V)を計測する。続いて、抵抗(R=V/I)を算出し、更に、導電性多孔体の面積(25cm2)を乗じることによって得られる値である。
本発明の導電性多孔体の目付及び厚さは、特に限定するものではないが、導電性、取り扱い性及び生産性の点から0.5〜500g/m2であるのが好ましく、1〜400g/m2であるのがより好ましく、10〜300g/m2であるのが更に好ましく、10〜200g/m2であるのが更に好ましい。また、厚さも特に限定するものではないが、1〜2000μmであるのが好ましく、3〜1000μmであるのがより好ましく、5〜500μmであるのが更に好ましく、10〜300μmが更に好ましい。本発明における「目付」は、10cm角に切断した試料の質量を測定し、1m2の大きさの質量に換算した値をいう。
本発明の導電性多孔体は表面積が広いばかりでなく、曲げても破損しにくく、取り扱いやすいものであるため、電極用基材として好適に用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池又は電気二重層キャパシタの電極として用いた場合、容量の大きい二次電池又はキャパシタとすることができる。また、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として備えていると、優れた発電性能を発揮できる。
このように固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として、本発明の導電性多孔体を備えている場合、本発明の導電性多孔体は多孔性であるため、繊維状物間の空隙に何も充填されていなければ、ガス拡散電極用基材の厚さ方向及び面方向への排水性に優れているとともに、供給したガスの拡散性に優れている。
なお、ガス拡散電極用基材の繊維状物間の空隙に、フッ素系樹脂及び/又はカーボンを含んでいると、前者のフッ素系樹脂を含有していることによって、液水が押し出されやすいため、排水性を高めることができ、後者のカーボンを含有していることによって、導電性を高めることができる。
このフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などを挙げることができる。
また、カーボンとしては、例えば、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラックなどを挙げることができる。
本発明の固体高分子形燃料電池は、前述の導電性多孔体をガス拡散電極用基材として備えていること以外は、従来の固体高分子形燃料電池と全く同様であることができる。つまり、上述のようなガス拡散電極用基材表面に触媒が担持されたガス拡散電極と固体高分子膜との接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。
前述のような本発明の導電性多孔体は、例えば、第1導電性材料と第1炭化可能有機材料とを含む第1紡糸液を紡糸して、第1前駆繊維を形成するとともに、第2炭化可能有機材料を含む第2紡糸液を紡糸して、第2前駆繊維を形成し、これら第1前駆繊維と第2前駆繊維とを含む前駆繊維多孔体を形成した後、第1炭化可能有機材料を炭化して第2導電性材料として、第1導電性材料間を第2導電性材料で繋いだ繊維状物とするとともに、第2炭化可能有機材料を炭化して内部充実導電性繊維として、比表面積が100m2/g以上であり、しかも曲げ強度が10MPa以上、かつ曲げたわみ量が1mm以上の導電性多孔体とすることができる。
より具体的には、まず、第1導電性材料と第1炭化可能有機材料とを用意する。第1導電性材料としては、前述のものを使用することができ、それ自体が導電性に優れ、しかも繊維状物中において、繊維状物の長さ方向に配向しやすく、導電性に優れる繊維状物を製造しやすい、カーボンナノチューブであるのが好ましい。
一方、第1炭化可能有機材料も前述のものを使用することができ、熱硬化性樹脂を使用すると、繊維状物の剛性を高めることができ、圧力によって潰れにくい導電性多孔体を製造しやすく、特に、フェノール樹脂、エポキシ樹脂は炭化して導電性に優れる第2導電性材料となるため、好適である。
なお、第1導電性材料と第1炭化可能有機材料のみから第1紡糸液を調製することができるが、紡糸性に劣り、繊維化するのが困難な場合や、繊維状物自体の多孔化や、導電性多孔体の比表面積を高めるために、2種類以上の第1炭化可能有機材料を使用して第1紡糸液を調製するのが好ましいため、2種類以上の第1炭化可能有機材料を用意するのが好ましい。特に、炭化過程又は炭化率の異なる第1炭化可能有機材料を用いると、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすいため、炭化過程又は炭化率の異なる第1炭化可能有機材料を用意するのが好ましい。つまり、炭化率が低い第1炭化可能有機材料を含んでいることによって、紡糸性が改善され、しかも炭化する段階では、炭化率の低い第1炭化可能有機材料の比較的多くが消失することによって、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすい。また、炭化過程が異なる第1炭化可能有機材料を含んでいることによって、紡糸性が改善されるとともに、炭化過程における化学変化機構(最適温度、時間、分解等)が異なり、収縮率や流動性等の差が生じることによって、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすいと考えられる。そのため、炭化過程又は炭化率の異なる第1炭化可能有機材料を用意するのが好ましい。
