以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(連続鋳造プロセスで発生する引け巣について)
本発明の実施形態に係る連続鋳造方法について説明するに先立ち、連続鋳造プロセスで発生する引け巣について、図1を参照しながら簡単に説明する。図1は、連続鋳造プロセスにおいて発生する引け巣について説明するための説明図である。
液体状態の鋼である溶鋼を連続鋳造鋳型(以下、単に「鋳型」ともいう。)に供給していった場合、鋳型の方が溶鋼よりも低温にあるため、溶鋼は鋳型に近い部分から凝固していって、鋳片となっていく。ここで、鉄を含む金属は、通常、液体状態よりも固体状態において密度が大きくなるため、溶鋼が凝固していく際には、鋳造体(すなわち、鋳片)の容積が小さくなっていく収縮が生じる。その結果、比較的冷却速度が小さくなる鋳型の中央部に存在する溶鋼は、周囲に存在する凝固収縮した部分に引っ張られ、鋳片の末端の中央部には、図1に示したようなロート状に陥入した部分が生じることとなる。このようなロート状に陥入した部分のことを引け巣という。図1に示したような引け巣が発生してしまうと、鋳片として利用可能な長さが引け巣の分だけ減少することとなるため、歩留まりが低下してしまう。そこで、連続鋳造プロセスにおける歩留まりを向上させるためには、効果的に引け巣を低減することが重要となる。
引け巣の発生は、鋳片の末端部において、中央部の冷却速度が周辺部(鋳型に近い部分)の冷却速度よりも小さくなることが原因の一つである。そのため、引け巣の発生を抑制するためには、鋳片の末端部を保温・加熱することによって、冷却速度の偏りを抑制すればよいと考えられる。このような観点のもと、上記特許文献1〜特許文献3では、鋳片の末端部を保温・加熱する方法が各種開示されている。
しかしながら、先だって言及したように、上記特許文献1〜特許文献3に開示されている技術では、効果的に引け巣を低減することができなかったり、鋳片の品質不良が生じたりすることがあった。そこで、本発明者らは、鋳片の末端部に投入されたモールドパウダーを、マイクロ波を用いて効率的に加熱することで、鋳片の末端部の効果的な保温・加熱を実現し、鋳片の品質不良を生じさせることなく効果的に引け巣を低減するという観点に想到し、以下で詳述するような更なる検討を実施した。
(マイクロ波によるモールドパウダーの加熱処理についての検討)
以上のような観点のもと、本発明者らは、マイクロ波によるモールドパウダーの加熱処理について、詳細に検討した。以下では、図2〜図5を参照しながら、マイクロ波を用いたモールドパウダーの加熱処理について、詳細に説明する。図2は、モールドパウダーにマイクロ波を照射する実験について説明するための説明図である。図3Aは、モールドパウダーの温度とマイクロ波の照射時間との関係を示したグラフ図であり、図3Bは、モールドパウダーの温度と加熱効率との関係を示したグラフ図である。図4は、モールドパウダーにマイクロ波を照射する実験について説明するための説明図であり、図5は、溶鋼の熱流束と加熱時間との関係を示したグラフ図である。
本発明者らは、まず、図2に示した装置を利用して、モールドパウダーのマイクロ波加熱特性を調査した。調査に利用した装置は、図2に示したように、周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させることが可能なマイクロ波発振器と、マイクロ波の進行制御を行うサーキュレータと、パワーモニタと、を有している。
ここで、サーキュレータは、例えば磁石を利用したマイクロ波の進行制御を行うことで、サーキュレータに入力されるマイクロ波を、マイクロ波発振器から出力された入射波と、モールドパウダー側から戻ってきた反射波とに分離する。サーキュレータは、反射マイクロ波をアイソレータの側へと導波して、反射マイクロ波をアイソレータ内に設けられたダミー負荷(例えば、水など)に吸収させる。
また、パワーモニタは、マイクロ波発振器から発振されたマイクロ波(入射マイクロ波)の強度を測定するとともに、モールドパウダー側から戻ってきたマイクロ波(反射マイクロ波)の強度を測定する装置である。
本検証では、実際の操業に用いられるモールドパウダーを約80g利用し、かかるモールドパウダーを坩堝に充填したうえで、常圧・大気雰囲気下のマイクロ波加熱チャンバー内に設置した。この検証では、C(炭素)を含有している発熱型のモールドパウダーと、酸化カルシウム及び酸化ケイ素を主成分とし、かつ、Cを含有していない非発熱型のモールドパウダーの双方を、それぞれモールドパウダーとして利用した。
なお、本検証では、マイクロ波加熱チャンバーの上部から熱電対を挿入し、マイクロ波照射に伴うモールドパウダーの中心温度を測定した。
出力1.5kWの一定値でマイクロ波を照射し、Cを含有していないモールドパウダーと、Cを3%添加したモールドパウダーと、をそれぞれ加熱した際の中心温度の変化を、図3Aに示した。また、Cを含有していないモールドパウダーについて、投入したマイクロ波エネルギーに対する、温度上昇に使われたエネルギーの割合を、以下の式(11)に基づき算出して加熱効率HEとし、図3Bに示した。
ここで、上記式(11)において、
m:モールドパウダーの質量[g]
Cp:モールドパウダーの比熱[J・g−1・K−1]
ΔT:温度変化量(温度上昇量)[K]
P:マイクロ波出力[W]
Δt:マイクロ波の照射時間[秒]
ε:モールドパウダーの放射率
σ:ステファン・ボルツマン係数[W・m−2・K−4]
T:モールドパウダーの温度[K]
S:モールドパウダーの上部面積[m2]
である。
ここで、上記式(11)において、(m×Cp×ΔT)に対応する部分が、モールドパウダーの温度上昇に関する部分であり、(ε×σ×T4×S×Δt)に対応する部分が、輻射によるモールドパウダーからの放熱に関する部分である。なお、本発明で対象とするような200℃以上の高温におけるモールドパウダーからの放熱は、熱伝達よりも、温度の4乗に比例する輻射によるものが支配的であるため、熱伝達に関する項は無視した。