例えば、第1炭化可能有機材料として、炭化率の高い熱硬化性樹脂(特に、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂)と、炭化率の低い熱可塑性樹脂(例えば、フッ素樹脂)とを使用して第1紡糸液を調製すると、紡糸性が改善されるとともに、炭化する段階で、炭化率の低い熱可塑性樹脂の大部分が消失することによって、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすいため、このような炭化率の異なる第1炭化可能有機材料を用意するのが好ましい。
このフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(THV)、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体などを挙げることができる。
また、第1炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂(特に、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂)と、炭化過程の異なる熱可塑性樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル樹脂)とを使用して第1紡糸液を調製すると、紡糸性が改善されるとともに、炭化の際に、収縮率等の差が生じることによって、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすいと考えられるため、このような炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料を用意するのも好ましい。
更に、第1炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂(特に、フェノール樹脂又はエポキシ樹脂)と、融点を有する熱可塑性樹脂とを使用して第1紡糸液を調製すると、紡糸性が改善されるとともに、炭化の際に、熱可塑性樹脂が流動することによって、繊維状物自体が多孔化し、導電性多孔体の比表面積が高くなりやすいと考えられるため、このような炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料を用意するのも好ましい。
なお、前述のような炭化率の異なる第1炭化可能有機材料又は炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料に加えて、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンや、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの、公知の無機系化合物が重合してなるポリマーを混合して第1紡糸液を調製することもできるため、このようなポリマーを用意しても良い。
次いで、このような第1導電性材料、第1炭化可能有機材料、好ましくは炭化率又は炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料を含む第1紡糸液を調製する。第1紡糸液を構成する溶媒は、第1導電性材料が均一に分散し、第1炭化可能有機材料(好ましくは炭化率又は炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料も)が溶解可能な溶媒であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、水等を挙げることができ、これらの溶媒を単独で、又は混合して使用することができる。なお、紡糸性に問題がない範囲で、貧溶媒を添加することもできる。
なお、第1紡糸液における固形分濃度は特に限定するものではないが、1〜50mass%であるのが好ましく、5〜30mass%であるのがより好ましい。1mass%を下回ると、生産性が極端に低下し、50mass%を上回ると、紡糸が不安定になる傾向があるためである。
また、第1紡糸液における第1導電性材料の固形分量と第1炭化可能有機材料(2種類以上含む場合には、その総量)の固形分量が、繊維状物における第1導電性材料と第2導電性材料の質量比率に影響を与え、結果として導電性に影響を与えるため、第1紡糸液における第1導電性材料の固形分量と第1炭化可能有機材料の固形分量の質量比率は、10〜90:90〜10であるのが好ましく、20〜90:80〜10であるのがより好ましく、30〜90:70〜10であるのが更に好ましく、40〜90:60〜10であるのが更に好ましく、40〜80:60〜20であるのが更に好ましく、40〜70:60〜30であるのが更に好ましく、50〜70:50〜30であるのが更に好ましい。
なお、第1炭化可能有機材料として、炭化率及び/又は炭化過程の異なる有機材料を含んでいる場合、前述の通り、繊維状物自体を多孔化することができ、導電性多孔体の比表面積を大きくしやすいように、第1導電性材料と、炭化率の低い有機材料又は収縮率や流動性が相対的に大きい第1炭化可能有機材料の固形分量と、炭化率の高い有機材料又は収縮率や流動性が相対的に小さい第1炭化可能有機材料の固形分量の質量比率は、10〜90:85〜5:85〜5であるのが好ましく、20〜80:60〜10:60〜10であるのがより好ましい。
一方で、第2炭化可能有機材料を用意する。この第2炭化可能有機材料は前述のものを使用することができ、特にポリアクリロニトリル樹脂は炭化率が高く、内部充実導電性繊維を作製しやすいため好適である。