まず、図3Aに着目する。図3Aにおいて、縦軸は、モールドパウダーの温度(中心温度)であり、横軸は、マイクロ波の照射時間である。図3Aから明らかなように、Cを含有している発熱型のモールドパウダーは、室温〜1000℃まで、ほぼ一定の昇温速度で加熱されていることがわかる。一方、Cを含有していない非発熱型のモールドパウダーは、室温〜200℃までは、発熱型のモールドパウダーよりもゆっくりと昇温していくが、中心温度が200℃を超えると、発熱型のモールドパウダー以上の昇温速度で急激に中心温度が上昇していることがわかる。
図3Aに示したような挙動を示す、Cを含有しない非発熱型のモールドパウダーについて、上記式(11)に基づく加熱効率を算出すると、図3Bに示したような結果が得られた。図3Bから明らかなように、Cを含有していないモールドパウダーは、常温では加熱効率は10%以下となっており、加熱効率が低いことが分かる。一方、中心温度が200℃を超えると、加熱効率は室温の2倍を超え、急上昇を始める。更にマイクロ波による加熱を継続すると、中心温度が1300℃まで、加熱効率が室温の8倍以上と非常に高い値を示すことが明らかとなった。
従って、Cを含有していない、非発熱型のモールドパウダーの温度が200℃から1300℃の間であれば、モールドパウダーは、マイクロ波の照射直後に急速昇温する。逆に、マイクロ波を停止すれば直ちに放熱により温度が低下するため、応答性良くモールドパウダーの温度を非接触で制御可能となる。
一方、Cを含有する、発熱型のモールドパウダーの場合、図3Aにおいて室温〜1000℃までほぼ一定の昇温速度であり、その傾きは、Cを含有しない非発熱型のモールドパウダーの200℃から1300℃における傾きよりも小さい。すなわち、Cを含有する発熱型のモールドパウダーにマイクロ波を照射したとしても、200℃〜1300℃におけるCを含有しない非発熱型のモールドパウダーほどは、応答性良く温度を制御できないことが明らかとなった。
ここで、引け巣を低減するためには、鋳片の末端部の温度を、凝固の終盤まで溶鋼の固相線温度以上に保っておくことが重要となる。そのため、モールドパウダー投入直後は、溶鋼の固相線温度付近まで急激にモールドパウダー温度を上昇させることが求められる。一方、鋳造終了から完全凝固までの時間が長くなると生産性が低下するため、鋳片の下部が凝固してきた段階で、生産量に応じて、マイクロ波の出力を低下させる。その後、引け巣が生じる程度に鋳片の末端部の温度が低下した場合には、再びマイクロ波を照射し、固相線温度付近まで急激にモールドパウダー温度を上昇させることで、引け巣の生成を抑制できる。これらのマイクロ波の照射と停止のタイミングは、引け巣の抑制による鋳片歩留まり改善と生産性のバランスによって決定できる。そのため、加熱が必要なタイミングで急激な温度上昇が可能な応答性が求められるのである。
連続鋳造プロセスで用いられる連続鋳造機では、モールドパウダーの下に溶鋼が位置しているため、Cを含有しないモールドパウダーの温度を応答性良く制御できれば、溶鋼からの伝熱も応答性良く制御でき、ひいては、溶鋼温度も応答性良く制御できると考えられる。そこで、本発明者らは、以下に説明するような検討を更に行った。
図4に模式的に示したように、黒鉛坩堝内の溶鋼上にモールドパウダーを載置した上で、溶鋼−モールドパウダーの界面から約15mm下方に、黒鉛坩堝に接しないように熱電対を設置するとともに、溶鋼−モールドパウダーの界面から約5mm上方に、熱電対を設置した。その後、このような黒鉛坩堝を、図2に示した加熱装置内に設置し、加熱装置内への設置後7分経過したときから、10分経過するまでの間に、周波数2.45GHzのマイクロ波を照射した。マイクロ波の出力は、1.5kWとした。
得られた熱電対の測定値を利用して、以下の式(13)及び式(15)に基づいて、溶鋼−モールドパウダー間の熱流束を算出した。なお、以下の式(13)及び式(15)で定まる熱流束qは、溶鋼からモールドパウダーへと向かう方向が正方向となっている。
ここで、上記式(13)及び式(15)において、
q:熱流束[W/m2]
H:総括熱伝達係数
T1:モールドパウダー温度[K]
T2:溶鋼温度[K]
Δx1:モールドパウダー温度測定点から界面までの距離[m]
Δx2:溶鋼温度測定点から界面までの距離[m]
k1:モールドパウダーの熱伝導率[W・m−1・K−1]
k2:溶鋼の熱伝導率[W・m−1・K−1]
である。
得られた熱流束qを、図5に示した。図5において、縦軸は、溶鋼からモールドパウダーへと向かう熱流束の大きさであり、横軸は、加熱時間である。また、図5には、実際の測定値から得られた熱流束の結果に加えて、マイクロ波を照射しない場合の溶鋼からモールドパウダーへの熱流束を、シミュレーションにより算出し、破線で示している。このシミュレーション結果が、マイクロ波を照射せずに加熱を行った場合の、溶鋼からモールドパウダーへの熱流束に対応している。
図5から明らかなように、マイクロ波を照射した直後に溶鋼の熱流束が有意に低下し、マイクロ波の照射停止直後に、熱流束が再び大きくなっていることがわかる。溶鋼からモールドパウダーへと向かう熱流束の大きさが低下しているということは、溶鋼からパウダーへ伝わる熱量が減少していること、すなわち、溶鋼からの放熱が抑制されていることを意味する。この結果から、マイクロ波によりモールドパウダーを加熱することで、溶鋼はマイクロ波を吸収しないにも関わらず、溶鋼の熱流束を応答性良く制御できることが明らかになった。また、熱流束の変化量は照射するマイクロ波の出力に比例するため、より大きな出力のマイクロ波を照射すれば、より短時間でより大きく熱流束を変化させることが可能である。
なお、上記のような検証の終了後、黒鉛坩堝内で凝固した鋳片を観察したところ、モールドパウダーを溶鋼上に載置し、かつ、マイクロ波を照射した場合には、引け巣の深さは2mmであった。一方、モールドパウダーを溶鋼上に載置し、かつ、マイクロ波を照射しなかった場合には、引け巣の深さは5mmであり、モールドパウダーを溶鋼上に載置せず、かつ、マイクロ波を照射した場合には、引け巣の深さは9mmであった。かかる結果から、モールドパウダーを溶鋼上に載置して、かつ、マイクロ波を照射することで、鋳片の末端部に生じる引け巣を抑制出来ていることがわかる。
ここで、モールドパウダーを加熱する際のマイクロ波の出力は、以下のように決めることができる。