第2紡糸液は、第2炭化可能有機材料のみから調製することができるが、第2紡糸液に由来する内部充実導電性繊維の導電性が高いように、第3導電性材料を含ませることができる。この第3導電性材料としては、前述のものを使用することができ、それ自体が導電性に優れ、しかも内部充実導電性繊維中において、繊維の長さ方向に配向しやすく、導電性に優れる内部充実導電性繊維を製造しやすい、カーボンナノチューブであるのが好ましい。
なお、第2紡糸液は第2炭化可能有機材料に加えて、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンや、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなどの、公知の無機系化合物が重合してなるポリマーを混合して調製することができる。
次いで、このような第2炭化可能有機材料、場合によって、第3導電性材料を含む第2紡糸液を調製する。第2紡糸液を構成する溶媒は、第2炭化可能有機材料が溶解可能であれば良く、第3導電性材料も含む場合には、第3導電性材料も均一に分散できる溶媒であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、水等を挙げることができ、これらの溶媒を単独で、又は混合して使用することができる。なお、紡糸性に問題がない範囲で、貧溶媒を添加することもできる。
なお、第2紡糸液における固形分濃度は特に限定するものではないが、1〜50mass%であるのが好ましく、5〜30mass%であるのがより好ましい。1mass%を下回ると、生産性が極端に低下し、50mass%を上回ると、紡糸が不安定になる傾向があるためである。
また、第2紡糸液が第3導電性材料も含む場合には、第2炭化可能有機材料の固形分量と第3導電性材料量が内部充填導電性繊維の導電性に影響を与えるため、第2紡糸液における第3導電性材料量と第2炭化可能有機材料の固形分量の質量比率は、1〜90:99〜10であるのが好ましく、1〜60:99〜40であるのがより好ましく、1〜40:99〜60であるのが更に好ましい。
次いで、第1紡糸液を紡糸して第1前駆繊維を形成するとともに、第2紡糸液を紡糸して第2前駆繊維を形成し、これら第1前駆繊維と第2前駆繊維とを含む前駆繊維多孔体を形成する。
これら第1前駆繊維と第2前駆繊維の紡糸方法は特に限定するものではないが、例えば、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された第1又は第2紡糸液に対してガスを平行に吐出し、第1又は第2紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法、を挙げることができる。これらの紡糸方法によれば、繊維径の小さい第1前駆繊維又は第2前駆繊維を紡糸でき、結果として、内部充実、かつ細い、内部充実導電性細繊維を形成しやすい。特に、静電紡糸法によれば、連続した繊維長を有する第1又は第2前駆繊維を紡糸でき、結果として、連続した繊維長を有する繊維状物と、連続した繊維長を有する内部充実導電性繊維を含む導電性多孔体を製造することができる。なお、第1紡糸液から第1前駆繊維を紡糸する方法と、第2紡糸液から第2前駆繊維を紡糸する方法とは、同じであっても、違っていても良い。
このような静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような方法によれば、紡糸した第1前駆繊維及び第2前駆繊維を直接、捕集体で捕集することによって、第1前駆繊維と第2前駆繊維とを含む前駆繊維多孔体を形成することができる。なお、捕集体として立体的なものを使用すれば、三次元構造を有する前駆繊維多孔体とすることができる。
なお、第1前駆繊維と第2前駆繊維とは、どの段階で混合して前駆繊維多孔体としても良い。つまり、捕集体に向かって飛翔している第1前駆繊維の流れと、第2前駆繊維の流れを衝突させ、第1前駆繊維と第2前駆繊維とを混合した後に、捕集体で捕集し、集積させて、前駆繊維多孔体とすることができるし、第1前駆繊維又は第2前駆繊維を捕集体で捕集して集積体とした後に、第2前駆繊維又は第1前駆繊維を第1前駆繊維集積体又は第2前駆繊維集積体に衝突させ、第1前駆繊維と第2前駆繊維とを混合し、前駆繊維多孔体とすることもできる。なお、前者のように、第1前駆繊維の流れと、第2前駆繊維の流れを衝突させる場合、第1前駆繊維又は第2前駆繊維の流れの両面から、第2前駆繊維又は第1前駆繊維を衝突させて混合することができる。同様に、後者のように、第1前駆繊維集積体又は第2前駆繊維集積体に第2前駆繊維又は第1前駆繊維を衝突させる場合、第1前駆繊維集積体又は第2前駆繊維集積体に第2前駆繊維又は第1前駆繊維を衝突させた後、更に第1前駆繊維又は第2前駆繊維を衝突させて混合することができる。
前述の通り、第1炭化可能有機材料として熱硬化性樹脂を含んでいるのが好ましいが、第1炭化可能有機材料として熱硬化性樹脂を含んでいる場合には、前駆繊維多孔体を形成した後に、熱硬化性樹脂が硬化するように、熱硬化性樹脂が熱硬化する温度で、熱処理を実施するのが好ましい。この熱処理温度、時間等の熱硬化条件は、熱硬化性樹脂によって異なるため、熱硬化性樹脂に応じて、適宜調整する。