すなわち、図3Bに示したCを含有しない非発熱型のモールドパウダーの加熱効率は、中心温度200℃〜1300℃の範囲で、40%〜90%であった。一方で、加熱効率は、先だって説明した式(11)で表わされる。従って、加熱に要する昇温速度(換言すれば、操業に求められる昇温速度でもある。)をdT/dt[K/s]とすれば、モールドパウダーを加熱する際のマイクロ波の所要最低出力Pは、加熱効率=40%という値を利用して、以下の式17で求めることができる。
ここで、上記式(17)において、
P:マイクロ波の最低出力[W]
m:投入されたモールドパウダーの質量[g]
Cp:投入されたモールドパウダーの比熱[J・g−1・K−1]
dT/dt:操業に求められる昇温速度[K/s]
ε:モールドパウダーの放射率
σ:ステファン・ボルツマン係数[W・m−2・K−4]
S:連続鋳造鋳型の断面積[m2]
T:加熱を開始するモールドパウダーの温度[K]
である。
例えば、一般的な連続鋳造機の生産量5t/分においては、鋳片の断面(幅1000mm、厚み250mm)を覆うのに必要なパウダー投入量は2.5kgであり、鋳造終了後、末端部が完全に凝固し鋳片を引き抜くまでに要する時間は、30分程度である。従って、操業に要する昇温速度は、少なくともdT/dt=5℃/秒程度であれば、末端部の凝固より十分早く、モールドパウダーを加熱することができる。また、モールドパウダーの比熱を0.97[J/gK]とし、モールドパウダーの放射率を0.6とし、加熱を開始するモールドパウダーの温度を200℃とすれば、この条件での所要最低出力Pは、上記式(17)から、30.6kWとなる。
本発明者らは、以上のような知見に基づいて更なる検討を行った結果、以下で説明するような連続鋳造方法に想到したのである。
なお、図3A、図3B及び図5に示した結果は、実験室レベルの規模での測定結果であるが、実際の操業に用いられる連続鋳造鋳型の内部においても、同様の挙動を示すと考えられる。これは、モールドパウダーのマイクロ波吸収特性は、モールドパウダーに固有の物性値である誘電率に依存し、装置の大きさには依らないと考えられるからである。
(使用するマイクロ波について)
続いて、本発明の実施形態に係る連続鋳造方法で用いられるマイクロ波について、簡単に説明する。
マイクロ波は、一般的には、波長1mm〜1m、周波数300MHz〜300GHzの電磁波をいう。しかしながら、以下で詳述するような連続鋳造方法で着目しているように、マイクロ波を加熱手段として用いる(いわゆるマイクロ波加熱を行う)場合には、マイクロ波とは、いわゆるISM(Industry−Science−Medical)バンドに属する周波数帯域の電磁波を指す。
以下で説明する本発明の実施形態では、電磁波の周波数は特に限定されず、例えば、ISMバンドである2.45GHz帯(2.40GHz〜2.50GHz)、5.8GHz帯(5.725GHz〜5.875GHz)、及び、24GHz帯(24.0GHz〜24.25GHz)に属する周波数、又は、北米におけるISMバンドである915MHz帯(902MHz〜928MHz)等を適宜選択することが可能である。しかしながら、マイクロ波の被加熱物内部への浸透はマイクロ波の波長に比例するため、上記のマイクロ波では、915MHz帯、2.45GHz帯の浸透深さが大きく、モールドパウダーから構成される層の奥深くまで到達することができる。また、915MHz、2.45GHzという周波数のマイクロ波は、装置が安価である点や、発振器1台で数十kWまでの大出力の放射が可能である点などから、kWクラスの大出力が求められる本発明の設備コストとしても、安価に導入することができる。このため、本発明に用いるマイクロ波発振器としては、915MHz、又は、2.45GHzのマイクロ波を発振可能なものが好ましい。
(第1の実施形態)
<連続鋳造方法について>
次に、上記知見に基づき完成された、本発明の第1の実施形態に係る連続鋳造方法について、図6〜図14を参照しながら詳細に説明する。
図6は、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置の構成を模式的に示した説明図である。図7A及び図7Bは、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置における金属壁の他の構成を模式的に示した説明図である。図8は、引け巣の抑制効果について説明するための説明図である。図9は、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置が有するマイクロ波照射装置の構成を模式的に示した説明図である。図10は、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置が有する演算処理装置の構成の一例を示したブロック図である。図11は、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置が有するマイクロ波照射装置の他の構成を模式的に示した説明図である。図12は、本実施形態に係るモールドパウダー加熱装置が有する演算処理装置の他の構成の一例を示したブロック図である。図13は、モールドパウダーの反射率の変化についてのシミュレーション条件を説明するための説明図である。図14は、本実施形態に係る連続鋳造方法の流れの一例を示した流れ図である。
本実施形態に係る連続鋳造方法では、上記知見に基づき、連続鋳造鋳型中に溶鋼が供給されて鋳片の鋳造が終了した後に、鋳片の末端部に対してモールドパウダー(好ましくは、Cを含有しない非発熱型のモールドパウダー)を投入する。その後、マイクロ波発振器から発振されたマイクロ波を、投入されたモールドパウダーの上部空間に対して照射することで、モールドパウダーを加熱する。
先だって説明したように、モールドパウダーに対してマイクロ波を照射することで、モールドパウダーの温度を応答性良く制御することが可能となる。鋳型中では、モールドパウダーの下方に鋳片の末端部が存在しており、モールドパウダーの温度を応答性良く制御することで、下方の鋳片の末端部の温度も応答性良く制御することが可能となる。鋳片の末端部の温度を制御する(換言すれば、鋳片の末端部を保温及び加熱する)ことができれば、鋳片の末端部における中央部の冷却速度と、鋳型近傍の冷却速度と、の偏差を抑制でき、鋳片の末端部における溶鋼の側面からの凝固を抑制することが可能となる。その結果、末端部の湯面の静穏を保ったまま、鋳片の品質不良を生じさせることなく、引け巣を効果的に抑制することが可能となる。
[モールドパウダー加熱装置の構成について]
以下では、まず、図6を参照しながら、本実施形態に係る連続鋳造方法で用いられるモールドパウダー加熱装置の構成について説明する。
本実施形態に係る連続鋳造方法では、鋳造終了後、溶融金属の凝固殻がブレークアウトを生じない程度に形成された後に、モールドパウダーを鋳片の末端部に投入し、マイクロ波を照射してモールドパウダーを加熱することで、湯面の保温、加熱を行う。かかる操業に用いられるのが、図6に示したようなモールドパウダー加熱装置10である。
かかるモールドパウダー加熱装置(以下、単に「加熱装置」ともいう。)10は、図6に示したように、マイクロ波照射装置100と、演算処理装置200と、を主に備える。加熱装置10から出射されるマイクロ波は、導波管の内部を伝播して、図6に示したように、モールドパウダーの上部の空間Sへと放射される。上部の空間Sへと放射されたマイクロ波は、空間を伝播しながら、モールドパウダー中に浸透していき、モールドパウダーを加熱する。
マイクロ波照射装置100は、後述する演算処理装置200の制御のもとで、モールドパウダーの上部の空間Sに対して、所定強度のマイクロ波を照射する。これにより、マイクロ波照射装置100から照射されたマイクロ波は、導波管の内部を伝播して、モールドパウダーに対して選択的に吸収される。
かかるマイクロ波照射装置100の詳細な構成については、以下で改めて説明する。
演算処理装置200は、モールドパウダーの温度を測定する各種の温度計(図示せず。)からの温度測定結果、又は、マイクロ波照射装置100によって測定された、モールドパウダーの上部の空間Sに対して射出される入射マイクロ波強度及びモールドパウダーには吸収されずに上部の空間Sから戻ってくる反射マイクロ波強度の測定結果、に基づいて、マイクロ波照射装置100の制御を行う。
温度測定結果に応じてマイクロ波照射装置100の制御を行う演算処理装置200の構成や、入射マイクロ波強度及び反射マイクロ波強度の測定結果に応じてマイクロ波照射装置100の制御を行う演算処理装置200の構成については、以下で改めて説明する。
ここで、図6に示したような、導波管の端部(マイクロ波の射出端)とモールドパウダーとの間の離隔距離Lは、少なくともマイクロ波の波長以上の大きさとすることが好ましい。離隔距離Lをマイクロ波の波長以上の大きさとすることで、上部の空間Sの全体にマイクロ波を導波させることが可能となる。なお、周波数2.45GHzのマイクロ波の波長は、約12cmである。
また、図6に模式的に示したように、マイクロ波をシールドする金属壁300を、鋳片の末端部を覆うように配設することで、マイクロ波照射装置100から照射されるマイクロ波を、モールドパウダーの上部の空間Sに閉じ込めることが好ましい。この際、マイクロ波をより効率良く上部の空間Sに閉じ込めるために、図6に模式的に示したように、金属壁300を、モールドパウダー及び鋳片の端部と接触させることが好ましい。
かかる金属壁300は、マイクロ波を反射させることが可能な素材を用いて形成すればよく、その形状についても特に限定されるものではない。また、金属壁300は、中実な構造であってもよいし、例えば金網のような空隙を有する構造であってもよい。
かかる金属壁300は、図6に示したように、モールドパウダーの上方から配設してもよいし、図7Aに示したように、モールドパウダーの側方から配設するようにしてもよい。また、図7Bに示したように、鋳片の末端部が、鋳型の下端よりも上方に位置する場合には、鋳型の少なくとも一部を、金属壁300の一部として利用してもよい。
このようなモールドパウダー加熱装置10を利用して、鋳片の末端部に投入されたモールドパウダーを加熱することで、鋳片の末端部における側面からの溶鋼の凝固が抑制されて、図8に模式的に示したように、引け巣が抑制される。
[モールドパウダーの温度に応じてマイクロ波照射の制御を行う場合]
図3A及び図3Bに示したように、モールドパウダーの温度が200℃〜1300℃である間にマイクロ波を照射することで、より応答性良く溶鋼の温度を制御することが可能である。そこで、本実施形態に係る連続鋳造方法では、モールドパウダーの温度を各種の温度計を用いて測定しながら、マイクロ波照射の制御を行っても良い。
このような制御が行われる加熱装置10の構成の一例を、図9に模式的に示した。
かかる加熱装置10が備えるマイクロ波照射装置100は、図9に示したように、マイクロ波発振器101と、サーキュレータ103と、自動整合器107と、マイクロ波照射部材109と、を主に備え、これらの機器が導波管111により接続されている。なお、図9では、マイクロ波照射部材109や導波管111等といった各部材を支持する支持機構は、図示していない。
マイクロ波発振器101は、周波数300MHz〜300GHzのマイクロ波を発振可能な機器である。このマイクロ波発振器101は、kWクラスの出力を有するマイクロ波を発振可能な機器であることが好ましい。このマイクロ波発振器101により、例えば915MHzや2.45GHz帯に属する周波数のマイクロ波が、後述するサーキュレータ103へと出力されることとなる。このマイクロ波発振器101は、公知のものを適宜選択して使用することが可能である。かかるマイクロ波発振器101は、後述する演算処理装置200によって、マイクロ波発振のオン/オフや、発振するマイクロ波の強度等が制御されている。