なお、第1紡糸液の溶媒として、紡糸時に揮散しにくいものを使用し、前駆繊維多孔体を形成した後に、溶媒置換により溶媒を除去すると、第1前駆繊維同士、及び第1前駆繊維と第2前駆繊維とが可塑化結合した状態になり、結果として導電性の高い導電性多孔体を製造しやすく、また、前駆繊維多孔体が緻密になり、接触抵抗が低くなりやすく、更に、第1前駆繊維に微孔が形成されて、比表面積の大きい繊維状物、結果として比表面積の大きい導電性多孔体を製造しやすいため好適である。なお、紡糸時に揮散しにくい溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
更に、第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維との結合力を付与又は向上させるために、バインダにより第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維とを接着することも考えられるが、バインダを使用した場合、バインダが第1前駆繊維と第2前駆繊維によって形成される空隙を埋めたり、バインダが第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維の接触部周辺を覆ってしまい、導電性多孔体の空隙を十分に利用できなくなる場合がある。例えば、導電性多孔体をガス拡散電極用基材として使用する場合、ガス又は液水の透過性が低下する傾向がある。そのため、第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維とを結合する場合には、溶媒による第1炭化可能有機材料及び/又は第2炭化可能有機材料の可塑化、第1炭化可能有機材料及び/又は第2炭化可能有機材料の熱による融着、或いは圧力による密着等により、結合するのが好ましい。
本発明における「前駆繊維」とは、第1炭化可能有機材料、第2炭化可能有機材料等の炭化可能有機材料が炭化していない状態の繊維を意味し、第1炭化可能有機材料の場合には、炭化することによって第2導電性材料となり、第1導電性材料間を第2導電性材料で繋いだ繊維状物となり、第2炭化可能有機材料の場合には、炭化することによって内部充実導電性繊維となるため、繊維状物、内部充実導電性繊維等の素となる繊維という意味で、前駆繊維と表現している。
なお、第1前駆繊維及び第2前駆繊維を連続繊維として巻き取り、次いで第1前駆繊維及び第2前駆繊維を所望繊維長に切断して短繊維とした後、公知の乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成し、結合して、前駆繊維多孔体とすることもできる。また、前記短繊維を第1前駆繊維又は第2前駆繊維の流れに対して衝突させて前駆繊維多孔体とすることができるし、前記短繊維を第1前駆繊維集積体又は第2前駆繊維集積体に対して衝突させて前駆繊維多孔体とすることができる。更に、連続した第1前駆繊維及び第2前駆繊維を用いて、常法により織ったり、編んだりして、前駆繊維多孔体とすることもできる。
更に、続く炭化処理の前に、前駆繊維多孔体に対して、圧力を負荷するのが好ましい。圧力を負荷することによって、炭化処理後に実施するのが困難な導電性多孔体の密度、厚さを調整することにより、曲げ強度、曲げたわみ量を調整することができ、更には、表面平滑性を高めることもできるためである。なお、所望曲げ強度及び曲げたわみ量となる限り、負荷圧力は特に限定するものではないが、平板プレス等を用いて面的に圧力を負荷する場合には、0.01MPa〜50MPaであるのが好ましく、カレンダー等を用いて線的に圧力を負荷する場合には、線圧が1N/cm〜100N/cmであるのが好ましい。また、前駆繊維多孔体が潰れにくく、密度又は厚さを調整しにくい場合には、圧力に加えて、加熱しても良い。
続いて、前駆繊維多孔体を構成する第1前駆繊維の第1炭化可能有機材料を炭化して第2導電性材料として、第1導電性材料間を第2導電性材料で繋いだ繊維状物とするとともに、第2前駆繊維の第2炭化可能有機材料を炭化して内部充実導電性繊維として、比表面積が100m2/g以上であり、しかも曲げ強度が10MPa以上、かつ曲げたわみ量が1mm以上の導電性多孔体を製造する。
この炭化は第1炭化可能有機材料を第2導電性材料とすることができ、第2炭化可能有機材料を内部充実導電性繊維とすることのできる炭化であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体雰囲気中、最高温度800〜3000℃で加熱して行うことができる。なお、昇温速度は5〜100℃/分であるのが好ましく、5〜50℃/分であるのがより好ましい。また、最高温度での保持時間は、3時間以内であるのが好ましく、0.5〜2時間であるのがより好ましい。なお、第1炭化可能有機材料の炭化と、第2炭化可能有機材料の炭化とは、同時である必要はなく、別工程で実施することもできる。
なお、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料としてポリアクリロニトリル樹脂等の熱可塑性を用いる場合、炭化処理後も繊維形状を維持できるように、炭化処理の前に不融化工程を経る必要がある。ポリアクリロニトリル樹脂である場合、酸化雰囲気中、温度200〜300℃で10〜120分処理することで不融化することができる。
本発明の導電性多孔体は比表面積が100m2/g以上の比表面積が広いものであるが、このような導電性多孔体は、第1紡糸液に炭化率又は炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料を含む第1前駆繊維を紡糸した後に、第1前駆繊維から炭化率の低い第1炭化可能有機材料を抽出、又は消失させる方法、第1紡糸液の溶媒として紡糸時に揮散しにくいものを使用し、前駆繊維多孔体を形成した後に、溶媒置換により溶媒を除去する方法、及び/又は、炭化する際に、第1前駆繊維における炭化過程の異なる第1炭化可能有機材料の収縮又は流動性を利用する方法、により繊維状物を形成することによって製造しやすい。