サーキュレータ103は、例えば磁石を利用したマイクロ波の進行制御を行うことで、サーキュレータ103に入力されるマイクロ波を、マイクロ波発振器101から出力された入射波と、後述する自動整合器107側から戻ってきた反射波とに分離する。サーキュレータ103は、分離した入射マイクロ波を後述する自動整合器107側へと導波するとともに、反射マイクロ波を、アイソレータ105の側へと導波する。これにより、反射マイクロ波は、アイソレータ105内に設けられたダミー負荷(例えば、水など)に吸収され、マイクロ波発振器101側に戻らないようにすることができる。このようなサーキュレータ103を設けることにより、本実施形態に係るマイクロ波照射装置100では、安定したマイクロ波の出力を行うことができる。このサーキュレータ103は、公知のものを適宜選択して使用することが可能である。
自動整合器107は、入射側のインピーダンスと、負荷側(すなわち、モールドパウダー側)のインピーダンスとの整合を取ることで負荷側からの反射波を低減し、反射波をほぼゼロとする機器である。この自動整合器107は、反射電界の位相及び強度を測定し、インピーダンス整合を自動で行うことで、上記のような反射波の低減を実現する。自動整合器107を設けて負荷側のインピーダンスにあわせた自動整合処理を実現することで、後述するマイクロ波照射部材109から、マイクロ波エネルギーを、安定して効率良くモールドパウダーに照射することが可能となる。
マイクロ波照射部材109は、モールドパウダーの上部の空間Sに対してマイクロ波を照射する部材である。モールドパウダーの上部空間Sにマイクロ波が照射されることで、連続鋳造鋳型の内部に投入されたモールドパウダーに対してマイクロ波を吸収させることが可能となる。このマイクロ波照射部材109には、マイクロ波照射部材109の先端から連続鋳造鋳型内に存在する粉塵等が逆流してこないように、窒素、アルゴン等の不活性ガスが所定の流量・流速となるように供給されていてもよい。この場合、マイクロ波照射部材109内に供給される不活性ガスは、連続鋳造鋳型の内部の温度低下を防止するために、加熱されたガスとすることが好ましい。また、マイクロ波照射部材109と自動整合器107とを連結する導波管111には、連続鋳造鋳型内に存在する粉塵等が自動整合器107に流入しないように、防塵板が設けられることが好ましい。
かかる防塵板は、マイクロ波の吸収が少なく、高温でも利用可能である無機材料セラミックスを用いて形成されることが好ましい。防塵板に用いられる無機材料セラミックスは、マイクロ波の吸収特性に関与する誘電損失係数εr”が、0.02未満であることが好ましい。誘電損失係数εr”を0.02未満とすることで、マイクロ波吸収による無機材料セラミックスの自己発熱を抑制することが可能となる。このような無機材料セラミックスの例として、アルミナ(Al2O3)、窒化ケイ素(Si3N4)、サイアロン(SiAlON、化学式:Si3N4・Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)等がある。これらの無機材料セラミックスを単独で使用して防塵板を製造してもよく、これらの無機材料セラミックスを混合して防塵板を製造してもよい。
以上のようなマイクロ波照射部材109としては、各種の導波管を利用することが可能であるが、導波管以外にも、各種のアンテナや同軸ケーブルなどを利用することも可能である。
導波管111は、マイクロ波を導波して所望の箇所へと導く管である。この導波管111の形状については、マイクロ波の導波特性等を考慮して適宜決定すればよく、導波管111自体についても、使用するマイクロ波の周波数や出力強度等に応じて、公知のものを適宜選択することができる。
また、モールドパウダーの温度を測定可能な位置には、予め、放射温度計等の公知の温度計400が設置されている。かかる温度計400によるモールドパウダーの温度の測定結果は、パウダー温度情報として、演算処理装置200へと随時出力される。
演算処理装置200は、温度計400から出力されたパウダー温度情報を参照して、モールドパウダーの温度が200℃〜1300℃である間、マイクロ波照射装置100からマイクロ波を照射させる。具体的には、演算処理装置200は、マイクロ波発振器101に対して所定の制御情報を出力することで、所定強度のマイクロ波を発振させる。
かかる演算処理装置200は、図10に示したように、温度情報取得部201と、マイクロ波発振器制御部203と、記憶部205と、を主に備える。
温度情報取得部201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。温度情報取得部201は、温度計400から出力される、モールドパウダーの温度に関するパウダー温度情報を取得する。温度情報取得部201は、取得したパウダー温度情報を、後述するマイクロ波発振器制御部203へと出力する。温度計400は、モールドパウダーの温度を連続的に測定して、パウダー温度情報を生成する。従って、温度情報取得部201は、温度計400から出力されるパウダー温度情報を随時取得して、マイクロ波発振器制御部203へと出力する。
マイクロ波発振器制御部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。マイクロ波発振器制御部203は、温度情報取得部201から出力されたパウダー温度情報に応じて、マイクロ波発振器101の発振制御を行う。より詳細には、マイクロ波発振器制御部203は、パウダー温度情報に記載されているモールドパウダーの温度が200℃〜1300℃の範囲に含まれている場合に、マイクロ波を発振させるための制御情報を、マイクロ波発振器101に対して出力する。
また、マイクロ波発振器制御部203は、記憶部205等に格納されていたり、連続鋳造プロセスを管理している上位サーバから取得したりした、連続鋳造プロセスの操業条件に基づいて、上記式(17)によりマイクロ波の所要最低出力Pを算出し、所要最低出力P以上の強度となるように、マイクロ波発振器101の制御を行う。
記憶部205は、例えば本実施形態に係る演算処理装置200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部205には、本実施形態に係る演算処理装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、又は、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部205は、温度情報取得部201、マイクロ波発振器制御部203等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