また、本発明の導電性多孔体は曲げ強度が10MPa以上、かつ曲げたわみ量が1mm以上の曲げやすく、取り扱いやすいものであるが、このような導電性多孔体は、例えば、曲げやすく、曲げによって破損しにくい内部充実導電性繊維を含ませる方法、平均繊維径が1μm以下の導電性細繊維を含ませる方法、炭化処理又は不融化処理の前に、平板プレス、カレンダーロール、ダブルベルトプレス等により圧力を負荷することによって、厚さを調整する方法、第1炭化可能有機材料によって第1前駆繊維と第2前駆繊維との交点を接合した後に炭化して、繊維状物を形成するとともに内部充実導電性繊維とする方法、によって製造しやすい。
更に、本発明の導電性多孔体は2MPa加圧後における厚さの維持率が60%以上であるのが好ましいが、このような導電性多孔体は、第1炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂を使用し、熱硬化性樹脂を硬化させた後に炭化処理をすることによって、炭化処理時の収縮等を抑え、前駆繊維多孔体の形態を維持したまま炭化処理をすることによって製造しやすい。
更に、本発明の導電性多孔体は空隙率が50%以上と空隙が多いのが好ましいが、このような空隙率の高い導電性多孔体は、平均繊維径が0.1μm〜50μmの繊維状物を含んでいると、前記空隙率を満たしやすい。なお、前記平均繊維径の繊維状物の素となる第1前駆繊維は、静電紡糸法や、特開2009−287138号公報に開示されているような方法、又はスパンボンド法により製造しやすい。また、第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維とを結合するためにバインダを使用すると、バインダが第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維との間の空隙を埋めたり、第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維との接触部周辺を覆ってしまい、空隙率が低くなる傾向があるため、バインダを使用することなく、第1前駆繊維を構成する第1炭化可能有機材料、及び/又は第2前駆繊維を構成する第2炭化可能有機材料により、第1前駆繊維同士、第2前駆繊維同士、及び/又は第1前駆繊維と第2前駆繊維とを結合させると、前記空隙率を満たしやすい。
なお、本発明の導電性多孔体は、各種後加工により、各用途に適合する物性を付与又は向上させることができる。例えば、本発明の導電性多孔体を固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として使用する場合、導電性多孔体の撥水性を高め、排水性及びガス拡散性を高めるために、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンなどのフッ素系ディスパージョン中に、導電性多孔体を浸漬して、フッ素系樹脂を付与した後、温度300〜350℃で焼結することができる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、導電性多孔シートの電気抵抗、比表面積、曲げ強度、及び曲げたわみ量は前述の方法により測定した。
<第1紡糸液の調製>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物(THV、第1低炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
次いで、第1導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ(CNT)[商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈してカーボンナノチューブを分散させ、分散溶液を得た。
更に、前記分散溶液に、クレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第1高炭化可能有機材料(EP)を加え、CNT:THV:EPの固形分質量比が40:30:30で、固形分濃度が16mass%の第1紡糸液を調製した。
<第2紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(PAN、第2高炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度20mass%の溶液を得た。
次いで、第3導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ(CNT)[商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈してカーボンナノチューブを分散させ、CNT:PANの固形分質量比が10:90で、固形分濃度が21mass%の第2紡糸液を調製した。
<第3紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(PAN、第1炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
次いで、第1導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ(CNT)[商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈してカーボンナノチューブを分散させ、分散溶液を得た。