以上、本実施形態に係る演算処理装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
以上のような構成を有するマイクロ波照射装置100及び演算処理装置200が互いに連携することで、マイクロ波照射装置100からは、モールドパウダーの温度が200℃〜1300℃である間、所定強度のマイクロ波が照射される。その結果、モールドパウダーを効率良く加熱することが可能となり、鋳片の末端部に生じる引け巣を抑制することが可能となる。
[マイクロ波の反射率に応じてマイクロ波照射の制御を行う場合]
図3A及び図3Bに示した結果から明らかなように、モールドパウダーは、温度が200℃〜1300℃である間はマイクロ波を効率良く吸収して、急速に昇温する。かかる挙動から明らかなように、加熱効率の良い200℃〜1300℃の間は、モールドパウダーに吸収されずにマイクロ波照射装置100に戻ってくるマイクロ波の割合は低く、200℃未満、又は、1300℃超の温度域では、マイクロ波照射装置100に戻ってくるマイクロ波の割合は高くなる。
そこで、モールドパウダーに向けて照射されるマイクロ波の強度(以下、「入射マイクロ波強度」という。)と、モールドパウダーに吸収されずにマイクロ波照射装置100に戻ってくるマイクロ波の強度(以下、「反射マイクロ波強度」という。)を常時測定し、これらの測定結果を利用して、モールドパウダーに吸収されずに戻ってくるマイクロ波の割合を反射率として算出することで、モールドパウダーの温度を直接測定することなく、マイクロ波照射装置の制御を行うことが可能となる。
実際の操業では、連続鋳造鋳型の内部に供給される溶鋼は、温度が約1500℃以上と高温であるため、常温で投入されたモールドパウダーの温度は、直ちに200℃以上まで上昇して、反射率が小さい状態へと移行すると考えられる。そこで、例えば、モールドパウダーが投入された直後からマイクロ波の照射を開始し、反射率が所定の閾値以上となった場合に、モールドパウダーの温度が1300℃超となったと推定し、マイクロ波の出力を発振可能な最低出力まで低下させればよい。また、反射率が再び所定の閾値未満に低下した場合には、モールドパウダーの温度が1300℃以下となったと推定し、マイクロ波を所定の出力に戻すなどといった制御を行うことも可能となる。また、マイクロ波の照射時間に不足が生じる場合には、鋳片の移動を一時的に停止させてもよい。
このような制御が行われる加熱装置10の構成の一例を、図11に模式的に示した。
かかる加熱装置10が備えるマイクロ波照射装置100は、図11に示したように、マイクロ波発振器101と、サーキュレータ103と、強度測定器の一例であるパワーモニタ113と、マイクロ波照射部材109と、を主に備え、これらの機器が導波管111により接続されている。なお、図11においても、マイクロ波照射部材109や導波管111等といった各部材を支持する支持機構は、図示していない。
ここで、図11におけるマイクロ波発振器101、サーキュレータ103、マイクロ波照射部材109及び導波管111は、図9に示したマイクロ波発振器101、サーキュレータ103、マイクロ波照射部材109及び導波管111と同様の機能を有し、同様の効果を奏するものである。従って、以下では詳細な説明は省略する。
パワーモニタ113は、強度測定器の一例であり、マイクロ波発振器101から発振され上部空間Sへ照射される入射マイクロ波強度と、モールドパウダーに吸収されずに反射しマイクロ波発振器101側に戻ってくる反射マイクロ波強度と、を測定する。パワーモニタ113によって測定された入射マイクロ波強度及び反射マイクロ波強度に関する情報は、マイクロ波強度情報として、演算処理装置200に出力される。なお、このパワーモニタ113は、公知のものを適宜選択して使用することが可能である。
演算処理装置200は、パワーモニタ113から出力されたマイクロ波強度情報を参照して、上記のような反射率を算出するとともに、算出した反射率に基づき、マイクロ波照射装置100の制御を行う。すなわち、演算処理装置200は、算出した反射率が所定の閾値未満である間は、マイクロ波照射装置100からマイクロ波を照射させ、算出した反射率が所定の閾値以上となったタイミングで、マイクロ波照射装置100からのマイクロ波の照射を停止させたり、マイクロ波の照射強度を十分に弱めたりさせる。
かかる演算処理装置200は、図12に示したように、強度情報取得部211と、反射率算出部213と、マイクロ波発振器制御部215と、記憶部217と、を主に備える。
強度情報取得部211は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。強度情報取得部211は、マイクロ波照射装置100のパワーモニタ113から出力される、入射マイクロ波強度及び反射マイクロ波強度に関するマイクロ波強度情報を取得する。強度情報取得部211は、取得したマイクロ波強度情報を、後述する反射率算出部213へと出力する。マイクロ波照射装置100のパワーモニタ113は、入射マイクロ波強度及び反射マイクロ波強度に関する情報を連続的に測定して、マイクロ波強度情報を生成する。従って、強度情報取得部211は、パワーモニタ113から出力されるマイクロ波強度情報を随時取得して、反射率算出部213へと出力する。
反射率算出部213は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。反射率算出部213は、強度情報取得部211から出力されたマイクロ波強度情報を利用して、モールドパウダーからのマイクロ波の反射率を算出する。より詳細には、反射率算出部213は、マイクロ波強度情報に含まれる、入射マイクロ波強度の値と、反射マイクロ波強度の値と、を利用して、下記式21により反射率(単位:%)を随時算出する。反射率算出部213は、算出した反射率の値に関する情報を、後述するマイクロ波発振器制御部215へと出力する。
反射率=(反射マイクロ波強度/入射マイクロ波強度)×100 ・・・(式21)
マイクロ波発振器制御部215は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。マイクロ波発振器制御部215は、反射率算出部213によって算出された反射率の値に基づいて、マイクロ波発振器の発振制御を行う。より詳細には、マイクロ波発振器制御部215は、反射率が所定の閾値未満である場合には、マイクロ波発振器101からのマイクロ波発振を継続させる。そのために、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波の発振を継続する旨を表わす制御情報を、マイクロ波発振器101に対して出力する。
この際、マイクロ波発振器制御部215は、後述する記憶部217等に格納されていたり、連続鋳造プロセスを管理している上位サーバから取得したりした、連続鋳造プロセスの操業条件に基づいて、上記式(17)によりマイクロ波の所要最低出力Pを算出し、所要最低出力P以上の強度となるように、マイクロ波発振器101の制御を行う。
また、マイクロ波発振器制御部215は、反射率が所定の閾値以上である場合には、マイクロ波発振器101からのマイクロ波発振を停止させる。そのために、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波の発振を停止する旨を表わす制御情報を、マイクロ波発振器101に対して出力する。
なお、マイクロ波発振器制御部215は、反射率が所定の閾値以上である場合に、マイクロ波発振器101からのマイクロ波発振を停止させるのではなく、パワーモニタ113において検出される反射マイクロ波強度が当該パワーモニタ113の検出限界値となるまで、マイクロ波発振器101から発振されるマイクロ波の強度を低下させてもよい。発振されるマイクロ波の強度をこのような状況まで低下させることで、マイクロ波発振器101では、マイクロ波が発振可能なぎりぎりの状況まで、装置に供給されるエネルギーが抑制された状態となる。マイクロ波発振器101からのマイクロ波発振を完全に停止させてしまうと、次回マイクロ波の発振を開始する際には、マイクロ波発振器101の立ち上げ操作が行われることとなり、安定的なマイクロ波発振を実現するまでにタイムラグが生じる可能性もある。しかしながら、反射マイクロ波強度がパワーモニタ113の検出限界値となるまでマイクロ波発振器101から発振されるマイクロ波の強度を低下させることにより、余剰なマイクロ波エネルギーがモールドパウダーに供給されることを抑制しつつ、マイクロ波発振器101の次回起動時におけるタイムラグをなくすことが可能となる。
ここで、パワーモニタ113の検出限界値を与える程度の強度の具体的な値は、特に限定されるものではないが、例えば、マイクロ波発振器101の定格値の10%程度の値を挙げることができる。
なお、上記の説明では、マイクロ波発振器制御部215が、マイクロ波発振器101から連続的にマイクロ波を発振させるとともに、反射率に応じてマイクロ波の出力強度を制御する場合について説明したが、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波発振器101から間欠的(パルス的)にマイクロ波を発振させるように制御を行ってもよい。より詳細には、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波発振器101の発振制御機構として設けられたスイッチング素子を断続的に開閉させることで、マイクロ波発振器101からマイクロ波をパルス状に発振させ、パルス状に出力されたマイクロ波の平均出力がパワーモニタ113の検出限界値となるまでスイッチング素子を開閉させる周期を長くしてもよい。
なお、マイクロ波発振器制御部215がマイクロ波発振器101の発振制御を行う基準となる閾値は、操業に用いられる非発熱型のモールドパウダーのマイクロ波加熱特性を事前に検証することで、適宜設定すればよい。このような事前の検証として、操業に用いられるモールドパウダーをマイクロ波により実際に加熱してもよいし、操業に用いられるモールドパウダーの比誘電率を実際に測定した上で、有限要素法による電磁場解析等のシミュレーションを実施してもよい。これらの検証により設定される閾値の具体例は、特に限定されるものではないが、例えば、反射率=5%という具体的な値、又は、算出される反射率がマイクロ波照射開始時における反射率の1.11倍になったという変化量を、閾値とすることができる。反射率が上記閾値以上となることで、モールドパウダーの温度が1300℃以上となったことを、容易に把握することが可能となる。
なお、閾値の具体例として挙げた反射率=5%、及び、反射率の変化量=1.11倍という値は、操業に用いられるモールドパウダーの比誘電率を実際に測定した上で、市販の有限要素法プログラムによる電磁場解析を行うことで、得られた値である。より詳細には、図13に模式的に示したような実際の操業に用いられる鋳型と同様の大きさを有するモデルを考え、溶鋼と鋳型とマイクロ波反射体とで囲まれた空間内において、溶鋼上に設けられたモールドパウダーに対して、空間の上部に設けられた導波管からマイクロ波が照射される場合を想定した。
なお、かかるシミュレーションにおいて、照射されるマイクロ波の周波数は2.45GHzとし、出力は、1.5kWとした。また、上記の電磁場解析結果は、マイクロ波の周波数や出力を上記の条件から変えた場合であっても同様であり、電磁場解析結果から得られる閾値の値も同様であった。
マイクロ波発振器制御部215は、以上のような基準に基づいて随時マイクロ波発振器101の制御情報を生成・出力することで、マイクロ波発振器101におけるマイクロ波の発振を制御する。
なお、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波発振器101からのマイクロ波の発振を継続する場合に、マイクロ波発振器101からのマイクロ波の出力強度が常に一定となるように制御を行ってもよいが、マイクロ波の出力強度を反射率に応じて動的に変化させるように制御を行ってもよい。図3A及び図3Bに示したようなマイクロ波加熱特性は、マイクロ波の出力強度(すなわち、入射マイクロ波強度)が一定値であっても、また、動的に変化した場合であっても、同様の挙動を示す。しかしながら、入射マイクロ波強度を動的に変化させる(より詳細には、反射率の値が小さな値を示している場合ほど、入射マイクロ波強度が大きくなるように制御する)ことで、上部空間Sへのマイクロ波の照射時間を短縮し、より早くモールドパウダーを加熱することが可能となる。