更に、前記分散溶液に、クレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第1高炭化可能有機材料(EP)を加え、CNT:PAN:EPの固形分質量比が40:30:30で、固形分濃度が20mass%の第3紡糸液を調製した。
(実施例1)
前記第1紡糸液を静電紡糸法により次の条件で第1前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積し、同時に、前記第2紡糸液を静電紡糸法により第2前駆連続繊維を紡糸し、直接、前記第1前駆連続繊維集積体に衝突させて集積して、第1前駆連続繊維と第2前駆連続繊維とが混合した、不織布形態の前駆繊維多孔シートを形成した。
(静電紡糸条件)
(1)第1紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(2)第2紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:12cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/35%RH
次いで、カレンダーロール(線圧10N/cm)を用いて前駆繊維多孔シートの厚さを調整した後、温度150℃に設定した熱風乾燥機で1時間の熱処理を実施して、第1前駆繊維を構成する第1高炭化可能有機材料であるエポキシ樹脂を硬化させ、前駆繊維多孔硬化シートを得た。
その後、前駆繊維多孔硬化シートに対して、温度220℃で30分、温度260℃で1時間の酸化処理を行い、第2前駆繊維を構成する第2炭化可能有機材料であるPANを不融化した。
更にその後、管状炉を用いる、アルゴンガス雰囲気下、温度800℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施し、第1前駆繊維を構成するエポキシ樹脂の炭化、THVの炭化及び大部分の消失、更には、第2前駆繊維を構成するPANの炭化を実施して、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:62g/m2、厚さ:137μm、見掛け密度:0.45g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物、THV炭化物、及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(実施例2)
静電紡糸条件(吐出量)を次のように変更した以外は、実施例1と同様にして、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:103g/m2、厚さ:177μm、見掛け密度:0.58g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物、THV炭化物、及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(静電紡糸条件)
(1)第1紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(2)第2紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:12cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(実施例3)
静電紡糸条件(吐出量)を次のように変更した以外は、実施例1と同様にして、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:88g/m2、厚さ:150μm、見掛け密度:0.59g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物、THV炭化物、及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(静電紡糸条件)
(1)第1紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(2)第2紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:12cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(実施例4)
カレンダーロールによる前駆繊維多孔シートの厚さ調整を、線圧5N/cmに変更し、前駆繊維多孔シートの厚さを調整したこと以外は実施例1と同様にして、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:65g/m2、厚さ:197μm、見掛け密度:0.33g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物、THV炭化物、及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(実施例5)
静電紡糸条件(紡糸液)を次のように変更した以外は、実施例1と同様にして、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:65g/m2、厚さ:200μm、見掛け密度:0.33g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第3紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とPANの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(静電紡糸条件)
(1)第3紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(2)第2紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:12cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/35%RH
(比較例1)
前記第1紡糸液を静電紡糸法により次の条件で第1前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、第1前駆連続繊維からなる不織布形態の前駆繊維多孔シートを形成した。
(静電紡糸条件)
(1)第1紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
次いで、カレンダーロール(線圧10N/cm)を用いて前駆繊維多孔シートの厚さを調整した後、温度150℃に設定した熱風乾燥機で1時間の熱処理を実施して、第1前駆繊維を構成する第1高炭化可能有機材料であるエポキシ樹脂を硬化させ、前駆繊維多孔硬化シートを得た。
その後、前駆繊維多孔硬化シートに対して、管状炉を用いる、アルゴンガス雰囲気下、温度800℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施し、第1前駆繊維を構成するエポキシ樹脂を炭化させるとともに、THVを炭化させ、大部分を消失させて、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:80g/m2、厚さ:200μm、見掛け密度:0.4g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物のみが絡合しており、しかも前記繊維状物間が、EP炭化物及びTHV炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、繊維状物及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(比較例2)
前記第2紡糸液を静電紡糸法により次の条件で第2前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、第2前駆連続繊維のみからなる、不織布形態の前駆繊維多孔シートを形成した。
(静電紡糸条件)
(2)第2紡糸液
電極:金属性ノズル(内径:0.41mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:12cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/35%RH
次いで、カレンダーロール(線圧10N/cm)を用いて前駆繊維多孔シートの厚さを調整した後、温度150℃に設定した熱風乾燥機で1時間の熱処理を実施した後、温度220℃で30分、温度260℃で1時間の酸化処理を行い、第2前駆繊維を構成する第2炭化可能有機材料であるPANを不融化した。
更にその後、管状炉を用いる、アルゴンガス雰囲気下、温度800℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施したところ、収縮によりシートが断片化してしまい、導電性多孔シートを作製することができなかった。
(比較例3)
カレンダーロールによる前駆繊維多孔シートの厚さ調整を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、不織布構造を有する一層構造の導電性多孔シート(目付:52g/m2、厚さ:310μm、見掛け密度:0.17g/cm3)を作製した。
なお、導電性多孔シートは、第1紡糸液から形成されたCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した多孔性の連続した繊維状物と、第2紡糸液から形成されたCNTを含むPAN炭化物からなる内部充実導電性連続繊維とが混在して絡合しており、しかも前記繊維状物間、内部充実導電性連続繊維間、及び繊維状物と内部充実導電性連続繊維とが、EP炭化物、THV炭化物、及びPAN炭化物で結合していた。なお、繊維状物はCNTの末端が表面から突出した状態にあり、CNTは繊維状物の長さ方向に配向していた。また、内部充実導電性連続繊維において、CNTは繊維の長さ方向に配向していた。更に、繊維状物、内部充実導電性連続繊維、及び導電性多孔シートの物性は表1〜3に示す通りであった。
(取り扱い性の評価)
導電性多孔シートを10cm×10cm角にカッターで切り出した後、四つの頂点のうちの一つの頂点をピンセットで摘みあげた際の、導電性多シートの表面状態を観察し、次の基準で評価した。この結果は表3に示す通りであった。
○:導電性多孔シート表面に、ヒビも割れも観察されない
×:導電性多孔シート表面に、ヒビ及び/又は割れが観察される
この表1〜3の結果から、実施例1〜5の導電性多孔体は取り扱い性に優れるものであった。
また、実施例1〜5と比較例1の結果から、繊維状物に加えて内部充実導電性繊維を含んでいると、曲げ強度が強くなり、取り扱い性が向上することがわかった。
また、実施例1〜5と比較例3の比較から、前駆繊維多孔シートに対して圧力を負荷することによって、曲げ強度を高くできることがわかった。