記憶部217は、例えば本実施形態に係る演算処理装置200が備えるRAMやストレージ装置等により実現される。記憶部207には、本実施形態に係る演算処理装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、又は、各種のデータベースやプログラム等が、適宜記録される。この記憶部207は、強度情報取得部211、反射率算出部213、マイクロ波発振器制御部215等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
以上、本実施形態に係る演算処理装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
次に、図14を参照しながら、以上のような反射率に基づくモールドパウダーの加熱方法の流れの一例を、簡単に説明する。
本実施形態に係る加熱方法では、連続鋳造鋳型内に溶鋼が供給され、メニスカス部に非発熱型のモールドパウダーが投入された後、マイクロ波照射装置100から所定強度のマイクロ波の照射が開始される(ステップS101)。ここで、マイクロ波照射装置100は、マイクロ波の照射を開始するとともに、マイクロ波の入射強度及び反射強度をパワーモニタ113により連続的にモニタし(ステップS103)、測定した強度を表わすマイクロ波強度情報を、演算処理装置200に出力する。
演算処理装置200の強度情報取得部211は、マイクロ波照射装置100のパワーモニタ113から連続的に出力されるマイクロ波強度情報を随時取得して、反射率算出部213へと出力する。反射率算出部213は、強度情報取得部211から随時伝送されるマイクロ波強度情報を利用して、マイクロ波の反射率を連続的に算出し(ステップS105)、マイクロ波発振器制御部215へと出力する。
マイクロ波発振器制御部215は、反射率算出部213から出力される反射率の値を利用した閾値判断を随時実施して、算出された反射率が所定の閾値以上に増加したか否かを判断する(ステップS107)。
算出された反射率が所定の閾値未満であった場合には、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波発振器101に対してマイクロ波の発振を継続させる旨の制御情報を出力する。その結果、マイクロ波照射装置100は、所定強度のマイクロ波の発振を継続することとなり、加熱装置10全体としては、ステップS103へと戻って処理が継続されることとなる。
一方、算出された反射率が所定の閾値以上であった場合には、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波発振器101に対して、マイクロ波の発振を停止する旨の制御情報、又は、マイクロ波の発振強度を低下させる旨の制御情報を出力する(ステップS109)。これにより、温度が1300℃超となっているモールドパウダーに対して過剰なマイクロ波エネルギーが供給されることを防止することができる。
その後、マイクロ波発振器制御部215は、随時算出される反射率を参照して、反射率が所定の閾値未満となったか否かを判断する(ステップS111)。
反射率が所定の閾値未満となったと判断されなかった場合には、マイクロ波発振器制御部215は、ステップS109に戻って、マイクロ波発振器101に対して、マイクロ波の発振を停止する旨の制御情報、又は、マイクロ波の発振強度を低下させる旨の制御情報を出力する。
一方、反射率が所定の閾値未満となったと判断された場合には、マイクロ波発振器制御部215は、マイクロ波の発振強度を所定強度まで増加させる旨の制御情報を生成して、マイクロ波発振器101へと出力する(ステップS113)。その結果、マイクロ波照射装置100は、所定強度のマイクロ波の発振を再開することとなり、加熱装置10全体としては、ステップS103へと戻って処理が継続されることとなる。
以上、図14を参照しながら、反射率に基づくモールドパウダーの加熱方法の流れの一例を、簡単に説明した。
(ハードウェア構成について)
次に、図15を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図15は、本発明の実施形態に係る演算処理装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
演算処理装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置200内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。ユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプなどの表示装置や、スピーカ及びヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
ストレージ装置913は、演算処理装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び外部から取得した各種のデータなどを格納する。
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、又は、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。
接続ポート917は、機器を演算処理装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線もしくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、又は、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。